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米中首脳電話会談——勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」次第(1)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2022/08/01 10:32 配信元:FISCO
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

7月28日夜、習近平・バイデンの電話会談があったが、米中の勝敗と今後の世界のゆくえはペロシ下院議長が訪台するか否かで決まる。中国があれだけ抗議した中で行われたからだ。

◆ペロシ下院議長の訪台に対する中国側の尋常ではない抗議
ペロシ米下院議長が台湾を訪問する予定があると最初に報じたのはイギリスのフィナンシャル・タイムズで、7月18日のことだった。すると翌19日の定例記者会見で中国外交部の趙立堅報道官は直ちに反応し、「断固として反対する」と激しい顔で叫んだだけでなく、その後も複数回にわたって抗議を表明し、しまいには「可能な限りの無慈悲な懲罰を与えると思え」という趣旨の言葉を使うようになり、抗議表明がエスカレートしていった。

抗議をしたのは外交部だけではない。

中国国防部の報道官までが<もしペロシが訪台すれば、中国の軍隊は絶対に座視しないと思え>(※2)と宣告し、「レッドラインを超えるな」という勢いだった。

国防部までが抗議表明したのは、相当に危険領域に入っているという事態を表している。

一方、7月20日、バイデン大統領は記者会見でペロシの訪台に関して聞かれ、「軍(国防総省)があまり賛成していない」(※3)という趣旨のことをムニャムニャと言葉を濁しながら言っている。

電話会談が始まる前の7月27日のBloomberg(※4)は、ペロシのアジア訪問には、日本、インドネシア、シンガポールへの訪問が含まれる予定だが、台湾訪問の可能性は、公式の旅程から外れたままであると関係筋が述べていると書いている。ペロシ自身は「安全上の懸念を理由に」旅行スケジュールについて公表することを避けているという。

多くのメディアは、ペロシが訪台すると、これは1997年に共和党のギングリッチ下院議長が訪台して以来のこことなると報道しているが、中国の元政府高官を取材したところ、ギングリッチの場合は、きちんと北京を訪問して、「挨拶」をした上で台湾を訪問しているので、「こんなことは初めてだ!1997年の情況とはわけが違う!」と立腹している。

調べてみると、たしかにギングリッチの場合は1997年3月29日に江沢民国家主席に会い(※5)、同じ日に李鵬首相にも会っていて(※6)、その上で3月30日に東京に向かい(※7)、その後、4月2日に台北に行って李登輝総統に会っている(※8)。

したがって、中国政府の元高官が言う通り「わけが違う」のかもしれない。

今般は、このような中で行われた米中首脳電話会談なので、一つの可能性として考えられるのは、水面下で「ペロシ訪台をやめた」とアメリカ側が譲歩したからこそ習近平はバイデンと電話会談することを承諾したのかもしれないことが考えられる。しかし、もうひとつには、ペロシは下院議長としてバイデンの指令下にはない独自の決定権を持っているので、あるいは29日にワシントンを出発したと言われているペロシのアジア歴訪は、「台湾」を含んでいる可能性も、完全には否定できない。

となると、米中首脳電話会談の勝敗は、「ペロシ下院議長の訪台」如何(いかん)にかかっているということになる。

つまり、会談前に「ペロシの訪台を取り下げなければバイデンとは会談しない」と習近平が突っぱねたのであれば、この時点で条件闘争において習近平の勝ちだし、ここまで抗議したにも拘(かか)わらず、結局ペロシが訪台するとすれば、習近平のメンツは丸つぶれになるということだ。

◆中国側が発表した米中首脳電話会談の内容
7月29日の00:05に中国外交部が発表した電話会談の内容(※9)によれば、米中首脳は双方の懸念事項について率直なコミュニケーションと交流を行ったとのこと。

習近平は、「世界の混乱に直面して、国際社会と国民は、中国とアメリカが世界の平和と安全を維持し、世界の発展と繁栄を促進する上で主導的な役割を果たすことを期待している」と述べた上で、以下のようなことを言っていると報道している。

・戦略的競争という視点から米中関係を定義し、中国を最大のライバルとみなすことは誤算を生み、中国の発展を誤読することにつながる。双方は、あらゆるレベルのコミュニケーションを維持し、既存のコミュニケーションチャネルをうまく利用して、協力をこそ促進するべきである。

・現在の世界経済情勢は困難を極めており、米中はグローバル産業のサプライチェーンの安定性を維持させ、世界のエネルギーと食糧安全保障の確保など、主要な問題についてコミュニケーションを維持すべきだ。ルールに反して意図的に連鎖を断ち切れば、アメリカ経済にも災いをもたらし、世界経済をより脆弱にさせるだろう。

・特定の地域の熱くなった問題点を煽るのではなく、その温度を下げるために努力すべきで、コロナと経済衰退のリスクを下げるべく国連を中核とする国際システム及び国際法に基づく国際秩序を維持するよう支援すべきである。

・台湾問題に関する中国の原則的立場を重視すべきだ。台湾海峡の両側が「一つの中国」に属するという事実と現状は明確であり、「一つの中国」原則は中米関係の政治的基盤だ。 我々は、「台湾独立」という分裂と、外部勢力の干渉に断固として反対し、いかなる形態の「台湾独立」勢力にもいかなる余地を与えない。台湾問題に関する中国政府と中国人民の立場は一貫しており、中国の主権と領土の一体性を断固として守ることは、14億人以上の中国人の確固たる意志である。もし中国の民意に逆らって火遊びをすれば、大やけどを負うことになるだろう。

これに対してバイデンは、以下のように述べたという。

・米中協力は、両国の国民だけでなく、すべての人々にも利益をもたらす。アメリカは中国との円滑な対話を維持し、相互理解を促進し、誤解を回避し、利益を共有する分野で協力し、相違を適切に管理したいと考えている。

・私は、アメリカの「一つの中国」政策が変わっていないこと、また、アメリカが台湾の「独立」を支持していないことを改めて述べたいと思う。

その上で両首脳はウクライナ危機などについても意見交換を行い、習近平は中国の原則的立場を改めて表明した。両首脳は、この電話は率直で深く、今後もコミュニケーションと協力を継続するために、連絡を取り合うことに同意したと、中国外交部は報道している。


「米中首脳電話会談——勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: 新華社/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://world.people.com.cn/n1/2022/0727/c1002-32486844.html
(※3)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/07/20/remarks-by-president-biden-after-air-force-one-arrival-5/
(※4)https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-07-27/pelosi-taiwan-trip-in-limbo-as-officials-plan-east-asia-stops#xj4y7vzkg
(※5)https://cn.govopendata.com/renminribao/1997/3/29/1/#1072956
(※6)https://cn.govopendata.com/renminribao/1997/3/29/2/#1072963
(※7)https://rmrb.online/read-htm-tid-1127378.html
(※8)https://www.president.gov.tw/NEWS/3979
(※9)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202207/t20220729_10729582.shtml


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