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GRICI 「台湾有事」が消えるか? 台湾総統選で野党連携「藍白合作」が決定【中国問題グローバル研究所】 *10:45JST 「台湾有事」が消えるか? 台湾総統選で野党連携「藍白合作」が決定【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。11月15日、台湾の総統選に関して、野党の国民党と台湾民衆党が連携することが決まった。国民党のシンボルカラー「藍」と台湾民衆党のシンボルカラー「白」を取って、これを「藍白合作」と称する。今年2月1日のコラム<「自由貿易は死んだ!」と嘆いた台湾TSMC創始者・張忠謀と習近平の仲が示唆する世界の趨勢>(※2)や2月12日のコラム<習近平「台湾懐柔」のための「統一戦線」が本格稼働>(※3)で、「藍白合作」があり得るという趣旨のことを書いた時、在日の台湾人ジャーナリストを中心として「そんなことなど絶対にあり得な――い!」と激しく批判していて驚いた記憶がある。しかし実際には「藍白合作」が実現したのだから、批判していた人たちの主張は正しくなかったことになる。今となっては「藍白合作」に関して数多くの情報が中国語のネット空間に出回っているが、その中の一つであるアメリカのメディアRFA(Radio Free Asia)中文は<台湾の野党勢力は統合に成功し、世論調査で総統と副総統の選出が決まる>(※4)というタイトルで、11月15日に決定内容の詳細を報道している。それによれば、台湾の野党勢力である国民党と台湾民衆党は、馬英九前総統の仲介と調整の下、「藍白合作」を宣言した上で、「世論調査によって、連立野党の総統と副総統の候補者を選ぶことに合意した」とのこと。非常に合理的な決定だ。立候補者は国民党の侯友宜氏と台湾民衆党の柯文哲氏だが、どちらが総統として立候補し、どちらが副総統になるかに関しては、内部で取り決めるのではなく、世論調査で決めるという。それなら内部でのもめ事がなく、決めやすいのかもしれない。調査結果は、11月7日から11月17日にかけて調査専門家によって検討・評価され、18日(土)の朝、馬英九基金会が結果を発表することになっているという。侯友宜氏は「結果がどうなろうとも、藍白が協力して台湾と人民を統一し、同時に人民の意思に合致し、政党の交代を実現し、腐敗した無能な民進党(民主進歩党)を排除し、台湾海峡の両岸が平和になり、台湾海峡が安定し、人民が安心できるようになることを願っている」と述べた。柯文哲氏は「水曜日(15日)にはアメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席がサンフランシスコで会談するが、最も重要な議題は台湾問題だということは分かっている。だから今日は非常に機嫌が悪いんだ。台湾は世界で最も戦争が起こりやすい場所とされていて、その結果、ウクライナとイスラエルでさえ最も深刻な場所とは見なされなくなり、台湾は世界で最も危険性の高い場所になろうとしている」という趣旨のことを述べているが、過去に何度も「民進党が大っ嫌いだ!なぜなら民進党だと戦争が起きるからだ!」と述べたことがある。台湾の一部では、「藍白合作」は中国側の要望であり、世論調査によって総統と副総統を決めるというアイディアも、中国が出したものだという批判もあるようだが、野党が複数分立していたら、当然、政権与党・民進党の頼清徳候補には勝てないことになるのは、誰の目にも明らかな論理だろう。それは、選挙のある国なら、どの国でも同じだ。現在の総統選立候補者の支持率は、概ね以下のようになっている。概ねというのは、台湾には「民意調査機関(民間の小さな団体もある)」が非常に多く、どの機関・団体が調査したかによって、相当に違いが出て来るからだ。従って、それら多くの調査機関・団体の平均値を見るしかなく、「概ね」という幅のある値になる。以下に示すのは11月10日前後の平均値だ。●民進党の頼清徳:約32.9%●国民党の侯友宜:約23.9%●民衆党の柯文哲:約23.1%●無党派の郭台銘:約 5.0%民進党のシンボルカラーは「緑」だが、頼清徳と「非緑陣営」を分けて調査したデータもある。それは必ずしも上記の合計と一致するわけではなく、●緑の頼清徳:約35%●非緑陣営:約50.5%となっている。また頼清徳と「侯友宜+柯文哲」とに分けた場合の調査もあり、その場合は平均として●頼清徳:約39%●侯友宜+柯文哲:約47.4%という感じで、頼清徳氏はなかなかに強い。侯友宜と柯文哲を比較すると、何れもわずかに侯友宜が高いので、侯友宜が総統候補、柯文哲が副総統候補として立候補することになる可能性もある。18日の午前中にはどうなるかがはっきりするようだ。郭台銘氏も必要な推薦人29万人を遥かに上回る100万人以上の推薦人を得ているので、郭台銘にも立候補資格がある。ただ支持率が低いので、ひょっとしたら、たとえば「侯友宜が総統、柯文哲が副総統、郭台銘が首相(行政院長)」といった内閣が出来上がる可能性もなくはない。どうなるかに関しては、18日および届け出の締め切り日24日の結果を見て、さらに分析を深めたい。さまざまな角度から見た民意の情況や「藍白合作」に関しては、拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いた。台湾で起きている批判の通り、「非緑陣営」が連盟を結べば結ぶほど、中国には有利になる。親米ではなく、中立ではあるものの親中に傾いており、独立を叫ばないという点で一致しているからだ。独立さえ叫ばなければ戦争は起きない。すなわち「台湾有事」という事態にはなりにくい。「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)の活躍もしにくくなる。そうなると、「日本有事」も起こらなくなるわけだが、日本人はどちらを望むのか。真相を見極める複眼的視点が、日本人にも要求されている。追記:1971年10月25日に、「中華民国」台湾はアメリカがリードして国連から追い出された。アメリカは「中国」を代表する国家は「中華人民共和国」(共産中国)一国しかないとして「一つの中国」を認め、「中華人民共和国」が国連に加盟する方向に強引に持って行った。その瞬間、中国が「台湾は中国の不可分の領土」とすることを、国連が認めたことになる。もしこれを覆したいのなら国連で再議決するしかない。平和裏になら統一することもアメリカは認めている。国連で再議決する以外に台湾統一を阻止する方法は、唯一、中国が武力を行使したときである。したがって今となっては統一させたくないアメリカは、何としても台湾有事を創り出したいと考えている。1946年から1948年にかけて戦われた国共内戦(国民党と中国共産党の内戦)で共産党軍により食糧封鎖され家族を餓死で亡くし、餓死体の上で野宿させられて恐怖のあまり記憶喪失になった筆者としては、どんなことがあっても、再び中国共産党と、当時の国民党が逃げた先である台湾との間に戦争が起きることだけは阻止したい。だから台湾が戦争をしない道を選ぶことを望んでいる。平和統一実現を望んでいるのではない。台湾の民意は「統一は反対だけど、戦争も反対」というのが主流だ。この状況で習近平は絶対に統一はできない。しかし戦争が起きないことは重要だ。その意図をご理解いただきたい。この論考はYahoo(※5)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/3966(※3)https://grici.or.jp/4006(※4)https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/gangtai/hcm-11152023090134.html(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/be6279c2b24d677ac554efbc37ad992f7fcad91c <CS> 2023/11/17 10:45 GRICI 米中首脳会談に合わせて、台湾総統選で野党連携を表明【中国問題グローバル研究所】 *10:28JST 米中首脳会談に合わせて、台湾総統選で野党連携を表明【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。日本時間16日早朝、サンフランシスコで米中首脳会談が行われた。習近平国家主席がバイデン大統領に何と言ったのかが「人民日報」電子版「人民網」に詳細に書いてある。それを着実に読み取り、習近平が何を考えているかを考察する。米中首脳会談にピタリと合わせて、台湾では野党が連携を組むことを発表した。これにより米国はこれまでのように「台湾有事」を煽ることができなくなる。習近平には圧倒的に有利な形勢が生まれつつある。◆習近平の発言から中国の対米姿勢の本音を読み取る11月16日7時28分、中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」は、<習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領が米中首脳会談を開催>(※2)という見出しで、習近平の発言を詳細に伝えている。これを通して習近平が米中関係をどうしたいと思っているかが鮮明に浮かび上がってくるので、先ずは、習近平の発言を忠実にそのままご紹介する。最後まで一気に翻訳だけを書くと、途中でイライラする個所が出て来るようにも思われるので、( )の中で筆者注として解釈を加筆することにした。「筆者注」と明記してない場合も、わかりやすいように筆者が( )内に加筆した場合もある。以下は習近平の発言である。・世界は100年に一度の大変革を遂げており、中米には2つの選択肢がある。一つは、団結と協力を強化し、地球規模の課題に協力して対処し、世界の安全と繁栄を促進する選択である。もう一つは、ゼロサム精神を信奉し、陣営対立を煽り、世界を混乱と分裂に導く選択だ。二つの選択は、人類と地球の未来を左右する二つの方向性を代表している。・世界で最も重要な二国間関係として、中米関係はこのような大きな背景の下で検討し計画されるべきである。中米がお互いに話し合わないのは良くないことであり、互いを変えたいと思うのは非現実的で、紛争と対立の結果には誰も耐えられない。 大国間競争は、中米そして世界が直面している問題を解決しない。 この地球は、中米二つの国を同時に受け入れることができる(筆者注:中国と米国という二つの国が地球上で対等に並存するということが可能だ、の意。すなわち米国に対して「米一極支配をやめれば、中国の台頭を潰そうとしなくて済むはずで、そうなれば世界は平和になる」という意味)。中米の成功は、お互いにとってのチャンスとなり得る。・中国式現代化の本質的な特徴とその含意的な意義、および中国の発展見通しと戦略的意図を深く掘り下げて説明したい。中国の発展には独自の論理と法則があり、中国は中国式現代化により中華民族の偉大なる復興を全面的に推進しているのであり、中国は植民地的略奪のような過去の(筆者注:欧米がやったような)歪んだやり方はしないし、強国になれば覇権を握るようなこともしない。またイデオロギーの輸出もしなければ、またいかなる国ともイデオロギーによる対抗もしない。(筆者注:米国は全米民主主義基金NEDにより「民主主義の輸出」すなわちカラー革命を試みて世界中で対米従属的ではない国家の政府転覆をしてきたし、今もし続けているが、中国は「共産主義の輸出」は試みない。ただ単に中華民族がかつて帝国主義列強によって植民地化された状態から抜け出して中華民族の復興に向けて努力するというのが「中国式現代化」の精神であるということを言っている)。何よりも、中国はアメリカを凌駕しようとしたり、アメリカに取って代わろうという計画もないので、アメリカも中国を抑圧し封じ込める意図を持つ必要はない。・相互尊重、平和共存、ウィンウィン協力は、50年にわたる中米関係から練り出された経験であるだけでなく、歴史上、大国間の対立がもたらした啓発であり、中米がともに努力すべき方向性であるべきだ。そうすれば、両国は違いを乗り越え、二大国が友好的に共存する正しい道を見つけることができる。昨年のバリ会談で、米側は「中国の体制を変えようとせず、新冷戦を求めず、(日本やオーストラリアなどの)同盟国との関係強化を通じて中国に対抗しようとせず、『台湾独立』を支持せず、中国と衝突する意図はない」と述べたではないか。今回のサンフランシスコ会談で、中国と米国は新たなビジョンを持ち、中米関係の5つの柱を共同で構築すべきである。一、正しい理解を共同で確立する。中国は常に、安定的で健全かつ持続可能な中米関係の構築に努力してきた。同時に、中国には守らなければならない利益、守らなければならない原則、そして守らなければならないボトムラインがある。両国がパートナーとなり、互いを尊重し、平和的に共存することが望まれる(筆者注:中国が成長してきたので「けしからん」として、中国を潰そうとするようなことをするな、という意味)。二、ともに違いを効果的に管理するために協力する。意見の相違を利用して両国間の溝を煽るようなことをしてはならず、両国の間に橋を架けるために努力すべきだ。 双方は互いの根本原則を理解し、(制裁などを科して)虐めたり、挑発したり、一線を越えたりせず、もっとコミュニケーションを取り、もっと対話し、もっと相談し、違いや(偶発的)事故(や衝突)に冷静に対処すべきだ。(筆者注:この後半に関しては「お前が言うのか」という感想を抱く読者が多いだろうと思う。三期目の習近平政権が最初に国防部長とオースティン米国防長官との対話を阻んだのは、国防部長に敢えて米国が個人的制裁を加えている人物を選び皮肉を込めていたのだが、その国防部長を腐敗容疑で更迭してしまったので、新たな「皮肉」が生まれている。今は身体検査に時間がかかっている。)三、互恵的な協力を推進すること。 中米は、経済・貿易、農業などの伝統的な分野から、気候変動や人工知能などの新興分野まで、多くの分野で幅広い共通の利益を共有している。 双方は、外交、経済、金融、通商、農業の各分野で回復または確立されたメカニズムを最大限活用し、麻薬対策、司法法執行、人工知能、科学技術の分野で協力を実施すべきだ。四、大国としての責任を共同で負わなければならない。 人類社会が抱える課題の解決は、大国の協力と切っても切れない関係にある。 中米は模範を示し、国際的・地域的課題の協調と協力を強化し、より多くの公共財を世界に提供すべきだ。 双方が提唱するイニシアチブは、互いに開放されているべきで、相乗効果を形成するために調整し、力を合わせることさえできる。五、人的交流を共同で推進する。 両国間の直行便を増やし、観光協力を促進し、地域交流を拡大し、教育協力を強化し、両国間のより多くの交流を奨励し、支援する必要がある(筆者注:渡米したい中国人留学生を制限していることなどに関する意見)。・台湾問題に関する原則的な立場を明らかにしたい。台湾問題は常に中米関係において最も重要かつデリケートな問題である。中国は、バリ会談中に米国が行った関連する前向きな発言を非常に重視している。 米国は「台湾独立」を支持しないという言葉を具体的な行動で体現し、台湾を武装化させることをやめ、中国の平和統一を支持すべきだ。中国は、いずれは必ず統一されるのだし、必然的に統一されなければならない。(筆者注:1971年に国連で「一つの中国」を認め、「中国」を代表する国としては「中華人民共和国」=共産中国しかないという強い意思決定の下、共産中国を国連に加盟させ、「中華民国」台湾を国連から追い出したのは、ほかならぬアメリカだ。そのことを指している。)・米国が輸出管理や投資審査あるいは一方的な制裁などの措置を中国に対して継続的に講じており、中国の正当な利益を著しく損なっている。中国の科学技術を抑圧することは、中国の質の高い発展を抑制し、中国人民の発展権を奪うことに等しい。中国の発展と成長には内発的な論理があり、外的要因によって止めることはできない。米国が中国の懸念を真摯に受け止め、一方的な制裁を解除し、中国企業に公正、無差別の環境を提供するための行動をとることを期待する。習近平の発言に関しては以上おそらく習近平が言いたかったのは最後の二つだろう。◆合意の中に制裁緩和はない話し合いの結果、「中米両軍の対話」、「中米の国防実務会議」、「中米の海上軍事安保協議メカニズム対話」などを再開し、米中軍事関連指導者間の電話会談を行うことに合意した。また「来年初めに、フライトの大幅な増加」、「教育、留学生、青少年、文化、スポーツ、ビジネス等における交流の拡大」に関しても合意した。気候変動対策に関しても両首脳とも前向きなようだ。しかし最後の対中制裁に関しては、緩和したという兆しは見られない。その割に習近平が必ずしも厳しい表情になったわけではないのは、おそらく最後の二つの内の一つ「台湾問題」に関して大きな進展があったからではないかと推測される。(以上、中国側の発表なので、ここまでは「米中」ではなく、「中米」とした。以下は「米中」と表現する。)◆米中首脳会談に合わせ、台湾総統選での野党連携を発表!なんと、米中首脳会談に合わせ、台湾の野党側は、台湾の総統選に関して野党連携である「藍白合作」を発表した。「藍」は国民党で、「白」は「台湾民衆党」である。筆者は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出しているのはCIAだ!』で、台湾総統選に関して、最終的には野党側が「藍白合作」をして民進党を敗北に追いやるだろうと予測した。その予測が的中した!ということは、今後バイデンは「台湾有事」を煽って、習近平に誓った言葉と裏腹の行動はできなくなる。正に習近平の狙い通りの展開になる可能性が高い。台湾総統選の野党連携に関しては、11月18日あるいは24日までに郭台銘(テリー・ゴウ)候補を含めた最終結果が出ると思われるので、その時を待って別途考察することにしたい。この論考はYahoo(※3)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2023/1116/c1024-40119157.html(※3)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f92aefb2b67ce633f40f6fabf1291831d36f175c <CS> 2023/11/17 10:28 GRICI 中国 ガザ紛争に関するG7外相声明の欺瞞性を批判【中国問題グローバル研究所】 *10:23JST 中国 ガザ紛争に関するG7外相声明の欺瞞性を批判【中国問題グローバル研究所】 11月7日から東京で開催され8日に共同声明を発表したG7外相会合に関して、ガザ紛争に対する声明の欺瞞性とダブルスタンダードを批判する声が中国のネットに溢れている。急降下する岸田首相の支持率の中、筆者自身、せめて上川外相の活躍をと期待したが、共同声明を出せるか否かに力を注いだだけで、あの比類なき残虐無残さでガザの民の命を奪うイスラエルの攻撃を止める役割は果たし得ない。初日にアメリカのブリンケン国務長官との対談でハマスの急襲攻撃に対して上川外相が「あれはテロです!アメリカの見解に全面的に賛同します!」という趣旨のことを「力強く」表明した段階で、「ああ、これはダメだ」と失望した。拉致はもちろん許されないが、しかしハマスの襲撃は1948年以来のパレスチナ人に対する不当な虐待と「パレスチナの地」からパレスチナ人を追い出し、アメリカの軍事力を背景に横暴を極めてきたイスラエルへの抵抗運動だ。その根源から目をそらしアメリカにおもねる日本の姿勢に実に失望したのである。北京に戻って大学で教えている昔の教え子が「日本が“G6と日本”という形になったとき、お、日本、やるな!また強くなるかなと、一瞬思いました」という便りを寄せてきた。◆強引に一致点に漕ぎ着けようとしたため説得力に欠ける11月8日の中国新聞網は<G7外相会合共同声明 「人道主義に基づく一時休戦」を支持>(※2)という見出しの記事を報道し、中国のように「即時停戦は呼びかけていない」とした上で、世界主要メディアの報道を紹介している。・CNN(アメリカ):声明は救援物資の輸送、民間人の移動、被拘禁者の釈放を促進するための「人道的一時停止」への支持を表明したが、停戦は求めなかった。G7諸国は互いに協力して、ガザ地区の持続可能な長期的解決策を策定し、より広範な和平プロセスに戻り2国家共存解決を目指すと言ってはいるが、しかし、G7が停戦を拒否したことで、アラブ諸国などと対立する結果を招いている。・AFP(フランス):G7外相たちは「イスラエルには国際法に基づいて自己防衛をする権利があると強調した。なぜならイスラエルは、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の再発を防ごうとしているからだという認識で一致している。・ロイター通信:G7は「イスラエル・パレスチナ紛争の確固たる統一的解決に苦慮しているようで、重大な危機に対応する能力に欠けているのではないかという疑問を、人々に投げかけている。G7は国連においても二分されており、10月26日の国連においてフランスは人道的停戦を求める決議案に賛成票を投じ、アメリカは反対票を投じ、他のG7加盟国は棄権した。(引用以上)中国新聞網は中国自身の視点を書いてないが、しかしここから読み取れるのは、G7各国は本当はここまで意見が異なるのに、強引に一致点に漕ぎ着けようとしたため、説得力を失い、問題解決には何の役にも立っていないことが見えてくる。◆G7の欺瞞とダブルスタンダード11月10日の「実事大家談(実際のことをみんなで話そうよ)」というウェブサイトはストレートだ。<G7の欺瞞:イスラエル・パレスチナ危機に直面して「停戦」ではなく「人道主義的一時休戦」を呼びかける>(※3)という見出しで、G7外相会合の共同声明を批判している。以下、報道内容を略記する。1.G7共同声明のおざなりな態度この声明はイスラエル・パレスチナ紛争に多くのスペースを割いているにも拘(かか)わらず、イスラエルに対してガザでの軍事作戦に「人道主義」を考慮する世にと軽く促しているだけだ。 G7は、国際社会が人道的停戦の即時を求める声を強めることを避けてきた。2.G7のダブルスタンダードG7グループは共同声明の中で、他国を非難する時には人道や道徳などの点で激しく相手を責めているが、しかし現実に人道的大惨事が起き、何としても国際社会の力でそれを食い止めなければならない時には躊躇する。「無辜のパレスチナ人の命の尊厳と緊急な救済」が必要な時に、「政治的打算」の方を躊躇なく選んだ。3.米国とG7の真の動機アメリカもG7もイスラエルに影響力を行使できないわけではなく、イスラエル・パレスチナ問題に介入する能力も持っている。しかし、彼らはガザにおけるイスラエルの軍事作戦を黙認し、あるいは容認することさえ選択している。その理由は単純で、中東における戦略的利益と同様に、イスラエルに対する影響力を失うことを恐れているからだ。4.国際社会の対応G7の欺瞞的な顔を前にして、国際社会は正義の側に決然と立ち、即時停戦とパレスチナ民間人の支援を果敢に推進しなければならない。 同時に、G7の欺瞞を暴き、人道問題におけるダブルスタンダードをより多くの人々に認識させる必要がある。ガザ地区の人道的大惨事はエスカレートし続けており、国際社会は停戦を切望している。しかしアメリカとG7は共同声明で「停戦」という言葉を避け、イスラエルに対する「人道主義」を呼びかけるにとどまった。この問題に関して、G7の欺瞞性を国際社会に対して明らかにし、パレスチナの民間人のための人道的停戦と和平を推し進めるよう呼びかけたい。◆G6(日本を除くG7)の共同声明に希望を見い出した中国人元留学生冒頭にも書いた昔の教え子で、今では北京の有名大学で教授として教鞭を執っている中国人元留学生が、「日本を除くG7」=G6が10月22日に「イスラエルの自衛権を認めて支持する」共同声明を発表したことに関して、「うわっ、凄い!日本、やるじゃん!アメリカの言いなりにならない日本ってカッコいい!」と思ったと便りを寄こしてきた。1980年代や90年代は、日本留学は中国の若者の憧れで、帰国した90年代末当時はまだ、日本留学が自慢だったようだ。しかし今では日本留学であることを恥ずかしく思わなければならないような状況にある。学生からバカにされるので、あまり知られないようにしているという。先般、日本が初めてアメリカの言いなりにはならなかったことから、「もしかしたら日本はまた強くなってくれるかもしれない」と希望を抱いたそうだ。しかしそれは束の間のできごとで、G7の外相声明を知って、やはり日本に留学したことはあまり知られないようにしようと、肩身の狭い思いをしていると落胆していた。そう言えば、10月22日以降しばらくの間、中国のSNSウェイボー(微博)でG6に関するコメントをよく見かけたように思う。やはり「日本、たまには良いことをやる」という趣旨のことが書いてあったり、「また昔のように強くなるのかな」というものもあったりした。それも瞬く間に消えて、「美国的走狗(アメリカの犬)」に戻ってしまった。ロシアがウクライナの民に対して残虐な攻撃を加えていた時、西側諸国はこぞってロシアの非人道性を非難した。しかし今、イスラエルがロシアの比ではない、人類としてあり得ないような残虐を極める攻撃をパレスチナの子供や赤ちゃんや老人にも続けているのを見て、それを緊急に阻止させるどころか、アメリカなどは強烈な軍事支援をしているではないか。赤ちゃんを殺すために「もっとやれ」とばかりに応援しているということになる。胸がつぶれそうで苦しくて、そのような画面を直視することさえできない。しかもパレスチナ人は1948年からイスラエルに「パレスチナの地」を追われて難民となり、土地を奪われ虐殺され迫害され続けてきた。ガザ地区などは高い壁に囲まれて、そこから出ることさえ許されず、食糧や電力を断たれた中であえいでいる。その状況で間断なく最強の兵器で爆撃し続けるなど、人間のやることではない。人類として許されてはならないことだ。イスラエルの国防関係者は「あの壁の中にいるのは獣だ」と豪語したことがある。したがって「人道」を考える必要はないという流れでの発言だった。ナチスドイツにユダヤ人が迫害された時には、中東でも温かく亡命したユダヤ人を迎えたからこそ、パレスチナの地にユダヤ人も居住できたはずだ。アメリカの金融を支え、アメリカの大統領選を動かすユダヤ人に対して、アメリカがイスラエルの要望通りに、不平等にも、パレスチナ人の尊厳を認めないことがもたらした悲劇だ。中立になれる、滅多にない機会を逃し、日本はアメリカの走狗になり、欺瞞とダブルスタンダードの側に立っている。無念でならない。この論考はYahoo(※4)から転載しました。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1781993845500460818&wfr=spider&for=pc(※3)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1782130575310633244&wfr=spider&for=pc(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/426051d32047555e41f3c733f7626ae37b818143 <CS> 2023/11/15 10:23 GRICI 露ウ停戦交渉は習近平の「和平案」を採用することになるのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:20JST 露ウ停戦交渉は習近平の「和平案」を採用することになるのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。11月に入ると、NBCを始め多くのメディアが10月におけるウクライナ関係の会議において欧米がウクライナに「停戦を考えるように」と密かに勧告したという情報が溢れた。ガザ紛争が起きたためにウクライナにかまっていられなくなったのと、ゼレンスキー大統領の姿勢に疑問を抱く者が出てきたからのようだ。同時に、ウクライナ軍の総司令官が英誌「エコノミスト」にゼレンスキーと軍との間の亀裂を明かし、中国メディアはこれらの話題に沸いた。もし和平交渉となった時には、欧米がゼレンスキーを説得したとしても、プーチン大統領も納得しなければ停戦には入れない。そのプーチンは習近平国家主席の「和平案」を支持していると、プーチン自身が中国メディアの取材に回答している。ということは習近平の「和平案」が採用されることになるのだろうか?◆中国メディアに溢れる情報もう、どれからご紹介すればいいか分からないほど、中国のネット空間には関連情報が溢れている。まず、中国共産党管轄下の中央テレビ局CCTV文字版は11月4日、<関係者が「欧米当局はウクライナと、いかにしてロシアとの和平交渉を進めるかを討議している」と語る>(※2)という見出しで、以下のようなことを書いている。――現地時間11月3日、アメリカの国営放送NBCは、米政府高官の話として、「欧米当局者は、露ウ紛争終結に向けたロシアとの和平交渉をどのように行うかについて、すでにウクライナ政府と討議を開始した」と言っていると報じた。会談の内容には、「ロシアとの合意に達するために、ウクライナが放棄しなければならない条件」などが含まれているという。NBC報道によれば、欧米当局者らは、「露ウ紛争が膠着(こうちゃく)状態に陥っていること」や「ウクライナへの支援を継続できるか否か」について懸念を表明している。2人の関係者によると、「バイデン大統領はウクライナの軍事力の低下が続いていることを非常に懸念している」とのこと。イスラエルと、パレスチナのイスラム抵抗運動(ハマス)との紛争が勃発する前、ホワイトハウス当局者らは米議会が年末までにウクライナへの追加資金支援に関する決定を下すと信じると公式表明していたが、しかし非公式には「それは難しいかもしれない」と認めていた。(CCTV記事引用、ここまで。)一方、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は、「環球情報放送」というウェブサイトで11月6日、中央テレビ局CCTVの情報に基づいて<露ウ紛争:誰(どちら側)の「膠着状態」なのか?>(※3)という見出しで、冒頭に書いた数多くのウクライナ状況に関して報道している。信憑性を証明するためか、そこには数多くの欧米オリジナル情報のキャプチャーが貼り付けてあるので、ご確認いただきたい。この情報を国際オンライン(※4)などが転載したりするなど、中国のネットは大賑わいだ。それら数多くの報道の中からいくつかをピックアップしてみる。・パレスチナ・イスラエル紛争の新たな局面が世界の注目を浴びている中、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、イギリスの「エコノミスト」に投稿し、「ロシアとの戦争が膠着状態に達している」と認めた。ザルジニー氏はまた、ウクライナ軍の反撃を指導するために使用された「NATO方式」は間違っていたことが証明されたと書いている。ウクライナとその西側支持者は常に反撃への希望を抱いてきたが、現実的にはウクライナ軍はそのように「美しい突破」はできないだろうとも嘆いている。・ゼレンスキーは「膠着説」を否定したが(そのために軍との間に亀裂が生じているが)、フランスメディアは、ザルジニーの発言が今夏の注目を集めたウクライナの反撃に「冷や水を浴びせた」と指摘した。さらに、ウクライナ大統領府の顧問ポドリャク氏も、この時期の戦闘は「困難」に直面したと認めた。・ニューヨーク・タイムズは、「欧米側がこれまで提供した兵器では、ウクライナ軍が突破口を開くのに十分ではなく、ウクライナ情勢を逆転させるのに役立つ兵器はほとんど残っていない」、「西側同盟国、特にアメリカのウクライナ支援を継続する意欲は弱まっている」と報道している。・AP通信は「アメリカ議会には厳しい亀裂が走っている」と述べている。ウクライナとイスラエルを同時に支援すべきだという派閥と、ウクライナへの支援とイスラエルへの支援は別々に行うべきだという派閥と、ウクライナへの支援は減らすか完全にやめてイスラエルだけを支援すべきだという派閥など、大統領選に向けて、どれだけ票を取れるか、ユダヤ資金をどれだけ集められるかなど、ごった返すほどに乱れている。・米メディア「ポリティコ」は、露ウ戦争は膠着状態に達しているとのザルジニーの声明に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ロシアは膠着状態には達しておらず、今後も特殊軍事作戦を推進していくつもりであり、定められた目標はすべて達成されなければならない」と反論したと報じている。ウクライナの悲観的な現状を見て、ウクライナとロシアの和平交渉をこれまで阻止してきたアメリカの考えが変わったのは注目に値すると報道している。◆「露ウ平和交渉を妨害したのはアメリカ」と米知識人や独政界が証言「環球時情報放送」は以下のように続ける。皮肉なことに、ウクライナ危機が全面的に拡大した後、ロシアとウクライナは複数回の交渉を実施し、一時的には前向きな進展を見せた。しかし、まさにアメリカとNATOの妨害により、和平交渉は最終的に行き詰まった。アメリカの歴史・外交政策のコラムニストであるテッド・シュナイダー氏は、以前、アメリカ政府が政治的利己心から露ウ和平交渉に少なくとも3回干渉してきたとする記事を発表した。今年6月、プーチンは、モスクワに集まったアフリカの指導者らに、昨年トルコのイスタンブールで開催された第3回和平交渉でロシアとウクライナが合意した「合意文書」を示した。ウクライナの交渉担当者は合意文書に署名したが、その後はそれについて何も語らくなったという。プーチンの見解では、ウクライナの利益がアメリカの利益と「一致していない」場合、物事がどのような方向に進むかは「最終的にはアメリカの利益に依存する」とし、「これがアメリカ人にとって問題を解決する鍵である」と述べた。プーチンの言葉を裏付けるかのように、ドイツのシュレーダー元首相も数日前、ベルリン日報のインタビューで、「イスタンブール和平交渉中、アメリカが許可しなかったためウクライナが和平を受け入れなかった。そうでなければ露ウ紛争は2022年内に終わっていただろう」と認めた。ウクライナ側は昨年、シュレーダーに、「露ウの間の仲介をして、ロシアのプーチン大統領にメッセージを伝えてほしい」と依頼しており、「当時ウクライナはNATO加盟を断念する用意があったが、結局何も起こらなかった」という。「すべてはワシントンで決まるので、何も起こらないというのが私の印象だ」とシュレーダーは述べたとのこと。◆プーチンは習近平が提案した「和平案」なら飲む10月16日、プーチンは「一帯一路」フォーラムに参加するために北京を訪問する前に、中国メディア・グループの取材を受けた(※5)。インタビューは非常に長いのだが、終わりの方でプーチンは習近平が提案したウクライナ紛争に関する「和平案」に関して「私たちは中国の友人たちの提案を知っており、その提案を高く評価する。中国の提案は極めて現実的であり、和平協定の基礎を築くことができると思う」と答えている。中国の「和平案」の詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いているが、この流れの中で重要なのは「停戦ラインを明示していない」ということである。一方、ゼレンスキーもかつてウクライナ方式の「和平案」を出しているが、それは「クリミア半島をはじめドンバス地域など、2014年前までの全ての領土をウクライナに返還し、ロシア兵が完全に2014年前のウクライナ領土から撤退すること」という完璧な条件が付いている。ウクライナは欧米、特にアメリカの軍事をはじめとした全ての支援の下で、ようやく戦争が成立しているのであって、もし欧米がウクライナ支援を控えるようになったとしたら、その瞬間に「敗戦」してしまう。いまロシアの軍事力とウクライナの軍事力を、武器や兵士数などで比較したら、それは比較の対象にならないほど圧倒的にロシアが強い。欧米の支援なしには、ウクライナは戦うことができないのだ。となると、ウクライナは欧米が完全に支援をやめる前に和平協定を結ばなければならないということになる。しかしゼレンスキーがこだわる「領土の完全返還」は実現しない可能性が高いので、どのような停戦ラインを引こうとも、ウクライナの敗北に終わるのだ。つまり、全領土の内のどれが欠けても「敗戦」になってしまう。その点、中国の「和平案」には停戦ラインがないので、どこで停戦ラインを引こうと、中国の案が勝つことになる。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したように、習近平の外交戦略の哲理は「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)だ。習近平は軍隊を一歩も動かしていないのに、ウクライナ戦争においては習近平の「和平案」が採択されることになる可能性が高い。何と言ってもプーチンが納得しないことには協議は成り立たないので、その意味からもプーチンが礼賛している習近平の「和平案」に基づくしかないのだ。ガザ紛争においても大規模中東戦争へと拡大しないためにはイランを抑止できるか否かにかかっている。11月3日のコラム<ガザ危機「習近平仲介論」がアメリカで浮上>(※6)が現実性を帯びるか否かはさて置いたとしても、少なくともウクライナ戦争では習近平案で停戦協議が進められるのかもしれない。「停戦ラインもないのに」と嘲笑っていた人たちは、「兵不血刃」戦略を侮らない方がいいだろう。この論考はYahoo(※7)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=13619129376121626428&toc_style_id=feeds_default&share_to=qq&track_id=642ac4de-6836-4c1b-b7fe-813b3cd93780(※3)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?&item_id=14709215809403848174&toc_style_id=feeds_default&track_id=E1115230-49FE-4865-A441-6EF1CE1348FE_720957557374&share_to=wechat(※4)https://news.cri.cn/20231106/aacf7e94-852d-3385-9a9a-79907c54bf71.html(※5)https://germany.mid.ru/de/aktuelles/pressemitteilungen/interview_to_china_media_group/(※6)https://grici.or.jp/4766(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6330056c25605a3fa146a3c03045cae51c5b5f60 <CS> 2023/11/13 10:20 GRICI 中国メディア ゼレンスキーが「西側に裏切られた」と不満【中国問題グローバル研究所】 *10:35JST 中国メディア ゼレンスキーが「西側に裏切られた」と不満【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。10月30日に米「タイム」誌がゼレンスキー大統領とその周辺の関係者を追跡取材して「私のように我々の勝利を信じている者は誰もいない。一人もだ」(※2)という表紙の見出しでゼレンスキーの孤独と政権関係者のゼレンスキーへの不信を暴いた。それに関して中国メディアは大いに燃え上がったが、中でも中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の電子版が大きく取り上げているので、中国ネットにおける声も拾ってご紹介する。◆環球網がゼレンスキーの「西側に裏切られた」という不満を報道10月31日の環球時報の電子版「環球網」は<米メディア:ウクライナ大統領の側近が、ゼレンスキーが西側同盟国に裏切られたと感じていることを明らかにした>(※3)という見出しで、米「タイム」誌の衝撃的な単独取材を報道している。環球網がどの点に焦点を当てたかを見ることによって、この件に対する中国の視点が見えてくるので、環球網に書いてある内容のいくつかをピックアップしてみたい。・今年9月にゼレンスキーが訪米したが、それまでと違って、ワシントンはゼレンスキーを歓迎していなかった。ゼレンスキーの側近は訪米を取りやめた方が良いと忠告したが、彼は何としてもアメリカの支援をつなぎ留めておきたかったので、側近のアドバイスを聞かなかった。・しかし結果は惨憺たるもので、訪米後の「タイム」誌のインタビューで、「私ほど我々が勝利すると信じている者は誰もいない」と述べた。・6月で65%のアメリカ人がウクライナへの武器供与の拡大を望んでいたが、現在では41%しか望んでおらず、ウクライナ支援に対する急降下が歴然としている。「勝利は目の前に迫っている」とゼレンスキーは焦って宣伝しているが、そうではないことを世界は知るようになった。特にイスラエルとパレスチナの紛争が勃発すると、世界の注目はウクライナから中東に移っていった。・加えて、ウクライナ政権の内部腐敗には目に余るものがあり、支援をする西側の熱意を薄め、兵士の戦意を削(そ)いでいる。・ここのところウクライナ軍が戦場で挫折を経験しているにもかかわらず、ゼレンスキーは戦いを放棄するつもりも、いかなる形の平和を模索するつもりもない。それどころか、ウクライナが最終的にはロシアに勝利するという信念がさらに強まり、政権や軍部の認識と乖離している。・ガザでの問題が発生したとき、ゼレンスキーはイスラエルを支援するために同国を訪問する許可を要請したが、イスラエル政府は「まだ機は熟していない」と、歓迎しないことをほのめかした。つまり、拒絶したということだ。◆中国のネット上での声このテーマに関しては、非常に多くの中国のウェブサイトがさまざまな視点から記事を書きまくっているし、それに対するネットユーザーのコメントも数多く溢れている。それら複数のウェブサイトにおけるコメントや微博(ウェイボー)でのコメントなどを集めてみた。複雑なので、リンク先は省略する。・裏切りだって? アメリカは最初からウクライナを消耗品としてしか扱ってないんだよ。全てはゼレンスキーの希望的観測に過ぎない。・バイデンにとってウクライナはただのチェスの駒であり、チェスのゲームが終わろうとしており、チェスの駒の価値はなくなっただけさ。・ゼレンスキーよ、あなたのその頑固さが、ウクライナの国民の命をより多く奪っていることに気がついてください。・戦争が終わったら、ゼレンスキーは「英雄」から「罪人」になるかもしれない。最近では支持率が急落しているため、戦争が終わったら裁かれることを怖れて、何が何でも停戦してはならないと言っているのではないのか。平和交渉を叫んだ人は捕まってしまうようだ。・戦争の継続だけが自分の政治的立場を維持できることに気づいたんじゃないのか?・もうみんな、彼の「番組」を見るのにうんざりしているんだよ。脚本家も、もう脚本が書けなくなったんじゃないのかい?・大統領になる前にコメディアンなんかやってないで、三国志演義や孫子の兵法でも学んでいたら、こんな悲惨なことにはならなかっただろうね。・もしかしたら、欧米パパは、最初からあなたに勝たせようとは思っていなかったかもね。・ゼレンスキーは西側に裏切られ、イスラエルに拒絶され、世界から忘れ去られる。・そもそも威勢よく「イスラエル支持」を表明したけど、イスラエルがガザでやってることって、ロシアがウクライナでやってることよりも残酷じゃない?イスラエルの行動を支持するんなら、ロシアを非難できなくなるでしょ?そのダブルスタンダード、どうするんだい?おまけにイスラエルに「来るな」って言われて、メンツなくして「欧米に裏切られた」って、矛盾してるよね。・裏切られたんじゃなくって、捨てられたのさ。◆ウクライナはやがてバイデンを恨むようになるウクライナ戦争が始まった2ヵ月後の2022年4月16日に出版した拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』において、筆者は第五章で【バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛】という見出しで書いた。その章では、どれだけバイデンが卑怯な動きをしたかを、年表を作成して考察した。ウクライナ戦争が始まった翌日の2022年2月25日にもコラム<バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛>(※4)という同じ見出しで、一部だけ触れている。当時は、ゼレンスキーは英雄のように語られていたので、筆者はかなりバッシングを受けたが、今ならば、もしかしたら少なからぬ読者が共鳴して下さるかもしれない。あのとき、米「タイム」誌の単独取材が描いた世界と同じ視点を持つことができたのは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で年表を作成したからではないかと思う。ファクトを時系列的に分析していくと、必ずそこから、ある真実が浮かび上がってくる。理論物理の統計物理学で「時系列分析」というのがあるが、その手法を常に国際政治分析に関しても使うようにしている。予測が当たったのは、実は哀しいことだ。こんな哀れな現状に、私たちは直面しているのだから。ウクライナの国民は、やがてバイデンをそしてNATOをさえ恨むようになるかもしれない。この時系列分析に従えば、今年出版した本『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、アメリカが次に狙っているのは台湾だ。ウクライナに対してやってきたことと同じことをバイデンは今、台湾に対してやり始めている。まだ懲りないのか。参考までにBBCの<アメリカが静かに台湾を徹底武装させていく>(※5)を最後にご紹介したい。これに関しては追ってまた分析するつもりだ。ゼレンスキーの嘆きは他人(ひと)ごとではない。明日はわが身かと、日本人も心して考察すべきだろう。この論考はYahoo(※6)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://time.com/6329188/ukraine-volodymyr-zelensky-interview/(※3)https://m.huanqiu.com/article/4FABIj37Pun(※4)https://grici.or.jp/2927(※5)https://news.yahoo.co.jp/articles/b104390237ca6752b3249cf08b6f7cb4d454e4e2(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c4b67e042c4a62de8dfe4dcc523e344781977a1e <CS> 2023/11/10 10:35 GRICI 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:31JST 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆反腐敗運動はアメリカに潰されないための軍事力強化が目的2012年11月8日に、胡錦涛は第18回党大会の初日に中共中央総書記として最後の演説をし、「腐敗を撲滅しなければ、党が滅び、国が亡ぶ」と言った。党大会閉幕後の一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)で、中共中央総書記に選ばれた習近平は、胡錦涛と同じ言葉「腐敗を撲滅しなければ、党が滅び、国が亡ぶ」をくり返した。胡錦涛政権時代には、どんなに胡錦涛が腐敗撲滅を実行しようとしても、腐敗を蔓延させたのが江沢民自身なので、チャイナ・ナインの多数決議決で否決され、実行できなかった。その無念さを胡錦涛は習近平に託し、習近平はそれを受けて反腐敗運動に徹した。このとき胡錦涛は習近平にある交換条件を出している。もし反腐敗運動を徹底してくれるなら、チャイナ・セブンには習近平にとって運営しやすい人を選んでいいと言ったのだ。だからチャイナ・セブン内での権力闘争はない。ときは2012年。世界を見渡せば、2010年には中国のGDPは日本を抜いて、世界第二位に躍り出ている。何としても腐敗の巣窟となっている軍を近代化しなければアメリカに潰される。習近平が三期目を狙ったのは、「アメリカに潰されたくない」という強い思いと、トウ小平に復讐してやるという怨念があったからにちがいない。そのことは『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で詳述した。改革開放は、習近平の父・習仲勲が16年間の監獄生活から解放されて、執念のように深センで創り出した遺産である。だから2012年11月に中共中央総書記になると、習近平は真っ先に深センに行っている。今年三期目の中共中央総書記になったあとは、新チャイナ・セブンを引き連れて延安に行った。そこは習仲勲が1930年代に創り上げた革命根拠地で、長征の果てに行き場を無くした毛沢東を迎えた地だ。あのとき延安がなかったら中華人民共和国は誕生していない。習仲勲があの延安の革命根拠地を命懸けで作り上げていなかったら、中華人民共和国は存在していないのだ。そこに長年にわたる思いを込めて、父の仇を討ってやるという執念に燃えるのも、自然ではないだろうか。李克強の存在とは、いかなる関係もない。◆習近平のせいで李克強が「天下を取り損ねた」という事実はないたとえば10月28日の時事通信社は<天下取り損ねた政治スター 権力闘争敗北で影響力低下 李克強氏>(※2)というタイトルで報道し、冒頭に【中国の李克強前首相は、いずれ頂点に立つのではないかと注目を集めたことのある「政治スター」だった。運命を狂わせたのは習近平国家主席の政権運営で、習氏が権力を固めるのに伴い、李氏の影響力は失われていった。抜群の実務能力を発揮し、上からも下からも慕われたが、たった一つ、権力闘争だけは苦手だった。】と書いている。これもNHK同様に、事実歪曲というか、ほぼ「捏造に近い」と言っても過言ではない。日本全国、李克強を英雄視するのに余念がないが、李克強ほどガチガチの共産主義思想に燃えたエリートも少なかったというほど、彼は生粋の共産主義者。「李克強だったら、中国は中国共産党による一党支配体制をやめた」という勘違いを日本国民に植え付けるのは、一種の「罪悪だ」とさえ筆者の目には映る。その李克強の運命は2007年に「江沢民と胡錦涛との間の権力闘争」によって決まったのであり、その瞬間に「天下を取るのは習近平」と、江沢民一派が決定したのである。このたびの中共中央および国務院が出した李克強に関する2500字を超える訃報では「李克強同志は反腐敗運動に非常に積極的であった」と褒め称えている。拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』にしつこく書いたように、李克強が2023年3月の全人代で退任するのは、憲法に基づいた規則に従っただけのことだ。習近平が三期目に残るためには、国家主席に関して、あれだけ大騒動して憲法改正を行っているではないか。国務院総理に関して憲法改正を行っていない段階で、李克強が二期10年で国務院総理の座を去るのは当然のことで、失脚ではない。李克強はむしろ、実に立派に国務院総理の任務を成し終えたのだ。それを「失脚」とか「敗北者」のように位置付けるのは、李克強に対しても失礼であり、かえって彼の尊厳を傷つけることに気が付いているだろうか。習近平を貶(けな)すために李克強を利用するのは、死者に対する冒とくでさえある。このように、李克強の死は、天安門事件を招いた胡耀邦の死とは完全に異なる。但し、今年8月6日のコラム<中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移>(※3)に書いたように、「第二のCIA」と呼ばれているNEDは、ゼロコロナの時もネットを使って中国の若者に呼び掛け、「白紙運動」を実行させるのに成功している。この詳細は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いた。今回も、NEDがどれだけ巧妙に暗躍できるかは、中国のネット検閲との闘いとなるだろう。11月2日に李克強の火葬が執り行われ、半旗を掲げて弔意を表すことになっている。政治問題と関係なく弔意を表す人は当然数多くいるだろう。以上が客観的ファクトだ。あとは読者とともに推移を観察していきたいと思う。この論考はYahoo(※4)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.jiji.com/jc/article?k=2023102701075&g=int(※3)https://grici.or.jp/4509(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/831523dea8b81f88ae7248eff3c4e829c27aeb3b <CS> 2023/11/01 10:31 GRICI 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:29JST 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。李克強の死が、かつて天安門事件を招いた胡耀邦の死同様に、民主化運動につながるのではないかという憶測が日本では盛んに流れている。それを中国政府が恐れているという情報も、日本人の耳目には心地よいようだ。本稿では、「李克強の習近平に対する相対的な党内序列は如何にして形成されたのか」に注目して、自分自身で判断できるようにファクトを確認したいと思う。◆トウ小平が強引に失脚させた胡耀邦の死が招いた天安門事件1989年6月4日の天安門事件は、トウ小平が一存で失脚させた胡耀邦が心臓発作で死去したことをきっかけに起きた。トウ小平は1962年に、習近平の父・習仲勲を冤罪により失脚させ、16年間に及ぶ牢獄生活に追い込んだが、毛沢東死去後に毛沢東の遺言により中国のトップに立った華国鋒を、さまざまな陰謀をめぐらせて失脚させ、1982年に自分の言いなりになる胡耀邦を後釜(中共中央総書記)にすえた。習仲勲の冤罪も華国鋒の失脚も、陳雲という仲間とともに実行している(詳細は『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。しかし、自分が推薦した胡耀邦が気に入らなくなると、その後はほとんどトウ小平一人の一存で中国のトップを決め、1987年1月にお気に入りのはずだった胡耀邦を強引に失脚させた。その代りに別の自分の言いなりになる趙紫陽を、これも強引に(趙紫陽は同じ目に遭うので嫌がったが、それを無視して)総書記の座に据えた。ところが1989年4月15日に胡耀邦が心臓発作で死去すると、胡耀邦追悼と民主化を叫ぶ学生デモが激しくなり、6月4日の天安門事件へと発展した。趙紫陽の予想通り、今度は天安門事件における趙紫陽の態度が気に入らず、トウ小平は趙紫陽を失脚させて終身軟禁生活を送らせている。総書記がいなくなったので、これもほぼ一存で江沢民を総書記に据えた。◆トウ小平の一存で決めた胡錦涛政権に不満を持った江沢民実は「トウ小平の一存」は、それに留まらなかった。1989年に江沢民を中共中央総書記と中央軍事員会主席に指名したが、「国家主席」は国務院系列の規則に従わなければならない。すなわち全人代の規則に従うということになる。それには1993年まで待たなければならない。そこで、前年の1992年にトウ小平は、江沢民の次に国家のトップになる人物を、ほぼ「トウ小平個人の意思一つ」で決めてしまうのである。「江沢民の次は胡錦濤がやれ」、と、その次の国家の指導者を決めてしまったのだ。ここまで横暴な指導者は、中華人民共和国誕生以降、存在したことがない。これに比べれば、毛沢東は「遠慮深かった」とさえ言えるほどだ。ところが、天安門事件のお陰で、いきなり「中共中央総書記と中央軍事委員会と国家主席(1993年)」の身分を全てもらってしまった江沢民は、その味をしめてしまい、胡錦涛に政権を譲りたくなかった。軍を通した底なしの腐敗ネットワークを形成しているので、それを手放すのも怖い。そこで中央軍事委員会主席の座だけは譲らないとして、胡錦涛政権に入ってからも、2年間も軍のトップに立ち続ける。しかし、党内にさえ反対者が多く出てきたので、いやいやながら2005年になってようやく軍のトップから降りた。それでも腹が立ってならない。そこで何とか胡錦涛を政権トップから引きずり降ろそうと秘かに企み、上海市の書記を務めていた子飼いの陳良宇に指示してクーデターを起こそうとしていた。一方、胡錦涛は共青団でつながりのあった韓正に上海市副書記と市長を兼務するよう命じて監督させていたので、陳良宇を使った江沢民の企てが胡錦涛の耳に入ることに相成ったわけだ。そこで胡錦涛は2006年9月24日に陳良宇を汚職により逮捕してしまうのである。その時のスリリングな話の詳細は拙著『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』で書いた。胡錦涛としては一世一代の見事な素早さだったと言っていいだろう。折しも、2007の第17回党大会が開かれようとしていた。しばらくの間、韓正に上海市書記代理をさせていたが、韓正は1990年代初期に上海市共青団書記を務めていたために、胡錦濤系列とつながっている。江沢民としては面白くない。江沢民の大番頭として知られ、かつて1980年代初期に習近平から「兄貴」として慕われていた曽慶紅が仲介して、習近平を上海市の書記に迎えることになった。◆李克強と、習近平との序列を決定してしまった2007年党大会――胡錦涛政権における江沢民と胡錦涛との激しい権力闘争江沢民は2003年3月から始まる胡錦涛政権を、あくまでも自分の手中に掌握しておくために、2002年11月の第16回党大会で、中共中央政治局常務委員に数多くの江沢民派を送り込んだ。2007年に開催される第17回党大会においては、第16回党大会以上に、何が何でも胡錦涛を困らせてやるという強烈な執念に燃えていた。李克強は胡錦濤の愛弟子で、2007年前半までは次の中共中央総書記・国家主席になるだろうと目されていた。しかし自分の最も大切な駒であった陳良宇を逮捕された江沢民は、猛然と胡錦涛に対する復讐心を燃やすのである。そして次の駒として使ったのが習近平だ。10月29日のコラム<李克強は習近平のライバルではない>(※2)に書いたように、筆者は胡錦涛政権時代の中共中央政治局常務委員9人に「チャイナ・ナイン」という名前を付けたが、チャイナ・ナインのほとんどは江沢民派閥で構成されていたので、江沢民が推薦した者が次期チャイナ・ナインに入り、序列も江沢民の意見が圧倒的強さで通る。こうして2007年の第17回党大会では習近平が党内序列6位で入り、李克強は第7位で滑り込むことになった。この瞬間に、こんにちの全てが決まったと言っても過言ではない。そして翌2008年3月の全人代で習近平が国家副主席、李克強が国務院副総理となったわけだ。胡錦涛政権はこのように激しい「権力闘争」に明け暮れた10年だった。だから『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』では、その権力闘争の実態を執拗に追跡したが、習近平政権ではまったく事情が異なる。中華人民共和国誕生以来、胡錦涛と習近平ほど、スムーズに政権をバトンタッチしたことはなかったと断言してもいいほど、二人のバトンタッチは友好的だった。「李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo(※3)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4748(※3)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/831523dea8b81f88ae7248eff3c4e829c27aeb3b <CS> 2023/11/01 10:29 GRICI 中国:米国のイスラエル地上侵攻延期案は中東米軍基地の配備を完成させるための時間稼ぎ【中国問題グローバル研究所】 *10:25JST 中国:米国のイスラエル地上侵攻延期案は中東米軍基地の配備を完成させるための時間稼ぎ【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。「中国:米国の国連安保理で25日、イスラエルのガザ地区への地上侵攻に対して米国が「停戦」ではなく「一時中断」という案を提唱し否決されたことを、日本では米国が「人道的見地から」提案したと報じている。それに対して中国では米国案を「ただ単に中東における米国の軍事配備を完成するまでの時間稼ぎに過ぎない」という解説が飛び交っている。皮肉なことに、その視点の発信源は米国のウォール・ストリート・ジャーナル報道だ。◆米国「人道的中断」案の偽善性をあばく中国の中央テレビ局CCTV10月25日から26日にかけて、中国共産党管轄のテレビ局である中央テレビ局CCTVは、盛んに国連安保理における米国の「一時中断案」の偽善性を取り上げた。米国は「人道的中断」という言葉で粉飾しているが、真相はあくまでも「中東諸国における米軍基地の配備を完成するための時間稼ぎに過ぎない」として米国のウォール・ストリート・ジャーナルやイスラエルのTIMES OF ISRAEL(タイムズ・オブ・イスラエル)などの報道に基づき、いくつもの番組で取り上げている。それらをまとめて文字化した<パレスチナ・イスラエル衝突の死亡者は8000人以上 イスラエルが地上侵攻を遅らせているのは米国の(中東における)防衛システム完備を待っているため>(※2)というCCTVのネット報道があるので、それに基づいて中国の見方をご紹介したい。概要だけを抽出して以下に記す。・25日のパレスチナ側の発表によると「ガザ地区で6,547人、ヨルダン川西岸で104人を含む6,651人のパレスチナ人が死亡した」とのことで、国連児童基金は24日、「ガザ地区で2,360人の子どもが殺害され、5,364人の子どもが負傷した」と発表した。・タイムズ・オブ・イスラエルによると、25日夜、ガザ地区からイスラエル中部に向けて複数のロケット弾が発射され、4人が軽傷を負った。・ウォール・ストリート・ジャーナルは25日、米国とイスラエル当局者の話として、「米国がミサイル防衛システムを配備し、中東諸国における米国基地を守るための準備に十分な時間を確保するため、ガザ地区への地上攻撃を一時的に延期する」という米国の要請にイスラエルが同意したと報じた。早ければ今週後半にもこの地域への米国のミサイル防衛システムを整備する見通しだ。・イスラエルのネタニヤフ首相は25日、国民向けのテレビ演説で、「イスラエル軍がガザ地区を攻撃する地上作戦の準備を進めている」、「イスラエルにはハマスの壊滅と人質の救出の2つの目標がある」と述べた。・燃料不足は依然として続き、ガザでは7,000人以上の患者が燃料不足のため死の危険にさらされている。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は「時間がなくなりつつあり、早急に燃料が必要だ」と述べ、世界保健機関は、ガザ地区の6つの病院が燃料不足のため閉鎖されたと発表した。しかしイスラエルは、ハマスに燃料が渡ることを警戒し、ガザ地区への燃料の流入は決して許さないと強調している。◆米国のオリジナル情報で、中国報道の真偽を確認中国での報道が正しいか否かを確認するために、CCTVが取り上げている米国のオリジナル情報を探してみたところ、まちがいなくCCTV報道にある情報源を見つけることができた。たしかに10月25日のウォール・ストリート・ジャーナルには<Israel Agrees to U.S. Request to Delay Invasion of Gaza(イスラエルはガザ侵攻を遅らせるという米国の要求に同意)>(※3)という見出しの報道がある。サブタイトルには「米国防総省(ペンタゴン)は、この地域に12近くの防空システムを配備することを急いでいる」と書いている。この報道によると米国防総省は、パレスチナやその周辺組織による攻撃から米軍基地を守るために、イラク、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦に駐在する米軍を含む、これらの地域における12の防空システムを配備することを急いでいるとのこと。同報道が引用している同紙の別の情報<Israel-Hamas War Updates: Israel Reports Failed Incursion Near Gaza Following Hostage Release(イスラエルとハマスの戦争の最新情報:イスラエルは人質の解放に続いてガザ近くの侵入に失敗したと報告)>(※4)によれば、米国は、イスラエルのガザへの地上侵攻に先立ち、中東の国々に12近くの防空システムを配備し、イラク、シリア、湾岸にミサイル発射装置を配備するためにスクランブルをかけているとのこと。米国防総省は、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)をサウジアラビアに送り、パトリオット地対空ミサイルシステムをクウェート、ヨルダン、イラク、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦に送っていると具体的に説明している。イスラエルによるガザ地区への地上攻撃が始まったら、これらの国にある米軍基地への反撃が強まるだろうと米国が警戒しているそうだ。一方、TIMES OF ISRAELは、<Biden urges Israel to delay Gaza offensive until Hamas releases more hostages(バイデンは、ハマスがより多くの人質を解放するまでガザ攻撃を遅らせるようにイスラエルに迫った)>(※5)という、イスラエル向けのバイデンの説得を報道している。◆日本では米国の「人道的中断」を強調し「戦争準備」を希薄化日本では、たとえば10月26日の産経新聞の<安保理、ガザ戦闘「人道的中断」を否決 露中が拒否権>(※6)のように、アメリカがあくまでも「人道的中断」を求めているのに、(非人道的な)ロシアと中国が「停戦」を求めて拒否権を発動したというトーンの報道が多い。NHKのニュースでも、相当長い時間を使って、「ガザ地区への地上攻撃に対する米国の主張のトーンが変わってきた」として国連での採決の様子やその背景を詳細に報道していたが、最後にほんの一瞬だけ(10秒間ほど?)、米軍基地の備えを整えていることに関して「遠慮深げに」言及しただけだったように思う。それに比べてロイター(日本語版)は<イスラエル、米のガザ侵攻延期要請に同意>(※7)で、「イスラエルはパレスチナ自治区ガザへの侵攻を当面延期する一方、米国が同地域のミサイル防衛を急ぐことで合意した」と、ウォール・ストリート・ジャーナルの25日の報道を報じている。また、26日の時事通信社も<ガザ地上侵攻延期に同意か 米要請受けイスラエル 報道>(※8)という見出しで、ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた「ガザ侵攻延期要請の米国の真の目的」を報道している。しかし日本の他の大手メディアが、この真相を大きく取り上げることはあまり見かけない。中露が非人道的で米国は人道的という思考が刷り込まれているからだろう。実際は、第二次世界大戦後に起きたほとんどの戦争は、米国が起こしたものか米国がしかけたものだ。それは拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に掲載した【図表6-2 朝鮮戦争以降にアメリカが起こした戦争】(p.234-235)や【図表6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】(p.253-255)をご覧いただければ一目瞭然ではないかと思う。それを理解しない限り、日本はやがてアメリカが誘い込む台湾有事に巻き込まれて多くの命を再び失うことになるだろう。そのことを憂う。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://content-static.cctvnews.cctv.com/snow-book/index.html?item_id=16811225751511572201&t=1698274039259&channelId=1119&toc_style_id=feeds_default&share_to=copy_url&track_id=36e804ca-4e6b-40d6-a6a2-b9962874361a(※3)https://www.wsj.com/world/middle-east/israel-battles-on-multiple-fronts-as-conflict-risks-spreading-a5e537ec(※4)https://www.wsj.com/livecoverage/israel-hamas-war-news-gaza-palestinians/card/u-s-sends-air-defense-systems-to-gulf-countries-O11ZyqKBZhIjSprR7WoN(※5)https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/biden-urges-israel-to-delay-gaza-offensive-to-allow-for-talks-on-release-of-hostages/(※6)https://www.sankei.com/article/20231026-YQ6RSBT7JRJSLGMTCCHS4MTM5A/(※7)https://jp.reuters.com/world/us/ZJLMSP7EXZN6ZJKHXMGM3BZ434-2023-10-25/(※8)https://news.yahoo.co.jp/articles/966a779929e3aec512efc10da80d268cf6c637b8(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/452fd0f9430592b2d8c8b000ced2fd6c55e456e0 <CS> 2023/10/30 10:25 GRICI 習近平・プーチン「にんまり」か? 「一帯一路」フォーラムと中東におけるバイデンの失点【中国問題グローバル研究所】 *10:21JST 習近平・プーチン「にんまり」か? 「一帯一路」フォーラムと中東におけるバイデンの失点【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。10月18日、北京で第3回「一帯一路」国際協力サミット・フォーラム開幕式が開催された。習近平国家主席の基調講演の次に、プーチン大統領が壇上に立ってスピーチをしたのは、習近平がいかにプーチンに重きを置いているかを国際社会に明らかにするのに十分な効果を上げたにちがいない。その後、習近平とプーチンは単独会談も含めて3時間ほど話し合っているが、何しろこの日はバイデン大統領が今から戦争を始めようとしているイスラエルを訪問しただけでなく、本来開催することになっていた中東諸国との会談を中東側に断られている。17日にガザ地区の病院が爆破されたことが原因だ。ガザ地区のあまりの惨状がウクライナ戦争の存在を霞めさせ、プーチンに「漁夫の利」をもたらしているように見える。フォーラムに参加したのは151ヵ国と41の国際組織の代表で、1万人を超える人々が登録した(※2)が、日本のメディアは西側先進諸国の出席が少なかったと嘲笑うがごとく報道している。しかし習近平からしてみれば、これはすなわちグローバルサウスを中心とした発展途上国が、アメリカから制裁を受けて抗議を共有している中露両国を支持しているということになる。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いた、グローバルサウスを中心として習近平が築こうとしている世界新秩序が、フォーラム会場で実現しているかのようだ。アメリカ国内における大統領選のためにイスラエルを支持したために中東紛争を招き、バイデンが自ら中東で失点を招いているのだから、米中覇権競争という意味では、習近平としても「悪くない」ことになるのかもしれない。◆開幕式でスピーチした国から見える現実とグテーレス国連事務総長の怒り開幕式の司会を務めたのは、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で注目した新チャイナ・セブンの一人である丁薛祥(てい・せつしょう)だ。彼は2015年に発表された「中国製造2025」の提案者の一人で、GDPの「量から質への転換」という新常態(ニューノーマル)提唱者の一人でもあった。どうりで、今般の習近平の基調演説のテーマも、「一帯一路」活動方向性の「量から質への転換」で、これまでのような巨額のインフラ投資からAIをはじめデジタル経済への投資と共同繫栄を目指していくとのこと。開幕式で挨拶をした国と人物の布陣を見ると、「一帯一路」フォーラムが目指している姿が見えてくる。中国の中央テレビ局CCTVには数えきれないほどの報道があるが、いずれも中国が言いたいところだけを切り取っており、またアクセス数が多いためか映像が途切れ途切れになるので、開幕式を最初から最後までフルコースで紹介しているユーチューブがあるのでそれをご紹介したい。欧華傳媒による現場中継<第三回“一帯一路”国際協力サミット・フォーラム開幕式>(※3)だ。こんな凄いことをしてくれた欧華傳媒のスタッフの方々には心からの敬意を表したい。このユーチューブで、全てがわかるからだ。最初の習近平の基調講演は約30分間で、次のプーチンのスピーチは約12分間だった。習近平が壇上に上がると、それまで開幕を待っていたこともあるだろうし、また今回のフォーラムの主催者でもあるので、割れるような拍手で迎えられたことは言うまでもないだろう。しかし、参加者の目つき、顔の持ち上げ方などから見ると、習近平の時より、むしろプーチンが話し始めた時の方が、緊張感というか興味というか、注目度が高かったように見える。たとえ中東情勢でウクライナ問題が霞むという状況がなかったとしても、プーチンはお構いなしに堂々としていたかもしれないが、まあ、喋り方の勢いの良いこと。立て板に水と言わんばかりの早口で、ほとんど原稿にも目を落とさず、喋りまくった。参加者が前のめりになって真剣に聞いている様子が伝わってくる。3番目に壇上に立ったのはカザフスタン(中央アジア)のトカエフ大統領だ。なんと、中国語で話し始めた!最初の一言だけかと思ったら、そうではない。なかなかに流ちょうな中国語だ。まだソ連時代だった1970年にモスクワ国際大学に入学して北京にあるソ連大使館で実習しただけでなく、1983年からは北京語言大学で中国語を学んでいる。まさに中国痛で、習近平とは仲良しだ。4番目にはインドネシアのジョコ大統領が、5番目には南米アルゼンチンのフェルナンデス大統領が、6番目にはアフリカ大陸エチオピアのアヴィ首相がスピーチをした。ロシア、中央アジアのほかに、まさにグローバルサウスを満遍なく取り込んでいる布陣が、この講演者からも窺(うかが)えるだろう。そして最後に登場したのが国連のグテーレス事務総長である。グテーレスはポルトガル人で1999年には首相としてマカオの中国返還に携わっている。そのような関係から中国とは仲良く、潘基文(パンギムン)事務総長辞任に当たり、グテーレスを国連事務総長に強く推薦しバックアップしたのは中国だった。当然、熱烈な親中派なので、習近平の「一帯一路」に関する功績を褒めちぎり、最後に国連事務総長としてひとこと言わせてほしいとした上で、ガザ地区での非人道的な惨状に関して憤りを露わにした。「即時停戦」を求めると同時に、「このフォーラムの精神が、平和を必要とする人々の助けとなりますように」という言葉で結んだ。すなわち、この「一帯一路」フォーラムに集まっている人たちは「即時停戦」を求める陣営であることを示唆している。奇しくも翌日、国連でブラジルが提案した即時停戦案に対して、唯一アメリカだけが拒否権を使い「停戦を阻止した」のは、あまりに象徴的だと言わねばなるまい。◆3時間にも及んだ習近平・プーチン会談この会談に関しても数多くの報道があり、中にはアクセス状態が悪かったり、習近平の発言だけで終ったりしているものがあったりと、適切なのを見つけるのに手間取ったが、CCTVのこの番組(※4)は一応安定しているし、双方の言葉を聞き取ることもできるので、こちらをご紹介したいと思う。習近平はプーチンに対して「老朋友(昔からの友人)」と呼びかけ、プーチンは習近平に対して「親愛なる友人」と応じている様子を確認することができる。何を話したかはあまり重要ではなく、そのときの互いの表情や言葉のトーンで関係を知ることができる。どっちみち、公開できる場面だけしか報道しないので、会談の長さも「親密度」や「重視度」を推し量るパラメータの一つとなる。その点から言うと、習近平は17日から19日にかけて数十ヵ国の代表と対談しているので、各国30分程度と限られているのだが、プーチンだけは通訳を交えるだけの「テタテ」と呼ばれる「秘密会談」も含めて「3時間」に及んだと、プーチンが釣魚台国賓館の庭における記者会見で自慢げにばらしている。たとえば10月18日のフランスのメディアRFI中文は<プーチンは北京における記者会見で習近平との会談を紹介した>(※5)という見出しで報道しており、その3時間の中には、実は茶話会のような形での「テタテ」もあった(※6)とのことだ。その意味では、やはりプーチンだけは特別扱いだったのは確かだったにちがいない。さて、茶話会でのお茶の味は「にんまり」としていたのだろうか?少なくとも、西側先進諸国に対する優越感から抜け出せない日本人の多くには、この「にんまり」の味はわからないかもしれない。その驕り高ぶった視点が、国際社会を見る目を曇らせ、アメリカが導く次の戦争へと日本を誘っていくことを憂う。この論考はYahoo(※7)から転載しました。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202310/t20231019_11163476.shtml(※3)https://www.youtube.com/watch?v=ePJvSbbg4N0(※4)https://news.cctv.com/2023/10/18/VIDEfxWJ1jaskSWx5vIE97CH231018.shtml(※5)https://www.rfi.fr/cn/%E4%B8%AD%E5%9B%BD/20231018-%E6%99%AE%E4%BA%AC%E5%9C%A8%E5%8C%97%E4%BA%AC%E7%AD%94%E8%AE%B0%E8%80%85%E9%97%AE%EF%BC%8C%E4%BB%8B%E7%BB%8D%E4%B8%8E%E4%B9%A0%E8%BF%91%E5%B9%B3%E7%9A%84%E4%BC%9A%E8%B0%88(※6)https://sputniknews.cn/20231018/1054210493.html(※7)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b876337f3d97672ef3d0bf1a9a8ba3e2cc91f24d <CS> 2023/10/23 10:21 GRICI なぜイスラエルならジェノサイドが正義になるのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:30JST なぜイスラエルならジェノサイドが正義になるのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。1947年、国連は「パレスチナの地」を(ユダヤ教の)イスラエルと(イスラム教の)パレスチナで二分するとしながら、そこにいた多くのパレスチナ人を故郷から追い出したままこんにちに至っている。不平等にも、建国することを認められなかったパレスチナ自治区の一部であるガザ地区はいま、イスラエルによって壁で包囲され水道もガスも電気も断たれた状態でイスラエルからの陸海空による全面攻撃を受けようとしている。ガザ地区のハマスによるイスラエル奇襲は許されないにせよ、壁によって封鎖された220万人ほどの一般市民が虐殺されることになる。これは同じく1947年に長春で中国共産党によって食糧封鎖され餓死体の上で野宿した経験を想起させる。中国共産党のこの凄惨さを問い続けるために執筆に命をかけてきた筆者だが、イスラエルによる虐殺ならば「正義」なのか――?それはジェノサイド以外の何ものでもなく、ナチスがユダヤ人をガス室に追い込んだ行為と、どこが違うのか――?◆なぜパレスチナに対する約束は破っていいのか?1945年10月に設立された国連(国際連合)は中国語で「聯合国」と呼ばれている通り、第二次世界大戦で勝利した「連合国側」が中心になって設立されている。敵側はもちろん敗戦国である日本・ドイツ・イタリア(日独伊三国同盟)。したがってナチス・ドイツによって非人道的な虐待を受けたユダヤ人への同情が強かったことも影響して、1947年の国連総会で、「パレスチナの地」と呼ばれてきた地中海の東海岸の「地域」をユダヤ人とアラブ人に二分する「パレスチナ分割案」が決議された。このとき、「パレスチナの地」に住んでいた住民の3分の1ほどがユダヤ人だったのに、土地の半分以上がユダヤ人に与えられることになり、ユダヤ人は1948年5月14日に「イスラエル」という国家を建設し、国連加盟まで果たした。パレスチナの地にいたパレスチナ人などのアラブ人は何百年にもわたって住み慣れてきた「故郷」を追われ、行き場を失った。そのためイスラエルが独立宣言をした翌日の1948年5月15日に周辺のアラブ諸国から成るアラブ連盟はイスラエルの建国を認めず、一斉にイスラエル領内に侵攻してパレスチナ戦争(第1次中東戦争)が勃発した。以降、こんにちまで何度か中東戦争が展開されているが、そのたびにイスラエルはアメリカの支援を得て強大化する一方、パレスチナは「国家」として認められていない状況が続いている。2007年以降は、現在のガザ地区を、徹底した抵抗運動を続けるイスラム組織「ハマス」が支配するようになった。このガザ地区には220万人ほどのパレスチナ人が生活しているが、イスラエルはガザ地区の周りに高い壁を築き(中には壁の高さ8メートル)、完全封鎖をしている。そのガザ地区を陸海空から徹底攻撃すれば壁の中にいる人たちは、ほぼ全員命を失うだろう。イスラエルのネタニヤフ首相は事実「ハマスを全滅させるのだ!」と宣告している。大爆撃を行うので、被害に遭いたくないと思う一般市民は24時間以内にガザの南部に集結しろという警告を発した。その期限が日本時間10月14日の午後10時だった。しかしイスラエルは10月7日にはガザ地区の電力を遮断する命令を発し(※2)、9日には遮断してしまった(※3)ようだ。そしてガザ地区にはもう「電気も食料も水もガスも全てない!」と、イスラエルは宣言している。実際、11日にはガザ地区唯一の発電所の燃料が底をついたので、11日から電気が完全になくなっている。病院には電力なしには生きていけない人もいるだろうし、水がなければどこにいようと死んでしまう。電気通信という手段も絶たれているので、一般市民は避難警告を知る手段さえない。そこでイスラエルは「天井のない監獄」に向かって、飛行機から紙の「ビラ」をばら撒いたのである。その光景は、1947年の食糧封鎖された長春を思い起こさせた。◆長春の食糧封鎖「チャーズ(卡子)」1947年晩秋、日本人の最後の引き揚げが終わると、長春の街の電気が一斉に消え、ガスも水道も止まった。中国共産党軍が長春を食糧封鎖し始めたのだ。このとき長春は国民党軍が管轄していた。カイロ宣言により、日本が奪った土地は全て「中華民国」に返還するということが謳われたため、国民党軍を率いる蒋介石は、「中華民国の主権は誰の手の中にあるか」を国際社会に知らせるために、かつての「満州国」の国都であった「新京(長春)」を敢えて選んで、そこに国民党軍の拠点の一つを置いたのである。一方、中国共産党軍を率いる毛沢東には武器がない。そこで長春を街ごと鉄条網で包囲し、食糧封鎖によってじわじわと長春市民と国民党軍兵士を締め上げていったのだ。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※4)で詳述したように、毛沢東の哲理は荀子(じゅんし)の教えである「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)である。武器を使わず、餓死によって国民党軍を降参させようという作戦だ。長春の冬は寒く、当時はマイナス38度まで下がったことがある。餓死だけでなく凍死者も急増し、行き倒れの死体を犬が食べ、その犬を人間が殺して食べる。満州国時代に中国人だけが住んでいた地区には、「人肉市場」が立ったという噂が流れた。そんな長春にも春が来る。陽の光を浴びて芽吹いてきた街路樹の若葉や雑草を誰もが争って摘んで食べた。どんなに共産党軍が鉄条網で街を包囲しようとも、天から降り注ぐ陽の光までは遮れまい。拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※5)に、その切ない思いを綴った。しかし今ガザでは、その空から降り注いでくるのは「陽の光」ではなく「爆弾」なのだ。おまけに避難経路に指定したルートを一般市民が避難しているのに、その避難経路に空爆したという話もある(※6)。その真偽は別としても、これは「チャーズ」以上のジェノサイドではないだろうか。なぜイスラエルなら、ジェノサイドが「正義」になるのか――?アメリカは徹底してイスラエルを軍事的に支援すると宣言している。なぜか――?◆在米ユダヤ人が米大統領選を左右するそれは、在米ユダヤ人がアメリカにおける大統領選を左右するからである。アメリカの総人口は現在約3.3億人のようだが、そのうちユダヤ人は2021年統計で750万人ほどいるようだ(※7)。おまけにユダヤ人は金融界を牛耳っている。政治資金の多寡で当落が決まると言ってもいいような大統領選では、大富豪のユダヤ人を味方に付けなくてはならない。イスラエルの味方をしないと、アメリカでは大統領選に勝てないのである。中国発の情報なので、少し割引しないとならないかもしれないが、それでも一応参考までに記すと、2020年11月9日の中国の国営テレビ局CCTVは<アメリカ大統領選におけるイスラエル要因:3%のユダヤ人がアメリカの富の70%を支配している?>(※8)という番組を放送したことがある。実際、Forbsによる2022年<世界のユダヤ人億万長者ランキング>(※9)を見ると、1位から7位までのユダヤ人は、みなアメリカ籍であることがわかる。世界の戦争はこうして起こされているのであり、アメリカが関係する人権蹂躙やジェノサイドは「正義」になるのである。これがやがて台湾有事に向けられ、日本人の命はアメリカ一極支配維持のために、駒として消耗されていく。そのことはしつこいほど『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※10)で強調した。習近平の哲理も毛沢東と同じく「兵不血刃」だが、アメリカの制裁がこれ以上強化されれば、限界が来るだろう。だと言うのに、「アメリカ脳」化された日本人は、自ら台湾有事を招こうと、そのシミュレーションに邁進し、戦争が起きること自体を防ぐ方法、その論理を考えようとしない。アメリカは今、中東でも戦争の種を撒き散らしながら、他のアラブ諸国が反イスラエルで結束しないように「抑止力」として空母を地中海に配備している。戦争を起こし続け憎しみの連鎖で地球を覆っていくのがアメリカのやり方だ。それも自国の戦争ビジネスと大統領選のためなのである。違うと思うなら、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※11)の第六章に掲載した、アメリカが起こしてきた膨大な戦争のリストを確認して欲しい。近い将来に日本にもやってくる恐るべき現実を見抜くためにも、「イスラエルのジェノサイドならば正義となる」論理を直視しなければならない。餓死体の上で野宿させられた者として、命の許す限り訴え続けていきたい。この論考はYahoo(※12)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/israel-cuts-electricity-supply-to-gaza/(※3)https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/israel-cuts-electricity-supply-to-gaza/(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※6)https://news.yahoo.co.jp/articles/1c8afc6af916c67ac1c05c923e166490fa154ebc(※7)https://www.pewresearch.org/religion/2021/05/11/the-size-of-the-u-s-jewish-population/(※8)https://v.cctv.com/2020/11/09/VIDEnGdNc9RzHWv9LsG9YjqZ201109.shtml(※9)https://forbes.co.il/e/rankings/2022-jewish-billionaires/(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※11)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d7efccc0b63369a695f25c724d930a474b021c33 <CS> 2023/10/17 10:30 GRICI 中国 米メディアの「ウクライナ武器のハマスへの転売」に注目【中国問題グローバル研究所】 *10:28JST 中国 米メディアの「ウクライナ武器のハマスへの転売」に注目【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国政府の通信社電子版「新華網」は、盛んに米メディア由来の「アメリカがウクライナに渡した武器の一部がハマスに渡っているのではないか」という報道を分析している。そこにはアメリカから常に「中国が秘かにロシアに武器支援をしているのではないか」という疑いをかけられてきたことに対する皮肉が込められているのかもしれない。◆新華網 「ウクライナは対ウ支援武器をハマスに転売か?」10月11日の新華網は<「対ウクライナ支援武器をハマスに転売か?」に対するウクライナの回答は、欧米側の懸念を証拠づけている>(※2)という見出しで、ウクライナ支援のために欧米から送られた武器が、結局はハマスなどに渡っていることを、皮肉を込めて報道している。それ以外にも中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」やその他数多くの政府系メディアの報道をまとめると、おおむね以下のような流れになる。・10月8日、米下院議員(共和党)のMarjorie Taylor Greene氏がX(ツイッター)に投稿した(※3)。曰(いわ)く、「私たちはイスラエルと協力して、ハマスがイスラエルに対して使用したすべてのアメリカ製兵器のシリアル番号を追跡する必要がある。それらの武器はアフガニスタンから来たのか?それともウクライナから来たのか?答えは両方である可能性が高い」と。・ウクライナ支援のために欧米から送られた武器の一部は、ハマスなど世界各地のテロ組織に転売されているのではないかという問題に関して、2022年12月7日にアメリカのThe Hill(ザ・ヒル)(ワシントンにあるアメリカの政治専門紙)が<Preventing US weapons from escaping Ukraine is a challenge(アメリカの武器がウクライナから流出するのを防ぐのが課題だ)>(※4)という見出しの報道をした。ウクライナが武器の転売をしていることは早くから知られている。・Greene氏のX(ツイッター)に対して、ウクライナ国防情報局は公告で10月9日に、この噂を厳しく非難した(中国の報道にはオリジナル情報へのリンクがないので、筆者が別途ウクライナ国防情報局の公告<Russia’s Special Services Carrying Out Campaign to Discredit Ukraine in the Middle East(中東でウクライナの信用を傷つけるキャンペーンを実施するロシアの特別サービス)>(※5)を見つけたので、ここに貼り付ける)。しかし残念ながら、ウクライナ側の弁明は、むしろ中東における武器の由来に関して、ウクライナが関与していることを逆に裏付けるような内容になっている(と中国側は解説している)。というのは、「絶対にウクライナからの転売などあり得ない!」と明確に否定せずに、「これはロシアが、ウクライナ戦争においてウクライナから獲得した戦利品を、ハマスに渡した可能性がある」と弁明しているからだ。万一、アメリカがイスラエル攻撃に使われたハマスの武器のシリアル番号を調べて、それが、アメリカがウクライナに提供した武器であることが判明したときに「それはロシアのせいだ」と弁明できる準備をしているからだ(というのが、中国側の解釈である)。・また、ウクライナ側は「ロシアが、ウクライナが欧米からの支援によって提供された武器を、テロ組織に転売しているというフェイクニュースを流すことによって、欧米がウクライナに武器支援をしなくなるようにするためのロシアの情報戦に過ぎない」と主張してきたが、実は転売の可能性を最初に言い出したのはアメリカだ(と、中国側は主張している)。(中国の報道の概略は、おおむね以上)◆最初にウクライナの武器転売を言い出したのはアメリカたしかに中国が主張する通り、「欧米から提供された武器をウクライナが他の組織あるいは国に転売する危険性がある」という趣旨の警告を発したのはアメリカだ。ワシントンにあるケイト―研究所(CATO Institute)は、早くも2022年3月1日に、<Sending Weapons to Ukraine Could Have Unintended Consequences(ウクライナに武器を送ることは、意図しない結果をもたらす可能性がある)>(※6)という見出しで、「ウクライナに、より多くのアメリカ製武器を提供することは、違法な武器密売の急増を引き起こす可能性がある」を副題とした論考を発表している(作者はジョルダン・コーエン)。論考の中でコーエンは、「ウクライナ戦争が始まる前から、バイデン政権は、あたかもアメリカが関係していないように装う支援行動設計に基づき、ウクライナにさまざまな形での資金調達や武装訓練を提供する以外に、数多くの武器を提供していた。しかしウクライナにはこれまで、武器を闇市(やみいち)に流す習慣があるので、今回のウクライナに対する武器支援も転売されていく可能性が高い」と分析している。2022年12月になると、世界のいたるところでウクライナの武器横流しへの疑念が報道されるようになり、日本の時事通信も12月20日の記事<国際支援の陰で汚職懸念 武器流用や着服の疑いも―有識者ら「監察機関設置を」・ウクライナ>(※7)でウクライナの武器の転売・横流しの可能性を報じている。事実、ウクライナのレズニコフ国防相が腐敗で9月3日に更迭されており(※8)、後任に「国有財産基金」のトップ、ウメロフ氏を就任させることになったようだが、「国有財産基金」って、腐敗のど真ん中ではないかと、ややたじろぐ。また10月11日には<10億円横領容疑、国防省高官2人拘束 ウクライナ>(※9)というニュースが世界のあちこちで報道されているので、ハマスへの武器転売に関するウクライナ国防情報局公告の信用性もガタ落ちではないだろうか。◆ウクライナの「腐敗度」ランキング前掲の時事通信社の記事<国際支援の陰で汚職懸念 武器流用や着服の疑いも―有識者ら「監察機関設置を」・ウクライナ>(※10)では、【2021年の汚職レベル調査で、ウクライナの「清潔度」は180ヵ国中122位。同国政府は14年以降、汚職撲滅に向け専門捜査機関設置などの対策を進めてきたが、「根絶への道のりは長い」(カリテンコ氏)のが現状だ】と書いている。そこでトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が公開している腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index, CPI)の2022年版(※11)を見てみると、全180ヵ国の中で、ウクライナは116位(100点満点で33点)と、相変わらず「腐敗度」が高い。ちなみに中国は45点で65位、日本は73点で18位だ。もし習近平政権に入ってからの反腐敗運動がなかったら、中国もウクライナと大差ない状況だっただろうが、中国の場合は軍部が腐敗の巣窟になっていたので、習近平としては何としても軍事力を高め産業のハイテク化を進めるために反腐敗運動を強行したが、それがいくらか功を奏しているのだろう。それでもなお、ウクライナ同様、中国人民解放軍ロケット軍の高官2人が腐敗で更迭されたし、国防部長(国防大臣)も、そのあおりを受けた腐敗なのか、消息不明のままだ。香港メディアがロケット軍高官2人の腐敗疑惑に関して報じているが(※12)、中国大陸では、更迭された方の高官に関しては全く触れず、その代わりに昇進した別の2人に関して報道した(※13)のみである。まだ罪状が確定していないためとは思うが、それにしても何とも中国的なやり方だ。したがって、このような中国にはウクライナの武器転売を、こんなにまで大きく取り上げて分析する資格はないようにも思われるのだが、しかし、アメリカに対して「ハマスが大規模奇襲を実行できたのは、アメリカのせいだ!」と言いたいものと推測される。ところで、中国が取り上げたことによって、より鮮明になったウクライナの腐敗問題を、日本はどう受け止め、どう対処するのかということも考えなければなるまい。日本にはまだ貧乏であるがゆえに自殺する人もいれば犯罪に走る人もいる。そのような日本国民の血税が、総額で76億ドル(約1兆400億円)もウクライナ支援に使われているようだ(※14)。日本国民には、そのお金がウクライナの特定の人を潤しているのではないか、あるいはテロ組織に流れてはいないかなど追跡する権利があるだろう。それくらいの「真の善意」はあってもいいのではないかと思う。この論考はYahoo(※15)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/mil/2023-10/11/c_1212287124.htm(※3)https://twitter.com/RepMTG/status/1710990380336885825(※4)https://thehill.com/opinion/congress-blog/3766309-preventing-us-weapons-from-escaping-ukraine-is-a-challenge/(※5)https://gur.gov.ua/en/content/spetssluzhby-rosii-provodiat-kampaniiu-z-dyskredytatsii-ukrainy-na-blyzkomu-skhodi.html(※6)https://www.cato.org/commentary/sending-weapons-ukraine-could-have-unintended-consequences(※7)https://www.jiji.com/jc/article?k=2022121900677&g=int(※8)https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-defence-reznikov-idJPKBN30A0HU(※9)https://www.afpbb.com/articles/-/3485643(※10)https://www.jiji.com/jc/article?k=2022121900677&g=int(※11)https://www.transparency.org/en/cpi/2022(※12)https://www.scmp.com/news/china/military/article/3229150/chinese-anti-corruption-investigators-target-top-rocket-force-generals-sources-say(※13)http://www.news.cn/mrdx/2023-08/01/c_1310735058.htm(※14)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/845739/(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9b40f938e2992cedb36196ac26cabc0024143236 <CS> 2023/10/16 10:28 GRICI ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:54JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆イスラエルのネタニヤフ首相は「偽装親中」だった?一方、イスラエルのネタニヤフ首相は今年7月には訪中して習近平に会うだろうと、6月のイスラエルのメディア(イスラエル・タイムズ)が報道している(※2)と、中国の国営テレビ局CCTVは誇らしげに解説していた。このことに強い危機感を抱いたため、バイデンは7月17日にネタニヤフに電話して訪米を誘った(※3)と、多くのメディアが報道した。その後、訪中の話題が立切れになったところを見ると、ネタニヤフはバイデンに「お前が私の司法制度改革を批判したりするのなら、私は習近平に近づくぞ!」と脅して、「バイデンが折れ、ネタニヤフの訪米を要請するしかないところにバイデンを追い込んだ」気配がある(司法制度改革問題に対するバイデンのネタニヤフ批判に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)で系統的に詳述した)。案の定今年9月20日にネタニヤフは国連総会に参加してバイデンとの会談を実現し、訪中問題は立切れになってしまった。ホワイトハウスは、バイデンとネタニエフの会談を高らかに公表している(※5)。◆中国はどうするつもりか?では中国はどうするつもりなのか?少なくとも関心度から言うと尋常ではなく、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は数知れぬほどの論評を発表し、CCTVも1時間ごとに新たな情勢を実況中継したり、論説委員に解説させたり、報道頻度はどの国にも負けないだろうと思われるほどだ。というのも水と油のような宗派の異なるサウジ(スンニ派)とイラン(シーア派)を和解させ、その後、中東和解雪崩現象を現出させた中国としては、「アメリカが介入した途端に戦争が起きる」ということを言いたいのだろう。ハマスはスンニ派なので、同じ宗派同士が助け合うのを鉄則としているイスラム界では、ハマスがイスラエルに戦いを挑んだからには、サウジとしてはハマスの意図に反する行動は取りにくいという事情がある。したがって、ハマスのイスラエル攻撃は、サウジとイスラエルの和解を完全に阻止する役割を果たしただろうというのが、大方の味方だ。しかし、ウクライナ戦争同様、中国は「戦争に関しては、あくまでも中立」という立場を貫いている。イスラエルのネタニヤフとも仲良くしていないと、中国による「中東の平和」作戦を遂行できなくなるので、報道は「アメリカを非難すること」においては共通していても、イスラエルかパレスチナ・ハマスか、という陣営分けに関しては実に中立だ。実況中継もガザ地区とイスラエルの両方にCCTVの特派員がいて、よほど注意して観てないと、どちらの陣営の被害を中継しているのか分からないほどである。一つだけ違うのは、アメリカが又もやイスラエルに対して武器支援をしようとしているということに対する執拗なほどの報道で、それによって、いま中継しているのはイスラエルからかガザ地区からかが分かるほど、そこだけは鮮明だ。ハマスが一気に5000発にも上るミサイルを発射できるほど兵器をため込むことができたのかに関して、ハマス側が「2年ほど前から、いざという時のために準備してきた」とばらす生の声も中国のネット空間で動画として出回っている。それに対して「アメリカがアフガンを撤退したときに残した大量の武器をアフガンが関連諸国・組織に売りさばき、ウクライナ戦争でアメリカを中心とした西側諸国がウクライナに送った大量の武器も腐敗が蔓延しているウクライナの一部の者が横流ししているのだから、アメリカは自分が提供した武器で同盟国を襲撃させている」と嘲笑うコメントも中国のネット空間には飛び交っている。中国政府の正式な立場としては、中国の外交部(※6)も、中国政府の通信社である新華社(※7)も、一律に以下のようにしか言っていない。・中国は、現在のパレスチナ・イスラエル間の緊張の高まりと暴力のエスカレーションを深く懸念し、すべての関係者に対し、冷静かつ自制を保ち、直ちに停戦し、民間人を保護し、状況のさらなる悪化を防ぐよう呼びかける。・パレスチナとイスラエルの紛争を鎮圧する基本的な方法は、「二国間による解決の実施」と「独立したパレスチナ国家の樹立を承認すること」だ。・それは1967年に決めた境界線に基づくべきである。また一般庶民の目としては、この動画(※8)が分かりやすく、サウジはアメリカの呼びかけを断るのではないかといった憶測が広がっている。なお、宗派が異なってもイラン(シーア派)がパレスチナ(スンニ派)を応援するのは、アメリカによる制裁と差別的抑圧があまりに酷いからという「共通項」があるからだ。それこそ習近平が「米一極から多極化へ」の地殻変動を起こすことを可能ならしめている。その意味では、アメリカには「一極支配はアメリカを弱体化に追い込む」という論理を張る識者・政治家がいるのは見上げたものだと言わねばなるまい。習近平が狙う地殻変動は、実は、アメリカの覇道がなかったら起きなかったわけで、中国にとっては、アメリカの覇道は、むしろ天の恵みと言えるのかもしれない。10月9日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartII2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために>(※9)に書いた(偉大なる黒幕)ブレジンスキーの論理からすれば、次は台湾有事を狙うはずだった。しかし『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※10)に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(刃を血塗らずして勝つ)」なので、台湾が独立でも叫ばない限り、なかなか積極的に台湾を武力攻撃しようとはしない。2024年までの米大統領選に間に合わないのだ。だから手っ取り早くイスラエルとサウジを嗾(けしか)けた。これはアメリカをさらなる窮地に追い込むだろう。ウクライナと中東に戦力を注ぎながら、台湾有事を捌(さば)くことなど、いくらアメリカの軍事力が強いと言っても不可能というもの。台湾の総統選にも不利に働く。残念ながら、何やら習近平の高笑いが聞こえてきそうだ。この論考はYahoo(※11)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.cctv.com/2023/06/27/ARTIJns9xopoS885A09ekjGY230627.shtml(※3)https://www.dw.com/zh/%E4%BB%A5%E8%89%B2%E5%88%97%E7%B8%BD%E7%90%86%E5%B0%87%E8%A8%AA%E4%B8%AD%E7%BE%8E-%E5%A4%A7%E5%9C%8B%E7%AB%B6%E7%88%AD%E5%BB%B6%E7%87%92%E4%B8%AD%E6%9D%B1/a-66260414(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※5)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/09/20/readout-of-president-joe-bidens-meeting-with-prime-minister-benjamin-netanyahu-of-israel/(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202310/t20231008_11157292.shtml(※7)http://www.news.cn/world/2023-10/08/c_1212285572.htm(※8)https://www.bilibili.com/video/BV1134y137xg/(※9)https://grici.or.jp/4695(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1a52cd61abc617f1a3a7b31c44e35385fb43be0b <CS> 2023/10/12 10:54 GRICI ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:48JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。10月7日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルに向けて大規模奇襲攻撃を行った。中東戦争に発展するのではないのか、世界が注目している。表面的にはサウジアラビア(サウジ)がパレスチナ問題を解決しないまま、イスラエルと国交正常化することに対するハマスの怒りの表れと解説されているが、実はその背後で動いていたのは、又もやアメリカの世界制覇への諦めきれない執着だ。中国が仲介してサウジとイランを和解させて以来、中東和解現象が雪崩のごとく起きていた。もはやアメリカの中東における役割は消え去ったかに見えた。しかし、アメリカは指をくわえて中東におけるアメリカ衰退の様を見ていたわけではない。ハマス奇襲攻撃に至るまでのアメリカの対中対抗措置の経緯を考察することによって、現在起きている事態への理解を深めたい。◆習近平が起こした中東和解雪崩現象習近平が今年3月10日に国家主席に三選された日、北京では中国を仲介としてサウジとイランとの和解が発表された。サウジはアメリカの同盟国のような存在であり、イランはアメリカが最も敵視している国の一つだ。そのイランとサウジが和解したということは、サウジはある意味でアメリカを見限ったということになる。その原因やその後の和解雪崩現象に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※2)で詳述し、また7月8日のコラム<加速する習近平の「米一極から多極化へ」戦略 イランが上海協力機構に正式加盟、インドにはプレッシャーか>(※3)で、その後の現象も追加説明した。このままでは、脱アメリカ現象が加速する可能性があっただろう。しかし、それを傍観しているようなアメリカではない。◆習近平の「一帯一路」に対抗するためインド・中東・欧州経済回廊を提案したバイデンこれに関してバイデン政権が着手したのは、習近平が唱えて実行してきた巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するための「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC = India-Middle East-Europe Economic Corridor)」の構築(※4)である。この構想でインフラが整備されれば、スエズ運河を通ることなくアジアと欧州を結ぶ貿易の動脈が完成する。この構想は今年9月9日~10日にインドで開催されたG20サミットで公表された。本来、2021年の段階では「アメリカ、インド、イスラエル、UAE」の4ヵ国枠組みだったのだが、サウジのアメリカ離れと中国接近を受けて、サウジも入れることになり、インドを触媒にしながら「アメリカ―イスラエル―サウジ」の線を強化しようとバイデン政権は狙っていた。そこに共通している敵国は「イラン」のはずだった。しかし2023年3月の中国によるサウジとイランの和解により、この構想の軸が怪しくなり始めた。そこで、バイデンはインドのモディ首相をワシントンに招いて歓待し、モディを陥落させようと動いた。結果、9月のG20サミットでは、めでたくお披露目となったわけだ。◆習近平が起こした中東和解に対抗するため、サウジとは防衛条約を協議今年9月22日のNBCニュース<U.S. talks for a landmark deal with Saudi Arabia and Israel are gaining steam(サウジとイスラエルに関する画期的な取引のためのアメリカの交渉は勢いを増している)>(※5)によれば、サウジがアメリカの防衛協定と引き換えにイスラエルとの関係を正常化し、独自の民間核計画の開発を支援することになるとのこと。しかし、イスラエルとパレスチナ人との継続的な紛争など、重大なハードルが残っているわけだから、その解決なしにサウジがイスラエルと和解して国交を正常化すれば、パレスチナが黙っているはずがない。もちろんこの防衛協定はNATOのような軍事同盟ではなく、たとえば日米間のように、互いの国が脅かされた時に相手国のみを互いに助け合うという種類のものだが、それでもサウジとバイデン政権の間にはカショギ記者殺害に関するわだかまりがあり、あれだけサウジのムハンマド皇太子を非難したバイデンとしては、米国民に対して説明がつかない、相当に無理がある動きだ。NBCの報道を含めた数多くのメディアが、「これはバイデンの2024年における大統領選のための姑息な策略に過ぎない」と批判的な見解を展開している。「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※3)https://grici.or.jp/4420(※4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E4%B8%AD%E6%9D%B1%E3%83%BB%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%9B%9E%E5%BB%8A(※5)https://www.nbcnews.com/news/world/us-talks-saudi-arabia-israel-normalization-deal-rcna116464 <CS> 2023/10/12 10:48 GRICI 習近平はなぜG20首脳会議を欠席したのか? 中国政府元高官を単独取材【中国問題グローバル研究所】 *10:23JST 習近平はなぜG20首脳会議を欠席したのか? 中国政府元高官を単独取材【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。インドで9日から開催されているG20首脳会談に習近平国家主席が欠席し、代わりに李強国務院総理が出席した。これに関して日本では、「2023年中国標準地図」問題があるので「臆病者の習近平」は非難されるのが怖いからだとか、国内問題で外遊するゆとりがないからだとか、果ては「お友達のプーチンがいないから」という奇想天外なものまでが飛び出している。そこで高齢の旧友である中国政府元高官に単独取材し、真相を得た。それは思いもかけない理由だった。◆取材結果:李強は副総理を経験していないので外交の訓練をさせている江沢民政権時代から、ASEAN関連首脳会議に出席するのは、国務院総理と決まっており、インドネシアで開催されたASEAN関連首脳会議に李強・国務院総理(=首相)が出席したのは、ごく自然のことである。しかしG20首脳会議に関しては、習近平は国家主席になってから一度も欠席したことがなく、このたび欠席したのは確かに異例だ。したがって冒頭で述べたような奇想天外な憶測がなされるのも、分からないではない。ただ、どう考えても納得のいく理由ではないので、何が背景にあるのかは知りたいし、考察する必要があるだろう。そこで、もう90近い高齢の中国政府元高官に連絡して、「習近平がG20首脳会談を欠席した本当の理由」に関して単独取材を行ったところ、思いもかけない回答が戻ってきた。――理由なんて簡単なものさ。李強総理が副総理を経験してないので、外交の経験がないからに決まってるじゃないか。一国の総理となったからには、あらゆるチャンスを活かして外遊させなければならない。BRICS首脳会議の場合は、それこそ習近平がずーっと唱えてきた「BRICS+(プラス)」を通して多極化を図ろうという正念場の会議だったから、これはさすがに李強では役割を果たせないが、G20なら、ちょうどいい訓練の場になるだろう。それだけのことだよ。李克強の場合は、副総理の時に相当な外遊の数をこなしているから、総理になったあとは、習近平の代わりに出席させる必要はなかったが、李強の場合はそうはいかないんだよ。でもこうして常委(中共中央政治局常務委員)を訓練し強化していくんだから、悪いことじゃない。(回答は概ね以上)なるほど――。そういう事だったのか。念のために調べてみたが、李強の場合、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)になる前には、外遊といった外遊はしたことがなく、一度だけ2018年に政党間交流の目的で代表団を率いて南米3ヵ国を訪問した(※2)くらいのものか。7月14日~22日にかけて、「キューバ、パナマ、ペルー」を訪問している。今年の3月に国務院総理になってからは6月18日~21日のドイツ訪問(※3)と6月21日~23日のフランス訪問(※4)がある。その後は、今回のインドネシアにおけるASEAN関連首脳会議(9月5日~8日)(※5)とインドにおけるG20首脳会議(9月9日~10日)(※6)となる。◆李克強が国務院副総理だったときの外遊経験一方、李克強が国務院副総理の時(2008年~2013年3月)の外遊には、概ね以下のようなものがある。●2008年12月20日~30日:「インドネシア、エジプト、クウエート」(※7)●2009年6月23日~29日:「トルクメニスタン、ウズベキスタン、フィンランド」(※8)●2009年10月29日~11月5日:「オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア」(※9)●2010年1月25日~28日:「スイス」(※10)●2011年1月4日~12日:「イギリス、スペイン、ドイツ」(※11)●2011年10月23日~27日:「北朝鮮、韓国」(※12)●2012年4月26日~5月4日:「ロシア、ハンガリー、ベルギー、EU」(※13)(概ね以上)拾い切れてないかもしれないが、実に経験豊かだ。李強にも、遅ればせながら、これに匹敵するくらいの経験を積ませなければならないから、これからも習近平の代わりに李強が出席するという国際会議は増えるかもしれない。これで、ようやく納得した。◆ASEAN関連首脳会議で取り上げられなかった「2023年中国標準地図」問題日本では専ら、ASEAN諸国が激しく中国が今年も新しく発表した「2023年中国標準地図」に抗議しているので、ASEAN関連首脳会議では、必ずこの問題が大きく取り上げられるから、「臆病な習近平」はそれを避けたいためにG20首脳会議を欠席したのだというのが主流だ。国内問題が惨憺たる状況にあるので、国際舞台で大恥をかいたら国内における権威が無くなるからと、背景説明まで立派だ。ところが実際の理由は全く違っていただけでなく、フランスの国際放送RFI(Radio France Internationale)は、<ASEAN首脳会議の共同声明は、中国の新地図に関して言及しなかった>(※14)と報道している。会議に出席したASEAN諸国の中のある外交官がジャカルタ・ポストに「どの国もこの議題に関して提起しなかった」と語っているという。声明の中では、ただ「我々は、相互の信頼と自信を強化し、紛争を複雑化したり状況をエスカレートさせたりする可能性のある行動を自制する必要性を再確認する」と謳っただけだ、とジャカルタ・ポストは述べているとのこと(RFIの報道概要は以上)。日本人は、「習近平がいかに無能か」あるいは「いかに追い詰められて絶望的状況にあるか」という視点で情報を発信すると、喜んで飛びついてくる。だからそういった視点で分析した情報が多いが、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※15)に書いたように、習近平はOPECプラスを誘い込みながらBRICSや上海協力機構を軸として地殻変動を起こそうとしている。日本人が「愚か者、習近平」と拍手喝采している間に、中国は日本の先を行くだけでなく、グローバルサウスを惹きつけて、戦略的に地殻変動を起こそうとしているのだ。日本は真実を見る客観的な視点を持たないと、ますます立ち遅れていくばかりではないのだろうか。そのことを憂い、警鐘を鳴らし続けたい。この論考はYahoo(※16)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2018-07/18/c_1123140446.htm(※3)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202306/t20230619_11099513.shtml(※4)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202306/t20230624_11102940.shtml(※5)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202309/t20230901_11136727.shtml(※6)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202309/t20230904_11137529.shtml(※7)https://www.gov.cn/ldhd/2008-12/16/content_1179757.htm(※8)https://news.cctv.com/china/20090623/107937.shtml(※9)https://www.gov.cn/ldhd/2009-10/29/content_1451536.htm(※10)https://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/201001/t20100121_306413.shtml(※11)https://www.gov.cn/ldhd/2011-01/13/content_1784047.htm(※12)https://www.mfa.gov.cn/web/ziliao_674904/zt_674979/ywzt_675099/2011nzt_675363/lkq_cx_hg_675367/201110/t20111019_9284491.shtml(※13)https://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/201204/t20120418_318154.shtml(※14)https://www.rfi.fr/cn/%E4%B8%93%E6%A0%8F%E6%A3%80%E7%B4%A2/%E8%A6%81%E9%97%BB%E8%A7%A3%E8%AF%B4/20230907-%E4%B8%9C%E7%9B%9F%E5%B3%B0%E4%BC%9A%E8%81%94%E5%90%88%E5%A3%B0%E6%98%8E%E6%9C%AA%E6%8F%90%E5%BC%95%E5%8F%91%E4%BA%89%E8%AE%AE%E7%9A%84%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%96%B0%E7%89%88%E5%9C%B0%E5%9B%BE(※15)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※16)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/baf3d5b10c92aedf3c2a98031fc5094b291b1e7f <CS> 2023/09/11 10:23 GRICI 日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中【中国問題グローバル研究所】 *10:21JST 日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。戦後日本を占領していたGHQは、「日本人が犯した戦争の罪に対する贖罪意識」を徹底して植え込み、自虐史観を抱かせることに成功した。それも「アメリカ脳化」政策同様、日本政府とメディアを使ったので、日本人はGHQに操作されていることに気づくことなく自ら進んで意識改革をしていった。いま同じアメリカがNED(全米民主主義基金)を用いて「反中、嫌中」意識を同じくメディアを用いて日本人に植え込んでいる。だから自民党は「反中」対米隷属と自虐史観的媚中外交の二股外交を余儀なくされている。これはバランス外交などというカッコいいものではなく、全てはGHQが植え付けた「贖罪意識」の結果だ。それをまず認識したい。◆WGIP(War Guilt Information Program)=日本人に戦争贖罪意識を植え込む戦略8月10日のコラム<アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳>(※2)に書いたように、戦後日本はGHQによって占領された。戦勝国であるアメリカは、戦勝国であるがゆえに敗戦国・日本に対してはやりたい放題。日本人の精神解体を行っただけでなく、「日本人がいかに罪深い人種であるか」を徹底して植え込み、「アメリカが原爆投下を行ったことを絶対に批判できないように」教育を浸透させていった。それも占領下の日本(傀儡)政府やメディア、特に教育界を通して実行したので、日本人には、「日本国」自らがそう判断しているのだと思わせる手段を用いるという、「実に頭のいい(?)」戦略で動いたのである。このWar Guiltはただ単に「戦争責任」という日本語ではなく、もっと「罪責」あるいは「罪悪感、自責」の方に近く、結果的に「贖罪をしなければならない」という認識を日本人の意識に植え込み、「原爆投下は、ありがたい罰である」と思わせるところに、このプログラムの(アメリカにとっての)真の意義がある。日本に原爆を二つも投下したことに対する史上かつてない残虐性、非人間性を「批難してはならない」というのがWGIPの真の目的なのだから。広島出身の岸田首相は、「だからこそ原爆には絶対に反対する」と言いながら、核兵器禁止条約には日本は絶対に参加しない。「核保有国は一国たりとも参加していないから、その橋渡しを」というのが岸田首相のいつもの弁明だが、彼もまたGHQが日本政府の精神性に埋め込んだ「贖罪意識」から逃れられないでいるのだ。2015年に出版された『日本人を狂わせた洗脳工作 いまなお続く占領軍の心理作戦』(※3)(関野通夫著、自由社ブックレット)は見事にその証拠を突き付けている。◆共産・中国に利したGHQのWGIP本来、「アメリカの原爆投下も日本占領も批判してはならない。悪いのは、お前ら日本人なんだから」というGHQの目論見は、結果的に共産・中国に利している。なんと言っても日中戦争において日本は「中国を侵略した」のだから、悪いのは日本で、「ひたすら中国に謝罪し続けなければならない」と、日本自らが積極的に思うようになった。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※4)にも書いたが、毛沢東は「私は皇軍に感謝している」と言い切っている。なぜなら日本軍が戦った相手は最大の政敵・蒋介石がトップに立つ「中華民国」だったので、蒋介石率いる国民党軍を弱体化させてくれたからだ。結果、日本敗戦後に中国国内で始まった国共内戦で共産党軍が勝利し、共産・中国である中華人民共和国(現在の中国)を誕生させたが、日本の対中贖罪意識は、なんと、敗北して台湾に身を寄せた蒋介石の「中華民国」に向けられず、勝利した共産・中国に向けられたのである。まるで共産・中国を「日本に対する戦勝国」のように位置付け、戦勝国に対する「敗戦国」の奴隷根性を丸出しにしている。だから1971年のキッシンジャー忍者外交に慌ててアメリカのあとを追い、共産・中国と国交を正常化することに向けて突進し、「贖罪意識」を持たなければならない「中華民国」とは国交を断絶した。それだけではない。1989年6月4日の天安門事件後の対中経済制裁を「中国を孤立させてはならない」としてイの一番に解除したのは日本で、1992年2月に中国の全人代常務委員会が「領海法」を議決して、日本の領土である尖閣諸島を「中国の領土領海である」と宣言したのに、いかなる抗議もせず、それどころか同年10月には中国の依頼に応じて天皇陛下訪中を実現させて、「領海法」を事実上黙認する意思表示をしてしまったのである(詳細は『習近平が狙う「米一強から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)【第五章の五、尖閣・南シナ海の領有権を定めた中国「領海法」を許した日米の罪】)。現在の岸田内閣とて、実は変わっていない。自民党きっての親中派議員を外相に指名したり、中国では最も親中的な政党として位置づけられている公明党から必ず国土交通大臣を選んで「尖閣問題に関して中国側に立つ」姿勢を貫いていたりなど、やっていることはGHQに埋め込まれた「贖罪意識」装置そのままだ。その一方でアメリカの事情が変わってきた。アメリカの原爆投下を批判させないためのWGIPは、実は原爆を持つアメリカこそが軍事力的に世界一で、世界を支配する正当性を持っているという、戦後の「米一極支配」を正当化する装置でもあった。ところが、その「米一極支配」を脅かす存在が現れてきた。中国だ。◆中国を潰すために動き始めた「第二のCIA」NED前掲のコラム<アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳>(※6)に書いたように、1983年に「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)を設立し、GHQやCIAの「贖罪意識」に代わって、「ロシアや中国を潰すための論理」で動き始めた。その柱にあるものを見抜かないと日本が戦争に巻き込まれることに警鐘を鳴らすために書いたのが前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※7)である。当該書の序章の最後に、本来なら「台湾有事を創り出すのはNEDだ」と書くべきだが、「NED」の知名度が低いので、「CIA」で代表させたと書いたが、実はもっと言えば、このサブタイトルをメインタイトルに持って行きたいほど、NEDの実態を知って欲しかった。正直に言えば、筆者自身、この本を書くまでは、ここまでNEDが世界全体を動かしていることには気が付かなかった。なぜ注目するようになったかというと、中東が中国に近づいた大きな原因がNEDが起こしてきたカラー革命にあることを知ったからだ。これによりいま地殻変動が起きようとしている。従って、NEDの実態を知らない限り、中国の真相も見えてこない。しかしNEDは、かつてのGHQやCIAと同じように、政府やメディアを動かしているだけで、直接的には日本国民に何かしらの指示を出すわけではないから、「アメリカ脳化」してしまった日本人にはNEDの動きは見えないだろう。大手メディアが言っているんだから正しいだろう程度に受け止めてしまう傾向にある。その「時流」に乗って出版される本や専門家(?)の発言がまた喜ばれるという精神的環境をNEDは作っているので、とことん中国を読み間違えてしまうのだ。「中国は今度こそは崩壊する」と喧伝して20年以上が経っているが、一向にその兆しはない。いや、数値が示していると主張するだろうが、その数値は一側面のデータしか拾ってないので間違えるのだ。たとえば7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>(※8)に書いたように、確かに中国の失業率は目も当てられないほどひどいが、しかし一方では、当該コラムの図表5に示したように、中国は論文数においても引用された論文の数(=論文の質)においてもアメリカを抜き世界一に躍り出ている。背景にあるのは2015年に習近平政権が打ち出した「GDPは量より質」に基づくハイテク国家戦略「中国製造2025」だ。GDPの成長率などだけを見て「ほらね、中国はもうすぐ崩壊するよ」と、日本国民を喜ばせている専門家やメディアは、「量より質」がもたらす中国の脅威には目を向けようとしない。結果、日本が取り残されていくのを筆者は怖れ、なかんずく戦争に巻き込まれていくのを怖れるのである。日本人の精神性は、あの敗戦直後のGHQとCIAが創り出した遺伝子が填め込まれたようなもので、この「アメリカ脳化」された精神から抜け出すのは至難の業だ。しかし、日本政府の対米奴隷化も媚中も、両方ともがWGIPが埋め込んだ贖罪意識にあるのだから、ある意味、アメリカの長期的戦略に圧倒されると言えなくもない。しかも気づかれないように動かしているのだから、「大したものだ!」、「脱帽だ!」と言ってしまいたいくらいだ。GHQによって創り出された遺伝子的精神性のママ、日本は生き続けていっていいのだろうか?今年の8月15日は終戦から78年が経つ。読者とともに考えたい。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4523(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/491523780X(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4106106426(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://grici.or.jp/4523(※7)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※8)https://grici.or.jp/4491(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/529066079afc49645e7a144fc7fedf2d42e1f98e <CS> 2023/08/15 10:21 GRICI アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳【中国問題グローバル研究所】 *10:26JST アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。◆GHQが行った「日本人の精神構造解体」1945年8月15日に日本が無条件降伏をすると、8月30日にはダグラス・マッカーサー連合軍最高司令官が、パイプをくわえながら厚木の飛行場のタラップに降り立った。その日から日本はGHQ(General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers=連合国軍最高司令官総司令部)の支配下に置かれた。GHQは第二次世界大戦終結に伴うポツダム宣言を執行するために日本で占領政策を実施した連合国軍だが、実際はアメリカを中心とした日本国占領機関だった。1952年4月28日に日本の終戦条約であるサンフランシスコ平和条約が発効するまで、GHQによる日本占領政策は続いた。また降伏文書に基づき、天皇および日本国政府の統治権はGHQの最高司令官の支配下に置かれた。ここまでは教科書にも出てくる話なので、誰でも知っているだろう。しかし、このときにGHQが日本の武装解除と同時に「精神構造解体」まで行っていたことを認識している人は、今では少なくなっているかもしれない。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※2)でしつこく追いかけたように、終戦の少し前までアメリカの大統領だったフランクリン・ルーズベルト(大統領任期期間:1933年3月4日~1945年4月12日)は、母方の一族が清王朝時代のアヘン戦争のころからアヘンを含む貿易で財を為していたので、非常に親中的で、容共的でもあった。特に「日本軍は異様に強い」と恐れるあまり、何としても当時のソ連に参戦してほしいと、再三再四にわたりスターリンに呼び掛け参戦を懇願した。そのためにソ連は日ソ不可侵条約を破って、アメリカが日本に原爆を投下したのを見て慌てて参戦し、私がいた長春市(当時はまだ「満州国・新京特別市」)に攻め込んできた。このときに北方四島を占領したという、忌まわしい歴史を残している。そのため1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行された日本国憲法では、日本が二度と再び再軍備できないように、そして戦争できないように強く制限している。1971年7月、「忍者外交」で知られるニクソン政権時代のキッシンジャー大統領補佐官(のちに国務長官)は、北京で当時の周恩来総理と会談した際、周恩来が懸念した在日米軍に関して、「あれは日本が再軍備して再び暴走しないようにするために駐留させているようなものです」と回答している。アメリカは本当に、日本をこのように位置づけていたものと思う。だからGHQは日本国憲法第九条で日本が再軍備できないように縛りをかけた。ところが1950年6月に朝鮮戦争が始まったため、GHQは日本に「警察予備隊」の設置を許し、それがのちの自衛隊になっている。それでも憲法九条があるため、日本の防衛はひたすらアメリカに依存するという形を取り続けている。その結果日本はアメリカに頭が上がらず、精神的に奴隷化する傾向にあるが、GHPが行ってきた、もう一つの「日本人の精神構造解体」の方も見落としてはならない。1945年から52年までの約7年の間に、日本の戦前までの精神文化は徹底的にGHQによって解体されていった。それもやはり、日本軍が戦前強かった(とアメリカが恐れた)ために、「天皇陛下のためなら何が何でも戦う」という特攻隊的精神を打ち砕くことが目的の一つだったので、「民主、人権、自由、平等・・・」などのいわゆる「普遍的価値観」を埋め込み、それを娯楽の中に潜ませていったのである。そのためにハリウッドが配給した映画は数百本を超え、ハリウッド映画に憧れを抱かせるように、あらゆるテクニックを凝らしていった。この背後で動いていたのはCIAだ。◆CIAによる洗脳日本敗戦後まもない1947年までは、第二次世界大戦中の特務機関であった戦略諜報局OSS(Office of Strategic Services )がアメリカ統合参謀本部でスパイ活動や敵国への心理戦などを実施していたが、1947年9月18日に機能を拡大して中央情報局(Central Intelligence Agency=CIA)と改名した。サンフランシスコ平和条約締結に伴ってGHQが解散され、アメリカの占領軍が引き揚げると、アメリカはすかさずCIAを中心として日本テレビを動かし、新たな「日本人の精神構造解体を実行する装置」を構築した。その詳細は『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』(※3)(有馬哲夫、新潮社、2006年)などに書いてある。CIAのその操作は大成功を収め、日本は世界で唯一の「大洗脳に成功した国」と言っても過言ではないほど、完全に「アメリカ脳化」することに成功したのだ。日本のその成功例を過信し、アメリカはイラクに大量の破壊兵器があるという偽情報に基づいて「イラクの自由作戦」などと名前だけ民主的な名目を付け、激しい武力攻撃に入った。実態は侵略戦争以外の何ものでもない。大量の破壊兵器は見つからず、それは偽情報だったということがわかっても、イラク国内での戦闘は止まず、凄絶な混乱と治安悪化を生み出しただけだった。アメリカの腹には、日本に原爆を二つも落として惨敗させても、日本はアメリカによる占領軍の指示を従順に聞きアメリカを崇めるに至ったので、他の国でも日本と同様のことができるはずだという目算があったにちがいない。しかし世界中、日本以外のどの国でも、そうはいかなかった。なぜだろう?◆なぜ日本では完全洗脳に成功したのか?なぜ他の国ではうまくいかないのに、日本では成功したのだろうか。あれは『毛沢東 日本軍と共謀した男』(※4)を書いていたときだった。アメリカのスタンフォード大学のフーバー研究所に通い続け、そこにしかない直筆の「蒋介石日記」を精読する月日の中で知ったのだが、蒋介石は日本の戦後処理に関して「天皇制だけは残さなければだめだ。日本人は天皇陛下をものすごく尊敬している。天皇制さえ残せば、戦後の日本を占領統治することができるだろう」という趣旨のことを書いている。かつて日本軍は「皇軍」と呼ばれて、「天皇陛下のためなら命を落としてもいい」という覚悟で闘った。戦死するときには「天皇陛下万歳――!」と叫んだ。1945年8月15日、終戦を告げる詔書を読み上げた天皇陛下の玉音放送を、私は長春の二階の部屋で聞いたが、そのとき家族一同だけでなく工場の日本人従業員が集まって、全員がラジオの前に正座して両手を畳に揃えてうつむき、むせび泣いていた。それから何十年もあとになってから、日本で玉音放送を聞いている人たちの姿を映像で見たが、その正座の仕方から始まり、うつむいてむせび泣く姿は、異国にいた長春でのあの風景と完全に一致したのだ。なぜ、全員が、誰からも指示されていないのに、同じ格好で玉音放送を聞いたのだろうか?日本人の多くが天皇陛下に対する畏敬の念を抱いていたからではないだろうか?その昭和天皇が「堪(た)え難(がた)きを堪え、忍(しの)び難きを忍び…」と日本国民に呼びかけたのだ。日本人は終戦を受け容れ、天皇陛下がマッカーサーに会いに行ったことによって、これは天皇陛下の意思決定だと解釈して、GHQの指示に従ったものと思う。この要素が決定的になったのではないだろうか。こうして日本人は自ら積極的にCIAの洗脳を歓迎し、「アメリカ脳」化していったにちがいない。◆「第二のCIA」NEDに思考をコントロールされている日本人何度も書いてきたが、1983年にアメリカのネオコン(新保守主義)主導の下に「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が設立された。CIAは政府の組織なので他国の政党に直接資金を渡すことはできないが、NEDは非政府組織なので、他国の民主化運動組織を支援することが合法的に許されるからというのが最大の原因だった。しかし実際にはアメリカ政府がNEDの活動経費を出しているので、毎年「会計報告」を公表しなければならない。非常に矛盾した組織を米陣営側の国際社会は批判しない。そのお陰で、「会計報告」情報に基づいて過去のいくつかの時点におけるNEDの活動一覧表を作成することができた。いくつかの時点というのは、この「会計報告」は3年に一回削除されてしまうので、完全な形でフォローすることはできなかった。それでも、その範囲内でNED活動の一覧表を掲載したのが拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)である。拙著に掲げた【図表6-4 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や図表【6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】などをご覧いただければ、台湾有事を創り出そうと必死で動いているのが「第二のCIA」NEDであることは明瞭な形で読み取れるはずだ。しかし残念ながら、アメリカ脳化されてしまった少なからぬ日本人には、この現実が見えない。これが見えない限り、日本は必ず「台湾有事」を創り出すことに結果的に協力し(積極的に力を注ぎ)自らを再び戦争の中へと突き進ませていく。まもなく終戦78周年を迎える。あのような犠牲を二度と日本国民に強いないために、どうか一人でも多くの日本人が「アメリカ脳」から脱却してほしいと祈らずにはいられない。この論考はYahoo(※6)から転載しました。写真: 1947年2月 日本を占領していたGHQのダグラス・マッカーサー(提供:MeijiShowa/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4106106426/ref=zg_bs_g_500162_sccl_30/357-4646009-0313400?psc=1(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4103022310(※4)https://grici.or.jp/4523(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a9c90531252ba4c92e1ad29fe29adcca66028552 <CS> 2023/08/14 10:26 GRICI 秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:24JST 秦剛前外相は解任されたのに、なぜ国務委員には残っているのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月25日に秦剛(しん・ごう)前外相が解任され、後任に中国外交のトップである王毅(おう・き)政治局委員が任命された。秦剛氏解任に関してはさまざまな噂が飛び交っているが、「なぜ国務委員には残っているのか」に関する回答を持っている人はいないようだ。答えは実に簡単。中国政治を真に理解している人なら、すぐにわかるはずだ。◆秦剛氏が外相を解任されながら、国務委員に残っているわけ7月25日、習近平国家主席は<中華人民共和国主席令(第八号)>(※2)を発布して、「中華人民共和国第十四期全国人民代表大会常務委員会第四次会議」の結果として、「2023年7月25日を以て、秦剛が兼任している外交部部長の職務を解任し、王毅を外交部部長に任命する」という旨の決定を公表した。ここで重要な言葉は中国文字で書くなら「兼任的」で、秦剛は「(外交部部長を)兼任していた」のである。では、他のどのような職務に就いていたかというと、「国務委員」だ。秦剛は、外交部部長(日本の外務大臣=外相に相当)に関しては2022年12月30日に開催された第十三期全国人民代表大会常務委員会第第三十八回会議において任命されることが決議された。国務委員に任命されたのは今年3月12日で、第十四期全国人民代表大会第一回会議においてだ。このことからも分かるように、中国では国務委員は「国務院総理がノミネートして、全国人民代表大会で投票により決議され任命される」ことになっている。職務は「国務院総理を補助すること」で、言うならば「副総理(日本語的には副首相)」に相当するほどの高位の職位である。その任命権は全国人民代表大会にしかなく、罷免権も全国人民代表大会にしかない。したがって、もし秦剛の国務委員職を解任したいと思うのならば、来年(2024年)3月に開催される全国人民代表大会まで待つしかないのである。つまり、全国人民代表大会常務委員会には国務委員に関して任命権も罷免権もない。だから現段階では国務委員の職位を保ったままでいるのだ。中国政治の基本中の基本を知らないらしい、日本の一部の「中国問題専門家」やメディアは、「なぜ国務委員には残っているのか、不思議だ」と言い、あたかも、そこに解任劇の謎を解くカギがあるような口ぶりで報道している。その程度の見識で、さまざまな「噂話」に花を咲かせているわけだ。◆秦剛氏はなぜ解任されたのか?ではなぜ外相を解任されたのかに関して決定的なことを言うのは控えたいが、それでも、「それはないだろう」と思われる憶測に関しては述べたい。それは「中国の外交部(外務省)内部における権力闘争」という憶測だ。秦剛のスピード出世が妬まれ、王毅一派が密告したという手の噂だ。秦剛はまだ若いのに(56歳で)、2歳年上の謝鋒(駐米大使)を差し置いて外相になった。そのことに不満を持った謝鋒らがアメリカにおけるスキャンダルを、秦剛と対立する(と位置付けている)王毅に告げ、王毅が習近平に密告したという流れの憶測だ。スキャンダルというのは秦剛が香港メディアのフェニックスで「風雲対話(Talk with World Leaders)」という番組を担当していた女性キャスター・傅暁田(ふ・ぎょうでん)氏と不倫関係にあったという噂を指す。傅暁田が2022年11月に秦剛の子供を出産したという噂は秦剛が外相に抜擢される前から流れていた。彼女は2022年3月放送の番組で、当時駐米大使だった秦剛を取材している。その後キャスターを降板し、渡米して2022年11月にアメリカで出産。今年4月には飛行機の中で子供を抱いて自撮りした写真と共に、秦剛を取材したときの写真を同時にツイッターに投稿したことがスキャンダルの証拠として世間を騒がせた。これらの情報はカナダやアメリカにいる華人華僑系列の評論家たちから出たもので、その中の何名かは筆者の知人でもあるため、直接メールで知ることも少なくない。このたびの秦剛の解任劇に関して、中国外交部内での権力闘争だと言い始めたのも、実はこの華人華僑系列だ。それに飛びついたのが日本の一部の中国問題専門家である。その見解をNHKの第一報で報道したので、日本中に一気に「中国外務省内での権力闘争」説が広がった。しかし、中国における大きな流れの本質を見れば、概ね何が原因だったのかは見当がつくはずだ。7月3日のコラム<習近平が反スパイ法を改正した理由その1 NED(全米民主主義基金)の潜伏活動に対抗するため>(※3)や7月4日のコラム<習近平が反スパイ法を改正した理由その2「中国の国内事情」 日本はどうすべきか>(※4)に書いたように、中国が反スパイ法の改訂版を実施し始めたのは今年7月1日だが、4月26日に開催された第十四期全国人民代表大会第二次会議で「改正反スパイ法(新修訂反間諜法)」が可決されていた。同時に<中華人民共和国主席令(第四号)>が4月26日付けで習近平国家主席の名において発布され、内容が公開された。2014年の反スパイ法との違いは主として、2023年版第二条に書いてある「国家安全観」に関してだ。「国家安全観」というのは基本的に、【外部からの干渉と「カラー革命」の扇動に脅かされないこと】を指している。これはアメリカがネオコン(新保守主義)の主導下で1983年に設立したNED(全米民主主義基金)の暗躍のことを指す。この大きな国家方針の線上で、「さらにもう一歩進めた綿密な身体検査」が細部にわたって実施された。その中の一つが秦剛事件であって、三期目の国家主席の職位を手にするほどの絶大な権力を持っている習近平が、外交部内部の権力闘争ごときに左右されると思うのは、中国政治の実態を知らな過ぎるとしか言いようがない。もっとも、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※5)の第一章で書いたように、中共中央委員会委員や中共中央政治局委員あるいは中共中央政治局常務委員会委員(チャイナ・セブン)をノミネートする段階で、どれだけ長期間かけて身体検査をし適性を協議するか、その念の入れようは尋常ではない。その後に投票にかけるという筋道を通しながら、反スパイ法改正案が発布された4月以降に再チェックを行った結果、次から次へと不適合者が出ている。秦剛も、不倫相手がスパイ活動を行っていたというのを事前にチェックし切れなかったことが主な原因だろう。習近平の落ち度と、身体検査を担った関係者の落ち度は、計り知れないほど大きく、秦剛を信頼した習近平としては大きな痛手を受けているはずだ。◆NED(全米民主主義基金)の中国における暗躍台湾や香港を含めた「中国」において、NEDがこれまでどれだけ暗躍してきたかに関しては拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)の第六章で詳述した。ここで「CIA」と書いたのは、NEDが「第二のCIA」と呼ばれているからで、「NED」と書いたのでは知名度が低く、日本の読者には伝わらないかもしれないと危惧したからだ。第六章の【図表6-2 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や【図表6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】をご覧いただければ一目瞭然なように、NEDは何とかして中国政府を転覆させるべく、中国に深く潜って「民主化運動」を支援してきた。それらのデータは、すべてNEDのウェブサイトから拾い出したものだが、実はこのたび新たにNEDが出している年次報告(Annual Report)があるのを発見したので、既に削除されているものもあるが、何とか見つけ出して新たなデータを入手することができた。その中の中国に関する2021年版のデータによれば、NEDのプロジェクト対象は「中国本土、香港、チベット、新疆ウイグルおよび中国全域」となっており、「中国本土(mainland china)」(※7)には5,576,268米ドル、「香港(hong kong)」(※8)には434,450米ドル、「チベット(tibet)」(※9)には1.048,579米ドル、「新疆ウイグル(xinjiang)」(※10)には2,578,974米ドル、「中国全域(china regional)(※11)(各地域をつなぐもの)」には600,000米ドルが、それぞれ民主化運動資金として注がれている。2021年の対中国プロジェクトの合計は10,238,271米ドルだ。この年次合計は習近平政権になってから増えており、特に2020年における香港やウイグルでの民主化運動支援金が多い。民主化運動支援金は、今から民主化運動を起こして現存の政府を転覆させるために使われるものなので、台湾に関しては、むしろ2003年にNEDにより「台湾民主基金会」を設立したので、台湾に資金を出させる形でアメリカ寄りの政権を誕生あるいは維持させるためにNEDと共同で大会を開催したり、アメリカの政府高官を派遣したりするなどの活動を行っている。中国に対するNEDの活動の推移に関しては、追って別のコラムでご紹介したい。以上より秦剛事件は、大きな枠組みとしては、習近平政権とNEDとの闘いの結果であることが見えてくるが、外相というのはあくまでも中共中央外事工作委員会の結果を受けて実務的に動くだけなので、誰が外相になろうと、中国の外交方針が変わることはない。なお、もし中央紀律検査委員会の調査の結果、嫌疑が固まれば、解任した理由などを公表するのが中国のこれまでの慣わしなので、解任理由を現段階で明らかにしないのは少しも不思議なことではない。ただ嫌疑の如何(いかん)によっては、国務委員職を含めた全ての公民権の剥奪もあり得る。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/2023-07/25/c_1129767582.htm(※3)https://grici.or.jp/4404(※4)https://grici.or.jp/4415(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※7)https://www.ned.org/region/asia/mainland-china-2021/(※8)https://www.ned.org/region/asia/hong-kong-china-2021/(※9)https://www.ned.org/region/asia/tibet-china-2021/(※10)https://www.ned.org/region/asia/xinjiang-east-turkestan-china-2021/(※11)https://www.ned.org/region/asia/china-regional-2021/ <CS> 2023/08/03 10:24 GRICI 中国半導体産業の現在地 日本の対中輸出規制が始まった先端半導体製造装置【中国問題グローバル研究所】 *10:21JST 中国半導体産業の現在地 日本の対中輸出規制が始まった先端半導体製造装置【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月23日、日本の先端半導体製造装置の対中輸出規制が始まった。アメリカとしては中国の最も弱い部分を絞めつけて、中国半導体産業の息の根を止めるのが目的だ。それによって中国経済を潰す。かつて日本の半導体もアメリカを凌駕したために沈没させられてしまったが、中国の場合はどうなるのか?主として今般の制裁対象となる半導体製造装置を中心に中国半導体産業の現在地を考察する。◆「中国製造2025」発表の苦い経験から習近平政権は真相を発表しなくなった2015年に習近平政権は中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を発表し、ファーウエイなどが世界を席巻する状況を創り上げた(詳細は『「中国製造2025」の衝撃』)(※2)。しかし、そのことがアメリカに強烈な警戒心を抱かせ、アメリカは次から次へと中国の半導体産業への制裁を打ち出して、中国の半導体産業が立ち直れないようにしたのは記憶に新しい(詳細は『米中貿易戦争の裏側』)(※3)。日本が天安門事件後の対中経済制裁に対して、「中国を孤立させてはならない」としてトウ小平を応援し、制裁を解除してきたことは、これまで何度も書いてきた。それがこんにちの中国の経済繁栄をもたらしたことを疑う人はもういないだろう。しかし、このとき実はアメリカもまた「ひそかに中国を支援した」ことを知る人は少ないかもしれない。このことは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】の【一、「一つの中国」原則はアメリカが進め、経済大国中国は日本が創った】で詳述した。このときアメリカは、「中国はアメリカの下請け業務」という分担をすればいいと位置付けていた。アメリカの製造業の手間暇かかるプロセスは全て中国に持って行き、安価な密集型労働力でブルーカラーを使って、アメリカ企業は儲けだけを頂く。この方針によって中国は世界の工場と化し、中国は世界の加工生産国家となりはててしまったのである。しかしこのままでは中国は後進国のままで終わると方針転換をしたのが冒頭に述べた「中国製造2025」だ。このときに習近平政権はニューノーマル(新常態)政策を提唱し、GDPの「量的成長から質的成長」への大転換を断行した。これにより中国のGDPの量的成長は抑えられ、質的に成長させる(=研究開発を重視する)方向へと転換した。外界から見れば「中国の経済発展が鈍化したので、中国経済はまもなく滅びる」と映り、中国崩壊論者を大いに喜ばせた。ところが7月22日のコラム<習近平の行動哲理【兵不血刃】(刃に血塗らずして勝つ) 狙うは多極化と非米陣営経済圏構築>(※5)にも書いたように、習近平はアメリカからの制裁を増やさないように「中国半導体産業の成果と展望」を外部に漏らさずに(=アメリカと戦火を交えないようにしながら=制裁をこれ以上増やさないようにしながら)、実は着々と中国半導体産業の弱点を補うべく、「ひそかに」邁進していたのである。なんとしても「制裁外交」で世界を一極支配するアメリカと切り離した経済圏(非米陣営経済圏)を構築しようと、半導体産業においても戦略を練っている。◆露光装置に関する中国の実態中国が最も弱いのは、半導体製造装置の中でもリソグラフィー技術を中心とした露光装置に関してだ。半導体は小さなチップに非常に細かい配線が描かれており、その配線パターンを「光照射」によって作ることを露光プロセスと呼ぶ。光照射によって変化する材料(レジスト)の膜をウェハー上に作った状態で露光した後、光が当たった部分のレジストを除去することでパターンが形成される。これが露光プロセスの基本だ。7月23日から実行される日本の対中輸出規制も、まさに露光装置を中心としたものである。中国語では「光刻机(機)」と訳されており、「光刻机」に関する民間の解説は溢れるようにある。中国政府は、その発表を阻止することはしていないので、「民間の解釈」は適切なことを言っているものと解釈される。これに関しては、あまりに多くの解説があるので、どれをご紹介すればいいか迷うが、たとえば今年5月19日の<露光装置国産化プロセスと関連上場企業>(※6)や、4月24日に公開された<露光装置の各段階における国産化情況>(※7)などが比較的わかりやすく、現状を忠実に表現しているように思われる。中には威勢よく、しかし相当に正確に現状を早口で喋りまくる「大劉」という名の若い解説者もいて、それは7月8日に<ASMLのハイエンド製品は中国大陸と「絶縁」されたが、中国の国産の露光装置はどこまで頑張っているか?>(※8)というタイトルの動画として発表されている。この動画の喋り方の勢いを見ると、「中国がいかに怒っているか」というのが伝わってくるので、一見に値するだろう。ここで言うASMLはオランダの半導体製造装置メーカーで、半導体露光装置(フォト・リソグラフィ装置)を販売する世界最大の会社だ。世界の主な半導体メーカーの80%以上がASMLの顧客で、中国への輸出は15%を占めており、本来中国とASMLの仲は非常に良かった。しかしアメリカが対中制裁を「アメリカの友好国」にも呼び掛けたため、ASMLは非常に不本意ながらアメリカに同調せざるを得ない立場に追い込まれている。こういった背景を理解しながら、中国の現在地を考察すると、おおむね以下のようになる。1.ASMLと中国との関係日本半導体製造装置協会の2019年のデータによると、中国本土の半導体売上高は1,432億4,000万米ドルで、世界市場の34.7%を占め、世界第1位だった。そこでASMLは収益を上げ続けるため、2020年に江蘇省無錫市の高新区(ハイテクパーク)に定住しビジネス拠点を設立した。オランダ政府による輸出禁止を回避するために、ASML は世界で唯一の独特の DUV (深紫外線)露光装置を中国本土に投入する計画を立てていた。しかし2023年6月、オランダ政府は9月1日からアメリカに指示された輸出管理法を実行することに決めた。そこで、ASMLは、規制する製品はすべての露光装置を対象とするのではなく、少数のハイエンド製品であるDUVおよびEUV(極端紫外線)露光装置に限定し、中国専用バージョンを中国で発売できる可能性を残している。ASMLもまた、他人の販路をブロックしている国(アメリカ)の被害者なのだと中国は憤っている。2.光源に関して光源から見たとき、波長ごとに(世代順に)g線(1970年代や80年代に使われた波長の長いタイプ)、i線(90年代に使われた波長のやや短いタイプ)、KrF(90年代後半に使われたクリプトン・フッ素によるレーザー光線)、ArF(フッ化アルゴンによるレーザー光線)およびEUVの5世代があるが、中国は4代目半のArFiに相当した光源を開発することに成功しており、中国科学院・長春光機所とハルビン工業大学が12wのDDP-EUVの開発に成功している。 このArFiの「i」は「immersion(浸潤)」の意味である。3.対物レンズに関して露光装置の構成要素の中には光学系が大きな要素の一つとなっているが、ASMLは対物レンズに関してはドイツのツァイス社のレンズを独占的に使っている。日本の(ASMLに比べれば)小規模露光装置メーカーであるキャノンやニコンは自社レンズを持っているので光学メーカーとして有利だ。中国の場合は現在「長春奥普光電技術股分有限公司」が90nm(ナノメータ―、ナノ)を開発し、「長春光機所」が32nmのEUVレンズを開発している。ツァイス社とは、まだかなりの差がある。4.デュアル・ウェハー・ステージ・システムに関してデュアル・ウェハー・ステージ・システムとは「1台の露光装置内に、同時に2つのウェハーを扱う、露光と計測を同時に行うシステム」のことである。中国語では「双工台」と書く。これに関しては清華大学と北京華卓精科科技股份有限公司(華卓精科)が10nm(移動精度)を実現することに成功している。ちなみにASMLは2nmまで行っている。5.液浸露光システムに関して波長の短い光源を使ったシステムを追求した結果、たどり着いたのが「ArF液浸露光」と「EUV露光」だが、「ArF液浸露光」は光源として波長193nmの「ArF光源」を用いる。この技術を用いることで10ナノ世代の加工精度でパターンを形成できる。中国ではこれに関して「浙江啓爾機電」が「ArFi液浸露光」の実現に成功している。ASMLでは、その先を行く「EUV露光」に移っているが、中国では、「半導体製造装置国産化黎明期の最後の一瞬が来た」とみなしている。「夜明けは近い」と期待しているのだ。◆伝統的な半導体やパワー半導体で勝負する中国アメリカがハイエンド製品に対する対中制裁を強化するなら、中国はもっと線幅の大きな伝統的な半導体製造ラインに切り替えようという動きもあり、特にパワー半導体(電源電力の制御や供給を行う半導体)に力を入れる戦略を実行している。パワー半導体に関しては、たとえば<中国銀河証券研究院の報告書>(※9)に書いてあるように、2020年の中国におけるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor=絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ=パワー半導体デバイスの一種)の自給率は20%で、2024年では40%に達すると予測されている。宇宙開発においてもアメリカを抜いており、アメリカの制裁外交が効を奏する期間には賞味期限があり、油断はしない方がいいのではないだろうか?アメリカには中国が製造装置を含めて国産化できるようになるまでに時間を稼ぎ、米側陣営の技術力をその間にさらに高める目算があるだろうが、中国はアメリカの「制裁外交」を嫌う人類85%を占める「非米陣営」を相手に、「制裁されたがゆえに可能となる非米陣営経済圏」の構築を成し遂げないとも限らない。つまり、アメリカの「制裁外交」が裏目に出るということだ。どちらに正義があるか、どちらに付いている方が将来的に有利かを世界が見ていることに、日本も留意した方がいいかもしれない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4569842178/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4620326097/(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※5)https://grici.or.jp/4469(※6)https://www.9fzt.com/jfyx/research_c9410f174bc876dfbc52c383cb75fcbc.html(※7)https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202304241585733312_1.pdf?1682350463000.pdf(※8)https://www.bilibili.com/video/av785654106/(※9)https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202207221576450369_1.pdf?1658501440000.pdf <CS> 2023/07/26 10:21 GRICI 宇のNATO加盟に消極的な発言をしたバイデン大統領は、台湾選挙民を親中に向かわせるか?【中国問題グローバル研究所】 *10:26JST 宇のNATO加盟に消極的な発言をしたバイデン大統領は、台湾選挙民を親中に向かわせるか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。7月12日に閉幕したNATO首脳会議では、ウクライナのNATO加盟に関し具体的な時期は示されず、特にバイデン大統領の躊躇が目立った。それは来年1月の台湾の総統選に対して影響をもたらし、今年7月16日に開催される野党連合の抗議デモを活気づけるのではないだろうか。◆結局は躊躇したバイデン大統領リトアニアで開かれていたNATO首脳会議は12日に閉幕し、ウクライナのNATO加盟に関しては結局、具体的な時期までは示せないまま終わった。ウクライナへの長期的な支援をすることでは合意し、加盟手続きに必要なプロセスが短縮されることになったものの、加盟の条件として「NATO加盟国全員が同意すること」が要求されており、果たしてその日が来るのか否かは誰にもわからない。アメリカのバイデン大統領は7月7日のCNNの単独取材を受けて<ウクライナのNATO加盟検討には戦争終結が必要>(※2)と語っていたことが10日の報道で明らかになった。リンク先のビデオで、バイデンは以下のようにも語っている。●私はウクライナをNATOに加えるかどうかについて、現時点で戦争のさなかに、NATO内で意見が一致しているとは思わない。●もしウクライナがNATOに加盟した場合、NATOは加盟国の領土を隅々まで守るので、戦争が行われている場合には、NATO加盟国全てがロシアと戦争状態になる。●ゼレンスキー(大統領)と長時間にわたって電話で話したが、彼には「手続きが継続する間、アメリカやNATOはウクライナに安全保障と武器を供与し続けると伝えた。(取材の概略は以上)一方、NATO首脳会議のあと、ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナがNATO加盟に向けた課題などを対等な立場で名はし合うことが出来る「NATOウクライナ理事会」を新設すると宣言したが、それが加盟時期を早めることが出来るか否かに関しては言及していない。従って、加盟までにどれくらいかかるのか、あるいは最終的に加盟できるのか否かは、やはり定かではない。◆台湾では7月16日に野党連合の抗議デモこの結果を、ウクライナの次に強い関心を持って見守っていたのは台湾の選挙民たちではなかっただろうか。実は台湾では7月16日に野党が連合した現政権への抗議デモが行われることになっている。筆者が所長を務めるシンクタンク中国問題グローバル研究所の台湾代表・研究員で、淡江大学中国大陸研究所の陳建甫所長は、7月12日に<Taiwan’s Opposition Parties: A Protest March or a Carnival for Fairness and Justice?(台湾の野党:抗議デモあるいは公平と正義のためのカーニバル?)>(※4)という論考を書いている。それによれば、現在の与党である民進党以外の全ての野党が集まって「716台北大規模デモ」を行うという。これは来年1月に行われる「中華民国」総統選に立候補する全ての野党や立候補者の支援団体や党派も含んでいるため、場合によっては「反民進党大連盟」ができ上るかもしれない。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】で詳述しているように、現在総統選に立候補しているのは与党・民進党で独立色の強い頼清徳(らい・せいとく)氏(民進党主席)と野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(新北市市長)と台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏(台湾民衆党党首)なのだが、どの党派にも属さない郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、単独で総統選を闘うべく支援者などを組織しているので、彼も立候補者の一人になり得る。与党・民進党以外の、そういった政党や支援者たちが一堂に集まるので、台湾では「716台北大規模デモ」を「総統選における与党に反対する統一戦線のプラットフォーム」だという風に位置づけている。くり返すが、与党の民進党は「台湾独立」傾向が強く、親米だ。野党は、必ずしも「親中」とはいかないまでも、「独立」を叫ぶことはない。独立を叫べば、中国大陸側が「反国家分裂法」により、台湾を武力攻撃する可能性が高まる。だから、経済力で中国に勝てそうにないアメリカは、何としても習近平に台湾を武力攻撃させ、台湾を第二のウクライナへと追いやろうとしていると、野党の多くはみなしている。だから平和裏に経済的に提携していこうという人たちが多い。ウクライナ戦争が始まって以来のアメリカの一挙手一投足を、少しでも見逃すまいと観察し続けているのだが、アメリカがアメリカ人兵士を一人たりともウクライナの戦場に送ることなく、ひたすら武器の供与(売却?)のみを続けているのを実感し、台湾が戦場になっても同じことをするだろうという「疑米論」が広がっているのだ。◆バイデンは自ら「自分の夢を砕く」発言をしていないか?そこに、今般のウクライナNATO加盟に関するバイデンの発言があったものだから、この「716台北大規模デモ」をプラットフォームとして、来年1月の総統選挙では、「反独立派」の大連合ができ上るかもしれないのである。独立を叫びさえしなければ、中国大陸側は台湾を武力攻撃しては来ない。習近平としては、国連で「一つの中国」が認められているので、独立を叫ばなければ、台湾を武力攻撃などする理由は皆無だ。そのことをテリー・ゴウが4月の時点で明言している。鴻海(ホンハイ)精密工業の創設者だけあって、長いこと大陸で仕事をしていたから、大陸のことをよく分かっている(このことは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※6)のp.220に書いた)。台湾はアメリカが積極的に中国(中華人民共和国)を国連に加盟させ、同時に「一つの中国」を承認しているために、「中華民国」として国連を脱退せざるを得ないところに追い込まれた。米中国交が正常化した日に、アメリカは「中華民国」と国交断絶もしている。したがって台湾としては、ウクライナのように「一国家として」、何かしらの「(NATOのような)集団的自衛権が確保される軍事同盟」に入る資格がそもそもない。あるのは唯一、アメリカが「中華民国」と国交断絶したときにアメリカの国内法で定めた台湾関係法だけだ。台湾関係法により、アメリカは台湾に武器を売却する権利を持っている。しかしウクライナと同じように、アメリカ軍が一人でも台湾の戦場に来て台湾のために戦ってくれるという可能性はないだろうと、台湾の多くの人たちは考えている。戦うのは台湾人でしかない(実は日本には世界で最大のアメリカ軍基地があるので、命を捨てて戦うのは台湾人と日本人だけかもしれない)。となれば、台湾の選挙民は「戦争にならない道」を選択するだろう。それはすなわち、中国大陸と仲良くし、経済繁栄だけをしていく選択となる。バイデンとしてはロシアを潰し、次に何としても中国を潰そうとしているが、果たしてその夢は叶えられるだろうか?CNNの単独取材への回答は、自らの夢を砕く結果を招くかもしれない。7月16日の野党大連合デモの成り行きを見守りたい。追記:そもそもバイデンは副大統領だった2009年7月にウクライナを訪問して、「ウクライナのNATO加盟を強く支持する」と発言。誰も相手にしなかったが、2013年末から2014年初頭にかけてマイダン革命を起こさせてウクライナの親露派政権を転覆させ、新しく誕生させた親米政権に対して「NATO加盟を首相の努力義務とする」という文言をウクライナ憲法に盛り込ませた。他国への干渉という意味で国際法違反までしてウクライナ戦争勃発を誘導しておきながら、戦争が始まったら「ウクライナはNATO加盟国ではないのでアメリカは参戦しない」と言い、今度は「戦争中なのでウクライナのNATO加盟は適切でない」と主張するなど、やりたい放題だ。台湾がアメリカを信用するなどということが出来るはずがないだろう。命がかかっているのだから。日本人の命もかかっていることを忘れないでほしい。ウクライナも台湾も日本も、バイデンにとっては「駒の一つ」に過ぎない。写真: 訪米したNATO事務総長と会談するバイデン大統領(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.cnn.co.jp/video/22009.html?utm_source=yahoonews&utm_medium=news_distribution&utm_campaign=contents_distribution_ynews_photo(※3)https://grici.or.jp/(※4)https://grici.or.jp/4427(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/ <CS> 2023/07/14 10:26 GRICI 習近平はワグネル事件でプーチンへの姿勢を変えたか?【中国問題グローバル研究所】 *10:22JST 習近平はワグネル事件でプーチンへの姿勢を変えたか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。ワグネル事件によりプーチンの立場が弱体化したので、習近平が対露戦略を変えるのではないかという憶測が散見される。中国は今回の事件をどのように位置づけているかを考察することによって、その憶測に対する筆者の見解を示したい。◆中国における初期報道6月23日、ロシアの民間軍事会社、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がロシア国内のロストフ州で武装蜂起を宣言し、モスクワに向かって「正義の行進」をすると言ったことを、一部の中国人は「ワグナー行進曲」と称している。「ワグネル」という名前が、ドイツの作曲家ワグナーに因んでいるからだ。それくらいの扱いであるという意味で、興味深い。ベラルーシのルカシェンコ大統領が間に入り、「プリゴジンの乱」はわずか1日で終わった。するとロシアのルデンコ外交副部長(副外相)が訪中し、秦剛外交部長(外相)と対談した。これを中国の外交部が発表したのが6月25日15:46で(※2)、短く「中露関係や共通の関心事である国際・地域問題について意見交換した」とのみ報じている。また同日の21:40には、中国外交部は定例記者会見における記者の質問と外交部報道官の回答を短く報道している(※3)。記者からワグネル事件に関して「中国はどう思っているか」と質問されたのに対して、報道官は「これはロシアの内政問題だ。友好的な隣国として、また新時代の全面的な戦略協力パートナーとして、中国はロシアの国家安定を維持し、反転と繁栄を実現することを支持する」と回答したのみだった。しかし、実は6月25日の07:47という早朝に、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版である「環球時報」電子版が<ワグネルの「24時間の反乱」>(※4)という見出しで、長文の論考を掲載していたのである。それはあまりに長いので、要点をまとめるのが困難だが、なんとかまとめてみると、以下のようになる。・プーチンは「裏切り者」を批判し、「武装暴動を組織した人々の排除」を要求すると演説したが、その後、プリゴジンはベラルーシに行き、プリゴジンに対する刑事訴訟は取り消された。・ワグネルはロシアで最も優れた軍事民間企業とみなされており、ロシアの軍事目標を達成し、ウクライナを含む世界中の現地情勢に介入する上で大きな役割を果たしてきた。しかしプリゴジンは、不十分な兵站、ロシア国防省からの不十分な支援、およびロシア政府の「官僚主義」について繰り返し批判し、ロシア正規軍との相克が顕在化した。・しかし、プリゴジンはベラルーシのルカシェンコ大統領の調停を受け入れたとされている。CCTVのニュース報道によると、24日の朝、プーチン大統領はロシア南部のワグネルの状況について電話でルカシェンコに説明し、両首脳は共同行動を取ることに合意した。その後、ルカシェンコはプーチンの調整の下でプリゴジンと会談した。会談は一日続き、双方はロシア領土での流血を止めることで合意に達した。・ベラルーシ側は、有利に受け入れられる解決策を提案し、ワグネル軍の安全も保証できると述べた。ペスコフによると、ルカシェンコとプリゴジンは20年以上前からお互いを知っており、プーチンに任命された調停者であると述べた。(以上は6月25日朝の環球時報の概要。)6月26日になると、環球時報は新華社の情報を転載し、<ホットなQ&A:ワグネルをめぐる緊張は、なぜ急速に緩和されたのか>(※5)というタイトルで、これも非常に詳細に事の顛末を解説している。◆背後にはプリゴジンの金銭問題か6月28日には大きな展開が見られた。中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVのウェブサイトは、<プーチンは武装反乱鎮静化に貢献した軍人たちと会い、ロシア政府がワグネルに年間860億ルーブル(約10億ドル)を支払っていたことを明らかにした>(※6)という生々しいタイトルでワグネルの金銭的実態を報道した。それによれば、以下のような金銭的実態があったようだ。・プーチンは27日、ワグネル事件の鎮静化に貢献した強力な部門の代表と会い、反乱を抑制したことに感謝し、同時にロシア政府がワグネルに2022年5月から2023年5月までの間に862億62万ルーブル(約10億ドル、約1400億円)を支払っていたことを明らかにした。・プーチンによれば、ワグネルは国の資金で賄われているが、この860億ルーブル以外にも、民間軍事企業の所有者であるプリゴジンは軍事関連事業から多くのお金を稼いでおり、たとえば昨年、「彼は軍に食料とケータリングサービスを提供することで800億ルーブル(約9億4万ドル)を稼いだ」と述べた。合計約20億ドルに近い金が彼に支払われれるので、今後はむしろ、ロシアの法執行機関がワグネルとプリゴジンに支払ったお金が、どこに行ったのかを調査するとプーチンは述べた。・プリゴジンは、ロシア軍がワグネルへの弾薬供給を差し控えていると繰り返し非難し、ショイグとゲラシモフを標的として、軍の腐敗を激しく批判してきた。しかし、今度は逆に、プリゴジンに流れた資金のゆくえを捜査することになるだろう。(CCTVの報道は以上。)◆核心に迫っていく中国の報道6月30日、中央テレビ局CCTVは<ロシア下院の国防委員会委員長「ワグネルはロシア国防部(省)との契約締結を拒否してた」>(※7)というテーマで緊急報道を行った。文字がないので、類似の内容を文字で報道している中国政府系メディアの<ワグネルはなぜ反乱したのか?ロシアの上級議員がいくつかの理由を挙げた>(※8)で、何を報道しているのか概観し、おおむねの内容を以下に示す。――6月29日のRT(Russia Today)報道によれば、ロシア下院のアンドレ―・カルタポロフ(Andrey Kartapolov)は、ワグネル事件が起きる前、多くの民間軍事会社(傭兵集団)の中で、ワグネルだけがロシア国防部と合同の軍事組織になることを拒絶した。このロシア下院国防委員会委員長は、他の民間軍事組織は全て、ロシア軍と同じ組織に入り、正規軍になることに同意したのに、プリゴジン一人だけが強烈に反対し、正規軍になることを拒絶した。もし正規軍になると、これまでプリゴジンが享受してきた膨大な収入が彼のポケットに入らなくなるので、拒否したものと思われるが、もしロシアの正規軍にならないのなら、ウクライナでの軍事作戦への参加を継続することは許可されないと国防委員長は語った。軍事作戦に参加しないのなら、当然のことながら、これまでのような潤沢な資金や物質的な供与は無くなることを意味する。プリゴジンにとっては、資金調達こそが最も重要な要素で、おそらくこのことが理由で、反乱を試みたものと思うと、国防委員長は語っている。◆スロビキン副司令官逮捕はフェイク・ニュースか?一方、ロシアのメディアの一つである「モスクワ・タイムズ」が29日、ロシア軍のスロビキン副司令官が逮捕されたと報道し、ニューヨーク・タイムズも米政府高官の話としてスロビキンがプリゴジンの反乱計画を事前に知っていたとみて、彼がプリゴジンの反乱実行を助けたのか確認していると報道しているようだが、中国では、これは「フェイク・ニュースだ」という情報が流れている。6月29日のThe Paperは、<ワグネル反乱後、スロビキンが逮捕された噂が流れているが、彼の娘は「噂は真実ではない」と述べた>(※9)と報道している。筑波大学の教え子でロシアに戻った元ロシア人留学生に確認してみたところ、「モスクワ・タイムズは西側のニュースをそのまま流すところで、西側が希望するフェイク・ニュースも流しますから、私は信用していません」との回答を得た。真実は那辺(なへん)にあるのか、まだ分からないが、「モスクワ・タイムズ」が西側によって操作されているメディアであることを知ったのは、大きな収穫だった。◆習近平の対露姿勢は変わっていない以上、中国における報道の内容から見て、習近平の対露姿勢は変わったいないと結論付けることができるだろう。むしろ、習近平は、国家主席になった2013年から軍の腐敗を徹底して摘発する戦略を実施し、おおむね腐敗が撲滅された2015年末に、軍事大改革を行って、軍事に関しては全て一律に中央軍事委員会が直轄する大きな組織改造を行った。したがってロシア国防部が傭兵のような民間軍事組織をまだ温存させていたことには違和感があっただろうし、このたび傭兵を撤廃してロシアの正規軍に編成していくことにしたのは、実に好ましいことだと受け止めているだろう。『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』(※10)に書いたように、これまで通り内政干渉をすることなく、軍冷経熱という対露戦略を貫いていくのではないかと思われる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/web/wjbz_673089/xghd_673097/202306/t20230625_11103234.shtml(※3)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/fyrbt_674889/202306/t20230625_11103402.shtml(※4)https://3w.huanqiu.com/a/0c789f/4DRqStQYg1G(※5)https://3w.huanqiu.com/a/3458fa/4DSkf9jfdfk(※6)http://news.cctv.com/2023/06/28/ARTI0ApHjKLjb2edWvtBOp8z230628.shtml(※7)http://tv.cctv.cn/2023/06/30/VIDE28zNsecJp4Xlzx5V6Fig230630.shtml(※8)http://news.china.com.cn/2023-06/30/content_90215372.htm(※9)https://mbd.baidu.com/newspage/data/landingsuper?pageType=1&context=%7B%22nid%22%3A%22news_8680836547986537969%22,%22sourceFrom%22%3A%22bjh%22%7D(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4569852327/ <CS> 2023/07/03 10:22 GRICI イスラエル首相が来月訪中か 加速化する習近平の多極化戦略【中国問題グローバル研究所】 *10:22JST イスラエル首相が来月訪中か 加速化する習近平の多極化戦略【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。イスラエルのネタニヤフ首相が来月訪中すると、イスラエルのメディアが報道した。中東で弱体化するアメリカを尻目に、中東和解外交をバネにして、習近平は一気に「米一極から多極化への地殻変動」を起こそうと狙っている。◆ネタニヤフ首相訪中を中国の「環球時報」が速報6月27日の環球時報は<イスラエルメディア:ネタニヤフ首相が来月中国を訪問 これはワシントンにますます我慢ならない証拠>(※2)というタイトルで速報を発信した。それによれば「イスラエル・タイムズ」が6月26日、「イスラエルのネタニヤフ首相が来月中国を訪問する。この訪問はバイデン大統領を苛立(いらだ)たせるだろう」という見出しで、報道したとのこと。以下、環球時報が紹介している「イスラエル・タイムズ」の概要を記す。――(アメリカの大統領)バイデンは、これまでネタニヤフ首相を短期内にはアメリカに招待しないと明言しており、ネタニヤフの日程を見ると同氏がワシントンに対してますます我慢ならないと思っていることがわかる。イスラエル国内で政府の司法改革計画に対する抗議活動が勃発したとき、バイデンは今年3月、イスラエルのネタニヤフ首相を短期内にホワイトハウスに招待するつもりはないと述べ、かつ、イスラエルはこのような反対運動があるような司法改革を進めるべきではないと警告した。イスラエル側関係者は、「ネタニヤフの中国訪問計画は、ネタニヤフが他の外交のチャンスをも追求していることをワシントンに知らせるためのシグナルである」と述べた。「ネタニヤフ首相は、いつまでも来ないホワイトハウスからの招待状を、ただ待っているようなことはしない」と、関係者は「イスラエル・タイムズ」に語った。同関係者はまた、「中国の中東への関与が最近急速に増大しているのだから、ネタニヤフがイスラエルの利益のために中国を訪問するのは、当然のなりゆきだ」とも述べた。しかしネタニヤフ訪中に関して、イスラエル政府はまだ正式なコメントは避けている。今年3月10日、サウジアラビアとイランは7年間の国交断絶を経て、中国の仲介により国交を回復し、大使館を再開することで合意した。 ネタニヤフ首相は中国の助けを得てサウジアラビアとの関係を進展させるつもりのようだ。しかし、この動きはワシントンに激しい不満を抱かせるだろう。なぜならアメリカこそが、サウジアラビアとイスラエル両国の和解を仲介しようとしてきたからだ。イスラエル側のハイレベルの関係者は、ネタニヤフ首相の中国訪問の旅は「これまでの枠組みを破壊する力を持っている」と表現している。なぜなら、アメリカは長期にわたって中東で重要な地位を占めてきたし、特にイスラエルはこの地域におけるアメリカの最も重要な同盟国の一つだからである。(以上、環球時報より)◆もし習近平がパレスチナ問題を解決できたら6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>(※3)で、パレスチナのアッバス議長が訪中し、6月14日に習近平国家主席と会談したと書いた。そのコラムでも書いたように、習近平はパレスチナ問題を解決すべく、パレスチナとイスラエルの両国に声を掛けてきたし、イスラエルとも非常に友好的な関係を結んできたが、アッバス議長と交わした条件では、イスラエルが呑みにくいだろうことは容易に想像がつく。しかしイスラエルのネタニヤフ首相が訪中するとなれば、パレスチナに多少譲歩してもらってでも、この積年の問題であるパレスチナ問題を、ひょっとしたら習近平が解決することになるかもしれない。そうなると中東におけるアメリカの居場所はなくなるだけでなく、習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動は一気に加速し、世界はアメリカを中心としてではなく、中露印を中心として構築される「新秩序」へと転換していく可能性が大きくなる。◆原因はNED(全米民主主義基金)が起こしたカラー革命なぜ、このようなことになったかというと、最大の原因はNED(全米民主主義基金)が世界各地で起こしてきたカラー革命だ。中東では「アラブの春」と呼ばれ、それまで長年にわたって続いてきた中東諸国の政権を転覆させ、紛争と混乱と無秩序を招いた。政権に不満を持った市民がいると、その市民団体に資金を提供して政府転覆のためのデモを起こさせ、親米的な政権を樹立させることが目的だ。戦争にもなるので、アメリカの戦争ビジネスが繁昌するという仕組みになっている。無残な戦争で命を落とし、絶望的な貧困の中に追い込まれた少なからぬ中東諸国は、アメリカの、「民主」の名の下における他国への内政干渉と、転覆されなかった政権に対する過酷な経済制裁などに、もう嫌気がさしたのである。中露が中心になって進めてきた上海協力機構には「他国の内政干渉をしてはならない」という条項があるため、習近平は他国への内政干渉はしない。中東地域特有の宗教とも関係ないので、経済的結びつきのみで関係を深めていくことができる。冒頭で引用した「イスラエル・タイムズ」が触れている「抗議活動」も、6月16日のコラム<習近平はパレスチナとイスラエルを和解させることができるか?>(※4)に書いたように、NEDが市民を焚きつけたものだ。そのことをネタニヤフ首相の息子(ヤイール・ネタニヤフ)が糾弾している。現在進行中のウクライナ戦争も、元はと言えばNEDが2004年に起こしたオレンジ革命と2014年に起こしたマイダン革命に最大の原因がある。詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※5)のp.257に書いたが、NEDのウェブサイトにある会計報告に、2004年のオレンジ革命に関して、NEDは6500万ドルを提供し、ウクライナ市民が親露派のヤヌコーヴィチ大統領を下野させるよう抗議活動を支援したとある。ヤヌコーヴィチは一度下野したものの、2010年の選挙で再び大統領に当選したので、今度こそは親露派大統領を徹底して痛めつけようと画策したのが当時の副大統領だったバイデンだ。バイデンは根っからのネオコン(新保守主義者)で、NEDはネオコンの根城のようなものだ。NEDはもともと、何としても「反ロシア政権」を誕生させて、プーチンを下野させたいという強烈な目標を持っている。バイデン大統領は2022年3月26日のワルシャワでの演説で、プーチン大統領に関して「この男は権力の座に留まってはならない」と明言して、プーチン政権を転覆させる狙いを示唆している。何が何でもプーチン政権を転覆させたいのである。プーチンのウクライナ侵攻は肯定しないものの、アメリカのその目的を、対露制裁に加わっていない人類の「85%」は知っている。事実、2022年10月には、トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏は、「ロシア内部に働きかけてプーチン政権を打倒せよ」という趣旨の論考を発表している。すなわち、「NEDがロシア市民に働きかけて(資金を提供し)政府転覆を謀れ」ということである。NEDは必ず市民団体に資金を提供する形で政府転覆を支援する。そうでないと、法に触れるからだ。こうして、アメリカはNEDを使って、アメリカの気に入らない既存政権を転覆させることしか考えてない。転覆しなければ徹底した制裁を加える。これが、アメリカのやり方である(トランプ政権だけが例外だった)。言論弾圧をする中国が構築する世界新秩序の中で生きていくのは嫌だが、戦争に巻き込まれるのは、もっと避けたい。しかし、アメリカの次のターゲットは中国。NEDを使って台湾有事を何としても作り出そうとしている。そのときに命を落とすのは、ウクライナ同様、台湾人と日本人だ。戦争は起きてからでは遅い。戦争に巻き込まれる前の今だからこそ、人類の「85%」には見えていて、日本人には見えていない現実を直視してほしいと、心から願う。イスラエルのネタニヤフ首相が訪中する情報に接した時などでも、私たちはこういう視点で世界が見えるようになりたいものだと思うのである。写真: 2017年に訪中したイスラエルのネタニヤフ首相と習近平国家主席(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/4DTazNTpmTC(※3)https://grici.or.jp/4346(※4)https://grici.or.jp/4346(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/ <CS> 2023/06/28 10:22 GRICI ロシア首相の訪中は3月21日に決まっていた――G7の結果を受けてではない【中国問題グローバル研究所】 *14:47JST ロシア首相の訪中は3月21日に決まっていた――G7の結果を受けてではない【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。―――NHKではロシアのミシュスチン首相の訪中はG7における激しい対中露非難に追い詰められ、それに対抗した結果だと解説し、日本全国をミスリードした。実際は、習近平のモスクワ訪問時に訪中が決まっていた。この構造を見逃すと、習近平がいま何を狙っているかが全く見えてこない。◆ミシュスチン首相の訪中は、3月21日に習近平との会談で約束されていたミシュスチン首相の訪中を受け、NHKは「中国問題専門家」に、「ロシアの首相が訪中しているのは、G7広島サミットにおける激しい対中露非難に追い詰められた結果ではないか」、「対中露非難に対抗しようとしているのではないか」という趣旨の解説をさせていた。あまりテレビを観ないのだが、その時たまたまつけていて、「専門家」の解説を聞き、仰天した。すると日本全国、「ロシアのミシュスチン首相は、G7広島サミットの成果に追い詰められた結果、あわてて訪中したのだ」というトーンの大合唱に酔いしれた。なんということか・・・!このような自画自賛に陶酔している間に、中国は着々と手を打っていく。それは決して日本国民の将来の幸福にはつながっていかない。不幸を招くだけだ。真相を書こう。習近平国家主席は3月20日から22日までロシアを訪問し、モスクワでプーチン大統領と会っただけでなく、21日にはミシュスチン首相とも会っている。中国共産党新聞網(※2)を始め、数えきれないほどの中国政府や一般のウェブサイトが大々的に伝えている。また5月19日には中国外交部(※3)がロシアのミシュスチン首相が5月23日から24日にかけて中国を正式訪問すると書いているし、記者会見でも詳細に答えている。(※4)一方、3月21日のアメリカの経済誌フォーブス(Forbs)ロシア語版は<習近平はプーチンとミシュスチンを中国に招待した>(※5)という、非常にストレートな表現で「3月21日に習近平がミシュスチンと会って中国訪問を招待した」ことを書いている。報道によれば、「ミシュスチンはその場で招聘に応じた」とのこと。実は筑波大学に留学して今はモスクワに戻っている教え子に連絡して確認してみたところ、ロシアのテレビでは習近平がミシュスチンに直接「是非とも中国訪問をご招待したい。李強という新しい国務院総理が誕生したので、ぜひ彼にも会って欲しい」と言っている場面を放映したとのことだった。プーチンの場合は、「一帯一路」10周年記念の国際フォーラムに参加するか否かなので、その場では感謝の意を表しただけで、直ぐに「招聘を承諾した」という形ではない。G7広島サミットは5月19日から始まり21日に閉幕している。その間に対中、対露に関する厳しい批難を出しているのであって、3月21日に訪中を決定し、19日に中国外交部が訪中日程を発表したということは、G7広島サミットの結果が出るかなり前からミシュスチン訪中の日程は決まっていたものと解釈していい。なぜなら、5月21日のコラム<なぜ習近平は中国・中央アジア首脳会談を開催したのか?>(※6)にも書いたように、「中国・中央アジア首脳会談」は1年前から決まっていたので、ミシュスチン訪中は、その後でないと日程が重なり過ぎるからだ。こういう大きな流れを見ることなく、近視眼的に中国の動きを解釈して自己満足しているのは、日本国民の利益を損ねる。◆上海での中露ビジネスフォーラム中国外交部は前掲の5月19日の記者会見(※7)で記者の質問に対して「今年3月、習近平国家主席はロシアを公式訪問し、両首脳は次の段階における二国間関係の発展と様々な分野での協力について重要な合意に達した。我々は、ミシュスチン首相の中国訪問が、二国間協力を一層強化し、人的交流及び地域交流を深め、世界経済の回復に力強い勢いを注入することを期待する」と答えている。その回答通り、ミシュスチンはまず上海を訪問し、大規模な中露ビジネスフォーラムを開催した。その内容に関しては、あまりに情報が多くて一つのコラムでは書ききれないが、たとえば、<ロシア首相の訪問中、中露は今年2000億米ドルの貿易を目指す>(※8)や、<ロシア首相大型訪中代表団を引率:今年の両国の貿易高は2000億米ドルになると信じる>(※9)など、「2000億ドル(約27兆6000億円)」に関する話題が目立つので、その周辺の内容を列挙してみよう。・フォーラムの開会式は中国の王文濤商務大臣とロシアのレシェトニコフ経済開発大臣が共同主宰した。ロシアからは首相以外に、3人の副首相、5人の大臣、一部の大企業幹部を含む高官と大物ビジネスマンなど数百人が参加した。「ロシア政府の海外会議」と言われている。中露双方で1100人以上が出席した。・今年、中露両国間の貿易量は2000億米ドルに達するとされている。この数字は、ロシアの穀物が中国に輸出され、中国のブランド車がロシアで現地生産を達成し、ロシアの中国へのエネルギー供給が今年約40%増加し、中国人は将来のロシアへの旅行のためにビザなしの待遇を受ける可能性が高いなどを背景として計算されている。・ロシアの2大銀行の一つであるVTB銀行の総裁は、「上海で、ロシア中央銀行が人民元を備蓄し、ロシアと中国の貿易の70%以上に人民元とルーブルを提供している」と発表した。・中国税関総署が発表したデータによると、中国とロシアの間の二国間貿易量は2022年に記録的な1902.71億米ドルに達し、前年比で29.3%増加している。・ロシアのノバク副首相兼エネルギー大臣は「ロシアの中国へのエネルギー供給は今年約40%増加すると予想されている」と述べた。ミシュスチン率いるロシア代表団の訪中期間に、「シベリアパワー2」天然ガスパイプラインに関する合意を推進する可能性があり、完成すると、モンゴルの領土を通じて年間500億立方メートルの天然ガスを中国に供給することになる。昨年、「シベリアパワー1」パイプラインは155億立方メートルの天然ガスを中国に供給した。2025年までに、ロシアから中国に供給される天然ガスの量は380億立方メートルに増加すると予想される。「シベリアパワー2」が完成すれば、ロシアの中国への天然ガス供給は2030年までに980億立方メートルに達すると予想される。・一部の米国メディアは、中露接近を心配している。中露パートナーシップの確立により、地政学的地域経済の利益が高まり、北京・モスクワの緊密化は米国とその同盟国に「困難を生み出す」だろうと懸念している。中露は、これまでの米国による一極支配の影響力に対抗し、すべての国が核心的利益を守ることを可能にする多国間アプローチを促進するために大きな努力を払っている。中露は米国の「一極化」に対処するために、多国間のバランスと秩序への復帰を提唱している。(筆者注:これこそは7月初旬に出版する『習近平が狙う地殻変動 米一極から多極化へ』で描いた内容そのものである。その一致にむしろ驚きを禁じ得ない。一部の米国メディアは、よく分かっていると感心する。)◆習近平との会談でミシュスチンは24日午後、北京で習近平と会談した(※10)が、その中で習近平が語った以下の言葉は注目に値する。・国連、上海協力機構、BRICS、G20など多国間場での協力を強化すべきだ。・中国はロシアおよびユーラシア経済連合諸国と協力して、「一帯一路」共同建設とユーラシア経済連合との接合と協力を促進し、より開かれた地域市場の形成を促進し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定性と円滑性を高め、地域諸国に繁栄をもたらし、真の利益をもたらすべく力を注ぐ。すなわち、習近平は「中露+グローバルサウス」を中核として「多極化した世界新秩序」を構築しようとしているが、実は「国連に関しては強い」という自信を持っている。なぜならG7の周りに集まっている西側諸国は人類の15%に過ぎず、残りの全人類「85%」は中露側に付いていることを知っているからだ。来日中のマレーシアのマハティール元首相(97)は5月24日、日本外国特派員協会で記者会見し、G7広島サミットについて「同じような考えを持つ国々が集まって会議をするのは、独り言を言っているようなものだ」などと批判した。(※11)見事だ!まさにその通りだとしか言いようがない。(本論はYahooニュース個人からの転載である)写真:代表撮影/ロイター/アフロ※1:https://grici.or.jp/※2:http://cpc.people.com.cn/n1/2023/0322/c64094-32648867.html※3:俄罗斯总理米舒斯京将访华__中国政府网 (www.gov.cn)※4:俄罗斯总理米舒斯京将访华,中方对此有何期待?外交部回应 (baidu.com)※5:Си Цзиньпин пригласил Путина и Мишустина приехать в Китай | Forbes.ru※6:なぜ習近平は中国・中央アジア首脳会談を開催したのか? | 中国問題グローバル研究所 (grici.or.jp)※7:俄罗斯总理米舒斯京将访华,中方对此有何期待?外交部回应 (baidu.com)※8:China, Russia eye $200 billion of trade this year amid Russian PM’s visit - Global Times※9:俄总理率大型代表团访华:相信今年能让两国贸易额达到2000亿美元|米舒斯京|上海市|俄罗斯_新浪新闻 (sina.com.cn)※10:习近平会见俄罗斯总理米舒斯京 (huanqiu.com)※11:https://news.yahoo.co.jp/articles/09d0d398068fa4463088cec4dd1664486d0efdb5 <TY> 2023/05/30 14:47 GRICI 「台湾有事」はCIAが創り上げたのか?!【中国問題グローバル研究所】 *10:41JST 「台湾有事」はCIAが創り上げたのか?!【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。4日、米国家情報長官は台湾有事で世界経済は年間134兆円の打撃を受けると警告した。しかし台湾を自国領土と位置付ける中国には台湾を武力攻撃する理由はない。武力攻撃させるため台湾の独立派を応援しているのは日米ではないのか。◆台湾有事で年間134兆円の打撃を受けると米国家情報長官5月5日、「ワシントン共同」は<台湾有事で130兆円打撃 米長官、半導体生産停止>(※2)と報道した。それによれば、アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(元CIA副長官)は4日、中国による武力侵攻で世界的なシェアを占める台湾の半導体生産が停止すれば「世界経済は甚大な影響を受ける」と指摘した。最初の数年間は年間6千億~1兆ドル(約80兆~134兆円)以上の打撃となる可能性があると、上院軍事委員会の公聴会で証言したとのこと。ヘインズは、台湾は半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)を抱えており「台湾の半導体は世界中のあらゆる電子機器に組み込まれている」と説明し、生産が止まれば米経済への影響は避けられないとしつつ「中国経済が受ける打撃の方が深刻だ」と強調したという。(以上、ワシントン共同の報道から。)アメリカ合衆国国家情報長官( Director of National Intelligence=DNI)は、アメリカ合衆国連邦政府において情報機関を統括する閣僚級の高官である。インテリジェンス・コミュニティーを統括し、アメリカ合衆国連邦政府の16の情報機関の人事・予算を統括する権限をもつ。以前は中央情報長官(DCI)が中央情報局(CIA)とインテリジェンス・コミュニティー全体の両方の統括を行っていた。しかし、DCIが自分の統括する組織であるCIAの指揮に集中してしまったり、情報活動の8割以上を行っている国防総省との対立が原因でインテリジェンス・コミュニティーの指揮や調整の役割を果たしていなかった。2001年の同時多発テロを防げなかった一因には、情報機関の連携不足が指摘されている。そこで、2004年に情報改革とテロ予防法(Intelligence Reform and Terrorism Prevention Act of 2004)により国家安全保障法が改正されて国家情報長官が新設されたという経緯がある。それまでの中央情報長官は、CIA専属の長官である中央情報局長官(CIA長官, D/CIA)に改められた。本稿でCIAと称しているのは「中央情報局」のことである。◆中国大陸から見たら、台湾問題は内政干渉1971年7月9日、当時のアメリカのリチャード・ニクソン大統領(共和党)は、ニクソンの下で国家安全保障担当大統領補佐官(のちに国務長官)を務めていたヘンリー・キッシンジャーを、誰にも見つからないような形で極秘裏に訪中させた(忍者外交)。キッシンジャーは当時の中国の国務院総理であった周恩来と会談し、米中国交樹立の用意があることを告げた。その際、中国側としては「一つの中国」原則を断固として要求した。すなわち、「中国」という国家には「中華人民共和国(=共産中国)」しか存在せず、「中国という国家を代表するのは中華人民共和国のみである」という大原則で、もし「中華人民共和国」と国交を樹立したければ、その絶対的な前提条件として、「中華民国」台湾とは国交を断絶しなければならないということが強く要求された。これらを水面下で了承した上で、1971年7月15日に、ニクソンは「1972年2月に中国を訪問する」と発表し世界を驚かせた。だからこそ、1971年10月25日、第26回国連総会で、中華人民共和国(中国)が「中国を代表する唯一の合法的な国家」として国連に加盟することができたのである(第2758号決議)。同時に「中華民国」台湾は国連脱退へと追い込まれた。こうしてアメリカは1979年1月1日に正式に米中国交正常化を成し遂げ、同時に「中華民国」台湾との国交を断絶している。日本の場合はその前の1972年9月29日に日中国交正常化共同声明を発表した。もちろん同時に「中華民国」台湾と国交を断絶して、日華平和友好条約を破棄したのである。その結果、中国は中華人民共和国憲法の序文に、「台湾は中華人民共和国の神聖にして不可侵の領土である」と明記するに至っている。ここまで法的に整然とした経緯を経ているので、中国が台湾を自国の領土と主張するのは正当だろう。その統一をどのような形で実現するかに関しては、これは既に中国国内の「内政」になっている。したがって中国にしてみれば、「平和統一」以外に考えていない。武力統一の可能性が出てきたのは2005年で、当時の陳水扁総統が台湾独立を叫び始めたために「反国家分裂法」を制定し、もし台湾が国家として独立しようとしたならば、「国連で認められた『一つの中国』を分裂させる政府転覆罪として処罰するために武力攻撃する可能性を否定しない」ことになった。その後、親中の馬英九政権が誕生したので、中国は台湾周辺での軍事演習をその間は一度もやっていない。全米民主主義基金(NED)は台湾においては2003年以前から浸透しており、NEDは2003年にNEDと同じ機能を持つ「台湾民主基金会」を台湾に設立させている。これは中国を国連に加盟させた時の日米側の中国に対する誓いとは、完全に逆行した「内政干渉だ」と、中国側には映るだろう。◆中国にとって台湾武力攻撃のメリットはゼロ!そもそも中国にとって、台湾を武力攻撃する必要はなく、武力攻撃などしたら大きな損失を中国がこうむるだけだ。その例をいくつか列挙してみよう。1.現段階では中国の軍事力はアメリカの軍事力に勝てないので、台湾を武力攻撃したらアメリカが支援することは歴然としているため、中国が惨敗する。惨敗すれば、中国共産党による一党支配体制は崩壊するので、絶対に自分の方から戦争をしかけるようなことはしたくない。2.台湾には中国が喉から手が出るほど欲しい半導体産業があるので、それをそのまま頂きたいと思っているため、武力攻撃などするつもりはない。武力攻撃などして、万一にも半導体産業が破壊されたら、統一後に中国が非常に大きな損をする。そのため『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※3)の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】に書いたように、2022年11月18日、APECに台湾代表として参加していたTSMCの創設者・張忠謀(モリス・チャン)のもとに、習近平はわざわざ自ら足を運んで会いに行った。二人は互いを褒め合い友好的に会話したが、インドネシアで開催されたG20と、タイで開催されたAPEC全てを通して、習近平が自ら会いに行ったのは、TSMCのモリス・チャン一人である。それくらい習近平はTSMCを重要視している。3.武力攻撃などで台湾を統一したら、台湾の人々が中国共産党政権に対して強い反感と怨みを持つようになり、統一後に一党支配体制が崩壊する可能性が大きくなる。4.特にウクライナ戦争におけるロシアに対する西側諸国の制裁の仕方を十分に知っているので、ここで武力攻撃に出るほど、中国が無策であるということは考えにくい。ほかにも色々あるが、ざっと見ただけでも、少なくとも以上のような基本的な状況がある。◆中国が台湾を平和統一したら、困るのはアメリカならば、なぜ、アメリカはかくも激しく「中国が台湾を武力攻撃する」と叫び続けるのだろうか?それは、中国が平和統一などしたら、経済的にも軍事力的にも中国の方がアメリカを凌駕するので、アメリカとしては何としても、そのような絶望的未来が到来するのを阻止したいからだ。だから、何としても、中国には台湾を武力攻撃してほしいのである。そのために頻繁に米政府高官に台湾を訪問させ、独立を支援している。そうすれば中国が怒って、台湾周辺で激しい軍事演習をしてくれるので、「ほらね、中国はやっぱり台湾を武力攻撃しようとしてるでしょ?」と台湾の人々に言って聞かせ、来年1月の「中華民国」台湾の総統選で、親中派の国民党候補に投票せず、親米で独立志向の強い民進党に投票すれば、親米政権が台湾で継続され、中国を追い詰めることに成功する可能性が高くなってくる。したがって今年は来年1月の総統選まで、アメリカによる「中国が台湾を武力攻撃する」という喧伝あるいは扇動は、加速的に強まっていくと判断される。アメリカは米中覇権において、それでいいかもしれないが、追い詰められた中国が本気で武力攻撃をしたときに、最前線で戦うのは台湾と日本だ。日本の政治家は、アメリカに追随して台湾を訪問することを重視するのか、それとも日本国民の命を重視して現実を直視するのか、真剣に考えろと言いたい。今年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>(※4)にも書いたように、「中国が2027年までに台湾を武力攻撃する」という「神話」はCIAが中心になって創り上げたものだ。2020年10月26日から29日まで北京で開催された第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)の最終日に、<第19回党大会五中全会公報>が中国共産党網で発布され、そこに「建軍百年に向けて頑張ろう!」と書いてあることを根拠にしている。習近平が中国人民解放軍の百周年記念である「2027年」に触れたのは、この時が最初だ。このあとの2021年3月から「台湾武力攻撃2027年説」が世界中を飛び回るようになった。アメリカの調査報道ジャーナリストであるニコラス・スカウの書いた『驚くべきCIAの世論操作』という本の日本語版(※5)が2018年にインターナショナル新書から出版されている。その本にはCIAがいかにしてアメリカに都合が良いように事実を捏造して世論操作を行っているかという実態が、実に刻銘に描かれている。一読をお勧めしたい。筆者自身は、NEDのホームページを当たり、多くのファクトを拾い上げて7月出版予定の『習近平が起こす地殻変動「米一極から多極化へ」』の中でリストアップした。そのリストを作成して驚いたが、世界の紛争のほとんどは1983年まではCIAが創り上げていて、1983年にNEDが創設されてからはNEDが創り上げていることがわかった。世界のどこかに内紛があると、必ずそこに潜り込んで既存の政府を転覆させ、親米政権を樹立させるということをくり返してきたことが、リストから歴然としてくる。NEDはその創設者が語った言葉から、「第二のCIA」と呼ばれているが、この「第二のCIA」が「台湾有事」という「神話」を創りあげているとしか言いようがない。日本の内閣が、アメリカに追従することばかりを重視せず、日本国民の命を守ることを重視すれば、おのずと見えてくる現実である。もし本気で「国民の命こそが最も大切だ」と思っているのなら、国会議員の一人一人に、現実を直視する勇気を持ってほしいと切望する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://nordot.app/1026979412163559424(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※4)https://grici.or.jp/4015(※5)https://www.amazon.co.jp/%E9%A9%9A%E3%81%8F%E3%81%B9%E3%81%8DCIA%E3%81%AE%E4%B8%96%E8%AB%96%E6%93%8D%E4%BD%9C-%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A6/dp/479768027X <CS> 2023/05/08 10:41 GRICI スーダン和解はどの国が調停できるのか?【中国問題グローバル研究所】 *10:25JST スーダン和解はどの国が調停できるのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。ここ30年来のスーダン紛争長期化は、全米民主主義基金がもたらしたものだが、中国はアフリカを含めた紛争調停組織を設立し、岸田首相もアフリカ歴訪で調停に意欲を表明。その真相とゆくえを考察する。◆スーダン紛争長期化の犯人は全米民主主義基金NED2023年4月15日、アフリカ北東部スーダンの首都ハルツームで、国の実権をめぐって争う、国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」の戦闘が始まった。アフリカはかつてヨーロッパの植民地として支配され、独立はできたものの不安定な情勢から内戦や紛争が勃発してきた。スーダンもその中の一つで、1956年に独立した後も内紛が続き、1989年6月30日にオマル・バシール准将が民族イスラム戦線(NIF)と連携して無血クーデターを成功させた。バシールは「革命委員会」を設置し、自らが首相となったが、その後もさまざまな情勢変化があったため、1993年になって大統領に就任した。バシール政権は誕生当初の段階ではヨーロッパ諸国との友好を重要視していたが、湾岸戦争(1990年8月―1991年3月)やイラク戦争(2003年3月―2011年12月)において、イラク(当時のフセイン大統領)を支持したことから、アメリカによるスーダン(バシール政権)に対する厳しい経済制裁が始まった。周知のようにイラク戦争はアメリカが「イラクが大量破壊兵器を持っている」という偽情報に基づいて、突如イラク攻撃を始めた戦争だが、侵略後にイラクには大量破壊兵器は存在しなかったことが判明した「正義なき戦争」だった。バシール政権の方でも、1998年に政党結成の自由などを含む新憲法が、国民投票で96.7%の賛成を得て誕生し、2010年4月に、24年ぶりに行われたスーダン総選挙で、又もやバシールが大統領に再選されている。しかし2018年12月に、スーダンの国防軍が一部の地域住民の支持を取り付けてクーデターを起こし、2019年4月11日、30年にわたるバシール政権は遂に幕を閉じた。これら一連の動きの背後に、実は全米民主主義基金(National Endowment for Democracy= NED)がいた。そのことを、どのようにして証明できるかというと、実は2020年7月23日のNEDのウェブサイトに記載されているからだ。その情報のタイトルは<NED、スーダン市民社会に 2020 NED 民主主義賞を授与(NED HONORS SUDAN’S CIVIL SOCIETY WITH 2020 NED DEMOCRACY AWARD)>(※2)で、この授与式でNED のカール・ガーシュマン会長は、概ね次のように述べている。――NEDの助成金プログラムは、1989年以来スーダンで継続的に行われてきた。(2018年の)12月革命の成功は、スーダンの人々とNEDの連携を深めたことによってのみ達成された。従って、NEDは1989年にスーダンでバシール政権が発足すると同時に、スーダンに潜入したと断言することができる。NEDは何としてもバシール政権を転覆させたかったのだ。そのためにNEDは1996年にスーダン開発イニシアチブ(SUDIA)という組織を設立させている(※3)。また2015年11月18日には、NEDは<スーダン・ダイアローグ>(※4)というイベントを開催しているが、その中にはSUIDAの代表者が出席しているし、また2008年に当時のブッシュ大統領によって「スーダンの8人の人権闘士の一人」として認定された、NEDが支援する人物(Niemat Ahmadi)も参加していた。こうしてアメリカはNEDを通して、30年も続いた「バシール独裁政権」を崩壊させることに成功したのだ。しかし、NEDは軍部を使って政府転覆を行なっているので、この政府転覆は「民主化運動」と名付けるわけにはいかない。それでもアメリカから見れば、NEDが支援した側が権力を握ったので、アメリカの言いなりになる政権が出来上がったと位置付けることができるのだろう。今般のスーダンでの軍事衝突が、あくまでも「軍と軍」の衝突であることは注目に値する。すなわちアメリカは、親米政権を創るために、それまでの政府を転覆させただけで、「民主化」には成功していないことになる。これは中東諸国がアメリカのNEDが起こした「アラブの春」などのカラー革命により、地域の治安が悪化して内戦を巻き起こし、経済の混乱を招いたことに嫌気がさして、遂に中国の仲介によりイランとサウジが和解した経緯と非常に似ている。経緯の詳細は4月6日のコラム<脱ドル加速と中国仲介後の中東和解外交雪崩現象>(※5)に書いた。スーダンでの状況も、中東からアフリカに移っただけで、現象は類似している。◆中国はスーダン紛争和解に乗り出すのか?2023年1月の、中国外交部のウェブサイト(※6)によれば、中国は1959年2月4日にスーダンと国交を樹立してから、長年にわたって非常に友好的な関係を続けてきたとのこと。江沢民・胡錦涛・習近平政権ともにスーダン政権と政府高官のシャトル外交を継続し、特に習近平政権になってからは関係強化が加速している。たとえば、2022年1月6日に当時の王毅外相がケニアを訪問した時、「非洲之角(アフリカの角)和平発展構想」を提案して、「アフリカの角事務特使」を任命すると発表した(※7)。事実、2022年2月には、薛冰(せつ・ひょう)を「アフリカの角事務特使」に任命している。(※8)2022年6月に開催された「アフリカの角和平会議」にはスーダンも参加している(※9)。一方、中国は2023年2月16日に「国際仲裁院(International Organization for Mediation)準備弁公室」なるものを正式に立ち上げている(※10)。加盟国としては「インドネシア、パキスタン、ラオス、カンボジア、セルビア、ベラルーシ、スーダン、アルジェリア、ジブチ」などがあり、スーダンは2011年の最初の企画段階から参加しているので、当然のことながら中国が仲裁する対象となり得る。スーダン側は中国が国際紛争を解決する積極的な役割を果たしてほしいと、何度も大使館を通して正式に意思表明をしてはいる(※11)。2023年4月23日には「アフリカの角事務特使」薛氷がエチオピアで開催された和平プロセス感謝イベントに出席し、感謝状を授与されてもいる。しかし、実際に今回も中東の和解外交雪崩現象と同じように、中国が表に出るか否かは、実は未知数だ。◆日本がスーダン紛争和解に乗り出すのか?ならば、日本はどうだろうか?アフリカ4ヵ国歴訪前の4月29日に岸田首相が<スーダン情勢安定化も協議したいと述べた>(※12)と、日本の共同通信が報道した。その報道には、岸田首相はアフリカ訪問に関し「予断を許さない状況にあるスーダン情勢についても関係国と議論し、安定化に向け協議したい」と述べた、と書いてある。その後、日本の複数のメディアで3日にはケニアで、4日にはモザンビークで、実際に首脳会談や会談後の記者会見などにおいてスーダン情勢に関して述べ、「日本はG7議長国、安保理非常任理事国として、スーダンの安定化に積極的に貢献する」との決意を示したと書いてある。具体的には、アフリカの各担当大使の派遣や緊急人道支援の実施などを通じ、事態の鎮静化や民政移管プロセスの再開、秩序の回復に向け、各国と連携していくとのことだ。この発想は、中国の国際仲裁院体制の範疇を出ていない上に、数十年前からアフリカに深く食い込んできた中国には勝てないだろう。興味深いのは、中国大陸のネット上にある「共同網」という、共同通信社と連携したウェブサイトが、5月4日、<日本・ケニア首相は協力強化で一致した>(※13)というタイトルで、岸田首相が歴訪先のケニアで、スーダン情勢に関して「大きな懸念を表明し、緊急人道支援を可能な限り早期に検討する」と表明したと、詳細に書いていることだ。また、中国版「共同網」では、中国批判のときの常套句になっている「法の支配」が、ロシアだけを対象に書かれており、中国包囲網のために創り出した言葉であるはずの「自由で開かれたインド太平洋」構想が、中国抜きで語られている。アフリカは数十年かけて中国が築いてきた地盤なので、そう簡単には日本に乗り換えることはしないだろうことがうかがえる。何と言っても、グローバルサウスの国々はNEDが「民主」の名の下に仕掛けてきた紛争にこりごりしている。日米が連携すればするほど、(頂くものは頂くとしても)日本から離れていく傾向にある。◆ならば、どの国・組織がスーダン紛争和解に乗り出すのか?おそらく今回の仲裁は、東アフリカの政府間開発機構であるIGAD(Inter Governmental Authority on Development)ではないかと推測される。IGADの加盟国はケニア、スーダン、ウガンダ、エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリアの7ヵ国で、事務局はジブチに置かれている。先述した、中国が主催する国際仲裁院の加盟国と重なっているので、中国は側面から支援しながら、IGADが動く可能性が高い。というのは、5月4日の中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の「軍事」ウェブサイトは<スーダン武装部隊は、1週間の停戦延長を含む、IGAD調停提案に同意している>(※14)と報道しているからだ。今後どうなっていくのかに関しては、まだ成り行きを見守る姿勢が要求されるが、本稿では、現状における基本的な状況の考察を試みた。追記(筆者からのお詫び):読者の方々には大変ご迷惑をお掛けしていますが、現在、本稿でも触れた中東和解外交雪崩現象をきっかけに、「第二のCIA」と呼ばれるNEDがこんにちまで何をやってきたのかを、NEDのホームページにある情報を基に分析し、今後の世界新秩序を展望する本を出版すべく執筆に没頭しているためコラムを書く時間が取れません。書名は仮ですが、『習近平が起こす地殻変動「米一極から多極化へ」』とするつもりで、7月半ばには本屋に並ぶと思われます。6月半ばまではコラムを中断することが多いかと思います。申し訳ありません。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.ned.org/ned-honors-sudans-civil-society-with-2020-ned-democracy-award/(※3)https://www.oneplanetnetwork.org/organisations/sudia-sudanese-development-initiative(※4)https://www.ned.org/events/sudans-national-dialogue/(※5)https://grici.or.jp/4210(※6)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/fz_677316/1206_678526/sbgx_678530/(※7)http://www.news.cn/world/2022-01/07/c_1128240838.htm(※8)http://www.gov.cn/xinwen/2022-02/22/content_5675042.htm(※9)https://www.fmprc.gov.cn/web/wjb_673085/zzjg_673183/fzs_673445/xwlb_673447/202206/t20220622_10707873.shtml(※10)https://www.mfa.gov.cn/wjbzhd/202302/t20230216_11025952.shtml(※11)http://sd.china-embassy.gov.cn/sgxw/202210/t20221017_10784748.htm(※12)https://news.yahoo.co.jp/articles/d92a223399b7665c29fb5169d9b6cbd93075c219(※13)https://china.kyodonews.net/news/2023/05/3709f2091f9f.html(※14)https://mil.huanqiu.com/article/4CkdIGMQgB9 <CS> 2023/05/08 10:25 GRICI 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】 *11:00JST 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆台湾平和統一に込めたシグナルこれは同時に、台湾平和統一に対して発信したシグナルであるということも見逃してはならない。今年2月24日に中国はウクライナ戦争「和平案」を発表した。2月27日のコラム<習近平のウクライナ戦争「和平論」の狙いは「台湾平和統一」  目立つドイツの不自然な動き>(※2)で書いたように、ウクライナ戦争「和平案」は、あくまでも「台湾平和統一」へのシグナルであって、その「和平案」で停戦に持って行けるか否かは大きな問題ではない。来年1月の台湾の「中華民国」総統選に向けて、台湾の人々の多くが「中国(大陸)は平和を重んじている」と判断して、親中派の国民党が台湾民衆党と連携して勝利してくれれば、それでいいのである。そうすれば習近平は任期内に「台湾平和統一」を成し遂げることができる。今般の「中東係争国和睦の仲介」は、「中国がいかに平和を重んじているか」が台湾の選挙民に伝われば、それでいいのである。それが最大の目的であると言っても過言ではない。その証拠に王毅は<サウジ・イランの北京対話は和平の勝利である>(※3)と述べ、中国がいかに「平和」のために行動しているかを印象付けようとしている。◆なぜ3月10日を選んだのか?それにしても、全人代開催中の3月6日に訪中し、3月10日に「中国・イラン・サウジ」3ヵ国声明を発表したのはなぜなのだろうか?実は何としても、この「3月10日」を選びたかった強烈な理由がある。それは「3月10日は習近平が全人代で国家主席に選出された日」だからだ。そのことは、サウジアラビア外交部の公式Twitterで発表された共同声明の英語版(※4)にも如実に表れ、習近平を尋常でなく褒めまくっていることからも窺うことができる。◆こっけいなアメリカの釈明中東における力を激減させてしまったアメリカは、不愉快でならないだろう。3月10日、アメリカの国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は「イランは信用できないので、本当に約束を守るか否かは分からない」とした上で、「今回の和睦は中国だけの力だけではなく、イランに対する内外の圧力があったからだ」(※5)と表明した。「アメリカの圧力のお陰だ(=アメリカがイランを制裁したお陰だ)」という、信じられないような「いじめっ子自慢」をしている。すなわち、「アメリカの制裁によりイランが苦しんだからこそ、イランは中国に助けを求めたのであって、アメリカが制裁を加えていなかったら中国が力を発揮することもなかったので、今回の和睦はアメリカのお陰だ」という「いじめっ子論理」を持ち込んできたのである。これには唖然とするばかりで、「開いた口がふさがらない」とは、こういうことを言うのかと、言葉が見つからない。今後アメリカは、中国が「平和路線を貫けないように」、台湾への内政干渉を強化して、どうしても台湾を武力攻撃せずにはいられないような状況に持って行くか、あるいは台湾における親中の国民党系列が総統選で勝てないように、民進党を応援して台湾独立を叫ぶ方向に持って行こうとするだろう。日本は自国の国家安全を守るために自らの力で自国の軍事力を強化するのは悪いことではないが、戦争に持って行きたくてしょうがない「アメリカの論理」には巻き込まれないようにして欲しいと望む。しかし、ここまで日本のメディアが「アメリカの思考」に洗脳されてしまっている以上、日本人が「自分たちは洗脳されているんだ」ということに気が付くことは望めないかもしれないと、暗澹たる気持ちだ。これこそが戦争へと歩む精神的基盤となっていく。中国の言論弾圧には断固反対するが、日本国民が再び戦争に巻き込まれて命を失うのは、それ以上に反対だ。筆者のこの立場は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※6)で明示した。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4065(※3)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202303/t20230310_11039102.shtml(※4)https://twitter.com/KSAmofaEN/status/1634180277764276227(※5)https://www.cnbc.com/2023/03/10/arch-rivals-iran-and-saudi-arabia-agree-to-revive-ties-reopen-embassies.html(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <CS> 2023/03/13 11:00 GRICI 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:58JST 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。3月10日、中国はイランとサウジの外交関係を修復させたが、習近平は2013年から中東への接近に挑戦。ウクライナ戦争が石油人民元化を促進し、今では台湾和平統一へのシグナルに。米国は阻止するだろう。◆中国がイランとサウジアラビアの外交関係修復を仲介 3ヵ国共同声明3月10日、中国(中華人民共和国)とイラン(イラン・イスラム共和国)、サウジ(サウジアラビア王国)3カ国による共同声明が出された(※2)。イランのシャムハニ最高安全保障委員会事務局長とサウジのアイバン国家安全保障顧問は3月6日から10日まで北京に滞在し、中国外交のトップである王毅・中共中央政治局委員と会談を行った。イランとサウジは2016年1月3日から断交していた。というのは、両国ともイスラム教国ではあるが、シーア派(イラン)とスンニ派(サウジ)に分かれて争い、特に2016年1月2日にサウジでイスラム教シーア派聖職者を処刑したことから、イランで激しい反サウジデモが展開され、以来、中東の近隣諸国を巻き込む形で争いが絶えなかったからだ。その両国を和解させた意義は大きく、中東周辺諸国はみな礼賛の意を表した。中国共産党傘下の中央テレビ局CCTVは「イランとサウジの和解に関して最も重要な文字は3文字ある。それは【在北京】(北京で)というという3文字だ。西側諸国、特にアメリカには絶対に成し得なかったことを【北京】がやってのけたということだ。西側は世界各地で戦争を引き起こし、火に油を注ぎ続け、国際社会を分断させることに余念がないが、中国はその逆の方向に動いている。人類運命共同体を軸に、世界に和睦と平和をもたらそうとしているのは【中国だ】ということが、これで明らかになっただろう」と高らかに解説している(※3)。習近平がなぜこのタイミングでこのような挙に出たのかに関しては、「これまでの経緯」、「その狙いは?」、「なぜ全人代開催中なのか?」など、いくつかの視点から分析しなければならない。◆最初の動機は「一帯一路」習近平が中東に近づいた最初の動機は「一帯一路」だ。中国から陸を伝い、海を渡って巨大経済圏を形成していく。習近平が国家主席になった2013年から「一帯一路」構想は始まっていた。ヨーロッパへの出口にウクライナは重要だった。そしてさらに南西の方向の中東を押えるため、習近平は自ら中東産油国を訪問すべく、2015年4月の日程が組まれていた。ところがイエメン内戦が起きたため、中東訪問は延期された。そこで、2015年後半になると、2016年1月にイランやサウジを含む中東主要産油国訪問が再び日程にのぼった。ところが、2016年1月2日に、上述のようなシーア派聖職者処刑事件がサウジで起きたので、本来ならば1月に予定されていた中東訪問はまたしても中断するしかなかったはずだ。しかし習近平は逆に出た。あえてイランやサウジなどを訪問し、当該国と単独に戦略的パートナーシップ協定を結んだのである。実はサウジは習近平に「イラン訪問を取り消してサウジだけを訪問してほしい」と頼んできた。しかしそのとき習近平はその要求を断っている。「中東で敵を作りたくない。みな運命共同体だ。もし私がイランだけを訪問して貴国(サウジ)を訪問しなかったら、我々両国は敵対国になってしまうだろう。わが国にはイランも大切だが、サウジはそれ以上に大切だ」という趣旨の回答をして、サウジを先に訪問した。そのようにしても、イランは中国を敵対視しないのを知っているからだ。習近平は2016年1月19日にサウジを訪問して中国・サウジ間の「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名し(※4)、1月22-23日にイランを訪問して同じくイランとの間で23日に「包括的戦略パートナーシップ協定」を結んだ(※5)。別の見方をすれば、中国はイスラム圏紛争により「漁夫の利」を得たとも言えよう。◆ウクライナ戦争が目的を変えさせた――「石油人民元」勢力圏その「漁夫に利」はウクライナ戦争が起きると、突如「石油人民元」勢力圏拡大へと、習近平の中東戦略を変えさせていった。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』(※6)の【第二章 習近平が描くタイト『軍冷経熱』の恐るべきシナリオ】の中の【四 対露SWIFT制裁は脱ドルとデジタル人民元を促進する】で詳述したように、中国は当時の王毅外相を遣わせて猛然たる勢いで中東産油国を駆け巡らせ、「石油人民元」を中心とした「非ドル経済圏」形勢に突進している。決定打になったのは昨年12月7日の習近平によるサウジ訪問だ。2022年12月13日のコラム<習近平、アラブとも蜜月  石油取引に「人民元決済」>(※7)に書いたように、サウジの激烈なまでの熱い歓迎ぶりは尋常ではなく、昨年7月にアメリカのバイデン大統領がサウジを訪問した時の冷遇とは、比較にならないほどの雲泥の差があった。サルマン国王やムハンマド皇太子の習近平への熱いまなざしとともに、習近平は9日には湾岸協力アラブ諸国会議首脳らとも会談し、中東への中国の食い込みを鮮明にした。加えて今年2月14日にはイランのライシ大統領が訪中して習近平を会談し(※8)、ライシ統領に習近平は「中国は常に戦略的観点からイランとの関係を捉え、発展させており、国際・地域情勢がどう変化しようとも、いささかも揺らぐことなくイランとの友好的協力を発展させ、両国の包括的な戦略的パートナーシップが絶えず新たな発展を遂げる後押しをし、百年間なかった大きな変化の中で世界の平和と人類の進歩のために積極的な役割を果たしていく」と表明した。サウジには習近平自らが訪問し、イランには大統領を訪中させるということでも、中国にとって「イラン・サウジ」を平等に扱っていると位置付けることができるのは、「イランはどのようなことがあっても中国から離れない」という確固たる自信があるからだ。友誼を誓い合ってさえいれば、イランなら中国に、サウジのように駄々をこねて、「サウジをひいきにしている」というようなことは言わない。イランはアメリカから制裁を受けている国として「中国・ロシア・北朝鮮」とは友誼の手を揺るがせないというのを、中国は過去たる自信をもって知っているのである。こうして3月10日に「中国・イラン・サウジ」3ヵ国共同声明が発表され、中国はアメリカにはできなかった「中東紛争国の和睦」の一つを成し遂げたのである。「中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202303/t20230310_11039137.shtml(※3)https://www.youtube.com/watch?v=dMIb4BOYffg(※4)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_676860/1207_676872/201601/t20160120_7996520.shtml(※5)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_677172/1207_677184/201601/t20160123_8006978.shtml(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4569852327/(※7)https://grici.or.jp/3825(※8)http://japanese.beijingreview.com.cn/politics/202302/t20230215_800321924.html <CS> 2023/03/13 10:58 GRICI 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】 *10:29JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「国家公安部と国家安全部を合併して内務部を創設」というフェイクニュース今年2月23日、香港メディアの一つである「明報」のカナダ網(※2)は、中国がこのたびの全人代で「公安部と国家安全部が国務院制度から分離され、中国共産党中央委員会直下に新設された「中央内務委員会」(仮称)に移管される」という趣旨の情報を発信した。そこには、その結果、公安、移民、戸籍、運輸、テロ対策、スパイ対策、さらには民政部の社会組織管理の機能を統合する可能性があると書いてある。すると在米の華人華僑などの世界からは直ちに、「習近平の一強独裁は遂に警察国家を生む」とか、「習近平は旧ソ連のKGBを復活させ、中国をスターリン化させようとしている」といったコメントがネットで発信された。ゼロコロナ反対で「白紙運動」を促した在米華人華僑からは「白紙運動」への報復だというコメントも見られた。しかし、習近平がいま最も力を入れているのは「アメリカに潰されないこと」だ。そのためには科学技術領域で挙国体制を取らなければならないし、アメリカから制裁を受けた場合の「通貨」に関して準備態勢を整えなければならない。それは具体的に国務院機構改革の内容に具現化されている。事実、国務院機構改革方案には、公安部や国安部を国務院から離脱させて合併させるなどということは一文字も書いていない。公安部は庶民生活の警察を担うが、国安部は「国家安全保障」に関わる部局なので、公安などと一緒にしたら、かえって西側に対する「国家安全保障」を弱体化させるリスクがある。ましてや毛沢東時代の「内務部」(1969年に撤廃)などを復活させることは「台湾平和統一」を目指す習近平政権にとってマイナスのシグナル発信以外の何ものでもない。真に中国の政治を分かっている人なら、瞬時に「あり得ない!」と判断できるのだが、日本ではこの「あり得ない」フェイクニュースに乗っかってしまい、習近平政権が恐るべき恐怖政治を始めるとして大々的に論を張ったジャーナリストたちがいる。大勢いるのだが、その中の2人をご紹介しよう。1人は日経新聞の中沢克二氏で、もう一人はフリーのジャーナリストの福島香織氏だ。習近平の反腐敗運動を「権力闘争」と位置付けた「権力闘争論者」たちの仲間の2人だ。中沢氏は3月1日に、<習近平直轄の公安・警察誕生も 白紙・白髪運動で強化>(※3)という記事を書き、福島氏は3月2日に<大粛清を始める習近平、中国版KGBの発足で「スターリン化」の気配 中国の警察国家化を推し進める「中央内務委員会」創設>(※4)という記事を発表。筆者はこれに関して某テレビ局から取材を受けたので、「絶対にあり得ませんね!こんなフェイクニュースに乗らない方がいいのではないですか?」と、きっぱり回答したため、取材を申し込んだ人から「ほんとですかぁ~?」という疑念を抱かれた。視聴者が喜びそうな情報を肯定しない筆者を、「おもしろくない」とでも思ったのだろうか。最後まで「フェイクだ」と主張する筆者を信じなかった。本来なら、このような実名を出したくはないのだが、取材者が実例として挙げたのがこの2人のジャーナリストの名前だったので、ここで明確に断言したい。これはフェイクだ!2人とも、以前は素晴らしい記事を書いていて頼もしく思っていたが、権力闘争論者(習近平の反腐敗運動は政敵を倒すための権力闘争でしかないという主張をする人々)になってからは真実が見えなくなっているのではないかと残念でならない。習近平の反腐敗運動はハイテク国家戦略を断行してアメリカに潰されないようにするためで、その結果軍隊の近代化が達成され、ハイテク産業においては多くの分野で世界トップにのしあげっている。このことは3月7日のコラム<習近平がアメリカを名指し批判して示す、中国経済の新しい方向性>(※5)で数多くの図表を使って示したオーストラリアのシンクタンクの調査結果でも明らかである。このようなフェイクニュースに平気で乗っかり、読者を惹きつける記事をもてはやすという日本のマスコミの在り方は、日本人に中国の真相を見えないようにするための役割を果たし、結果、気が付けば日本が中国に取り残されているという、最も見たくない現実を招くだけなのである。そのことを憂う。なお、本方案は3月10日の全人代第三次全体会議で議決された。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.mingpaocanada.com/van/htm/News/20230223/tcah1_r.htm(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK246RE0U3A220C2000000/(※4)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74174(※5)https://grici.or.jp/4104 <CS> 2023/03/13 10:29 GRICI 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】 *10:27JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。3月7日、全人代(全国人民代表大会)で「党と国務院機構改革」という、13項目の改革案が示された。中でも注目されるのは科学技術と金融管理監督に関する改革で、アメリカの制裁と弾圧から逃れて中国が繁栄するための戦略が込められている。◆「党と国務院機構改革」全容3月7日、全人代(全国人民代表大会)第二回全体会議で「国務院機構改革方案」の説明があった(※2)。これは昨年10月に開催された第20回党大会および今年2月に開かれた二中全会(中共中央委員会第二次全体会議)で採決された「党と国務院機構改革方案」に基づいて全人代に提出し審議がなされたものである。改革案は13項目から成っており、そのうち注目されるのは「科学技術部の再編」や「金融管理監督システム改革」および「国家データ局の新設」などで、特に「科学技術部の再編」と「金融管理監督システム改革」が注目される。いずれも目標は「いかにしてアメリカによる制裁と弾圧から逃れるか」ということが主眼で、これはすなわち「アメリカによる中国潰しを、中国はいかにして回避し、いかにすれば自国を守れるか」ということになるので、当然のことながら「挙国体制」を布かなければならない。そのため、国家戦略の根幹をなす「ハイテク国家戦略」は中央行政省庁の一つである「国家科技部」の機能の一部を中共中央も統括的に見渡せるように中共中央に移す。また金融に関しては、国内改革もさることながら、アメリカがドル制裁を加えてきたときに中国の金融システムが壊れないように予防策を講じている側面がある。そのためか、改革案の7割がたは金融改革に割かれている。◆科学技術部を再編して党主導の委員会新設全人代では、科学技術を以下のように位置付けている。()内は筆者。・科学技術はわが国の現代化建設の核心である。国際競争と外部からの弾圧という厳しい形勢において、何としても科学技術という核心的力を敵の力から守りハイレベルを維持できるように、自立自強を実現していかなければならない。・このたびの「党と国家機構改革」は党中央の、科学技術活動に対する集中的な統一指導体制を強化するため「中央科技委員会」を設立し、その事務執行機構の職責は再編したあとの科学技術部が担うものとする。・科学技術部の機能を強化して、新型挙国体制を促進完備し、科学技術イノベーションの全チェーン管理を最適化し、科学技術成果の転化を促進し、科学技術と経済と社会の結合などの職能を促進する。・戦略計画・体制改革・資源の統一的全体計画・総合調整・政策規制・督促検査などのマクロ管理職責を強化する。同時に、国家基礎研究と応用基礎研究・国家実験室建設・国家主要科学技術プロジェクト・国家技術移転システム構築・科学技術成果の転化と産学研連携・地域科学技術イノベーションシステム建設・科学技術監督評価システム建設・科学研究ロイヤリティ建設・国際科学技術協力・科学技術人材チーム建設・国家科学技術表彰などの関連職責は保留し、これまで通り国務院の組成部門とする。・科技促進農業農村発展計画と政策は、農業農村部が担う。・科技促進社会発展計画と政策は、国家発展改革委員会や生態環境部あるいは国家衛生健康委員会が担う。・イノベーション技術発展・産業化計画と政策やサイエンスパーク、科技市場…などは工業信息(情報)部が担う。・海外の知的人材を中国に引き寄せるための業務は人力資源社会保障部に帰属させ、「外国専門家局」の看板は科技部から信力資源社会保障部に移転させる。・(いわゆる科研費に関して、これまで科学技術部が出していたが、それを撤廃し)再編したあとの科学技術部は科研には関与しない。科学研究のための財政は全て「国家自然科学基金委員会」に帰属させる。(拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※3)の第四章に書いたように、「国家自然科学基金会」は「軍民融合」に関する基金を担う機構でもある。)◆金融監督管理システムに関する改革改革の内容を一つずつ説明していくと、あまりに膨大になるので、ここではその主要な骨子を列挙するにとどめる。・証券業界以外の全ての金融業界の監督管理を一元化するために「国家金融監督管理総局」を設立する。・「中国証券監督管理委員会」は、資本市場監督の責任を強化するために国務院直轄機関に再編され、新しい監督管理機構はミクロレベルの市場行為や、金融機関および消費者の権益を監督する。・中国人民銀行(中央銀行)は今後、金融持ち株会社や金融消費者保護に対する監督を行わない。・中国人民銀行は、専ら通貨政策に関して特化した業務に従事する。これは国際規範に一層近い形になる。(金融監督管理システム改革内容は以上)以上から以下のようなことが見えてくる。1.3月8日のコラム<秦剛外相が語る中国の外交方針と日本の踏み絵>(※4)に書いたように、秦剛外相は中国が使用する通貨に関して「国際通貨は、『一方的な制裁のキラー・ツール』になってはならない。そのような危険性をはらむ通貨を使用するのは賢明ではない」と回答している。中国はこのことを、ウクライナ戦争を通して学んだ。したがってアメリカがいつ、台湾を駒にして中国が武力攻撃せざるを得ない方向に持って行くかしれないので、万一の場合に備えて「中国が使える国際通貨を調整する」という業務に専念できるよう、中国人民銀行の負担を減らした。2.中国にはまだシャドーバンキングなど、不正な貸し出しの抜け穴があり、昨年は河南省の銀行の経営者が預金を持ち逃げするような事件も起きた。またアント・グループの事件など、消費者の利益を損ねるようなことが起きないように総合的に監督管理する必要がある。「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/guowuyuan/2023-03/08/content_5745356.htm(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/(※4)https://grici.or.jp/4116 <CS> 2023/03/13 10:27 GRICI 全国政協会議、汪洋主席最後の演説 「統一戦線」を8回も連呼!【中国問題グローバル研究所】 *10:11JST 全国政協会議、汪洋主席最後の演説 「統一戦線」を8回も連呼!【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。3月4日、中国両会の一つ全国政治協商会議が開幕し、汪洋主席が最後の演説をした。習近平三期目の悲願でもある「台湾平和統一」を目指す「統一戦線」を8回も連呼したが、それは次期主席・王滬寧の最重要任務となる。◆汪洋主席、最後の演説で「統一戦線」を8回も連呼!3月4日、日本時間の午後4時(中国時間午後3時)、全国政治協商会議(以下、全国政協)が始まった。全国政協の全称は「中国人民政治協商会議全国委員会」で中国では一般に「全国政協」と略称される。5日に開幕する全人代(全国人民代表大会)とともに、中国ではこの二つを総称して「両会」と呼ぶ。全国政協には全国から選ばれた代表2169人が参加し、そのうち八大民主党派など非中国共産党員は60.8%に達している。憲法には「中国共産党の指導の下に活動する」ということが決められている。汪洋はその規定通り、「中国共産党と習近平国家主席の指導の下で団結し」を強調した。つぎに強調したのは「統一戦線」で、これは八大民主党派などが、「統一して同じ戦線で戦う」ことを意味し、特に八大民主党派の中に「中国国民党革命委員会」(略称:中国国民党)があることは注目に値する。中国国民党は新中国(中華人民共和国)が誕生する1年前の1948年に設立されたもので、国民党の中の民主派が核になっている。いま台湾にいる国民党と同じ党だが、当時、国共内戦に敗退して台湾に亡命した国民党を「非民主的」とみなしていたのが中国国民党だ。だから大陸に残った。今では「民主性」においては逆転しているようにも思うが、何しろ台湾にいる国民党は、現在ではこの上なく「親中」なので、大陸と台湾で同じ「国民党」がタイアップして「台湾平和統一」を叫んでいる。つまり中台両岸は、新中国誕生以来の「国民党」によって一つにつながっているので、台湾問題は大陸にとって、まさに「内政問題」なのである。胡錦涛政権時代にはそれほど重視されていなかった全国政協は、習近平政権になってからは非常に重要な位置づけがされるようになった。特にその軸となっている「統一戦線」は「重中之重(重要中の重要)」なのだ。事実、汪洋の演説の重点もこの統一戦線に置かれ、「台湾問題は中国の内政問題である」ことを強調した。約1時間にわたる演説で、昨年、ペロシ下院議長が台湾を訪問するという破壊的行動を取ったことを「ペロシ」の名前を出して批判したことが印象的だった。特に「統一戦線」という言葉を8回も連呼したのは異例で、習近平三期目にとって、いかに「台湾平和統一」が重要であるかがうかがえる。◆汪洋の叔父・汪道涵は「海峡両岸関係協会」の設立者汪洋が台湾問題を重視し、愛国統一戦線に重きを置く演説をしたのには、もう一つ個人的な理由もあるものと推察される。というのは、汪洋の叔父・汪道涵(1915年‐2005年)は台湾海峡の平和統一を目的とした「海峡両岸関係協会」を1991年に設立した人物で、その初代会長も務めた。1993年にシンガポールで、中華民国(台湾)海峡交流基金会の辜振甫董事長と会い、「辜汪会談」を実現させた。その意味で汪道涵は両岸(中台)関係「九二コンセンサス」の基礎を築いた男だということになる。したがって、汪道涵の甥としての汪洋には、「台湾平和統一」への思いが個人的にも、きっと強いにちがいない。習近平が第19回党大会において、汪洋をチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員)の一人に選び、全国政協の主席に就任させたのは、習近平自身に「台湾平和統一」への強い思いがあるからだ、ということもできよう。◆江沢民を助けてあげた汪道涵これまで何度も書いてきたが、江沢民の父親は日中戦争中、日本の傀儡政権であった南京の汪兆銘政権の官吏をしており、江沢民は日本軍のために設立されていた南京中央大学に通っていた(『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』p.143など)。日本が敗戦したので、あわてて中国共産党に入党したりなどしているが、もし汪道涵の助けがなかったら、顔を上げては生きていけない日陰者として生涯を終えただろう。実は日本敗戦後、身を隠すようにして小さな工場で働いていた江沢民に、ある日、工場の上司が声を掛けた。その上司はなんと、汪道涵の夫人で、その夫人を通して江沢民は汪道涵と面識を得る機会に恵まれた。そのとき第一機械工業部副部長をしていた汪道涵が、江沢民を長春市にある「第一汽車」(第一自動車)に派遣してあげた。これがのちに、江沢民出世のきっかけとなっていくのである(1983年に電子工業部部長、1985年に上海市市長)。しかし江沢民はその恩を忘れ、汪道涵に報いようともせず、もちろん汪洋を最大の政敵である胡錦涛が力を持っていた共青団の一員であるがゆえに忌み嫌った。汪洋を重要視したのはむしろ習近平で、習近平が共青団を忌み嫌ったというのは正確ではない。もしそうなら、汪洋をチャイナ・セブンに引き上げただけでなく、習近平執念の台湾平和統一を握る重要なポストである全国政協の主席などにはしていなかったはずだ。◆自ら身を退いた汪洋拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第一章で、自ら次期チャイナ・セブンには残らないと意思表示したのは「汪洋」だろうと書いたが、汪洋は早くから髪の毛を黒く染めるのをやめていたので、昇進しようという気持ちは持っていなかっただろうことがうかがわれる。周知のこととは思うが、中国ではさまざまなレベルの党幹部は、現役でいる間は髪の毛を「真っ黒!」に染めていた。ところが汪洋は慣例を破って2010年の辺りから白髪を見せるようになった。衝撃が走り、「現役を辞めるのか」と一時言われたが、逆に真っ黒にしていることが不自然に見え始め、今では習近平でさえ少しだけ染めない個所を作って自然に近づけるようになったくらいだ。中国指導層の間で一種の「ファッション」の先駆けのように言われているが、実は習近平政権で昇進するだろうとは思っていなかったようで、逆に2017年の第19回党大会でチャイナ・セブンになり、全国政協の主席にまで選べられたことは、汪洋にとっては「意外」であったかもしれない。飄々とした欲のない汪洋は、すがすがしい顔で演説を終えた。台湾を平和統一へと持って行く統一戦線の仕事は、新チャイナ・セブン党内序列4位の王滬寧が引き継いでいくことになる。三代の「紅い皇帝」に仕えた帝師・王滬寧を全国政協主席に就かせたのは、習近平に、ここで勝負を賭けるという思惑があるからだとみなすべきだ。つまり習近平の在任中に何としても台湾平和統一を実現する。それが習近平の悲願だ。ウクライナ戦争「和平案」を提唱したのも、その目的達成のための布石だと言える。アメリカは、台湾平和統一をさせまいと、あらゆる手を使ってくるだろう。その視点で米中の動きを考察すると、さまざまな真実が見えてくると確信する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <CS> 2023/03/06 10:11 GRICI 中国の激烈な対米批判「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」【中国問題グローバル研究所】 *16:44JST 中国の激烈な対米批判「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。2月20日、中国政府は「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」という報告を発表した。中国の本気度を表しており、今後の米中覇権競争を示唆する。日本の対中政策にも参考になるかもしれない。◆2月20日に公開された中国の対米批判今年2月20日、中国外交部のウェブサイトに「美国的霸権霸道霸凌及其危害」(米国の覇権・覇道・覇凌とその害)(※2)という中国政府の見解が掲載された。「覇道」は「横暴」に近く、「覇凌(はりょう)」は「いじめ」の意味である。米国に対する批判の凄さは尋常ではなく、怒りがほとばしっている。約6400字の内容は以下のような構成になっている。序言一、やりたい放題の政治的覇権二、好戦的な軍事覇権三、ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権四、独占と抑圧の科学技術覇権五、扇動的な文化覇権結語日本語に訳すと1万字近くになるので、ざっくりと「何が言いたいか」を概括して以下に示す。◆序言米国は2つの世界大戦と冷戦を経て世界一の大国となり、誰はばかることなく他国の内政に干渉し、覇権を求め、覇権を維持し、覇権を乱用し、他国政権を転覆させ、地域紛争を扇動しては、世界各地で戦争を起こしてきた。米国は自国のルールだけが世界のルールであるとして、世界の平和と秩序を乱し人類を苦しめている。本報告書は、政治・軍事・経済・金融・科学技術・文化の覇権を濫用する米国の悪行を見抜いて、人類が平和と安定を取り戻すことを目的としたものである。◆やりたい放題の政治的覇権米国は自国の価値観と政治システムに従わすべく、「民主主義の促進」という名目を掲げて、「カラー革命」や「アラブの春」を扇動し、多くの国に混乱と災害をもたらした。キューバへの61年間にわたる敵対的な封鎖にしても「私に従う者は栄え、反対する者は滅ぶ」というやり方を貫いてきた。米国は私利私欲を最優先し、国際社会において国際法よりも国内法を優先している。米国は盟友関係を口実にして国際社会における派閥を形成し、アジア太平洋地域における「インド太平洋戦略」、「ファイブアイズ」、「日米豪印・クワッド」、「米英豪・オーカス」など、数多くの閉鎖的で排他的な小さなサークルを形成しては、地域諸国に選択を迫り、地域を分断し、対立を扇動している。米国は他国の民主主義を裁く権限が自国一国にあるという横暴さを勝手気ままに発揮している。◆好戦的な軍事覇権米国の歴史は暴力と拡大に満ちている。1776年の独立以来、米国はインディアンを虐殺し、カナダに侵入し、メキシコ戦争を発動し、米西戦争(スペインとの戦争)を扇動し、ハワイなどを併合した。第二次世界大戦後は、朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争・コソボ戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争・リビア戦争・シリア戦争を引き起こし、軍事覇権を拡大した。 近年、米国の年平均軍事予算は7000億ドルを超え、世界の総軍事費の40%を占め、2位から16位までの国の軍事予算の総額に匹敵する。世界に800の軍事基地を持ち、159ヵ国に17.3万人の米軍を配置している。国連加盟190ヵ国のうち、米国の軍事的介入を受けていない国は3ヵ国しかない。米軍の覇権は人類に非人道的な惨劇をもたらし続けいている。2001年以来、テロ対策の名の下に米国の戦争と軍事作戦により、90万人以上が死亡し、そのうち約33.5万人が民間人で、数百万人が負傷し、数千万人が避難民と化している。2003年のイラク戦争では、20万人から25万人の民間人が殺され、100万人以上が家を失ったままだ。米国は世界中で3700万人の難民を生み出している。 2012年以降、シリア難民だけでも10倍に増加している。アフガニスタンでの20年間におよぶ戦争はアフガニスタンを荒廃させ、合計4.7万人の民間人と、6.6万から6.9万人に及ぶ兵士や警察が、9・11と無関係であるにもかかわらず関係していたという理由で米軍によって殺され、1000万人以上の避難民を生んだ。おまけに2021年の「アフガンからの大敗走」の末、米国はアフガニスタン中央銀行の資産約95億ドルを凍結し、赤裸々な略奪を行ったままだ。◆ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権米ドルの覇権は、世界経済の不安定性と不確実性の主な原因だ。2022年、連邦準備制度理事会は超緩和的な金融政策を終了し、積極的な利上げ政策に転じたため、国際金融市場の混乱とユーロなどの多くの通貨の急激な下落が20年ぶりの安値に達し、多くの発展途上国は深刻なインフレ、現地通貨の下落、資本流出に見舞われた。米国は経済的脅迫手段を用いて競争相手を抑圧している。20世紀80年代、米国は日本経済の脅威を排除するために日本を利用しコントロールして、旧ソ連と対峙させ、覇権的な金融外交を行使し、日本と「プラザ協定」に署名し、円高を強制し、金融市場を開放させ、金融システムを改革させた。プラザ合意は日本経済の活力に大きな打撃を与え、その後日本は「失われた30年」を迎えた。米国の経済・金融覇権は地政学的な武器になっている。米国は、一方的な制裁と「ロングアーム管轄権」を精力的に駆使し、国内法を使って特定の国、組織、または個人に制裁を課す一連の大統領命令を発行した。統計によると、2000年から2021年にかけて、米国の対外制裁は93%増加した。その結果、世界人口の半数近くが影響を受けている。米国は公権力を利用して商業競争相手を抑圧し、通常の国際商取引に干渉し、自由市場経済を破壊している。◆独占と抑圧の科学技術覇権米国はハイテク分野で独占抑圧と技術封鎖を行い、他国の科学技術の発展と経済発展を阻止抑制してきた。20世紀80年代、米国は世界一になった日本の半導体産業の発展を押さえつけるため、「301」調査など、日本を不公正な貿易国と指定すると脅迫し、報復関税を課して日本に「日米半導体協定」に署名させるなどの措置を取り、その結果、日本の半導体産業はグローバル競争からほぼ完全に撤退した。市場シェアは50%から10%に低下するに至っている。米国は科学技術問題を政治化し、武器化し、イデオロギー化し、中国のファーウェイなどに適用し、国際的に競争力のある中国のハイテク企業を抑圧している。米国はまた、中国に対する科学技術人材においても同様の手段を用いて中国人研究者を抑圧し迫害している。米国は民主主義の名の下に科学技術覇権を維持している。「チップ聯盟」や「グリーンネットワーク」など科学技術においても「小さなグループ」を形成し、「ハイテク」に「民主主義と人権」のラベル付けをして、科学技術を政治化・イデオロギー化し、他国に技術封鎖を課す口実としている。こうして中国の「5G製品」を駆逐するために、科学技術覇権を維持しようと手段を選ばない。米国は科学技術覇権を悪用し、サイバー攻撃や盗聴を無差別に実行している。その対象は競争相手国だけでなく同盟国にまで及び、元ドイツ首相のアンゲラ・メルケルや複数のフランス大統領などの同盟指導者でさえ、無差別監視の対象になっていたことは周知の事実だ。「プリズムゲート」、「Bvp47」・・・などの悪名は世界に轟いている。ウィキリークスウェブサイトの創設者であるアサンジが米国の監視プロジェクトを暴露したことは説明するまでもないだろう。◆扇動的な文化覇権米国の文化覇権は「直接介入」から「メディア浸透」や「世界の拡声器」へと移行し、他国の内政に干渉する際には、米国主導の欧米メディアに頼らせることによって国際世論を扇動する。2022年12月27日、TwitterのCEOであるイーロン・マスクは、すべてのソーシャルメディアが米国政府と協力してコンテンツを検閲していると述べた。米国国防総省はソーシャルメディアを操作している。米国は報道の自由においてダブルスタンダードを持っていて、他国のメディアを暴力的に抑圧している。米国は社会主義国家を転覆させるに文化覇権を乱用し、米国の価値観で世界を染めるため主要なラジオやテレビのネットワークに巨額の政府資金を注ぎ込み、数十ヵ国の言語で報道し、昼夜を問わず社会主義国への批難を受け付ける扇動工作を行っている。米国は虚偽の情報を流すことによって他国を攻撃する武器としている。それによって国際世論に影響を与えることに専念している。◆結語米国のこうした単独覇権主義、唯我独尊主義、倒行逆施(無理強いした)覇権的慣行は、国際社会からの批判と反対をますます強く引き起こしている。しかしそれに染まってしまった目には真実が見えない。各国は互いを尊重し平等に扱うべきだ。対立ではなく対話、同盟ではなくパートナーシップを通じて、国際交流の新しい道を切り開かなければならない。中国は常にあらゆる形態の覇権主義と権力政治、そして他国の内政への干渉に反対してきた。米国は傲慢と偏見を捨て、覇権といじめを放棄すべきだ。(概要紹介ここまで。)===以上だ。日本の半導体が沈没した原因や日本の失われた30年などに関しては共鳴する部分もあるが、「いや、それはあなたも同じでしょ?」と言いたい部分もある。もし筆者が中国に渡航しても、中国政府が筆者を逮捕することがなければ、中国の主張にも一理あると認めよう。中国政府が今も真相を認めない『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』を筆者が書いていることと、中国を批判する論考を展開しているという理由によって、中国の領土内に降り立った瞬間、逮捕するのではないか?筆者にしてみれば、それが、この報告の是非を判断するクライテリオンだ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbxw_new/202302/t20230220_11027619.shtml <CS> 2023/03/02 16:44

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