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台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ政権の顛末 「米中台」関係を読み解く(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/08/01 10:56
配信元:FISCO
*10:56JST 台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ政権の顛末 「米中台」関係を読み解く(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
フィナンシャル・タイムズ(FT)は7月28日、「習近平国家主席との会談予定や米中貿易合意に向けての交渉のさなか、トランプ大統領は習近平との関係を重んじて、頼清徳総統が8月にニューヨークに立ち寄るのを拒否した」と報道した(※2)(登録、有料)。中国側の猛烈な抗議を配慮した結果だという。
すると、「トランプは中国大陸を重んじて台湾をないがしろにした」と、台湾メディアは燃え上がった。特に「なにも、頼清徳に世界大衆の面前で恥をかかせることはないだろう。なぜそれをマスコミに流してしまったのか」と大荒れで、頼清徳は「もともと予定していた(と言われている)8月の南米訪問は、そもそも存在していなかった」という形で「屈辱」をかわそうとしている。そのことが台湾メディアをいっそう掻き立て、頼清徳は「笑いもの」の的になっているのが現状だ。
アメリカのペロシー元下院議長もトランプの決断を激しく攻撃(※3)。それも含めて台湾メディアは面目を失った頼清徳を追い詰めていた。
ところが一転。
7月29日になると、米国務省報道官が「そもそも台湾総統の外遊予定はなかったので、アメリカの台湾に対する立場は不変だ」と宣言したのだ(※4)。頼清徳のメンツを守った形だが、これがまた台湾メディアを刺激した。
いずれにしても、以上の顛末は、トランプがいかに習近平を重んじているか(相対的にいかに台湾を軽んじているか)の証しであり、またトランプ周辺の対中強硬派とのバランスも垣間見せる。今後のトランプ政権の対中・対台湾姿勢が気になる。
◆「トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒否」に色めき立つ台湾メディア
トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒絶したというニュースに台湾のメディアは燃え上がった。
中央通信社CANは7月29日、<トランプが頼総統のニューヨーク立ち寄りを拒否 ペロシー:危険信号>(※5)という見出しで報道し、同じく7月29日、聯合新聞網は<FT:頼清徳総統はアメリカがニューヨーク立ち寄りを許さないことを知った後に、8月の外遊を取り消した>(※6)と明確に因果関係をばらしてしまった。
7月29日、BC東森新聞は<頼清徳がニューヨーク経由を拒否された? 学者らが「トランプのそろばん勘定」を暴露:目を覚ます時が来た>(※7)という見出しで学者の意見を載せている。「トランプが何を考えているか、気が付くべきだ。台湾の人々よ、目を覚ますときが来た」という趣旨の論考だ。要は「トランプは台湾を重要していない。いざとなった時に(台湾有事に)、アメリカが必ずしも台湾を助けてくれるとは限らない」と切実だ。
威勢よくまくしたてるのは「新聞大白話」のYouTubeだ。7月29日、<トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒否? ペロシーが「台湾危険シグナル」を響かせたよ>(※8)というタイトルで、面白おかしく現状を斬っている。
7月29日、聯合新聞網は、もう一本関連記事を発信して、頼清徳が支援する市民団体がリコール対象としていた国民党の王鴻薇書記長の<トランプにニューヨーク立ち寄りを拒否されて、約束していた南米訪問をも取り消すのは、国交のある南米の国に失礼ではないか>(※9)という趣旨のコメントを報道している。「ニューヨーク経由の拒否を受けて、頼清徳は台湾南部の台風被害やトランプ関税対応などを理由に、『もともと海外訪問の予定はなかった』などとしているが、8月にパラグアイ、グアテマラ、ベリーズなどの外交関係を持つ国を訪問する予定で、そのときにニューヨークを経由するということは、知らない人はいないくらい知れわたっている。それを今さら『訪問する予定はそもそもない』などと言い逃れるのは、相手国に失礼ではないか!」というのが王鴻薇の主張だ。
台湾総統府はたしかに正式に声明を出したことはないが、すでに訪問するはずだった相手国からの発信さえある。
◆頼清徳の8月南米訪問は既定路線だった
たとえば今年7月15日の「公視新聞網」は<(台湾の)林佳龍(外交部長)は代表団を率いて南米の友人であるパラグアイを訪問 パラグアイのサンティアゴ・ペニャ大統領は「8月に頼清徳総統が訪問する」と述べた>(※10)というタイトルで報道し、パラグアイのペニャ大統領が「8月には頼清徳総統の訪問を受ける」と明らかにし、かつ「今からの30日間は頼清徳総統をお迎えするために準備万端進めております」とさえ言っていることを伝えている。また、台湾メディアによると頼清徳は8月に「グアテマラ、ベリーズにも行き、ニューヨークとテキサス州ダラスを経由する予定だ」と報道している。
7月15日の聯合新聞網も<頼清徳は来月中南米を訪問 米国ニューヨークとダラスを経由する予定>(※11)という見出しで報道し、それに先立ち、台湾の林佳龍外交部長が訪問したと書いている。類似の報道はあまりに多いので省く。
注目すべきは、中国大陸(北京政府)の方の外交部が7月15日に記者会見で抗議したことだ(※12)。ロイター社の記者が「パラグアイの大統領が、台湾の頼清徳総統が来月同国を訪問するので、その準備を進めていると述べました。頼総統はベリーズも訪問する予定で、アメリカを経由する可能性が高いと言われています。中国はアメリカに対し、頼総統のアメリカ経由を認めないよう要請したのでしょうか?またアメリカの反応はどうでしたか?」という質問をしている。
それに対して林剣報道官は「一つの中国」原則を踏みにじっているパラグアイに激しく抗議するとともに、アメリカ経由の可能性に関する質問に対して「中国はアメリカと台湾の間のいかなる形式の公式交流にも断固として反対し、台湾当局の指導者がいかなる名義、いかなる理由であれアメリカに出入りすることに断固として反対し、アメリカが“台湾独立”分離主義者とその分離活動をいかなる形でも黙認し、支援することにも断固として反対する。アメリカは台湾問題の高い敏感性を認識し、『一つの中国』原則と米中3つの共同コミュニケを堅持し、最大限の注意を払って台湾問題に対処すべきだ」と激しく憤りを顕わにした。
トランプは、これに対して配慮したものと思われる。
7月30日のFTは、<アメリカが6月の時点で、台湾の国防部長(国防相)が訪米することを拒否していた>(※13)(登録、有料)という事実までつかんでいたことを報道している。その理由は「中国との貿易交渉が迫っていたからだ」とのこと。一部の米当局者は、「台湾の顧立雄国防部長の訪米を認めれば、米中貿易交渉が損なわれ、習近平国家主席との首脳会談実現に向けたトランプ大統領の努力にも悪影響が出ると懸念していた」とFTは記事の中で書いている。
「台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ政権の顛末 「米中台」三角関係を読み解く(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※14)より転載しました。
頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.ft.com/content/21575bec-5cdd-47ee-9db2-3031c4ea7ca7
(※3)https://x.com/SpeakerPelosi/status/1949978882360139948
(※4)https://www.state.gov/briefings/department-press-briefing-july-29-2025/
(※5)https://www.cna.com.tw/news/aipl/202507293001.aspx
(※6)https://udn.com/news/story/6656/8902747
(※7)https://tw.news.yahoo.com/%E5%82%B3%E8%B3%B4%E6%B8%85%E5%BE%B7%E8%A2%AB%E6%8B%92%E9%81%8E%E5%A2%83%E7%B4%90%E7%B4%84-%E5%AD%B8%E8%80%85%E6%9B%9D-%E5%B7%9D%E6%99%AE%E7%AE%97%E7%9B%A4-%E8%A9%B2%E6%B8%85%E9%86%92%E4%BA%86-032700206.html
(※8)https://www.youtube.com/watch?v=S7gOfRvNuzA
(※9)https://udn.com/news/story/6656/8903469
(※10)https://news.pts.org.tw/article/760861
(※11)https://udn.com/news/story/6656/8872571
(※12)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202507/t20250715_11671019.shtml
(※13)https://www.ft.com/content/baf4a261-1fce-4c38-b05f-ccd01d3be750
(※14)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/8e1accb8a6a5cd2fe8cd00020e49ca89a2ee3915
<CS>
フィナンシャル・タイムズ(FT)は7月28日、「習近平国家主席との会談予定や米中貿易合意に向けての交渉のさなか、トランプ大統領は習近平との関係を重んじて、頼清徳総統が8月にニューヨークに立ち寄るのを拒否した」と報道した(※2)(登録、有料)。中国側の猛烈な抗議を配慮した結果だという。
すると、「トランプは中国大陸を重んじて台湾をないがしろにした」と、台湾メディアは燃え上がった。特に「なにも、頼清徳に世界大衆の面前で恥をかかせることはないだろう。なぜそれをマスコミに流してしまったのか」と大荒れで、頼清徳は「もともと予定していた(と言われている)8月の南米訪問は、そもそも存在していなかった」という形で「屈辱」をかわそうとしている。そのことが台湾メディアをいっそう掻き立て、頼清徳は「笑いもの」の的になっているのが現状だ。
アメリカのペロシー元下院議長もトランプの決断を激しく攻撃(※3)。それも含めて台湾メディアは面目を失った頼清徳を追い詰めていた。
ところが一転。
7月29日になると、米国務省報道官が「そもそも台湾総統の外遊予定はなかったので、アメリカの台湾に対する立場は不変だ」と宣言したのだ(※4)。頼清徳のメンツを守った形だが、これがまた台湾メディアを刺激した。
いずれにしても、以上の顛末は、トランプがいかに習近平を重んじているか(相対的にいかに台湾を軽んじているか)の証しであり、またトランプ周辺の対中強硬派とのバランスも垣間見せる。今後のトランプ政権の対中・対台湾姿勢が気になる。
◆「トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒否」に色めき立つ台湾メディア
トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒絶したというニュースに台湾のメディアは燃え上がった。
中央通信社CANは7月29日、<トランプが頼総統のニューヨーク立ち寄りを拒否 ペロシー:危険信号>(※5)という見出しで報道し、同じく7月29日、聯合新聞網は<FT:頼清徳総統はアメリカがニューヨーク立ち寄りを許さないことを知った後に、8月の外遊を取り消した>(※6)と明確に因果関係をばらしてしまった。
7月29日、BC東森新聞は<頼清徳がニューヨーク経由を拒否された? 学者らが「トランプのそろばん勘定」を暴露:目を覚ます時が来た>(※7)という見出しで学者の意見を載せている。「トランプが何を考えているか、気が付くべきだ。台湾の人々よ、目を覚ますときが来た」という趣旨の論考だ。要は「トランプは台湾を重要していない。いざとなった時に(台湾有事に)、アメリカが必ずしも台湾を助けてくれるとは限らない」と切実だ。
威勢よくまくしたてるのは「新聞大白話」のYouTubeだ。7月29日、<トランプが頼清徳のニューヨーク立ち寄りを拒否? ペロシーが「台湾危険シグナル」を響かせたよ>(※8)というタイトルで、面白おかしく現状を斬っている。
7月29日、聯合新聞網は、もう一本関連記事を発信して、頼清徳が支援する市民団体がリコール対象としていた国民党の王鴻薇書記長の<トランプにニューヨーク立ち寄りを拒否されて、約束していた南米訪問をも取り消すのは、国交のある南米の国に失礼ではないか>(※9)という趣旨のコメントを報道している。「ニューヨーク経由の拒否を受けて、頼清徳は台湾南部の台風被害やトランプ関税対応などを理由に、『もともと海外訪問の予定はなかった』などとしているが、8月にパラグアイ、グアテマラ、ベリーズなどの外交関係を持つ国を訪問する予定で、そのときにニューヨークを経由するということは、知らない人はいないくらい知れわたっている。それを今さら『訪問する予定はそもそもない』などと言い逃れるのは、相手国に失礼ではないか!」というのが王鴻薇の主張だ。
台湾総統府はたしかに正式に声明を出したことはないが、すでに訪問するはずだった相手国からの発信さえある。
◆頼清徳の8月南米訪問は既定路線だった
たとえば今年7月15日の「公視新聞網」は<(台湾の)林佳龍(外交部長)は代表団を率いて南米の友人であるパラグアイを訪問 パラグアイのサンティアゴ・ペニャ大統領は「8月に頼清徳総統が訪問する」と述べた>(※10)というタイトルで報道し、パラグアイのペニャ大統領が「8月には頼清徳総統の訪問を受ける」と明らかにし、かつ「今からの30日間は頼清徳総統をお迎えするために準備万端進めております」とさえ言っていることを伝えている。また、台湾メディアによると頼清徳は8月に「グアテマラ、ベリーズにも行き、ニューヨークとテキサス州ダラスを経由する予定だ」と報道している。
7月15日の聯合新聞網も<頼清徳は来月中南米を訪問 米国ニューヨークとダラスを経由する予定>(※11)という見出しで報道し、それに先立ち、台湾の林佳龍外交部長が訪問したと書いている。類似の報道はあまりに多いので省く。
注目すべきは、中国大陸(北京政府)の方の外交部が7月15日に記者会見で抗議したことだ(※12)。ロイター社の記者が「パラグアイの大統領が、台湾の頼清徳総統が来月同国を訪問するので、その準備を進めていると述べました。頼総統はベリーズも訪問する予定で、アメリカを経由する可能性が高いと言われています。中国はアメリカに対し、頼総統のアメリカ経由を認めないよう要請したのでしょうか?またアメリカの反応はどうでしたか?」という質問をしている。
それに対して林剣報道官は「一つの中国」原則を踏みにじっているパラグアイに激しく抗議するとともに、アメリカ経由の可能性に関する質問に対して「中国はアメリカと台湾の間のいかなる形式の公式交流にも断固として反対し、台湾当局の指導者がいかなる名義、いかなる理由であれアメリカに出入りすることに断固として反対し、アメリカが“台湾独立”分離主義者とその分離活動をいかなる形でも黙認し、支援することにも断固として反対する。アメリカは台湾問題の高い敏感性を認識し、『一つの中国』原則と米中3つの共同コミュニケを堅持し、最大限の注意を払って台湾問題に対処すべきだ」と激しく憤りを顕わにした。
トランプは、これに対して配慮したものと思われる。
7月30日のFTは、<アメリカが6月の時点で、台湾の国防部長(国防相)が訪米することを拒否していた>(※13)(登録、有料)という事実までつかんでいたことを報道している。その理由は「中国との貿易交渉が迫っていたからだ」とのこと。一部の米当局者は、「台湾の顧立雄国防部長の訪米を認めれば、米中貿易交渉が損なわれ、習近平国家主席との首脳会談実現に向けたトランプ大統領の努力にも悪影響が出ると懸念していた」とFTは記事の中で書いている。
「台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ政権の顛末 「米中台」三角関係を読み解く(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※14)より転載しました。
頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.ft.com/content/21575bec-5cdd-47ee-9db2-3031c4ea7ca7
(※3)https://x.com/SpeakerPelosi/status/1949978882360139948
(※4)https://www.state.gov/briefings/department-press-briefing-july-29-2025/
(※5)https://www.cna.com.tw/news/aipl/202507293001.aspx
(※6)https://udn.com/news/story/6656/8902747
(※7)https://tw.news.yahoo.com/%E5%82%B3%E8%B3%B4%E6%B8%85%E5%BE%B7%E8%A2%AB%E6%8B%92%E9%81%8E%E5%A2%83%E7%B4%90%E7%B4%84-%E5%AD%B8%E8%80%85%E6%9B%9D-%E5%B7%9D%E6%99%AE%E7%AE%97%E7%9B%A4-%E8%A9%B2%E6%B8%85%E9%86%92%E4%BA%86-032700206.html
(※8)https://www.youtube.com/watch?v=S7gOfRvNuzA
(※9)https://udn.com/news/story/6656/8903469
(※10)https://news.pts.org.tw/article/760861
(※11)https://udn.com/news/story/6656/8872571
(※12)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202507/t20250715_11671019.shtml
(※13)https://www.ft.com/content/baf4a261-1fce-4c38-b05f-ccd01d3be750
(※14)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/8e1accb8a6a5cd2fe8cd00020e49ca89a2ee3915
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