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GRICI 習近平・プーチン・トランプの相互関係(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:44JST 習近平・プーチン・トランプの相互関係(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。●ハーバード大学教授:トランプは対中強硬派か?一方、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院ダグラス・ディロン行政学のグラハム・アリソン教授は、2月5日にワシントン・ポストに<トランプは対中強硬派か? トランプはニクソンのように中国とどのように協力関係を築くことができるのか>(※2)という見出しの論考を書いている。その要旨だけを拾い上げると、以下のようになる。●共和党の80%が嫌中の中、ドナルド・トランプは以下のように言っている。「私は中国を尊敬している」「私は習近平国家主席を非常に尊敬している」「習近平国家主席は素晴らしい。私が習近平国家主席を素晴らしいと言うとマスコミは嫌がるが、まあ、彼は素晴らしい人だ」「私は中国が素晴らしいことを成し遂げてほしい。そう願っている」「私は中国を愛している」●大統領選の勝利直後、トランプは習近平を就任式の特別ゲストとして招待しただけでなく、国際的なゲストの中で習近平が第一の地位を占めると保証した。●12月7日、ノートルダム大聖堂の再開に際し、ウクライナのゼレンスキー大統領とフランスのマクロン大統領と三者会談した後、トランプ大統領は会話を要約した投稿を(Truth Social)にしているが、そこには奇妙な一文が含まれていた。ウクライナ和平の見通しについて、トランプ大統領は「China can help(中国が助けてくれる)」と書いたのだ。これは興味深い。国連でも、NATOでも、ローマ法王でもなく、中国だ。トランプ大統領と習近平主席、そして習近平主席とプーチン大統領との最近の電話会談に関する公式報告書の行間を読むと、トランプ大統領はウクライナ戦争を終わらせるための停戦交渉または停戦の実施に習近平主席をパートナーとして関与させようとしているように私には思える。(以上)その通りである。さすがに、鋭い勘だ。トランプの投稿はTruth Social(※3)にあるが、そこにはI know Vladimir well. This is his time to act. China can help. The World is waiting! (私はウラジミールを良く知っている。今こそ彼が動くべき時だ。中国が助けてくれる。世界は待っている!)と書いてある。このウラジミールは言うまでもなくウラジミール・プーチンのことだ。二人はファーストネームで呼び合う。世界の誰も気にしていないChina can helpの3つの単語に、よくぞ注目したものだと、ハーバード大学のグラハム・アリソン教授に敬意を払わずにはいられない。もし彼が拙稿<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※4)を読んでくれたら、きっと、すべてのジグゾーパズルが綺麗に填め込まれるのを発見することができるのではないかと期待する。結論を言えば、トランプがウクライナ問題解決を急ぐのは、決して対中強硬策に集中したいからではない。トランプはむしろ、ウクライナ問題を習近平の水面下での協力を得ながら、プーチンに接近し解決しようとしていると言っていいのではないだろうか。ノーベル平和賞を貰いたがっているトランプの心理を、習近平とプーチンが思う存分「活用」していると表現してもいいのかもしれない。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※5)より転載しました。アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.washingtonpost.com/opinions/2025/02/05/trump-china-ukraine-xi-hawks-doves/(※3)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113615912452824634(※4)https://grici.or.jp/6039(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/737efab8fb220c22273772e21c782616057928bb <CS> 2025/02/27 10:44 GRICI 習近平・プーチン・トランプの相互関係(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:38JST 習近平・プーチン・トランプの相互関係(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。2月24日、プーチン大統領が習近平国家主席に電話をし、中露の緊密さは永遠に変わらないことを誓い合った。トランプ大統領がどんなに対露接近をしても、トランプ政権が終われば、また民主党のNED(全米民主主義基金)を駆使した「民主を掲げながら親米的でない国家や政府を倒す方針」に戻ることが考えられるからだ。したがって中露の緊密度が変わることはない。一方のトランプは「習近平が大好きだ」と公言している。大統領就任式にも習近平を招待したほどだ。実現はしなかったが大統領選挙中に主張した「対中一律60%関税」は無期延期に近い措置を連邦政府に指示した。加えてトランプは「ウクライナ問題の解決には中国の協力が必要だ」とさえ言っている。このような中、「トランプがプーチンに急接近しているのは、ウクライナ問題を解決した後、対中攻撃に集中するためだ」という言説がまかり通っているが、それは正しいのだろうか?ハーバード大学教授の見解も引用しながら考察する。◆ウクライナ侵攻3周年の日にプーチンが習近平に電話プーチンによるウクライナ侵攻3周年に当たる2月24日午後、プーチンが習近平に電話をして会談を行った。中国外交部の報道(※2)によれば、主として以下のようなことを話し合ったとのこと。●習近平:中露両国は、中国人民抗日戦争勝利80周年と世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念する活動の実施を含め、各分野での協力を着実に進めている。歴史と現実は、中露は決して引き離すことのできない良き隣国であり、苦楽を共にし、支え合い、共通の発展を目指す真の友人であることを示している。●習近平:中露関係は独自の戦略的価値を有しており、いかなる第三者に向けられたものではなく、いかなる第三者からも影響を受けるものではない。●習近平:国際情勢がどのように変化しても、中露関係は冷静に前進し、互いの発展と活性化に貢献し、国際関係に安定とプラスのエネルギーを注入するだろう。●プーチン:「ロシアは中国との関係を非常に重視している」、「中国との関係発展は、ロシアが長期的視点から行った戦略的選択であり、決して一時的な措置ではなく、一時的な出来事によって左右されることも、外部要因によって妨げられることもない。現在の状況下で、ロシアと中国が緊密な意思疎通を維持することは、新時代の両国の包括的戦略的協調パートナーシップの精神に合致しており、ロシアと中国が国際情勢において安定的な役割を果たしていることを示す前向きなシグナルを送ることにもなる。●プーチン:米露接触に関する最新状況とウクライナ危機に関するロシアの原則的な立場について説明し、「ロシアはウクライナ紛争の根本原因を排除し、持続可能で長期的な和平計画に到達することに尽力している」と述べた。●習近平:昨年9月、中国、ブラジル、南半球のいくつかの国は、ウクライナ危機の政治的解決を促進するための雰囲気を醸成し、条件を蓄積するために、共同でウクライナ危機に関する「平和の友人」グループを設立した。中国は、危機解決に向けてロシアとその他の関係国が行った積極的な努力を歓迎する。●中露双方:今後もさまざまな手段を通じて意思疎通と調整を維持していくことで合意した。(以上)これらから読み取る限り、中露双方とも、「(米露接近など)いかなる国際情勢の変化があろうとも、中露関係は永遠に不滅である」ことを強調しているように見える。現実問題として中国は石油や天然ガスなどを大量にロシアから輸入し、ロシアは広範囲にわたる製品を中国から輸入している。この日常生活における相互依存は、ちょっとやそっとの外圧によって崩れるものではないだろう。中露首脳電話会談に関してロシア側の発表(※3)もあるが、そこには「習近平の5月9日の訪露」や「プーチンの9月3日の訪中」そして「上海協力機構サミット(今年は中国が主催国)のスケジュールを再確認」などの具体的な日程の記述があり、プーチンが習近平に、最近の米露接触に関する報告をしたとも書いてある。そして習近平が「米露間で対話が開始されたことを支持し、ウクライナ紛争の平和的解決に向けた道筋を見出すために中国には協力する用意がある」ことを表明したとある。最後に「中露両首脳は、中露の政治的つながりは世界情勢を安定させる上で不可欠な要素であると強調した。この関係は戦略的な性質を持ち、政治的偏見に左右されず、誰かを標的にするものでもない」と強調されている。ロシア側からの視点を見ても、米露接触による中露関係はさらなる高みへと進展していくことを強調している。「米露接近」という言葉を使わず、「米露接触」という言葉に徹しているのも見どころか。トランプ政権のときのみ、トランプがプーチンに接近しているのであって、その期間は非常に短く、すぐにロシアを最大の敵とみなしてきた民主党政権に変わるのは分かっているので、プーチンが安全弁として習近平を手放すはずはないだろう。◆トランプは対中攻撃を用意しているのだろうか?トランプ側からしても、トランプの「習近平愛」と「プーチン愛」は尋常ではない。何度も書いて申し訳ないが、トランプは就任直後の1月23日に開催されたダボス会議にオンライン参加し(※4)、●But I like President Xi very much.(しかし私は習主席が大好きだ)●I’ve always liked him.(私はずーっと彼が好きだった)●We always had a very good relationship.(私たちの関係はいつも素晴らしかった)と言っている。それはホワイトハウスのウェブサイトに書いてあるので、間違いがないだろう。彼の肉声を確認したい方は、こちらのリンク先(※5)を、ぜひともクリックしてご覧いただきたい。まぎれもない事実だ。なぜトランプがこのようなことを、就任3日後の1月23日に言ったのかに関しては、2月22日のコラム<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※6)が理由の一つとして考えられる。ウォールストリート・ジャーナルの報道から推測すると、トランプの大統領当選がわかった11月5日以降辺りから習近平は「深い深い水面下で」、「ウクライナを外したプーチンとトランプだけの和平交渉を進めてはいかがですか?」という「甘い言葉」をトランプ側に投げかけていたことになる。トランプとしては、もともとからバイデンによるNEDを使った他国干渉を非難し、「民主」を掲げて非親米政府を転覆させては紛争を巻き起こし戦争ビジネスで国家運営をしていく米政府のやり方に不満を抱いていた。だからNEDの資金支援をしているUSAIDを解体しようと動いているのである。2月12日のコラム<習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい>(※7)に書いたように、USAID解体はNEDの活動を抑え込むので、習近平としてはありがたくてならない。現にトランプが対中強硬でない証拠に、フェンタニルに関する「中国10%、カナダ・メキシコ25%」関税に関しては断行しているが、選挙中に叫んでいた「対中輸入品一律60%」に関しては、トランプ1.0の時の「第一段階合意」(2020年)の実績検証をするよう連邦政府機関に指示しただけだ。実績検証など「まだ検証中です」と言えば、いくらでも延期できる。60%は無期延期したに等しい。したがって、<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※8)に描いた相関図(図表2)には、それなりの信ぴょう性があると考えていいのではないだろうか。その他さまざまなトランプの「習近平愛」現象は、拙著『米中新産業WAR』の【終章 習近平とトランプとイーロン・マスクと】で詳述した。トランプの「プーチン愛」もまた尋常ではない。トランプは初めての大統領選を戦おうとしていた時に、2016年5月に、キッシンジャー(元国務長官)に師事して外交戦略を学んだ。キッシンジャーは2016年2月3日に、プーチンの招待でモスクワを訪問し、5月18日にトランプを自宅に招いたのである。このときトランプにとっては「キッシンジャーがベトナム戦争終結に貢献したとして、1973年に平和賞を授与された」ことが何より印象的だったのだと、トランプ1.0の時の元側近から聞いている。筆者はその元側近と、日々メールを交換したり国際電話をかけたりなどして、非常に仲良くしていた。2016年11月に大統領に当選したトランプは、プーチンと電話会談をし、盛んに「プーチンはいい奴だ」と言うようになった。中国では「トランプとプーチンが口づけしているイラスト」がネットに出回ったほどだ。しかしトランプのその「熱い思い」はロシアゲート疑惑によって裂かれてしまった。トランプ2.0では、トランプは「憎きバイデンが起こしたウクライナ戦争」と位置づけ、プーチンとトランプを再度近づけさせたという流れだ。「習近平・プーチン・トランプの相互関係 トランプはウクライナ問題解決後、対中攻撃を考えているのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202502/t20250224_11561364.shtml(※3)http://en.kremlin.ru/events/president/news/76325(※4)https://www.whitehouse.gov/remarks/2025/01/remarks-by-president-trump-at-the-world-economic-forum/?utm_source=substack&utm_medium=email(※5)https://www.youtube.com/watch?v=-R7ax7ZlSdk(※6)https://grici.or.jp/6039(※7)https://grici.or.jp/6005(※8)https://grici.or.jp/6039(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/737efab8fb220c22273772e21c782616057928bb <CS> 2025/02/27 10:38 GRICI 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】 *11:00JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆憤慨する中国中国のネットには、米・国防総省が予算獲得のために「中国の脅威」を手段として使うことに対する憤慨が数多く見られる。特に、上記の「1」や「4」にあるように、アメリカは、習近平が2027年までに台湾を武力攻撃するというデマを拡散させて国防予算を獲得しようとしたり、日本を煽って日本の国防費を増額させようと画策したりしてきた。このことは2023年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>(※2)にも書いた通りだ。すなわち、中国では2020年10月26日から29日まで北京で第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)が開催され、10月29日に<第19回党大会五中全会公報>(※3)が中国共産党網で発布された。公報の全文は約6800文字あるが、その中の「確保二〇二七年実現建軍百年奮闘目標」という、わずか「17文字」が、「建軍百年に向けた奮闘目標を確保しよう」と書いてあるだけだ。国のトップが、「建軍百周年記念に向かって頑張ろう!」と兵士に向かって激励するのは、どの国でも自然のことだろうが、アメリカは「しめた!」とばかりに、この「17文字」に飛びついた。すると、日本政府も日本の中国論者たちもまた、まるで「鬼の首でも取った」かのように、アメリカのこの「ご高説」に飛びつき、台湾武力攻撃説を喧伝しまくったのである。バカバカしいだけでなく、日本人の命を戦火の中に巻き込む危険な「フェイク」なので、筆者はいたる所で、その虚偽性と扇動性に関して書いてきたが、日本人は「好戦的な論説」の方を好むという、愚かな選択をしている。中国の嫌日感情の主たる源泉は、ここにあると言っても過言ではないだろう。中国のネットには、あまりに多くの「報告書」に対する批判と抗議と冷笑があるので、どれか一つを取り上げて解説するのは困難だが、それでも一応、まずは中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の論説を見てみよう。2月20日の環球時報は<米国は「中国軍事力報告書」を発表して中国人民解放軍を中傷 中国は「事実を無視し、偏見に満ち、“中国脅威論”を広めていると反駁>(※4)している。目新しい内容としては、環球時報が軍事専門家の意見として「今年の報告書には、認知戦闘能力や、西太平洋で軍事紛争が発生した場合に中国がエネルギー供給能力を確保する上で直面する課題など、いくつかの新しい内容が追加されている。これは、将来、西太平洋で軍事紛争が発生した場合、米国が軍事介入し、中国のエネルギー供給ラインに悪の手を伸ばし、中国のエネルギー供給を遮断することを示している。これは中国が非常に警戒すべきことだ」と報道していることだ。中国はむしろ「報告書」を分析して、アメリカが何を狙っているかという分析を深めていることが興味深い。12月19日には、比較的に知識人が集まる観察者網が<米・国防総省は中国の核拡大を誇大宣伝しており、2030年には1,000発の核爆弾を保有するとしている>(※5)という見出しで「報告書」を分析している。この分析で「報告書」に関して注目している興味深い話題を挙げると、以下のようなものがある。●「報告書」によると、軍艦、海上兵器、電子システムの生産において、中国の防衛産業は「ほぼすべての造船ニーズを満たすことができる」という。報告書は、中国海軍が世界最大の海軍であり、140隻以上の主要な水上艦を含む370隻以上の艦艇と潜水艦を保有し、米国海軍の290隻を上回っていると評価しており、中国はさまざまな建造段階にある新しい駆逐艦や強襲揚陸艦も多数保有していると評価している。●アメリカのメディアは、アメリカの国防予算が依然として世界最高であり、アメリカは実戦に投入できる核弾頭を約1550発も保有していると言及している。●昨年、米国が発表した年次報告書(『中国軍事力報告書』)について、中国外交部の毛寧報道官は、「米国こそが世界で最大かつ最先端の核兵器を保有している国であり、核兵器の先制使用を主張し、核戦力の増強に多額の投資を続け、同盟国に対する“拡大抑止”を強化している」と指摘した。◆ビリビリ動画:米・国防部は予算の20%しか武器装備費に使ってない一方、中国の人気動画であるビリビリ動画が12月9日に<米軍(の予算)9000億ドルは、いったい何に使っているんだい?なんで(9000億ドルもあるのに)足りないんだ? :米軍2025年装備購入分析>(※6)というタイトルの分析を賑々しく公開している。その分析は、今年3月11日に発表された米国の<2025年の国防総省予算要求>(※7)に基づいて行われており、要点は以下のようなものである。●米軍の2025年の軍事予算は9000億ドルと巨額であるものの、実際に装備品調達に使われる部分は比較的少なく、約1675億ドルで、全体のわずか20%にも満たない。●中国の軍事予算は約3000億ドルと言われているけれど(ストックホルム国際平和研究所が推測した中国の2023年の軍事費)、その30%~40%は装備品調達に使われているようなので、米軍の装備品調達費は中国やロシアよりも低いか、トントンくらいだ。●予算要求では、戦闘機や装甲車、軽火器など、米軍のさまざまな装備品の具体的な購入額が詳しく紹介されているが、国防産業部門の単価の高さには驚く。これは今後数年間で米軍の軍事力が徐々に縮小していくだろうことを示唆している。(動画の概要は以上)となると、まさにイーロン・マスクが指摘した通り、米国の国防総省の予算は「無駄が多く、非効率的だ」ということになる。国防総省はそれを知っているので、イーロン・マスクがどのように言うかを見届けてから発表しようとして、今年は「報告書」の発表を遅らせたのではないだろうか。ご参考までに書くと、この年次報告(『中国軍事力報告書』)はここのところ、「2020年9月1日/2021年11月3日/2022年11月29日/2023年10月19日/2024年12月18日」という日時で発表されている。例年に比べると、今年はいやに遅い。きっとイーロン・マスクが「政府効率化省」で何をするかを見届けたかったために遅れたのにちがいない。なお、「報告書」が指摘する「汚職摘発で中国の軍事力が向上している可能性」は薄く、中国の腐敗は「底なしか」と筆者は思っている。それに関しては、機会があれば別途考察を試みたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※8)より転載しました。写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4015(※3)https://www.12371.cn/2020/10/29/ARTI1603964233795881.shtml(※4)https://mil.huanqiu.com/article/4Kj5IuAVPuh(※5)https://www.guancha.cn/internation/2024_12_19_759324.shtml(※6)https://www.bilibili.com/video/BV15CqNYzErK/(※7)https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/Budget2025/(※8)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8 <CS> 2024/12/25 11:00 GRICI 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:58JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米・国防総省が12月18日に『中国軍事力報告書』を発表し、「(中国の)汚職摘発が進んだためにロケット軍の作戦能力が向上する可能性がある」と指摘した。したがって「台湾武力攻撃で失敗したら、中国は核兵器の先制使用をするだろう」とも予測している。トランプ第二次政権(トランプ2.0)で「政府効率化省」を担当することになっているイーロン・マスク氏が「国防費の無駄と非効率化」を盛んに表明しているので、そのことに対する警戒感からか、米・国防総省は国防費獲得のために「中国の脅威」を誇張しているものと思われる。しかし、そのようなことに利用された中国はたまったものではないにちがいない。激しい抗議と批判と、中には冷笑も中国のネットに溢れている。◆米・国防総省が発表した『中国軍事力報告書』の内容12月18日、アメリカの国防総省は、毎年発表している『中国軍事力報告書』の2024年版を発表した。正確にはMilitary and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2024(※2)(中華人民共和国に関わる軍事・安全保障の動向 2024)というタイトルだ。ここでは中国で用いている通称『中国軍事力報告書』(以下、「報告書」)で話を進める。180ページにも及ぶ長編の「報告書」なので、ザックリとしたポイントだけを並べると、以下のようになる。1.2023年、中国人民解放軍は汚職関連の調査と上級幹部の解任の新たな波を経験し、2027年の近代化目標に向けた進捗を妨げた可能性がある。2.一方、汚職事件は中国のミサイル産業が急成長していた時期に起きた弾道ミサイル用地下サイロ建設に関する詐欺事件と関係があるようなので、その摘発は中国指導者に対する信頼を高め、核任務が特に重要であることを軍に認識させた。その結果、サイロを拠点とする部隊の全体的な作戦即応性が向上したと考えられる(筆者注:ここで言う「サイロ」とはミサイルサイロのことで、大陸間弾道ミサイルなどの大型ミサイルを格納する建築物のことである。今ではそれが地下に建設されていることが多い)。3.その結果、中国が保有する運用可能な核弾頭は去年より100発ほど増え、今年半ばで600発以上所有していると推定される。4年間で3倍になっている。2030年までには1000発を超えるだろう。新型大陸間弾道ミサイルが開発され運用可能になれば、中国は米国本土、ハワイ、アラスカの標的に対して通常攻撃を行うことができるようになる。4.中国が台湾に対する武力攻撃に失敗した場合は、中国は核兵器の先制使用をする可能性がある。(主要概略は以上)思うに、米・国防総省が毎年発表している「中国軍事力」に関する年次報告は、米議会へのアピールで、「これだけ中国軍の脅威が差し迫っているのだから、もっと軍事予算を増やせ」と、米議会予算委員会に対して主張することが主要な目的だと考えていいだろう。◆イーロン・マスクの米・国防費に対する批判テスラCEOのイーロン・マスク氏はトランプ2.0で「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」を率いることになると、トランプ次期大統領は今年11月12日に発表している。DOGE(ドージ)という名称はイーロン・マスクが支持する仮想通貨ドージ・コイン(Doge Coin)の「Doge」から取ったものだと言われている。イーロン・マスクは、年間5,000億ドルの無駄な政府予算の削減を計画していると何度も表明し、11月17日には<国防総省は費用対効果が非常に悪い>(※3)とXに投稿し、DOGEはそれを改善するという一連の発言をしている。たとえば、トランプ1.0で国家安全保障問題担当大統領補佐官(2018年4月~2019年9月)を務めたジョン・ボルトンがイーロン・マスクに対して「DOGEで節約した費用を軍事費に充てるべきだ」と言ったのに対して、イーロン・マスクは11月23日に<DOGEは国防費の効率性を改善させる>(※4)と応答している。11月24日にはイーロン・マスクは中国の壮大なドローン動画を引用(※5)しながら、「ところで、一部のバカどもは、未だにF-35のような有人戦闘機を製造している」と国防総省を揶揄した。11月25日には、民主党のロー・カンナ下院議員も、<民主党はイーロン・マスクの「政府効率省」(DOGE)と協力して国防予算を削減することができる>(※6)と賛同の意を表している。同じく民主党のバーニー・サンダース上院議員は、12月2日に<イーロン・マスクは正しい>(※7)とした上で「8,860億ドルの予算を抱える国防総省は、7回連続で監査に失敗した。何十億ドルもの金額を把握できていない。昨年、軍産複合体と無駄と詐欺に満ちた国防予算に反対票を投じた上院議員はわずか13人だった。これは変えなければならない」とXに投稿している。これに対してイーロン・マスクはアメリカ国旗のマークを2つ貼り付けて返信した(※8)。このように、国防総省にとっては、そうでなくとも増加しなかった国防予算を、トランプ2.0になったら、イーロン・マスクが徹底して削減することへの危機感がある。だから、「中国軍はこんなに強くなった」と米議会に対して訴えるために「報告書」を発表しているわけだが、中国としては、そんなことに利用されるのは我慢ならないといったところだろう。「米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF(※3)https://x.com/elonmusk/status/1857924169393975482(※4)https://x.com/elonmusk/status/1859996677316510131(※5)https://x.com/elonmusk/status/1860574377013838033(※6)https://thehill.com/homenews/house/5008598-elon-musk-department-efficiency-defense-budget/(※7)https://x.com/SenSanders/status/1863268770371772863(※8)https://x.com/elonmusk/status/1863297860651069586(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8 <CS> 2024/12/25 10:58 GRICI 中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】 *16:23JST 中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。半導体の微細化に関して「半導体の性能が18ヵ月で2倍になる」という経験則「ムーアの法則」は実際上かなり前から破綻しているが、人々は「3nm、2nm…」と競い合っている。ならば、「3nm、2nm…」の実態は何かと言えば、それは商品番号にすぎず、実際TSMCでも、たとえば「TSMC 3nm」チップとは言わずに、TSMC「3N」(※2)と、「こっそりと商品番号に置き換えている」ことに気が付かなければならない。その意味では製造者側は、実は良心的に「ムーアの法則」の破綻を認識していると言っていいだろう。多くの研究者は、物理学的には「3nm」辺りから事実上それ以上の微細化はできないとする「ムーアの法則」限界理論を10年以上前から展開はしている。しかしビジネス界はわかっていながらも、互いに「騙し騙され」、「3nm、2nm…」を唱えてきたのである。投資家に気付かれるのを避けるためだろう。いま現在は、既に「ムーアの論理」は破綻していると見る専門家は多く、中国もその中の一例だ。破綻すればどの関連企業も実際にはそれ以上先へは進めないので、「どん詰まり」のところで足踏みをすることになるだろう。アメリカが全方位的に中国の半導体技術を潰そうとしても、西側が限界領域で足踏みしている間に中国もその限界領域にまで達し、その頃にはAIを含めた新産業において中国は一気にアメリカを追い抜くという「心づもり」で動いていることを、今回は考察したい。◆「ムーアの法則」はなぜ破綻するのか?「ムーアの法則」に関してはご存じの方が多いとは思うが、念のために書くと以下のような経緯で生まれたものである。1965年、のちに(1968年に)アンディ・グローブ氏とともにインテル社を創業したゴードン・ムーア氏が大規模な集積回路(Integrated Circuit =IC、以後IC)の製造・生産に関して、IC当たりの部品数あるいは性能が毎年2倍になると予測し、その成長率があと10年は続くと予測したことから始まった。10年後の1975年になると次の10年を見据えて「2年ごとに2倍になる」に修正し、さらに「1.5年ごとに2倍」とも予測して、それが維持されたことから「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。しかし、ICの微細化が進むにつれ、半導体チップの性能も驚異的に高まってはいったが、それにつれて「ムーアの法則」の破綻に関して数多くの論考が発表されるようになった。身近なところで言うならば、たとえば、早くも2014年05月21日にはITmediaから<ムーアの法則の終焉──コンピュータに残された進化の道は?>(※3)という論考が発表され、2016年3月4日には、当時の東京工業大学の岩井洋教授が<半導体微細化ロードマップ終焉とその後の世界>(※4)という、実にすばらしいプレゼンテーションをPDFにして公開しておられる。東京工業大学(現在の東京科学大学)に連絡して岩井(元)教授に確認を願いしたところ、岩井(元)教授自身は、このようなPDFをネット公開した覚えはなく、公的な論文はH. Iwai, “End of the downsizing and world after that,” 2016 46th European Solid-State Device Research Conference (ESSDERC), Lausanne, Switzerland, 2016, pp.121-126, doi: 10.1109/ESSDERC.2016.7599603.にあるとのことだった。それにアクセスするのは困難だ。これ以外にも非常に多くの論考や分析がネットに公開されているので、それ等から総合的に判断すると、どうやら物理学的に見て約「3nm」が限界値であるらしい。それ以上線幅を小さくすると、量子力学におけるトンネル効果が出現してきて、トンネル電流が流れてしまい、発熱して不安定状態になり破壊するリスクが激増するという。量子力学はかつてこよなく愛したエリアなので、ここで量子力学の話が出てくると嬉しくてならない。中国人留学生を助けたいという気持ちが80年代初期に湧き出てこなければ物理を捨てることもなかったのにと、恨めしい気持ちも覚える。その量子力学に戻って少しだけ説明させていただくなら、電子を粒子と考えたときに、それを隔てる絶縁物であるはずの「壁」(エネルギー・ポテンシャル障壁)があまりに薄いと(相対的にエネルギーレベルが低いと)、「壁」は絶縁物ではなくなり、電子は量子効果としての「波動」になって壁を通り抜け「トンネル電流(電子流)」を惹起してしまう。これを量子力学的に計算すると「トンネル長」は約「3nm」が限界であるという結果が出てくるようだ。したがって「3nm」以下の微細化は、物理学的に「安定的状態では」作れないはずなのである。これを「ムーアの法則」の破綻と称する。現に、<半導体、3nm・2nmという数字のウソ>(※5)というYahoo!エキスパートの、非常に簡潔な情報もあるので、ご一読なさると納得感が深まるかもしれない。◆中国は「ムーアの法則」の破綻を認識し、その先を睨んでいる12月7日のコラム<中国半導体最前線PartI アメリカが対中制裁を強化する中、中国半導体輸出額は今年20.6兆円を突破>(※6)に書いたように、今年12月2日のバイデン大統領による対中制裁強化(エンティティ・リスト大量追加)が発表されると、12月5日に「人民日報」は<米国がチップ制裁を強化している間に、中国の半導体輸出は1兆元(20.6兆円)を突破>(※7)を発表した。そこには専門家の意見として、以下のような中国の思惑が書いてある。●2017年、特に2019年以降、アメリカは中国の先端チップに対する制裁をくり返し強化してきたが、2023年10月以降、その対象にある変化が見られるようになった。それはハイテク産業の中でもAIに集中し始めたということだ。●このシフトは、アメリカも実は「ムーアの法則」の破綻を意識し始めていることを示唆する。●最近の半導体チップ製造は2nmまたは1nm未満のプロセスに入ったとみなされているが、実はチップの素子サイズは既に物理的限界に達している。この微細化によるチップ業界のアップグレードが終点の近辺で立ち止まっている間に、中国は進歩を遂げ、終点に追いつくことになる。その間中国は成長する。●アメリカがどんなに中国を潰そうとしても、中国はアメリカからの激しい制裁によりサプライチェーンを自国内で形成することに成功しつつあるので、アメリカは中国の成長に手出しをすることができない状況に追い込まれつつある。●微細化の王国を築いた「ムーアの法則」はAI半導体の分野には適用できず、AIエリアには「アーキテクチャ、接続帯域幅、アルゴリズムの最適化…」などさまざまな新たなパラメータを取り入れた未来予測が必要となってくる。(概ね以上)つまり中国は「ムーアの法則」破綻を認識し、その先を睨んでいることになる。アメリカの半導体工業会(Semiconductor Industry Association) (※8)は、2024年版米国半導体産業白書を発表した。アメリカの半導体における圧倒的優位は変わらないものの、2023 年の自動車市場における半導体の需要は 15% 増加したのに対し、スマホなどの通信機器市場は 1.8%減少し、パソコン市場は 7.1% 減少している。すなわち現在、半導体市場の成長の勢いは、自動車および工業セクターに傾いることを意味している。自動車用チップや工業用チップは、携帯性に対する要件が遥かに小さく、高度なプロセスに関しては、現在5nmから7nmに焦点を当てているのに対し、スマホ、パソコンなどの業界は、それより遥かに難しい2nmから3nmのプロセスに焦点を当てている。後者が「ムーアの法則」破綻の危機にある中、前者における中国の発展は著しく、アメリカは中国に大きな後れを取っている。成熟したプロセスに関しては、それが中国の得意とするところだ。したがって「アメリカは、中国半導体の直線的な発展を体系的に抑制することはできない」と、人民日報は結論付け、「中国はラスト・マイルに向けて取り組み続けることができる」としている。◆Google元CEOが中国のAIエリアの成長を肯定アメリカの戦略コミュニティは、「中国のチップ企業が抑圧の中で成長し、米国企業は競争力を失っている」という現象に注目している。これに関しては非常に多くの情報があるので特定しにくいが、あえて言うならこのような情報(※9)を挙げることができる。中国はEVなど製造業が強いことから、AI効果に関する実体経済における膨大な実験を実行することが可能なので、AIの実用化という面で優れている。また生成AIには莫大な電気量を必要とすることから、12月11日のコラム<中国半導体最前線PartIII AI半導体GPUで急成長した「中国版NVIDIA」ムーア・スレッド>(※10)の図表に示したように、AI開発では電気量において将来的には中国に優位性があると言えるのかもしれない。その証拠に最近、Former Google CEO Eric Schmidt Says U.S. Trails China in AI Development | News | The Harvard Crimson(※11)にあるように、Googleのエリック・シュミット元CEOが、最近、中国の方がAIの開発が進んでいるという趣旨の観点を発信している。同氏は、ハーバード政治研究所のフォーラムで、「より強力なAI開発競争でアメリカは中国に遅れをとっている」と述べたとのこと。ハーバード・ケネディスクールの元学長、グラハム・T・アリソン氏(1962年卒)が司会を務めたこのイベントでのシュミット氏の発言は、昨年10月のIOPで「アメリカがAI開発で中国をリードしている」と述べた立場から逆転している。講演の中でシュミット氏は、「アメリカのような優秀なエンジニア、強力なチップ、大規模なデータソースへのアクセスに加えて、中国はAIモデルのトレーニングに必要な電力をより多く持つことでも恩恵を受けている」と述べている。これは筆者の「中国半導体PartIII」での独自分析が正しかったことを裏付けてくれて、ホッとしている。ただ、日本としてはホッとしているわけにはいかないだろう。少なからぬ日本人にとっては、見たくない不愉快な現実だろうとは思うが、この「中国半導体最前線シリーズ」で書いたことは、日本の真の発展あるいは政策の方向性にとっては、無視できない「現実」であることを認識していただきたいと切望する。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※12)より転載しました。米アマゾンのラボAIチップ開発など研究(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/platform_HPC_tech_advancedTech(※3)https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/21/news012.html(※4)https://semicon.jeita.or.jp/STRJ/STRJ/2015/2015_08_Tokubetsu_v2.pdf(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/20b6ff18f1af61aecf56b53c1327ff989cb45bf6(※6)https://grici.or.jp/5891(※7)http://politics.people.com.cn/n1/2024/1205/c1001-40376144.html(※8)https://www.semiconductors.org/(※9)https://www.investors.com/news/technology/semiconductor-stocks-gear-makers-getting-china-boost/(※10)https://grici.or.jp/5904(※11)https://www.thecrimson.com/article/2024/11/19/eric-schmidt-china-ai-iop-forum/(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3445ed89b794463c97c011a2b1db2b52cb5fbde4 <CS> 2024/12/13 16:23 GRICI 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】 *16:21JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆日本の株式制度における「企業防衛」の危うさそれに比べて日本企業の外資投入あるいは株主提案権に関する規制は世界一緩く、東京証券取引所及び大阪取引所の売買代金の約60%以上は海外投資家によって占められており(※2)、上場企業の金額ベースでみた外国人の日本株保有率は31.8%になっている(※3)。株主提案権を取得するための株式保有要件も非常に緩く、提案内容の制限もほとんどないというのが現状のようだ。株式を5%以上保有すると「大量保有報告書」を提出する義務があり、その後1%以上の変動があるたびに追加で報告することが法律で定められているだけだ。これらの状況が「ウルフパック」のような手法を生み、企業を乗っ取るグレーゾーンを招いている。「企業防衛」、「国家防衛」は「武器を手段とした防衛力」などでは到底守り切れない経済安全保障上のリスクの落とし穴を露呈している。投資者の道徳心に期待するには限界があるだろう。仮に万一、中共中央統一戦線がグレーゾーンを突いてきたらどうなるだろうか。たとえば日本がアメリカに追随し、台湾独立を支援する路線を明確にしたときなどは、武器による報復ではなく、グレーゾーンを用いた、日本の国家インフラを含めた日本企業乗っ取りという金融手段を用いる可能性はゼロではない。そうでなくとも日本は米国の餌食になっている側面が否めないのに、ウォール街と中南海がその気になれば、日本国など「消えてなくなる」危険性が潜んでいる。中国の富裕層が習近平政権を嫌がって日本に避難してきているといった類の記事が目立つが、喜んでいる場合ではない。また、懲罰を重くすればいいだけの話ではなく、日本はもっと抜本的に、そして予防的に規制ラインを引き上げなければならない。それができないのはなぜか?上述した対中貿易重視という日本政府や経団連の基本姿勢があるだけでなく、遅まきの対米追随にばかり目が行っていて、日本の国家を守るのだという「独立国家としての国家観」を持っていないところに根源があるのではないだろうか。この「国家観の欠如」は拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』でも詳述した。本稿で論じたのは氷山の一角にすぎず、日本はあらゆるエリアで「隙だらけ」であることを露呈している。この「日本の脆弱性」に対して、国は早急に規制を強くする方向で法整備の見直しをする必要がある。警鐘を鳴らしたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※4)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.jpx-recruit.jp/company/business05/(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB022T70S4A700C2000000/(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b <CS> 2024/11/27 16:21 GRICI 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】 *16:16JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米中の新産業力を比較考察する本を執筆する過程で、日本を参考比較対象としてみた。すると、「なぜ日本の製造業はこんなにまで没落してしまったのか」、「なぜNatureの研究者ランキングなどで、日本はここまで低いのか」といった疑問にぶつかった。そこに共通しているのは「短期的成績が求められるようになったから」という事実で、日本企業の場合、その原因は「物言う株主」(アクティビスト)の存在であることが浮かび上がってきた。事実、製造業関係の社長を取材したところ、「最近は物言う株主の存在が大きくなりましてね、大型の設備投資など、とてもできません。短期的に目に見える利益を出さないと、物言う株主が許してくれないんですよ。日本の製造業が成長などするはずがありません」と嘆いておられた。その流れの中で<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※2)という事実を知り、非常な危機感を抱きながら近く出版する本の原稿を書いていたのだが、加えて金融界でも類似の動き(※3)があることを知った。そうでなくとも11月19日には、「ハゲタカ・ファンド」とも言われるほど激しい投資をすることで有名な米ヘッジファンド運営会社エリオット・インベスト・マネージメント(以下、エリオット)が、東京ガスの株式を5.03%獲得し(※4)、東京ガスが保有する新宿パークタワーなどの不動産について、非中核事業だとして売却を求めていると報道されたばかりだ。日本の国家インフラにまで「物言う株主」が口を出し、日本の国家の軸を揺さぶり始めている。注意しなければならないのは、かつての資本市場改革で株主の権利を強くしたために、「物言う株主」のみならず昔ながらの乗っ取りスタイルも息を吹き返しているということである。このまま放置すれば、日本はやがて中国人を含めた、何らかの形での外国人投資家に乗っ取られてしまう危険性がある。日本の「企業防衛」は、そして日本国の「インフラ防衛」は大丈夫なのだろうか。一方の中国。実は改革開放は、グローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者・フリードマンの論理を基礎にして進められてきた。したがって習近平は絶対にグローバリゼーションを崩さないし、その上で社会主義体制を軸にしているので国家インフラは国有企業で守りを固め、民営企業も証券法で外資投入を規制し企業崩壊を防いでいる。それに比べて日本の外資投入規制はあまりに緩く無防備だ。このままでいいのか、警鐘を鳴らしたい。◆帰化中国人集団が日本企業を乗っ取ろうとしていたケース冒頭に書いたように、2022年8月18日、<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※5)という見出しで、帰化中国人仕手(して)集団が日本企業を乗っ取ろうとしたケースが報告されている。「ウルフパック」というのは、実際はつながっている複数の共同投資家が、多数の異なる名義を利用し、水面下で分散的に大量の株式を購入し、ある日突然「狼の群れ」が姿を現して「株主提案権」を発揮し、当該企業を乗っ取るという手法のことである。本来、これらの株式が事実上共同で5%以上保有されている場合には、共同名義として「大量保有報告書」を提出する義務がある。しかし実際は、5%以上の株式を所有している某グループは、それぞれがあたかも関係のない人物であるかのようになりすまして異なる名義で5%以下の株式を所有する形を偽装するケースが頻発している。報道によれば、「相手企業に警戒心を抱かせないように各々が無関係を装い、株式を分散取得し、傘下株主の申し立てで臨時株主総会の開催に漕ぎつけると、共闘で乗っ取り劇を演じた」とのこと。典型的な「狼の群れ」だ。加えて「その中心人物と目されるのは、2003年10月に日本国籍を取得した帰化中国人」と、上記の記事には書いてある。それが真実だとすれば、いかにも「赤く染めそうな雰囲気」を醸し出しているではないか。この結末は2024年8月22日の<「狼」のような個人投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる…!究極の敵対的買収「ウルフパック戦術」の行方>(※6)に見られるように、ウルフ3者に「計98万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した」だけで終わっている。こんなことでは、「狼の群れ」はいくらでも姿を変えて暗躍し、日本の製造業だけではなく、金融界あるいは日本の国家インフラさえ乗っ取ることが可能になってしまう。2023年3月31日の<「中国系仕手集団」頭目に弄ばれ、ついに上場廃止になった「アジア開発キャピタル」>(※7)を見ると、なんと、日本の複数の衆議院議員が役職に就くなどして、すでに国家ぐるみの犯罪が横行していることがわかる。その危機感を2023年4月1日の<何人もの「側室」を抱えるのが、「中国系仕手集団」の頭目>(※8)が報道しており、検索すると果てしなくこの手の情報が湧き出てくる。それでも大手メディアが大きく取り扱おうとしないのはなぜなのだろうか?この報道にもあるように経団連や国会議員などに親中派が多く、実は政府として中国との貿易にすがっているからかもしれない。「ウルフパック」は基本的に非合法性が高いものの、その「狼の群れの共謀性の程度」によって合法の範疇に入れられる場合もあり、グレーゾーンということができる。それも取り扱いを困難にさせている側面の一つとして考えられる。さらにやっかいなのは、日本の国家インフラを狙ったエリオットなどは、「物言う株主」として、実は合法的手段で株式購入活動を行なっているのだ。だから現在の法体制の下では、日本国を守ることはできない。◆中国は早くから米国の「ハゲタカ・ファンド」に警戒では、中国はどうだろうか?中国自身は自国インフラや自国企業を守るために米国の「ハゲタカ・ファンド」に早くから激しい警戒心を見せてきた。たとえば「ハゲタカ・ファンド」エリオットなどを「経済テロ」と称して警鐘を鳴らしている。2022年9月29日、中国政府の「新華社」電子版「新華網」は<「経済テロリスト」 - 米国の「ハゲタカ・ファンド」を暴く>(※9)という見出しで、エリオットが南米のアルゼンチンやアフリカの32カ国を「ハゲタカ・ファンド」に巻き込んで「喰い物にしている」状況を解説している。記事では、米国の金融覇権を維持するための手段の一つが、悪名高い「ハゲタカ・ファンド」だと位置付けている。「ハゲタカ・ファンド」に目を付けられたが最後、骨の髄まで喰い尽くされるとしている。記事は米国のエリオットの子会社であるNMLキャピタルの血に飢えた金融攻撃の様子を「経済テロ」と位置づけ、米国の新自由主義が生んだ残虐性を説明しているが、いや、待てよと思う。◆改革開放はフリードマン理論の下で遂行 ウォール街とつながる中南海そもそも中国は改革開放を推進するにあたり、冒頭に書いたようにグローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者であるミルトン・フリードマンの論理を基礎にしてきた。フリードマンはシカゴ大学の教授であったため、新自由主義を唱える経済学者を「シカゴ派」とか「シカゴ・ボーイズ」と称する。彼らは政府による介入を否定し、自由な市場経済を主張した。その主張が資本市場改革の流れを生み、最終的にはこんにちの「物言う株主」制度へと発展していったと位置付けることもできる。このフリードマンを中国に招聘すべきだと提案したのは、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の世界経済研究所の研究員だ。この提案が中国政府に採用され、1980年にフリードマンは訪中して中南海のリーダーたちと会っている。その後も1988年、1993年と、計3回も訪中し、中国のトップリーダーたちに会い、中国における市場経済発展に関する論議をくり返している(※10)のだ。したがって中国はフリードマンの唱えるグローバリゼーションを基礎に置き、2001年にWTO(世界貿易機関)に正式加盟した。2000年には米中国交正常化を促したヘンリー・キッシンジャー元国務長官の勧めで清華大学経済管理学院に顧問委員会を設置した(※11)。ウォール街の金融大手などのトップを顧問委員会の委員にさせたのはキッシンジャーで、当時は中国入りのためにはコンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエイツ」を通さなければならなかった。現在の顧問委員会のトップに君臨しているのはもちろん習近平国家主席(清華大学卒)だが、顧問委員会委員(※12)には、今もウォール街関連の錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。スティーブン・シュワルツマンは習近平が国家主席になった2013年に蘇世民書院(シュワルツマン・カレッジ)(※13)の発足式を挙行した。蘇世民はシュワルツマンの中国語名だ。2016年9月から金融を中心としたグローバル・リーダーを養成し、世界に羽ばたかせている。その意味で、中南海はウォール街と緊密に直結しており、フリードマン理論が生きている。だから習近平は絶対にグローバリゼーションを変えないのだが、それでいながら社会主義体制を軸にしているので、国家インフラなどは国有企業で固めていて絶対に海外資本の浸食を許さない。民間企業でも証券法で外資投入をかなり厳しく規制している(※14)のは、外資によって中国企業が破壊されるのを防ぐためであって、決して閉鎖的であるためではない。中国は外資に対する「企業防衛」が非常に堅固だ。これは中国の強みだと言えよう。「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※15)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※3)https://www.kushim.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/ir_20241125-3.pdf(※4)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-20/SN7ZXST1UM0W00(※5)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※6)https://gendai.media/articles/-/135977?imp=0(※7)https://access-journal.jp/71386(※8)https://ameblo.jp/s2021751/entry-12796316351.html(※9)http://www.news.cn/world/2022-09/29/c_1129042829.htm(※10)https://finance.sina.cn/sa/2006-11-19/detail-ikftpnny2058670.d.html(※11)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/xygk/gwwyh/gwwyhjs.htm(※12)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/guwenweiyuanhuimingdan20241113.pdf(※13)https://www.sc.tsinghua.edu.cn/gywm.htm(※14)https://www.chinanews.com.cn/cj/2023/12-29/10137839.shtml(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b <CS> 2024/11/27 16:16 GRICI トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】 *16:56JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆イーロン・マスク:(バイデン政権における)対中関税反対を表明イーロン・マスクは今年5月23日にパリで開催された大手テクノロジー企業の経営者などが集まる毎年恒例のビバテック会議に登壇し、「現在、中国のEVに対する米国の関税に反対する」(※2)と表明した。バイデン政権が、トランプ前大統領が導入した多くの関税を維持しながら、中国のEVに対する関税を4倍の100%以上に引き上げることに関して、イーロン・マスクは「市場を歪めるような措置は好ましくない」と述べている。イーロン・マスクはもともと民主党を支持する傾向にあったが、2021年8月5日にバイデンが呼び掛けたEVサミットにイーロン・マスクだけが招待されなかったことがあった(※3)。バイデンはホワイトハウスにゼネラルモーターズ、フォード、(フィアット・クライスラーとフランスのPSAが合併して設立された)ステランティスのCEOたちを招待しながら、世界最大のEVメーカーであるテスラのCEOイーロン・マスクを招待しなかったのだ。イーロン・マスクは当日Xに「いやー、テスラが招待されなかったのは奇妙じゃないかな」と投稿し(※4)、不満を漏らした。以来、バイデンから心が離れていき、2024年7月14日に起きたトランプ銃撃事件により、一気に強烈なトランプ支持に変わっていったようだ。翌日の7月15日にコラム<中国ネット民 トランプの「突き上げた拳」を熱狂絶賛――「これぞ強いリーダー!」>(※5)を書いたが、なんだか筆者には、中国のネット民とイーロン・マスクには一脈通じるものがあるように感ぜられる。◆イーロン・マスク:戦争屋ネオコンに反対と投稿トランプが勝利宣言をすると、イーロン・マスクは11月6日にXで<ネオコンの戦争屋に力を与えるべきではないことに賛同する>(※6)と投稿した。ご存じのようにネオコン(Neoconservatism、新保守主義者)は自由主義や民主主義を重視して「民主」を輸出し、世界各地の親米的でない政権を転覆させて武力介入も辞さない政治思想集団だ。いうまでもなくNED(全米民主主義基金)は、このネオコンのもと世界各地で暗躍し、「民主」を輸出して戦争を仕掛ける組織である。トランプが米国の利益を最重要視するのに対して、ネオコンはグローバリゼーションを広げて世界における米一極支配を目指す。トランプがNEDを嫌うことは11月5日のコラム<トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い>(※7)で書いた。ネオコンはトランプ1.0政権ではジョン・ボルトン(大統領補佐官)などが一部入り込んでいたため、たとえばトランプが金正恩と会談して朝鮮半島における第二次世界大戦以降の紛争を解決しようとしたことを阻止してしまった。トランプはどれだけこの事を後悔しているかしれないと推測する。トランプは朝鮮半島問題を解決して、ノーベル平和賞をもらいたかったのだ。2016年5月に、ベトナム戦争終結に寄与したとしてノーベル平和賞を受賞したキッシンジャー元国務長官から外交に関する手ほどきを受けた時から、トランプはノーベル平和賞受賞を目指していた。そのトランプが嫌う「戦争屋ネオコン(→NEDの暗躍)」をイーロン・マスクも嫌っていることを知ったのは、筆者にとっても大きい。◆トランプ2.0は、習近平にとっては悪くない以上さまざまな側面から、イーロン・マスクはトランプ2.0の対中高関税に対する緩衝材になるだけでなく、何よりもNEDの暗躍を一定程度は抑え込むだろうということによって、習近平にとっては非常に悪くない政権になるのではないかと思うのである。中国は米国から高関税などの制裁を受けることに関しては、少しも恐れていない。むしろ、その制裁があったからこそ自力更生を加速強化させてくれたし、結果ハイテク国家戦略「中国製造2025」は、その目標年である来年2025年までにほぼ完遂する。最先端の半導体製造装置に関しては未達成だが、他の新産業のほとんどの分野において中国は今や世界一になっている。また、仮に高関税をかけられても、中国はBRICS+という非米側陣営を拡大することによって経済的な結びつきを強化し、米一極支配から抜け出そうとしている。そのことは10月30日のコラム<中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る>(※8)で書いたとおりだ。実際にどうなるか、未知数はあるものの、少なくともトランプ2.0は習近平にとって決して悪いものではないと考えていいだろう。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.reuters.com/business/autos-transportation/elon-musk-im-against-tax-incentives-evs-2024-05-23/(※3)https://edition.cnn.com/2021/08/05/business/tesla-snub-white-house-event/index.html(※4)https://x.com/elonmusk/status/1423156475799683075(※5)https://grici.or.jp/5451(※6)https://x.com/elonmusk/status/1853944431512314093(※7)https://grici.or.jp/5746(※8)https://grici.or.jp/5725(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b <CS> 2024/11/11 16:56 GRICI トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】 *16:45JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。大統領選に圧勝したドナルド・トランプ前大統領は、選挙運動中に「全ての国に10~20%、中国からの全輸入品に60%の関税を課す」と表明している。しかし最大のトランプ支援者となったテスラCEOのイーロン・マスクは、EVの上海工場で莫大なビジネス権益を有しているだけでなく、中国政府に特別な厚遇を受け、習近平国家主席がトップを務める清華大学経済管理学院顧問委員会(海外大手企業トップが集まり中国経済発展を助ける委員会)のメンバーの一人だ。李強国務院総理(首相)が上海市の書記だったころに上海工場を設立したため、李強首相とも特別に仲がいい。母親のメイ・マスクともども、大の「中国ファン」なのである。そのため昨年は「台湾は北京政府の統治下にあるべきだ」として台湾の平和統一を支持する発言をしたり、バイデン政権が対中高関税をかけることに対して反対の表明をしたりしている。そんなイーロン・マスクが来年1月から始まる第二次トランプ政権「トランプ2.0」で発令されるであろう対中高関税政策を黙って見ているだろうか。おそらくイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるのではないかと思われる。イーロン・マスクはまた「戦争屋ネオコンに反対!」とXに投稿しており、アメリカ・ファーストのトランプはそのネオコンの下で動く「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)が嫌いだ。習近平にとって、トランプ2.0は、心地悪くはないものとなる可能性がある。◆テスラEVの利益のほとんどは上海工場から世界一の大富豪として知られるイーロン・マスクは、EV(電動自動車)の製造工場をアメリカのカルフォルニアとテキサスに持っているが、2023年の生産台数)はそれぞれ55.5万台と14.6万台で、あまり多くはない。一方、上海工場での2023年の生産台数は95.8万台に上り、全生産能力の半分以上を占めるに至っている。また今年9月には、上海工場から100万台目の中国製EVを輸出したと発表した。それが可能になったのは、習近平が上海工場設立に対して、独資企業としてスタートしてもいいという特別の厚遇をしたからだ。外国企業に対する独資認可は、テスラ上海工場が初めてのケースである。2019年1月7日に上海工場が着工し、同年12月30日には最初の車が納車された。着工から納車まで1年もかからなかったというこの生産スピードは、サプライチェーンが中国内に全て揃っているお陰でもある。習近平は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、イーロン・マスクの登場は、その戦略にぴったりと当てはまった。拙著『嗤う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』で詳述したように、習近平は「中国製造2025」達成を可能ならしめるためにも、テスラ上海工場をそのバネにする必要があったのだ。事実、これをきっかけに中国のEV製造は一気に成長して世界一になった。習近平にとってイーロン・マスクは無くてはならない存在だし、イーロン・マスクにとっても中国は欠かすことのできないビジネス・パートナーだ。したがってイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材となるのではないかと推測されるのである。◆中国のネット:イーロン・マスクが対中高関税の潤滑油になるたとえば11月8日の新浪財形網には<トランプがホワイトハウスに戻ってくるが、マスが中米間の潤滑油になるのではないか?>(※2)という見出しで、筆者と同様の観測をしている。またシンガポールの聯合早報も11月7日、<トランプの高関税は中国にどの程度の打撃を与えるか? 学者はマスクの立ち位置留意すべきと>(※3)という見出しで北京特派員の見解を報道している。それによれば「中国で莫大なビジネス権益を持つ起業家であるイーロン・マスクは、米中貿易摩擦の緩衝材になる可能性がある」と学者が述べているとのこと。トランプ勝利が判明する前の11月4日、中国のネットの観察者網は<マスクは極端な親中派なので、米中間の重要な対話者として機能するのでは?>(※4)という趣旨の分析をしている。こういった視点からの分析は枚挙にいとまがないほど中国語のネット空間に溢れている。◆イーロン・マスク:北京が台湾を統治すべきと表明2023年9月13日、ロサンゼルス(のRoyce Hall on UCLA’s campus)で開催されたAll-In Summit 2023にリモートで参加したイーロン・マスクは、「台湾と中国の関係」を「ハワイと米国の関係」にたとえた(※5)。凄いスピードで話しているので、喋っている言葉を逐語訳すると何を言っているかわからなくなる。そこで彼の言わんとするところを要約してピックアップすると、以下のようになる。●台湾の再統一は中国の根本的な問題だ。半世紀以上にわたり、中国は台湾を返還する政策をとってきた。●彼らの視点から見ると、中国にとっての台湾は、アメリカのハワイのようなものかもしれない。●ただ、中国の再統一の試みを、米国の太平洋艦隊が武力で阻止したために中国の一部ではないようにしてしまっているだけだ。●台湾は中国の不可欠な部分であるが、台湾は「故意に中国の所有物であることを否定し」、米国が「いかなる形の再統一努力をも妨害している。(2023年9月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)すると、9月14日、台湾外交部がマスク発言に対して激しく抗議した(※6)。それでもなお、イーロン・マスクは2023年11月になると、また台湾に関して言及した。2023年11月10日、レックス・フリードマンが主催するポッドキャストにオンラインで取材に応じ、以下のように回答して(※7)いる。●中国は台湾に対して強い感情を抱いている。その点については、長い間、非常に明確にしてきました。この観点から言えば、ハワイのような国ではなく、ハワイよりも重要な国の一つということになる。●中国は台湾を、中国の基本的な一部、台湾ではなく「中国の台湾島」と見なしています。今は台湾は中国の一部になってないが、そうあるべきだ。それが実現していない唯一の理由は、米国の太平洋艦隊のためだ。●中国は平和的もしくは軍事的に台湾を併合すると明言していますが、中国の立場からすれば、台湾を統一する可能性は 100%だ。(2023年11月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)ここまでの踏み込んだ発言を断言的に表明したイーロン・マスクという人物が、習近平にとって、どれだけ重要か想像がつくだろう。そうでなくともトランプは大統領選挙中に何度も「もし中国が台湾を武力攻撃したら、あなたならどう反応するか?」という複数のメディアの問いに、毎回回答をはぐらかしてきた。それはバイデン大統領が何度も「米国は介入する」と明言した意思決定と歴然たる対比を成していた。ましてやイーロン・マスクがトランプ側に立った今、トランプ2.0における対台湾の認識は習近平にとって何よりも重要なものだ。トランプは11月6日の勝利宣言演説(※8)で、イーロン・マスクを「超天才」と呼び、「われわれの天才を守らなければならない」とまで述べている。きっとイーロン・マスクの意見を政権運営に取り入れていくことだろう。このこと一つをとっても、トランプ2.0における米中関係がイーロン・マスクの存在によりどれだけ悪化を防ぐか、その効果は計り知れない。「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://finance.sina.com.cn/jjxw/2024-11-08/doc-incvkiwc1758856.shtml(※3)https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20241107-5307017(※4)https://www.guancha.cn/internation/2024_11_04_754094.shtml(※5)https://www.youtube.com/watch?v=tKqJ5-kkUGk(※6)https://edition.cnn.com/2023/09/14/business/elon-musk-taiwan-china-comments-intl-hnk/index.html(※7)https://www.youtube.com/watch?v=JN3KPFbWCy8(※8)https://www.youtube.com/watch?v=WI9fbbQ-aTo(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b <CS> 2024/11/11 16:45 GRICI トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い【中国問題グローバル研究所】 *10:31JST トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。世界中に「民主」を輸出しては戦争を仕掛けるNED(全米民主主義基金)は現在、アメリカの民主党を中心に全世界で暗躍しているが、ドナルド・トランプ前大統領はNEDが嫌いで、実は習近平国家主席やプーチン大統領が好きなようだ。トランプ政権時代だった2018年、アメリカの雑誌The New PublicがCNNの録音を基に報道している。習近平やプーチンにしても、中国やロシアに潜り込んで反政府勢力を育てあげては政府転覆をさせようと暗躍しているNEDこそは最大の敵なので、当然ながら民主党政権よりはトランプに当選してほしいと思っているだろう。本稿ではThe New Public情報を、いくつかのパーツに分けてご紹介し、最後に中露が団結する原因の一つに関しても触れる。◆The New Public-1:トランプは習近平やプーチンを尊敬している1914年に創刊されたアメリカの権威ある雑誌The New Publicは2018年3月6日に<Trump’s Disdain for Democracy Promotion (トランプは民主主義推進を軽蔑している)>(※2)というタイトルで、トランプが習近平やプーチンを尊敬し、NEDを嫌っているという趣旨の内容の報道をしている。トランプの発言は、CNNの録音に基づいているらしい。作者はカナダ人の作家でありジャーナリストで、The New Publicのスタッフ・ライターでもあるJeet Heer(ジート・ヒヤー)だ。その内容をテーマ別にご紹介したい。まずは習近平とプーチンに関して。●ドナルド・トランプ大統領は、マー・ア・ラーゴで行われた非公開の募金活動で、中国の習近平国家主席に関して「彼は権力把握に関して実に賢明だ。何と言っても彼は今や終身大統領だ」と驚嘆してみせた上で、「私もいつか、それを試してみる必要があるだろう」と述べた。●トランプの周りに集まった寄付者たちは笑ったが、彼の独裁者称賛は不吉だ。2016年、彼はウラジーミル・プーチンを「非常にリーダー的だ…これまでの大統領がリーダーであった以上に」と述べたことがあり、プーチンをも称賛した。●トランプは、海外で民主主義と人権を促進することがアメリカの外交政策上の利益になるとは考えていない。それどころか、トランプ政権は、そうする任務を負った機関を弱体化させようとしている。◆The New Public-2:トランプはNEDを嫌い弱体化させようとしている●「国務省の2019会計年度予算要求に込められているのは、NEDの予算を削減するだけでなく、National Democratic Institute(全米民主党研究所)やInternational Republican Institute(国際共和研究所)を含む中核機関とNEDとの関係を解体する提案だ」とワシントン・ポストは報じた。●NEDとこれらの研究所にとって、この提案は彼らの組織だけでなく、彼らが献身している民主化の使命に対する攻撃でもある。●トランプ氏の民主主義推進に対する嫌悪感は、彼の権威主義的傾向と一致している。◆The New Public-3:トランプは「他国の内政干渉」より「自国の強化」を重視●20世紀のほとんどの間、民主党は「平和な世界を確保する最善の方法は、他の国々に民主主義の価値観と制度を採用するように奨励することである」と考えていた。共和党は「アメリカは自国の民主主義の守護者であり、他国の内政には責任がない」という、よりシニカルで孤立主義的な見方に傾いていた。●ところが共和党のレーガン大統領は、「民主主義のインフラを育成する」よう呼びかけ、1983年にNEDが超党派の支持を得て設立された。民主主義の推進を外交政策の要に据えるにあたり、レーガンは、少し前までリベラルな民主党員や社会主義者だったネオコンの幹部に助けられた。ネオコン知識人や政策オタクたちは、民主主義推進の中心性を主張した。●しかし、レーガンやジョージ・W・ブッシュのような共和党の大統領の許可にもかかわらず、民主主義の推進は右派から普遍的に支持されることは決してなかった。トランプはレーガンの伝統(NED)を放棄し、(レーガン以前の)硬派な現実政治に戻りつつある。●1980年代から、一連の民主主義革命が南アメリカ、アジア、アフリカ、東ヨーロッパの多くの国を襲った(筆者注:「アラブの春」など)。多くの場合、これらの革命は、超党派のアメリカの外交政策によって支援されたり、促進されたりした。近年、民主主義は後退し始めており、権威主義が台頭している。●この変化は、トランプの支援を受けて持続する可能性が高い。民主主義がますます危機に瀕しているという事実は、NEDのような機関をより重要にしている。トランプはそれを弱体化させ、むしろ、権威主義者や有力者になりそうな人々に、「アメリカは彼らの邪魔をしない」と言っている。●2020年にトランプが民主党に取って代わられたとしても、トランプが共和党の民主化に対する軽蔑を復活させた今、少なくともしばらくは、両党が団結して民主化を推進していた日々は戻らないかもしれない。(以上)◆The New PublicはNEDが戦争の武器になっていることに触れていないThe New Publicが、「トランプがNEDを嫌っていること」と「本当は習近平やプーチンが好きなこと」に関して報道しているのは実にすばらしく、また「アラブの春」に象徴される「他国の民主化への働き」を論じているのは高く評価する。それは拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で考察した内容と一致し、また「国務省の2019会計年度予算要求」によって、筆者の分析を補強していてくれているので非常にありがたい。しかし、肝心のことを忘れてはいないか。それは、NEDは「他国の民主化を支援すること」によって、「他国への内政干渉」を行い、「民主主義的でない国」=「アメリカに親密でない国」の政権を転覆させるという、国際法的には許されないことを設立後からこんにちまでやり続けていたという事実だ。その結果、絶えることのない紛争を巻き起こし続けてきた。世界から戦争が消えないのは、そのせいである。それ故にこそ、筆者はNEDが何をやってきたのかを徹底して分析し、「第二のCAI」として「戦争を先導する役割」に反対し続けてきた。ネオコンは戦争屋と結びついているので、この世から戦争が消えると商売が繁盛しないため、いつでも、どこかで戦争が起きている状態が最も望ましいと考えている。だから世界各地でNEDが暗躍し続けているのだ。この視点がThe New Public報道の作者であるJeet Heer氏には完全に欠落している。◆習近平がNEDを嫌うわけ:NEDが台湾独立を支援しているから何度も言い続けてきたので、くり返すのも申し訳ないが、習近平がNEDを嫌い、反スパイ法を制定したのは、NEDが台湾に支局を置いて、台湾独立をけしかけているからだ。中国大陸内での監視が激しく、NEDスタッフが上陸して暗躍するのが困難になったので、最近ではネットを用いて「白紙運動」などをけしかけている。それも拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』で詳述した。そのため、習近平はトランプが当選してくれることを願っているだろう。もちろんトランプは中国に高関税をかけたり、さまざまな制裁をしたりしてくるだろうが、そのようなことはいくらでも対処できる。むしろ、制裁により国産を目指すしかなくなったので、新産業における中国の目覚ましい発展を可能にさせてくれたほどで、制裁とか高関税などは、中国にとっては小さな問題でしかない。◆ウクライナの親ロシア政権を転覆させたのはNEDとバイデンこれに関しても何度も書いてきたが、たとえば2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV  2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※3)などに書いたように、NED自身が年次報告書でNEDの活動の実態を証言しているので、これを疑う余地はない。(陰謀論というレッテルを貼って事実から逃げている人は、NEDの年次報告書をご覧になることをお勧めする。)結果、プーチンももちろんNEDの暗躍には絶対に反対で、それ故に中露の結びつきは、ちょっとやそっとでは弱体化しない。最近では露朝が近づいたので、習近平とプーチンの仲に「亀裂が?」という「希望」を書きたがる評論家が多いが、それは事実とは異なる。今年10月30日に書いたコラム<中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る>(※4)に書いたように、習近平とプーチンは巨大な世界戦略のもとに行動しており、石破内閣が北朝鮮のウクライナ派兵を足掛かりに中国に接近しようとしても、まるで話にならない厳然たる事実があることを見逃してはならない。なお、いまこの時点でアメリカ大統領選の投票が行われているはずだが、結果は明日6日以降にならないと判明しないようなので、「当選」に関しては未来形で書いている。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※5)より転載しました。大統領選挙中のトランプ前大統領(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://newrepublic.com/article/147290/trumps-disdain-democracy-promotion(※3)https://grici.or.jp/4885(※4)https://grici.or.jp/5725(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f10f4eeb3e2ad1a0c7cecc7f2ae36103b1729b48 <CS> 2024/11/06 10:31 GRICI 中国「反日」のジレンマ なぜ「短期滞在ノンビザ」日本はダメで韓国はいいのか?【中国問題グローバル研究所】 *15:55JST 中国「反日」のジレンマ なぜ「短期滞在ノンビザ」日本はダメで韓国はいいのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国は11月2日、韓国など9カ国を15日以内の短期滞在のビザ免除(ノンビザ)対象にすると発表した。日本は対象となっていない。韓国は良くて日本がダメな理由はどこにあるのか?考察を深めると、そこには中国「反日」のジレンマが垣間見える。◆中国政府ノンビザ対象国追加を発表中国政府は11月2日、<中国はスロバキアを含む9カ国に対してビザ免除政策を試験的に実施している>(※2)という見出しで9ヵ国のビザ免除を追加的に発表している。内容は以下の通り。――中国外交部領事司は、中国と諸外国との人材交流をさらに促進するため、中国はビザ免除国の範囲を拡大し、「スロバキア、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランド、アンドラ、モナコ、リヒテンシュタイン、韓国」の一般パスポート保有者に対するビザ免除政策を試行することを決定した。2024年11月8日から2025年12月31日まで、上記の国の通常のパスポートを保有する者は、ビジネス、観光、家族、親族や友人訪問、乗り継ぎなどのために15日を超えない範囲内でビザなしで中国に入国できる。ビザ免除の条件を満たさない者は、入国前に中国渡航へのビザを申請する必要がある。(以上)日本にとって気になるのは、なぜ韓国に対して免除するのに、日本がその対象から除外されたかだ。韓国メディアは、韓国が中国のビザ免除対象になるのは初めてだと、驚きを以て伝えている。中国は実は、2020年のコロナ禍以前は日本に対しても短期のビザなし渡航を認めていたが、コロナ禍を受けてすべての国に対してノンビザを停止した。コロナ終了に伴い中国は短期ノンビザ対象国を広げているが、日本はこれまでのところ対象となっていない。日本側は再開を要望しているが、中国政府は中国人の訪日でも同様に免除する「相互主義」を求めて応じていないと一般に言われている。果たしてそうだろうか?◆日中双方にない外交・公用ビザ「相互免除」2024年5月28日、中国領事服務網は<中国と外国の相互ビザ免除協定一覧表>(※3)を公開している。この中に「日本」はない。G7が全てないのかと言ったらそうではなく、「ドイツ、フランス、イギリス、イタリア」は入っている。しかし、日本以外に、「アメリカとカナダ」も入っていない。G7以外でクワッドなどの対中包囲網に参加している国を見てみると、インドやオーストラリアも免除されていない。しかし、たしかに「韓国」は入っている。中国と韓国の間では・2013年8月10日に外交旅券保持者に対して、・2014年12月25日に中国側公務旅券に対して、・2014年12月25日に韓国側官用旅券に対して、それぞれビザを免除することが取り決められた。それなら日本はどうなのかを確認してみよう。日本の外務省の令和6年(2024年)10月1日時点における<外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国>(※4)を見ると、たしかに中国が入っていない。しかし、日本はコロナ前も中国を外交・公用旅券免除国にしていないのに、中国は日本に対して短期ビザ免除を実施していた。したがって、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象国にしないことが理由ではないことが明白だろう。その証拠に、オーストラリアの場合、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象ではないのに、今年6月には短期ビザが免除されるた(※5)。◆では、なぜ日本は免除されないのか?今年7月30日、駐日本国の呉中国大使は記者会見で<ビザ免除再開しないのは「日中関係が原因」>(※6)と述べ、日本に対して改善を求めた。報道によれば、日本人が訪中する際のビザ免除が再開されない理由について、呉大使は「中日関係の全体の雰囲気や、直面している困難、立場の違いが関係している。条件面の調整ではなく、停滞する日中関係が影響している」という認識を示したとのこと。日中関係がコロナ前とコロナに入ってからでは、どのように違っただろうか?考えられるのはバイデン政権になったあと、日米豪印による「クワッド」や米英豪による「オーカス」などの小さなグループを最大限に活用して対中包囲網を形成し始めたことだ。それでもオーストラリア(豪)などがグループのメンバーであっても短期ビザ免除になったのは、「日本ではないから」である。韓国など、米韓軍事同盟により激しい軍事演習をやっていても、ノンビザの対象になる。それもやはり「日本ではないから」だ。なぜ「日本」だといけないのか。それは中国から言わせれば「中国を侵略したから」以外のなにものでもない。毛沢東はそもそも日中戦争時代に日本軍と共謀して国民党軍の蒋介石をやっつけようとしたくらいだから、プロパガンダでは「抗日戦争を戦っているのは共産党軍だ」と主張して民衆を惹きつけるために激しく「抗日」を叫んだが、実際は1956年に遠藤三郎(元大日本帝国陸軍中将)などを中南海に招聘して「皇軍に感謝する」と言ったくらいだ。しかし、その毛沢東でさえ、日本が朝鮮戦争の武器弾薬の倉庫となり日米安保条約を結ぼうとしたときには「反対武装日本」運動を全国的に大々的に展開した。街のいたる所に「中国侵略を終えたばかりの日本が、アメリカのポチになって再軍備をしようとしている」ことを表すポスターが掲げられていた。江沢民が反日教育を始めたあとは、拙著『中国「反日」の闇 浮かび上がる日本の闇』にも詳述したように、日本が国際社会で現在どのような動き方をしているかをつぶさに教える学習指導要領に沿って、若者は時々刻々の日本の動きを日々教えられる。だから日本の政治姿勢を実によく知っている。結果、「日本帝国主義」への怒りは、「現在の日本」へと投影されていく。それがネットで拡散して、「反日感情同調圧力」となっているのだ。岸田元首相はバイデンに諂(へつら)ってNATOの東京事務所を設置すべく動いていたし、自民党総裁選前の河野太郎氏は9月9日、NATOへの日本の加盟に関し「将来、そういう選択肢があってもいい」と述べ、首相に就任した場合、NATOの連絡事務所を東京に誘致する考えも示した(※7)。そして石破首相は今も「アジア版NATO」の考えを否定してはいない。「そのような日本を許してなるものか」という憤りが中国社会全体に流れている。かかる状況で、もし日本に甘い顔を見せたら、ネット民がどのような反応をするかは、中国政府は百も承知だ。韓国に短期ノンビザを認めただけで、中国のネットは荒れている(※8)。ましてや日本になどノンビザを認めたら、若者がどれだけ習近平を「売国奴」と罵るかわからない。だから、今はできないのだ。◆反日のジレンマ習近平としても日本企業には投資してほしいし、特に日本の半導体製造装置関連企業には中国に協力してほしくてならない。多くの観光客にも訪中してほしいからこそ、コロナ後に短期ノンビザ対象国を増やしているところだ。しかし、日本が台湾独立や軍事拡大の方向に動き、ましてや徒党を組んで対中包囲網などを試みようとしている限り、絶対に日本に甘い顔をするわけにはいかない。そこには「反日教育」を強化するしかないところに追い込まれた習近平のジレンマがあるはずだ。胡錦涛政権初期に胡錦涛は「過度の反日教育はナショナリズムを招き好ましくない」として馬立誠に「対日新思考」を書かせたところ、胡錦涛は売国奴として罵倒され、2008年の時には「現在の李鴻章」とまで言われて危機一髪の状況にまで追い込まれている。習近平が中共中央総書記に選ばれることになっていた2012年秋、建国以来最大規模と言ってもいいほどの激しい反日暴動が起きた。だから11月に総書記になった習近平は、江沢民が始めてしまった「反日教育」を強化する以外に選択肢はなかったのだとも言える。しかしもし、明日5日の米大統領選で「アメリカ・ファースト」のトランプが当選したら、事態は一気に変わっていく可能性もないではない。なぜなら、高関税はかけても、徒党を組んでじわじわと対中包囲網を形成したり、NED(全米民主主義基金)を暗躍させて台湾独立をそそのかすような動きを、トランプはしないからだ。日本が対米追随をしても、そこそことなる。明日の米大統領選の結果が待たれる。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。JAPAN PASSPORT(写真:吉原秀樹/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202411/content_6984511.htm(※3)http://cs.mfa.gov.cn/wgrlh/bgzl/202110/t20211029_10403855.shtml(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page22_002019.html(※5)https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202406/content_6959255.htm(※6)https://www.asahi.com/articles/ASS7Z3J9SS7ZUHBI02MM.html(※7)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA082BW0Y4A900C2000000/(※8)https://www.voachinese.com/amp/china-expands-visa-free-policy-to-0-more-countries-including-south-korea-20241102/7848699.html(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/def4fadecd68e21816827d52ba4bace6922856e6 <CS> 2024/11/05 15:55 GRICI 米中は惨敗した石破首相の非辞任表明をどう見ているか?(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:44JST 米中は惨敗した石破首相の非辞任表明をどう見ているか?(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆国民民主の玉木代表には「石破氏を降ろすなら国会で協力する」と言って欲しかった玉木代表は各党と等距離を保ち、予算案・法案によっては自民党に協力するとしている。おまけに国民民主が首相指名選挙で1回目だけでなく2回目の決選投票においても自党の代表の名前を書くということは、それだけ無効票を増やして石破氏に有利に働くことになるのは明らかだろう。11月2日のデイリーは<「国民民主は裏自民党に」 首班指名決選投票の選択による可能性 選挙コンサルが指摘「2回目が無効票になれば」>(※2)と書き、国民民主を「裏自民」と称している。そこまでは言わないにしても、玉木代表にはせめて「石破氏を降ろすなら、自民党との国会における部分協力はしてもいい」と言って欲しかった。国民民主は野党として、現在の自民党の政治不信を批判してきたはずだ。石破首相は安倍元総理にも「辞任しろ」と迫ったのだから、今般の選挙で責任を取って辞任しないのはおかしい。特に「総理になっても、せめて予算委員会を開催してからでないと解散はしない」とあれだけ総裁選で言っておきながら、総理になった瞬間、正確に言えば総理になる前日に、「いきなり解散」を言い始めた石破首相は、それだけでも信用ができない人間性を持っており、そのような人物に日本の運命を託したくはない。そういう正義感を、玉木氏には持っていて欲しかった。今からでも遅くはないので、そのように迫るだけの豪胆さを持てば、もっと人気が上がるだろう。筆者は何度も、政治評論家(故)鈴木棟一氏が主宰していた「永田町社稷(しゃしょく)会」で講演をしたことがあるが、そのたびに玉木氏も会場におられて、講演が終わると挨拶に来られて話を交わしたものだ。非常に低姿勢でざっくばらん。感じのいい人だった。鈴木棟一氏も「ね!彼、悪くなよね」と二人のいつもの会話の中でも話題になったことがある。「応援してあげようか」と、まだ無名の玉木氏に好感を抱いていたものだ。このたびの選挙で躍進したのは祝賀したいが、しかし、政治改革をしないままの自民党を維持させる方向には動いてほしくない。別に野田代表が良いというわけではなく、このたびの一連の動き方をした石破氏を寛大に扱うとすれば、自民党はさらに小汚く動いて腐敗するだろうし、日本国民にさらなる不幸をもたらすだろうと憂うのである。選挙の結果は「民意」だ。「民意」よりも「党利」を優先しないようにしてほしい。日本の国家としての発言力・外交力を弱体化させれば、最終的に日本の権益を損ねるという、大所高所からの視点が持てるような党に育ってほしいと望む。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※3)より転載しました。衆議院選挙で惨敗した石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/7a72df75ad6db808af092a703304280ca2ee4cb5(※3)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/086541d745f9f65623135803a1bedc1c27e32af3 <CS> 2024/11/05 10:44 GRICI 米中は惨敗した石破首相の非辞任表明をどう見ているか?(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:40JST 米中は惨敗した石破首相の非辞任表明をどう見ているか?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。自民総総裁選のときの約束を破り、すぐに解散選挙を行った「嘘つき総理」に関する中国の見方は、10月28日のコラム<自公惨敗により日本短命内閣(回転ドア)が続けば中国には有利>(※2)で書いた。しかしその後、石破首相は居直りを決めていることがわかった。そのような不安定な日本の政局を中国およびアメリカは今どう見ているのか、改めて考察したい。◆観察者網:石破おろしの声が上がっても、野党が団結せずバラバラやや政府色があり、知識層が集まる観察者網は10月31日、<精彩を失う! 石破茂は大きな賭けに出て惨敗 それは中国にとっても悪いニュース>(※3)という見出しで、米中問題専門家の見解を報道している。そこには、おおむね以下のような内容が書かれている。●石破茂は首相に就任した途端、確実に勝てると読んだ賭けに出て惨敗。●石破は岸田政権が残した裏金問題をうまく解決するのかと思ったが、権力を握るとすぐに危険な動きに出て、自民党の基盤をさらに弱体化させた。●その結果、日本の政局は混乱に陥っており、この2日間、自民党内では石破の辞任を求める声が上がっている。●しかし、野党が団結していないため、自民党が政権の座に留まる可能性を高めている。野党を合わせると総得票数の過半数を占めているにもかかわらず、野党は非常に分散しており、野党連合を形成するのは自公連合を拡大させるよりも、さらに難しい。●中国のネット民が最も懸念しているのは、日本が回転ドアのように短命政権をくり返すようになったときに、日中関係がどうなるかということだ。一つには、内政で忙殺されていると中国に対して強硬なことを実施する時間などなくなるという可能性が考えられ、他方では逆に、内政があまりに不安定なために外界に敵を作って国民の目をそらせ、かえって対中強硬策を取るかもしれないという可能性もある。前者ならば「勝手にやってくれ」という感じだが、後者だと中国にとっても、これは悪いニュースになるというわけだ。(以上)10月4日のコラム<中国は石破首相をどう見ているか?>(※4)でも書いたように、自民党の中には右から左まで、どんな人でもいる。もう自民党一党だけで日本の左翼も右翼も代表できるほど、非常に幅広く網羅している。それに比べて野党は、やたら細かな主張の違いにこだわって別の党を結成しているので、政権を取りに行こうという図太さというか腹の太さがなく、たしかに「野党連携は、自公が他党を取り込んで拡大するよりも困難である」現状はある。◆環球時報:日本の政治的混乱は右翼ポピュリズムを激化させる可能性が10月29日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は<日本の政治的混乱は右翼ポピュリズムを激化させる可能性がある>(※5)という見出しで、日本政局の混乱を論じている。論旨概要は以下の通り。●12年間続いた「一党優位」の状況は崩壊し、最大野党・立憲民主党の台頭により、日本の政治情勢は再び「二大勢力併存」の方向へ進化する可能性がある。しかし衆議院で過半数を超える議席を保持している政党がないため、将来的に大きな不確実性をもたらす。●それでも保守・右傾化の政治生態系は変わっていない。●自民党の長期政権によってもたらされた政策の安定は、戦後日本の経済復興の重要な支えとなったが、同時に「金権政治」「派閥政治」「密室政治」など多くの欠点も生み出した。●裏金事件の影響で自民党と最大野党・立憲民主党の力は盛衰をくり返し、新たな「二党対立」の状況が到来する可能性もあるが、アメリカの共和党と民主党や、イギリスの保守党と労働党を比較しても、日本の自民党と立憲民主党の統治理念や内政・外交路線の違いは変わらない。このことは、日本が二大政党制に移行する条件が未熟であることを示している。●日本政治における社会党や日本共産党に代表される伝統的な左翼勢力は徐々に縮小し、保守と分類されるその他の大小政党が95%以上を占め、全体として政治の保守右傾化が進展し続けている。●1955年の自民党結党以来、党内の主流派論争は「経済重視、軍事軽視の保守本流」と「憲法改正と自主防衛を主張する保守傍流」の対立であり、長い間、前者が優勢だった。21世紀に入ると、小泉純一郎から安倍晋三に至る政治の右傾化の進展に伴い、「戦後体制からの脱却」を目的とした「憲法改正・軍備増強路線」が主流となった。この文脈において、岸田文雄氏は保守的な出身であったにもかかわらず、在任中に「外部の脅威」を喧伝し、日本の防衛・安全保障戦略を守りから攻撃へ大幅に調整することを推進し、戦後最大の軍拡路線を打ち出した。●経済政策の面では、安倍政権の異例の量的緩和政策による副作用、特に日本の多額の国債と累積財政赤字を前に、金融政策の正常化と財政健全化をあえて提案する政党はほとんどない。それどころか、票を集めるために「パイの塗り分け」をし、減税などの功利的な財政刺激策の提案を競っている。●一方で、国民の心をつかむために、各党の政策提案が近視眼的な功利主義やポピュリズムを強める可能性もある。外交安全保障政策の面では、日本が国内の紛争を外に転嫁することに警戒する必要がある。●国力の衰退と中国の発展を前に、日本の政界は不安を隠せず、対中政策は対立思想に満ちており、合理的な中国観や対中政策に関する議論はほとんど存在しなくなっている。(以上)この見解は完全に中国共産党、すなわち中国という国家の対日観の一部を表明しており、中国は「保守と分類されるその他の大小政党が95%以上を占め、全体として政治の保守右傾化が進展し続けている」という見解を代表している。これが「日本は日本帝国の軍国主義に戻っている」という視点となって小学校から高校に至るまで教育されるので、かつての日中戦争に対する「反日教育」が「現在の日本」と重ねられて青少年の精神に染み込んでいくのである。この詳細は『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』で考察した。これは中国の対日視点の特徴だ。環球時報がここまで赤裸々にそれを披露するのも珍しい。日本に二大政党制が出来上がらないのは、前述したように自民党内には右から左まで何でも網羅する「貪欲なまでの包摂力」があり、一党だけで日本政治が賄えることに加えて、野党の提案でも国民に受けそうだと見るや、まるで自党の提案でもあるかのように主張し始めるという貪食力もある。「旧統一教会」や「裏金」まで包摂していくので、何でもありの汚れた一党支配が日本の国力を落としていくことにつながる。また、ネットを通した無党派層の票を各党が吸収していくという意味では、右か左かは別として、「ポピュリズムへの移行傾向」は否めないのかもしれない。◆ブルームバーグ:世界がトランプの復帰に備える中、日本は内向きに一方、ガラッと変わってアメリカはどう見ているのか。一つの新聞では代表できないものの、10月29日のブルームバーグは<世界がトランプの復帰に備える中、日本は選挙後、内向きになるリスクがある>(※6)という見出しで、おおむね以下のような分析をしている。●石破氏は過半数を失ったにもかかわらず、首相に留任する意向を示唆した。●弱い連立政権は新リーダーの機動力を制限する可能性もある。●ホワイトハウスに大きな変化が現れようとしているこの時に、日本は政策停滞の新たな段階に入る危険にさらされている。●日本は1990年代以来初めて明確な勝者が出ず、世界第4位にまで落ちた(かつての)「経済大国」を、さらに弱い政府が運営することがほぼ確実となった。今のところ、その政権を率いるのは石破茂首相で、同首相は退陣する予定はなく多数派対策に没頭している。●自称「防衛オタク」の石破氏が率いるとしても、不安定な政権は、ウクライナ戦争や、より強硬な中国に対抗する台湾支援など、世界の問題で日本が今後もより主導的な役割を担っていくかどうか疑問を投げかける。また、今年の市場の混乱を招いた数十年にわたる金融・財政刺激策への過度の依存から、より正統的な政策立案への回帰を目指す日本の取り組みも減速する可能性が高い。●石破氏が戦後最短の在任期間となるのを避けるため、自民党は国民民主党などの小規模野党に連携の可能性を打診したが、国民民主党代表の玉木雄一郎氏は、自民党主導の連立政権への参加はしないと回答。しかし、法案によっては国会で協力する用意があり、かつ11月11日に国会で首相を選出する際に、2回目の決選投票でも同党は玉木氏の名前を書くと述べている。(以上)さすがにブルームバーグは最も核心を突いている。玉木代表の言動にまで着目しているのは、さすがだ「米中は惨敗した石破首相の非辞任表明をどう見ているか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※7)より転載しました。衆議院選挙で惨敗した石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/5718(※3)https://user.guancha.cn/main/content?id=1324888(※4)https://grici.or.jp/5672(※5)https://opinion.huanqiu.com/article/4K23L7NgkHx(※6)https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-10-29/japan-risks-turning-inward-just-as-world-braces-for-trump-return(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/086541d745f9f65623135803a1bedc1c27e32af3 <CS> 2024/11/05 10:40 GRICI 自公惨敗により日本短命内閣(回転ドア)が続けば中国には有利【中国問題グローバル研究所】 *10:27JST 自公惨敗により日本短命内閣(回転ドア)が続けば中国には有利【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。自民党が惨敗し、自公連携が過半数を割った。これに関して中国は強い関心を示し、日本メディアや米メディアの転載を主としながら、一斉に報道している。その中から見えてくるのは「日本に回転ドアのように短命内閣が続けば中国に有利」という視点だ。◆中共中央宣伝部の管轄下にある中央テレビ局CCTVの速報中央テレビ局CCTV端末は、28日の午前零時から朝7時にかけて、連続3本も速報で衆院選に関するニュースを報道した。まず10月28日午前零時に<日本の連立与党 衆議院選挙で過半数を獲得できず>(※2)という見出しで、27日の日本の衆院選の最新の開票状況を速報した。立憲民主党など野党側が得票を伸ばし、自公連立が過半数を取れなかったことが明確になったとし、石破茂氏が10月1日に首相に就任したばかりなのに戦後最速の衆議院解散を9日に表明した結果だと結んでいる。同日午前4時になるとCCTV端末は再び衆院選の最終結果が出たと報道(※3)した。概略は以下の通り。●自民191議席、公明24議席、両党合わせても215議席で過半数(233)割れをした。自民党は2012年以降のすべての衆院選で過半数以上の議席を獲得してきたが、その優位性も失った。●野党は、立憲民主党148議席、維新38議席、国民民主28議席など躍進した。●日本は議院内閣制を採用しており、憲法は、統治するために衆議院において過半数が必要とは規定していないが、首相指名と議会決議の大多数の可決には過半数の票が必要であるため、議席の過半数を獲得するかどうかにかかわらず、衆議院で過半数を獲得できるかどうかは、連立与党が議会で発言する権利があるかを判断する重要な基準となる。●日本のメディアは、選挙で惨敗する中、石破茂首相が責任を問われる可能性があると分析し、石破茂氏が権力を維持し続けることができるかどうかが焦点となっている。●日本の衆議院選挙は4年ごとに行われ、現衆議院議員の任期は当初2025年10月に満了する予定だったのに、石破茂氏が新首相に選出された瞬間に、9日の衆院解散を表明したことが招いた結果だ。同日7時42分になると、CCTV端末は、今度は<裏金の影に包まれた日本の衆院選 石破茂就任後初の「試験」は失敗に終わった>(※4)という見出しで、以下のような角度から石破首相の惨敗の原因を報道している。●裏金スキャンダルに経済問題が重なり選挙に影響し、自公連立与党は大幅に議席を減らし、過半数割れをした。●自民党側は維新や国民民主との連立を模索しているが、両党の党首とも自公連合には参加しないと表明している。●自公連立が惨敗した背景の一つには経済の問題がある。近年、日本は自公連立のもと、世界第3位の経済大国からドイツに追い抜かれ世界第4位に転落した。日本国民の多くは経済生活の現状に不満を抱いている。●そこに加えて自民党の議員だけが利益を得ているような裏金事件が明るみに出て、日本国民の政治に対する信頼は失われつつある。CCTVにしては珍しくネット民のコメントがあったが、そこには「日本がアメリカの束縛から抜け出し自我(独立)を実現することを望む。なんならBRICS+に加盟してもいいんだぜ。共に手を携えて世界の平和と安定の発展を守っていかないか?」という皮肉が書いてある。◆環球時報:日本は再び回転ドア首相時代に入るのか?10月28日午前7時40分、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」は<米メディア「石破茂が下野すれば、日本は再び首相が頻繁に交代する時代に戻る可能性がある」>(※5)という見出しで、米メディアの見方を伝えている。中国にとって最も関心が高いのは、アメリカが日本の政権をどう見ているかで、日本の首相が短命でコロコロ変わっていった時代のことを「回転ドア首相時代」と呼んでいる。回転ドア政権になると日本の発言力は極度に下落し、対米追随をしても威力がないので、中国としては喜ばしい。事実、1989年6月4日天安門事件後の対中経済封鎖を解除させたときから1992年10月の天皇陛下訪中に足る頃の日本の首相は、日本人でさえ印象的でないほど、回転ドアのように次から次へと交代していた。たとえば、その前後の日本の首相名を書くと任期を書くと以下のようになる。1987年11月6日~1989年6月3日:竹下登1989年6月3日~1989年8月10日:宇野宗佑1989年8月10日~1990年2月28日:海部俊樹(第一次)1990年2月28日~1991年11月5日:海部俊樹(第二次)1991年11月5日~1992年8月9日:宮澤喜一1992年8月9日~1993年4月28日:細川護煕この期間、中国は日本を思うように操ることができた。1989年6月の対中経済封鎖を日本がイの一番に解除したことによって、中国のその後の経済発展を可能ならしめたし、1992年2月に訪日した江沢民は、「天皇訪中さえ実現すれば、中国は二度と再び歴史問題を提起しない」と約束しておきながら1994年から激しい反日教育を開始している(詳細は『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』)。日本は中国に舐められているのだ。加えて、このように日本の内閣に短命な回転ドアが始まると、中国は日本をさらにコントロールしやすくなる。それを手ぐすね引いて待っているのである。環球網が引用しているのは27日のニューヨークタイムズ<Japan Election: Governing Party Projected to Lose Majority>(※6)(日本選挙:与党が過半数を失う見通し)やBBCの<Japan’s ruling party loses its majority in blow to new PM>(※7)(日本の与党、新首相に打撃を与え過半数を失う)などで、BBCは「自民党は深い穴を掘っており、そこから這い上がるのは簡単ではない」と述べている。◆「嘘をついた」石破首相の自業自得こんなことになったのも、もとはと言えば石破首相が「嘘をついた」のが原因だ。自民党総裁選期間中には、あれだけ「せめて予算委員会を開催してからでないと解散してはいけない。それが私の意見です」と何度も表現を変えながらも「すぐ解散」だけはしないと主張してきたのに、総裁に当選するや否や、まだ総理大臣の指名さえもらってないのに、9月末日の時点で「すぐ解散」を言い始めた。この時点で、「この人は絶対に信用できない」という深い印象を持った。主義主張の問題以前に、人間として信用できない総理を、国民の誰が喜ぶのかということだ。総裁選の時には、あれだけ激しく「アジア版NATO」を主張して「私は防衛が分かっているんだ」という「軍事オタク」の側面を誇らしげに誇張しておきながら、総理になった瞬間に「アジア版NATO」を引っ込め、「そんなこと言いましたか」とばかりに平然としている節操のなさ。「アジア版NATO」は究極の対中包囲網で、しかも非現実的な机上の空論に過ぎない。いかにも現在の安全保障状況の国際情勢を知らない素人が妄想するような代物だ。それでいて10月20日のコラム<犯人は日本の外相か? 日中首脳会談「石破発言」隠し>(※8)に書いたような小汚い細工をする。「中国とともに闘う」ことと「アジア版NATO」精神は完全に矛盾するからだ。石破茂氏が首相になり「すぐさま解散」をしたことによって、日本は国際社会で激しく信用を失ってしまった。そのことが日本の国益を甚だしく損ね、日本国民にも多大なマイナスの影響を与えることを肝に銘じてほしい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。2024年 衆議院選挙 投開票日から一夜 石破首相が会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=15704207535381446355(※3)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=11611148186993138506(※4)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=8768252961522500342(※5)https://world.huanqiu.com/article/4K1DYyEW5um(※6)https://www.nytimes.com/2024/10/26/world/asia/japan-election.html(※7)https://www.bbc.com/news/articles/c8xpev42g78o(※8)https://grici.or.jp/5699(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/72c9b7c934f84b60d34765fae102dc10842b389c <CS> 2024/10/29 10:27 GRICI 国家観なき日本の政治家は「対中カード」なし 遺憾砲では救えない【中国問題グローバル研究所】 *10:44JST 国家観なき日本の政治家は「対中カード」なし 遺憾砲では救えない【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。深センにある日本人学校児童が殺害されたり、中国に滞在中の日本人がスパイ容疑で逮捕されたりしたときに、日本政府はただ「甚だ遺憾だ」という遺憾砲を発するか、「毅然とした姿勢で!」といった精神論を発するだけで、実効のある手段を取ったことがない。それは中国に対する「カード(切り札)」を持っていないからだ。なぜカードを持てないかというと、敗戦後、GHQ(General Headquarters、連合国軍最高司令官総司令部)により徹底した贖罪意識を植え付けられ、ひたすらアメリカの顔色を伺うことに明け暮れる一方、中国に対しても「悪いのは日本でございます」という姿勢を取ってきたからだ。その結果、日本国はどうあるべきかという理念のような独立国家としての「国家観」を持つことができず、政治家は選挙で自分が当選するか否かだけにしか関心を持たないという、劣化した民主主義選挙だけが蔓延している。◆「国家観」より「自分が当選できるか否か」だけが最大の関心事自民党は、長いこと自党が政権与党でいられるために、旧統一教会の組織的な支援や裏金問題など、さまざまな手段を取ってきた。そこにあるのは「ともかく当選したい」という各議員の私欲であり、公明党と連立を組んできたのも自民党が政権与党でいたいためだ。政権与党でいられるためには手段を選ばず、主義主張は右から左まで、ほとんど全て自民党内に揃っていて、二階俊博元自民党幹事長のような極端な親中派がいてもいいし、数多くの対中強硬派がいてもいい。かつて筆者は自民党機関誌「自由民主」で中国問題に関して論考を連載していたが、「習近平国家主席を国賓として日本に招くか否か」に関して、ほんの僅かでも批判的なことを書いた原稿を提出したときなど、「党内にはいろいろな考えを持った議員がおりますので」と却下された経験がある。自民党にとって、「何としても」という、党の共通項としての「国是」はなく、共通しているのは「何としても国会議員に当選すること」という我欲であることを痛感させられた。日本は民主主義国家のはずだから、選挙は国民の思いを反映したものでなければならないが、民意が選挙に反映されないのは、これまでは旧統一教会の組織票があったからで、最近では政治資金パーティなど、不正な裏金で「票を買う」ような事態が起きていたからだろう。中国の習近平政権の行動を、党内派閥闘争として批判する論者が日本には多いが、わが国の自民党内における派閥闘争ほど激しいものは滅多にない。アメリカのように民主党と共和党という別の党派間の闘争ならわかるが、日本の場合は、同じ自民党内の闘争なのだから、派閥は解消することにはなったものの、現在(少なくとも今月27日まで)の石破政権は元安倍派を排除する私怨が目的であったような状況だから、結局のところ党内派閥闘争でしかない。このような状況では、「国家観」を論じるような姿勢には至らないのも当然だろう。◆スパイ容疑で逮捕拘束されている日本人に無力な日本政府たとえば2023年4月3日のコラム<カードなしに拘束日本人解放を要求し、「脱中国化はしない」と誓った林外相>(※2)で書いたように、訪中した、当時の林芳正外相は旧友の王毅政治局委員(中国外交トップ)に会って嬉しくてならないという笑顔を振りまいただけで、同年の3月25日にアステラス製薬の駐在員が北京でスパイ容疑により拘束されたことに関して「交渉のカード」を持っていなかった。ただ口頭で「遺憾の意」を表しただけで、「解放しないのなら~~するぞ!」といった効果的なカードを見せることもなく、外交トップと会っているのに、この上なく嬉しそうな顔をしているのを台湾のメディア「中天新聞」(※3)が皮肉たっぷりに紹介しているほどだ。◆中国の反日教育の実態を知らなすぎる日本筆者は1980年初頭から中国人留学生の世話をしてきたが、当時の留学生は「戦後30年ほどしか経っていない日本が、中国と比べて天と地の開きがあるような凄まじい発展を遂げていること」に仰天し、日本に憧れ、日本を敬い、日本を礼賛するばかりだった。日本がかつて「中国を侵略したこと」などおくびにも出さず、反日感情は完全にゼロだった。それが変化し始めたのは2000年に近くなったころだ。生まれた時から日本アニメに染まった日本アニメ大好きな若者が成人して日本の大学や大学院に留学してくる頃になると、突然「反日感情」が併存し始めていることに気が付いた。1994年から、愛国主義教育の名のもとに江沢民による「反日教育」が始まったからだ。日本アニメ大好きな若者たちを筆者は「中国動漫新人類」と名付け同名の書籍も出版しているが、80年代初期に日本に殺到した中国人留学生や就学生と違って、2000年前後以降の中国人留学生たちは日本語も流暢で金持ちで、アニメや漫画以外では日本を尊敬しておらず、上から目線でかつての「日本の侵略戦争」に対する悪感情を併存させていた。このような状況を招いた主たる原因は、江沢民の実父が日中戦争時代、日本の傀儡政権であった汪兆銘政権の官吏だったことを隠すためという狡い戦略にあったが、中国を不遜にさせ、上から目線で日本を見るような若者を作った原因の一つは日本にあると言っても過言ではない。1989年6月4日の天安門事件で中国共産党による一党支配体制が崩壊したかもしれないのに、愚かな自民党政権は「トウ小平を孤立させてはならない」という考えから天安門事件に対する対中経済封鎖をイの一番に解除させた。それにより多くの外資が中国の市場を求めて殺到するという状況を招いたのだ。そして中国が経済成長するきっかけを作ってあげたのである。天安門事件により中共中央総書記になった江沢民は1992年に訪日し、「天皇陛下訪中を実現させたら、中国は絶対に歴史問題に関して日本を責めない」と誓いながら、1992年10月に史上初の天皇陛下訪中が実現すると、江沢民はすぐさま前言を翻して1994年から愛国主義教育の名のもとの反日教育を始めた。そのため1980年以降に生まれた中国動漫新人類は、反日教育の洗礼を受けているため、80年代初頭の中国人留学生には皆無だった反日感情を持っているという皮肉な現状がある。反日教育の環境下では、反日ものの映画やドラマならすぐに許可が下りたので、90年代半ばから反日ものの映画やドラマが急増し、それがネット時代に入って動画配信のビジネスへと転換していった。靖国神社石柱への落書きはその流れの一環で、反日は今やビジネスになっているほどなので、「反日無罪」が中国社会の軸にある。2012年9月、日中国交正常化後、前例がないほど激しく燃え上がった反日暴動の中で誕生した習近平政権(同年11月)は、その流れに逆らうことができず、「日中戦争中に最も勇敢に日本軍と戦ったのは中国共産党軍だ」という偽物語をでっちあげ、その結果、反日教育に力を入れざるを得ない政策を推進してきた。この現実を大所高所から認識し、独立した主権国家としての「国家観」を日本は持たなければならないが、それどころではない。どうやれば自分が国会議員として生き残れるかしか考えていない。「国家観」どころの騒ぎではない。中国に対して「カード」が切れるような、大所高所からの戦略が出てくる状況にはないのである。こんな日本では、国民は尊厳を以て生きていくことはできないし、安全に生活していくこともできないだろう。これらの詳細は11月1日出版の『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』で述べた。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※4)より転載しました。国会議事堂(写真:つのだよしお/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4201(※3)https://www.youtube.com/watch?v=a7tHLI6f7eY(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5b7f0bdf76cff0effdfbbd48241bfd8f51e6684a <CS> 2024/10/25 10:44 GRICI 対中包囲網・石破案「アジア版NATO」をASEAN諸国がどう見たかを中国が分析【中国問題グローバル研究所】 *16:01JST 対中包囲網・石破案「アジア版NATO」をASEAN諸国がどう見たかを中国が分析【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」や青年版「中国青年報」が一斉に「アジア版NATO」に対するASEAN諸国の反応を報道した。石破・李強会談を経て、自信を強めたという勢いが読み取れる。二紙の考察と中国ネット民の雑感を紹介する。◆環球時報社評:「アジア版NATO」がASEANで壁にぶつかった事実は何を物語るのか?10月12日、環球時報は<“亚洲版北约”在东盟碰壁说明什么>(「アジア版NATO」がASEANで壁にぶつかった事実は何を物語るのか)(※2)という見出しで社評を発表している。かなり長いので、概略を個条書き的に拾うと以下のようになる。●10日に開催された第27回中国・ASEAN(10+1)首脳会議では、中国・ASEAN自由貿易地域バージョン3.0の格上げ交渉が実質的に妥結したことを発表した。 これは、中国とASEANが共同で東アジアの経済統合を主導する大きな動きであり、多国間主義と自由貿易を支持する双方の明確な態度を示し、安定・協力・発展の追求こそが中国・ASEAN地域の揺るぎない主流であることを改めて証明した。●ハイレベル会合の前に、米国、日本などはブロック対立と地政学的対立を会議に持ち込む準備をしていたようだが、会議は明らかに冷たい壁でそれを阻んだ。特に、日本の石破茂新首相が提唱したいわゆる「アジア版NATO」は、域内で強い抵抗に遭っている。●マレーシアのハッサン外相は、「ASEANにNATOは必要ない」と単刀直入に述べた。インドネシアの英字新聞ジャカルタ・ポストは、「アジア版NATO」は中国に対抗することを狙っており、ASEAN10カ国にとって「極めて攻撃的」であると警告した。●この大きな反発により、石破茂は会議で「アジア版NATO」に言及するという考えを断念せざるを得なくなったが、これは何を物語っているのだろうか。1.NATOや米国の一部の同盟国が自分たちに満足しているのとは異なり、それ以外の多くの国々の目には、ただ単に「紛争と戦争のメーカー」としてのイメージを強化ただけだ。特にASEAN諸国の世論から判断すると、NATOに対する嫌悪感と反感には言葉では言い表せないほど激しいものがある。2.この地域の国々は、NATOモデルをアジア太平洋地域に持ち込むことに反対するだけでなく、NATOに代表される冷戦精神やブロック対立をアジア太平洋地域に持ち込むことにも反対し、中国を地政学的紛争の「仮想敵」とすることに反対している。3.NATOの哲学は、アジア諸国のそれとは大きく異なる。NATOは西側陣営が支配する軍事同盟であり、アジア諸国は独立に焦点を当てている。NATOの目的は、軍事力によるいわゆる「抑止と防衛」を促進することだが、ほとんどのアジア諸国は平和を重んじ、開発を優先することに同意している。4.NATOは外国の干渉に取り憑かれ、しばしば他国の主権と人権を踏みにじる一方で、多くのアジア諸国は近代において植民地化され侵略されるという悲劇的な経験をしており、地域諸国は外部からの干渉を心から深く嫌悪し平和共存を望んでいる。5.NATOは、その存在を永続させるために共通の「敵」の確立に依存しており、昔は「ソ連」で現在は「ロシア」だ(アメリカは一極支配を維持するために「共通の敵」がいないと困る)。6.アジアではそのような脅威は存在せず、「共通の敵」を中国に向ける試みは成功しない。中国は15年連続でASEANの最大の貿易相手国であり、ASEANも4年間中国の最大の貿易相手国であり続けている。7.中国とASEANはRCEPを完全かつ高品質で実施し、中国・ラオス鉄道とジャカルタ・バンドン高速鉄道は一帯一路構想の名刺となり、デジタル経済やグリーン経済などの新興産業での協力が強力な推進力を与えている。●シンガポールのYusof Ishak研究所の東南アジア研究センターが4月に発表した調査によると、ASEAN諸国は米国よりも中国に対して良い評価を与えている。日経アジアンレビューも、フィリピンでさえ、オブザーバーが「アジア版NATO」という考えを非現実的と見なしていることを認めている。一部の欧米メディアさえ「アジア版NATO」が適切だとは思っていない。●石破首相本人はASEANでの李強首相との会談で、日中関係の着実かつ長期的な発展を促進することへの希望を表明している。(以上、環球時報社評より)環球時評社評の中で、最も注目を引いたのは「多くのアジア諸国は近代において植民地化され侵略されるという悲劇的な経験をしており、地域諸国は外部からの干渉を心から深く嫌悪し平和共存を望んでいる」という文言だった。岸田政権の時もバイデン大統領の言いなりになって、西側の現存のNATOの「アジア化」を形成しようと岸田元首相は努力したが、環球時報に書いてあるこの現実を日本はあまりに認識していない。環球時報の社評に対する判断に関しては、ここでは言及しないが、少なくとも、この現実だけは深く認識すべきだと思う。◆中国青年報:インドネシアが「アジア版NATO」を弄ぶなと石破に警告10月11日、中国青年報は<インドネシアのメディアが「アジア版NATO」を弄ぶなと石破に警告>(※3)という見出しで、おおむね以下のような内容の報道をした。●石破茂首相は日本政界の「古き顔(老面孔)」としてASEANで外交デビューした。しかし彼が到着する前に、インドネシアのジャカルタ・ポストから「アジア版NATO」に対する単刀直入の警告を受けた。●ジャカルタ・ポスト紙によると、中国、米国、EU、日本はASEANの貿易相手国であるものの、2020年以降、ASEANの最大貿易相手国は中国であり続けている。ASEAN諸国にとって、日本やその同盟国が「ASEANはインド太平洋地域の中心だ」と主張して「密かにASEANをまとめて中国に立ち向かわえようとしているもくろみ」は、まったく非現実的であり、到底受け入れられるべきものではない。ASEANは、日本が地域の緊張を悪化させるだけの「軍事同盟国」ではなく、信頼できる貿易・経済パートナーになることを望んでいる。●日本の経済力が衰退し、ASEANの力が大きくなる中で、石破茂は今でもまだ「日本はASEAN諸国のリーダーを引きつけるほどの影響力を持っている」という幻想を抱いているのだろうか。日本政界の「古き顔」は、世界情勢の事実認識に関しても「古き視点」しか持ってないのかもしれない。(以上、中国青年報から抜粋)◆中国ネット民:石破茂は総理になって初めて世界の現実を知ったのではないか?中国のネットでは「日媒称」(日本メディアによれば)とか 「美媒称」(アメリカメディアによれば)という書き出しで、実に多くの情報が即時的に中国語に訳されて報道されている。中国のネット民はそれらを熱心に読んでいる者が多いので、実に当意即妙を得た反応が数多く見られる。それらを列挙するのは至難の業だが、「中国青年報」で取り扱っているようなテーマに関する書き込みを拾い上げると、たとえば以下のようなものがある。●石破茂は自民党で長い間「干されていた」ので、現在進行形の世界情勢を認識する力がないんじゃないの?●日本の政治評論家が石破内閣を「在庫一掃内閣」と評していたけど、あれって、おもしろいよね。今まで主流派から外されていた人たちをかき集めたんだろ?●石破茂は「防衛問題オタク」って言われているようだけど、家の中で組み立てたプラモデルで構築した「アジア版NATO」は、机上の空論だったってことが、総理になって初めて分かったんじゃいの?●そうじゃないと、自民党総裁選の選挙運動の時にあれだけ主張しておきながら、総理になったとたんに引っ込めるって、おかしいだろ?●西側式の民主主義って、ほんとにいいのかね?選挙公約は当選した瞬間に捨てていいんだったら、選挙なんかする必要ないじゃない?●中国式民主主義の方がよっぽどいいよ。選挙のたびに方針を変える必要がないから、国家戦略を貫くことができて、結局、新産業技術においても西側式民主主義国家を超えている。●日本みたいに自民党政権がずーっと継続している国って、ほんとに「西側式民主主義国家」なんだろうか?アメリカはまだ二大政党が常に拮抗して争っているけど、それでも選挙のために国力を使い果たして、どんどん衰退していってる側面があるじゃない?日本はほぼ自民党による一党支配だから、もっと成長していいはずなのに、結局「自分が当選したい!」という欲望に駆られた議員ばかりだから、当選するための裏金問題とか内部の派閥争いで腐っていって、経済も新産業技術も立ち遅れていくばかりだよね。●そんな日本がアジアをリードして「軍事同盟」を作って中国やロシアや北朝鮮を包囲していくって、なに考えてるの?バカじゃない?●いや、だからさ、石破は総理になって、初めて少しだけ「現実」を知り始めたんだよ。初めて現在進行形の国際情勢が見えたんじゃないの?だから李強との会談で、「田中角栄の日中共同声明の立場を堅持する」って誓ったんじゃないの?●そんなに「揺れ動いてばかりいて」、それで一国の総理が務まるのかな?●そうだね。でも、石破を選んだのは現場にいたはずの政権与党の自民党だろ?「現実」を知っていたはずじゃないの?西側式民主主義って何?・・・・・・以上、中国のネットから適宜、興味深いものを選んでみた。表現は、無数にある書き込みや民間ウェブサイトの主張などを、平均的にまとめたものである。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※4)より転載しました。就任会見の時の石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/watch?v=SfJcXh0qm3o(※3)https://news.qq.com/rain/a/20241011A018LH00(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/dd6c42371c1e358a5988a60d48fd11e8508a1202 <CS> 2024/10/15 16:01 GRICI 中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:55JST 中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆台湾メディア:石破茂が李強に「中日共同声明を堅持する」と叫んだのは日台関係に危機をもたらす10月11日、台湾の「中時新聞網」は<石破茂は李強に中日共同声明を堅持すると叫んだ 対日関係は危険になったか?>(※2)という見出しで、石破首相の「日中共同声明堅持」発言を問題視している。それによれば、民進党の元立法委員の沈福雄氏が石破発言に関して以下のように述べているとのこと。●石破茂が内閣を組閣した後、日中関係は悪化するのではなく、良くなる方向に動くだろう。●何と言っても李強との会談で台湾問題について石破は「中日共同声明を堅持する立場は変えていない」と明言したのだから。それは「一つの中国」を遵守することであり、「台湾独立を認めない」と表明したということになる。●政治家は権力を握る前と握った後では、まったく違うことを言うこともあるが、石破茂の場合は掌(てのひら)返しがひどすぎる。沈福雄元立法委員が出演した番組は、国民党の副総統に立候補した趙少康氏(2023年11月26日のコラム<台湾総統選、国民党支持率急上昇の謎が解けた>(※3)にある写真を参照)が主宰する「少康戦情室」というテレビ番組である。その番組では出演者が、日本の自民党総裁選挙前に台湾を訪問し頼清徳総統とも会談して民進党を喜ばせたことを踏まえ、「石破茂に期待を寄せた民進党を非常に失望させている」と述べている。◆中文圏のネット民に広がる石破首相への不信感中国大陸および大陸以外の中文圏のネット民の間では「石破茂への不信感」が広まっている。たとえば台湾関係では、以下のようなものがある。●自民党総裁選の前に台湾を訪問して頼清徳にまで会ったのは、「選挙活動」のために決まってるじゃないか。親中だと当選しないから、台湾を訪問して反中の姿勢を見せただけさ。●それでいて李強に会った瞬間にコロリと態度を変えて「台湾独立反対」を表明するために田中角栄を持ち出して「中日共同声明を堅持する」って言って見せるんだから、石破の言うことなんか、何も信じない方がいいよ。●「中日共同声明を堅持する」と李強に誓って見せることは、きっと早くから決まっていたんだぜ。だって、その埋め合わせをするために10月10日には山東昭子が引率する「日本の国会議員団」を祝賀のための台湾に派遣してるじゃないか。(筆者注:台湾の総統府のウェブサイト(※4)によれば、10月10日、自民党の元参議院議長を務めた山東昭子氏が「国会議員祝賀団」を引き連れて台湾を訪問し、午後頼清徳総統と会ったようだが、そのホームページには「日本の石破首相の指導の下」と書いてある。双方に良い顔をしようとして双方からの信用を失っている。)●そもそも日本の総理になったらすぐには議会解散をしないと選挙期間中にあれだけ言っていながら、その舌の根も乾かぬうちに回線宣言をしてしまったんだから、石破が何を言おうと、信頼などしちゃいけないよ。◆馬英九元総統が頼清徳の「新二国論」を批判10月10日、馬英九は双十節祝賀式典を欠席しただけでなく、<新二国論は違憲だ>とも述べている(※5)。報道によれば馬英九は「新二国論は違憲であるだけでなく、台湾の民衆を危険な境遇へと道連れしていく」と警告し、以下のように主張しているとのことだ。●中華民国の現行憲法によれば、台湾と本土は2つの国ではなく2つの地域であり、互いに平和的に共存できる。頼清徳の主張は憲法に違反しており、「新二国論」を提唱し、台湾海峡に緊張をもたらしたことで、世界は頼清徳を「トラブルメーカー」だと深刻に懸念している。●頼清徳路線を疑問視する多くの国際的な声があり、その中には頼清徳を「蔡英文前総統よりも挑発的だ」と批判するアメリカの「ワシントン・ポスト」や、ベルギーの首都ブリュッセルに拠点を置く世界的に有名な国際NGOもまた、「頼清徳は憲法や両岸人民関係条例に基づいて両岸問題を解決すべきで、挑発的な言葉を避けるべきだ」と、最近出した報告書で勧告している。●頼清徳は一刻も早く冷静になり、崖っぷちから引き返し、全台湾人民の幸福を第一に考え、不条理で違憲の「新二国論」を放棄し、台湾人民全員を危険にさらすのをやめるべきだ。(報道からの引用は以上)石破首相が李強首相との対談で、台湾問題について「日中共同声明の立場を堅持する」と明言したことを公開しなかったのは、日本のメディアだけのようだ。筆者が書かなかったら、日本は「そんなことはありませんでした」のままスルーするつもりだったのだろうか。筆者がいなくなった後は、誰が真相を明かす役割を果たしてくれるのだろうかと、肌寒く思う。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※6)より転載しました。「双十節」式典で演説する台湾の頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.chinatimes.com/cn/realtimenews/20241011005009-260407?chdtv(※3)https://grici.or.jp/4850(※4)https://www.president.gov.tw/NEWS/28776(※5)https://www.zaobao.com.sg/realtime/china/story20241010-5015085(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9c369c86038e2dc965dbde9d8b163fdb596830fe <CS> 2024/10/15 10:55 GRICI 中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:54JST 中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。台湾の頼清徳総統は10月10日の「双十節」(建国記念日)式典演説で「中国には台湾を代表する権利はない」などと表明した。中国(大陸)はこれを「新二国論」として激しい抗議を展開している。台湾内でも国民党の馬英九元総統は事前に公表されていた頼清徳総統の主張に反対し、建国記念日祭典の出席を拒絶した。そのような中、石破首相が李強首相との会談で「台湾問題は日中共同声明を堅持」(=独立反対)と明言したことが台湾で「日台関係に危機をもたらす」と危険視されている。中文圏のネット民の間には「石破茂に対する不信感」広がっている。◆双十節における頼清徳総統の演説1911年10月10日に辛亥革命が勃発し1912年1月1日に「中華民国」が誕生するが、台湾はこの辛亥革命勃発の日を今も「中華民国」の建国記念日として祝賀する。「10」が二つあることから「双十節」とも呼ぶ。今年、113回目の「双十節」式典において、頼清徳総統が総統就任後初めての「双十節」演説(※2)で、「中華人民共和国(中国)には台湾を代表する権利はない」と表明した。それ以外にも両岸関係(中台関係)に関して概ね以下のような発言をしている。●中華民国はかつて国際社会から追放されたが、台湾国民は一度も自国を放棄したことはない。●現在、中華民国は台湾本島・澎湖島・金門馬祖に根を下ろしており、中華人民共和国には属しておらず、この地では民主主義と自由が栄えている。●台湾は国家主権を堅持しており、中国による侵犯と併合を許さない。(以上)頼清徳総統は10月5日に開催された「双十節」記念ベントでも「中華人民共和国は中華民国の祖国になり得ない」と述べており、その理由として「中華人民共和国は10月1日に75歳の誕生日を迎えたばかりだが、数日後に中華民国は113歳の誕生日を迎える」ことを挙げた。すなわち、中華人民共和国の方が若いのだから、「祖国」と言うのなら、「中華人民共和国の祖国が中華民国」と言えると皮肉ったわけだ。そうでなくとも頼清徳総統は今年5月の就任演説で、「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と述べている。したがって「双十節」式典で、頼清徳総統が何を言うかは事前にわかっていたので、台湾の国民党の馬英九元総統は、抗議を表明するために当日になって式典の出席を拒絶した。◆激しく燃え上がる中国大陸における頼清徳「新二国論」への批判10月10日、中国のありとあらゆる報道機関は「頼清徳双十講和」に対する激しい批判報道を展開した。国務院台湾事務弁公室(国台弁)は<頼清徳の“双十”講和は両岸の緊張を高め台湾海峡の平和と安定を激しく破壊する>(※3)という見出しで、双十講和を激しく批判した。批判概要は主として以下のようなものである。●頼清徳は講和の中で「互いに隷属しない」という「新二国論」を提唱し続け、「台湾独立」の誤謬を編み出し、分離主義的な見解を広め、海峡両岸間の敵意と対立を扇動した。これは、頼清徳が頑固に「台湾独立」の立場を堅持し、対立的な思考に満ち、絶えず挑発し、両岸の緊張を故意に悪化させ、台湾海峡の平和と安定を深刻に損なっていることを十分に表している。●中華民族の偉大なる復興を実現することは、現代の中華民族の最大の夢であり、それは常に(台湾海峡)両岸の同胞の未来と運命に影響を与えるものである。1840年のアヘン戦争後、外国の侵略を打ち負かし、民族解放に努め、民族統一を実現するために、中国人民は次々と前進し闘ってきた。●台湾は古くから中国の神聖なる領土であり、近代には外国の侵略軍に侵略され占領されて、台湾の民衆は大きな苦しみを味わった。1945年、中国人民は抗日戦争で大勝利を収め、それに伴い台湾は失地を回復した。1949年以降、中国の内戦の継続と外部勢力の干渉により、海峡両岸は長期にわたる政治的対立の特殊な状態に陥ったが、台湾は常に中国の領土の一部分であり、台湾の同胞は常に中華民族の一員であり、中華人民共和国政府は常に台湾を含む中国全土を代表する唯一の正当な政府であり、中国は常にすべての中国人民の偉大な祖国であり、一つの中国の原則を堅持することは常に国際社会の普遍的なコンセンサスである。●頼清徳は故意に国を分裂させる根拠を寄せ集め、「台湾独立」の命題を強引に植え付け、「民主主義対権威主義」という古い概念をくり返し、「民主と自由」を装って「外国に頼って独立を謀り」、「武力による独立を求める」ことを続け、台湾を「台湾独立」という戦車に結びつけようと試みているた。●頼清徳が何と言おうと、台湾が中国の一部としての法的地位と、海峡両岸が一つの中国に属しているという事実と現状を変えることはできない。われわれには、祖国の完全な統一を実現する自信と能力がある。いかなる人も、いかなる勢力も、民族の復興と国家統一という歴史的な大勢を阻むことはできない。われわれは「一つの中国」原則と「92年コンセンサス」を堅持し、広範な台湾同胞大衆と団結し、「台湾独立」分裂主義行為と外国の干渉とたくらみに反対し、両岸交流と協力を積極的に推進し、両岸の統合と発展を引き続き深化させ、祖国の統一を断固として推進する。(国台弁の抗議概要は以上)同様の抗議を中央テレビ局CCTV(※4)も報道し、さらに数えきれないほどの特集番組を展開して、中国側に立つ海外の見識者や政治家の賛同なども報道した。見識者の多くは「1971年10月25日の国連総会において通過した【第2758号決議】を重視すべきで、中華人民共和国はその決議により『中国を代表する唯一の国家』として認められたのだから、それを覆さない限り中華民国を国家として認めるのは国連決議に違反する」と主張した。言うまでもなく、中国の外交部も10月10日の定例記者会見(※5)で頼清徳の講和を徹底して批判し、「いかなる事態になっても中国の意思は変わらない」と断言した。石破首相が中国の李強首相と会談したのは、まさにこの真っただ中だったので、10月11日のコラム<石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う>(※6)のような事態になったのは、中国としては、どんなに歓迎すべきことだったか、想像に難くない。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※7)より転載しました。「中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。「双十節」式典で演説する台湾の頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/watch?v=2J5Cz9tBzV4(※3)http://www.news.cn/tw/20241010/cfbabbb57f514762928ff3463d4a17af/c.html(※4)https://tv.cctv.com/2024/10/10/VIDELrcxu3PeuTEjRnv7EnQJ241010.shtml(※5)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/fyrbt_674889/202410/t20241010_11504884.shtml(※6)https://grici.or.jp/5675(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9c369c86038e2dc965dbde9d8b163fdb596830fe <CS> 2024/10/15 10:54 GRICI 石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う【中国問題グローバル研究所】 *10:23JST 石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。10月10日にラオスで中国の李強首相と会談した石破首相は、自分は田中角栄元首相の愛弟子だとして「日中友好」を重んじ、何よりも台湾に関して「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持する」と誓った。10月10日の台湾の頼清徳総統の「二国論」演説で激しい批判を展開している中国は、この一言さえ引き出せば、あとはどうでもいいのである。日本のメディアでは、石破首相が強硬な姿勢で日本側の要求を主張したと、一斉に石破首相の姿勢を礼賛しているようだが、中国側から見ると、まったく別の景色が見えてくる。◆日本メディア、一斉に石破首相の主張を礼賛いつものことではあるが、日本のメディアは日本側に都合のいいことだけしか報道しないので、どのメディアも多少の違いはあるものの、おおむね以下のような論調で石破・李強会談を報道している。●石破首相は、8月の中国軍機による日本の領空侵犯など中国軍の活動について深刻な懸念を表明した。●石破首相は、深圳市の日本人学校に通う男児が襲われて死亡した事件の事実解明や邦人保護の徹底を求めた。●石破首相は、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、中国が続けている日本産水産物の禁輸措置について協議した。●石破首相は、中国のネットにおける反日的なSNSの取り締まりを要求した。●一方、石破首相は、師と仰ぐ、日中国交正常化を実現させた田中角栄元首相の言葉を引用し、「日中両国の指導者が明日のために話し合うことが大事だ」と呼びかけ、戦略的互恵関係を続けたいと表明した。(日本メディア報道の例は以上)このように日本メディアは、あたかも「石破首相が勇ましく日本側の主張を中国側に突き付けた」というトーンで報道しており、最後の田中角栄元首相に触れた報道は少なかった。◆李強・石破会談に関する中国側の報道中国の外交部は10月10日夜9時31分、<李強は日本の首相石破茂と会見した>(※2)という見出しで、会見の模様を報道した。以下、中国側が発表した李強発言と石破発言の概略を示す。李強:習近平国家主席が(石破首相就任祝電で)指摘したように、中国と日本は一衣帯水の隣国であり、平和共存、永遠の友好、互恵協力の道を追求することが両国国民の基本的利益だ。日本が中日間の四つの政治文書の原則と合意を真摯に遵守し、二国間関係の正しい方向をしっかりと維持し、二国間関係の政治的基盤を維持し継続することを期待する。日本が、両国間の戦略的互恵関係を包括的に推進し、新たな時代の要請に応える建設的で安定した中日関係の構築に努めることを期待する。李強:中国と日本の発展はお互いにとって挑発ではなく重要な機会である。中国は日本と協力してそれぞれの比較優位性をさらに活用し、技術革新、デジタル経済、グリーン開発などの分野での協力のための新たな成長点をさらに模索し、輸出管理対話メカニズムをうまく活用し、産業サプライチェーンの安定性と円滑性、および世界的な貿易システムの維持に取り組んでいきたい。また共同で地域の平和と繁栄発展を促進していきたい。石破:日中両国は現在、戦略的互恵関係を包括的に推進し、建設的で安定した二国間関係の構築に努める方向で進んでいる。日本は中国と協力して将来を見据え、ハイレベル交流を強化し、あらゆるレベルでの対話と意思疎通を密接に行い、協議を通じて懸案問題を解決し、互恵協力を引き続き推進し、日中関係を安定的かつ長期的に促進していきたいと望んでいる。日本は中国との「ディカップリング(切り離し)や関係の断絶」をするつもりは全くなく、各領域における実務協力を深め、その成果が両国のより多くの国民に利益をもたらすよう希望している。台湾問題については、日本は≪日中共同声明≫で定められた立場を堅持しており、変更する意思は全くない。日本は国際問題や地域問題について中国との意思疎通を強化し、課題に対処していきたいと考えている。(以上)このように中国側から見れば、石破首相は模範的な表明をしていることになる。「≪日中共同声明≫で定められた立場を堅持する」ということはすなわち、「一つの中国」を堅持し、「台湾独立を絶対に認めない」ということに相当する。もちろん日本側は石破首相が、中国が喜ぶ満額回答をしていることは一切報じないが、中国の外交部は、少なくとも石破首相が言っていないことを発表したりするようなことはしない。そのようなことをしたら、たちどころに日本側からクレームが来るのを知っているからだ。日本の外務省あるいは駐中国の日本大使館などが異議を表明してないということは,石破首相はまちがいなく中国外交部が発表した言葉を言っているということになる。◆中国にとってはコントロールしやすい石破内閣中国にとっては、総理になったら靖国神社を参拝すると公言した高市早苗議員が総理にならなかっただけでも歓迎すべきことだと思っている。懸念は石破氏が自民党総裁選前に台湾を訪問していたことだったが、このたびの李強との会談で、「台湾独立は支援しません」と誓ったようなものだから、これで、その懸念材料はほぼなくなった。中国にとって石破茂個人に関する懸念は、内閣を組むまではさまざまあったが、その後に発表された石破内閣のメンバーを見て、「おおかた親華(親中)」とみなしており、御しやすいとみなしていた。加えて今般、台湾問題について、田中角栄の名前まで出して、日中国交正常化の時の基本方針を堅持すると誓ったのだから、もう何の心配もない。石破氏が総理になる前から唱えてきた「アジア版NATO」は、総理大臣所信表明で自ら封印してしまったし、アジアのどの国が日本ごときと軍事同盟を組む可能性があるかと、中国は石破の国際感覚を、今ではバカにしている。中国政府自身はそのようなことは言わないが、中国のネットに湧き出ている声を削除していないので、中国政府もネットの声に肯定的だということが窺(うかが)える。総体的に見て、「石破には現在進行している国際的時局を見る目が皆無だ」と思っているので、台湾問題に関して田中角栄が発表した「日中共同声明」を模範とすると誓ってくれれば、それ以外のことはどうでもいいのである。中国は今、同じ10月10日に台湾の頼清徳総統が講演で表明した「二国論」への批判に燃え上がっており、他のことにはほぼ無関心だ。頼清徳発言と、石破首相外交デビューのASEAN諸国にとってのアジア版NATOに関しては、別途改めて論じたいと思う。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※3)より転載しました。写真: 出典:新華社(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202410/t20241010_11505060.shtml(※3)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7c87345f7a3b948525d9c7db095e064a49055446 <CS> 2024/10/15 10:23 GRICI 中国は石破首相をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】 *10:24JST 中国は石破首相をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平国家主席が石破首相に祝電を送ったのは毎回のことなので特記するほどのことではない。中国政府側メディアは内政干渉になるとして評価はしないが抗議はする。それらを含めて中国が全体として石破首相の誕生をどう思っているかに関して考察を試みる。◆習近平国家主席の石破首相に対する祝電10月1日、習近平国家主席は石破茂首相に祝電を送り(※2)、日中は一衣帯水の隣国であると指摘した上で、「両国が平和共存、永遠の友好、互恵協力、共同発展の道を歩むことは、両国国民の基本的利益にかなう」と述べた。また「日中間の4つの政治原則と合意を遵守し、両国間の戦略的互恵関係を包括的に推進し、新時代の要求に沿った建設的で安定的な日中関係を構築することに尽力することを期待する」とも表明している。岸田(元)首相就任の際も、それ以前の日本の首相が就任した際にも送っている祝電で、目新しいことではない。李強国務院総理も同日、石破首相に祝電を送っている。中国は全ての国に対して、同様のことをしている。以下に示すのは、主として民間のウェブサイトに見られる膨大な情報の中から抽出した主だった見解である。◆「タカ派の高市氏でなく、親中の石破氏で良かった」と中国のネット民石破茂氏は中国では「親華派」(親中派)と見られることが多い。自民党議員でありながら常に自民党に反旗を翻してきたからだ。特に麻生氏や安倍元総理に対しては「背後から刺す」行動を取ることが多かったので、麻生氏や安倍氏を「アメリカ追従の軍国主義者」と見ている中国では、石破氏は「最終的には中国の味方」的な感覚を、全体としてフワーっと持っている。一方、高市早苗氏は、根っからの強烈な右翼だと見ている中国のネット民は多く、特に今般の自民党総裁選挙運動のときに「総裁に就任したら(→総理に就任したら)、靖国神社に参拝する」と明言したので、「どんなことがあっても高市氏には総理になってほしくない」という書き込みが中国のネットで数多く見られた。だから、そのような人物を総裁に選ばなかった自民党は、全体としてはやはり「親中」に傾いていると安堵しているという側面がある。この一連の情報の中で「おや?」と興味を引いたのは以下のような見解だった。●なんで石破が日本国民に人気があったか、ようやくわかったよ。日本国民は自民党にしか任せられないと思っているのが多いだろ?でもその自民党に不満を持っている。だから、野党ではないけど、自民党に弓を引く石破が人気だったのかもね。●でもさ、総理になったら結局「古い自民党」に戻っただけだろ?だから総理になったとたん、「嘘つき内閣」って呼ばれて、今は日本国民に嫌われてるようだよ。支持率だって、歴代総理の中で下から二番目の支持率の低さ。一番低いのが麻生総理で、その次に低いのが石破だよ。短命政権に終わるんじゃない?(中国のネットからの引用はここまで)ここに挙げた中国ネット民の最後の主張は、その通りだと思う。総裁選の選挙期間中は、あれだけ「すぐ解散」には反対だという趣旨のことを、さまざまな表現を使って主張してきたではないか。小泉進次郎氏が主張する「すぐ解散」を何度も否定し、「せめて予算委員会を開催したあとでないと、国民には自民党が何を主張しているかを理解してもらうのは困難だ」と言いながら、小泉氏の主張した通りのことをやっているではないか。日本国民が石破内閣を「嘘つき内閣」と呼ぶのは当然だと思う。当選した瞬間に、ここまで前言を翻(ひるがえ)す総理は見たことがない。何一つ信用できない。個人的感想は控えなければならないが、しかし、こればかりは言わずにはいられないので、お許し願いたい。◆「石破は総裁選の前に台湾を訪問していることに警戒せよ」と中国のネット民さて、中国側の見方の話に戻る。「石破は親中」と書いているネット民に対して、一方では「何を単純なことを言っているんだ」という他のネット民の反論も数多く見受けられる。理由の一つとして、石破氏ら日本の国会議員団が8月に台湾を訪問し、石破氏が8月13日に頼清徳総統と会談したことを挙げている。これに関してはネット民だけでなく、中国大陸の外交部など、中国政府は、「台湾独立派を激励するもの」として激しく抗議を表明している。その意見に賛同するネット民は、「総裁選のための人気取りに決まってるじゃないか」というのが多く、「日本では台湾を支援していない政治家は生きていけないんじゃないか?」という類のもある。◆アジア版NATOには中国全体が反対岸田元総理は、バイデンべったりだったので、バイデンのご機嫌に沿うためにも「(西側の)NATOのアジア化」に専心した。中国はもちろん激しく抗議してきた。今回、石破氏が唱えるのは「アジア版NATO」で、少しニュアンスが異なる。日米同盟は重視するものの、日米地位協定などを改正して「日米が対等」になる形に持っていき、むしろ日本が中心になって周辺諸国に呼び掛けてアジア版の軍事同盟的なものを形成していこうというのが石破氏の主張だ。これに関してはアメリカも肯定的でない。中国政府は言うまでもなく「アジア版NATO」には絶対に反対で激しい抗議を示している。そもそもASEAN諸国などが、こういった形で白黒つけて米中のどちら側に立つかを示すことを最も嫌がっているのに、それをやろうというのだから、日本人から見ても非現実的だ。結果、中国全体としては石破政権がこのまま進むことに対して喜んではいない。しかし高市氏なら総理になったとたんに靖国神社に参拝するだろうから、それよりは「まだマシか」というのが中国全体の見方だ。いずれにしても、自民党である限り、誰がトップに立とうと大差ないと中国は思っている。◆総理になって3日目に検挙?10月3日、中国大陸のネットを見ていて驚いた。いきなりスクープのように、次から次へと「石破氏、総理になって3日目に検挙?」という文字が躍った。その一つ一つをリンクさせるのは大変なので、関連情報をひとまとめにしたリンク先を示す(※3)。興味のある方は、リンク先をご覧いただきたい。日本ではニュースになっていなかったので、驚いて日本のネットに戻ってみたところ、共同通信が<石破首相らを大学教授が告発 収支報告書に過少記載の容疑>(※4)と書いているのを知った。「告発」を「検挙」と表現していただけのようだ。それにしても「裏金議員」を自民党公認候補に入れるか否かを議論しているときに、石破氏自身が金額は少なくても「収支報告書に過少記載」があるのでは話にならないだろう。このニュースを、こんな凄いスピードの速報の形で伝えている中国は、石破政権が短命で終わることを望んでいるのかと、そのことが興味深かった。◆高市氏はなぜ逆転されたのか?もちろん投票前に「総理になったら靖国神社に参拝する」と公言してしまったことが、心の中では親中派の多い自民党議員に警戒心を招いただろうし、公明党との連立が困難になるだろうから、解散選挙などがあったときに自民党が勝てない(=自分が当選できない)かもしれないと懸念した議員が多かったのだろうということは容易に想像がつく。また日本政治の専門家たちが指摘しておられるように、万一にも決選投票に持ち込まれた時には「〇〇に乗れ」といったキングメーカーの指示もあったのかもしれない。ただ、筆者自身の感覚から言うと、決選投票の直前までは高市氏が議員票においても石破氏を大きく引き離していたので、こういった説明には、なにか納得がいかないものを個人的には感じていた。筆者個人の少ない経験からすると、「3分間で答えてください」という要求をテレビやラジオあるいは講演などで要求された場合、「3分以内に回答する」ということを瞬時に計算して起承転結を構成することは、何としても守ってきた鉄則のようなものだった。総裁選の第1回目の投票が終わった後に、「5分間」、石破氏と高市氏にスピーチをすることが許された。「ここが勝負だ!高市さん、頑張れ!」と息をのむような緊張感の中で二人のスピーチを聴いた。石破氏の場合、いつもの陰湿で低い声の受け答えと違い、はっきりと大きな声で明確に「自分が総裁になったら何をする」ということを、起承転結を考えて5分以内言い切った。それに対して、期待した高市氏は、歴代の総理に感謝するという趣旨のことに時間を使い、「自分が総理になったら、必ずこうする!」という強いメッセージがないまま時間オーバーになってしまった。司会者から制限時間が過ぎたことを告げられた高市氏が最後に放ったひとことは「公明党との協力」だった。ああ、だめだ・・・。勝負があったな・・・。高市さんともあろう人が、あの人生の全てを懸けたはずの「5分間」を自ら殺してしまったのではないか・・・。敗北会見で高市氏は「私の力不足以外の何物でもない」という趣旨のことを仰っておられたように思うが、力不足は、あの最後の「5分間」だったように思う。自民党の中には右から左まで、どんな人でもいる。自民党機関誌で中国問題を長いこと連載させていただいたり、自民党本部で数多くの講演もさせていただいたが、もう自民党一党だけで日本の左翼も右翼も代表できるほど、非常に幅広く網羅していると痛感したものだ。それに比べて野党は、やたら細かな主張の違いにこだわって別の党を結成している。これでは野党は勝てない。自民党政治が長続きする裏には「旧統一教会」や裏金の「お陰」もあったかもしれないが、むしろ、この「政治的スタンス」に関する「幅の広さ」あるいは「寛容さ?」にあるのかもしれないと、つたない経験ながら思う次第だ。追記:念のため、習近平国家主席は2021年10月4日に、岸田首相が就任した時にも岸田首相宛に祝電を送っている(※5)。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※6)より転載しました。発足した石破内閣(写真: 代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202410/content_6978125.htm(※3)https://haokan.baidu.com/web/search/page?query=%E6%97%A5%E9%A6%96%E7%9B%B8%E7%9F%B3%E7%A0%B4%E8%8C%82%E7%AD%894%E4%BA%BA%E8%A2%AB%E6%A3%80%E4%B8%BE(※4)https://nordot.app/1214396377421972120?c=302675738515047521(※5)https://www.gov.cn/xinwen/2021-10/04/content_5640969.htm(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0d8816223d643edb438581aa8e97c5feee16ab3d <CS> 2024/10/07 10:24 GRICI 自民党総裁候補者に問う 「日本の官公庁のデータは中国人が作成している実態」をご存じか?【中国問題グローバル研究所】 *10:25JST 自民党総裁候補者に問う 「日本の官公庁のデータは中国人が作成している実態」をご存じか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。自民党総裁候補者が14日、日本記者クラブで討論会を開催。その質疑応答は見ごたえがあった。何名かの立候補者が対中防衛策やデータの絶対的機密性を必要とするマイナンバーなどの実行を強調しておられたが、「日本の官公庁のデータのほとんどは中国人が作成している実態」をご存じだろうか?防衛や経済安全保障は声高に叫ばれても、誰一人、それを実行するための膨大なデータ作成を誰がやっているかに関する認識はないように(あるいは知っていても見ぬふりをしているように)見受けられた。日本の官公庁のデータ作成に関する実態の一端を指摘し、各立候補者にネットを通して問いを投げかけたい。◆日本の全省庁統一資格が隠れ蓑周知のように日本のすべての官公庁には<全省庁統一資格>(※2)が設けられている。このリンク先に書いてある通り、全省庁統一資格とは「各省庁における物品の製造・販売等に係る一般競争(指名競争)の入札参加資格(全省庁統一資格)」のことだ。この資格は、各省庁申請受付窓口に掲げる申請場所のいずれか1か所に申請し、資格を付与された場合において、その資格は該当する競争参加地域のうち、希望する地域ごとに所在する各省庁の全調達機関において有効な入札参加資格となる。本資格が有効となる各省各庁は「衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院、内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、個人情報保護委員会、カジノ管理委員会、金融庁、消費者庁、こども家庭庁、デジタル庁、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省で外局及び附属機関その他の機関並びに地方支分部局」だ。競争参加地域及び都道府県名はリンク先に列挙してある通り、北は北海道から南は沖縄県までの日本全国を網羅する。入札して落札する可能性のある企業に対する<付与数値・等級等>(※2)を見る限り、日本の大手企業しか受注できないような仕組みになっている。ここが肝心だ。官公庁の業務を受注した日本の大手企業が、実際には何をやっているか、ご存じだろうか。この大手企業が隠れ蓑となり、実際のデータ作成業務は、中国大陸にある「小さな中国企業」あるいは「中国人個人」が実施している流れをご紹介する。◆「全省庁統一資格企業」→「日本の下請け子会社」→「中国人孫請け業務」たとえば日本政府の官公庁の中央が、入札する資格を持っている「全省庁統一資格企業」Aに100億円のプロジェクトXを発注したとする。データ作成やウェブサイトの作成や補修をする場合、ふつうならば、企業AがA社内に多くのIT人材を抱えていて忠実にプロジェクトXを実行しなければならないはずだ。ところが、日本には優秀なIT人材が少なく、A社内で実行することが困難と判断する「全省庁統一資格企業」が少なくない。実行できる人材を抱えていれば給料を支払わなければならないし、そのプロジェクトに専念していなければならないので、儲けが大きくはならない。そこで少なからぬ「全省庁統一資格企業」は官公庁から受注した業務を、「日本国内の下請け子会社」に委託する。その際、仮に受注金が100億円のケースでは、良くても数億円、極端な場合は1億円程度で下請けの子会社にやらせるのである。そうすれば企業Aはボロ儲けをし、社員などほとんどいなくても受注金をたっぷりA社で貯めこむことができる。A社から受注した「日本の下請け子会社」は、本来なら100億円ほどかかる業務を数億円か1億円程度でこなさなければならないので、普通に日本人のIT人材を雇用してプロジェクトXの業務を完遂することなどできるはずがない。そこで格安の報酬でも引き受けてくれる中国人IT人材を使用することになる。「日本国内にある下請け子会社」は、自社で中国人元留学生を雇用する場合もあれば、中国にいるIT人材に遠隔で依頼する場合もある。国家全体としてのGDPは2010年から中国が日本を上回り、中国は世界第二の経済大国になっているが、現状ではまだ平均的な給料からすれば、日本の方が中国よりはやや高いので、中国人IT人材は、今のところ静かにじっと耐え、日本の官公庁の個人データを黙々と入力し、日本の官公庁のウェブサイトを黙々と制作補修している。筆者自身は1980年初頭から中国人留学生の世話をし続け、それなりの人脈もまだいくつか残っているので、実際に日本の官公庁の業務を、薄給で日夜遂行している実態を知っている。悪いのは中国人IT人材ではない。悪いのは日本政府であり、この実態を(おそらく)薄々知りながら、徹底究明をしようとしない日本の国会議員たちだ。もちろん、最も悪質なのは受注した「全省庁統一資格企業」だが、その「闇のからくり」を知りながら目をつぶる政府与党国会議員の罪は計り知れなく重い。◆中国にマイナンバーと年金情報が「大量流出」していた!2023年7月26日、ジャーナリストでもあり作家でもある岩瀬達哉氏が、<中国にマイナンバーと年金情報が「大量流出」していた…厚労省が隠蔽し続ける「不祥事」の全容>(※4)という論考を発表しておられる。岩瀬氏は事件の概要を、以下のように書いておられる。《事件の概要》2017年の大幅な税制改正を受け日本年金機構は、厚生年金から所得税などを源泉徴収する「税額計算プログラム」を作成し直す必要があった。約770万人の厚生年金受給者に「扶養親族等申告書」を送付。記載内容に漏れや間違いがないかをチェックしてもらうとともに、あらたにマイナンバーや所得情報を記入し、送り返すよう要請。送り返されてきた「申告書」をデータ入力することでプログラム化をはかることとした。機構はその入力業務を、東京・池袋のデータ処理会社、SAY企画に委託したものの、同社が中国大連市のデータ処理会社に再委託したため、そこから日本の厚生年金受給者の個人情報が、中国のネット上に流出した。(以上、岩瀬氏の論考から引用)岩瀬氏は2023年7月28日にも<【追及スクープ】「500万人のマイナンバーと年収情報」を中国に丸投げした池袋の企業に支払われた「7100万円の報酬」>(※5)を公開しておられ、それらの論考を詳細にご覧になればわかるが、この問題は何度も国会で取り上げられている。約10日間にわたった衆参両院での集中審議を行ったようなので、国会議員で、この事件を知らない者がいるとは思いにくい。しかし岩瀬氏の記述によれば、「国会での虚偽答弁の連発」により、うやむやにされてしまい、まるでなかったかのようなことになっているようだ。岩瀬氏の論考には、以下のようなことが書いてある。――すべてのはじまりは、’17年12月31日の大晦日だった。この日、日本年金機構の「法令等違反通報窓口」に2通のメールが届いた。メールの中身は、「最近中国のデータ入力業界では大騒ぎになっております。『平成30年分 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書』の大量の個人情報が中国のネットで入力(ママ。公開のミスか?)されています。普通の人でも自由に見られています。一画面に受給者氏名、生年月日、電話番号、個人番号(マイナンバー)、配偶者氏名、生年月日、個人番号、配偶者の年間所得の見積額等の情報が自由に見られます。誰が担当しているかはわかりませんが、国民の大事な個人情報を流出し、自由に見られても良いものでしょうか? ネットからハードコピーを取りましたが、アップできませんでした。残念です。対策が必要と思います。宜しくお願い致します」というものだった。(岩瀬氏の論考の引用はここまで)これは過去のことでなく、日本の官公庁のデータ入力やウェブサイトの制作補修は、今この瞬間にも中国人IT人材が行っている。◆自民党総裁候補は自覚してほしい冒頭に書いた自民党総裁候補者が14日に日本記者クラブで行った討論会および質疑応答の中で、河野太郎候補をはじめ、少なからぬ候補者はマイナンバーの早期徹底化に関して強調しておられたが、筆者は裏の実態を知っているので、日本で最後の一人になってもマイナンバーの登録をする気はない。候補者の方々は、この現実をご存じなのか否か、ご存じでもスルーしているだけなのか、拙稿をご覧くださった関係記者の方たちには、ぜひ明らかにするように候補者の取材をお願いしたい。高市早苗候補の回答は見事だったが、しかし現役の経済安全保障大臣として、「全省庁統一資格企業」の一部が下請け子会社に業務を丸投げしている状況をご存じだろうか?子会社が「下請け」でしか生きていけない現状こそが「経済安全保障」に最も欠かせない課題で、そこが解決されない限り「孫請け中国人IT人材」の問題は日本から消えない。小林鷹之候補は「日本が世界をリードする国にならなければならない」として、「イノベーション」を例の一つに挙げておられたが、日本の知的水準が、世界レベルで見たときに、どれだけ低いかご存じだろうか。これに関しては一つのコラムでは書ききれないので、せめて6月21日のコラム<Natureの研究ランキング「トップ10」を中国がほぼ独占>(※6)に書いた事実を直視してほしい。1980年初頭から中国人留学生の教育に携わってきた筆者としては、最近の中国人人材の知的レベルの高さと、それに反比例するような日本人人材の低迷に当惑している。その原因がどこにあるのかを究明するために日々苦闘しているが、「孫請け中国人」が現れる原因の一つには、この問題もあることを見逃さないでほしい。言ってはならないことを書いてしまったが、真実を求める姿勢を崩すことはできないので、日本国民のために、あえて吐露した次第だ。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※7)より転載しました。自民党総裁候補者が討論会(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.p-portal.go.jp/pps-web-biz/geps-chotatujoho/resources/app/html/shikaku.html(※3)https://www.p-portal.go.jp/pps-web-biz/geps-chotatujoho/resources/app/pdf/bekki.pdf(※4)https://gendai.media/articles/-/112337(※5)https://gendai.media/articles/-/113087(※6)https://grici.or.jp/5381(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d3296f703edd924317ee43f8ccf6de55785cb0c4 <CS> 2024/09/17 10:25 GRICI NHK元中国人スタッフ自身が「何を考えていたか」を発信 「次の反乱」に無防備な日本【中国問題グローバル研究所】 *10:28JST NHK元中国人スタッフ自身が「何を考えていたか」を発信 「次の反乱」に無防備な日本【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月31日に靖国神社に落書きをした犯人は、「靖国神社を侮辱する動画を流せば人気が出て、再生数が多くなり金儲けができる」というのが動機だった。8月19日未明に同じ場所に落書きした模倣犯は「仲間に,カッコいいだろ!」と自慢したかったからだ。日本を最大限の形で侮辱したのは「英雄的行為だ」という認識を持っている。8月19日午後に、その模倣犯の犯行に関するニュースを報道していたNHKの中国人外部スタッフが原稿にない文言「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土」や「南京大虐殺を忘れるな」などと報道したあと中国に帰国し、中国のSNSの一つウェイボーで自分の思いを数多く発信している。そこには強烈な「反日感情」が滲み出ている。中国で「胡越」という名で特定され絶賛されている彼は、NHKで22年間も働いていた。それでもなお、帰国後の発信から見える「反日感情」は、日本にいる、第二、第三・・・の「胡越」、いや無限に潜んでいるかもしれない「次の胡越」の出現を示唆し、無防備な日本に背筋が寒くなる。◆帰国後のNHK中国人元スタッフの発信が示す「第二の胡越」の出現中国で明らかにされているNHKの中国人元外部スタッフの名前は「胡越」だ。8月31日のコラム<5月の靖国神社落書き犯は2015年から監獄にいた犯罪者 PartII―このままでは日本は犯罪者天国に>(※2)に書いたように、「胡越」は8月26日にウェイボーで「ゼロに戻った、帰ってきた」、「22年間、22秒間」、「全ては22秒間に濃縮した」と発信している。彼のウェイボーにおけるアカウントは「ジュゴtreetalk」(ジュゴは樹語の簡体字で、「雲南から発布」とあるので、帰国した先は雲南のようだ。8月29日になると「胡越」は「ジュゴtreetalk」で(※3)、「多くの網友(ネットにおける友人=応援してくれるネット民)に感謝する。心が温まる」と書き、「現在の日本のメディアは歴史の真実を隠蔽している」などと書いている。8月30日午前11時24分に「胡越」は「ジュゴtreetalk」で、(※4)「日本は上から下まで、隠そうとすればするほどボロが出るような喧騒と狂乱の中にあるが、それは想定内のことだ」と、まず書いている。ここで「胡越」が使った中国語は「欲盖弥彰」という4字熟語で、「悪事は隠そうとすればするほど露呈しやすい(隠すより現るるはなし)」という意味だ。この4字熟語を見たときに、2020年7月にヒューストンの中国総領事館が閉鎖された一件を想起させた。このときも中国の外交部は「做賊心虚、欲善弥彰」(※5)(アメリカは悪事の露見をおそれてビクビクしているんだろうが、それを隠そうとすればするほどボロが出る)という言葉を用いてアメリカを非難した(と、中央テレビ局CCTVが報道した)。「胡越」はジャーナリストなので、中国外交部の発言および中共中央宣伝部が管轄するCCTVの報道をしっかり把握していることだろう。だから敢(あ)えて、その中共中央と同じ言葉を使ったものと思う。ということは、同じ思想的立場にある人間がNHKの外部スタッフとして22年間も仕事をしてきたのかと、ふと、そのことに背筋の寒くなる思いがよぎった。「胡越」はさらに「(日本は)すでに歴史の真相に敵対する歴史修正主義という戻れない道を選んだのだから、公義(道義、正義)を主張する個人の声を圧殺するしかない。私が声を発するのでなかったとしても、声を発する他の人が必ず現れるだろう。事実は非常に簡単なことだ」と書いている。これはすなわち、「第二、第三の自分が必ず現れるだろう」ということを示唆したものであり、日本には「第二、第三の胡越」どころか、数えきれないほどの隊列が潜んでいると覚悟した方がいい。8月30日15時35分、「胡越」は「ジュゴtreetalk」で(※6)、以下のように「自分が原稿にない内容の報道をしたことの正当性」を主張している。###報道の操守(そうしゅ)(節操、規範。信念を固く守って心変わりしないこと)や職業倫理に違反するか否かに関しては、以下の点が参考になる:1) 生放送では、台本から脱線することはよくあることだ。番組によっては、脱線の自由度も自ずと違ってくる。台本から脱線することは、直接的にはニュース報道の操守に違反したことを意味するものではない。2)脱線した報道の内容こそがカギだ。契約書に放送内容に関する取り決めがあるだろうか?一般的な契約書には、公序良俗や社会正義などに違反してはならないという報道のガイドラインが引用される。この「22 秒間」をあなたは「違反」だと思うのだろうか?3)(契約者の)甲と乙の間で内容に異議がある場合、それは契約上の紛争であって、報道操守とはいかなる関係もない。原稿にない言葉を発するという原稿脱線は、報道操守と社会正義を守っている(その範囲内だ)という例は、どこにでもあることだ。###以上が「胡越」の意思表明だ。すなわち「胡越」は、あの「報道テロ」のような事件を、「合法的な行為」として正当化しているのである。NHKの稲葉会長は8月22日、「副会長をトップとする検討体制を設けて、可能な限り原因究明を行う」とした上で、今後「損害賠償請求を行い、刑事告訴を検討する」という趣旨のことを言っているが、そのためには「胡越」本人が日本にいなければならない。日中の間には「犯罪人引渡条約」がないからだ。だというのに、追及を可能にする実働的な措置を何も取っていない。本気で原因究明を行ない、刑事訴訟にまで持って行くつもりなら、たとえば、「胡越」が日本を離れられないように、せめて「事件の究明が終わるまで、パスポートを一時預かる」くらいのことはしていいはずだ。しかし、まるで「スムーズにお帰り頂くための準備をしてあげた」かのように何もしなかったので、「胡越」は8月26日には、いかなる妨害も受けることなくスムーズに帰国してウェイボーで発信を始めたわけだ。◆「第二、第三の胡越」が出て来る危険性を秘めている在日中国人の現状日本の国立大学をはじめ大手の私立大学にも、「中国人留学生学友会」というのがあり、会長は必ず日本にある中国大使館に留学生の活動状況を報告しなければならない。つまり中国大使館の管轄下にあるのだ。日本には企業を経営している中国大陸から来た中国人が大勢おり(出入国管理統計から引用したデータ(※7)によると、2023年7月時点で、500万円の出資で2名以上の雇用を有する経営・管理ビザを持っている中国人の人数は15,986人)、日本の年末年始などにはそういった会社の社員なども集まって盛大なパーティを開く。そこには中国大使館の官員がゲストで参加することが多い。つまり中国政府もしくは中国共産党と親しく結びついているのである。また日本の企業で働いている大勢の中国人(主として元留学生)もいるが、ほとんどは非政治的であるものの、心の中では中国共産党を愛し肯定している者も少なくない。大学等で教育職に就いている中国人の中にも、中国共産党を愛し肯定している者が相当数おり、日本のメディアはむしろ迎合的にゲストとして呼んで、知らない間に中共中央統一戦線部のプロパガンダに与(くみ)しているテレビ局などさえあるくらいだ。NHKやフジテレビの一部番組などがその典型と言っていいだろう。念のため、日本の出入国在留管理庁<令和5年(2023年)末現在における在留外国人数について>(※8)によると、2023年末の「在日中国人総数は821,838人」となり、「留学在留資格の中国人は134,651人」となっている。これら巨大な母数の中で、いつ「第二、第三の胡越」が出現してもおかしくない。「胡越」のウェイボーに書かれているメッセージのうち「反日感情」に基づく発露は論外として、唯一正しいことを言っているのは、まさにこの「第二、第三の自分が出ても不思議ではない」という趣旨の発言だ。しかし日本には、その警戒心が完全に欠落している。そのことに気が付いている人は何人いるのだろうか?いたとすれば、NHKはこのような失敗をしなかったはずだ。今回の「報道テロ」で責められるべきは「胡越」ではなく、警戒心が欠落しているNHKもしくは日本政府であると結論付けることができる。「胡越」を帰国させてしまったNHKと日本政府の行動は、なによりも「警戒心の欠如」を如実に表していることを見逃してはならない。なお、中国における「反日感情がどのようにして植え付けられたのか」に関しては、次回のコラムで考察することとする。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。写真:NHK放送センター(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/5604(※3)https://passport.weibo.com/visitor/visitor?entry=miniblog&a=enter&url=https%3A%2F%2Fweibo.com%2F7942871901%2FOut47dKDd&domain=weibo.com&ua=Mozilla%2F5.0%20%28Windows%20NT%2010.0%3B%20Win64%3B%20x64%29%20AppleWebKit%2F537.36%20%28KHTML%2C%20like%20Gecko%29%20Chrome%2F109.0.0.0%20Safari%2F537.36&_rand=1725326437723&sudaref=(※4)https://weibo.com/7942871901/OuDtopW83(※5)https://m.news.cctv.com/2020/09/25/ARTIzQtqfZRcdvpSC9O4FVhy200925.shtml(※6)https://weibo.com/7942871901/OuF7mt3c6(※7)https://common-s.jp/tousich.html(※8)https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00040.html(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/45ed333947715e15a2834eeaf85fa55a9cda0484 <CS> 2024/09/03 10:28 GRICI ハリス氏願望とは逆行 米「飛行士が地球に帰還できぬ事態に」、中「月面土壌から水生成法を発見」【中国問題グローバル研究所】 *10:25JST ハリス氏願望とは逆行 米「飛行士が地球に帰還できぬ事態に」、中「月面土壌から水生成法を発見」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。米民主党党大会においてハリス大統領候補は指名受諾演説で「宇宙とAIで米国が中国に勝つ」という理念を断行するという趣旨の約束をしたが、その足元で米国は宇宙開発において信じられないような失敗を続けている。NASAが新型宇宙船の帰還を断念したという。今年6月6日に有人飛行船スターライナーで国際宇宙ステーションに送り込み、8日間ほどで地球に戻るはずだった宇宙飛行士が宇宙に取り残されたままになっている。その状態が来年2月まで続くという。その一方で、人類で初めて月の裏側に着地することに成功した中国の月探査衛星は、これも人類で初めて月の裏側から土壌を持ち帰ることに成功したのだが、このたび、月の表側から持ち帰った土壌を用いて大量の水を生成することに成功した。◆米国――NASA新型宇宙船帰還断念し、飛行士が地球に帰れぬ事態に今年6月6日に、米航空宇宙大手ボーイング社製の新型宇宙船「スターライナー」が2人の宇宙飛行士を、米主導の国際宇宙ステーション(ISS)に送り込んだ。当初は8日間で2人を乗せて地球に帰還することになっていた(※2)。ところがさまざまなトラブルが生じて、スターライナーの有人飛行による予定期間以内の地球帰還が困難になったことが6月10日頃から何度も報道されるようになっていた。そして今年8月24日、NASA(米航空宇宙局)は遂に「スターライナーの有人での地球帰還を断念した」と発表したのである(※3)。推進装置などに不具合が発生したためで、テストパイロットを務める宇宙飛行士2人は2025年2月にスペースXのクルードラゴンで地球に帰還する。ISS内の物資が足りなく立ったため、ロシアに頼んで補給物資を届けてもらう始末だ。<ロシア補給船「プログレス」、ISSに到着-食料や備品など2.8トンを運ぶ(UchuBiz)>(※4)にも、その辺の事情が書かれている。スターライナーはNASAが2010年に「商業乗員輸送開発1」契約として、ボーイング社にこの宇宙船の基礎設計として1800万ドル(26億円)を払い、2011年の「商業乗員輸送開発2」契約では9300万ドル(134億円)払った。たび重なる開発遅延により2024年8月時点で、超過コストが16億ドル(2300億円)を超える赤字プロジェクトとなっている。それでもISSに宇宙飛行士などを運ぶ役割を担う宇宙船が必要だったのは、ISSに飛行士を運ぶ宇宙船は、ロシアのソユーズしかなかったからだ。ロシアに全面的に頼っているのは危険だと米国は判断したのだろう。だから民間会社のボーイング社に有人飛行船の製造を委託していた(のちにはスペースX社のクルードラゴンにも委託している)。だというのに、ボーイング社のスターライナーは膨大な予算を喰っただけでなく、製造完成は遅々として進まず、ようやく完成してISSに飛行士を運んだと思ったら、今度は「飛行士を乗せて帰還することが困難になった」という、あり得ない事態にあるのが、米国の宇宙開発の実態だ。◆中国は月の裏側に着地しただけでなく、回収した月土壌から水生成にまで成功それに比べて中国は月の裏側着地とその土壌サンプルの回収に成功しただけでなく、持ち帰った月の表側の土壌から大量の水を生成することに成功している。「月の裏側に着地できた」というのは前代未聞のことで、そのこと自体、人類として初めての成功だった。なぜなら、月の自転と公転が一致しているため、地球からは月の片面だけしか見えていなくて、それを「表側」と称すれば、反対側の「裏側」には、地球自身に遮られて、地球からは直接信号を送ることができないからだ。かつて旧ソ連も米国も試みたが、すべて失敗に終わっている。ところが2018年5月、中国は通信を中継するための人工衛星「鵲橋(じゃっきょう)号」を打ち上げ、「ラグランジュ点」にピタリと打ち当てることができた。ラグランジュ点というのは二つの天体があった時の力の相互作用のうち、引力が相殺されて平衡を保つ点のことである。中継通信衛星「鵲橋号」を、まず地球と月を結ぶ直線上で、月の公転軌道の外側にあるラグランジュ点で静止させ、それを反射鏡として使ってして月の裏側の定位置のコントロールを地球上から行うという論理である。同年12月8日、嫦娥(じょうが)4号(月面探査機)を打ち上げ、2019年1月3日に月の裏側に軟着陸した。その後2020年に嫦娥5号を月の表側に軟着陸させて月の表側の土壌をサンプルとして回収。2024年6月には嫦娥6号が月の裏側に軟着陸して「月の裏側の土壌」をサンプルとして地球に持ち帰った。米国の科学者がかつて「鵲橋号」を使わせてくれと依頼してきたので、中国は快く承諾したが、NASAには月の裏側に行くだけの能力がなく、また今年6月の「月の裏側の土壌」に関しては、「人類共有のものなので、米国にも供与せよ」と中国に「上から目線」で要求した。中国のネットでは「あれだけ中国を潰そうとしているくせに、中国の成果だけは寄こせって言うんだ――!」という不満の声が上がっていたが、そうこうしている内に中国は8月22日に、<嫦娥5号が回収した土壌から、大量の水を生成する方法に成功した>(※5)。嫦娥5号が回収した土壌ということであるなら、「月の表側」の土壌だということになる。しかし、月の表だろうと裏だろうと、月面基地を建築しようとしている中国にとって、これは大きな発見だし、人類にとっても初めての発見なので、宇宙開発の新たな一歩を踏み出したと言えよう。◆「引退する米国主導のISS」と「稼働し始めた中国の宇宙ステーション」アメリカが主導するISS(国際宇宙ステーション)の寿命は、本来2024年までとされていた。しかしトランプ政権のときにそれを2030年まで延長させたが、このたびNASAは2031年1月にはISSを制御して落下させることを決定した(※6)。中国は早くから、何としても中国もISSに参加させてくれと米国に懇願してきたが、米国はそれをかたくなに拒み続けた。そこで中国は、中国独自の宇宙ステーションを建設しようと決意し、遂に2022年10月に中国独自の宇宙ステーション「天宮」の稼働に入ったのである。2022年11月1日のコラム<決戦場は宇宙に移った 中国宇宙ステーション正式稼働>(※7)にも書いたが、中国宇宙ステーションには「ロシア、インド、ドイツ、ポーランド、ベルギー、イタリア、フランス、オランダ・・・」など数多くの国がすでに国際協力プロジェクトを立ち上げている。また同年5月にはBRICS諸国が「BRICS宇宙協力連合委員会」を発足させた。◆ハリス演説とは逆行している宇宙の現実8月25日のコラム<ハリス指名受諾演説、対中政策なく理念だけ トランプ氏猛口撃>(※8)に書いたように、米民主党党大会においてハリス大統領候補は指名受諾演説で「宇宙とAIで米国が世界を未来に導き、米国が中国に勝つ」という趣旨のことを誓っている。ハリス副大統領は現在、米政府の宇宙政策を統括する「国家宇宙会議」の議長を務めている。トランプ政権のときは当時のペンス副大統領が議長だった。このたびNASAが、スターライナーの有人飛行による地球帰還を断念したことは、ハリス氏にとっては大きな痛手で、大統領選挙にもマイナスの影響を与えるし、共和党の大統領候補であるトランプ氏にとっては、格好の攻撃材料となるだろう。そもそもハリス氏は「国家宇宙会議」の議長でもあるのだから、スターライナーの大失態を知らないはずがないし(知っていなければならないし)、知っているとすれば、指名受諾演説で、アメリカが中国を打ち負かす分野として「宇宙」などを持ってこなければ良かったのにと思う。半導体を例に挙げるならまだしも、自分自身が議長をしている「国家宇宙会議」管轄下のNASAの大失敗を掌握していなかったという可能性もあり、好ましいことではない。前述したように、スターライナーの肩代わりをするのはイーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースXだ。2031年のISS落下に関しても、落下処理を行なう宇宙船の製造委託先にスペースXが選ばれている。そのイーロン・マスク氏をトランプ氏は味方につけて、11月の大統領選で当選したら、起用すると表明している。8月22日のコラム<トランプ氏「当選すればマスク氏起用の可能性」と言うが、マスク氏は習近平と仲良し 対中政策はどうなる?>(※9)に書いたが、そのイーロン・マスク氏は親中であるだけでなく、習近平とは仲良しだ。なまじハリス氏が指名受諾演説で「宇宙において勝つのは中国ではなくアメリカだ」という趣旨のことを「理念的に(願望的に?)」言ったために、宇宙空間における実態が浮き彫りになってしまった。彼女の演説は明るくエネルギッシュで、心に訴えることには成功したように見えるが、論理を詰めていくと痛手になるのかもしれない。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※10)より転載しました。写真: 不具合を続けるボーイング社スターライナー(提供:Bill Ingalls/NASA/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.space.com/boeing-starliner-first-astronaut-mission-end-june-18(※3)https://www.nasa.gov/news-release/nasa-decides-to-bring-starliner-spacecraft-back-to-earth-without-crew/(※4)https://news.yahoo.co.jp/articles/85a004943bccb83c4e63b1515d2b65ad2c0862bd(※5)https://news.cctv.com/2024/08/22/ARTIDfu2QC7JgZB43Vd1acwz240822.shtml(※6)https://www.nasa.gov/wp-content/uploads/2015/01/2022_iss_transition_report-final_tagged.pdf?emrc=4c4497(※7)https://grici.or.jp/3746(※8)https://grici.or.jp/5580(※9)https://grici.or.jp/5567(※10)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5b5c89cd4becc25887fadae935709e5d761eba88 <CS> 2024/08/27 10:25 GRICI トランプ氏、取材で台湾有事への回答を回避し「台湾は米国に防衛費を支払うべき」と主張【中国問題グローバル研究所】 *15:59JST トランプ氏、取材で台湾有事への回答を回避し「台湾は米国に防衛費を支払うべき」と主張【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月16日発売の雑誌「Bloomberg Business Week」(※2)は、トランプ氏を独占取材した記事を掲載。取材でトランプ氏は「中国大陸に対抗する台湾を防衛するか?」という問いには答えず、「台湾は米国から半導体を100%奪っていった」とかわし、「台湾はわれわれに防衛費用を支払うべきだ」と主張した。中国はこのトランプ発言を「みかじめ料を要求された島(台湾)は大騒動」という見出しで、主として台湾の情況を中心に報道している。◆ブルームバーグの独占取材記事まず、7月16日発売の雑誌「Bloomberg Business Week」が、どのような記事を掲載したのか、台湾防衛関係の部分だけを抜き出してご紹介したい。●トランプ氏の外交政策に対する取引的な見方と、あらゆるディール(取引)を「勝ち取る」という願望は、世界中に影響を及ぼす可能性があり、米国との同盟関係を断絶させることさえある。●「アジアの民主主義(台湾)を分離独立の地域とみなす中国から台湾を守るという米国の取り組み」について尋ねられたトランプ氏は、「台湾に対する最近の(米国内)超党派の支持にもかかわらず、中国の攻撃に立ち向かうことについては、せいぜいよく言って、生ぬるい」と表明した。(筆者注:米国は台湾を守るか否かに関しては回答を回避した。)●彼(トランプ氏)の懐疑的な姿勢の一部は、経済的な憤りに根ざしている。「台湾はわれわれから半導体事業を奪った」と彼は言う。「つまり、われわれはどれだけ愚かなのか? 彼らはわれわれの半導体事業をすべて奪った。彼らは途方もない巨額の富を手にしたのだ」と彼は続けた。彼が台湾に望んでいるのは、米国に防衛費(保護料)を支払うことだ。「われわれは保険契約と何ら変わらないと思うんだよ。なぜだ? なぜ、われわれはこんなことをしているんだい?」と彼は尋ねた。(筆者注:最後の「こんなこと」は英語では「this」だけだし、一瞬の会話の中で出てきた言葉なので、受け取る側が解釈するしかないが、「保険契約なら契約料を毎月支払うはずだが、それを受け取ってないのに、なぜ台湾を守らなければならいんだ?」という意味を示唆していると考えられる。)●彼(トランプ氏)が懐疑的になるもう一つの要因は、地球の反対側にある小さな島を守ることの実際的な難しさだ。「台湾は9,500マイルも離れているんだよ。それに比べて、中国からは68マイルしか離れていない」と彼は言う。台湾への関与を放棄することは、米国の外交政策の劇的な転換をもたらすだろう。それはウクライナへの支援を停止するのと同じくらい重大なことだ。しかし、どうやらトランプは、これらの関係を根本的に変える代替案の準備ができているようにも見える。(筆者注:この最後の文章は、おそらく「守ってほしければ金を払え」という言葉を指しているものと推測される。)ブルームバーグの独占取材記事の台湾に関する部分は概ね以上だが、別途、台湾問題に焦点を絞った討論番組<Watch Trump Suggests Taiwan Should Pay US for Protection - Bloomberg(トランプが「台湾は防衛費を支払うべきだ」と言ったことをウォッチしよう)>(※3)も報道されている。冒頭に掲げたタイトル画像は、この番組からのスクリーンショットである。トランプ氏の主張には、一貫した外交観が滲み出ている。すなわち、NATOに関してもトランプ氏は「その国の軍事費負担が不十分ならば米国はその国を守らず、ロシアに『好きにするよう促す』」(※4)とさえ言っている 。トランプ政権時代には日本や韓国に対しても、駐留米軍に対する経費をもっと支払わないと米軍を撤退させるようなことをほのめかしたことがある。台湾に対しても、「米軍に守ってもらおうと思うなら、米国に保護料を支払え」というわけだ。この姿勢であるなら、中国は喜ぶだろう。◆中国での報道7月18日の中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は<みかじめ料をトランプに要求され、島内(台湾)は大騒動>(※5)という見出しの、かなり長い記事を発表した。ほとんどは、ブルームバーグの独占取材記事の解説と、台湾がどのように報じたかに関する内容が多いが、いくつかの要点をピックアップしてお示しする。台湾報道に関しては当然、中国大陸にとって都合のいいものを拾い上げているとは思うが、台湾で報道されていること自体は事実だし、中国がどのように受け止めているかも見えてくるので、考察する価値はあるだろう。●台湾の世論は、民進党当局の徹底した「親米・反中」政策が今後の台湾にとって厳しい課題となると一般に考えている。●トランプ氏は「米国に保護してほしいのなら、台湾はみかじめ料を支払うべきだ」とストレートに言った。トランプ氏の「台湾防衛」に対する態度が冷淡であることのもう一つの理由は、何千マイルも離れた小さな島を守るのは非常に難しいと考えていることだ。●トランプ氏は、今年4月の、タイム誌とのインタビューでも同様の見解を表明した。彼は、米国に依存する欧州とアジアの同盟国が米国に資金を支払うことを望んでいる。●タイム誌は「中国が台湾を攻撃した場合、米国は台湾を守るべきか」と質問し、トランプ氏は「この質問は何度も受けているが、(私の切り札が明らかになるので)答えたくない」と明言を避けた。●台湾にみかじめ料の支払いを求めるトランプ氏の発言に対し、民進党「立法院」議員団の呉思耀幹事長は17日、米国は「台湾の防衛に協力している」と述べ、台湾の卓栄泰行政院長は、「台湾は台湾海峡とインド太平洋地域にわたる共通の責任に対して、より多くの費用を支払う用意がある」と述べた。これに対して台湾の多くのネット民は不満を表明し、台湾のソーシャルプラットフォームPTTでは「お前が払えよ。私に払わせるな。みんなを水の中に引きずり込むな」と民進党当局を罵倒した。また、少なからぬ人が「我々が望んでいるの海峡の平和共存だ」、「みかじめ料は『台湾独立』を叫んでいる人から徴収せよ!」と呼びかけた。●国民党の立法委員である王鴻薇氏は、「台湾の米軍からの兵器購入額が最高値を更新し続けている今、米国の武器売却やみかじめ料に対処するために、将来さらに多くの資金を提供する必要があるのだろうか?」問うた。●元台湾空軍副司令官の張延廷氏は、「保護費は天文学的な金額になる」と述べ、「台湾は全体的な環境を理解しなければならず、米国の操り人形になってはならない」と語った。●元立法委員の蔡正元氏は17日、台湾の一部の愚か者は台湾と米国は「価値ある同盟」だとよく言っているが、「台湾は米国の単なる属国に過ぎない」とした上で、「台湾と米国の間には友好関係はない。すべては金銭的な関係にすぎない」と述べた。●米国在住の学者、翁履中氏は、「台湾がトランプを満足させるために、もっとみかじめ料を支払っても構わないが、いくら払っても彼を満足させることはできないのではないか」と心配している●国民党の立法委員である馬文君氏は、「唯一確かなことは、トランプは台湾の安全保障上の利益を考慮するのではなく、米国の利益を最優先しているということだけだが、民進党はそれを明確に理解することができない」とした上で、「鍵となるのは両岸関係だ。両岸関係がうまく処理されれば、台湾は他国に支配される必要はない」と述べた。●台湾国立政治大学国際関係センターの研究者厳振生氏は、「台湾海峡の問題解決を米国に依存することは、台湾にとって多大な損失をもたらし、効果的ではない」と述べた。●台湾聯合新聞網は17日、「最近の典型的なケースは、台湾は古い第4世代戦闘機F-16Vを購入したが、これは他国が第5世代ステルス戦闘機F-35を購入するよりも高価だったということである」と報道している。また「トランプ氏もバンス氏も現実主義者であり、(中国)大陸の軍事発展により、米国は台湾への派兵は極めて採算の合わない取引であり、米国の国益に合致しないとの認識を強めている」と書いている。(以上、「環球網」より)台湾では国民党の趙少康氏は18日に「頼清徳は今のところ押し黙っているが、このまま米国に跪(ひざまず)き続けるのだろうか?」と投稿し(※6)、民衆党の柯文哲主席は「保護費だって?それって、米国が台湾に支払うのか、それとも台湾が米国に支払うのか、どっちなんだい?だって、台湾が米国のために第一列島線を守ってあげてるんだから、米国が台湾に支払うべきなのでは?」(※7)という趣旨のことを書いている。なお、トランプ氏の台湾防衛に関する回答と発言は昨年から何度もくり返されているが、これまでの発言に関しては拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第一章 TikTokと米大統領選と台湾有事】の【二 もしトランプが大統領に当選したら台湾有事はどうなるか?】で詳細に考察した。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※8)より転載しました。写真: ブルームバーグTV番組からのスクリーンショットに筆者が和訳加筆(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.bloomberg.com/features/2024-trump-interview/(※3)https://www.bloomberg.com/news/videos/2024-07-16/trump-suggests-taiwan-should-pay-us-for-protection-video(※4)https://www.bbc.com/japanese/articles/cevrjpgn418o(※5)https://taiwan.huanqiu.com/article/4IeY497cZfM(※6)https://tw.news.yahoo.com/%E5%B7%9D%E6%99%AE%E5%97%86-%E4%BA%A4%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E8%B2%BB-%E6%90%B6%E6%99%B6%E7%89%87%E7%94%9F%E6%84%8F-%E8%B6%99%E5%B0%91%E5%BA%B7-%E5%8F%B0%E7%81%A3%E8%A2%AB%E7%95%B6%E8%82%A5%E7%BE%8A-073741087.html?guccounter=1(※7)https://tw.news.yahoo.com/%E5%B7%9D%E6%99%AE%E8%A6%81%E5%8F%B0%E7%81%A3-%E4%BA%A4%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E8%B2%BB-%E8%B3%B4%E6%B8%85%E5%BE%B7%E6%B2%89%E9%BB%98%E4%BB%A5%E5%B0%8D-%E6%9F%AF%E6%96%87%E5%93%B2%E9%9C%B8%E6%B0%A3%E5%8F%8D%E5%97%86-%E5%B9%AB%E4%BB%96%E6%93%8B%E9%82%84%E8%A6%81%E4%BB%98%E9%8C%A2-065547831.html(※8)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ef4b86f8b564211b82b54d1f5d2e9a97b14de7e7 <CS> 2024/07/19 15:59 GRICI NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ(2)【中国問題グローバル研究所】 *16:14JST NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆ハンガリー外務大臣「NATOが反中ブロックになることに賛同しない」7月12日、ロイター社は<ハンガリーはNATOが「反中」ブロックになることを支持しない、と大臣は言う>(※2)という見出しでNATOワシントン宣言に反対するハンガリーの意見を報道した。それによればハンガリーのシーヤールトー(シャルト)・ペーテル外務大臣は「ハンガリーはNATOが反中ブロックになることを望んでおらず、そうすることを支持しない」と述べたとのこと。彼はまた「ウクライナが軍事同盟に加盟すれば、NATOグループの結束が弱まるだろう」とも述べている。さらに「NATOは防衛同盟だ…反中ブロックに組織化することはできない」と、ハンガリー国営テレビの質問に対し答えたという。7月10日のコラム<嗤(わら)う習近平――ハンガリー首相訪中が象徴する、したたかな中露陣営と弱体化するG7>(※3)に書いたように、ハンガリーは欧州議会の新たな右派会派「欧州の愛国者」をフランスのマリーヌ・ルペン氏が率いる極右政党「国民連合」を迎えて誕生させている。ルペン氏は<バイデン政権は中国に対してあまりに攻撃的過ぎて、アメリカは自国の同盟国がアメリカの統治下で団結できるようにするために敵を作りたいだけだ。アメリカが欧州を中国の敵に誘導している>(※4)と述べている。欧州が一枚岩でないということは、NATOも一枚岩ではないことになる。◆NATOワシントン宣言は「日本を戦争に誘い込む」シナリオ特に冒頭に書いたNATOワシントン宣言を詳細に読むと、これはNATOの思いというより、バイデン大統領の米大統領選に対する意図が全面的に出ており、トランプ前大統領との討論会の失態を挽回するために書かれたもののように映る。NATO諸国には「もしトランプが大統領に選ばれたらNATOは消滅する」と脅迫し、米大統領選でバイデンに有利になるために作成された宣言であるという印象を深くした。あと4ヵ月後に、もしトランプが大統領に当選したらウクライナ支援をやめて、アメリカの代理戦争であるウクライナ戦争をすぐさま停戦に持って行くと、トランプは豪語している。NATOがもっと多くの拠出金を分担しなければ、ロシアの好き勝手にさせてNATOを守ることをしないとまでトランプは言っているのだ。事実、トランプ政権時代には戦争は起きなかった。それどころかトランプはまるで「禁じられた恋」のように秘かにプーチンを慕い、北朝鮮の金正恩とも会って和平に向けて動こうとした。しかしバイデン政権になった瞬間からウクライナ戦争、イスラエル戦争と、世界に戦争をばらまく戦争屋ネオコンの本領が再び発揮され始めた。もし、それを信じない方がおられたら、ぜひとも拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【図表6-2 朝鮮戦争以降にアメリカが起こした戦争】(p.234~p.235)および【図表6-8 「第二のCAI」NEDの活動一覧表】(p.253~p.255)をご覧いただきたい。アメリカは、トランプ政権時代を除いて、第二次世界大戦が終わったあとから、ただひたすら全世界で戦争を巻き起こしてきたのだ。そのためにはルペン氏が言っているように「アメリカは敵を必要としている」。旧ソ連を崩壊させるに当たって、アメリカは「NATOを1インチたりとも東方に拡大させない」と約束しておきながら、ゴルバチョフがそれを信じてワルシャワ機構を解体させソ連が崩壊するのを見届けると、その瞬間から東方拡大を始めたではないか。それでも飽きずに、「戦争の種」を求めて、今度は台湾有事を創り出して、親米的でない国家「中国」を潰そうとしている。その大きな枠組みの中で人類が動かされていることに、日本人は気づこうとしないし、気づきたくないようだ。そして気づいた時には、日本人はアメリカの駒として戦場に送られていることになる。その視点でNATOワシントン宣言を見ると、NATOワシントン宣言は結局のところアメリカの世界一極支配を維持するために「日本を戦争に誘い込むシナリオ」であることが浮かび上がってくる。日本国民の命を守るために、その視点を一人でも多くの日本人と共有したいと切に望む。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※5)より転載しました。NATOワシントン首脳会議で会見するバイデン大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.reuters.com/world/europe/hungary-will-not-support-nato-becoming-anti-china-bloc-minister-says-2024-07-11/(※3)https://grici.or.jp/5437(※4)https://www.nytimes.com/2022/04/13/world/europe/le-pen-nato-russia-germany.html(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6c7ff82141848f044f808a47da2869a323564cef <CS> 2024/07/12 16:14 GRICI NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ(1)【中国問題グローバル研究所】 *16:12JST NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。ワシントンで開かれていたNATOサミットがアメリカ時間7月10日に宣言を出し、その中で中国に関して、ロシアの侵攻に対する「決定的な支援者だ」と批判した。インド太平洋地域は米欧の安全保障に影響するとし、日本や韓国との協力強化も盛り込んだ。これに対して中国は激しく抗議している。両者の言い分を考察すると、日本人がやがてアメリカの駒として戦場で戦わされるシナリオが見えてくる。◆NATOワシントン宣言の対中批難部分アメリカ時間7月10日、NATOサミットは<Washington Summit Declaration(ワシントン・サミット宣言)>(※2)というタイトルの宣言を発表した。その4項目目に「戦略的競争、蔓延する不安定性、そしてくり返されるショックが、われわれのより広範な安全保障環境を特徴づけている」とした上で、中国に対する警告が盛り込まれている。また26項目および27項目にも対中批難が書かれているので、それらの概要をまとめて以下に記す。●野心と威圧的な政策を表明してきた中華人民共和国(以下、中国)は、われわれの利益、安全保障と価値観に引き続き挑戦している。●ロシアと中国の戦略的パートナーシップの深化と、ルールに基づく国際秩序を無効化させ再構築しようとする試みは、深刻な懸念の原因となっている。われわれは、ハイブリッド、サイバー、宇宙、その他の脅威と悪意のある活動にも直面している。●中国は、いわゆる「無制限」のパートナーシップとロシアの防衛産業基盤への大規模な支援を通じて、ロシアのウクライナに対する戦争を決定的に可能にしている。これにより、ロシアが近隣諸国と欧州大西洋の安全保障に及ぼす脅威が増大している。われわれは中国に対し、ロシアの戦争活動に対するすべての物質的および政治的支援を停止するよう求める。●中国は、自国の利益と評判に悪影響を及ぼさずに、ヨーロッパにおける近年最大の戦争を可能にすることはできない。●中国は、欧州大西洋の安全保障に体系的な挑戦を取り続けている。われわれは、中国に起因する偽情報を含む悪意のあるサイバー活動とハイブリッド活動が継続しているのを目にしている。われわれは中国に対し、サイバー空間で責任ある行動をとるという約束を守るよう求める。●われわれは中国の宇宙能力と活動の発展を懸念している。われわれは中国に対し、責任ある宇宙行動を促進するための国際的な取り組みを支持するよう求める。●中国は核弾頭の増加と高度な運搬手段の増加により、核兵器の急速な拡大と多様化を続けている。われわれは中国に対し、戦略的リスク削減の議論に参加し、透明性を通じて安定を促進するよう求める。(概ね以上)◆中国の反論これに対して駐EUの中国使節団の報道官は、7月11日の記者会見で以下のように反論した(※3)。●NATOサミットの宣言は、冷戦のメンタリティと好戦的なレトリックに満ちており、中国関連の内容は、挑発、嘘、扇動、中傷に満ちている。●周知の通り、中国はウクライナ危機の生みの親でもなければ当事者でもない。ウクライナ問題に関する中国の核心的立場は、和平交渉と政治的解決を促進することであり、これは国際社会から広く認識され、高く評価されている。●中国は紛争当事者に殺傷力のある武器を提供したことはなく、民生用ドローンの輸出を含む軍民両用物品を常に厳しく管理してきた。中国とロシアの間の正常な貿易は第三者に向けられたものではなく、外部からの干渉や強制の対象であってはならない。●ウクライナ危機は今のところ長引いているが、誰が火に油を注いでいるのか、誰がこの機会を利用して個人的な利益を求めているのか。国際社会は、このことをはっきりと認識している。われわれはNATOに対し、国際社会の正当な声に注意深く耳を傾け、自らが行っていることを深く反省し、責任を転嫁したり他国を非難したりするのではなく、事態の悪化を緩和し、問題を解決するための具体的な行動をとるよう求める。●アジア太平洋地域は平和的発展の高地であり、地政学的な駆け引きの競技場ではない。NATOは再三再四にわたって「ユーラシア安全保障のつながり」誇大宣伝しているが、その意図は何処(いずこ)にあるや?●われわれはNATOに対し、北大西洋における地域防衛機関としての地位を堅持し、アジア太平洋地域の平和と安定を台無しにしたり、特定の大国の覇権の道具にならないよう要請する。●中国は世界平和の建設者であり、世界の発展に貢献し、国際秩序の擁護者である。われわれはNATOに対し、中国に対する誤った認識を直ちに正し、冷戦のメンタリティとゼロサムゲームを放棄し、いわゆる中国の脅威を声高に叫ぶのをやめ、対立と対抗を扇動するのをやめ、世界の平和と安定のためにより実践的なことを行うことを要求する。(以上)一方、中国の外交部はやはり7月11日の記者会見で(※4)以下のように抗議している。●NATOの「ワシントン首脳宣言」は、アジア太平洋地域の緊張を誇張し、冷戦思考と好戦的な発言に満ちており、中国関連の内容には偏見・中傷・挑発に満ちており、われわれは強烈な不満を抱いており、断固として反対する。●今回のNATOサミットにはNATO創設75周年という背景がある。存続の必要性を示すために、米国とNATOは会合前にNATOの「栄光」と「団結」を誇示し、NATOを「平和維持組織」であるかのように見せかけているが、実は「冷戦の遺物」であることを覆い隠すことはできない。●NATO軍は「人道的災害の回避」を旗印にしながら、かつてユーゴスラビアに対して78日間にわたる爆撃を実施した。NATOの黒い手が伸びるところはどこでも、混乱が現れる。NATOのいわゆる安全保障は、他国の安全保障を犠牲にして成り立っている。NATOが売り込む「安全保障上の不安」の多くは、NATO自身が引き起こしている。NATOが誇るいわゆる「成功」や「力」は世界にとって大きな危険を意味する。「仮想敵国」を設定することで存在を維持し、国境を越えて勢力を拡大するのはNATOの常套手段であり、中国に対する「体制的挑戦」の誤った位置付けに固執し、中国の内政・外交政策の信頼を損なうことはまさにそれを体現している。●ウクライナ問題に関して、NATOが「中国の責任」論を主張するのは荒唐無稽であり、邪悪な意図がある。NATOはいかなる証拠もなく、米国が捏造した虚偽の情報を拡散し続け、公然と中国を中傷し、中国とEUの関係を破壊し中欧協力を潰したいのだ。ウクライナ危機を今日まで延期させ、火に油を注いでいるのが誰であるか、国際社会は知っている。NATOは、危機の根本原因と自らの行動を熟考し、国際社会の公正な声に注意深く耳を傾け、責任を転嫁したり他国を非難するのではなく、状況を緩和するために実際的な行動を取るよう勧告する。●NATOはその範囲をアジア太平洋にまで拡大し、中国の近隣諸国や米国の同盟国との軍事・安全保障上の関係を強化し、「インド太平洋戦略」の実施において米国に協力してきたが、その行為は中国の利益を損ない、アジア太平洋地域の平和と安定を破壊し、すでに地域諸国の疑念と反対を引き起こしている。●中国はNATOに対し、冷戦思考・陣営対立・ゼロサムゲームという時代遅れの概念を放棄し、中国に対する誤った理解を正し、中国の内政干渉をやめ、中国のイメージを汚し、中国とEUの関係に干渉しないよう求める。ヨーロッパを混乱させた後、アジア太平洋を混乱させるのをやめよ。●中国は自国の主権・安全保障・発展利益を断固として守り、自国の発展と対外協力を通して、世界の平和と安定にさらなる安定と前向きなエネルギーを注ぎたい。(以上)外交部のこの回答は7月11日の新華網(※5)が掲載し、中央テレビ局CCTV(※6)も同じ内容で報道した。したがって、外交部の記者会見での回答が中国政府の正式見解であると解釈していいだろう。「(NATOワシントン宣言「中国が侵略の決定的支援者」は日本を戦争に巻き込むシナリオ2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※7)より転載しました。NATOワシントン首脳会議で会見するバイデン大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.nato.int/cps/en/natohq/official_texts_227678.htm(※3)http://eu.china-mission.gov.cn/stxw/202407/t20240711_11451831.htm(※4)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202407/t20240711_11452358.shtml(※5)http://www.news.cn/world/20240711/9707b00c867b4840bef0f9f4da2e6ac8/c.html(※6)https://tv.cctv.com/2024/07/11/VIDENC0MeGRaeb3gQsqlcFeW240711.shtml(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6c7ff82141848f044f808a47da2869a323564cef <CS> 2024/07/12 16:12 GRICI プーチン訪朝で国境の豆満江開放 中国海警局の船も日本海に!【中国問題グローバル研究所】 *10:38JST プーチン訪朝で国境の豆満江開放 中国海警局の船も日本海に!【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。6月19日、北朝鮮を訪問していたプーチン大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長との間で「包括的戦略パートナーシップ」が締結された。軍事同盟に近い「互いの国が第三国から攻撃された場合には互いに支援する」という項目が盛り込まれたようだが、同時に合意文書には「豆満江(とまんこう)に架かる国境道路橋の建設に関するロシア連邦政府と朝鮮民主主義人民共和国政府間の合意」も謳われている。豆満江は「中露朝」三ヵ国の国境に接する河で、日本海に注ぐ国際河川だ。中国にとっては、旧ソ連以来塞(ふさ)がれていた豆満江の航行が自由化されることになる。それは立ち遅れていた「東北大振興政策」を大きく飛躍させ中国にとっては大きな収穫だが、日本にとっては厳しいダメージをもたらすだろう。なぜなら貨物を運ぶコンテナ船だけでなく、中国海警局の大型船舶も北の豆満江から日本海に直行できるようになるからだ。これらはアメリカによる「中露朝」に対する制裁や包囲網がもたらした結果でもあることを見逃してはならない。◆中露間に横たわっていた豆満江航行閉鎖問題中国の東北部吉林省の東端(地図で見て右端)は、「中国・ロシア・北朝鮮」三ヵ国の国境が接する地区につながっている。そこには豆満江(中国語では図們江)という河が流れており、朝鮮戦争のときに旧ソ連と北朝鮮をつなぐ「ソ朝友誼大橋」が架けられた。1952年のことで、最初は武器やその他の支援物資をソ連から北朝鮮に運ぶための簡易な木製の大橋だったが、1959年に金属製に強化された。問題は橋の高さだ。水面からわずか7メートルほどしかないので、中国領土の吉林省の琿春(こんしゅん)市防川村までしか中国の大型船は航行できず、中国東北部は本来なら豆満江を下れば日本海に出られたのに、それが出来なかった。中国はこれまで何度も何度もロシアに対して大橋を解体して中国の大型船舶が通れるように改善して欲しいと頼んできたのだが、ロシアは、プーチン時代に入ってからも首を縦に振らなかった。それが突如変わったのは、ウクライナ戦争で西側からの厳しい制裁を受ける中、習近平が経済面に関しては徹底してプーチンを支援してきたからだと断言していいだろう。それ以外に思い当たる理由はない。◆中国20年来の「東北大振興政策」がウクライナ戦争により実現中国建国当時、東北部は「旧満州国」が遺した重工業施設が豊富だったので、第一次五ヵ年計画は東北部の重工業を中心として経済建設が推進され、改革開放までは中国経済の花形として、その骨格を成していた。しかし1980年代から自由経済の波が中国全土を覆うにつれ、国営企業を中心とした重工業地帯・東北部は経済発展から取り残され、荒廃の一途をたどっていったので、胡錦涛政権時代に入った2003年に「東北大振興政策」が打ち出された。あれから20年。遅々として進まなかった東北大振興に新しい光をともしたのはロシアのプーチンだ。ウクライナ戦争により西側からの制裁が激しいため、活路を東側に見いだし、中国語で「看東方」と呼ばれる東方重視策に着手した。拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第五章 ウクライナ戦争と「嗤う習近平」】の【三 中国20年来の「東北大振興政策」が初めて実現できた】で書いたように、2023年9月7日に、習近平が黒竜江省ハルビン市で「新時代の東北全面振興を推進する」という座談会を開いた。すると、それに呼応するように数日後の9月11日から13日にかけてウラジオストクで開催した「東方経済フォーラム」で、プーチンは「ロシアは遠東重点戦略に着手する」と宣言。今年5月16日から17日にかけて、プーチンは国賓として訪中し習近平と会談して共同声明を発表した。その中で、「(中露)両国は図們江(豆満江)下流域を航行する中国船舶の問題について朝鮮民主主義人民共和国と建設的な対話を行う」と謳っている。今般のプーチンによる訪朝の目的の一つは、まさにこの「豆満江における中国船舶航行問題」を解決することにある。日本のメディアでは、「露朝の接近に中国ジレンマ」といった傾向の報道が多く、中国が露朝接近を警戒しているのではないかと思っているようだが、実際はまったくその逆だ。◆豆満江を航行できれば、中国海警局の大型船舶も直行で日本海に出航できるこれまで堰(せ)き止められていた豆満江流域の吉林省琿春市防川村から日本海までは、わずか15キロメートルしかない。目の前が日本海だ。ただ露朝間に架けられている友誼大橋の高さは7メートルなので、貿易用のコンテナ船であれ海警局の大型艦艇であれ、せめて水面から30メートルほどの高さがないと安心して通ることはできないだろう。したがって現在の友誼大橋を取り壊して、新しく水上最低30メートルほどはある鉄橋を建設するしかない。建設費用は中国が持つだろうが、ここが「大海」に開放されれば、中国東北部の経済繁栄に大きく寄与するのは確実だ。中国にとって露朝会談は大歓迎なのだが、問題は日本に対する安全保障上のリスクが急激に高まるということである。中国はこれまで北朝鮮を動かそうと思えばできたはずだが、今回習近平は先ずプーチンを説得してから、プーチンに北朝鮮の金正恩を説得させた。それは習近平がウクライナ戦争によりプーチンの足元を見ている証拠なのだが、金正恩は習近平の話よりもプーチンの話の方に、より耳を傾ける傾向にある。北朝鮮の建国の父である金日成(キム・イルソン)はソ連の支援を得て北朝鮮を建国したからだ。一方、中朝は軍事同盟を結んでいるが、露朝は(旧)ソ連崩壊によってそれまでソ朝間で締結されていた軍事同盟は消滅していた。プーチンによる24年ぶりの訪朝は、まさにその軍事同盟に近い同盟関係を露朝間にもたらしたことになる。それも、もとはと言えばバイデン大統領がアメリカによる一極支配を維持したいためにウクライナをそそのかし、NATOを焚きつけてプーチンがウクライナを侵略するしかないところにプーチンを追い込んだことが最も大きな要因と言える(ウクライナを侵略したプーチンは悪いが、戦争中であればウクライナはNATOに加盟できないので、ウクライナをNATO加盟させないために戦争を仕掛けたという側面もあるだろう。アメリカはソ連を崩壊させるときにNATOを1インチたりとも東方に拡大させないと旧ソ連に約束したが、その約束を限りなく破ってきたという経緯がある)。もしトランプ前大統領が第二期目も大統領を務めていたら、ウクライナ戦争は起きていなかったことを考えると、その因果関係は明白だろう。トランプはNATOやウクライナを動かしてプーチンを倒そうとするどころか、「NATOなど要らない」と繰り返し、プーチンとは仲良くしたくてならなかった大統領だった。北朝鮮の金正恩と電撃的な会談を行なって、朝鮮戦争以降の北朝鮮問題を解決しようとさえしたではないか(トランプはキッシンジャーのようにノーベル平和賞をもらいたいと思っていた。だから故安倍総理にノーベル平和賞への推薦状を依頼したほどである)。トランプは、アメリカを軍事産業によって運営していこうとするネオコンではないために、ネオコンによって北朝鮮との雪解けは封じられてしまった。朝鮮半島が平和になるとアメリカの軍事産業が要らなくなるので、ネオコンは困るのだ。こうして世界中に戦争をばらまいた、バイデンに代表されるアメリカの戦争屋たちが、「中露朝」という、非米陣営のブロックを形成させる結果を招いたことを見逃してはならない。日本に脅威をもたらすのは、アメリカであることが見えてくるプーチンの訪朝であったと思う次第だ。なお筆者は1947年から48年にかけて吉林省長春市で中国共産党による食糧封鎖に遭い、餓死体の上で野宿させられた経験を持つ。国共両軍の真空地帯である卡子(チャーズ)を脱出したあとは北朝鮮に接する吉林省延吉市に難民として流れ着いた。その延吉で豆満江を見ながら2年間の歳月を過ごし、1950年には朝鮮戦争を迎えた。したがって筆者にとって豆満江は、「二度と戦争を起こしてはならない」と筆者に決意させる象徴の一つでもある。そのため、誰が戦争を起こさせるのかを生涯かけて追究している。その視点から論考を書いていることを読者の方々にご理解いただきたいと、心から願う。この論考はYahoo(※2)から転載しました。写真: プーチン大統領と金正恩委員長(ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4dd0680ec41df27097d0de1173bac50ce79fd406 <CS> 2024/06/20 10:38 GRICI ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:55JST ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国&ブラジル和平案の「6項目コンセンサス」とは?では、ウクライナ戦争に対する中国とブラジルが共同で提唱する和平案とはどういう内容なのだろうか?今年5月23日、王毅・中共中央政治局委員兼外交部長は、北京でブラジルのアモリン大統領首席補佐官と会談し、「ウクライナ危機の政治的解決のための、中国&ブラジル6項目コンセンサス」に合意した(※2)。以下に、その「6項目コンセンサス」を記す。1.すべての関係者に対し、緊張緩和の「3つの原則」、すなわち、「戦場の拡大禁止、戦闘激化の禁止、戦争を煽ることを禁止」を遵守するよう呼びかける。2.対話と交渉がウクライナ危機から抜け出す唯一の実行可能な方法であると信じる。 当事者は、直接対話を再開するための条件を整備し、全面的な停戦に達するまで緊張緩和を促進すべきである。中国とブラジルは、「ロシアとウクライナ双方が認め、各方面が平等に参加し、すべての和平案について公正な議論を行えるような」国際平和会議を適切な時期に開催することを支持する。3.より大規模な人道危機の発生を未然に防ぐため、関連分野における人道支援を強化すべきである。 民間人や民間施設への攻撃は避けるべきであり、女性、子供、戦争捕虜などの民間人は保護されるべきである。 紛争当事者間の捕虜交換を支援する。4.大量破壊兵器、特に核兵器、化学兵器、生物兵器の使用に反対する。 核拡散を防止し、核危機を回避するために可能な限りの努力をする。5.原子力発電所やその他の平和的な原子力施設への攻撃に反対する。 すべての当事者は、原子力安全条約などの国際法を遵守し、人為的な原子力事故を断固として回避すべきである。6.世界の分断と閉鎖的な政治的または経済的ブロックの形成に反対する。世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定を維持するために、エネルギー、通貨、金融、貿易、食料安全保障、石油・ガスパイプライン、光海底ケーブル、電力・エネルギー施設、光ファイバーネットワークなどの重要インフラの安全保障に関する国際協力を強化することを求める。中国とブラジル双方は、上記のコンセンサスに対する国際社会の支持と参加を歓迎し、事態の緊張緩和と和平交渉の促進に共同で建設的な役割を果たす。(以上が中国の外交部ウェブサイトに載っている説明だ。)ここで肝心なのは、「2」にある「ロシアとウクライナ双方が認める」という言葉で、中国&ブラジル案は、「排除の論理」に立っていないことが明らかである。当事者双方が参加し、他のいかなる国や国際組織も平等に自由に参加することを謳っている。また、「4」にあるように、「核兵器の使用を禁じる」という意味では、ロシアに一定の圧力を与えることになる。停戦交渉を行なう時に、戦争をしている当事国を招かないで、片方の国だけが相手国を排除した形で仲間を集めるのでは、停戦に結びつくはずがない。おまけにゼレンスキー和平案はロシア軍が2014年以前までの状態に戻るまで一人残らずウクライナから撤退するというのが絶対条件で、ウクライナの完全勝利以外の結果は絶対に受け付けない。しかし欧州外交問題評議会(ECFR)が今年1月に行った世論調査(※3)では、「わずか10%の欧州人しかウクライナの勝利を信じている人はいない」ことがわかった。この状況でゼレンスキー案が受け入れられる可能性は極めて低いだろう。もちろんロシアがウクライナに軍事侵攻したのが悪い。しかし、そこに追い込んだバイデン政権(副大統領時代からのバイデン個人の動き)を考えると、ロシアだけを一方的に非難することもできない。バイデンは2013年末にウクライナでNED(全米民主主義基金)をフル活用してマイダン革命を仕掛け、ウクライナの親露政権を転覆させ、親米傀儡政権をウクライナに樹立させた。もし仮に日本に激しい反中政権があり、中国共産党が日本で暗躍して日本の反中政権を転覆させ、日本に親中政権を樹立させるようなことがあったとしたら、日本は許すだろうか?あり得ない他国干渉であり、国際秩序を激しく乱すものとして全力で厳しく抗議するだろう。その同じことをアメリカがウクライナでやっているのに、なぜそこはスルーするのか。アメリカなら何をやっても許されるのか。アメリカの都合で(NEDの見えない糸の影響下で)動く日本のメディアは、真相から目をそらさせ、結局のところ日本を戦争へと導いている。そのことを、より多くの日本人が、上記の矛盾からも洞察してくださることを祈らずにはいられない。この論考はYahoo(※4)から転載しました。ウクライナのゼレンスキー大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/wjdt_674879/wjbxw_674885/202405/t20240523_11310686.shtml(※3)https://ecfr.eu/publication/wars-and-elections-how-european-leaders-can-maintain-public-support-for-ukraine/(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/579e120ba0f51cf3384ad9463fbddb948fa72557 <CS> 2024/06/17 10:55 GRICI ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:54JST ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。6月15日から16日にかけてスイスでウクライナ戦争の停戦に関して「ロシアの参加を排除したゼレンスキー案」に基づいたウクライナ平和サミットが開かれている。会議にはロシアを参加させないという条件があるため、中国は参加しないと表明していた。それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は6月2日、シンガポールでの「アジア安全保障会議」で「中国がウクライナ平和サミットに参加しないように各国に呼び掛けている」、「中国は戦争支持者だ」と激しく中国を非難した。だというのに、6月13日になるとイタリアG7サミット後のバイデン大統領との共同記者会見で、突如、「習近平は電話会談でロシアに武器を送らないと約束している」と中国擁護に回り、バイデンが慌てて否定する場面があった。ロシアを含めたすべての国が平等に参加すべきとする「中国&ブラジルが提案している和平案」とともに、何が起きたのかを検証する。◆前言を翻(ひるがえ)したゼレンスキー6月2日、シンガポールのシャングリラホテルで開催されていた「アジア安全保障会議」に出席したゼレンスキーは、記者会見で「中国が他国にウクライナ和平サミットに出席しないよう圧力をかけている」(※2)と非難し、また「中国はロシアの手先であり、戦争の支持者だ」(※3)とまで言って中国を激しく罵倒した。そのゼレンスキーは6月13日になると突然、G7サミットでのバイデンとの共同記者会見で「習近平国家主席がゼレンスキーとの電話会談で、中国がロシアに武器を売却しない」(※4)と約束したと言い出した。この電話会談がいつ行われたものかに関しては触れていない。しかしゼレンスキーは「習近平が立派な人物であれば、私に約束した以上、売却しないだろう」と述べたという。すると、共同記者会見に臨んだバイデンは「武器を生産する能力とそれに必要な技術を提供している。つまり、中国は実際にロシアを支援している」と述べ、反論したほどだ。このことは、<中国に対する見方で温度差 対ロ支援巡って―米ウクライナ首脳>(※5)など、日本の少なからぬメディアも報道している。では、6月2日から13日迄の間に、いったい何が起きたのだろうか?◆ウクライナ高官が訪中し、ゼレンスキーはサウジアラビアに飛んでいた2日のゼレンスキーによる激しい対中批難が公表されると、中国外交部の報道官は定例記者会見で直ちに「中国がウクライナ平和サミットに出席しないように他国を説得した事実は皆無だ!」(※6)と反論し、王毅政治局委員兼外相は6月4日に、訪中していたトルコのフィダン外相と北京で共同記者会見をし「中国はスイスが(ウクライナ平和サミットのために)行った作業を非常に尊重し、スイス側に対して建設的な提案を繰り返し行い、スイス側は常にこれを称賛し、感謝してきた」と述べ(※7)、暗にゼレンスキーの発言を否定した。すると、ウクライナの外務省はそのウェブサイトで<王毅発言に対する(肯定的な)コメントを発表>(※8)し、その翌日の6月5日には、あわててウクライナのアンドリー・シビハ第一副外相(第一外務次官)を北京に派遣し(※9)、中国の孫偉東外交部副部長と会談。それは電光石火のような勢いで、アンドリー・シビハ氏は続けて中国政府の李輝・ユーラシア担当特別代表(※10)および中共中央聯絡部の陳州副部長とも会っている。さらに翌6日には上海に飛び、上海全人代常務委員会副主任(※11)と会談し、さらに中国の13社の企業代表(※12)と面談した。中国はウクライナの最大貿易国で、中国はこれまでウクライナとの友好を重んじ、ウクライナに対する人道支援金などもしてきた。その中国を敵に回すのは賢明でないと判断したためだろう。李輝はこれまで何度もウクライナを訪問して、中国の和平案に関して説明し、かつゼレンスキーから称賛を得ている。今般の中国&ブラジル案に関しても事前にウクライナを訪問し了承を取り付けてから公開している。そのことをゼレンスキーは思い出したのかもしれない。さらに決定打的なことがあった。中国がイランとサウジアラビアを和解させてからは、サウジアラビアの中国への接近が激しくなっている。そこでゼレンスキーは6月12日にサウジアラビアを訪問しムハンマド皇太子と会談している(※13)のだ。スイスで開催するウクライナ平和サミットへの参加を呼びかけたが、どうやらムハンマド皇太子は断ったようだ。平和サミットは首脳級が参加することになっているが、ムハンマド皇太子は結局参加せず、義理のように外相を参加させてお茶を濁した。それもそのはず、5月31日には北京で中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚級会議(※14)が開催され、父親の病気で出席できなかったムハンマド皇太子の代わりに外相が出席し、王毅と会談したばかりだ。さらに6月10-11日にロシアで開催されたBRICS外相会議にも二人は揃って出席している。もちろん中国&ブラジル案が提唱している和平案にサウジアラビアは賛同している。したがって、むしろ、ゼレンスキーに、あのような対中批判などすべきではないと説教した可能性さえある。あれだけウクライナをも支援してきた中国を敵に回せば、それこそゼレンスキー自身が世界を二分させる冷戦構造を形成するのに貢献することになる。このような経緯があり、ゼレンスキーは対中批判を引っ込めたものと考えられる。なお、電話会談は2023年4月に行われたもの(※15)を指しているとしか考えられず、「あの時の習近平との約束を忘れたのか」と諭されたのではないかと思うのである。だから今頃になって1年ほど前の習近平との電話会談を持ち出したのではないだろうか。「ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo(※16)から転載しました。ウクライナのゼレンスキー大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://apnews.com/article/ukraine-singapore-shangrila-russia-defense-94ebb72539182a0215c85895725cdd48(※3)https://edition.cnn.com/2024/06/02/europe/zelensky-ukraine-shangrila-address-intl-hnk/index.html(※4)https://jp.reuters.com/world/ukraine/BH666KDFL5IWHCTTLO32WRVUBA-2024-06-13/(※5)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024061400319&g=int(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202406/t20240603_11375826.shtml(※7)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202406/t20240604_11376586.shtml(※8)https://mfa.gov.ua/en/news/komentar-mzs-ukrayini-shchodo-ostannih-zayav-ministra-zakordonnih-sprav-knr(※9)https://mfa.gov.ua/en/news/ukrayina-ta-kitaj-proveli-politkonsultaciyi(※10)https://www.fmprc.gov.cn/web/wjdt_674879/sjxw_674887/202406/t20240606_11377617.shtml(※11)https://mfa.gov.ua/en/news/andrij-sibiga-proviv-zustrich-iz-zastupniceyu-golovi-postijnogo-komitetu-narodnih-zboriv-shanhayu(※12)https://mfa.gov.ua/en/news/andrij-sibiga-proviv-zustrich-z-predstavnikami-dilovih-kil-knr(※13)https://jp.reuters.com/world/ukraine/5WGJXPGG3RIT3BO2673BKD7HUU-2024-06-13/(※14)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202405/t20240531_11366748.shtml(※15)https://www.president.gov.ua/en/news/vidbulasya-telefonna-rozmova-prezidenta-ukrayini-z-golovoyu-82489(※16)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/579e120ba0f51cf3384ad9463fbddb948fa72557 <CS> 2024/06/17 10:54 GRICI 中露蜜月はなぜ堅固なのか? プーチンは習近平にスパイ極秘情報を渡していた【中国問題グローバル研究所】 *10:41JST 中露蜜月はなぜ堅固なのか? プーチンは習近平にスパイ極秘情報を渡していた【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月16日に訪中したプーチン大統領は、習近平と12時間にわたって時間を共にしているが、どうやらその間にプーチンが習近平に極秘スパイ情報を渡していたことがのちにわかった。それは中露両国政府を転覆させようとする外国勢力による中露国内におけるスパイ活動のリストらしい。6月15日から16日にかけてスイスでウクライナ戦争の停戦案に関する会議が開催されるが、ロシアが呼ばれていない上に、中国&ブラジルによる共同の和平案を新たに公開していることなどから習近平も出席しない。その背後には「秘密スパイ情報」によってますます強固になっていく二人の蜜月がある。「外国勢力」とは誰のことを指すのか?世界はその「外国勢力」によって大きく二分されながら重要な転換点を迎えようとしている。◆中露首脳会談とスパイ極秘情報もう1ヵ月ほど前のことになるが、今年5月16日、プーチンは北京を訪問し習近平と会談した(※2)。中露国交樹立75周年記念であることと、習近平が三期目の国家主席に就任した後に最初に訪問したのがロシアであったためその返礼としてプーチンが5度目の大統領に就任したので、最初の訪問国を中国にしたと、双方が言っている。首脳会談では「中露国交樹立75周年に当たっての新時代の全面的パートナーシップに関する共同声明」(※3)を発表したり、16日の夜には中南海で二人だけの会談をしたり(※4)などしたことは、広く知られているところだ。その合計の接触時間は12時間以上であったと、ロシアのタス通信は伝えている(※5)。注目すべきは5月18日にロシアの衛星通信であるスプートニクが爆弾情報を公開したことである。5月18日、<ロシア議会下院:中国とロシアに対する政府転覆活動に関する資料がロシアから中国に渡された>(※6)というスプートニクの情報が中国語に翻訳されて報道された。そこには以下のようなことが書いてある。――ロシア議会下院のロシア内政干渉調査委員会のワシーリー・ピスカレフ委員長は、ロシアと中国の政府を転覆させようと活動している外国組織の情報を、最近ロシアが中国側に渡したと述べた。同委員会のテレグラム・チャンネルは、ピスカレフ氏の発言を引用して「われわれは最近、ロシアと中国に対する外国組織の政府転覆活動に関する資料を中国側に渡した」と報道した。ピスカレフはまた、「新たな挑戦や脅威に直面し、ロシアと中国に対する外圧が日々高まる中、当該委員会は近い将来、ロシアは中国というパートナーとの協力を継続し、外国の干渉に対する主権と立法を保護する最も優れた方法を実施する計画である」と表明した。報道は以上で、非常に短いものだ。◆中国とは事前に調整し合っていたのか?中国の民間ウェブサイト騰訊新聞 (qq.com)は5月20日、この情報に関して<ロシアは機密資料を送った、外国による政府転覆活動、国家安全部(国安部)は集中的に情報発信、西側スパイは大きな問題に直面している>(※7)という見出しで、かなり長文の報道をしている。報道の一部には以下のようなことが書いてある。――外国が中国に対して政府転覆活動を行なっているのは、決して驚くべきことではない。中国の国家安全部は国務院のすべての部局の中で最も「謎」が多く、公式ウェブサイトがない唯一の部局でもある。この部局に関する外部の情報は公安部部長の名前と履歴に限られており、その他は一切知らされていない。しかし、そんな謎の部門が昨年7月末、独自のWeChat公式アカウントを開設し、通報(密告)チャンネルを発布した。もし外国による中国政府転覆活動がますます横行していないのだったら、何のために国家安全部が舞台裏から表舞台に出る必要があるのか?最近、国家安全部はスパイ摘発事件のニュースに関してWeChatの公開アカウントを集中的に更新している。5月17日、国家安全部は、航空宇宙分野における複数のスパイ事件の摘発経過を紹介する文書を発表した。それによれば5月13日、国家安全部は、スパイが外国人教授になりすまして我が国の生態系データを盗んだ事件を明らかにした。また、利益誘導やポルノ誘惑などの手段も使用されているのを確認している。現在、国家安全部は基本的に週に 2 ~ 3 件の特別報告を報道しており、これは、スパイ事件が毎週偵察され看破されていることを意味する。(騰訊新聞からの引用は以上)◆「外国勢力」の正体は「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)いうまでもなく、極秘情報が言うところの「外国勢力」の正体は、基本的に「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)だ。ロシアでは2012年から「外国の代理人」法を設け、予算の20%以上を外国から提供されている団体に対し、いわゆる「外国の代理人」として登録することを義務づけている。2024年には、「団体」を「個人」にまで拡大させた。それは、2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※8)の4回シリーズを通して書いたように、ソ連時代からアメリカは何としてもソ連を倒したいとしてNEDに暗躍させてきた。そのことは2023年10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartI>(※9)で考察した。特に近年は、コラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※10)の図表2で示したアレクセイ・ナワリヌイのように、NEDの支援金の活動対象が特定の人物に象徴されるようになってきた。だからプーチンは「外国の代理人」を組織団体から個人にまで拡張したものと思われる。習近平の場合も、「反スパイ法」の強化や香港特別行政区の国家安全維持法制定などを断行して、NEDが中国に潜り込んで(あるいはネットを使って)中国政府の転覆を謀ろうとしているのを必死で抑え込もうとしている。◆アメリカは中露を離間させたいが、アメリカにより中露は蜜月化その結果、習近平もプーチンも、互いの国をNEDの政府転覆活動から守ろうと、絆を一層強くさせている。習近平にしてみれば、2014年にNEDが主導したマイダン革命によりウクライナの親露政権が転覆させられたように、万一にもロシアに潜り込んだNEDによってプーチン政権が転覆させられロシアが民主的政権にでもなろうものなら、中国包囲網が強靭化し、ほぼ四面楚歌に至ると懸念しているだろう。それだけは絶対に避けねばならないと習近平は思っているだろうから、何が何でもプーチンを応援する方向に動いている。ただウクライナへの軍事侵攻をしたプーチンの軍事行動を容認すると、中国にいるウイグル族やチベット族などが他国に助けを求めたときに他国が中国に侵攻していいことになってしまうので、それだけは絶対に認めていない。それでいながらプーチン政権には絶対に崩壊してほしくないので、何としてもプーチンとの絆を深めてプーチン政権(あるいは専制主義的政権)の持続を望んでいるだろう。NEDの暗躍による政府転覆のリスクという共通項があれば、なおさら絆は深くなる方向に動く。◆中露が民主化してしまうと、実は困るアメリカしかし、万一にもだが、ロシアに民主的な政権が生まれ、それに伴って中国も民主化してしまった場合、実はアメリカは困るのではないだろうか。NEDを主導するネオコンは、基本的に軍事産業を国家運営の骨格に置いているので、中露という大国が平らかに民主化してしまった時に、「戦争を仕掛けていく暗躍の場」がなくなり、「民主の衣」を着て非親米的政権を倒す場がなくなって、活躍の対象を失う。何と言ってもロシアに民主的政権が生まれて、ロシアが欧州と仲良くなってしまうと、NATOの存在意義がなくなるので、アメリカの軍事産業は行き場を失い、「君臨する相手国(NATO諸国)」が存在しなくなるので、逆にアメリカによる世界の一極支配は衰退する方向に傾いていくと言っても過言ではない。トランプ政権が復活しても、トランプは大統領任期中に何度も「NATO無用論」を唱えてきたし、「アメリカ・ファースト」であって「他国の民主化」などに余計な力を注いで軍事ビジネスで国家運営をしていこうというネオコン系列ではないので、類似の現象は起きるかもしれない。現在、ゼレンスキーが唱えるウクライナ戦争和平案に基づく会議に参加する国の数は約90ヵ国・国際組織で、中国&ブラジルが唱える和平案に賛成する国は101ヵ国・国際組織である。これらの国の一部は重複しているかもしれないが、少なくとも全人類の85%は対露制裁に加わっていないので、残り15%の人類をアメリカ側に引き寄せているに過ぎない現状は、すでにアメリカの劣化を物語っている。中露の絆の強化は、その趨勢の中での分岐点をわれわれに突きつけている。もっとも、それでもなお、習近平がプーチンの足元を見ていることは拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第五章 ウクライナ戦争と「嗤う習近平」】で詳述した。この論考はYahoo(※11)から転載しました。訪中したプーチン大統領と習近平国家主席 写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240516_11305617.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240516_11305860.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240517_11305902.shtml(※5)https://tass.com/politics/1789297(※6)https://sputniknews.cn/20240518/1059159252.html(※7)https://new.qq.com/rain/a/20240520A044NL00(※8)https://grici.or.jp/4885(※9)https://grici.or.jp/4683(※10)https://grici.or.jp/4885(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7781d9020315b44953fb4abc6543363ffe7c08f0 <CS> 2024/06/14 10:41

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