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習近平はウクライナ攻撃に賛同していない——岸田内閣の誤認識【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田首相が電話会談でプーチン大統領に「ウクライナ侵攻反対」を唱えたことに関して、同席者がそれを以て「中国とは逆のメッセージ」であると位置付けたようだが、習近平はウクライナ侵攻には賛同していない。中露蜜月以上に中国とウクライナの蜜月に注目すべきだ。◆「岸田‐プーチン」会談同席者の発言岸田首相は17日夜、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。岸田首相の「力による一方的な現状変更ではなく、外交交渉で受け入れられる解決方法を追求すべきだ」という言葉に対して、 プーチンは「ウクライナを侵略するつもりはない。対話での解決を望む」 と応じたそうだ。その後、会談の同席者が以下のようなことを言ったと産経新聞(※2)が伝えている。—— 同席者は「ウクライナ侵攻に反対する立場をプーチン氏に伝えたアジアの首脳は日本だけだ。中国が逆のメッセージを出している中で意義があった」と振り返る。文脈から行けば、「ウクライナ侵攻反対」の「逆のメッセージ」とは、「ウクライナ侵攻賛同」ということになろう。「岸田‐プーチン」電話会談に同席したのだから、おそらくロシア問題に詳しい側近であると考えられる。そのような官邸関係者が、本気でこのようなことを考えているのだろうか?もしそうだとすれば、国際情勢を分かっていないにもほどがあると言わざるを得ない。◆中国とウクライナは仲良しで、ウクライナの最大貿易相手国は中国中国とウクライナは、旧ソ連が崩壊した時点から仲良しだ。これまで何度も書いてきたように、中国は旧ソ連が崩壊するのを待っていたかのように、崩壊と同時に一週間ほどで中央アジア五ヵ国を駆け巡り、1992年1月初旬には国交正常化を成し遂げていた。ウクライナは中央アジア五ヵ国には入ってないが、その勢いで中国は国交正常化を結ぶ国を増やしていき、ウクライナとも1992年1月4日には国交を樹立させている。以来、中国とウクライナは親密度を増し、国交樹立30周年の節目に当たる2022年1月4日には、習近平はウクライナのゼレンスキー大統領と祝電を交換している。2021年8月18日に中国商務部が発表した「中国はウクライナ最大の貿易国を保ち続けている」(※3)や中国国家統計局あるいは駐中国ウクライナ大使館などが発表したデータなどに基づけば、2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36.8%増で、輸入額は25.2%増と、いずれも20%を超える伸びを示し、輸出、輸入ともに過去最高となった。また2020年の両国間の貿易額は国交正常化後30年間で60倍以上に増えている。◆軍事的にも中国とウクライナの緊密度は高い中国とウクライナの緊密度は経済においてのみではない。あの中国「ご自慢」の空母第一号「遼寧」が、ウクライナから譲り受けたものであることは周知の事実だ。中国大陸のネットには「中国とウクライナの軍事協力を暴く:大量のウクライナの専門家が、ありったけの知識を授けるために中国にやってきた」(※4)という、2014年3月12日付の情報が残っている。このようなインサイダー情報を暴いてしまっていいのかと思うほど、ソ連崩壊後のウクライナの科学者たちの動きが生き生きと描かれている。また非常に新しい情報として、当時の事情を知っているであろう者(ハンドルネーム:孤影瀟湘)のブログとして、「200名のウクライナ専門家が中国に移住して、家賃免除で就業し、わが国の科学技術研究開発を支えている」(※5)という情報が今年2022年2月8日に公開されているのを発見した。それらによれば、こうだ。・旧ソ連時代のウクライナの軍事産業は実に輝かしいものだった。ウクライナの軍事産業は旧ソ連の軍事力の30%を占めていた。ウクライナの多くの企業や研究機関は、主に機械製造、冶金、燃料動力産業、ハイテク部門に集中し、特にロケット装置、宇宙機器、軍艦、航空機、ミサイルなどの軍事製品を生産することに特化していた。・ウクライナは世界第6位の戦略的弾道ミサイル生産国であり、世界最大のミサイルメーカーの1つもウクライナにあった。 旧ソ連の地対空ミサイルの62%、戦略ミサイルの42%を生産していた。ミサイル製造工場は、主として10個の核弾頭を搭載できるSS-18型戦略ミサイルを生産し、同時にSS-24型ミサイルや、その改良型であるSS-25鉄道車両搭載(発射台移動式)弾道ミサイルをも生産していた。・しかしソ連崩壊と同時にこれらの世界トップクラスの技術者を養っていく力はウクライナには無くなり、多くの最高レベルの技術者が中国に非常に恵まれた好条件で呼ばれ、中国で活躍することになったのである。・ウクライナはまた軍艦を建造する能力が非常に高かった。 ソ連の6つの造船所のうち3つはウクライナの黒海沿岸にあった。特にニコラエフ港にある黒海造船所は、ソ連で空母を建造できる唯一の造船所だった。ソ連崩壊後、ウクライナの専門家の多数は、中国に厚遇されて迎え入れられただけでなく、航空母艦も低価格で中国に渡し、改修に関しても全面的に協力したのである(引用以上)。以上、いくつか拾い上げてみたが、要はソ連崩壊後のウクライナにおいて、かつて世界トップクラスのミサイルや空母の生産に携わっていたハイレベル技術者の多くは、中国に高給で雇用されて大事にされ、中国のミサイル開発や空母建設に貢献したことになる。習近平政権になってからは「軍民融合」国家戦略も推進し始めたので、中国の軍事力はアメリカのペンタゴンが「ミサイルと造船に関してはアメリカを抜いている」と報告書に書くほどまでに至っている。そのウクライナをロシアが侵攻するかもしれないという状況の中で、中国が侵攻賛成に回るはずがないだろう。岸田内閣の中に「侵攻反対」表明を「中国とは逆のメッセージ」を表明したと位置付ける「同席者」がいるとすれば、中国とウクライナの関係を何も知らない「国際政治の素人」が日本政治の中心にいるということになろう。2月4日に習近平とプーチンが対面で会談したあと、長い共同声明と多くの協定を発表し、少なくとも「NATOの東方への拡大には反対する」と表明したのは、中露両国のギリギリの妥協点である。プーチンにとっては、それを言ってくれさえすれば、最低条件は満たされたということになろう。◆各国首脳がプーチンと会談したがるのは「手柄」を自分のものにしたいからそもそもプーチンが「ウクライナ侵攻はしない」と最初から何度も言っているのに、アメリカが「いや、ロシアは必ずウクライナ侵攻をする」と繰り返し主張し、現にバイデン大統領などは「16日の朝3時に必ず侵攻する」と予言者めいたことを言ったので、世界は「2月16日の朝3時」をヒヤヒヤしながら待った。しかしその日、その時間、ウクライナでは何もこらず、至って平穏な日常が流れたので、バイデンはやはり「オオカミ少年」であると嘲笑された。するとバイデンは18日になると、今度は「いや、数日内に必ず侵攻する」と第二の時限付き予言を発して頑張っている。数日以内に起きないと、「いや、長期的に見ないとならない」として、結局今年秋のアメリカ大統領中間選挙まで引き延ばし、選挙を有利に持って行くつもりだろう。各国首脳がプーチンと会談したがるのは「自分がプーチンと話し合ったからこそ、プーチンはウクライナ攻撃を思いとどまったのだ」と自画自賛したいからとしか思えない。2月14日のコラム<モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音>(※6)に書いたように、プーチンはフランスとドイツしか相手にしておらず、特にマクロン首相には最大の信頼を置き、マクロンにプーチンの思いを伝えて、西側諸国を説得してもらおうと思っているようだ。バイデンには、「ロシアがウクライナ侵攻をしてくれないと困る」諸般の事情があるようで、これに関しては別途考察したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/57b285907da24b66dfcd452f297ee074980c8bab(※3)http://ua.mofcom.gov.cn/article/jmxw/202108/20210803189370.shtml(※4)http://mil.news.sina.com.cn/2014-03-12/0859768342.html(※5)https://www.163.com/dy/article/GVMA339R0543L370.html(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220214-00282069 <FA>
2022/02/21 10:51
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モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平との面談後のプーチンに関して、クレムリンに近い「モスクワの友人」から非常に信頼のできる便りがあった。ウクライナへの武力侵攻の有無とともに、マクロンやバイデンに対するクレムリンの考え方をご紹介したい。◆習近平とプーチンの蜜月関係ロシアのプーチン大統領は、2月4日、習近平国家主席と会談して北京冬季五輪開幕式に出席するために北京を訪問した。まず北京にある釣魚台迎賓館でプーチンと面談した習近平(※1)は、2014年にプーチンの招きでソチ冬季五輪開会式に出席するためにロシアに行ったと指摘した上で、8年ぶりに北京で再会したことを、「プーチンが冬季五輪の契りを守ってくれた証し」として感謝した。プーチンは、中露関係は未だかつてなく緊密だと讃えた上で、二人は互いに両国の結びつきの強さと蜜月ぶりを確認し合った。面談が終わると、習近平はプーチンのためだけに用意した宴会にプーチン一行を招待し、春節の宴を共にすると同時に、多くの二国間プロジェクトに関して意見を交換した。夜、北京冬季五輪開会式出席が終わると、長文の共同声明「中華人民共和国とロシア連邦による新時代国際関係とグローバル持続的発展に関する共同声明」(※2)と協定締結(※3)が発表された。共同声明では中露両国間の「民主観、発展観、安全観、秩序観」に関する共通の立場が述べられている。特に注目すべきは安全観(安全保障問題に関する見解)に関連した件(くだり)で、ここには以下のような項目がある。・中露双方は互いの核心的利益、国家主権および領土保全をしっかりと支持し、両国の内政に対する外部干渉に反対する。・中露双方は両国の共通の周辺地域の安全と安定を損なう外的圧力に反対し、いかなる口実で主権国の内政に干渉する外力に対しても反対し、「ビロード革命」に反対する。・中露双方は、NATOの継続的な拡大に反対し、冷戦思想を放棄し(中略)、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する。・中露双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的聯盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する「インド太平洋戦略」が当地域の平和と安定に対してもたらすマイナスの影響を警戒する。すなわち中露両国は安全保障面においても完全に一致して臨むことを誓い合ったのである。米国を名指ししたことも注目に値する。なおプーチンは、2月6日には南オセチア共和国のビビロフ大統領との電話会談が控えているだけでなくトルコのエルドアン大統領へのメッセージ送付もあり、2月7日にはフランスのマクロン大統領との対面会談もあるので、習近平は気を利かせて4日の内に宴会を開き、開会式参加後すぐにプーチンが帰国できるよう便宜を図ったのだった。◆クレムリンのインサイダー情報その後のプーチンとモスクワの情況に関して、モスクワにいる、クレムリンに近い友人を取材したところ、わざわざクレムリン関係者に接触してくれて、豊富な情報を提供してくれた。その中には、公けにしてはならないという情報も含まれていたので、それを除いたインサイダー情報を、可能な限りご紹介したい。1.北京から帰国したプーチンは大変気分が高揚した様子で、かなり満足のいく北京訪問だったようです。2.フランスのマクロンとの面談は、ロシア側にとっては一定の意味があり、5時間にもわたって会談が成されました。大半の時間はプーチンによる情報分析、ロシアの立場のインプットであったようです。英米とは何を話しても、議論にすらならない低レベルの会談にしかならないので、知性エリートのマクロンとは会話が成立したとのことです。3.ロシアは、最早、米国との間では、いわゆる裏ルートとか秘密のホットラインが長年存在せず、本音で議論ができない相手と見做(みな)しており、この状況は誰が大統領になっても変わらないとの冷徹な見方の上に立って国際政治を考えているので、マクロンがここで登場してくれたのはありがたい話。もともと仏露は友好的な関係にありますし。マクロンに各種情報や分析をインプットすることによって、米国や欧州主要国へロシアの本音のようなものを伝えてくれる役割が期待できるのではないかと考えています。4.英米とはこういう会話ができないし、裏ルートもない。一方、ドイツとフランスは長年培ったルートは残っており、ドイツに関してはノルド・ストリーム2を産業界は簡単に諦めることはないだろうから、まだ議論や交渉の余地はあるとロシアは考えています。5.バイデン政権はロシアにとっては、(トランプ政権に比べると)よりましな政権であり、彼(バイデン)のメンツを潰すことはロシアとしても考えてはいません。彼(バイデン)は、とにもかくにも、トランプ時代の末期のように対話もなしに制裁をしたり、協定を破棄したりということはなく、交渉にはならないことが多いが、少なくとも対話が可能であり、米国が何を考えているかは、(トランプ時代と比べると)より分かり易い。6.米国の本質は大統領ではなく議会の力がより強いということだと、クレムリンは理解しています。トランプは、ロシアとはうまくやりたいと思っていたし、ロシアも交渉できる相手として期待したのですが、民主党を中心とする議会反露グループの圧力で何もできませんでした。曲がりなりにもバイデンは議会多数派を制していて、かつ、身内から足を引っ張られることもない。7.米英がここまでウクライナにこだわるのは、ウクライナの現政権が米国の操り人形だからです。この、「完全に米国の操り人形として使える現政権」が倒れると、同国への影響力が大幅に低下するからに他ならないとクレムリンは見ています。米英には、「米英の軍事基地をウクライナに置く長期的な目標」があり、ここでコテンパンにロシア軍にやられてしまうと、あらゆる意味で今までの活動が水泡に帰しかねないので、米英が積極的に介入しようとしているわけです。特に米国にとっては、どこかで紛争があることは良いことで、そうでなかったら、軍産複合体の利益が損なわれますので、第二次世界大戦後を見てもわかるように、米国は必ず世界のどこかで戦争を仕掛けています。戦争がないと、米国は困るのです。8.なお、米国がウクライナに供与した武器、例えばジャベリンなどは、一時代前のもので、ロシアは戦車戦など考えていないので、ほとんど無意味でしょう。古い武器をウクライナに売却できて、米国は何も損していない。軍事産業が儲かれば、米国全体の経済が潤いますから。◆「モスクワの友人」の私見「モスクワの友人」は、このたびわざわざクレムリン関係者と接触して下さった結果引き出した情報以外に、日ごろから培ってきた知見により、以下のような情報を「個人の見解」として提供してくれた。(1)ロシアはウクライナ側からの攻撃がない限り、武力侵攻することはないと思っています。で、そのウクライナ側からの攻撃もゼレンスキーがそこまでバカではないと思うので、英米にそそのかされても攻撃はしないだろうと思います。クレムリン筋も戦争の可能性はほぼ否定していましたが、もちろん、ウクライナの対応如何でもあると言っていました。(2)ウクライナ危機を煽っているのは明らかに米国ですが、本来の調停者であった独仏がミンスク合意(*注)の履行をウクライナ政府に迫っておらず、ウクライナ政府がこの履行に全く真剣に取り組まなかったことが原因です。だというのに、調停者でもない米国が中心になって武器供与を進めている、ということ自体がおかしいのです。(3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。(4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。(5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。取材の結果は概ね以上だ。「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638888.shtml(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638953.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml <FA>
2022/02/14 10:37
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二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆経済安全保障政策と矛盾する自民党岸田政権は経済安全保障に関して「やった感」を出すために、中国を念頭に、AI監視技術の輸出規制をする方針を示したようだが(参照:共同通信<AI監視技術の輸出規制へ、政府顔認証機器やカメラ、中国に懸念>)(※2)、顔認証技術において世界のトップを走っているのは、基本的に中国のセンスタイム(商湯科技開発有限公司)だ。中国といっても香港ではあるが、香港はあくまでも「中華人民共和国特別行政区」の一つなのだから、中国=中華人民共和国の管轄下にある。したがって、日本がそのような輸出規制をしても中国のレベルの方が上なので、経済安全保障を実行していることにはならない(センスタイムが顔認証技術における世界のトップであることはアメリカ国立標準技術研究所が実施した「写真が本人かどうかの認識」(※3)や「データベースを参照して人物を特定する認識」(※4)などに関するベンチマークテストの結果で証明されている)。岸田首相は「経済安全保障推進法」を制定すると公約し、今月17日から開かれる通常国会では当該新法案を提出することになっている。同法の具体的内容は、その後の検討で「機微技術を巡る特許の公開制限」や「サプライチェーンの強靱化支援」あるいは「先端技術の育成・支援」など4項目を柱とすることになった。国名こそ挙げてないが、これらは明らかに「中国」を念頭に検討されたはずであり、「日本の技術が軍事転用されるリスクを回避するためだ」という暗黙の理解があるはずだ。「サプライチェーンの強靭化」は「中国ばかりに依存しないようにしましょう」ということを指している。しかし二階氏が最高顧問を務めるセンターは、各大学にいる(中国人)教員や企業などが「窓口」となって、「友誼」の衣を着て「経済安全保障」の壁を崩していくことにつながる。これは文化の衣を着て全世界の教育研究機関に拠点を置く「孔子学院」の仕掛けと同じだ。それを自民党の大物議員が、日本の大学や大手企業を巻き込んで積極的に展開しているのだから、どんなに経済安全保障の旗振りをしてみたところで、実効性は疑わしい。◆自民党は「親中派議員」が権力を握る自民党は「自由民主」であるだけに、激しい親中から激しい反中に至るまで幅が広い。二階氏以外にも福田元首相も清華大学で大活躍だ(※5)。林芳正外務大臣は、日中友好議員連盟の会長を務めていたし(外務大臣就任とともに会長辞任)、自民党内は「親中に燃える議員」が非常に多い。小泉純一郎元首相などを除けば、ここのところ権力を握るのは「親中派」であることが多く、それは公明党と連携しているからであり、政権の背後に二階氏がいたからである。「経済界」とリンクしているため票田が関わってくる事情も挙げられよう。経営者は儲けなければ社員を養えないので、親中に傾いていく。たとえば、センターの中国側コアになっている清華大学日本研究センター(※6)のページにある最初の一枚目の写真の真ん中の人物は当時の経団連会長の御手洗冨士夫氏だ。現在でも日本の最大貿易相手国は中国であることからも分かるように、経済界は中国なしでは生きていけないという側面を持っている。「そのような日本に誰がした?」と言いたい。犯人は自民党だ。何度も書いて申し訳ないが、1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を最初に破ったのは日本で、それによって中国共産党政権は息を吹き返し、こんにちの成長を成し遂げた。その中国に日本の経済界は頼らなければならなくなっているという悪循環を生んだのは自民党なのである。中国で「最も親中的な西側の党」と位置付けられている公明党との連立により岸田政権は成立しており、岸田氏自身が親中ハト派の派閥の出身なのだから、「経済安全保障」などと呪文のように唱えていても、無理をしたポーズばかりが目立つ。二階氏は自民党幹事長からは下りたが、今も国会議員なのだから、センターとの関連において釈明が求められるし、また岸田氏も首相として矛盾のない回答をしなければならない。いっそのこと、自民党は正直に「親中」と「反中」で別れた方がいいのではないか?権力を握ることだけが目的ではなく、「日本をどのような国に持って行くか」に関して真の理念を持っているなら、真剣に考えるべきだろう。いつまでもダブルスタンダードを持っていると、日本という国は存在感を無くす。中国からも甘く見られて、中国の都合の良い方にコントロールされていく。香港の民主が消滅したことからも分かるように、中国のコントロール下に置かれれば、言論の自由と個人の尊厳、特に魂の尊厳を失っていく。日本はそれでいいのか?今月17日に召集されることになっている通常国会では、ぜひ本稿に書いた事項も議論していただきたいと切に望む。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/8cc511276b3799ccc17cceb0db1dc5c53cfabc3c(※3)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt11.html(※4)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt1N.html(※5)http://jcic.jp/jp/detail-1.html(※6)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html <FA>
2022/01/04 16:54
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二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。岸田政権は経済安全保障を強調しているが、自民党の二階元幹事長は2019年に日中イノベーションセンターを設立して中国への情報提供を促進している。日本の対中姿勢は矛盾しており、自公連立政権は親中過ぎて危ない。◆二階氏が最高顧問を務める日中イノベーションセンター2019年3月、日中イノベーションセンター(※2)(以後、センター)が設立された。中国の清華大学と日本の中央大学が中心となって、産学連携を通して日中のイノベーション協力を進めていく。このページの左下にある「センター役員」というところをご覧いただきたい。そこには「最高顧問」として「二階俊博」という名前がある。二階氏は2017年に清華大学の名誉教授になっており、イノベーションに貢献するにふさわしい職位に就くなど周到な準備が成されているが、しかし紛れもない大物政治家。当時の肩書は「自民党幹事長」である。政治家として経済界を含めて、日中のイノベーション交流に貢献していくという、日本国丸抱えのような構想だ。中央大学は二階氏が卒業した大学で、清華大学は習近平が卒業した大学。この二つの大学を軸にしながら、日本の経団連など企業を中心とした産業だけでなく、大学や研究機関を中心とした研究開発に関して、互いに先端技術開発やイノベーションの情報提供をして協力し合っていこうというのが目的である。いや、むしろ、「中国に貢献しようというのが真の目的」になっていると言っても過言ではない。その証拠に、理事長の挨拶(※3)で濱田健一郎氏はセンターの役割として「中国の産学研の新しい協力の在り方のためにふさわしい能力が発揮できるように精進してまいります」と書いている。中国側の姿勢としても、「中国の経済と社会の発展のための奉仕・各級政府への政策の提案を行う」(※4)とさえ明記してある。2019年3月と言えば、当時の安倍首相が国賓として訪中した(2018年10月)ばかりのころだ。国賓として中国に招聘してもらうために、「一帯一路」に関する第三国での協力を交換条件としたほどだ。ようやく願いが叶った安倍氏は、国賓として招いてくれた見返りに、習近平を国賓として日本に招聘する約束をしてしまった。米中覇権競争が激化している今、それが国際社会に如何にまちがったシグナルを発するかは『激突!遠藤vs田原日中と習近平国賓』に書いた通りだ。センター設立から1ヵ月後の2019年4月24日には、二階氏は習近平に会い、朝貢外交を進めている(参照:2019年4月26日コラム<中国に懐柔された二階幹事長——「一帯一路」に呑みこまれる日本>)(※5)。センターの研究員制度のページ(※6)には日中の数多くの研究者たちの名前が並んでいるが、日本側に注目してみると、中央大学だけでなく、東京大学や京都大学など、非常に多くの中国人研究者が日本で研究に従事していることが見て取れる。中国側は清華大学が多いものの、国務院のシンクタンクや、中には中国共産党中央党校国際戦略研究センター教授さえおり、本センターが如何に中国共産党と中国政府のために貢献しようとしているかが明らかである。中には中国人民抗日戦争記念館館員さえいるのは、「反日」であっても構わないことを示唆していて興味深い。◆スパイを突き止める行政省庁がある一方で、対中友好な岸田政権日本の行政省庁の一つである公安調査庁は2021年春、「我が国留学歴を有する極超音速分野の中国人研究者」と題した内部資料を出した。資料自体は関係省庁などにしか配布しておらず、資料を入手することはできなかったが、周辺の関係者から概ねの話を聞くことはできた。それによれば、日本の大学や研究機関に教員や訪問学者などの職位で所属していた中国人研究者等が極超音速兵器の開発に関わる研究に携わり、帰国後、中国の関連機関で活動しているとのこと。これは日本の安全保障に関わる重要な問題で、言うならば「スパイ行為」をしていたということになる。アメリカのバイデン政権では昨年6月上旬に上院が、中国に技術が盗まれるのを防ぐことなどを含めた「米国イノベーション・競争法案」を可決している。またアメリカの大学では千人計画に関係した大学教授が逮捕されたりもしている。日本の岸田政権ではどうか。対中非難決議は見送ったし、ウイグル族弾圧など人権侵害などを行った政府当局者に制裁を与えることができる日本版マグニツキー法の制定も、岸田首相は先延ばしすると言っている。2月の北京冬季五輪に関しては昨年末、岸田首相は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長やJOC(=日本オリンピック委員会)の山下会長などを派遣すると決めた。松野官房長官は「外交的ボイコットといった特定の言葉は使わない」と言っているが、橋本氏や山下氏を派遣すれば十分だ。岸田首相は「自分は行かない」と言うことによって、あたかも対中強硬姿勢を取ったようなポーズを出そうとしているが、東京大会に習近平は来ていないのだから、岸田氏が行くか行かないかを議論すること自体おかしい。東京大会に派遣された中国側の代表は国家体育総局局長で中国オリンピック委員会主席を兼ねる苟仲文氏だった。橋本聖子は現役の自民党参議院議員である。国家体育総局は国務院直属の正部級機構(=中央行政省庁レベル)であり、苟仲文は中共中央委員会の委員でもあるので、たしかに参議院の一議員よりは少し格上かもしれない。しかし橋本議員は大臣でもあった。遜色はないはずだ。日本ではなぜか「アメリカに足並みを合わせて外交ボイコットをした」という刷り込みが成されているが、「日本は外交的ボイコットをしていない」ことを認識すべきだ。その証拠に、中国は日本への警告を発しなくなった。中国共産党管轄下にある中央テレビ局CCTVは北京冬季五輪への橋本氏や山下氏の派遣を評価して、最近では沖縄における米軍基地でコロナ感染が広がっていることに対して林芳正外相が「猛烈にアメリカに抗議した」という映像を流しては、日本の「アメリカにあらがう勇気」を礼賛している。つまり中国は「日本はアメリカに追随せず、外交ボイコットを行わなかった」と位置付けていることを表している何よりの証拠なのである。「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://jcic.jp/jp/(※3)http://jcic.jp/jp/about-1.html(※4)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190426-00123845(※6)http://jcic.jp/jp/business-1.html <FA>
2022/01/04 16:51
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ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆習近平は馬興瑞に「新疆デジタル経済と太陽光パネル基地」建設を期待アメリカからの制裁を受ける中、習近平は新疆ウイグル自治区を経済発展させることによってアメリカの対中非難に勝とうとしていると推測される。それもハイテク国家戦略「中国製造2025」に沿ったもので、深センが「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに成長したのと同じように、馬興瑞の実力を頼りに、新疆ウイグル自治区を「デジタル経済」と「太陽光パネル生産」の基地として発展させようと狙っていると思われるのである。そうでなくとも中国は国土面積が広く、1990年代から遠隔教育を推進させていた。雲南省にいても新疆ウイグル自治区にいても、北京や上海の大学で行っている講義をリモートで聞くことが出来るシステムを、世界銀行などの支援を得て構築していたし、時にはスタンフォード大学の講義を中国で聞くこともできるシステムさえ進めていた。ネット通信が発達し、特にコロナによりリモート勤務が世界的に進んだ今、中国におけるデジタル経済のニーズは増している。デジタル社会を可能ならしめるには、大量の電力が必要になる。その電力もクリーンエネルギーが奨励される中で、太陽光パネルは願ってもない手段だ。中国には「西気東輸」とか「西電東送」といった言葉があるが、これは西部大開発において1990年代から唱えられ、2000年前後に始まった、「西部にある石油や天然ガスなどのエネルギー源や電力を、経済発展著しい東沿海部の都市に運ぶ」という中国全土を覆ったネットワークである。これによって電力不足を補い、停電などによって生産ラインが止まるのを防いでいた。特に「西気東輸」の起点は新疆ウイグル自治区にあるタリム盆地だ。クリーンエネルギーが叫ばれる今、新疆ではレアアースが埋蔵しているだけでなく、太陽光パネルが生み出す、有り余る電力を、「西気東輸」や「西電東送」の考え方と同じように中国全土の電力補給に使っていこうという戦略が、このたびの新疆ウイグル自治区トップ交代の意味である。アメリカが新疆にある太陽光パネル企業に下した制裁は、「アメリカへの輸出を禁じる」という内容だ。習近平としては、アメリカに輸出できないというのは大きな痛手ではなく、むしろ中国国内における電力不足からくる社会不安を緩和する方向に電力を振り向けていこうというのが、馬興瑞を新疆に送った事実から見えてくる国家戦略なのである。国内で使うのに、「それは強制労働による電力だろう」という批難をアメリカから受ける可能性はゼロで、むしろウイグル族の人々がクリーンエネルギー生産に従事してデジタル経済を推進していくことになれば、世界からの批難が少なくなるだけでなく、新疆に経済的繁栄をもたらすので、テロなどイスラム教徒が起こす傾向にある反乱を和らげる働きをするだろうと、同時に計算している側面がある。◆「新疆‐アフガン列車」でイスラム圏アフガンの統治能力を世界に示すというのも、2021年9月8日に王毅外相がアフガニスタンの外相と話し合い、「新疆—アフガニスタン専用貨物列車」の復活を提唱したのだが(※2)、11月20日には、実際に開通したと、中国共産党の機関紙「人民日報」が報道した(※3)。アメリカはイスラム教圏であるアフガニスタンの統治に失敗したが、中国は同じくイスラム教を信じるウイグル族とアフガニスタンの経済を成長させることによって、中国の方がアメリカの統治能力を凌駕するというメッセージを発信したいものと位置付けることが出来る。習近平は米中覇権競争を、経済で絡め取って、中国の勝利に持って行こうとしているのだ。ただ、本来ならば2022年秋に開催される第20回党大会あたりで発表するはずの人事異動を前倒ししたのは、停電や不動産開発産業が招く社会不安を回避するだけでなく、西安政府の管理能力の欠如によるコロナ再感染を防ぐための不手際に対する中国政府への不信感を払拭する狙いもあるのではないか。2022年に開ける新たな幕のゆくえを見逃さないようにしたい。写真:ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202109/t20210908_9604940.shtml(※3)http://world.people.com.cn/n1/2021/1122/c1002-32287975.html <FA>
2022/01/04 11:02
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ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。昨年12月25日、新疆ウイグル自治区の書記に広東省の馬興瑞省長の就任が決まった。深センをハイテク都市にした馬興瑞の辣腕を、今度は新疆で発揮させ、アメリカから制裁を受けている分野を逆手に取っていく戦略だ。◆馬興瑞が新疆ウイグル自治区の新書記に中国政府の通信社である新華社は12月25日、中共中央が「新疆ウイグル自治区の党委員会のトップに関して職務調整を行った」と発表(※2)した。それによれば、これまで新疆ウイグル自治区の書記を務めていた陳全国に代わって、馬興瑞が新しい書記になるとのこと。同日、中共中央組織部副部長が出席する形で新疆ウイグル自治区は幹部会を開催し、陳全国や馬興瑞などがスピーチを行っている(※3)。馬興瑞のスピーチで注目すべきは「私は習近平総書記の熱意を込めた依頼をしっかり心に留め」という言葉と、「苦労して勝ち取った新疆の安定を決して逆転させないことを誓う」および「そのために人民を中心として質の高い経済発展を促進する」という決意だ。◆馬興瑞が持っている特殊な才能馬興瑞(62歳)は工学博士で教授、国際宇航(宇宙航行)科学院の院士でもあり、「若き航空元帥」という綽名さえ持っていた。そのため2007年から2013年3月まで中国航天科技集団公司の総経理を務めていただけでなく、中国有人航天工程副総指揮や中国月探査工程副総指揮(2008年11月から2013年3月)をも兼任していた。2013年には目まぐるしい変化があり、3月に突然、中央行政省庁の一つである「工業と信息(情報)化部」の副部長(副大臣)や国家航天局(宇宙局)局長など、行政方面への職位を与えられた。だというのに11月になると習近平は突如、馬興瑞を広東省(中国共産党委員会)副書記に任命したのだ。異常な人事異動だ。2015年から2016年までは深セン市の書記なども兼任しながら、2017年には広東省(人民政府)の省長に任命されている。途中はあまりに細かく複雑で兼任が多すぎるので省略する。広東省にいる間に最も注目しなければならないのは、馬興瑞は広東省の凄まじい経済発展に貢献しただけでなく、中国のシリコンバレーといわれるほどの深センを、さらにハイテク化に向けて磨きをかけ、アメリカに脅威を与えるレベルにまで成長させたことだ。広東省が如何にすさまじい発展を遂げたかに関して、おもしろいYouTube「中国各省区市 歴年GDP変化」(※4)がある。1978年から2020年までの中国の省や自治区および直轄市などの各行政地区におけるGDPのランキングを追っている。最後は広東省が中国一になっていく様子をご覧いただきたい(出典は「史図書」、個人の動画投稿者が作成)。◆「中国製造2025」発布時期と一致一方、2012年11月15日に中共中央総書記に就任した習近平は、翌12月に最初の視察先として深センを選んだ。そこは父・習仲勲が「経済特区」と命名して開拓した地。トウ小平の陰謀によって16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を強いられたあとの習仲勲の仕事への奮闘ぶりはすさまじかった(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。その深センで誓いを立てたかのように、習近平は北京に戻るとすぐにハイテク国家戦略「中国製造2025」に手を付け始めた(詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平は何を狙っているのか』)。思うに、おそらくこの線上で、突如、馬興瑞を広東省に派遣することを習近平は決めたのだろう。だから異動のさせ方が尋常でない。そしてこのたびの新疆行きで、馬興瑞は「質の高い経済発展を促進する」と言っている。これはいったい何を意味しているのだろうか?◆新疆デジタル経済の急成長2021年1月21日、新華網は<新疆デジタル経済は去年の10%増で、新疆GDPの26%を占める>(※5)と発表している。そこには以下のようなことが書いてある。・5GやAIあるいはビッグデータなどの次世代情報技術と実体経済を融合発展させたことが奏功した。・新疆では昨年(2020年)、長城(科技)集団(中国最大の国有IT企業グループ。深セン)や中科曙光(中国スーパーコンピュータ大手)が投資してウルムチ工場が稼働し、(新疆)ウルムチの情報技術イノベーション産業基地の構築を加速させた。・(新疆)コルガス市の半導体チップ・パッケージング・テストプロジェクトの大規模生産が実現した。・新疆ソフトウエア・パーク第1期に230企業がパーク入りした。・新疆における5G基地局数はこれまでに6272カ所となり、5Gユーザー数は275万世帯に達した。新疆における産業インターネットの活用は新エネルギー、石油・天然ガス採掘、電力、設備製造など20余りの重点産業に広がり、デジタル化設計やスマート製造、ネットワーク連携などの新モデルが急速に普及している。・デジタル経済大発展を推進することは、新疆の経済社会デジタル化を全面的に転換させる重要な転換点であり、エネルギーと化学、繊維と衣服、機械と設備、採掘産業などの主要産業で両者の深い統合を促進する(概略引用はここまで)。このように新疆ウイグル自治区は、実はデジタル経済に関して意外なほど力を注ぎ、急成長しているのである。◆アメリカが制裁対象とした新疆の太陽光パネル企業それだけではない。2021年6月24日、アメリカ商務部は太陽光パネルの材料などを生産する新疆ウイグル自治区の企業5社について、「強制労働や監視活動など、人権侵害に関わった疑いがある」という理由で、制裁リストに入れた(※6)。これら5社は今後、アメリカ企業との取り引きができなくなる。中国は太陽光パネルの世界最大の生産地だが、パネルの材料の1つであるポリシリコンの多くが新疆ウイグル自治区で生産されていることがアメリカ議会で問題視された。つまり「新疆の太陽光パネルが廉価なのは、強制労働をさせているからだ」ということが問題になったのだ。世界のシリコン生産量は中国が最大で、世界の67.9%を生産している。工業用シリコンは、中国の中でも水資源などが豊富で水力発電が進んでいる四川省や雲南省が半分ほどを占め、20%を新疆ウイグル自治区が占めている。なぜなら工業用シリコンは莫大な電気量を消耗するので、埋蔵量以外に、電力供給が豊潤な地域でないとコストが高すぎて採算が合わない(雲南:数百本の川がある。四川省:長江など水資源が豊富。新疆:もともと石炭埋蔵量が多く、イリ川などを利用。加えて中国最大の石油・天然ガス中継点)。工業用シリコン生産過程の総コストの30~40%は電力である。新疆産の太陽光パネルが安価なのは電力が安価だからだ。新疆・四川・雲南の電気代は1kWh当たり(日本円に換算すると)「5.44円」であるのに対し広東省は「10.8円」、上海は「17.58円」だ。中国国内でも差がある。それが太陽光パネルの価格に反映している。ちなみに東京電力の業務用電力は1kWh当たり「 17円前後」だ。上海と変わらない。新疆では特にポリシリコン製造に特化し、太陽光パネルを大量に生産している。となると、その太陽光パネルによる電力をポリシリコン製造に使えるので、まるで自己増殖的な生産サイクルが出来上がり、安価な太陽光パネルを生産できるのである。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)(※7)は「アメリカで販売されている太陽光パネルの約85%は輸入品で、その多くは中国企業が製造している」とした上で、「2035年までに電力網をカーボンフリーにしたいと考えているバイデン政権にとって、中国の太陽光パネル産業を制裁ターゲットにするのは難しいのではないか」と報道している。さらに業界団体や関係者は「世界で販売されている太陽光パネルの大半は、中国の技術に依存している。中国はサプライチェーンのすべての部分、特に太陽光パネルの原料となるシリコンウエハーの生産において、リーダー的存在だ」と言っていると、WSJは懸念を伝えている。つまり、中国の太陽光パネル関連企業を制裁リストに入れることによって最も困るのはアメリカではないかという疑念を呈しているのだ。「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2021-12/25/c_1128200257.htm(※3)http://news.ts.cn/system/2021/12/25/036754869.shtml(※4)https://www.youtube.com/watch?v=akzKDf-gyg8(※5)http://www.xinhuanet.com/2021-01/21/c_1127009290.htm(※6)https://www.reuters.com/business/us-restricts-exports-5-chinese-firms-over-rights-violations-2021-06-23/(※7)https://www.wsj.com/articles/biden-to-deter-forced-labor-with-ban-on-chinas-solar-panel-material-11624501427 <FA>
2022/01/04 10:58
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中央経済工作会議「習近平重要講話」の「三重圧力」に関する誤解と真相【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。8日から中共中央政治局が開催した中央経済工作会議で習近平が問題点を「三重圧力」として警告した。これに関して日本の某氏が「習近平体制転覆の可能性」と書いたので一部混乱を招いているようだ。某団体から講演依頼を受け説明を求められたので、不本意ながら解説する。◆中央経済工作会議における習近平の重要講話:「三重圧力」指摘中共中央政治局は、12月8日から10日にかけて中央経済工作会議(以下、会議)を開催した(※2)。主催したのは中共中央総書記である習近平で、中共中央政治局委員をはじめ、全人代(全国人民代表大会)や全国政治協商会議の関係者および各地方政府の代表などが出席した。この会議は毎年12月に開催され、先ずはその年の中国経済に関して総書記(現在は習近平)が問題点の指摘や総括などを含めた講話をし、次に(後半で)国務院総理(現在は李克強)が翌年の経済目標などに関して講和するという順番になっている。その結果を毎年3月5日に開催することになっている全人代で国務院総理がその年の経済方針として発表するという仕組みだ。習近平が招集したので、まずは習近平が前半の重要講話を行い、1年間の経済状況の総括をするとともに、現在の問題点として「三重圧力(三重苦)」を指摘し、これを警戒し解決に向かって来年の経済計画に反映させよという趣旨のことを述べた。党と政府の「公報」では「会議は」という主語しかないが、先ず述べられたのが「三重圧力」であるということと、これは今年の問題点指摘と総括部分の話なので、習近平が述べたものと断定することができる。この「三重圧力」として習近平は以下の三つを挙げている(筆者の解釈を含めてご紹介する)。1.需要の縮小(中国語:需求収縮)需要には内需と外需があるが、中国以外の国におけるコロナ感染が落ち着きを見せ経済復帰しつつあるため、それまでに海外から殺到した需要が減少していく可能性があるので、内需を充実させよ。コロナによる買い控えにより消費が減少している。一方では海外におけるサプライチェーンの停滞にも警戒せよ(筆者注:たとえばアメリカにおける過度のコロナ給付金により働く人が少なくなって、中国は受注を受けてもアメリカのコンテナが動かないので、中国からの物資をさばけないなどの情況もある)。2.供給の衝撃(中国語:供給衝撃)石油石炭など原材料の価格高騰がもたらした衝撃を指している。なお、それを受けて、一部地域で電力使用の制限などの措置を講じたため停電や生産ラインの停滞を招いたが、今後はそのような措置を取らずにエネルギー消費の質を高めてエネルギー源の価格高騰に備えるとしている。3.期待の低下(中国語:預期転弱)コロナや国際情勢などにより、投資すればいくらでも儲かり成功するといった市場への期待が弱まっているだけでなく不動産問題などがあるため、融資を受けて起業しようとすることやビジネスを拡張していこうという意欲が減少し、不動産購入リスクを警戒して買い控える傾向にある。これに関しては国家が自己改革を推進するとともに消費者が自信を取り戻すべく構造改革を行っていかなければならない(筆者注:習近平は不動産バブルを警戒しているので抑制を図っているが、それは融資に関する監督強化につながるため、多様な分野における改革が必要とされている)。習近平は「三重圧力」以外にも多くの現状分析と問題点を指摘して来年への指針とつなげているが、全て書くと長文になるので、ここでは取り敢えず「三重圧力」にのみ対象を絞って説明を試みた。◆某氏は「三重圧力」指摘を「習近平政権転覆の可能性」と分析これに対して某氏が<中国・中央経済工作会議の中身から「習近平体制転覆の可能性」が見えてきた>(※3)という分析を発表したらしい。講演依頼者はそれを読んで混乱し、講演では事の真相を解説してほしいと依頼してきた。筆者は某氏の分析を読んでないし、タイトルを見ただけで、とても読んでみようという気にはなれず、依頼者に「何が書いてあり、どのようなことに混乱したのかを説明してほしい」とお願いしたところ、某氏が書いている以下の点の真相を説明してほしいという返答が来た。(1)この会議で、中国経済が1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明だという「三重圧力」に直面していると指摘されたことはなぜかほとんど報じられていない。経済は需要と供給からなるわけだが、需要もダメ(需要の収縮)なら供給もダメ(供給に対する打撃)であり、さらに先行きも厳しいということになると、全面的にダメだということにはならないか。これは習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論であり、中国共産党内部の権力闘争という見地からは看過できない内容となっているのである。(2)「中央経済工作会議」において習近平の経済政策についてこれだけ正面切った批判を許す形になったのは、あまりに激しい経済的な落ち込みに対する反発が党内でも猛烈に高まっていることを示している。次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなったのではないかーー。「中央経済工作会議」の展開を見ると、そんな意外な中国の実態が見えてくるのである。講演依頼者はほかにも多くの点を指摘し、次回の講演で真相を解説してほしいと問題提起してきた。いや、「真相」も何も、この某氏はそもそも中国語が読めないのではないかと思うし、もし読めるなら、中国の政治構造のイロハを全く知らないのではないかとさえ思う。だから「論外だ!」と片づけたいが、この依頼者のように、少なからぬ日本人が某氏の分析を読み、それを通して中国の現状理解をしているとすれば、これはかなり罪深いことだと思うので、不本意ながら不特定多数の読者のためにも、何が間違っているかを指摘する必要があるのではないかと思われた。◆某氏の分析の間違い以下、某氏の分析の間違いをいくつか列挙してみよう。A:そもそも、会議は習近平が主催し、「三重圧力」は習近平自身が言っている言葉なので、習近平に対する「正面切った批判を許す形になった」という事実は存在しない。中国の政治構造に関する理解が欠如しているための誤解で、そもそも中国語が分かるなら、原文には習近平が重要講話を行ったと明記している。あるいは原文を読んでいないのかもしれない。B:日本で「三重圧力」がほとんど報道されていないというが、あるいは正しくは報道されているとしても、某氏のような誤解釈した形で報道されるケースは少ないというだけではないのか。C:「三重圧力」に関して某氏は「1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明」と定義しているが、「1)需要の収縮」は間違った翻訳ではないが、「2)」と「3)」は誤訳であり、中国語能力の問題ではないだろうか。まして況(いわん)や、習近平自身が言った言葉なので、「習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論」とはならない。D:したがって「次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなった」ということにはつながらない。それ以外にも某氏は「地方公務員の所得が激減中」とか「今年の第二四半期にかつては十万人程度で長年安定していた上海の失業保険の受給者数が50万人を突破するところまで伸びた」などという例を挙げて「中国の経済崩壊」を示唆しているようだが、これも中国の実情をあまりに理解していないことを露呈しているとしか言いようがない。公務員の収入が不平等に多すぎ、給料だけでなく賞与や不動産手当てなど様々な収入があるため、一部の地域では一般庶民の収入との格差が非常に大きくなっている。あまりに高収入なので今年の公務員試験の倍率は、分野によっては約2万倍という部署もあり、異常な状況にあるくらいだ。当然庶民の不満も噴出しているので、中国政府は今年、この格差を是正するための通知を発布したほどだ。また上海における失業保険受給者が急増したのは、2020年8月から非上海籍の人でも上海で失業保険を受けることができるようになった(※4)ことに起因する。出稼ぎ者も働いている現地で失業保険をもらえるというように、支給対象を広げたからに過ぎない。◆中国経済崩壊論は日本に利するのか?このように某氏は、何が何でも「中国経済が崩壊する」方向に強引に持って行きたいようだが、これは某氏に限ったことではない。ともかく「習近平政権が崩壊する」とか「中国経済が崩壊する」と言えば日本人が喜ぶので、本が売れて、より多くのネットユーザーが記事を読んでくれる。たしかにそういった分析を読む方が、気がスッとするし愉快なのではあろう。その気持ちは理解できないではない。しかしそうやって少なからぬ日本人が虚空の中国崩壊物語に酔いしれている間に、中国は確実に成長し、経済力と軍事力もアメリカに近づき、やがて凌駕しようとしているという現実が進行しているのである。中国経済崩壊論に期待すること20年以上。明日にも崩壊する、今度こそ崩壊するという「甘い言葉」に誘われて偽の物語に酔いしれるのは、日本という国にいかなるメリットももたらさない。それでも崩壊しない現実にぶつかると、発信者側は「今度こそは崩壊する」と、しつこく「勧誘」してくる。その目的のために事実を歪曲するのは罪深い行為だ。どんなにいやな事実でも、不愉快な現実を直視する方が日本人を守ることにつながる。しかしネット時代は「言論の自由」があるようでいながら「選択の自由」が優先していて、どんなに事実と乖離していても「自分好みの意見」だけを選ぶ傾向にある。そして、そこに寄り集まる。これは日本に限らず世界中に散見される現象だ。注意を喚起したい。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2021-12/10/content_5659796.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/articles/1d6f77e5add48925801686d1f61cc4e8327fbf3e(※4)https://economy.caixin.com/2021-12-09/101815833.html <FA>
2021/12/27 10:23
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彭帥さん、告白文を書いたことを認め、「性的侵害」を否定:シンガポール紙に肉声と動画【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。19日、上海に行き自由行動をしていた彭帥さんは、突然シンガポール紙の取材を受け、ウェイボーに告白文を書いたことを認めた上で「性的侵害ではない」と主張した。その動画に基づいて真相を再考察する。◆彭帥を突然取材したシンガポール紙「聯合早報」の動画12月19日、彭帥(ほうすい)さん(以下、彭帥)は上海で開かれたスキー競技を、NBA(米プロバスケットボール協会)の選手だった長身の姚明(ようめい)さんらと観戦したあと、周辺を散策していた。すると、ある人物がいきなり彭帥に話しかけてきたので、彼女は非常に怪訝な顔をした。しかし「あ、テレビ局?」という問いに、相手が「はい、そうです。聯合早報です」と答えると、すぐに態度を変えて、取材に応じた。その一部始終を聯合早報のユーチューブ(※2)で観ることができるので、この動画に沿ってご説明したい。まず聯合早報の記者(以下、記者)が「以前、あなたはウェイボーでメッセージを発表したじゃないですか・・・」と言ったときに、彭帥は何度かうなずいている。動画の「1:39」あたりをご覧いただきたい。11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※3)で書いたように、11月2日、彭帥がウェイボーに長いメッセージを書いて、張高麗元副総理(以下、張高麗)との男女関係に関して告白した。動機は、10月30日に「11月2日に会おう」と約束したのに、11月2日になって張高麗がドタキャンしてきたことに対して激怒したからだ。同コラムに書いたように筆者は2012年春に天津にいた教え子から張高麗(当時、天津市書記)に関して「不倫をしているらしい」という噂を聞いていた上に、彭帥がウェイボーで公開した文章があまりに乱れていることから、これは確実に彭帥自身が書いたのであって、他の人が成りすましで書いたものではないと断言していた。日本の「中国問題に詳しい専門家」と言われる人たちの一部が、「これは権力闘争で、習近平を陥れるために書いた可能性がある」という陰謀説を流していたが、もし誰かが彭帥に成りすまして書いたのなら、すぐに当局に見つかり捕まるし、そもそも彭帥が「あれは私が書いたものではありません!」と、ひとこと言えば解決する話なので、陰謀説など笑止千万と断言する自信があった。それでも日本では陰謀説に喜ぶ視聴者や読者が多く見方が分かれていた。しかしこのたびの聯合早報の動画は、筆者の視点が正しかったことを裏付けてくれたので、詳細に再考察したい。記者は、CGTN(中国グローバル・テレビ・ネットワーク)がツイッターで公開した、彭帥からWTA(女子テニス協会)宛てに書いたとされる英語のメールが、本人が自身の意思で書いたものか否かを聞き出そうとしていたのだが、その質問を遮って彭帥は強い口調で以下のように述べている(文字起こしは筆者)。——まず最初に、私が強調したい点は、非常に重要なんです。私は一度も、誰かが私に性的侵害をしたと言ったことはないし、書いたこともありません。この点は、何としても強調し明確にしなければなりません。それから、あのウェイボーに書いたことですが、あれは私個人のプライバシー問題で。あれは既に、きっとこれは、皆さんが多くの誤解をしていて、だから…、いかなる…、つまり…、こんな歪んだ…、こんな解釈など、存在しないのです(引用ここまで)。話し言葉なので、主語述語がチグハグと行ったり来たりすることは誰でもあることとは言え、この言い回しは、11月2日のウェイボーに書かれた文章を想起させ、なおさらのこと、あの文章は間違いなく、彭帥自身が書いたものであることを確信させた。加えて、彼女が「性的侵害」という言葉を口にした時の表情をご覧いただきたい。中国語では「性侵」と表現し「シンチン」と発音するが、「2:26」のところで、この発音を聞き取ることができれば、彼女が言いにくそうにしながら、しかし言った瞬間に頬を赤らめたのが見て取れる。張高麗との関係は真実だったということだろう。それが表情に顕われてしまいながら、彭帥は「あのウェイボーのメッセージは確かに自分が書いたが、性的侵害(性侵)を受けたとは書いてない」と言っているのである。これはつまり、「同意の上」でのことで、「性的暴力ではない」と明言したことになる。◆彭帥は張高麗を「愛していた」11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※4)に貼り付けた彭帥が書いたウェイボーのメッセージには、彭帥が張高麗を「愛していた」ことを証拠づける表現がいくつかある。その中の一つを以下に示す。——7年前のあなたへのあの感情が蘇(よみがえ)ることに怯え慌てふためきながら、私は同意したのです……そう、つまり、私たちは性関係を持ったのです。感情というものは複雑で、言葉で表現できないものですが、あの日から私はあなたへの愛を再び打ち開き、その後あなたと一緒に過ごした日々の中で、付き合うだけなら、あなたは本当にとっても、とっても良い人で、私に対してもとっても良くしてくれて、私たちは近代史から古代に至るまでおしゃべりしたり、あなたは私に万物の知識や経済学とか哲学なども話してくれて話が尽きませんでした。一緒にチェスをしたり、歌を歌ったり、卓球やビリヤードをしたり、特にテニスのことになると、私たちは永遠に、いつまでも楽しく過ごせると思ったし、性格だって、あんなに気が合うので、何でもうまくいくような気がしました(引用ここまで)。あのウェイボーには複数個所にわたり、彭帥の張高麗への愛が切々と書かれており、苦しい思いが伝わってくる。愛していて、同意の上だった。ウェイボーの文章と聯合早報の動画は、それを明確に示している。これ以上の証拠はないと言っていいだろう。もっとも、プライバシーと言うなら、なぜ告白してしまったのかと言いたくなる。それくらい愛していたために怒りが抑えられなかったと解釈するしかない。◆彭帥はなぜ取材を受けられるようになったのか?これは個人的感想になるが、彭帥のような真っすぐな性格のアスリートは、「ウソをつけ」と命令されても承諾しないだろうと推測される。そこで11月2日にウェイボーを発信した後しばらくは当局(中国政府のしかるべき部局)の監視下にあり、彭帥は自由を奪われただろうが、当局としては彭帥の性格上、「このようなことはなかったものとして行動しろ」とは言えないことが分かったので、せめて上記のような真実は「聞かれたら言う」けれども「監視などされておらず、自由だ」と主張してくれればそれでいいと判断したのではないかと思うのである。つまり、そういう条件で一定程度、自由行動を許したのではないだろうか。当局は、その方が中国が国際社会から批難を受ける程度が低くなると判断した可能性がある。事実、彼女は記者の「監視されているのではないのですか?」という質問に対して「なんで私が監視されなければならないんですか?私はずーっと自由です!」と非常に不機嫌に答えている。注目すべきは、聯合早報の記事は、動画とともに大陸でも観ることができる形で開放されている(※5)ということだ。習近平は、1990年代に再びトウ小平によって失脚に追い込まれた父・習仲勲に親切にしてくれた張高麗を高く評価して、2012年の第18回党大会におけるチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の一人に任命した。だから、その任命責任があるが、党の紀律検査委員会から見れば道徳的に許し難いとしても、「同意の上」での行為であるなら、処罰しにくい面もあるだろう。特に今は来年の北京冬季五輪を無事に終えたいし、来年秋の第20回党大会も控えている。したがって彭帥が「同意の上だ」ということと「監視などされておらず、全く自由だ」と言ってくれるなら、国際社会は非難しようがなくなるので、取材を受けることを許し、静かに時間が過ぎていくのを待つことにしたのだと解釈される。張高麗に関しては、密かに自由を奪い、厳しい監視の下に置いていることは疑う余地がない。しかし表面的には今は動かず、じっと第20回党大会が無事に成功するのを待ち、それが過ぎれば具体的措置が何か下る可能性も秘めているのかもしれない。しばらく成り行きを観察したい。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/watch?v=vwgr6EMEen8(※3)https://grici.or.jp/2794(※4)https://grici.or.jp/2794(※5)https://www.zaobao.com.sg/realtime/china/story20211219-1224709 <FA>
2021/12/21 10:26
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『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆2008年、いち早く北京五輪サポートの声を上げた日本そのような中、いち早く北京五輪をサポートすべきだという声を上げたのは日本である。2008年4月2日、当時の日本の福田首相は「人権にかかわるようなことがあるならば、懸念を表明せざるを得ない」と述べる一方で、北京オリンピックの開会式に出席するのかどうかについて聞かれると「中国が努力している最中に参加するとかしないとか言うべきではない」と発言したことで有名である。そして5月6日~10日、胡錦涛を国賓として日本に招き(※2)、天皇陛下に謁見するところまで持って行った。天安門事件発生後の対中経済封鎖をいち早く解除させて、その後の中国経済の成長を可能ならしめた日本と同じく、この時もまた日本が中国(=人権弾圧をする中国共産党政権)に救いの手を差し伸べたのだ。中国はこの味を十分に知っている。だからこそ今般の北京冬季五輪の外交的ボイコットに関して、12月10日にコラム<中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること>(※3)に書いたような現象が起きるのである。日本をテコに使うのは中国の常套手段だ。そのために日本国内に多数の親中議員を養成することに中国は(建国以来)余念がない。「侵略戦争への贖罪意識」を利用すれば、日本は中国の思う方向にコントロールできると、中国は高を括(くく)っている。◆中国が出した『アメリカ民主の状況』白書しかし、アメリカに対してはそうはいかない。だから12月6日、中国の外交部は『アメリカ民主の状況』と題した白書を発布した(※4)。アメリカの民主は金権政治であり、一人一票と言いながら実際は少数エリートが統治しているにすぎず、民主は混乱し崩壊していると酷評している。白書はまた以下のようなことを列挙している。——たとえばトランプ(元大統領)支持派による議会乱入事件、黒人差別をやめることができない激しく長い人種差別社会の慣行、激しい貧富の格差、コロナ感染をコントロールできない惨劇、有名無実の言論自由、民主を広めるという名目により朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争・・・と数多くの戦争を繰り返してきた。民主を口実にした無用の戦争によりどれだけ多くの無辜の民の命を非人道的手段により奪ってきたか。しかもアフガニスタンにおける戦争と占領により、他の民族国家に対する強硬な民主の押し付けは失敗に終わったことを歴史は証明している。アメリカがなぜ世界に次から次へと戦争を仕掛けるかは、政権は軍事産業を味方につけておかないと成立しないからだ。軍事産業で製造された武器をさばくために戦争を仕掛けている。その時に使うのが「民主主義のため」という虚偽の正義に過ぎない。最近では制裁を乱用して国際ルールを破壊していることも含めて、アメリカの民主の、人類に対する罪は重い。(以上概略と趣旨を紹介。)このように、白書の口調は激しい。今年6月に、習近平政権は胡錦涛政権の白書のリニューアル版である『中国新型政党制度白書』(※5)を出しているが、そういったトーンとは異なり、実に攻撃的だ。この『アメリカ民主の情況』白書は、どこからどう見てもバイデン大統領が提起した「民主主義サミット」に対抗したものであるとみなすことができる。◆バイデン政権主催の「民主主義サミット」は中国に痛手か?しかし、その肝心の「民主主義サミット」だが、対中包囲網としての効果があっただろうか?サミットはおよそ110の国と地域の代表を招いて12月9日から2日間にわたってオンラインで開催された。ということは、おおよそそれと同じ数に相当する国が「非民主主義国家だ」として招かれなかったことになる。中国やロシアを専制主義国家の代表とするのは分かるにしても、シンガポールといった国まで「非民主主義国家」と区分されており、アフリカ54ヵ国の内、招かれたのはわずか17ヵ国。残りの37ヵ国が「非民主主義国家」に分類されている。このようなことをしたら、約100近い国を、「さあ、中国側に付きなさい」と追いやったようなもので、習近平やプーチンは、むしろ「ニンマリ」ではないだろうか?なぜなら招かれた100強の国や地域も、米中覇権競争の中で政治的にはアメリカを向く傾向はあるものの、経済的には中国に頼っているため、「アメリカ側に付きます」とは表明できない。特に力のない国々は、むしろ中国側に「良い顔」をしていないと生存できないので、意思表示はできない。多くの国は米中のはざまで「漁夫の利」を得ながら泳いでいる方が好都合なのだ。二者択一を迫るようなサミットに積極的に出たいという国の数は圧倒的に少ないだろう。案の定、サミットは盛り上がりに欠け、アメリカの影響力の低下を逆に露呈してしまった。言論と人権を弾圧する中国共産党の一党支配体制を維持させないようにするのは歓迎するが、その方法は稚拙と言っても過言ではない。「排除の論理」では、国際社会を一つに結び付けるのは困難だ。おまけに最も強く結ばれているはずの日米が反対方向のベクトルを向いていて、12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※6)に書いたように、日本は中国に有利な方向にしか動いていない。バイデンは日米豪印という安全保障上の枠組み「クワッド」の一員に留めておきたいため、インドを「民主主義国家」のリストの中に入れたようだが、そのインドとて、実はスウェーデンのシンクタンクV-DEMが調査データとして出しているように、インドは「選挙による独裁国家」、「専制主義国家」として分類されているのである(※7)。決定打は台湾に関する扱いだ。本来ならこのサミットは台湾の代表として「中華民国」蔡英文総統を招き「一つの中国」を崩すのが中国にとって致命的になれるはずだったと思うが、招いたのはデジタル大臣のオードリー・タン(唐)で、しかもオードリーが台湾と大陸を色分けした地図を示しながら講演したのだが、その画面はアメリカ側によって一瞬で遮断され台湾で物議をかもしている(※8)。バイデンは「北京」に配慮したのだ!なんという中途半端なサミットだろう。バイデンの動き方は何とも臆病で「だらしない」。パフォーマンスに過ぎないことを、ここでも露呈してしまう結果を招いている。世界戦略にかけては、残念ながら中国は長期的で「戦略」に長けている。アメリカは、もっと深く鋭い思慮に基づいて世界戦略を練り直さなければならないだろう。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.china.com.cn/zhibo/zhuanti/hjtfr/node_7044169.htm(※3)https://grici.or.jp/2814(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202112/t20211205_10462534.shtml(※5)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/44691/Document/1707421/1707421.htm(※6)https://grici.or.jp/2810(※7)https://www.v-dem.net/media/filer_public/74/8c/748c68ad-f224-4cd7-87f9-8794add5c60f/dr_2021_updated.pdf(※8)https://tw.news.yahoo.com/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%B3%B0%E6%9C%83%E9%A2%A8%E6%B3%A2-%E5%94%90%E9%B3%B3-%E5%85%A9%E5%B2%B8%E5%9C%B0%E5%9C%96-%E7%82%BA%E4%BD%95%E6%B6%88%E5%A4%B1-%E8%B7%AF%E9%80%8F-091001099.html <FA>
2021/12/14 16:10
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『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。北京冬季五輪ボイコットと民主主義サミットに合わせたように、中国は『中国の民主』と『アメリカ民主の状況』という白書を発表(※2)した。2008年の北京五輪に向けても中国は民主白書を出している。中国の主張とサミットの対中効果を考察する。◆白書『中国の民主』中国の国務院弁公室は12月4日、『中国的民主(中国の民主)』と題した白書を発表した。白書では、「民主」は全人類共通の価値であり、中国共産党と中国人民が一貫して掲げてきた重要な理念であるとしている。白書は冒頭で以下のように述べている。——100年来、中国共産党は「人民民主」の旗を高く掲げ、数千年にわたる封建社会の歴史と半植民地・半封建社会と化した近代の国家において、「人民が主人公」である国家を実現すべく人民を導いてきた。こうして中国人民は国家と社会と自分の運命の真の主となり得たのである。(引用ここまで)白書では「中国の民主」を「人民民主」あるいは「社会主義民主」という言葉で定義づけており、決して「民主主義」とは言わない。「民主主義」という言葉は、毛沢東が建国当初まで主張していた「新民主主義革命」と「新民主主義勝利」という単語以外では使っておらず、2万字以上の白書の中で、この「新民主主義」は2カ所にしか出てこない。したがって白書に出てくる「民主」という単語を「民主主義」と日本語訳した時点で、中国政治の構造を十分には理解していないということになる。『中国の民主』白書ではまた、以下のようにも言っている。——ある国が民主的であるか否かは、その国の人々が判断すべきだ。外部の少数の者あるいは独善的な少数の国が判断すべきではなく、国際社会が判断すべきである。民主には各国各様にさまざまな形があり、一つの物差しで測るべきではない。民主は特定の国の専売特許ではないので、他の国の民主の度合いを特定の国の物差しで測ること自体、非民主的である。(引用ここまで)。この「独善的な少数の国」は明らかにアメリカを中心とした西側諸国を指しており、このたびの白書がアメリカの対中包囲網を意識したものだと言っていいだろう。◆2005年と2007年にも「中国の民主」に関する白書しかし、「中国の民主」に関する白書が出されたのは今回が初めてかというと、そうではない。胡錦涛政権時代の2005年10月に『中国の民主政治建設』(※3)という白書が国務院から出されており、2007年11月には『中国政党制度』(※4)という白書が出されている。この『中国政党制度』は、「社会主義民主」や「多党合作制度(八大民主党派などを中心とした中国の国家政治権力体制)」などを中心に述べたものであり、同じように「中国式民主」を礼賛したものである。中国は胡錦涛政権における2008年8月8日に北京五輪(オリンピック・パラリンピック)を開催することになっていたが、当時はチベット族を中心とした暴動と鎮圧が激しく、国際社会は北京五輪を支持すべきか否かに揺れていた。そのため胡錦涛としては「中国がいかに民主的であるか」そして「中国には中国の民主があるのだ」ということを国際社会に向けて発信する必要に迫られていた。しかし2008年3月10日にチベット自治区ラサ市でチベット独立を求めて起きたデモをきっかけとして、いわゆる「チベット動乱」が発生し中国当局が激しい鎮圧をすると、国際社会は北京五輪ボイコットを叫んで騒然とした。「中国の民主」に関する一連の白書は、こういった動きを未然に防ぐために出されたものだったが、結局国際世論はボイコットするか否かで大きく揺れた。そもそも胡錦涛はかつてチベット暴動を武力で鎮圧したことを高く評価されて、トウ小平により「江沢民の次に国家主席になれ」と任命された人物だ。「『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/44691/Document/1717212/1717212.htm(※3)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/2005/Document/307899/307899.htm(※4)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/2007/Document/307872/307872.htm <FA>
2021/12/14 16:06
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中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。上記の記者会見で香港の記者との質疑応答で提起された国連総会における決議は以下のようなものである。英語版に関してはUNGeneralAssemblyadoptsOlympicTruceforBeijing2022,highlightingthecontributionofsporttothepromotionofpeaceandsolidarity(国連総会が2022年北京大会のオリンピック休戦協定を採択、平和と連帯の促進に向けたスポーツの貢献をアピール)(※2)にあり、中国語版はこちら(※3)にある。12月2日にニューヨークで開催された第76回国連総会において、193の全加盟国の内173の加盟国が共同提案した「BuildingapeaceandbetterworldthroughsportandtheOlympicideal(スポーツとオリンピックの理想による平和でより良い世界の構築)」と題した決議案を無投票で採択した。193−173=20ヵ国が共同提案に加わっていない。中国外交部報道官・汪文斌が言った「173ヵ国」はこの数値を指しており、中国としては強気なのである。上記の記者会見における中国外交部報道官の回答をできるだけ詳細に書いたのは、これら173ヵ国が、こういったセリフに惑わされていることを知っていただくためだ。◆ボイコットに対するIOC声明12月6日、IOCはアメリカの外交的ボイコット表明を受けて、IOCstatementontoday’sannouncementbytheUSgovernment(本日の米国政府の発表に対するIOCの声明)(※4)を発布した。そこには概ね、以下のようなことが書いてある。——政府関係者や外交官の出席は、各政府の純粋な政治的決定であり、政治的中立性を有するIOCはこれを完全に尊重します。同時に、今回の発表は、オリンピックと選手団の参加が政治を超えたものであることを明確にしており、私たちはこれを歓迎します。選手とオリンピックへの支援は、ここ数ヶ月の間に何度も表明されており、最近では、先週ニューヨークで開催された第76回国連総会における国連決議でも表明されています。この決議は、2022年北京オリンピック・パラリンピック競技大会において、オリンピック競技大会開始である2022年2月4日の7日前から、パラリンピック競技大会終了の7日後まで、オリンピック休戦を遵守することを求めています。また、「すべての加盟国に対し、オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間中およびそれ以降において、紛争地域における平和、対話、和解を促進するツールとしてスポーツを活用するための国際オリンピック委員会および国際パラリンピック委員会の取り組みに協力することを求める」としています。(引用ここまで)中国外交部の発表によれば、国連決議を起草したのは「中国とIOC」であるとのことだ。◆中国にとって最も痛手となるのは日本がボイコット宣言をすること上述の国連における共同提案に参加しなかった20ヵ国の中に日本がある。しかし日本はアメリカの外交的ボイコットに対して即応していない。ボイコットの理由となっている新疆ウイグル自治区における人権問題に関わった当局者たちを罰することができる日本版マグニツキー法の制定も延期してきた。12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※5)に書いたように、林外相は非常に積極的に日中友好を謳いながら王毅外相に接近し、来年の日中国交正常化50周年記念を中国と協力しながら祝賀したいと、自ら積極的に王毅外相に伝えている。中国にしてみれば、どんなにアメリカから制裁を受けたり攻撃されたりしようとも、日米同盟で固く結ばれているはずの日本は、常に中国に友好的に動いていることを知っているし、また日本が対中友好的であるように中国は水面下で動いてきた。林外相が会長をしていた日中議連は、日中が国交を正常化する前から日中友好のために貢献してきた組織だ。中国が最も親中的だと位置付けている公明党とも岸田政権は連立を組んでいる。かてて加えて今般は「東京大会開催時に日本は中国と水面下で互いに協力し支持し合うと約束していた」ことが判明している。その日本が「中国との信義」を破って外交的ボイコットを宣言することは、中国にとっては大きな痛手となるだろう。日米が足並みを揃えたシグナルにもなるからだ。習近平のメンツも潰れる。しかし、岸田首相も林外相も「中国に対して言うべきことは言う」と言っているのだから、今こそ明確に「外交的ボイコット」を宣言すべきだろう。1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を解除させたのは日本で、それにより中国はこんにちのような経済大国に成長した。あの愚を繰り返してはならない。言葉を濁して逃げ切れるものではないことを肝に銘じるべきだ。日本国民は国際社会とともに、日本がいかなる発信をするかに注目している。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://olympics.com/ioc/news/un-general-assembly-adopts-olympic-truce-for-beijing-2022(※3)https://news.un.org/zh/story/2021/12/1095422(※4)https://olympics.com/ioc/news/ioc-statement-on-today-s-announcement-by-the-us-government(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211209-00271845 <FA>
2021/12/13 16:27
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中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米英豪加などファイブアイズ国家が外交的ボイコットを表明したが、IOCと共同で173ヵ国が国連決議で北京冬季五輪を支持表明しており中国は強気だ。しかし日本がボイコット表明すれば中国には痛手だ。◆12月9日の中国外交部記者会見から何が見えるか?12月9日、中国外交部定例記者会見における汪文斌報道官の回答が公開された。(※2)北京冬季五輪の外交的ボイコットに関して4人の記者から質問があり、汪文斌は以下のように回答している(概要のみ記す)。●ロイター記者:ロシア以外に、中国はほかにどの国の指導者と政府関係者を招聘していますか?汪文斌:オリンピックのルールでは、各国のリーダーは自国のオリンピック委員会から招待され、IOCのシステムに登録されるという形を取っています。現在、すでに少なからぬ国家元首や政府首脳あるいは王室メンバーが北京冬季五輪に出席すると登録しています。私たちはその人たちに歓迎の意を表します。中国は、国際的オリンピック事業のために、より多くの貢献をするために力を尽くし、シンプルで安全かつ素晴らしく祭典を世界に発信していくつもりです。●ラジオ香港記者:イギリスとカナダが北京冬季五輪に外交代表を派遣しないと表明したことについて、中国はどのようにお考えでしょうか?報道によれば国連総会で採択されたオリンピック休戦決議に20ヵ国が署名していないとのことですが、中国はドミノ現象が潜在していると考えていますか?汪文斌:まず指摘したいのは、そもそも中国はどの関係国にもまだ招待状を送っていないということです。その国の政府関係者が来ても来なくても、同じように北京冬季五輪の成功を目にすることになるでしょう。スポーツは政治とは無関係です。オリンピックは広大なアスリートやスポーツ愛好者たちの祭典であって、政治家がショーを見せるための舞台ではありません。アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダなどの個別の国は、北京冬季大会に関する国連総会におけるオリンピック休戦決議の共同提案を拒否し外交的ボイコットという独自の茶番劇を演出してオリンピック精神を破壊する行動を取っています。私たちは関係国がオリンピック精神を守り実践していくことを願っています。あなたが先ほど心配していた連鎖反応に関してですが、私たちは連鎖反応を心配していません。12月2日、第76回国連総会は、中国とIOCが共同で起草し、173の国連加盟国が共同提案した「北京冬季五輪におけるオリンピック休戦決議」を総意で採択しました。多くの加盟国の代表者が、北京冬季五輪と休戦決議を支持すると発言をしました。これは、国際社会がオリンピック祭典を支持し、世界平和を維持しようとしていることの表れです。●AP通信:ニュージーランドの貿易大臣は、記者の質問に対し、「ニュージーランドは人権問題に対して常に強い姿勢で臨んでおり、北京冬季五輪に政府関係者を派遣しません」と述べました。これに対する中国政府の対応は?汪文斌:北京冬季五輪は全世界のアスリートとアイススポーツ愛好者たちの祭典です。ニュージーランドを含むすべての国のアスリートが北京冬季五輪に参加することを歓迎します。すべての関係者が「より大きな団結」というオリンピック精神を実践し、スポーツを政治的に利用しないことを願っています。●日本の共同通信社記者:駐カナダ中国大使館は、「カナダ側と真剣に交渉した」という声明を出しています。中国はイギリスにも働きかけているのですか?日本は北京冬季五輪に関してまだ態度を保留していますが、しかし閣僚級の人物を出席させる可能性は低いと思われます。これについて中国はどのように考えていますか?中国はアメリカに対して断固たる対抗措置をとると表明していますが、具体的にどのような対抗措置を取るのか教えてください。イギリス、オーストラリア、カナダなどに対しても対抗措置を取るのでしょうか?汪文斌:ご指摘の第一の質問については、駐英中国大使館がプレスリリースを発表していますので、そちらをご参照ください。第二の質問に関しては、いわゆる「人権」や「自由」を口実にスポーツを政治利用しようとする試みは、オリンピック憲章の精神に反するものであり、中国は断固反対します。中国と日本の間には、オリンピック開催においてお互いを支持するという重要なコンセンサスがあります。中国は東京オリンピックの開催に向けて日本を全力を挙げて支援してきましたが、今度は日本が基本的な信義を示すべき番に回ってきました。第三の質問に関して申し上げたいのは、米英豪加がオリンピックというプラットフォームを利用して政治的操作を行おうとするのは世界の人心を得ることはできません。全世界から見れば孤立しており、いずれ必ずその代償を払うことになるだろうということをお伝えしておきます。(引用ここまで)以上4人の記者からの質問と回答を見れば明確なように、日本に対してだけは「信義上、北京冬季五輪を支持すべきだ」と明言しており、他の国と区別している。これは12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※3)における中国外交部報道官・趙立堅の回答でも際立っていた。したがって日中間で約束事がなされていたことだけは、先ず確かだろう。「中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202112/t20211209_10465049.shtml(※3)https://grici.or.jp/2810 <FA>
2021/12/13 16:24
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2021/12/12 02:16
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2021/12/12 02:14
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北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆親中まっしぐらに突き進む岸田政権そもそも岸田首相は11月16日の時点で、ウイグル問題など人権侵害に関与した外国当局者らに制裁を科せる「日本版マグニツキー法」の制定を当面見送る方針を固めていた。G7の中でマグニツキー法を制定しない方向で動いているのは日本一国だけである。習近平への配慮からであることは言うまでもない。そこへさらに林芳正氏を外相に充てたということは、もう親中まっしぐらで行くことを示唆している。私は林氏と何度かテレビ対談をしているが、林氏は人格的には威張ってなく、フランクな感じで好感が持てる。ところが対談を始めてみると、驚くほどの親中ぶりを発揮し、私はナマ放送で思わず「あり得ない!」と言ってしまったという経験がある(2018年10月)。それもそのはず、林氏はそのとき日中友好議員連盟(日中議連)の会長だった。2019年5月5日には日中議連の代表として訪中し、北京でチャイナ・セブンの一人である汪洋(全国政治協商会議主席)と会見している(※2)。汪洋はこの時、日中議連の長年にわたる中国への貢献を讃え、特に「去年は習近平主席と安倍首相が何度も会い、一帯一路プラットフォームを通して協力と友好を深めている」と礼賛した。さすがにこのまま外相を務めるのはまずいと思ったのだろう、今年11月11日に外相就任と同時に林氏は日中議連の会長職は辞任したものの、際立った親中派であることに変わりはないだろう。今年11月18日には中国の王毅外相と電話会談(※3)しているが、林氏の方から「来年は日中国交正常化50周年記念なので、日中友好を一層深めたい」と申し出、日本の報道によれば「王毅外相も賛同した」とある。林氏の方が日中友好に積極的なのだ。また中国側報道では、王毅が林氏に訪中を要請したとは書いてないが、林氏自らが、11月21日に「王毅外相から要請があった」と明らかにしてしまった(※4)。◆中国はクワッドを骨抜きにする狙い中国は東京五輪を支援し参加してきたのだから、日本が北京冬季五輪をボイコットするなどということはできないと思っている。事実11月25日の外交部定例記者会見(※5)で趙立堅報道官は以下のように述べている。——中国と日本は、互いの五輪開催を支援するという重要なコンセンサスがある。 中国は、東京五輪の開催にあたり、既に日本側を全面的に支持してきた。日本側には基本的な信義があるべきだ。(引用ここまで)「重要なコンセンサス」が出来上がっていたということは即ち、日本は「こっそり」=「水面下で」、「すでに中国と固く約束を交わしていた」ものと解釈することができる。それを気性の荒い趙立堅がばらしてしまったことになろうか。したがって岸田首相や林外相がどんなに言葉を濁しても、日本が外交的ボイコットをする可能性はないと言っていいだろう。閣僚のレベルを下げるくらいのことはしても、「政府高官」を誰一人派遣しないということはないということだ。実はインドにしても同じことなのである。11月26日、「中国・ロシア・インド(中露印)外相第18回会議」がオンラインで開催され、35か条に及ぶコミュニケが発布された(※6)。その第34条には「外相たちは中国が2022年に北京冬季オリンピック・パラリンピックを開催することを支持する」と明示してある。すなわちインドは、決して北京冬季五輪の外交的ボイコットをしないということだ。念を押すように、ロシアのプーチン大統領が12月6日インドを訪問しモディ首相と対面で会談した(※7)。このコロナの中でわざわざインドまで行くというのは、よほどインドを重んじているためと解釈される。これまで何度も書いてきたが、プーチンとモディは個人的に非常に仲良しだ。プーチンと習近平の親密さも尋常ではない。8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>(※8)や9月6日のコラム<タリバン勝利の裏に習近平のシナリオ —— 分岐点は2016年>(※9)などでも書いたように、習近平は肝心な分岐点になると、必ずと言っていいほどプーチンに前面に出てもらって中国に有利な方向に国際社会を持って行くべく動いてもらう傾向にある。今般もまたプーチンに前面に出てもらってインドを中国側に引き付けるべく水面下で動いていると解釈される。このたびのプーチン訪印では、露印間で99条に及ぶコミュニケが出されたが(※10)、それらは軍事やエネルギー面などでの連携を強化する内容になっている。特に軍事領域における両国間の強化は、アメリカに対して非常に不愉快なものだろう。プーチンにしてみればウクライナがNATO側に付くことだけは許さないという強烈気持ちがあるので、その意味でも中印との連携を強化したい。クワッド(日米豪印)からインドが実質上抜け、日本がマグニツキー法や外交的ボイコットにおいてアメリカに同調しないとすれば、中国から見れば、クワッドは骨抜きになったに等しいのである。岸田政権には中国が世界中で最も親中的だと位置付けている公明党が与党として入っており、中国が最もコントロールしやすいとみなしている日中議連の会長を務めていた自民党きっての親中派である林芳正氏が外相を務めているので、岸田政権は親中満載だと見ているだろう。特に12月3日のコラム<習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ>(※11)で述べたように、習近平はあくまでも経済で各国・地域を中国側に引き寄せておけば安泰という外交戦略で動いている。もともと親中親韓的傾向の強いハト派である宏池会出身の岸田文雄氏が首相を務める岸田政権は経済連携において中国から離れることはない。習近平にとって、こんなにありがたい政権はないのである。日本はこのことに目を向けなければならない。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/politics/2019-05/05/c_1124453709.htm(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202111/t20211118_10449989.shtml(※4)https://www.asahi.com/articles/ASPCP4W02PCPUTFK002.html(※5)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202111/t20211125_10453188.shtml(※6)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202111/t20211126_10454095.shtml(※7)http://en.kremlin.ru/events/president/news/67287(※8)https://grici.or.jp/2483(※9)https://grici.or.jp/2521(※10)http://en.kremlin.ru/supplement/5745(※11)https://grici.or.jp/2799 <FA>
2021/12/09 16:21
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北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。アメリカの北京冬季五輪外交的ボイコットに対し、岸田首相は同調していない。人権問題を制裁できる法制定も先送りし、超親中の林氏を外相に据えた岸田政権は対中友好満載だ。日本は又しても対中包囲網を崩壊させるのか。◆バイデン政権が北京冬季五輪の外交的ボイコットを決定アメリカのバイデン政権は12月6日、「新疆ウイグル自治区で進行中のジェノサイド(集団殺害)や人道に対する罪への意見表明」として来年2月に北京で開催される冬季五輪に対して(政府関係者などを派遣しないという)「外交的ボイコット」を行うと発表した。その発表が成される前日、中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見(※2)で、ブルームバーグ記者の「CNNが、アメリカが外交的ボイコットをするだろうと言っているし、日本の与党保守派のメンバーが岸田首相にも外交的ボイコットをするよう圧力をかけているが、どう思うか?」という質問に対して、概ね以下のように回答している。——北京冬季五輪は、主役である選手のためのグローバルイベントだ。IOC(国際オリンピック委員会)をはじめとする国際社会は、その準備作業を高く評価しており、アメリカや日本をはじめとする多くの外国人選手は、中国での競技を熱望している。冬季五輪は決して政治的なショーや策略のための舞台ではないということを強調したい。招待状も出していないのに外交的ボイコットをするということは、アメリカの政治家たちの自己満足であり、陳腐な政治的操作であり、オリンピック憲章の精神に反する政治的挑発だ。これは14億人の中国人民に対する侮辱でもあり、もしアメリカがこのようなオリンピック精神にもとる態度を続けるならば、中国は断固とした対抗措置をとる。米国は、スポーツの政治化をやめ、北京冬季オリンピックへの干渉と妨害をやめるべきであり、そうでなければ、さまざまな重要分野や国際・地域問題における両国の対話と協力にダメージを与えることになる。(引用ここまで)翌12月7日になると、アメリカの正式発表を受けて中国外交部は定例記者会見(※3)で同様の質問に対して同様の回答をしている。◆岸田文雄首相の反応問題は日本がどうするかだ。12月7日午前、岸田首相は首相官邸で記者団の取材を受け、日本政府の対応について「国益の観点から自ら判断する」と述べた。その上で、「オリンピックの意義や我が国の外交にとっての意義等を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい。これが我が国の基本的な姿勢だ」と述べた。つまり、必ずしもバイデン政権の望む通りには動かないということになる。バイデン政権もまた、他の国に強要するものではないと言ってはいるが、当然のことながらバイデン大統領としては自分の威信を保つためにも同盟国や友好国がアメリカの決定に同調してくれるのを望んでいるだろう。何と言ってもバイデンは大統領に就任するなり「国際社会に戻ってきた」と宣言したのだから。おまけにアメリカ国内ではひたすら支持率が低下し続けている。だから国内的にも「ほらね、私はこんなに反中的で人権重視なんだよ」というところを見せなければならない。したがって岸田首相には「もちろん日本はアメリカと歩みを共にします!」と、即答して欲しかったにちがいない。しかし岸田内閣は今のところ、アメリカの望む「反中的」方向には動いてない。◆林芳正外相の反応12月7日の日本の外務省報道(※4)によれば、林外相は外交的ボイコットに関して読売新聞記者の質問に対し以下のように回答している(一部抜粋)。・米国政府の発表については承知をしておりますが、北京冬季大会への各国の対応についてコメントすることは、差し控えたいと思います。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後適切な時期に、諸般の事情を総合的に勘案して判断をいたしますが、現時点では何ら決まっておらないということでございます。・(諸般の事情に人権が入っているか否かという質問に対して)日本としては、国際社会における普遍的価値であります自由、基本的人権の尊重、法の支配、こうしたものが、中国においても保障されることが重要であると考えておりまして、こうした日本の立場については、様々なレベルで中国側に直接働きかけてきております。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後そういったご指摘の諸点も含めて、適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案して判断をすると考えております。(引用以上)なんとも曖昧模糊(あいまいもこ)として、ほぼ「逃げている」としか言いようがない。「北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202112/t20211206_10463052.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202112/t20211207_10463549.shtml(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken24_000083.html#topic1 <FA>
2021/12/09 16:19
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習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国の台湾武力攻撃が近づいていると思う人が多いが、習近平は実は2035年まで動かない。それまでに福州と台北を高速鉄道でつなぐ計画を進めている。中国では≪2035年に(高速鉄道で)台湾に行こう≫という歌が大流行だ。◆2035年までに「福州—台北」高速鉄道を含めた公路を完成2021年2月、中共中央と国務院は「国家総合立体交通網計画綱要」(以下「綱要」)を発布した。「綱要」では、2021年から2035年までの国家総合立体交通網の布陣が書いてある。それによれば、2035年までに「(福建省)福州市から台北市」をつなぐ高速鉄道を含めた公路が完成することになっている。2020年12月30日、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、福建省で建設中の鉄道・公道併用の平潭(へいたん)海峡公鉄大橋が正式に開通したと報道した。これは中国初の公共鉄道による海を渡る橋となる。この建設工事は2013年10月30日から始まっており、上層は時速100キロの高速道路6車線、下層は時速200キロの高速鉄道で福平鉄道(福州‐平潭県)の重要プロジェクトとなっている。平潭は台湾と中国大陸との間では、台湾に最も近い海壇島を含む島嶼から成る県で、もともと橋梁を建築する計画があった。習近平はそれを含めて「綱要」を作成し、台湾統一の足掛かりとする戦略を動かしている。大陸と台湾を結ぶ計画は、北ルート、中ルート、南ルートなどがあるが、今般の「福州-台北」ルートは北ルートに分類される。南ルートは、長年議論されてきた「金門-厦門(アモイ)跨線橋」を含む「厦門-金門」、「金門-澎湖-嘉義」のルートを指す。これらのルート開通によって何をするかのヒントの一つとして、南ルートの場合を説明すると、金門と福建省には「新4通」(水、天然ガス、電気、橋)という課題がある。インフラ整備は生活と交易に直接関係しており、たとえば孤立した小さな離島などは「真水」を必要としているため、金門と福建はすでに「水」ではつながっている。天然ガスに関しては金門の酒造工場蒸留所の発電に重要な役割を果たすことなどから一定の交易関係があり、両地の住民が船に乗って相手側の商品を買いに行くなど庶民レベルの交流もある。しかし電気や橋梁の建設となると、台湾政府が承諾しなければ成立するものではない。それでも「綱要」は「台湾通道(台湾海峡回廊)」を「やれる限りのギリギリのところまで」着々と進めていくつもりだ。今年11月24日になると、大陸側の国務院台湾弁公室の朱鳳蓮報道官は、定例記者会見で記者の質問に答える形で「綱要」の進捗状況に関して発表した。それによれば、「台湾通道」プロジェクトに関してさらなる進展があり、平潭海峡における公道鉄道両用大橋の平潭区間は、公道鉄道ともに既に完全に開通したとのこと。また、福建省の関係部門は(台湾の)金門・馬祖との橋梁の初歩的技術計画を完成させており、「綱要」の「福州-台北間の支線建設」は既に計画段階を終えたようだ。これは何を意味しているかというと、2035年にはおそらく確実に中国のGDPがアメリカを抜いているので、その時なら「統一」を図ってもアメリカは抵抗できまいという、習近平の長期的戦略を示している。経済的にアメリカを凌駕していれば国防費もその分だけ多く注ぐことができ、少なくとも東アジア領域では中国の軍事力もまたアメリカを凌駕していることになると構えているのだ。習近平はその日まで待つつもりでいることを、この「綱要」は語っている。◆台湾企業への締め付けこの「綱要」を完遂するには台湾側の同意が必要だが、そのための準備も着々と進めている。もともと台湾の交易の多くは中国大陸が相手だが、さらに最近では台湾独立を叫ぶ政治家への政治献金などをした企業に関しては罰則を科し、大陸寄りの台湾企業や個人は支援するという戦略で動いている。香港で結局のところ国家安全維持法を通して民主党派を追い出したのと同じように、じわじわと真綿で絞めるようなやり方を実行しているわけだ。たとえば11月24日、国務院台湾弁公室は記者会見(※2)で、中国大陸に複数の拠点を持つ台湾企業「遠東集団」に対し、上海市、江蘇省、江西省、湖北省、四川省などの関係部門が、4.74億元(約85億円)の罰金と追徴金を科したと報じた。遠東集団が台湾の一部の与党議員(たとえば蘇貞昌行政院長=首相)に対して過去に政治献金をしていたことを「独立分子を支援した」とみなしたからだ。それに対して遠東集団の徐旭東会長は11月29日、台湾メディアの「聯合報」に対し「台湾の独立に反対し、“一つの中国”原則を支持する」との声明を送付している。中国はこのような形で「台湾独立勢力」への制裁を行い、中国寄りの台湾企業を増やそうとしている。◆≪2035台湾へ行こう≫という歌が大流行こういった流れを作るのに、歌を利用するのは中国の常套手段だ。「綱要」が発布されたのは今年の2月だが、9月18日には≪2035去台湾(2035年には台湾へ行こう)≫(※3)という歌が出てきて、いま中国で大流行している。歌詞の冒頭は以下のようなものだ。あの高速鉄道に乗って台湾に行こうあの2035年の年にあのおばあちゃんの澎湖湾を見に行こうあの二組半の足跡がきっとあるよこの歌詞には説明が必要で、二組半の足跡は、「自分とおばあちゃんと、おばあちゃんがついていた杖」の「5つの足跡」のことを指す。実は1979年に台湾で流行った≪おばあちゃんの澎湖湾≫(※4)という歌が大陸でも大流行したことがある。いわゆる1980以降に生まれた「80后(バーリンホウ)」たちが小さい頃に盛んに聞いた曲だ。今は30を過ぎた青年たちが、深い郷愁を以て聞くことができるように、今般の≪2035台湾に行こう≫の歌詞が創られている。台湾で生まれた若者にとっては「おじいちゃん」や「おばあちゃん」は1949年に解放戦争で共産党軍に敗れて台湾に逃げてきた国民党軍の兵士とその家族が多い。大陸は、おじいちゃんやおばあちゃんにとって故郷で、「中国は一つ」ということを表したいために出てきた歌だった。当時の中国共産党は台湾の親中派としっかり連携していたので、1979年1月の米中国交正常化の一環として作曲されたものだ。この≪2035台湾へ行こう≫という歌は、今年11月に入るとウェイボー(微博)やTikTokに掲載されて一気に広がっていった。果たして当局の依頼を受けてプロパガンダのために作詞作曲されたのか、それとも2月に発布された「綱要」を見て、「これはいける」と判断した作者がビジネスチャンスと捉えて作詞作曲したのかは定かでないが、少なくとも作詞作曲した人は、「綱要」に刺激されたと語っている(※5)。◆習近平にはいま台湾武力攻撃の意思はない今年7月10日のコラム<「バイデン・習近平」会談への準備か?——台湾問題で軟化するアメリカ>(※6)にも書いたように、6月17日、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は米議会下院軍事委員会の公聴会で「近い将来に台湾武力侵攻が起きる可能性は低い」と述べた。これは今年3月9日にアメリカのインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が米議会公聴会で、「中国(大陸)は6年以内に台湾を武力攻撃する」と指摘していたことを否定した発言である。しかし日本の一部のチャイナ・ウォッチャーが、デービッドソンの「6年以内台湾武力攻撃説」に飛びついたまま情報刷新を行っておらず、未だに「2027年には中国大陸は台湾を武力攻撃するだろう」と主張したりするものだから、日本の政界の一部も多少の影響を受けて一回り遅れの言動をしている。中国(大陸)は今、台湾の独立派に対する威嚇をするために軍事演習を活発化させているだけで、武力攻撃をする気などない。なぜなら、戦争になどなったら、逆に中国国内における社会不安を招き、一党支配体制が危うくなるからだ。また国際社会からも強烈な非難を受けるのを知っているので、そういう選択はしない。もっとも、台湾政府が独立を宣言した場合は別だ。国際関係など考慮しておられず、2005年に制定した「反国家分裂法」が火を噴くだろう。しかし台湾も、政府として独立を宣言することは避けており、バイデン政権も「台湾の独立は支持しない」と中国側との対話で明言しているので、結局は習近平の思惑通り「2035」まで待つことになるだろう。2035年には「満を持して」という戦略が実現しているにちがいない。日本が警戒すべきはむしろこの長期戦略なのに、そのようなことに全く気付かない岸田内閣は、習近平がこの上なく喜ぶ方向にしか動いていない。そこには日本のメディアや中国研究者の責任もある。日本の読者や視聴者に迎合して真相を見ることを避け怠慢しているからだ。岸田内閣の対中姿勢に関しては別途論じたい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.cctv.com/2021/11/24/ARTIX5CM9jvMBNcDPU4fLMgR211124.shtml(※3)https://www.youtube.com/watch?v=W4taES7flkE(※4)https://www.youtube.com/watch?v=JEoNjnyd56s(※5)https://y.qq.com/n/ryqq/songDetail/001enXdm31qRaS(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210710-00247252 <FA>
2021/12/03 16:14
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三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆三期目を狙う習近平だからと言って憲法を改正してまで三期目を狙うのか、ということには抵抗を持つ党員もいないではないだろう。しかし中国の経済も軍事力も圧倒的に強くなり、アメリカが脅威を感じて、あの手この手で中国を潰しにかかってきているときに、党員も一般人民も、「経済と軍事を強くしてくれたのだから」と習近平を肯定する傾向にある。もちろん経済にはさまざまな問題を抱えてはいるものの、大国アメリカと対等に渡り合える「存在感」は、この「紅いDNA」が強めているのは確かだ。党員ともなれば、中国共産党がどこから立ち上がってきたのか、中華人民共和国が如何にして建国されたのかを思うとき、「紅い革命の血筋」は絶対的だ。反腐敗運動により軍に巣食う腐敗の巣窟を除去し、2015年12月末日に軍事大改革を成し遂げた上で、第19回党大会で「習近平新時代の特色ある中国社会主義思想」を党規約に書き込んで翌年2018年3月に国家主席任期に関する制限を撤廃した。もっとも、この制限、かつてはなかったもので、果たしてこれが「党内民主」という性格から来たものか否かは、実はそこには複雑な背景がある。◆トウ小平ほど独裁的だった人は中国建国以来いない習近平が「独裁的である」という批判は、世界中から受けているところだろう。筆者自身も習近平をかつて「紅い皇帝」と位置付けて本を書いたことがある。その時にはまだ勉強が不十分で、まさか習近平の父・習仲勲が、トウ小平の陰謀によって失脚させられたのだということを思いもしていなかったし、知らなかった。しかしこのたび、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書くに当たり、徹底して、これでもか、これでもかと追跡に追跡を重ねた結果、本当にトウ小平がさまざまな国家リーダーとなり得る人を倒してきたことを実感するに至った。トウ小平がどれだけ多くの国家リーダーあるいはリーダーとなり得る人物を倒し、かつ自分が推薦して就任させておきながら、気に入らないと失脚させるということを繰り返してきたかを以下に列挙してみよう。・1954年:毛沢東が後継者に考えていた高崗(西北革命根拠地)を自殺に追い込んだ。・1962年:習仲勲を冤罪により失脚させた(16年間、軟禁・投獄・監視)。・1980年9月:華国鋒を国務院総理辞任へと追い込む。・1981年6月:華国鋒(中共中央主席、軍事委員会主席辞任)を失脚に追い込む・1981年6月:自分のお気に入りの胡耀邦を中共中央主席に就任させる。(但し、1982年9月で中央主席制度を廃止し中共中央総書記に。)・1986年:胡耀邦(中共中央総書記)を失脚に追い込み、趙紫陽を後任にした。・1989年:趙紫陽(中共中央総書記)を失脚に追い込んだ。・1989年:江沢民を一存で中共中央総書記・中央軍事委員会主席に指名。・2001年:胡錦涛を隔代指導者に、トウ小平の一存で決定した。ここまで国家のトップを自分一人の意思で失脚させたり指名したりした人は、建国後の中国には存在しない。毛沢東でさえ、たった一人の国家主席(劉少奇)を失脚させるために、わざわざ文化大革命を起こさないと、一存で失脚させる力は持っていなかったし、そうしなかった。そのトウ小平が一存で決めた「国家主席の任期」を撤廃した習近平の「独裁度」は、遠くトウ小平に及ばない。軟禁された趙紫陽は、テープに回顧録を録音し、それがのちに出版されたが、その中で趙紫陽は「トウ小平の声は神の声だった。すべては彼の一声で決まった」と語っている。集団指導体制自体はトウ小平が決めたものではなく、毛沢東時代からあった。国家主席に関する任期を区切ったのはトウ小平だが、習近平が撤廃したのは、このルールだけだ。◆アメリカに潰されない国を求めて中国はもともと、こういう国なのである。それでもアメリカと対等に対峙できるリーダーを中国共産党員も中国人民も求めている。「紅いDNA」を持つ最後の男は、アメリカを凌駕するところまで粘るつもりではないだろうか。岸田内閣はゆめゆめ「紅いDNA」の夢の実現に手を貸すようなことをしてはならない。日中国交正常化50周年記念を口実に、岸田内閣は何をするかわからない。今から警鐘を鳴らしておきたい。写真: REX/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <FA>
2021/11/16 15:58
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三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。中国共産党が誕生し革命戦争を通して中華人民共和国が建国されて以来、いま残っている国家リーダーになる器を持った者で、かつ革命の紅いDNAを引いている男は習近平以外にいない。彼の後に出てくるのは小粒でしかない。◆紅いDNAを引く最後の男1921年に中国共産党が誕生した。習近平の父・習仲勲(1913年~2002年)は陝西省富平県に生まれたが、建党後ほどなくして中国共産主義青年団(共青団)に入団し、陝西省で革命活動に参加し始めたが、1928年に学生運動に参加した際に投獄され、獄中で中国共産党員になっている。わずか15歳だった。やがて釈放された習仲勲は、陝西省や甘粛省などの一帯に「陝甘辺ソビエト政府」を樹立するなどして革命根拠地(のちの西北革命根拠地)を築くのだが、その中に「延安」があった。蒋介石率いる国民党軍に敗れた毛沢東率いる紅軍は、1934年10月、最後の中華ソビエト共和国の拠点であった江西省瑞金を放棄して、1万2500キロを徒歩で北西方向に向かった。これを「長征」という。しかし中国全土に構築した革命根拠地はほとんど国民党軍に殲滅されて、唯一、習仲勲らが建設していた陝甘辺ソビエト政府だけが残っていた。毛沢東一行が延安に到着したのは約1年後の1935年10月である。もしあのとき、陝甘辺ソビエト政府という革命根拠地が残っていなかったら、毛沢東は長征の到着先を見つけることができず、共産党軍が国民党軍に勝利して中華人民共和国を建国することはできなかった。したがって、中華人民共和国が誕生したのは、習仲勲等のお陰である。だから毛沢東は習仲勲に感謝し、習仲勲をこの上なく可愛がった。習仲勲を「諸葛孔明よりもすごい」と褒めたたえたことさえある。トウ小平は、それが怖かった。人一倍野心に燃えていたトウ小平は、このままでは自分が毛沢東の後継者になるチャンスはなくなると計算し、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を失脚させ、16年間も軟禁や獄中生活を送らせるところに陥れてしまったのである(その証拠は、『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』で示した)。しかし、その息子・習近平は生き残り、最終的には江沢民が自分の駒として習近平を取り立てたために、今日のポジションがある。いま習近平世代で、中国のトップリーダーになる器を持った人物を眺めたときに、「革命の紅い血」をストレートに引き継いでいる者は一人もいない。日本のメディアや研究者あるいはチャイナ・ウォッチャーの中では、習近平が権力闘争のために反腐敗運動を展開し、李克強との間でもライバル意識を持って李克強に権力を渡すまいとしているといった類の分析をする人が数多く見られるが、その人たちは習近平が圧倒的に他と異なる「紅いDNA」を持った唯一の人物であることに気が付いていないのではないだろうか。習近平は「紅いDNA」を持つ、中国最後の人物なのである。習近平が引退した後に出てくる人物は、たとえ誰であっても、その意味では小粒で、習近平以上の「革命の正統性」を持った者は二度と現れない。◆「江沢民‐朱鎔基」、「胡錦涛‐温家宝」、「習近平‐李克強」との比較過去の指導者である「国家主席(&総書記)‐国務院総理(首相)」のペアで、「江沢民‐朱鎔基」と「胡錦涛‐温家宝」および「習近平‐李克強」を比較して、習近平の独裁欲の強さ、あるいは李克強の影の薄さを論じたメディアもあり、興味を引いた。ただ、この3組はあまりに状況が異なり、ちょうど良い例でもあるので、筆者なりの比較を試みてみよう。江沢民の父親は日中戦争時代、日本の傀儡政権として南京に樹立された汪兆銘政権の官吏で、中国語で言うならば「漢奸(ハンジェン)」、すなわち売国奴である。その出自を隠そうと、1995年から激しい反日教育を始めたくらいで、「紅いDNA」の反対側の人間だ。能力もないのに(だからこそ気に入られて)トウ小平の「鶴の一声」で中共中央総書記になり(1989年)、1993年に初めて国家主席になるという尋常でない道を歩んでいる。本来ならそのときの国務院総理だった李鵬に代わって、実力の高い朱鎔基が国務院総理になるはずだったが、朱鎔基の実力を同じ上海にいたときに知っていた江沢民は、朱鎔基が国務院総理になるのを嫌った。そのため1998年になってようやく、朱鎔基は国務院総理になった。しかし江沢民は依然として朱鎔基に対してはライバル心むき出しで、常に朱鎔基に後れを取るものだから、喧嘩ばかりしていた。胡錦涛と温家宝は非常に仲が良かったが、しかし胡錦涛には「紅いDNA」はない。胡錦涛の祖父は商売人で、父親は小学校の教員。生活苦からお茶の販売もしていた。やはり商売人だ。共産党とは無縁の家庭で育っている。清華大学に入学してから共産党と接するようになり入党した、よくある共産党員のパターンである。温家宝も似たようなもので、天津の郊外にあった教員の家庭で育っている。胡錦涛と温家宝には共通する先輩がおり、二人とも、1977年から81年まで甘粛省の書記だった宋平によって抜擢されている。胡錦涛が共青団で幹部プログラムに参加したのは、宋平の推薦があったからだ。温家宝も宋平のお陰で中央入りしているので、胡錦涛と温家宝は「親が教員だった」という共通点と宋平の存在により「仲良し」だったのである。誰一人、「紅いDNA」を持っていない。しかし習近平は違う、誰よりもストレートに建党と建国の血筋を持って生れ出てきており、この「革命の紅い血」は、中国においては絶対的なのである。李克強はそもそも「がり勉さん」で、権勢欲はなく、カリスマ性も特にない。彼自身、国務院総理であることに満足しているように見受けられるし、実務能力は高いので国務院総理に似合っている。父親は1929年に安徽省の田舎で共産党に入党し小学校の教員になったり、兵士として戦ったりしたこともあるが、あくまでも地方の田舎での活動に終始し、中央と関わったことはない。教育にはことのほか熱心で、いかにも李克強の人間性が育て上げられた環境らしい。ただ、習近平の「紅いDNA」と比較したら、比較の対象ではないことを李克強自身も分かっているだろう。こうして、過去三代の指導者のペアと比較しても、習近平だけは際立って「紅い革命の血」が濃いことがわかる。ましてや今現在の周辺(少なくとも現在中共中央政治局委員までは上がってきている者)を見渡しても、あるいは一つ下の世代の候補者(中共中央委員会委員)を見渡しても、建党・建国以来の血筋を引く者は一人もいない。三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: REX/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <FA>
2021/11/16 15:56
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習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「難題を解決した」とすること自体が「最大のトウ小平批判」11月13日のコラム<習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?>(※2)に書いたように、まだ公報段階ではあるが、そもそも「歴史決議」に、「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」ということが盛り込まれていること自体が、最大のトウ小平批判なのである。「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」の中で、「腐敗と闘わなかった」のは「トウ小平と江沢民」だけだ。1989年6月4日に起きた天安門事件で若者が叫んだのは主として「民主」ではあるが、同時に党幹部の汚職、すなわち「腐敗」も批判の対象となっていた。しかしトウ小平は党や政府を糾弾する若者たちの叫びを武力によって鎮圧し、「腐敗」を黙認している。こうしてトウ小平の独断で中共中央総書記に指名した江沢民は、「金(かね)」によってしか権力を高める道がないため、「金を仲介とした縁故関係」によって中国を底なしの「腐敗地獄」へと持って行った。その腐敗と闘おうとした胡錦涛を、江沢民はチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人。筆者命名)に送り込んだ刺客によって封じ込め、腐敗をさらに蔓延させてしまった。したがって習近平が「歴史決議」で「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」のはトウ小平に対する巨大な批判であり、トウ小平に対する「圧倒的な勝利」なのである。これが、父親を破滅に追い込んだトウ小平に対する、習近平の「復讐の形」なのである。少なからぬチャイナ・ウォッチャーは習近平の「歴史決議」には何も書いてないと評しているが、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の真相を知らない限り、習近平の「歴史決議」からは、何も読み取れないだろう。ということは、習近平の正体を正確に読み解くことは出来ないということだ。少なくとも『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書いた筆者の視点から見れば、六中全会の広報(※3)は、書ききれないほどの豊富な情報を含んでおり、興味深くてならない。◆トウ小平を希薄化した、笑ってしまうような六中全会公報の「からくり」実は六中全会公報(※4)を読んで、思わず声を出して笑ってしまった「からくり」がある。というのも、11日に公報が初めて公表された時、筆者はナマで中央テレビ局CCTVの報道を見ていた。すると、「江沢民」と「胡錦涛」への賛辞に関して、間をおいてから、もう一度類似のことを言ったではないか。えっ?なにごと?聞き間違えたのか、それともCCTVが放送事故でも起こして、壊れたレコードのように同じ場所を2回繰り返してしまったのだろうか?ひどく慌てて文字版を読んでみたところ、なんと、本当に江沢民と胡錦涛に関しては2回も言っていたことが判明した。すなわち、「毛沢東→トウ小平→江沢民→胡錦涛→習近平」の順に建国後の指導者の業績を言った後に、もう一度「江沢民+胡錦涛」に関してだけは繰り返して業績を讃えたのである。毛沢東に関しては中国共産党建党から建国前までの業績があるので、当然誰よりも多くなるが、「トウ小平、江沢民、胡錦涛」を平等に扱ったままだと、トウ小平を特に希薄化したことにならない。そこで「江沢民+胡錦涛」をさらに、もう一度讃えれば、相対的に「トウ小平の部分」だけを「最小化」することができるわけだ。面白くなってしまって、文字数を数えてみた。すると以下のような結果が出てきた。毛沢東建国前:493毛沢東建国後:460毛沢東全体:953トウ小平:385江沢民:285、2回目の201を加えると全体で285+201=486胡錦濤:218、2回目の201を加えると全体で218+201=419習近平:124+514+216=854(3段階に分けて言及)(但し2回目の文字数は「江沢民+胡錦涛」402文字を2分した。)このように、結果として「トウ小平に関して論じた部分が最小になる」という、なんとも凄まじい「精緻な」計算をしていることに気づいたのだ。笑わずにはいられないではないか。それも「江沢民+胡錦涛」の部分は、この二人だけ2回繰り返して言ったことが目立たないように、二人を混然一体となる形で、つまり単独に繰り返したと分からないように工夫して論じている。知能犯というか、「涙ぐましい」とさえ思ってしまった。既に中国でも定着してしまっているトウ小平への評価を、真正面からは否定できないが、しかし実際上は否定するという工夫までしているところが興味深くてならない。もっとも、トウ小平を神格化することに最も貢献したのは日本である。そのことは拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の「まえがき」および「第七章の四」で詳述した。日本政府は、トウ小平神話を形成することによって中国の経済発展に貢献した自民党政権の責任を直視し、自公連立政権で、さらにそれを助長しようとしていることを認識すべきだろう。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805(※3)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm(※4)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm <FA>
2021/11/15 15:48
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習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。習近平の父・習仲勲はトウ小平の陰謀により失脚したのだから、「歴史決議」でトウ小平をどのように位置づけるかが焦点の一つだった。一見、平等に扱ったように見えるが、実は思いもかけぬ「からくり」が潜んでいた。◆100年の歴史の中での各指導者の位置づけ11月11日に公表された第19回党大会六中全会公報(※2)によれば、習近平は「歴史決議」の採択に向けた講話の中で、中国共産党建党100年の歴史を、まずは大きく以下のように位置付けている。()は筆者。——中国共産党建党中央委員会(中共中央)政治局は、中国の特色ある社会主義の大旗を高く掲げ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、トウ小平理論、三つの代表の重要な思想(江沢民政権)、科学的発展観(胡錦涛政権)、習近平新時代の中国特色ある社会主義思想を指導とすることを堅持しながら、第19回党大会と第19回党大会一中全会、二中全会、三中全会、四中全会、五中全会の精神を全面的に貫徹し、国内外の大局やコロナ感染防疫や経済社会発展および発展と安全などのバランスをうまく統制しながら統治してきた。そして安定の中でも進歩を遂げ、経済は比較的良好な発展を遂げ、科学技術の自立と自強(自らの力で強くなる)を積極的に推進し、改革開放を絶えず深化させ、貧困との戦いを計画通りに勝ち抜き、民生保障を効果的に改善し、社会の大局的安定を維持し、国防と軍隊の現在化を着実に進めてきた。さらに、中国の特色ある大国の外交を全面的に進め、党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い、多くの深刻な自然災害を克服するなど、さまざまな事業で重要な新しい成果を上げた。(引用ここまで)その上で、公報は以下のような解説を続けている。()内は筆者。——中国共産党創立100周年を記念する一連のイベントが成功裏に開催された。習近平中国共産党中央委員会総書記は(一連のイベントの中で)重要な講話を行い、小康社会の全面的な構築完成を正式に発表し、全党と各民族の人民が二つ目の100年の目標(=2049年の建国100周年記念)に向かって力強く雄々しく新征程(新たな遠征の道程)に踏み出すよう激励した。(引用ここまで)これがまず冒頭部分で、ここでは「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」が唱えた思想が、平等に評価されているかのように見える。しかし、この冒頭部分においてさえ、実は見落とせない言葉がちりばめられているのだ。引用文中の太字部分を見てみよう。1.改革開放は実際上、習仲勲が当時の華国鋒(中共中央主席、中央軍事委員会出席、国務院総理)とともに広東省深セン市で「経済特区」を唱えて始まったものだが、それをトウ小平が思いついたように置き換えてしまったものだ。しかしトウ小平が改革開放を唱えたという概念は固定化されてしまっているので、それを覆すことなく、父・習仲勲が手を付けた改革開放を深化させ、トウ小平が先富論によって招いた貧富の格差(=トウ小平の負の遺産)を無くす方向に動いたことを暗示している。2.国防と軍隊の現代化は、11月13日のコラム<習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?>(※3)で書いたように、軍部における腐敗撲滅を実行しなければ実現不可能だったので、暗に腐敗撲滅に動くどころか、腐敗を招いたトウ小平を批判している。3.最も明確なのは「党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い」という部分だ。トウ小平は、拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』で詳述したように、毛沢東が後継者にしようと位置付けていた(陝西省や甘粛省などを含む)西北革命根拠地における功労者・高崗(当時の国家計画委員会主席、人民政府副主席、人民革命軍事委員会副主席)を虚偽の事実を捏造して1954年に自殺に追い込み、1962年には同じく西北革命根拠地を築き上げ毛沢東の「長征」の終着点としての「延安」を用意していた習仲勲を同じく虚偽の事実を捏造して1962年に失脚させたために、「党史」を直視することを回避した。トウ小平時代、「長征」も「西北革命根拠地」もタブー視され、中華人民共和国が如何にして誕生したかということを含めて、語ってはならないことのように位置付けられてきた。それを徹底的に覆そうとしている現象の一つが「党史に関する学習教育」なのである。4.その意味で「長征」を正視することの意味合いは大きく、「習近平新時代の思想」を、「新たな長征」への試みであるとして「新征程」と位置付けている。これは即ち、「毛沢東の長征」と「習近平の新征程」を同等あるいはそれ以上に置いて、世界のトップを目指す決意を表している。「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805 <FA>
2021/11/15 15:44
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中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆なぜ「共同富裕」なのかところで、冒頭に引用したNHKの記事のメインテーマは「共同富裕とは何か」なので、最後にそのことに関しても少し触れておきたい。当該記事にあるように、たしかに毛沢東時代に「共同富裕」という言葉を使ってはいる(1953年における中共中央会議などにおいて)。しかし、10月12日のコラム<習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視>(※2)の後半で書いたように、むしろ、トウ小平が言った「先に富める者が先に富み、富んだ後に、まだ富んでいない者を牽引して共に富んでいく」の後半部分を実行しているだけだとみなすべきだろう。事実、そのコラムにも書いたが、習近平自身が「かつて一部分の者が先に富むことを許したが、それは先に富んだ者がまだ富んでない者を必ず率いて助け、ともに富んでいかなければならない」と言っている(2021年8月17日に開催された中央財経委員会第十次会議)(※3)。ここで無理矢理に毛沢東が主張したというところに持って行くのは、「習近平は毛沢東を超えようとしている」と言いたいからだろうが、習近平が「毛沢東時代の革命精神を忘れてはならない」として「無忘初心(初心忘るべからず)」を党のモットーの一つとしているのは、トウ小平の陰謀によって父・習仲勲が失脚し、16年間もの長きにわたって投獄・軟禁・監視生活を余儀なくされたからだ。「革命の地」である「延安」は、習近平の父・習仲勲が築いた。しかしトウ小平は習仲勲の影響を薄めたいために、「延安」や「毛沢東の長征」を語らせなかった。だから習近平は国家のトップに就任するとすぐに「革命の聖地」である「延安」を強調し、「革命の精神を忘れるな」と強調し始めた。それは自ずと「毛沢東」を蘇らせることにつながっていく。しかし習近平が超えようとしているのはトウ小平だ(詳細は拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』)。この基本を理解しない限り、習近平を読み解くことは困難ではないかと懸念する。なお、「習近平は政敵を倒すために反腐敗運動を行い、ようやく権力基盤を強固にした」という「幻想」が日本のメディアを支配し、中国の真相を見えなくしている。何度も本やコラムで書いてきたが、習近平ほど政権誕生時に政敵がいなかった指導者は珍しく、前政権(胡錦涛政権)と友好的に政権移行をした政権はかつてなかったと言っても過言ではない。したがって反腐敗運動などをやればやるほど、習近平を恨む人物が激増するばかりで、敵を作るのに貢献するだけだ。ではなぜ反腐敗運動を徹底したかと言えば、一つには胡錦涛と約束したからだ。胡錦涛政権には江沢民一派がいて、腐敗の総本山である江沢民一派に阻害され、反腐敗運動が進まなかった。だから胡錦涛は「腐敗を撲滅しなければ党が滅び国が亡ぶ」と言って習近平にその実行を約束させた。その代りに習近平の動きやすいように中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)を選んでいいと、全てを委ねた。その約束を守らなければならないことと、軍が腐敗分子の巣窟になっていて、軍事改革ができず、ハイテク国家戦略を進めることができなかったからだ。この既得権益者を追い出すことによって、ようやく軍事力の近代化を進めることができ、今やアメリカも恐れる軍事力を持つに至っている。どうせ「権力闘争だ」という「幻想」の上にあぐらをかき、日本人を喜ばせている間に中国は日本を抜き、アメリカをも抜こうとしている。こういった視点の間違いが、中国の真相を見る目を曇らせ、日本国民の利益を損なう方向に動いていることにも気づいていただきたい。一部の間違った視点を持つ研究者の言葉だけに頼り、日本全体をその方向に持って行ってしまったことに対するメディアの責任は重い。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211012-00262831(※3)http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2021-08/17/c_1127770343.htm <FA>
2021/11/09 16:31
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中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。李克強が2020年5月に「月収1000元の人民が6億人いる」と言ったのは、ゼロ歳児や高齢者など無就業者を含めた1人当たりの収入で、就業者の平均ではない。日本では未だに勘違いが多いので、再び注意を喚起したい。◆NHKも勘違いか11月8日、NHKはウェブサイトで<「共同富裕」って何なの?習近平政権のねらいは?>(※2)という記事を発信している。記事では以下のように書いている。——李克強首相も去年5月「毎月の収入が1000人民元程度(日本円で1万7000円程度)の人がまだ6億人いる」と述べるなど、中国政府も収入が低い人が依然として多い実態を認めています。これは2020年9月1日のコラム<「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その1>(※3)の後半にも書いたように、2020年5月28日に全人代閉幕後の記者会見で李克強首相が言った言葉だが、「働いている人の月収が1000元程度」と言っているのではなく、働いている人の世帯人口で割り算した一人当たりの収入を指している。李克強が言った6億人の中には赤ちゃんもいれば未就職の青少年、あるいは年金生活を送っている高齢者もいる。病人も失業者も入っている。高齢者の中には動けなくなって養老施設に入っているご老人もいるだろう。その上で人数で割って平均した値が1000元なのである。◆6億人とは李克強が言った「6億人」というのは、国家統計局が2014年から指している低収入層および中間層底辺、すなわち中低収入層の人口群である。これは国家全体で認識されている分類で、2014年のスピーチでも李克強は同じことを言っている(※4)。中低収入層の多くは農民層で、このことは中国共産党機関紙「人民日報」にも書いてあり、習近平も認識している事実だ。また冒頭にある2020年5月28日の全人代閉幕後の記者会見における李克強の発言は、「コロナで困っている人に対する政府の対応」に関する質問を受けての回答だったので、「困っている人がこんなにいるのだから、大富豪たちは理解を示して、莫大な財産を困っている人たちに分け与えなければならない」という、共同富裕の一形態に向けての布石も含まれていただろう。習近平は政権発足と同時に「貧困層を無くすこと」と「共同富裕」を目指してきたのだから、党内でその認識は共有されている(参照:拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』p.338,339など)。しかし、十分には中国の事情を知らない(中国から見た)海外の「専門家」やメディアが、李克強の発言を曲解しているのを知り、新華網(※5)や国家統計局(※6)が説明を加えている。それくらい誤解を招く表現を李克強がしたのは確かだろう。NHKが誤解するのも無理からぬことだ。しかし、日本に限らず他国でも誤解をしていた人がいたため、その後の中国政府側の「誤解を解くための努力」はかなり成されていたし、筆者も何度か本やコラムで書いてきたので、多少は誤解が解けたものと思っていた。だというのに、今年の11月8日の時点になってもなお、まだこの誤解に基づいた分析をNHKが公開しているのを知ったので、これはそろそろ名指しで指摘しないとまずかろうと思い、書いている次第である。民放は一般に「あのNHKが言っているのだから正しいだろう」という理解で、間違った事実や視点を拡散していく傾向にあるからだ。◆中国の就労人口構成そのため、もう少し中国の労働人口に関して説明を加えたい。中国では女性は55歳が定年で、男性は60歳だ。女性の場合は主として幹部は55歳だが、女性工人と言って、一般の工場労働者などでは50歳定年の場合さえある。最近では、医療の充実や生活レベルの向上により寿命が延びており、この定年年齢を引き上げるべきだという議論が巻き起こり、いま改善を試みている。実際、再雇用が図られている職場もある。ただ、建国以来の慣習が身に付き、まだ元気いっぱいの定年男女が元気を持て余して、公園などでダンスを踊ったり気功を訓練したりしている姿はお馴染みの風景である。これら男女は年金生活なので、一人当たりの「平均月収」の値を引き下げている。こういった社会背景を考えると、14億人もいる中国の全人口の内、就業しているのはわずか約7.7億人で(2020年6月発表の2019年の人力資源と社会保障部発表のデータ(※7))、残りの約6.3億人が無就業者だというのは注目に値する。繰り返すが、ゼロ歳から就職年齢に達するまでの「子供」や博士課程を含めた大学生、軍人、定年退職者・・・などは無就業者の中に含まれている。特に農民の多くは農地を持っているので、自給自足も可能だし、さらには実は農家は家族構成として一世帯当たりの人口が多い。赤ちゃんから祖父母などなど加えて数名はいる家庭はざらだ。この家庭の人口分で一家の収入を割り算するので、いっそう「一人当たりの月平均収入」は少なくなっていくのである。一人っ子政策の時でも、農家や少数民族地域では特例措置もあって子供数が増えている場合が多く、貧困なほど家族数が多いという皮肉なデータさえある。なぜなら貧困家庭は子供に高学歴をそれほど強くは求めない傾向にあり、都会では何としても一人の子供に全ての財産を注いで高学歴をと渇望している家庭が多いので、都会では家族数は少ない傾向にある。それは不動産価格高騰の最大の原因にさえなっている(参照:9月22日コラム<中国恒大・債務危機の着地点——背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>(※8))。結婚しない男女も都会の方が多い。その分だけ「一人当たりの平均月収」を押し上げる。中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211108/k10013333991000.html??utm_int=news-new_contents_latest_001(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20200901-00196149(※4)http://www.gov.cn/guowuyuan/2014-05/09/content_2675605.htm(※5)http://www.xinhuanet.com/politics/2020-06/22/c_1126144559.htm(※6)http://politics.people.com.cn/n1/2020/0615/c1001-31747507.html(※7)http://www.gov.cn/xinwen/2020-06/05/content_5517353.htm(※8)https://grici.or.jp/2606 <FA>
2021/11/09 16:29
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欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆少数民族問題は習近平のアキレス腱EUさえ中国側に引き付けておけば、アメリカが何をしようとも中国は安泰だ。習近平はそう思っていただろう。しかし、ここにきて「少数民族」の問題が政権の足を引っ張り始めた。拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』で、習近平の父・習仲勲が如何に少数民族を大事にし、少数民族と仲良くしてきたかを、詳細に書いた。その父の思いを裏切ったのは、中国共産党の統治が少数民族弾圧なしには成立しなからで、これこそが「習近平、最大のアキレス腱になる」と、しつこいほどに拙著で警鐘を鳴らしてきた。事態は、その警鐘通りに動いている。父の思いを裏切ってでも共産党による一党独裁を貫く方を選んだ習近平の「自業自得」でもあり、中国共産党による支配の宿命でもある。習近平は今それを、いやというほど思い知らされていることだろう。◆アメリカを恐れていない中国中国はバイデン大統領が率いるアメリカを恐れてはいない。トランプ政権の時は、トランプ(元)大統領が自ら次から次へと国際社会から離脱していってくれたので、トランプ(中国語読みで川普)に「川建国」(中国を再建国してくれる川普=トランプ)という綽名を付けて感謝したほどだ。バイデンは「アメリカは戻ってきた」と叫んで国際社会に戻ってきたことをアピールしたが、アフガン問題でヨーロッパ諸国の信頼を失ってしまった。その不名誉を挽回しようとローマでのG20に出席し、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)で「アメリカがリーダーシップを発揮する」と叫んでみたものの、会議で居眠りをしている動画(※2)が世界を笑わせてくれた。10月21日、アメリカのCNNの記者に「台湾が中国に武力攻撃されたら、アメリカはどうしますか?」と聞かれたのに対して、バイデンは「アメリカには台湾を防御する責務がある」と回答した。するとサキ大統領補佐官が「台湾関係法には台湾を武力で防御するという条項は含まれておらず、アメリカは台湾関係法を変えたこともなければ変えるつもりもない」と火消しに追われた。中国はバイデンがサプライチェーンの混乱や米国内での事情で焦っており、第二次世界大戦後支持率下降幅が最も高い大統領である(※3)ため、来年の中間選挙への影響を憂い、対中強硬発言に前のめりになっているのだろうと上から目線で見ている。◆頼りは日本の自公連立政権そこで中国が頼りにするのは日本の自公連立政権だ。なんといっても中国政府が「最も親中的だ」とみなしている公明党が政権与党にいる。10月27日のコラム<日本を中国従属へと導く自公連立——中国は「公明党は最も親中で日本共産党は反中」と位置付け>(※4)や26日の<習近平が喜ぶ岸田政権の対中政策>(※5)などに書いたように、中国は公明党を通して自民党をコントロールしていくことができると考えている。ウイグルの人権問題に対して制裁を加えることが可能になるマグニツキー法の成立を阻んだのも公明党だ。欧州議会が、こんなに勇猛果敢にウイグルの人権問題と闘っていても、日本は「中国に抵抗しません」と誓いを立てているようなものである。11月4日のCCTVのお昼のニュースで欧州議会の訪台を無視した代わりに特集したのは、日本の松下電機の本間哲朗氏(代表取締役専務執行役員中国・北東アジア社社長)への取材だった(※6)。松下電機は初めて上海輸入博覧会に参加したようで、本間氏は中国を絶賛している。政界には「親中」の自公連立があり、経済界には「中国なしでは生きていけない」企業が多い。中国にとってこんなにありがたい国はないだろう。岸田首相が果たして公明党の反対を抑えてマグニツキー法を成立させる方向で動くか否か、日本国民とともに注視していきたい。それにより岸田首相の覚悟のほどが試される。写真:Picture Alliance/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.bbc.com/japanese/video-59129635(※3)https://news.yahoo.com/biden-lost-more-approval-start-201330016.html?guccounter=1(※4)https://grici.or.jp/2724(※5)https://grici.or.jp/2718(※6)https://tv.cctv.com/2021/11/04/VIDEe724FZiu5wKrsT03OMxY211104.shtml <FA>
2021/11/05 15:46
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欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。欧州議会代表団が訪台した。ウイグルの人権問題で中国を制裁し報復制裁を受けた欧州は、中国が譲歩しない限り中欧投資協定を停止するつもりだ。その見せしめの第一弾が訪台。アメリカの台湾接近より習近平には痛い。中国にとっては日本の自公連立政権が最高の味方だ。◆欧州議会代表団訪台の背景11月3日、EU(欧州連合)主要機関の一つである欧州議会のグルックスマン議員を団長とする代表団が初めて台湾を訪問した。団長のグルックスマン(フランス)は7月15日のコラム<習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結——欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議>(※2)で述べたようにEUの「民主的プロセスにおける外国の干渉に関する特別議会委員会」の委員長だ。今年3月22日、欧州議会は、中国のウイグル人権弾圧に対して制裁を科すことを議決した。そこには悪名高き新疆ウイグル自治区の陳全国・書記の名前がなかった。その意味で、どちらかと言うと、軽い制裁だった。ところが同日、中国政府は「虚偽と偽情報に基づくもの」としてEUに強く反発し、非常に激しい「報復制裁」を発動した。その中にブルックスマンの名前があったのだ。これにより、習近平が2013年から7年間もかけて推進してきた「中欧投資協定」の包括的合意(2020年12月30日)に対して、今年5月20日に欧州議会は「凍結」を決議した。欧州議会は、「中国の対EU報復制裁の解除」が、中欧投資協定再審議入りの前提条件だとしている。しかし中国は報復制裁の解除をしない。そこで欧州議会議員(MEP)は今年10月21日、「EUと台湾の関係:欧州議会議員は、より強いパートナーシップを推進する」(※3)という声明を出した。骨子は以下の3点である。・台湾はEUの核心的なパートナーであり、民主的な同盟体である。・二国間投資協定は今後の協力関係の中心的な役割を果たす。・EUは中国との緊張関係に関してもっと多く発信し、台湾の民主主義を守るためにさらなる努力をしなければならない。具体的には「EUと台湾の間の二国(地域)間投資協定」を新たに締結し、5Gや半導体あるいは公衆衛生などの領域で、EUと台湾の貿易・経済関係を強化していこうということだ。また「中国の台湾に対する軍事的圧力」にも深い懸念を示している。すなわち欧州議会は、中国が台湾に対して「軍事的な好戦性、軍事的圧力、軍事演習、領空侵犯、偽情報キャンペーンを続けていること」に深刻な懸念を表明しているのである。◆欧州議会訪台団と蔡英文政権3日に訪台したのはグルックスマンを団長とする欧州議会のリトアニア、フランス、チェコ、ギリシャ、イタリア、オーストリア選出の議員7人と随行13人を合わせた計20人である。訪台は、欧州議会内の「外国のEU民主主義手続き干渉対応のための特別委員会」の下で実施された。この委員会は、2020年12月2日に公表された「欧州民主主義行動計画」の理念と重なっており、行動計画は「自由で公正な選挙の促進」と「メディアの自由の強化」と「偽情報への対抗措置」から構成される。偽情報に関しては台湾でも「大陸(中国共産党)からのスパイが台湾に潜り込み、あるいはサイバー攻撃などによって、大陸寄りの国民党と独立傾向の強い民進党との間を引き裂き、台湾市民を大陸寄りに導こうとする動きに脅かされている。EUと台湾の両者は、同じ脅威にさらされているという状況も共有しながら二国間投資協定を結ぶ方向で動いている。一行は、3日に台湾行政院長(首相)の蘇貞昌氏と会い、4日には蔡英文総統と会談した。蔡英文は台湾社会の分断を狙った中国による世論工作を念頭に「偽情報に対抗する民主連盟を創設したい」と述べ、欧州と協力して対策強化に当たる考えを表明した。訪問団側も「欧州も全体主義国家の攻撃にさらされている」と強調、「偽ニュース対策で台湾の経験に学ぶ」と応じた。共同通信などが伝えた(※4)。◆欧州議会、みごと!——CCTVは沈黙このような一連の動きを中国が黙って見ているはずがない。たしかにローマにおけるG20期間に合わせて台湾外交部長の欧州訪問を受け入れたEUの国々に対して中国政府は「一つの中国」原則を破り、「中国の核心的利益を侵害し、中国-EU関係の健全な発展を破壊する」と非難していた。しかしその中国が、いざ欧州議会代表団が訪台すると、黙ってしまったのである。本来ならば、11月4日には蔡英文総統と会談しているのだから、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVでは大きな特集番組を組んで抗議表明をするはずだ。ところがCCTV4(国際チャンネル)のお昼のニュースは、台湾に関して長い時間を割いているのに、欧州議会代表団の訪台に関して、ただの一言も触れなかったのである。私は何十年にも及び、CCTV4のお昼のニュースを欠かさずに観察してきた。本来ならば、このような事態になれば、CCTV4は大々的に抗議番組を特集するのが通例になっているのを知っている。それをしなかったのは、なぜか——。中国は中欧投資協定を何としても結びたいので、欧州議会を刺激したくないからだ。ならば、ウイグル人権問題に関する報復制裁を欧州議会の要望通りに解除すればいいが、そんなことは出来るはずがない。ウイグルの人権弾圧を実行していることを認めた格好になってしまうからだ。その両方とも選択できないところに中国を追い込んでいった欧州議会の、なんと見事なことよ!あっぱれと言いたい。中欧投資協定は、前述したように習近平政権発足と同時に2013年から中国側がEUに提案して交渉を進めてきた。同時に発足した「一帯一路」構想は、この中欧投資協定を補完するためにあったと言っても過言ではない。中国は、いずれはアメリカとの覇権競争にぶつかり、中国がアメリカを凌駕しそうになると、アメリカが何としてでも中国を潰しにかかってくるだろうことは分かっていた。だから習近平は政権発足と同時にEUを味方に付けようと、国家戦略を練ってきたのである。欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: Picture Alliance/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210715-00248053(※3)https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20211014IPR14926/eu-taiwan-relations-meps-push-for-stronger-partnership(※4)https://news.yahoo.co.jp/articles/2bada8cb8c4fc66185537c2caea23cce2fa466ae <FA>
2021/11/05 15:44
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中国は甘利幹事長落選に注目——高市氏を幹事長か官房長官に!【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国の中央テレビ局CCTVは甘利氏の落選に注目したのみで、岸田政権の勝利を「議席は獲っても求心力は低い」と短くしか伝えなかった。論功行賞で甘利氏を幹事長などにせず、高市氏を幹事長か官房長官にすべきだった。◆中国は甘利幹事長落選に注目11月1日の中国の中央テレビ局CCTV国際のお昼のニュースは、主として習近平がG20のリモートで話した内容とか気候変動問題でのスピーチなどに時間を割かれたこともあり、日本の衆院選に関するニュースは、2分弱という、非常に短い時間しか割かなかった。そのわずかな時間内でも、特に注目したのは甘利幹事長が選挙区で落選し、比例復活はしたものの辞任表明をしていることである。それも「1955年の結党以来、政権交代はしない状況で現役の与党幹事長だけが選局で落選するということは未だかつてない」と、驚きを以て強調している。このようなことでは「岸田政権は、議席数は確保しても、求心力は弱い政権となるだろう」と番組では結んだ。◆最初から高市氏を幹事長か官房長官に就任させるべきだった筆者自身は、岸田氏が自民党総裁に当選し、幹事長に甘利氏を示し、かつ総理大臣指名を受けて官房長官に高市氏を指名しなかった段階で、岸田氏に非常に失望していた。そのため、たとえば10月1日のコラム<岸田総裁誕生に対する中国の反応——3Aを分析>の文末(※2)で、「『高市氏がダメなら、せめて岸田氏に』と期待した国民は、裏切られた気持ちになるのではないかと懸念する」と書いた。なぜなら総裁選の第一次選挙で高市氏は相当に多くの票を集めており、岸田・河野の一騎打ちの決選投票に入った時には、第一次投票で自分が獲得した表を、河野氏に回らないように、すべて岸田氏の方に行くように、高市氏は一生懸命に努力した。そのプレゼントがあったからこそ、岸田氏が総裁に選ばれたのだから、高市氏には官房長官か、せめて自民党の幹事長の職位を与えるべきだったと思ったからだ。論功行賞で甘利氏に「返礼」をするくらいなら、むしろ高市氏に「返礼」すべきだったのではないのか。それをしなかったのは、高市人気が怖くて、次期総裁選の時に岸田氏が総裁に選出されず、高市氏が選ばれる可能性があると計算したものと推測された。選挙でお世話になった甘利氏に幹事長のポストを与えたのは、論功行賞ということだけではなく、高市人気が怖かったからだと書きたかったが、自重していた。しかし、「このような了見の狭さで、岸田政権がこのままうまくいくとは思えない」という気持ちが消えず、くすぶり続けていた。高市氏には政調会長という目立たない職位を与えて、「きちんと約束通り総裁選候補者を尊重した」と言うのは、なんとも狡(ずる)いとしか思えないのだ。野田聖子氏には大臣ポストを「安心して」与えられるのは、野田氏が次期総裁選で岸田氏を乗り越えるとは思われないからという計算が働いたからだろう。河野氏には広報部長という端役を与えて「きちんと評価した」とうそぶくのも、やはり汚い。河野氏の力も恐れているので、目立つ重要ポストはあげられない。そう計算したに違いないという印象を抱いたので、それまで「高市氏がダメなら、せめて岸田氏に総裁になって欲しい」と応援していた気持ちが、人事発表で一気に冷めていったのである。◆岸田氏は、高市氏を幹事長か官房長官に就任させる勇気をその思いを表現してしまうことを、甘利氏の選挙区における落選が決意させてくれた。一か月間抑えてきたので、いま思い切って表現することにした。今からでも遅くない。甘利氏が抜ける幹事長ポストに高市氏を就任させるか、あるいは高市氏を、常にマスコミの目に触れる官房長官に就けるべきだ。せめてそうしてくれれば、岸田政権を応援しようかという気持ちが少しは湧いてくる。中国のCCTVで、岸田氏が自民党議員の当選者名に赤い花を付けていく場面を映していたが、甘利氏は元気なく形ばかりの拍手をしていたのに対して、その隣で高市氏が心から嬉しそうに拍手をして満面の笑みを浮かべている姿がクローズアップされた。あの晴れやかで美しい笑みの、なんと自信に満ちていることか。中国の知識層が読むウェブサイトの一つである観察網(※3)では、甘利氏が選挙演説で「私がいなくなったら日本は大変なことになる」、「日本の未来は私の手の中にある」という趣旨のことをまくし立てていたと鋭く批判している。この論考は、日本の有権者は、そんなことには騙されなかったと締めくくっている。中国でさえ見抜いているのだ。岸田首相に進言したい。是非とも高市氏に自民党幹事長か内閣官房長官のポストを与える勇気を持っていただきたい。国民の目はごまかせない。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/2655(※3)https://www.guancha.cn/chenyan3/2021_11_01_613099.shtml <FA>
2021/11/02 10:55
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日本を中国従属へと導く自公連立——中国は「公明党は最も親中で日本共産党は反中」と位置付け【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国は日本の公明党以上に親中の政党は世界にいないとみなし、日本共産党は反中の敵対勢力と見ている。次に親中なのは自民党なので、自公連立ほど中国にとってありがたい存在はない。思うままに動かせる。◆中国政府高官「自公は親中なので・・・」あれは確か、2012年9月に自民党総裁選があったときのことだったと思う。私はテレビの番組に呼ばれて、総裁選立候補者と対談をしたことがある。そこには「安倍晋三、石破茂、林芳正、石原伸晃」の4氏が並んでいた。町村信孝氏も立候補していたのだが、途中で体調を崩して出席していなかった。ちょうど自民党が野党に下り、民主党政権と競り合って政権交代を目指していた時期でもあったことから、私は番組で「中国では自民党じゃなくては、という意見が多いですよ」と言った。すると安倍氏が勢いよく「ほんとですか!」と前のめりになり、4人とも「いいですねぇー!」と声を揃えた。サービスで言ったわけではなく、尖閣諸島国有化問題により中国全土でデモが起き、中国は民主党政権を「反中」として激しく罵っていた時期でもあったからだ。私は当時、連日のようにテレビに出ていたので、責任あるメッセージを発していかなければならないと思い、中国政府の考え方を正確に知るべく、中国政府元高官を取材したばかりだった。元高官は「いやー、民主党はだめですよ。あれは反中だ。やっぱり自民党でなきゃね。というより、何と言っても自民党は公明党と連立を組んでるので、そりゃあ、親中に傾くに決まっている。公明党ほど親中の政党は世界でも珍しいほどですからねぇ」と回答したのだった。元高官は「自公は親中なので・・・」と言ったのではあるが、何と言っても目の前に並んでいる4人は「自民党」の総裁選立候補者なので、「自公」ではなく「自民党」と言ったのは、サービス精神というより、「自民党総裁選立候補者」だったからだ。◆中国共産党機関紙「人民日報」も公明党を「親中」と絶賛事実、中国共産党の機関紙である「人民日報」にも、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかに関する論考が載っている(※2)。この論考は、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院の日本学研究所が発行している『日本学刊』という学術誌(2017年第二期)に寄稿されたもので、作者は日本の創価大学教授で中国の復旦大学日本研究センター研究員でもある汪鴻祥氏だ。私は2004年まで同じく中国社会科学院社会学研究所の客員教授を務めていたが、日本学研究所は、まるで創価学会の巣窟かと思われるほど、創価学会関係者が多く、中国における宗教は弾圧しているのに、日本の宗教は「公明党」に限り絶賛していたことに、非常な違和感を覚えた経験がある。汪氏は以下のように述べている。1.1968年9月8日、創価学会第11回学生部会総会において、公明党の創始者である池田大作は講演し、日中関係の問題を解決するために、(1)中華人民共和国の正式な承認と日中国交の正常化、(2)中国の国連での合法的な座席の回復、(3)日中の経済・文化交流の発展、という3つの明確な提案を行った。2.1971年初頭、公明党は、台湾問題は中国の内政問題であるという認識を示し、国務院外交部日本課の王暁雲課長は、中国卓球代表団の副団長として訪日し、公明党の竹内義和会長と会談した。 これが公明党と中国との正式な交流の始まりである。3.会談後、竹中は「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府と認め、台湾からの米軍撤退と中国の国連への回復を主張し、さらに日台条約(日華条約)は破棄すべきという声明を発表した。4.中日国交正常化のため、公明党の代表団は1971年6月に初めて訪中し、周恩来首相が会見した。5.1972年7月7日、田中内閣が発足した。 1972年7月25日、公明党代表団は3度目の訪中を行い、周恩来首相と日中国交正常化に関わる重要事項について3回の会談を行った。 1972年9月、田中角栄首相が訪中し、毛沢東主席、周恩来首相と会談し、29日には日中国交正常化の共同声明を発表した。6.このように日中国交正常化を実現させて真の功労者は公明党である。7.こんにち、公明党が政権与党の一翼を担うことには非常に大きな意義がある。なぜなら自民党を対中友好に導いていくことが可能だからだ。8.公明党は常に中国と緊密に連絡を取り合い、自民党の一部の保守系政治家に対して、日中関係の正しい方向から外れた言動を慎むように圧力をかけてきた。この功績は大きい。9.今後も日中関係において、公明党が日本の政党を対中友好に導いていくという役割は計り知れなく大きい。論考は中国語で2万字以上あるので、全てを網羅することはできないが、何よりも重要なのは上記の、7,8,9で、今般の衆院選に当たり、日本国民は、この恐るべき現実を直視しなければならない。◆日本共産党は反中で、中国共産党の敵対勢力それに比べて中国は、日本共産党を反中であるとして、敵対勢力に位置付けてきた時期さえある。日本共産党に関しては、たとえば<中共と日共はかつて兄弟だったのに、なぜ仲たがいをしてしまったのか>(※3)などに見られるように、公明党とは正反対の位置づけなのである。中国建国当初の中国共産党と日本共産党の仲は、まさに「義兄弟」のようで、当時、新華書店などには毛沢東やスターリン、あるいはマルクスなどと共に、日本共産党の「徳田球一」の肖像画が並べてあったものだ。私は徳田球一の名を、「とくだ きゅういち」ではなく、中国語の発音の【de tian qiu yi】として初めて知った。それが犬猿の仲になったのは、文化大革命が勃発した1966年からだ。中国側の分析は以下のように書いている。一、日本共産党の宮本顕治(書記長)を団長とする訪中団は広州に行くことになっていたが、突然中国側から上海に行って毛沢東と会談してほしいという提案があった。二、毛沢東は宮本顕治にソ連を修正主義者として批判することを求めたが、宮本はこの提案を拒否し、毛沢東は大いに不満を抱いた。 その後、中国共産党は日本共産党の修正主義路線を全面的に批判するようになった。三、毛沢東は1966年7月の演説で、「ソ連の現代修正主義、アメリカ帝国主義、宮本顕治修正主義グループ、佐藤栄作の反動内閣」という4つの敵がいると表明した。四、それ以降、中国においては「日本共産党はソ連やアメリカよりも、さらには中国を敵視していた佐藤栄作内閣よりも危険な敵」となった。五、中共が日共と和解したのは1998年に宮本が引退してからだが、今もなお日共に対する不信感は、完全には拭えないでいる。但し、日本共産党がその後の綱領で、日米安保条約の破棄や在日米軍の撤退を明記していることに関しては高く評価している。◆衆院選で公明党と連立する自民党を選ぶと、日本は中国のコントロール下にしかし中国は、日本共産党を通して日本政府を動かすことはできないと認識しており、あくまでも公明党と緊密に連絡し合い、公明党を通して日本の内閣を反中に向かわないようにコントロールしている。だから中国は自公連立を強く応援しているのである。このような中、今般の衆院選で公明党を選び、公明党と連立する自民党を選ぶと、日本は中国共産党の思うままにコントロールされ続けることを有権者は気が付いてほしい。拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』の第七章の四に詳述したように、日本は中国共産党の発展にただひたすら貢献してきた。戦略に長けた中国は、今は公明党を使って日本を利用し、中国共産党の発展にさらに貢献させようとしているのである。日本は、それでいいのか?この現状を受け入れ続けるのか?だからと言って個人的には日本共産党を支持するのではないが、しかし、このカラクリだけは、日本の選挙民に直視してほしいと切望する。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://world.people.com.cn/n1/2017/0330/c1002-29179878.html(※3)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_1444629 <FA>
2021/10/28 10:40
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中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「飯圏」の規制に出た中国政府そこで、中国政府のネット管理に関する部局である「中央網絡安全和信息化委員会弁公室秘書局(中央ネット安全と情報化委員会秘書局)」は今年8月25日、<“飯圏”の乱れた現象の管理をさらに強化する通知に関して>(※2)という通達を出した。通達は10項目に分かれおり、それを全て一つずつ解説するのは大変なので、主だった項目を略記すると以下のようになる。・人気者のタレントのランキングを廃止する。・ファンを誘導してヒットさせるような機能を廃止し、スターを追い求める熱狂を抑制させ、専門性や質を高めるようにしなければならないように誘導する。・一人がいくつものアカウントを持つことを規制する(匿名の攻撃増加を防ぐため)。・攻撃し合うような各種の有害情報を迅速に発見し、違法・不正なアカウントを厳格に処理して、世論の過熱・拡散を防止すること。適切な処理をしないウェブサイトに対しては重い罰を与える。・「投げ銭」の仕組みを廃止すること。・「有料投票」機能を設定することを禁止する。ネットユーザーがタレントに投票するためにショッピングや会員登録などの物質的な手段を取るように誘導・奨励することを厳しく禁止する。・未成年者の「飯圏」参加を厳しく制限する。未成年者の通常の学習や休息を妨げるようなオンライン活動を行うこと、未成年者のためのさまざまなオンライン集会を開催することも厳しく禁止する。・「集金活動」に関するあらゆる違法な情報を迅速に見つけ出し、一掃すること。投票や集金を提供する海外のウェブサイトをも引き続き調査し、処分する。◆中国政府の規制を「文革の再来」、「思想統制」、「来年の党大会への警戒感」と分析する日本メディアの罪この規制に関して日本の大手メディアが、これは・習近平による思想統制の強化(独裁性が強まった)・文革への逆戻りだ・「飯圏」は組織化されているので、反共産党に傾くのを中国政府が恐れている。・習近平は、来年の党大会が順調に行くように警戒している(国家主席2期10年の任期撤廃をしたので、党大会で中共中央総書記に選出されなければならないから、その邪魔をされることを警戒している、という意味)などが背景にあるといった趣旨の説明を展開しているのを、偶然、夜9時のテレビニュースで見て非常に驚いた。パソコンに向かって原稿を書いていたのだが、テレビから「飯圏(ファン・チュエン」という音が聞こえてハッとしたのだ。日本のメディアの中国報道には間違が多いが、それにしても、これはいくら何でもあんまりではないかと唖然としてしまったのである。どんなことでも「文革の再来」と言えばすむような風潮が日本にあるが、文革とは何かを本当に知っているのだろうか?文革の目的は「政府の転覆」にある。国家主席の座を退かざるを得ないところに追いこまれた毛沢東が、国家主席になった劉少奇を倒そうと、1966年に「敵は中南海にあり!」と上海から叫び始まったものだ。国家主席であり、中共中央総書記および中央軍事委員会主席でもある絶対的権限を持った習近平が、自分の政権を倒してどうする?あり得ない発想だ。もし、「文革」にたとえるなら、むしろ「飯圏」の狂信的なファン(メンバー)こそが文革において何もかも破壊しつくした紅衛兵に相当する。「飯圏」のなりふり構わない群集心理と、ターゲットを定めたが最後、死に追いやるまで攻撃をやめない行為こそが文革に類似していると言っていいだろう。そこには思想性など微塵もない。ネットというプラットフォームが、文革時代より群集心理を激しく燃え上がらせる役割を果たし、闇ビジネスが若者の将来を食い物にし破壊させている。日本でも、ここまで激しくはないが、2012年に自民党の礒崎陽輔参院議員が、ツイッターで「 アイドルユニットAKB48の総選挙では、投票券付きのCDを1人で大量に買うファンがいて、イベントのあり方が論議になったこと」(※3)について、疑問を呈したことがある。「飯圏」規制は、まさに磯崎議員のこの疑問と同じで、結果日本では2019年に中止になったようだ(※4)。このプロセスが、中国では大規模に起きただけだ。なぜ日本で起きると「歪んだ社会を是正した」ものと位置付けられるのに、中国が日本のあとを追いながら規制したことは「思想弾圧」であり「文革への回帰」であり「来年の党大会への習近平の警戒感」に変質していくのか。日本の大手メディアが解説した理由とは程遠い現実が中国にあり、その真相こそが中国の弱点でもあるのに、これらを次々と決まり文句で位置付けて視聴者の耳目におもねる日本のジャーナリズムこそは、ビジネス化してしまって正常な役割を果たしていない。視聴者が喜ぶ方向に事実を捻じ曲げ、虚偽の事実を日本の視聴者に拡散させていくのは、日本を誤導し国益を損ねるのではないかと懸念し、本稿をまとめた。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.cac.gov.cn/2021-08/26/c_1631563902354584.htm(※3)https://www.j-cast.com/2012/06/11135248.html?p=all(※4)https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20190321-00119018 <FA>
2021/10/14 11:01
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中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。◆「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。日本の動漫(動画や漫画)が80年代に中国を席巻したように(参照:拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』、2008年)、中国はつぎつぎと日本のサブカルチャーを模倣していき、この「飯圏」も日本のAKB48などにヒントを得たという側面を持つ。しかし中国はどんなことでも「えげつないほどに」ビジネス化していく国。中国では特定の芸能人(タレント、アイドル)が所属する事務所(民営の企業)が十代前半の、まだ社会的判断力もつかないファンたちをネットで組織化して煽り、「荒稼ぎ」をするだけでなく、そのタレントの悪口を言ったり嫌ったりしている人が一人でもいると個人情報を暴いてネットで総攻撃を仕掛けて死に追いやるまで虐める行為が問題となっている。どういうことか、一つの例を挙げてみよう。たとえばXという人気の高いアイドルがいたとする。そうすると、Xが何月何日何時のどこ発のフライトに乗るという情報を持っている人がネットに現れ、その情報の売り買いをネットでする。同じフライトに乗ったり、あるいはチケットが買えない場合は、到着する飛行場で待ち受けるという「出待ち」をしたりする。次は盗撮行為。この写真をまたネットで販売する。もし憧れのタレントXの悪口を言う者がネットに現れたりすると、その人物のプライバシーを徹底的に暴いて、家族を含めたターゲットめがけて総攻撃を始める。ネットに実名や顔写真や住所はもとより、さまざまなプライバシーが全てさらされた本人は、いたたまれなくなって自殺する場合さえある。プライバシーなど、たとえば警察に小銭を渡せば、喜んで秘密情報を「売ってくれる」警官など、いくらでもいるので細部にわたって入手できる。これら一連の動きの背後にはタレントXが所属する事務所があって、別の事務所の人気タレントYと競わせ、ネットにおける「人気ランキング」で上位にランクされるように、金が動くという仕掛けがある。◆十代前半の熱狂的ファンをあやつる闇ビジネス今年8月12日付の中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、<大量の時間を費やし、金でランキングを応援するのは何のため?>(※2)というタイトルで以下のような報道をしている。今年6月に上海青年研究センターが7,000人以上の中学生を対象に行った調査によると、44.9%の中学生が、以下のような行為を事務所にあやつられて「飯圏」に参加していることが分かった。・好きなアイドルのランキングを上位に押し上げる・好きなアイドルに反対するコメントを叩き攻撃し、時には通報する・さまざまなネットプラットフォームで、自分の好きなアイドルを褒めるコメントを書き込み、褒めるコメントに「いいね」を押して、反対するコメントを通報する・ファンの資金を集めて、みんなで好きなアイドルのために消費する・Weiboなどで、自分の好きなアイドルの超話(スーパー話題=ツイッターのトピックみたいなもの)で発言し、コメントする・アイドルのライブを観にいく・投げ銭などを含めて好きなアイドルにプレゼントを贈る・QQなどのインスタントメッセンジャーソフトで、アイドルのファンチャットグループに参加する・好きなアイドルのグッズなどを転載したり、そのアイドルが出演するCMの対象商品を購入する・・・などなどこうしてアイドル事務所による「人気アイドル」の「虚像」が「金」と「事務所にあやつられた若者の行動」によって創り上げられ、事務所および関係する企業がぼろ儲けをしていくという仕組みが大規模に組織化されて闇でうごめいている。また、たとえば、タレントXとライバル関係にあるようなタレントYがいたとき、Xの「飯圏」たちはYに負けまいと、より多くの投げ銭をXに注いだり、Yの激しい悪口をネットに書いて拡散させたりということを互いの「飯圏」メンバーがやっている。◆青少年は何を求めて「飯圏」に参加するのか?あるユーチューバーが飯圏のメンバーである妹に取材して(※3)、ネットでタレントXのファンでない者を総攻撃して虐める行為に関して、「なぜそういうことをするのか」と尋ねたところ、妹は「だって気分がいいからさ」と、あっけらかんと答えている。中国のネットユーザー数は2021年6月時点で10億人以上に達し、ネット普及率は71.6%になっている。日本でもネットによる攻撃で命を絶った方もおられるが、中国での暴き方と攻撃のスケールは日本と比較にならないほど激しく、自殺が後を絶たない。「飯圏」のメンバーの多くが社会的判断力をまだ養われていない十代前半の青少年が多いため、自分でお金を稼ぐ能力はない。そこで両親や祖父母のクレジットカードを盗み、両親や祖父母が生涯かけて貯めてきたお金を、アイドル事務所に煽られるままに「飯圏」が応援するアイドルのために使い果たしてしまうというケースも散見される。何も持たない12歳とか、せいぜい15歳くらいの青少年が、「投げ銭」をアイドルに投げ続けることによって、そのアイドルを人気者にしていったのは自分であり、まるで「自分が育てたのだ」という自己満足を得ることによって自分の存在感を認識するという、ネット社会が生んだ「歪んだ衝動」であり「哀しい現象」の一つだ。青少年の心を破壊していくだけでなく、家の財産全てを悪徳業者のような闇ビジネスに吸い取られていく不健全な「中国の闇」がそこにはある。中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/2021-08/12/c_1127755304.htm(※3)https://www.bilibili.com/video/av500170059 <FA>
2021/10/14 10:59
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岸田総裁誕生に対する中国の反応ー3Aを分析【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田総裁誕生に中国のメディアは大賑わい。中国共産党系の「環球網」は1日で10本近くも発信し、中央テレビ局CCTVも特集を組んだ。中には「岸田の背後には3Aがいる」という報道さえある。◆環球網1日10本ほど発信、CCTVは特集番組中国共産党機関紙「人民日報」傘下の環球時報電子版の「環境網」は、日本で岸田文雄氏の当選が決まるとすぐ、第一報を出した。それをじっくり読む間もなく、すぐさま第二報、第三報・・・と続いたので、先ずはその時間と見出しけでもご紹介したい。第一報:09-29 14:19 <「反中こそが最優先」と言った岸田文雄が日本の新首相に就任、専門家:政権発足後、必ずしも極右路線を取るとは限らない>(※2)第二報:09-29 15:23 <岸田文雄が自民党新総裁に選出され、第100代内閣総理大臣に就任する、中国の反応>(※3)第三報:09-29 15:39 <岸田文雄の当選挨拶にライバルの高市早苗が“サプライズ”登場、米メディア:安倍は岸田政権に影響を与えるだろう>(※4)第四報:09-29 15:40 <岸田文雄って誰? 日本の首相となった後、「安倍の呪い」から逃れることができるのか否かがメディアの焦点>(※5)第五報:09-29 17:13 <岸田文雄が自民党総裁に当選、韓国の青瓦台:日本新内閣と継続的に協力し、韓日関係を発展させたい>(※6)第六報:09-29 17:34 <速報!岸田文雄、自民党総裁に当選後発言:3名の候補者が能力を発揮できるよう考慮する>(※7)第七報:09-29 19:28 <岸田文雄、首相就任後に日本をさらなる対中強硬強化に変えていくことができるか?>(※8)第八報:09-30 03:43 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、日本メディア:対中政策とバランス外交が最大の課題>(※9)第九報:09-30 03:44 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、学者:“菅義偉過渡期政権の復刻版”である可能性が極めて大きい>(※10)このコラムを書いている間にも、時々刻々増えているだろうが、今般、環球網に関して取り上げるのは一応ここまでとしておきたい。中国の党および政府側メディアはほかにも新華社通信の電子版「新華網」が9月29日18:44:17に<岸田が新総裁に当選 執政は前途多難(課題多し)>(※11)という見出しで報道し、9月29日22:56:49には<日本自民党新総裁、団結して多くの課題に対応したいと述べた>(※12)と報道した。また中央テレビ局CCTV新聞(文字版)は速報として9月29日 17:47に新総裁当選後の記者会見を報道し(※13)、9月30日のお昼のニュースでは、12:27~12:37の間、10分間にわたる特番を組んだ。中国は、なぜ日本の一政党の総裁選にここまで注目するのか。それは取りも直さず、米中覇権競争の中にあって、日本がどのような対中政策に出るかは、中国の今後の国際社会におけるパワーバランスに大きな影響を与えるからだ。特にアメリカにより対中制裁が成されている今、日本との技術提携や日本との交易は中国に多大なメリットをもたらす。さらに日米豪印4ヵ国枠組みQUAD(クワッド)や米英豪軍事同盟AUKUS(オーカス)などにより、アメリカは対中包囲網を形成しようと躍起になっている。まして来年は日中国交正常化50周年記念に当たる。安倍元首相が国賓として中国に招かれた返礼として習近平国家主席を同じく国賓として日本に招く約束をしている。コロナの流行でペンディングになったままだが、それを来年には必ず果たしてもらわないと困ると習近平は思っているだろう。これら複雑な要因が絡み、日本の政権のゆくえが気になってならないものと判断される。◆中国の党および政府側メディアの「見出し」以外の補足説明これら多くの情報は「見出し」を見ただけで、おおよそ何が書いてあるか想像がつくとは思うが、内容的に何を語っているのかに関して「見出し」以外の補足説明を若干行いたい(全てを翻訳したら軽く2万字は超えるので概要を抽出する)。1.新内閣の外交政策は基本的には何も変わらない。日中関係がさらに悪化することはないだろう。2.岸田は選挙期間中、中国関連の問題に強硬な態度で臨んだ。 公式Twitterアカウントで中国を攻撃し、「中国が権威主義的になっていること、日本は民主主義や人権などの基本的な価値を大切にする国であること」を宣言し、「台湾海峡の安定、香港の民主化、ウイグル人の人権などの問題に断固として取り組んでいく」と述べた。 また、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、それに関する政策を出す」と主張した。3.しかし、これらは全て総裁選に勝つための方便であって、菅内閣でウイグル人権問題などに関するマグニツキー法は国会の議題にさえならなかった。菅内閣と基本的に変わらない岸田政権は、さらなる対中強硬策を取ることはないだろう。4.総裁選の議論では、安保やエネルギー問題、年金などの社会保障問題が大きく取り上げらたが、実は誰でも知っているのは、国民の最大の関心事は「コロナにより崩壊しかけている日本経済を、どのようにして立て直し、かつコロナのリバウンドが起きないような対策ができるか」ということに尽きる。5.日本の最大の貿易国は日本だ。だから岸田は如何にして国民から批判されないようにしながら中国との安定的な関係を築けるかを模索するだろう。日中関係では「首脳同士の会話が必要だ」と、河野以外にも、岸田も言っている。6.いま日本の新規コロナ感染者の数が減少傾向にあるので、コロナ対策が大きな争点になっていないが、もしコロナ防疫に成功せず、日本経済復興にも貢献できなかったとすれば自民党は来年夏の参議院選挙で国民の審判を受けるだろうから、対中強硬策などより、コロナ感染を抑えることと経済復興に成功することこそが、本当は最大の関心事のはずだ。そのためには中国は欠かせないパートナーとなる。7.対中強硬策など、実際には強化しないので、心配には及ばない。◆共産党系地方メディアが「岸田の後ろには3Aがいる」と指摘9月29日付の中国共産党上海市委員会直属の上海報行集団傘下にある新聞「新民晩報」は<岸田文雄が日本の政権を掌握する:安倍の“門下生”はどのようにして“天衣無縫”になれるのか?>(※14)という見出しで、岸田氏の背後には「3A(安倍、麻生、甘利)」がいると報道している。「天衣無縫」は9月18日の自民党総裁選公開討論会で、4候補が選挙戦に臨む自身の心情や信念を揮毫したときに岸田氏が「天衣無縫」と書いたことを指している。果たして「天衣無縫」のように、自然のまま飾ることなく、美しく戦ったのかということを言いたいために、見出しにこの言葉を使ったようだ。というのは、この報道では、岸田氏当選の「からくり」を以下のように説明している。——日本の安倍前首相、麻生太郎副首相兼財務大臣および甘利元自民党政調会長(現税制調査会会長)の3人の「A(ア)」という音から始まる体制、すなわち「3A」体制が、長年にわたって日本の政局を操ってきた。温和で人当たりは良いが決断力に欠ける岸田が日本の首相に就任すれば、「3A」政権の傀儡首相となり果てる可能性は非常に大きい。“安規岸随”という状況が出現する可能性は極めて大きいのである。ここにある“安規岸随”というのは「安倍が既定路線を敷いて、岸田がそれに従う」という意味で、中国語では「安」も「岸」も「アン」と発音するため語呂合わせのように「安規岸随(アン・グイ・アン・スイ)」という言葉を創ったようだ。9月30日夜、それは現実となって現れた。岸田新総裁は自民党内の役員人事に関して、9月30日、「麻生氏(81歳)を副総裁に」、「甘利氏(72歳)を幹事長に」起用する方針を固めた。岸田氏を決選投票で勝たせたのは安倍前首相で、第一回投票で高市氏に投票された票を全て岸田氏に回す約束が成されたからだ。したがって「3A」体制で動いたのはまちがいのないことだろう。“安規岸随”とは言い得て妙なりと言わざるを得ない。それにしても、あれだけ岸田総裁誕生に貢献した高市氏に、党の政調会長の職位しか与えないというのは納得がいかない。たとえば官房長官に採用して毎日内外記者の前面に出る存在であれば、「刷新された」という印象を国民に与えるかもしれないが、麻生氏などの何年間も見続けてきた「お馴染みの顔」が「自民党の顔」になり続けていくのだとすれば、中国の分析(菅内閣の復刻版)が当たっていることになり、なんとも不愉快でならない。「高市氏がダメなら、せめて岸田氏に」と期待した国民は、裏切られた気持ちになるのではないかと懸念する。派閥の力学は隠然と生きている。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/44xvg3fRpt2(※3)https://world.huanqiu.com/article/44xyCVUX6M9(※4)https://world.huanqiu.com/article/44xym6ScBCs(※5)https://world.huanqiu.com/article/44xyo5JNX1e(※6)https://world.huanqiu.com/article/44y29W3FHuR(※7)https://world.huanqiu.com/article/44y2uI7W4VB(※8)https://world.huanqiu.com/article/44y6y0HFTcI(※9)https://world.huanqiu.com/article/44yOfjfOExZ(※10)https://world.huanqiu.com/article/44yOi1F6yr6(※11)http://www.news.cn/world/2021-09/29/c_1127917971.htm(※12)http://www.news.cn/world/2021-09/29/c_1127918617.htm(※13)http://m.news.cctv.com/2021/09/29/ARTIWNBysGqcHIUIA4jCtzuS210929.shtml(※14)http://paper.xinmin.cn/html/xmwb/2021-09-30/10/118380.html <FA>
2021/10/01 17:07