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ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2023/10/12 10:48 配信元:FISCO
*10:48JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

10月7日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルに向けて大規模奇襲攻撃を行った。中東戦争に発展するのではないのか、世界が注目している。表面的にはサウジアラビア(サウジ)がパレスチナ問題を解決しないまま、イスラエルと国交正常化することに対するハマスの怒りの表れと解説されているが、実はその背後で動いていたのは、又もやアメリカの世界制覇への諦めきれない執着だ。

中国が仲介してサウジとイランを和解させて以来、中東和解現象が雪崩のごとく起きていた。もはやアメリカの中東における役割は消え去ったかに見えた。しかし、アメリカは指をくわえて中東におけるアメリカ衰退の様を見ていたわけではない。

ハマス奇襲攻撃に至るまでのアメリカの対中対抗措置の経緯を考察することによって、現在起きている事態への理解を深めたい。


◆習近平が起こした中東和解雪崩現象
習近平が今年3月10日に国家主席に三選された日、北京では中国を仲介としてサウジとイランとの和解が発表された。サウジはアメリカの同盟国のような存在であり、イランはアメリカが最も敵視している国の一つだ。そのイランとサウジが和解したということは、サウジはある意味でアメリカを見限ったということになる。

その原因やその後の和解雪崩現象に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※2)で詳述し、また7月8日のコラム<加速する習近平の「米一極から多極化へ」戦略 イランが上海協力機構に正式加盟、インドにはプレッシャーか>(※3)で、その後の現象も追加説明した。

このままでは、脱アメリカ現象が加速する可能性があっただろう。

しかし、それを傍観しているようなアメリカではない。


◆習近平の「一帯一路」に対抗するためインド・中東・欧州経済回廊を提案したバイデン
これに関してバイデン政権が着手したのは、習近平が唱えて実行してきた巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するための「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC = India-Middle East-Europe Economic Corridor)」の構築(※4)である。この構想でインフラが整備されれば、スエズ運河を通ることなくアジアと欧州を結ぶ貿易の動脈が完成する。

この構想は今年9月9日~10日にインドで開催されたG20サミットで公表された。

本来、2021年の段階では「アメリカ、インド、イスラエル、UAE」の4ヵ国枠組みだったのだが、サウジのアメリカ離れと中国接近を受けて、サウジも入れることになり、インドを触媒にしながら「アメリカ―イスラエル―サウジ」の線を強化しようとバイデン政権は狙っていた。

そこに共通している敵国は「イラン」のはずだった。

しかし2023年3月の中国によるサウジとイランの和解により、この構想の軸が怪しくなり始めた。

そこで、バイデンはインドのモディ首相をワシントンに招いて歓待し、モディを陥落させようと動いた。結果、9月のG20サミットでは、めでたくお披露目となったわけだ。


◆習近平が起こした中東和解に対抗するため、サウジとは防衛条約を協議
今年9月22日のNBCニュース<U.S. talks for a landmark deal with Saudi Arabia and Israel are gaining steam(サウジとイスラエルに関する画期的な取引のためのアメリカの交渉は勢いを増している)>(※5)によれば、サウジがアメリカの防衛協定と引き換えにイスラエルとの関係を正常化し、独自の民間核計画の開発を支援することになるとのこと。

しかし、イスラエルとパレスチナ人との継続的な紛争など、重大なハードルが残っているわけだから、その解決なしにサウジがイスラエルと和解して国交を正常化すれば、パレスチナが黙っているはずがない。

もちろんこの防衛協定はNATOのような軍事同盟ではなく、たとえば日米間のように、互いの国が脅かされた時に相手国のみを互いに助け合うという種類のものだが、それでもサウジとバイデン政権の間にはカショギ記者殺害に関するわだかまりがあり、あれだけサウジのムハンマド皇太子を非難したバイデンとしては、米国民に対して説明がつかない、相当に無理がある動きだ。

NBCの報道を含めた数多くのメディアが、「これはバイデンの2024年における大統領選のための姑息な策略に過ぎない」と批判的な見解を展開している。


「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※3)https://grici.or.jp/4420
(※4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E4%B8%AD%E6%9D%B1%E3%83%BB%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%9B%9E%E5%BB%8A
(※5)https://www.nbcnews.com/news/world/us-talks-saudi-arabia-israel-normalization-deal-rcna116464



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