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GRICI ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:54JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆イスラエルのネタニヤフ首相は「偽装親中」だった?一方、イスラエルのネタニヤフ首相は今年7月には訪中して習近平に会うだろうと、6月のイスラエルのメディア(イスラエル・タイムズ)が報道している(※2)と、中国の国営テレビ局CCTVは誇らしげに解説していた。このことに強い危機感を抱いたため、バイデンは7月17日にネタニヤフに電話して訪米を誘った(※3)と、多くのメディアが報道した。その後、訪中の話題が立切れになったところを見ると、ネタニヤフはバイデンに「お前が私の司法制度改革を批判したりするのなら、私は習近平に近づくぞ!」と脅して、「バイデンが折れ、ネタニヤフの訪米を要請するしかないところにバイデンを追い込んだ」気配がある(司法制度改革問題に対するバイデンのネタニヤフ批判に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)で系統的に詳述した)。案の定今年9月20日にネタニヤフは国連総会に参加してバイデンとの会談を実現し、訪中問題は立切れになってしまった。ホワイトハウスは、バイデンとネタニエフの会談を高らかに公表している(※5)。◆中国はどうするつもりか?では中国はどうするつもりなのか?少なくとも関心度から言うと尋常ではなく、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は数知れぬほどの論評を発表し、CCTVも1時間ごとに新たな情勢を実況中継したり、論説委員に解説させたり、報道頻度はどの国にも負けないだろうと思われるほどだ。というのも水と油のような宗派の異なるサウジ(スンニ派)とイラン(シーア派)を和解させ、その後、中東和解雪崩現象を現出させた中国としては、「アメリカが介入した途端に戦争が起きる」ということを言いたいのだろう。ハマスはスンニ派なので、同じ宗派同士が助け合うのを鉄則としているイスラム界では、ハマスがイスラエルに戦いを挑んだからには、サウジとしてはハマスの意図に反する行動は取りにくいという事情がある。したがって、ハマスのイスラエル攻撃は、サウジとイスラエルの和解を完全に阻止する役割を果たしただろうというのが、大方の味方だ。しかし、ウクライナ戦争同様、中国は「戦争に関しては、あくまでも中立」という立場を貫いている。イスラエルのネタニヤフとも仲良くしていないと、中国による「中東の平和」作戦を遂行できなくなるので、報道は「アメリカを非難すること」においては共通していても、イスラエルかパレスチナ・ハマスか、という陣営分けに関しては実に中立だ。実況中継もガザ地区とイスラエルの両方にCCTVの特派員がいて、よほど注意して観てないと、どちらの陣営の被害を中継しているのか分からないほどである。一つだけ違うのは、アメリカが又もやイスラエルに対して武器支援をしようとしているということに対する執拗なほどの報道で、それによって、いま中継しているのはイスラエルからかガザ地区からかが分かるほど、そこだけは鮮明だ。ハマスが一気に5000発にも上るミサイルを発射できるほど兵器をため込むことができたのかに関して、ハマス側が「2年ほど前から、いざという時のために準備してきた」とばらす生の声も中国のネット空間で動画として出回っている。それに対して「アメリカがアフガンを撤退したときに残した大量の武器をアフガンが関連諸国・組織に売りさばき、ウクライナ戦争でアメリカを中心とした西側諸国がウクライナに送った大量の武器も腐敗が蔓延しているウクライナの一部の者が横流ししているのだから、アメリカは自分が提供した武器で同盟国を襲撃させている」と嘲笑うコメントも中国のネット空間には飛び交っている。中国政府の正式な立場としては、中国の外交部(※6)も、中国政府の通信社である新華社(※7)も、一律に以下のようにしか言っていない。・中国は、現在のパレスチナ・イスラエル間の緊張の高まりと暴力のエスカレーションを深く懸念し、すべての関係者に対し、冷静かつ自制を保ち、直ちに停戦し、民間人を保護し、状況のさらなる悪化を防ぐよう呼びかける。・パレスチナとイスラエルの紛争を鎮圧する基本的な方法は、「二国間による解決の実施」と「独立したパレスチナ国家の樹立を承認すること」だ。・それは1967年に決めた境界線に基づくべきである。また一般庶民の目としては、この動画(※8)が分かりやすく、サウジはアメリカの呼びかけを断るのではないかといった憶測が広がっている。なお、宗派が異なってもイラン(シーア派)がパレスチナ(スンニ派)を応援するのは、アメリカによる制裁と差別的抑圧があまりに酷いからという「共通項」があるからだ。それこそ習近平が「米一極から多極化へ」の地殻変動を起こすことを可能ならしめている。その意味では、アメリカには「一極支配はアメリカを弱体化に追い込む」という論理を張る識者・政治家がいるのは見上げたものだと言わねばなるまい。習近平が狙う地殻変動は、実は、アメリカの覇道がなかったら起きなかったわけで、中国にとっては、アメリカの覇道は、むしろ天の恵みと言えるのかもしれない。10月9日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartII2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために>(※9)に書いた(偉大なる黒幕)ブレジンスキーの論理からすれば、次は台湾有事を狙うはずだった。しかし『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※10)に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(刃を血塗らずして勝つ)」なので、台湾が独立でも叫ばない限り、なかなか積極的に台湾を武力攻撃しようとはしない。2024年までの米大統領選に間に合わないのだ。だから手っ取り早くイスラエルとサウジを嗾(けしか)けた。これはアメリカをさらなる窮地に追い込むだろう。ウクライナと中東に戦力を注ぎながら、台湾有事を捌(さば)くことなど、いくらアメリカの軍事力が強いと言っても不可能というもの。台湾の総統選にも不利に働く。残念ながら、何やら習近平の高笑いが聞こえてきそうだ。この論考はYahoo(※11)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.cctv.com/2023/06/27/ARTIJns9xopoS885A09ekjGY230627.shtml(※3)https://www.dw.com/zh/%E4%BB%A5%E8%89%B2%E5%88%97%E7%B8%BD%E7%90%86%E5%B0%87%E8%A8%AA%E4%B8%AD%E7%BE%8E-%E5%A4%A7%E5%9C%8B%E7%AB%B6%E7%88%AD%E5%BB%B6%E7%87%92%E4%B8%AD%E6%9D%B1/a-66260414(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※5)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/09/20/readout-of-president-joe-bidens-meeting-with-prime-minister-benjamin-netanyahu-of-israel/(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202310/t20231008_11157292.shtml(※7)http://www.news.cn/world/2023-10/08/c_1212285572.htm(※8)https://www.bilibili.com/video/BV1134y137xg/(※9)https://grici.or.jp/4695(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1a52cd61abc617f1a3a7b31c44e35385fb43be0b <CS> 2023/10/12 10:54 GRICI ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:48JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。10月7日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルに向けて大規模奇襲攻撃を行った。中東戦争に発展するのではないのか、世界が注目している。表面的にはサウジアラビア(サウジ)がパレスチナ問題を解決しないまま、イスラエルと国交正常化することに対するハマスの怒りの表れと解説されているが、実はその背後で動いていたのは、又もやアメリカの世界制覇への諦めきれない執着だ。中国が仲介してサウジとイランを和解させて以来、中東和解現象が雪崩のごとく起きていた。もはやアメリカの中東における役割は消え去ったかに見えた。しかし、アメリカは指をくわえて中東におけるアメリカ衰退の様を見ていたわけではない。ハマス奇襲攻撃に至るまでのアメリカの対中対抗措置の経緯を考察することによって、現在起きている事態への理解を深めたい。◆習近平が起こした中東和解雪崩現象習近平が今年3月10日に国家主席に三選された日、北京では中国を仲介としてサウジとイランとの和解が発表された。サウジはアメリカの同盟国のような存在であり、イランはアメリカが最も敵視している国の一つだ。そのイランとサウジが和解したということは、サウジはある意味でアメリカを見限ったということになる。その原因やその後の和解雪崩現象に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※2)で詳述し、また7月8日のコラム<加速する習近平の「米一極から多極化へ」戦略 イランが上海協力機構に正式加盟、インドにはプレッシャーか>(※3)で、その後の現象も追加説明した。このままでは、脱アメリカ現象が加速する可能性があっただろう。しかし、それを傍観しているようなアメリカではない。◆習近平の「一帯一路」に対抗するためインド・中東・欧州経済回廊を提案したバイデンこれに関してバイデン政権が着手したのは、習近平が唱えて実行してきた巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するための「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC = India-Middle East-Europe Economic Corridor)」の構築(※4)である。この構想でインフラが整備されれば、スエズ運河を通ることなくアジアと欧州を結ぶ貿易の動脈が完成する。この構想は今年9月9日~10日にインドで開催されたG20サミットで公表された。本来、2021年の段階では「アメリカ、インド、イスラエル、UAE」の4ヵ国枠組みだったのだが、サウジのアメリカ離れと中国接近を受けて、サウジも入れることになり、インドを触媒にしながら「アメリカ―イスラエル―サウジ」の線を強化しようとバイデン政権は狙っていた。そこに共通している敵国は「イラン」のはずだった。しかし2023年3月の中国によるサウジとイランの和解により、この構想の軸が怪しくなり始めた。そこで、バイデンはインドのモディ首相をワシントンに招いて歓待し、モディを陥落させようと動いた。結果、9月のG20サミットでは、めでたくお披露目となったわけだ。◆習近平が起こした中東和解に対抗するため、サウジとは防衛条約を協議今年9月22日のNBCニュース<U.S. talks for a landmark deal with Saudi Arabia and Israel are gaining steam(サウジとイスラエルに関する画期的な取引のためのアメリカの交渉は勢いを増している)>(※5)によれば、サウジがアメリカの防衛協定と引き換えにイスラエルとの関係を正常化し、独自の民間核計画の開発を支援することになるとのこと。しかし、イスラエルとパレスチナ人との継続的な紛争など、重大なハードルが残っているわけだから、その解決なしにサウジがイスラエルと和解して国交を正常化すれば、パレスチナが黙っているはずがない。もちろんこの防衛協定はNATOのような軍事同盟ではなく、たとえば日米間のように、互いの国が脅かされた時に相手国のみを互いに助け合うという種類のものだが、それでもサウジとバイデン政権の間にはカショギ記者殺害に関するわだかまりがあり、あれだけサウジのムハンマド皇太子を非難したバイデンとしては、米国民に対して説明がつかない、相当に無理がある動きだ。NBCの報道を含めた数多くのメディアが、「これはバイデンの2024年における大統領選のための姑息な策略に過ぎない」と批判的な見解を展開している。「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※3)https://grici.or.jp/4420(※4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E4%B8%AD%E6%9D%B1%E3%83%BB%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%9B%9E%E5%BB%8A(※5)https://www.nbcnews.com/news/world/us-talks-saudi-arabia-israel-normalization-deal-rcna116464 <CS> 2023/10/12 10:48 GRICI 習近平はなぜG20首脳会議を欠席したのか? 中国政府元高官を単独取材【中国問題グローバル研究所】 *10:23JST 習近平はなぜG20首脳会議を欠席したのか? 中国政府元高官を単独取材【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。インドで9日から開催されているG20首脳会談に習近平国家主席が欠席し、代わりに李強国務院総理が出席した。これに関して日本では、「2023年中国標準地図」問題があるので「臆病者の習近平」は非難されるのが怖いからだとか、国内問題で外遊するゆとりがないからだとか、果ては「お友達のプーチンがいないから」という奇想天外なものまでが飛び出している。そこで高齢の旧友である中国政府元高官に単独取材し、真相を得た。それは思いもかけない理由だった。◆取材結果:李強は副総理を経験していないので外交の訓練をさせている江沢民政権時代から、ASEAN関連首脳会議に出席するのは、国務院総理と決まっており、インドネシアで開催されたASEAN関連首脳会議に李強・国務院総理(=首相)が出席したのは、ごく自然のことである。しかしG20首脳会議に関しては、習近平は国家主席になってから一度も欠席したことがなく、このたび欠席したのは確かに異例だ。したがって冒頭で述べたような奇想天外な憶測がなされるのも、分からないではない。ただ、どう考えても納得のいく理由ではないので、何が背景にあるのかは知りたいし、考察する必要があるだろう。そこで、もう90近い高齢の中国政府元高官に連絡して、「習近平がG20首脳会談を欠席した本当の理由」に関して単独取材を行ったところ、思いもかけない回答が戻ってきた。――理由なんて簡単なものさ。李強総理が副総理を経験してないので、外交の経験がないからに決まってるじゃないか。一国の総理となったからには、あらゆるチャンスを活かして外遊させなければならない。BRICS首脳会議の場合は、それこそ習近平がずーっと唱えてきた「BRICS+(プラス)」を通して多極化を図ろうという正念場の会議だったから、これはさすがに李強では役割を果たせないが、G20なら、ちょうどいい訓練の場になるだろう。それだけのことだよ。李克強の場合は、副総理の時に相当な外遊の数をこなしているから、総理になったあとは、習近平の代わりに出席させる必要はなかったが、李強の場合はそうはいかないんだよ。でもこうして常委(中共中央政治局常務委員)を訓練し強化していくんだから、悪いことじゃない。(回答は概ね以上)なるほど――。そういう事だったのか。念のために調べてみたが、李強の場合、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)になる前には、外遊といった外遊はしたことがなく、一度だけ2018年に政党間交流の目的で代表団を率いて南米3ヵ国を訪問した(※2)くらいのものか。7月14日~22日にかけて、「キューバ、パナマ、ペルー」を訪問している。今年の3月に国務院総理になってからは6月18日~21日のドイツ訪問(※3)と6月21日~23日のフランス訪問(※4)がある。その後は、今回のインドネシアにおけるASEAN関連首脳会議(9月5日~8日)(※5)とインドにおけるG20首脳会議(9月9日~10日)(※6)となる。◆李克強が国務院副総理だったときの外遊経験一方、李克強が国務院副総理の時(2008年~2013年3月)の外遊には、概ね以下のようなものがある。●2008年12月20日~30日:「インドネシア、エジプト、クウエート」(※7)●2009年6月23日~29日:「トルクメニスタン、ウズベキスタン、フィンランド」(※8)●2009年10月29日~11月5日:「オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア」(※9)●2010年1月25日~28日:「スイス」(※10)●2011年1月4日~12日:「イギリス、スペイン、ドイツ」(※11)●2011年10月23日~27日:「北朝鮮、韓国」(※12)●2012年4月26日~5月4日:「ロシア、ハンガリー、ベルギー、EU」(※13)(概ね以上)拾い切れてないかもしれないが、実に経験豊かだ。李強にも、遅ればせながら、これに匹敵するくらいの経験を積ませなければならないから、これからも習近平の代わりに李強が出席するという国際会議は増えるかもしれない。これで、ようやく納得した。◆ASEAN関連首脳会議で取り上げられなかった「2023年中国標準地図」問題日本では専ら、ASEAN諸国が激しく中国が今年も新しく発表した「2023年中国標準地図」に抗議しているので、ASEAN関連首脳会議では、必ずこの問題が大きく取り上げられるから、「臆病な習近平」はそれを避けたいためにG20首脳会議を欠席したのだというのが主流だ。国内問題が惨憺たる状況にあるので、国際舞台で大恥をかいたら国内における権威が無くなるからと、背景説明まで立派だ。ところが実際の理由は全く違っていただけでなく、フランスの国際放送RFI(Radio France Internationale)は、<ASEAN首脳会議の共同声明は、中国の新地図に関して言及しなかった>(※14)と報道している。会議に出席したASEAN諸国の中のある外交官がジャカルタ・ポストに「どの国もこの議題に関して提起しなかった」と語っているという。声明の中では、ただ「我々は、相互の信頼と自信を強化し、紛争を複雑化したり状況をエスカレートさせたりする可能性のある行動を自制する必要性を再確認する」と謳っただけだ、とジャカルタ・ポストは述べているとのこと(RFIの報道概要は以上)。日本人は、「習近平がいかに無能か」あるいは「いかに追い詰められて絶望的状況にあるか」という視点で情報を発信すると、喜んで飛びついてくる。だからそういった視点で分析した情報が多いが、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※15)に書いたように、習近平はOPECプラスを誘い込みながらBRICSや上海協力機構を軸として地殻変動を起こそうとしている。日本人が「愚か者、習近平」と拍手喝采している間に、中国は日本の先を行くだけでなく、グローバルサウスを惹きつけて、戦略的に地殻変動を起こそうとしているのだ。日本は真実を見る客観的な視点を持たないと、ますます立ち遅れていくばかりではないのだろうか。そのことを憂い、警鐘を鳴らし続けたい。この論考はYahoo(※16)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2018-07/18/c_1123140446.htm(※3)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202306/t20230619_11099513.shtml(※4)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202306/t20230624_11102940.shtml(※5)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202309/t20230901_11136727.shtml(※6)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202309/t20230904_11137529.shtml(※7)https://www.gov.cn/ldhd/2008-12/16/content_1179757.htm(※8)https://news.cctv.com/china/20090623/107937.shtml(※9)https://www.gov.cn/ldhd/2009-10/29/content_1451536.htm(※10)https://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/201001/t20100121_306413.shtml(※11)https://www.gov.cn/ldhd/2011-01/13/content_1784047.htm(※12)https://www.mfa.gov.cn/web/ziliao_674904/zt_674979/ywzt_675099/2011nzt_675363/lkq_cx_hg_675367/201110/t20111019_9284491.shtml(※13)https://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/201204/t20120418_318154.shtml(※14)https://www.rfi.fr/cn/%E4%B8%93%E6%A0%8F%E6%A3%80%E7%B4%A2/%E8%A6%81%E9%97%BB%E8%A7%A3%E8%AF%B4/20230907-%E4%B8%9C%E7%9B%9F%E5%B3%B0%E4%BC%9A%E8%81%94%E5%90%88%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%9C%AA%E6%8F%90%E5%BC%95%E5%8F%91%E4%BA%89%E8%AE%AE%E7%9A%84%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%96%B0%E7%89%88%E5%9C%B0%E5%9B%BE(※15)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※16)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/baf3d5b10c92aedf3c2a98031fc5094b291b1e7f <CS> 2023/09/11 10:23 GRICI 日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中【中国問題グローバル研究所】 *10:21JST 日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。戦後日本を占領していたGHQは、「日本人が犯した戦争の罪に対する贖罪意識」を徹底して植え込み、自虐史観を抱かせることに成功した。それも「アメリカ脳化」政策同様、日本政府とメディアを使ったので、日本人はGHQに操作されていることに気づくことなく自ら進んで意識改革をしていった。いま同じアメリカがNED(全米民主主義基金)を用いて「反中、嫌中」意識を同じくメディアを用いて日本人に植え込んでいる。だから自民党は「反中」対米隷属と自虐史観的媚中外交の二股外交を余儀なくされている。これはバランス外交などというカッコいいものではなく、全てはGHQが植え付けた「贖罪意識」の結果だ。それをまず認識したい。◆WGIP(War Guilt Information Program)=日本人に戦争贖罪意識を植え込む戦略8月10日のコラム<アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳>(※2)に書いたように、戦後日本はGHQによって占領された。戦勝国であるアメリカは、戦勝国であるがゆえに敗戦国・日本に対してはやりたい放題。日本人の精神解体を行っただけでなく、「日本人がいかに罪深い人種であるか」を徹底して植え込み、「アメリカが原爆投下を行ったことを絶対に批判できないように」教育を浸透させていった。それも占領下の日本(傀儡)政府やメディア、特に教育界を通して実行したので、日本人には、「日本国」自らがそう判断しているのだと思わせる手段を用いるという、「実に頭のいい(?)」戦略で動いたのである。このWar Guiltはただ単に「戦争責任」という日本語ではなく、もっと「罪責」あるいは「罪悪感、自責」の方に近く、結果的に「贖罪をしなければならない」という認識を日本人の意識に植え込み、「原爆投下は、ありがたい罰である」と思わせるところに、このプログラムの(アメリカにとっての)真の意義がある。日本に原爆を二つも投下したことに対する史上かつてない残虐性、非人間性を「批難してはならない」というのがWGIPの真の目的なのだから。広島出身の岸田首相は、「だからこそ原爆には絶対に反対する」と言いながら、核兵器禁止条約には日本は絶対に参加しない。「核保有国は一国たりとも参加していないから、その橋渡しを」というのが岸田首相のいつもの弁明だが、彼もまたGHQが日本政府の精神性に埋め込んだ「贖罪意識」から逃れられないでいるのだ。2015年に出版された『日本人を狂わせた洗脳工作 いまなお続く占領軍の心理作戦』(※3)(関野通夫著、自由社ブックレット)は見事にその証拠を突き付けている。◆共産・中国に利したGHQのWGIP本来、「アメリカの原爆投下も日本占領も批判してはならない。悪いのは、お前ら日本人なんだから」というGHQの目論見は、結果的に共産・中国に利している。なんと言っても日中戦争において日本は「中国を侵略した」のだから、悪いのは日本で、「ひたすら中国に謝罪し続けなければならない」と、日本自らが積極的に思うようになった。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※4)にも書いたが、毛沢東は「私は皇軍に感謝している」と言い切っている。なぜなら日本軍が戦った相手は最大の政敵・蒋介石がトップに立つ「中華民国」だったので、蒋介石率いる国民党軍を弱体化させてくれたからだ。結果、日本敗戦後に中国国内で始まった国共内戦で共産党軍が勝利し、共産・中国である中華人民共和国(現在の中国)を誕生させたが、日本の対中贖罪意識は、なんと、敗北して台湾に身を寄せた蒋介石の「中華民国」に向けられず、勝利した共産・中国に向けられたのである。まるで共産・中国を「日本に対する戦勝国」のように位置付け、戦勝国に対する「敗戦国」の奴隷根性を丸出しにしている。だから1971年のキッシンジャー忍者外交に慌ててアメリカのあとを追い、共産・中国と国交を正常化することに向けて突進し、「贖罪意識」を持たなければならない「中華民国」とは国交を断絶した。それだけではない。1989年6月4日の天安門事件後の対中経済制裁を「中国を孤立させてはならない」としてイの一番に解除したのは日本で、1992年2月に中国の全人代常務委員会が「領海法」を議決して、日本の領土である尖閣諸島を「中国の領土領海である」と宣言したのに、いかなる抗議もせず、それどころか同年10月には中国の依頼に応じて天皇陛下訪中を実現させて、「領海法」を事実上黙認する意思表示をしてしまったのである(詳細は『習近平が狙う「米一強から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)【第五章の五、尖閣・南シナ海の領有権を定めた中国「領海法」を許した日米の罪】)。現在の岸田内閣とて、実は変わっていない。自民党きっての親中派議員を外相に指名したり、中国では最も親中的な政党として位置づけられている公明党から必ず国土交通大臣を選んで「尖閣問題に関して中国側に立つ」姿勢を貫いていたりなど、やっていることはGHQに埋め込まれた「贖罪意識」装置そのままだ。その一方でアメリカの事情が変わってきた。アメリカの原爆投下を批判させないためのWGIPは、実は原爆を持つアメリカこそが軍事力的に世界一で、世界を支配する正当性を持っているという、戦後の「米一極支配」を正当化する装置でもあった。ところが、その「米一極支配」を脅かす存在が現れてきた。中国だ。◆中国を潰すために動き始めた「第二のCIA」NED前掲のコラム<アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳>(※6)に書いたように、1983年に「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)を設立し、GHQやCIAの「贖罪意識」に代わって、「ロシアや中国を潰すための論理」で動き始めた。その柱にあるものを見抜かないと日本が戦争に巻き込まれることに警鐘を鳴らすために書いたのが前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※7)である。当該書の序章の最後に、本来なら「台湾有事を創り出すのはNEDだ」と書くべきだが、「NED」の知名度が低いので、「CIA」で代表させたと書いたが、実はもっと言えば、このサブタイトルをメインタイトルに持って行きたいほど、NEDの実態を知って欲しかった。正直に言えば、筆者自身、この本を書くまでは、ここまでNEDが世界全体を動かしていることには気が付かなかった。なぜ注目するようになったかというと、中東が中国に近づいた大きな原因がNEDが起こしてきたカラー革命にあることを知ったからだ。これによりいま地殻変動が起きようとしている。従って、NEDの実態を知らない限り、中国の真相も見えてこない。しかしNEDは、かつてのGHQやCIAと同じように、政府やメディアを動かしているだけで、直接的には日本国民に何かしらの指示を出すわけではないから、「アメリカ脳化」してしまった日本人にはNEDの動きは見えないだろう。大手メディアが言っているんだから正しいだろう程度に受け止めてしまう傾向にある。その「時流」に乗って出版される本や専門家(?)の発言がまた喜ばれるという精神的環境をNEDは作っているので、とことん中国を読み間違えてしまうのだ。「中国は今度こそは崩壊する」と喧伝して20年以上が経っているが、一向にその兆しはない。いや、数値が示していると主張するだろうが、その数値は一側面のデータしか拾ってないので間違えるのだ。たとえば7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>(※8)に書いたように、確かに中国の失業率は目も当てられないほどひどいが、しかし一方では、当該コラムの図表5に示したように、中国は論文数においても引用された論文の数(=論文の質)においてもアメリカを抜き世界一に躍り出ている。背景にあるのは2015年に習近平政権が打ち出した「GDPは量より質」に基づくハイテク国家戦略「中国製造2025」だ。GDPの成長率などだけを見て「ほらね、中国はもうすぐ崩壊するよ」と、日本国民を喜ばせている専門家やメディアは、「量より質」がもたらす中国の脅威には目を向けようとしない。結果、日本が取り残されていくのを筆者は怖れ、なかんずく戦争に巻き込まれていくのを怖れるのである。日本人の精神性は、あの敗戦直後のGHQとCIAが創り出した遺伝子が填め込まれたようなもので、この「アメリカ脳化」された精神から抜け出すのは至難の業だ。しかし、日本政府の対米奴隷化も媚中も、両方ともがWGIPが埋め込んだ贖罪意識にあるのだから、ある意味、アメリカの長期的戦略に圧倒されると言えなくもない。しかも気づかれないように動かしているのだから、「大したものだ!」、「脱帽だ!」と言ってしまいたいくらいだ。GHQによって創り出された遺伝子的精神性のママ、日本は生き続けていっていいのだろうか?今年の8月15日は終戦から78年が経つ。読者とともに考えたい。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4523(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/491523780X(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4106106426(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://grici.or.jp/4523(※7)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※8)https://grici.or.jp/4491(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/529066079afc49645e7a144fc7fedf2d42e1f98e <CS> 2023/08/15 10:21 GRICI アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳【中国問題グローバル研究所】 *10:26JST アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。◆GHQが行った「日本人の精神構造解体」1945年8月15日に日本が無条件降伏をすると、8月30日にはダグラス・マッカーサー連合軍最高司令官が、パイプをくわえながら厚木の飛行場のタラップに降り立った。その日から日本はGHQ(General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers=連合国軍最高司令官総司令部)の支配下に置かれた。GHQは第二次世界大戦終結に伴うポツダム宣言を執行するために日本で占領政策を実施した連合国軍だが、実際はアメリカを中心とした日本国占領機関だった。1952年4月28日に日本の終戦条約であるサンフランシスコ平和条約が発効するまで、GHQによる日本占領政策は続いた。また降伏文書に基づき、天皇および日本国政府の統治権はGHQの最高司令官の支配下に置かれた。ここまでは教科書にも出てくる話なので、誰でも知っているだろう。しかし、このときにGHQが日本の武装解除と同時に「精神構造解体」まで行っていたことを認識している人は、今では少なくなっているかもしれない。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※2)でしつこく追いかけたように、終戦の少し前までアメリカの大統領だったフランクリン・ルーズベルト(大統領任期期間:1933年3月4日~1945年4月12日)は、母方の一族が清王朝時代のアヘン戦争のころからアヘンを含む貿易で財を為していたので、非常に親中的で、容共的でもあった。特に「日本軍は異様に強い」と恐れるあまり、何としても当時のソ連に参戦してほしいと、再三再四にわたりスターリンに呼び掛け参戦を懇願した。そのためにソ連は日ソ不可侵条約を破って、アメリカが日本に原爆を投下したのを見て慌てて参戦し、私がいた長春市(当時はまだ「満州国・新京特別市」)に攻め込んできた。このときに北方四島を占領したという、忌まわしい歴史を残している。そのため1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行された日本国憲法では、日本が二度と再び再軍備できないように、そして戦争できないように強く制限している。1971年7月、「忍者外交」で知られるニクソン政権時代のキッシンジャー大統領補佐官(のちに国務長官)は、北京で当時の周恩来総理と会談した際、周恩来が懸念した在日米軍に関して、「あれは日本が再軍備して再び暴走しないようにするために駐留させているようなものです」と回答している。アメリカは本当に、日本をこのように位置づけていたものと思う。だからGHQは日本国憲法第九条で日本が再軍備できないように縛りをかけた。ところが1950年6月に朝鮮戦争が始まったため、GHQは日本に「警察予備隊」の設置を許し、それがのちの自衛隊になっている。それでも憲法九条があるため、日本の防衛はひたすらアメリカに依存するという形を取り続けている。その結果日本はアメリカに頭が上がらず、精神的に奴隷化する傾向にあるが、GHPが行ってきた、もう一つの「日本人の精神構造解体」の方も見落としてはならない。1945年から52年までの約7年の間に、日本の戦前までの精神文化は徹底的にGHQによって解体されていった。それもやはり、日本軍が戦前強かった(とアメリカが恐れた)ために、「天皇陛下のためなら何が何でも戦う」という特攻隊的精神を打ち砕くことが目的の一つだったので、「民主、人権、自由、平等・・・」などのいわゆる「普遍的価値観」を埋め込み、それを娯楽の中に潜ませていったのである。そのためにハリウッドが配給した映画は数百本を超え、ハリウッド映画に憧れを抱かせるように、あらゆるテクニックを凝らしていった。この背後で動いていたのはCIAだ。◆CIAによる洗脳日本敗戦後まもない1947年までは、第二次世界大戦中の特務機関であった戦略諜報局OSS(Office of Strategic Services )がアメリカ統合参謀本部でスパイ活動や敵国への心理戦などを実施していたが、1947年9月18日に機能を拡大して中央情報局(Central Intelligence Agency=CIA)と改名した。サンフランシスコ平和条約締結に伴ってGHQが解散され、アメリカの占領軍が引き揚げると、アメリカはすかさずCIAを中心として日本テレビを動かし、新たな「日本人の精神構造解体を実行する装置」を構築した。その詳細は『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』(※3)(有馬哲夫、新潮社、2006年)などに書いてある。CIAのその操作は大成功を収め、日本は世界で唯一の「大洗脳に成功した国」と言っても過言ではないほど、完全に「アメリカ脳化」することに成功したのだ。日本のその成功例を過信し、アメリカはイラクに大量の破壊兵器があるという偽情報に基づいて「イラクの自由作戦」などと名前だけ民主的な名目を付け、激しい武力攻撃に入った。実態は侵略戦争以外の何ものでもない。大量の破壊兵器は見つからず、それは偽情報だったということがわかっても、イラク国内での戦闘は止まず、凄絶な混乱と治安悪化を生み出しただけだった。アメリカの腹には、日本に原爆を二つも落として惨敗させても、日本はアメリカによる占領軍の指示を従順に聞きアメリカを崇めるに至ったので、他の国でも日本と同様のことができるはずだという目算があったにちがいない。しかし世界中、日本以外のどの国でも、そうはいかなかった。なぜだろう?◆なぜ日本では完全洗脳に成功したのか?なぜ他の国ではうまくいかないのに、日本では成功したのだろうか。あれは『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※4)を書いていたときだった。アメリカのスタンフォード大学のフーバー研究所に通い続け、そこにしかない直筆の「蒋介石日記」を精読する月日の中で知ったのだが、蒋介石は日本の戦後処理に関して「天皇制だけは残さなければだめだ。日本人は天皇陛下をものすごく尊敬している。天皇制さえ残せば、戦後の日本を占領統治することができるだろう」という趣旨のことを書いている。かつて日本軍は「皇軍」と呼ばれて、「天皇陛下のためなら命を落としてもいい」という覚悟で闘った。戦死するときには「天皇陛下万歳――!」と叫んだ。1945年8月15日、終戦を告げる詔書を読み上げた天皇陛下の玉音放送を、私は長春の二階の部屋で聞いたが、そのとき家族一同だけでなく工場の日本人従業員が集まって、全員がラジオの前に正座して両手を畳に揃えてうつむき、むせび泣いていた。それから何十年もあとになってから、日本で玉音放送を聞いている人たちの姿を映像で見たが、その正座の仕方から始まり、うつむいてむせび泣く姿は、異国にいた長春でのあの風景と完全に一致したのだ。なぜ、全員が、誰からも指示されていないのに、同じ格好で玉音放送を聞いたのだろうか?日本人の多くが天皇陛下に対する畏敬の念を抱いていたからではないだろうか?その昭和天皇が「堪(た)え難(がた)きを堪え、忍(しの)び難きを忍び…」と日本国民に呼びかけたのだ。日本人は終戦を受け容れ、天皇陛下がマッカーサーに会いに行ったことによって、これは天皇陛下の意思決定だと解釈して、GHQの指示に従ったものと思う。この要素が決定的になったのではないだろうか。こうして日本人は自ら積極的にCIAの洗脳を歓迎し、「アメリカ脳」化していったにちがいない。◆「第二のCIA」NEDに思考をコントロールされている日本人何度も書いてきたが、1983年にアメリカのネオコン(新保守主義)主導の下に「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が設立された。CIAは政府の組織なので他国の政党に直接資金を渡すことはできないが、NEDは非政府組織なので、他国の民主化運動組織を支援することが合法的に許されるからというのが最大の原因だった。しかし実際にはアメリカ政府がNEDの活動経費を出しているので、毎年「会計報告」を公表しなければならない。非常に矛盾した組織を米陣営側の国際社会は批判しない。そのお陰で、「会計報告」情報に基づいて過去のいくつかの時点におけるNEDの活動一覧表を作成することができた。いくつかの時点というのは、この「会計報告」は3年に一回削除されてしまうので、完全な形でフォローすることはできなかった。それでも、その範囲内でNED活動の一覧表を掲載したのが拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)である。拙著に掲げた【図表6-4 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や図表【6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】などをご覧いただければ、台湾有事を創り出そうと必死で動いているのが「第二のCIA」NEDであることは明瞭な形で読み取れるはずだ。しかし残念ながら、アメリカ脳化されてしまった少なからぬ日本人には、この現実が見えない。これが見えない限り、日本は必ず「台湾有事」を創り出すことに結果的に協力し(積極的に力を注ぎ)自らを再び戦争の中へと突き進ませていく。まもなく終戦78周年を迎える。あのような犠牲を二度と日本国民に強いないために、どうか一人でも多くの日本人が「アメリカ脳」から脱却してほしいと祈らずにはいられない。この論考はYahoo(※6)から転載しました。写真: 1947年2月 日本を占領していたGHQのダグラス・マッカーサー(提供:MeijiShowa/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4106106426/ref=zg_bs_g_500162_sccl_30/357-4646009-0313400?psc=1(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4103022310(※4)https://grici.or.jp/4523(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a9c90531252ba4c92e1ad29fe29adcca66028552 <CS> 2023/08/14 10:26 GRICI 秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:24JST 秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月25日に秦剛(しん・ごう)前外相が解任され、後任に中国外交のトップである王毅(おう・き)政治局委員が任命された。秦剛氏解任に関してはさまざまな噂が飛び交っているが、「なぜ国務委員には残っているのか」に関する回答を持っている人はいないようだ。答えは実に簡単。中国政治を真に理解している人なら、すぐにわかるはずだ。◆秦剛氏が外相を解任されながら、国務委員に残っているわけ7月25日、習近平国家主席は<中華人民共和国主席令(第八号)>(※2)を発布して、「中華人民共和国第十四期全国人民代表大会常務委員会第四次会議」の結果として、「2023年7月25日を以て、秦剛が兼任している外交部部長の職務を解任し、王毅を外交部部長に任命する」という旨の決定を公表した。ここで重要な言葉は中国文字で書くなら「兼任的」で、秦剛は「(外交部部長を)兼任していた」のである。では、他のどのような職務に就いていたかというと、「国務委員」だ。秦剛は、外交部部長(日本の外務大臣=外相に相当)に関しては2022年12月30日に開催された第十三期全国人民代表大会常務委員会第第三十八回会議において任命されることが決議された。国務委員に任命されたのは今年3月12日で、第十四期全国人民代表大会第一回会議においてだ。このことからも分かるように、中国では国務委員は「国務院総理がノミネートして、全国人民代表大会で投票により決議され任命される」ことになっている。職務は「国務院総理を補助すること」で、言うならば「副総理(日本語的には副首相)」に相当するほどの高位の職位である。その任命権は全国人民代表大会にしかなく、罷免権も全国人民代表大会にしかない。したがって、もし秦剛の国務委員職を解任したいと思うのならば、来年(2024年)3月に開催される全国人民代表大会まで待つしかないのである。つまり、全国人民代表大会常務委員会には国務委員に関して任命権も罷免権もない。だから現段階では国務委員の職位を保ったままでいるのだ。中国政治の基本中の基本を知らないらしい、日本の一部の「中国問題専門家」やメディアは、「なぜ国務委員には残っているのか、不思議だ」と言い、あたかも、そこに解任劇の謎を解くカギがあるような口ぶりで報道している。その程度の見識で、さまざまな「噂話」に花を咲かせているわけだ。◆秦剛氏はなぜ解任されたのか?ではなぜ外相を解任されたのかに関して決定的なことを言うのは控えたいが、それでも、「それはないだろう」と思われる憶測に関しては述べたい。それは「中国の外交部(外務省)内部における権力闘争」という憶測だ。秦剛のスピード出世が妬まれ、王毅一派が密告したという手の噂だ。秦剛はまだ若いのに(56歳で)、2歳年上の謝鋒(駐米大使)を差し置いて外相になった。そのことに不満を持った謝鋒らがアメリカにおけるスキャンダルを、秦剛と対立する(と位置付けている)王毅に告げ、王毅が習近平に密告したという流れの憶測だ。スキャンダルというのは秦剛が香港メディアのフェニックスで「風雲対話(Talk with World Leaders)」という番組を担当していた女性キャスター・傅暁田(ふ・ぎょうでん)氏と不倫関係にあったという噂を指す。傅暁田が2022年11月に秦剛の子供を出産したという噂は秦剛が外相に抜擢される前から流れていた。彼女は2022年3月放送の番組で、当時駐米大使だった秦剛を取材している。その後キャスターを降板し、渡米して2022年11月にアメリカで出産。今年4月には飛行機の中で子供を抱いて自撮りした写真と共に、秦剛を取材したときの写真を同時にツイッターに投稿したことがスキャンダルの証拠として世間を騒がせた。これらの情報はカナダやアメリカにいる華人華僑系列の評論家たちから出たもので、その中の何名かは筆者の知人でもあるため、直接メールで知ることも少なくない。このたびの秦剛の解任劇に関して、中国外交部内での権力闘争だと言い始めたのも、実はこの華人華僑系列だ。それに飛びついたのが日本の一部の中国問題専門家である。その見解をNHKの第一報で報道したので、日本中に一気に「中国外務省内での権力闘争」説が広がった。しかし、中国における大きな流れの本質を見れば、概ね何が原因だったのかは見当がつくはずだ。7月3日のコラム<習近平が反スパイ法を改正した理由その1 NED(全米民主主義基金)の潜伏活動に対抗するため>(※3)や7月4日のコラム<習近平が反スパイ法を改正した理由その2「中国の国内事情」 日本はどうすべきか>(※4)に書いたように、中国が反スパイ法の改訂版を実施し始めたのは今年7月1日だが、4月26日に開催された第十四期全国人民代表大会第二次会議で「改正反スパイ法(新修訂反間諜法)」が可決されていた。同時に<中華人民共和国主席令(第四号)>が4月26日付けで習近平国家主席の名において発布され、内容が公開された。2014年の反スパイ法との違いは主として、2023年版第二条に書いてある「国家安全観」に関してだ。「国家安全観」というのは基本的に、【外部からの干渉と「カラー革命」の扇動に脅かされないこと】を指している。これはアメリカがネオコン(新保守主義)の主導下で1983年に設立したNED(全米民主主義基金)の暗躍のことを指す。この大きな国家方針の線上で、「さらにもう一歩進めた綿密な身体検査」が細部にわたって実施された。その中の一つが秦剛事件であって、三期目の国家主席の職位を手にするほどの絶大な権力を持っている習近平が、外交部内部の権力闘争ごときに左右されると思うのは、中国政治の実態を知らな過ぎるとしか言いようがない。もっとも、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※5)の第一章で書いたように、中共中央委員会委員や中共中央政治局委員あるいは中共中央政治局常務委員会委員(チャイナ・セブン)をノミネートする段階で、どれだけ長期間かけて身体検査をし適性を協議するか、その念の入れようは尋常ではない。その後に投票にかけるという筋道を通しながら、反スパイ法改正案が発布された4月以降に再チェックを行った結果、次から次へと不適合者が出ている。秦剛も、不倫相手がスパイ活動を行っていたというのを事前にチェックし切れなかったことが主な原因だろう。習近平の落ち度と、身体検査を担った関係者の落ち度は、計り知れないほど大きく、秦剛を信頼した習近平としては大きな痛手を受けているはずだ。◆NED(全米民主主義基金)の中国における暗躍台湾や香港を含めた「中国」において、NEDがこれまでどれだけ暗躍してきたかに関しては拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)の第六章で詳述した。ここで「CIA」と書いたのは、NEDが「第二のCIA」と呼ばれているからで、「NED」と書いたのでは知名度が低く、日本の読者には伝わらないかもしれないと危惧したからだ。第六章の【図表6-2 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や【図表6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】をご覧いただければ一目瞭然なように、NEDは何とかして中国政府を転覆させるべく、中国に深く潜って「民主化運動」を支援してきた。それらのデータは、すべてNEDのウェブサイトから拾い出したものだが、実はこのたび新たにNEDが出している年次報告(Annual Report)があるのを発見したので、既に削除されているものもあるが、何とか見つけ出して新たなデータを入手することができた。その中の中国に関する2021年版のデータによれば、NEDのプロジェクト対象は「中国本土、香港、チベット、新疆ウイグルおよび中国全域」となっており、「中国本土(mainland china)」(※7)には5,576,268米ドル、「香港(hong kong)」(※8)には434,450米ドル、「チベット(tibet)」(※9)には1.048,579米ドル、「新疆ウイグル(xinjiang)」(※10)には2,578,974米ドル、「中国全域(china regional)(※11)(各地域をつなぐもの)」には600,000米ドルが、それぞれ民主化運動資金として注がれている。2021年の対中国プロジェクトの合計は10,238,271米ドルだ。この年次合計は習近平政権になってから増えており、特に2020年における香港やウイグルでの民主化運動支援金が多い。民主化運動支援金は、今から民主化運動を起こして現存の政府を転覆させるために使われるものなので、台湾に関しては、むしろ2003年にNEDにより「台湾民主基金会」を設立したので、台湾に資金を出させる形でアメリカ寄りの政権を誕生あるいは維持させるためにNEDと共同で大会を開催したり、アメリカの政府高官を派遣したりするなどの活動を行っている。中国に対するNEDの活動の推移に関しては、追って別のコラムでご紹介したい。以上より秦剛事件は、大きな枠組みとしては、習近平政権とNEDとの闘いの結果であることが見えてくるが、外相というのはあくまでも中共中央外事工作委員会の結果を受けて実務的に動くだけなので、誰が外相になろうと、中国の外交方針が変わることはない。なお、もし中央紀律検査委員会の調査の結果、嫌疑が固まれば、解任した理由などを公表するのが中国のこれまでの慣わしなので、解任理由を現段階で明らかにしないのは少しも不思議なことではない。ただ嫌疑の如何(いかん)によっては、国務委員職を含めた全ての公民権の剥奪もあり得る。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/2023-07/25/c_1129767582.htm(※3)https://grici.or.jp/4404(※4)https://grici.or.jp/4415(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※7)https://www.ned.org/region/asia/mainland-china-2021/(※8)https://www.ned.org/region/asia/hong-kong-china-2021/(※9)https://www.ned.org/region/asia/tibet-china-2021/(※10)https://www.ned.org/region/asia/xinjiang-east-turkestan-china-2021/(※11)https://www.ned.org/region/asia/china-regional-2021/ <CS> 2023/08/03 10:24 GRICI 中国半導体産業の現在地 日本の対中輸出規制が始まった先端半導体製造装置【中国問題グローバル研究所】 *10:21JST 中国半導体産業の現在地 日本の対中輸出規制が始まった先端半導体製造装置【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月23日、日本の先端半導体製造装置の対中輸出規制が始まった。アメリカとしては中国の最も弱い部分を絞めつけて、中国半導体産業の息の根を止めるのが目的だ。それによって中国経済を潰す。かつて日本の半導体もアメリカを凌駕したために沈没させられてしまったが、中国の場合はどうなるのか?主として今般の制裁対象となる半導体製造装置を中心に中国半導体産業の現在地を考察する。◆「中国製造2025」発表の苦い経験から習近平政権は真相を発表しなくなった2015年に習近平政権は中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を発表し、ファーウエイなどが世界を席巻する状況を創り上げた(詳細は『「中国製造2025」の衝撃』)(※2)。しかし、そのことがアメリカに強烈な警戒心を抱かせ、アメリカは次から次へと中国の半導体産業への制裁を打ち出して、中国の半導体産業が立ち直れないようにしたのは記憶に新しい(詳細は『米中貿易戦争の裏側』)(※3)。日本が天安門事件後の対中経済制裁に対して、「中国を孤立させてはならない」としてトウ小平を応援し、制裁を解除してきたことは、これまで何度も書いてきた。それがこんにちの中国の経済繁栄をもたらしたことを疑う人はもういないだろう。しかし、このとき実はアメリカもまた「ひそかに中国を支援した」ことを知る人は少ないかもしれない。このことは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】の【一、「一つの中国」原則はアメリカが進め、経済大国中国は日本が創った】で詳述した。このときアメリカは、「中国はアメリカの下請け業務」という分担をすればいいと位置付けていた。アメリカの製造業の手間暇かかるプロセスは全て中国に持って行き、安価な密集型労働力でブルーカラーを使って、アメリカ企業は儲けだけを頂く。この方針によって中国は世界の工場と化し、中国は世界の加工生産国家となりはててしまったのである。しかしこのままでは中国は後進国のままで終わると方針転換をしたのが冒頭に述べた「中国製造2025」だ。このときに習近平政権はニューノーマル(新常態)政策を提唱し、GDPの「量的成長から質的成長」への大転換を断行した。これにより中国のGDPの量的成長は抑えられ、質的に成長させる(=研究開発を重視する)方向へと転換した。外界から見れば「中国の経済発展が鈍化したので、中国経済はまもなく滅びる」と映り、中国崩壊論者を大いに喜ばせた。ところが7月22日のコラム<習近平の行動哲理【兵不血刃】(刃に血塗らずして勝つ) 狙うは多極化と非米陣営経済圏構築>(※5)にも書いたように、習近平はアメリカからの制裁を増やさないように「中国半導体産業の成果と展望」を外部に漏らさずに(=アメリカと戦火を交えないようにしながら=制裁をこれ以上増やさないようにしながら)、実は着々と中国半導体産業の弱点を補うべく、「ひそかに」邁進していたのである。なんとしても「制裁外交」で世界を一極支配するアメリカと切り離した経済圏(非米陣営経済圏)を構築しようと、半導体産業においても戦略を練っている。◆露光装置に関する中国の実態中国が最も弱いのは、半導体製造装置の中でもリソグラフィー技術を中心とした露光装置に関してだ。半導体は小さなチップに非常に細かい配線が描かれており、その配線パターンを「光照射」によって作ることを露光プロセスと呼ぶ。光照射によって変化する材料(レジスト)の膜をウェハー上に作った状態で露光した後、光が当たった部分のレジストを除去することでパターンが形成される。これが露光プロセスの基本だ。7月23日から実行される日本の対中輸出規制も、まさに露光装置を中心としたものである。中国語では「光刻机(機)」と訳されており、「光刻机」に関する民間の解説は溢れるようにある。中国政府は、その発表を阻止することはしていないので、「民間の解釈」は適切なことを言っているものと解釈される。これに関しては、あまりに多くの解説があるので、どれをご紹介すればいいか迷うが、たとえば今年5月19日の<露光装置国産化プロセスと関連上場企業>(※6)や、4月24日に公開された<露光装置の各段階における国産化情況>(※7)などが比較的わかりやすく、現状を忠実に表現しているように思われる。中には威勢よく、しかし相当に正確に現状を早口で喋りまくる「大劉」という名の若い解説者もいて、それは7月8日に<ASMLのハイエンド製品は中国大陸と「絶縁」されたが、中国の国産の露光装置はどこまで頑張っているか?>(※8)というタイトルの動画として発表されている。この動画の喋り方の勢いを見ると、「中国がいかに怒っているか」というのが伝わってくるので、一見に値するだろう。ここで言うASMLはオランダの半導体製造装置メーカーで、半導体露光装置(フォト・リソグラフィ装置)を販売する世界最大の会社だ。世界の主な半導体メーカーの80%以上がASMLの顧客で、中国への輸出は15%を占めており、本来中国とASMLの仲は非常に良かった。しかしアメリカが対中制裁を「アメリカの友好国」にも呼び掛けたため、ASMLは非常に不本意ながらアメリカに同調せざるを得ない立場に追い込まれている。こういった背景を理解しながら、中国の現在地を考察すると、おおむね以下のようになる。1.ASMLと中国との関係日本半導体製造装置協会の2019年のデータによると、中国本土の半導体売上高は1,432億4,000万米ドルで、世界市場の34.7%を占め、世界第1位だった。そこでASMLは収益を上げ続けるため、2020年に江蘇省無錫市の高新区(ハイテクパーク)に定住しビジネス拠点を設立した。オランダ政府による輸出禁止を回避するために、ASML は世界で唯一の独特の DUV (深紫外線)露光装置を中国本土に投入する計画を立てていた。しかし2023年6月、オランダ政府は9月1日からアメリカに指示された輸出管理法を実行することに決めた。そこで、ASMLは、規制する製品はすべての露光装置を対象とするのではなく、少数のハイエンド製品であるDUVおよびEUV(極端紫外線)露光装置に限定し、中国専用バージョンを中国で発売できる可能性を残している。ASMLもまた、他人の販路をブロックしている国(アメリカ)の被害者なのだと中国は憤っている。2.光源に関して光源から見たとき、波長ごとに(世代順に)g線(1970年代や80年代に使われた波長の長いタイプ)、i線(90年代に使われた波長のやや短いタイプ)、KrF(90年代後半に使われたクリプトン・フッ素によるレーザー光線)、ArF(フッ化アルゴンによるレーザー光線)およびEUVの5世代があるが、中国は4代目半のArFiに相当した光源を開発することに成功しており、中国科学院・長春光機所とハルビン工業大学が12wのDDP-EUVの開発に成功している。 このArFiの「i」は「immersion(浸潤)」の意味である。3.対物レンズに関して露光装置の構成要素の中には光学系が大きな要素の一つとなっているが、ASMLは対物レンズに関してはドイツのツァイス社のレンズを独占的に使っている。日本の(ASMLに比べれば)小規模露光装置メーカーであるキャノンやニコンは自社レンズを持っているので光学メーカーとして有利だ。中国の場合は現在「長春奥普光電技術股分有限公司」が90nm(ナノメータ―、ナノ)を開発し、「長春光機所」が32nmのEUVレンズを開発している。ツァイス社とは、まだかなりの差がある。4.デュアル・ウェハー・ステージ・システムに関してデュアル・ウェハー・ステージ・システムとは「1台の露光装置内に、同時に2つのウェハーを扱う、露光と計測を同時に行うシステム」のことである。中国語では「双工台」と書く。これに関しては清華大学と北京華卓精科科技股份有限公司(華卓精科)が10nm(移動精度)を実現することに成功している。ちなみにASMLは2nmまで行っている。5.液浸露光システムに関して波長の短い光源を使ったシステムを追求した結果、たどり着いたのが「ArF液浸露光」と「EUV露光」だが、「ArF液浸露光」は光源として波長193nmの「ArF光源」を用いる。この技術を用いることで10ナノ世代の加工精度でパターンを形成できる。中国ではこれに関して「浙江啓爾機電」が「ArFi液浸露光」の実現に成功している。ASMLでは、その先を行く「EUV露光」に移っているが、中国では、「半導体製造装置国産化黎明期の最後の一瞬が来た」とみなしている。「夜明けは近い」と期待しているのだ。◆伝統的な半導体やパワー半導体で勝負する中国アメリカがハイエンド製品に対する対中制裁を強化するなら、中国はもっと線幅の大きな伝統的な半導体製造ラインに切り替えようという動きもあり、特にパワー半導体(電源電力の制御や供給を行う半導体)に力を入れる戦略を実行している。パワー半導体に関しては、たとえば<中国銀河証券研究院の報告書>(※9)に書いてあるように、2020年の中国におけるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor=絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ=パワー半導体デバイスの一種)の自給率は20%で、2024年では40%に達すると予測されている。宇宙開発においてもアメリカを抜いており、アメリカの制裁外交が効を奏する期間には賞味期限があり、油断はしない方がいいのではないだろうか?アメリカには中国が製造装置を含めて国産化できるようになるまでに時間を稼ぎ、米側陣営の技術力をその間にさらに高める目算があるだろうが、中国はアメリカの「制裁外交」を嫌う人類85%を占める「非米陣営」を相手に、「制裁されたがゆえに可能となる非米陣営経済圏」の構築を成し遂げないとも限らない。つまり、アメリカの「制裁外交」が裏目に出るということだ。どちらに正義があるか、どちらに付いている方が将来的に有利かを世界が見ていることに、日本も留意した方がいいかもしれない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4569842178/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4620326097/(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※5)https://grici.or.jp/4469(※6)https://www.9fzt.com/jfyx/research_c9410f174bc876dfbc52c383cb75fcbc.html(※7)https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202304241585733312_1.pdf?1682350463000.pdf(※8)https://www.bilibili.com/video/av785654106/(※9)https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202207221576450369_1.pdf?1658501440000.pdf <CS> 2023/07/26 10:21 GRICI 宇のNATO加盟に消極的な発言をしたバイデン大統領は、台湾選挙民を親中に向かわせるか?【中国問題グローバル研究所】 *10:26JST 宇のNATO加盟に消極的な発言をしたバイデン大統領は、台湾選挙民を親中に向かわせるか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月12日に閉幕したNATO首脳会議では、ウクライナのNATO加盟に関し具体的な時期は示されず、特にバイデン大統領の躊躇が目立った。それは来年1月の台湾の総統選に対して影響をもたらし、今年7月16日に開催される野党連合の抗議デモを活気づけるのではないだろうか。◆結局は躊躇したバイデン大統領リトアニアで開かれていたNATO首脳会議は12日に閉幕し、ウクライナのNATO加盟に関しては結局、具体的な時期までは示せないまま終わった。ウクライナへの長期的な支援をすることでは合意し、加盟手続きに必要なプロセスが短縮されることになったものの、加盟の条件として「NATO加盟国全員が同意すること」が要求されており、果たしてその日が来るのか否かは誰にもわからない。アメリカのバイデン大統領は7月7日のCNNの単独取材を受けて<ウクライナのNATO加盟検討には戦争終結が必要>(※2)と語っていたことが10日の報道で明らかになった。リンク先のビデオで、バイデンは以下のようにも語っている。●私はウクライナをNATOに加えるかどうかについて、現時点で戦争のさなかに、NATO内で意見が一致しているとは思わない。●もしウクライナがNATOに加盟した場合、NATOは加盟国の領土を隅々まで守るので、戦争が行われている場合には、NATO加盟国全てがロシアと戦争状態になる。●ゼレンスキー(大統領)と長時間にわたって電話で話したが、彼には「手続きが継続する間、アメリカやNATOはウクライナに安全保障と武器を供与し続けると伝えた。(取材の概略は以上)一方、NATO首脳会議のあと、ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナがNATO加盟に向けた課題などを対等な立場で名はし合うことが出来る「NATOウクライナ理事会」を新設すると宣言したが、それが加盟時期を早めることが出来るか否かに関しては言及していない。従って、加盟までにどれくらいかかるのか、あるいは最終的に加盟できるのか否かは、やはり定かではない。◆台湾では7月16日に野党連合の抗議デモこの結果を、ウクライナの次に強い関心を持って見守っていたのは台湾の選挙民たちではなかっただろうか。実は台湾では7月16日に野党が連合した現政権への抗議デモが行われることになっている。筆者が所長を務めるシンクタンク中国問題グローバル研究所の台湾代表・研究員で、淡江大学中国大陸研究所の陳建甫所長は、7月12日に<Taiwan’s Opposition Parties: A Protest March or a Carnival for Fairness and Justice?(台湾の野党:抗議デモあるいは公平と正義のためのカーニバル?)>(※4)という論考を書いている。それによれば、現在の与党である民進党以外の全ての野党が集まって「716台北大規模デモ」を行うという。これは来年1月に行われる「中華民国」総統選に立候補する全ての野党や立候補者の支援団体や党派も含んでいるため、場合によっては「反民進党大連盟」ができ上るかもしれない。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】で詳述しているように、現在総統選に立候補しているのは与党・民進党で独立色の強い頼清徳(らい・せいとく)氏(民進党主席)と野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(新北市市長)と台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏(台湾民衆党党首)なのだが、どの党派にも属さない郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、単独で総統選を闘うべく支援者などを組織しているので、彼も立候補者の一人になり得る。与党・民進党以外の、そういった政党や支援者たちが一堂に集まるので、台湾では「716台北大規模デモ」を「総統選における与党に反対する統一戦線のプラットフォーム」だという風に位置づけている。くり返すが、与党の民進党は「台湾独立」傾向が強く、親米だ。野党は、必ずしも「親中」とはいかないまでも、「独立」を叫ぶことはない。独立を叫べば、中国大陸側が「反国家分裂法」により、台湾を武力攻撃する可能性が高まる。だから、経済力で中国に勝てそうにないアメリカは、何としても習近平に台湾を武力攻撃させ、台湾を第二のウクライナへと追いやろうとしていると、野党の多くはみなしている。だから平和裏に経済的に提携していこうという人たちが多い。ウクライナ戦争が始まって以来のアメリカの一挙手一投足を、少しでも見逃すまいと観察し続けているのだが、アメリカがアメリカ人兵士を一人たりともウクライナの戦場に送ることなく、ひたすら武器の供与(売却?)のみを続けているのを実感し、台湾が戦場になっても同じことをするだろうという「疑米論」が広がっているのだ。◆バイデンは自ら「自分の夢を砕く」発言をしていないか?そこに、今般のウクライナNATO加盟に関するバイデンの発言があったものだから、この「716台北大規模デモ」をプラットフォームとして、来年1月の総統選挙では、「反独立派」の大連合ができ上るかもしれないのである。独立を叫びさえしなければ、中国大陸側は台湾を武力攻撃しては来ない。習近平としては、国連で「一つの中国」が認められているので、独立を叫ばなければ、台湾を武力攻撃などする理由は皆無だ。そのことをテリー・ゴウが4月の時点で明言している。鴻海(ホンハイ)精密工業の創設者だけあって、長いこと大陸で仕事をしていたから、大陸のことをよく分かっている(このことは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)のp.220に書いた)。台湾はアメリカが積極的に中国(中華人民共和国)を国連に加盟させ、同時に「一つの中国」を承認しているために、「中華民国」として国連を脱退せざるを得ないところに追い込まれた。米中国交が正常化した日に、アメリカは「中華民国」と国交断絶もしている。したがって台湾としては、ウクライナのように「一国家として」、何かしらの「(NATOのような)集団的自衛権が確保される軍事同盟」に入る資格がそもそもない。あるのは唯一、アメリカが「中華民国」と国交断絶したときにアメリカの国内法で定めた台湾関係法だけだ。台湾関係法により、アメリカは台湾に武器を売却する権利を持っている。しかしウクライナと同じように、アメリカ軍が一人でも台湾の戦場に来て台湾のために戦ってくれるという可能性はないだろうと、台湾の多くの人たちは考えている。戦うのは台湾人でしかない(実は日本には世界で最大のアメリカ軍基地があるので、命を捨てて戦うのは台湾人と日本人だけかもしれない)。となれば、台湾の選挙民は「戦争にならない道」を選択するだろう。それはすなわち、中国大陸と仲良くし、経済繁栄だけをしていく選択となる。バイデンとしてはロシアを潰し、次に何としても中国を潰そうとしているが、果たしてその夢は叶えられるだろうか?CNNの単独取材への回答は、自らの夢を砕く結果を招くかもしれない。7月16日の野党大連合デモの成り行きを見守りたい。追記:そもそもバイデンは副大統領だった2009年7月にウクライナを訪問して、「ウクライナのNATO加盟を強く支持する」と発言。誰も相手にしなかったが、2013年末から2014年初頭にかけてマイダン革命を起こさせてウクライナの親露派政権を転覆させ、新しく誕生させた親米政権に対して「NATO加盟を首相の努力義務とする」という文言をウクライナ憲法に盛り込ませた。他国への干渉という意味で国際法違反までしてウクライナ戦争勃発を誘導しておきながら、戦争が始まったら「ウクライナはNATO加盟国ではないのでアメリカは参戦しない」と言い、今度は「戦争中なのでウクライナのNATO加盟は適切でない」と主張するなど、やりたい放題だ。台湾がアメリカを信用するなどということが出来るはずがないだろう。命がかかっているのだから。日本人の命もかかっていることを忘れないでほしい。ウクライナも台湾も日本も、バイデンにとっては「駒の一つ」に過ぎない。写真: 訪米したNATO事務総長と会談するバイデン大統領(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.cnn.co.jp/video/22009.html?utm_source=yahoonews&utm_medium=news_distribution&utm_campaign=contents_distribution_ynews_photo(※3)https://grici.or.jp/(※4)https://grici.or.jp/4427(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/ <CS> 2023/07/14 10:26 GRICI 習近平はワグネル事件でプーチンへの姿勢を変えたか?【中国問題グローバル研究所】 *10:22JST 習近平はワグネル事件でプーチンへの姿勢を変えたか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。ワグネル事件によりプーチンの立場が弱体化したので、習近平が対露戦略を変えるのではないかという憶測が散見される。中国は今回の事件をどのように位置づけているかを考察することによって、その憶測に対する筆者の見解を示したい。◆中国における初期報道6月23日、ロシアの民間軍事会社、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がロシア国内のロストフ州で武装蜂起を宣言し、モスクワに向かって「正義の行進」をすると言ったことを、一部の中国人は「ワグナー行進曲」と称している。「ワグネル」という名前が、ドイツの作曲家ワグナーに因んでいるからだ。それくらいの扱いであるという意味で、興味深い。ベラルーシのルカシェンコ大統領が間に入り、「プリゴジンの乱」はわずか1日で終わった。するとロシアのルデンコ外交副部長(副外相)が訪中し、秦剛外交部長(外相)と対談した。これを中国の外交部が発表したのが6月25日15:46で(※2)、短く「中露関係や共通の関心事である国際・地域問題について意見交換した」とのみ報じている。また同日の21:40には、中国外交部は定例記者会見における記者の質問と外交部報道官の回答を短く報道している(※3)。記者からワグネル事件に関して「中国はどう思っているか」と質問されたのに対して、報道官は「これはロシアの内政問題だ。友好的な隣国として、また新時代の全面的な戦略協力パートナーとして、中国はロシアの国家安定を維持し、反転と繁栄を実現することを支持する」と回答したのみだった。しかし、実は6月25日の07:47という早朝に、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版である「環球時報」電子版が<ワグネルの「24時間の反乱」>(※4)という見出しで、長文の論考を掲載していたのである。それはあまりに長いので、要点をまとめるのが困難だが、なんとかまとめてみると、以下のようになる。・プーチンは「裏切り者」を批判し、「武装暴動を組織した人々の排除」を要求すると演説したが、その後、プリゴジンはベラルーシに行き、プリゴジンに対する刑事訴訟は取り消された。・ワグネルはロシアで最も優れた軍事民間企業とみなされており、ロシアの軍事目標を達成し、ウクライナを含む世界中の現地情勢に介入する上で大きな役割を果たしてきた。しかしプリゴジンは、不十分な兵站、ロシア国防省からの不十分な支援、およびロシア政府の「官僚主義」について繰り返し批判し、ロシア正規軍との相克が顕在化した。・しかし、プリゴジンはベラルーシのルカシェンコ大統領の調停を受け入れたとされている。CCTVのニュース報道によると、24日の朝、プーチン大統領はロシア南部のワグネルの状況について電話でルカシェンコに説明し、両首脳は共同行動を取ることに合意した。その後、ルカシェンコはプーチンの調整の下でプリゴジンと会談した。会談は一日続き、双方はロシア領土での流血を止めることで合意に達した。・ベラルーシ側は、有利に受け入れられる解決策を提案し、ワグネル軍の安全も保証できると述べた。ペスコフによると、ルカシェンコとプリゴジンは20年以上前からお互いを知っており、プーチンに任命された調停者であると述べた。(以上は6月25日朝の環球時報の概要。)6月26日になると、環球時報は新華社の情報を転載し、<ホットなQ&A:ワグネルをめぐる緊張は、なぜ急速に緩和されたのか>(※5)というタイトルで、これも非常に詳細に事の顛末を解説している。◆背後にはプリゴジンの金銭問題か6月28日には大きな展開が見られた。中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVのウェブサイトは、<プーチンは武装反乱鎮静化に貢献した軍人たちと会い、ロシア政府がワグネルに年間860億ルーブル(約10億ドル)を支払っていたことを明らかにした>(※6)という生々しいタイトルでワグネルの金銭的実態を報道した。それによれば、以下のような金銭的実態があったようだ。・プーチンは27日、ワグネル事件の鎮静化に貢献した強力な部門の代表と会い、反乱を抑制したことに感謝し、同時にロシア政府がワグネルに2022年5月から2023年5月までの間に862億62万ルーブル(約10億ドル、約1400億円)を支払っていたことを明らかにした。・プーチンによれば、ワグネルは国の資金で賄われているが、この860億ルーブル以外にも、民間軍事企業の所有者であるプリゴジンは軍事関連事業から多くのお金を稼いでおり、たとえば昨年、「彼は軍に食料とケータリングサービスを提供することで800億ルーブル(約9億4万ドル)を稼いだ」と述べた。合計約20億ドルに近い金が彼に支払われれるので、今後はむしろ、ロシアの法執行機関がワグネルとプリゴジンに支払ったお金が、どこに行ったのかを調査するとプーチンは述べた。・プリゴジンは、ロシア軍がワグネルへの弾薬供給を差し控えていると繰り返し非難し、ショイグとゲラシモフを標的として、軍の腐敗を激しく批判してきた。しかし、今度は逆に、プリゴジンに流れた資金のゆくえを捜査することになるだろう。(CCTVの報道は以上。)◆核心に迫っていく中国の報道6月30日、中央テレビ局CCTVは<ロシア下院の国防委員会委員長「ワグネルはロシア国防部(省)との契約締結を拒否してた」>(※7)というテーマで緊急報道を行った。文字がないので、類似の内容を文字で報道している中国政府系メディアの<ワグネルはなぜ反乱したのか?ロシアの上級議員がいくつかの理由を挙げた>(※8)で、何を報道しているのか概観し、おおむねの内容を以下に示す。――6月29日のRT(Russia Today)報道によれば、ロシア下院のアンドレ―・カルタポロフ(Andrey Kartapolov)は、ワグネル事件が起きる前、多くの民間軍事会社(傭兵集団)の中で、ワグネルだけがロシア国防部と合同の軍事組織になることを拒絶した。このロシア下院国防委員会委員長は、他の民間軍事組織は全て、ロシア軍と同じ組織に入り、正規軍になることに同意したのに、プリゴジン一人だけが強烈に反対し、正規軍になることを拒絶した。もし正規軍になると、これまでプリゴジンが享受してきた膨大な収入が彼のポケットに入らなくなるので、拒否したものと思われるが、もしロシアの正規軍にならないのなら、ウクライナでの軍事作戦への参加を継続することは許可されないと国防委員長は語った。軍事作戦に参加しないのなら、当然のことながら、これまでのような潤沢な資金や物質的な供与は無くなることを意味する。プリゴジンにとっては、資金調達こそが最も重要な要素で、おそらくこのことが理由で、反乱を試みたものと思うと、国防委員長は語っている。◆スロビキン副司令官逮捕はフェイク・ニュースか?一方、ロシアのメディアの一つである「モスクワ・タイムズ」が29日、ロシア軍のスロビキン副司令官が逮捕されたと報道し、ニューヨーク・タイムズも米政府高官の話としてスロビキンがプリゴジンの反乱計画を事前に知っていたとみて、彼がプリゴジンの反乱実行を助けたのか確認していると報道しているようだが、中国では、これは「フェイク・ニュースだ」という情報が流れている。6月29日のThe Paperは、<ワグネル反乱後、スロビキンが逮捕された噂が流れているが、彼の娘は「噂は真実ではない」と述べた>(※9)と報道している。筑波大学の教え子でロシアに戻った元ロシア人留学生に確認してみたところ、「モスクワ・タイムズは西側のニュースをそのまま流すところで、西側が希望するフェイク・ニュースも流しますから、私は信用していません」との回答を得た。真実は那辺(なへん)にあるのか、まだ分からないが、「モスクワ・タイムズ」が西側によって操作されているメディアであることを知ったのは、大きな収穫だった。◆習近平の対露姿勢は変わっていない以上、中国における報道の内容から見て、習近平の対露姿勢は変わったいないと結論付けることができるだろう。むしろ、習近平は、国家主席になった2013年から軍の腐敗を徹底して摘発する戦略を実施し、おおむね腐敗が撲滅された2015年末に、軍事大改革を行って、軍事に関しては全て一律に中央軍事委員会が直轄する大きな組織改造を行った。したがってロシア国防部が傭兵のような民間軍事組織をまだ温存させていたことには違和感があっただろうし、このたび傭兵を撤廃してロシアの正規軍に編成していくことにしたのは、実に好ましいことだと受け止めているだろう。『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』(※10)に書いたように、これまで通り内政干渉をすることなく、軍冷経熱という対露戦略を貫いていくのではないかと思われる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/202306/t20230625_11103234.shtml(※3)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/fyrbt_674889/202306/t20230625_11103402.shtml(※4)https://3w.huanqiu.com/a/0c789f/4DRqStQYg1G(※5)https://3w.huanqiu.com/a/3458fa/4DSkf9jfdfk(※6)http://news.cctv.com/2023/06/28/ARTI0ApHjKLjb2edWvtBOp8z230628.shtml(※7)http://tv.cctv.cn/2023/06/30/VIDE28zNsecJp4Xlzx5V6Fig230630.shtml(※8)http://news.china.com.cn/2023-06/30/content_90215372.htm(※9)https://mbd.baidu.com/newspage/data/landingsuper?pageType=1&context=%7B%22nid%22%3A%22news_8680836547986537969%22,%22sourceFrom%22%3A%22bjh%22%7D(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4569852327/ <CS> 2023/07/03 10:22 GRICI イスラエル首相が来月訪中か 加速化する習近平の多極化戦略【中国問題グローバル研究所】 *10:22JST イスラエル首相が来月訪中か 加速化する習近平の多極化戦略【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。イスラエルのネタニヤフ首相が来月訪中すると、イスラエルのメディアが報道した。中東で弱体化するアメリカを尻目に、中東和解外交をバネにして、習近平は一気に「米一極から多極化への地殻変動」を起こそうと狙っている。◆ネタニヤフ首相訪中を中国の「環球時報」が速報6月27日の環球時報は<イスラエルメディア:ネタニヤフ首相が来月中国を訪問 これはワシントンにますます我慢ならない証拠>(※2)というタイトルで速報を発信した。それによれば「イスラエル・タイムズ」が6月26日、「イスラエルのネタニヤフ首相が来月中国を訪問する。この訪問はバイデン大統領を苛立(いらだ)たせるだろう」という見出しで、報道したとのこと。以下、環球時報が紹介している「イスラエル・タイムズ」の概要を記す。――(アメリカの大統領)バイデンは、これまでネタニヤフ首相を短期内にはアメリカに招待しないと明言しており、ネタニヤフの日程を見ると同氏がワシントンに対してますます我慢ならないと思っていることがわかる。イスラエル国内で政府の司法改革計画に対する抗議活動が勃発したとき、バイデンは今年3月、イスラエルのネタニヤフ首相を短期内にホワイトハウスに招待するつもりはないと述べ、かつ、イスラエルはこのような反対運動があるような司法改革を進めるべきではないと警告した。イスラエル側関係者は、「ネタニヤフの中国訪問計画は、ネタニヤフが他の外交のチャンスをも追求していることをワシントンに知らせるためのシグナルである」と述べた。「ネタニヤフ首相は、いつまでも来ないホワイトハウスからの招待状を、ただ待っているようなことはしない」と、関係者は「イスラエル・タイムズ」に語った。同関係者はまた、「中国の中東への関与が最近急速に増大しているのだから、ネタニヤフがイスラエルの利益のために中国を訪問するのは、当然のなりゆきだ」とも述べた。しかしネタニヤフ訪中に関して、イスラエル政府はまだ正式なコメントは避けている。今年3月10日、サウジアラビアとイランは7年間の国交断絶を経て、中国の仲介により国交を回復し、大使館を再開することで合意した。 ネタニヤフ首相は中国の助けを得てサウジアラビアとの関係を進展させるつもりのようだ。しかし、この動きはワシントンに激しい不満を抱かせるだろう。なぜならアメリカこそが、サウジアラビアとイスラエル両国の和解を仲介しようとしてきたからだ。イスラエル側のハイレベルの関係者は、ネタニヤフ首相の中国訪問の旅は「これまでの枠組みを破壊する力を持っている」と表現している。なぜなら、アメリカは長期にわたって中東で重要な地位を占めてきたし、特にイスラエルはこの地域におけるアメリカの最も重要な同盟国の一つだからである。(以上、環球時報より)◆もし習近平がパレスチナ問題を解決できたら6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>(※3)で、パレスチナのアッバス議長が訪中し、6月14日に習近平国家主席と会談したと書いた。そのコラムでも書いたように、習近平はパレスチナ問題を解決すべく、パレスチナとイスラエルの両国に声を掛けてきたし、イスラエルとも非常に友好的な関係を結んできたが、アッバス議長と交わした条件では、イスラエルが呑みにくいだろうことは容易に想像がつく。しかしイスラエルのネタニヤフ首相が訪中するとなれば、パレスチナに多少譲歩してもらってでも、この積年の問題であるパレスチナ問題を、ひょっとしたら習近平が解決することになるかもしれない。そうなると中東におけるアメリカの居場所はなくなるだけでなく、習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動は一気に加速し、世界はアメリカを中心としてではなく、中露印を中心として構築される「新秩序」へと転換していく可能性が大きくなる。◆原因はNED(全米民主主義基金)が起こしたカラー革命なぜ、このようなことになったかというと、最大の原因はNED(全米民主主義基金)が世界各地で起こしてきたカラー革命だ。中東では「アラブの春」と呼ばれ、それまで長年にわたって続いてきた中東諸国の政権を転覆させ、紛争と混乱と無秩序を招いた。政権に不満を持った市民がいると、その市民団体に資金を提供して政府転覆のためのデモを起こさせ、親米的な政権を樹立させることが目的だ。戦争にもなるので、アメリカの戦争ビジネスが繁昌するという仕組みになっている。無残な戦争で命を落とし、絶望的な貧困の中に追い込まれた少なからぬ中東諸国は、アメリカの、「民主」の名の下における他国への内政干渉と、転覆されなかった政権に対する過酷な経済制裁などに、もう嫌気がさしたのである。中露が中心になって進めてきた上海協力機構には「他国の内政干渉をしてはならない」という条項があるため、習近平は他国への内政干渉はしない。中東地域特有の宗教とも関係ないので、経済的結びつきのみで関係を深めていくことができる。冒頭で引用した「イスラエル・タイムズ」が触れている「抗議活動」も、6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>(※4)に書いたように、NEDが市民を焚きつけたものだ。そのことをネタニヤフ首相の息子(ヤイール・ネタニヤフ)が糾弾している。現在進行中のウクライナ戦争も、元はと言えばNEDが2004年に起こしたオレンジ革命と2014年に起こしたマイダン革命に最大の原因がある。詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)のp.257に書いたが、NEDのウェブサイトにある会計報告に、2004年のオレンジ革命に関して、NEDは6500万ドルを提供し、ウクライナ市民が親露派のヤヌコーヴィチ大統領を下野させるよう抗議活動を支援したとある。ヤヌコーヴィチは一度下野したものの、2010年の選挙で再び大統領に当選したので、今度こそは親露派大統領を徹底して痛めつけようと画策したのが当時の副大統領だったバイデンだ。バイデンは根っからのネオコン(新保守主義者)で、NEDはネオコンの根城のようなものだ。NEDはもともと、何としても「反ロシア政権」を誕生させて、プーチンを下野させたいという強烈な目標を持っている。バイデン大統領は2022年3月26日のワルシャワでの演説で、プーチン大統領に関して「この男は権力の座に留まってはならない」と明言して、プーチン政権を転覆させる狙いを示唆している。何が何でもプーチン政権を転覆させたいのである。プーチンのウクライナ侵攻は肯定しないものの、アメリカのその目的を、対露制裁に加わっていない人類の「85%」は知っている。事実、2022年10月には、トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏は、「ロシア内部に働きかけてプーチン政権を打倒せよ」という趣旨の論考を発表している。すなわち、「NEDがロシア市民に働きかけて(資金を提供し)政府転覆を謀れ」ということである。NEDは必ず市民団体に資金を提供する形で政府転覆を支援する。そうでないと、法に触れるからだ。こうして、アメリカはNEDを使って、アメリカの気に入らない既存政権を転覆させることしか考えてない。転覆しなければ徹底した制裁を加える。これが、アメリカのやり方である(トランプ政権だけが例外だった)。言論弾圧をする中国が構築する世界新秩序の中で生きていくのは嫌だが、戦争に巻き込まれるのは、もっと避けたい。しかし、アメリカの次のターゲットは中国。NEDを使って台湾有事を何としても作り出そうとしている。そのときに命を落とすのは、ウクライナ同様、台湾人と日本人だ。戦争は起きてからでは遅い。戦争に巻き込まれる前の今だからこそ、人類の「85%」には見えていて、日本人には見えていない現実を直視してほしいと、心から願う。イスラエルのネタニヤフ首相が訪中する情報に接した時などでも、私たちはこういう視点で世界が見えるようになりたいものだと思うのである。写真: 2017年に訪中したイスラエルのネタニヤフ首相と習近平国家主席(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/4DTazNTpmTC(※3)https://grici.or.jp/4346(※4)https://grici.or.jp/4346(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/ <CS> 2023/06/28 10:22 GRICI ロシア首相の訪中は3月21日に決まっていた――G7の結果を受けてではない【中国問題グローバル研究所】 *14:47JST ロシア首相の訪中は3月21日に決まっていた――G7の結果を受けてではない【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。―――NHKではロシアのミシュスチン首相の訪中はG7における激しい対中露非難に追い詰められ、それに対抗した結果だと解説し、日本全国をミスリードした。実際は、習近平のモスクワ訪問時に訪中が決まっていた。この構造を見逃すと、習近平がいま何を狙っているかが全く見えてこない。◆ミシュスチン首相の訪中は、3月21日に習近平との会談で約束されていたミシュスチン首相の訪中を受け、NHKは「中国問題専門家」に、「ロシアの首相が訪中しているのは、G7広島サミットにおける激しい対中露非難に追い詰められた結果ではないか」、「対中露非難に対抗しようとしているのではないか」という趣旨の解説をさせていた。あまりテレビを観ないのだが、その時たまたまつけていて、「専門家」の解説を聞き、仰天した。すると日本全国、「ロシアのミシュスチン首相は、G7広島サミットの成果に追い詰められた結果、あわてて訪中したのだ」というトーンの大合唱に酔いしれた。なんということか・・・!このような自画自賛に陶酔している間に、中国は着々と手を打っていく。それは決して日本国民の将来の幸福にはつながっていかない。不幸を招くだけだ。真相を書こう。習近平国家主席は3月20日から22日までロシアを訪問し、モスクワでプーチン大統領と会っただけでなく、21日にはミシュスチン首相とも会っている。中国共産党新聞網(※2)を始め、数えきれないほどの中国政府や一般のウェブサイトが大々的に伝えている。また5月19日には中国外交部(※3)がロシアのミシュスチン首相が5月23日から24日にかけて中国を正式訪問すると書いているし、記者会見でも詳細に答えている。(※4)一方、3月21日のアメリカの経済誌フォーブス(Forbs)ロシア語版は<習近平はプーチンとミシュスチンを中国に招待した>(※5)という、非常にストレートな表現で「3月21日に習近平がミシュスチンと会って中国訪問を招待した」ことを書いている。報道によれば、「ミシュスチンはその場で招聘に応じた」とのこと。実は筑波大学に留学して今はモスクワに戻っている教え子に連絡して確認してみたところ、ロシアのテレビでは習近平がミシュスチンに直接「是非とも中国訪問をご招待したい。李強という新しい国務院総理が誕生したので、ぜひ彼にも会って欲しい」と言っている場面を放映したとのことだった。プーチンの場合は、「一帯一路」10周年記念の国際フォーラムに参加するか否かなので、その場では感謝の意を表しただけで、直ぐに「招聘を承諾した」という形ではない。G7広島サミットは5月19日から始まり21日に閉幕している。その間に対中、対露に関する厳しい批難を出しているのであって、3月21日に訪中を決定し、19日に中国外交部が訪中日程を発表したということは、G7広島サミットの結果が出るかなり前からミシュスチン訪中の日程は決まっていたものと解釈していい。なぜなら、5月21日のコラム<なぜ習近平は中国・中央アジア首脳会談を開催したのか?>(※6)にも書いたように、「中国・中央アジア首脳会談」は1年前から決まっていたので、ミシュスチン訪中は、その後でないと日程が重なり過ぎるからだ。こういう大きな流れを見ることなく、近視眼的に中国の動きを解釈して自己満足しているのは、日本国民の利益を損ねる。◆上海での中露ビジネスフォーラム中国外交部は前掲の5月19日の記者会見(※7)で記者の質問に対して「今年3月、習近平国家主席はロシアを公式訪問し、両首脳は次の段階における二国間関係の発展と様々な分野での協力について重要な合意に達した。我々は、ミシュスチン首相の中国訪問が、二国間協力を一層強化し、人的交流及び地域交流を深め、世界経済の回復に力強い勢いを注入することを期待する」と答えている。その回答通り、ミシュスチンはまず上海を訪問し、大規模な中露ビジネスフォーラムを開催した。その内容に関しては、あまりに情報が多くて一つのコラムでは書ききれないが、たとえば、<ロシア首相の訪問中、中露は今年2000億米ドルの貿易を目指す>(※8)や、<ロシア首相大型訪中代表団を引率:今年の両国の貿易高は2000億米ドルになると信じる>(※9)など、「2000億ドル(約27兆6000億円)」に関する話題が目立つので、その周辺の内容を列挙してみよう。・フォーラムの開会式は中国の王文濤商務大臣とロシアのレシェトニコフ経済開発大臣が共同主宰した。ロシアからは首相以外に、3人の副首相、5人の大臣、一部の大企業幹部を含む高官と大物ビジネスマンなど数百人が参加した。「ロシア政府の海外会議」と言われている。中露双方で1100人以上が出席した。・今年、中露両国間の貿易量は2000億米ドルに達するとされている。この数字は、ロシアの穀物が中国に輸出され、中国のブランド車がロシアで現地生産を達成し、ロシアの中国へのエネルギー供給が今年約40%増加し、中国人は将来のロシアへの旅行のためにビザなしの待遇を受ける可能性が高いなどを背景として計算されている。・ロシアの2大銀行の一つであるVTB銀行の総裁は、「上海で、ロシア中央銀行が人民元を備蓄し、ロシアと中国の貿易の70%以上に人民元とルーブルを提供している」と発表した。・中国税関総署が発表したデータによると、中国とロシアの間の二国間貿易量は2022年に記録的な1902.71億米ドルに達し、前年比で29.3%増加している。・ロシアのノバク副首相兼エネルギー大臣は「ロシアの中国へのエネルギー供給は今年約40%増加すると予想されている」と述べた。ミシュスチン率いるロシア代表団の訪中期間に、「シベリアパワー2」天然ガスパイプラインに関する合意を推進する可能性があり、完成すると、モンゴルの領土を通じて年間500億立方メートルの天然ガスを中国に供給することになる。昨年、「シベリアパワー1」パイプラインは155億立方メートルの天然ガスを中国に供給した。2025年までに、ロシアから中国に供給される天然ガスの量は380億立方メートルに増加すると予想される。「シベリアパワー2」が完成すれば、ロシアの中国への天然ガス供給は2030年までに980億立方メートルに達すると予想される。・一部の米国メディアは、中露接近を心配している。中露パートナーシップの確立により、地政学的地域経済の利益が高まり、北京・モスクワの緊密化は米国とその同盟国に「困難を生み出す」だろうと懸念している。中露は、これまでの米国による一極支配の影響力に対抗し、すべての国が核心的利益を守ることを可能にする多国間アプローチを促進するために大きな努力を払っている。中露は米国の「一極化」に対処するために、多国間のバランスと秩序への復帰を提唱している。(筆者注:これこそは7月初旬に出版する『習近平が狙う地殻変動 米一極から多極化へ』で描いた内容そのものである。その一致にむしろ驚きを禁じ得ない。一部の米国メディアは、よく分かっていると感心する。)◆習近平との会談でミシュスチンは24日午後、北京で習近平と会談した(※10)が、その中で習近平が語った以下の言葉は注目に値する。・国連、上海協力機構、BRICS、G20など多国間場での協力を強化すべきだ。・中国はロシアおよびユーラシア経済連合諸国と協力して、「一帯一路」共同建設とユーラシア経済連合との接合と協力を促進し、より開かれた地域市場の形成を促進し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定性と円滑性を高め、地域諸国に繁栄をもたらし、真の利益をもたらすべく力を注ぐ。すなわち、習近平は「中露+グローバルサウス」を中核として「多極化した世界新秩序」を構築しようとしているが、実は「国連に関しては強い」という自信を持っている。なぜならG7の周りに集まっている西側諸国は人類の15%に過ぎず、残りの全人類「85%」は中露側に付いていることを知っているからだ。来日中のマレーシアのマハティール元首相(97)は5月24日、日本外国特派員協会で記者会見し、G7広島サミットについて「同じような考えを持つ国々が集まって会議をするのは、独り言を言っているようなものだ」などと批判した。(※11)見事だ!まさにその通りだとしか言いようがない。(本論はYahooニュース個人からの転載である)写真:代表撮影/ロイター/アフロ※1:https://grici.or.jp/※2:http://cpc.people.com.cn/n1/2023/0322/c64094-32648867.html※3:俄罗斯总理米舒斯京将访华__中国政府网 (www.gov.cn)※4:俄罗斯总理米舒斯京将访华,中方对此有何期待?外交部回应 (baidu.com)※5:Си Цзиньпин пригласил Путина и Мишустина приехать в Китай | Forbes.ru※6:なぜ習近平は中国・中央アジア首脳会談を開催したのか? | 中国問題グローバル研究所 (grici.or.jp)※7:俄罗斯总理米舒斯京将访华,中方对此有何期待?外交部回应 (baidu.com)※8:China, Russia eye $200 billion of trade this year amid Russian PM’s visit - Global Times※9:俄总理率大型代表团访华:相信今年能让两国贸易额达到2000亿美元|米舒斯京|上海市|俄罗斯_新浪新闻 (sina.com.cn)※10:习近平会见俄罗斯总理米舒斯京 (huanqiu.com)※11:https://news.yahoo.co.jp/articles/09d0d398068fa4463088cec4dd1664486d0efdb5 <TY> 2023/05/30 14:47 GRICI 「台湾有事」はCIAが創り上げたのか?!【中国問題グローバル研究所】 *10:41JST 「台湾有事」はCIAが創り上げたのか?!【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。4日、米国家情報長官は台湾有事で世界経済は年間134兆円の打撃を受けると警告した。しかし台湾を自国領土と位置付ける中国には台湾を武力攻撃する理由はない。武力攻撃させるため台湾の独立派を応援しているのは日米ではないのか。◆台湾有事で年間134兆円の打撃を受けると米国家情報長官5月5日、「ワシントン共同」は<台湾有事で130兆円打撃 米長官、半導体生産停止>(※2)と報道した。それによれば、アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(元CIA副長官)は4日、中国による武力侵攻で世界的なシェアを占める台湾の半導体生産が停止すれば「世界経済は甚大な影響を受ける」と指摘した。最初の数年間は年間6千億~1兆ドル(約80兆~134兆円)以上の打撃となる可能性があると、上院軍事委員会の公聴会で証言したとのこと。ヘインズは、台湾は半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)を抱えており「台湾の半導体は世界中のあらゆる電子機器に組み込まれている」と説明し、生産が止まれば米経済への影響は避けられないとしつつ「中国経済が受ける打撃の方が深刻だ」と強調したという。(以上、ワシントン共同の報道から。)アメリカ合衆国国家情報長官( Director of National Intelligence=DNI)は、アメリカ合衆国連邦政府において情報機関を統括する閣僚級の高官である。インテリジェンス・コミュニティーを統括し、アメリカ合衆国連邦政府の16の情報機関の人事・予算を統括する権限をもつ。以前は中央情報長官(DCI)が中央情報局(CIA)とインテリジェンス・コミュニティー全体の両方の統括を行っていた。しかし、DCIが自分の統括する組織であるCIAの指揮に集中してしまったり、情報活動の8割以上を行っている国防総省との対立が原因でインテリジェンス・コミュニティーの指揮や調整の役割を果たしていなかった。2001年の同時多発テロを防げなかった一因には、情報機関の連携不足が指摘されている。そこで、2004年に情報改革とテロ予防法(Intelligence Reform and Terrorism Prevention Act of 2004)により国家安全保障法が改正されて国家情報長官が新設されたという経緯がある。それまでの中央情報長官は、CIA専属の長官である中央情報局長官(CIA長官, D/CIA)に改められた。本稿でCIAと称しているのは「中央情報局」のことである。◆中国大陸から見たら、台湾問題は内政干渉1971年7月9日、当時のアメリカのリチャード・ニクソン大統領(共和党)は、ニクソンの下で国家安全保障担当大統領補佐官(のちに国務長官)を務めていたヘンリー・キッシンジャーを、誰にも見つからないような形で極秘裏に訪中させた(忍者外交)。キッシンジャーは当時の中国の国務院総理であった周恩来と会談し、米中国交樹立の用意があることを告げた。その際、中国側としては「一つの中国」原則を断固として要求した。すなわち、「中国」という国家には「中華人民共和国(=共産中国)」しか存在せず、「中国という国家を代表するのは中華人民共和国のみである」という大原則で、もし「中華人民共和国」と国交を樹立したければ、その絶対的な前提条件として、「中華民国」台湾とは国交を断絶しなければならないということが強く要求された。これらを水面下で了承した上で、1971年7月15日に、ニクソンは「1972年2月に中国を訪問する」と発表し世界を驚かせた。だからこそ、1971年10月25日、第26回国連総会で、中華人民共和国(中国)が「中国を代表する唯一の合法的な国家」として国連に加盟することができたのである(第2758号決議)。同時に「中華民国」台湾は国連脱退へと追い込まれた。こうしてアメリカは1979年1月1日に正式に米中国交正常化を成し遂げ、同時に「中華民国」台湾との国交を断絶している。日本の場合はその前の1972年9月29日に日中国交正常化共同声明を発表した。もちろん同時に「中華民国」台湾と国交を断絶して、日華平和友好条約を破棄したのである。その結果、中国は中華人民共和国憲法の序文に、「台湾は中華人民共和国の神聖にして不可侵の領土である」と明記するに至っている。ここまで法的に整然とした経緯を経ているので、中国が台湾を自国の領土と主張するのは正当だろう。その統一をどのような形で実現するかに関しては、これは既に中国国内の「内政」になっている。したがって中国にしてみれば、「平和統一」以外に考えていない。武力統一の可能性が出てきたのは2005年で、当時の陳水扁総統が台湾独立を叫び始めたために「反国家分裂法」を制定し、もし台湾が国家として独立しようとしたならば、「国連で認められた『一つの中国』を分裂させる政府転覆罪として処罰するために武力攻撃する可能性を否定しない」ことになった。その後、親中の馬英九政権が誕生したので、中国は台湾周辺での軍事演習をその間は一度もやっていない。全米民主主義基金(NED)は台湾においては2003年以前から浸透しており、NEDは2003年にNEDと同じ機能を持つ「台湾民主基金会」を台湾に設立させている。これは中国を国連に加盟させた時の日米側の中国に対する誓いとは、完全に逆行した「内政干渉だ」と、中国側には映るだろう。◆中国にとって台湾武力攻撃のメリットはゼロ!そもそも中国にとって、台湾を武力攻撃する必要はなく、武力攻撃などしたら大きな損失を中国がこうむるだけだ。その例をいくつか列挙してみよう。1.現段階では中国の軍事力はアメリカの軍事力に勝てないので、台湾を武力攻撃したらアメリカが支援することは歴然としているため、中国が惨敗する。惨敗すれば、中国共産党による一党支配体制は崩壊するので、絶対に自分の方から戦争をしかけるようなことはしたくない。2.台湾には中国が喉から手が出るほど欲しい半導体産業があるので、それをそのまま頂きたいと思っているため、武力攻撃などするつもりはない。武力攻撃などして、万一にも半導体産業が破壊されたら、統一後に中国が非常に大きな損をする。そのため『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※3)の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】に書いたように、2022年11月18日、APECに台湾代表として参加していたTSMCの創設者・張忠謀(モリス・チャン)のもとに、習近平はわざわざ自ら足を運んで会いに行った。二人は互いを褒め合い友好的に会話したが、インドネシアで開催されたG20と、タイで開催されたAPEC全てを通して、習近平が自ら会いに行ったのは、TSMCのモリス・チャン一人である。それくらい習近平はTSMCを重要視している。3.武力攻撃などで台湾を統一したら、台湾の人々が中国共産党政権に対して強い反感と怨みを持つようになり、統一後に一党支配体制が崩壊する可能性が大きくなる。4.特にウクライナ戦争におけるロシアに対する西側諸国の制裁の仕方を十分に知っているので、ここで武力攻撃に出るほど、中国が無策であるということは考えにくい。ほかにも色々あるが、ざっと見ただけでも、少なくとも以上のような基本的な状況がある。◆中国が台湾を平和統一したら、困るのはアメリカならば、なぜ、アメリカはかくも激しく「中国が台湾を武力攻撃する」と叫び続けるのだろうか?それは、中国が平和統一などしたら、経済的にも軍事力的にも中国の方がアメリカを凌駕するので、アメリカとしては何としても、そのような絶望的未来が到来するのを阻止したいからだ。だから、何としても、中国には台湾を武力攻撃してほしいのである。そのために頻繁に米政府高官に台湾を訪問させ、独立を支援している。そうすれば中国が怒って、台湾周辺で激しい軍事演習をしてくれるので、「ほらね、中国はやっぱり台湾を武力攻撃しようとしてるでしょ?」と台湾の人々に言って聞かせ、来年1月の「中華民国」台湾の総統選で、親中派の国民党候補に投票せず、親米で独立志向の強い民進党に投票すれば、親米政権が台湾で継続され、中国を追い詰めることに成功する可能性が高くなってくる。したがって今年は来年1月の総統選まで、アメリカによる「中国が台湾を武力攻撃する」という喧伝あるいは扇動は、加速的に強まっていくと判断される。アメリカは米中覇権において、それでいいかもしれないが、追い詰められた中国が本気で武力攻撃をしたときに、最前線で戦うのは台湾と日本だ。日本の政治家は、アメリカに追随して台湾を訪問することを重視するのか、それとも日本国民の命を重視して現実を直視するのか、真剣に考えろと言いたい。今年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>(※4)にも書いたように、「中国が2027年までに台湾を武力攻撃する」という「神話」はCIAが中心になって創り上げたものだ。2020年10月26日から29日まで北京で開催された第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)の最終日に、<第19回党大会五中全会公報>が中国共産党網で発布され、そこに「建軍百年に向けて頑張ろう!」と書いてあることを根拠にしている。習近平が中国人民解放軍の百周年記念である「2027年」に触れたのは、この時が最初だ。このあとの2021年3月から「台湾武力攻撃2027年説」が世界中を飛び回るようになった。アメリカの調査報道ジャーナリストであるニコラス・スカウの書いた『驚くべきCIAの世論操作』という本の日本語版(※5)が2018年にインターナショナル新書から出版されている。その本にはCIAがいかにしてアメリカに都合が良いように事実を捏造して世論操作を行っているかという実態が、実に刻銘に描かれている。一読をお勧めしたい。筆者自身は、NEDのホームページを当たり、多くのファクトを拾い上げて7月出版予定の『習近平が起こす地殻変動「米一極から多極化へ」』の中でリストアップした。そのリストを作成して驚いたが、世界の紛争のほとんどは1983年まではCIAが創り上げていて、1983年にNEDが創設されてからはNEDが創り上げていることがわかった。世界のどこかに内紛があると、必ずそこに潜り込んで既存の政府を転覆させ、親米政権を樹立させるということをくり返してきたことが、リストから歴然としてくる。NEDはその創設者が語った言葉から、「第二のCIA」と呼ばれているが、この「第二のCIA」が「台湾有事」という「神話」を創りあげているとしか言いようがない。日本の内閣が、アメリカに追従することばかりを重視せず、日本国民の命を守ることを重視すれば、おのずと見えてくる現実である。もし本気で「国民の命こそが最も大切だ」と思っているのなら、国会議員の一人一人に、現実を直視する勇気を持ってほしいと切望する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://nordot.app/1026979412163559424(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※4)https://grici.or.jp/4015(※5)https://www.amazon.co.jp/%E9%A9%9A%E3%81%8F%E3%81%B9%E3%81%8DCIA%E3%81%AE%E4%B8%96%E8%AB%96%E6%93%8D%E4%BD%9C-%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A6/dp/479768027X <CS> 2023/05/08 10:41 GRICI スーダン和解はどの国が調停できるのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:25JST スーダン和解はどの国が調停できるのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。ここ30年来のスーダン紛争長期化は、全米民主主義基金がもたらしたものだが、中国はアフリカを含めた紛争調停組織を設立し、岸田首相もアフリカ歴訪で調停に意欲を表明。その真相とゆくえを考察する。◆スーダン紛争長期化の犯人は全米民主主義基金NED2023年4月15日、アフリカ北東部スーダンの首都ハルツームで、国の実権をめぐって争う、国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」の戦闘が始まった。アフリカはかつてヨーロッパの植民地として支配され、独立はできたものの不安定な情勢から内戦や紛争が勃発してきた。スーダンもその中の一つで、1956年に独立した後も内紛が続き、1989年6月30日にオマル・バシール准将が民族イスラム戦線(NIF)と連携して無血クーデターを成功させた。バシールは「革命委員会」を設置し、自らが首相となったが、その後もさまざまな情勢変化があったため、1993年になって大統領に就任した。バシール政権は誕生当初の段階ではヨーロッパ諸国との友好を重要視していたが、湾岸戦争(1990年8月―1991年3月)やイラク戦争(2003年3月―2011年12月)において、イラク(当時のフセイン大統領)を支持したことから、アメリカによるスーダン(バシール政権)に対する厳しい経済制裁が始まった。周知のようにイラク戦争はアメリカが「イラクが大量破壊兵器を持っている」という偽情報に基づいて、突如イラク攻撃を始めた戦争だが、侵略後にイラクには大量破壊兵器は存在しなかったことが判明した「正義なき戦争」だった。バシール政権の方でも、1998年に政党結成の自由などを含む新憲法が、国民投票で96.7%の賛成を得て誕生し、2010年4月に、24年ぶりに行われたスーダン総選挙で、又もやバシールが大統領に再選されている。しかし2018年12月に、スーダンの国防軍が一部の地域住民の支持を取り付けてクーデターを起こし、2019年4月11日、30年にわたるバシール政権は遂に幕を閉じた。これら一連の動きの背後に、実は全米民主主義基金(National Endowment for Democracy= NED)がいた。そのことを、どのようにして証明できるかというと、実は2020年7月23日のNEDのウェブサイトに記載されているからだ。その情報のタイトルは<NED、スーダン市民社会に 2020 NED 民主主義賞を授与(NED HONORS SUDAN’S CIVIL SOCIETY WITH 2020 NED DEMOCRACY AWARD)>(※2)で、この授与式でNED のカール・ガーシュマン会長は、概ね次のように述べている。――NEDの助成金プログラムは、1989年以来スーダンで継続的に行われてきた。(2018年の)12月革命の成功は、スーダンの人々とNEDの連携を深めたことによってのみ達成された。従って、NEDは1989年にスーダンでバシール政権が発足すると同時に、スーダンに潜入したと断言することができる。NEDは何としてもバシール政権を転覆させたかったのだ。そのためにNEDは1996年にスーダン開発イニシアチブ(SUDIA)という組織を設立させている(※3)。また2015年11月18日には、NEDは<スーダン・ダイアローグ>(※4)というイベントを開催しているが、その中にはSUIDAの代表者が出席しているし、また2008年に当時のブッシュ大統領によって「スーダンの8人の人権闘士の一人」として認定された、NEDが支援する人物(Niemat Ahmadi)も参加していた。こうしてアメリカはNEDを通して、30年も続いた「バシール独裁政権」を崩壊させることに成功したのだ。しかし、NEDは軍部を使って政府転覆を行なっているので、この政府転覆は「民主化運動」と名付けるわけにはいかない。それでもアメリカから見れば、NEDが支援した側が権力を握ったので、アメリカの言いなりになる政権が出来上がったと位置付けることができるのだろう。今般のスーダンでの軍事衝突が、あくまでも「軍と軍」の衝突であることは注目に値する。すなわちアメリカは、親米政権を創るために、それまでの政府を転覆させただけで、「民主化」には成功していないことになる。これは中東諸国がアメリカのNEDが起こした「アラブの春」などのカラー革命により、地域の治安が悪化して内戦を巻き起こし、経済の混乱を招いたことに嫌気がさして、遂に中国の仲介によりイランとサウジが和解した経緯と非常に似ている。経緯の詳細は4月6日のコラム<脱ドル加速と中国仲介後の中東和解外交雪崩現象>(※5)に書いた。スーダンでの状況も、中東からアフリカに移っただけで、現象は類似している。◆中国はスーダン紛争和解に乗り出すのか?2023年1月の、中国外交部のウェブサイト(※6)によれば、中国は1959年2月4日にスーダンと国交を樹立してから、長年にわたって非常に友好的な関係を続けてきたとのこと。江沢民・胡錦涛・習近平政権ともにスーダン政権と政府高官のシャトル外交を継続し、特に習近平政権になってからは関係強化が加速している。たとえば、2022年1月6日に当時の王毅外相がケニアを訪問した時、「非洲之角(アフリカの角)和平発展構想」を提案して、「アフリカの角事務特使」を任命すると発表した(※7)。事実、2022年2月には、薛冰(せつ・ひょう)を「アフリカの角事務特使」に任命している。(※8)2022年6月に開催された「アフリカの角和平会議」にはスーダンも参加している(※9)。一方、中国は2023年2月16日に「国際仲裁院(International Organization for Mediation)準備弁公室」なるものを正式に立ち上げている(※10)。加盟国としては「インドネシア、パキスタン、ラオス、カンボジア、セルビア、ベラルーシ、スーダン、アルジェリア、ジブチ」などがあり、スーダンは2011年の最初の企画段階から参加しているので、当然のことながら中国が仲裁する対象となり得る。スーダン側は中国が国際紛争を解決する積極的な役割を果たしてほしいと、何度も大使館を通して正式に意思表明をしてはいる(※11)。2023年4月23日には「アフリカの角事務特使」薛氷がエチオピアで開催された和平プロセス感謝イベントに出席し、感謝状を授与されてもいる。しかし、実際に今回も中東の和解外交雪崩現象と同じように、中国が表に出るか否かは、実は未知数だ。◆日本がスーダン紛争和解に乗り出すのか?ならば、日本はどうだろうか?アフリカ4ヵ国歴訪前の4月29日に岸田首相が<スーダン情勢安定化も協議したいと述べた>(※12)と、日本の共同通信が報道した。その報道には、岸田首相はアフリカ訪問に関し「予断を許さない状況にあるスーダン情勢についても関係国と議論し、安定化に向け協議したい」と述べた、と書いてある。その後、日本の複数のメディアで3日にはケニアで、4日にはモザンビークで、実際に首脳会談や会談後の記者会見などにおいてスーダン情勢に関して述べ、「日本はG7議長国、安保理非常任理事国として、スーダンの安定化に積極的に貢献する」との決意を示したと書いてある。具体的には、アフリカの各担当大使の派遣や緊急人道支援の実施などを通じ、事態の鎮静化や民政移管プロセスの再開、秩序の回復に向け、各国と連携していくとのことだ。この発想は、中国の国際仲裁院体制の範疇を出ていない上に、数十年前からアフリカに深く食い込んできた中国には勝てないだろう。興味深いのは、中国大陸のネット上にある「共同網」という、共同通信社と連携したウェブサイトが、5月4日、<日本・ケニア首相は協力強化で一致した>(※13)というタイトルで、岸田首相が歴訪先のケニアで、スーダン情勢に関して「大きな懸念を表明し、緊急人道支援を可能な限り早期に検討する」と表明したと、詳細に書いていることだ。また、中国版「共同網」では、中国批判のときの常套句になっている「法の支配」が、ロシアだけを対象に書かれており、中国包囲網のために創り出した言葉であるはずの「自由で開かれたインド太平洋」構想が、中国抜きで語られている。アフリカは数十年かけて中国が築いてきた地盤なので、そう簡単には日本に乗り換えることはしないだろうことがうかがえる。何と言っても、グローバルサウスの国々はNEDが「民主」の名の下に仕掛けてきた紛争にこりごりしている。日米が連携すればするほど、(頂くものは頂くとしても)日本から離れていく傾向にある。◆ならば、どの国・組織がスーダン紛争和解に乗り出すのか?おそらく今回の仲裁は、東アフリカの政府間開発機構であるIGAD(Inter Governmental Authority on Development)ではないかと推測される。IGADの加盟国はケニア、スーダン、ウガンダ、エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリアの7ヵ国で、事務局はジブチに置かれている。先述した、中国が主催する国際仲裁院の加盟国と重なっているので、中国は側面から支援しながら、IGADが動く可能性が高い。というのは、5月4日の中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の「軍事」ウェブサイトは<スーダン武装部隊は、1週間の停戦延長を含む、IGAD調停提案に同意している>(※14)と報道しているからだ。今後どうなっていくのかに関しては、まだ成り行きを見守る姿勢が要求されるが、本稿では、現状における基本的な状況の考察を試みた。追記(筆者からのお詫び):読者の方々には大変ご迷惑をお掛けしていますが、現在、本稿でも触れた中東和解外交雪崩現象をきっかけに、「第二のCIA」と呼ばれるNEDがこんにちまで何をやってきたのかを、NEDのホームページにある情報を基に分析し、今後の世界新秩序を展望する本を出版すべく執筆に没頭しているためコラムを書く時間が取れません。書名は仮ですが、『習近平が起こす地殻変動「米一極から多極化へ」』とするつもりで、7月半ばには本屋に並ぶと思われます。6月半ばまではコラムを中断することが多いかと思います。申し訳ありません。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.ned.org/ned-honors-sudans-civil-society-with-2020-ned-democracy-award/(※3)https://www.oneplanetnetwork.org/organisations/sudia-sudanese-development-initiative(※4)https://www.ned.org/events/sudans-national-dialogue/(※5)https://grici.or.jp/4210(※6)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/fz_677316/1206_678526/sbgx_678530/(※7)http://www.news.cn/world/2022-01/07/c_1128240838.htm(※8)http://www.gov.cn/xinwen/2022-02/22/content_5675042.htm(※9)https://www.fmprc.gov.cn/web/wjb_673085/zzjg_673183/fzs_673445/xwlb_673447/202206/t20220622_10707873.shtml(※10)https://www.mfa.gov.cn/wjbzhd/202302/t20230216_11025952.shtml(※11)http://sd.china-embassy.gov.cn/sgxw/202210/t20221017_10784748.htm(※12)https://news.yahoo.co.jp/articles/d92a223399b7665c29fb5169d9b6cbd93075c219(※13)https://china.kyodonews.net/news/2023/05/3709f2091f9f.html(※14)https://mil.huanqiu.com/article/4CkdIGMQgB9 <CS> 2023/05/08 10:25 GRICI 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】 *11:00JST 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆台湾平和統一に込めたシグナルこれは同時に、台湾平和統一に対して発信したシグナルであるということも見逃してはならない。今年2月24日に中国はウクライナ戦争「和平案」を発表した。2月27日のコラム<習近平のウクライナ戦争「和平論」の狙いは「台湾平和統一」  目立つドイツの不自然な動き>(※2)で書いたように、ウクライナ戦争「和平案」は、あくまでも「台湾平和統一」へのシグナルであって、その「和平案」で停戦に持って行けるか否かは大きな問題ではない。来年1月の台湾の「中華民国」総統選に向けて、台湾の人々の多くが「中国(大陸)は平和を重んじている」と判断して、親中派の国民党が台湾民衆党と連携して勝利してくれれば、それでいいのである。そうすれば習近平は任期内に「台湾平和統一」を成し遂げることができる。今般の「中東係争国和睦の仲介」は、「中国がいかに平和を重んじているか」が台湾の選挙民に伝われば、それでいいのである。それが最大の目的であると言っても過言ではない。その証拠に王毅は<サウジ・イランの北京対話は和平の勝利である>(※3)と述べ、中国がいかに「平和」のために行動しているかを印象付けようとしている。◆なぜ3月10日を選んだのか?それにしても、全人代開催中の3月6日に訪中し、3月10日に「中国・イラン・サウジ」3ヵ国声明を発表したのはなぜなのだろうか?実は何としても、この「3月10日」を選びたかった強烈な理由がある。それは「3月10日は習近平が全人代で国家主席に選出された日」だからだ。そのことは、サウジアラビア外交部の公式Twitterで発表された共同声明の英語版(※4)にも如実に表れ、習近平を尋常でなく褒めまくっていることからも窺うことができる。◆こっけいなアメリカの釈明中東における力を激減させてしまったアメリカは、不愉快でならないだろう。3月10日、アメリカの国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は「イランは信用できないので、本当に約束を守るか否かは分からない」とした上で、「今回の和睦は中国だけの力だけではなく、イランに対する内外の圧力があったからだ」(※5)と表明した。「アメリカの圧力のお陰だ(=アメリカがイランを制裁したお陰だ)」という、信じられないような「いじめっ子自慢」をしている。すなわち、「アメリカの制裁によりイランが苦しんだからこそ、イランは中国に助けを求めたのであって、アメリカが制裁を加えていなかったら中国が力を発揮することもなかったので、今回の和睦はアメリカのお陰だ」という「いじめっ子論理」を持ち込んできたのである。これには唖然とするばかりで、「開いた口がふさがらない」とは、こういうことを言うのかと、言葉が見つからない。今後アメリカは、中国が「平和路線を貫けないように」、台湾への内政干渉を強化して、どうしても台湾を武力攻撃せずにはいられないような状況に持って行くか、あるいは台湾における親中の国民党系列が総統選で勝てないように、民進党を応援して台湾独立を叫ぶ方向に持って行こうとするだろう。日本は自国の国家安全を守るために自らの力で自国の軍事力を強化するのは悪いことではないが、戦争に持って行きたくてしょうがない「アメリカの論理」には巻き込まれないようにして欲しいと望む。しかし、ここまで日本のメディアが「アメリカの思考」に洗脳されてしまっている以上、日本人が「自分たちは洗脳されているんだ」ということに気が付くことは望めないかもしれないと、暗澹たる気持ちだ。これこそが戦争へと歩む精神的基盤となっていく。中国の言論弾圧には断固反対するが、日本国民が再び戦争に巻き込まれて命を失うのは、それ以上に反対だ。筆者のこの立場は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※6)で明示した。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4065(※3)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202303/t20230310_11039102.shtml(※4)https://twitter.com/KSAmofaEN/status/1634180277764276227(※5)https://www.cnbc.com/2023/03/10/arch-rivals-iran-and-saudi-arabia-agree-to-revive-ties-reopen-embassies.html(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <CS> 2023/03/13 11:00 GRICI 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:58JST 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。3月10日、中国はイランとサウジの外交関係を修復させたが、習近平は2013年から中東への接近に挑戦。ウクライナ戦争が石油人民元化を促進し、今では台湾和平統一へのシグナルに。米国は阻止するだろう。◆中国がイランとサウジアラビアの外交関係修復を仲介 3ヵ国共同声明3月10日、中国(中華人民共和国)とイラン(イラン・イスラム共和国)、サウジ(サウジアラビア王国)3カ国による共同声明が出された(※2)。イランのシャムハニ最高安全保障委員会事務局長とサウジのアイバン国家安全保障顧問は3月6日から10日まで北京に滞在し、中国外交のトップである王毅・中共中央政治局委員と会談を行った。イランとサウジは2016年1月3日から断交していた。というのは、両国ともイスラム教国ではあるが、シーア派(イラン)とスンニ派(サウジ)に分かれて争い、特に2016年1月2日にサウジでイスラム教シーア派聖職者を処刑したことから、イランで激しい反サウジデモが展開され、以来、中東の近隣諸国を巻き込む形で争いが絶えなかったからだ。その両国を和解させた意義は大きく、中東周辺諸国はみな礼賛の意を表した。中国共産党傘下の中央テレビ局CCTVは「イランとサウジの和解に関して最も重要な文字は3文字ある。それは【在北京】(北京で)というという3文字だ。西側諸国、特にアメリカには絶対に成し得なかったことを【北京】がやってのけたということだ。西側は世界各地で戦争を引き起こし、火に油を注ぎ続け、国際社会を分断させることに余念がないが、中国はその逆の方向に動いている。人類運命共同体を軸に、世界に和睦と平和をもたらそうとしているのは【中国だ】ということが、これで明らかになっただろう」と高らかに解説している(※3)。習近平がなぜこのタイミングでこのような挙に出たのかに関しては、「これまでの経緯」、「その狙いは?」、「なぜ全人代開催中なのか?」など、いくつかの視点から分析しなければならない。◆最初の動機は「一帯一路」習近平が中東に近づいた最初の動機は「一帯一路」だ。中国から陸を伝い、海を渡って巨大経済圏を形成していく。習近平が国家主席になった2013年から「一帯一路」構想は始まっていた。ヨーロッパへの出口にウクライナは重要だった。そしてさらに南西の方向の中東を押えるため、習近平は自ら中東産油国を訪問すべく、2015年4月の日程が組まれていた。ところがイエメン内戦が起きたため、中東訪問は延期された。そこで、2015年後半になると、2016年1月にイランやサウジを含む中東主要産油国訪問が再び日程にのぼった。ところが、2016年1月2日に、上述のようなシーア派聖職者処刑事件がサウジで起きたので、本来ならば1月に予定されていた中東訪問はまたしても中断するしかなかったはずだ。しかし習近平は逆に出た。あえてイランやサウジなどを訪問し、当該国と単独に戦略的パートナーシップ協定を結んだのである。実はサウジは習近平に「イラン訪問を取り消してサウジだけを訪問してほしい」と頼んできた。しかしそのとき習近平はその要求を断っている。「中東で敵を作りたくない。みな運命共同体だ。もし私がイランだけを訪問して貴国(サウジ)を訪問しなかったら、我々両国は敵対国になってしまうだろう。わが国にはイランも大切だが、サウジはそれ以上に大切だ」という趣旨の回答をして、サウジを先に訪問した。そのようにしても、イランは中国を敵対視しないのを知っているからだ。習近平は2016年1月19日にサウジを訪問して中国・サウジ間の「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名し(※4)、1月22-23日にイランを訪問して同じくイランとの間で23日に「包括的戦略パートナーシップ協定」を結んだ(※5)。別の見方をすれば、中国はイスラム圏紛争により「漁夫の利」を得たとも言えよう。◆ウクライナ戦争が目的を変えさせた――「石油人民元」勢力圏その「漁夫に利」はウクライナ戦争が起きると、突如「石油人民元」勢力圏拡大へと、習近平の中東戦略を変えさせていった。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』(※6)の【第二章 習近平が描くタイト『軍冷経熱』の恐るべきシナリオ】の中の【四 対露SWIFT制裁は脱ドルとデジタル人民元を促進する】で詳述したように、中国は当時の王毅外相を遣わせて猛然たる勢いで中東産油国を駆け巡らせ、「石油人民元」を中心とした「非ドル経済圏」形勢に突進している。決定打になったのは昨年12月7日の習近平によるサウジ訪問だ。2022年12月13日のコラム<習近平、アラブとも蜜月  石油取引に「人民元決済」>(※7)に書いたように、サウジの激烈なまでの熱い歓迎ぶりは尋常ではなく、昨年7月にアメリカのバイデン大統領がサウジを訪問した時の冷遇とは、比較にならないほどの雲泥の差があった。サルマン国王やムハンマド皇太子の習近平への熱いまなざしとともに、習近平は9日には湾岸協力アラブ諸国会議首脳らとも会談し、中東への中国の食い込みを鮮明にした。加えて今年2月14日にはイランのライシ大統領が訪中して習近平を会談し(※8)、ライシ統領に習近平は「中国は常に戦略的観点からイランとの関係を捉え、発展させており、国際・地域情勢がどう変化しようとも、いささかも揺らぐことなくイランとの友好的協力を発展させ、両国の包括的な戦略的パートナーシップが絶えず新たな発展を遂げる後押しをし、百年間なかった大きな変化の中で世界の平和と人類の進歩のために積極的な役割を果たしていく」と表明した。サウジには習近平自らが訪問し、イランには大統領を訪中させるということでも、中国にとって「イラン・サウジ」を平等に扱っていると位置付けることができるのは、「イランはどのようなことがあっても中国から離れない」という確固たる自信があるからだ。友誼を誓い合ってさえいれば、イランなら中国に、サウジのように駄々をこねて、「サウジをひいきにしている」というようなことは言わない。イランはアメリカから制裁を受けている国として「中国・ロシア・北朝鮮」とは友誼の手を揺るがせないというのを、中国は過去たる自信をもって知っているのである。こうして3月10日に「中国・イラン・サウジ」3ヵ国共同声明が発表され、中国はアメリカにはできなかった「中東紛争国の和睦」の一つを成し遂げたのである。「中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202303/t20230310_11039137.shtml(※3)https://www.youtube.com/watch?v=dMIb4BOYffg(※4)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_676860/1207_676872/201601/t20160120_7996520.shtml(※5)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_677172/1207_677184/201601/t20160123_8006978.shtml(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4569852327/(※7)https://grici.or.jp/3825(※8)http://japanese.beijingreview.com.cn/politics/202302/t20230215_800321924.html <CS> 2023/03/13 10:58 GRICI 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:29JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「国家公安部と国家安全部を合併して内務部を創設」というフェイクニュース今年2月23日、香港メディアの一つである「明報」のカナダ網(※2)は、中国がこのたびの全人代で「公安部と国家安全部が国務院制度から分離され、中国共産党中央委員会直下に新設された「中央内務委員会」(仮称)に移管される」という趣旨の情報を発信した。そこには、その結果、公安、移民、戸籍、運輸、テロ対策、スパイ対策、さらには民政部の社会組織管理の機能を統合する可能性があると書いてある。すると在米の華人華僑などの世界からは直ちに、「習近平の一強独裁は遂に警察国家を生む」とか、「習近平は旧ソ連のKGBを復活させ、中国をスターリン化させようとしている」といったコメントがネットで発信された。ゼロコロナ反対で「白紙運動」を促した在米華人華僑からは「白紙運動」への報復だというコメントも見られた。しかし、習近平がいま最も力を入れているのは「アメリカに潰されないこと」だ。そのためには科学技術領域で挙国体制を取らなければならないし、アメリカから制裁を受けた場合の「通貨」に関して準備態勢を整えなければならない。それは具体的に国務院機構改革の内容に具現化されている。事実、国務院機構改革方案には、公安部や国安部を国務院から離脱させて合併させるなどということは一文字も書いていない。公安部は庶民生活の警察を担うが、国安部は「国家安全保障」に関わる部局なので、公安などと一緒にしたら、かえって西側に対する「国家安全保障」を弱体化させるリスクがある。ましてや毛沢東時代の「内務部」(1969年に撤廃)などを復活させることは「台湾平和統一」を目指す習近平政権にとってマイナスのシグナル発信以外の何ものでもない。真に中国の政治を分かっている人なら、瞬時に「あり得ない!」と判断できるのだが、日本ではこの「あり得ない」フェイクニュースに乗っかってしまい、習近平政権が恐るべき恐怖政治を始めるとして大々的に論を張ったジャーナリストたちがいる。大勢いるのだが、その中の2人をご紹介しよう。1人は日経新聞の中沢克二氏で、もう一人はフリーのジャーナリストの福島香織氏だ。習近平の反腐敗運動を「権力闘争」と位置付けた「権力闘争論者」たちの仲間の2人だ。中沢氏は3月1日に、<習近平直轄の公安・警察誕生も 白紙・白髪運動で強化>(※3)という記事を書き、福島氏は3月2日に<大粛清を始める習近平、中国版KGBの発足で「スターリン化」の気配 中国の警察国家化を推し進める「中央内務委員会」創設>(※4)という記事を発表。筆者はこれに関して某テレビ局から取材を受けたので、「絶対にあり得ませんね!こんなフェイクニュースに乗らない方がいいのではないですか?」と、きっぱり回答したため、取材を申し込んだ人から「ほんとですかぁ~?」という疑念を抱かれた。視聴者が喜びそうな情報を肯定しない筆者を、「おもしろくない」とでも思ったのだろうか。最後まで「フェイクだ」と主張する筆者を信じなかった。本来なら、このような実名を出したくはないのだが、取材者が実例として挙げたのがこの2人のジャーナリストの名前だったので、ここで明確に断言したい。これはフェイクだ!2人とも、以前は素晴らしい記事を書いていて頼もしく思っていたが、権力闘争論者(習近平の反腐敗運動は政敵を倒すための権力闘争でしかないという主張をする人々)になってからは真実が見えなくなっているのではないかと残念でならない。習近平の反腐敗運動はハイテク国家戦略を断行してアメリカに潰されないようにするためで、その結果軍隊の近代化が達成され、ハイテク産業においては多くの分野で世界トップにのしあげっている。このことは3月7日のコラム<習近平がアメリカを名指し批判して示す、中国経済の新しい方向性>(※5)で数多くの図表を使って示したオーストラリアのシンクタンクの調査結果でも明らかである。このようなフェイクニュースに平気で乗っかり、読者を惹きつける記事をもてはやすという日本のマスコミの在り方は、日本人に中国の真相を見えないようにするための役割を果たし、結果、気が付けば日本が中国に取り残されているという、最も見たくない現実を招くだけなのである。そのことを憂う。なお、本方案は3月10日の全人代第三次全体会議で議決された。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.mingpaocanada.com/van/htm/News/20230223/tcah1_r.htm(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK246RE0U3A220C2000000/(※4)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74174(※5)https://grici.or.jp/4104 <CS> 2023/03/13 10:29 GRICI 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:27JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。3月7日、全人代(全国人民代表大会)で「党と国務院機構改革」という、13項目の改革案が示された。中でも注目されるのは科学技術と金融管理監督に関する改革で、アメリカの制裁と弾圧から逃れて中国が繁栄するための戦略が込められている。◆「党と国務院機構改革」全容3月7日、全人代(全国人民代表大会)第二回全体会議で「国務院機構改革方案」の説明があった(※2)。これは昨年10月に開催された第20回党大会および今年2月に開かれた二中全会(中共中央委員会第二次全体会議)で採決された「党と国務院機構改革方案」に基づいて全人代に提出し審議がなされたものである。改革案は13項目から成っており、そのうち注目されるのは「科学技術部の再編」や「金融管理監督システム改革」および「国家データ局の新設」などで、特に「科学技術部の再編」と「金融管理監督システム改革」が注目される。いずれも目標は「いかにしてアメリカによる制裁と弾圧から逃れるか」ということが主眼で、これはすなわち「アメリカによる中国潰しを、中国はいかにして回避し、いかにすれば自国を守れるか」ということになるので、当然のことながら「挙国体制」を布かなければならない。そのため、国家戦略の根幹をなす「ハイテク国家戦略」は中央行政省庁の一つである「国家科技部」の機能の一部を中共中央も統括的に見渡せるように中共中央に移す。また金融に関しては、国内改革もさることながら、アメリカがドル制裁を加えてきたときに中国の金融システムが壊れないように予防策を講じている側面がある。そのためか、改革案の7割がたは金融改革に割かれている。◆科学技術部を再編して党主導の委員会新設全人代では、科学技術を以下のように位置付けている。()内は筆者。・科学技術はわが国の現代化建設の核心である。国際競争と外部からの弾圧という厳しい形勢において、何としても科学技術という核心的力を敵の力から守りハイレベルを維持できるように、自立自強を実現していかなければならない。・このたびの「党と国家機構改革」は党中央の、科学技術活動に対する集中的な統一指導体制を強化するため「中央科技委員会」を設立し、その事務執行機構の職責は再編したあとの科学技術部が担うものとする。・科学技術部の機能を強化して、新型挙国体制を促進完備し、科学技術イノベーションの全チェーン管理を最適化し、科学技術成果の転化を促進し、科学技術と経済と社会の結合などの職能を促進する。・戦略計画・体制改革・資源の統一的全体計画・総合調整・政策規制・督促検査などのマクロ管理職責を強化する。同時に、国家基礎研究と応用基礎研究・国家実験室建設・国家主要科学技術プロジェクト・国家技術移転システム構築・科学技術成果の転化と産学研連携・地域科学技術イノベーションシステム建設・科学技術監督評価システム建設・科学研究ロイヤリティ建設・国際科学技術協力・科学技術人材チーム建設・国家科学技術表彰などの関連職責は保留し、これまで通り国務院の組成部門とする。・科技促進農業農村発展計画と政策は、農業農村部が担う。・科技促進社会発展計画と政策は、国家発展改革委員会や生態環境部あるいは国家衛生健康委員会が担う。・イノベーション技術発展・産業化計画と政策やサイエンスパーク、科技市場…などは工業信息(情報)部が担う。・海外の知的人材を中国に引き寄せるための業務は人力資源社会保障部に帰属させ、「外国専門家局」の看板は科技部から信力資源社会保障部に移転させる。・(いわゆる科研費に関して、これまで科学技術部が出していたが、それを撤廃し)再編したあとの科学技術部は科研には関与しない。科学研究のための財政は全て「国家自然科学基金委員会」に帰属させる。(拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※3)の第四章に書いたように、「国家自然科学基金会」は「軍民融合」に関する基金を担う機構でもある。)◆金融監督管理システムに関する改革改革の内容を一つずつ説明していくと、あまりに膨大になるので、ここではその主要な骨子を列挙するにとどめる。・証券業界以外の全ての金融業界の監督管理を一元化するために「国家金融監督管理総局」を設立する。・「中国証券監督管理委員会」は、資本市場監督の責任を強化するために国務院直轄機関に再編され、新しい監督管理機構はミクロレベルの市場行為や、金融機関および消費者の権益を監督する。・中国人民銀行(中央銀行)は今後、金融持ち株会社や金融消費者保護に対する監督を行わない。・中国人民銀行は、専ら通貨政策に関して特化した業務に従事する。これは国際規範に一層近い形になる。(金融監督管理システム改革内容は以上)以上から以下のようなことが見えてくる。1.3月8日のコラム<秦剛外相が語る中国の外交方針と日本の踏み絵>(※4)に書いたように、秦剛外相は中国が使用する通貨に関して「国際通貨は、『一方的な制裁のキラー・ツール』になってはならない。そのような危険性をはらむ通貨を使用するのは賢明ではない」と回答している。中国はこのことを、ウクライナ戦争を通して学んだ。したがってアメリカがいつ、台湾を駒にして中国が武力攻撃せざるを得ない方向に持って行くかしれないので、万一の場合に備えて「中国が使える国際通貨を調整する」という業務に専念できるよう、中国人民銀行の負担を減らした。2.中国にはまだシャドーバンキングなど、不正な貸し出しの抜け穴があり、昨年は河南省の銀行の経営者が預金を持ち逃げするような事件も起きた。またアント・グループの事件など、消費者の利益を損ねるようなことが起きないように総合的に監督管理する必要がある。「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/guowuyuan/2023-03/08/content_5745356.htm(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※4)https://grici.or.jp/4116 <CS> 2023/03/13 10:27 GRICI 全国政協会議、汪洋主席最後の演説 「統一戦線」を8回も連呼!【中国問題グローバル研究所】 *10:11JST 全国政協会議、汪洋主席最後の演説 「統一戦線」を8回も連呼!【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。3月4日、中国両会の一つ全国政治協商会議が開幕し、汪洋主席が最後の演説をした。習近平三期目の悲願でもある「台湾平和統一」を目指す「統一戦線」を8回も連呼したが、それは次期主席・王滬寧の最重要任務となる。◆汪洋主席、最後の演説で「統一戦線」を8回も連呼!3月4日、日本時間の午後4時(中国時間午後3時)、全国政治協商会議(以下、全国政協)が始まった。全国政協の全称は「中国人民政治協商会議全国委員会」で中国では一般に「全国政協」と略称される。5日に開幕する全人代(全国人民代表大会)とともに、中国ではこの二つを総称して「両会」と呼ぶ。全国政協には全国から選ばれた代表2169人が参加し、そのうち八大民主党派など非中国共産党員は60.8%に達している。憲法には「中国共産党の指導の下に活動する」ということが決められている。汪洋はその規定通り、「中国共産党と習近平国家主席の指導の下で団結し」を強調した。つぎに強調したのは「統一戦線」で、これは八大民主党派などが、「統一して同じ戦線で戦う」ことを意味し、特に八大民主党派の中に「中国国民党革命委員会」(略称:中国国民党)があることは注目に値する。中国国民党は新中国(中華人民共和国)が誕生する1年前の1948年に設立されたもので、国民党の中の民主派が核になっている。いま台湾にいる国民党と同じ党だが、当時、国共内戦に敗退して台湾に亡命した国民党を「非民主的」とみなしていたのが中国国民党だ。だから大陸に残った。今では「民主性」においては逆転しているようにも思うが、何しろ台湾にいる国民党は、現在ではこの上なく「親中」なので、大陸と台湾で同じ「国民党」がタイアップして「台湾平和統一」を叫んでいる。つまり中台両岸は、新中国誕生以来の「国民党」によって一つにつながっているので、台湾問題は大陸にとって、まさに「内政問題」なのである。胡錦涛政権時代にはそれほど重視されていなかった全国政協は、習近平政権になってからは非常に重要な位置づけがされるようになった。特にその軸となっている「統一戦線」は「重中之重(重要中の重要)」なのだ。事実、汪洋の演説の重点もこの統一戦線に置かれ、「台湾問題は中国の内政問題である」ことを強調した。約1時間にわたる演説で、昨年、ペロシ下院議長が台湾を訪問するという破壊的行動を取ったことを「ペロシ」の名前を出して批判したことが印象的だった。特に「統一戦線」という言葉を8回も連呼したのは異例で、習近平三期目にとって、いかに「台湾平和統一」が重要であるかがうかがえる。◆汪洋の叔父・汪道涵は「海峡両岸関係協会」の設立者汪洋が台湾問題を重視し、愛国統一戦線に重きを置く演説をしたのには、もう一つ個人的な理由もあるものと推察される。というのは、汪洋の叔父・汪道涵(1915年‐2005年)は台湾海峡の平和統一を目的とした「海峡両岸関係協会」を1991年に設立した人物で、その初代会長も務めた。1993年にシンガポールで、中華民国(台湾)海峡交流基金会の辜振甫董事長と会い、「辜汪会談」を実現させた。その意味で汪道涵は両岸(中台)関係「九二コンセンサス」の基礎を築いた男だということになる。したがって、汪道涵の甥としての汪洋には、「台湾平和統一」への思いが個人的にも、きっと強いにちがいない。習近平が第19回党大会において、汪洋をチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員)の一人に選び、全国政協の主席に就任させたのは、習近平自身に「台湾平和統一」への強い思いがあるからだ、ということもできよう。◆江沢民を助けてあげた汪道涵これまで何度も書いてきたが、江沢民の父親は日中戦争中、日本の傀儡政権であった南京の汪兆銘政権の官吏をしており、江沢民は日本軍のために設立されていた南京中央大学に通っていた(『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』p.143など)。日本が敗戦したので、あわてて中国共産党に入党したりなどしているが、もし汪道涵の助けがなかったら、顔を上げては生きていけない日陰者として生涯を終えただろう。実は日本敗戦後、身を隠すようにして小さな工場で働いていた江沢民に、ある日、工場の上司が声を掛けた。その上司はなんと、汪道涵の夫人で、その夫人を通して江沢民は汪道涵と面識を得る機会に恵まれた。そのとき第一機械工業部副部長をしていた汪道涵が、江沢民を長春市にある「第一汽車」(第一自動車)に派遣してあげた。これがのちに、江沢民出世のきっかけとなっていくのである(1983年に電子工業部部長、1985年に上海市市長)。しかし江沢民はその恩を忘れ、汪道涵に報いようともせず、もちろん汪洋を最大の政敵である胡錦涛が力を持っていた共青団の一員であるがゆえに忌み嫌った。汪洋を重要視したのはむしろ習近平で、習近平が共青団を忌み嫌ったというのは正確ではない。もしそうなら、汪洋をチャイナ・セブンに引き上げただけでなく、習近平執念の台湾平和統一を握る重要なポストである全国政協の主席などにはしていなかったはずだ。◆自ら身を退いた汪洋拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第一章で、自ら次期チャイナ・セブンには残らないと意思表示したのは「汪洋」だろうと書いたが、汪洋は早くから髪の毛を黒く染めるのをやめていたので、昇進しようという気持ちは持っていなかっただろうことがうかがわれる。周知のこととは思うが、中国ではさまざまなレベルの党幹部は、現役でいる間は髪の毛を「真っ黒!」に染めていた。ところが汪洋は慣例を破って2010年の辺りから白髪を見せるようになった。衝撃が走り、「現役を辞めるのか」と一時言われたが、逆に真っ黒にしていることが不自然に見え始め、今では習近平でさえ少しだけ染めない個所を作って自然に近づけるようになったくらいだ。中国指導層の間で一種の「ファッション」の先駆けのように言われているが、実は習近平政権で昇進するだろうとは思っていなかったようで、逆に2017年の第19回党大会でチャイナ・セブンになり、全国政協の主席にまで選べられたことは、汪洋にとっては「意外」であったかもしれない。飄々とした欲のない汪洋は、すがすがしい顔で演説を終えた。台湾を平和統一へと持って行く統一戦線の仕事は、新チャイナ・セブン党内序列4位の王滬寧が引き継いでいくことになる。三代の「紅い皇帝」に仕えた帝師・王滬寧を全国政協主席に就かせたのは、習近平に、ここで勝負を賭けるという思惑があるからだとみなすべきだ。つまり習近平の在任中に何としても台湾平和統一を実現する。それが習近平の悲願だ。ウクライナ戦争「和平案」を提唱したのも、その目的達成のための布石だと言える。アメリカは、台湾平和統一をさせまいと、あらゆる手を使ってくるだろう。その視点で米中の動きを考察すると、さまざまな真実が見えてくると確信する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <CS> 2023/03/06 10:11 GRICI 中国の激烈な対米批判「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」【中国問題グローバル研究所】 *16:44JST 中国の激烈な対米批判「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。2月20日、中国政府は「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」という報告を発表した。中国の本気度を表しており、今後の米中覇権競争を示唆する。日本の対中政策にも参考になるかもしれない。◆2月20日に公開された中国の対米批判今年2月20日、中国外交部のウェブサイトに「美国的霸権霸道霸凌及其危害」(米国の覇権・覇道・覇凌とその害)(※2)という中国政府の見解が掲載された。「覇道」は「横暴」に近く、「覇凌(はりょう)」は「いじめ」の意味である。米国に対する批判の凄さは尋常ではなく、怒りがほとばしっている。約6400字の内容は以下のような構成になっている。序言一、やりたい放題の政治的覇権二、好戦的な軍事覇権三、ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権四、独占と抑圧の科学技術覇権五、扇動的な文化覇権結語日本語に訳すと1万字近くになるので、ざっくりと「何が言いたいか」を概括して以下に示す。◆序言米国は2つの世界大戦と冷戦を経て世界一の大国となり、誰はばかることなく他国の内政に干渉し、覇権を求め、覇権を維持し、覇権を乱用し、他国政権を転覆させ、地域紛争を扇動しては、世界各地で戦争を起こしてきた。米国は自国のルールだけが世界のルールであるとして、世界の平和と秩序を乱し人類を苦しめている。本報告書は、政治・軍事・経済・金融・科学技術・文化の覇権を濫用する米国の悪行を見抜いて、人類が平和と安定を取り戻すことを目的としたものである。◆やりたい放題の政治的覇権米国は自国の価値観と政治システムに従わすべく、「民主主義の促進」という名目を掲げて、「カラー革命」や「アラブの春」を扇動し、多くの国に混乱と災害をもたらした。キューバへの61年間にわたる敵対的な封鎖にしても「私に従う者は栄え、反対する者は滅ぶ」というやり方を貫いてきた。米国は私利私欲を最優先し、国際社会において国際法よりも国内法を優先している。米国は盟友関係を口実にして国際社会における派閥を形成し、アジア太平洋地域における「インド太平洋戦略」、「ファイブアイズ」、「日米豪印・クワッド」、「米英豪・オーカス」など、数多くの閉鎖的で排他的な小さなサークルを形成しては、地域諸国に選択を迫り、地域を分断し、対立を扇動している。米国は他国の民主主義を裁く権限が自国一国にあるという横暴さを勝手気ままに発揮している。◆好戦的な軍事覇権米国の歴史は暴力と拡大に満ちている。1776年の独立以来、米国はインディアンを虐殺し、カナダに侵入し、メキシコ戦争を発動し、米西戦争(スペインとの戦争)を扇動し、ハワイなどを併合した。第二次世界大戦後は、朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争・コソボ戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争・リビア戦争・シリア戦争を引き起こし、軍事覇権を拡大した。 近年、米国の年平均軍事予算は7000億ドルを超え、世界の総軍事費の40%を占め、2位から16位までの国の軍事予算の総額に匹敵する。世界に800の軍事基地を持ち、159ヵ国に17.3万人の米軍を配置している。国連加盟190ヵ国のうち、米国の軍事的介入を受けていない国は3ヵ国しかない。米軍の覇権は人類に非人道的な惨劇をもたらし続けいている。2001年以来、テロ対策の名の下に米国の戦争と軍事作戦により、90万人以上が死亡し、そのうち約33.5万人が民間人で、数百万人が負傷し、数千万人が避難民と化している。2003年のイラク戦争では、20万人から25万人の民間人が殺され、100万人以上が家を失ったままだ。米国は世界中で3700万人の難民を生み出している。 2012年以降、シリア難民だけでも10倍に増加している。アフガニスタンでの20年間におよぶ戦争はアフガニスタンを荒廃させ、合計4.7万人の民間人と、6.6万から6.9万人に及ぶ兵士や警察が、9・11と無関係であるにもかかわらず関係していたという理由で米軍によって殺され、1000万人以上の避難民を生んだ。おまけに2021年の「アフガンからの大敗走」の末、米国はアフガニスタン中央銀行の資産約95億ドルを凍結し、赤裸々な略奪を行ったままだ。◆ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権米ドルの覇権は、世界経済の不安定性と不確実性の主な原因だ。2022年、連邦準備制度理事会は超緩和的な金融政策を終了し、積極的な利上げ政策に転じたため、国際金融市場の混乱とユーロなどの多くの通貨の急激な下落が20年ぶりの安値に達し、多くの発展途上国は深刻なインフレ、現地通貨の下落、資本流出に見舞われた。米国は経済的脅迫手段を用いて競争相手を抑圧している。20世紀80年代、米国は日本経済の脅威を排除するために日本を利用しコントロールして、旧ソ連と対峙させ、覇権的な金融外交を行使し、日本と「プラザ協定」に署名し、円高を強制し、金融市場を開放させ、金融システムを改革させた。プラザ合意は日本経済の活力に大きな打撃を与え、その後日本は「失われた30年」を迎えた。米国の経済・金融覇権は地政学的な武器になっている。米国は、一方的な制裁と「ロングアーム管轄権」を精力的に駆使し、国内法を使って特定の国、組織、または個人に制裁を課す一連の大統領命令を発行した。統計によると、2000年から2021年にかけて、米国の対外制裁は93%増加した。その結果、世界人口の半数近くが影響を受けている。米国は公権力を利用して商業競争相手を抑圧し、通常の国際商取引に干渉し、自由市場経済を破壊している。◆独占と抑圧の科学技術覇権米国はハイテク分野で独占抑圧と技術封鎖を行い、他国の科学技術の発展と経済発展を阻止抑制してきた。20世紀80年代、米国は世界一になった日本の半導体産業の発展を押さえつけるため、「301」調査など、日本を不公正な貿易国と指定すると脅迫し、報復関税を課して日本に「日米半導体協定」に署名させるなどの措置を取り、その結果、日本の半導体産業はグローバル競争からほぼ完全に撤退した。市場シェアは50%から10%に低下するに至っている。米国は科学技術問題を政治化し、武器化し、イデオロギー化し、中国のファーウェイなどに適用し、国際的に競争力のある中国のハイテク企業を抑圧している。米国はまた、中国に対する科学技術人材においても同様の手段を用いて中国人研究者を抑圧し迫害している。米国は民主主義の名の下に科学技術覇権を維持している。「チップ聯盟」や「グリーンネットワーク」など科学技術においても「小さなグループ」を形成し、「ハイテク」に「民主主義と人権」のラベル付けをして、科学技術を政治化・イデオロギー化し、他国に技術封鎖を課す口実としている。こうして中国の「5G製品」を駆逐するために、科学技術覇権を維持しようと手段を選ばない。米国は科学技術覇権を悪用し、サイバー攻撃や盗聴を無差別に実行している。その対象は競争相手国だけでなく同盟国にまで及び、元ドイツ首相のアンゲラ・メルケルや複数のフランス大統領などの同盟指導者でさえ、無差別監視の対象になっていたことは周知の事実だ。「プリズムゲート」、「Bvp47」・・・などの悪名は世界に轟いている。ウィキリークスウェブサイトの創設者であるアサンジが米国の監視プロジェクトを暴露したことは説明するまでもないだろう。◆扇動的な文化覇権米国の文化覇権は「直接介入」から「メディア浸透」や「世界の拡声器」へと移行し、他国の内政に干渉する際には、米国主導の欧米メディアに頼らせることによって国際世論を扇動する。2022年12月27日、TwitterのCEOであるイーロン・マスクは、すべてのソーシャルメディアが米国政府と協力してコンテンツを検閲していると述べた。米国国防総省はソーシャルメディアを操作している。米国は報道の自由においてダブルスタンダードを持っていて、他国のメディアを暴力的に抑圧している。米国は社会主義国家を転覆させるに文化覇権を乱用し、米国の価値観で世界を染めるため主要なラジオやテレビのネットワークに巨額の政府資金を注ぎ込み、数十ヵ国の言語で報道し、昼夜を問わず社会主義国への批難を受け付ける扇動工作を行っている。米国は虚偽の情報を流すことによって他国を攻撃する武器としている。それによって国際世論に影響を与えることに専念している。◆結語米国のこうした単独覇権主義、唯我独尊主義、倒行逆施(無理強いした)覇権的慣行は、国際社会からの批判と反対をますます強く引き起こしている。しかしそれに染まってしまった目には真実が見えない。各国は互いを尊重し平等に扱うべきだ。対立ではなく対話、同盟ではなくパートナーシップを通じて、国際交流の新しい道を切り開かなければならない。中国は常にあらゆる形態の覇権主義と権力政治、そして他国の内政への干渉に反対してきた。米国は傲慢と偏見を捨て、覇権といじめを放棄すべきだ。(概要紹介ここまで。)===以上だ。日本の半導体が沈没した原因や日本の失われた30年などに関しては共鳴する部分もあるが、「いや、それはあなたも同じでしょ?」と言いたい部分もある。もし筆者が中国に渡航しても、中国政府が筆者を逮捕することがなければ、中国の主張にも一理あると認めよう。中国政府が今も真相を認めない『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』を筆者が書いていることと、中国を批判する論考を展開しているという理由によって、中国の領土内に降り立った瞬間、逮捕するのではないか?筆者にしてみれば、それが、この報告の是非を判断するクライテリオンだ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbxw_new/202302/t20230220_11027619.shtml <CS> 2023/03/02 16:44 GRICI アメリカが10日以降に撃墜した飛行物体は米気象台の気球の可能性?【中国問題グローバル研究所】 *10:28JST アメリカが10日以降に撃墜した飛行物体は米気象台の気球の可能性?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。米政府高官は14日、「10日以降に撃墜した飛行物体は商業目的か研究用だった可能性がある」と言い、16日にはバイデン大統領までが同様のことを言っている。背景には何が?米気象台のツイートから考察する。◆ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官の発言2月14日、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、「10日以降に3日連続で撃墜した飛行物体について、残骸を回収できていないため明確なことは言えない」とした上で、「商業目的や研究用の気球だった可能性もありうる」との見方を示した。10日以降、3日連続というのは以下のことを指す。2月9-10日:アラスカ州デッドホース上空2月10-11日:アラスカ上空-カナダユーコン準州上空2月11-12日:モンタナ州上空-ミシガン州ヒューロン湖上空カービーの発言はアメリカのメディアだけでなく日本のメディアでも報道されている。アメリカのメディアでは、たとえば2月14日にPOLITICOが発表した<Objects shot down aren’t from China, likely ‘benign,’ Kirby says(撃墜された物体は中国からのものではなく、おそらく「有益なもの」だとカービーが言った)>(※2)などを挙げることができる。そこにはIntelligence officials believe the objects could be “tied to some commercial or benign purpose.”(諜報当局は、物体は「商業目的または有益な目的と関係している」可能性があると考えている)というサブタイトルさえある。報道の概略を示そう。・アメリカが先週末に(筆者注:報道は火曜日なので2月10日~12日に)北米上空で撃墜した3つの未確認物体に関して、今のところ、それが中国のスパイ気球プログラムの一部であることを示すものは何も見当たらないことを確認している」とカービーは記者団に語った。・諜報当局は、中国のスパイ気球がサウスカロライナ沖で撃墜された1週間後に撃墜された物体は、「何らかの商業的または有益な目的に関連している可能性がある」と見ていると、カービーは述べた。・物体が何であるかに関してはまだ不明で、行政当局はほとんど詳細を提供していない。(以上、POLITICOの記事)ここでPOLITICOは「benign」という単語を用いているが、これは「慈悲深い、温和だ、有益な、環境に害を与えない、(医学的に腫瘍などが)良性の」などの意味がある。一方、ニューヨーク・タイムズ(※3)ではmight be that they were operated by private companies or research institutes(もしかしたらそれらの物体は個人的な商業用か研究用に用いられたのかもしれない)と、「research institutes」という言葉をストレートに用いているので、日本のメディアでは一斉に「商業目的か研究用の気球」という表現で報道されるようになったのだろう。たとえば日テレNEWS の<商業目的や研究用の気球だった可能性も…米軍が10日以降に撃墜した3つの飛行物体>(※4)などを挙げることができる。問題は、なぜカービーは突然「トーンダウン」してしまったのか、である。◆11日に、米気象台のスタッフが「あれは米気象台の気球の可能性」とツイート実はカービーが記者発表する3日前の2月11日、ハンドルネーム「altNOAA」という人物が、以下のようなツイート(※5)をしているのを発見した。NOAAというのはNational Oceanic and Atmospheric Administration(アメリカ海洋大気庁)の頭文字を取ったもので、この機関はアメリカ合衆国・商務省の機関の一つである。つまりアメリカ政府の機関であるといことだ。それを頭に入れた上で、altNOAA氏のツイートを見てみよう。――私はまだ間違っているかもしれませんが、気球はアラスカ州コッツェビューの国立気象局 WSO から(アラスカ標準時間の)午前2時頃に打ち上げられたようです。これは12zデータを対象としていました(筆者注:この「z」は、この後に出て来るZulu time=ズールー時間=国際標準時のことを指すものと推測できる)。気球は1日2回、ズールー時間の00時と12時の約1時間前に打ち上げられます。東部時間午前6時。(以上、ツイート引用)altNOAA氏は、このアカウントはNOAAの非公式アカウントであると自称しているが、しかし「NOAAの予測に限りなく近い」ものであり、かつベテランが管理しているという説明がある。◆16日、バイデン大統領までが「研究用」しかも「気象研究用か」と表明2月16日、バイデン大統領はホワイトハウスで演説し、<最近の飛行物体に対するアメリカの対応>(※6)に関して語った。それによればバイデンは以下のように語っている。・これら3つの物体が何であったのかはまだ正確にはわかっていないが、少なくとも現在のところ、それらが中国のスパイ気球プログラムに関連していたことや、他の国からの監視用輸送機関であったことを示唆するものは何もない。・諜報機関の現在の評価では、これらの3つの物体は、民間企業、レクリエーション、または気象研究やその他の科学研究を行う研究機関に関係する気球である可能性が最も高いということだ。(以上、バイデンの演説の引用)何のことはない、「気象研究」とまで言っているではないか。ということは、altNOAA氏がツイートしたように、実はアメリカの気象台が打ち上げた気球が流れていった可能性は高い。だとすれば、NOAAはアメリカ政府の機関なので、当然、内部情報としてaltNOAA氏がツイートした内容が諜報当局に伝わっていることだろう。だからカービーがあわてて「トーンダウン」し、バイデンまでが「気象研究」とまで言ってしまうという方向に動いたと解釈するのが妥当かもしれない。日本では「対中配慮」など、さまざまな憶測が飛んでいるが、このようなツイートがあったことをお知らせしたい。これをどう判断するか。その真相究明は、今後の日本の対気球対策にも多少の影響をもたらすかもしれない。日本政府が真相を究明する勇気を持つことを期待したい。追記:2月16日、アメリカのAVIATION WEEKは<もしかしたら、行方不明になったあの気球は米軍によって撃墜されたのではないだろうか?>(※7)という憶測が気球愛好家の間で広がっていることを報じた(リンク先にHobby Clubの人たちの写真あり)。日本でも17日に共同通信が<米戦闘機、愛好家の気球を撃墜? カナダ上空、11日から不明>(※8)と報じている。バイデン大統領が弁明(演説)の中で「気象研究」とともに「レクリエーション」という可能性も入れたのは、このことを指しているのだろう。つまり米軍F22戦闘機が放つミサイルによって撃墜された気球の中には、米気象台の気球やら愛好団体の気球やらが入っていたことになろうか。写真:ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.politico.com/news/2023/02/14/objects-shot-down-arent-from-china-likely-benign-kirby-says-00082876(※3)https://www.nytimes.com/2023/02/14/us/politics/ufo-balloons-flying-objects.html(※4)https://news.yahoo.co.jp/articles/14478ee95d30b5e4bc246439aed168a8cde40a7a(※5)https://twitter.com/altNOAA/status/1624245658843586560(※6)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2023/02/16/remarks-by-president-biden-on-the-united-states-response-to-recent-aerial-objects/(※7)https://aviationweek.com/defense-space/aircraft-propulsion/hobby-clubs-missing-balloon-feared-shot-down-usaf(※8)https://nordot.app/999233276919644160 <CS> 2023/02/20 10:28 GRICI 米メディア「中国偵察気球は米領空を侵犯するつもりはなかった」 これは習近平の台湾戦略とも一致する【中国問題グローバル研究 *10:28JST 米メディア「中国偵察気球は米領空を侵犯するつもりはなかった」 これは習近平の台湾戦略とも一致する【中国問題グローバル研究 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。ワシントン・ポストは、4日に撃墜された中国偵察気球は風に煽られて予想外に米本土領空に行ったもので、本来はグアム島上空に行こうとしたと報道。非常に納得のいく考察で、習近平の関心はいま台湾にしかない。◆ワシントン・ポストが報道した「中国の誤算」アメリカのワシントン・ポストは2月14日、<アメリカは海南島から打ち上げられ通常とは異なる経路に沿った中国偵察気球を追跡した>(※2)と報道した。非常に長い記事なので、本コラムに関する要点のみをいくつかピックアップして以下に記す。・米軍と諜報機関は、先月末に中国の海南島から離陸する中国偵察気球を、ほぼ1週間にわたり追跡した。・気球は米国領グアム上空を飛行しようとしていたようで、そこに落ち着くのをモニターしていたところ、飛行経路が突如変化した。当時、寒冷前線の影響で高高度では通常と異なる強風が吹いており、太平洋の米軍施設を監視する狙いだったはずなのに、東のルートのどこかで、気球は予想外にも、北に曲がった。・米当局者は、中国が空中監視装置を用いてアメリカ本土中心部の領空に侵入するつもりはなかった可能性があるので、現在詳細に調査しているところだと述べた。・「気球はグアムから数千マイル離れたアラスカのアリューシャン列島に浮かび、その後カナダ上空を漂流したが、そこでいきなり、気球を南に向かわせ米国本土に押し込むような強風に遭遇した」と当局者は匿名を条件に語った。・気球は、人民解放軍空軍によって部分的に実行されたプログラムの一部である。一部は気流によって方向づけられ、部分的にはプロペラと舵で遠隔操縦可能で、気球の打ち上げ直後には太平洋を真東に押し上げ、フィリピンと台湾の間を通過しただろうことを示している。・しかし、中国北部、朝鮮半島、日本に発生した極寒の空気を含んだ強い寒冷前線に遭遇し、急速に北に向きを変えてからは、激しい寒冷前線によるジェット気流に呑み込まれて、高高度におけるコントロールを失った可能性がある。・これは中国人民解放軍の誤算で、米本土領空への侵入は「中国人民解放軍の大きな失敗だった」ことを意味する。(引用は以上)これはあらゆる面から考えて、実に納得のいく説明だ。筆者はどうしても、「中国が、気球を米国本土領空飛行まで操縦できる技術を持っている」とは思えないので、さまざまな角度から試行錯誤的にコラムで考察を続けてきた。疑問に思ったときには、回答が得られるまで追跡せずにはいられない思考回路を、理論物理を研究している間に植え付けられてしまったので、そこから逃れられないのである。そのために書いてきたコラムが無駄ではなかったことを、この記事は示してくれた。記事の執筆者である「Ellen Nakashima, Shane Harris and Jason Samenow」の3氏に心からの敬意と感謝の気持ちさえ表したい思いで、この記事を読んだ。◆習近平はいま米議会議員などの訪台予定に神経を尖らせているこういうことであるなら、習近平が現在専念している台湾に関する戦略とも完全に一致する。習近平は今、もしかしたら春にマッカーシー米下院議長が台湾を訪問するかもしれないということに神経を尖らせている。少なくとも、米下院内の米中戦略競争特別委員会所属の下院議員たちが台湾を訪問することを明らかにしている。いずれにせよ、米議会議員の訪台は確実だろう。2月12日のコラム<習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働>(※3)で書いたように、習近平は「統一戦線」を軸にして、台湾を必死で懐柔しようとしているところだ。来年1月の「中華民国」台湾の総統選挙において、何としても親中派の国民党に勝ってもらおうと、経済協力を推し進めている。台湾において中国大陸との経済交流を推進させようとしているのは国民党だ。対する民進党は対中貿易に消極的で、できるだけ大陸依存を減らそうと必死だ。そこで習近平は、台湾の人々全体として、経済成長が進む方向へとコントロールしている最中である。このような中、又もや米議会議員や議長などが台湾を訪問して民進党を激励したりするのは絶対に許せない。したがって、もしそのようなことになれば、昨年ペロシ前下院議長が訪台した時を上回る、激しい大規模軍事演習を、台湾を包囲する形で行う可能性が高い。そのときに気になるのは周辺の米軍基地だろう。仮にワシントン・ポストの報道通り、海南島から打ち上げたとすれば、最も定点観測したいのはグアムにある米軍基地になる。ここなら近いし、風に煽られていなければ、グアム島上空に、一定時間、滞在できたはずだ。軍事演習をするとしたら、グアム島にある米軍基地の情報は詳細に知りたいにちがいない。◆「台湾平和統一」か「台湾武力統一」か台湾はエネルギー資源の98%を輸入に頼っている(※4)ので、港や空港を中国人民解放軍が押さえることさえできれば、10日~2週間で台湾の発電用天然ガス貯蔵がなくなり、台湾は大規模停電に見舞われる。したがって、中国人民解放軍は台湾に上陸したりなどせず、港湾や空港を押さえるだろう。こうして、生きていけないようにするのだ。1947年から48年にかけて、長春市において中国共産党軍による食糧封鎖の経験を持つ筆者にとっては、都市ごと包囲された時の情況は骨身に染みてわかっている。あのときは長春市内に国民党軍がいて、それを中国共産党軍が包囲した。そして国民党の中の雲南から来た第六十軍を懐柔して中国共産党側に寝返らせ、長春陥落を成し遂げた。今度は台湾という島の中に国民党と民進党がいて、どの党が政権を取るかによって台湾を包囲するか否かが決まってくる。国民党が政権を奪取すれば、習近平は「台湾平和統一」へと一気に動いていくだろう。もう残り時間がないのだ。残り時間というのは、習近平の寿命や政権期間のことだ。習近平は「平和統一」に、ある意味、命を懸けている。アメリカ議会の議員や高官らが訪台をくり返し、民進党が勢いを得て次の政権も継続して担い、万一にも独立を宣言する方向に動いたら、2005年に制定した反国家分裂法に基づき、習近平は台湾を武力攻撃せざるを得ないところに追い込まれる。それだけは避けたいだろう。なぜなら現時点での中国の軍事力はアメリカの軍事力には及ばず、必ず負けるだろうからだ。おまけに武力統一などしたら、統一後に台湾人が激しい嫌悪感を中国共産党に抱いて、中国は中国共産党による一党支配体制を維持できなくなる。かといって独立すると宣言することを黙止することは、中国のトップに立つ指導者にとっては「死」を意味する。アメリカはそれを知っていて、なんとか北京を怒らせ、習近平が武力攻撃をする方向に持って行こうとしているが、現在の台湾の民意では、なかなか、その方向に動きそうにはない。何といっても台湾の対中輸出は40%前後を動いているので、国民党が大陸との経済を盛んにさせていく方が、台湾人にとっては好ましい側面を持っているからだ。しかし、「第二の香港」にはなりたくないという民意も強く、綱渡りだ。いずれにせよ、ワシントン・ポストの情報が、習近平の台湾戦略と一致していたので、筆者の中では「4日に米軍に撃墜された中国の偵察気球の謎」は、一応の回答を得ることができた。ワシントン・ポストに感謝したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.washingtonpost.com/national-security/2023/02/14/china-spy-balloon-path-tracking-weather/(※3)https://grici.or.jp/4006(※4)https://www.businesstoday.com.tw/article/category/183027/post/202201100022/ <CS> 2023/02/17 10:28 GRICI 習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:48JST 習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国で気球を製造している主たる民間企業ならば、中国の気象観測用の気球を製造している民間企業にはどういうのがあるかというと、まず挙げられるのは湖南省株州市にある「中国化工株洲橡膠(ゴム)研究設計院有限公司」だ。1964年に化学工業部傘下の研究所として設立され、1999年に国有の中国化工集団公司の子会社として企業化したという長い歴史を持つ。現在では気象当局が使用する高高度気象観測気球の75%を生産している。中国には「株洲橡膠」に次ぐ気球製造民間企業としては広州市双一気象器材有限公司があるが、中国のネットでは、専らこの2社に関して憶測が飛んでいる。たとえば、2月9日の<“流浪気球”事件はこの中国気球製造企業をクローズアップ、第二のファーウェイになるか>(※2)という記事が炎上している。その記事には、おおむね以下のようなことが書いてある。・まだ「株洲橡膠」のものか否かは明確にはされていないものの、しかしこの企業はまちがいなく中国もしくは全世界の気象気球の中で最大の製造王と言っていいだろう。・2010年に中国气象局は初めて世界気象組織(WMO)第8回国際気象探測気球比較実験に共催国として参加し頭角を現した。しかし探測機器は全て日本製の寄せ集めでしかなかった。・今では「株洲橡膠」は中国気象局の気象定点観測の王になるまで成長している。・「株洲橡膠」が製造する気象気球は中国内の気球市場の80%を占め、その製品は少なくとも40ヵ国・地域に提供している。・気象部門が毎日発表している天気予報のほとんどは、気象気球が提供するデータに基づいている。中国気象局の200局以上の高高度気象ステーションが放つ気象気球の75%は「株洲橡膠」から購入したものである。・冷戦時代、アメリカは旧ソ連にスパイ気球を放っていたが、図体(ずうたい)が巨大な上に風に流されていくのでコントロールが難しく収穫が少なかった。・2011年にグーグルが「X実験室」を立ち上げ、2013年にインターネット気球Project Loonを構築して注目を浴びたが、コストが高すぎて2021年1月22日にこのプロジェクトを閉鎖した。・このたびの中国の「流浪気球」は「飛行」したのだとすれば「飛行時間10日」、「飛行距離2万キロ」になるので、グーグルの高高度気球の能力を遥かに超え、フランスの「ダブルイーグルII」気球の「飛行時間6日」、「飛行距離1万キロ強」をも突破して世界記録を打ち立てたことになる。・「株洲橡胶」は中国気象気球領域のファーウェイだ!◆アメリカが制裁対象とした気球製造関係の中国企業アメリカは2月10日に6つの中国企業と研究機構をエンティティリストに入れて制裁した(※3)。その6つの企業と研究機構は以下となる(※4)。北京南江空天科技/中国電子科技集団公司第四十八研究所/東莞凌空遥感科技/銥格斯曼航空科技集団/広州天海翔航空科技/山西銥格斯曼航空科技ここに「株洲橡膠」が入っていないのは何か別の思惑があるからかもしれないが、習近平は又もやアメリカから制裁を受ける企業を増やしてしまったことだけは確かだ。◆習近平の無責任さは「中国共産党の嘘つき精神」から来ている2月5日のコラム<習近平完敗か? 気球めぐり>(※5)で言いたかったのは、まさにこういう結果が来ることを意味している。習近平がもし、一刻も早く企業名と気球を飛ばした経緯などを明らかにして「謝罪」していれば、撃墜もなかったかもしれないし、こういった制裁もなかったかもしれない。しかし、この原因は「嘘をつくことを旨とする共産党の本質」から来ており、その最大のものは『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※6)に書いたし、2022年6月27日のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※7)にも、その概略を書いた。また習近平は盛んに「中国共産党軍が日本軍を打倒した」と喧伝しているが、事実は全くその逆だ。そのことは『毛沢東 日本軍と共謀した男』で明らかにした。中国共産党は噓つきだ。その精神が言論弾圧を招き、情報の不透明さを生んでいる。だから世界から信用されない。しかし、その一方では、中国共産党が支配するその中国の経済繁栄と技術の発達に貢献しているのが日本だということを直視する眼を日本人は持っていない。それは2月11日のコラム<中国の高性能スパイ衛星は260システム 製造に貢献している日本>(※8)に書いた通りだ。日本の未来を憂う。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://k.sina.com.cn/article_1409194012_53fe981c0010182hx.html(※3)https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/about-bis/newsroom/press-releases/3220-2023-02-10-bis-press-release-six-prc-entities-final-3/file(※4)https://www.bbc.com/zhongwen/simp/world-64615162(※5)https://grici.or.jp/3972(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※7)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220627-00302943(※8)https://grici.or.jp/4003 <CS> 2023/02/14 10:48 GRICI 習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:37JST 習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。中国は山東省上空の不明飛行体を撃墜するようだが、その前にやるべきことがある。これだけ国際社会を騒がせているのだから、アメリカで撃墜された「中国気球」製造企業の名前と経緯を明かして世界に謝罪すべきだ。◆山東省上空の不明飛行体を中国が撃墜か?2月12日、中国の地方紙が<山東日照の海域にある不明飛行体を撃墜準備か?官側の回答>(※2)と報道した。それによれば、山東省青島にある即墨区海洋発展局は、日照海域付近(の上空)で正体不明の飛行体を発見したので、現在撃墜準備に臨んでいるとのこと。海上で作業している漁船は避難せよとも呼びかけ、「東経120度51分、北緯35度37分」であるということも知らせた。同時にもし撃墜後の落下物が漁船近くに落ちてきた場合は、証拠写真も撮るように関係者に漁業依頼している。さらにもし条件が許せば、落下物を回収することにも協力してほしいと、即墨区海洋発展局はお願いしている。記者からの質問に対し、即墨区海洋発展局関係者は、「まちがいなく青島市海洋発展局からの通知を受けました」とした上で「不明飛行体が何なのかはまだはっきりしていません。どうやら青島市海洋発展局で検証中のようです」と回答。そこで記者が青島市海洋発展局に問い合わせたところ「具体的な状況はわかりません。もし何か判明したら、のちに発布すると思います」と答えている。◆その前に、習近平は「中国気球」の製造企業名と経緯を明かして謝罪すべきいやいや、その前にやるべきことがあるだろう。アメリカで2月4日に撃墜された中国製の気球(以後「中国気球」)に関して、中国外交部は「中国製のものだ」、「飛行艇は中国の民間企業が気象観測用に製造したものだ」と認めた上で「誤って軌道を外れた」として「遺憾である」と謝罪の気持ちまで表明しのだから、誰が考えても次にやるべきことは「民間企業名」と「飛行艇(中国気球)を打ち上げた経緯」を説明すべきだ。それをしないで報復措置のような形で「どこかの国から来たらしい気球」を撃墜するなどという行動は、許されるべきではない。そのような順番の中国の行動を、世界が認めるはずがないだろう。2月9日の共同通信は<偵察気球、軍部隊が運用 中国外務省にも米侵入通知せず>(※3)に、以下のようなことを書いている。・「中国気球」は、中国軍内で宇宙やサイバー戦を担当する戦略支援部隊が管轄し運用に関わっていたことが9日、分かった。複数の中国筋が明らかにした。・軍は気球の米本土侵入を自国の外務省にも連絡しておらず、最高指導部は部門間の意思疎通の改善を指示した。・中国筋によると、今回、米国に中国の気球が侵入したことを軍は外務省などに通知していなかった。(共同通信からの引用はここまで)こんなデタラメはあり得ない。中国政治の内部を知らな過ぎる者の情報としか思えない。そもそも「中国筋」などと書くことによって、どのような作文でもできるので、「中国筋」という曖昧模糊とした根拠で誤魔化そうとしていること自体が信用性を失わせる。どんな情報にでも可能な限りリンク先を張って証拠をお示ししながら執筆活動を行っている筆者としては、この手の誤魔化しが好きではない。そこでこの「中国筋」という情報がどこから来たのかを調べてみたところ、2月8日に法輪功メディアの大紀元が<気球事件は軍部内の誰かが習近平を陥れるための罠?>(※4)という記事を発表しているのを見つけた。そこには以下のように書いてある。・中国共産党海軍の姚誠(ようせい)元中佐は、この事件は中国共産党の内部闘争で、習近平を陥れるための「罠」であった可能性が高いと言っている。・2月8日、姚誠は大紀元に、「米中両国が台湾カードを切っているが、西側諸国、特に日米が台湾に関してますます鮮明な態度を示しているので、中共の台湾に対して及ぼすことができる力は無くなったと、取り敢えず諦め、米国との関係改善を望んでいる。このような状況下で、米国上空に中国の気球が出現したことは、それが中国共産党内、特に習近平に不満を持っている軍関係者内に習近平を困らせ、陥れようと罠を仕掛けた者がいることを示唆している。(大紀元からの引用ここまで)これも、「そんなバカな」という感想を否めない。「中国共産党海軍の元中佐」という肩書を持つ姚誠とは、一体どういう人物なのかを調べてみたところ、何のことはない、たしかにその昔、中国人民解放軍にはいたことはあるが、不正を働いたとして逮捕され、釈放後アメリカに亡命した人物であることがわかった。その手の亡命者は、得てして亡命先国のメディアに迎合して、メディア好みの「創作」を発信して生き延びていくという道を選ぶ者が多い。こういうことなら、こんな「とんでもない情報」の「創作」も分からないではないが、日本のほとんどすべてのメディアが使用する「共同通信社」が、大紀元の「元中佐」の発言を「まるで信頼できる情報源」であるかのように「複数の中国筋」からの情報として明確に「わかった」という断定形で発信するのはいかがなものか。日本中が「共同通信の記事なんだから本物だろう」と信じて、誤情報を拡散させることになる。これでは習近平のために弁護してあげているようなものだ。習近平には、れっきとして責任があるのに、それを薄めている。「習近平無責任! 気球製造の中国企業名と経緯を明確にして世界に謝罪すべき!(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://news.cnhubei.com/content/2023-02/12/content_15473744.html(※3)https://news.yahoo.co.jp/articles/31406a72f998646752c5d45257335bad2c7f8884(※4)https://www.epochtimes.com/gb/23/2/8/n13925293.htm <CS> 2023/02/14 10:37 GRICI 習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働【中国問題グローバル研究所】 *16:15JST 習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。台湾最大野党・国民党の夏立言副主席が訪中し、国務院台湾事務弁公室の宋濤(そうとう)主任に会っただけでなく、新チャイナ・セブン序列4位の王滬寧(おうこねい)とも北京で会談した。王滬寧が主導する統一戦線が台湾懐柔路線を本格化した。◆宋濤を国務院台湾事務弁公室主任に就かせたのが最初の一手台湾最大野党で親中の国民党・夏立言副主席は、2月8日~17日の日程で訪中し、9日には国務院台湾事務弁公室(国台弁)のトップである宋濤主任と会談した(※2)。国台弁には2枚の看板があり、もう一つの看板は中共中央台湾工作弁公室だ。宋濤は、2018年4月12日のコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?> (※3)に書いたように、北朝鮮の金正恩委員長(現在、総書記)が訪中する際に、当時の中共中央連絡部(中聯部)の部長として金正恩が秘密裏に訪中した時の特別列車(1号列車)に仲良く同乗していて、窓沿いに設置してある長いソファーの対面に座り歓談していた。これはトランプ前大統領が金正恩と会談する前に、習近平に会って「私の背後には習近平がいる」ということをトランプに見せるためだった。すなわち、「平和交渉」となると宋濤が前面に出てくるという特徴が習近平政権にはある。習近平第三期目が決まった後の2022年12月29日に宋濤が国台弁の主任に任命された時、筆者は「おっ!習近平が台湾平和統一に向かって動き始めたぞ!」と強い関心を持ち、その後の宋濤の言動を注意深く、じーっと観察してきた。その中の主だったものをいくつか拾い上げただけでも以下のようになる。・1月2日:2023年第1期《両岸関係》という雑誌に「手を携え偉業を成し遂げよう」というタイトルの新年のメッセージを発表(※4)。・1月6日:春節に当たり各地の台湾同胞や台商を慰問せよと指示(※5)。・1月7日:厦門(アモイ)と金門の小三通を再開l(※6)。(大陸と台湾の間の「通商」「通航」「通郵」を「三通」と称し、厦門と金門(両門)の間で客船が運航され三通が限定的に実施されることを「小三通」と称する。)・1月10日:北京の台湾青年と座談会(※7)。・1月28日:厦門で元国民党主席・洪秀柱と会談(※8)。・2月5日:北京で台商新春座談会を開催(※9)。こうして冒頭で述べたように2月9日に夏立言と会談するに至るのである。◆統一戦線を主導する新チャイナ・セブン序列4位の王滬寧と会談そして翌日の2月10日には、夏立言は新チャイナ・セブンで序列4位の王滬寧と会談した(※10)。昨年10月、第20回党大会閉幕後に開催された一中全会(第一回中共中央委員会全体会議)で新チャイナ・セブンが決まったその直後、筆者はコラム<習近平と新チャイナ・セブン>(※11)の中で、王滬寧は「全国政治協商会議の主席になるだろう」と予測した。その予測は的中し、1月19日にコラム<予測通り全国政協主席になる王滬寧と4人の妻の物語>(※12)を書いた。そこでも触れたが、全国政治協商会議主席の主たる任務は「統一戦線」である。中共中央委員会が発布している「中国共産党統一戦線工作条例」の第二条には「祖国統一」というのがあり、現在では「統一戦線」とは「台湾の平和統一を最高の目標としている」と言っても過言ではない。したがって、習近平の施政の構図として「宋濤を国台弁主任にさせ、王滬寧を全国政治協商会議主席に就任させて、統一戦線により台湾の平和統一を実現する」という軸があることが見えてくる。2019年1月6日のコラム<「平和統一」か「武力統一」か:習近平「台湾同胞に告ぐ書」40周年記念講話>(※13)で述べたように、習近平は台湾統一に関して、それまでの「九二コンセンサス」(大陸も台湾も「一つの中国」を共通認識とし、互いに「一つの中国」が「中華人民共和国」あるいは「中華民国」と解釈するのは自由という1992年に約束された共識)から一歩進んで「一国二制度」による平和統一を呼びかけた。ところが「一国二制度」は、そのとき香港で激しく燃えたデモをきっかけに、台湾の蔡英文総統が「香港の今日は台湾の明日だ」というスローガンで次期総統選を戦ったために、民進党に有利に働き、2020年1月11日の総統選で蔡英文が圧勝した。かくして同年5月から台湾独立を党是とする民進党政権が二期目を迎えることを許した。そこで今般の夏立言との会談では、王滬寧も宋濤も「九二コンセンサスを堅持し、台湾独立に反対する」を共通のスローガンとするとしか言ってない。「一国二制度」を中心にはしなかったのだ。ここが重要である。特に王滬寧は習近平からのメッセージを夏立言に伝え「いかなる外部勢力(アメリカ)も中華民族の内政に干渉してはならない」と主張した。夏立言も「私たちは同じ炎黄子孫(伝説上の炎帝と黄帝の子孫ということから漢民族の雅称)の仲間です」と、誰も中華民族の中に割って入って分裂させることはできないことを強調した上で、互いに交流を深めて協力し、平和安定を願うと述べた。この交流と協力は、もちろん経済協力である。なお、宋濤は1月17日に全国政治協商会議の委員になっている。「統一戦線」の形は完全に整った。◆ブリンケン訪中延期で、親中派の国民党が先んじた本来なら2月5日頃には訪中するはずだったアメリカのブリンケン国務長官は、気球事件により訪中を延期する声明を発表した。ブリンケンの訪中は、アメリカ側が望んだものであり、中国としては特段に来てほしい理由はないので、「自分で行きたいと言って、自分で行かないと意思表示した」、「勝手にしてろ」、「来なくてけっこう!」という中国大陸のネットでの書き込みも多く、むしろ台湾問題に関してはブリンケンの訪中延期は「思わぬ幸い」のような形になった。台湾でも国民党系列では、「ブリンケンより先んじることになった」という情報に溢れ、もう、この段階で「国民党は勝利した」ような雰囲気が漂っている。2月10日のコラム<バイデン大統領「中国気球、安全保障上の違反ない(=スパイ活動ではない)」と発言>(※14)に書いたように、バイデンが急転直下、「中国気球には安全保障上の違反はない=スパイ活動ではない」などと「本音」を吐いてしまったのは、この「中台蜜月」に慌てたからだろう。そうでなくとも昨年11月26日の台湾における統一地方選挙で、アメリカが応援する民進党が大敗し、国民党が圧勝している。このままでは来年の総統選挙で、ひょっとしたら親中派の国民党が勝つかもしれないと、バイデンは慌てているにちがいない。結局のところ、ブリンケンを2月中に訪中させると言い出している。バイデンは2014年に副大統領だった時に、ウクライナの内政に干渉してマイダン革命というクーデターを起こさせ、親ロシア派政権を転覆させて親米政権を誕生させた。同様のことを今度は台湾で実行しようとしていることが見えなければならない。そもそも「中華民国」台湾との国交を断絶してまで中国共産党の「中華人民共和国」中国と国交を結んだのは、ニクソン元大統領が再選を狙ったからだ。今般の気球事件も、アメリカ政府は黙認しようとしていたのに、地元メディアが報道しネットが炎上し始めたので、やむなく撃墜の方向に動いただけで、トランプ政権の時にも3回も飛来(漂流?)している。それでも撃墜に至ったのは大統領選挙のためだと、2月4日にアメリカのブルームバーグが最初にスクープした(※15)。その概要は2月5日のコラム<習近平完敗か? 気球めぐり>(※16)で書いた。今では周知の事実になっている。大統領選挙のたびに、その都度、世界情勢を自己都合で勝手に動かしていくアメリカは、アメリカの利害しか考えてない。次に犠牲になるのは日本人だ。◆習近平が狙うのは台湾の次期総統選挙習近平は専ら2024年1月に行われる「中華民国」総統選挙にターゲットを絞っており、その選挙で親中の国民党側が政権を握ることができるか否かが「天下分け目」の戦いとなる。そのため拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※17)の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で書き、また2月1日のコラム<「自由貿易は死んだ!」と嘆いた台湾TSMC創始者・張忠謀と習近平の仲が示唆する世界の趨勢>(※18)に書いたように、昨年11月に開催されたAPEC会議で、習近平は自ら足を運んで世界最大の台湾半導体受託製造企業TSMCの創始者・張忠謀氏に会いに行ったのである。国民党(藍色陣営)は、TSMCなどの半導体産業が林立している台湾のハイテク・シティ新竹市の市長が属する台湾民衆党(白色陣営)と「藍白合作」により政権を取る可能性が大きい。そこに向かって「統一戦線」が本領を発揮する時が来たと、習近平は思っているにちがいない。言論弾圧をする中国が「平和統一」をするのが良いのか、それとも「武力統一」を誘発し、日本人が命を失う事態になることが明らかでもアメリカの言う通りにして民主陣営を守るのがいいのか、日本は苦しい選択を迫られている。そのことが見えないと、日本国民の命を真に守ることはできない。いずれにせよ、習近平の「台湾懐柔」が始動したことだけは確かだ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202302/t20230209_12509282.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20180412-00083869(※4)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202301/t20230101_12498835.htm(※5)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202301/t20230106_12500105.htm(※6)https://local.cctv.com/2023/01/08/ARTIf7m8wGHfg3SSkPXhvMlQ230108.shtml(※7)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202301/t20230111_12501147.htm(※8)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202301/t20230128_12505651.htm(※9)http://www.gwytb.gov.cn/xwdt/zwyw/202302/t20230205_12507949.htm(※10)http://www.news.cn/politics/leaders/2023-02/10/c_1129355725.htm(※11)https://grici.or.jp/3721(※12)https://grici.or.jp/3919(※13)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190106-00110266(※14)https://grici.or.jp/3999(※15)https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-02-04/from-china-to-big-sky-the-balloon-that-unnerved-the-white-house(※16)https://grici.or.jp/3972(※17)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※18)https://grici.or.jp/3966 <CS> 2023/02/13 16:15 GRICI バイデン大統領「中国気球、安全保障上の違反ない(=スパイ活動ではない)」と発言【中国問題グローバル研究所】 *10:57JST バイデン大統領「中国気球、安全保障上の違反ない(=スパイ活動ではない)」と発言【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。バイデン大統領は「中国の偵察気球、安全保障上の重大な違反はなかった」と発言したが、ということは「中国気球」はスパイ行動をしていなかったことになる。日本人は如何に行動し、何に注意すべきなのか?◆バイデン大統領の発言ロイター電によると、2月9日、バイデン大統領は「中国の偵察気球、安全保障上の重大な違反はなかった」と発言した(※2)とのこと。それによると、バイデンはスペイン語放送局テレムンドのインタビューで「重大な安全保障上の違反ではない」と述べ、その上で「国際法に違反する。米国の領空だ。いったん領空に入れば、われわれはそれを自由にできる」と語ったという。念のため英語の原文はBiden says Chinese spy balloon not a major security breach(※3)となっており、確実にsecurity(安全保障上の)という言葉がある。すなわち、「スパイ活動ではない」ということを意味する。気球が中国製のものであることは中国外交部も認めているので、中国製気球が他国アメリカの上空に無断で「飛来あるいは漂流」してきたとすれば、領空侵犯になるので、撃墜する権利がアメリカにはある。したがってアメリカが「中国気球」を撃墜したのは正しかったと、2月5日のコラム<習近平完敗か? 気球めぐり>(※4)で書いた。◆気球の「航路」を制御するのは限界しかし、気球の「航路」を長時間かつ遠距離にわたって制御するのは困難で、その証拠に優秀なスタッフが揃っているアメリカのNASAでさえ、気球の「航路」を制御できなかったことを、2月7日のコラム<「中国気球」の正体を「NASA気球」の軌跡から読み解く>(※5)で書いた。筆者自身、中国がいったい何をやっているのかを、どうしても確認したかったので、2月9日には<プロペラが付いている「中国気球」に操縦能力はあるか?>(※6)を四苦八苦しながら考察することを試みた。しかし、どこからどう見ても、気球に「航路を制御する」能力はないことが判明してきた。となると、気球がアメリカ上空に飛来したのは「航路」ではなく「風に流されて漂流」していたことになり、「飛来」とか「航路」とかといった単語で気球の「滞在」を表現することができず、正確には「漂流」という単語でしか、正確には存在を表現できないことが徐々に明確になった。バイデンが「安全保障上の重大な違反はなかった」と表明したことは、アメリカ政府としても、「中国気球」が「スパイ行動を目的としてアメリカの上空にいたとみなすことはできない」と宣言したことを意味する。もし、あのような巨大な気球をアメリカ上空に飛ばして偵察行動を操縦できる能力が中国のハイテクにあるということになれば、中国は全世界の誰も追随できないほどの高い能力を持っていることを認めたことになる。しかし、実際、中国は「宇宙空間」に関してはアメリカを凌ぐ力を持っているが、高高度の成層圏におけるハイテク能力は非常に低く、そのような力は持っていない。そのことを、奇しくもバイデンの言葉が証言したことになる。◆宇宙空間における中国の力と偵察活動 陽動作戦に騙されるな拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※7)の【第四章 決戦場は宇宙に】で書いたように、宇宙空間における中国の量子通信衛星など、どのようなことでも中国はできるし、既に実行している。このことは2月10日に公開されたJBpressで受けた取材<習近平の新体制と国家戦略から何が見えるか、日本に与える脅威を読み解く>(※8)の後半部分でも述べた通りだ(特に動画の中で指摘した)。中国は「誰にも分らない方法」で、「偵察活動」を思う存分実行している。そこから得られる情報で十分なので、あのような、誰にでも見つかる「ど派手な!」巨体で「漂流」する必要などはない。筆者が日本人の方々に気づいてほしいのは、「あなたの隣で」スパイ活動をしている人には留意しないで、「ど派手な気球」に注意を注いでいる間に、日本は中国の発展に貢献していることを見落としてしまうということなのである。それこそ、中国の陽動作戦(敵の注目をそらすために、真の計画を覆い隠し、まったく別の大げさで派手な行動をとる軍事作戦)に引っかかってしまうことになる。◆習近平の凄まじい国家戦略「軍民融合」に貢献している日本人中国は実際には「軍民融合」国家戦略によって、ほとんどすべての民間企業をはじめ、大学や研究所と緊密にタイアップしているので、日本は企業界でも学術界でも中国にこの上なく貢献している。そのことは、くり返して申し訳ないが、前掲の『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※9)の【第四章 決戦場は宇宙に】やJBpressの<習近平の新体制と国家戦略から何が見えるか、日本に与える脅威を読み解く>(※10)の後半部分(特に動画)でも述べ、日本初公開の「軍民融合ネットワーク」の組織図を披露した。それだけではなく、筆者は他のスクープ情報も持っており、それは2月下旬に発売される月刊Hanadaにスクープ記事として掲載することになっている。筆者としては、日本全体が、どれだけ中国の軍民融合に貢献しているかを、より多くの日本人に認識してほしいのである。このスクープ情報は、事前に書いてしまうと月刊Hanadaに悪いので、発売が近づいたら、このコラムでも公開したいと思っている。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/4ed7017218f9b2dd4159e4656d901b9795d8d436(※3)https://www.reuters.com/world/us/biden-says-chinese-spy-balloon-not-major-security-breach-2023-02-10/(※4)https://grici.or.jp/3972(※5)https://grici.or.jp/3977(※6)https://grici.or.jp/3985(※7)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※8)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73896(※9)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※10)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73896 <CS> 2023/02/13 10:57 GRICI 習近平完敗か? 気球めぐり【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。どんなに中国が民間の気象観測用気球が風に乗り不可抗力で米上空まで行ってしまったと弁明しても、特定できたのなら、すぐさま企業名と飛ばした時の状況などを明らかにすべきだった。透明性の欠如が決定打になった。一方ではバイデン政権の裏事情をブルームバーグが暴いているので、それも同時に考察したい。◆環球時報の第一報アメリカがモンタナ州の上空に中国のものらしい気球が浮かんでおり、これはスパイ活動のための気球だと発表した時、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」は2月3日、<中国が自国から米国に“スパイ”気球を放出? 専門家: 全くナンセンス>(※2)という見出しの記事を載せた。曰く:・何の証拠もないのに、中国のスパイ気球と非難するのは荒唐無稽。・専門家の劉明氏は「アメリカ西海岸を航行するさまざまな国の商船が観測気球を飛ばす事例は多い。商船が気球を飛ばすのは航行のための気象観測が目的の場合もあるが、他方では米軍の活動や演習中にレーダー情報を取得するために放出することもある。それらは自身の安全を確保するための行動だ」と語った。・この種の観測気球の放出はアメリカでは非常に多く、アメリカが前発表した UFO 報告は、この観測気球から来ている。アメリカ国家情報長官室が発表した最新の報告書によると、過去2年間にアメリカが報告または発見したUFO事件の数は急激に増加し、510 件にも上る。報告によると、そのうち163件が気球で、その他はドローン、鳥、気象現象、またはビニール袋などだったとしている。・軍事評論家の張学峰氏は、「気球は制御性が悪く、搭載できる機器が少なく、中国には衛星ネットワークがあるので、もしスパイ活動を行なおうと思えばそれらのネットワークと使ってやればいいだけのことで、人目に付く気球などを使って米本土をスパイする意義はまったくない」と語った。・特筆に値するのは、米軍当局者がCNNのインタビューで、「米軍は気球による機密情報の収集を防ぐための措置を講じているが、中国の低高度軌道衛星ならば相当に高い効率の情報収集ができるものの、このような高高度における気球では価値のある米軍情報を取得することはほぼできない」と語っていることだ。(以上引用)ここまでの主張には一定程度の論理性があり、特に米軍当局者のCNNに対する回答は当を得ているし、それと見解が一致する中国側軍事評論家の主張にも一定の合理性があるにはある。しかし、中国外交部が「これは中国の民間企業が放ったものだ」と表明したあとの中国の言動と環球網の主張はみっともない。◆中国外交部、中国民間企業が放った気球だと認めて謝罪中国の毛寧外交部報道官は2月3日午後、「中国はいま何が起きているかを調査中です。中国は常に国際法を厳格に守り、主権国家の領土領空を侵犯する意図は全くありません。事実が明らかになる前に、憶測や誇大宣伝では問題の解決につながりません。中国はいま何が起きているのかを調査中です」と回答したとBBC中文版が報道している(※3)。しかし2月3日夜になると、外交部は記者会見で「この気球は中国の民間企業が気象観測のために放ったものである」と認め(※4)、「一応」、謝罪した。記者会見では記者の質問に中国外交部報道官は以下の回答している。——この飛行物体は中国から来たもので、民間企業が気象観測などの科学研究のために放ったものだ。偏西風の影響を受け、制御能力には限界があるので、この飛行物体は予定の航路から激しく離れてしまった。中国側は今般の飛行物体が不可抗力的にアメリカ(の上空)に誤って入ってしまったことを遺憾に思う。中国側は引き続きアメリカと意思疎通を行い、このたびの不可抗力によって発生した意外な状況に関して適切に処理したいと思っている。(以上引用)環球時報としてはバツが悪い格好になり、さて、今度はどのように報道するかを注視した。◆みっともない環球時報の第二報注視した環球時報(環球網)の第二報は、実に潔くない、みっともないものだった。2月4日、環球時報は<軍事会議はスパイの推測を強調し、主流メディアは中国の説明を無視して、アメリカは気球事件を誇大宣伝して中国に圧力をかけている>(※5)というタイトルで、相変わらずアメリカ批難の論理を展開している。曰く:中国はこの気球が中国のものだと判明した瞬間に、誠意を以て事実を認め遺憾の意を表明しているにもかかわらず、アメリカは相変わらず中国への批難を強め、むしろ気球事件を対中批難の絶好の材料としている。いや、これはないだろう。◆なぜ企業名と経緯を明らかにしないのか? 中国の透明性のなさを露呈中国外交部が、この気球は中国の民間企業のもので、気象観測用に放ったと言ったのだから、当然その時点で、「どの民間企業なのか」あるいは「どのような経緯で放ったのか」など、気球を放った時の条件や目的など、詳細な状況を把握しているはずだ。だとすれば、即時に企業名と企業の経営トップからの説明を謝罪があるべきで、経営トップが出てこなかったとしても、中国政府として「世界を騒がせた」ことに対する謝罪として、詳細にして具体的な説明があるべきだ。それが出来ないところに中国の限界があり、環球時報の第二報はむしろ「中国という国家の透明性のなさ」を露呈している。◆アメリカが気球を撃墜アメリカの現地時間2月4日午後、アメリカのオースティン国防長官が声明を出し、サウスカロライナ州沖のアメリカの領空でアメリカ北方軍戦闘機が気球を撃墜したと明らかにした。気球が偵察用であれ、気象観測用であれ、無断でアメリカの領空を飛行したのだから領空侵犯になり、アメリカにはそれを撃墜する権利がある。アメリカは「すぐに撃墜しなかったのはその下の地上に民家があるからで、領海沖に飛行してきた瞬間に撃墜した」と説明しており、その通りであるならば、完全にアメリカの行動は正しかったことになる。◆ブルームバーグが暴いたバイデン政府の裏事情ところが2月4日になって、アメリカのメディアであるブルームバーグが、とんでもないことを発表した(※6)。ブルームバーグの報道によれば、事態の推移は以下のようになっていたという。・実は1月28日に「正体不明物体」がアメリカ領空に侵入したのをアメリカ政府は知っていた。その物体は1月31日にはアメリカ領空を離れたので、見過ごそうとしたところ、その後、再びアメリカ領空のアイダホ州に戻ってきた。しかしブリンケンの訪中が控えているのでバイデン政府はこの件をそっとしておいて、スルーしようとした。・ところが物体がモンタナ州に差し掛かってきたとき、地元の人が発見してソーシャルメディアにその写真を載せたので、ネットが炎上した。・そこでバイデン政府はこれを撃墜すべきか否か討議した。これが中国から来たものだとすると、撃墜しなかったら対中軟弱姿勢を批判されて2024年の大統領選に影響する。2月1日、バイデン政府はは撃墜を主張。しかし軍の最高顧問やオースティン国防長官、ミリー参謀長官などが、下に民家があるので今はまずいと反対した。そこでアメリカの民衆には知らせないことにした。・ところが2月2日午後、モンタナ州の地方紙《Billings Gazette》が気球の写真を公開した。やむなく2日午後5点15分にバイデン政府はこのことを公開した。このときペンタゴンは「類似のことは年中あるので、そう大騒ぎすることではない」と発言。これが共和党を刺激し、「民主党は弱腰だ!」と批判し始め、トランプ前大統領がTruth Socialで「気球を撃墜しろ!」と書いたことから、バイデン政府は一気に強気に変わり、ブリンケンの訪中を延期する決定を出した。いかに対中強硬かをアメリカ国民に示すためだ。こんな裏話があったのだとすれば、「どっちもどっち」という感はぬぐえない。それでもなお、気球撃墜に対して中国外交部が抗議した(※7)というのは、筋違いとしか言いようがない。恥の上塗りだ!◆習近平の完敗か?アメリカにはアメリカの裏事情があったとしても、しかし結果だけを言うならば、このたびの気球問題は、「習近平の完敗に終わった!」と言うべきだろう。中国は長期的な戦略を練ることには長(た)けている。しかし瞬発的な判断には弱い。その原因は普段からの「透明性のなさ」にあり、こういう時にこそ、中国三代「紅い皇帝」の国師のような王滬寧(おう・こねい)が機転を利かすべきだが、彼はイデオロギーには強いが、瞬発力は欠ける。今回は秒刻みの勝負だったはずだ。アメリカが気球を撃墜する前に企業名や具体的な経緯などの詳細を明らかにしていれば、まだ習近平のメンツも保たれただろうが、撃墜された今となっては、企業名や気球内装備が判明しても、もう遅い。中国にとっては、これから明らかになる情報は、すべてマイナスにしか働いていかない。その意味では、やはり習近平の完敗だ!これは今後、米中の力関係に相当の影響を与えるのではないだろうか。注視したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/error/404(※3)https://www.bbc.com/zhongwen/simp/world-64509157(※4)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202302/t20230203_11019482.shtml(※5)https://world.huanqiu.com/article/4BYcLMqr4Xb(※6)https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-02-04/from-china-to-big-sky-the-balloon-that-unnerved-the-white-house(※7)https://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/202302/t20230205_11019861.shtml <FA> 2023/02/06 10:27 GRICI 予測通り全国政協主席になる王滬寧と4人の妻の物語【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。予測した通り王滬寧(おう・こねい)が全国政治協商会議主席になる。3代の紅い皇帝に知恵袋として仕えてきた王滬寧は習近平にかつて「デタラメを言うな!」と怒鳴った男だ。そんな王滬寧の妻たちの物語を知っている人は少ない。◆予測通り全国政治協商会議主席になることが判明した王滬寧1月18日、新華網は<中国人民政治協商会議第十四回全国委員会(全国政治協商会議)委員名簿>(※2)を公表した。全体で2172人が代表になったが、このうち、体育や芸術など他ジャンルからの選出も含めて852人が中国共産党員で、全代表の39.2%を占める(※3)。純粋に中国共産党員からのみ選出された代表は99人で、その中に王滬寧の名前がある。全代表2172人の中で、新チャイナ・セブン(7人の中共中央政治局常務委員会委員)であるのは王滬寧一人なので、自ずと、王滬寧が全国政治協商会議主席になることになる。昨年10月の第20回党大会閉幕翌日である10月23日に開催された一中全会で、新チャイナ・セブンが選出されたが、その顔ぶれが公開された瞬間に、王滬寧は全国政治協商会議主席になると予測し、その詳細を『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※4)に書いたが、予測通りの結果になったのを知り、ひとまずホッとしている。◆14億人の中で唯一、習近平を叱責できる男学者としての王滬寧を政治の世界に引きずり込もうとしたのは江沢民の大番頭であった曽慶紅だ。1995年になると江沢民は曽慶紅の勧めにより王滬寧を中央に呼び、「中央政策研究室政治組」の組長に任命し、「三つの代表」論の論理的根拠を執筆させた。胡錦涛政権になっても王滬寧は中央に留まって中央政策研究室主任(2002年~12年)、中央書記処主任(2007年~12年)などを歴任し、胡錦涛の「科学的発展観」の原稿も執筆した。いうならば、中国の「紅い皇帝」の知恵袋。しかし胡錦涛時代、習近平がまだ国家副主席だったときに、習近平に対して「あなたは何もわかってない!不用意にしゃべらないでくれ!」と面と向かって言ったことがある。この「不用意にしゃべらないでくれ!」という日本語の中国語原文は「不要乱説!」だ。これはかなり失礼な言い方である。「メチャクチャなことを言うな!」あるいは「デタラメを言うな!」と訳した方が適切かもしれない。激怒した習近平は「やめた!」と切れてしまった。つまり、次期中共中央総書記、次期国家主席など、国家のトップになるのを「やめた!」という意味だ。もし習近平が国家のトップに立たないとなると、第18回党大会は成立しない。今後の中国共産党一党支配体制が崩れる可能性がある。周りは慌てて習近平の説得に当たった。特に曽慶紅が説得して、ようやく元のさやに納まった。曽慶紅は習近平が清華大学卒業後に国務院弁公庁および中央軍事委員会弁公庁において、副総理および中央軍事委員会常務委員をしていた耿ヒョウ(こう・ひょう)の秘書をかけ持ちで務めていたときに習近平と親しくなっている。習近平はその当時、曽慶紅のことを「慶紅兄さん」と呼んで慕っていた。だから、習近平は曽慶紅の言うことは聞く。このたび王滬寧は新チャイナ・セブンの一人として残ったが、おそらくその中で習近平に対して「上から目線で、遠慮せずに、ピシャリとものが言える」のは王滬寧一人ではないだろうか。全中国14億人の中で、習近平を抑制することのできる唯一の人物が王滬寧だと言っても過言ではない。それでも習近平は、江沢民や胡錦涛と同様に彼の英知を欲しがった。結果、王滬寧は三代の「紅い皇帝」に仕える知恵袋となっているわけだ。◆知られざる王滬寧の「4人の妻たちの物語」しかし、人間の性格はわからないものである。女性が王滬寧を好きになるのか、それとも王滬寧が「女好き」なのか分からないが、王滬寧は4回も結婚・離婚をくり返し、中には妻がいるのに大学での教え子と「情を交わす」ようになり離婚に至ったケースもある。要は「不倫」だ。拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※5)のp.63-66には「王滬寧の妻たちの物語」を特集して、エッセイ風にまとめているので、興味のある方はぜひ覗いてみていただきたい。政治界における王滬寧は、その目の奥に、「怪しげな」と言ってもいいほどの「情報」を潜ませている。この目つきはゾッとするほどに冷たく、だから中南海でも王滬寧をよく言う人はあまりいない。中国には「二ナイ(女へんに乃。妻以外の愛人)村」というのが江沢民政権や胡錦涛政権にはあったほど、「好色な官僚」は掃いて捨てるほどいる。しかし王滬寧は、その手の、文字にしたくもないほどの嫌悪すべき連中とは無縁のような存在でいながら、妻をつぎつぎに取り換えているという現実に、何とも複雑な気持ちになるのを禁じ得ない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/2023-01/18/c_1129294900.htm(※3)http://www.news.cn/2023-01/18/c_1129294903.htm(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/ <FA> 2023/01/20 10:36 GRICI 米シンクタンク「中国が台湾武力攻撃したら中国が負ける」に潜む罠【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。米国の戦略国際問題研究所は1月9日、中国が台湾を武力攻撃したら中国が負けるという結果を発表した。それに対して台湾は「負ける方向に強引にシミュレーションを持って行っている」と報道。そこに潜む罠とは?◆戦略研究所のシュレーション「台湾を武力攻撃すれば中国が負ける」2023年1月9日、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies=CSIS)」は<中国が2026年に台湾を武力攻撃した際のウォーゲーム(机上演習)の結果>(以下、シミュレーション)(※2)を公表した。詳細はこのページの「リポートをダウンロード」(※3)をクリックすると見ることができる。リポートは160ページに及ぶ長文なので詳細は省くが、どうやら「米軍が参戦した場合、中国は早期の台湾制圧に失敗するが、在日米軍や自衛隊の基地が攻撃され、日米も多数の艦船や航空機を失うことになる。したがって、日本が中立を保って米軍基地使用を認めなければ、台湾側が中国に敗れるということになる」ということが言いたいようだ。シミュレーションの冒頭には以下のようことが書いてある。1.CSISはシミュレーションを24回実行した。ほとんどのシナリオで、米国/台湾/日本は中国による従来の水陸両用侵攻を打ち負かし、台湾の自治を維持した。2.しかし、この防御には高いコストがかかる。3.勝利だけでは十分ではなく、アメリカは直ちに抑止力を強化する必要がある。シミュレーションはさらに、「ウクライナ戦争では、米国とNATOは直接戦闘に部隊を派遣していないが、大量の装備と物資をウクライナに送っている。ロシアはこの流れを阻止することができなかった。しかし、台湾では中国が阻止するので、ウクライナ・モデルを再現することはできない。台湾は必要なものをすべて予め保持して戦争を始めなければならない」としており、加えて「米国は、日本国内の基地を戦闘行為に使用できるようにしなければならない。勝敗は日本が要(かなめ)となる。在日米軍基地の使用なしには、米国の戦闘機・攻撃機は効果的に戦争に参加することはできない」としている。要は「台湾は米国から武器を沢山購入なさいね」と言っているのであり、日本にも「米国の戦闘機・攻撃機を大量に購入すべし」と言っていることが分かる。◆中国(大陸)の反応このシミュレーションに対して、環球時報は1月12日、台湾メディアを引用して<米シンクタンクがウォーゲームで戦争を誘う 海峡両岸は騙されない>(※4)という報道をしている。引用しているのは1月10日の台湾中時新聞網。環球時報は以下のように述べている。——このたび米国戦略国際問題研究所は、米国の軍事的圧力の結果を発表した。2026 年の人民解放軍による台湾への攻撃は「失敗に終わる」と想定しているが、そのためには「台湾軍は発生源を攻撃する能力を持っている」、「米国は直ちに介入しなければならない」、「米軍が多数の対艦ミサイルの配備を完了している」、「日本のすべての基地を使用できる」という4つの前提条件を満たしていなければならないとしている。しかし、これらの前提をすべて満たすことは困難で、依然として「台湾への武器売却」と切り離すことはできず、「日本を直接戦争に引きずり込むこと」とも切り離すことができない。米国が台湾に武器を提供したとしても、台湾の人々はそれを支払う必要がある。日本はかつて中国を侵略し台湾を植民地化したが、日本が介入すれば、中国人の新旧の憎しみと、戦争への怒りを呼び起こすだろう。蔡英文と民進党当局は、本土(大陸)が現状を変えていると主張しているが、実際に現状を変えているのは彼らだ。海峡両岸は一つの中国の原則の下、半世紀にわたって平和を維持してきた。しかし、民進党政権は「台湾独立」路線をとり、若い世代に中国本土を憎むように扇動し、台湾の歴史を歪曲し、日本の植民地主義を美化している。米国は戦争へと仕向けるためのプロパガンダをやっているに過ぎない。われわれは騙されない。◆台湾の反応このシミュレーションに関して、台湾では多くの番組が特集を組んでいる。その中の一つで、1月11日に報道された番組(※5)をご紹介しよう。国民党的色彩を帯びているテレビ局ではあるが、番組のコメンテーターは以下のようなことを語っている。1. シミュレーションは24回行っており、そのうち19回は「米日台」側が負けているのに、なぜか平均して「米日台」側が勝ったことになっている。2.私の2人の友達がウォーゲームに参加したが、彼らがこれは「結論ありきのシミュレーションで、その結論に誘導するようにしている」と言った。それが嫌になってチームから抜けた。3.そもそもシミュレーションの前提条件が間違っている。第一の前提条件は日米の軍隊が戦争勃発後すぐ介入するように設定しているが、日米ともに参戦するには国会・米議会の承認が必要で、即時参戦は不可能だ。4.さらに、日米介入の理由を作る目的で、中国が台湾攻撃のために先ず沖縄やグアムの米軍基地へ先制攻撃をするように設定しているが、中国は日米参戦の口実を与えないことを大前提に動くので、この前提条件も現実的でない。5.そもそも中国が軍事攻撃をする場合、実際に発生する可能性が最も高いのは、中国人民解放軍による台湾封鎖だ。それなのにシミュレーションは、この実現可能性が最も高い「台湾封鎖」を想定していないので、非現実的だ。6.第二の前提条件として、アメリカが十分のLRASM(長距離対艦ミサイル)を配備することを想定している。しかしアメリカのLRASMは主として航空機から発射するもので、もし中国が沖縄やグアム島の米軍基地を先制攻撃して大量の航空機を破壊しているのだとしたら、発射できないことにつながるので、前提条件が矛盾していて、強引だ。7.シミュレーションでは中国が米軍空母2隻を破壊する結果になっているが、空母1隻に5000人の乗員がいるので、米軍の総死亡者が、たったの3200人という結果と矛盾している。8.第三の前提条件は、台湾軍が解放軍の上陸作戦を阻止することができるとなっている。その際、なぜ台湾兵士は3500人しか死亡(シミュレーションでは犠牲)していないのか?解放軍が上陸作戦して、橋頭堡を確保することができず、そのまま戦争が終わるとなっているが、そのようなことはあり得ない。9.解放軍は東部戦区のみ参戦し、米日台連軍と戦闘して、1万人の死者を出して戦争はそのまま終わるとなっているが、中国のことを何も理解していない。朝鮮戦争では諸説あるものの20万人が戦死している。1万人の死亡など、始まりに過ぎない。10.アメリカがLRASMで東部戦区の138隻の揚陸艦や駆逐艦を全部撃沈したので、上陸した解放軍に補給できず解放軍は敗戦したとある。中国の命運をかける戦争に、東部戦区だけが参戦して、北部戦区と南部戦区が支援しないということなどあり得ない。北部戦区や南部戦区を外したのはなぜか?11.このシミュレーションは第1回の攻撃しか想定していないが、台湾の漢光シミュレーションでは、中国の軍隊が少なくも9回の攻撃をしてくると想定している。12.なぜロシアや北朝鮮の介入を全く考えないのか?13.中国の解放軍が台湾を包囲封鎖したら、12日間経過後には台湾は停電しはじめる(筆者注:台湾のエネルギー資源のほとんどは輸入に依存しているから)。となると、世界経済に大きなダメージを与えることになる、関係国は中国と交渉したいと言い出すだろう。そもそも海上封鎖は日米軍事に介入の口実を与えない。(筆者注:ペロシ元下院議長の台湾訪問の時のように中国が台湾を包囲封鎖する状況を指している。)◆シミュレーションは米軍兵器を購入させるための罠か?これまでアメリカはランド研究所などを中心に台湾有事のシミュレーション(※6)を行ってきたが、何れも米軍が敗北するという結果が出ていた。このたびのCSISのシミュレーションが2023年1月9日に公開されたところを見ると、これは「日米2+2」や「岸田首相のG7メンバー国歴訪」に向けて発表されたことは明らかだろう。特に日本では安保3文書が閣議決定されたし、防衛費増額も喫緊の課題となっている。そこで、「アメリカは何とかギリギリ勝利できるが、しかし勝利のためには、日本は米国との軍事協力を深め、米軍の対艦ミサイルなどの購入を加速し、防衛費を増強する必要がある」ということを日本に迫る材料とするために、このようなシミュレーション結果を強引に引き出したものと判断される。日本が独自の軍事力を高めることは悪いことではないが、しかし、戦争に引き込まれることを前提としたアメリカの誘導には警戒すべきではないだろうか?失うのは日本国民の命であることに注目したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan(※3)https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ(※4)https://oversea.huanqiu.com/article/4BFYkxZb6SI(※5)https://www.youtube.com/watch?v=yz2X78uKTQk(※6)https://www.nbcnews.com/politics/national-security/china-s-growing-firepower-casts-doubt-whether-u-s-could-n1262148 <FA> 2023/01/19 10:26 GRICI 感染爆発する中国で1日の死者数「0-5人」の怪【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。総人口14億人の80%がコロナ感染しているという中国の専門家の予測がある一方、1日のコロナ感染死者数は中国政府発表で「0-5人」が続いている。あり得ない!何が起きているのか?◆たとえば1月2日のコロナ感染死者数「3人」と中国政府発表2022年12月25日、中国の国家衛生健康委員会は、この日からコロナ感染状況を国家衛生健康委員会ではなく中国疾病予防制御センター(Chinese Center For Disease Control and Prevention=CCDC)が発表すると告知した(※2)。そこには「参考と研究の使用に供するために」と書いてある。そして、その日から事実、コロナ感染に関するデータは、すべてCCDCのウェブサイト(※3)に発表されている。その中の一つ、2023年1月3日の発表(※4)を見ると、以下のように書いてある。・1月2日0—24時、31の省・自治区・直轄市および新疆生産建設兵団の報告によれば、新規感染者は(全国で)4833症例。・海外から入って来た症例は29で、国内発生は4804症例。・新規死亡者数は3人。3人?1月2日には3人しか新規死亡者はいなかったということになる。1月2日のコラム<中国、コロナ感染の出口は?>(※5)に書いたように、2022年12月23日の中国の情報<多くの地域でコロナ感染ピークが来る>(※6)には「コロナ感染率は多くの地域で80%に達するだろう」と書いてある。この80%は地域や時期により異なり、35%という数値を挙げる学者もいるが、いずれにせよ罹患者は「数億人」という単位であるはずだ。それなのに、CCDC(※7)のデータを見ると、12月15日から順にコロナ感染による中国全土の死者数は以下のようになっている。2022年12月14日 0人/12月15日 0人/12月16日 0人/12月17日 0人/12月18日 2人/12月19日 5人/12月20日 0人/12月21日 0人/12月22日 0人/12月23日 0人/12月24日 0人/12月25日 0人/12月26日 1人/12月27日 3人/12月28日 1人/12月29日 1人/12月30日 1人/12月31日 1人2023年1月1日 1人/1月2日 3人/1月3日 5人いくら何でも、あり得ないだろう!いったい何が起きているのだろうか?◆中国のコロナ感染者の統計の取り方まず、昨年12月7日に公布された「新十条」では、大規模なPCR検査をしないと宣言した(※8)。この第二条には、「従来の行政区域全てで全員にPCR検査をするのをやめ、ごく一部の縮小した範囲内で行い、回数も減らす」とある。なぜか?これまで中国で大規模なPCR検査ができたのは、「10人分の検体を1つの試験管にまとめて検査する」方式だったからで、その中に少しでも陽性者がいれば、その10人を個別に検査するというやり方だった。これはコスト削減のための方法だったが、オミクロン株BF.7のように感染力が極端に速いと、この方法は採用できなくなる。なぜなら大規模感染だと、たとえば30%の人が感染すると考えた場合、10人分の検体で陽性の確率は97%になってしまうので、結局全員個別に検査しなければならないという事態になるからだ。となると、まとめて検査する意味はなくなってしまう。そこで中国政府は、PCR検査に割り当てる時間と経費と人的資源を、重症患者の救助に割り当てる方が合理的だと判断したわけだ。PCR検査をしないのなら、誰が陽性になっているか分からない。だから国家衛生健康委員会は、統計を取るのをやめて、CCDCに「研究と参考に供するために」統計を取らせることにした。コロナに罹ったらしいと思う個人は、特に重い症状が出ない限りは病院に行って診断を受けるわけでなく、一般に自宅で静かに療養している。中央テレビ局CCTVでは、毎日のように「水分を十分に取って、新鮮な野菜や果物も接種するように心掛け、のどの痛い人は漢方薬の○○を服用するのも悪くない・・・」などを繰り返している。中には抗原検査キットを購入して自宅で検査することもあるが、抗原検査キットの正確率は微妙な上に、現状では購入は難しい。そんなわけで日本の解熱剤や風邪薬に人気が集まっているという状況もある。いずれにせよ、病院にでも行かない限り、統計には引っかかってこないので、罹患者の数は極端に少なくなる。おまけに罹患しても、持病があって亡くなった人は、「コロナ感染による死者」の中にはカウントしないと、国家衛生健康委員会が宣言している。病院側も死亡した人の診断書を詳細に区別して分析する時間などはなく、まだ生存している人、あるいは助かる見込みのある人の救助に力を注いでいる状況だ。それくらい感染者が多いということでもある。1月3日の人民日報・上海チャンネルの大東江(※9)は、上海市だけに限るなら市民の70%は感染しているだろうという専門家の見解を載せている。拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※10)の【第五章 ゼロコロナ政策を解除すると死者多数】に書いたように、中国の医療資源には限界がある。コロナ感染者の98%が軽症か無症状者と言っても、中国は14億の人口を抱えている。第五章で詳述した「3ヵ月で160万人の死者」とまではいかないとしても、それなりの人数にはなるだろう。統計が取れない状況があることを理由に、統計の取り方を意図的に操作するやり方は滑稽でさえある。昨年12月半ばころだったろうか。コロナ感染関連当局の記者会見場で、中国人記者の「昨日のコロナ感染による死者は何人でしたか?」という質問に対して、政府側の担当者が「昨日のコロナ感染による死者数は・・・」と言い始めると、会場が張りつめた。担当者が間(ま)をおいて「・・・ゼロでした」と言った瞬間、全ての記者のパソコンを打つ手や筆記している手が止まり、全員が顔を上げた。まるで静止画面を見ているような、その凍り付いた空気の中で、侮蔑と不信に満ちた中国人記者たちの目線がマスクの上で鋭く光った。その目線をCCTVがクローズアップして画面いっぱいに映し出したのが、深く印象に残る。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.nhc.gov.cn/xcs/yqtb/202212/7272431ee60c4f4d953b0c16257c230e.shtml(※3)https://www.chinacdc.cn/jkzt/crb/zl/szkb_11803/jszl_11809/(※4)https://www.chinacdc.cn/jkzt/crb/zl/szkb_11803/jszl_11809/202301/t20230103_263169.html(※5)https://grici.or.jp/3866(※6)http://www.stcn.com/article/detail/761627.html(※7)https://www.chinacdc.cn/jkzt/crb/zl/szkb_11803/jszl_11809/(※8)http://www.nhc.gov.cn/xcs/gzzcwj/202212/8278e7a7aee34e5bb378f0e0fc94e0f0.shtml(※9)http://sh.people.com.cn/n2/2023/0103/c134768-40252839.html(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/ <FA> 2023/01/05 16:26 GRICI 日本学術会議と提携した時の中国科学技術協会副主席で習近平お気に入りの袁家軍が重慶市書記に【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平三期目における中共中央政治局委員の人事異動が連続している。中でも新たに重慶市書記になった袁家軍は習近平のお気に入りで、日本学術会議と提携した時の中国科学技術協会の副主席だった。◆袁家軍が重慶市の書記になるまでの経緯12月8日、中共中央は重慶市の書記に中共中央政治局委員である袁家軍を任ずると発表した(※2)。それまで重慶市書記をしていた陳敏爾は天津市書記に異動した。重慶市では同日、指導幹部の会議が招集され、中央組織部部長・陳希が来て、中央の決定を「宣布する」という形で通知されている。重慶市は薄熙来が書記であった時代(2007年~2012年)に「唱紅歌(紅い革命歌を歌う)」運動を展開して文化大革命の再現に近い動きを見せただけでなく、その妻・谷開来がイギリス人実業家ヘイウッドを殺害する事件の裏で巨額の汚職事件があったことなどから逮捕されたことは有名だ。薄熙来の部下である王立軍が成都領事館に逃げ込んで助けを求めたのも世界を驚かせた(詳細は拙著『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』)。そのあとに重慶市書記になった孫政才は「“薄、王”思想遺毒」(薄熙来・王立軍思想が遺した毒)を徹底して流し去れという指示を受けていたのだが、孫政才は「毒に染まって」大規模汚職により2017年7月15日に重慶市書記を解任され、党籍を剥奪されただけでなく、2018年5月には無期懲役の判決を受けている。孫政才の後任として重慶市書記に就いた陳敏爾は、今度こそは「“薄、王”思想遺毒を徹底して流し去り、孫政才が遺した悪影響を消し去れ」、という絶対命令を受けていた。2021年2月に行われた反腐敗運動の一環としての中央巡視工作領導小組(中共中央が全国各地に派遣して不正がないかを調査する中央巡視活動指導グループ)の結果報告(※3)によれば、陳敏爾は一応「積極的な成果を収めた」と評価されたので、まずまずの合格点を得たと言えよう。だから下野させずに、天津市書記に異動させたわけだ。毒が一応消し去られた後なら、習近平が重要視している袁家軍を重慶書記に任命しても大丈夫だろうと、習近平は判断したものと思う。◆航空宇宙学者 ・袁家軍を政界入りさせたのは誰か?習近平がなぜ袁家軍を重要視しているかというと、袁家軍は中国の宇宙工学発展に寄与した航空宇宙学者だからだ。テクノクラートを使って、習近平が描くハイテク国家戦略をさらに強力に推進していきたい。1962年に吉林省通化市で生まれた袁家軍は、1980年~1984年、北京航空学院で航空機の設計や応用力学の中の固体力学などを学んでいる。のちに中国航天科技集団の副総理などを務めながら、2006年から2016年まで、中国科学技術協会の副主席を二期務めた経験を持つ。その間に袁家軍は中国の宇宙工学発展に大きく寄与してきた。習近平は2012年11月に中共中央総書記になっているが、翌月の12月にはハイテク国家戦略の諮問委員会を立ち上げ、2015年に「中国製造2025」を発布している。その前の2014年に、それまでの袁家軍の功績を称えて、彼を自分の古巣である浙江省に派遣し、浙江省共産党委員会常務委員に任命し、2020年には浙江省書記に就任させている。袁家軍は本来純粋な航空学者で、中国共産党に入党したのも1992年と遅いのだが、興味深いことに2009年3月から2009年7月の間だけ、中共中央党校の中青年幹部養成班で学習しているのだ。その後の袁家軍は、突然政界入りしているのだが、それはなぜなのか?政界入りのスタートは2012年3月で、袁家軍はまず、寧夏回族自治区の党委員会常務委員になっている。この時期、習近平は胡錦涛政権で国家副主席をしていたのでチャイナ・ナイン(胡錦涛政権時代の中共中央政治局常務委員の呼称。筆者命名)の一人であった。おまけに習近平は中共中央党校の校長でもあったから、習近平が袁家軍を中央党校の養成班で学習させることは容易にできたことだ。目的は、袁家軍を政界入りさせることにあったと考えられる。背景には、「テクノクラートを増やすべきだ」と習近平にヒントを与えた男がいる。それこそが、このたび新チャイナ・セブン入りをした丁薛祥である。なぜ、そのようなことが言えるのか?まもなく出版される拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※4)が、その回答を示してくれるだろうと信じている。◆日本学術会議と提携した中国科学技術協会問題は、我が日本の日本学術会議が中国科学技術協会と提携を結んでいることだ。2020年10月9日のコラム<「日本学術会議と中国科学技術協会」協力の陰に中国ハイテク国家戦略「中国製造2025」>(※5)に書いたように、中国科学技術協会は、1958年に設立された中国共産党指導下の「人民団体」で「中国共産党中央書記処」が管轄している。2018年3月のデータによれば、中国全土の210の学会が所属しており、地方の支部は3141支部に達し、550の大学が参加している。日本学術会議との提携は、袁家軍がまだ副主席をしていた2015年に締結された。日本学術会議は「実害がない」という意味で、実際の活動はないように言っているが、そんなことはない。千人計画だろうと、大学間協定だろうと、日本は有形無形の「中国科学技術」との「協力関係」の中に引き込まれている。最も恐ろしいのは、中国科学技術協会というのは「軍民融合」の中核を成しており、それはありとあらゆる細部にわたって「科学技術」という、一見「中立」の手段を通して、中国の軍事発展や宇宙開発に貢献していることである。その巨大な国家レベルのネットワークが、どれほど強固に、そして強力に張り巡らされているかは、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※6)の【第四章 決戦場は宇宙に】で詳述した。P.176‐p.177には、本邦初公開の宇宙開発に関する組織図が示してある。組織図の中で区切った「軍民融合」関連組織の中核にいるのが、「中国科学技術協会」で、わが国の日本学術会議は、その巨大な組織の一コマとして組み込まれていることを、日本人は見落としてはならない。写真: 西村尚己/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2022-12/08/c_1129191499.htm?fromModule=lemma_middle-info(※3)http://fanfu.people.com.cn/n1/2021/0210/c64371-32028153.html(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※5)https://grici.or.jp/1673(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/ <FA> 2022/12/12 16:34

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