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GRICI 習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「難題を解決した」とすること自体が「最大のトウ小平批判」11月13日のコラム<習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?>(※2)に書いたように、まだ公報段階ではあるが、そもそも「歴史決議」に、「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」ということが盛り込まれていること自体が、最大のトウ小平批判なのである。「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」の中で、「腐敗と闘わなかった」のは「トウ小平と江沢民」だけだ。1989年6月4日に起きた天安門事件で若者が叫んだのは主として「民主」ではあるが、同時に党幹部の汚職、すなわち「腐敗」も批判の対象となっていた。しかしトウ小平は党や政府を糾弾する若者たちの叫びを武力によって鎮圧し、「腐敗」を黙認している。こうしてトウ小平の独断で中共中央総書記に指名した江沢民は、「金(かね)」によってしか権力を高める道がないため、「金を仲介とした縁故関係」によって中国を底なしの「腐敗地獄」へと持って行った。その腐敗と闘おうとした胡錦涛を、江沢民はチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人。筆者命名)に送り込んだ刺客によって封じ込め、腐敗をさらに蔓延させてしまった。したがって習近平が「歴史決議」で「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」のはトウ小平に対する巨大な批判であり、トウ小平に対する「圧倒的な勝利」なのである。これが、父親を破滅に追い込んだトウ小平に対する、習近平の「復讐の形」なのである。少なからぬチャイナ・ウォッチャーは習近平の「歴史決議」には何も書いてないと評しているが、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の真相を知らない限り、習近平の「歴史決議」からは、何も読み取れないだろう。ということは、習近平の正体を正確に読み解くことは出来ないということだ。少なくとも『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書いた筆者の視点から見れば、六中全会の広報(※3)は、書ききれないほどの豊富な情報を含んでおり、興味深くてならない。◆トウ小平を希薄化した、笑ってしまうような六中全会公報の「からくり」実は六中全会公報(※4)を読んで、思わず声を出して笑ってしまった「からくり」がある。というのも、11日に公報が初めて公表された時、筆者はナマで中央テレビ局CCTVの報道を見ていた。すると、「江沢民」と「胡錦涛」への賛辞に関して、間をおいてから、もう一度類似のことを言ったではないか。えっ?なにごと?聞き間違えたのか、それともCCTVが放送事故でも起こして、壊れたレコードのように同じ場所を2回繰り返してしまったのだろうか?ひどく慌てて文字版を読んでみたところ、なんと、本当に江沢民と胡錦涛に関しては2回も言っていたことが判明した。すなわち、「毛沢東→トウ小平→江沢民→胡錦涛→習近平」の順に建国後の指導者の業績を言った後に、もう一度「江沢民+胡錦涛」に関してだけは繰り返して業績を讃えたのである。毛沢東に関しては中国共産党建党から建国前までの業績があるので、当然誰よりも多くなるが、「トウ小平、江沢民、胡錦涛」を平等に扱ったままだと、トウ小平を特に希薄化したことにならない。そこで「江沢民+胡錦涛」をさらに、もう一度讃えれば、相対的に「トウ小平の部分」だけを「最小化」することができるわけだ。面白くなってしまって、文字数を数えてみた。すると以下のような結果が出てきた。毛沢東建国前:493毛沢東建国後:460毛沢東全体:953トウ小平:385江沢民:285、2回目の201を加えると全体で285+201=486胡錦濤:218、2回目の201を加えると全体で218+201=419習近平:124+514+216=854(3段階に分けて言及)(但し2回目の文字数は「江沢民+胡錦涛」402文字を2分した。)このように、結果として「トウ小平に関して論じた部分が最小になる」という、なんとも凄まじい「精緻な」計算をしていることに気づいたのだ。笑わずにはいられないではないか。それも「江沢民+胡錦涛」の部分は、この二人だけ2回繰り返して言ったことが目立たないように、二人を混然一体となる形で、つまり単独に繰り返したと分からないように工夫して論じている。知能犯というか、「涙ぐましい」とさえ思ってしまった。既に中国でも定着してしまっているトウ小平への評価を、真正面からは否定できないが、しかし実際上は否定するという工夫までしているところが興味深くてならない。もっとも、トウ小平を神格化することに最も貢献したのは日本である。そのことは拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の「まえがき」および「第七章の四」で詳述した。日本政府は、トウ小平神話を形成することによって中国の経済発展に貢献した自民党政権の責任を直視し、自公連立政権で、さらにそれを助長しようとしていることを認識すべきだろう。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805(※3)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm(※4)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm <FA> 2021/11/15 15:48 GRICI 習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。習近平の父・習仲勲はトウ小平の陰謀により失脚したのだから、「歴史決議」でトウ小平をどのように位置づけるかが焦点の一つだった。一見、平等に扱ったように見えるが、実は思いもかけぬ「からくり」が潜んでいた。◆100年の歴史の中での各指導者の位置づけ11月11日に公表された第19回党大会六中全会公報(※2)によれば、習近平は「歴史決議」の採択に向けた講話の中で、中国共産党建党100年の歴史を、まずは大きく以下のように位置付けている。()は筆者。——中国共産党建党中央委員会(中共中央)政治局は、中国の特色ある社会主義の大旗を高く掲げ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、トウ小平理論、三つの代表の重要な思想(江沢民政権)、科学的発展観(胡錦涛政権)、習近平新時代の中国特色ある社会主義思想を指導とすることを堅持しながら、第19回党大会と第19回党大会一中全会、二中全会、三中全会、四中全会、五中全会の精神を全面的に貫徹し、国内外の大局やコロナ感染防疫や経済社会発展および発展と安全などのバランスをうまく統制しながら統治してきた。そして安定の中でも進歩を遂げ、経済は比較的良好な発展を遂げ、科学技術の自立と自強(自らの力で強くなる)を積極的に推進し、改革開放を絶えず深化させ、貧困との戦いを計画通りに勝ち抜き、民生保障を効果的に改善し、社会の大局的安定を維持し、国防と軍隊の現在化を着実に進めてきた。さらに、中国の特色ある大国の外交を全面的に進め、党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い、多くの深刻な自然災害を克服するなど、さまざまな事業で重要な新しい成果を上げた。(引用ここまで)その上で、公報は以下のような解説を続けている。()内は筆者。——中国共産党創立100周年を記念する一連のイベントが成功裏に開催された。習近平中国共産党中央委員会総書記は(一連のイベントの中で)重要な講話を行い、小康社会の全面的な構築完成を正式に発表し、全党と各民族の人民が二つ目の100年の目標(=2049年の建国100周年記念)に向かって力強く雄々しく新征程(新たな遠征の道程)に踏み出すよう激励した。(引用ここまで)これがまず冒頭部分で、ここでは「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」が唱えた思想が、平等に評価されているかのように見える。しかし、この冒頭部分においてさえ、実は見落とせない言葉がちりばめられているのだ。引用文中の太字部分を見てみよう。1.改革開放は実際上、習仲勲が当時の華国鋒(中共中央主席、中央軍事委員会出席、国務院総理)とともに広東省深セン市で「経済特区」を唱えて始まったものだが、それをトウ小平が思いついたように置き換えてしまったものだ。しかしトウ小平が改革開放を唱えたという概念は固定化されてしまっているので、それを覆すことなく、父・習仲勲が手を付けた改革開放を深化させ、トウ小平が先富論によって招いた貧富の格差(=トウ小平の負の遺産)を無くす方向に動いたことを暗示している。2.国防と軍隊の現代化は、11月13日のコラム<習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?>(※3)で書いたように、軍部における腐敗撲滅を実行しなければ実現不可能だったので、暗に腐敗撲滅に動くどころか、腐敗を招いたトウ小平を批判している。3.最も明確なのは「党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い」という部分だ。トウ小平は、拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』で詳述したように、毛沢東が後継者にしようと位置付けていた(陝西省や甘粛省などを含む)西北革命根拠地における功労者・高崗(当時の国家計画委員会主席、人民政府副主席、人民革命軍事委員会副主席)を虚偽の事実を捏造して1954年に自殺に追い込み、1962年には同じく西北革命根拠地を築き上げ毛沢東の「長征」の終着点としての「延安」を用意していた習仲勲を同じく虚偽の事実を捏造して1962年に失脚させたために、「党史」を直視することを回避した。トウ小平時代、「長征」も「西北革命根拠地」もタブー視され、中華人民共和国が如何にして誕生したかということを含めて、語ってはならないことのように位置付けられてきた。それを徹底的に覆そうとしている現象の一つが「党史に関する学習教育」なのである。4.その意味で「長征」を正視することの意味合いは大きく、「習近平新時代の思想」を、「新たな長征」への試みであるとして「新征程」と位置付けている。これは即ち、「毛沢東の長征」と「習近平の新征程」を同等あるいはそれ以上に置いて、世界のトップを目指す決意を表している。「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805 <FA> 2021/11/15 15:44 GRICI 中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆なぜ「共同富裕」なのかところで、冒頭に引用したNHKの記事のメインテーマは「共同富裕とは何か」なので、最後にそのことに関しても少し触れておきたい。当該記事にあるように、たしかに毛沢東時代に「共同富裕」という言葉を使ってはいる(1953年における中共中央会議などにおいて)。しかし、10月12日のコラム<習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視>(※2)の後半で書いたように、むしろ、トウ小平が言った「先に富める者が先に富み、富んだ後に、まだ富んでいない者を牽引して共に富んでいく」の後半部分を実行しているだけだとみなすべきだろう。事実、そのコラムにも書いたが、習近平自身が「かつて一部分の者が先に富むことを許したが、それは先に富んだ者がまだ富んでない者を必ず率いて助け、ともに富んでいかなければならない」と言っている(2021年8月17日に開催された中央財経委員会第十次会議)(※3)。ここで無理矢理に毛沢東が主張したというところに持って行くのは、「習近平は毛沢東を超えようとしている」と言いたいからだろうが、習近平が「毛沢東時代の革命精神を忘れてはならない」として「無忘初心(初心忘るべからず)」を党のモットーの一つとしているのは、トウ小平の陰謀によって父・習仲勲が失脚し、16年間もの長きにわたって投獄・軟禁・監視生活を余儀なくされたからだ。「革命の地」である「延安」は、習近平の父・習仲勲が築いた。しかしトウ小平は習仲勲の影響を薄めたいために、「延安」や「毛沢東の長征」を語らせなかった。だから習近平は国家のトップに就任するとすぐに「革命の聖地」である「延安」を強調し、「革命の精神を忘れるな」と強調し始めた。それは自ずと「毛沢東」を蘇らせることにつながっていく。しかし習近平が超えようとしているのはトウ小平だ(詳細は拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』)。この基本を理解しない限り、習近平を読み解くことは困難ではないかと懸念する。なお、「習近平は政敵を倒すために反腐敗運動を行い、ようやく権力基盤を強固にした」という「幻想」が日本のメディアを支配し、中国の真相を見えなくしている。何度も本やコラムで書いてきたが、習近平ほど政権誕生時に政敵がいなかった指導者は珍しく、前政権(胡錦涛政権)と友好的に政権移行をした政権はかつてなかったと言っても過言ではない。したがって反腐敗運動などをやればやるほど、習近平を恨む人物が激増するばかりで、敵を作るのに貢献するだけだ。ではなぜ反腐敗運動を徹底したかと言えば、一つには胡錦涛と約束したからだ。胡錦涛政権には江沢民一派がいて、腐敗の総本山である江沢民一派に阻害され、反腐敗運動が進まなかった。だから胡錦涛は「腐敗を撲滅しなければ党が滅び国が亡ぶ」と言って習近平にその実行を約束させた。その代りに習近平の動きやすいように中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)を選んでいいと、全てを委ねた。その約束を守らなければならないことと、軍が腐敗分子の巣窟になっていて、軍事改革ができず、ハイテク国家戦略を進めることができなかったからだ。この既得権益者を追い出すことによって、ようやく軍事力の近代化を進めることができ、今やアメリカも恐れる軍事力を持つに至っている。どうせ「権力闘争だ」という「幻想」の上にあぐらをかき、日本人を喜ばせている間に中国は日本を抜き、アメリカをも抜こうとしている。こういった視点の間違いが、中国の真相を見る目を曇らせ、日本国民の利益を損なう方向に動いていることにも気づいていただきたい。一部の間違った視点を持つ研究者の言葉だけに頼り、日本全体をその方向に持って行ってしまったことに対するメディアの責任は重い。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211012-00262831(※3)http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2021-08/17/c_1127770343.htm <FA> 2021/11/09 16:31 GRICI 中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。李克強が2020年5月に「月収1000元の人民が6億人いる」と言ったのは、ゼロ歳児や高齢者など無就業者を含めた1人当たりの収入で、就業者の平均ではない。日本では未だに勘違いが多いので、再び注意を喚起したい。◆NHKも勘違いか11月8日、NHKはウェブサイトで<「共同富裕」って何なの?習近平政権のねらいは?>(※2)という記事を発信している。記事では以下のように書いている。——李克強首相も去年5月「毎月の収入が1000人民元程度(日本円で1万7000円程度)の人がまだ6億人いる」と述べるなど、中国政府も収入が低い人が依然として多い実態を認めています。これは2020年9月1日のコラム<「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その1>(※3)の後半にも書いたように、2020年5月28日に全人代閉幕後の記者会見で李克強首相が言った言葉だが、「働いている人の月収が1000元程度」と言っているのではなく、働いている人の世帯人口で割り算した一人当たりの収入を指している。李克強が言った6億人の中には赤ちゃんもいれば未就職の青少年、あるいは年金生活を送っている高齢者もいる。病人も失業者も入っている。高齢者の中には動けなくなって養老施設に入っているご老人もいるだろう。その上で人数で割って平均した値が1000元なのである。◆6億人とは李克強が言った「6億人」というのは、国家統計局が2014年から指している低収入層および中間層底辺、すなわち中低収入層の人口群である。これは国家全体で認識されている分類で、2014年のスピーチでも李克強は同じことを言っている(※4)。中低収入層の多くは農民層で、このことは中国共産党機関紙「人民日報」にも書いてあり、習近平も認識している事実だ。また冒頭にある2020年5月28日の全人代閉幕後の記者会見における李克強の発言は、「コロナで困っている人に対する政府の対応」に関する質問を受けての回答だったので、「困っている人がこんなにいるのだから、大富豪たちは理解を示して、莫大な財産を困っている人たちに分け与えなければならない」という、共同富裕の一形態に向けての布石も含まれていただろう。習近平は政権発足と同時に「貧困層を無くすこと」と「共同富裕」を目指してきたのだから、党内でその認識は共有されている(参照:拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』p.338,339など)。しかし、十分には中国の事情を知らない(中国から見た)海外の「専門家」やメディアが、李克強の発言を曲解しているのを知り、新華網(※5)や国家統計局(※6)が説明を加えている。それくらい誤解を招く表現を李克強がしたのは確かだろう。NHKが誤解するのも無理からぬことだ。しかし、日本に限らず他国でも誤解をしていた人がいたため、その後の中国政府側の「誤解を解くための努力」はかなり成されていたし、筆者も何度か本やコラムで書いてきたので、多少は誤解が解けたものと思っていた。だというのに、今年の11月8日の時点になってもなお、まだこの誤解に基づいた分析をNHKが公開しているのを知ったので、これはそろそろ名指しで指摘しないとまずかろうと思い、書いている次第である。民放は一般に「あのNHKが言っているのだから正しいだろう」という理解で、間違った事実や視点を拡散していく傾向にあるからだ。◆中国の就労人口構成そのため、もう少し中国の労働人口に関して説明を加えたい。中国では女性は55歳が定年で、男性は60歳だ。女性の場合は主として幹部は55歳だが、女性工人と言って、一般の工場労働者などでは50歳定年の場合さえある。最近では、医療の充実や生活レベルの向上により寿命が延びており、この定年年齢を引き上げるべきだという議論が巻き起こり、いま改善を試みている。実際、再雇用が図られている職場もある。ただ、建国以来の慣習が身に付き、まだ元気いっぱいの定年男女が元気を持て余して、公園などでダンスを踊ったり気功を訓練したりしている姿はお馴染みの風景である。これら男女は年金生活なので、一人当たりの「平均月収」の値を引き下げている。こういった社会背景を考えると、14億人もいる中国の全人口の内、就業しているのはわずか約7.7億人で(2020年6月発表の2019年の人力資源と社会保障部発表のデータ(※7))、残りの約6.3億人が無就業者だというのは注目に値する。繰り返すが、ゼロ歳から就職年齢に達するまでの「子供」や博士課程を含めた大学生、軍人、定年退職者・・・などは無就業者の中に含まれている。特に農民の多くは農地を持っているので、自給自足も可能だし、さらには実は農家は家族構成として一世帯当たりの人口が多い。赤ちゃんから祖父母などなど加えて数名はいる家庭はざらだ。この家庭の人口分で一家の収入を割り算するので、いっそう「一人当たりの月平均収入」は少なくなっていくのである。一人っ子政策の時でも、農家や少数民族地域では特例措置もあって子供数が増えている場合が多く、貧困なほど家族数が多いという皮肉なデータさえある。なぜなら貧困家庭は子供に高学歴をそれほど強くは求めない傾向にあり、都会では何としても一人の子供に全ての財産を注いで高学歴をと渇望している家庭が多いので、都会では家族数は少ない傾向にある。それは不動産価格高騰の最大の原因にさえなっている(参照:9月22日コラム<中国恒大・債務危機の着地点——背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>(※8))。結婚しない男女も都会の方が多い。その分だけ「一人当たりの平均月収」を押し上げる。中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211108/k10013333991000.html??utm_int=news-new_contents_latest_001(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20200901-00196149(※4)http://www.gov.cn/guowuyuan/2014-05/09/content_2675605.htm(※5)http://www.xinhuanet.com/politics/2020-06/22/c_1126144559.htm(※6)http://politics.people.com.cn/n1/2020/0615/c1001-31747507.html(※7)http://www.gov.cn/xinwen/2020-06/05/content_5517353.htm(※8)https://grici.or.jp/2606 <FA> 2021/11/09 16:29 GRICI 欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆少数民族問題は習近平のアキレス腱EUさえ中国側に引き付けておけば、アメリカが何をしようとも中国は安泰だ。習近平はそう思っていただろう。しかし、ここにきて「少数民族」の問題が政権の足を引っ張り始めた。拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』で、習近平の父・習仲勲が如何に少数民族を大事にし、少数民族と仲良くしてきたかを、詳細に書いた。その父の思いを裏切ったのは、中国共産党の統治が少数民族弾圧なしには成立しなからで、これこそが「習近平、最大のアキレス腱になる」と、しつこいほどに拙著で警鐘を鳴らしてきた。事態は、その警鐘通りに動いている。父の思いを裏切ってでも共産党による一党独裁を貫く方を選んだ習近平の「自業自得」でもあり、中国共産党による支配の宿命でもある。習近平は今それを、いやというほど思い知らされていることだろう。◆アメリカを恐れていない中国中国はバイデン大統領が率いるアメリカを恐れてはいない。トランプ政権の時は、トランプ(元)大統領が自ら次から次へと国際社会から離脱していってくれたので、トランプ(中国語読みで川普)に「川建国」(中国を再建国してくれる川普=トランプ)という綽名を付けて感謝したほどだ。バイデンは「アメリカは戻ってきた」と叫んで国際社会に戻ってきたことをアピールしたが、アフガン問題でヨーロッパ諸国の信頼を失ってしまった。その不名誉を挽回しようとローマでのG20に出席し、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)で「アメリカがリーダーシップを発揮する」と叫んでみたものの、会議で居眠りをしている動画(※2)が世界を笑わせてくれた。10月21日、アメリカのCNNの記者に「台湾が中国に武力攻撃されたら、アメリカはどうしますか?」と聞かれたのに対して、バイデンは「アメリカには台湾を防御する責務がある」と回答した。するとサキ大統領補佐官が「台湾関係法には台湾を武力で防御するという条項は含まれておらず、アメリカは台湾関係法を変えたこともなければ変えるつもりもない」と火消しに追われた。中国はバイデンがサプライチェーンの混乱や米国内での事情で焦っており、第二次世界大戦後支持率下降幅が最も高い大統領である(※3)ため、来年の中間選挙への影響を憂い、対中強硬発言に前のめりになっているのだろうと上から目線で見ている。◆頼りは日本の自公連立政権そこで中国が頼りにするのは日本の自公連立政権だ。なんといっても中国政府が「最も親中的だ」とみなしている公明党が政権与党にいる。10月27日のコラム<日本を中国従属へと導く自公連立——中国は「公明党は最も親中で日本共産党は反中」と位置付け>(※4)や26日の<習近平が喜ぶ岸田政権の対中政策>(※5)などに書いたように、中国は公明党を通して自民党をコントロールしていくことができると考えている。ウイグルの人権問題に対して制裁を加えることが可能になるマグニツキー法の成立を阻んだのも公明党だ。欧州議会が、こんなに勇猛果敢にウイグルの人権問題と闘っていても、日本は「中国に抵抗しません」と誓いを立てているようなものである。11月4日のCCTVのお昼のニュースで欧州議会の訪台を無視した代わりに特集したのは、日本の松下電機の本間哲朗氏(代表取締役専務執行役員中国・北東アジア社社長)への取材だった(※6)。松下電機は初めて上海輸入博覧会に参加したようで、本間氏は中国を絶賛している。政界には「親中」の自公連立があり、経済界には「中国なしでは生きていけない」企業が多い。中国にとってこんなにありがたい国はないだろう。岸田首相が果たして公明党の反対を抑えてマグニツキー法を成立させる方向で動くか否か、日本国民とともに注視していきたい。それにより岸田首相の覚悟のほどが試される。写真:Picture Alliance/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.bbc.com/japanese/video-59129635(※3)https://news.yahoo.com/biden-lost-more-approval-start-201330016.html?guccounter=1(※4)https://grici.or.jp/2724(※5)https://grici.or.jp/2718(※6)https://tv.cctv.com/2021/11/04/VIDEe724FZiu5wKrsT03OMxY211104.shtml <FA> 2021/11/05 15:46 GRICI 欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。欧州議会代表団が訪台した。ウイグルの人権問題で中国を制裁し報復制裁を受けた欧州は、中国が譲歩しない限り中欧投資協定を停止するつもりだ。その見せしめの第一弾が訪台。アメリカの台湾接近より習近平には痛い。中国にとっては日本の自公連立政権が最高の味方だ。◆欧州議会代表団訪台の背景11月3日、EU(欧州連合)主要機関の一つである欧州議会のグルックスマン議員を団長とする代表団が初めて台湾を訪問した。団長のグルックスマン(フランス)は7月15日のコラム<習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結——欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議>(※2)で述べたようにEUの「民主的プロセスにおける外国の干渉に関する特別議会委員会」の委員長だ。今年3月22日、欧州議会は、中国のウイグル人権弾圧に対して制裁を科すことを議決した。そこには悪名高き新疆ウイグル自治区の陳全国・書記の名前がなかった。その意味で、どちらかと言うと、軽い制裁だった。ところが同日、中国政府は「虚偽と偽情報に基づくもの」としてEUに強く反発し、非常に激しい「報復制裁」を発動した。その中にブルックスマンの名前があったのだ。これにより、習近平が2013年から7年間もかけて推進してきた「中欧投資協定」の包括的合意(2020年12月30日)に対して、今年5月20日に欧州議会は「凍結」を決議した。欧州議会は、「中国の対EU報復制裁の解除」が、中欧投資協定再審議入りの前提条件だとしている。しかし中国は報復制裁の解除をしない。そこで欧州議会議員(MEP)は今年10月21日、「EUと台湾の関係:欧州議会議員は、より強いパートナーシップを推進する」(※3)という声明を出した。骨子は以下の3点である。・台湾はEUの核心的なパートナーであり、民主的な同盟体である。・二国間投資協定は今後の協力関係の中心的な役割を果たす。・EUは中国との緊張関係に関してもっと多く発信し、台湾の民主主義を守るためにさらなる努力をしなければならない。具体的には「EUと台湾の間の二国(地域)間投資協定」を新たに締結し、5Gや半導体あるいは公衆衛生などの領域で、EUと台湾の貿易・経済関係を強化していこうということだ。また「中国の台湾に対する軍事的圧力」にも深い懸念を示している。すなわち欧州議会は、中国が台湾に対して「軍事的な好戦性、軍事的圧力、軍事演習、領空侵犯、偽情報キャンペーンを続けていること」に深刻な懸念を表明しているのである。◆欧州議会訪台団と蔡英文政権3日に訪台したのはグルックスマンを団長とする欧州議会のリトアニア、フランス、チェコ、ギリシャ、イタリア、オーストリア選出の議員7人と随行13人を合わせた計20人である。訪台は、欧州議会内の「外国のEU民主主義手続き干渉対応のための特別委員会」の下で実施された。この委員会は、2020年12月2日に公表された「欧州民主主義行動計画」の理念と重なっており、行動計画は「自由で公正な選挙の促進」と「メディアの自由の強化」と「偽情報への対抗措置」から構成される。偽情報に関しては台湾でも「大陸(中国共産党)からのスパイが台湾に潜り込み、あるいはサイバー攻撃などによって、大陸寄りの国民党と独立傾向の強い民進党との間を引き裂き、台湾市民を大陸寄りに導こうとする動きに脅かされている。EUと台湾の両者は、同じ脅威にさらされているという状況も共有しながら二国間投資協定を結ぶ方向で動いている。一行は、3日に台湾行政院長(首相)の蘇貞昌氏と会い、4日には蔡英文総統と会談した。蔡英文は台湾社会の分断を狙った中国による世論工作を念頭に「偽情報に対抗する民主連盟を創設したい」と述べ、欧州と協力して対策強化に当たる考えを表明した。訪問団側も「欧州も全体主義国家の攻撃にさらされている」と強調、「偽ニュース対策で台湾の経験に学ぶ」と応じた。共同通信などが伝えた(※4)。◆欧州議会、みごと!——CCTVは沈黙このような一連の動きを中国が黙って見ているはずがない。たしかにローマにおけるG20期間に合わせて台湾外交部長の欧州訪問を受け入れたEUの国々に対して中国政府は「一つの中国」原則を破り、「中国の核心的利益を侵害し、中国-EU関係の健全な発展を破壊する」と非難していた。しかしその中国が、いざ欧州議会代表団が訪台すると、黙ってしまったのである。本来ならば、11月4日には蔡英文総統と会談しているのだから、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVでは大きな特集番組を組んで抗議表明をするはずだ。ところがCCTV4(国際チャンネル)のお昼のニュースは、台湾に関して長い時間を割いているのに、欧州議会代表団の訪台に関して、ただの一言も触れなかったのである。私は何十年にも及び、CCTV4のお昼のニュースを欠かさずに観察してきた。本来ならば、このような事態になれば、CCTV4は大々的に抗議番組を特集するのが通例になっているのを知っている。それをしなかったのは、なぜか——。中国は中欧投資協定を何としても結びたいので、欧州議会を刺激したくないからだ。ならば、ウイグル人権問題に関する報復制裁を欧州議会の要望通りに解除すればいいが、そんなことは出来るはずがない。ウイグルの人権弾圧を実行していることを認めた格好になってしまうからだ。その両方とも選択できないところに中国を追い込んでいった欧州議会の、なんと見事なことよ!あっぱれと言いたい。中欧投資協定は、前述したように習近平政権発足と同時に2013年から中国側がEUに提案して交渉を進めてきた。同時に発足した「一帯一路」構想は、この中欧投資協定を補完するためにあったと言っても過言ではない。中国は、いずれはアメリカとの覇権競争にぶつかり、中国がアメリカを凌駕しそうになると、アメリカが何としてでも中国を潰しにかかってくるだろうことは分かっていた。だから習近平は政権発足と同時にEUを味方に付けようと、国家戦略を練ってきたのである。欧州議会みごと!訪台によりウイグル問題を抱える中国を揺さぶる(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: Picture Alliance/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210715-00248053(※3)https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20211014IPR14926/eu-taiwan-relations-meps-push-for-stronger-partnership(※4)https://news.yahoo.co.jp/articles/2bada8cb8c4fc66185537c2caea23cce2fa466ae <FA> 2021/11/05 15:44 GRICI 中国は甘利幹事長落選に注目——高市氏を幹事長か官房長官に!【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国の中央テレビ局CCTVは甘利氏の落選に注目したのみで、岸田政権の勝利を「議席は獲っても求心力は低い」と短くしか伝えなかった。論功行賞で甘利氏を幹事長などにせず、高市氏を幹事長か官房長官にすべきだった。◆中国は甘利幹事長落選に注目11月1日の中国の中央テレビ局CCTV国際のお昼のニュースは、主として習近平がG20のリモートで話した内容とか気候変動問題でのスピーチなどに時間を割かれたこともあり、日本の衆院選に関するニュースは、2分弱という、非常に短い時間しか割かなかった。そのわずかな時間内でも、特に注目したのは甘利幹事長が選挙区で落選し、比例復活はしたものの辞任表明をしていることである。それも「1955年の結党以来、政権交代はしない状況で現役の与党幹事長だけが選局で落選するということは未だかつてない」と、驚きを以て強調している。このようなことでは「岸田政権は、議席数は確保しても、求心力は弱い政権となるだろう」と番組では結んだ。◆最初から高市氏を幹事長か官房長官に就任させるべきだった筆者自身は、岸田氏が自民党総裁に当選し、幹事長に甘利氏を示し、かつ総理大臣指名を受けて官房長官に高市氏を指名しなかった段階で、岸田氏に非常に失望していた。そのため、たとえば10月1日のコラム<岸田総裁誕生に対する中国の反応——3Aを分析>の文末(※2)で、「『高市氏がダメなら、せめて岸田氏に』と期待した国民は、裏切られた気持ちになるのではないかと懸念する」と書いた。なぜなら総裁選の第一次選挙で高市氏は相当に多くの票を集めており、岸田・河野の一騎打ちの決選投票に入った時には、第一次投票で自分が獲得した表を、河野氏に回らないように、すべて岸田氏の方に行くように、高市氏は一生懸命に努力した。そのプレゼントがあったからこそ、岸田氏が総裁に選ばれたのだから、高市氏には官房長官か、せめて自民党の幹事長の職位を与えるべきだったと思ったからだ。論功行賞で甘利氏に「返礼」をするくらいなら、むしろ高市氏に「返礼」すべきだったのではないのか。それをしなかったのは、高市人気が怖くて、次期総裁選の時に岸田氏が総裁に選出されず、高市氏が選ばれる可能性があると計算したものと推測された。選挙でお世話になった甘利氏に幹事長のポストを与えたのは、論功行賞ということだけではなく、高市人気が怖かったからだと書きたかったが、自重していた。しかし、「このような了見の狭さで、岸田政権がこのままうまくいくとは思えない」という気持ちが消えず、くすぶり続けていた。高市氏には政調会長という目立たない職位を与えて、「きちんと約束通り総裁選候補者を尊重した」と言うのは、なんとも狡(ずる)いとしか思えないのだ。野田聖子氏には大臣ポストを「安心して」与えられるのは、野田氏が次期総裁選で岸田氏を乗り越えるとは思われないからという計算が働いたからだろう。河野氏には広報部長という端役を与えて「きちんと評価した」とうそぶくのも、やはり汚い。河野氏の力も恐れているので、目立つ重要ポストはあげられない。そう計算したに違いないという印象を抱いたので、それまで「高市氏がダメなら、せめて岸田氏に総裁になって欲しい」と応援していた気持ちが、人事発表で一気に冷めていったのである。◆岸田氏は、高市氏を幹事長か官房長官に就任させる勇気をその思いを表現してしまうことを、甘利氏の選挙区における落選が決意させてくれた。一か月間抑えてきたので、いま思い切って表現することにした。今からでも遅くない。甘利氏が抜ける幹事長ポストに高市氏を就任させるか、あるいは高市氏を、常にマスコミの目に触れる官房長官に就けるべきだ。せめてそうしてくれれば、岸田政権を応援しようかという気持ちが少しは湧いてくる。中国のCCTVで、岸田氏が自民党議員の当選者名に赤い花を付けていく場面を映していたが、甘利氏は元気なく形ばかりの拍手をしていたのに対して、その隣で高市氏が心から嬉しそうに拍手をして満面の笑みを浮かべている姿がクローズアップされた。あの晴れやかで美しい笑みの、なんと自信に満ちていることか。中国の知識層が読むウェブサイトの一つである観察網(※3)では、甘利氏が選挙演説で「私がいなくなったら日本は大変なことになる」、「日本の未来は私の手の中にある」という趣旨のことをまくし立てていたと鋭く批判している。この論考は、日本の有権者は、そんなことには騙されなかったと締めくくっている。中国でさえ見抜いているのだ。岸田首相に進言したい。是非とも高市氏に自民党幹事長か内閣官房長官のポストを与える勇気を持っていただきたい。国民の目はごまかせない。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/2655(※3)https://www.guancha.cn/chenyan3/2021_11_01_613099.shtml <FA> 2021/11/02 10:55 GRICI 日本を中国従属へと導く自公連立——中国は「公明党は最も親中で日本共産党は反中」と位置付け【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国は日本の公明党以上に親中の政党は世界にいないとみなし、日本共産党は反中の敵対勢力と見ている。次に親中なのは自民党なので、自公連立ほど中国にとってありがたい存在はない。思うままに動かせる。◆中国政府高官「自公は親中なので・・・」あれは確か、2012年9月に自民党総裁選があったときのことだったと思う。私はテレビの番組に呼ばれて、総裁選立候補者と対談をしたことがある。そこには「安倍晋三、石破茂、林芳正、石原伸晃」の4氏が並んでいた。町村信孝氏も立候補していたのだが、途中で体調を崩して出席していなかった。ちょうど自民党が野党に下り、民主党政権と競り合って政権交代を目指していた時期でもあったことから、私は番組で「中国では自民党じゃなくては、という意見が多いですよ」と言った。すると安倍氏が勢いよく「ほんとですか!」と前のめりになり、4人とも「いいですねぇー!」と声を揃えた。サービスで言ったわけではなく、尖閣諸島国有化問題により中国全土でデモが起き、中国は民主党政権を「反中」として激しく罵っていた時期でもあったからだ。私は当時、連日のようにテレビに出ていたので、責任あるメッセージを発していかなければならないと思い、中国政府の考え方を正確に知るべく、中国政府元高官を取材したばかりだった。元高官は「いやー、民主党はだめですよ。あれは反中だ。やっぱり自民党でなきゃね。というより、何と言っても自民党は公明党と連立を組んでるので、そりゃあ、親中に傾くに決まっている。公明党ほど親中の政党は世界でも珍しいほどですからねぇ」と回答したのだった。元高官は「自公は親中なので・・・」と言ったのではあるが、何と言っても目の前に並んでいる4人は「自民党」の総裁選立候補者なので、「自公」ではなく「自民党」と言ったのは、サービス精神というより、「自民党総裁選立候補者」だったからだ。◆中国共産党機関紙「人民日報」も公明党を「親中」と絶賛事実、中国共産党の機関紙である「人民日報」にも、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかに関する論考が載っている(※2)。この論考は、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院の日本学研究所が発行している『日本学刊』という学術誌(2017年第二期)に寄稿されたもので、作者は日本の創価大学教授で中国の復旦大学日本研究センター研究員でもある汪鴻祥氏だ。私は2004年まで同じく中国社会科学院社会学研究所の客員教授を務めていたが、日本学研究所は、まるで創価学会の巣窟かと思われるほど、創価学会関係者が多く、中国における宗教は弾圧しているのに、日本の宗教は「公明党」に限り絶賛していたことに、非常な違和感を覚えた経験がある。汪氏は以下のように述べている。1.1968年9月8日、創価学会第11回学生部会総会において、公明党の創始者である池田大作は講演し、日中関係の問題を解決するために、(1)中華人民共和国の正式な承認と日中国交の正常化、(2)中国の国連での合法的な座席の回復、(3)日中の経済・文化交流の発展、という3つの明確な提案を行った。2.1971年初頭、公明党は、台湾問題は中国の内政問題であるという認識を示し、国務院外交部日本課の王暁雲課長は、中国卓球代表団の副団長として訪日し、公明党の竹内義和会長と会談した。 これが公明党と中国との正式な交流の始まりである。3.会談後、竹中は「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府と認め、台湾からの米軍撤退と中国の国連への回復を主張し、さらに日台条約(日華条約)は破棄すべきという声明を発表した。4.中日国交正常化のため、公明党の代表団は1971年6月に初めて訪中し、周恩来首相が会見した。5.1972年7月7日、田中内閣が発足した。 1972年7月25日、公明党代表団は3度目の訪中を行い、周恩来首相と日中国交正常化に関わる重要事項について3回の会談を行った。 1972年9月、田中角栄首相が訪中し、毛沢東主席、周恩来首相と会談し、29日には日中国交正常化の共同声明を発表した。6.このように日中国交正常化を実現させて真の功労者は公明党である。7.こんにち、公明党が政権与党の一翼を担うことには非常に大きな意義がある。なぜなら自民党を対中友好に導いていくことが可能だからだ。8.公明党は常に中国と緊密に連絡を取り合い、自民党の一部の保守系政治家に対して、日中関係の正しい方向から外れた言動を慎むように圧力をかけてきた。この功績は大きい。9.今後も日中関係において、公明党が日本の政党を対中友好に導いていくという役割は計り知れなく大きい。論考は中国語で2万字以上あるので、全てを網羅することはできないが、何よりも重要なのは上記の、7,8,9で、今般の衆院選に当たり、日本国民は、この恐るべき現実を直視しなければならない。◆日本共産党は反中で、中国共産党の敵対勢力それに比べて中国は、日本共産党を反中であるとして、敵対勢力に位置付けてきた時期さえある。日本共産党に関しては、たとえば<中共と日共はかつて兄弟だったのに、なぜ仲たがいをしてしまったのか>(※3)などに見られるように、公明党とは正反対の位置づけなのである。中国建国当初の中国共産党と日本共産党の仲は、まさに「義兄弟」のようで、当時、新華書店などには毛沢東やスターリン、あるいはマルクスなどと共に、日本共産党の「徳田球一」の肖像画が並べてあったものだ。私は徳田球一の名を、「とくだ きゅういち」ではなく、中国語の発音の【de tian qiu yi】として初めて知った。それが犬猿の仲になったのは、文化大革命が勃発した1966年からだ。中国側の分析は以下のように書いている。一、日本共産党の宮本顕治(書記長)を団長とする訪中団は広州に行くことになっていたが、突然中国側から上海に行って毛沢東と会談してほしいという提案があった。二、毛沢東は宮本顕治にソ連を修正主義者として批判することを求めたが、宮本はこの提案を拒否し、毛沢東は大いに不満を抱いた。 その後、中国共産党は日本共産党の修正主義路線を全面的に批判するようになった。三、毛沢東は1966年7月の演説で、「ソ連の現代修正主義、アメリカ帝国主義、宮本顕治修正主義グループ、佐藤栄作の反動内閣」という4つの敵がいると表明した。四、それ以降、中国においては「日本共産党はソ連やアメリカよりも、さらには中国を敵視していた佐藤栄作内閣よりも危険な敵」となった。五、中共が日共と和解したのは1998年に宮本が引退してからだが、今もなお日共に対する不信感は、完全には拭えないでいる。但し、日本共産党がその後の綱領で、日米安保条約の破棄や在日米軍の撤退を明記していることに関しては高く評価している。◆衆院選で公明党と連立する自民党を選ぶと、日本は中国のコントロール下にしかし中国は、日本共産党を通して日本政府を動かすことはできないと認識しており、あくまでも公明党と緊密に連絡し合い、公明党を通して日本の内閣を反中に向かわないようにコントロールしている。だから中国は自公連立を強く応援しているのである。このような中、今般の衆院選で公明党を選び、公明党と連立する自民党を選ぶと、日本は中国共産党の思うままにコントロールされ続けることを有権者は気が付いてほしい。拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』の第七章の四に詳述したように、日本は中国共産党の発展にただひたすら貢献してきた。戦略に長けた中国は、今は公明党を使って日本を利用し、中国共産党の発展にさらに貢献させようとしているのである。日本は、それでいいのか?この現状を受け入れ続けるのか?だからと言って個人的には日本共産党を支持するのではないが、しかし、このカラクリだけは、日本の選挙民に直視してほしいと切望する。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://world.people.com.cn/n1/2017/0330/c1002-29179878.html(※3)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_1444629 <FA> 2021/10/28 10:40 GRICI 中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「飯圏」の規制に出た中国政府そこで、中国政府のネット管理に関する部局である「中央網絡安全和信息化委員会弁公室秘書局(中央ネット安全と情報化委員会秘書局)」は今年8月25日、<“飯圏”の乱れた現象の管理をさらに強化する通知に関して>(※2)という通達を出した。通達は10項目に分かれおり、それを全て一つずつ解説するのは大変なので、主だった項目を略記すると以下のようになる。・人気者のタレントのランキングを廃止する。・ファンを誘導してヒットさせるような機能を廃止し、スターを追い求める熱狂を抑制させ、専門性や質を高めるようにしなければならないように誘導する。・一人がいくつものアカウントを持つことを規制する(匿名の攻撃増加を防ぐため)。・攻撃し合うような各種の有害情報を迅速に発見し、違法・不正なアカウントを厳格に処理して、世論の過熱・拡散を防止すること。適切な処理をしないウェブサイトに対しては重い罰を与える。・「投げ銭」の仕組みを廃止すること。・「有料投票」機能を設定することを禁止する。ネットユーザーがタレントに投票するためにショッピングや会員登録などの物質的な手段を取るように誘導・奨励することを厳しく禁止する。・未成年者の「飯圏」参加を厳しく制限する。未成年者の通常の学習や休息を妨げるようなオンライン活動を行うこと、未成年者のためのさまざまなオンライン集会を開催することも厳しく禁止する。・「集金活動」に関するあらゆる違法な情報を迅速に見つけ出し、一掃すること。投票や集金を提供する海外のウェブサイトをも引き続き調査し、処分する。◆中国政府の規制を「文革の再来」、「思想統制」、「来年の党大会への警戒感」と分析する日本メディアの罪この規制に関して日本の大手メディアが、これは・習近平による思想統制の強化(独裁性が強まった)・文革への逆戻りだ・「飯圏」は組織化されているので、反共産党に傾くのを中国政府が恐れている。・習近平は、来年の党大会が順調に行くように警戒している(国家主席2期10年の任期撤廃をしたので、党大会で中共中央総書記に選出されなければならないから、その邪魔をされることを警戒している、という意味)などが背景にあるといった趣旨の説明を展開しているのを、偶然、夜9時のテレビニュースで見て非常に驚いた。パソコンに向かって原稿を書いていたのだが、テレビから「飯圏(ファン・チュエン」という音が聞こえてハッとしたのだ。日本のメディアの中国報道には間違が多いが、それにしても、これはいくら何でもあんまりではないかと唖然としてしまったのである。どんなことでも「文革の再来」と言えばすむような風潮が日本にあるが、文革とは何かを本当に知っているのだろうか?文革の目的は「政府の転覆」にある。国家主席の座を退かざるを得ないところに追いこまれた毛沢東が、国家主席になった劉少奇を倒そうと、1966年に「敵は中南海にあり!」と上海から叫び始まったものだ。国家主席であり、中共中央総書記および中央軍事委員会主席でもある絶対的権限を持った習近平が、自分の政権を倒してどうする?あり得ない発想だ。もし、「文革」にたとえるなら、むしろ「飯圏」の狂信的なファン(メンバー)こそが文革において何もかも破壊しつくした紅衛兵に相当する。「飯圏」のなりふり構わない群集心理と、ターゲットを定めたが最後、死に追いやるまで攻撃をやめない行為こそが文革に類似していると言っていいだろう。そこには思想性など微塵もない。ネットというプラットフォームが、文革時代より群集心理を激しく燃え上がらせる役割を果たし、闇ビジネスが若者の将来を食い物にし破壊させている。日本でも、ここまで激しくはないが、2012年に自民党の礒崎陽輔参院議員が、ツイッターで「 アイドルユニットAKB48の総選挙では、投票券付きのCDを1人で大量に買うファンがいて、イベントのあり方が論議になったこと」(※3)について、疑問を呈したことがある。「飯圏」規制は、まさに磯崎議員のこの疑問と同じで、結果日本では2019年に中止になったようだ(※4)。このプロセスが、中国では大規模に起きただけだ。なぜ日本で起きると「歪んだ社会を是正した」ものと位置付けられるのに、中国が日本のあとを追いながら規制したことは「思想弾圧」であり「文革への回帰」であり「来年の党大会への習近平の警戒感」に変質していくのか。日本の大手メディアが解説した理由とは程遠い現実が中国にあり、その真相こそが中国の弱点でもあるのに、これらを次々と決まり文句で位置付けて視聴者の耳目におもねる日本のジャーナリズムこそは、ビジネス化してしまって正常な役割を果たしていない。視聴者が喜ぶ方向に事実を捻じ曲げ、虚偽の事実を日本の視聴者に拡散させていくのは、日本を誤導し国益を損ねるのではないかと懸念し、本稿をまとめた。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.cac.gov.cn/2021-08/26/c_1631563902354584.htm(※3)https://www.j-cast.com/2012/06/11135248.html?p=all(※4)https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20190321-00119018 <FA> 2021/10/14 11:01 GRICI 中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。◆「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。日本の動漫(動画や漫画)が80年代に中国を席巻したように(参照:拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』、2008年)、中国はつぎつぎと日本のサブカルチャーを模倣していき、この「飯圏」も日本のAKB48などにヒントを得たという側面を持つ。しかし中国はどんなことでも「えげつないほどに」ビジネス化していく国。中国では特定の芸能人(タレント、アイドル)が所属する事務所(民営の企業)が十代前半の、まだ社会的判断力もつかないファンたちをネットで組織化して煽り、「荒稼ぎ」をするだけでなく、そのタレントの悪口を言ったり嫌ったりしている人が一人でもいると個人情報を暴いてネットで総攻撃を仕掛けて死に追いやるまで虐める行為が問題となっている。どういうことか、一つの例を挙げてみよう。たとえばXという人気の高いアイドルがいたとする。そうすると、Xが何月何日何時のどこ発のフライトに乗るという情報を持っている人がネットに現れ、その情報の売り買いをネットでする。同じフライトに乗ったり、あるいはチケットが買えない場合は、到着する飛行場で待ち受けるという「出待ち」をしたりする。次は盗撮行為。この写真をまたネットで販売する。もし憧れのタレントXの悪口を言う者がネットに現れたりすると、その人物のプライバシーを徹底的に暴いて、家族を含めたターゲットめがけて総攻撃を始める。ネットに実名や顔写真や住所はもとより、さまざまなプライバシーが全てさらされた本人は、いたたまれなくなって自殺する場合さえある。プライバシーなど、たとえば警察に小銭を渡せば、喜んで秘密情報を「売ってくれる」警官など、いくらでもいるので細部にわたって入手できる。これら一連の動きの背後にはタレントXが所属する事務所があって、別の事務所の人気タレントYと競わせ、ネットにおける「人気ランキング」で上位にランクされるように、金が動くという仕掛けがある。◆十代前半の熱狂的ファンをあやつる闇ビジネス今年8月12日付の中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、<大量の時間を費やし、金でランキングを応援するのは何のため?>(※2)というタイトルで以下のような報道をしている。今年6月に上海青年研究センターが7,000人以上の中学生を対象に行った調査によると、44.9%の中学生が、以下のような行為を事務所にあやつられて「飯圏」に参加していることが分かった。・好きなアイドルのランキングを上位に押し上げる・好きなアイドルに反対するコメントを叩き攻撃し、時には通報する・さまざまなネットプラットフォームで、自分の好きなアイドルを褒めるコメントを書き込み、褒めるコメントに「いいね」を押して、反対するコメントを通報する・ファンの資金を集めて、みんなで好きなアイドルのために消費する・Weiboなどで、自分の好きなアイドルの超話(スーパー話題=ツイッターのトピックみたいなもの)で発言し、コメントする・アイドルのライブを観にいく・投げ銭などを含めて好きなアイドルにプレゼントを贈る・QQなどのインスタントメッセンジャーソフトで、アイドルのファンチャットグループに参加する・好きなアイドルのグッズなどを転載したり、そのアイドルが出演するCMの対象商品を購入する・・・などなどこうしてアイドル事務所による「人気アイドル」の「虚像」が「金」と「事務所にあやつられた若者の行動」によって創り上げられ、事務所および関係する企業がぼろ儲けをしていくという仕組みが大規模に組織化されて闇でうごめいている。また、たとえば、タレントXとライバル関係にあるようなタレントYがいたとき、Xの「飯圏」たちはYに負けまいと、より多くの投げ銭をXに注いだり、Yの激しい悪口をネットに書いて拡散させたりということを互いの「飯圏」メンバーがやっている。◆青少年は何を求めて「飯圏」に参加するのか?あるユーチューバーが飯圏のメンバーである妹に取材して(※3)、ネットでタレントXのファンでない者を総攻撃して虐める行為に関して、「なぜそういうことをするのか」と尋ねたところ、妹は「だって気分がいいからさ」と、あっけらかんと答えている。中国のネットユーザー数は2021年6月時点で10億人以上に達し、ネット普及率は71.6%になっている。日本でもネットによる攻撃で命を絶った方もおられるが、中国での暴き方と攻撃のスケールは日本と比較にならないほど激しく、自殺が後を絶たない。「飯圏」のメンバーの多くが社会的判断力をまだ養われていない十代前半の青少年が多いため、自分でお金を稼ぐ能力はない。そこで両親や祖父母のクレジットカードを盗み、両親や祖父母が生涯かけて貯めてきたお金を、アイドル事務所に煽られるままに「飯圏」が応援するアイドルのために使い果たしてしまうというケースも散見される。何も持たない12歳とか、せいぜい15歳くらいの青少年が、「投げ銭」をアイドルに投げ続けることによって、そのアイドルを人気者にしていったのは自分であり、まるで「自分が育てたのだ」という自己満足を得ることによって自分の存在感を認識するという、ネット社会が生んだ「歪んだ衝動」であり「哀しい現象」の一つだ。青少年の心を破壊していくだけでなく、家の財産全てを悪徳業者のような闇ビジネスに吸い取られていく不健全な「中国の闇」がそこにはある。中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.xinhuanet.com/2021-08/12/c_1127755304.htm(※3)https://www.bilibili.com/video/av500170059 <FA> 2021/10/14 10:59 GRICI 岸田総裁誕生に対する中国の反応ー3Aを分析【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田総裁誕生に中国のメディアは大賑わい。中国共産党系の「環球網」は1日で10本近くも発信し、中央テレビ局CCTVも特集を組んだ。中には「岸田の背後には3Aがいる」という報道さえある。◆環球網1日10本ほど発信、CCTVは特集番組中国共産党機関紙「人民日報」傘下の環球時報電子版の「環境網」は、日本で岸田文雄氏の当選が決まるとすぐ、第一報を出した。それをじっくり読む間もなく、すぐさま第二報、第三報・・・と続いたので、先ずはその時間と見出しけでもご紹介したい。第一報:09-29 14:19 <「反中こそが最優先」と言った岸田文雄が日本の新首相に就任、専門家:政権発足後、必ずしも極右路線を取るとは限らない>(※2)第二報:09-29 15:23 <岸田文雄が自民党新総裁に選出され、第100代内閣総理大臣に就任する、中国の反応>(※3)第三報:09-29 15:39 <岸田文雄の当選挨拶にライバルの高市早苗が“サプライズ”登場、米メディア:安倍は岸田政権に影響を与えるだろう>(※4)第四報:09-29 15:40 <岸田文雄って誰? 日本の首相となった後、「安倍の呪い」から逃れることができるのか否かがメディアの焦点>(※5)第五報:09-29 17:13 <岸田文雄が自民党総裁に当選、韓国の青瓦台:日本新内閣と継続的に協力し、韓日関係を発展させたい>(※6)第六報:09-29 17:34 <速報!岸田文雄、自民党総裁に当選後発言:3名の候補者が能力を発揮できるよう考慮する>(※7)第七報:09-29 19:28 <岸田文雄、首相就任後に日本をさらなる対中強硬強化に変えていくことができるか?>(※8)第八報:09-30 03:43 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、日本メディア:対中政策とバランス外交が最大の課題>(※9)第九報:09-30 03:44 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、学者:“菅義偉過渡期政権の復刻版”である可能性が極めて大きい>(※10)このコラムを書いている間にも、時々刻々増えているだろうが、今般、環球網に関して取り上げるのは一応ここまでとしておきたい。中国の党および政府側メディアはほかにも新華社通信の電子版「新華網」が9月29日18:44:17に<岸田が新総裁に当選 執政は前途多難(課題多し)>(※11)という見出しで報道し、9月29日22:56:49には<日本自民党新総裁、団結して多くの課題に対応したいと述べた>(※12)と報道した。また中央テレビ局CCTV新聞(文字版)は速報として9月29日 17:47に新総裁当選後の記者会見を報道し(※13)、9月30日のお昼のニュースでは、12:27~12:37の間、10分間にわたる特番を組んだ。中国は、なぜ日本の一政党の総裁選にここまで注目するのか。それは取りも直さず、米中覇権競争の中にあって、日本がどのような対中政策に出るかは、中国の今後の国際社会におけるパワーバランスに大きな影響を与えるからだ。特にアメリカにより対中制裁が成されている今、日本との技術提携や日本との交易は中国に多大なメリットをもたらす。さらに日米豪印4ヵ国枠組みQUAD(クワッド)や米英豪軍事同盟AUKUS(オーカス)などにより、アメリカは対中包囲網を形成しようと躍起になっている。まして来年は日中国交正常化50周年記念に当たる。安倍元首相が国賓として中国に招かれた返礼として習近平国家主席を同じく国賓として日本に招く約束をしている。コロナの流行でペンディングになったままだが、それを来年には必ず果たしてもらわないと困ると習近平は思っているだろう。これら複雑な要因が絡み、日本の政権のゆくえが気になってならないものと判断される。◆中国の党および政府側メディアの「見出し」以外の補足説明これら多くの情報は「見出し」を見ただけで、おおよそ何が書いてあるか想像がつくとは思うが、内容的に何を語っているのかに関して「見出し」以外の補足説明を若干行いたい(全てを翻訳したら軽く2万字は超えるので概要を抽出する)。1.新内閣の外交政策は基本的には何も変わらない。日中関係がさらに悪化することはないだろう。2.岸田は選挙期間中、中国関連の問題に強硬な態度で臨んだ。 公式Twitterアカウントで中国を攻撃し、「中国が権威主義的になっていること、日本は民主主義や人権などの基本的な価値を大切にする国であること」を宣言し、「台湾海峡の安定、香港の民主化、ウイグル人の人権などの問題に断固として取り組んでいく」と述べた。 また、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、それに関する政策を出す」と主張した。3.しかし、これらは全て総裁選に勝つための方便であって、菅内閣でウイグル人権問題などに関するマグニツキー法は国会の議題にさえならなかった。菅内閣と基本的に変わらない岸田政権は、さらなる対中強硬策を取ることはないだろう。4.総裁選の議論では、安保やエネルギー問題、年金などの社会保障問題が大きく取り上げらたが、実は誰でも知っているのは、国民の最大の関心事は「コロナにより崩壊しかけている日本経済を、どのようにして立て直し、かつコロナのリバウンドが起きないような対策ができるか」ということに尽きる。5.日本の最大の貿易国は日本だ。だから岸田は如何にして国民から批判されないようにしながら中国との安定的な関係を築けるかを模索するだろう。日中関係では「首脳同士の会話が必要だ」と、河野以外にも、岸田も言っている。6.いま日本の新規コロナ感染者の数が減少傾向にあるので、コロナ対策が大きな争点になっていないが、もしコロナ防疫に成功せず、日本経済復興にも貢献できなかったとすれば自民党は来年夏の参議院選挙で国民の審判を受けるだろうから、対中強硬策などより、コロナ感染を抑えることと経済復興に成功することこそが、本当は最大の関心事のはずだ。そのためには中国は欠かせないパートナーとなる。7.対中強硬策など、実際には強化しないので、心配には及ばない。◆共産党系地方メディアが「岸田の後ろには3Aがいる」と指摘9月29日付の中国共産党上海市委員会直属の上海報行集団傘下にある新聞「新民晩報」は<岸田文雄が日本の政権を掌握する:安倍の“門下生”はどのようにして“天衣無縫”になれるのか?>(※14)という見出しで、岸田氏の背後には「3A(安倍、麻生、甘利)」がいると報道している。「天衣無縫」は9月18日の自民党総裁選公開討論会で、4候補が選挙戦に臨む自身の心情や信念を揮毫したときに岸田氏が「天衣無縫」と書いたことを指している。果たして「天衣無縫」のように、自然のまま飾ることなく、美しく戦ったのかということを言いたいために、見出しにこの言葉を使ったようだ。というのは、この報道では、岸田氏当選の「からくり」を以下のように説明している。——日本の安倍前首相、麻生太郎副首相兼財務大臣および甘利元自民党政調会長(現税制調査会会長)の3人の「A(ア)」という音から始まる体制、すなわち「3A」体制が、長年にわたって日本の政局を操ってきた。温和で人当たりは良いが決断力に欠ける岸田が日本の首相に就任すれば、「3A」政権の傀儡首相となり果てる可能性は非常に大きい。“安規岸随”という状況が出現する可能性は極めて大きいのである。ここにある“安規岸随”というのは「安倍が既定路線を敷いて、岸田がそれに従う」という意味で、中国語では「安」も「岸」も「アン」と発音するため語呂合わせのように「安規岸随(アン・グイ・アン・スイ)」という言葉を創ったようだ。9月30日夜、それは現実となって現れた。岸田新総裁は自民党内の役員人事に関して、9月30日、「麻生氏(81歳)を副総裁に」、「甘利氏(72歳)を幹事長に」起用する方針を固めた。岸田氏を決選投票で勝たせたのは安倍前首相で、第一回投票で高市氏に投票された票を全て岸田氏に回す約束が成されたからだ。したがって「3A」体制で動いたのはまちがいのないことだろう。“安規岸随”とは言い得て妙なりと言わざるを得ない。それにしても、あれだけ岸田総裁誕生に貢献した高市氏に、党の政調会長の職位しか与えないというのは納得がいかない。たとえば官房長官に採用して毎日内外記者の前面に出る存在であれば、「刷新された」という印象を国民に与えるかもしれないが、麻生氏などの何年間も見続けてきた「お馴染みの顔」が「自民党の顔」になり続けていくのだとすれば、中国の分析(菅内閣の復刻版)が当たっていることになり、なんとも不愉快でならない。「高市氏がダメなら、せめて岸田氏に」と期待した国民は、裏切られた気持ちになるのではないかと懸念する。派閥の力学は隠然と生きている。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/44xvg3fRpt2(※3)https://world.huanqiu.com/article/44xyCVUX6M9(※4)https://world.huanqiu.com/article/44xym6ScBCs(※5)https://world.huanqiu.com/article/44xyo5JNX1e(※6)https://world.huanqiu.com/article/44y29W3FHuR(※7)https://world.huanqiu.com/article/44y2uI7W4VB(※8)https://world.huanqiu.com/article/44y6y0HFTcI(※9)https://world.huanqiu.com/article/44yOfjfOExZ(※10)https://world.huanqiu.com/article/44yOi1F6yr6(※11)http://www.news.cn/world/2021-09/29/c_1127917971.htm(※12)http://www.news.cn/world/2021-09/29/c_1127918617.htm(※13)http://m.news.cctv.com/2021/09/29/ARTIWNBysGqcHIUIA4jCtzuS210929.shtml(※14)http://paper.xinmin.cn/html/xmwb/2021-09-30/10/118380.html <FA> 2021/10/01 17:07 GRICI AUKUSは対中戦略に有効か?——原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察「AUKUSは対中戦略に有効か?——原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆オーストラリアの最大貿易国は中国同じく中国の知識人に人気のあるウェブサイト「知乎」は<フランスを怒らせてでもAUKUSに参加して原潜を買いたいというオーストラリアの反中原動力はどこから来るのか?>(※2)という見出しで、オーストラリアの原潜製造の動機を分析している。この報道では、「オーストラリアはオセアニアで最も大きく、最も人口が多い国(2500万人)で、伝統的にオセアニア諸国のボス的存在でいなければ気が済まないという気持ちを持っており、おまけにファイブ・アイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の一員なので、イギリスがEUから離脱した今、そのプライドが刺激されてアングロサクソン系の連携を見せつけたいのだろう」と分析している。しかし、オーストラリアの最大貿易国は中国(中国26.4%、日本9.9%、アメリカ8.6%)であることとの整合性をどうつけるのか。経済繁栄なしでは国民は喜ばない。したがってオーストラリアは「バイデンがアフガニスタンからの米軍撤退の失態を覆い隠すために焦ってAUKUSを立ち上げたりGUADの対面会談を演出して見せたりする茶番劇に便乗しただけに過ぎない」と、突き放した見方をしている。決して日本が好んで報道するところの「中国激怒」とはなっておらず、むしろ中国のネット全体の反応としては・えっ?AUKUSって、対中軍事包囲網じゃなかったっけ?それが米・EUの亀裂に発展しているって、どういうこと?面白くない?・いや、これはアングロサクソン系と非アングロサクソン系の喧嘩だよ、やらせておけよ。2040年まで待とうぜ!といった茶化したニュアンスのものに満ちている。◆自民党総裁候補の見解は?明日は自民党総裁選の投票日だ。日本人の関心は今そこにしかなく、筆者も実はそのことばかりが気になっている。したがって自民党総裁4候補がこの原潜に関してどのような見解を持っているのか気になるところだ。産経新聞の<日本の原潜保有に河野氏、高市氏前向き>(※3)という報道によれば、河野氏は「能力的には、日本が原子力潜水艦を持つというのは非常に大事だ」と強調したそうだ。あれだけ「脱原発」を主張していた河野氏は、総裁選立候補に伴い、これまでの主張を封印しただけでなく、オーストラリアでも国民の反対により撤廃されるかもしれない原潜に賛同する節操のなさは、河野氏が如何に「情勢に合わせて適当に主張を曲げるか」の証しで、話が情緒的で大雑把だ。それに比べ高市氏は「日本が持っている通常型の潜水艦も優れもので近海で使うには十分だが、今後の国際環境や最悪のリスクなどを考えると、共同で長距離に対応できるものはあっていいのではないか」と語っているが、実に主張が首尾一貫しているだけでなく、知識が豊富で正確である。岸田氏は「原子力の技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と指摘。そのうえで「わが国の潜水艦体制の最大の弱点は人員の確保だ。処遇改善、人員確保を優先的に考えるべきだ」と語ったとのこと。これも原潜製造の際の最大の欠陥を実に正確に指摘している。実はオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないのは、この「人材」が欠如しているからで、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならないので、まさに岸田氏の回答通り「弱点は人員の確保」にある。この一点から見ても、次期総裁、そして次期首相は、岸田氏か高市氏しか考えられない。明日の投票結果が楽しみでならず、それもあり本稿執筆を急いだ次第だ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://zhuanlan.zhihu.com/p/412869473(※3)https://www.sankei.com/article/20210926-CV73HYDFDJIJBIC3DGFDSBS37U/ <FA> 2021/09/28 17:08 GRICI AUKUSは対中戦略に有効か?——原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解(1)【【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。バイデンが強引に成立させた米英豪軍事同盟AUKUSにより米・EU間に亀裂が走っているだけでなく、原潜が完成する2040年には中国のGDPはアメリカを抜いている。豪・EUの貿易協定も破談になりそうで中国を喜ばせている。日本の自民党総裁候補の原潜に関する見解も分析したい。◆オーストラリアで製造する原潜の完成時期は2040年頃——そのとき中国のGDPはアメリカを抜いている9月15日に予告なしに発表された米英豪3ヵ国から成る軍事同盟AUKUS(オーカス)により、オーストラリアがそれまでフランスと約束していた潜水艦製造計画が一方的に破棄され、米英に乗り換えたことによってフランスを激怒させた。そうでなくともバイデン大統領の拙速なアフガニスタンからの米軍撤退の仕方に失望していたEUがフランス側に立ったため、AUKUSの誕生によってEUとアメリカの間に亀裂が走り、中国を喜ばせていることは9月24日のコラム<中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点——日本は選択を誤るな>(※2)に書いた通りだ。中国が喜んでいるのはそれだけではない。実は米英の技術提供の下でオーストラリアで製造される潜水艦は原子力潜水艦で完成は2040年になってしまうからだ。日本ではあまり報道されていないが、9月16日のAP通信が“Australia: Strategic shifts led it to acquire nuclear subs”(オーストラリア:戦略的転換により原子力潜水艦を保有することになった)(※3)というタイトルで、オーストラリアのモリソン首相の言葉として伝えている。報道によればモリソン首相は「オーストラリアの都市アデレードに建設される予定の原子力潜水艦の1号機は、2040年までには建造されるだろうと期待している」と語ったという。フランスの防衛当局者も「オーストラリアには悪いニュースだ」として「完成は良くても2040年まで待たなければならない」とツイート(※4)している。2040年と言えば、中国のGDPはとっくにアメリカを抜いていると思われる時期ではないか。ひところ、中国のGDPは2035年にはアメリカを抜くとIMFにより推測されていたが、最近ではイギリスのシンクタンクが2028年までに抜くという予測データを示しているくらいだ。その時期が2028年だろうと2035年だろうと、少なくとも2040年には(もし中国が崩壊していなければ)アメリカを追い越しているのは確かだろう。ということは、それだけの経費を軍事産業にも注ぐことができているということになるので、軍事力においてもアメリカより勝っていることになる。そのような時期に完成される原子力潜水艦が、対中戦略に有効だと考えるのには、無理があるだろう。そうでなくとも20年も経つうちにはオーストラリアの首相は何代も代わっているだろうし、国内世論もどうなっているか分からない。何と言ってもオーストラリアは「反原発」の国なので、そもそも国民が受け入れるのか否かという側面もあり、2040年までの政権交代の中で廃案になる可能性さえある。モリソン首相は選挙公約の中に原発の導入を含めようとしたが、有権者の間では反対派が根強く、野党労働党の選挙活動に利用されやすいと判断して、公約案から外したという経緯があるくらいだ。中国のネットでは、この「完成は2040年!」というフレーズが驚きと喜びに満ちて飛び交い、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が別のタイトルで報道したのだが、他のウェブサイトがそれを転載する際に「2040年」という言葉を入れたタイトルにして「お祭り騒ぎ」のような賑わいだ。一つだけ取り上げると、たとえば「オーストラリアがいつ原子力潜水艦を手にすることが出来るかって、オーストラリア首相が:たぶん2040年までは待たないとだって」(※5)というトーンで、まるで「おふざけ」モードだ。◆バイデンがAUKUSお披露目で「モリソン首相の名前を思い出せず…」腹を抱えて笑いそうなのが、バイデン大統領が晴れのAUKUSお披露目式で、モリソン首相の名前を思い出すことが出来なかったというジョークのような場面だ。その動画は<名前を忘れただって?バイデン、モリソンに「ほら、あの、オーストラリアのアイツさ…」>(※6)で観ることができる。この動画は英文報道に数多くあり、たとえばThe Independentの“Joe Biden forgets Scott Morrison’s name during Aukus announcement(ジョー・バイデン、Aukus発表時にスコット・モリソンの名前を忘れる)” (※7) などが、その一つだ。日本では「中国が激怒した」と言わないと「ニュース」にならないとでも思っているのか、中国のネットが爆笑している現象を報じるメディアはない。しかし、これが中国の実態である。◆豪・EUの貿易協定は消えるだろうと喜ぶ中国さらに9月20日の環球時報の電子版「環球網」は<米豪、フランスを “刺す”、豪・EU自由貿易協定崩壊か?>(※8)というタイトルで、オーストラリアとEUの間で3年間も協議されてきた自由貿易協定は水泡に帰すだろうと分析している。「環球網」ではアメリカの報道を引用して、以下のように述べている。——EUとオーストラリアは2018年以降、貿易協定に関する交渉を11回にもわたって行っており、キャンベラ(オーストラリアの首都)は年内の合意に達するものと見込んでいた。欧州委員会は27の加盟国を代表して貿易交渉を行う独占的な権限を持っている。 しかし実際には、フランスが公然と反対していては、ブリュッセル(EUの拠点)は交渉を妥結させることができない。(略)フランスの支援がなければ、欧州委員会は、豪・EU貿易協定の中核となっている「豪農家の牛肉および乳製品への特恵市場アクセス」を提供することはできない。欧州議会・国際貿易委員会のランゲ委員長(ドイツ)は「EUとオーストラリアの貿易協定の交渉が問題になっているのは、フランスの反対だけでなく、ドイツの利益を損ない、反EUの産業政策のシグナルを送っているオーストラリアの最近の行動が原因だ」と述べている。この「ドイツの利益を損なっている」というのは具体的には何を指すかに関して、中国の知識層に信頼されているウェブサイト観察者網がアメリカのメディア報道を引用して<米メディア:豪EU自由貿易協定交渉、フランスの反対により「潜水艦問題」で破局か>(※9)の中で説明している。それによれば、上記のドイツ人であるランゲ委員長は「今回の合意(=AUKUSの米英豪合意)は、ドイツのティッセン・クルップ・マリン社(Thyssen Krupp Marine)の子会社で、潜水艦や重型魚雷用のソナーシステム(水中音波探知)開発を手がけるアトラス・エレクトロニック社(Atlas Elektronik)にも影響を与えるものだ」と指摘しているとのこと。その後バイデン大統領はフランスのマクロン大統領に電話会談を申し入れ、謝罪の意思を表したようだが、それで問題が解決するというわけではないことを、ランゲ委員長の発言は示唆している。EUに最も大きな力を持っていたドイツは今、メルケル首相の退任により次期政権の選挙が行われたばかりで、どの政党がどのような連立を組むか混戦模様にある。したがって豪・EU自由貿易協定のゆくえにも不確定要素があるが、豪・EU自由貿易協定の成立に暗雲が立ち込めたことは確かだろう。AUKUSは対中戦略に有効か?——原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解(2)【【中国問題グローバル研究所】に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210924-00259900(※3)https://apnews.com/article/joe-biden-business-france-europe-united-states-96f95120345a56d950961b41a74d9355(※4)https://mooresvilletribune.com/news/national/defense-official-defends-french-submarine-making-capability/article_55406be3-c422-51c8-8f2d-eb6a5eda761a.html(※5)https://mil.news.sina.com.cn/2021-09-18/doc-iktzqtyt6694985.shtml(※6)https://mil.news.sina.com.cn/dgby/2021-09-19/doc-iktzscyx5210492.shtml(※7)https://www.youtube.com/watch?v=pZd19Tz_Zr0(※8)https://world.huanqiu.com/article/44qal0q7pKj(※9)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1711426436084239641&wfr=spider&for=pc <FA> 2021/09/28 17:06 GRICI 自民党総裁選4候補の対中政策と中国の反応【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。自民党総裁選4候補の対中政策を、人物像を含めて考察し、中国が日本で公表された各候補の対中政策をどのように見ているかを分析する。◆河野太郎候補18日に日本記者クラブで行われた公開討論会で、日中関係に関する記者からの質問に対して河野氏は主として以下のように答えている。・日中関係は人的交流というのが基礎の1つだ。このコロナの中で全くそれが動いていないというのがやはり非常に大きいのではないかと思う。・首脳会談は定期的にやっていくべきで、政府間の会談というのも続けて意思疎通を図ることが大事だ。河野氏は「人的交流」を重視するために中国外交部の華春瑩報道官とのツーショットを何度も自撮り(※2)したのだろうか。「首脳会談は定期的にやっていくべき」と回答したのは記者の質問の中に「来年は日中国交正常化50周年となるが、それを機に中国との間で首脳外交を再開するのか」という質問に答えたもので、つまり河野氏が総理になったら来年の50周年記念に「習近平を国賓として日本に招聘する」ということを意味する。この一つを考えただけでも河野氏を総裁に選んだら、日本は「親中まっしぐら」に進むことを示している。筆者は『激突!遠藤vs.田原 日中と習近平国賓』で書いたように、今この状況下における習近平の国賓来日には絶対に反対だ。河野氏はまた9月17日の記者会見で、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有に関し「おそらく昭和の時代の概念だ」と述べた(産経新聞<河野氏「敵基地攻撃能力は昭和の概念」>(※3)や朝日新聞デジタル<河野氏「敵基地攻撃論は昭和の概念」 高市氏唱える「電磁波」に異論>(※4)など)。中国や北朝鮮を刺激したくないという意図が如実に表れている。また、5Gなどを活用したデジタル社会を提唱してハイテク化を推進するような主張をしている割には、最先端のハイテクが必要な敵基地攻撃能力を「昭和の時代」と言って、日米同盟重視で逃げたことこそ「昭和の時代」と言うべきではないだろうか。回答で「敵基地攻撃能力」を「敵基地なんとか能力」と言ったところを見ると、ひょっとしたら敵基地攻撃能力の何たるかを明確には認識していないのではないかとさえ疑ってしまう。一方、「親子は別人格」だと思っているが、しかし河野太郎氏の父親で「河野談話」で知られる河野洋平氏は9月15日、都内の青木幹雄・元参院議員会長の事務所を訪れ、息子・太郎氏の「支援に協力を求めた」ようだ。16日の読売新聞が<父親として居ても立ってもいられず…悲願成就へ河野洋平氏、かつての「参院のドン」訪問>(※5)と伝えている。これでは9月12日のコラム<河野太郎に好意的な中国——なぜなら「河野談話」否定せず>(※6)に書いた中国の観察が正しかったことになるではないか。河野氏はスピーチがうまいし、原稿に目を落とさないという点では高く評価する。しかし、本人が媚中的なだけでなく、韓国に融和的姿勢を見せる石破氏が応援していたりなどという点を見ると、河野氏が総理大臣になることを考えただけで日本の未来は絶望的なほど尊厳を失っていくだろうと暗澹たる気持ちになってしまう。◆岸田文雄候補同じ場面で比較するなら、18日に日本記者クラブで行われた公開討論会で、日中関係に関する記者からの質問に対して岸田氏は主として以下のように答えている。・首脳を始め要人の対話はすべての基本になる。ぜひこうした対話は続けていかなければならないと思っている。・来年の日中50周年に向けて、少しずつ人的交流を積み重ねながら、将来を探っていく。なかなか今すぐには未来の方向性は見通せませんが、こうした手がかりは大事にしていかなければならないと思っている。「人的交流」を重んじ、結局来年の日中50周年記念では、習近平の国賓来日を推進するかもしれないという意味では河野氏と変わらないが、しかし敵基地攻撃能力に関しては「抑止力として用意しておくことは考えられる」と肯定的な回答をしており、ウイグル族など少数民族の弾圧に関する人権問題を担当する首相補佐官を新設する方針も明らかにしている(読売新聞<岸田氏、少数民族弾圧など人権問題担当の首相補佐官新設へ…動画ライブ配信>)(※7)ことを考えると河野氏と同じなわけではない。総体的に見ると、岸田氏には、どの方向にでも行けるような曖昧模糊としたところがあり、「中庸」といった印象を与える。実は岸田氏が外務大臣だったころ、NHKの「日曜討論」に同時出演したことがある。日米安保に関するやや厳しい質問をしたかったので、事前に番組司会者に生放送で聞いていいか否かを尋ねたところ、「大いにぶつけて下さい。大歓迎です」と激励されたので質問をした。それまで岸田氏に関しては上品な面持ちなどから好感度が高く、ある意味ファンだったのだが、回答するときの岸田氏の態度は実に傲慢で「お前ごときが何を言うか」といった偉ぶった表情だったことから非常に失望した経験がある。しかし今般の立候補に当たっては、昨年の総裁選失敗で「岸田はもう終わった」と言われたことから反省し一念発起した旨のエピソードを聞いたり、また実際に謙虚になった真剣な表情を見るにつけ、支援したい気持ちが少しだけ湧いてきた。◆高市早苗候補高市氏に関してはわざわざここで書くまでもなく、実に毅然としていて主義主張が一貫しており、対中政策に関しても頼もしく、全くブレがない。国家観もしっかりしているのは高市氏だけだ。スピーチもうまく、全面的に支持したい。一つだけ難を言うなら、個人的感覚だが、推薦人の中に片山さつき氏がいることだ。片山氏は、その昔、ある政治家のパーティーで一緒になり、ご挨拶をしようと思って、相当に腰を低くして名刺を渡したのだが、彼女は「0.1秒」ほど私の顔を見たが、名刺を見ることはなく、サッと私の手から名刺を取るとそのまま隣にいた秘書に「捨てるように」渡し、私とは口を利くこともなければ顔を見ることもなく、他の大物政治家の所ににじり寄っていった。こんな人物が推薦人に入っていると、論功行賞で閣僚になったりする可能性があるので、それを思うと高市氏を応援したい気持ちが引いていく。議員の方々、日ごろの言動は重要であることを肝に銘じてほしい。「大河の一滴」とまでは言わないが、「一寸の虫にも五分の魂」がある。「お前ごときが」という傲慢さは、自らに跳ね返ってくる。◆野田聖子候補野田氏に関しては、やはり多くを語る必要はないだろう。対中政策に関しては非常に「平和的」で、昔の社会党を思い出す。中国からも「ハト派」と称されている。◆中国の4候補に対する反応さて、その中国だが、自民党総裁選に関する情報は、まるで自国の問題であるかのように、実ににぎにぎしくネットに溢れかえっている。官側の論評としては中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」が最も多く、新華網や中央テレビ局CCTVの情報も数多くみられる。いずれも「明確に親中である」として河野太郎を大きく扱っている。たとえば9月18日の「環球網」は、その日の午後に行われた日本記者クラブでの公開討論会を、記者の質問が終わるやいなや、17:11に<日本自民党総裁選挙公開討論会、日本メディア:河野太郎が中国とは定期的に首脳会談を行うべきと言った>(※8)というタイトルで報道している。相当準備していないと、これだけの早業はなかなか難しい。もちろん大きく扱っているのは、本コラム冒頭に書いた日中関係に関する発言で、「定期的に首脳会談を行うべき」と「政府間の会談を通して意思疎通を行うことが非常に重要だ」という言葉だ。この報道の11分後である17:22には、「環球網」は<アメリカが中国に対抗するために日本に中距離弾道ミサイルを配備するのを認めるのか?日本の自民党総裁候補4人は各自の意見を表明した>(※9)というタイトルで「河野氏と岸田氏が慎重な態度」、「高市氏が積極的に肯定」、「野田氏が否定」と報じ、野田氏を「ハト派」と持ち上げている。そもそも9月17日の「環球網」の<派閥の力が弱まり、対中姿勢が異なる、自民党総裁選の“争奪戦”が開幕した>(※10)にあるように、中国は「日本を中日間四つの政治原則という正常な軌道に戻し、両国の往来を維持する方向に持って行ける人物」がトップに立ってくれればいいと思っている。他国の選挙にあれこれ言うなと思うが、米中関係が悪い今、中国は日本との関係構築に必死だ。特に半導体関係などアメリカから制裁を受けているために、何としても日本の技術が欲しい。日本を味方に付けて、何とかアメリカが仕掛ける対中包囲網を崩したいと思っている。もっとも、9月10日のCCTVの<日本自民党総裁選挙競争激烈>(※11)では、「誰がなろうと短命で終わり、日本は回転ドア式首相の時代に戻るだろう」と達観している解説も見られる。◆日本は同じ過ちを繰り返すな日本は中国共産党の誕生から始まって、日中戦争の時も天安門事件の後も、ひたすら中国共産党が発展し、一党支配体制が維持される方向に貢献してきた。その詳細は『裏切りと陰謀の中国共産党100年秘史 習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』の第七章四で述べた。今回の選択も、必ずその方向に動いていく。米中の力が拮抗している今、日本は最後の決定的な貢献を中国共産党に対してするような道を選んではならない。中国は言論弾圧を強化していく国であることを、どうか忘れないでほしい。写真:代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)Googleの画像検索にて「華春瑩 河野太郎 自撮り ツーショット」と検索(※3)https://news.yahoo.co.jp/articles/c7ee06740d8d03eff5bbae1114e63ca233c97390(※4)https://news.yahoo.co.jp/articles/5f9ab927250e3ce05f9d93cb1cafe73a9addba06(※5)https://news.yahoo.co.jp/articles/9a20029214de9db0bfa565453ddb5601baf0a756(※6)https://grici.or.jp/2546(※7)https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210912-OYT1T50146/(※8)https://world.huanqiu.com/article/44ou6PKrdVj(※9)https://world.huanqiu.com/article/44pjwFPM0fs(※10)https://world.huanqiu.com/article/44oCTsWscYq(※11)https://tv.cctv.com/2021/09/10/VIDEb6t3in3DPtQOmeohp2aT210910.shtml <FA> 2021/09/21 15:50 GRICI 日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察「日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆岸田文雄候補に関して:強い男になって戻ってきたはずが、ビビったのか?9月7日、環球網は<“野心と欲望”を顔に書いてあるような岸田文雄は“中国との対決という(偽物の)手段を使って”首相の玉座を手にしようとしている>(※2)という、なんともややこしい見出しで表現している。ここにある“中国との対決という(偽物の)手段を使って”という言葉の元の中国語は「中国への当り屋」という表現なのだが、これは「車に自らぶつかっていって、轢かれたので賠償金を出せ」という「当り屋」のことである。つまり、「中国の悪口を言うふりをして選挙民の票を得ようとしている」という事が言いたいわけで、日本人は「彼を対中強硬派だと思うな」あるいは「彼の言葉に騙されるな」と思っているということを表現したいようだ。また、何としても自民党の総裁の座を射止めて、今度こそは首相の玉座を狙っているために、若者に対しておもねり、ユーチューブで意見交換をしたりして「バナナはおやつだと思うか?」という質問にも真面目に答えて人気を集めようとしていると、環球網は評している。今までは、どちらかと言うと優柔不断なところがあったが、今度はこれまでの姿勢を一新させて、パンチのきいた力強い印象を与えようとしていると9月7日の環球網は書いているが、ところがその一方で別の環球網の記者が<ビビったか?森友学園スキャンダルに関する岸田文雄の最新の発言は「調査してほしいとは言ってない」>(※5)と、皮肉たっぷりの言葉で、岸田氏が「テレビにおける前言を翻した」と報道しているのである。つまり、森友学園問題に関して「さらなる説明が必要」とテレビで発言したことが安倍元総理の逆鱗に触れて、安倍氏は岸田氏を応援せず高市氏を応援する側に回ったのではないかということにより、岸田氏が「ビビッて」しまって、前言を翻したので、結局岸田氏も安倍氏の顔色を窺(うかが)いながらでないと動けない人間だということが日本人に知れ渡り、人気を落としてしまったという話まで中国側は細かく観察しているということだ。◆河野太郎候補は根っからの「親中派」と中国では高く評価順番があるらしく、いま現在原稿を書いている段階では、まだ環球網における河野太郎氏評価は出てないが、中国のネット検索で「河野太郎」という文字を入力しただけで「親華派」(親中派)という言葉が自然にリストアップされてきたのには驚いた。例をいくつか挙げると、たとえば<人気が最も高い次期日本首相は“親華派”(親中派)、もし彼が首相になれば中日関係には転機が訪れるか?>(※4)とか、2019年の外務大臣時代のものだが<常に華春瑩とツーショットを撮る日本の外相、彼の親中ぶりは特徴がある>(※5)として、同じ「親中」でも父親の河野洋平とは少し違う点などを挙げたものなどもある。華春瑩は、言うまでもなく、中国外交部のベテラン女性報道官だ。また2019年のものだが、<親中代表“河野太郎”、知恵に富み知略に長けていて、又もや新しい工芸品の流行を生みだした>(※6)と、明確に河野太郎を「親中代表」として絶賛する情報などもある。これは河野氏が付けていた腕時計が「金時計」だという批判を日本で受けたときに、氏が「いや、これはASEANの50周年式典で記念品として配られた竹時計だ」と説明したことを指しており、河野人気の高い中国ではその説明さえ歓迎されて、一時期中国で「竹時計ブームが起きた」ことを指している。ことほど左様に、河野氏は華春瑩とのツーショット自撮りで「親中派代表」として高い人気を博しているという次第だ。以上、情報が多すぎて、ご紹介しきれないが、中国に「狂人」とまで言われて罵倒あるいは警戒される人物もいれば、「親中代表」として慕われている人物もいる。日本という国家にとって、誰が重要なのかは、日本国民の選択にかかっている。今回の選挙は自民党総裁選だが、次に来る衆院選において、自民公明がより多くの票を集めるのか、それとも野党連合がより多くの票を獲得するのかによって、自民党総裁が日本国首相になるか否かが決まってくる。その意味では、自民党総裁選における候補者を、中国がどう見ているかを知るのは有益なことだろう。写真:代表撮影/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/44fu4Jl9TZn(※3)https://world.huanqiu.com/article/44feTNgmz2S(※4)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1710242457906547969&wfr=spider&for=pc(※5)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1642463687244987038&wfr=spider&for=pc(※6)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1643092749324311885&wfr=spider&for=pc <FA> 2021/09/10 15:48 GRICI 日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。菅総理の次期自民党総裁候補断念の意思が発表されると、中国は一斉に反応し、特に中国共産党系の環球時報は矢継ぎ早に論評を出している。日中関係が関心の対象だが、中でも高市早苗氏に関する論評は度肝を抜く。◆環球時報の菅総理辞任に対する反応自民党の次期総裁立候補者に対する個別の論評を見る前に、まずは菅総理辞任に対する全体的な反応を見てみよう。菅総理は「自民党総裁候補に立候補しない」と表明しただけだが、それはすなわち次期総理大臣候補には立候補しないという意思表示をしたに等しいと中国は位置付けており、ならば次の総理大臣には誰がふさわしいのか、また誰になった場合は、日中関係がどうなるかなどに関心の対象が絞られている。そこでまずは、個別の候補者に対してではなく、菅総理辞任そのものに対する反応を見てみよう。9月3日、中国共産党機関紙「人民日報」の傘下にある環球時報電子版「環球網」は、<日本の誰が菅義偉に取って代わったとしても、中国は全て対応できる>(※2)(=誰がなろうと中国は平気さ)という見出しの社評を掲載した。それによれば、菅総理が総裁選を断念した理由として以下のように分析している。・自民党のトップ人事の調整に挫折したため撤退しかない。・最大の原因はコロナ対策の失敗。日本社会では、オリンピックの成功よりもコロナが猛威を振るう中、日本経済が低迷することに対する失望の方が大きい。・自民党の新総裁・新首相には、岸田文雄元外務大臣、高市早苗前総務大臣、河野太郎行政改革担当大臣、石破茂元幹事長が有力視されているが、誰がなろうとも、日本は新たな政治的混乱の時代に突入する。・日中関係が「軌道に乗った」と評価された2018年の最高潮から見ると(筆者注:2018年は安倍元総理が国賓として訪中し、一帯一路への第三国での協力を習近平に約束し、習近平の国賓としての来日を約束した年)、誰が自民党の新総裁になり首相になったとしても、日中関係の「大転換」は現実的ではない。・なぜなら日本では嫌中感情が高まり、国際的に中国を封じ込めようとするアメリカの戦略が日本に強い引力を持っているからだ。・しかし、2008年の北京オリンピック当時は日本のGDPはまだ中国を上回っていたが、2020年になると中国のGDPは日本の約3倍になり、中国の1年間の自動車販売台数は日本の5.5倍、高速鉄道の走行距離は日本の新幹線の13.7倍になっている。したがって日本は自ずと対中政策を慎重に考えざるを得ないところに追い込まれている。・それでも日本は、アメリカに原爆を落とされた恨みや米軍に占領された屈辱さえも乗り越えて今日に至っている。したがって、おそらく中国が唐の時代のように日本を全面的にリードするようにならない限り、日本は中国に「服従」しないし、「相互尊重」には至らないだろう。日本が中国に「もまれる」のは、まだまだ先のことだ。・しかし、日本はもはや中国に対して根本的な脅威を与えることはできなくなっていることを自覚すべきだ。日中の経済・貿易協力の額は相当なものであり、これは日中関係の最も実質的な要素と見るべきである。 日本の次期首相が誰であろうと、日本の中国に対する主張がより強くなるかどうかにかかわらず、日中両国の経済・貿易関係の互恵性と規模が影響を受けることはないだろう。・結論的に言って、次期首相が誰になろうと、中国は日本よりも強くなっているし、日中関係が悪化して被害を受けるのは間違いなく日本であることに変わりはない。引用が長くなったが、これが中国の、日本に対する根本姿勢なので、できるだけ省略せずにご紹介した。ここで注目すべきは、中国は自民党総裁が次期首相になると考えていることで、野党が来たるべき衆院選で政権を交代させるという可能性は想定していないようだ。◆高市早苗候補に対する酷評次に注目すべきは、高市早苗議員に対する酷評である。9月6日の時点では、まだ立候補の意向を表明しただけで、推薦人20人を集めて立候補を宣言したのは、この原稿を書いている9月8日だ。それでも6日の時点で環球網は日本人からすると度肝を抜かれるような表現を用いて高市議員を酷評している。文字化するのが憚れるが、これは環球網が書いていることなので、客観的に勇気を出して、そのまま以下に書くことをお許し願いたい。9月6日の環球網は<政治狂人!日本新首相”本命 “の一人、高市早苗は靖国神社「参拝」継続を示唆>(※3)という論評を発表した。この「狂人」という言葉が、「クレイジーなほどの政治好き」という意味合いであればいいと思って熟読してみたが、残念ながら本当に「この人は狂っている」というトーンで書かれているのに驚いた。それに伴って、中国のネットでは「高市」と「狂人」がペアで数多く溢れていることにも驚かされる。環球網の報道によれば、概ね以下のようなことを言っている。( )は筆者。・日本のメディアによると、彼女が成功すれば、日本初の女性総理大臣になる可能性がある。産経新聞によると、高市氏は金曜日(9月3日)、「日本人として、信教の自由に基づき、立場に関係なく参拝を続けることは絶対に外交問題ではない」と主張し、「首相になっても靖国神社への参拝を続けることを示唆した」という。・高市氏はこれまでにも中国脅威論を振りかざして、中国に対する中傷を何度も行ってきた。 今年8月(出版)の月刊誌「Hanada」(10月号)のインタビューで、高市氏は「中国の軍事費増加」を「日本の防衛リスク」と位置づけた。 また、先月、秋の中間国会で「中国政府による新疆、内蒙古、チベットでの人権侵害を非難する決議」(マグニツキー法制定)を行う意向を表明した(筆者注:環球網が月刊誌「Hanada」を熟読しているというのは、むしろ称賛に値する)。・高市氏は、自衛隊にさらに大きな権限を与えるための法改正を提唱し、日本の侵略の歴史に対する反省が欠如しており、靖国神社への参拝を繰り返し、「慰安婦」の強制徴用の事実を認めていない。この最後の項目を以て、高市氏を「狂人」と言っているとすれば、大変結構なことではないかという感想を持つ。日本の自民党次期総裁候補を中国はどう見ているか?(2)【中国問題グローバル研究所】に続く。写真:代表撮影/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://opinion.huanqiu.com/article/44cZAYj7ID1(※3)https://world.huanqiu.com/article/44ea4NmjE33 <FA> 2021/09/10 15:46 GRICI 独立の祝砲に沸くタリバンに中国はどう向き合うのか?【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。米軍が最終撤退した瞬間、タリバンは独立の雄たけびを上げて祝砲を鳴らし続けた。中国の第一報はこの場面と、国連安保理対タリバン決議に対する中露の棄権だった。中国は今後どのようにタリバンと向き合うのか?◆アフガンの夜空に轟く祝砲を報道した中国8月31日未明、米軍を載せた最後の一機がカブール空港を飛び立った瞬間、カブール空港はタリバンの管轄下に入り、タリバン軍は勝利の雄たけびを上げた。曳光弾(えいこうだん)(発光体を内蔵した特殊な弾丸)や機関銃などによる祝砲が夜空に向かって打ち上げられ、それは2時間ほど続いたという。「20年間に及ぶアメリカの侵略軍から解放され、独立した喜びに沸いています!」と中国の中央テレビ局CCTV(※2)は、興奮気味に伝えていた。中国がタリバンの勝利を我がことのような姿勢で報道するのは、言うまでもないが「侵略軍」と中国が位置付ける軍隊が米軍だからだ。中国ではこのたびのアフガン戦争(2001年~2021年)だけでなく、朝鮮戦争(1950年~1953年)から始まって、ベトナム戦争(1955年~1975年)、イラク戦争(2003年~2011年)など、「アメリカの行くところ戦争あり」という報道の仕方をしており「世界の平和を乱しているのは誰か?」ということを言いたいからで、「国際秩序を乱しているのは中国だ」というアメリカの批判に対抗したいものと見られる。同時にウイグル問題や香港問題などに関して「他国に干渉するな」ということを主張したいからでもあろう。これらに関しては毎日のように報道しているので、この日の報道は、その姿勢の一環だ。◆中国が国連安保理での対タリバン決議案を棄権した理由今般の米軍完全撤退に関して、タリバンの祝砲とともに中国の報道が重視したのは8月30日に国連安保理で開催された緊急会議に関してだった。会議ではタリバンに対し、アフガン人と全外国人の「安全で秩序あるアフガン出国」を認めることなどをタリバンに約束させようとする米英仏提案の決議案を採択した。15理事国の内13ヵ国が賛成したが、中国とロシアは棄権した。中国とロシアは、それぞれ棄権理由を説明したが、CCTVでは中国の国連大使である耿爽の主張を報道した。詳細は「中華人民共和国常駐国連代表団」のウェブサイト(※3)にある。その概略を以下に示す。1.中国とロシアの修正案を採用しなかった現在のアフガニスタンの状況が脆弱で、将来の方向性について多くの不確実性があることを考慮すると、安全保障理事会が取る行動は、紛争や混乱を悪化させることではなく、緩和させ、スムーズな移行を促進するのに役立つものでなければならない。先週、中国は決議案の内容に関して疑義を申し立て、ロシアとともに修正案を提案した。しかし残念なことに私たちの修正案は十分に受け入れられなかったので、中国は本決議案の投票を棄権したのである。2.貧困がテロの温床となるので、銀行を凍結させたり制裁をしたりするなアフガニスタンの混乱は、外国軍の性急で無秩序な撤退が招いたものだ。撤退は責任の終わりではない。関係各国はアフガニスタンの主権、独立、領土保全を尊重し、アフガニスタン国民が自らの未来と運命を決定する権利を尊重し、自国のモデルを他国に押し付ける誤ったアプローチを改め、あらゆる場面で圧力や制裁、さらには武力を行使する覇権主義的な行動を改めるべきだ。一方的な制裁を加えながら、アフガニスタン国民の福祉に配慮していると主張することはできず、アフガニスタンの経済・社会の発展を加速させることを支援すると主張しながら、海外のアフガニスタンの資産を差し押さえ、凍結することはできない。3.アフガニスタンに経済・民生などの人道支援を国際社会は、アフガニスタンが必要としている経済・生活・人道支援を行い、新政権機構が政府機関の正常な運営を維持し、社会の治安と安定を維持し、通貨切り下げや物価上昇を抑制し、平和的復興への道を一刻も早く歩み出すよう支援すべきである。4.ウイグル族とつながる東トルキスタン・イスラム運動をテロ対象から排除するな中国は、アフガニスタンにおけるテロ対策を常に重視しており、先日カブールで発生したテロ事件を強く非難している。今回の攻撃は、(アメリカが仕掛けた)アフガン戦争が、テロリストの勢力を排除するという目的を達成していないことを改めて証明している。アフガニスタンを、再びテロの発生地、テロリストの集積地にしてはならない。すべての国は、国際法と安保理決議に基づき、ISIS、アルカイダ、東トルキスタン・イスラム運動などの国際テロ勢力と断固として戦わねばならない。テロ対策の問題にダブルスタンダードや選択的アプローチがあってはならない。概ね以上だが、最後の「4」に関しては説明が必要かもしれない。アメリカのポンペオ前国務長官は2020年11月6日、中国が新疆ウイグル自治区での弾圧行為を正当化するためにたびたび非難してきた東トルキスタン・イスラム運動というテロ組織は存在しないとして、アメリカが定めるテロ組織認定リストから除外した。しかし、このテロ組織は存在すると中国は主張。「選択的アプローチ」というのはテロ組織の中から東トルキスタン・イスラム運動だけを排除することを指している。あらゆるテロ組織に対して活動を阻止させるためにアフガン戦争を起こしながら、実存するテロ組織を「存在しない」と主張するアメリカは、自分に都合のいいダブルスタンダードを持っており、アメリカの主張に矛盾があるというのが、中国の主張である。◆ロシアが国連安保理での対タリバン決議案を棄権した理由ちなみにロシアがなぜ棄権したかに関して、クレムリンの動きに精通するモスクワの友人から便りがあった。タス通信のRussia’s concerns ignored in UNSC resolution on Afghanistan — Russian UN envoy( アフガニスタンに関する国連安保理決議でロシアの懸念は無視された—ロシア国連特使)(※4)を見るようにとのこと。そこにはネベンツィア国連常駐代表の言葉として概ね以下のようなことが書いてある。一、ロシアが国連安保理のアフガニスタン決議案の投票で棄権しなければならなかったのは、草案の作成者が我々の原則的な懸念を無視したためだ。二、ロシアは国連安保理決議に、優秀な人材の大量避難や金融資産の凍結がアフガニスタンの情勢に与える悪影響についての条項を盛り込むよう提案したが、こうした取り組みは無視された。頭脳流出が起きている状態では、持続可能な開発の目標を達成することはできない。また金融資産凍結はアフガニスタンの経済復興に著しい悪影響をもたらし、テロ活動を刺激する。三、「イスラム国」や「東トルキスタン・イスラム運動」の活動を非難するよう提案したが無視され、決議は「イスラム国」のホラーサーン・グループ(ISIS-K、イスラム国の支部)に偏って非難している。四、アメリカとその同盟国が20年間にわたって行ってきたアフガニスタン駐留の失敗の責任を、タリバン運動やこの地域の国々に転嫁しようという試みは間違っている。なるほど、中国とほぼ同じ方向の主張をしていることが具体的にわかり、今後の中露の動き方を分析する上で非常に参考になった。ロシアには多くのイスラム教徒がいるだけでなく(人口の10%ほど)、たとえばチェチェン問題のような独立過激派問題を抱えており、彼らは国外のイスラム過激派と結びついているとして、プーチン大統領は習近平国家主席とともに上海協力機構の構成メンバーに呼び掛けて反テロ対策を強化しているところだ。上海協力機構とは、1996年からスタートし発展的に拡大している中露や中央アジア諸国を中心として「テロ、分離主義、過激主義、麻薬・・・」などに反対し共同で対処する経済文化組織だが、実際上はNATOを意識した軍事同盟であり反テロ組織でもある。事務局は北京にある。◆中露はどのようにタリバン政権と向き合うのか?何度も書いてきたが、米軍撤廃に伴いアメリカに協力したNATO諸国の大使館も大混乱の内に次々と引き揚げた中、中国大使館とロシア大使館はビクとも動かなかった。それはとりもなおさず、タリバンの背後に中露がいることを示している。両国はアメリカから常々制裁を受けてきているという意味での共通点があり、タリバンとともに「アメリカに虐められている」という共通認識を持っている。ということは、テロの問題さえなければ、タリバン政権が組閣を完成すれば、中露ともにすぐにでも国家承認を行いたいと思っているところだろうが、何せ米軍の撤退の仕方が不適切だったためにテロの再発を誘導していると、一層のことアメリカを非難する姿勢に拍車がかかっている。そう言いつつも、中露を中心にユーラシア大陸が一つになる方向で動き始めている。特に今年9月11日から25日にかけて、上海協力機構加盟国すべてが集まる合同対テロ軍事演習「Peace Mission-2021」が、ロシアで開催されることになっている(※5)。今年は上海協力機構20周年に当たることもあり、何としても米軍の撤退の仕方のまずさが招いた新たなテロ誘発を防ごうと中露が力を入れている。中国には「一帯一路」構想があり、ロシアは「ユーラシア経済同盟」を掲げている。テロさえ抑えつけることができれば、中露はアメリカのいなくなったユーラシア大陸を一気につなげていくつもりだろう。バイデン大統領はアフガニスタンに奪われる力を取り除いて、最大の競争相手である中国との覇権争いに全力を注入していきたいという趣旨のことを言っているが、事態は逆の方向に向かっているのではないかと危惧する。写真:代表撮影/Abaca/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://tv.cctv.com/2021/08/31/VIDEJNTbo2e0f8AlAjIfHFeG210831.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/ce/ceun/chn/hyyfy/t1903228.htm(※4)https://tass.com/world/1331945(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2021-08/27/content_5633731.htm <FA> 2021/09/02 16:44

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