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ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2023/10/12 10:54
配信元:FISCO
*10:54JST ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
◆イスラエルのネタニヤフ首相は「偽装親中」だった?
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は今年7月には訪中して習近平に会うだろうと、6月のイスラエルのメディア(イスラエル・タイムズ)が報道している(※2)と、中国の国営テレビ局CCTVは誇らしげに解説していた。
このことに強い危機感を抱いたため、バイデンは7月17日にネタニヤフに電話して訪米を誘った(※3)と、多くのメディアが報道した。
その後、訪中の話題が立切れになったところを見ると、ネタニヤフはバイデンに「お前が私の司法制度改革を批判したりするのなら、私は習近平に近づくぞ!」と脅して、「バイデンが折れ、ネタニヤフの訪米を要請するしかないところにバイデンを追い込んだ」気配がある(司法制度改革問題に対するバイデンのネタニヤフ批判に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)で系統的に詳述した)。
案の定今年9月20日にネタニヤフは国連総会に参加してバイデンとの会談を実現し、訪中問題は立切れになってしまった。
ホワイトハウスは、バイデンとネタニエフの会談を高らかに公表している(※5)。
◆中国はどうするつもりか?
では中国はどうするつもりなのか?
少なくとも関心度から言うと尋常ではなく、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は数知れぬほどの論評を発表し、CCTVも1時間ごとに新たな情勢を実況中継したり、論説委員に解説させたり、報道頻度はどの国にも負けないだろうと思われるほどだ。
というのも水と油のような宗派の異なるサウジ(スンニ派)とイラン(シーア派)を和解させ、その後、中東和解雪崩現象を現出させた中国としては、「アメリカが介入した途端に戦争が起きる」ということを言いたいのだろう。
ハマスはスンニ派なので、同じ宗派同士が助け合うのを鉄則としているイスラム界では、ハマスがイスラエルに戦いを挑んだからには、サウジとしてはハマスの意図に反する行動は取りにくいという事情がある。
したがって、ハマスのイスラエル攻撃は、サウジとイスラエルの和解を完全に阻止する役割を果たしただろうというのが、大方の味方だ。
しかし、ウクライナ戦争同様、中国は「戦争に関しては、あくまでも中立」という立場を貫いている。イスラエルのネタニヤフとも仲良くしていないと、中国による「中東の平和」作戦を遂行できなくなるので、報道は「アメリカを非難すること」においては共通していても、イスラエルかパレスチナ・ハマスか、という陣営分けに関しては実に中立だ。実況中継もガザ地区とイスラエルの両方にCCTVの特派員がいて、よほど注意して観てないと、どちらの陣営の被害を中継しているのか分からないほどである。
一つだけ違うのは、アメリカが又もやイスラエルに対して武器支援をしようとしているということに対する執拗なほどの報道で、それによって、いま中継しているのはイスラエルからかガザ地区からかが分かるほど、そこだけは鮮明だ。
ハマスが一気に5000発にも上るミサイルを発射できるほど兵器をため込むことができたのかに関して、ハマス側が「2年ほど前から、いざという時のために準備してきた」とばらす生の声も中国のネット空間で動画として出回っている。それに対して「アメリカがアフガンを撤退したときに残した大量の武器をアフガンが関連諸国・組織に売りさばき、ウクライナ戦争でアメリカを中心とした西側諸国がウクライナに送った大量の武器も腐敗が蔓延しているウクライナの一部の者が横流ししているのだから、アメリカは自分が提供した武器で同盟国を襲撃させている」と嘲笑うコメントも中国のネット空間には飛び交っている。
中国政府の正式な立場としては、中国の外交部(※6)も、中国政府の通信社である新華社(※7)も、一律に以下のようにしか言っていない。
・中国は、現在のパレスチナ・イスラエル間の緊張の高まりと暴力のエスカレーションを深く懸念し、すべての関係者に対し、冷静かつ自制を保ち、直ちに停戦し、民間人を保護し、状況のさらなる悪化を防ぐよう呼びかける。
・パレスチナとイスラエルの紛争を鎮圧する基本的な方法は、「二国間による解決の実施」と「独立したパレスチナ国家の樹立を承認すること」だ。
・それは1967年に決めた境界線に基づくべきである。
また一般庶民の目としては、この動画(※8)が分かりやすく、サウジはアメリカの呼びかけを断るのではないかといった憶測が広がっている。
なお、宗派が異なってもイラン(シーア派)がパレスチナ(スンニ派)を応援するのは、アメリカによる制裁と差別的抑圧があまりに酷いからという「共通項」があるからだ。それこそ習近平が「米一極から多極化へ」の地殻変動を起こすことを可能ならしめている。その意味では、アメリカには「一極支配はアメリカを弱体化に追い込む」という論理を張る識者・政治家がいるのは見上げたものだと言わねばなるまい。
習近平が狙う地殻変動は、実は、アメリカの覇道がなかったら起きなかったわけで、中国にとっては、アメリカの覇道は、むしろ天の恵みと言えるのかもしれない。
10月9日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartII2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために>(※9)に書いた(偉大なる黒幕)ブレジンスキーの論理からすれば、次は台湾有事を狙うはずだった。しかし『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※10)に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(刃を血塗らずして勝つ)」なので、台湾が独立でも叫ばない限り、なかなか積極的に台湾を武力攻撃しようとはしない。2024年までの米大統領選に間に合わないのだ。だから手っ取り早くイスラエルとサウジを嗾(けしか)けた。
これはアメリカをさらなる窮地に追い込むだろう。
ウクライナと中東に戦力を注ぎながら、台湾有事を捌(さば)くことなど、いくらアメリカの軍事力が強いと言っても不可能というもの。
台湾の総統選にも不利に働く。
残念ながら、何やら習近平の高笑いが聞こえてきそうだ。
この論考はYahoo(※11)から転載しました。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.cctv.com/2023/06/27/ARTIJns9xopoS885A09ekjGY230627.shtml
(※3)https://www.dw.com/zh/%E4%BB%A5%E8%89%B2%E5%88%97%E7%B8%BD%E7%90%86%E5%B0%87%E8%A8%AA%E4%B8%AD%E7%BE%8E-%E5%A4%A7%E5%9C%8B%E7%AB%B6%E7%88%AD%E5%BB%B6%E7%87%92%E4%B8%AD%E6%9D%B1/a-66260414
(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※5)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/09/20/readout-of-president-joe-bidens-meeting-with-prime-minister-benjamin-netanyahu-of-israel/
(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202310/t20231008_11157292.shtml
(※7)http://www.news.cn/world/2023-10/08/c_1212285572.htm
(※8)https://www.bilibili.com/video/BV1134y137xg/
(※9)https://grici.or.jp/4695
(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1a52cd61abc617f1a3a7b31c44e35385fb43be0b
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◆イスラエルのネタニヤフ首相は「偽装親中」だった?
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は今年7月には訪中して習近平に会うだろうと、6月のイスラエルのメディア(イスラエル・タイムズ)が報道している(※2)と、中国の国営テレビ局CCTVは誇らしげに解説していた。
このことに強い危機感を抱いたため、バイデンは7月17日にネタニヤフに電話して訪米を誘った(※3)と、多くのメディアが報道した。
その後、訪中の話題が立切れになったところを見ると、ネタニヤフはバイデンに「お前が私の司法制度改革を批判したりするのなら、私は習近平に近づくぞ!」と脅して、「バイデンが折れ、ネタニヤフの訪米を要請するしかないところにバイデンを追い込んだ」気配がある(司法制度改革問題に対するバイデンのネタニヤフ批判に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』(※4)で系統的に詳述した)。
案の定今年9月20日にネタニヤフは国連総会に参加してバイデンとの会談を実現し、訪中問題は立切れになってしまった。
ホワイトハウスは、バイデンとネタニエフの会談を高らかに公表している(※5)。
◆中国はどうするつもりか?
では中国はどうするつもりなのか?
少なくとも関心度から言うと尋常ではなく、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は数知れぬほどの論評を発表し、CCTVも1時間ごとに新たな情勢を実況中継したり、論説委員に解説させたり、報道頻度はどの国にも負けないだろうと思われるほどだ。
というのも水と油のような宗派の異なるサウジ(スンニ派)とイラン(シーア派)を和解させ、その後、中東和解雪崩現象を現出させた中国としては、「アメリカが介入した途端に戦争が起きる」ということを言いたいのだろう。
ハマスはスンニ派なので、同じ宗派同士が助け合うのを鉄則としているイスラム界では、ハマスがイスラエルに戦いを挑んだからには、サウジとしてはハマスの意図に反する行動は取りにくいという事情がある。
したがって、ハマスのイスラエル攻撃は、サウジとイスラエルの和解を完全に阻止する役割を果たしただろうというのが、大方の味方だ。
しかし、ウクライナ戦争同様、中国は「戦争に関しては、あくまでも中立」という立場を貫いている。イスラエルのネタニヤフとも仲良くしていないと、中国による「中東の平和」作戦を遂行できなくなるので、報道は「アメリカを非難すること」においては共通していても、イスラエルかパレスチナ・ハマスか、という陣営分けに関しては実に中立だ。実況中継もガザ地区とイスラエルの両方にCCTVの特派員がいて、よほど注意して観てないと、どちらの陣営の被害を中継しているのか分からないほどである。
一つだけ違うのは、アメリカが又もやイスラエルに対して武器支援をしようとしているということに対する執拗なほどの報道で、それによって、いま中継しているのはイスラエルからかガザ地区からかが分かるほど、そこだけは鮮明だ。
ハマスが一気に5000発にも上るミサイルを発射できるほど兵器をため込むことができたのかに関して、ハマス側が「2年ほど前から、いざという時のために準備してきた」とばらす生の声も中国のネット空間で動画として出回っている。それに対して「アメリカがアフガンを撤退したときに残した大量の武器をアフガンが関連諸国・組織に売りさばき、ウクライナ戦争でアメリカを中心とした西側諸国がウクライナに送った大量の武器も腐敗が蔓延しているウクライナの一部の者が横流ししているのだから、アメリカは自分が提供した武器で同盟国を襲撃させている」と嘲笑うコメントも中国のネット空間には飛び交っている。
中国政府の正式な立場としては、中国の外交部(※6)も、中国政府の通信社である新華社(※7)も、一律に以下のようにしか言っていない。
・中国は、現在のパレスチナ・イスラエル間の緊張の高まりと暴力のエスカレーションを深く懸念し、すべての関係者に対し、冷静かつ自制を保ち、直ちに停戦し、民間人を保護し、状況のさらなる悪化を防ぐよう呼びかける。
・パレスチナとイスラエルの紛争を鎮圧する基本的な方法は、「二国間による解決の実施」と「独立したパレスチナ国家の樹立を承認すること」だ。
・それは1967年に決めた境界線に基づくべきである。
また一般庶民の目としては、この動画(※8)が分かりやすく、サウジはアメリカの呼びかけを断るのではないかといった憶測が広がっている。
なお、宗派が異なってもイラン(シーア派)がパレスチナ(スンニ派)を応援するのは、アメリカによる制裁と差別的抑圧があまりに酷いからという「共通項」があるからだ。それこそ習近平が「米一極から多極化へ」の地殻変動を起こすことを可能ならしめている。その意味では、アメリカには「一極支配はアメリカを弱体化に追い込む」という論理を張る識者・政治家がいるのは見上げたものだと言わねばなるまい。
習近平が狙う地殻変動は、実は、アメリカの覇道がなかったら起きなかったわけで、中国にとっては、アメリカの覇道は、むしろ天の恵みと言えるのかもしれない。
10月9日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartII2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために>(※9)に書いた(偉大なる黒幕)ブレジンスキーの論理からすれば、次は台湾有事を狙うはずだった。しかし『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(※10)に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(刃を血塗らずして勝つ)」なので、台湾が独立でも叫ばない限り、なかなか積極的に台湾を武力攻撃しようとはしない。2024年までの米大統領選に間に合わないのだ。だから手っ取り早くイスラエルとサウジを嗾(けしか)けた。
これはアメリカをさらなる窮地に追い込むだろう。
ウクライナと中東に戦力を注ぎながら、台湾有事を捌(さば)くことなど、いくらアメリカの軍事力が強いと言っても不可能というもの。
台湾の総統選にも不利に働く。
残念ながら、何やら習近平の高笑いが聞こえてきそうだ。
この論考はYahoo(※11)から転載しました。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.cctv.com/2023/06/27/ARTIJns9xopoS885A09ekjGY230627.shtml
(※3)https://www.dw.com/zh/%E4%BB%A5%E8%89%B2%E5%88%97%E7%B8%BD%E7%90%86%E5%B0%87%E8%A8%AA%E4%B8%AD%E7%BE%8E-%E5%A4%A7%E5%9C%8B%E7%AB%B6%E7%88%AD%E5%BB%B6%E7%87%92%E4%B8%AD%E6%9D%B1/a-66260414
(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※5)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/09/20/readout-of-president-joe-bidens-meeting-with-prime-minister-benjamin-netanyahu-of-israel/
(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202310/t20231008_11157292.shtml
(※7)http://www.news.cn/world/2023-10/08/c_1212285572.htm
(※8)https://www.bilibili.com/video/BV1134y137xg/
(※9)https://grici.or.jp/4695
(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4828425349/
(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1a52cd61abc617f1a3a7b31c44e35385fb43be0b
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