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GRICI 政教一致を謳う統一教会は台湾で政党結成【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。統一教会は「政治と宗教は一つにならなければならない」と主張しているようだが、日本では自民党に食い込むことはあっても政党結成にまでは至っていない。しかし台湾では既に政党を結成。取材したところ、「日本には公明党があるではないか」と反論された。◆統一教会の台湾における布教活動香港メディアの一つである「超越新聞網」は7月13日、<安倍刺殺は、恐るべき韓国の邪教を表面化させた!>(※2)というタイトルで、日本だけでなく、韓国や台湾などにおける統一教会の布教活動に関して詳細に論じている。台湾における統一教会の布教に関しては、統一教会自身による報道があるが、ここでは「超越新聞網」の報道を参考にして紹介したい。その報道には、おおむね以下のように書いてある。——1967年、(アメリカの)CIA(中央情報局)の要請により、文鮮明は日本人女性の福田修子(韓国系の鄭仁淑)を台湾に派遣し、1971年に合法的な宗教団体として登録した。それを知った蒋介石は激怒して、すぐにそれを禁止した。蒋介石の厳しい弾圧の下、統一教会は地下活動を行い、李登輝政権が登場するまで、「家庭教会」の形で持ちこたえようとした。1993年に李登輝の招待により、文鮮明夫妻は台北を訪問して「立法院」でスピーチをしたため、(邪教の)信者は一気に5万人に膨れ上がった。2011年に「統一教台湾総会」に改名し、「純愛運動」とか「理想の家庭創建運動」など21の支部が台湾で組織された(引用ここまで)。引用文の中にある「CIA」との関係に関して、同じく「超越新聞網」は「文鮮明が1950年代初期に韓国で世界基督教統一神霊協会(略称:統一教)を設立して活動していた時期、CIAは文鮮明を情報提供者として扱い、文鮮明はCIAの保護下に置かれていた」と説明している。1955年7月13日にソウルの警察側が文鮮明を「集団姦淫罪」で逮捕したのだが、同年10月4日、CIAの干渉により文鮮明は無罪放免となったという。韓国はアメリカの準植民地であるため、CIAは統一教会を反共主義の最前線として位置づけ、1957年にも韓国当局が文鮮明の農村における布教を(淫乱な)邪教が農村の生産性に影響を与えるとして拘禁すると、再びCIAが干渉してきて釈放した。その恩義に報いるために、文鮮明は1958年に(アメリカのもう一つの準植民地である)日本を訪問させ、布教に努めさせたのだと「超越新聞網」は書いている。さらにアメリカが力を及ぼしている台湾にも統一教会を派遣させたのが、冒頭の引用文に書いた「1967年」のことだと、「超越新聞網」は位置付けている。◆統一教会自身による台湾における活動の紹介2011年9月14日、統一教会は、世界平和家庭連合のニュースとして<台湾の統一教会が優秀宗教団体特別賞を受賞>(※3)というタイトルで台湾での活動を報道している。それによれば、台湾には1万5000もの宗教団体があり、その中から毎年、台湾政府の内政部(総務省に相当)が「優秀宗教団体」を表彰しているが、中華民国の建国100周年記念行事として、過去に優秀宗教団体賞を受賞した261の団体の中から、過去15年間で12回以上、または10回連続で優秀賞を受賞した宗教団体4団体に特別賞が与えられたとのこと。台湾統一教会は2001年より10年連続で表彰された実績を認められ、その4団体の一つに選ばれ、特別賞を受賞したという。最近の活動は、統一教会自身が披露した動画(※4)などに、華々しく載っている。たとえば2020年8月10日には<父の日に模範的父親が表彰されただけでなく、結婚生活60年目の夫婦も結婚式の服装をして祝福された>(※5)という動画があり、「集団結婚」だけでなく、すでに結婚している老夫婦にも布教を浸透させているためか、やはり「結婚」を媒介として布教する様がうかがえる。◆台湾で結成された統一教会の政党「天宙和平統一家庭黨」このような社会環境の中、統一教会は2014年7月20日に、「天宙和平統一家庭党」なる政党を設立している。創黨(※6)理念には、「社会は宗教、政治、経済という3つの力で構成されている」とあり、「宗教と政治が調和」してこそ、国家は正しい統治ができという趣旨のことが書いてある。興味深いのは、「今日の政治は、政治的に支配権を得るために宗教家を利用する」が、宗教の神聖な意志を無視しているので、宗教家自身が政治に直接関わらなければならないという趣旨のことが書いてあることだ。つまり、日本の政権与党・自民党との関係を深めている背景には、やがて政権を取るというか、政治に入り込んでいこうとする意図が見て取れる。おまけに「天宙和平統一家庭黨」の「綱領」(※7)を見ると、以下のようなことが書いてある。・統一教会が世界を神に導かれた一つの国家(One Family under God)に持っていくこと。・まずは段階的に台湾を統一教会が創った天一国(天宇和平統一国)にする。・世界各国に天一国を建設し、アメリカが独立時に13州をまとめてアメリカ合衆国としたように、統一教会が指導する連邦国家を世界に創り上げること。(以上)日本は今、その過渡的段階として利用されているということだろうか。◆台湾の知人を取材:日本には創価学会があり公明党が政治参加しているではないか!宗教に強い関心を持っている台湾の友人に電話して取材した。「台湾には統一教会の政党があるようですね?」と軽く聞いたつもりだが、彼女は強い剣幕で反駁してきた。「そうですよ!日本にだって公明党があって、しかも政権与党にさえなってるじゃないですか?日本の憲法では政教分離の原則があっても創価学会が公明党を作ることを認め、おまけに政権与党の自民党と組んで連立与党を作ることさえ認めていますよね!その日本から、統一教会に関して何か言われる覚えはないわけですよ。統一教会はそのうち、世界中の国で政党を作って天一国により全人類を統治するつもりですから」と、まるで「そのつもりでいてください」と言わんばかりの、思いもかけない回答が戻ってきた。彼女は統一教会の信者だったのかもしれないので、あわててお礼を言って電話を切った。その後、台湾における創価学会がどうなっているのかを調べてみたところ、「台湾創価学会」(※8)というホームページがあり、基本紹介(※9)には、創価学会は1962年に台湾に上陸し、1990年に正式に宗教法人として台湾で認められたとある。そして、やはり統一教会同様、台湾の「行政院賞」や、22回連続で内政部が発布している「全國性社会団体公益貢献賞」など、数多くの賞を受賞していることが書いてある。2017年と2021年には「芸術教育貢献賞」を受賞し、台湾政府の文化部からは「文馨賞」も受賞しているようだ。ただ、創価学会は「親中」なので、台湾で政党を作るなら、国民党寄りになるのかもしれない。日本国憲法にある「政教分離の原則」に対する解釈を、改めて思い知らされた次第だ。写真: つのだよしお/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://beyondnews852.com/20220713/110451/(※3)https://www.ucjp.org/archives/9742(※4)https://ffwpu.org.tw/report-media(※5)https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=Kyf2dKZnllI(※6)https://taiwanfamilyparty.wordpress.com/about/(※7)http://upufamilyparty.blogspot.com/(※8)https://www.twsgi.org.tw/(※9)https://www.twsgi.org.tw/intro.php?level1_id=2&level2_id=3 <FA> 2022/07/29 10:34 GRICI 中国大陸ミサイル砲撃想定避難訓練中の台湾は、国共内戦時の長春の惨劇「チャーズ」に屈折した思い【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国大陸ミサイル砲撃を想定した避難訓練をしている台湾の民進党政権下で、日本敗戦後の国共内戦で起きた長春の惨劇「チャーズ」を位置付けるのは難しい。正史を伝えられるのは日本だけかもしれない。◆中国軍の侵攻想定し、台湾で大規模軍事演習7月25日、台湾の中央通信社のウェブサイトの一つ「フォーカス台湾」は、<台湾、大規模実動演習始まる 中国軍の侵攻想定>(※2)というタイトルで台湾における軍事演習の模様を報道した。それによれば、中国軍の台湾侵攻を想定した定例演習「漢光38号」の実動演習が7月25日に始まったそうだ。漢光演習は(中華民国の)国軍が行う1年で最大規模の演習で、年々訓練の強度を高め、練度の向上を図っているとのこと。29日まで行われる。事実、24日にも中国の軍用機4機が台湾南西の防空識別圏に進入しており、また25日には中国軍の無人機が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に出た後、台湾方面へ飛び去ったと日本の防衛省が発表している。ただ領空侵犯はなく、無人機は哨戒機などを伴わず単独で飛行した。7月25日の報道<中国軍無人機、沖縄本島・宮古島間を通過 台湾方面へ>(※3)によれば、日本の航空自衛隊は25日午前から午後にかけて、中国製の偵察・攻撃型無人機「TB001」1機が東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に抜けたのを確認しているという。その後、無人機は太平洋上で旋回した後、台湾とフィリピンの間のバシー海峡方面へ飛行したとのことだ。◆中国大陸からのミサイル攻撃を想定し、台湾で避難訓練7月25日に台湾では中国大陸からのミサイル攻撃を想定した避難訓練を一般市民に行わせていると、台湾の国防関係研究所で研究に従事している筑波大学時代の教え子から連絡があった。4月20日のコラム<台湾の世論調査「アメリカは台湾を中国大陸の武力攻撃から守ってくれるか」——ウクライナ戦争による影響>(※4)で述べたように、台湾ではウクライナ戦争が始まって以来、台湾も中国大陸からいつなんどき急襲を受けるか分からないという不安が高まり、急襲された時にアメリカは助けてくれないだろうという絶望的な気持ちに陥っているという。ウクライナに対するのと同じように、武器だけ売りつけて軍隊は出さないという形を取るだろうから台湾人は自ら戦うしかないが、どんなに軍事訓練をしたところで、台湾の国軍だけで勝てるはずはないので、果たして民進党でいいのか否かという声も出てきているとのこと。民進党は独立傾向が強いので大陸から攻撃される可能性が高いが、国民党は親中なので、国民党が政権を取れば中国は台湾を攻撃することはないだろうという考え方が、少しずつ広がっているというのである。一般庶民は平和で豊かに暮らせる方がいいので、ウクライナを見ていると、バイデン大統領が副大統領だった時に、「NATOに対して中立」という立場を保ってきたウクライナのヤヌーコヴィチ政権を打倒するクーデターを起こさせて、バイデンの言う通りに動くポロシェンコ政権を誕生させたのと同じことを、台湾で扇動してほしくないというのを、台湾の知識人は学ぼうとし始めていると教え子は言った。そのために日本語が分かる彼は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を購入して読み、p.150からp.155にある年表を中国語訳して知人友人に配っているという。筆者の「チャーズ」体験を知っている教え子は、国共内戦における長春の惨劇に関しては、もっと複雑な思いが台湾にはあると教えてくれた。◆国共内戦における長春の惨劇「チャーズ」日本敗戦後の中国においては、「中華民国」の国民党軍と、「中華民国」を倒そうとする共産党軍が天下分け目の戦いである「国共内戦」を展開していた。筆者がいた中国吉林省長春市では1947年晩秋から1948年10月にかけて、共産党軍による食糧封鎖があり、数十万の一般市民が餓死している。このときにくり広げられた、文字にもしにくいほどの惨劇に関しては、拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※5)で詳述し、その概要は6月27日のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※6)でご紹介した。当時、長春市内にいたのは国民党軍で、長春市を丸ごと鉄条網で包囲して食糧封鎖をしたのは共産党軍だ。その国民党軍は国共内戦で敗退し、台湾に逃げたが、いまその台湾では、国民党は野党であって、政権を握っている与党ではない。政権与党は民進党だ。◆台湾の民進党から見ると国民党は「にっくき政敵」民進党から見ると、国民党は「政敵」なので、国民党が国共内戦に敗けたことも、長春の食糧封鎖で苦しんだことも、「政敵」を責める材料にはなっても、現在の中国共産党を批判する材料にはならない。かと言って国民党を批判すれば、共産党軍が正しかったことになり、それは先述のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※7)に書いた習近平政権の主張と同じになる。民進党は反中であり反共だ。「台湾独立」が党の信条である。ただ戦略上、いま独立を前面に出してはいないが、本当の敵は中国共産党だ。しかし台湾内での「政敵」は国民党なのだから、「国民党が正しくなかった」と、国民党を批判することには賛成なのである。◆現在は「親中」の国民党教え子は、5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※8)に書いた、台湾のネット番組【頭條開講】が報道した【台湾海峡は煉獄になったのか? ホワイトハウスはどうしても北京を怒らせたい(北京を怒らせるためには手段を択ばない)! 「台湾の独立を支持するか否か」がカードになってしまった! 】(※9)を見たという。その番組に出ていた元ニュージーランドの「中華民国」代表(大使級)の介文汲の「アメリカは中国大陸が台湾を攻撃するよう中国大陸を誘い込むためのシナリオを描いている」というコメントに賛成だとのこと。だから、「台湾人自身が自分たちの未来を決定する道を選ばなければならない」のだが、その結果選挙で国民党を選ぶのかと言えば、そこも微妙だと嘆く。中国共産党と戦った国民党が今は最も親中で、少なくとも「台湾独立」を唱えることはない。「一つの中国」を信条としていて、その「一つの中国」は「中華民国を頭に描いてもいい」という「九二コンセンサス」に賛同しているからだ。しかし「九二コンセンサス」は過渡的な妥協案で、いま習近平は台湾にも「一国二制度」を適用しようとしている。その標本となるはずだった香港統治が国安法で落ち着いたので、たしかに国民党政権になれば中国が台湾を武力攻撃することだけはしないが、二つ目の香港になるのは目に見えているので悩ましいと教え子は言う。◆長春の惨劇「チャーズ」を伝えていけるのは日本のみ教え子は筆者の本の愛読者の一人でもあるので、早速『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※10)を台湾からネットで購入して読んでくれたという。そして嘆いた。——残念ながら長春での餓死者に対して、国民党軍が長春市民を守るという正しいことをしたのかというと、そうではない。もちろん共産党軍が食糧封鎖をして一般市民を餓死させたのは確実ですが、国民党がそれに対して必死で戦ったかというと、そうではないので、国民党にとっても、あの「チャーズ」は名誉なことではないんです。特に蒋介石直系の新七軍が雲南から来た第六十軍を虐めるというような内部分裂をしていたので、六十軍が反旗を翻して共産党軍に寝返ってしまった。ですから、台湾では、民進党にとっても国民党にとっても「チャーズ」は避けたい話題になっています。それはある意味、習近平の思惑と一致している。まるで共謀しているようなものです。ですから、先生は唯一の生存者で一番信頼できる証言者なので、如何に凄惨なことが起きたかを人類に伝えていけるのは先生しかなく、むしろ日本しかないということになります。日本が、中国共産党が如何に非人道的なことをしたかを世界に知らしめていく唯一の国になるのかもしれません。日本の民主主義に感謝し、期待しています。中国大陸からのミサイル攻撃に対する避難訓練の話から、思いもかけない日本の役割に関する言葉をもらった。今年もまた「終戦の日」(日本敗戦の日)が、哀しくやってくる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/bc7648638e9d43c755f280a67ecb330ccaefffe4(※3)https://www.sankei.com/article/20220725-CQETQEYFZBPB7OZABZHT3ZQ26I/(※4)https://grici.or.jp/3063(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※6)https://grici.or.jp/3285(※7)https://grici.or.jp/3285(※8)https://grici.or.jp/3125(※9)https://www.youtube.com/watch?v=aNLh1YNu0ko(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <FA> 2022/07/26 16:00 GRICI 安倍元首相銃撃事件、中国で「SPは何してるのか?」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。安倍元首相が撃たれて亡くなられた。怒りが込み上げ、無念でならない。全世界が悲しんでいるが、中国のネットは特に「SPは何してるのか?」というコメントに満ち満ちている。平和ボケ日本が安倍氏の命を奪った。◆あってはならない蛮行あってはならない蛮行だ。全世界が悲しんでいる。ワシントンやニューヨークあるいはモスクワや北京にいる友人からも哀悼の意を表するメールが数多く来ている。あの中国の国営放送や外交部でさえ、安倍元首相は日中友好に貢献したと讃え、最初のころは「回復を祈る」と発信していたが、訃報に変わってからも、哀悼の意を表し、礼節を重んじている。中国のネットは安倍元首相が銃撃された瞬間から速報が飛び交い、安倍一色に満ちていた。特に「SPは何をしているのか」ということに話題が集中している。なぜなら中国では「保安」に関しては非常に厳しく、カメラは銃になり得るという観点も強いからだ。犯人がカメラに似ているような銃を持っており、それをSPが何もしないで放置するのは何ごとか。筆者自身もそう思っていたので、中国のネットに溢れるSPに対する膨大なコメントに注意が行った。◆中国のネットに溢れるSPへの怒り数秒に一つくらいの割合で溢れ出てくるので、それらのコメントを全てご紹介するのはもちろんできないが、まず、中国の若者たちが怒っている動画の一つ(※2)をご覧いただきたい。これが拡散してさまざまなURLに変換されているが、どうやら源の情報はこれらしい。実はこの動画は犯行後の写真だと、のちに分かったが、中国ではこの動画に基づいて多くのコメントが寄せられている。これは中国の事情なので、そのままご紹介する。ほんのいくつかしか列挙できないが、ご参考までにネット民たちの書き込みを列挙してみよう。なお、中国語では習近平にも敬称を付けずに呼び捨てなので、「安倍」と書いてあっても、軽蔑して書いているわけではない。・安倍のSPって、何やってんの?わざと手を抜いているんじゃないよね?・やっぱり、金の力がものを言うんじゃない?トランプが無事なのは、彼自身の金で雇ったSPだからだよ。金払いが良くないとね。・政治的な立場は別として、日本人のSPはクソみたい。一発目は致命傷にならず、実際に安倍に重傷を与えたのは二発目だよ!あり得る?今日の動画は世界中のSPにとって、いい勉強になるんじゃない?・今日、金曜日、安倍のSPはサボってるけど、みんなも週末だと思ってサボったりしてないよね?・検索してたら、安倍が暗殺された別角度の動画を見つけた。この「勇士」は、安倍に近づき過ぎてるんじゃない?5メートルほどの距離まで近づいてるじゃない?しかも堂々と銃を持ってるというのに、SPは何もしてない。一発目を発砲したあとだって、SPは何も反応してないよ。二発目が命中してから、SPはやっと反応した。・だからSPなんてあってもしょうがないでしょ?まったく役に立たないんだから。・よくわかんないんだけど、日本の保安って、どうなってるの?・そもそも銃など、持ってはいけないんじゃないの?緩い日本!ただし、実際に被弾した時の動画はこちら(※3)のようだ。それにしても、犯人が第一発目を発砲した後にSPは瞬発的には動かず、安倍元首相が被弾し倒れた後になって初めてSPが動いたことが、見て取れる。おまけに安倍元首相の背後は警備ゼロで、SPは本来なら要人の周り360度方向を守備していなければならないはず。SPの抜かりであることに変わりはない。その意味で、珍しく中国のネット民たちと意見が合う。中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版の「環球時報」電子版も7月8日15:29の時点で、<(中国の)外交部は安倍が銃撃を受けたことにショックを受け、安倍元首相が少しでも早く危険から脱することを望んでいる>(※4)というタイトルの報道をしていた。◆平和ボケ日本が安倍元首相の命を奪った中国には激しい監視社会があり、目つきが何かおかしいというだけで、挙動不審として目を突けられ、街中に張り巡らされている監視カメラが注意信号を発する。アメリカは銃社会。ポケットからハンカチを取り出すだけで、銃を抜き取るのかと警戒し発砲することさえある。銃乱射事件は日常茶飯事化している。だからわずかな不審な動きに対して、間髪入れずに反応する。もし、これがアメリカなら、犯人が第一発目を発射した瞬間に、SPはパッと要人(このたびなら安倍元総理)を地面に倒して自分がその上を覆い、犯人から守るだろうし、一方では他のSPは犯人に飛び掛かって押さえつけ、その場で逮捕しているはずだ。だというのに、「犯人は背後から襲った」と報道しながら、安倍元総理の傷は「背中」にはなく、「首の喉元の方にしかない」と医者が何度も証言している。ということは、背後で第一発目が発砲された後、安倍元総理は振り返って、しばらくそのまま立っていたということになる。だからこそ、二発目が真正面の喉元にしか当たってないのだ。「背後」には一発も当たってない。そのことが、どれだけ「平和ボケ日本」を象徴しているか考えるべきだ。最初の発砲音があったというのに、SPは安倍元総理に突進して地面に伏せさせることもしていなければ、瞬発的に犯人に突進して犯人を押さえつけることもなかった。それは10分の1秒以下の勝負だったはずだ。警備の緩さが全体にある。安倍元総理の命を奪ったのは、この「平和ボケ日本」だ!安倍元総理は、そのことに警告を与え、憲法改正を訴え、防衛費の増額を主張してきた。その必要性を、自分の命を犠牲にして証明したのに等しい。◆心からご冥福を祈る誰もが銃撃を知ってからは、「どうか助かりますように!」と祈ったはずだ。筆者も必死でお祈りしていた。その分だけ、訃報に接したときには、受け止めきれないくらいの、言い知れぬ哀しみを覚えた。実は筆者は来月か、それ以降に月刊誌Hanadaで安倍元首相と対談することになっていた。今月は選挙があるので、来月以降で調整していたところだった。そのため7月6日のコラム<「サハリン2」、プーチン大統領令と習近平の狙い>(※5)の最後の部分でわざわざ安倍元首相のことに触れたのである。安倍元総理をモスクワに派遣してプーチン大統領を説得してもらうべきだと書いたのだ。こういったことを足場にして議論を展開しようと準備していた。事実、プーチンは安倍元総理の訃報を受け、<真の愛国者だった>(※6)と哀悼の意を表している。安倍元総理とプーチン大統領の仲の良さをプラスに持っていき、一刻も早い停戦を促すべきだという話を、月刊誌Hanadaで安倍元総理にしようと思っていた。だというのに、このようなことになり、いきなり梯子を外されてしまったほど、ショックを受けている。これまで外部に漏らしたことはないが、安倍元首相とは、個人的に何度かお会いしている。そういった場面における「安倍さん」の笑顔は、たとえようもないほど優しく温かかった。習近平の国賓招聘に関しては今でも意見を異にするが、しかし個人的にはこの上なく「安倍さん」を尊敬し、親しい気持ちを持っている。心からのご冥福を祈りたい。お詫び:最初にこのコラムを公開した時は、その時点における中国の情報に基づいて書いていたが、のちに日本の情報を精査することにより、中国で初期段階で拡散していた動画は犯行後のものであることがわかった。中国でも新しい情報に基づいて新たにコメントが出ているが、趣旨は同じなので、本コラムはそれに基づいて、リンク先の動画を新たに加えて修正した。そのことをお詫びしたい。写真: つのだよしお/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://twitter.com/yLwSWOYW7ajn3ci/status/1545312353369354240(※3)https://twitter.com/PxstnFZwKXSECDS/status/1545372333225177088(※4)https://world.huanqiu.com/article/48jzsLMv0Xi(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220706-00304360(※6)https://www.sankei.com/article/20220708-JHNPBENWQNIOXEJEWFDYBGMZ4I/ <FA> 2022/07/11 10:27 GRICI 許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。1947‐48年、長春市は中国共産党軍に食糧包囲され数十万の一般市民が餓死した。二重の包囲網「チャーズ」の柵門を開けなかったのは中共軍だ。それを国民党のせいにした本が中国で出版された。生き証人として許せない。◆食糧封鎖は2回目の日本人帰国直後から開始された1946夏、終戦後に中国に遺された日本人約百万人の日本帰国があった。これを「百万人遣送」と称する。このとき中国吉林省長春市にいた私の一家は、父が技術者であったために帰国を許されなかった。終戦後長春市はソ連軍の軍政下で現地即製の国民党軍が管轄していたが、1946年4月に共産党軍が攻撃してきて市街戦で共産党軍が勝ち、長春市は一時期共産党の施政下にあった。しかし毛沢東の命令により共産党軍が5月に北に消えると、入れ替わりに国民党の正規軍が入場してきて、第一回の日本人遣送が始まったわけだ。1947年になると、国民党政府に最低限必要な日本人技術者を残して、他の日本人は強制的に日本に帰国させられた。最後の帰国日本人が長春からいなくなった1947年晩秋、長春の街から一斉に電気が消えガスが止まり、水道の水も出なくなった。共産党軍による食糧封鎖が始まったのだ。長春は都会化された街なので畑がない。食糧はみな近郊から仕入れていた。餓死者が出るのに時間はかからなかった。早い冬が訪れると凍死する人も増えた。当時は零下36度まで下がる長春で、暖房なしで生きていくことは不可能だった。行き倒れの餓死者や父母を失って街路に這い出した幼児を犬が食べ、その犬を人間が殺して食べる。しまいには、中国人だけが住んでいた(満州国新京市時代に)「シナ街」と呼ばれていた区域では「人肉市場」が立ったという噂がされるようになった。◆餓死体が敷き詰められた「チャーズ」私の家からも何人も餓死者が出て、このまま長春に残れば全員が餓死すると判断された1948年9月20日、私たち一家は長春を脱出することになった。その前日、一番下の弟が餓死した。20日朝早く包囲網にある唯一の出口があるというチャーズに向かった。全員栄養失調で、皮膚が老人のように皺だらけになり、立ち上がるだけでも苦しかったが、夕方にはチャーズの門に着いた。この門をくぐれば、その外には解放区(中国人民解放軍が管轄している区域)があり、解放区には食糧があると思ったところ、包囲網は二重になっており、国民党軍が管轄する長春市を鉄条網で包囲しているだけでなく、その外側にも鉄条網があり、外側の鉄条網が解放区と接しているのだった。「チャーズ」はこの二重の鉄条網の間にある真空地帯だ。国民党側のチャーズの門をくぐって国民党軍に指示され、しばらく歩くと、餓死体が地面に転がっていた。餓死体はお腹の部分だけが膨らんで緑色に腐乱し、中には腐乱した場所が割れて、中から腸が流れ出しているのもある。銀バエが。辺りが見えないほどにたかり、私たち難民が通るとパーッと舞い上がった。共産党軍側のチャーズの鉄条網の柵近くに辿り着いた時は、暗くなっていた。ここに座れと指図したのは、日本語ができる朝鮮人の共産党軍兵士だ。私たちは一般に共産党軍を「八路(はちろ)軍」と呼んでいたので、その言い方をすれば「朝鮮人八路」だ。脱出の時に持って出たわずかな布団を敷いて地面で寝た。生まれて初めての野宿だった。◆共産党軍側の門は閉ざされたまま翌朝目を覚まして驚いた。私たちは餓死体の上で野宿させられたのである。見れば解放区側(共産党軍側)にある鉄条網で囲まれた包囲網には大きな柵門があり、八路軍の歩哨が立っているが、その門は閉ざされたままだ。一縷(いちる)の望みを抱いて国民党側の門をくぐった難民はみな、この中間地帯に閉じ込められたてしまったのである。ナチスのガス室送りと同じことだ。水は一つの井戸があるだけで、その井戸には難民が群がり、井戸の中には死体が浮かんでいる。食べる物などあろうはずもなく、新しい難民がチャーズの中に入ってくると、横になって体力の消耗を防いでいた難民が一斉に「ウオー!」っと唸り声を上げながら立ち上がり、新入りの難民めがけて襲い掛かる。このとき日本人はもうほとんど長春にはいなかったので、チャーズの中にいるのは中国人の一般庶民だ。死んだばかりの餓死体をズルズルと引き寄せて輪を作り、背中で中が見えないようにして、いくつもの煙が輪の中心から立ち昇った。私もいつかは食べられてしまう。その恐怖におののきながら、地面に溜まってる水をすくい上げ、父が持参していたマッチで火を起こして「水」を飲んだ。用を足す場所もない。死体の少なそうな場所を見つけて用を足すと、小水で流された土の下から、餓死体の顔が浮かび上がった。見開いた目に土がぎっしり詰まっている。この罪悪感と衝撃から、私は正常な精神を失いかけていた。崩れかけた低い石垣に手をかけ体を支えながら立ち上がると、その下では、鉄砲に撃たれて流れている母親の血を母乳と勘違いしてペロペロなめている乳児がいた。恐怖に引きつりながら父にしがみついて餓死体の上に敷かれた布団で眠りに入ろうとすると、地を這うような呻き声で目が覚めた。父が救われる御霊(みたま)の声だと言って立ち上がった時、父のもとを離れたら死ぬという思いから父のあとをついていった。すると、そこには死体の山があったのである。父がお祈りの言葉を捧げると、死んでいるはずの死体の手先が動いた。その瞬間、私をこの世につないでいた最後の糸が切れ、私は廃人のようになっていた。◆遺族は技術者ではないとして出門を許さなかった八路軍4日目の朝、私たちはようやくチャーズの門を出ることが許された。父が麻薬中毒患者を治療する薬を発明した特許証を持っていたからだ。解放区は技術者を必要としていた。このとき父は父の工場で働いていた人や家族、あるいは終戦後父を頼りにして帰国せず、父が面倒を見ていてあげた家族も同行していたが、その中にご主人は餓死なさって、奥さんと子供だけが残っていた家族もいた。すると、いざ出門となって時に、八路軍の歩哨の上司がやってきて、「遺族は技術者ではない!」として、この親子だけを切り離して出門を許可してくれたなかったのだ。父は八路軍の前に土下座して、「この方たちは私の家族も同然です。どうか、一緒に出させてください・・・!」と懇願した。すると八路は土下座して地面につけている父の頭を蹴り上げ、「それなら、お前もチャーズに残れ!」と、あおむけに倒れた父を銃で小突いた。骸骨のように痩せ衰えた父を母が支え、「お父さんはこの子たちの父親でもあるのですから・・・」と懇願した。私は1946年の市街戦で八路軍の流れ弾が腕に当たり、その痕に、家で面倒を見てあげていた開拓団のお姉さんの結核菌がうつって、全身結核性の骨髄炎に罹り、栄養失調が重なって死ぬ寸前の状態だった。すぐ下の弟は栄養失調で脳炎を起こし、母の背中で首を後ろにカクっと倒したまま意識を失っている。死ぬのにそう時間はかからないだろうという状況にあった。父は断腸の思いでチャーズをあとにする決意をした。父の無念の思いを、私は日本帰国後何十年かした日の父の臨終の言葉で知った。仇を討ってやる!その思いで書いたのが『チャーズ 出口なき大地』(1984年)だが、何度復刻版を出しても絶版になり、このたび『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※2)を復刊することになった。◆許せない習近平の歴史改ざん『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3)の印刷が始まった後になって、私は偶然、2017年12月に中国共産党が管轄する中国人民出版社から『囲困長春』という本が出版されていたことを知った。急いで購入し読んでみたところ、「共産党軍がチャーズの門を閉ざして難民を出さなかったために、一般庶民が大量に餓死した」という事実は完全に隠され、あくまでも「国民党政府が悪いので多くの餓死者を招いた」としか書いてない。おまけに共産党軍は「9月11日から、チャーズ内の全ての難民を解放区に自由に出られるようにした」と書いてある。あれだけ閉め切って絶対に難民を出さなかった共産党軍側の門。父の一行の出門を許した後もなお、「遺族は技術者ではない」として、断腸の思いを父に迫った共産党軍。その共産党軍が、9月11日以降は自由に難民を放出したとは何ごとか!『囲困長春』には、9月11日前も解放軍は一般庶民に害を与えないよう最大の配慮をしたと書いてある。毛沢東があの時、「長春を死城たらしめよ」と言ったのを知らないのではあるまい。執筆者は、元長春市政府の官僚の一人だったので、当然、中国共産党に都合のいいことだけを書いただろう。餓死者は30万人から65万人とも言われているが、1990年代には中国政府側は12万と言っていたのを、今度は5万人と見積もっている。習近平は、この残虐な大量殺人を覆い隠すつもりか。これを「ジェノサイド」と言わずして、何と言おう。この史実を、ありのままに書いた私を中国は「犯罪者扱い」しただけでなく、別の物語を書くことによって、史実を塗り替えている。私はこの事実を残すために生きている。事実を書き残すことによって犠牲者の鎮魂をすることが、生き残った者の使命だと自分に言い聞かせて、80を過ぎてもなお、日夜全力を尽くしている。習近平よ、「事実求是」を守れ!事実を認めるのが、そんなに怖いのか?中国共産党は、そんなにもろいものなのか?事実を認めたら崩壊するような党ならば、崩壊すればいい。バイデン政権の戦争ビジネスは、戦争を経験してきた人間として許せないが、歴史を改ざんして犠牲者の魂まで侮辱する党は、なおさら許せない。数少ない生存者として、どこまでも追及する所存だ。写真: 1994年9月20日、筆者撮影。世界に一枚しかない、1948年の鉄条網の残骸。(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <FA> 2022/06/28 15:53 GRICI 世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を6月21日の「農民日報」は<世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を発揮しなければならない>(※2)として、以下のように書いている。——総量で見ると、わが国の穀物生産は近年「18回連続の豊作」を達成し、年間の穀物生産量は7年連続で0.65兆キロに達し、中国の穀物の基礎を成している。一人当たりの所有量の観点から見ると、中国の一人当たりの食糧所有量は480キログラムに達し、国際的な食糧安全基準である一人当たり400キログラムをはるかに上回っている。在庫の観点から見ると、わが国の穀物在庫は約40%であり、これも世界平均の17%をはるかに上回っている。穀物という観点から見ると、三大穀物(米・麦・とうもろこし)の自給率は 90%以上に達しており、食糧安全に関しては「絶対的な安全性」を満たしていると言えよう。◆ロシアからの穀物輸入5月31日の環球時報(※3)は、ロシアからの穀物輸入は非常に少なく1%にも満たないので、大きな変化はないものの、ここ数年、年平均19.1%の貿易増があるので、今後はさらなる増加が期待できると書いている。少なくとも、今年2月4日に中国商務部とロシア経済発展部が農業領域の貿易に関して新たに署名している(※4)ので、農産品領域における貿易の伸びが期待できるだろうとのことだ。◆「中国は大量に食糧を買い占めている」と批判する傾向が西側諸国にアメリカの農務省には中国に関する統計もあり(※5)、今年6月10日に公開されたデータでは、世界の在庫量に占める中国の割合は、トウモロコシ65.78%、米59.42%、小麦53.03%となっている。中国政府の主張がまんざら嘘ではないことが分かる凄まじい通知だ。これを西側諸国は「中国が買い占めたからだ」と非難する傾向にある。たとえば2021年12月19日の日経新聞<世界の穀物、中国が買いだめ 過半の在庫手中に>(※6)は、その代表のようなものと言っていいだろう。買い占めているか否かは別として、中国共産党が統治する国家「中国」は、どんなことがあっても、まず食糧問題を最優先事項に置く国であることを筆者は実体験を以て知っている。◆毛沢東「誰が食べさせるかを人民に知らしめよ!」7月3日に出版予定の『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※7)に書いたように、1947年晩秋から、私が生まれ育った長春(中国吉林省長春市。元「満州国」の「新京」)は中国共産党軍によって食糧封鎖された。1948年9月20日、餓死から逃れるために長春を脱出した私たちを待ち受けていたのは「チャーズ(qiazi)」という、国民党軍と共産党軍の中間地帯(真空地帯)だった。共産党軍は長春市を鉄条網で都市ごと包囲したのだ。鉄条網は国民党軍側と共産党軍側の両方に設けられ二重になっていた。その二重になった包囲網である鉄条網の中には餓死体が敷き詰められており、私たち難民はその餓死体の上で野宿することを強いられた。このころ長春に残っていたのはほぼ中国人で、中国人の中には餓死体を食する人もおり、共産党軍はそれを鉄条網越しに直接見ながら、水の一滴も米の一粒も与えなかった。チャーズの外には共産党軍が占拠する「解放区」が広がる。4日目にようやくチャーズの門を出ることができたのだが、解放区側の土を踏んだ瞬間、お粥がふるまわれた。こんなことをするのなら、なぜチャーズの中で餓死していく人々を助けてくれなかったのか。あのとき毛沢東はチャーズを囲む共産党軍に「誰がご飯を食べさせてくれるかを思い知らせよ。人民はご飯を食べさせてくれる側に付く」と言っていたことを、何十年もあとになって知った。習近平も同じように考えているだろう。人民はご飯を食べさせてくれる側に付く。いま世界が食糧危機にある中、なぜ中国だけは潤沢な食糧を備蓄しているのか。それは一党支配体制を維持するためなのである。80年間の実体験を通して確信する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://szb.farmer.com.cn/2022/20220621/20220621_002/20220621_002_4.htm(※3)https://world.huanqiu.com/article/48ErezBftfA(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml(※5)https://www.fas.usda.gov/data/grain-world-markets-and-trade(※6)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM13CUD0T11C21A2000000/?unlock=1(※7)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <FA> 2022/06/23 16:00 GRICI 世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。世界が食糧危機にさらされている中、中国は世界の穀物を買い占めているのではないかという批判がある。しかし中国政府はマクロ政策により世界最大の穀物生産国になったのだと主張する。中国が食糧問題を最重要視する理由には、中国共産党の根源的問題が潜んでいる。◆「中国の多すぎる食糧備蓄に対する西側からの批難」に関する中国の見解5月27日、中国外交部は定例記者会見で(※2)、記者から「最近、中国は国際市場からあまりに多くの食糧を買い占めているという批判が西側諸国から出ているが、中国はそれをどう思っているか?」という質問が出た。それに対して汪文斌報道官は以下のように答えた(番号を付けたのは筆者で、あまりに回答が長いので少しでも見やすくしようと区切りをつけた)。1.中国政府は常に食糧安全問題を非常に重要視してきた。「穀物の自給自足と絶対安全」というのが中国政府の基本だ。2021年までに、中国の穀物生産量は7年連続で0.65兆キログラム以上で、世界最大の穀物生産国であり、世界第3位の穀物輸出国となっている。中国は自給自足に関して自信があり、国際市場に入り込んで「食糧を買い占める」という必要はない。2.中国は世界の土地の9%未満を使用しているだけで、世界の食糧の約4分の1の生産量を実現し、世界人口の5分の1を養っている。この事実を見るだけでも、中国が世界の食糧安全に大きく貢献していることがわかる。同時に、中国は大国の視座に立ち、世界の食糧安全の確保に積極的に貢献してきた。3.中国が提案するグローバル発展イニシアチブは、食糧安全を「八大重点協力分野の一つ」と見なしており、世界中のすべての関係者に力を動員し、利点の補完性を促進し、以て、食糧安全を含むすべての持続可能な発展目標の実現に向けて最大限に力を合わせていくことを目標としている。中国は常に国連食糧農業機関(FAO)の南南協力にとって重要な戦略的パートナーだ。近年、中国はFAO南々協力(※3)基金に1億3000万米ドルを寄付し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海、太平洋島嶼国に多数の専門家や技術者を派遣した。中国はFAOの中で、最も多くの専門家を派遣し、最も多くの資金援助をし、最も多くのプロジェクトを実行しいる。COVID-19の発生以来、中国はいくつかの国に緊急食糧援助を提供することにより、国連や他の国際機関のイニシアチブに積極的に対応してきた。世界の食糧生産と供給の安定化に対する中国の積極的な貢献は、国際社会から広く認められているところだ。4.中国は食品ロスと廃棄物削減を積極的に提唱している。世界の食糧の1%のロス削減は、2800万トンの損失の削減に相当し、7000万人以上の人々を養うことができる。習近平主席は、食品節約を強化する必要性をくり返し強調してきた。 2021年、中国は食品ロス削減に関する国際会議を主催し、G20のメンバーを含む国際社会から肯定的に受け止められた。多くの開発途上国が食糧不足に直面しており、一人分のご飯を二人で分け合う状況があることを残念に思う。先進国の一部では「物を粗末に扱う」ことに慣れてり、一人前のご飯を食べて一人前のご飯を捨てている」。先進国で毎年浪費される食品ロスの量は、サハラ以南のアフリカで生産されるすべての食品の総量に近い。アメリカ農務省のデータによると、アメリカの食品の30〜40%が毎年廃棄されており、2018年に廃棄された食品の総量は1億300万トンに達し、1,610億ドルに相当する。5.中国は、関係国に対し、不必要な食品廃棄物を出さないようにし、その正当な国際的義務を果たし、より多くの国際的責任を引き受けることを要請している。頭をひねって他の国(中国)に(お前の国は食糧備蓄が多すぎる)と騒ぎ立てるのではなく、自ら始めて、現実的な方法で食料を節約し、国際的な農業貿易の円滑な運営を維持し、発展途上国の食糧生産能力を向上させるのを助けるべきだ。こうしてこそ世界の食糧安全を効果的に維持できる。6.直面する困難が多ければ多いほど、われわれは互いに助け合うべきだ。国際的な食糧サプライチェーンが衝突している情勢下において、私たちはすべての国に共同責任を負うことを求めたい。食品ロスと廃棄物の観点から、食糧危機を補完し、食糧を節約するというプラスの方向で世界の食糧安全を効果的に維持しなければならない。◆「中国の食糧価格が安定している理由」に関する中国政府の説明6月20日、中国の経済を協議する国家発展改革委員会は<我が国の食糧価格はなぜ安定しているのか?>(※4)に関する説明を行った。主たる回答内容を以下に示す。・中国の穀物価格が全体的に安定している理由は、最終的には、我が国が強力な穀物供給と価格の安定を確保するための強力なメカニズムと政策措置を確立したからである。穀物の総在庫は十分であり、小麦と米の在庫は1年以上の消費需要を満たすことができる。・2021年の時点で、中国の穀物の播種面積は8年連続で17.4億ムーを超えており、穀物を植える農民の意欲は安定している。2022年に春に植えられる穀物の面積は約9億4000万ムで、昨年の同時期に比べてわずかに増加し、引き続き穀物価格の安定に寄与するだろうと予測される。・●生産コストが穀物価格を決定し、穀物の安定供給にも影響を与える。農民の意欲を十分に発揮させるために、わが国は米と小麦の最低購入価格を実施し、穀物生産補助金政策を継続的に改善し、三大主要穀物(米・麦・トウモロコシ)の「完全コスト保険」や「所得保険」を推進し、「農業社会サービスシステム」を発展させて、穀物農家の収入の安定化を図った。(筆者注:「完全コスト保険」とは「農作物が自然災害などに遭遇した時に被る損害を含めた、生産コスト全てに対する保険」のことで、「収入保険」とは「農作物の販売価格や生産量の変動に対する保険。生産量が増え過ぎたことによって販売価格が下がる時でも、一定の収入を保障できる保険」のことで、「農業社会サービスシステム」とは「供給、販売、加工および情報サービス」など、農産物を購入者の末端にまで提供するさまざまなサービスのことである。)農産物価格の高騰に対応して、化学肥料の供給を確保し、価格を安定させるために、たとえば仮肥料の備蓄を確保するなどの作業メカニズムの確立が価格安定に寄与している。◆『中国農業産業発展報告2022』は今年の食糧総生産量は去年を越えると予測6月21日、『中国農業産業発展報告2022』が発表された(※5)が、報告書は、「中国の農業生産は今年も改善を続け、総穀物生産量は昨年を上回り、0.69兆キログラムに達すると予想され、綿、油、砂糖、果物、野菜の生産は安定して好転しており、畜産物や水産物の供給も安定している」と指摘している。「世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202205/t20220527_10693630.shtml(※3)https://www.fao.org/japan/portal-sites/spfs/south-south-cooperation-and-japan/jp/(※4)http://news.cnr.cn/dj/20220620/t20220620_525874537.shtml(※5)https://szb.farmer.com.cn/2022/20220621/20220621_002/20220621_002_3.htm <FA> 2022/06/23 15:56 GRICI 池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「間違い」その2_「主席になると圧倒的に強い立場になる」?最も大きな間違いは「主席になると圧倒的に強い立場になります」という言葉だ。池上氏にお聞きしたいのは、なぜ「主席になると圧倒的に強い立場になります」と判断なさったのかということである。これは、本気で知りたい。どうすれば、そういう考え方に至ることができるのか、その「論理」を知りたいと本気で思うのである。では、なぜ「主席になると圧倒的に強い立場にならないのか」に関してご説明したい。詳細な経緯は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』(※2)に書いてあるが、史実を知らなくても、誰にでも分かる例で、まずご説明しよう。たとえば某大学にワンマンな(あるいは厄介な)「学長」がいたとする。その学長の力を削ぐには、「副学長」のポストを複数設けて、力を分散させるという方法がよく採用されている。表面上は「学長」の負担を減らすという理由を付けるのだが、実際は「学長一人の判断で大学運営が間違った方向に行かないようにする」というのが目的だ。企業における社長も副社長も類似の目的で存在するのもあるだろう。これと同じで、かつて「党主席」制度の時代には、毛沢東の独走を阻むため(あるいは他の野心に燃えた人の出世コースのため)に「副主席」というポストが設けられた。そうなると毛沢東主席の力はトップ一人ではなくなるので、「副主席」が多大なる力を持ったり、副主席同士で権力闘争をしたりする。党主席だけでなく、国家主席に関しても同じだ。国家副主席が複数いたし、今もいる。事実毛沢東は、トウ小平の策略により、劉少奇・党副主席を「国家主席」に持っていかれてしまい、結果、毛沢東は下野して、劉少奇を打倒するために文化大革命を起こしたほどだ。紆余曲折を経ながら最終的に1982年9月に「党主席制度」を撤廃したのは、毛沢東死後に「党主席と国家主席と国務院総理」すべての職を得ていた華国鋒を、トウ小平が打倒するために断行したためである。毛沢東が自ら後継者と定めた華国鋒をトウ小平は打倒し、子飼いの胡耀邦をトップに持っていくために「副主席」のポストがある「党主席制度」を撤廃して、「副」のポストがない「一人だけの総書記制度」に持っていったのである。なぜならトウ小平は華国鋒を下野させるために非常に狡賢く動いたが、華国鋒が最後に「党副主席」に残っていたので、「党主席制度」そのものを撤廃してしまわないと完全な華国鋒追い落としにつながらないので、トウ小平は最後の打撃を華国鋒に加えるために撤廃してしまったのである。決して毛沢東の個人崇拝がまずかったから「党主席制度」を撤廃したのではない。したがって「党主席制度」は「副主席がいるので力が弱く」、「中共中央総書記制度」は「副」がいないので、「一人」だけトップを占めることができるから、圧倒的に「総書記制度」の方が強く、権力が揺るがない。もう一度繰り返すが、池上氏の“それは彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」としたのに”という言葉も間違っている。「華国鋒を倒し、子飼いの胡耀邦をトップにさせるために」、トウ小平が権力闘争として断行したのである。毛沢東の個人崇拝がまずかったので「党主席制度」を撤廃したのではない。華国鋒は、最後は「党副主席」の職位に落とされたが、華国鋒を完全に追い出すには「党主席制度そのものを撤廃する」しかなかったのである。したがって、真逆だ。◆なぜ「党副主席」というポストが生まれたのか?これに関しては話が長くなるが、習近平の三期目を考察するには前掲の『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』(※3)を読んで頂くしかない。ひとことで言うなら、トウ小平が野心を持ち、毛沢東が後継者と決めていた高崗(ガオガーン、こうこう)を陰謀によって自殺に追い込み、陳雲と二人で権力の座を奪取しようと画策した結果が生んだものだ。このいきさつを書くと長くなって一冊の本になる。実際それを本にしたのが『習近平 父を破滅させてトウ小平への復讐』なので、真相を知りたい方は、そちらをお目通し頂きたい。1956年9月の第八回党大会の結果と推移が第二章に書いてある。このとき初めて「党副主席」というポストが新設され、トウ小平の陰謀を手助けして高崗を自殺に追いやった陳雲が党副主席(中国共産党中央委員会副主席)に就任し、トウ小平自身は、別途新設した中共中央書記処総書記の座を射止めた(『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』第二章 p.119 図表2-2 参照)。その10年前の1946年4月、筆者がまだ5歳だったときに、長春市に攻め込んできた中国共産党軍の一人であった若い「趙兄さん」(のちに毛沢東の日本語通訳の一人となる趙安博という共産党員)と筆者は生活を共にし、父は当時の長春市の書記をしていた林楓(りんぷう)と信頼関係にあった。中国共産党軍は同年5月には長春から消えたが、1947年晩秋になると長春市は中国共産党軍によって食糧封鎖され、多くの餓死者を出していった。そういった原体験が「中国共産党とは何か」を追い詰めていく、筆者の原点になっている(詳細は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)(※4)。だから老体に鞭打ちながら「中国共産党の正体」を追い続けている。上述したのは、そういった原体験により積み重ねてきた知識だ。さて、冒頭に話を戻そうか。池上さん、教えてください。あなたはなぜ「主席になると圧倒的に強い立場になります」とお考えになったのですか?私に見えていない要素があるかもしれませんので、本気で知りたく思っております。その昔、名刺を交換したことはありましたが、良かったらhttps://grici.or.jp/contactまでお知らせください。お待ちしています。「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4828422641/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4828422641/(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/ <FA> 2022/06/22 10:10 GRICI 池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。まるで日本の教科書のようになっている池上彰氏が習近平に関して「(党)主席になると圧倒的に強い立場になります」と書いているのを発見した。「えっ?違うでしょ?」と驚いたので、党主席制度に関して説明したい。◆池上彰氏の文章たまたまメールに<「終身皇帝」を狙う習近平が、中国で「芸能人のファンクラブ」を潰しているワケ>(※2)という記事が飛び込んできた。見れば、あの池上彰氏の文章ではないか。この手のタイトルの文章はデタラメが多いのでいつもはスルーするのだが、まるで日本の教科書のようにもてはやされ尊敬されている池上先生のお書きになったことなら、たまには読んでみても悪くないと思って目を通した。すると、そこには、信じがたいほどの「間違い」が書いてあるのを発見し、非常に驚いた。昔、NHKのラジオ放送だったかでご一緒になり、準備してこられた台本以外のことに話が行くと、相当に間違ったことを仰ったので、「いや、それは違うと思うのですが・・・」と言ってしまって、気まずい雰囲気になったことがある。スタジオの帰りに、ご一緒した他のゲストの先生が「よくぞ、あの池上先生に反論なんてできますねぇ。あの人に反論できるなんて、日本中で遠藤先生くらいしかおられないんじゃないんでしょうか・・・」と言われたのを覚えている。相手が誰かによって態度を変えるのは好きではない。誰であろうと、正しいことは正しく、間違っていることは間違っていると言えなくてはならない。それが世の中のためでもある。今般の「間違い」は複数個所に及ぶが、本稿では一個所だけ取り上げて、お話ししたい。池上先生と言えば、小学生までが信じてしまい、それが「日本人の基礎知識」のようになってしまうのだから、こんな間違いを放っておくのは「世のため」にならないと思われるのだ。さて、<「終身皇帝」を狙う習近平が、中国で「芸能人のファンクラブ」を潰しているワケ>(※3)の1頁目の最後から2頁目(※4)にかけて以下のような文章がある。——かつて建国の父・毛沢東が務めた「党主席」のポスト(1982年以降、廃止されていた)を復活させるとの見方もあります。党主席のポストは、毛沢東の死後、しばらくして廃止されました。毛沢東は文化大革命で多くの混乱を引き起こしました。それは彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」としたのに、それをまた元に戻すかもしれません。総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけですが、主席になると圧倒的に強い立場になります。(引用ここまで)この中で、『彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」とした』、『総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけですが、主席になると圧倒的に強い立場になります。』という部分が間違っている。最も間違っているのは「主席になると圧倒的に強い立場になります」という言葉だ。これは全く正反対なので、もしかしたら池上氏は中国共産党の基礎をご存じないし、また「総書記とは何か」そして「党主席(あるいは主席制度)とは何か」、その基本をご存じないので、このようなことをお書きになったのではないかと推測されるのである。◆「間違い」その1_「総書記」とは何か?まず、中国共産党のイロハの「イ」からお話ししよう。仮に筆者が中学生くらいの生徒に講義していたとする。筆者:みなさん、習近平は「総書記」という肩書を持っていますよね。この「総書記」のフルネームは何か分かりますか?生徒:え~~~ガヤガヤガヤ・・・筆者:「中共中央総書記」なんですよ。聞いたことがあるでしょ?生徒:あー、なんとなく聞いたことがある気がするけど、でも「中共中央」って・・・?筆者:良い質問ですね。「中共中央」というのは「中国共産党中央委員会」の略で、習近平は中国共産党の中の「中央委員会」の総書記なんですよ。だから「中共中央総書記」という肩書で呼ばれています。・・・・と概ね、こうなるだろう。これに関しては5月30日のコラム<「習近平失脚」というデマの正体と真相>(※5)に詳述した。結果的に中共中央総書記は、中央委員会政治局委員でなければならないし、中央委員会政治局常務委員会委員の一人でもなければならない。しかし、それはあくまでも結果であって、「総書記」とは「中共中央総書記」のことであり、決して「中共中央政治局常務委員会総書記」ではないのである。そのような肩書は中国共産党内に存在しない。したがって池上氏の「総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけです」も微妙にまちがっている。一見正しそうに見えてしまうが微妙に事実と異なる表現をつなぎ合わせていくと、非常に違う概念を生んでいく危険性を孕んでいる。「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?imp=0(※3)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?imp=0(※4)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?page=2(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220530-00298521 <FA> 2022/06/22 10:08 GRICI 台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆経済では勝てないので、中国に軍事行動をさせて中国を潰すアメリカの長期戦略今般のウクライナ戦争でも、だんだんと世界の多くの人が「ウクライナ戦争を起こさせたのはアメリカだ」と認識するようになったが、その認識をしっかり持たないと、次にやられるのは日本であることに対して、正しい警戒心を持ち得ない。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも書き、また5月31日のコラム<スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない>(※2)でも考察したように、ウクライナ戦争はバイデンが2009年から周到に練り上げてきた「利己的欲望」に基づいて起こしたもので、ウクライナをNATO加盟へと扇動した結果が招いたものである。この因果関係を見極めないと、次に餌食になるのが「日本国民」になる論理が見えてこない。中国は台湾の平和統一を狙っている。なぜなら中国は中国共産党による一党支配体制の維持を最優先課題としているので、もし武力攻撃によって台湾を統一したら、台湾国民は当然中国を忌み嫌い反中反共が激しくなっていく。そのような国民が中国の中に組み込まれたら、中国共産党の一党支配体制の維持は困難になり、崩壊する危険性が大きくなるからだ。台湾周辺での軍事演習による威嚇は、民進党になってから激しくなったもので、「独立を叫んだら、どういうことになるか分かってるな」という脅しである。アメリカ政府の高官が台湾を訪問した時なども、この威嚇演習が激しくなる。威嚇をしているだけで、中国は台湾商人を経済的にからめとって「平和統一」するのを最大の実現目標としている。しかし、平和統一されては困る国がある。それこそが、アメリカだ。なぜなら、平和統一などされてしまったら、中国は台湾の半導体産業TSMCをも自分のものとして、ますます経済発展を遂げて、軽くアメリカのGDPを抜いてしまうだろうからだ。ならば、中国経済の成長を阻害するにはどうすればいいのか?それは中国に台湾を武力攻撃させること以外にない。この「台湾武力攻撃」さえ中国がやってくれれば、アメリカは今ロシアを制裁しているのと同じように全世界に呼び掛けて中国を制裁し、中国を潰すことができると考えている。だから、何とか台湾に独立を叫ばせ、「中国を最も怒らせる方向」に「じわじわ」と動いている。◆戦争を仕掛けて自国を有利にするアメリカに意思表明できる勇気を!もっとも、中国を最大貿易国としている国の数は、世界190ヵ国中128ヵ国なので、経済制裁をすると、世界のほとんどの国の経済が成り立たなくなってしまうので、それは断行しにくい。その代わりに、ロシアのウクライナ侵略同様、NATOをはじめとした同盟国が軍事的に台湾に協力し、台湾に武器を提供したり軍事費の支援をしたりすることによって、中国を苦戦に追い込むという方法をとるだろう。そのためにバイデンは、日本にも韓国にもNATO加盟させる方向で動こうとしている。それでいて、米軍兵士自身は参戦しないという計算だ。ウクライナと同じように、相手が中国であるなら、攻撃してくる国が「核兵器」を持っているからという口実を設けることができる。実際に「人間の盾」となって戦うのは「台湾人」であり、尖閣問題をも抱えている「日本国民」だ。日本はアメリカに対して「戦争という手段によってアメリカに有利な状況へ持っていくようなことをするな」と堂々と言えなければならない。その勇気を持たなければならない。まさか日本の政治家が,それを見抜く力を持っていないとは思わない。分かっていても、アメリカに追随しているように振る舞う政治家が多いのかもしれない。その意味では実は「日本はアメリカに依存しない自立した軍事力を持つべきだ」という点で、筆者と安倍元首相との視点は、案外一致しているところがあるようにも思う(このことに関しては別途考察するつもりだ)。いずれにせよ、アメリカには「中華人民共和国を、中国を代表する唯一の国として国連に加盟させ、国連安保理常任理事国にした責任」を、戦争という手段ではなく、「外交的政治手段で果たせ」と、堂々と言える日本でなければならない。それがせめてもの、中国の経済繁栄に貢献した日本の罪を償う方法ではないだろうか。戦争以外の方法で解決させる責任が、日本にはある。筆者が「戦争を起こす者」に拘(こだわ)るのは、日中戦争と国共内戦と朝鮮戦争という3つの戦争を中国で体験したからだ。国共内戦では7歳の時に餓死体の上で野宿させられて恐怖のあまり記憶喪失になり、中国共産党軍の流れ弾を受けて身障者にもなった。中国では「侵略戦争を起こした日本人」としていじめ抜かれ、自殺を試みたこともある。だから戦争を憎む。ひたすら戦争の原因を追究しようと老体に鞭打っている。日中戦争が始まった時はまだ生まれてさえいなかったのだから何も出来なかったが、しかし「次の戦争が起きようとしている今」、私はまだ何とか生き残っている。生きているからには戦争を防ぐために微力でも警鐘を鳴らさなければならないと、自らに言い聞かせている。日本の一国民として日本を戦争から守りたいのだ。そのための考察であることを、どうかご理解いただきたい。なお、中国の長春で経験した国共内戦に関しては7月初旬に復刊される『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3)で詳述した。これまで出版してきた「チャーズ」関係の本が全て絶版になってしまったので、新たな視点で復刻版を出版する次第だ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/3174(※3)https://www.amazon.co.jp/%E3%82%82%E3%81%86%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89-%E9%95%B7%E6%98%A5%E3%81%AE%E6%83%A8%E5%8A%87%E3%80%8C%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%80%8D-%E9%81%A0%E8%97%A4-%E8%AA%89/dp/4408650242/ref=sr_1_11?qid=1655194843&s=books&sr=1-11 <FA> 2022/06/15 16:30 GRICI 台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。シンガポールで開催されたアジア安全保障会議では台湾問題が大きなテーマの一つだった。台湾問題を生んだのはアメリカで、中国経済を強大化させたのは日本だ。その責任は戦争以外の手段で取らなければならない。◆中国国防部長の台湾問題に関する強気な発言6月10日~12日、シンガポールのシャングリラホテルでアジア安全保障会議(シャングリラ対話)が開催された。12日には台湾問題に関して集中砲火を浴びた中国の魏鳳和国防部長が強気な発言をした。中国政府の発表によれば(※2)魏鳳和は概ね以下のように述べている。——台湾は中国の台湾であり、台湾問題は中国の内政問題で、祖国統一は絶対に達成されるべきだ。「台独(台湾独立)」を行なおうとする分裂主義には悲惨な末路が待っており、外部勢力による干渉は必ず失敗する。和平統一こそは中国人民が最も願っていることで、そのためなら、われわれは最大の努力を尽くす。しかし、もし台湾を分裂させようという魂胆を持つ者が現れたら、戦いを交えることも惜しまなければ、いかなる犠牲をも惜しまない。何人(なんぴと)たりとも、中国軍隊の決意と意志と強大な能力を見損なってはならない。(引用ここまで)つまり、「中国は平和統一を最大の願望としているが、他国が干渉してきて台独を煽るなら、その時には容赦はしない」ということだ。◆台湾は「中国の台湾」であり「内政問題だ」の正当性を与えたのはアメリカ台湾は「中国の台湾」であり、「中国の内政問題だ」というのは、中国政府の常套句だが、この言葉の「正当性」を与えたのはアメリカだ。1960年代末から70年代初期にかけて、当時のニクソン大統領が「大統領の再選」を狙って、1971年4月16日に「米中国交正常化長期目標」を発表して訪中意向を表明し、当時のキッシンジャー国務長官に「忍者外交」(1971年7月9日)をさせた。これは世界に衝撃を与え、その勢いで国連は1971年10月25日、「中華人民共和国」を「中国を代表する唯一の国家」と認めて、国連加盟させたのである。第二次世界大戦中からアメリカに協力し、ルーズベルト大統領とカイロ密談などを行なってきた蒋介石率いる「中華民国」は、かくして国連から脱退するところに追い込まれたのだ。米ソ対立で不利になり、かつ「トンキン湾事件」という口実を捏造して開戦し泥沼化したベトナム戦争からも抜け出したかったアメリカは、「中国共産党が支配する中華人民共和国に近づく」ことによって活路を見い出し、大統領再選を狙ったのである。1972年2月21日、ニクソン大統領が訪中して(キッシンジャー同伴)、「一つの中国」を受け入れ、「中華民国」と断交し、米中国交正常化の共同声明を発表した。日本をはじめ、世界の多くの国が競うようにしてアメリカに続き「中華民国」と断交してつぎつぎと「中華人民共和国」との国交を正常化させていった。こうして形成されたのが、こんにちの、いわゆる「国際秩序」だ。たかだか一国の大統領再選のために、「中華民国」(台湾)を見捨て、「中華人民共和国」を承認した。戦勝国「中華民国」をメンバー国の一つとして設立された国連から、その「中華民国」を打倒して誕生した「中華人民共和国」が「戦勝国」として国連の安保理常任理事国の席に座っている。こんなデタラメなことを実現させたのがアメリカなのである。日本人は、まず、このことから目をそむけてはならない。◆中国を強大化させたのは日本そのころの中国は極貧国の中の一つに過ぎないほど貧乏だった。それを今日のような経済大国に成長させたのは、わが国「日本」だ!1989年6月4日の天安門事件で、トウ小平は中国人民解放軍に命令して、民主を叫ぶ丸腰の若者に発砲し、武力で民主化運動を鎮圧した。その結果、西側諸国が中国を経済封鎖したにもかかわらず、「中国を孤立させてはならない」として封鎖解除に最初に踏み切ったのが、われらが「日本」なのである。ベルリンの壁が崩壊し、民主の嵐が世界中に吹き荒れていたとき、アメリカはソ連を無血崩壊させることには細心の注意を払いながら成功しているが、同じ共産党が支配する国家である中国を崩壊させないどころか、日本とともに「中国を豊かにさせていくこと」に貢献している。日本とは同罪で、共犯者と言ってもいいだろう。ソ連崩壊は「ソ連が経済的に貧困だったから」という要素があるが、中国もあの頃は同じように「貧困だった」ので、言論弾圧をする共産主義国家「中国」をも、同様に崩壊させることが可能だったはずだ。あのときこそが唯一のチャンスだった。そのチャンスを逃したのは、日本が「中国を孤立させてはならない」という感情論で、「トウ小平が偉い」という「トウ小平神話」を信じていたからである。その「トウ小平神話」こそが「最大の元凶」であることは、拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』で描き尽くした。日本人は今もまだ、この事実の重大性に気が付いていない。最も罪深いのは、「トウ小平神話の災禍」を全くわかってない政治家が、日本の政治を今も動かしていることだ。日本の対中政策は、まずここから考え直さなければならない。アメリカがなぜ「ソ連は危険」で「中国は危険でない」と区別して、ソ連は崩壊させ、中国を崩壊させようとは思わなかったのかは明らかで、その当時の「中国の軍事力は弱い」と判断したからである。ソ連を崩壊させたのは「ソ連の軍事力は強い」と警戒したからだ。中国共産党とは何かを全く理解していない無知蒙昧さが招いた結果だ。日本とアメリカ両国のこの決定的な判断ミスにより、中国経済は強大化し、その結果、「軍事力も強大化した」。だからこそ、いまアメリカは、何としても中国を潰さなければならないと、必死なのである。「台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/guowuyuan/2022-06/12/content_5695345.htm <FA> 2022/06/15 16:28 GRICI 北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国の北朝鮮に対する国際的な姿勢実は中国へ滅多に北朝鮮に対する中国の姿勢を話すこともない。ところがたまたま、5月25日の国連安保理における北朝鮮の核問題に関する追加制裁決議案で、中国が拒否権を使ったために、張軍国連大使が、「なぜ拒否権を使ったか」に関する説明をするためのスピーチを行った(※2)。そのスピーチは、中国の北朝鮮に対する姿勢をよく表しているので、いくつかをピックアップしてご紹介したい。以下「半島」というのは「朝鮮半島」のことである。1.半島の隣国として、中国は半島情勢を非常に懸念し、常に半島の平和と安定を維持し、半島の非核化を主張し、対話と協議を通じて問題を解決することを主張している。2.半島の問題は、何十年にもわたって浮き沈みしているが、「対話と交渉が問題を解決する唯一の実行可能な方法である」ことを繰り返し証明している。3.2018年、北朝鮮は一連の非核化と緩和策を講じ、シンガポールで米朝首脳が会談し、新たな米朝関係の構築、朝鮮半島の平和メカニズムの構築、朝鮮半島の非核化プロセスの推進について重要な合意に達した。しかし残念ながら、アメリカは「行動対行動」の原則を無視して北朝鮮の積極的な行動に反応せず、米朝対話は行き詰まり、非核化プロセスは停滞し、半島情勢の緊張は高まり続けている。半島情勢が現在のこの段階にまで至ってしまったのは、主としてアメリカ自身が従来の政策の繰り返しに戻ってしまい、せっかく創り上げた対話の成果を壊してしまったからだ。(筆者注:2019年3月4日のコラム<米朝「物別れ」を中国はどう見ているか? ——カギは「ボルトン」と「コーエン」>(※3)に書いたように、2019年2月27日から28日にかけてハノイで華々しく行なわれるはずだった2回目の米朝首脳会談は、28日の昼、突然、決裂に終わった。トランプ大統領は戦後続いてきた北朝鮮問題を自分の手で解決してノーベル平和賞を狙っていたが、朝鮮半島から戦争が無くなると軍事産業が困るアメリカは、ボルトンを中心とした一派がトランプを強引に金正恩から引き離し、半島に「平和」が来るのを阻害した)。4.関係国は、追加制裁の実施に重点を置くだけでなく、政治的解決を促進し制裁を適宜緩和する努力をすべきだ。特に現在の北朝鮮におけるコロナの激しい流行がある中、追加制裁をすれば国民に命の危機に関わる非人道的な結果をもたらすだけで、核問題抑止には如何なる影響ももたらさない。追加制裁は北朝鮮に対する制裁の強化を推し進める一方で北朝鮮に人道的支援を提供する意思を主張しているが、これは明らかに矛盾しており整合性がない。制裁は解決につながらない。5.アメリカは北朝鮮問題にかこつけてインド太平洋戦略を推進し、排他的な小さなグループ(筆者注:日米豪印クワッドや米英豪オーカスなど)を形成しては地域の安定と平和的秩序を乱す危険な行動を行っている。アメリカは核拡散に深刻なリスクをもたらす「原子力潜水艦、超音速兵器などの攻撃兵器、核弾頭を搭載できる巡航ミサイル」などを他国に販売し、核不拡散体制に逆行した動きを見せ、地域の脅威を煽ることによって「核共有」を周辺国に主張させている。北朝鮮をカードにしてアメリカの軍事力を強化するため、世界を冷戦構造へと戻そうとしている。中国はそのことに強く抗議し、対話による問題解決を強く望む。以上が中国の北朝鮮問題に対する主たる主張だ。要するに制裁では北朝鮮の暴走や非核化を止めることはできず、ますます追い込むだけで、(トランプ元大統領のように)対話以外に道はないということを主張している。◆拉致問題を抱える日本はどうあるべきか?日本は北朝鮮に関しては特別の関係にあり、何と言っても拉致問題を抱えている。北朝鮮の暴走は絶対に許せない。あってはならないことだ。しかし、日本政府は「拉致問題こそは政府の最大の課題だ」と呪文のように言い続けるばかりで、いったい何十年が経っているのだろう。歴代総理大臣はそう言うだけで、一歩たりとも自ら動こうとはしていない。敢然たる「政治的決断」により動いたのは小泉純一郎元総理だけではないか。トランプが金正恩に会いたがったあのとき、最高のチャンスであったというのに、政府はやはり自ら積極的に動き拉致問題解決に向けて突撃しようとはしなかった。人は一分一秒、年齢を重ね、間違いなく「命の終わり」に近づいていく。40年も経過すれば拉致された側も取り残されたそのご家族の方々の寿命にも限界が出てくる。それでも岸田首相もまた「拉致問題こそは我が政府最大の課題だ」と呪文のように言うだけ言って、何もしない。するのはトランプ元大統領やバイデン大統領に拉致被害者家族と会ってもらって労(ねぎら)いの言葉を掛けてもらい、記念写真を撮るだけである。バイデンがひざまずいて拉致被害者家族に言葉を掛けたなどというのはパフォーマンスに過ぎず、これによって拉致問題は1ミリたりとも動かない。これまでは習近平にまで拉致問題の解決に関して協力してくれと頼んできたのだから笑止千万だ。そんなことを習近平が金正恩に言って「駆け引きの道具」に使うかと言ったら、「絶対に使わない」。ましてや「善意から日本のために動く」などということも「100%ない!」と断言できる。他国の首脳に頼んだりせず、一国の首相として自ら決断し動く以外に道はない。たしかに「ならず者」国家に道理は通らないだろうが、トランプ元大統領はやってのけたし、小泉元総理も断行したではないか。拉致は相手が「ならず者」国家だからこそ起きている。その国にわが国の国民が拉致されたままになっている。国家の尊厳を考えるなら、自国の民の命を救い出すことが先決だろう。何もかもアメリカに足並みを揃えることだけが国家の道ではない。アメリカにはアメリカの計算(=軍事ビジネスの維持と世界覇権)があって動いていることを見抜くくらいの力量が国家になくてどうするのか?そこを見抜いてこその国家の尊厳だと思うが、いかがだろうか?だからこそ、日本は自国の軍事力も強化しなければならない。そのことに関する筆者の主張に変わりはない。写真: KRT/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zwbd_673032/wjzs/202205/t20220527_10693319.shtml(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190304-00116834 <FA> 2022/06/07 16:25 GRICI 北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。北朝鮮が連日ミサイルを発射し、それに対して米韓も報復発射をしている。北朝鮮と軍事同盟を持つ中国はどう反応しているか。中国の基本姿勢とともに拉致問題を抱える日本のあるべき姿を考察する。◆中国の反応まず北朝鮮が6月5日にミサイル8発を日本海に向けて発射したことに関して、中国ではほとんど報道されず、ただ環球時報が中央テレビ局CCTVアプリ版の報道を転載して「韓国と日本が報道した」(※2)という発信を3行しただけである。ところが6月6日に米韓が合同で同様に8発のミサイルを日本海に向けて発射すると、CCTVはかなり大きく扱った。米韓が8発のミサイルを報復発射したことに関して(※3)と、北朝鮮に抗議するために日米が合同軍事演習をしたことに関しての報道(※4)をご覧いただきたい。扱いが突然大きくなっている。ただ、特徴的なのは、北朝鮮のミサイル発射などの軍事行動に関して、中国は決して中国の情報として報道することはなく、たとえば今回も韓国の聯合ニュース報道の二次情報として報道している。米韓合同のミサイル発射も韓国の聯合ニュースを引用しているし、日米の合同軍事演習はロイター電として報道しているのである。◆なぜ中国は北朝鮮の軍事行動に関して他国報道の二次情報しか伝えないのか?中国が基本的に他国報道の二次情報しか使わないのは、中国と北朝鮮の間に軍事同盟(中朝友好協力相互援助条約)があるからだ。これは1961年5月16日に韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)が軍事クーデターを起こして軍事政権を樹立したため、北朝鮮は急遽、ソ連と中国に軍事同盟締結を求めたことに起因する。韓国とアメリカの間には米韓相互防衛条約という軍事同盟があるので、北朝鮮を軍事攻撃することを危惧したためだ。ソ連は1991年12月に崩壊したので、自然消滅したが、中国との間の軍事同盟は今も存在している。これがなかなかの曲者で、中国としては何度、この軍事条約を破棄しようとしたかしれないが、結局米中対立が激しくなってからは、日米韓から中国を守るための緩衝地帯として残すことにした。しかし、北朝鮮が危ない行動ばかりをするので、いつ、米韓と軍事衝突をするようなことがあるか分かったものではない。中国としては、一党支配体制の維持を最優先事項にしているので、その「巻き添え」になりたくないという気持ちから、北朝鮮にも「抑制」を求めているのだが、これがなかなか言う通りには動かない。金正恩政権が誕生してしばらくの間は、「北のミサイルの矛先は北京を向いている」とさえ言われた時期があったほどだ。しかし、トランプ政権が誕生し、「トランプ・金正恩」会談という、奇跡的なことが起き始めてからは、金正恩も習近平に低姿勢になり、トランプ大統領に会う前に「北京詣で」をするという、前代未聞の情況がしばらくあったわけだ。いずれの場合でも、中朝は複雑に絡みながらも、「軍事に関する機密は守る」という大原則があるため、北が起こした軍事行動に関して、中国は他国が報じてからでないと報道しないという「基本」を守っている。「北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: KRT/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/48IMUaTDRBs(※3)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEEG0jq4MGFEDHKXbCzzhv220606.shtml(※4)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEXm2mgBBnAgwYwj0cC0eF220606.shtml <FA> 2022/06/07 16:23 GRICI IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。●韓国の場合5月23日の中国外交部における定例記者会見で、韓国の記者が「IPEFは開放性、包括性、透明性の原則に基づいており、特定の国を除外するものではありません。ですから韓国はIPEFに参加していますが、しかし一方で、最大の貿易国であり隣国である中国との経済・技術協力を強化しています。中国はこのことをどう思っていますか?」と質問している。外交部報道官は「対立と分裂を招くような行動は適切ではありません」と、やや嘲笑的な表情で回答している。●日本の場合5月29日の共同通信の<外務省中国課に「戦略班」 習主席の支配体制分析>(※2)にもあるように、岸田首相はバイデン大統領に追随して「安全保障面で米国との連携を強める」一方、結局は<中国とは経済面の結び付きを中心に「建設的な関係」(岸田文雄首相)の構築を目指している>ではないか、というのが中国の皮肉に満ちた指摘だ。◆岸田首相の「新資本主義」は失敗する興味深いのは、特に岸田首相の「新資本主義」に焦点を当てて分析していることだ(「余計なおせっかい」とも言えなくはないが、一応、中国が日本をどう見ているのかの参考になるとは思うので、ご紹介したい)。この分析に関しては、たとえば中国共産党機関紙「人民日報」に姉妹版「環球時報」などが<「日本はインド太平洋経済枠組み(IPEF)>に反ぜいされるだろう(=自分の首を絞めるだろう)>(※3)という論理を展開している。他の多くの分析も参照しながら趣旨を書くと以下のようになる。・IPEFは日中および地域の経済・貿易協力だけでなく、日米経済貿易協力や日本自身の景気回復にも深刻な悪影響を及ぼす。・岸田政権は、日本が国連安保理常任理事国に加盟するのをアメリカが推薦してくれるなど、より多くの「安全保障」と引き換えに、中国の発展に対抗するための枠組みに協力している。・岸田政権は「経済安全保障」強化を目的として経済安全保障大臣の新たなポストを創設したり、経済安全保障推進法を国会で可決させたりしているが、しかし、アメリカが提唱し支配するIPEFは、欧米のメディアからさえ、「市場開放も関税引き下げもしない」など、多くの側面から疑問が投げかけられている。・岸田政権の、ワシントンとの「小さなサークル」への追随は、アジア太平洋地域の経済発展で形成されている日本の成果をさえ台無しにするだけでなく、日本自身の経済回復に深刻な悪影響を及ぼす。・中国と日本は、世界第2位と第3位の経済大国として、APECやRCEPなどの地域経済協力メカニズムの重要なメンバーであり、アジアにおける2大経済大国(中国と日本)の政策と態度は、地域経済協力の有効性と見通しに大きな影響を与える。・だというのに岸田政権は事実上、中国をターゲットとしたIPEFに自ら好んで組み込まれ日中協力を妨げおきながら、「経済的に中国と建設的な関係を構築していきたい」と言うことは、あまりに矛盾に満ち、中国の協力を得られると思っているのは計算違いだ(そうはいかない)。・岸田政権は、経済「成長」と「分配」の良好な相互作用を実現する「新資本主義」開発コンセプトを提唱している。しかし、日本は少子高齢化などの経済・社会問題に直面しており、財政・金融政策の余地は極めて限られているため、岸田政権が「新資本主義」の進展を図るには、対外経済協力、特に中国と米国の2つの重要な経済・貿易パートナーとの関係を適切に処理することが急務である。それなしに「成長」と「分配」を目指す「新資本主義」の達成など絶対にありえない。日本は自ら好んで自分の首を絞める道を選んでいる。(引用はここまで)◆ASEANを含めた中小国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強制するな日米がいま必死になってやっているのは、中露を除いた世界各国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強要していることだと、中国側は批判している。たとえば日本の外務省がASEAN諸国に対して行った世論論調査(※4)で、以下のような2021年度の結果が出ている。「日米中」3ヵ国にだけ注目して示す。Q1:あなたの国にとって、現在重要なパートナーは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 56%2位:日本 50%3位:アメリカ 45%Q2:あなたの国にとって、今後需要なパートナーとなるのは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 48%2位:日本 43%3位:アメリカ 41%一般に日本が調査した場合は、日本にやや好意的な選択をする傾向にあるが、日本の外務省が調査したというのに、中国がトップであることが、中国にとっては嬉しくてならないようだ。そこで中国では、ASEANを含めた中小国家に「日米どちらかを選べ」というような残酷な選択を迫るものではないと批判が噴出している。以上、今回は、あくまでも中国が、日米が一丸となって推し進めているIPEFに関する中国の反応のみにテーマを絞り、現状をご紹介した。私見を述べるなら、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第二章に書いたように、全世界で中国を最大貿易国としている国の数は、2018年統計で190ヵ国のうち「128ヵ国」で、アメリカは「62ヵ国」に過ぎない。その点から見ると、「中国を締め出すための経済協力機構」の構築の難度は高いのではないかと危惧する。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2https://news.yahoo.co.jp/articles/f39dc39bd9a7b27aa180112d17a4422a619a22a7(※3)https://opinion.huanqiu.com/article/4895Can4tt0(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100348514.pdf <FA> 2022/06/02 10:37 GRICI IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。バイデン大統領の提唱でスタートしたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に対し、中国は軽蔑にも似た酷評をし、それに追随する日本に対しても自らの首を絞めると嘲笑っている。中国の受け止めを考察する。◆バイデンが提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)に関する中国の酷評今年2022年2月11日にバイデン政権がインド太平洋戦略を発表し(※2)、18ページからなるリポート(※3)を出した時点から、中国の対米酷評は始まっていた。しかし5月23日にバイデン大統領が来日し、正式にインド太平洋経済枠組み(IPEF=Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)が立ち上がると、そのことに対する中国の批判は酷評を越えて嘲笑に近いものとなっていった。発足段階での参加国は「米国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、そしてオーストラリア」の13カ国で、台湾を入れる勇気はなかったことに、中国としては一種の「勝利感」を味わっているムードが伝わってくる。「一つの中国」原則を重んじたために、「台湾」を入れるなら「中国(北京政府)」を入れるしかなく、それでは「対中包囲網」になり得ないので、「さあ、何もできまい」という気持ちが文面から伝わってくるのである。IPEFの共同声明にも「中国を名指しするだけの勇気を持っていない」ことに、参加国の中国への配慮が滲み出ており、これもまた「中国の存在を無視できない参加国」という優越感にも似た安堵感が、酷評の中にそれとなく表れている。IPEFの合意は「公平で強靭性のある貿易、サプライチェーンの強靭性、インフラ・脱炭素化・クリーンエネルギー、税・反腐敗」の4つの柱から成っており、アメリカがどんなに中国排除を目的としていても、この内容なら困るのは参加国自身だと、鼻息は荒い。そのため中国におけIPEFに対する酷評の情報があまりに多いので、これまでのコラムのように、一つ一つリンク先を張ってご説明することは困難である。そこで膨大な情報の中からいくつかの共通項を拾ってみると、以下のようになる。・いま世界は自由貿易に向かって動こうとしているのに、アメリカは偽装した保護貿易主義へと進んでおり、しかも「中国を排除しよう」、「仲間外れにしてやれ」というのは冷戦構造への逆戻りで、それはソ連崩壊と同時に、1994年に終わったパリ調整委員会(ココム=対共産圏輸出統制委員会)を彷彿とさせる。・「中国を仲間外れにしてやれ」という理念が、貿易面で中国とは切っても切れないアジア諸国に共有できるはずがなく、アメリカの「小さなグループ」を作って誰かを虐めようとする分裂主義的行動は、冷戦構造以上にみっともなく、アジアの平和と豊かな繁栄に貢献するとは到底考えられない。分裂主義はアジアの繁栄を後退させ、参加国はバイデンへのメンツのために、やむなく名前貸し」をしているだけである。・もしバイデンがCPTPPに戻ってくるというのなら、一定の説得力があり、中国としても反対はしない。しかし、自分自身は自国の利益のためにTPPに戻ることはせず、アメリカにおける中間選挙や大統領選挙のために「やりました感」を出しているだけだとすれば、バイデン一人の自己満足であり、周辺国は大いに迷惑をしている。・アジアにはRCEPが既にあり、ASEAN諸国には地域協力プラットフォームもあり、これらにおいては自由貿易の理念を中心とした関税の引き下げや投資の自由など、魅力に満ちた互恵関係が動いている。しかしIPEFには関税の引き下げもなければ自由貿易的理念もなく、参加国にいかなるメリットももたらさない。中国を外してしまえば、そもそも「市場」がないので参加国には「儲け」が出てこない。ただ参加国を束縛して「中国を仲間外れにしましょう」という理念を共有する枠組みは必ず失敗し、「アメリカが笑いものになる」だけで終わるだろう。◆参加国のダブルスタンダード中国の酷評はそれにとどまらない。中国を追い出そうとしながら、参加国はそれぞれ個別には中国に譲歩し、中国との貿易を盛んにさせていこうと、こそこそと水面下でやっているではないか、というのが中国の指摘だ。●アメリカの場合バイデンは5月23日、トランプ政権時代に中国に課してあった制裁関税の引き下げに関して検討していると表明。もっとも5月31日、アデエモ米財務副長官はる対中制裁関税の引き下げについて物価抑制という短期的な効果だけで決断しないと言ったり、一方ではイエレン財務長官が実施に前向きな半面、対中貿易協議を担うタイ通商代表部(USTR)代表は慎重など、政権内に温度差があり、一枚岩ではない。このこと自体がバイデン政権のあやふやさを表していると、中国政府は見ている。そのような中、5月31日にアメリカのNBCニュースが<漂流するバイデン政権内部>(※4)というショッキングなタイトルで「バイデンは支持率の低下に動揺しており、選挙戦中の約束を果たそうと必死だが(無理ではないか・・・)」という趣旨の報道をした。すると中国のネットではすぐさま<米メディア:バイデンはホワイトハウスの適切でない発言に不満、支持率がトランプより低くなるのではないかと心配している>(※5)という、バイデンにとってはグサリとくるような見出しの報道が現れたほどだ。もう、バイデンを茶化して楽しんでいるという感さえある。「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/02/11/fact-sheet-indo-pacific-strategy-of-the-united-states/(※3)https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/02/U.S.-Indo-Pacific-Strategy.pdf(※4)https://www.nbcnews.com/politics/white-house/biden-white-house-adrift-rcna30121(※5)https://www.guancha.cn/internation/2022_06_01_642358.shtml <FA> 2022/06/02 10:34 GRICI 「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、「「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中共中央総書記は如何にして選ばれるのか?中国では特殊な政治制度の下で中国共産党による一党支配制度が実施されており、西側諸国のような普通選挙が行われているのではない。したがって、日本でよく「ゼロコロナに失敗したら、習近平の三期目に影響するので習近平は党大会が終わるまでは変えることができない」といった種類のことを大手メディアまでが言っているが、これは西側諸国の感覚が生む「幻想」に近い勘違いだ。誰を中共中央総書記に選ぶのかに関しては、14億の中国人の内、「約200名」の中共中央委員会委員にしか投票資格がないのである。このことを知らないために、「中国人民」が「中共中央総書記の選挙結果」に影響を与えるような「大きな錯覚」を持ち、大手メディアまでが「習近平三期目に大きな影響を与えるので・・・」といった類の解説をするのは罪作りなことである。では、どのようにして、「中共中央総書記」が選ばれるのか、その基本的プロセスをご説明する。中国には14億の人民がいるが、そのうち約1億人(正確には2021年6月5日の統計で9514.8万人)の中国共産党員がいる。この内の「約3000人」が全国代表として全国津々浦々の行政区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に一回開催される党大会に参加する。この3000人の中から「中共中央委員会委員約200人」を選ぶのだが、その選び方は基本的に党大会の全国代表を選ぶ選出母体が、割り当てられた「候補者」をノミネートする。ノミネートされた者が適切であるか否かは、現任の総書記をトップとした「中央組織」が再審査監督をするので、結局は、現在で言うならば、「習近平・中共中央総書記」が最終判断をすることになる。かくして厳選された「中共中央委員会委員候補者リスト」が党大会で配布され、一人一人に対して「賛成」、「反対」、「棄権」の3つのボタンの内のどれか一つを押して「投票」をする。候補者リストは「差額選挙」と称して、もし委員200人を選ぶとすると、110%ほどの名前をノミネートするので、10%の人は落選することになっている。差額の数値は、その時々で違ってくるが、10%前後の超過人数分をノミネートするのが通例だ。これを以て「党内民主」と称し、「民主的な選挙」が行われていると中国共産党は胸を張っている。党大会が閉幕すると同時に一中全会(中共中央委員会第一次全体会議)を開催して、そこで中央委員会委員が投票して中共中央総書記を決める。翌年の3月に開催される全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選出され全過程が終わる。中共中央委員会委員の任期や選出方法に関して、たとえば「中国共産党中央委員会工作条例(2020年9月28日、中共中央政治局会議批准、2020年9月30日中共中央発布)(※2)のようなものがあり、党規約にも書いてあるが、筆者が本コラムで書いたような具体的な選出方法は明らかにしていない。ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入っているということはほぼ「あり得ない」ということである。◆習近平の「紅いDNA」には誰も及ばない中華人民共和国誕生に当たって、習近平の父親・習仲勲が果たした役割は、実際上、毛沢東を越えると言っても過言ではないほど大きい。習近平は革命第一世代のほぼ唯一の、現在も活躍している直系の生き残りだ。彼以上に「紅いDNA」を持った男は、いま中国にはいないと言っていいだろう。1934年から36年にかけて毛沢東が蒋介石率いる国民党軍に追われて北西方向に逃げていったとき(すなわち、長征のとき)、全中国に設立していた革命根拠地は延安がある陝甘革命根拠地(のちの西北革命根拠地)しか残っていなかった。それを建設したのは習仲勲たちである。あの西北革命根拠地がなかったら、共産党軍(紅軍)は完全に国民党軍に殲滅され、毛沢東は生き残っていなかっただろう。ということは、中華人民共和国が建国されることもなかったということになる。だから毛沢東はこの上なく習仲勲を大切にし、後継者の一人に考えていた。そのことに激しい嫉妬と不安を抱いて警戒したのがトウ小平だ。トウ小平は、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を1962年に冤罪で失脚させてしまう。16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を終えて、華国鋒と葉剣英の力を得て1978年に広東省に派遣され習仲勲が対外開放路線を実施したところ、その功績は全てトウ小平が自分の功労として持っていき、1990年に再び習仲勲を失脚させた。この事実を正視することなく、習近平がなぜ第三期目を狙っているかを理解することは不可能であると断言できる(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。なお、朱鎔基が習近平三期目就任に反対するという声明(朱九条)をネットで公開したという情報が流れたが、これは捏造である可能性が大きい。朱鎔基と江沢民の仲がどれだけ悪かったかを知っている人なら、ここに江沢民の大番頭である曽慶紅の名前が(高く評価すべき人物として)出てくること自体が荒唐無稽であり、習近平を江沢民に推薦したのは、ほかならぬ曽慶紅である。他の内容から見ても、史実を知らない最近の若者が捏造したものとしか思えない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2020/1013/c1001-31889182.html <FA> 2022/05/31 16:07 GRICI 「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。なにやら習近平が失墜し李克強が格上げされているというデマが横行している。そもそも中国の政治体制を知らない人たちの願望でしかないが、いかにして中共中央総書記が選出されるかを解説したい。◆習近平失脚への願望なにやらアメリカ発の習近平失脚願望がデマを流し、日本の一部の「中国研究者」がそれに飛びついた。「老灯(Lao-deng)」という中国人(※2)で、彼はツイッターで(※3)さまざまな反中反共情報を流している。特に5月5日に流した「習下李上(習近平が下馬し、李克強が上位に立つ」(※4)は、一部のネットユーザーを喜ばせて、「習下李上」という言葉がもてはやされている(中国語では下野を下馬と言うので、敢えて日本語訳に「下馬」を使った)。少し前まで、この役割を果たして人気を得ていたのがアメリカに逃亡した郭文貴という中国人で、彼は偽情報を創りあげては「これは中国の国家安全関係者から得た情報だ」と宣伝し、「金づる」を求めていた。そこに飛びついたのがトランプ政権時代初期に主席戦略官を務めたことがあるスティーヴン・バノンで(7ヶ月間で解任)、筆者はバノン氏から何度か取材を受けたりした関係から、バノン氏には「郭文貴とつながるのは危険だ」と伝えたが、二人とも別々の理由で逮捕されたりして、郭文貴は消えた。すると、次の郭文貴になりたいという海外(特にアメリカ)在住の華人華僑が現れる。自分は中国政府のインサイダー情報を持っているとして、大衆が喜びそうなデマを流して金を稼ぐのである。◆李克強は習近平以上にガチガチの中国共産党員そういった情報に飛びついて「尾ひれ」を付けたがるのが、日本の一部の「中国研究者」であり、日本メディアだ。これは「中国庶民の不満の表れだ」とか「背後には反習近平勢力」とか「権力闘争」だとか、言いたい放題だ。しかし、勘違いしてはいけない。李克強はれっきとした「中国共産党員」で、しかも「ガチガチ」である。「がり勉さん」なので、融通が利かない。習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはないのである。日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違いして「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜んでいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をしているだけで、そこには寸分たりとも「個人の意思」はない!「個人の言葉」は皆無なのである。「分工」と言って、チャイナ・セブンの中で決めたことを、誰がどのような形で発表し実行していくかという「職掌」に沿って動いているだけである。おまけに李克強はすでに今年の全人代閉幕後の記者会見で「これが最後となる」(※5)と、自ら「退官」の意思を表明した。これも、そのようなことを公表して良いか否かは、事前にチャイナ・セブンで決めてから意思表明しているのだ。加えて、李克強は軍事委員会(※6)において、現在はいかなる職位も持っていない。したがって、あらゆる側面から見て、習近平に代わって李克強が今年秋に開催される党大会で「中国共産党中央委員会(中共中央)総書記」に選ばれる可能性はゼロである。「「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/c/%E8%80%81%E7%81%AF(※3)https://twitter.com/laodeng89(※4)https://www.youtube.com/watch?v=yeqsxxw7aOc(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2022-03/11/content_5678592.htm(※6)http://www.mod.gov.cn/leaders/index.htm <FA> 2022/05/31 16:05 GRICI キッシンジャーがバイデン発言を批判「台湾を米中交渉のカードにするな」【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。「一つの中国」コンセンサスで国際秩序を形成したアメリカのキッシンジャー元国務長官は、バイデン大統領の台湾防衛発言を受けて、「二つの中国」をカードにすべきではないとダボス会議で演説した。◆ヘンリー・キッシンジャーが「台湾を米中交渉のカードにするな」世界の政財界のリーダーが集まるダボス会議が、5月22日から26日の日程でスイスのダボスで開催されているが、アメリカのキッシンジャー元国務長官が、23日、リモート講演を行った。講演では「台湾を米中交渉のカードにすべきでない」(※2)という趣旨のことを語っている。これは来日したバイデン大統領が台湾有事に関して記者会見で言った「台湾防衛にアメリカが関与する」という趣旨の言葉を受けて話したものである。バイデン発言の詳細に関しては5月24日のコラム<バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?>(※3)に書いた通りだが、それに対してキッシンジャーは概ね以下のようなことを言っている。・ワシントンと北京は、台湾を中心にすえたような緊張した外交関係を避ける道を求めなければならない(=米中は台湾をカードにして対立を深めることをやめなければならない)。・世界の二大経済大国が直接対決を避ければ、それは必ず世界平和に貢献することになるだろう。・アメリカは「ごまかし(ペテン)」や「(ひっそりと)徐々に進める方法」によって、何やら「二つの中国」まがいによる解決を展開すべきではない。中国はこれまでと同じように、忍耐し続けていくだろう。報道元のアメリカ大手メディアCNBCは、バイデンの発言は、台湾に対するワシントンの長年の「戦略的曖昧さ」を否定するように見えたが、しかしホワイトハウスはすぐに「台湾問題に対するアメリカの政策は変わっていない」と火消しに追われていると報道している。◆キッシンジャーが言う「二つの中国」とは何かキッシンジャーが言うところの「二つの中国」とは何かを、少し具体的に説明しなければならない。まず、その前提となる「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などが、何を指しているかを深堀してみよう。それは5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※4)で書いたように、アメリカ政府が台湾関連のウェブサイトから、「ひっそり」と・は中国の一部である。・アメリカは台湾の独立を支持しない。という二つのキーフレーズを削除したことを指している。なぜこれが、キッシンジャーが言うところの「ごまかし(ペテン)」とか「ひっそりと徐々に進める方法」に相当するかというと、台湾関連のウェブサイトから「ひっそりと」削除しただけであって、誰もそのことに気が付かなかったら、気が付かないままに月日が過ぎていったかもしれないからだ。じわーっと変化させておいて、「削除しましたよ」とは公表しない。誰かが気が付いたら仕方ないが、言い訳はまだできるようにしてある。それは「一つの中国(one China)」という言葉だけは残してあるからだ。1992年に共通認識として、中国大陸と台湾政府の間で確立された「九二コンセンサス」では、「一つの中国」を中国大陸側が「中華人民共和国を指している」と認識し、台湾政府側が「中華民国を指している」と心の中で位置付けるのは「自由だ」という、共通認識なのである。要は「中国は一つしかない」と認識するのであれば、それでいい、という、妥協的とも偽善的ともいえる「九二コンセンサス」なのである。この解釈に関しては、筆者は90年代半ばに国務院台湾弁公室の主任を取材し、長時間にわたって議論をしたので、まちがいないだろう。そこでアメリカ政府のウェブサイトには「一つの中国」という言葉だけは残しておけば、これは・中国大陸から見れば「中華人民共和国」・台湾政府から見れば「中華民国」という「九二コンセンサス」精神を考えると、台湾は中国の一部である。アメリカは台湾の独立を支持しない。を削除しさえすれば、「二つの中国」を暗に認めることにつながる。まるで「手品のような手段」なので、元国務長官だけあり、キッシンジャーは、この「インチキ性」と「まやかし」に敏感に気が付いたのだろう。些末なことで申し訳ないが、某元外交官だった評論家は、筆者のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※5)に書いてある論理を「非常に浅い読み」と批判しておられるようなので、その方は是非とも、今回のこのコラムに書いてあるキッシンジャーの「二つの中国」という言葉を「深く読み取り」、なぜキッシンジャーが、「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などという言葉を使わなければならなかったのかを「深く読み取って」いただきたいものだと思う。アメリカ政府が「一つの中国」だけは残したのは、「九二コンセンサス」があるからだ。台湾政府が勝手に「中華民国である」と認識することが許される仕組みになっているのである。なお、バイデン政府が次にやる手段は「削除」ではなく、「明示する」という段階に入る。すなわち「アメリカは台湾の独立を支持する」と明確に書くという意味である。この段階に至るにはまだ少し長い時間がかかるだろう。それをキッシンジャーはgradual process(ゆっくりと漸進するプロセス)という言葉で表現している。私たちは、こういった微妙な変化に鋭敏に気が付いて米中台全体の動きを俯瞰的に観察していかなければならないのではないだろうか。それが日本国民を真に守ることにつながると、固く信じる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.cnbc.com/2022/05/23/kissinger-says-taiwan-cannot-be-at-the-core-of-us-china-neogitations.html(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220524-00297585(※4)https://grici.or.jp/3125(※5)https://grici.or.jp/3125 <FA> 2022/05/26 10:21 GRICI バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国が武力攻撃するのは「台湾政府が独立を宣言した時」のみでは、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとするのは、どういう時かというと、「台湾政府が独立を宣言した時」である。それをすれば、2005年に制定された「反国家分裂法」が作動する。それを知り尽くしているバイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、アメリカ政府ウェブサイトの台湾関連事項から「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、ひっそりと削除した(詳細は5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※2)。また、なぜ習近平は台湾政府が独立宣言でもしない限り台湾を武力攻撃しないかに関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述した)。こうして、中国を刺激して、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだとしか、言いようがない。◆中国の反応は?肝心の中国は、台湾に関するバイデン発言に、どう反応しているかを少しだけご紹介したい。冒頭に書いたように、中国外交部は激しいバイデン批判を発表し、また中国共産党および中国政府系メディアも強い批判を展開はしているものの、基本的に「中国はアメリカの、その手には乗らない」といった、割合に冷めた論評も多く、中国全土が激怒しているというような状況にはない。むしろ「台湾が政府として独立を宣言」したら、それこそが「最も大きな現状変更」で、中国にとっては「宣戦布告」に相当すると位置付けている。だから台湾関係法にあるように「平和的手段」ではなく「武力的手段」で中国が台湾統一を成し遂げる方向に中国を持っていくには、「台湾の独立を煽る」のが最も早い近道であるとバイデンが考えていると、中国はバイデンの言動を判断しているのである。つまり、「どうすれば中国を最も怒らせることができるか」、「どうすれば中国に武力行使を先にさせるか」と、バイデンは考えているということだ。だから中国の主張には、「バイデンの手には乗るな。中国はロシアではない」というのが数多く見られる。と同時に、バイデンの言動と、アメリカ政府のウェブサイトから「台湾の独立を支持しない」を削除するといった一連の行動を危険視し、「台湾を独立させようとしているのはアメリカだ」と激しく批難している。しかし、そもそも中国(=中華人民共和国)を国連に加盟させ、「中華人民共和国」を「唯一の中国」として認め、「中華民国」(台湾)を国連から追い出したのはアメリカではないか。ニクソンの大統領再選のために、キッシンジャーを遣って忍者外交をさせ、ソ連を追い落とそうとした。今度はバイデンの大統領再選のためにロシアを追い落とし、全世界に災禍を与えている。まんまとバイデンの罠に嵌ったプーチンは、「愚か」であり「敗北者でしかない」のだが、「バイデンの仕掛けた罠」を正視してはならない同調圧力が日本にはある。犠牲になるのはやがて日本だということに気が付いてほしいと切に望むばかりだ。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220512-00295668 <FA> 2022/05/25 10:29 GRICI バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。23日、バイデン大統領はアメリカに台湾防衛義務があるような発言をしたがホワイトハウスは直ぐに「変化なし」と否定。失言取り消しはこれで3回目だ。ミリー統合参謀本部議長も米議会で否定している。しかし—。◆記者会見でのバイデン大統領の発言23日、バイデン大統領は岸田首相との首脳会談の後の記者会見で記者の質問に答えて「台湾防衛に関してアメリカが関与する」という趣旨の回答をした。できるだけ正確に読み解くために、二次情報ではなく、ホワイトハウスのウェブサイト(※2)を見てみると、当該部分は以下のようになっている。記者:簡単にお聞きします。明らかな理由により、あなたはウクライナの紛争に軍事的に関与したくなかった。もし台湾で同じような状況が起きたら、あなたは台湾を守るために軍事的に関与する用意がありますか?バイデン:はい。記者:本当ですか?バイデン:それが私たちのコミットメント(約束)ですから。えー、実はこういう状況があります。つまり、私たちは一つの中国原則に賛同しました。私たちはそれにサインし、すべての付随する合意は、そこから出発しています。しかし、それが力によって実現されるのは適切ではありません。それは地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたことと類似の、もう一つの行動になるでしょう。ですから、(アメリカには)さらに強い負担となるのです。これは今までアメリカが台湾に関して取ってきた「戦略的曖昧さ」と相反するものだとして、日本のメディアは大きく報道した。その日の夜7時のNHKにニュースでは、「失言でしょう」と小さく扱ったが、夜9時のニュースでは「大統領が言った言葉なので重い」という趣旨の解説に変えていたように思う(録画しているわけではないので、そういうイメージを受けたという意味だ)。ことほど左様に、日本のメディアだけでなく、欧米メディアも、また中国メディアでさえ、外交部の激しい批難を伝えながらも、「又しても失言なのか、それとも本気なのか」といったタイトルの報道が目立つ。というのも、バイデンは2021年8月と10月にも、米国には台湾防衛義務があるという趣旨の見解を述べたことがあるからだ。しかし、そのたびにホワイトハウスの広報担当者らは「火消し」に追われ、「アメリカの台湾政策に変更はない。台湾が自衛力を維持できるように支援するだけだ」と軌道修正した経緯があるからだ。◆ミリー参謀本部議長が米議会で「台湾人による代理戦争」を示唆全世界が今般のバイデン発言を重く受け止めると同時に、「あれは失言だ」という報道が、それ以上に多いのは、バイデンに2回も「前科」があり、今回は「3回目になる」からだけではない。実は今年4月7日、ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で長時間にわたる回答をしており(※3)、その中で以下のようなことを述べている(要点のみ列挙)。1.台湾の最善の防衛は、台湾人自身が行うことだ。2.アメリカは、今般ウクライナを助けるとの同じ方法で台湾を助けることができる。3.台湾は島国であり台湾海峡があるので、防御可能な島だ。4.アメリカは台湾人が防御できるように台湾を支援する必要がある。5.それが最善の抑止力で、中国に台湾攻略が極めて困難であることを認識させる。(要点はここまで)以上、「1」と「2」から、アメリカ軍部は台湾が中国大陸から武力攻撃された場合は、ウクライナと同じように「台湾人に戦ってもらう」という、ウクライナと同じ「代理戦争」を考えていることが読み取れる。バイデンが言っていたように「ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない」のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。またバイデンが「ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない」と言っていたが、これも「ロシア」を「中国大陸」に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。すなわち、中国には「核」があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである。しかし「3」に書いてあるように、武器の売却などを通して台湾が戦えるように「軍事支援」する。これも、ウクライナにおける「人間の盾」と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、「台湾国民に戦ってもらう」という構図ができている。◆台湾関係法には、どのように書いてあるのか?そこで、バイデン大統領の3度にわたる「アメリカには台湾を防衛する義務がある」という趣旨に近い「台湾防衛義務」発言が、単なる失言なのか、それとも何かしらのシグナルを発しているのかに関して考察するために、台湾関係法(※4)を詳細に見てみよう。台湾関係法のSec. 3301. Congressional findings and declaration of policy( 議会の調査結果と政策宣言)の(b) Policy(政策)の(3)~(5)には、以下のような文言がある。(3)中華人民共和国との外交関係を樹立するという米国の決定は、台湾の将来が平和的な手段によって決定されるという期待に基づいていることを明確にすること。(4)ボイコットや禁輸、西太平洋地域の平和と安全への脅威、米国への重大な懸念など、平和的手段以外の手段で台湾の将来を決定するためのあらゆる努力を検討すること。(5)台湾に防御的性格の武器を提供すること。(6)台湾の人々の安全、社会的または経済的システムを危険にさらすような強制またはその他の形態の強制に抵抗するためのアメリカの能力を維持すること。また台湾関係法のSec. 3302. Implementation of United States policy with regard to Taiwan(台湾に関する米国の政策の実施)の(c)United States response to threats to Taiwan or dangers to United States interests(台湾への脅威または米国の利益への危険に対する米国の対応)には、以下のような文言がある。——大統領は、台湾の人々の安全または社会的または経済的システムへの脅威と、それから生じる米国の利益への危険(があった場合は、それ)を直ちに議会に通知すること。 大統領と議会は、憲法の手続きに従って、そのような危険に対応するための米国による適切な行動を決定するものとする。(引用ここまで)これらから考えると、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとすれば、アメリカはそれ相応の手段を取ると政策的に位置づけられていることが分かる。となれば、バイデンの発言は失言ではなく、意図的なものであることが読み取れる。「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/05/23/remarks-by-president-biden-and-prime-minister-fumio-kishida-of-japan-in-joint-press-conference/(※3)https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/22-26_04-07-2022.pdf(※4)http://www.taiwandocuments.org/tra01.htm <FA> 2022/05/25 10:27 GRICI バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(1) ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆産経新聞が単独取材したバルマ駐日インド大使の発言とその解釈5月19日、産経新聞はバルマ駐日インド大使を単独取材し、<バルマ駐日インド大使 中国念頭に「覇権主義に反対」>(※2)という見出しで報道した。それによればバルマ大使は概ね以下のように述べたという。1. 海洋進出を強める中国を念頭に「覇権主義的な動きには反対だ」。2.日米豪印4ヵ国協力枠組みクアッドは「軍事同盟ではなく、さまざまな問題を協議する場だ」。3.台湾有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが重要だ。4.ロシア制裁に関して「インドは独立した立場を取っている。経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」と説明。外交と対話による停戦を求めていくべき。(引用ここまで)これらに関して筆者なりの解釈を以下に示したい。「1」に関して:「海洋進出を強める中国を念頭に」という言葉は、産経新聞の記者の方が位置付けた言葉だろうと考えられ、インドとしては「中国であれアメリカであれ、覇権主義的動きには反対」という立場なのではないかだろうか。「2」に関して:インドが軍事的に最も仲が良い国はロシアなので、クワッドが軍事同盟的性格を持っているなら、ロシアと仲が良い中国に対抗するようなグループには入りたくないという意味あいを持つことになろう。「3」に関して:5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※3)に書いたように、アメリカ政府は台湾関連のウェブサイトから、ひそやかに「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾独立を支持しない」という文言を削除している。中国の逆鱗に触れる行動をしているのだ。つまり「台湾有事を発生させるための仕掛け」を始めている。したがって、バルマ大使の「有事が起きないようにする」という言葉はアメリカに向けて言ったものと推測することができる。「4」に関して:インドはロシアに対して制裁するどころか、武器はソ連時代からすべてソ連から、そしてソ連崩壊後もロシアから購入してきたので、対ロシア制裁など、インドにとってはとんでもない話だ。アメリカはそれを崩そうと、何年も前から、アメリカの武器を購入し、アメリカ製軍事システムの中に入るようインドを説得してきたが、なかなか実現しなかった(たとえば2007年には民主党のリーバーマン上院議員や米太平洋軍司令官のキーティングがインドを訪問してインドを説得し、同年9月に、日米印豪およびシンガポールとのっ合同海軍演習にせいこうしているがアメリカ製兵器購入にまでは至っていない)。それでも2019年2月15日にトランプ政権で国家安全保障問題担当だったボルトン補佐官がインドのカウンターパートに電話して「インドがパキスタンに一方的に侵攻しても、国連安保理でインドの側に立って、アメリカが拒否権を使ってあげるので、アメリカ製の武器を購入しろ」と執拗に迫って、遂にインドはやむなく一回だけ、アメリカから武器を購入したことはある(詳細は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』p.188‐192「露印は軍事的緊密事」)。しかし、同書のp.191に書いたように、ロシアのウクライナ侵略が始まったあと、アメリカが天然ガスや石油などのエネルギー資源に関して徹底したロシア制裁を呼びかける中、インドはプーチンと仲良く話し合い、ロシアからの原油購入などを増やし、おまけにロシアのルーブルとインドのルピーでの取引を進めている。バルマ大使の「インドは独立した立場を取っている」は、まさにこういった「アメリカに同調しない、独立した立場」を指しているとしか解釈のしようがない。またバルマ大使の「経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」という言葉は「アメリカ批難」以外の何ものでもない。アメリカはロシアや中国だけでなく、自分の気に入らない国にはすぐに経済制裁を科す。なぜ国連を中心とした国際秩序を、アメリカだけは守らなくていいのか、なぜアメリカだけは自国の利益のために勝手に相手国に制裁を科して、世界経済のサプライチェーンを乱し、地球上のすべての人々に災禍をもたらしても許されるのか。それは誰もが素直に疑問に思うところだろう。それは「ドル基軸通貨体制」があるからで、なぜそれが可能かと言えば「ニューヨーク・ウォール街での業務を必須の条件とする大手銀行に、米国の意向に逆らえば銀行の免許没収という脅しを突き付けているからだ」と、杉田弘毅氏が『アメリカの制裁外交』で書いておられる。またバルマ大使は「外交と対話による停戦を求めていくべき」と言っているが、これは習近平も言い続けている言葉で、習近平の場合は2月25日にプーチンに直接電話で伝えている。つまり、インドの姿勢は中国と同じなのだ。逆に「ウクライナ戦争を停戦させたくない」と思っているのはアメリカであることを、世界は知っている。それは4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>(※4)に書いた通りで、事実その翌日の25日にアメリカのオースティン国防長官がウクライナを訪問した後、ポーランドにおける記者会見で「この戦争はロシアが二度と立ち上がれなくなるのを見届けるまで続ける」という趣旨のことを言っている。ということは、バルマ大使のこと言葉も、深く考察すれば、「アメリカを非難した言葉」と解釈することができるのではないだろうか。「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/19bbeada4948c61542ab7668556f6a69eb8caac1(※3)https://grici.or.jp/3125(※4)https://grici.or.jp/3082 <FA> 2022/05/23 16:41 GRICI バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2) ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆王毅外相が主催したBRICS外相会談におけるインドの姿勢5月19日、議長国中国の王毅外相が主催して、「ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ」の外相がビデオ会議でBRICS外相会議を開催した。そのときに出された共同声明(※2)の中の関連項目だけを拾い上げると、以下のようになる。一、外相たちは、多国間主義を再確認し、国連憲章の目的と原則を基礎とした国際法を支持する。主権国家が平和を維持するために協力する国際システムにおける国連の中心的役割を支持する(三条関連)。二、外相たちは、国連安全保障理事会、国連総会などでウクライナ問題について表明された国別の立場を確認しあった。外相たちはロシアのウクライナとの(停戦)交渉を支持した(十一条関連)。三、外相たちは、人権と基本的自由を促進し保護するために、国内においてだけでなく、全世界レベルで各国が全ての人類に対して平等な待遇と相互尊重の原則に基づいて協力し、人類運命共同体を構築すべきであることを再確認した(二十一条関連)。四、外相たちはBRCSメンバーを増やしていくことを支持した(二十四条関連)。(以上、共同声明から関連項目の概略を引用)そもそもBRICS外相会議にはロシアのラブロフ外相が堂々と参加しているわけだから、ロシアの主張も取り入れていることは明白で、その上で共同声明を出せたというだけで、すでに中国だけでなくインドもまた基本的にロシアに共鳴していることになる。軍事攻撃に関しては中国もインドも賛同はしてないだろうが、かと言って、それを激しく非難するということはしていない。その事実を前提として少しだけ解釈を付け加えると以下のようなことが言える。「二」に関して:停戦交渉を続けるべきだという点で一致しており、アメリカのように「ロシアがくたばるまで、叩きのめしてやれ」という思惑とは反対側にいる。しかし、私見を述べるならば、軍事侵攻をしているのはロシアなのだから、ロシア自身が侵略行為をやめれば済む話で、ロシア以外のBRICSメンバー国がロシアに対して「侵略をやめろ!」と言うべきだと思うが、それを「言わない」あるいは「言えない」ところに問題があり、「だらしない」としか言いようがない。「一と三」に関して:これは「一国一票」の平等性を以て、国連で決めていくべきで、アメリカ一国が他国を制裁したり、「小さなグループ」を作って「第三国を排除する」という排他的論理で行動すべきではない、と主張していることを意味する。中国ではBRICS外相会議に際して、数えきれないほど多くのメッセージが出されているが、たとえば王毅が言った< 「小さなサークル」は世界が直面している「大きな挑戦」を解決できず、「小さなグループ」はこんにち世界が面している「大きな変動する情勢」に適応できない>(※3)などに現れている。しかも共同声明で、習近平の外交する—がんである「人類運命共同体」を入れたのは、BRICSメンバー国が、「中国を支持し、中国の外交姿勢に賛同している」ことを意味している。「四」に関して:これはBRICS外相会議における王毅の演説の中の一つ(※4)に表現されている通り、「新興市場や途上国との連帯と協力」を強化していこうという主張で、世界は先進国によってのみ動かされているのではなく、先進国以外の国の数の方が圧倒的に多いので「BRICS+」を増やしていこうという論理に基づいた表現である。◆インド外交部の発表インド外交部は今般のBRICS外相会議に関して以下のような発表をしている(※5)。——外相たちはウクライナの状況について話し合い、ロシアとウクライナの間の(停戦)交渉を支持した。 外所為たちは、紛争がエネルギー安全保障や食料安全保障に与える影響に懸念を表明した。外相たちは、国際機関および国連とその安全保障理事会を含む多国間フォーラムにおいて、発展途上国がグローバルガバナンスにおいて重要な役割を果たすことができるように、改革を推進し、開発途上国の代表を増やすことを求める声を支持した。(引用ここまで)すなわち、インドはアメリカの一極主義と制裁外交に反対しているということになる。◆アメリカの突然の対インド大型軍事支援ところが、アメリカはインドのこの姿勢を変えさせようと、なんとインドに対して5億ドル(640億円)の軍事援助プランを準備していることがわかった。5月18日のインドのHindustan Times(※6)が伝えた。どうやらアメリカは、インドのロシアに対する武器依存を減らすために、軍事援助パッケージを準備しているようで、関係者の話によれば、検討中のパッケージには5億ドル相当の軍事支援が含まれているとのこと。取引がいつ発表されるか、どのような武器が含まれるかは、今はまだ不明のようだ。この取り組みは、ウクライナ侵略でロシア批判を躊躇しているインドに対して、バイデン大統領がインドを長期的な安全保障パートナーとして培っていこうとする大きなイニシアチブの一環だと、匿名のアメリカ高官が言ったとのことだ。あのモディ首相が、「金」で心を動かすか、じっくり観察したいものである。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689666.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689626.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689631.shtml(※5)https://www.mea.gov.in/press-releases.htm?dtl/35330/Meeting+of+BRICS+Ministers+of+Foreign+AffairsInternational+Relations(※6)https://www.hindustantimes.com/world-news/us-to-offer-india-500-million-in-military-aid-to-reduce-dependence-on-russia-101652853517651.html <FA> 2022/05/23 16:39 GRICI 日中外相テレビ会談内容の日中における発表の差異は何を物語るのか?【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月18日、日中外相会談が行われたが、とても同じ会談とは思えないほど、自国に都合のいいことだけを並べており、日中双方で発表内容が大きく異なる。その差異から何が読み取れるか考察してみよう。◆日本の外務省による発表5月18日、午前10時から約70分、林芳正外相と王毅外相がテレビ会談を行った。日本の外務省は、その会談内容に関して林外相が概ね以下のように言ったと発表している(※2)。リンク先に日本語があるので、要点のみ略記する。1.日中は「建設的かつ安定的な関係」という重要な共通認識を実現していくべき。2.日本国内の対中世論は極めて厳しい。互いに言うべきことは言いつつ対話を重ね、協力すべき分野では適切な形で協力を進め、国際社会への責任を共に果たしていくべき。その上で、尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性。在中国日本大使館員の一時拘束事案及び中国における邦人拘束事案について。日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃を強く求めた。3.新型コロナによる様々な影響がある中で、在留邦人の安全の確保や日本企業の正当な経済活動の保護等について中国側の適切な対応を要請。4.ウクライナ情勢について、ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章を始め国際法の明確な違反であり、中国が国際の平和と安全の維持に責任ある役割を果たすよう求る。北朝鮮については、非核化に向け国際社会が一致して対応する必要がある。拉致問題の即時解決に向けた理解と支持を含める。◆中国外交部による発表一方、中国の場合は二段階に分けて発表し、実に激しい。まず18日の14:56の情報として、外交部は「王毅が日米の対中干渉に関して立場を表明した」(※3)というタイトルで、以下のように書いている。——2022年5月18日、国務委員兼外相の王毅は、日本の林芳正外相とのビデオ会議で、日米の中国に対する否定的な動きについて立場を示した。日本は日米印豪「クワッド」首脳会談を主催しようとしている。警戒すべきは、アメリカの指導者(バイデン)がまだ来日する前から、日米が連携して中国に対抗していこうという論調がすでに悪意に満ちて騒々しく広がっていることだ。日米は同盟関係にあるが、日中は平和友好条約を締結している。日米二国間協力は、陣営の対立を扇動したりしてはならないし、中国の主権、安全保障、開発の利益を損ねたりすることなど、さらにあってはならない。日本側が歴史の教訓を学び、地域の平和と安定を目指し、慎重に行動し、他人の火中の栗を拾いに行くようなことをせず、隣国を自国の洪水のはけ口にする(自分の利益を図るために災いを人に押しつける)ような道を歩まないことを願っている。(引用ここまで)中国の外交部は、その15分後の15:11に、日中外相テレビ会談の全体に関して、以下のように発表している(※4)。——王毅は、今年は日中国交正常化50周年であり、二国間関係の発展の歴史において重要な一里塚だと述べた。 両首脳は昨年、新時代の要求に合致した日中関係の構築を促進する上で重要な合意に達した。王毅は、目下の急務は、以下の3つのことを成し遂げることだと指摘した。一、二国間関係の正しい方向をしっかりと把握すべきである。 中国と日本の4つの政治文書は、二国間関係の平和的、友好的な協力の方向性を定め、両国がパートナーであり、相互に脅威をもたらさないという一連の重要な原則的合意を築いた。 両国の関係が複雑かつ深刻であればあるほど、中国と日本の4つの政治文書の原則の精神を揺るがすことなく、初心を忘れてはならない。 我々は、正しい認識を確立し、積極的に相互作用を行い、国交正常化50周年を計画し、あらゆるレベルの様々な分野での交流と協力を強化し、前向きな世論と社会環境を醸成すべきである。二、二国間関係の前進の原動力を十分に満たすべきである。 経済・貿易協力は、二国間関係の「バラスト(船底に置く重り)」と「スクリュー」である。中国が相互循環の新しい開発パターンの構築を加速することは、日本と世界にとってより多くの機会を提供するだろう。双方は、デジタル経済、グリーン低炭素、気候変動管理などの分野で協調と協力を強化し、より高いレベルの相互利益とウィンウィンの状況を達成するために、協力の可能性を深く掘り起こすべきである。三、干渉要因を迅速に排除すべきである。 台湾など、中国の核心的利益や主要な懸念に関する最近の日本の否定的な動きは、一部の政治勢力が中国を誹謗し、相互の信頼を著しく損ない、二国間関係の根幹を揺るがしている。 歴史の教訓を忘れるな。日本側は、これまでの約束を守り、両国間の基本的な信義を守り、日中関係を弱体化させようとする勢力を許さず、中国との国交正常化の50年で達成された貴重な成果を維持すべきである。林芳正(氏)は、日本と中国は広範な共通の利益を共有しており、協力の大きな可能性と幅広い展望を持っていると述べた。今年は日中外交正常化50周年を迎えるが、両国首脳の重要な合意に基づき、建設的かつ安定的な二国間関係の構築に努めなければならない。日本側は、中国と志を共にして、国交正常化の初心を忘れず、率直な意思疎通を維持し、誤解や誤った判断を軽減し、デリケートな問題には適切に対応して、政治的相互信頼の強化を図りたいと思っている。(中国外交部からの引用はここまで)中国の外交部が二つに分けて情報発信したことから読み取れるのは、ともかく一刻も早く「クワッド」に関する王毅の発言を公表したかったことと、これこそが中国側が今現在、最も言いたいことなのだろうということだ。日本の外務省の発表とは、何という相違だろう。とても、これが同じ会談の内容だとは思えないくらい異なる。一致しているのは日本外務省の「1」の部分だけくらいだろうか。中国側の発表を見ない限り、いま日中が、どのような関係にあるのかということは見えてこない。◆中国は数回にわたり北朝鮮に警告しているもう一つ、注目すべきことがある。実は中国は北朝鮮に数回にわたり警告を出していたのだ。5月11日付の東京新聞(※5)は、以下のような報道をしている。——韓国の情報機関・国家情報院トップの朴智元氏が韓国紙のインタビューに明かしたところによると、中国は最近、数回にわたり北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した。北朝鮮メディアは4日と7日のミサイル発射に言及しておらず、中国に一定の配慮をした可能性もある。中国の王岐山国家副主席は10日午後、尹氏(新大統領)と会い「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和を推進する」との立場を伝えた。それでも、専門家の間では中国の北朝鮮への影響力にも限界があるとの見方が強い。朴氏は、バイデン米大統領が訪韓する20日までに北朝鮮が核実験に踏み切るとの見方を示している。(東京新聞からの引用はここまで)この情報に関して、中国大陸のネットで検索したが、ヒットする情報はなかった。つまり、中国では、「中国が再三にわたり、北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した」ことに関しては、公表しないようにしているということになる。林外相は、この事実を把握した上で発言しているのか否か分からないが、少なくとも王毅外相はこの事実に関して、会談でも何も言わなかったものと推測される。5月18日のコラム<中露は軍事同盟国ではなく、ウクライナ戦争以降に関係後退していない>(※6)に書いたように、中朝は軍事同盟を結んでおり、北朝鮮の無謀な軍事行動は、中国にとっては「迷惑な行動」で、中国は中朝友好協力相互援助条約を破棄したいと何度か望みながら、結局のところ破棄した場合のディメリットもあり、破棄できずに今日まで至っている。それでも北朝鮮が自暴自棄にならないよう、習近平は北への経済的支援を絶やしてない。習近平が、ロシアの軍事行動だけでなく、北朝鮮の軍事行動に関しても、何とか抑えたいと相当に窮地に追い込まれていることを、「日本では報道されない中国情報」(および東京新聞の情報)の中に垣間見ることができる。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000872.html(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688155.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688173.shtml(※5)https://www.tokyo-np.co.jp/article/176528(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220518-00296586 <FA> 2022/05/20 10:39 GRICI 習近平はウクライナ攻撃に賛同していない——岸田内閣の誤認識【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田首相が電話会談でプーチン大統領に「ウクライナ侵攻反対」を唱えたことに関して、同席者がそれを以て「中国とは逆のメッセージ」であると位置付けたようだが、習近平はウクライナ侵攻には賛同していない。中露蜜月以上に中国とウクライナの蜜月に注目すべきだ。◆「岸田‐プーチン」会談同席者の発言岸田首相は17日夜、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。岸田首相の「力による一方的な現状変更ではなく、外交交渉で受け入れられる解決方法を追求すべきだ」という言葉に対して、 プーチンは「ウクライナを侵略するつもりはない。対話での解決を望む」 と応じたそうだ。その後、会談の同席者が以下のようなことを言ったと産経新聞(※2)が伝えている。—— 同席者は「ウクライナ侵攻に反対する立場をプーチン氏に伝えたアジアの首脳は日本だけだ。中国が逆のメッセージを出している中で意義があった」と振り返る。文脈から行けば、「ウクライナ侵攻反対」の「逆のメッセージ」とは、「ウクライナ侵攻賛同」ということになろう。「岸田‐プーチン」電話会談に同席したのだから、おそらくロシア問題に詳しい側近であると考えられる。そのような官邸関係者が、本気でこのようなことを考えているのだろうか?もしそうだとすれば、国際情勢を分かっていないにもほどがあると言わざるを得ない。◆中国とウクライナは仲良しで、ウクライナの最大貿易相手国は中国中国とウクライナは、旧ソ連が崩壊した時点から仲良しだ。これまで何度も書いてきたように、中国は旧ソ連が崩壊するのを待っていたかのように、崩壊と同時に一週間ほどで中央アジア五ヵ国を駆け巡り、1992年1月初旬には国交正常化を成し遂げていた。ウクライナは中央アジア五ヵ国には入ってないが、その勢いで中国は国交正常化を結ぶ国を増やしていき、ウクライナとも1992年1月4日には国交を樹立させている。以来、中国とウクライナは親密度を増し、国交樹立30周年の節目に当たる2022年1月4日には、習近平はウクライナのゼレンスキー大統領と祝電を交換している。2021年8月18日に中国商務部が発表した「中国はウクライナ最大の貿易国を保ち続けている」(※3)や中国国家統計局あるいは駐中国ウクライナ大使館などが発表したデータなどに基づけば、2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36.8%増で、輸入額は25.2%増と、いずれも20%を超える伸びを示し、輸出、輸入ともに過去最高となった。また2020年の両国間の貿易額は国交正常化後30年間で60倍以上に増えている。◆軍事的にも中国とウクライナの緊密度は高い中国とウクライナの緊密度は経済においてのみではない。あの中国「ご自慢」の空母第一号「遼寧」が、ウクライナから譲り受けたものであることは周知の事実だ。中国大陸のネットには「中国とウクライナの軍事協力を暴く:大量のウクライナの専門家が、ありったけの知識を授けるために中国にやってきた」(※4)という、2014年3月12日付の情報が残っている。このようなインサイダー情報を暴いてしまっていいのかと思うほど、ソ連崩壊後のウクライナの科学者たちの動きが生き生きと描かれている。また非常に新しい情報として、当時の事情を知っているであろう者(ハンドルネーム:孤影瀟湘)のブログとして、「200名のウクライナ専門家が中国に移住して、家賃免除で就業し、わが国の科学技術研究開発を支えている」(※5)という情報が今年2022年2月8日に公開されているのを発見した。それらによれば、こうだ。・旧ソ連時代のウクライナの軍事産業は実に輝かしいものだった。ウクライナの軍事産業は旧ソ連の軍事力の30%を占めていた。ウクライナの多くの企業や研究機関は、主に機械製造、冶金、燃料動力産業、ハイテク部門に集中し、特にロケット装置、宇宙機器、軍艦、航空機、ミサイルなどの軍事製品を生産することに特化していた。・ウクライナは世界第6位の戦略的弾道ミサイル生産国であり、世界最大のミサイルメーカーの1つもウクライナにあった。 旧ソ連の地対空ミサイルの62%、戦略ミサイルの42%を生産していた。ミサイル製造工場は、主として10個の核弾頭を搭載できるSS-18型戦略ミサイルを生産し、同時にSS-24型ミサイルや、その改良型であるSS-25鉄道車両搭載(発射台移動式)弾道ミサイルをも生産していた。・しかしソ連崩壊と同時にこれらの世界トップクラスの技術者を養っていく力はウクライナには無くなり、多くの最高レベルの技術者が中国に非常に恵まれた好条件で呼ばれ、中国で活躍することになったのである。・ウクライナはまた軍艦を建造する能力が非常に高かった。 ソ連の6つの造船所のうち3つはウクライナの黒海沿岸にあった。特にニコラエフ港にある黒海造船所は、ソ連で空母を建造できる唯一の造船所だった。ソ連崩壊後、ウクライナの専門家の多数は、中国に厚遇されて迎え入れられただけでなく、航空母艦も低価格で中国に渡し、改修に関しても全面的に協力したのである(引用以上)。以上、いくつか拾い上げてみたが、要はソ連崩壊後のウクライナにおいて、かつて世界トップクラスのミサイルや空母の生産に携わっていたハイレベル技術者の多くは、中国に高給で雇用されて大事にされ、中国のミサイル開発や空母建設に貢献したことになる。習近平政権になってからは「軍民融合」国家戦略も推進し始めたので、中国の軍事力はアメリカのペンタゴンが「ミサイルと造船に関してはアメリカを抜いている」と報告書に書くほどまでに至っている。そのウクライナをロシアが侵攻するかもしれないという状況の中で、中国が侵攻賛成に回るはずがないだろう。岸田内閣の中に「侵攻反対」表明を「中国とは逆のメッセージ」を表明したと位置付ける「同席者」がいるとすれば、中国とウクライナの関係を何も知らない「国際政治の素人」が日本政治の中心にいるということになろう。2月4日に習近平とプーチンが対面で会談したあと、長い共同声明と多くの協定を発表し、少なくとも「NATOの東方への拡大には反対する」と表明したのは、中露両国のギリギリの妥協点である。プーチンにとっては、それを言ってくれさえすれば、最低条件は満たされたということになろう。◆各国首脳がプーチンと会談したがるのは「手柄」を自分のものにしたいからそもそもプーチンが「ウクライナ侵攻はしない」と最初から何度も言っているのに、アメリカが「いや、ロシアは必ずウクライナ侵攻をする」と繰り返し主張し、現にバイデン大統領などは「16日の朝3時に必ず侵攻する」と予言者めいたことを言ったので、世界は「2月16日の朝3時」をヒヤヒヤしながら待った。しかしその日、その時間、ウクライナでは何もこらず、至って平穏な日常が流れたので、バイデンはやはり「オオカミ少年」であると嘲笑された。するとバイデンは18日になると、今度は「いや、数日内に必ず侵攻する」と第二の時限付き予言を発して頑張っている。数日以内に起きないと、「いや、長期的に見ないとならない」として、結局今年秋のアメリカ大統領中間選挙まで引き延ばし、選挙を有利に持って行くつもりだろう。各国首脳がプーチンと会談したがるのは「自分がプーチンと話し合ったからこそ、プーチンはウクライナ攻撃を思いとどまったのだ」と自画自賛したいからとしか思えない。2月14日のコラム<モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音>(※6)に書いたように、プーチンはフランスとドイツしか相手にしておらず、特にマクロン首相には最大の信頼を置き、マクロンにプーチンの思いを伝えて、西側諸国を説得してもらおうと思っているようだ。バイデンには、「ロシアがウクライナ侵攻をしてくれないと困る」諸般の事情があるようで、これに関しては別途考察したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/57b285907da24b66dfcd452f297ee074980c8bab(※3)http://ua.mofcom.gov.cn/article/jmxw/202108/20210803189370.shtml(※4)http://mil.news.sina.com.cn/2014-03-12/0859768342.html(※5)https://www.163.com/dy/article/GVMA339R0543L370.html(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220214-00282069 <FA> 2022/02/21 10:51 GRICI モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平との面談後のプーチンに関して、クレムリンに近い「モスクワの友人」から非常に信頼のできる便りがあった。ウクライナへの武力侵攻の有無とともに、マクロンやバイデンに対するクレムリンの考え方をご紹介したい。◆習近平とプーチンの蜜月関係ロシアのプーチン大統領は、2月4日、習近平国家主席と会談して北京冬季五輪開幕式に出席するために北京を訪問した。まず北京にある釣魚台迎賓館でプーチンと面談した習近平(※1)は、2014年にプーチンの招きでソチ冬季五輪開会式に出席するためにロシアに行ったと指摘した上で、8年ぶりに北京で再会したことを、「プーチンが冬季五輪の契りを守ってくれた証し」として感謝した。プーチンは、中露関係は未だかつてなく緊密だと讃えた上で、二人は互いに両国の結びつきの強さと蜜月ぶりを確認し合った。面談が終わると、習近平はプーチンのためだけに用意した宴会にプーチン一行を招待し、春節の宴を共にすると同時に、多くの二国間プロジェクトに関して意見を交換した。夜、北京冬季五輪開会式出席が終わると、長文の共同声明「中華人民共和国とロシア連邦による新時代国際関係とグローバル持続的発展に関する共同声明」(※2)と協定締結(※3)が発表された。共同声明では中露両国間の「民主観、発展観、安全観、秩序観」に関する共通の立場が述べられている。特に注目すべきは安全観(安全保障問題に関する見解)に関連した件(くだり)で、ここには以下のような項目がある。・中露双方は互いの核心的利益、国家主権および領土保全をしっかりと支持し、両国の内政に対する外部干渉に反対する。・中露双方は両国の共通の周辺地域の安全と安定を損なう外的圧力に反対し、いかなる口実で主権国の内政に干渉する外力に対しても反対し、「ビロード革命」に反対する。・中露双方は、NATOの継続的な拡大に反対し、冷戦思想を放棄し(中略)、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する。・中露双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的聯盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する「インド太平洋戦略」が当地域の平和と安定に対してもたらすマイナスの影響を警戒する。すなわち中露両国は安全保障面においても完全に一致して臨むことを誓い合ったのである。米国を名指ししたことも注目に値する。なおプーチンは、2月6日には南オセチア共和国のビビロフ大統領との電話会談が控えているだけでなくトルコのエルドアン大統領へのメッセージ送付もあり、2月7日にはフランスのマクロン大統領との対面会談もあるので、習近平は気を利かせて4日の内に宴会を開き、開会式参加後すぐにプーチンが帰国できるよう便宜を図ったのだった。◆クレムリンのインサイダー情報その後のプーチンとモスクワの情況に関して、モスクワにいる、クレムリンに近い友人を取材したところ、わざわざクレムリン関係者に接触してくれて、豊富な情報を提供してくれた。その中には、公けにしてはならないという情報も含まれていたので、それを除いたインサイダー情報を、可能な限りご紹介したい。1.北京から帰国したプーチンは大変気分が高揚した様子で、かなり満足のいく北京訪問だったようです。2.フランスのマクロンとの面談は、ロシア側にとっては一定の意味があり、5時間にもわたって会談が成されました。大半の時間はプーチンによる情報分析、ロシアの立場のインプットであったようです。英米とは何を話しても、議論にすらならない低レベルの会談にしかならないので、知性エリートのマクロンとは会話が成立したとのことです。3.ロシアは、最早、米国との間では、いわゆる裏ルートとか秘密のホットラインが長年存在せず、本音で議論ができない相手と見做(みな)しており、この状況は誰が大統領になっても変わらないとの冷徹な見方の上に立って国際政治を考えているので、マクロンがここで登場してくれたのはありがたい話。もともと仏露は友好的な関係にありますし。マクロンに各種情報や分析をインプットすることによって、米国や欧州主要国へロシアの本音のようなものを伝えてくれる役割が期待できるのではないかと考えています。4.英米とはこういう会話ができないし、裏ルートもない。一方、ドイツとフランスは長年培ったルートは残っており、ドイツに関してはノルド・ストリーム2を産業界は簡単に諦めることはないだろうから、まだ議論や交渉の余地はあるとロシアは考えています。5.バイデン政権はロシアにとっては、(トランプ政権に比べると)よりましな政権であり、彼(バイデン)のメンツを潰すことはロシアとしても考えてはいません。彼(バイデン)は、とにもかくにも、トランプ時代の末期のように対話もなしに制裁をしたり、協定を破棄したりということはなく、交渉にはならないことが多いが、少なくとも対話が可能であり、米国が何を考えているかは、(トランプ時代と比べると)より分かり易い。6.米国の本質は大統領ではなく議会の力がより強いということだと、クレムリンは理解しています。トランプは、ロシアとはうまくやりたいと思っていたし、ロシアも交渉できる相手として期待したのですが、民主党を中心とする議会反露グループの圧力で何もできませんでした。曲がりなりにもバイデンは議会多数派を制していて、かつ、身内から足を引っ張られることもない。7.米英がここまでウクライナにこだわるのは、ウクライナの現政権が米国の操り人形だからです。この、「完全に米国の操り人形として使える現政権」が倒れると、同国への影響力が大幅に低下するからに他ならないとクレムリンは見ています。米英には、「米英の軍事基地をウクライナに置く長期的な目標」があり、ここでコテンパンにロシア軍にやられてしまうと、あらゆる意味で今までの活動が水泡に帰しかねないので、米英が積極的に介入しようとしているわけです。特に米国にとっては、どこかで紛争があることは良いことで、そうでなかったら、軍産複合体の利益が損なわれますので、第二次世界大戦後を見てもわかるように、米国は必ず世界のどこかで戦争を仕掛けています。戦争がないと、米国は困るのです。8.なお、米国がウクライナに供与した武器、例えばジャベリンなどは、一時代前のもので、ロシアは戦車戦など考えていないので、ほとんど無意味でしょう。古い武器をウクライナに売却できて、米国は何も損していない。軍事産業が儲かれば、米国全体の経済が潤いますから。◆「モスクワの友人」の私見「モスクワの友人」は、このたびわざわざクレムリン関係者と接触して下さった結果引き出した情報以外に、日ごろから培ってきた知見により、以下のような情報を「個人の見解」として提供してくれた。(1)ロシアはウクライナ側からの攻撃がない限り、武力侵攻することはないと思っています。で、そのウクライナ側からの攻撃もゼレンスキーがそこまでバカではないと思うので、英米にそそのかされても攻撃はしないだろうと思います。クレムリン筋も戦争の可能性はほぼ否定していましたが、もちろん、ウクライナの対応如何でもあると言っていました。(2)ウクライナ危機を煽っているのは明らかに米国ですが、本来の調停者であった独仏がミンスク合意(*注)の履行をウクライナ政府に迫っておらず、ウクライナ政府がこの履行に全く真剣に取り組まなかったことが原因です。だというのに、調停者でもない米国が中心になって武器供与を進めている、ということ自体がおかしいのです。(3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。(4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。(5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。取材の結果は概ね以上だ。「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638888.shtml(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638953.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml <FA> 2022/02/14 10:37 GRICI 二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆経済安全保障政策と矛盾する自民党岸田政権は経済安全保障に関して「やった感」を出すために、中国を念頭に、AI監視技術の輸出規制をする方針を示したようだが(参照:共同通信<AI監視技術の輸出規制へ、政府顔認証機器やカメラ、中国に懸念>)(※2)、顔認証技術において世界のトップを走っているのは、基本的に中国のセンスタイム(商湯科技開発有限公司)だ。中国といっても香港ではあるが、香港はあくまでも「中華人民共和国特別行政区」の一つなのだから、中国=中華人民共和国の管轄下にある。したがって、日本がそのような輸出規制をしても中国のレベルの方が上なので、経済安全保障を実行していることにはならない(センスタイムが顔認証技術における世界のトップであることはアメリカ国立標準技術研究所が実施した「写真が本人かどうかの認識」(※3)や「データベースを参照して人物を特定する認識」(※4)などに関するベンチマークテストの結果で証明されている)。岸田首相は「経済安全保障推進法」を制定すると公約し、今月17日から開かれる通常国会では当該新法案を提出することになっている。同法の具体的内容は、その後の検討で「機微技術を巡る特許の公開制限」や「サプライチェーンの強靱化支援」あるいは「先端技術の育成・支援」など4項目を柱とすることになった。国名こそ挙げてないが、これらは明らかに「中国」を念頭に検討されたはずであり、「日本の技術が軍事転用されるリスクを回避するためだ」という暗黙の理解があるはずだ。「サプライチェーンの強靭化」は「中国ばかりに依存しないようにしましょう」ということを指している。しかし二階氏が最高顧問を務めるセンターは、各大学にいる(中国人)教員や企業などが「窓口」となって、「友誼」の衣を着て「経済安全保障」の壁を崩していくことにつながる。これは文化の衣を着て全世界の教育研究機関に拠点を置く「孔子学院」の仕掛けと同じだ。それを自民党の大物議員が、日本の大学や大手企業を巻き込んで積極的に展開しているのだから、どんなに経済安全保障の旗振りをしてみたところで、実効性は疑わしい。◆自民党は「親中派議員」が権力を握る自民党は「自由民主」であるだけに、激しい親中から激しい反中に至るまで幅が広い。二階氏以外にも福田元首相も清華大学で大活躍だ(※5)。林芳正外務大臣は、日中友好議員連盟の会長を務めていたし(外務大臣就任とともに会長辞任)、自民党内は「親中に燃える議員」が非常に多い。小泉純一郎元首相などを除けば、ここのところ権力を握るのは「親中派」であることが多く、それは公明党と連携しているからであり、政権の背後に二階氏がいたからである。「経済界」とリンクしているため票田が関わってくる事情も挙げられよう。経営者は儲けなければ社員を養えないので、親中に傾いていく。たとえば、センターの中国側コアになっている清華大学日本研究センター(※6)のページにある最初の一枚目の写真の真ん中の人物は当時の経団連会長の御手洗冨士夫氏だ。現在でも日本の最大貿易相手国は中国であることからも分かるように、経済界は中国なしでは生きていけないという側面を持っている。「そのような日本に誰がした?」と言いたい。犯人は自民党だ。何度も書いて申し訳ないが、1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を最初に破ったのは日本で、それによって中国共産党政権は息を吹き返し、こんにちの成長を成し遂げた。その中国に日本の経済界は頼らなければならなくなっているという悪循環を生んだのは自民党なのである。中国で「最も親中的な西側の党」と位置付けられている公明党との連立により岸田政権は成立しており、岸田氏自身が親中ハト派の派閥の出身なのだから、「経済安全保障」などと呪文のように唱えていても、無理をしたポーズばかりが目立つ。二階氏は自民党幹事長からは下りたが、今も国会議員なのだから、センターとの関連において釈明が求められるし、また岸田氏も首相として矛盾のない回答をしなければならない。いっそのこと、自民党は正直に「親中」と「反中」で別れた方がいいのではないか?権力を握ることだけが目的ではなく、「日本をどのような国に持って行くか」に関して真の理念を持っているなら、真剣に考えるべきだろう。いつまでもダブルスタンダードを持っていると、日本という国は存在感を無くす。中国からも甘く見られて、中国の都合の良い方にコントロールされていく。香港の民主が消滅したことからも分かるように、中国のコントロール下に置かれれば、言論の自由と個人の尊厳、特に魂の尊厳を失っていく。日本はそれでいいのか?今月17日に召集されることになっている通常国会では、ぜひ本稿に書いた事項も議論していただきたいと切に望む。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/8cc511276b3799ccc17cceb0db1dc5c53cfabc3c(※3)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt11.html(※4)https://pages.nist.gov/frvt/html/frvt1N.html(※5)http://jcic.jp/jp/detail-1.html(※6)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html <FA> 2022/01/04 16:54 GRICI 二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(1)【中国問題グローバル研究所 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。岸田政権は経済安全保障を強調しているが、自民党の二階元幹事長は2019年に日中イノベーションセンターを設立して中国への情報提供を促進している。日本の対中姿勢は矛盾しており、自公連立政権は親中過ぎて危ない。◆二階氏が最高顧問を務める日中イノベーションセンター2019年3月、日中イノベーションセンター(※2)(以後、センター)が設立された。中国の清華大学と日本の中央大学が中心となって、産学連携を通して日中のイノベーション協力を進めていく。このページの左下にある「センター役員」というところをご覧いただきたい。そこには「最高顧問」として「二階俊博」という名前がある。二階氏は2017年に清華大学の名誉教授になっており、イノベーションに貢献するにふさわしい職位に就くなど周到な準備が成されているが、しかし紛れもない大物政治家。当時の肩書は「自民党幹事長」である。政治家として経済界を含めて、日中のイノベーション交流に貢献していくという、日本国丸抱えのような構想だ。中央大学は二階氏が卒業した大学で、清華大学は習近平が卒業した大学。この二つの大学を軸にしながら、日本の経団連など企業を中心とした産業だけでなく、大学や研究機関を中心とした研究開発に関して、互いに先端技術開発やイノベーションの情報提供をして協力し合っていこうというのが目的である。いや、むしろ、「中国に貢献しようというのが真の目的」になっていると言っても過言ではない。その証拠に、理事長の挨拶(※3)で濱田健一郎氏はセンターの役割として「中国の産学研の新しい協力の在り方のためにふさわしい能力が発揮できるように精進してまいります」と書いている。中国側の姿勢としても、「中国の経済と社会の発展のための奉仕・各級政府への政策の提案を行う」(※4)とさえ明記してある。2019年3月と言えば、当時の安倍首相が国賓として訪中した(2018年10月)ばかりのころだ。国賓として中国に招聘してもらうために、「一帯一路」に関する第三国での協力を交換条件としたほどだ。ようやく願いが叶った安倍氏は、国賓として招いてくれた見返りに、習近平を国賓として日本に招聘する約束をしてしまった。米中覇権競争が激化している今、それが国際社会に如何にまちがったシグナルを発するかは『激突!遠藤vs田原日中と習近平国賓』に書いた通りだ。センター設立から1ヵ月後の2019年4月24日には、二階氏は習近平に会い、朝貢外交を進めている(参照:2019年4月26日コラム<中国に懐柔された二階幹事長——「一帯一路」に呑みこまれる日本>)(※5)。センターの研究員制度のページ(※6)には日中の数多くの研究者たちの名前が並んでいるが、日本側に注目してみると、中央大学だけでなく、東京大学や京都大学など、非常に多くの中国人研究者が日本で研究に従事していることが見て取れる。中国側は清華大学が多いものの、国務院のシンクタンクや、中には中国共産党中央党校国際戦略研究センター教授さえおり、本センターが如何に中国共産党と中国政府のために貢献しようとしているかが明らかである。中には中国人民抗日戦争記念館館員さえいるのは、「反日」であっても構わないことを示唆していて興味深い。◆スパイを突き止める行政省庁がある一方で、対中友好な岸田政権日本の行政省庁の一つである公安調査庁は2021年春、「我が国留学歴を有する極超音速分野の中国人研究者」と題した内部資料を出した。資料自体は関係省庁などにしか配布しておらず、資料を入手することはできなかったが、周辺の関係者から概ねの話を聞くことはできた。それによれば、日本の大学や研究機関に教員や訪問学者などの職位で所属していた中国人研究者等が極超音速兵器の開発に関わる研究に携わり、帰国後、中国の関連機関で活動しているとのこと。これは日本の安全保障に関わる重要な問題で、言うならば「スパイ行為」をしていたということになる。アメリカのバイデン政権では昨年6月上旬に上院が、中国に技術が盗まれるのを防ぐことなどを含めた「米国イノベーション・競争法案」を可決している。またアメリカの大学では千人計画に関係した大学教授が逮捕されたりもしている。日本の岸田政権ではどうか。対中非難決議は見送ったし、ウイグル族弾圧など人権侵害などを行った政府当局者に制裁を与えることができる日本版マグニツキー法の制定も、岸田首相は先延ばしすると言っている。2月の北京冬季五輪に関しては昨年末、岸田首相は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長やJOC(=日本オリンピック委員会)の山下会長などを派遣すると決めた。松野官房長官は「外交的ボイコットといった特定の言葉は使わない」と言っているが、橋本氏や山下氏を派遣すれば十分だ。岸田首相は「自分は行かない」と言うことによって、あたかも対中強硬姿勢を取ったようなポーズを出そうとしているが、東京大会に習近平は来ていないのだから、岸田氏が行くか行かないかを議論すること自体おかしい。東京大会に派遣された中国側の代表は国家体育総局局長で中国オリンピック委員会主席を兼ねる苟仲文氏だった。橋本聖子は現役の自民党参議院議員である。国家体育総局は国務院直属の正部級機構(=中央行政省庁レベル)であり、苟仲文は中共中央委員会の委員でもあるので、たしかに参議院の一議員よりは少し格上かもしれない。しかし橋本議員は大臣でもあった。遜色はないはずだ。日本ではなぜか「アメリカに足並みを合わせて外交ボイコットをした」という刷り込みが成されているが、「日本は外交的ボイコットをしていない」ことを認識すべきだ。その証拠に、中国は日本への警告を発しなくなった。中国共産党管轄下にある中央テレビ局CCTVは北京冬季五輪への橋本氏や山下氏の派遣を評価して、最近では沖縄における米軍基地でコロナ感染が広がっていることに対して林芳正外相が「猛烈にアメリカに抗議した」という映像を流しては、日本の「アメリカにあらがう勇気」を礼賛している。つまり中国は「日本はアメリカに追随せず、外交ボイコットを行わなかった」と位置付けていることを表している何よりの証拠なのである。「二階元幹事長が最高顧問を務める日中イノベーションセンターと岸田政権の経済安全保障との矛盾(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://jcic.jp/jp/(※3)http://jcic.jp/jp/about-1.html(※4)http://jcic.jp/jp/qhzc-1.html(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190426-00123845(※6)http://jcic.jp/jp/business-1.html <FA> 2022/01/04 16:51 GRICI ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆習近平は馬興瑞に「新疆デジタル経済と太陽光パネル基地」建設を期待アメリカからの制裁を受ける中、習近平は新疆ウイグル自治区を経済発展させることによってアメリカの対中非難に勝とうとしていると推測される。それもハイテク国家戦略「中国製造2025」に沿ったもので、深センが「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに成長したのと同じように、馬興瑞の実力を頼りに、新疆ウイグル自治区を「デジタル経済」と「太陽光パネル生産」の基地として発展させようと狙っていると思われるのである。そうでなくとも中国は国土面積が広く、1990年代から遠隔教育を推進させていた。雲南省にいても新疆ウイグル自治区にいても、北京や上海の大学で行っている講義をリモートで聞くことが出来るシステムを、世界銀行などの支援を得て構築していたし、時にはスタンフォード大学の講義を中国で聞くこともできるシステムさえ進めていた。ネット通信が発達し、特にコロナによりリモート勤務が世界的に進んだ今、中国におけるデジタル経済のニーズは増している。デジタル社会を可能ならしめるには、大量の電力が必要になる。その電力もクリーンエネルギーが奨励される中で、太陽光パネルは願ってもない手段だ。中国には「西気東輸」とか「西電東送」といった言葉があるが、これは西部大開発において1990年代から唱えられ、2000年前後に始まった、「西部にある石油や天然ガスなどのエネルギー源や電力を、経済発展著しい東沿海部の都市に運ぶ」という中国全土を覆ったネットワークである。これによって電力不足を補い、停電などによって生産ラインが止まるのを防いでいた。特に「西気東輸」の起点は新疆ウイグル自治区にあるタリム盆地だ。クリーンエネルギーが叫ばれる今、新疆ではレアアースが埋蔵しているだけでなく、太陽光パネルが生み出す、有り余る電力を、「西気東輸」や「西電東送」の考え方と同じように中国全土の電力補給に使っていこうという戦略が、このたびの新疆ウイグル自治区トップ交代の意味である。アメリカが新疆にある太陽光パネル企業に下した制裁は、「アメリカへの輸出を禁じる」という内容だ。習近平としては、アメリカに輸出できないというのは大きな痛手ではなく、むしろ中国国内における電力不足からくる社会不安を緩和する方向に電力を振り向けていこうというのが、馬興瑞を新疆に送った事実から見えてくる国家戦略なのである。国内で使うのに、「それは強制労働による電力だろう」という批難をアメリカから受ける可能性はゼロで、むしろウイグル族の人々がクリーンエネルギー生産に従事してデジタル経済を推進していくことになれば、世界からの批難が少なくなるだけでなく、新疆に経済的繁栄をもたらすので、テロなどイスラム教徒が起こす傾向にある反乱を和らげる働きをするだろうと、同時に計算している側面がある。◆「新疆‐アフガン列車」でイスラム圏アフガンの統治能力を世界に示すというのも、2021年9月8日に王毅外相がアフガニスタンの外相と話し合い、「新疆—アフガニスタン専用貨物列車」の復活を提唱したのだが(※2)、11月20日には、実際に開通したと、中国共産党の機関紙「人民日報」が報道した(※3)。アメリカはイスラム教圏であるアフガニスタンの統治に失敗したが、中国は同じくイスラム教を信じるウイグル族とアフガニスタンの経済を成長させることによって、中国の方がアメリカの統治能力を凌駕するというメッセージを発信したいものと位置付けることが出来る。習近平は米中覇権競争を、経済で絡め取って、中国の勝利に持って行こうとしているのだ。ただ、本来ならば2022年秋に開催される第20回党大会あたりで発表するはずの人事異動を前倒ししたのは、停電や不動産開発産業が招く社会不安を回避するだけでなく、西安政府の管理能力の欠如によるコロナ再感染を防ぐための不手際に対する中国政府への不信感を払拭する狙いもあるのではないか。2022年に開ける新たな幕のゆくえを見逃さないようにしたい。写真:ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202109/t20210908_9604940.shtml(※3)http://world.people.com.cn/n1/2021/1122/c1002-32287975.html <FA> 2022/01/04 11:02 GRICI ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。昨年12月25日、新疆ウイグル自治区の書記に広東省の馬興瑞省長の就任が決まった。深センをハイテク都市にした馬興瑞の辣腕を、今度は新疆で発揮させ、アメリカから制裁を受けている分野を逆手に取っていく戦略だ。◆馬興瑞が新疆ウイグル自治区の新書記に中国政府の通信社である新華社は12月25日、中共中央が「新疆ウイグル自治区の党委員会のトップに関して職務調整を行った」と発表(※2)した。それによれば、これまで新疆ウイグル自治区の書記を務めていた陳全国に代わって、馬興瑞が新しい書記になるとのこと。同日、中共中央組織部副部長が出席する形で新疆ウイグル自治区は幹部会を開催し、陳全国や馬興瑞などがスピーチを行っている(※3)。馬興瑞のスピーチで注目すべきは「私は習近平総書記の熱意を込めた依頼をしっかり心に留め」という言葉と、「苦労して勝ち取った新疆の安定を決して逆転させないことを誓う」および「そのために人民を中心として質の高い経済発展を促進する」という決意だ。◆馬興瑞が持っている特殊な才能馬興瑞(62歳)は工学博士で教授、国際宇航(宇宙航行)科学院の院士でもあり、「若き航空元帥」という綽名さえ持っていた。そのため2007年から2013年3月まで中国航天科技集団公司の総経理を務めていただけでなく、中国有人航天工程副総指揮や中国月探査工程副総指揮(2008年11月から2013年3月)をも兼任していた。2013年には目まぐるしい変化があり、3月に突然、中央行政省庁の一つである「工業と信息(情報)化部」の副部長(副大臣)や国家航天局(宇宙局)局長など、行政方面への職位を与えられた。だというのに11月になると習近平は突如、馬興瑞を広東省(中国共産党委員会)副書記に任命したのだ。異常な人事異動だ。2015年から2016年までは深セン市の書記なども兼任しながら、2017年には広東省(人民政府)の省長に任命されている。途中はあまりに細かく複雑で兼任が多すぎるので省略する。広東省にいる間に最も注目しなければならないのは、馬興瑞は広東省の凄まじい経済発展に貢献しただけでなく、中国のシリコンバレーといわれるほどの深センを、さらにハイテク化に向けて磨きをかけ、アメリカに脅威を与えるレベルにまで成長させたことだ。広東省が如何にすさまじい発展を遂げたかに関して、おもしろいYouTube「中国各省区市 歴年GDP変化」(※4)がある。1978年から2020年までの中国の省や自治区および直轄市などの各行政地区におけるGDPのランキングを追っている。最後は広東省が中国一になっていく様子をご覧いただきたい(出典は「史図書」、個人の動画投稿者が作成)。◆「中国製造2025」発布時期と一致一方、2012年11月15日に中共中央総書記に就任した習近平は、翌12月に最初の視察先として深センを選んだ。そこは父・習仲勲が「経済特区」と命名して開拓した地。トウ小平の陰謀によって16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を強いられたあとの習仲勲の仕事への奮闘ぶりはすさまじかった(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。その深センで誓いを立てたかのように、習近平は北京に戻るとすぐにハイテク国家戦略「中国製造2025」に手を付け始めた(詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平は何を狙っているのか』)。思うに、おそらくこの線上で、突如、馬興瑞を広東省に派遣することを習近平は決めたのだろう。だから異動のさせ方が尋常でない。そしてこのたびの新疆行きで、馬興瑞は「質の高い経済発展を促進する」と言っている。これはいったい何を意味しているのだろうか?◆新疆デジタル経済の急成長2021年1月21日、新華網は<新疆デジタル経済は去年の10%増で、新疆GDPの26%を占める>(※5)と発表している。そこには以下のようなことが書いてある。・5GやAIあるいはビッグデータなどの次世代情報技術と実体経済を融合発展させたことが奏功した。・新疆では昨年(2020年)、長城(科技)集団(中国最大の国有IT企業グループ。深セン)や中科曙光(中国スーパーコンピュータ大手)が投資してウルムチ工場が稼働し、(新疆)ウルムチの情報技術イノベーション産業基地の構築を加速させた。・(新疆)コルガス市の半導体チップ・パッケージング・テストプロジェクトの大規模生産が実現した。・新疆ソフトウエア・パーク第1期に230企業がパーク入りした。・新疆における5G基地局数はこれまでに6272カ所となり、5Gユーザー数は275万世帯に達した。新疆における産業インターネットの活用は新エネルギー、石油・天然ガス採掘、電力、設備製造など20余りの重点産業に広がり、デジタル化設計やスマート製造、ネットワーク連携などの新モデルが急速に普及している。・デジタル経済大発展を推進することは、新疆の経済社会デジタル化を全面的に転換させる重要な転換点であり、エネルギーと化学、繊維と衣服、機械と設備、採掘産業などの主要産業で両者の深い統合を促進する(概略引用はここまで)。このように新疆ウイグル自治区は、実はデジタル経済に関して意外なほど力を注ぎ、急成長しているのである。◆アメリカが制裁対象とした新疆の太陽光パネル企業それだけではない。2021年6月24日、アメリカ商務部は太陽光パネルの材料などを生産する新疆ウイグル自治区の企業5社について、「強制労働や監視活動など、人権侵害に関わった疑いがある」という理由で、制裁リストに入れた(※6)。これら5社は今後、アメリカ企業との取り引きができなくなる。中国は太陽光パネルの世界最大の生産地だが、パネルの材料の1つであるポリシリコンの多くが新疆ウイグル自治区で生産されていることがアメリカ議会で問題視された。つまり「新疆の太陽光パネルが廉価なのは、強制労働をさせているからだ」ということが問題になったのだ。世界のシリコン生産量は中国が最大で、世界の67.9%を生産している。工業用シリコンは、中国の中でも水資源などが豊富で水力発電が進んでいる四川省や雲南省が半分ほどを占め、20%を新疆ウイグル自治区が占めている。なぜなら工業用シリコンは莫大な電気量を消耗するので、埋蔵量以外に、電力供給が豊潤な地域でないとコストが高すぎて採算が合わない(雲南:数百本の川がある。四川省:長江など水資源が豊富。新疆:もともと石炭埋蔵量が多く、イリ川などを利用。加えて中国最大の石油・天然ガス中継点)。工業用シリコン生産過程の総コストの30~40%は電力である。新疆産の太陽光パネルが安価なのは電力が安価だからだ。新疆・四川・雲南の電気代は1kWh当たり(日本円に換算すると)「5.44円」であるのに対し広東省は「10.8円」、上海は「17.58円」だ。中国国内でも差がある。それが太陽光パネルの価格に反映している。ちなみに東京電力の業務用電力は1kWh当たり「 17円前後」だ。上海と変わらない。新疆では特にポリシリコン製造に特化し、太陽光パネルを大量に生産している。となると、その太陽光パネルによる電力をポリシリコン製造に使えるので、まるで自己増殖的な生産サイクルが出来上がり、安価な太陽光パネルを生産できるのである。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)(※7)は「アメリカで販売されている太陽光パネルの約85%は輸入品で、その多くは中国企業が製造している」とした上で、「2035年までに電力網をカーボンフリーにしたいと考えているバイデン政権にとって、中国の太陽光パネル産業を制裁ターゲットにするのは難しいのではないか」と報道している。さらに業界団体や関係者は「世界で販売されている太陽光パネルの大半は、中国の技術に依存している。中国はサプライチェーンのすべての部分、特に太陽光パネルの原料となるシリコンウエハーの生産において、リーダー的存在だ」と言っていると、WSJは懸念を伝えている。つまり、中国の太陽光パネル関連企業を制裁リストに入れることによって最も困るのはアメリカではないかという疑念を呈しているのだ。「ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.news.cn/politics/2021-12/25/c_1128200257.htm(※3)http://news.ts.cn/system/2021/12/25/036754869.shtml(※4)https://www.youtube.com/watch?v=akzKDf-gyg8(※5)http://www.xinhuanet.com/2021-01/21/c_1127009290.htm(※6)https://www.reuters.com/business/us-restricts-exports-5-chinese-firms-over-rights-violations-2021-06-23/(※7)https://www.wsj.com/articles/biden-to-deter-forced-labor-with-ban-on-chinas-solar-panel-material-11624501427 <FA> 2022/01/04 10:58 GRICI 中央経済工作会議「習近平重要講話」の「三重圧力」に関する誤解と真相【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。8日から中共中央政治局が開催した中央経済工作会議で習近平が問題点を「三重圧力」として警告した。これに関して日本の某氏が「習近平体制転覆の可能性」と書いたので一部混乱を招いているようだ。某団体から講演依頼を受け説明を求められたので、不本意ながら解説する。◆中央経済工作会議における習近平の重要講話:「三重圧力」指摘中共中央政治局は、12月8日から10日にかけて中央経済工作会議(以下、会議)を開催した(※2)。主催したのは中共中央総書記である習近平で、中共中央政治局委員をはじめ、全人代(全国人民代表大会)や全国政治協商会議の関係者および各地方政府の代表などが出席した。この会議は毎年12月に開催され、先ずはその年の中国経済に関して総書記(現在は習近平)が問題点の指摘や総括などを含めた講話をし、次に(後半で)国務院総理(現在は李克強)が翌年の経済目標などに関して講和するという順番になっている。その結果を毎年3月5日に開催することになっている全人代で国務院総理がその年の経済方針として発表するという仕組みだ。習近平が招集したので、まずは習近平が前半の重要講話を行い、1年間の経済状況の総括をするとともに、現在の問題点として「三重圧力(三重苦)」を指摘し、これを警戒し解決に向かって来年の経済計画に反映させよという趣旨のことを述べた。党と政府の「公報」では「会議は」という主語しかないが、先ず述べられたのが「三重圧力」であるということと、これは今年の問題点指摘と総括部分の話なので、習近平が述べたものと断定することができる。この「三重圧力」として習近平は以下の三つを挙げている(筆者の解釈を含めてご紹介する)。1.需要の縮小(中国語:需求収縮)需要には内需と外需があるが、中国以外の国におけるコロナ感染が落ち着きを見せ経済復帰しつつあるため、それまでに海外から殺到した需要が減少していく可能性があるので、内需を充実させよ。コロナによる買い控えにより消費が減少している。一方では海外におけるサプライチェーンの停滞にも警戒せよ(筆者注:たとえばアメリカにおける過度のコロナ給付金により働く人が少なくなって、中国は受注を受けてもアメリカのコンテナが動かないので、中国からの物資をさばけないなどの情況もある)。2.供給の衝撃(中国語:供給衝撃)石油石炭など原材料の価格高騰がもたらした衝撃を指している。なお、それを受けて、一部地域で電力使用の制限などの措置を講じたため停電や生産ラインの停滞を招いたが、今後はそのような措置を取らずにエネルギー消費の質を高めてエネルギー源の価格高騰に備えるとしている。3.期待の低下(中国語:預期転弱)コロナや国際情勢などにより、投資すればいくらでも儲かり成功するといった市場への期待が弱まっているだけでなく不動産問題などがあるため、融資を受けて起業しようとすることやビジネスを拡張していこうという意欲が減少し、不動産購入リスクを警戒して買い控える傾向にある。これに関しては国家が自己改革を推進するとともに消費者が自信を取り戻すべく構造改革を行っていかなければならない(筆者注:習近平は不動産バブルを警戒しているので抑制を図っているが、それは融資に関する監督強化につながるため、多様な分野における改革が必要とされている)。習近平は「三重圧力」以外にも多くの現状分析と問題点を指摘して来年への指針とつなげているが、全て書くと長文になるので、ここでは取り敢えず「三重圧力」にのみ対象を絞って説明を試みた。◆某氏は「三重圧力」指摘を「習近平政権転覆の可能性」と分析これに対して某氏が<中国・中央経済工作会議の中身から「習近平体制転覆の可能性」が見えてきた>(※3)という分析を発表したらしい。講演依頼者はそれを読んで混乱し、講演では事の真相を解説してほしいと依頼してきた。筆者は某氏の分析を読んでないし、タイトルを見ただけで、とても読んでみようという気にはなれず、依頼者に「何が書いてあり、どのようなことに混乱したのかを説明してほしい」とお願いしたところ、某氏が書いている以下の点の真相を説明してほしいという返答が来た。(1)この会議で、中国経済が1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明だという「三重圧力」に直面していると指摘されたことはなぜかほとんど報じられていない。経済は需要と供給からなるわけだが、需要もダメ(需要の収縮)なら供給もダメ(供給に対する打撃)であり、さらに先行きも厳しいということになると、全面的にダメだということにはならないか。これは習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論であり、中国共産党内部の権力闘争という見地からは看過できない内容となっているのである。(2)「中央経済工作会議」において習近平の経済政策についてこれだけ正面切った批判を許す形になったのは、あまりに激しい経済的な落ち込みに対する反発が党内でも猛烈に高まっていることを示している。次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなったのではないかーー。「中央経済工作会議」の展開を見ると、そんな意外な中国の実態が見えてくるのである。講演依頼者はほかにも多くの点を指摘し、次回の講演で真相を解説してほしいと問題提起してきた。いや、「真相」も何も、この某氏はそもそも中国語が読めないのではないかと思うし、もし読めるなら、中国の政治構造のイロハを全く知らないのではないかとさえ思う。だから「論外だ!」と片づけたいが、この依頼者のように、少なからぬ日本人が某氏の分析を読み、それを通して中国の現状理解をしているとすれば、これはかなり罪深いことだと思うので、不本意ながら不特定多数の読者のためにも、何が間違っているかを指摘する必要があるのではないかと思われた。◆某氏の分析の間違い以下、某氏の分析の間違いをいくつか列挙してみよう。A:そもそも、会議は習近平が主催し、「三重圧力」は習近平自身が言っている言葉なので、習近平に対する「正面切った批判を許す形になった」という事実は存在しない。中国の政治構造に関する理解が欠如しているための誤解で、そもそも中国語が分かるなら、原文には習近平が重要講話を行ったと明記している。あるいは原文を読んでいないのかもしれない。B:日本で「三重圧力」がほとんど報道されていないというが、あるいは正しくは報道されているとしても、某氏のような誤解釈した形で報道されるケースは少ないというだけではないのか。C:「三重圧力」に関して某氏は「1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明」と定義しているが、「1)需要の収縮」は間違った翻訳ではないが、「2)」と「3)」は誤訳であり、中国語能力の問題ではないだろうか。まして況(いわん)や、習近平自身が言った言葉なので、「習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論」とはならない。D:したがって「次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなった」ということにはつながらない。それ以外にも某氏は「地方公務員の所得が激減中」とか「今年の第二四半期にかつては十万人程度で長年安定していた上海の失業保険の受給者数が50万人を突破するところまで伸びた」などという例を挙げて「中国の経済崩壊」を示唆しているようだが、これも中国の実情をあまりに理解していないことを露呈しているとしか言いようがない。公務員の収入が不平等に多すぎ、給料だけでなく賞与や不動産手当てなど様々な収入があるため、一部の地域では一般庶民の収入との格差が非常に大きくなっている。あまりに高収入なので今年の公務員試験の倍率は、分野によっては約2万倍という部署もあり、異常な状況にあるくらいだ。当然庶民の不満も噴出しているので、中国政府は今年、この格差を是正するための通知を発布したほどだ。また上海における失業保険受給者が急増したのは、2020年8月から非上海籍の人でも上海で失業保険を受けることができるようになった(※4)ことに起因する。出稼ぎ者も働いている現地で失業保険をもらえるというように、支給対象を広げたからに過ぎない。◆中国経済崩壊論は日本に利するのか?このように某氏は、何が何でも「中国経済が崩壊する」方向に強引に持って行きたいようだが、これは某氏に限ったことではない。ともかく「習近平政権が崩壊する」とか「中国経済が崩壊する」と言えば日本人が喜ぶので、本が売れて、より多くのネットユーザーが記事を読んでくれる。たしかにそういった分析を読む方が、気がスッとするし愉快なのではあろう。その気持ちは理解できないではない。しかしそうやって少なからぬ日本人が虚空の中国崩壊物語に酔いしれている間に、中国は確実に成長し、経済力と軍事力もアメリカに近づき、やがて凌駕しようとしているという現実が進行しているのである。中国経済崩壊論に期待すること20年以上。明日にも崩壊する、今度こそ崩壊するという「甘い言葉」に誘われて偽の物語に酔いしれるのは、日本という国にいかなるメリットももたらさない。それでも崩壊しない現実にぶつかると、発信者側は「今度こそは崩壊する」と、しつこく「勧誘」してくる。その目的のために事実を歪曲するのは罪深い行為だ。どんなにいやな事実でも、不愉快な現実を直視する方が日本人を守ることにつながる。しかしネット時代は「言論の自由」があるようでいながら「選択の自由」が優先していて、どんなに事実と乖離していても「自分好みの意見」だけを選ぶ傾向にある。そして、そこに寄り集まる。これは日本に限らず世界中に散見される現象だ。注意を喚起したい。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2021-12/10/content_5659796.htm(※3)https://news.yahoo.co.jp/articles/1d6f77e5add48925801686d1f61cc4e8327fbf3e(※4)https://economy.caixin.com/2021-12-09/101815833.html <FA> 2021/12/27 10:23 GRICI 彭帥さん、告白文を書いたことを認め、「性的侵害」を否定:シンガポール紙に肉声と動画【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。19日、上海に行き自由行動をしていた彭帥さんは、突然シンガポール紙の取材を受け、ウェイボーに告白文を書いたことを認めた上で「性的侵害ではない」と主張した。その動画に基づいて真相を再考察する。◆彭帥を突然取材したシンガポール紙「聯合早報」の動画12月19日、彭帥(ほうすい)さん(以下、彭帥)は上海で開かれたスキー競技を、NBA(米プロバスケットボール協会)の選手だった長身の姚明(ようめい)さんらと観戦したあと、周辺を散策していた。すると、ある人物がいきなり彭帥に話しかけてきたので、彼女は非常に怪訝な顔をした。しかし「あ、テレビ局?」という問いに、相手が「はい、そうです。聯合早報です」と答えると、すぐに態度を変えて、取材に応じた。その一部始終を聯合早報のユーチューブ(※2)で観ることができるので、この動画に沿ってご説明したい。まず聯合早報の記者(以下、記者)が「以前、あなたはウェイボーでメッセージを発表したじゃないですか・・・」と言ったときに、彭帥は何度かうなずいている。動画の「1:39」あたりをご覧いただきたい。11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※3)で書いたように、11月2日、彭帥がウェイボーに長いメッセージを書いて、張高麗元副総理(以下、張高麗)との男女関係に関して告白した。動機は、10月30日に「11月2日に会おう」と約束したのに、11月2日になって張高麗がドタキャンしてきたことに対して激怒したからだ。同コラムに書いたように筆者は2012年春に天津にいた教え子から張高麗(当時、天津市書記)に関して「不倫をしているらしい」という噂を聞いていた上に、彭帥がウェイボーで公開した文章があまりに乱れていることから、これは確実に彭帥自身が書いたのであって、他の人が成りすましで書いたものではないと断言していた。日本の「中国問題に詳しい専門家」と言われる人たちの一部が、「これは権力闘争で、習近平を陥れるために書いた可能性がある」という陰謀説を流していたが、もし誰かが彭帥に成りすまして書いたのなら、すぐに当局に見つかり捕まるし、そもそも彭帥が「あれは私が書いたものではありません!」と、ひとこと言えば解決する話なので、陰謀説など笑止千万と断言する自信があった。それでも日本では陰謀説に喜ぶ視聴者や読者が多く見方が分かれていた。しかしこのたびの聯合早報の動画は、筆者の視点が正しかったことを裏付けてくれたので、詳細に再考察したい。記者は、CGTN(中国グローバル・テレビ・ネットワーク)がツイッターで公開した、彭帥からWTA(女子テニス協会)宛てに書いたとされる英語のメールが、本人が自身の意思で書いたものか否かを聞き出そうとしていたのだが、その質問を遮って彭帥は強い口調で以下のように述べている(文字起こしは筆者)。——まず最初に、私が強調したい点は、非常に重要なんです。私は一度も、誰かが私に性的侵害をしたと言ったことはないし、書いたこともありません。この点は、何としても強調し明確にしなければなりません。それから、あのウェイボーに書いたことですが、あれは私個人のプライバシー問題で。あれは既に、きっとこれは、皆さんが多くの誤解をしていて、だから…、いかなる…、つまり…、こんな歪んだ…、こんな解釈など、存在しないのです(引用ここまで)。話し言葉なので、主語述語がチグハグと行ったり来たりすることは誰でもあることとは言え、この言い回しは、11月2日のウェイボーに書かれた文章を想起させ、なおさらのこと、あの文章は間違いなく、彭帥自身が書いたものであることを確信させた。加えて、彼女が「性的侵害」という言葉を口にした時の表情をご覧いただきたい。中国語では「性侵」と表現し「シンチン」と発音するが、「2:26」のところで、この発音を聞き取ることができれば、彼女が言いにくそうにしながら、しかし言った瞬間に頬を赤らめたのが見て取れる。張高麗との関係は真実だったということだろう。それが表情に顕われてしまいながら、彭帥は「あのウェイボーのメッセージは確かに自分が書いたが、性的侵害(性侵)を受けたとは書いてない」と言っているのである。これはつまり、「同意の上」でのことで、「性的暴力ではない」と明言したことになる。◆彭帥は張高麗を「愛していた」11月23日のコラム<女子テニス選手と張高麗元副総理との真相—習近平にとって深刻な理由>(※4)に貼り付けた彭帥が書いたウェイボーのメッセージには、彭帥が張高麗を「愛していた」ことを証拠づける表現がいくつかある。その中の一つを以下に示す。——7年前のあなたへのあの感情が蘇(よみがえ)ることに怯え慌てふためきながら、私は同意したのです……そう、つまり、私たちは性関係を持ったのです。感情というものは複雑で、言葉で表現できないものですが、あの日から私はあなたへの愛を再び打ち開き、その後あなたと一緒に過ごした日々の中で、付き合うだけなら、あなたは本当にとっても、とっても良い人で、私に対してもとっても良くしてくれて、私たちは近代史から古代に至るまでおしゃべりしたり、あなたは私に万物の知識や経済学とか哲学なども話してくれて話が尽きませんでした。一緒にチェスをしたり、歌を歌ったり、卓球やビリヤードをしたり、特にテニスのことになると、私たちは永遠に、いつまでも楽しく過ごせると思ったし、性格だって、あんなに気が合うので、何でもうまくいくような気がしました(引用ここまで)。あのウェイボーには複数個所にわたり、彭帥の張高麗への愛が切々と書かれており、苦しい思いが伝わってくる。愛していて、同意の上だった。ウェイボーの文章と聯合早報の動画は、それを明確に示している。これ以上の証拠はないと言っていいだろう。もっとも、プライバシーと言うなら、なぜ告白してしまったのかと言いたくなる。それくらい愛していたために怒りが抑えられなかったと解釈するしかない。◆彭帥はなぜ取材を受けられるようになったのか?これは個人的感想になるが、彭帥のような真っすぐな性格のアスリートは、「ウソをつけ」と命令されても承諾しないだろうと推測される。そこで11月2日にウェイボーを発信した後しばらくは当局(中国政府のしかるべき部局)の監視下にあり、彭帥は自由を奪われただろうが、当局としては彭帥の性格上、「このようなことはなかったものとして行動しろ」とは言えないことが分かったので、せめて上記のような真実は「聞かれたら言う」けれども「監視などされておらず、自由だ」と主張してくれればそれでいいと判断したのではないかと思うのである。つまり、そういう条件で一定程度、自由行動を許したのではないだろうか。当局は、その方が中国が国際社会から批難を受ける程度が低くなると判断した可能性がある。事実、彼女は記者の「監視されているのではないのですか?」という質問に対して「なんで私が監視されなければならないんですか?私はずーっと自由です!」と非常に不機嫌に答えている。注目すべきは、聯合早報の記事は、動画とともに大陸でも観ることができる形で開放されている(※5)ということだ。習近平は、1990年代に再びトウ小平によって失脚に追い込まれた父・習仲勲に親切にしてくれた張高麗を高く評価して、2012年の第18回党大会におけるチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の一人に任命した。だから、その任命責任があるが、党の紀律検査委員会から見れば道徳的に許し難いとしても、「同意の上」での行為であるなら、処罰しにくい面もあるだろう。特に今は来年の北京冬季五輪を無事に終えたいし、来年秋の第20回党大会も控えている。したがって彭帥が「同意の上だ」ということと「監視などされておらず、全く自由だ」と言ってくれるなら、国際社会は非難しようがなくなるので、取材を受けることを許し、静かに時間が過ぎていくのを待つことにしたのだと解釈される。張高麗に関しては、密かに自由を奪い、厳しい監視の下に置いていることは疑う余地がない。しかし表面的には今は動かず、じっと第20回党大会が無事に成功するのを待ち、それが過ぎれば具体的措置が何か下る可能性も秘めているのかもしれない。しばらく成り行きを観察したい。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/watch?v=vwgr6EMEen8(※3)https://grici.or.jp/2794(※4)https://grici.or.jp/2794(※5)https://www.zaobao.com.sg/realtime/china/story20211219-1224709 <FA> 2021/12/21 10:26

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