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中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2023/03/13 10:58 配信元:FISCO
*10:58JST 中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

3月10日、中国はイランとサウジの外交関係を修復させたが、習近平は2013年から中東への接近に挑戦。ウクライナ戦争が石油人民元化を促進し、今では台湾和平統一へのシグナルに。米国は阻止するだろう。

◆中国がイランとサウジアラビアの外交関係修復を仲介 3ヵ国共同声明
3月10日、中国(中華人民共和国)とイラン(イラン・イスラム共和国)、サウジ(サウジアラビア王国)3カ国による共同声明が出された(※2)。イランのシャムハニ最高安全保障委員会事務局長とサウジのアイバン国家安全保障顧問は3月6日から10日まで北京に滞在し、中国外交のトップである王毅・中共中央政治局委員と会談を行った。

イランとサウジは2016年1月3日から断交していた。

というのは、両国ともイスラム教国ではあるが、シーア派(イラン)とスンニ派(サウジ)に分かれて争い、特に2016年1月2日にサウジでイスラム教シーア派聖職者を処刑したことから、イランで激しい反サウジデモが展開され、以来、中東の近隣諸国を巻き込む形で争いが絶えなかったからだ。

その両国を和解させた意義は大きく、中東周辺諸国はみな礼賛の意を表した。

中国共産党傘下の中央テレビ局CCTVは「イランとサウジの和解に関して最も重要な文字は3文字ある。それは【在北京】(北京で)というという3文字だ。西側諸国、特にアメリカには絶対に成し得なかったことを【北京】がやってのけたということだ。西側は世界各地で戦争を引き起こし、火に油を注ぎ続け、国際社会を分断させることに余念がないが、中国はその逆の方向に動いている。人類運命共同体を軸に、世界に和睦と平和をもたらそうとしているのは【中国だ】ということが、これで明らかになっただろう」と高らかに解説している(※3)。

習近平がなぜこのタイミングでこのような挙に出たのかに関しては、「これまでの経緯」、「その狙いは?」、「なぜ全人代開催中なのか?」など、いくつかの視点から分析しなければならない。

◆最初の動機は「一帯一路」
習近平が中東に近づいた最初の動機は「一帯一路」だ。中国から陸を伝い、海を渡って巨大経済圏を形成していく。習近平が国家主席になった2013年から「一帯一路」構想は始まっていた。ヨーロッパへの出口にウクライナは重要だった。そしてさらに南西の方向の中東を押えるため、習近平は自ら中東産油国を訪問すべく、2015年4月の日程が組まれていた。ところがイエメン内戦が起きたため、中東訪問は延期された。

そこで、2015年後半になると、2016年1月にイランやサウジを含む中東主要産油国訪問が再び日程にのぼった。

ところが、2016年1月2日に、上述のようなシーア派聖職者処刑事件がサウジで起きたので、本来ならば1月に予定されていた中東訪問はまたしても中断するしかなかったはずだ。

しかし習近平は逆に出た。

あえてイランやサウジなどを訪問し、当該国と単独に戦略的パートナーシップ協定を結んだのである。

実はサウジは習近平に「イラン訪問を取り消してサウジだけを訪問してほしい」と頼んできた。しかしそのとき習近平はその要求を断っている。「中東で敵を作りたくない。みな運命共同体だ。もし私がイランだけを訪問して貴国(サウジ)を訪問しなかったら、我々両国は敵対国になってしまうだろう。わが国にはイランも大切だが、サウジはそれ以上に大切だ」という趣旨の回答をして、サウジを先に訪問した。

そのようにしても、イランは中国を敵対視しないのを知っているからだ。

習近平は2016年1月19日にサウジを訪問して中国・サウジ間の「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名し(※4)、1月22-23日にイランを訪問して同じくイランとの間で23日に「包括的戦略パートナーシップ協定」を結んだ(※5)。

別の見方をすれば、中国はイスラム圏紛争により「漁夫の利」を得たとも言えよう。

◆ウクライナ戦争が目的を変えさせた――「石油人民元」勢力圏
その「漁夫に利」はウクライナ戦争が起きると、突如「石油人民元」勢力圏拡大へと、習近平の中東戦略を変えさせていった。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』(※6)の【第二章 習近平が描くタイト『軍冷経熱』の恐るべきシナリオ】の中の【四 対露SWIFT制裁は脱ドルとデジタル人民元を促進する】で詳述したように、中国は当時の王毅外相を遣わせて猛然たる勢いで中東産油国を駆け巡らせ、「石油人民元」を中心とした「非ドル経済圏」形勢に突進している。

決定打になったのは昨年12月7日の習近平によるサウジ訪問だ。

2022年12月13日のコラム<習近平、アラブとも蜜月  石油取引に「人民元決済」>(※7)に書いたように、サウジの激烈なまでの熱い歓迎ぶりは尋常ではなく、昨年7月にアメリカのバイデン大統領がサウジを訪問した時の冷遇とは、比較にならないほどの雲泥の差があった。サルマン国王やムハンマド皇太子の習近平への熱いまなざしとともに、習近平は9日には湾岸協力アラブ諸国会議首脳らとも会談し、中東への中国の食い込みを鮮明にした。

加えて今年2月14日にはイランのライシ大統領が訪中して習近平を会談し(※8)、ライシ統領に習近平は「中国は常に戦略的観点からイランとの関係を捉え、発展させており、国際・地域情勢がどう変化しようとも、いささかも揺らぐことなくイランとの友好的協力を発展させ、両国の包括的な戦略的パートナーシップが絶えず新たな発展を遂げる後押しをし、百年間なかった大きな変化の中で世界の平和と人類の進歩のために積極的な役割を果たしていく」と表明した。

サウジには習近平自らが訪問し、イランには大統領を訪中させるということでも、中国にとって「イラン・サウジ」を平等に扱っていると位置付けることができるのは、「イランはどのようなことがあっても中国から離れない」という確固たる自信があるからだ。友誼を誓い合ってさえいれば、イランなら中国に、サウジのように駄々をこねて、「サウジをひいきにしている」というようなことは言わない。

イランはアメリカから制裁を受けている国として「中国・ロシア・北朝鮮」とは友誼の手を揺るがせないというのを、中国は過去たる自信をもって知っているのである。

こうして3月10日に「中国・イラン・サウジ」3ヵ国共同声明が発表され、中国はアメリカにはできなかった「中東紛争国の和睦」の一つを成し遂げたのである。


「中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202303/t20230310_11039137.shtml
(※3)https://www.youtube.com/watch?v=dMIb4BOYffg
(※4)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_676860/1207_676872/201601/t20160120_7996520.shtml
(※5)https://www.fmprc.gov.cn/web/gjhdq_676201/gj_676203/yz_676205/1206_677172/1207_677184/201601/t20160123_8006978.shtml
(※6)https://www.amazon.co.jp/dp/4569852327/
(※7)https://grici.or.jp/3825
(※8)http://japanese.beijingreview.com.cn/politics/202302/t20230215_800321924.html



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