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GRICI 北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。北朝鮮が連日ミサイルを発射し、それに対して米韓も報復発射をしている。北朝鮮と軍事同盟を持つ中国はどう反応しているか。中国の基本姿勢とともに拉致問題を抱える日本のあるべき姿を考察する。◆中国の反応まず北朝鮮が6月5日にミサイル8発を日本海に向けて発射したことに関して、中国ではほとんど報道されず、ただ環球時報が中央テレビ局CCTVアプリ版の報道を転載して「韓国と日本が報道した」(※2)という発信を3行しただけである。ところが6月6日に米韓が合同で同様に8発のミサイルを日本海に向けて発射すると、CCTVはかなり大きく扱った。米韓が8発のミサイルを報復発射したことに関して(※3)と、北朝鮮に抗議するために日米が合同軍事演習をしたことに関しての報道(※4)をご覧いただきたい。扱いが突然大きくなっている。ただ、特徴的なのは、北朝鮮のミサイル発射などの軍事行動に関して、中国は決して中国の情報として報道することはなく、たとえば今回も韓国の聯合ニュース報道の二次情報として報道している。米韓合同のミサイル発射も韓国の聯合ニュースを引用しているし、日米の合同軍事演習はロイター電として報道しているのである。◆なぜ中国は北朝鮮の軍事行動に関して他国報道の二次情報しか伝えないのか?中国が基本的に他国報道の二次情報しか使わないのは、中国と北朝鮮の間に軍事同盟(中朝友好協力相互援助条約)があるからだ。これは1961年5月16日に韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)が軍事クーデターを起こして軍事政権を樹立したため、北朝鮮は急遽、ソ連と中国に軍事同盟締結を求めたことに起因する。韓国とアメリカの間には米韓相互防衛条約という軍事同盟があるので、北朝鮮を軍事攻撃することを危惧したためだ。ソ連は1991年12月に崩壊したので、自然消滅したが、中国との間の軍事同盟は今も存在している。これがなかなかの曲者で、中国としては何度、この軍事条約を破棄しようとしたかしれないが、結局米中対立が激しくなってからは、日米韓から中国を守るための緩衝地帯として残すことにした。しかし、北朝鮮が危ない行動ばかりをするので、いつ、米韓と軍事衝突をするようなことがあるか分かったものではない。中国としては、一党支配体制の維持を最優先事項にしているので、その「巻き添え」になりたくないという気持ちから、北朝鮮にも「抑制」を求めているのだが、これがなかなか言う通りには動かない。金正恩政権が誕生してしばらくの間は、「北のミサイルの矛先は北京を向いている」とさえ言われた時期があったほどだ。しかし、トランプ政権が誕生し、「トランプ・金正恩」会談という、奇跡的なことが起き始めてからは、金正恩も習近平に低姿勢になり、トランプ大統領に会う前に「北京詣で」をするという、前代未聞の情況がしばらくあったわけだ。いずれの場合でも、中朝は複雑に絡みながらも、「軍事に関する機密は守る」という大原則があるため、北が起こした軍事行動に関して、中国は他国が報じてからでないと報道しないという「基本」を守っている。「北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: KRT/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/48IMUaTDRBs(※3)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEEG0jq4MGFEDHKXbCzzhv220606.shtml(※4)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEXm2mgBBnAgwYwj0cC0eF220606.shtml <FA> 2022/06/07 16:23 GRICI IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。●韓国の場合5月23日の中国外交部における定例記者会見で、韓国の記者が「IPEFは開放性、包括性、透明性の原則に基づいており、特定の国を除外するものではありません。ですから韓国はIPEFに参加していますが、しかし一方で、最大の貿易国であり隣国である中国との経済・技術協力を強化しています。中国はこのことをどう思っていますか?」と質問している。外交部報道官は「対立と分裂を招くような行動は適切ではありません」と、やや嘲笑的な表情で回答している。●日本の場合5月29日の共同通信の<外務省中国課に「戦略班」 習主席の支配体制分析>(※2)にもあるように、岸田首相はバイデン大統領に追随して「安全保障面で米国との連携を強める」一方、結局は<中国とは経済面の結び付きを中心に「建設的な関係」(岸田文雄首相)の構築を目指している>ではないか、というのが中国の皮肉に満ちた指摘だ。◆岸田首相の「新資本主義」は失敗する興味深いのは、特に岸田首相の「新資本主義」に焦点を当てて分析していることだ(「余計なおせっかい」とも言えなくはないが、一応、中国が日本をどう見ているのかの参考になるとは思うので、ご紹介したい)。この分析に関しては、たとえば中国共産党機関紙「人民日報」に姉妹版「環球時報」などが<「日本はインド太平洋経済枠組み(IPEF)>に反ぜいされるだろう(=自分の首を絞めるだろう)>(※3)という論理を展開している。他の多くの分析も参照しながら趣旨を書くと以下のようになる。・IPEFは日中および地域の経済・貿易協力だけでなく、日米経済貿易協力や日本自身の景気回復にも深刻な悪影響を及ぼす。・岸田政権は、日本が国連安保理常任理事国に加盟するのをアメリカが推薦してくれるなど、より多くの「安全保障」と引き換えに、中国の発展に対抗するための枠組みに協力している。・岸田政権は「経済安全保障」強化を目的として経済安全保障大臣の新たなポストを創設したり、経済安全保障推進法を国会で可決させたりしているが、しかし、アメリカが提唱し支配するIPEFは、欧米のメディアからさえ、「市場開放も関税引き下げもしない」など、多くの側面から疑問が投げかけられている。・岸田政権の、ワシントンとの「小さなサークル」への追随は、アジア太平洋地域の経済発展で形成されている日本の成果をさえ台無しにするだけでなく、日本自身の経済回復に深刻な悪影響を及ぼす。・中国と日本は、世界第2位と第3位の経済大国として、APECやRCEPなどの地域経済協力メカニズムの重要なメンバーであり、アジアにおける2大経済大国(中国と日本)の政策と態度は、地域経済協力の有効性と見通しに大きな影響を与える。・だというのに岸田政権は事実上、中国をターゲットとしたIPEFに自ら好んで組み込まれ日中協力を妨げおきながら、「経済的に中国と建設的な関係を構築していきたい」と言うことは、あまりに矛盾に満ち、中国の協力を得られると思っているのは計算違いだ(そうはいかない)。・岸田政権は、経済「成長」と「分配」の良好な相互作用を実現する「新資本主義」開発コンセプトを提唱している。しかし、日本は少子高齢化などの経済・社会問題に直面しており、財政・金融政策の余地は極めて限られているため、岸田政権が「新資本主義」の進展を図るには、対外経済協力、特に中国と米国の2つの重要な経済・貿易パートナーとの関係を適切に処理することが急務である。それなしに「成長」と「分配」を目指す「新資本主義」の達成など絶対にありえない。日本は自ら好んで自分の首を絞める道を選んでいる。(引用はここまで)◆ASEANを含めた中小国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強制するな日米がいま必死になってやっているのは、中露を除いた世界各国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強要していることだと、中国側は批判している。たとえば日本の外務省がASEAN諸国に対して行った世論論調査(※4)で、以下のような2021年度の結果が出ている。「日米中」3ヵ国にだけ注目して示す。Q1:あなたの国にとって、現在重要なパートナーは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 56%2位:日本 50%3位:アメリカ 45%Q2:あなたの国にとって、今後需要なパートナーとなるのは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 48%2位:日本 43%3位:アメリカ 41%一般に日本が調査した場合は、日本にやや好意的な選択をする傾向にあるが、日本の外務省が調査したというのに、中国がトップであることが、中国にとっては嬉しくてならないようだ。そこで中国では、ASEANを含めた中小国家に「日米どちらかを選べ」というような残酷な選択を迫るものではないと批判が噴出している。以上、今回は、あくまでも中国が、日米が一丸となって推し進めているIPEFに関する中国の反応のみにテーマを絞り、現状をご紹介した。私見を述べるなら、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第二章に書いたように、全世界で中国を最大貿易国としている国の数は、2018年統計で190ヵ国のうち「128ヵ国」で、アメリカは「62ヵ国」に過ぎない。その点から見ると、「中国を締め出すための経済協力機構」の構築の難度は高いのではないかと危惧する。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2https://news.yahoo.co.jp/articles/f39dc39bd9a7b27aa180112d17a4422a619a22a7(※3)https://opinion.huanqiu.com/article/4895Can4tt0(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100348514.pdf <FA> 2022/06/02 10:37 GRICI IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。バイデン大統領の提唱でスタートしたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に対し、中国は軽蔑にも似た酷評をし、それに追随する日本に対しても自らの首を絞めると嘲笑っている。中国の受け止めを考察する。◆バイデンが提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)に関する中国の酷評今年2022年2月11日にバイデン政権がインド太平洋戦略を発表し(※2)、18ページからなるリポート(※3)を出した時点から、中国の対米酷評は始まっていた。しかし5月23日にバイデン大統領が来日し、正式にインド太平洋経済枠組み(IPEF=Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)が立ち上がると、そのことに対する中国の批判は酷評を越えて嘲笑に近いものとなっていった。発足段階での参加国は「米国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、そしてオーストラリア」の13カ国で、台湾を入れる勇気はなかったことに、中国としては一種の「勝利感」を味わっているムードが伝わってくる。「一つの中国」原則を重んじたために、「台湾」を入れるなら「中国(北京政府)」を入れるしかなく、それでは「対中包囲網」になり得ないので、「さあ、何もできまい」という気持ちが文面から伝わってくるのである。IPEFの共同声明にも「中国を名指しするだけの勇気を持っていない」ことに、参加国の中国への配慮が滲み出ており、これもまた「中国の存在を無視できない参加国」という優越感にも似た安堵感が、酷評の中にそれとなく表れている。IPEFの合意は「公平で強靭性のある貿易、サプライチェーンの強靭性、インフラ・脱炭素化・クリーンエネルギー、税・反腐敗」の4つの柱から成っており、アメリカがどんなに中国排除を目的としていても、この内容なら困るのは参加国自身だと、鼻息は荒い。そのため中国におけIPEFに対する酷評の情報があまりに多いので、これまでのコラムのように、一つ一つリンク先を張ってご説明することは困難である。そこで膨大な情報の中からいくつかの共通項を拾ってみると、以下のようになる。・いま世界は自由貿易に向かって動こうとしているのに、アメリカは偽装した保護貿易主義へと進んでおり、しかも「中国を排除しよう」、「仲間外れにしてやれ」というのは冷戦構造への逆戻りで、それはソ連崩壊と同時に、1994年に終わったパリ調整委員会(ココム=対共産圏輸出統制委員会)を彷彿とさせる。・「中国を仲間外れにしてやれ」という理念が、貿易面で中国とは切っても切れないアジア諸国に共有できるはずがなく、アメリカの「小さなグループ」を作って誰かを虐めようとする分裂主義的行動は、冷戦構造以上にみっともなく、アジアの平和と豊かな繁栄に貢献するとは到底考えられない。分裂主義はアジアの繁栄を後退させ、参加国はバイデンへのメンツのために、やむなく名前貸し」をしているだけである。・もしバイデンがCPTPPに戻ってくるというのなら、一定の説得力があり、中国としても反対はしない。しかし、自分自身は自国の利益のためにTPPに戻ることはせず、アメリカにおける中間選挙や大統領選挙のために「やりました感」を出しているだけだとすれば、バイデン一人の自己満足であり、周辺国は大いに迷惑をしている。・アジアにはRCEPが既にあり、ASEAN諸国には地域協力プラットフォームもあり、これらにおいては自由貿易の理念を中心とした関税の引き下げや投資の自由など、魅力に満ちた互恵関係が動いている。しかしIPEFには関税の引き下げもなければ自由貿易的理念もなく、参加国にいかなるメリットももたらさない。中国を外してしまえば、そもそも「市場」がないので参加国には「儲け」が出てこない。ただ参加国を束縛して「中国を仲間外れにしましょう」という理念を共有する枠組みは必ず失敗し、「アメリカが笑いものになる」だけで終わるだろう。◆参加国のダブルスタンダード中国の酷評はそれにとどまらない。中国を追い出そうとしながら、参加国はそれぞれ個別には中国に譲歩し、中国との貿易を盛んにさせていこうと、こそこそと水面下でやっているではないか、というのが中国の指摘だ。●アメリカの場合バイデンは5月23日、トランプ政権時代に中国に課してあった制裁関税の引き下げに関して検討していると表明。もっとも5月31日、アデエモ米財務副長官はる対中制裁関税の引き下げについて物価抑制という短期的な効果だけで決断しないと言ったり、一方ではイエレン財務長官が実施に前向きな半面、対中貿易協議を担うタイ通商代表部(USTR)代表は慎重など、政権内に温度差があり、一枚岩ではない。このこと自体がバイデン政権のあやふやさを表していると、中国政府は見ている。そのような中、5月31日にアメリカのNBCニュースが<漂流するバイデン政権内部>(※4)というショッキングなタイトルで「バイデンは支持率の低下に動揺しており、選挙戦中の約束を果たそうと必死だが(無理ではないか・・・)」という趣旨の報道をした。すると中国のネットではすぐさま<米メディア:バイデンはホワイトハウスの適切でない発言に不満、支持率がトランプより低くなるのではないかと心配している>(※5)という、バイデンにとってはグサリとくるような見出しの報道が現れたほどだ。もう、バイデンを茶化して楽しんでいるという感さえある。「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/02/11/fact-sheet-indo-pacific-strategy-of-the-united-states/(※3)https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/02/U.S.-Indo-Pacific-Strategy.pdf(※4)https://www.nbcnews.com/politics/white-house/biden-white-house-adrift-rcna30121(※5)https://www.guancha.cn/internation/2022_06_01_642358.shtml <FA> 2022/06/02 10:34 GRICI 「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、「「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中共中央総書記は如何にして選ばれるのか?中国では特殊な政治制度の下で中国共産党による一党支配制度が実施されており、西側諸国のような普通選挙が行われているのではない。したがって、日本でよく「ゼロコロナに失敗したら、習近平の三期目に影響するので習近平は党大会が終わるまでは変えることができない」といった種類のことを大手メディアまでが言っているが、これは西側諸国の感覚が生む「幻想」に近い勘違いだ。誰を中共中央総書記に選ぶのかに関しては、14億の中国人の内、「約200名」の中共中央委員会委員にしか投票資格がないのである。このことを知らないために、「中国人民」が「中共中央総書記の選挙結果」に影響を与えるような「大きな錯覚」を持ち、大手メディアまでが「習近平三期目に大きな影響を与えるので・・・」といった類の解説をするのは罪作りなことである。では、どのようにして、「中共中央総書記」が選ばれるのか、その基本的プロセスをご説明する。中国には14億の人民がいるが、そのうち約1億人(正確には2021年6月5日の統計で9514.8万人)の中国共産党員がいる。この内の「約3000人」が全国代表として全国津々浦々の行政区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に一回開催される党大会に参加する。この3000人の中から「中共中央委員会委員約200人」を選ぶのだが、その選び方は基本的に党大会の全国代表を選ぶ選出母体が、割り当てられた「候補者」をノミネートする。ノミネートされた者が適切であるか否かは、現任の総書記をトップとした「中央組織」が再審査監督をするので、結局は、現在で言うならば、「習近平・中共中央総書記」が最終判断をすることになる。かくして厳選された「中共中央委員会委員候補者リスト」が党大会で配布され、一人一人に対して「賛成」、「反対」、「棄権」の3つのボタンの内のどれか一つを押して「投票」をする。候補者リストは「差額選挙」と称して、もし委員200人を選ぶとすると、110%ほどの名前をノミネートするので、10%の人は落選することになっている。差額の数値は、その時々で違ってくるが、10%前後の超過人数分をノミネートするのが通例だ。これを以て「党内民主」と称し、「民主的な選挙」が行われていると中国共産党は胸を張っている。党大会が閉幕すると同時に一中全会(中共中央委員会第一次全体会議)を開催して、そこで中央委員会委員が投票して中共中央総書記を決める。翌年の3月に開催される全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選出され全過程が終わる。中共中央委員会委員の任期や選出方法に関して、たとえば「中国共産党中央委員会工作条例(2020年9月28日、中共中央政治局会議批准、2020年9月30日中共中央発布)(※2)のようなものがあり、党規約にも書いてあるが、筆者が本コラムで書いたような具体的な選出方法は明らかにしていない。ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入っているということはほぼ「あり得ない」ということである。◆習近平の「紅いDNA」には誰も及ばない中華人民共和国誕生に当たって、習近平の父親・習仲勲が果たした役割は、実際上、毛沢東を越えると言っても過言ではないほど大きい。習近平は革命第一世代のほぼ唯一の、現在も活躍している直系の生き残りだ。彼以上に「紅いDNA」を持った男は、いま中国にはいないと言っていいだろう。1934年から36年にかけて毛沢東が蒋介石率いる国民党軍に追われて北西方向に逃げていったとき(すなわち、長征のとき)、全中国に設立していた革命根拠地は延安がある陝甘革命根拠地(のちの西北革命根拠地)しか残っていなかった。それを建設したのは習仲勲たちである。あの西北革命根拠地がなかったら、共産党軍(紅軍)は完全に国民党軍に殲滅され、毛沢東は生き残っていなかっただろう。ということは、中華人民共和国が建国されることもなかったということになる。だから毛沢東はこの上なく習仲勲を大切にし、後継者の一人に考えていた。そのことに激しい嫉妬と不安を抱いて警戒したのがトウ小平だ。トウ小平は、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を1962年に冤罪で失脚させてしまう。16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を終えて、華国鋒と葉剣英の力を得て1978年に広東省に派遣され習仲勲が対外開放路線を実施したところ、その功績は全てトウ小平が自分の功労として持っていき、1990年に再び習仲勲を失脚させた。この事実を正視することなく、習近平がなぜ第三期目を狙っているかを理解することは不可能であると断言できる(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。なお、朱鎔基が習近平三期目就任に反対するという声明(朱九条)をネットで公開したという情報が流れたが、これは捏造である可能性が大きい。朱鎔基と江沢民の仲がどれだけ悪かったかを知っている人なら、ここに江沢民の大番頭である曽慶紅の名前が(高く評価すべき人物として)出てくること自体が荒唐無稽であり、習近平を江沢民に推薦したのは、ほかならぬ曽慶紅である。他の内容から見ても、史実を知らない最近の若者が捏造したものとしか思えない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2020/1013/c1001-31889182.html <FA> 2022/05/31 16:07 GRICI 「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。なにやら習近平が失墜し李克強が格上げされているというデマが横行している。そもそも中国の政治体制を知らない人たちの願望でしかないが、いかにして中共中央総書記が選出されるかを解説したい。◆習近平失脚への願望なにやらアメリカ発の習近平失脚願望がデマを流し、日本の一部の「中国研究者」がそれに飛びついた。「老灯(Lao-deng)」という中国人(※2)で、彼はツイッターで(※3)さまざまな反中反共情報を流している。特に5月5日に流した「習下李上(習近平が下馬し、李克強が上位に立つ」(※4)は、一部のネットユーザーを喜ばせて、「習下李上」という言葉がもてはやされている(中国語では下野を下馬と言うので、敢えて日本語訳に「下馬」を使った)。少し前まで、この役割を果たして人気を得ていたのがアメリカに逃亡した郭文貴という中国人で、彼は偽情報を創りあげては「これは中国の国家安全関係者から得た情報だ」と宣伝し、「金づる」を求めていた。そこに飛びついたのがトランプ政権時代初期に主席戦略官を務めたことがあるスティーヴン・バノンで(7ヶ月間で解任)、筆者はバノン氏から何度か取材を受けたりした関係から、バノン氏には「郭文貴とつながるのは危険だ」と伝えたが、二人とも別々の理由で逮捕されたりして、郭文貴は消えた。すると、次の郭文貴になりたいという海外(特にアメリカ)在住の華人華僑が現れる。自分は中国政府のインサイダー情報を持っているとして、大衆が喜びそうなデマを流して金を稼ぐのである。◆李克強は習近平以上にガチガチの中国共産党員そういった情報に飛びついて「尾ひれ」を付けたがるのが、日本の一部の「中国研究者」であり、日本メディアだ。これは「中国庶民の不満の表れだ」とか「背後には反習近平勢力」とか「権力闘争」だとか、言いたい放題だ。しかし、勘違いしてはいけない。李克強はれっきとした「中国共産党員」で、しかも「ガチガチ」である。「がり勉さん」なので、融通が利かない。習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはないのである。日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違いして「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜んでいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をしているだけで、そこには寸分たりとも「個人の意思」はない!「個人の言葉」は皆無なのである。「分工」と言って、チャイナ・セブンの中で決めたことを、誰がどのような形で発表し実行していくかという「職掌」に沿って動いているだけである。おまけに李克強はすでに今年の全人代閉幕後の記者会見で「これが最後となる」(※5)と、自ら「退官」の意思を表明した。これも、そのようなことを公表して良いか否かは、事前にチャイナ・セブンで決めてから意思表明しているのだ。加えて、李克強は軍事委員会(※6)において、現在はいかなる職位も持っていない。したがって、あらゆる側面から見て、習近平に代わって李克強が今年秋に開催される党大会で「中国共産党中央委員会(中共中央)総書記」に選ばれる可能性はゼロである。「「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/c/%E8%80%81%E7%81%AF(※3)https://twitter.com/laodeng89(※4)https://www.youtube.com/watch?v=yeqsxxw7aOc(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2022-03/11/content_5678592.htm(※6)http://www.mod.gov.cn/leaders/index.htm <FA> 2022/05/31 16:05 GRICI キッシンジャーがバイデン発言を批判「台湾を米中交渉のカードにするな」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。「一つの中国」コンセンサスで国際秩序を形成したアメリカのキッシンジャー元国務長官は、バイデン大統領の台湾防衛発言を受けて、「二つの中国」をカードにすべきではないとダボス会議で演説した。◆ヘンリー・キッシンジャーが「台湾を米中交渉のカードにするな」世界の政財界のリーダーが集まるダボス会議が、5月22日から26日の日程でスイスのダボスで開催されているが、アメリカのキッシンジャー元国務長官が、23日、リモート講演を行った。講演では「台湾を米中交渉のカードにすべきでない」(※2)という趣旨のことを語っている。これは来日したバイデン大統領が台湾有事に関して記者会見で言った「台湾防衛にアメリカが関与する」という趣旨の言葉を受けて話したものである。バイデン発言の詳細に関しては5月24日のコラム<バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?>(※3)に書いた通りだが、それに対してキッシンジャーは概ね以下のようなことを言っている。・ワシントンと北京は、台湾を中心にすえたような緊張した外交関係を避ける道を求めなければならない(=米中は台湾をカードにして対立を深めることをやめなければならない)。・世界の二大経済大国が直接対決を避ければ、それは必ず世界平和に貢献することになるだろう。・アメリカは「ごまかし(ペテン)」や「(ひっそりと)徐々に進める方法」によって、何やら「二つの中国」まがいによる解決を展開すべきではない。中国はこれまでと同じように、忍耐し続けていくだろう。報道元のアメリカ大手メディアCNBCは、バイデンの発言は、台湾に対するワシントンの長年の「戦略的曖昧さ」を否定するように見えたが、しかしホワイトハウスはすぐに「台湾問題に対するアメリカの政策は変わっていない」と火消しに追われていると報道している。◆キッシンジャーが言う「二つの中国」とは何かキッシンジャーが言うところの「二つの中国」とは何かを、少し具体的に説明しなければならない。まず、その前提となる「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などが、何を指しているかを深堀してみよう。それは5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※4)で書いたように、アメリカ政府が台湾関連のウェブサイトから、「ひっそり」と・は中国の一部である。・アメリカは台湾の独立を支持しない。という二つのキーフレーズを削除したことを指している。なぜこれが、キッシンジャーが言うところの「ごまかし(ペテン)」とか「ひっそりと徐々に進める方法」に相当するかというと、台湾関連のウェブサイトから「ひっそりと」削除しただけであって、誰もそのことに気が付かなかったら、気が付かないままに月日が過ぎていったかもしれないからだ。じわーっと変化させておいて、「削除しましたよ」とは公表しない。誰かが気が付いたら仕方ないが、言い訳はまだできるようにしてある。それは「一つの中国(one China)」という言葉だけは残してあるからだ。1992年に共通認識として、中国大陸と台湾政府の間で確立された「九二コンセンサス」では、「一つの中国」を中国大陸側が「中華人民共和国を指している」と認識し、台湾政府側が「中華民国を指している」と心の中で位置付けるのは「自由だ」という、共通認識なのである。要は「中国は一つしかない」と認識するのであれば、それでいい、という、妥協的とも偽善的ともいえる「九二コンセンサス」なのである。この解釈に関しては、筆者は90年代半ばに国務院台湾弁公室の主任を取材し、長時間にわたって議論をしたので、まちがいないだろう。そこでアメリカ政府のウェブサイトには「一つの中国」という言葉だけは残しておけば、これは・中国大陸から見れば「中華人民共和国」・台湾政府から見れば「中華民国」という「九二コンセンサス」精神を考えると、台湾は中国の一部である。アメリカは台湾の独立を支持しない。を削除しさえすれば、「二つの中国」を暗に認めることにつながる。まるで「手品のような手段」なので、元国務長官だけあり、キッシンジャーは、この「インチキ性」と「まやかし」に敏感に気が付いたのだろう。些末なことで申し訳ないが、某元外交官だった評論家は、筆者のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※5)に書いてある論理を「非常に浅い読み」と批判しておられるようなので、その方は是非とも、今回のこのコラムに書いてあるキッシンジャーの「二つの中国」という言葉を「深く読み取り」、なぜキッシンジャーが、「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などという言葉を使わなければならなかったのかを「深く読み取って」いただきたいものだと思う。アメリカ政府が「一つの中国」だけは残したのは、「九二コンセンサス」があるからだ。台湾政府が勝手に「中華民国である」と認識することが許される仕組みになっているのである。なお、バイデン政府が次にやる手段は「削除」ではなく、「明示する」という段階に入る。すなわち「アメリカは台湾の独立を支持する」と明確に書くという意味である。この段階に至るにはまだ少し長い時間がかかるだろう。それをキッシンジャーはgradual process(ゆっくりと漸進するプロセス)という言葉で表現している。私たちは、こういった微妙な変化に鋭敏に気が付いて米中台全体の動きを俯瞰的に観察していかなければならないのではないだろうか。それが日本国民を真に守ることにつながると、固く信じる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.cnbc.com/2022/05/23/kissinger-says-taiwan-cannot-be-at-the-core-of-us-china-neogitations.html(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220524-00297585(※4)https://grici.or.jp/3125(※5)https://grici.or.jp/3125 <FA> 2022/05/26 10:21 GRICI バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国が武力攻撃するのは「台湾政府が独立を宣言した時」のみでは、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとするのは、どういう時かというと、「台湾政府が独立を宣言した時」である。それをすれば、2005年に制定された「反国家分裂法」が作動する。それを知り尽くしているバイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、アメリカ政府ウェブサイトの台湾関連事項から「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、ひっそりと削除した(詳細は5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※2)。また、なぜ習近平は台湾政府が独立宣言でもしない限り台湾を武力攻撃しないかに関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述した)。こうして、中国を刺激して、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだとしか、言いようがない。◆中国の反応は?肝心の中国は、台湾に関するバイデン発言に、どう反応しているかを少しだけご紹介したい。冒頭に書いたように、中国外交部は激しいバイデン批判を発表し、また中国共産党および中国政府系メディアも強い批判を展開はしているものの、基本的に「中国はアメリカの、その手には乗らない」といった、割合に冷めた論評も多く、中国全土が激怒しているというような状況にはない。むしろ「台湾が政府として独立を宣言」したら、それこそが「最も大きな現状変更」で、中国にとっては「宣戦布告」に相当すると位置付けている。だから台湾関係法にあるように「平和的手段」ではなく「武力的手段」で中国が台湾統一を成し遂げる方向に中国を持っていくには、「台湾の独立を煽る」のが最も早い近道であるとバイデンが考えていると、中国はバイデンの言動を判断しているのである。つまり、「どうすれば中国を最も怒らせることができるか」、「どうすれば中国に武力行使を先にさせるか」と、バイデンは考えているということだ。だから中国の主張には、「バイデンの手には乗るな。中国はロシアではない」というのが数多く見られる。と同時に、バイデンの言動と、アメリカ政府のウェブサイトから「台湾の独立を支持しない」を削除するといった一連の行動を危険視し、「台湾を独立させようとしているのはアメリカだ」と激しく批難している。しかし、そもそも中国(=中華人民共和国)を国連に加盟させ、「中華人民共和国」を「唯一の中国」として認め、「中華民国」(台湾)を国連から追い出したのはアメリカではないか。ニクソンの大統領再選のために、キッシンジャーを遣って忍者外交をさせ、ソ連を追い落とそうとした。今度はバイデンの大統領再選のためにロシアを追い落とし、全世界に災禍を与えている。まんまとバイデンの罠に嵌ったプーチンは、「愚か」であり「敗北者でしかない」のだが、「バイデンの仕掛けた罠」を正視してはならない同調圧力が日本にはある。犠牲になるのはやがて日本だということに気が付いてほしいと切に望むばかりだ。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220512-00295668 <FA> 2022/05/25 10:29 GRICI バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。23日、バイデン大統領はアメリカに台湾防衛義務があるような発言をしたがホワイトハウスは直ぐに「変化なし」と否定。失言取り消しはこれで3回目だ。ミリー統合参謀本部議長も米議会で否定している。しかし—。◆記者会見でのバイデン大統領の発言23日、バイデン大統領は岸田首相との首脳会談の後の記者会見で記者の質問に答えて「台湾防衛に関してアメリカが関与する」という趣旨の回答をした。できるだけ正確に読み解くために、二次情報ではなく、ホワイトハウスのウェブサイト(※2)を見てみると、当該部分は以下のようになっている。記者:簡単にお聞きします。明らかな理由により、あなたはウクライナの紛争に軍事的に関与したくなかった。もし台湾で同じような状況が起きたら、あなたは台湾を守るために軍事的に関与する用意がありますか?バイデン:はい。記者:本当ですか?バイデン:それが私たちのコミットメント(約束)ですから。えー、実はこういう状況があります。つまり、私たちは一つの中国原則に賛同しました。私たちはそれにサインし、すべての付随する合意は、そこから出発しています。しかし、それが力によって実現されるのは適切ではありません。それは地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたことと類似の、もう一つの行動になるでしょう。ですから、(アメリカには)さらに強い負担となるのです。これは今までアメリカが台湾に関して取ってきた「戦略的曖昧さ」と相反するものだとして、日本のメディアは大きく報道した。その日の夜7時のNHKにニュースでは、「失言でしょう」と小さく扱ったが、夜9時のニュースでは「大統領が言った言葉なので重い」という趣旨の解説に変えていたように思う(録画しているわけではないので、そういうイメージを受けたという意味だ)。ことほど左様に、日本のメディアだけでなく、欧米メディアも、また中国メディアでさえ、外交部の激しい批難を伝えながらも、「又しても失言なのか、それとも本気なのか」といったタイトルの報道が目立つ。というのも、バイデンは2021年8月と10月にも、米国には台湾防衛義務があるという趣旨の見解を述べたことがあるからだ。しかし、そのたびにホワイトハウスの広報担当者らは「火消し」に追われ、「アメリカの台湾政策に変更はない。台湾が自衛力を維持できるように支援するだけだ」と軌道修正した経緯があるからだ。◆ミリー参謀本部議長が米議会で「台湾人による代理戦争」を示唆全世界が今般のバイデン発言を重く受け止めると同時に、「あれは失言だ」という報道が、それ以上に多いのは、バイデンに2回も「前科」があり、今回は「3回目になる」からだけではない。実は今年4月7日、ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で長時間にわたる回答をしており(※3)、その中で以下のようなことを述べている(要点のみ列挙)。1.台湾の最善の防衛は、台湾人自身が行うことだ。2.アメリカは、今般ウクライナを助けるとの同じ方法で台湾を助けることができる。3.台湾は島国であり台湾海峡があるので、防御可能な島だ。4.アメリカは台湾人が防御できるように台湾を支援する必要がある。5.それが最善の抑止力で、中国に台湾攻略が極めて困難であることを認識させる。(要点はここまで)以上、「1」と「2」から、アメリカ軍部は台湾が中国大陸から武力攻撃された場合は、ウクライナと同じように「台湾人に戦ってもらう」という、ウクライナと同じ「代理戦争」を考えていることが読み取れる。バイデンが言っていたように「ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない」のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。またバイデンが「ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない」と言っていたが、これも「ロシア」を「中国大陸」に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。すなわち、中国には「核」があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである。しかし「3」に書いてあるように、武器の売却などを通して台湾が戦えるように「軍事支援」する。これも、ウクライナにおける「人間の盾」と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、「台湾国民に戦ってもらう」という構図ができている。◆台湾関係法には、どのように書いてあるのか?そこで、バイデン大統領の3度にわたる「アメリカには台湾を防衛する義務がある」という趣旨に近い「台湾防衛義務」発言が、単なる失言なのか、それとも何かしらのシグナルを発しているのかに関して考察するために、台湾関係法(※4)を詳細に見てみよう。台湾関係法のSec. 3301. Congressional findings and declaration of policy( 議会の調査結果と政策宣言)の(b) Policy(政策)の(3)~(5)には、以下のような文言がある。(3)中華人民共和国との外交関係を樹立するという米国の決定は、台湾の将来が平和的な手段によって決定されるという期待に基づいていることを明確にすること。(4)ボイコットや禁輸、西太平洋地域の平和と安全への脅威、米国への重大な懸念など、平和的手段以外の手段で台湾の将来を決定するためのあらゆる努力を検討すること。(5)台湾に防御的性格の武器を提供すること。(6)台湾の人々の安全、社会的または経済的システムを危険にさらすような強制またはその他の形態の強制に抵抗するためのアメリカの能力を維持すること。また台湾関係法のSec. 3302. Implementation of United States policy with regard to Taiwan(台湾に関する米国の政策の実施)の(c)United States response to threats to Taiwan or dangers to United States interests(台湾への脅威または米国の利益への危険に対する米国の対応)には、以下のような文言がある。——大統領は、台湾の人々の安全または社会的または経済的システムへの脅威と、それから生じる米国の利益への危険(があった場合は、それ)を直ちに議会に通知すること。 大統領と議会は、憲法の手続きに従って、そのような危険に対応するための米国による適切な行動を決定するものとする。(引用ここまで)これらから考えると、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとすれば、アメリカはそれ相応の手段を取ると政策的に位置づけられていることが分かる。となれば、バイデンの発言は失言ではなく、意図的なものであることが読み取れる。「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/05/23/remarks-by-president-biden-and-prime-minister-fumio-kishida-of-japan-in-joint-press-conference/(※3)https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/22-26_04-07-2022.pdf(※4)http://www.taiwandocuments.org/tra01.htm <FA> 2022/05/25 10:27 GRICI バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(1) ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆産経新聞が単独取材したバルマ駐日インド大使の発言とその解釈5月19日、産経新聞はバルマ駐日インド大使を単独取材し、<バルマ駐日インド大使 中国念頭に「覇権主義に反対」>(※2)という見出しで報道した。それによればバルマ大使は概ね以下のように述べたという。1. 海洋進出を強める中国を念頭に「覇権主義的な動きには反対だ」。2.日米豪印4ヵ国協力枠組みクアッドは「軍事同盟ではなく、さまざまな問題を協議する場だ」。3.台湾有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが重要だ。4.ロシア制裁に関して「インドは独立した立場を取っている。経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」と説明。外交と対話による停戦を求めていくべき。(引用ここまで)これらに関して筆者なりの解釈を以下に示したい。「1」に関して:「海洋進出を強める中国を念頭に」という言葉は、産経新聞の記者の方が位置付けた言葉だろうと考えられ、インドとしては「中国であれアメリカであれ、覇権主義的動きには反対」という立場なのではないかだろうか。「2」に関して:インドが軍事的に最も仲が良い国はロシアなので、クワッドが軍事同盟的性格を持っているなら、ロシアと仲が良い中国に対抗するようなグループには入りたくないという意味あいを持つことになろう。「3」に関して:5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※3)に書いたように、アメリカ政府は台湾関連のウェブサイトから、ひそやかに「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾独立を支持しない」という文言を削除している。中国の逆鱗に触れる行動をしているのだ。つまり「台湾有事を発生させるための仕掛け」を始めている。したがって、バルマ大使の「有事が起きないようにする」という言葉はアメリカに向けて言ったものと推測することができる。「4」に関して:インドはロシアに対して制裁するどころか、武器はソ連時代からすべてソ連から、そしてソ連崩壊後もロシアから購入してきたので、対ロシア制裁など、インドにとってはとんでもない話だ。アメリカはそれを崩そうと、何年も前から、アメリカの武器を購入し、アメリカ製軍事システムの中に入るようインドを説得してきたが、なかなか実現しなかった(たとえば2007年には民主党のリーバーマン上院議員や米太平洋軍司令官のキーティングがインドを訪問してインドを説得し、同年9月に、日米印豪およびシンガポールとのっ合同海軍演習にせいこうしているがアメリカ製兵器購入にまでは至っていない)。それでも2019年2月15日にトランプ政権で国家安全保障問題担当だったボルトン補佐官がインドのカウンターパートに電話して「インドがパキスタンに一方的に侵攻しても、国連安保理でインドの側に立って、アメリカが拒否権を使ってあげるので、アメリカ製の武器を購入しろ」と執拗に迫って、遂にインドはやむなく一回だけ、アメリカから武器を購入したことはある(詳細は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』p.188‐192「露印は軍事的緊密事」)。しかし、同書のp.191に書いたように、ロシアのウクライナ侵略が始まったあと、アメリカが天然ガスや石油などのエネルギー資源に関して徹底したロシア制裁を呼びかける中、インドはプーチンと仲良く話し合い、ロシアからの原油購入などを増やし、おまけにロシアのルーブルとインドのルピーでの取引を進めている。バルマ大使の「インドは独立した立場を取っている」は、まさにこういった「アメリカに同調しない、独立した立場」を指しているとしか解釈のしようがない。またバルマ大使の「経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」という言葉は「アメリカ批難」以外の何ものでもない。アメリカはロシアや中国だけでなく、自分の気に入らない国にはすぐに経済制裁を科す。なぜ国連を中心とした国際秩序を、アメリカだけは守らなくていいのか、なぜアメリカだけは自国の利益のために勝手に相手国に制裁を科して、世界経済のサプライチェーンを乱し、地球上のすべての人々に災禍をもたらしても許されるのか。それは誰もが素直に疑問に思うところだろう。それは「ドル基軸通貨体制」があるからで、なぜそれが可能かと言えば「ニューヨーク・ウォール街での業務を必須の条件とする大手銀行に、米国の意向に逆らえば銀行の免許没収という脅しを突き付けているからだ」と、杉田弘毅氏が『アメリカの制裁外交』で書いておられる。またバルマ大使は「外交と対話による停戦を求めていくべき」と言っているが、これは習近平も言い続けている言葉で、習近平の場合は2月25日にプーチンに直接電話で伝えている。つまり、インドの姿勢は中国と同じなのだ。逆に「ウクライナ戦争を停戦させたくない」と思っているのはアメリカであることを、世界は知っている。それは4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>(※4)に書いた通りで、事実その翌日の25日にアメリカのオースティン国防長官がウクライナを訪問した後、ポーランドにおける記者会見で「この戦争はロシアが二度と立ち上がれなくなるのを見届けるまで続ける」という趣旨のことを言っている。ということは、バルマ大使のこと言葉も、深く考察すれば、「アメリカを非難した言葉」と解釈することができるのではないだろうか。「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/19bbeada4948c61542ab7668556f6a69eb8caac1(※3)https://grici.or.jp/3125(※4)https://grici.or.jp/3082 <FA> 2022/05/23 16:41 GRICI バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2) ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆王毅外相が主催したBRICS外相会談におけるインドの姿勢5月19日、議長国中国の王毅外相が主催して、「ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ」の外相がビデオ会議でBRICS外相会議を開催した。そのときに出された共同声明(※2)の中の関連項目だけを拾い上げると、以下のようになる。一、外相たちは、多国間主義を再確認し、国連憲章の目的と原則を基礎とした国際法を支持する。主権国家が平和を維持するために協力する国際システムにおける国連の中心的役割を支持する(三条関連)。二、外相たちは、国連安全保障理事会、国連総会などでウクライナ問題について表明された国別の立場を確認しあった。外相たちはロシアのウクライナとの(停戦)交渉を支持した(十一条関連)。三、外相たちは、人権と基本的自由を促進し保護するために、国内においてだけでなく、全世界レベルで各国が全ての人類に対して平等な待遇と相互尊重の原則に基づいて協力し、人類運命共同体を構築すべきであることを再確認した(二十一条関連)。四、外相たちはBRCSメンバーを増やしていくことを支持した(二十四条関連)。(以上、共同声明から関連項目の概略を引用)そもそもBRICS外相会議にはロシアのラブロフ外相が堂々と参加しているわけだから、ロシアの主張も取り入れていることは明白で、その上で共同声明を出せたというだけで、すでに中国だけでなくインドもまた基本的にロシアに共鳴していることになる。軍事攻撃に関しては中国もインドも賛同はしてないだろうが、かと言って、それを激しく非難するということはしていない。その事実を前提として少しだけ解釈を付け加えると以下のようなことが言える。「二」に関して:停戦交渉を続けるべきだという点で一致しており、アメリカのように「ロシアがくたばるまで、叩きのめしてやれ」という思惑とは反対側にいる。しかし、私見を述べるならば、軍事侵攻をしているのはロシアなのだから、ロシア自身が侵略行為をやめれば済む話で、ロシア以外のBRICSメンバー国がロシアに対して「侵略をやめろ!」と言うべきだと思うが、それを「言わない」あるいは「言えない」ところに問題があり、「だらしない」としか言いようがない。「一と三」に関して:これは「一国一票」の平等性を以て、国連で決めていくべきで、アメリカ一国が他国を制裁したり、「小さなグループ」を作って「第三国を排除する」という排他的論理で行動すべきではない、と主張していることを意味する。中国ではBRICS外相会議に際して、数えきれないほど多くのメッセージが出されているが、たとえば王毅が言った< 「小さなサークル」は世界が直面している「大きな挑戦」を解決できず、「小さなグループ」はこんにち世界が面している「大きな変動する情勢」に適応できない>(※3)などに現れている。しかも共同声明で、習近平の外交する—がんである「人類運命共同体」を入れたのは、BRICSメンバー国が、「中国を支持し、中国の外交姿勢に賛同している」ことを意味している。「四」に関して:これはBRICS外相会議における王毅の演説の中の一つ(※4)に表現されている通り、「新興市場や途上国との連帯と協力」を強化していこうという主張で、世界は先進国によってのみ動かされているのではなく、先進国以外の国の数の方が圧倒的に多いので「BRICS+」を増やしていこうという論理に基づいた表現である。◆インド外交部の発表インド外交部は今般のBRICS外相会議に関して以下のような発表をしている(※5)。——外相たちはウクライナの状況について話し合い、ロシアとウクライナの間の(停戦)交渉を支持した。 外所為たちは、紛争がエネルギー安全保障や食料安全保障に与える影響に懸念を表明した。外相たちは、国際機関および国連とその安全保障理事会を含む多国間フォーラムにおいて、発展途上国がグローバルガバナンスにおいて重要な役割を果たすことができるように、改革を推進し、開発途上国の代表を増やすことを求める声を支持した。(引用ここまで)すなわち、インドはアメリカの一極主義と制裁外交に反対しているということになる。◆アメリカの突然の対インド大型軍事支援ところが、アメリカはインドのこの姿勢を変えさせようと、なんとインドに対して5億ドル(640億円)の軍事援助プランを準備していることがわかった。5月18日のインドのHindustan Times(※6)が伝えた。どうやらアメリカは、インドのロシアに対する武器依存を減らすために、軍事援助パッケージを準備しているようで、関係者の話によれば、検討中のパッケージには5億ドル相当の軍事支援が含まれているとのこと。取引がいつ発表されるか、どのような武器が含まれるかは、今はまだ不明のようだ。この取り組みは、ウクライナ侵略でロシア批判を躊躇しているインドに対して、バイデン大統領がインドを長期的な安全保障パートナーとして培っていこうとする大きなイニシアチブの一環だと、匿名のアメリカ高官が言ったとのことだ。あのモディ首相が、「金」で心を動かすか、じっくり観察したいものである。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689666.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689626.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689631.shtml(※5)https://www.mea.gov.in/press-releases.htm?dtl/35330/Meeting+of+BRICS+Ministers+of+Foreign+AffairsInternational+Relations(※6)https://www.hindustantimes.com/world-news/us-to-offer-india-500-million-in-military-aid-to-reduce-dependence-on-russia-101652853517651.html <FA> 2022/05/23 16:39 GRICI 日中外相テレビ会談内容の日中における発表の差異は何を物語るのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月18日、日中外相会談が行われたが、とても同じ会談とは思えないほど、自国に都合のいいことだけを並べており、日中双方で発表内容が大きく異なる。その差異から何が読み取れるか考察してみよう。◆日本の外務省による発表5月18日、午前10時から約70分、林芳正外相と王毅外相がテレビ会談を行った。日本の外務省は、その会談内容に関して林外相が概ね以下のように言ったと発表している(※2)。リンク先に日本語があるので、要点のみ略記する。1.日中は「建設的かつ安定的な関係」という重要な共通認識を実現していくべき。2.日本国内の対中世論は極めて厳しい。互いに言うべきことは言いつつ対話を重ね、協力すべき分野では適切な形で協力を進め、国際社会への責任を共に果たしていくべき。その上で、尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性。在中国日本大使館員の一時拘束事案及び中国における邦人拘束事案について。日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃を強く求めた。3.新型コロナによる様々な影響がある中で、在留邦人の安全の確保や日本企業の正当な経済活動の保護等について中国側の適切な対応を要請。4.ウクライナ情勢について、ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章を始め国際法の明確な違反であり、中国が国際の平和と安全の維持に責任ある役割を果たすよう求る。北朝鮮については、非核化に向け国際社会が一致して対応する必要がある。拉致問題の即時解決に向けた理解と支持を含める。◆中国外交部による発表一方、中国の場合は二段階に分けて発表し、実に激しい。まず18日の14:56の情報として、外交部は「王毅が日米の対中干渉に関して立場を表明した」(※3)というタイトルで、以下のように書いている。——2022年5月18日、国務委員兼外相の王毅は、日本の林芳正外相とのビデオ会議で、日米の中国に対する否定的な動きについて立場を示した。日本は日米印豪「クワッド」首脳会談を主催しようとしている。警戒すべきは、アメリカの指導者(バイデン)がまだ来日する前から、日米が連携して中国に対抗していこうという論調がすでに悪意に満ちて騒々しく広がっていることだ。日米は同盟関係にあるが、日中は平和友好条約を締結している。日米二国間協力は、陣営の対立を扇動したりしてはならないし、中国の主権、安全保障、開発の利益を損ねたりすることなど、さらにあってはならない。日本側が歴史の教訓を学び、地域の平和と安定を目指し、慎重に行動し、他人の火中の栗を拾いに行くようなことをせず、隣国を自国の洪水のはけ口にする(自分の利益を図るために災いを人に押しつける)ような道を歩まないことを願っている。(引用ここまで)中国の外交部は、その15分後の15:11に、日中外相テレビ会談の全体に関して、以下のように発表している(※4)。——王毅は、今年は日中国交正常化50周年であり、二国間関係の発展の歴史において重要な一里塚だと述べた。 両首脳は昨年、新時代の要求に合致した日中関係の構築を促進する上で重要な合意に達した。王毅は、目下の急務は、以下の3つのことを成し遂げることだと指摘した。一、二国間関係の正しい方向をしっかりと把握すべきである。 中国と日本の4つの政治文書は、二国間関係の平和的、友好的な協力の方向性を定め、両国がパートナーであり、相互に脅威をもたらさないという一連の重要な原則的合意を築いた。 両国の関係が複雑かつ深刻であればあるほど、中国と日本の4つの政治文書の原則の精神を揺るがすことなく、初心を忘れてはならない。 我々は、正しい認識を確立し、積極的に相互作用を行い、国交正常化50周年を計画し、あらゆるレベルの様々な分野での交流と協力を強化し、前向きな世論と社会環境を醸成すべきである。二、二国間関係の前進の原動力を十分に満たすべきである。 経済・貿易協力は、二国間関係の「バラスト(船底に置く重り)」と「スクリュー」である。中国が相互循環の新しい開発パターンの構築を加速することは、日本と世界にとってより多くの機会を提供するだろう。双方は、デジタル経済、グリーン低炭素、気候変動管理などの分野で協調と協力を強化し、より高いレベルの相互利益とウィンウィンの状況を達成するために、協力の可能性を深く掘り起こすべきである。三、干渉要因を迅速に排除すべきである。 台湾など、中国の核心的利益や主要な懸念に関する最近の日本の否定的な動きは、一部の政治勢力が中国を誹謗し、相互の信頼を著しく損ない、二国間関係の根幹を揺るがしている。 歴史の教訓を忘れるな。日本側は、これまでの約束を守り、両国間の基本的な信義を守り、日中関係を弱体化させようとする勢力を許さず、中国との国交正常化の50年で達成された貴重な成果を維持すべきである。林芳正(氏)は、日本と中国は広範な共通の利益を共有しており、協力の大きな可能性と幅広い展望を持っていると述べた。今年は日中外交正常化50周年を迎えるが、両国首脳の重要な合意に基づき、建設的かつ安定的な二国間関係の構築に努めなければならない。日本側は、中国と志を共にして、国交正常化の初心を忘れず、率直な意思疎通を維持し、誤解や誤った判断を軽減し、デリケートな問題には適切に対応して、政治的相互信頼の強化を図りたいと思っている。(中国外交部からの引用はここまで)中国の外交部が二つに分けて情報発信したことから読み取れるのは、ともかく一刻も早く「クワッド」に関する王毅の発言を公表したかったことと、これこそが中国側が今現在、最も言いたいことなのだろうということだ。日本の外務省の発表とは、何という相違だろう。とても、これが同じ会談の内容だとは思えないくらい異なる。一致しているのは日本外務省の「1」の部分だけくらいだろうか。中国側の発表を見ない限り、いま日中が、どのような関係にあるのかということは見えてこない。◆中国は数回にわたり北朝鮮に警告しているもう一つ、注目すべきことがある。実は中国は北朝鮮に数回にわたり警告を出していたのだ。5月11日付の東京新聞(※5)は、以下のような報道をしている。——韓国の情報機関・国家情報院トップの朴智元氏が韓国紙のインタビューに明かしたところによると、中国は最近、数回にわたり北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した。北朝鮮メディアは4日と7日のミサイル発射に言及しておらず、中国に一定の配慮をした可能性もある。中国の王岐山国家副主席は10日午後、尹氏(新大統領)と会い「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和を推進する」との立場を伝えた。それでも、専門家の間では中国の北朝鮮への影響力にも限界があるとの見方が強い。朴氏は、バイデン米大統領が訪韓する20日までに北朝鮮が核実験に踏み切るとの見方を示している。(東京新聞からの引用はここまで)この情報に関して、中国大陸のネットで検索したが、ヒットする情報はなかった。つまり、中国では、「中国が再三にわたり、北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した」ことに関しては、公表しないようにしているということになる。林外相は、この事実を把握した上で発言しているのか否か分からないが、少なくとも王毅外相はこの事実に関して、会談でも何も言わなかったものと推測される。5月18日のコラム<中露は軍事同盟国ではなく、ウクライナ戦争以降に関係後退していない>(※6)に書いたように、中朝は軍事同盟を結んでおり、北朝鮮の無謀な軍事行動は、中国にとっては「迷惑な行動」で、中国は中朝友好協力相互援助条約を破棄したいと何度か望みながら、結局のところ破棄した場合のディメリットもあり、破棄できずに今日まで至っている。それでも北朝鮮が自暴自棄にならないよう、習近平は北への経済的支援を絶やしてない。習近平が、ロシアの軍事行動だけでなく、北朝鮮の軍事行動に関しても、何とか抑えたいと相当に窮地に追い込まれていることを、「日本では報道されない中国情報」(および東京新聞の情報)の中に垣間見ることができる。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000872.html(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688155.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688173.shtml(※5)https://www.tokyo-np.co.jp/article/176528(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220518-00296586 <FA> 2022/05/20 10:39 GRICI 習近平はウクライナ攻撃に賛同していない——岸田内閣の誤認識【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田首相が電話会談でプーチン大統領に「ウクライナ侵攻反対」を唱えたことに関して、同席者がそれを以て「中国とは逆のメッセージ」であると位置付けたようだが、習近平はウクライナ侵攻には賛同していない。中露蜜月以上に中国とウクライナの蜜月に注目すべきだ。◆「岸田‐プーチン」会談同席者の発言岸田首相は17日夜、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。岸田首相の「力による一方的な現状変更ではなく、外交交渉で受け入れられる解決方法を追求すべきだ」という言葉に対して、 プーチンは「ウクライナを侵略するつもりはない。対話での解決を望む」 と応じたそうだ。その後、会談の同席者が以下のようなことを言ったと産経新聞(※2)が伝えている。—— 同席者は「ウクライナ侵攻に反対する立場をプーチン氏に伝えたアジアの首脳は日本だけだ。中国が逆のメッセージを出している中で意義があった」と振り返る。文脈から行けば、「ウクライナ侵攻反対」の「逆のメッセージ」とは、「ウクライナ侵攻賛同」ということになろう。「岸田‐プーチン」電話会談に同席したのだから、おそらくロシア問題に詳しい側近であると考えられる。そのような官邸関係者が、本気でこのようなことを考えているのだろうか?もしそうだとすれば、国際情勢を分かっていないにもほどがあると言わざるを得ない。◆中国とウクライナは仲良しで、ウクライナの最大貿易相手国は中国中国とウクライナは、旧ソ連が崩壊した時点から仲良しだ。これまで何度も書いてきたように、中国は旧ソ連が崩壊するのを待っていたかのように、崩壊と同時に一週間ほどで中央アジア五ヵ国を駆け巡り、1992年1月初旬には国交正常化を成し遂げていた。ウクライナは中央アジア五ヵ国には入ってないが、その勢いで中国は国交正常化を結ぶ国を増やしていき、ウクライナとも1992年1月4日には国交を樹立させている。以来、中国とウクライナは親密度を増し、国交樹立30周年の節目に当たる2022年1月4日には、習近平はウクライナのゼレンスキー大統領と祝電を交換している。2021年8月18日に中国商務部が発表した「中国はウクライナ最大の貿易国を保ち続けている」(※3)や中国国家統計局あるいは駐中国ウクライナ大使館などが発表したデータなどに基づけば、2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36.8%増で、輸入額は25.2%増と、いずれも20%を超える伸びを示し、輸出、輸入ともに過去最高となった。また2020年の両国間の貿易額は国交正常化後30年間で60倍以上に増えている。◆軍事的にも中国とウクライナの緊密度は高い中国とウクライナの緊密度は経済においてのみではない。あの中国「ご自慢」の空母第一号「遼寧」が、ウクライナから譲り受けたものであることは周知の事実だ。中国大陸のネットには「中国とウクライナの軍事協力を暴く:大量のウクライナの専門家が、ありったけの知識を授けるために中国にやってきた」(※4)という、2014年3月12日付の情報が残っている。このようなインサイダー情報を暴いてしまっていいのかと思うほど、ソ連崩壊後のウクライナの科学者たちの動きが生き生きと描かれている。また非常に新しい情報として、当時の事情を知っているであろう者(ハンドルネーム:孤影瀟湘)のブログとして、「200名のウクライナ専門家が中国に移住して、家賃免除で就業し、わが国の科学技術研究開発を支えている」(※5)という情報が今年2022年2月8日に公開されているのを発見した。それらによれば、こうだ。・旧ソ連時代のウクライナの軍事産業は実に輝かしいものだった。ウクライナの軍事産業は旧ソ連の軍事力の30%を占めていた。ウクライナの多くの企業や研究機関は、主に機械製造、冶金、燃料動力産業、ハイテク部門に集中し、特にロケット装置、宇宙機器、軍艦、航空機、ミサイルなどの軍事製品を生産することに特化していた。・ウクライナは世界第6位の戦略的弾道ミサイル生産国であり、世界最大のミサイルメーカーの1つもウクライナにあった。 旧ソ連の地対空ミサイルの62%、戦略ミサイルの42%を生産していた。ミサイル製造工場は、主として10個の核弾頭を搭載できるSS-18型戦略ミサイルを生産し、同時にSS-24型ミサイルや、その改良型であるSS-25鉄道車両搭載(発射台移動式)弾道ミサイルをも生産していた。・しかしソ連崩壊と同時にこれらの世界トップクラスの技術者を養っていく力はウクライナには無くなり、多くの最高レベルの技術者が中国に非常に恵まれた好条件で呼ばれ、中国で活躍することになったのである。・ウクライナはまた軍艦を建造する能力が非常に高かった。 ソ連の6つの造船所のうち3つはウクライナの黒海沿岸にあった。特にニコラエフ港にある黒海造船所は、ソ連で空母を建造できる唯一の造船所だった。ソ連崩壊後、ウクライナの専門家の多数は、中国に厚遇されて迎え入れられただけでなく、航空母艦も低価格で中国に渡し、改修に関しても全面的に協力したのである(引用以上)。以上、いくつか拾い上げてみたが、要はソ連崩壊後のウクライナにおいて、かつて世界トップクラスのミサイルや空母の生産に携わっていたハイレベル技術者の多くは、中国に高給で雇用されて大事にされ、中国のミサイル開発や空母建設に貢献したことになる。習近平政権になってからは「軍民融合」国家戦略も推進し始めたので、中国の軍事力はアメリカのペンタゴンが「ミサイルと造船に関してはアメリカを抜いている」と報告書に書くほどまでに至っている。そのウクライナをロシアが侵攻するかもしれないという状況の中で、中国が侵攻賛成に回るはずがないだろう。岸田内閣の中に「侵攻反対」表明を「中国とは逆のメッセージ」を表明したと位置付ける「同席者」がいるとすれば、中国とウクライナの関係を何も知らない「国際政治の素人」が日本政治の中心にいるということになろう。2月4日に習近平とプーチンが対面で会談したあと、長い共同声明と多くの協定を発表し、少なくとも「NATOの東方への拡大には反対する」と表明したのは、中露両国のギリギリの妥協点である。プーチンにとっては、それを言ってくれさえすれば、最低条件は満たされたということになろう。◆各国首脳がプーチンと会談したがるのは「手柄」を自分のものにしたいからそもそもプーチンが「ウクライナ侵攻はしない」と最初から何度も言っているのに、アメリカが「いや、ロシアは必ずウクライナ侵攻をする」と繰り返し主張し、現にバイデン大統領などは「16日の朝3時に必ず侵攻する」と予言者めいたことを言ったので、世界は「2月16日の朝3時」をヒヤヒヤしながら待った。しかしその日、その時間、ウクライナでは何もこらず、至って平穏な日常が流れたので、バイデンはやはり「オオカミ少年」であると嘲笑された。するとバイデンは18日になると、今度は「いや、数日内に必ず侵攻する」と第二の時限付き予言を発して頑張っている。数日以内に起きないと、「いや、長期的に見ないとならない」として、結局今年秋のアメリカ大統領中間選挙まで引き延ばし、選挙を有利に持って行くつもりだろう。各国首脳がプーチンと会談したがるのは「自分がプーチンと話し合ったからこそ、プーチンはウクライナ攻撃を思いとどまったのだ」と自画自賛したいからとしか思えない。2月14日のコラム<モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音>(※6)に書いたように、プーチンはフランスとドイツしか相手にしておらず、特にマクロン首相には最大の信頼を置き、マクロンにプーチンの思いを伝えて、西側諸国を説得してもらおうと思っているようだ。バイデンには、「ロシアがウクライナ侵攻をしてくれないと困る」諸般の事情があるようで、これに関しては別途考察したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/57b285907da24b66dfcd452f297ee074980c8bab(※3)http://ua.mofcom.gov.cn/article/jmxw/202108/20210803189370.shtml(※4)http://mil.news.sina.com.cn/2014-03-12/0859768342.html(※5)https://www.163.com/dy/article/GVMA339R0543L370.html(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220214-00282069 <FA> 2022/02/21 10:51 GRICI モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平との面談後のプーチンに関して、クレムリンに近い「モスクワの友人」から非常に信頼のできる便りがあった。ウクライナへの武力侵攻の有無とともに、マクロンやバイデンに対するクレムリンの考え方をご紹介したい。◆習近平とプーチンの蜜月関係ロシアのプーチン大統領は、2月4日、習近平国家主席と会談して北京冬季五輪開幕式に出席するために北京を訪問した。まず北京にある釣魚台迎賓館でプーチンと面談した習近平(※1)は、2014年にプーチンの招きでソチ冬季五輪開会式に出席するためにロシアに行ったと指摘した上で、8年ぶりに北京で再会したことを、「プーチンが冬季五輪の契りを守ってくれた証し」として感謝した。プーチンは、中露関係は未だかつてなく緊密だと讃えた上で、二人は互いに両国の結びつきの強さと蜜月ぶりを確認し合った。面談が終わると、習近平はプーチンのためだけに用意した宴会にプーチン一行を招待し、春節の宴を共にすると同時に、多くの二国間プロジェクトに関して意見を交換した。夜、北京冬季五輪開会式出席が終わると、長文の共同声明「中華人民共和国とロシア連邦による新時代国際関係とグローバル持続的発展に関する共同声明」(※2)と協定締結(※3)が発表された。共同声明では中露両国間の「民主観、発展観、安全観、秩序観」に関する共通の立場が述べられている。特に注目すべきは安全観(安全保障問題に関する見解)に関連した件(くだり)で、ここには以下のような項目がある。・中露双方は互いの核心的利益、国家主権および領土保全をしっかりと支持し、両国の内政に対する外部干渉に反対する。・中露双方は両国の共通の周辺地域の安全と安定を損なう外的圧力に反対し、いかなる口実で主権国の内政に干渉する外力に対しても反対し、「ビロード革命」に反対する。・中露双方は、NATOの継続的な拡大に反対し、冷戦思想を放棄し(中略)、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する。・中露双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的聯盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する「インド太平洋戦略」が当地域の平和と安定に対してもたらすマイナスの影響を警戒する。すなわち中露両国は安全保障面においても完全に一致して臨むことを誓い合ったのである。米国を名指ししたことも注目に値する。なおプーチンは、2月6日には南オセチア共和国のビビロフ大統領との電話会談が控えているだけでなくトルコのエルドアン大統領へのメッセージ送付もあり、2月7日にはフランスのマクロン大統領との対面会談もあるので、習近平は気を利かせて4日の内に宴会を開き、開会式参加後すぐにプーチンが帰国できるよう便宜を図ったのだった。◆クレムリンのインサイダー情報その後のプーチンとモスクワの情況に関して、モスクワにいる、クレムリンに近い友人を取材したところ、わざわざクレムリン関係者に接触してくれて、豊富な情報を提供してくれた。その中には、公けにしてはならないという情報も含まれていたので、それを除いたインサイダー情報を、可能な限りご紹介したい。1.北京から帰国したプーチンは大変気分が高揚した様子で、かなり満足のいく北京訪問だったようです。2.フランスのマクロンとの面談は、ロシア側にとっては一定の意味があり、5時間にもわたって会談が成されました。大半の時間はプーチンによる情報分析、ロシアの立場のインプットであったようです。英米とは何を話しても、議論にすらならない低レベルの会談にしかならないので、知性エリートのマクロンとは会話が成立したとのことです。3.ロシアは、最早、米国との間では、いわゆる裏ルートとか秘密のホットラインが長年存在せず、本音で議論ができない相手と見做(みな)しており、この状況は誰が大統領になっても変わらないとの冷徹な見方の上に立って国際政治を考えているので、マクロンがここで登場してくれたのはありがたい話。もともと仏露は友好的な関係にありますし。マクロンに各種情報や分析をインプットすることによって、米国や欧州主要国へロシアの本音のようなものを伝えてくれる役割が期待できるのではないかと考えています。4.英米とはこういう会話ができないし、裏ルートもない。一方、ドイツとフランスは長年培ったルートは残っており、ドイツに関してはノルド・ストリーム2を産業界は簡単に諦めることはないだろうから、まだ議論や交渉の余地はあるとロシアは考えています。5.バイデン政権はロシアにとっては、(トランプ政権に比べると)よりましな政権であり、彼(バイデン)のメンツを潰すことはロシアとしても考えてはいません。彼(バイデン)は、とにもかくにも、トランプ時代の末期のように対話もなしに制裁をしたり、協定を破棄したりということはなく、交渉にはならないことが多いが、少なくとも対話が可能であり、米国が何を考えているかは、(トランプ時代と比べると)より分かり易い。6.米国の本質は大統領ではなく議会の力がより強いということだと、クレムリンは理解しています。トランプは、ロシアとはうまくやりたいと思っていたし、ロシアも交渉できる相手として期待したのですが、民主党を中心とする議会反露グループの圧力で何もできませんでした。曲がりなりにもバイデンは議会多数派を制していて、かつ、身内から足を引っ張られることもない。7.米英がここまでウクライナにこだわるのは、ウクライナの現政権が米国の操り人形だからです。この、「完全に米国の操り人形として使える現政権」が倒れると、同国への影響力が大幅に低下するからに他ならないとクレムリンは見ています。米英には、「米英の軍事基地をウクライナに置く長期的な目標」があり、ここでコテンパンにロシア軍にやられてしまうと、あらゆる意味で今までの活動が水泡に帰しかねないので、米英が積極的に介入しようとしているわけです。特に米国にとっては、どこかで紛争があることは良いことで、そうでなかったら、軍産複合体の利益が損なわれますので、第二次世界大戦後を見てもわかるように、米国は必ず世界のどこかで戦争を仕掛けています。戦争がないと、米国は困るのです。8.なお、米国がウクライナに供与した武器、例えばジャベリンなどは、一時代前のもので、ロシアは戦車戦など考えていないので、ほとんど無意味でしょう。古い武器をウクライナに売却できて、米国は何も損していない。軍事産業が儲かれば、米国全体の経済が潤いますから。◆「モスクワの友人」の私見「モスクワの友人」は、このたびわざわざクレムリン関係者と接触して下さった結果引き出した情報以外に、日ごろから培ってきた知見により、以下のような情報を「個人の見解」として提供してくれた。(1)ロシアはウクライナ側からの攻撃がない限り、武力侵攻することはないと思っています。で、そのウクライナ側からの攻撃もゼレンスキーがそこまでバカではないと思うので、英米にそそのかされても攻撃はしないだろうと思います。クレムリン筋も戦争の可能性はほぼ否定していましたが、もちろん、ウクライナの対応如何でもあると言っていました。(2)ウクライナ危機を煽っているのは明らかに米国ですが、本来の調停者であった独仏がミンスク合意(*注)の履行をウクライナ政府に迫っておらず、ウクライナ政府がこの履行に全く真剣に取り組まなかったことが原因です。だというのに、調停者でもない米国が中心になって武器供与を進めている、ということ自体がおかしいのです。(3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。(4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。(5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。取材の結果は概ね以上だ。「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638888.shtml(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638953.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml <FA> 2022/02/14 10:37 GRICI 二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆経済安全保障政策と矛盾する自民党岸田政権は経済安全保障に関して「やった感」を出すために、中国を念頭に、AI監視技術の輸出規制をする方針を示したようだが(参照:共同通信<AI監視技術の輸出規制へ、政府顔認証機器やカメラ、中国に懸念>)(※2)、顔認証技術において世界のトップを走っているのは、基本的に中国のセンスタイム(商湯科技開発有限公司)だ。中国といっても香港ではあるが、香港はあくまでも「中華人民共和国特別行政区」の一つなのだから、中国=中華人民共和国の管轄下にある。したがって、日本がそのような輸出規制をしても中国のレベルの方が上なので、経済安全保障を実行していることにはならない(センスタイムが顔認証技術における世界のトップであることはアメリカ国立標準技術研究所が実施した「写真が本人かどうかの認識」(※3)や「データベースを参照して人物を特定する認識」(※4)などに関するベンチマークテストの結果で証明されている)。岸田首相は「経済安全保障推進法」を制定すると公約し、今月17日から開かれる通常国会では当該新法案を提出することになっている。同法の具体的内容は、その後の検討で「機微技術を巡る特許の公開制限」や「サプライチェーンの強靱化支援」あるいは「先端技術の育成・支援」など4項目を柱とすることになった。国名こそ挙げてないが、これらは明らかに「中国」を念頭に検討されたはずであり、「日本の技術が軍事転用されるリスクを回避するためだ」という暗黙の理解があるはずだ。「サプライチェーンの強靭化」は「中国ばかりに依存しないようにしましょう」ということを指している。しかし二階氏が最高顧問を務めるセンターは、各大学にいる(中国人)教員や企業などが「窓口」となって、「友誼」の衣を着て「経済安全保障」の壁を崩していくことにつながる。これは文化の衣を着て全世界の教育研究機関に拠点を置く「孔子学院」の仕掛けと同じだ。それを自民党の大物議員が、日本の大学や大手企業を巻き込んで積極的に展開しているのだから、どんなに経済安全保障の旗振りをしてみたところで、実効性は疑わしい。◆自民党は「親中派議員」が権力を握る自民党は「自由民主」であるだけに、激しい親中から激しい反中に至るまで幅が広い。二階氏以外にも福田元首相も清華大学で大活躍だ(※5)。林芳正外務大臣は、日中友好議員連盟の会長を務めていたし(外務大臣就任とともに会長辞任)、自民党内は「親中に燃える議員」が非常に多い。小泉純一郎元首相などを除けば、ここのところ権力を握るのは「親中派」であることが多く、それは公明党と連携しているからであり、政権の背後に二階氏がいたからである。「経済界」とリンクしているため票田が関わってくる事情も挙げられよう。経営者は儲けなければ社員を養えないので、親中に傾いていく。たとえば、センターの中国側コアになっている清華大学日本研究センター(※6)のページにある最初の一枚目の写真の真ん中の人物は当時の経団連会長の御手洗冨士夫氏だ。現在でも日本の最大貿易相手国は中国であることからも分かるように、経済界は中国なしでは生きていけないという側面を持っている。「そのような日本に誰がした?」と言いたい。犯人は自民党だ。何度も書いて申し訳ないが、1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を最初に破ったのは日本で、それによって中国共産党政権は息を吹き返し、こんにちの成長を成し遂げた。その中国に日本の経済界は頼らなければならなくなっているという悪循環を生んだのは自民党なのである。中国で「最も親中的な西側の党」と位置付けられている公明党との連立により岸田政権は成立しており、岸田氏自身が親中ハト派の派閥の出身なのだから、「経済安全保障」などと呪文のように唱えていても、無理をしたポーズばかりが目立つ。二階氏は自民党幹事長からは下りたが、今も国会議員なのだから、センターとの関連において釈明が求められるし、また岸田氏も首相として矛盾のない回答をしなければならない。いっそのこと、自民党は正直に「親中」と「反中」で別れた方がいいのではないか?権力を握ることだけが目的ではなく、「日本をどのような国に持って行くか」に関して真の理念を持っているなら、真剣に考えるべきだろう。いつまでもダブルスタンダードを持っていると、日本という国は存在感を無くす。中国からも甘く見られて、中国の都合の良い方にコントロールされていく。香港の民主が消滅したことからも分かるように、中国のコントロール下に置かれれば、言論の自由と個人の尊厳、特に魂の尊厳を失っていく。日本はそれでいいのか?今月17日に召集されることになっている通常国会では、ぜひ本稿に書いた事項も議論していただきたいと切に望む。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/8cc511276b3799ccc17cceb0db1dc5c53cfabc3c(※3)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt11.html(※4)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt1N.html(※5)http://jcic.jp/jp/detail-1.html(※6)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html <FA> 2022/01/04 16:54 GRICI 二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。岸田政権は経済安全保障を強調しているが、自民党の二階元幹事長は2019年に日中イノベーションセンターを設立して中国への情報提供を促進している。日本の対中姿勢は矛盾しており、自公連立政権は親中過ぎて危ない。◆二階氏が最高顧問を務める日中イノベーションセンター2019年3月、日中イノベーションセンター(※2)(以後、センター)が設立された。中国の清華大学と日本の中央大学が中心となって、産学連携を通して日中のイノベーション協力を進めていく。このページの左下にある「センター役員」というところをご覧いただきたい。そこには「最高顧問」として「二階俊博」という名前がある。二階氏は2017年に清華大学の名誉教授になっており、イノベーションに貢献するにふさわしい職位に就くなど周到な準備が成されているが、しかし紛れもない大物政治家。当時の肩書は「自民党幹事長」である。政治家として経済界を含めて、日中のイノベーション交流に貢献していくという、日本国丸抱えのような構想だ。中央大学は二階氏が卒業した大学で、清華大学は習近平が卒業した大学。この二つの大学を軸にしながら、日本の経団連など企業を中心とした産業だけでなく、大学や研究機関を中心とした研究開発に関して、互いに先端技術開発やイノベーションの情報提供をして協力し合っていこうというのが目的である。いや、むしろ、「中国に貢献しようというのが真の目的」になっていると言っても過言ではない。その証拠に、理事長の挨拶(※3)で濱田健一郎氏はセンターの役割として「中国の産学研の新しい協力の在り方のためにふさわしい能力が発揮できるように精進してまいります」と書いている。中国側の姿勢としても、「中国の経済と社会の発展のための奉仕・各級政府への政策の提案を行う」(※4)とさえ明記してある。2019年3月と言えば、当時の安倍首相が国賓として訪中した(2018年10月)ばかりのころだ。国賓として中国に招聘してもらうために、「一帯一路」に関する第三国での協力を交換条件としたほどだ。ようやく願いが叶った安倍氏は、国賓として招いてくれた見返りに、習近平を国賓として日本に招聘する約束をしてしまった。米中覇権競争が激化している今、それが国際社会に如何にまちがったシグナルを発するかは『激突!遠藤vs田原日中と習近平国賓』に書いた通りだ。センター設立から1ヵ月後の2019年4月24日には、二階氏は習近平に会い、朝貢外交を進めている(参照:2019年4月26日コラム<中国に懐柔された二階幹事長——「一帯一路」に呑みこまれる日本>)(※5)。センターの研究員制度のページ(※6)には日中の数多くの研究者たちの名前が並んでいるが、日本側に注目してみると、中央大学だけでなく、東京大学や京都大学など、非常に多くの中国人研究者が日本で研究に従事していることが見て取れる。中国側は清華大学が多いものの、国務院のシンクタンクや、中には中国共産党中央党校国際戦略研究センター教授さえおり、本センターが如何に中国共産党と中国政府のために貢献しようとしているかが明らかである。中には中国人民抗日戦争記念館館員さえいるのは、「反日」であっても構わないことを示唆していて興味深い。◆スパイを突き止める行政省庁がある一方で、対中友好な岸田政権日本の行政省庁の一つである公安調査庁は2021年春、「我が国留学歴を有する極超音速分野の中国人研究者」と題した内部資料を出した。資料自体は関係省庁などにしか配布しておらず、資料を入手することはできなかったが、周辺の関係者から概ねの話を聞くことはできた。それによれば、日本の大学や研究機関に教員や訪問学者などの職位で所属していた中国人研究者等が極超音速兵器の開発に関わる研究に携わり、帰国後、中国の関連機関で活動しているとのこと。これは日本の安全保障に関わる重要な問題で、言うならば「スパイ行為」をしていたということになる。アメリカのバイデン政権では昨年6月上旬に上院が、中国に技術が盗まれるのを防ぐことなどを含めた「米国イノベーション・競争法案」を可決している。またアメリカの大学では千人計画に関係した大学教授が逮捕されたりもしている。日本の岸田政権ではどうか。対中非難決議は見送ったし、ウイグル族弾圧など人権侵害などを行った政府当局者に制裁を与えることができる日本版マグニツキー法の制定も、岸田首相は先延ばしすると言っている。2月の北京冬季五輪に関しては昨年末、岸田首相は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長やJOC(=日本オリンピック委員会)の山下会長などを派遣すると決めた。松野官房長官は「外交的ボイコットといった特定の言葉は使わない」と言っているが、橋本氏や山下氏を派遣すれば十分だ。岸田首相は「自分は行かない」と言うことによって、あたかも対中強硬姿勢を取ったようなポーズを出そうとしているが、東京大会に習近平は来ていないのだから、岸田氏が行くか行かないかを議論すること自体おかしい。東京大会に派遣された中国側の代表は国家体育総局局長で中国オリンピック委員会主席を兼ねる苟仲文氏だった。橋本聖子は現役の自民党参議院議員である。国家体育総局は国務院直属の正部級機構(=中央行政省庁レベル)であり、苟仲文は中共中央委員会の委員でもあるので、たしかに参議院の一議員よりは少し格上かもしれない。しかし橋本議員は大臣でもあった。遜色はないはずだ。日本ではなぜか「アメリカに足並みを合わせて外交ボイコットをした」という刷り込みが成されているが、「日本は外交的ボイコットをしていない」ことを認識すべきだ。その証拠に、中国は日本への警告を発しなくなった。中国共産党管轄下にある中央テレビ局CCTVは北京冬季五輪への橋本氏や山下氏の派遣を評価して、最近では沖縄における米軍基地でコロナ感染が広がっていることに対して林芳正外相が「猛烈にアメリカに抗議した」という映像を流しては、日本の「アメリカにあらがう勇気」を礼賛している。つまり中国は「日本はアメリカに追随せず、外交ボイコットを行わなかった」と位置付けていることを表している何よりの証拠なのである。「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://jcic.jp/jp/(※3)http://jcic.jp/jp/about-1.html(※4)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190426-00123845(※6)http://jcic.jp/jp/business-1.html <FA> 2022/01/04 16:51 GRICI ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆習近平は馬興瑞に「新疆デジタル経済と太陽光パネル基地」建設を期待アメリカからの制裁を受ける中、習近平は新疆ウイグル自治区を経済発展させることによってアメリカの対中非難に勝とうとしていると推測される。それもハイテク国家戦略「中国製造2025」に沿ったもので、深センが「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに成長したのと同じように、馬興瑞の実力を頼りに、新疆ウイグル自治区を「デジタル経済」と「太陽光パネル生産」の基地として発展させようと狙っていると思われるのである。そうでなくとも中国は国土面積が広く、1990年代から遠隔教育を推進させていた。雲南省にいても新疆ウイグル自治区にいても、北京や上海の大学で行っている講義をリモートで聞くことが出来るシステムを、世界銀行などの支援を得て構築していたし、時にはスタンフォード大学の講義を中国で聞くこともできるシステムさえ進めていた。ネット通信が発達し、特にコロナによりリモート勤務が世界的に進んだ今、中国におけるデジタル経済のニーズは増している。デジタル社会を可能ならしめるには、大量の電力が必要になる。その電力もクリーンエネルギーが奨励される中で、太陽光パネルは願ってもない手段だ。中国には「西気東輸」とか「西電東送」といった言葉があるが、これは西部大開発において1990年代から唱えられ、2000年前後に始まった、「西部にある石油や天然ガスなどのエネルギー源や電力を、経済発展著しい東沿海部の都市に運ぶ」という中国全土を覆ったネットワークである。これによって電力不足を補い、停電などによって生産ラインが止まるのを防いでいた。特に「西気東輸」の起点は新疆ウイグル自治区にあるタリム盆地だ。クリーンエネルギーが叫ばれる今、新疆ではレアアースが埋蔵しているだけでなく、太陽光パネルが生み出す、有り余る電力を、「西気東輸」や「西電東送」の考え方と同じように中国全土の電力補給に使っていこうという戦略が、このたびの新疆ウイグル自治区トップ交代の意味である。アメリカが新疆にある太陽光パネル企業に下した制裁は、「アメリカへの輸出を禁じる」という内容だ。習近平としては、アメリカに輸出できないというのは大きな痛手ではなく、むしろ中国国内における電力不足からくる社会不安を緩和する方向に電力を振り向けていこうというのが、馬興瑞を新疆に送った事実から見えてくる国家戦略なのである。国内で使うのに、「それは強制労働による電力だろう」という批難をアメリカから受ける可能性はゼロで、むしろウイグル族の人々がクリーンエネルギー生産に従事してデジタル経済を推進していくことになれば、世界からの批難が少なくなるだけでなく、新疆に経済的繁栄をもたらすので、テロなどイスラム教徒が起こす傾向にある反乱を和らげる働きをするだろうと、同時に計算している側面がある。◆「新疆‐アフガン列車」でイスラム圏アフガンの統治能力を世界に示すというのも、2021年9月8日に王毅外相がアフガニスタンの外相と話し合い、「新疆—アフガニスタン専用貨物列車」の復活を提唱したのだが(※2)、11月20日には、実際に開通したと、中国共産党の機関紙「人民日報」が報道した(※3)。アメリカはイスラム教圏であるアフガニスタンの統治に失敗したが、中国は同じくイスラム教を信じるウイグル族とアフガニスタンの経済を成長させることによって、中国の方がアメリカの統治能力を凌駕するというメッセージを発信したいものと位置付けることが出来る。習近平は米中覇権競争を、経済で絡め取って、中国の勝利に持って行こうとしているのだ。ただ、本来ならば2022年秋に開催される第20回党大会あたりで発表するはずの人事異動を前倒ししたのは、停電や不動産開発産業が招く社会不安を回避するだけでなく、西安政府の管理能力の欠如によるコロナ再感染を防ぐための不手際に対する中国政府への不信感を払拭する狙いもあるのではないか。2022年に開ける新たな幕のゆくえを見逃さないようにしたい。写真:ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202109/t20210908_9604940.shtml(※3)http://world.people.com.cn/n1/2021/1122/c1002-32287975.html <FA> 2022/01/04 11:02 GRICI ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。昨年12月25日、新疆ウイグル自治区の書記に広東省の馬興瑞省長の就任が決まった。深センをハイテク都市にした馬興瑞の辣腕を、今度は新疆で発揮させ、アメリカから制裁を受けている分野を逆手に取っていく戦略だ。◆馬興瑞が新疆ウイグル自治区の新書記に中国政府の通信社である新華社は12月25日、中共中央が「新疆ウイグル自治区の党委員会のトップに関して職務調整を行った」と発表(※2)した。それによれば、これまで新疆ウイグル自治区の書記を務めていた陳全国に代わって、馬興瑞が新しい書記になるとのこと。同日、中共中央組織部副部長が出席する形で新疆ウイグル自治区は幹部会を開催し、陳全国や馬興瑞などがスピーチを行っている(※3)。馬興瑞のスピーチで注目すべきは「私は習近平総書記の熱意を込めた依頼をしっかり心に留め」という言葉と、「苦労して勝ち取った新疆の安定を決して逆転させないことを誓う」および「そのために人民を中心として質の高い経済発展を促進する」という決意だ。◆馬興瑞が持っている特殊な才能馬興瑞(62歳)は工学博士で教授、国際宇航(宇宙航行)科学院の院士でもあり、「若き航空元帥」という綽名さえ持っていた。そのため2007年から2013年3月まで中国航天科技集団公司の総経理を務めていただけでなく、中国有人航天工程副総指揮や中国月探査工程副総指揮(2008年11月から2013年3月)をも兼任していた。2013年には目まぐるしい変化があり、3月に突然、中央行政省庁の一つである「工業と信息(情報)化部」の副部長(副大臣)や国家航天局(宇宙局)局長など、行政方面への職位を与えられた。だというのに11月になると習近平は突如、馬興瑞を広東省(中国共産党委員会)副書記に任命したのだ。異常な人事異動だ。2015年から2016年までは深セン市の書記なども兼任しながら、2017年には広東省(人民政府)の省長に任命されている。途中はあまりに細かく複雑で兼任が多すぎるので省略する。広東省にいる間に最も注目しなければならないのは、馬興瑞は広東省の凄まじい経済発展に貢献しただけでなく、中国のシリコンバレーといわれるほどの深センを、さらにハイテク化に向けて磨きをかけ、アメリカに脅威を与えるレベルにまで成長させたことだ。広東省が如何にすさまじい発展を遂げたかに関して、おもしろいYouTube「中国各省区市 歴年GDP変化」(※4)がある。1978年から2020年までの中国の省や自治区および直轄市などの各行政地区におけるGDPのランキングを追っている。最後は広東省が中国一になっていく様子をご覧いただきたい(出典は「史図書」、個人の動画投稿者が作成)。◆「中国製造2025」発布時期と一致一方、2012年11月15日に中共中央総書記に就任した習近平は、翌12月に最初の視察先として深センを選んだ。そこは父・習仲勲が「経済特区」と命名して開拓した地。トウ小平の陰謀によって16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を強いられたあとの習仲勲の仕事への奮闘ぶりはすさまじかった(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。その深センで誓いを立てたかのように、習近平は北京に戻るとすぐにハイテク国家戦略「中国製造2025」に手を付け始めた(詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平は何を狙っているのか』)。思うに、おそらくこの線上で、突如、馬興瑞を広東省に派遣することを習近平は決めたのだろう。だから異動のさせ方が尋常でない。そしてこのたびの新疆行きで、馬興瑞は「質の高い経済発展を促進する」と言っている。これはいったい何を意味しているのだろうか?◆新疆デジタル経済の急成長2021年1月21日、新華網は<新疆デジタル経済は去年の10%増で、新疆GDPの26%を占める>(※5)と発表している。そこには以下のようなことが書いてある。・5GやAIあるいはビッグデータなどの次世代情報技術と実体経済を融合発展させたことが奏功した。・新疆では昨年(2020年)、長城(科技)集団(中国最大の国有IT企業グループ。深セン)や中科曙光(中国スーパーコンピュータ大手)が投資してウルムチ工場が稼働し、(新疆)ウルムチの情報技術イノベーション産業基地の構築を加速させた。・(新疆)コルガス市の半導体チップ・パッケージング・テストプロジェクトの大規模生産が実現した。・新疆ソフトウエア・パーク第1期に230企業がパーク入りした。・新疆における5G基地局数はこれまでに6272カ所となり、5Gユーザー数は275万世帯に達した。新疆における産業インターネットの活用は新エネルギー、石油・天然ガス採掘、電力、設備製造など20余りの重点産業に広がり、デジタル化設計やスマート製造、ネットワーク連携などの新モデルが急速に普及している。・デジタル経済大発展を推進することは、新疆の経済社会デジタル化を全面的に転換させる重要な転換点であり、エネルギーと化学、繊維と衣服、機械と設備、採掘産業などの主要産業で両者の深い統合を促進する(概略引用はここまで)。このように新疆ウイグル自治区は、実はデジタル経済に関して意外なほど力を注ぎ、急成長しているのである。◆アメリカが制裁対象とした新疆の太陽光パネル企業それだけではない。2021年6月24日、アメリカ商務部は太陽光パネルの材料などを生産する新疆ウイグル自治区の企業5社について、「強制労働や監視活動など、人権侵害に関わった疑いがある」という理由で、制裁リストに入れた(※6)。これら5社は今後、アメリカ企業との取り引きができなくなる。中国は太陽光パネルの世界最大の生産地だが、パネルの材料の1つであるポリシリコンの多くが新疆ウイグル自治区で生産されていることがアメリカ議会で問題視された。つまり「新疆の太陽光パネルが廉価なのは、強制労働をさせているからだ」ということが問題になったのだ。世界のシリコン生産量は中国が最大で、世界の67.9%を生産している。工業用シリコンは、中国の中でも水資源などが豊富で水力発電が進んでいる四川省や雲南省が半分ほどを占め、20%を新疆ウイグル自治区が占めている。なぜなら工業用シリコンは莫大な電気量を消耗するので、埋蔵量以外に、電力供給が豊潤な地域でないとコストが高すぎて採算が合わない(雲南:数百本の川がある。四川省:長江など水資源が豊富。新疆:もともと石炭埋蔵量が多く、イリ川などを利用。加えて中国最大の石油・天然ガス中継点)。工業用シリコン生産過程の総コストの30~40%は電力である。新疆産の太陽光パネルが安価なのは電力が安価だからだ。新疆・四川・雲南の電気代は1kWh当たり(日本円に換算すると)「5.44円」であるのに対し広東省は「10.8円」、上海は「17.58円」だ。中国国内でも差がある。それが太陽光パネルの価格に反映している。ちなみに東京電力の業務用電力は1kWh当たり「 17円前後」だ。上海と変わらない。新疆では特にポリシリコン製造に特化し、太陽光パネルを大量に生産している。となると、その太陽光パネルによる電力をポリシリコン製造に使えるので、まるで自己増殖的な生産サイクルが出来上がり、安価な太陽光パネルを生産できるのである。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)(※7)は「アメリカで販売されている太陽光パネルの約85%は輸入品で、その多くは中国企業が製造している」とした上で、「2035年までに電力網をカーボンフリーにしたいと考えているバイデン政権にとって、中国の太陽光パネル産業を制裁ターゲットにするのは難しいのではないか」と報道している。さらに業界団体や関係者は「世界で販売されている太陽光パネルの大半は、中国の技術に依存している。中国はサプライチェーンのすべての部分、特に太陽光パネルの原料となるシリコンウエハーの生産において、リーダー的存在だ」と言っていると、WSJは懸念を伝えている。つまり、中国の太陽光パネル関連企業を制裁リストに入れることによって最も困るのはアメリカではないかという疑念を呈しているのだ。「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2021-12/25/c_1128200257.htm(※3)http://news.ts.cn/system/2021/12/25/036754869.shtml(※4)https://www.youtube.com/watch?v=akzKDf-gyg8(※5)http://www.xinhuanet.com/2021-01/21/c_1127009290.htm(※6)https://www.reuters.com/business/us-restricts-exports-5-chinese-firms-over-rights-violations-2021-06-23/(※7)https://www.wsj.com/articles/biden-to-deter-forced-labor-with-ban-on-chinas-solar-panel-material-11624501427 <FA> 2022/01/04 10:58 GRICI 中央経済工作会議「習近平重要講話」の「三重圧力」に関する誤解と真相【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。8日から中共中央政治局が開催した中央経済工作会議で習近平が問題点を「三重圧力」として警告した。これに関して日本の某氏が「習近平体制転覆の可能性」と書いたので一部混乱を招いているようだ。某団体から講演依頼を受け説明を求められたので、不本意ながら解説する。◆中央経済工作会議における習近平の重要講話:「三重圧力」指摘中共中央政治局は、12月8日から10日にかけて中央経済工作会議(以下、会議)を開催した(※2)。主催したのは中共中央総書記である習近平で、中共中央政治局委員をはじめ、全人代(全国人民代表大会)や全国政治協商会議の関係者および各地方政府の代表などが出席した。この会議は毎年12月に開催され、先ずはその年の中国経済に関して総書記(現在は習近平)が問題点の指摘や総括などを含めた講話をし、次に(後半で)国務院総理(現在は李克強)が翌年の経済目標などに関して講和するという順番になっている。その結果を毎年3月5日に開催することになっている全人代で国務院総理がその年の経済方針として発表するという仕組みだ。習近平が招集したので、まずは習近平が前半の重要講話を行い、1年間の経済状況の総括をするとともに、現在の問題点として「三重圧力(三重苦)」を指摘し、これを警戒し解決に向かって来年の経済計画に反映させよという趣旨のことを述べた。党と政府の「公報」では「会議は」という主語しかないが、先ず述べられたのが「三重圧力」であるということと、これは今年の問題点指摘と総括部分の話なので、習近平が述べたものと断定することができる。この「三重圧力」として習近平は以下の三つを挙げている(筆者の解釈を含めてご紹介する)。1.需要の縮小(中国語:需求収縮)需要には内需と外需があるが、中国以外の国におけるコロナ感染が落ち着きを見せ経済復帰しつつあるため、それまでに海外から殺到した需要が減少していく可能性があるので、内需を充実させよ。コロナによる買い控えにより消費が減少している。一方では海外におけるサプライチェーンの停滞にも警戒せよ(筆者注:たとえばアメリカにおける過度のコロナ給付金により働く人が少なくなって、中国は受注を受けてもアメリカのコンテナが動かないので、中国からの物資をさばけないなどの情況もある)。2.供給の衝撃(中国語:供給衝撃)石油石炭など原材料の価格高騰がもたらした衝撃を指している。なお、それを受けて、一部地域で電力使用の制限などの措置を講じたため停電や生産ラインの停滞を招いたが、今後はそのような措置を取らずにエネルギー消費の質を高めてエネルギー源の価格高騰に備えるとしている。3.期待の低下(中国語:預期転弱)コロナや国際情勢などにより、投資すればいくらでも儲かり成功するといった市場への期待が弱まっているだけでなく不動産問題などがあるため、融資を受けて起業しようとすることやビジネスを拡張していこうという意欲が減少し、不動産購入リスクを警戒して買い控える傾向にある。これに関しては国家が自己改革を推進するとともに消費者が自信を取り戻すべく構造改革を行っていかなければならない(筆者注:習近平は不動産バブルを警戒しているので抑制を図っているが、それは融資に関する監督強化につながるため、多様な分野における改革が必要とされている)。習近平は「三重圧力」以外にも多くの現状分析と問題点を指摘して来年への指針とつなげているが、全て書くと長文になるので、ここでは取り敢えず「三重圧力」にのみ対象を絞って説明を試みた。◆某氏は「三重圧力」指摘を「習近平政権転覆の可能性」と分析これに対して某氏が<中国・中央経済工作会議の中身から「習近平体制転覆の可能性」が見えてきた>(※3)という分析を発表したらしい。講演依頼者はそれを読んで混乱し、講演では事の真相を解説してほしいと依頼してきた。筆者は某氏の分析を読んでないし、タイトルを見ただけで、とても読んでみようという気にはなれず、依頼者に「何が書いてあり、どのようなことに混乱したのかを説明してほしい」とお願いしたところ、某氏が書いている以下の点の真相を説明してほしいという返答が来た。(1)この会議で、中国経済が1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明だという「三重圧力」に直面していると指摘されたことはなぜかほとんど報じられていない。経済は需要と供給からなるわけだが、需要もダメ(需要の収縮)なら供給もダメ(供給に対する打撃)であり、さらに先行きも厳しいということになると、全面的にダメだということにはならないか。これは習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論であり、中国共産党内部の権力闘争という見地からは看過できない内容となっているのである。(2)「中央経済工作会議」において習近平の経済政策についてこれだけ正面切った批判を許す形になったのは、あまりに激しい経済的な落ち込みに対する反発が党内でも猛烈に高まっていることを示している。次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなったのではないかーー。「中央経済工作会議」の展開を見ると、そんな意外な中国の実態が見えてくるのである。講演依頼者はほかにも多くの点を指摘し、次回の講演で真相を解説してほしいと問題提起してきた。いや、「真相」も何も、この某氏はそもそも中国語が読めないのではないかと思うし、もし読めるなら、中国の政治構造のイロハを全く知らないのではないかとさえ思う。だから「論外だ!」と片づけたいが、この依頼者のように、少なからぬ日本人が某氏の分析を読み、それを通して中国の現状理解をしているとすれば、これはかなり罪深いことだと思うので、不本意ながら不特定多数の読者のためにも、何が間違っているかを指摘する必要があるのではないかと思われた。◆某氏の分析の間違い以下、某氏の分析の間違いをいくつか列挙してみよう。A:そもそも、会議は習近平が主催し、「三重圧力」は習近平自身が言っている言葉なので、習近平に対する「正面切った批判を許す形になった」という事実は存在しない。中国の政治構造に関する理解が欠如しているための誤解で、そもそも中国語が分かるなら、原文には習近平が重要講話を行ったと明記している。あるいは原文を読んでいないのかもしれない。B:日本で「三重圧力」がほとんど報道されていないというが、あるいは正しくは報道されているとしても、某氏のような誤解釈した形で報道されるケースは少ないというだけではないのか。C:「三重圧力」に関して某氏は「1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明」と定義しているが、「1)需要の収縮」は間違った翻訳ではないが、「2)」と「3)」は誤訳であり、中国語能力の問題ではないだろうか。まして況(いわん)や、習近平自身が言った言葉なので、「習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論」とはならない。D:したがって「次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなった」ということにはつながらない。それ以外にも某氏は「地方公務員の所得が激減中」とか「今年の第二四半期にかつては十万人程度で長年安定していた上海の失業保険の受給者数が50万人を突破するところまで伸びた」などという例を挙げて「中国の経済崩壊」を示唆しているようだが、これも中国の実情をあまりに理解していないことを露呈しているとしか言いようがない。公務員の収入が不平等に多すぎ、給料だけでなく賞与や不動産手当てなど様々な収入があるため、一部の地域では一般庶民の収入との格差が非常に大きくなっている。あまりに高収入なので今年の公務員試験の倍率は、分野によっては約2万倍という部署もあり、異常な状況にあるくらいだ。当然庶民の不満も噴出しているので、中国政府は今年、この格差を是正するための通知を発布したほどだ。また上海における失業保険受給者が急増したのは、2020年8月から非上海籍の人でも上海で失業保険を受けることができるようになった(※4)ことに起因する。出稼ぎ者も働いている現地で失業保険をもらえるというように、支給対象を広げたからに過ぎない。◆中国経済崩壊論は日本に利するのか?このように某氏は、何が何でも「中国経済が崩壊する」方向に強引に持って行きたいようだが、これは某氏に限ったことではない。ともかく「習近平政権が崩壊する」とか「中国経済が崩壊する」と言えば日本人が喜ぶので、本が売れて、より多くのネットユーザーが記事を読んでくれる。たしかにそういった分析を読む方が、気がスッとするし愉快なのではあろう。その気持ちは理解できないではない。しかしそうやって少なからぬ日本人が虚空の中国崩壊物語に酔いしれている間に、中国は確実に成長し、経済力と軍事力もアメリカに近づき、やがて凌駕しようとしているという現実が進行しているのである。中国経済崩壊論に期待すること20年以上。明日にも崩壊する、今度こそ崩壊するという「甘い言葉」に誘われて偽の物語に酔いしれるのは、日本という国にいかなるメリットももたらさない。それでも崩壊しない現実にぶつかると、発信者側は「今度こそは崩壊する」と、しつこく「勧誘」してくる。その目的のために事実を歪曲するのは罪深い行為だ。どんなにいやな事実でも、不愉快な現実を直視する方が日本人を守ることにつながる。しかしネット時代は「言論の自由」があるようでいながら「選択の自由」が優先していて、どんなに事実と乖離していても「自分好みの意見」だけを選ぶ傾向にある。そして、そこに寄り集まる。これは日本に限らず世界中に散見される現象だ。注意を喚起したい。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2021-12/10/content_5659796.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/articles/1d6f77e5add48925801686d1f61cc4e8327fbf3e(※4)https://economy.caixin.com/2021-12-09/101815833.html <FA> 2021/12/27 10:23 GRICI 彭帥さん、告白文を書いたことを認め、「性的侵害」を否定:シンガポール紙に肉声と動画【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。19日、上海に行き自由行動をしていた彭帥さんは、突然シンガポール紙の取材を受け、ウェイボーに告白文を書いたことを認めた上で「性的侵害ではない」と主張した。その動画に基づいて真相を再考察する。◆彭帥を突然取材したシンガポール紙「聯合早報」の動画12月19日、彭帥(ほうすい)さん(以下、彭帥)は上海で開かれたスキー競技を、NBA(米プロバスケットボール協会)の選手だった長身の姚明(ようめい)さんらと観戦したあと、周辺を散策していた。すると、ある人物がいきなり彭帥に話しかけてきたので、彼女は非常に怪訝な顔をした。しかし「あ、テレビ局?」という問いに、相手が「はい、そうです。聯合早報です」と答えると、すぐに態度を変えて、取材に応じた。その一部始終を聯合早報のユーチューブ(※2)で観ることができるので、この動画に沿ってご説明したい。まず聯合早報の記者(以下、記者)が「以前、あなたはウェイボーでメッセージを発表したじゃないですか・・・」と言ったときに、彭帥は何度かうなずいている。動画の「1:39」あたりをご覧いただきたい。11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※3)で書いたように、11月2日、彭帥がウェイボーに長いメッセージを書いて、張高麗元副総理(以下、張高麗)との男女関係に関して告白した。動機は、10月30日に「11月2日に会おう」と約束したのに、11月2日になって張高麗がドタキャンしてきたことに対して激怒したからだ。同コラムに書いたように筆者は2012年春に天津にいた教え子から張高麗(当時、天津市書記)に関して「不倫をしているらしい」という噂を聞いていた上に、彭帥がウェイボーで公開した文章があまりに乱れていることから、これは確実に彭帥自身が書いたのであって、他の人が成りすましで書いたものではないと断言していた。日本の「中国問題に詳しい専門家」と言われる人たちの一部が、「これは権力闘争で、習近平を陥れるために書いた可能性がある」という陰謀説を流していたが、もし誰かが彭帥に成りすまして書いたのなら、すぐに当局に見つかり捕まるし、そもそも彭帥が「あれは私が書いたものではありません!」と、ひとこと言えば解決する話なので、陰謀説など笑止千万と断言する自信があった。それでも日本では陰謀説に喜ぶ視聴者や読者が多く見方が分かれていた。しかしこのたびの聯合早報の動画は、筆者の視点が正しかったことを裏付けてくれたので、詳細に再考察したい。記者は、CGTN(中国グローバル・テレビ・ネットワーク)がツイッターで公開した、彭帥からWTA(女子テニス協会)宛てに書いたとされる英語のメールが、本人が自身の意思で書いたものか否かを聞き出そうとしていたのだが、その質問を遮って彭帥は強い口調で以下のように述べている(文字起こしは筆者)。——まず最初に、私が強調したい点は、非常に重要なんです。私は一度も、誰かが私に性的侵害をしたと言ったことはないし、書いたこともありません。この点は、何としても強調し明確にしなければなりません。それから、あのウェイボーに書いたことですが、あれは私個人のプライバシー問題で。あれは既に、きっとこれは、皆さんが多くの誤解をしていて、だから…、いかなる…、つまり…、こんな歪んだ…、こんな解釈など、存在しないのです(引用ここまで)。話し言葉なので、主語述語がチグハグと行ったり来たりすることは誰でもあることとは言え、この言い回しは、11月2日のウェイボーに書かれた文章を想起させ、なおさらのこと、あの文章は間違いなく、彭帥自身が書いたものであることを確信させた。加えて、彼女が「性的侵害」という言葉を口にした時の表情をご覧いただきたい。中国語では「性侵」と表現し「シンチン」と発音するが、「2:26」のところで、この発音を聞き取ることができれば、彼女が言いにくそうにしながら、しかし言った瞬間に頬を赤らめたのが見て取れる。張高麗との関係は真実だったということだろう。それが表情に顕われてしまいながら、彭帥は「あのウェイボーのメッセージは確かに自分が書いたが、性的侵害(性侵)を受けたとは書いてない」と言っているのである。これはつまり、「同意の上」でのことで、「性的暴力ではない」と明言したことになる。◆彭帥は張高麗を「愛していた」11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※4)に貼り付けた彭帥が書いたウェイボーのメッセージには、彭帥が張高麗を「愛していた」ことを証拠づける表現がいくつかある。その中の一つを以下に示す。——7年前のあなたへのあの感情が蘇(よみがえ)ることに怯え慌てふためきながら、私は同意したのです……そう、つまり、私たちは性関係を持ったのです。感情というものは複雑で、言葉で表現できないものですが、あの日から私はあなたへの愛を再び打ち開き、その後あなたと一緒に過ごした日々の中で、付き合うだけなら、あなたは本当にとっても、とっても良い人で、私に対してもとっても良くしてくれて、私たちは近代史から古代に至るまでおしゃべりしたり、あなたは私に万物の知識や経済学とか哲学なども話してくれて話が尽きませんでした。一緒にチェスをしたり、歌を歌ったり、卓球やビリヤードをしたり、特にテニスのことになると、私たちは永遠に、いつまでも楽しく過ごせると思ったし、性格だって、あんなに気が合うので、何でもうまくいくような気がしました(引用ここまで)。あのウェイボーには複数個所にわたり、彭帥の張高麗への愛が切々と書かれており、苦しい思いが伝わってくる。愛していて、同意の上だった。ウェイボーの文章と聯合早報の動画は、それを明確に示している。これ以上の証拠はないと言っていいだろう。もっとも、プライバシーと言うなら、なぜ告白してしまったのかと言いたくなる。それくらい愛していたために怒りが抑えられなかったと解釈するしかない。◆彭帥はなぜ取材を受けられるようになったのか?これは個人的感想になるが、彭帥のような真っすぐな性格のアスリートは、「ウソをつけ」と命令されても承諾しないだろうと推測される。そこで11月2日にウェイボーを発信した後しばらくは当局(中国政府のしかるべき部局)の監視下にあり、彭帥は自由を奪われただろうが、当局としては彭帥の性格上、「このようなことはなかったものとして行動しろ」とは言えないことが分かったので、せめて上記のような真実は「聞かれたら言う」けれども「監視などされておらず、自由だ」と主張してくれればそれでいいと判断したのではないかと思うのである。つまり、そういう条件で一定程度、自由行動を許したのではないだろうか。当局は、その方が中国が国際社会から批難を受ける程度が低くなると判断した可能性がある。事実、彼女は記者の「監視されているのではないのですか?」という質問に対して「なんで私が監視されなければならないんですか?私はずーっと自由です!」と非常に不機嫌に答えている。注目すべきは、聯合早報の記事は、動画とともに大陸でも観ることができる形で開放されている(※5)ということだ。習近平は、1990年代に再びトウ小平によって失脚に追い込まれた父・習仲勲に親切にしてくれた張高麗を高く評価して、2012年の第18回党大会におけるチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の一人に任命した。だから、その任命責任があるが、党の紀律検査委員会から見れば道徳的に許し難いとしても、「同意の上」での行為であるなら、処罰しにくい面もあるだろう。特に今は来年の北京冬季五輪を無事に終えたいし、来年秋の第20回党大会も控えている。したがって彭帥が「同意の上だ」ということと「監視などされておらず、全く自由だ」と言ってくれるなら、国際社会は非難しようがなくなるので、取材を受けることを許し、静かに時間が過ぎていくのを待つことにしたのだと解釈される。張高麗に関しては、密かに自由を奪い、厳しい監視の下に置いていることは疑う余地がない。しかし表面的には今は動かず、じっと第20回党大会が無事に成功するのを待ち、それが過ぎれば具体的措置が何か下る可能性も秘めているのかもしれない。しばらく成り行きを観察したい。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/watch?v=vwgr6EMEen8(※3)https://grici.or.jp/2794(※4)https://grici.or.jp/2794(※5)https://www.zaobao.com.sg/realtime/china/story20211219-1224709 <FA> 2021/12/21 10:26 GRICI 『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆2008年、いち早く北京五輪サポートの声を上げた日本そのような中、いち早く北京五輪をサポートすべきだという声を上げたのは日本である。2008年4月2日、当時の日本の福田首相は「人権にかかわるようなことがあるならば、懸念を表明せざるを得ない」と述べる一方で、北京オリンピックの開会式に出席するのかどうかについて聞かれると「中国が努力している最中に参加するとかしないとか言うべきではない」と発言したことで有名である。そして5月6日~10日、胡錦涛を国賓として日本に招き(※2)、天皇陛下に謁見するところまで持って行った。天安門事件発生後の対中経済封鎖をいち早く解除させて、その後の中国経済の成長を可能ならしめた日本と同じく、この時もまた日本が中国(=人権弾圧をする中国共産党政権)に救いの手を差し伸べたのだ。中国はこの味を十分に知っている。だからこそ今般の北京冬季五輪の外交的ボイコットに関して、12月10日にコラム<中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること>(※3)に書いたような現象が起きるのである。日本をテコに使うのは中国の常套手段だ。そのために日本国内に多数の親中議員を養成することに中国は(建国以来)余念がない。「侵略戦争への贖罪意識」を利用すれば、日本は中国の思う方向にコントロールできると、中国は高を括(くく)っている。◆中国が出した『アメリカ民主の状況』白書しかし、アメリカに対してはそうはいかない。だから12月6日、中国の外交部は『アメリカ民主の状況』と題した白書を発布した(※4)。アメリカの民主は金権政治であり、一人一票と言いながら実際は少数エリートが統治しているにすぎず、民主は混乱し崩壊していると酷評している。白書はまた以下のようなことを列挙している。——たとえばトランプ(元大統領)支持派による議会乱入事件、黒人差別をやめることができない激しく長い人種差別社会の慣行、激しい貧富の格差、コロナ感染をコントロールできない惨劇、有名無実の言論自由、民主を広めるという名目により朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争・・・と数多くの戦争を繰り返してきた。民主を口実にした無用の戦争によりどれだけ多くの無辜の民の命を非人道的手段により奪ってきたか。しかもアフガニスタンにおける戦争と占領により、他の民族国家に対する強硬な民主の押し付けは失敗に終わったことを歴史は証明している。アメリカがなぜ世界に次から次へと戦争を仕掛けるかは、政権は軍事産業を味方につけておかないと成立しないからだ。軍事産業で製造された武器をさばくために戦争を仕掛けている。その時に使うのが「民主主義のため」という虚偽の正義に過ぎない。最近では制裁を乱用して国際ルールを破壊していることも含めて、アメリカの民主の、人類に対する罪は重い。(以上概略と趣旨を紹介。)このように、白書の口調は激しい。今年6月に、習近平政権は胡錦涛政権の白書のリニューアル版である『中国新型政党制度白書』(※5)を出しているが、そういったトーンとは異なり、実に攻撃的だ。この『アメリカ民主の情況』白書は、どこからどう見てもバイデン大統領が提起した「民主主義サミット」に対抗したものであるとみなすことができる。◆バイデン政権主催の「民主主義サミット」は中国に痛手か?しかし、その肝心の「民主主義サミット」だが、対中包囲網としての効果があっただろうか?サミットはおよそ110の国と地域の代表を招いて12月9日から2日間にわたってオンラインで開催された。ということは、おおよそそれと同じ数に相当する国が「非民主主義国家だ」として招かれなかったことになる。中国やロシアを専制主義国家の代表とするのは分かるにしても、シンガポールといった国まで「非民主主義国家」と区分されており、アフリカ54ヵ国の内、招かれたのはわずか17ヵ国。残りの37ヵ国が「非民主主義国家」に分類されている。このようなことをしたら、約100近い国を、「さあ、中国側に付きなさい」と追いやったようなもので、習近平やプーチンは、むしろ「ニンマリ」ではないだろうか?なぜなら招かれた100強の国や地域も、米中覇権競争の中で政治的にはアメリカを向く傾向はあるものの、経済的には中国に頼っているため、「アメリカ側に付きます」とは表明できない。特に力のない国々は、むしろ中国側に「良い顔」をしていないと生存できないので、意思表示はできない。多くの国は米中のはざまで「漁夫の利」を得ながら泳いでいる方が好都合なのだ。二者択一を迫るようなサミットに積極的に出たいという国の数は圧倒的に少ないだろう。案の定、サミットは盛り上がりに欠け、アメリカの影響力の低下を逆に露呈してしまった。言論と人権を弾圧する中国共産党の一党支配体制を維持させないようにするのは歓迎するが、その方法は稚拙と言っても過言ではない。「排除の論理」では、国際社会を一つに結び付けるのは困難だ。おまけに最も強く結ばれているはずの日米が反対方向のベクトルを向いていて、12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※6)に書いたように、日本は中国に有利な方向にしか動いていない。バイデンは日米豪印という安全保障上の枠組み「クワッド」の一員に留めておきたいため、インドを「民主主義国家」のリストの中に入れたようだが、そのインドとて、実はスウェーデンのシンクタンクV-DEMが調査データとして出しているように、インドは「選挙による独裁国家」、「専制主義国家」として分類されているのである(※7)。決定打は台湾に関する扱いだ。本来ならこのサミットは台湾の代表として「中華民国」蔡英文総統を招き「一つの中国」を崩すのが中国にとって致命的になれるはずだったと思うが、招いたのはデジタル大臣のオードリー・タン(唐)で、しかもオードリーが台湾と大陸を色分けした地図を示しながら講演したのだが、その画面はアメリカ側によって一瞬で遮断され台湾で物議をかもしている(※8)。バイデンは「北京」に配慮したのだ!なんという中途半端なサミットだろう。バイデンの動き方は何とも臆病で「だらしない」。パフォーマンスに過ぎないことを、ここでも露呈してしまう結果を招いている。世界戦略にかけては、残念ながら中国は長期的で「戦略」に長けている。アメリカは、もっと深く鋭い思慮に基づいて世界戦略を練り直さなければならないだろう。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.china.com.cn/zhibo/zhuanti/hjtfr/node_7044169.htm(※3)https://grici.or.jp/2814(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202112/t20211205_10462534.shtml(※5)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/44691/Document/1707421/1707421.htm(※6)https://grici.or.jp/2810(※7)https://www.v-dem.net/media/filer_public/74/8c/748c68ad-f224-4cd7-87f9-8794add5c60f/dr_2021_updated.pdf(※8)https://tw.news.yahoo.com/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%B3%B0%E6%9C%83%E9%A2%A8%E6%B3%A2-%E5%94%90%E9%B3%B3-%E5%85%A9%E5%B2%B8%E5%9C%B0%E5%9C%96-%E7%82%BA%E4%BD%95%E6%B6%88%E5%A4%B1-%E8%B7%AF%E9%80%8F-091001099.html <FA> 2021/12/14 16:10 GRICI 『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。北京冬季五輪ボイコットと民主主義サミットに合わせたように、中国は『中国の民主』と『アメリカ民主の状況』という白書を発表(※2)した。2008年の北京五輪に向けても中国は民主白書を出している。中国の主張とサミットの対中効果を考察する。◆白書『中国の民主』中国の国務院弁公室は12月4日、『中国的民主(中国の民主)』と題した白書を発表した。白書では、「民主」は全人類共通の価値であり、中国共産党と中国人民が一貫して掲げてきた重要な理念であるとしている。白書は冒頭で以下のように述べている。——100年来、中国共産党は「人民民主」の旗を高く掲げ、数千年にわたる封建社会の歴史と半植民地・半封建社会と化した近代の国家において、「人民が主人公」である国家を実現すべく人民を導いてきた。こうして中国人民は国家と社会と自分の運命の真の主となり得たのである。(引用ここまで)白書では「中国の民主」を「人民民主」あるいは「社会主義民主」という言葉で定義づけており、決して「民主主義」とは言わない。「民主主義」という言葉は、毛沢東が建国当初まで主張していた「新民主主義革命」と「新民主主義勝利」という単語以外では使っておらず、2万字以上の白書の中で、この「新民主主義」は2カ所にしか出てこない。したがって白書に出てくる「民主」という単語を「民主主義」と日本語訳した時点で、中国政治の構造を十分には理解していないということになる。『中国の民主』白書ではまた、以下のようにも言っている。——ある国が民主的であるか否かは、その国の人々が判断すべきだ。外部の少数の者あるいは独善的な少数の国が判断すべきではなく、国際社会が判断すべきである。民主には各国各様にさまざまな形があり、一つの物差しで測るべきではない。民主は特定の国の専売特許ではないので、他の国の民主の度合いを特定の国の物差しで測ること自体、非民主的である。(引用ここまで)。この「独善的な少数の国」は明らかにアメリカを中心とした西側諸国を指しており、このたびの白書がアメリカの対中包囲網を意識したものだと言っていいだろう。◆2005年と2007年にも「中国の民主」に関する白書しかし、「中国の民主」に関する白書が出されたのは今回が初めてかというと、そうではない。胡錦涛政権時代の2005年10月に『中国の民主政治建設』(※3)という白書が国務院から出されており、2007年11月には『中国政党制度』(※4)という白書が出されている。この『中国政党制度』は、「社会主義民主」や「多党合作制度(八大民主党派などを中心とした中国の国家政治権力体制)」などを中心に述べたものであり、同じように「中国式民主」を礼賛したものである。中国は胡錦涛政権における2008年8月8日に北京五輪(オリンピック・パラリンピック)を開催することになっていたが、当時はチベット族を中心とした暴動と鎮圧が激しく、国際社会は北京五輪を支持すべきか否かに揺れていた。そのため胡錦涛としては「中国がいかに民主的であるか」そして「中国には中国の民主があるのだ」ということを国際社会に向けて発信する必要に迫られていた。しかし2008年3月10日にチベット自治区ラサ市でチベット独立を求めて起きたデモをきっかけとして、いわゆる「チベット動乱」が発生し中国当局が激しい鎮圧をすると、国際社会は北京五輪ボイコットを叫んで騒然とした。「中国の民主」に関する一連の白書は、こういった動きを未然に防ぐために出されたものだったが、結局国際世論はボイコットするか否かで大きく揺れた。そもそも胡錦涛はかつてチベット暴動を武力で鎮圧したことを高く評価されて、トウ小平により「江沢民の次に国家主席になれ」と任命された人物だ。「『中国の民主』白書と「民主主義サミット」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/44691/Document/1717212/1717212.htm(※3)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/2005/Document/307899/307899.htm(※4)http://www.scio.gov.cn/zfbps/ndhf/2007/Document/307872/307872.htm <FA> 2021/12/14 16:06 GRICI 中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。上記の記者会見で香港の記者との質疑応答で提起された国連総会における決議は以下のようなものである。英語版に関してはUNGeneralAssemblyadoptsOlympicTruceforBeijing2022,highlightingthecontributionofsporttothepromotionofpeaceandsolidarity(国連総会が2022年北京大会のオリンピック休戦協定を採択、平和と連帯の促進に向けたスポーツの貢献をアピール)(※2)にあり、中国語版はこちら(※3)にある。12月2日にニューヨークで開催された第76回国連総会において、193の全加盟国の内173の加盟国が共同提案した「BuildingapeaceandbetterworldthroughsportandtheOlympicideal(スポーツとオリンピックの理想による平和でより良い世界の構築)」と題した決議案を無投票で採択した。193−173=20ヵ国が共同提案に加わっていない。中国外交部報道官・汪文斌が言った「173ヵ国」はこの数値を指しており、中国としては強気なのである。上記の記者会見における中国外交部報道官の回答をできるだけ詳細に書いたのは、これら173ヵ国が、こういったセリフに惑わされていることを知っていただくためだ。◆ボイコットに対するIOC声明12月6日、IOCはアメリカの外交的ボイコット表明を受けて、IOCstatementontoday’sannouncementbytheUSgovernment(本日の米国政府の発表に対するIOCの声明)(※4)を発布した。そこには概ね、以下のようなことが書いてある。——政府関係者や外交官の出席は、各政府の純粋な政治的決定であり、政治的中立性を有するIOCはこれを完全に尊重します。同時に、今回の発表は、オリンピックと選手団の参加が政治を超えたものであることを明確にしており、私たちはこれを歓迎します。選手とオリンピックへの支援は、ここ数ヶ月の間に何度も表明されており、最近では、先週ニューヨークで開催された第76回国連総会における国連決議でも表明されています。この決議は、2022年北京オリンピック・パラリンピック競技大会において、オリンピック競技大会開始である2022年2月4日の7日前から、パラリンピック競技大会終了の7日後まで、オリンピック休戦を遵守することを求めています。また、「すべての加盟国に対し、オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間中およびそれ以降において、紛争地域における平和、対話、和解を促進するツールとしてスポーツを活用するための国際オリンピック委員会および国際パラリンピック委員会の取り組みに協力することを求める」としています。(引用ここまで)中国外交部の発表によれば、国連決議を起草したのは「中国とIOC」であるとのことだ。◆中国にとって最も痛手となるのは日本がボイコット宣言をすること上述の国連における共同提案に参加しなかった20ヵ国の中に日本がある。しかし日本はアメリカの外交的ボイコットに対して即応していない。ボイコットの理由となっている新疆ウイグル自治区における人権問題に関わった当局者たちを罰することができる日本版マグニツキー法の制定も延期してきた。12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※5)に書いたように、林外相は非常に積極的に日中友好を謳いながら王毅外相に接近し、来年の日中国交正常化50周年記念を中国と協力しながら祝賀したいと、自ら積極的に王毅外相に伝えている。中国にしてみれば、どんなにアメリカから制裁を受けたり攻撃されたりしようとも、日米同盟で固く結ばれているはずの日本は、常に中国に友好的に動いていることを知っているし、また日本が対中友好的であるように中国は水面下で動いてきた。林外相が会長をしていた日中議連は、日中が国交を正常化する前から日中友好のために貢献してきた組織だ。中国が最も親中的だと位置付けている公明党とも岸田政権は連立を組んでいる。かてて加えて今般は「東京大会開催時に日本は中国と水面下で互いに協力し支持し合うと約束していた」ことが判明している。その日本が「中国との信義」を破って外交的ボイコットを宣言することは、中国にとっては大きな痛手となるだろう。日米が足並みを揃えたシグナルにもなるからだ。習近平のメンツも潰れる。しかし、岸田首相も林外相も「中国に対して言うべきことは言う」と言っているのだから、今こそ明確に「外交的ボイコット」を宣言すべきだろう。1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を解除させたのは日本で、それにより中国はこんにちのような経済大国に成長した。あの愚を繰り返してはならない。言葉を濁して逃げ切れるものではないことを肝に銘じるべきだ。日本国民は国際社会とともに、日本がいかなる発信をするかに注目している。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://olympics.com/ioc/news/un-general-assembly-adopts-olympic-truce-for-beijing-2022(※3)https://news.un.org/zh/story/2021/12/1095422(※4)https://olympics.com/ioc/news/ioc-statement-on-today-s-announcement-by-the-us-government(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211209-00271845 <FA> 2021/12/13 16:27 GRICI 中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米英豪加などファイブアイズ国家が外交的ボイコットを表明したが、IOCと共同で173ヵ国が国連決議で北京冬季五輪を支持表明しており中国は強気だ。しかし日本がボイコット表明すれば中国には痛手だ。◆12月9日の中国外交部記者会見から何が見えるか?12月9日、中国外交部定例記者会見における汪文斌報道官の回答が公開された。(※2)北京冬季五輪の外交的ボイコットに関して4人の記者から質問があり、汪文斌は以下のように回答している(概要のみ記す)。●ロイター記者:ロシア以外に、中国はほかにどの国の指導者と政府関係者を招聘していますか?汪文斌:オリンピックのルールでは、各国のリーダーは自国のオリンピック委員会から招待され、IOCのシステムに登録されるという形を取っています。現在、すでに少なからぬ国家元首や政府首脳あるいは王室メンバーが北京冬季五輪に出席すると登録しています。私たちはその人たちに歓迎の意を表します。中国は、国際的オリンピック事業のために、より多くの貢献をするために力を尽くし、シンプルで安全かつ素晴らしく祭典を世界に発信していくつもりです。●ラジオ香港記者:イギリスとカナダが北京冬季五輪に外交代表を派遣しないと表明したことについて、中国はどのようにお考えでしょうか?報道によれば国連総会で採択されたオリンピック休戦決議に20ヵ国が署名していないとのことですが、中国はドミノ現象が潜在していると考えていますか?汪文斌:まず指摘したいのは、そもそも中国はどの関係国にもまだ招待状を送っていないということです。その国の政府関係者が来ても来なくても、同じように北京冬季五輪の成功を目にすることになるでしょう。スポーツは政治とは無関係です。オリンピックは広大なアスリートやスポーツ愛好者たちの祭典であって、政治家がショーを見せるための舞台ではありません。アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダなどの個別の国は、北京冬季大会に関する国連総会におけるオリンピック休戦決議の共同提案を拒否し外交的ボイコットという独自の茶番劇を演出してオリンピック精神を破壊する行動を取っています。私たちは関係国がオリンピック精神を守り実践していくことを願っています。あなたが先ほど心配していた連鎖反応に関してですが、私たちは連鎖反応を心配していません。12月2日、第76回国連総会は、中国とIOCが共同で起草し、173の国連加盟国が共同提案した「北京冬季五輪におけるオリンピック休戦決議」を総意で採択しました。多くの加盟国の代表者が、北京冬季五輪と休戦決議を支持すると発言をしました。これは、国際社会がオリンピック祭典を支持し、世界平和を維持しようとしていることの表れです。●AP通信:ニュージーランドの貿易大臣は、記者の質問に対し、「ニュージーランドは人権問題に対して常に強い姿勢で臨んでおり、北京冬季五輪に政府関係者を派遣しません」と述べました。これに対する中国政府の対応は?汪文斌:北京冬季五輪は全世界のアスリートとアイススポーツ愛好者たちの祭典です。ニュージーランドを含むすべての国のアスリートが北京冬季五輪に参加することを歓迎します。すべての関係者が「より大きな団結」というオリンピック精神を実践し、スポーツを政治的に利用しないことを願っています。●日本の共同通信社記者:駐カナダ中国大使館は、「カナダ側と真剣に交渉した」という声明を出しています。中国はイギリスにも働きかけているのですか?日本は北京冬季五輪に関してまだ態度を保留していますが、しかし閣僚級の人物を出席させる可能性は低いと思われます。これについて中国はどのように考えていますか?中国はアメリカに対して断固たる対抗措置をとると表明していますが、具体的にどのような対抗措置を取るのか教えてください。イギリス、オーストラリア、カナダなどに対しても対抗措置を取るのでしょうか?汪文斌:ご指摘の第一の質問については、駐英中国大使館がプレスリリースを発表していますので、そちらをご参照ください。第二の質問に関しては、いわゆる「人権」や「自由」を口実にスポーツを政治利用しようとする試みは、オリンピック憲章の精神に反するものであり、中国は断固反対します。中国と日本の間には、オリンピック開催においてお互いを支持するという重要なコンセンサスがあります。中国は東京オリンピックの開催に向けて日本を全力を挙げて支援してきましたが、今度は日本が基本的な信義を示すべき番に回ってきました。第三の質問に関して申し上げたいのは、米英豪加がオリンピックというプラットフォームを利用して政治的操作を行おうとするのは世界の人心を得ることはできません。全世界から見れば孤立しており、いずれ必ずその代償を払うことになるだろうということをお伝えしておきます。(引用ここまで)以上4人の記者からの質問と回答を見れば明確なように、日本に対してだけは「信義上、北京冬季五輪を支持すべきだ」と明言しており、他の国と区別している。これは12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>(※3)における中国外交部報道官・趙立堅の回答でも際立っていた。したがって日中間で約束事がなされていたことだけは、先ず確かだろう。「中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202112/t20211209_10465049.shtml(※3)https://grici.or.jp/2810 <FA> 2021/12/13 16:24 GRICI この記事は削除されました。 この記事は削除されました。 <FA> 2021/12/12 02:16 GRICI この記事は削除されました。 この記事は削除されました。 <FA> 2021/12/12 02:14 GRICI 北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆親中まっしぐらに突き進む岸田政権そもそも岸田首相は11月16日の時点で、ウイグル問題など人権侵害に関与した外国当局者らに制裁を科せる「日本版マグニツキー法」の制定を当面見送る方針を固めていた。G7の中でマグニツキー法を制定しない方向で動いているのは日本一国だけである。習近平への配慮からであることは言うまでもない。そこへさらに林芳正氏を外相に充てたということは、もう親中まっしぐらで行くことを示唆している。私は林氏と何度かテレビ対談をしているが、林氏は人格的には威張ってなく、フランクな感じで好感が持てる。ところが対談を始めてみると、驚くほどの親中ぶりを発揮し、私はナマ放送で思わず「あり得ない!」と言ってしまったという経験がある(2018年10月)。それもそのはず、林氏はそのとき日中友好議員連盟(日中議連)の会長だった。2019年5月5日には日中議連の代表として訪中し、北京でチャイナ・セブンの一人である汪洋(全国政治協商会議主席)と会見している(※2)。汪洋はこの時、日中議連の長年にわたる中国への貢献を讃え、特に「去年は習近平主席と安倍首相が何度も会い、一帯一路プラットフォームを通して協力と友好を深めている」と礼賛した。さすがにこのまま外相を務めるのはまずいと思ったのだろう、今年11月11日に外相就任と同時に林氏は日中議連の会長職は辞任したものの、際立った親中派であることに変わりはないだろう。今年11月18日には中国の王毅外相と電話会談(※3)しているが、林氏の方から「来年は日中国交正常化50周年記念なので、日中友好を一層深めたい」と申し出、日本の報道によれば「王毅外相も賛同した」とある。林氏の方が日中友好に積極的なのだ。また中国側報道では、王毅が林氏に訪中を要請したとは書いてないが、林氏自らが、11月21日に「王毅外相から要請があった」と明らかにしてしまった(※4)。◆中国はクワッドを骨抜きにする狙い中国は東京五輪を支援し参加してきたのだから、日本が北京冬季五輪をボイコットするなどということはできないと思っている。事実11月25日の外交部定例記者会見(※5)で趙立堅報道官は以下のように述べている。——中国と日本は、互いの五輪開催を支援するという重要なコンセンサスがある。 中国は、東京五輪の開催にあたり、既に日本側を全面的に支持してきた。日本側には基本的な信義があるべきだ。(引用ここまで)「重要なコンセンサス」が出来上がっていたということは即ち、日本は「こっそり」=「水面下で」、「すでに中国と固く約束を交わしていた」ものと解釈することができる。それを気性の荒い趙立堅がばらしてしまったことになろうか。したがって岸田首相や林外相がどんなに言葉を濁しても、日本が外交的ボイコットをする可能性はないと言っていいだろう。閣僚のレベルを下げるくらいのことはしても、「政府高官」を誰一人派遣しないということはないということだ。実はインドにしても同じことなのである。11月26日、「中国・ロシア・インド(中露印)外相第18回会議」がオンラインで開催され、35か条に及ぶコミュニケが発布された(※6)。その第34条には「外相たちは中国が2022年に北京冬季オリンピック・パラリンピックを開催することを支持する」と明示してある。すなわちインドは、決して北京冬季五輪の外交的ボイコットをしないということだ。念を押すように、ロシアのプーチン大統領が12月6日インドを訪問しモディ首相と対面で会談した(※7)。このコロナの中でわざわざインドまで行くというのは、よほどインドを重んじているためと解釈される。これまで何度も書いてきたが、プーチンとモディは個人的に非常に仲良しだ。プーチンと習近平の親密さも尋常ではない。8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>(※8)や9月6日のコラム<タリバン勝利の裏に習近平のシナリオ —— 分岐点は2016年>(※9)などでも書いたように、習近平は肝心な分岐点になると、必ずと言っていいほどプーチンに前面に出てもらって中国に有利な方向に国際社会を持って行くべく動いてもらう傾向にある。今般もまたプーチンに前面に出てもらってインドを中国側に引き付けるべく水面下で動いていると解釈される。このたびのプーチン訪印では、露印間で99条に及ぶコミュニケが出されたが(※10)、それらは軍事やエネルギー面などでの連携を強化する内容になっている。特に軍事領域における両国間の強化は、アメリカに対して非常に不愉快なものだろう。プーチンにしてみればウクライナがNATO側に付くことだけは許さないという強烈気持ちがあるので、その意味でも中印との連携を強化したい。クワッド(日米豪印)からインドが実質上抜け、日本がマグニツキー法や外交的ボイコットにおいてアメリカに同調しないとすれば、中国から見れば、クワッドは骨抜きになったに等しいのである。岸田政権には中国が世界中で最も親中的だと位置付けている公明党が与党として入っており、中国が最もコントロールしやすいとみなしている日中議連の会長を務めていた自民党きっての親中派である林芳正氏が外相を務めているので、岸田政権は親中満載だと見ているだろう。特に12月3日のコラム<習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ>(※11)で述べたように、習近平はあくまでも経済で各国・地域を中国側に引き寄せておけば安泰という外交戦略で動いている。もともと親中親韓的傾向の強いハト派である宏池会出身の岸田文雄氏が首相を務める岸田政権は経済連携において中国から離れることはない。習近平にとって、こんなにありがたい政権はないのである。日本はこのことに目を向けなければならない。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/politics/2019-05/05/c_1124453709.htm(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202111/t20211118_10449989.shtml(※4)https://www.asahi.com/articles/ASPCP4W02PCPUTFK002.html(※5)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202111/t20211125_10453188.shtml(※6)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202111/t20211126_10454095.shtml(※7)http://en.kremlin.ru/events/president/news/67287(※8)https://grici.or.jp/2483(※9)https://grici.or.jp/2521(※10)http://en.kremlin.ru/supplement/5745(※11)https://grici.or.jp/2799 <FA> 2021/12/09 16:21 GRICI 北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。アメリカの北京冬季五輪外交的ボイコットに対し、岸田首相は同調していない。人権問題を制裁できる法制定も先送りし、超親中の林氏を外相に据えた岸田政権は対中友好満載だ。日本は又しても対中包囲網を崩壊させるのか。◆バイデン政権が北京冬季五輪の外交的ボイコットを決定アメリカのバイデン政権は12月6日、「新疆ウイグル自治区で進行中のジェノサイド(集団殺害)や人道に対する罪への意見表明」として来年2月に北京で開催される冬季五輪に対して(政府関係者などを派遣しないという)「外交的ボイコット」を行うと発表した。その発表が成される前日、中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見(※2)で、ブルームバーグ記者の「CNNが、アメリカが外交的ボイコットをするだろうと言っているし、日本の与党保守派のメンバーが岸田首相にも外交的ボイコットをするよう圧力をかけているが、どう思うか?」という質問に対して、概ね以下のように回答している。——北京冬季五輪は、主役である選手のためのグローバルイベントだ。IOC(国際オリンピック委員会)をはじめとする国際社会は、その準備作業を高く評価しており、アメリカや日本をはじめとする多くの外国人選手は、中国での競技を熱望している。冬季五輪は決して政治的なショーや策略のための舞台ではないということを強調したい。招待状も出していないのに外交的ボイコットをするということは、アメリカの政治家たちの自己満足であり、陳腐な政治的操作であり、オリンピック憲章の精神に反する政治的挑発だ。これは14億人の中国人民に対する侮辱でもあり、もしアメリカがこのようなオリンピック精神にもとる態度を続けるならば、中国は断固とした対抗措置をとる。米国は、スポーツの政治化をやめ、北京冬季オリンピックへの干渉と妨害をやめるべきであり、そうでなければ、さまざまな重要分野や国際・地域問題における両国の対話と協力にダメージを与えることになる。(引用ここまで)翌12月7日になると、アメリカの正式発表を受けて中国外交部は定例記者会見(※3)で同様の質問に対して同様の回答をしている。◆岸田文雄首相の反応問題は日本がどうするかだ。12月7日午前、岸田首相は首相官邸で記者団の取材を受け、日本政府の対応について「国益の観点から自ら判断する」と述べた。その上で、「オリンピックの意義や我が国の外交にとっての意義等を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい。これが我が国の基本的な姿勢だ」と述べた。つまり、必ずしもバイデン政権の望む通りには動かないということになる。バイデン政権もまた、他の国に強要するものではないと言ってはいるが、当然のことながらバイデン大統領としては自分の威信を保つためにも同盟国や友好国がアメリカの決定に同調してくれるのを望んでいるだろう。何と言ってもバイデンは大統領に就任するなり「国際社会に戻ってきた」と宣言したのだから。おまけにアメリカ国内ではひたすら支持率が低下し続けている。だから国内的にも「ほらね、私はこんなに反中的で人権重視なんだよ」というところを見せなければならない。したがって岸田首相には「もちろん日本はアメリカと歩みを共にします!」と、即答して欲しかったにちがいない。しかし岸田内閣は今のところ、アメリカの望む「反中的」方向には動いてない。◆林芳正外相の反応12月7日の日本の外務省報道(※4)によれば、林外相は外交的ボイコットに関して読売新聞記者の質問に対し以下のように回答している(一部抜粋)。・米国政府の発表については承知をしておりますが、北京冬季大会への各国の対応についてコメントすることは、差し控えたいと思います。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後適切な時期に、諸般の事情を総合的に勘案して判断をいたしますが、現時点では何ら決まっておらないということでございます。・(諸般の事情に人権が入っているか否かという質問に対して)日本としては、国際社会における普遍的価値であります自由、基本的人権の尊重、法の支配、こうしたものが、中国においても保障されることが重要であると考えておりまして、こうした日本の立場については、様々なレベルで中国側に直接働きかけてきております。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後そういったご指摘の諸点も含めて、適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案して判断をすると考えております。(引用以上)なんとも曖昧模糊(あいまいもこ)として、ほぼ「逃げている」としか言いようがない。「北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202112/t20211206_10463052.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202112/t20211207_10463549.shtml(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken24_000083.html#topic1 <FA> 2021/12/09 16:19 GRICI 習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国の台湾武力攻撃が近づいていると思う人が多いが、習近平は実は2035年まで動かない。それまでに福州と台北を高速鉄道でつなぐ計画を進めている。中国では≪2035年に(高速鉄道で)台湾に行こう≫という歌が大流行だ。◆2035年までに「福州—台北」高速鉄道を含めた公路を完成2021年2月、中共中央と国務院は「国家総合立体交通網計画綱要」(以下「綱要」)を発布した。「綱要」では、2021年から2035年までの国家総合立体交通網の布陣が書いてある。それによれば、2035年までに「(福建省)福州市から台北市」をつなぐ高速鉄道を含めた公路が完成することになっている。2020年12月30日、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、福建省で建設中の鉄道・公道併用の平潭(へいたん)海峡公鉄大橋が正式に開通したと報道した。これは中国初の公共鉄道による海を渡る橋となる。この建設工事は2013年10月30日から始まっており、上層は時速100キロの高速道路6車線、下層は時速200キロの高速鉄道で福平鉄道(福州‐平潭県)の重要プロジェクトとなっている。平潭は台湾と中国大陸との間では、台湾に最も近い海壇島を含む島嶼から成る県で、もともと橋梁を建築する計画があった。習近平はそれを含めて「綱要」を作成し、台湾統一の足掛かりとする戦略を動かしている。大陸と台湾を結ぶ計画は、北ルート、中ルート、南ルートなどがあるが、今般の「福州-台北」ルートは北ルートに分類される。南ルートは、長年議論されてきた「金門-厦門(アモイ)跨線橋」を含む「厦門-金門」、「金門-澎湖-嘉義」のルートを指す。これらのルート開通によって何をするかのヒントの一つとして、南ルートの場合を説明すると、金門と福建省には「新4通」(水、天然ガス、電気、橋)という課題がある。インフラ整備は生活と交易に直接関係しており、たとえば孤立した小さな離島などは「真水」を必要としているため、金門と福建はすでに「水」ではつながっている。天然ガスに関しては金門の酒造工場蒸留所の発電に重要な役割を果たすことなどから一定の交易関係があり、両地の住民が船に乗って相手側の商品を買いに行くなど庶民レベルの交流もある。しかし電気や橋梁の建設となると、台湾政府が承諾しなければ成立するものではない。それでも「綱要」は「台湾通道(台湾海峡回廊)」を「やれる限りのギリギリのところまで」着々と進めていくつもりだ。今年11月24日になると、大陸側の国務院台湾弁公室の朱鳳蓮報道官は、定例記者会見で記者の質問に答える形で「綱要」の進捗状況に関して発表した。それによれば、「台湾通道」プロジェクトに関してさらなる進展があり、平潭海峡における公道鉄道両用大橋の平潭区間は、公道鉄道ともに既に完全に開通したとのこと。また、福建省の関係部門は(台湾の)金門・馬祖との橋梁の初歩的技術計画を完成させており、「綱要」の「福州-台北間の支線建設」は既に計画段階を終えたようだ。これは何を意味しているかというと、2035年にはおそらく確実に中国のGDPがアメリカを抜いているので、その時なら「統一」を図ってもアメリカは抵抗できまいという、習近平の長期的戦略を示している。経済的にアメリカを凌駕していれば国防費もその分だけ多く注ぐことができ、少なくとも東アジア領域では中国の軍事力もまたアメリカを凌駕していることになると構えているのだ。習近平はその日まで待つつもりでいることを、この「綱要」は語っている。◆台湾企業への締め付けこの「綱要」を完遂するには台湾側の同意が必要だが、そのための準備も着々と進めている。もともと台湾の交易の多くは中国大陸が相手だが、さらに最近では台湾独立を叫ぶ政治家への政治献金などをした企業に関しては罰則を科し、大陸寄りの台湾企業や個人は支援するという戦略で動いている。香港で結局のところ国家安全維持法を通して民主党派を追い出したのと同じように、じわじわと真綿で絞めるようなやり方を実行しているわけだ。たとえば11月24日、国務院台湾弁公室は記者会見(※2)で、中国大陸に複数の拠点を持つ台湾企業「遠東集団」に対し、上海市、江蘇省、江西省、湖北省、四川省などの関係部門が、4.74億元(約85億円)の罰金と追徴金を科したと報じた。遠東集団が台湾の一部の与党議員(たとえば蘇貞昌行政院長=首相)に対して過去に政治献金をしていたことを「独立分子を支援した」とみなしたからだ。それに対して遠東集団の徐旭東会長は11月29日、台湾メディアの「聯合報」に対し「台湾の独立に反対し、“一つの中国”原則を支持する」との声明を送付している。中国はこのような形で「台湾独立勢力」への制裁を行い、中国寄りの台湾企業を増やそうとしている。◆≪2035台湾へ行こう≫という歌が大流行こういった流れを作るのに、歌を利用するのは中国の常套手段だ。「綱要」が発布されたのは今年の2月だが、9月18日には≪2035去台湾(2035年には台湾へ行こう)≫(※3)という歌が出てきて、いま中国で大流行している。歌詞の冒頭は以下のようなものだ。あの高速鉄道に乗って台湾に行こうあの2035年の年にあのおばあちゃんの澎湖湾を見に行こうあの二組半の足跡がきっとあるよこの歌詞には説明が必要で、二組半の足跡は、「自分とおばあちゃんと、おばあちゃんがついていた杖」の「5つの足跡」のことを指す。実は1979年に台湾で流行った≪おばあちゃんの澎湖湾≫(※4)という歌が大陸でも大流行したことがある。いわゆる1980以降に生まれた「80后(バーリンホウ)」たちが小さい頃に盛んに聞いた曲だ。今は30を過ぎた青年たちが、深い郷愁を以て聞くことができるように、今般の≪2035台湾に行こう≫の歌詞が創られている。台湾で生まれた若者にとっては「おじいちゃん」や「おばあちゃん」は1949年に解放戦争で共産党軍に敗れて台湾に逃げてきた国民党軍の兵士とその家族が多い。大陸は、おじいちゃんやおばあちゃんにとって故郷で、「中国は一つ」ということを表したいために出てきた歌だった。当時の中国共産党は台湾の親中派としっかり連携していたので、1979年1月の米中国交正常化の一環として作曲されたものだ。この≪2035台湾へ行こう≫という歌は、今年11月に入るとウェイボー(微博)やTikTokに掲載されて一気に広がっていった。果たして当局の依頼を受けてプロパガンダのために作詞作曲されたのか、それとも2月に発布された「綱要」を見て、「これはいける」と判断した作者がビジネスチャンスと捉えて作詞作曲したのかは定かでないが、少なくとも作詞作曲した人は、「綱要」に刺激されたと語っている(※5)。◆習近平にはいま台湾武力攻撃の意思はない今年7月10日のコラム<「バイデン・習近平」会談への準備か?——台湾問題で軟化するアメリカ>(※6)にも書いたように、6月17日、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は米議会下院軍事委員会の公聴会で「近い将来に台湾武力侵攻が起きる可能性は低い」と述べた。これは今年3月9日にアメリカのインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が米議会公聴会で、「中国(大陸)は6年以内に台湾を武力攻撃する」と指摘していたことを否定した発言である。しかし日本の一部のチャイナ・ウォッチャーが、デービッドソンの「6年以内台湾武力攻撃説」に飛びついたまま情報刷新を行っておらず、未だに「2027年には中国大陸は台湾を武力攻撃するだろう」と主張したりするものだから、日本の政界の一部も多少の影響を受けて一回り遅れの言動をしている。中国(大陸)は今、台湾の独立派に対する威嚇をするために軍事演習を活発化させているだけで、武力攻撃をする気などない。なぜなら、戦争になどなったら、逆に中国国内における社会不安を招き、一党支配体制が危うくなるからだ。また国際社会からも強烈な非難を受けるのを知っているので、そういう選択はしない。もっとも、台湾政府が独立を宣言した場合は別だ。国際関係など考慮しておられず、2005年に制定した「反国家分裂法」が火を噴くだろう。しかし台湾も、政府として独立を宣言することは避けており、バイデン政権も「台湾の独立は支持しない」と中国側との対話で明言しているので、結局は習近平の思惑通り「2035」まで待つことになるだろう。2035年には「満を持して」という戦略が実現しているにちがいない。日本が警戒すべきはむしろこの長期戦略なのに、そのようなことに全く気付かない岸田内閣は、習近平がこの上なく喜ぶ方向にしか動いていない。そこには日本のメディアや中国研究者の責任もある。日本の読者や視聴者に迎合して真相を見ることを避け怠慢しているからだ。岸田内閣の対中姿勢に関しては別途論じたい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.cctv.com/2021/11/24/ARTIX5CM9jvMBNcDPU4fLMgR211124.shtml(※3)https://www.youtube.com/watch?v=W4taES7flkE(※4)https://www.youtube.com/watch?v=JEoNjnyd56s(※5)https://y.qq.com/n/ryqq/songDetail/001enXdm31qRaS(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210710-00247252 <FA> 2021/12/03 16:14 GRICI 三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆三期目を狙う習近平だからと言って憲法を改正してまで三期目を狙うのか、ということには抵抗を持つ党員もいないではないだろう。しかし中国の経済も軍事力も圧倒的に強くなり、アメリカが脅威を感じて、あの手この手で中国を潰しにかかってきているときに、党員も一般人民も、「経済と軍事を強くしてくれたのだから」と習近平を肯定する傾向にある。もちろん経済にはさまざまな問題を抱えてはいるものの、大国アメリカと対等に渡り合える「存在感」は、この「紅いDNA」が強めているのは確かだ。党員ともなれば、中国共産党がどこから立ち上がってきたのか、中華人民共和国が如何にして建国されたのかを思うとき、「紅い革命の血筋」は絶対的だ。反腐敗運動により軍に巣食う腐敗の巣窟を除去し、2015年12月末日に軍事大改革を成し遂げた上で、第19回党大会で「習近平新時代の特色ある中国社会主義思想」を党規約に書き込んで翌年2018年3月に国家主席任期に関する制限を撤廃した。もっとも、この制限、かつてはなかったもので、果たしてこれが「党内民主」という性格から来たものか否かは、実はそこには複雑な背景がある。◆トウ小平ほど独裁的だった人は中国建国以来いない習近平が「独裁的である」という批判は、世界中から受けているところだろう。筆者自身も習近平をかつて「紅い皇帝」と位置付けて本を書いたことがある。その時にはまだ勉強が不十分で、まさか習近平の父・習仲勲が、トウ小平の陰謀によって失脚させられたのだということを思いもしていなかったし、知らなかった。しかしこのたび、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書くに当たり、徹底して、これでもか、これでもかと追跡に追跡を重ねた結果、本当にトウ小平がさまざまな国家リーダーとなり得る人を倒してきたことを実感するに至った。トウ小平がどれだけ多くの国家リーダーあるいはリーダーとなり得る人物を倒し、かつ自分が推薦して就任させておきながら、気に入らないと失脚させるということを繰り返してきたかを以下に列挙してみよう。・1954年:毛沢東が後継者に考えていた高崗(西北革命根拠地)を自殺に追い込んだ。・1962年:習仲勲を冤罪により失脚させた(16年間、軟禁・投獄・監視)。・1980年9月:華国鋒を国務院総理辞任へと追い込む。・1981年6月:華国鋒(中共中央主席、軍事委員会主席辞任)を失脚に追い込む・1981年6月:自分のお気に入りの胡耀邦を中共中央主席に就任させる。(但し、1982年9月で中央主席制度を廃止し中共中央総書記に。)・1986年:胡耀邦(中共中央総書記)を失脚に追い込み、趙紫陽を後任にした。・1989年:趙紫陽(中共中央総書記)を失脚に追い込んだ。・1989年:江沢民を一存で中共中央総書記・中央軍事委員会主席に指名。・2001年:胡錦涛を隔代指導者に、トウ小平の一存で決定した。ここまで国家のトップを自分一人の意思で失脚させたり指名したりした人は、建国後の中国には存在しない。毛沢東でさえ、たった一人の国家主席(劉少奇)を失脚させるために、わざわざ文化大革命を起こさないと、一存で失脚させる力は持っていなかったし、そうしなかった。そのトウ小平が一存で決めた「国家主席の任期」を撤廃した習近平の「独裁度」は、遠くトウ小平に及ばない。軟禁された趙紫陽は、テープに回顧録を録音し、それがのちに出版されたが、その中で趙紫陽は「トウ小平の声は神の声だった。すべては彼の一声で決まった」と語っている。集団指導体制自体はトウ小平が決めたものではなく、毛沢東時代からあった。国家主席に関する任期を区切ったのはトウ小平だが、習近平が撤廃したのは、このルールだけだ。◆アメリカに潰されない国を求めて中国はもともと、こういう国なのである。それでもアメリカと対等に対峙できるリーダーを中国共産党員も中国人民も求めている。「紅いDNA」を持つ最後の男は、アメリカを凌駕するところまで粘るつもりではないだろうか。岸田内閣はゆめゆめ「紅いDNA」の夢の実現に手を貸すようなことをしてはならない。日中国交正常化50周年記念を口実に、岸田内閣は何をするかわからない。今から警鐘を鳴らしておきたい。写真: REX/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <FA> 2021/11/16 15:58 GRICI 三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。中国共産党が誕生し革命戦争を通して中華人民共和国が建国されて以来、いま残っている国家リーダーになる器を持った者で、かつ革命の紅いDNAを引いている男は習近平以外にいない。彼の後に出てくるのは小粒でしかない。◆紅いDNAを引く最後の男1921年に中国共産党が誕生した。習近平の父・習仲勲(1913年~2002年)は陝西省富平県に生まれたが、建党後ほどなくして中国共産主義青年団(共青団)に入団し、陝西省で革命活動に参加し始めたが、1928年に学生運動に参加した際に投獄され、獄中で中国共産党員になっている。わずか15歳だった。やがて釈放された習仲勲は、陝西省や甘粛省などの一帯に「陝甘辺ソビエト政府」を樹立するなどして革命根拠地(のちの西北革命根拠地)を築くのだが、その中に「延安」があった。蒋介石率いる国民党軍に敗れた毛沢東率いる紅軍は、1934年10月、最後の中華ソビエト共和国の拠点であった江西省瑞金を放棄して、1万2500キロを徒歩で北西方向に向かった。これを「長征」という。しかし中国全土に構築した革命根拠地はほとんど国民党軍に殲滅されて、唯一、習仲勲らが建設していた陝甘辺ソビエト政府だけが残っていた。毛沢東一行が延安に到着したのは約1年後の1935年10月である。もしあのとき、陝甘辺ソビエト政府という革命根拠地が残っていなかったら、毛沢東は長征の到着先を見つけることができず、共産党軍が国民党軍に勝利して中華人民共和国を建国することはできなかった。したがって、中華人民共和国が誕生したのは、習仲勲等のお陰である。だから毛沢東は習仲勲に感謝し、習仲勲をこの上なく可愛がった。習仲勲を「諸葛孔明よりもすごい」と褒めたたえたことさえある。トウ小平は、それが怖かった。人一倍野心に燃えていたトウ小平は、このままでは自分が毛沢東の後継者になるチャンスはなくなると計算し、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を失脚させ、16年間も軟禁や獄中生活を送らせるところに陥れてしまったのである(その証拠は、『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』で示した)。しかし、その息子・習近平は生き残り、最終的には江沢民が自分の駒として習近平を取り立てたために、今日のポジションがある。いま習近平世代で、中国のトップリーダーになる器を持った人物を眺めたときに、「革命の紅い血」をストレートに引き継いでいる者は一人もいない。日本のメディアや研究者あるいはチャイナ・ウォッチャーの中では、習近平が権力闘争のために反腐敗運動を展開し、李克強との間でもライバル意識を持って李克強に権力を渡すまいとしているといった類の分析をする人が数多く見られるが、その人たちは習近平が圧倒的に他と異なる「紅いDNA」を持った唯一の人物であることに気が付いていないのではないだろうか。習近平は「紅いDNA」を持つ、中国最後の人物なのである。習近平が引退した後に出てくる人物は、たとえ誰であっても、その意味では小粒で、習近平以上の「革命の正統性」を持った者は二度と現れない。◆「江沢民‐朱鎔基」、「胡錦涛‐温家宝」、「習近平‐李克強」との比較過去の指導者である「国家主席(&総書記)‐国務院総理(首相)」のペアで、「江沢民‐朱鎔基」と「胡錦涛‐温家宝」および「習近平‐李克強」を比較して、習近平の独裁欲の強さ、あるいは李克強の影の薄さを論じたメディアもあり、興味を引いた。ただ、この3組はあまりに状況が異なり、ちょうど良い例でもあるので、筆者なりの比較を試みてみよう。江沢民の父親は日中戦争時代、日本の傀儡政権として南京に樹立された汪兆銘政権の官吏で、中国語で言うならば「漢奸(ハンジェン)」、すなわち売国奴である。その出自を隠そうと、1995年から激しい反日教育を始めたくらいで、「紅いDNA」の反対側の人間だ。能力もないのに(だからこそ気に入られて)トウ小平の「鶴の一声」で中共中央総書記になり(1989年)、1993年に初めて国家主席になるという尋常でない道を歩んでいる。本来ならそのときの国務院総理だった李鵬に代わって、実力の高い朱鎔基が国務院総理になるはずだったが、朱鎔基の実力を同じ上海にいたときに知っていた江沢民は、朱鎔基が国務院総理になるのを嫌った。そのため1998年になってようやく、朱鎔基は国務院総理になった。しかし江沢民は依然として朱鎔基に対してはライバル心むき出しで、常に朱鎔基に後れを取るものだから、喧嘩ばかりしていた。胡錦涛と温家宝は非常に仲が良かったが、しかし胡錦涛には「紅いDNA」はない。胡錦涛の祖父は商売人で、父親は小学校の教員。生活苦からお茶の販売もしていた。やはり商売人だ。共産党とは無縁の家庭で育っている。清華大学に入学してから共産党と接するようになり入党した、よくある共産党員のパターンである。温家宝も似たようなもので、天津の郊外にあった教員の家庭で育っている。胡錦涛と温家宝には共通する先輩がおり、二人とも、1977年から81年まで甘粛省の書記だった宋平によって抜擢されている。胡錦涛が共青団で幹部プログラムに参加したのは、宋平の推薦があったからだ。温家宝も宋平のお陰で中央入りしているので、胡錦涛と温家宝は「親が教員だった」という共通点と宋平の存在により「仲良し」だったのである。誰一人、「紅いDNA」を持っていない。しかし習近平は違う、誰よりもストレートに建党と建国の血筋を持って生れ出てきており、この「革命の紅い血」は、中国においては絶対的なのである。李克強はそもそも「がり勉さん」で、権勢欲はなく、カリスマ性も特にない。彼自身、国務院総理であることに満足しているように見受けられるし、実務能力は高いので国務院総理に似合っている。父親は1929年に安徽省の田舎で共産党に入党し小学校の教員になったり、兵士として戦ったりしたこともあるが、あくまでも地方の田舎での活動に終始し、中央と関わったことはない。教育にはことのほか熱心で、いかにも李克強の人間性が育て上げられた環境らしい。ただ、習近平の「紅いDNA」と比較したら、比較の対象ではないことを李克強自身も分かっているだろう。こうして、過去三代の指導者のペアと比較しても、習近平だけは際立って「紅い革命の血」が濃いことがわかる。ましてや今現在の周辺(少なくとも現在中共中央政治局委員までは上がってきている者)を見渡しても、あるいは一つ下の世代の候補者(中共中央委員会委員)を見渡しても、建党・建国以来の血筋を引く者は一人もいない。三期目狙う習近平 紅いDNAを引く最後の男(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: REX/アフロ(※1)https://grici.or.jp/ <FA> 2021/11/16 15:56

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