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中国はなぜ台湾包囲実弾軍事演習を延長したのか?中国政府元高官を単独取材【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。本来8月3日から7日までとした台湾包囲実弾軍事演習を、中国軍は8月9日まで継続して行った。なぜ延長したのかを中国政府元高官に単独取材して、中国の本音を引き出した。◆8月10日に東部戦区連合軍事演習完了を宣言8月10日、中国人民解放軍東部戦区のスポークスマンである施毅陸軍上級大佐は<東部戦区が台湾島周辺海空域で組織した連合軍事行動は、成功裡に各任務を完了した>(※2)と宣言した。施毅は「最近、台湾島周辺海空域で行ったさまざまな種類の部隊が系列的に連合した軍事行動は、成功裡に各項目にわたる任務を完了し、部隊が一体化して連合同時作戦を断行する能力を、非常に効果的に検証することができた。今後、東部戦区部隊は、台湾海峡情勢の変化を常に緊張して注視し、引き続き軍事訓練と戦闘準備を展開し、台湾海峡の戦闘準備警巡(警戒パトロール)を常態化させ、国家の主権と領土保全を断固として守る」と語った。◆なぜ延長したか:中国政府元高官を単独取材10日に軍事行動完了の宣言をしたのだから、8日と9日の二日間、本来の実弾軍事演習の日程終了を延長して継続的に軍事演習を行なったことになる。実弾軍事演習を実行している限り、その海空域への立ち入りが禁止されるのだから、台湾だけでなく、台湾と交易を行う他の関係国への被害は甚大だ。特に今回の包囲網の一部は日本のEEZ(排他的経済水域)をも含んでいるので、日本の漁業関係者にとっては、とんでもない損害を与えられる結果を招いた。この2日間の延長に関して、中国政府は理由を公表していない。そこで中国政府元高官を単独取材して聞き出した。以下、Qは筆者、Aは中国政府元高官である。Q:なぜ、初期の予定を変更して延長したのですか?A:そりゃ、当然だ。中国が軍事演習を始めた3日の後になって、アメリカの国家安全保障会議の(戦略通信コーディネーターである)ジョン・カービーというヤツが4日、「ワシントンは今後数週間で台湾海峡を通過する標準的な空と海の横断作戦も実施する」と言っただろう?Q:そうですね。たしかにそう言っていました。彼は当時、国防長官のオースティンがレーガン号とその攻撃グループの軍艦に「状況を監視する」ために近くに留まるよう指示したと述べていますね。A:ほら、そうだろう?アメリカの国防総省は、8日、「米軍は今後数週間で台湾海峡を通過する」と主張しただけでなく、「同盟国とパートナーへの支援」を示すために他の地域でも「航行の自由作戦」を実施すると発表してるんだよ。アメリカは1972年の時点では、自国の都合から「一つの中国」を認めて、いわゆる「中華民国」と国交断絶をしながら、今になって中国がアメリカを超えるほど強くなるのを恐れて、中国に対して内政干渉をしてくる。Q:たしかに積極的に毛沢東の中国に接近してきたのはアメリカですから、あのときアメリカこそが自然な流れの国際秩序を乱したと私は思っています。A:おまけにだね、あの生意気なコリン・カール国防次官は8日、「アメリカ政府は中国が台湾を軍事的に占領する可能性に関する見通しを変えていない」と言いながら、「中国が向こう2年以内に台湾占領を試みることはない」という見解を示している。それでいながら「米軍が向こう数週間以内に台湾海峡通過を実施する」と言ってるだろ?それを阻止しないわけにはいかないのさ。Q:だから軍事演習を延長したのですか?A:そうだ。それが最も大きな原因だ。Q:では、アメリカの空母レーガン号が台湾海峡を通過することに対抗するためということになりますか?A:対抗ではない!阻止だ!アメリカの他国への内政干渉を阻止するためだ。そもそも台湾海峡の「中間線」など中国は認めていない。そんなものは存在しない。台湾は「一つの中国」の中の領土の一つで、アメリカは「中国を代表する国としては唯一、中華人民共和国しかない」と認めて「中華民国」と国交断絶しておきながら、中国の領土主権を脅かす行為など、絶対に中国人民は許さない!◆ペロシ訪台により中国人民の愛国心は一つになり、習近平の求心力は高まったQ:「14億の中国人民は許さない」という言葉は、習近平がバイデンとの電話会談の時にも使った言葉ですが、このたびのペロシ下院議長の訪台によって、中国人民は結束を強めたと思いますか?A:もちろんだ!国内における、どんなスローガンよりも中国人民の心を一つにさせて、熱く燃え上がらせた。台湾島における軍事演習の模様は、多くの中国人民の眼球を惹きつけ、仕事にならないほどレーガン号の航路を追い続けて、それは凄かった。誰もが自然に「中国軍、頑張れ!」という気持ちになる。Q:では、習近平の求心力は高まったということになりますか?A:もちろんだ!一気に高まった。習近平のもとで心を一つにしていないと中国はアメリカにやられるという気持ちが高まって、軍の最高指導者としての習近平への声援が高まるのは当然だろう。◆台湾国軍の反上陸射撃訓練と中国人民解放軍の上陸軍事演習Q:中国人民は台湾が嫌いですか?A:嫌いなわけがないだろう。台湾人は我が同胞だ。しかし蔡英文がいけない。彼女はアメリカに追随して、台湾人民の経済を圧迫するだけでなく、危険にさらしている。現に、台湾の国軍は9日から中国人民解放軍に対する「反上陸射撃訓練」を始めている。Q:だから山東省の連雲港や大連などで、浜辺に近いところで上陸実弾軍事演習をしたと考えていいですか?A:そう解釈しても構わない。Q:実は私は日本語のコラムで、あれは台湾包囲実弾軍事演習の「上陸部分」を補うための軍事演習だと書いたのですが、それで正しかったかしら?(参照:8月9日のコラム<中国軍は台湾包囲実弾軍事演習と同時に「上陸演習」も実施していた>(※3))A:ほう、それは珍しい。外国人で、それを読み解いている人はいないんじゃないかな?Q:まちがってはいなかったようで、安心しました。中国政府元高官との話は延々と続き、このあとは、台湾の半導体の問題とアメリカの半導体同盟形成や台湾政策など、種々のテーマに関して、中国側の考えを引き出した。それらに関しては、追って一つずつご紹介したいと思っている。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://passport.weibo.com/visitor/visitor?entry=miniblog&a=enter&url=https%3A%2F%2Fweibo.com%2F7483054836%2FM0oNLFfud&domain=.weibo.com&ua=php-sso_sdk_client-0.6.36&_rand=1660266621.6288(※3)https://grici.or.jp/3478
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2022/08/12 10:14
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「チャーズ」の惨劇はなぜ長春で起きたのか? 蒋介石とカイロ宣言【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。1947-48年に起きた惨劇「チャーズ」が長春で起きた背景にはカイロ宣言がある。宣言には「日本が中国人から盗取した一切の地域を中華民国に返還する」とあり、その象徴が「満州国の新京(=長春)」だったからだ。蒋介石は「中華民国の領土主権は誰の手の中にあるか」を国際社会に示したかった。◆カイロ会談が行われた背景1943年11月22日、アメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相および「中華民国国民政府の蒋介石主席がエジプトのカイロに集まった。すでに趨勢が見えてきた第二次世界大戦(1939年~45年)の戦後処理を話し合うためである。その戦後処理は主として連合国側の対日基本方針に絞られていた。なぜか。それは当時の中国である「中華民国」の蒋介石が、日本(大日本帝国)と「中華民国の間で行われた日中戦争(1937年~45年)に抗して戦う「抗日戦争」を断念して、対日単独講和を結ぶ可能性があったからだ。今さら言うまでもないが、第二次世界大戦はアメリカ、イギリス、フランス、(旧)ソ連および「中華民国」等の「連合国側」と、ドイツ、日本、イタリアの三国連盟を中心とする「枢軸国側」に分かれて戦われた戦いである。しかし「中華民国」は「連合国側」としての恩恵に与ることができず、英米からの支援が少ないことに不満を持っていた。蒋介石夫人の宋美齢は国民党航空委員会秘書長として活躍し、1940年、その美貌も活かしてアメリカのフライイング・タイガーズ(Flying Tigers)(飛虎隊)の志願軍的協力を得ることに成功してはいた。しかしそれも、日本軍の空軍力に押されて1942年には解散している。蒋介石は劣勢に立たされていた。特に当時の国民政府は親日派の南京政府と親米英派の重慶政府(中央政府)に分かれており、南京政府には汪兆銘が、重慶政府には蒋介石が君臨していた。ただし南京政府は日本傀儡政権であり、そこに仕えていたのが江沢民の実父である。汪兆銘は日本と戦う気はない。実は米英寄りの蒋介石自身も、1910年に日本の振武学校を卒業したあと日本陸軍第十三師団第十九連隊に士官候補生として入隊した経験を持つ。本来が日本びいきだ。抗日戦争を継続すべきか停戦して講和条約を結ぶべきか、揺れ動いていたところがある。特に中国共産党軍を敗退に追いやって「中華民国」を堅持し、汪兆銘に勝つことの方を優先しているという噂が囁かれ、連合国側に伝わっていた。そこでアメリカのルーズベルト大統領はわざわざ蒋介石をカイロに呼んで、米英中三ヶ国「巨頭」として蒋介石を位置づけたのだ。共産党陣営のトップである旧ソ連のスターリンが日本敗戦後に共産圏に有利な陣営を布くことも警戒していただろう。ルーズベルトはチャーチルの反対を押し切って蒋介石を祭り上げ、対中支援をすることも約束。「だから日本が無条件降伏をするまで戦おう」と呼びかけ、蒋介石が日本との単独講和条約を結んで停戦してしまうことを禁じたのである。◆蒋介石に「長春」を選ばせたカイロ宣言の中の文言有頂天になったのは蒋介石。米英のほかにソ連やフランスといった大国がある中、「中華民国」を連合国側の「三大巨頭」として扱ってくれたのだ。しかも「中華民国」のトップリーダーとして、私、蒋介石を特別の名指しでアメリカ大統領が指名して連絡してくれた。筆者は蒋介石のそのときの心理を正確に読み解くために、蒋介石の手書きの日記が所蔵してあるアメリカのスタンフォード大学にあるフーバー研究所に通い詰めた。日記からは「どんなことでも約束しよう」という高揚感が伝わってくる。43年12月1日、「カイロ宣言」がメディア公開された。実は「カイロ宣言」には署名がなく、その有効性に対して、のちにチャーチルは否定しているが、しかし蒋介石にとっては、この上なく重要なものであった。蒋介石が執着したのは「カイロ宣言」の中にある次の文言である。***It is their purpose that Japan shall be stripped of all the islands in the Pacific which she has seized or occupied since the beginning of the first World War in 1914. And that all the territories Japan has stolen from the Chinese, such as Manchuria, Formosa, and The Pescadores, shall be restored to the Republic of China.(三大)同盟国の目的は、1914年の第一次世界戦争の開始以降において日本国が奪取し又は占領した太平洋における一切の島を日本国から)剥奪すること、並びに満州、台湾および澎湖島の如き、日本が中国人から盗取した一切の地域を中華民国に返還することにある。***この文言のために、蒋介石は「中華民国の領土主権は誰の手の中にあるか」を国際社会に対して明示したいという強烈な欲求に駆られたのである。日本が中国「侵略」の拠点としていたのは「満州国」の国都として定めた「新京」。すなわち、長春だ。その「長春」に誰がいるか、その「長春」を誰が支配しているかは、「中華民国の領土主権は誰の手の中に戻されたか」を示す以外の何ものでもない。だから「長春」だけは手放してはならない。こうして「長春食糧封鎖」が存在したのであり、もし「満州国」の国都が「新京」でなかったのならば、「長春食糧封鎖」は存在しなかったと筆者は確信する(長春食糧封鎖に関しては、6月27日のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※2)。もし「新京」が国都でなかったとすれば、蒋介石が早々に「長春」を手放して、戦争拠点としてはもっと有利な瀋陽を選んだだろうからだ。1945年9月18日、中国共産党は瀋陽に中共東北局を設立している。しかし1946年3月12日には国民党が瀋陽を占領した。ソ連軍が撤退すると、蒋介石は瀋陽に国民党の選りすぐりの精鋭部隊(第一軍、第六軍、第十三軍、第五十二軍、第七十一軍、第七十一軍など)を結集させて、東北一帯における最大規模の軍隊と武器で固めた。だから食糧封鎖されたあとの長春にいた国民党軍の食糧は、すべて瀋陽からの空輸に頼っていた。つまり食糧補給庫が瀋陽にあったのだから、瀋陽を拠点として戦った方がずっと有利だったはずだ。空路だけでなく、鉄道を使った陸路にしても葫蘆島を通した海路にしても、南京政府との交流がしやすい。特に瀋陽には故宮がある。瀋陽故宮は明王朝や清王朝時代からの皇宮や離宮があり、辛亥革命により清王朝を倒して誕生した「中華民国」という視点に立てば、瀋陽を拠点とすべきだっただろう。おまけに中国共産党軍が東北局を設立していた場所だ。それを占拠したという意味においても、「中華民族」同士の内戦なのだから、瀋陽を選ばない理由はなかったはずだ。にもかかわらず、守りには不利な「長春」を選んだ。このことから考えても、蒋介石がいかにカイロ宣言にこだわり、いかにそこにある「日本が中国人から盗取した一切の地域を中華民国に返還する」という文言にこだわったかが、明らかになる。「満州国」がなかったら、そしてその国都が「新京(長春)」でなかったら、「長春食糧封鎖」はなかったと筆者は確信する。長春を死守しようとしたために瀋陽からの空輸を余儀なくされた。その空輪も困難となり、雲南から派兵された国民革命軍第六十軍は食糧配給において冷遇された。それが共産党軍(中国人民解放軍)への寝返りにつながり、国民党軍は敗退した。1948年10月17日のことだ。実際に長春が「解放」されたのは10月19日。筆者の一家が長春を脱出した1ヶ月あとのことである。「解放」とは「中国人民解放軍が国民党に勝利すること」を指し、「国民党の圧政から人民を解放した」という意味合いから中国共産党が使う言葉だ。長春陥落により、解放戦争は一気に共産党側に有利に進み、人民解放軍の南下に伴って中国全土がつぎつぎと「解放」され、1949年10月1日の中華人民共和国誕生につながっていくのである。筆者は、その要の拠点にいたことになる(長春食糧封鎖の詳細は拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3))。◆台湾問題の深淵も「カイロ宣言」と関係 中華民国を国連脱退に追い込んだ日米の罪8月5日のコラム<「台湾海峡の平和及び安定の維持に関するG7外相声明」を斬る>(※4)に書いたように、現在の台湾問題を招いた直接の原因は、アメリカが中華人民共和国(現在の中国)を選んで、中華民国(台湾)を国連脱退に追い込んだことにある。しかし、もっと深い根源をたどっていくと、カイロ宣言の、本稿で引用した関連文言と密接に関連している。そこに「台湾、澎湖島」ともあるのを見逃さないようにして頂きたい。もっと正確に言うならば、ルーズベルトと蒋介石の間で交わされた「カイロ密談」に深く関係しているのである。長くなるので、これに関しては、また別途書くつもりでいる。日本の皇居や天皇制を守ろうとし、日本を敗戦に追いやるに当たり、日本を徹底して破壊しようとはしていなかった蒋介石の日本への敬意が切ない。だからこそ、なお一層、中国と国交正常化したいあまり、中国の要求に従って中華民国と断交し、中華民国を国連脱退へと追いやった日米の打算が許せないのである。写真: Shutterstock/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/3285(※3))https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※4)https://grici.or.jp/3460
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2022/08/08 10:27
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中国から批判が集中した、長春の惨劇「チャーズ」に関するYahooのコラム【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。6月27日にコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>を書いたところ、中国の古い友人や知人から連絡が殺到し、注意喚起を受けた。中国のネットで遠藤批判が広がっているという。◆『もう一つのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に関するコラム6月27日、コラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※2)を書いた。リンク先をご覧いただければお分かりになるとは思うが、アクセスなさらない方もおられるかもしれないので、繰り返しになるが、もう一度略記する。1946年夏、終戦後に中国に遺された日本人約百万人の日本帰国(百万人遣送)があったが、このとき中国吉林省長春市にいた私の一家は、父が技術者であったために帰国を許されなかった。1947年になると、国民党政府に最低限必要な日本人技術者を残して、他の日本人は強制的に日本に帰国させられた。最後の帰国日本人が長春からいなくなった1947年晩秋、長春の街から一斉に電気が消えガスが止まり、水道の水も出なくなった。共産党軍による食糧封鎖が始まったのだ。餓死者が出るのに時間はかからなかった。行き倒れの餓死者や父母を失って街路に這い出した幼児を犬が食べ、その犬を人間が殺して食べる。しまいには、中国人だけが住んでいた(満州国新京市時代に)「シナ街」と呼ばれていた区域では「人肉市場」が立ったという噂を耳にするようになった。私の家からも何人も餓死者が出て、このまま長春に残れば全員が餓死すると父は判断し、1948年9月20日、私たち一家は長春を脱出することになった。その前日、一番下の弟が餓死した。このとき長春は二重の鉄条網で囲まれ、その鉄条網の間の真空地帯を「チャーズ」と称した。国民党側のチャーズの門をくぐって国民党軍に指示され、しばらく歩くと、餓死体が地面に転がっていた。餓死体はお腹の部分だけが膨らんで緑色に腐乱し、中には腐乱した場所が割れて、中から腸が流れ出しているのもある。共産党軍側のチャーズの鉄条網の柵近くに辿り着いた時は、暗くなっていた。ここに座れと指図したのは、日本語ができる朝鮮人の共産党軍兵士だ。脱出の時に持って出たわずかな布団を敷いて地面で寝た。生まれて初めての野宿だった。翌朝目を覚まして驚いた。私たちは餓死体の上で野宿させられたのである。見れば解放区側(共産党軍側)にある鉄条網で囲まれた包囲網には大きな柵門があり、共産党軍の歩哨が立っているが、その門は閉ざされたままだ。一縷(いちる)の望みを抱いて国民党側の門をくぐった難民はみな、この中間地帯に閉じ込められてしまったのである。水は一つの井戸があるだけで、その井戸には難民が群がり、井戸の中には死体が浮かんでいる。死んだばかりの餓死体をズルズルと引き寄せて、中国人の難民が輪を作り、背中で中が見えないようにして、いくつもの煙が輪の中心から立ち昇った。用を足す場所もない。死体の少なそうな場所を見つけて用を足すと、小水で流された土の下から、餓死体の顔が浮かび上がった。見開いた目に土がぎっしり詰まっている。この罪悪感と衝撃から、私は正常な精神を失いかけていた。4日目の朝、私たちはようやくチャーズの門を出ることが許された。父が麻薬中毒患者を治療する薬を発明した特許証を持っていたからだ。解放区は技術者を必要としていた。このとき父には父の工場で働いていた人やその家族、あるいは終戦後父を頼りにして帰国せず、父が面倒を見ていてあげた家族も同行していたが、その中にご主人は餓死なさって、奥さんと子供だけが残っていた家族もいた。すると、いざ出門となった時に、共産党軍の歩哨の上司がやってきて、「遺族は技術者ではない!」として、この親子だけを切り離して出門を許可してくれなかったのだ。父は八路軍の前に土下座して、「この方たちは私の家族も同然です。どうか、一緒に出させてください・・・!」と懇願した。しかし共産党軍兵士は、土下座して地面につけている父の頭を蹴り上げ、「それなら、お前もチャーズに残れ!」と、あおむけに倒れた父を銃で小突いた。父は断腸の思いでチャーズをあとにする決意をした。父の無念の思いを、私は日本帰国後何十年かした日の父の臨終の言葉で知った。仇を討ってやる!その思いで書いたのが『チャーズ 出口なき大地』(1984年)だが、何度復刻版を出しても絶版になり、このたび『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3)として復刊した。一方、2017年12月に中国共産党が管轄する中国人民出版社から『囲困長春』という本が出版されている。中国共産党の非人道的行為は完全に隠され、あくまでも「国民党政府が悪いので多くの餓死者を招いた」としか書いてない。おまけに共産党軍は「9月11日から、チャーズ内の全ての難民を解放区に自由に出られるようにした」と書いてある。嘘だ!生き証人を騙すことはできない。習近平政権になってから、歴史を改ざんし中国共産党を美化した長春包囲作戦が新たに出版されたということは、習近平政権が歴史を改ざんしたということになる。この類の本は最終的には中央政府の「国家新聞出版広播電影電視総局」(2013年までの新聞出版総署)が許認可権を持っているからだ。だからこそ<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※4)というタイトルでコラムを書いた。◆中国から連絡が殺到!ところが、それからしばらくすると、いきなり中国各地というか、さまざまなレベルや種類の友人あるいは知人から連絡が殺到した。直接電話してきた人もいれば、スマホのメッセージに送ってくる人、あるいはパソコンにメールしてくる人など、一斉に動いたので、よほど何かあったのだろう。どうやら、上掲のコラムが中国語に訳されて中国のソーシャルメディアなどで流れたらしい。慌てたように忠告してきたその内容は、次の2点において共通していた。・チャーズに関して、習近平が歴史を改ざんしたと書いたのか?習近平が東北、長春の歴史など知ってるはずがないだろう?・友人だからこそ言うが、習近平を誹謗するようなことは書かない方がいい。身のためにならないので、やめた方がいい。そこで私は答えた:中国では中国共産党の歴史に関わるような本は、すべて新聞出版総署で出版の可否を審査する。私のチャーズの本の中国語版出版に関しては、1980年代半ばから約30年間にわたり中国の数知れぬほど多くの出版社に当たってきた。特に東北地域の出版社の社長は「実に素晴らしい!真実が書いてある。今なら何とかなるかもしれない」と言ってくれたが、結局は新聞総署まで行って不許可になった。新聞出版総署は習近平政権になってから国家新聞出版広播電影電視総局に改称したが、これは言論に関する全てを、より広範囲にわたって監視監督をするようになったということを意味する。天安門(六四)事件だって、習近平は認めてないではないか。中国共産党に不利な史実は全て改ざんし、それを指摘したものは逮捕されるのが中国だ。だからこそ私は言論の自由がない中国に見切りをつけたのだ。私はもう二度と中国に行かないから逮捕されることはない。心配には及ばない。◆中国の思想統一の深さと恐ろしさ連絡してきたのは友人知人たちなのだから、もちろん悪意はない。むしろ本気で私の身の安全を思ってくれたからこそ、息せききったように「忠告」してきたのである。しかし、その真剣さは、あまりに絶望的な思いを私に抱かせた。思想統一というのは、ここまで根深く個々人の思考を支配してしまっているのか。偶然に中国のあちこちから一斉に連絡があったということは、ほぼ全ての庶民に中国共産党による思想統一が徹底して染みわたっていることを意味する。1950年代初め、私は中国を侵略した国家の人間の一人であるとして、天津の小学校で激しいいじめに遭い、自殺を試みたことがある。そのいきさつに関しては拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※5)の後半で詳述した。いたたまれない屈辱感の中で生きることを選ぶのは限界だった。この一斉連絡は、あの時の苦しさを思い起こさせ、ふと、理論物理の研究を手放し、80年代初期に中国人留学生を助けるための道を選んでしまった人生に、救われない悔恨を覚えた。もう中国分析はやめようか。中国と関わらないところで生きていく道を選んだ方がいいのだろうか。中国は変わらない。中国共産党一党支配の恐ろしさは限りなく深い。画像:筆者作成(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/3285(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※4)https://grici.or.jp/3285(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/
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2022/08/03 10:19
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習近平三期目を否定するための根拠のまちがい【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平三期目を否定する根拠として頻出しているのが5月25日に李克強が主催した10万人参加の国務院オンライン会議で、これを反習近平会議とし、国防部長が参加したのは軍が習近平から離れているという論理だ。あまりに奇想天外で中国政治のイロハを知らな過ぎ、このような論理が流布するのは日本人のために適切ではないと思われるので、そのまちがいを指摘し、正確な情報を提供したい。◆5月25日の国務院会議における李克強・国務院総理の演説内容5月25日、新華社電は<李克強はオンライン会議で全国の経済安定化に関する重要な演説を行った>(※2)ことを伝えた。国務院が招集した会議なので、国務院総理の李克強が演説し、司会は国務院副総理である韓正が務めた。演説の主たる内容は以下のようなものである。1.今年は、習近平同志を核心とする党中央委員会の強いリーダーシップの下、党中央委員会と国務院の配備をあらゆる面で実施し、困難な課題、特に予想を上回る要因の影響に力強く対処し、多くの実りある仕事をしてきた。2.しかし、3月以降、特に4月以降、雇用、工業生産、電気貨物輸送などの指標は著しく低下しており、2020年のコロナ流行の時に受けた影響よりも、深刻な側面がある。コロナの大流行を予め防御コントロールするためには、財政的・物的保障が必要で、雇用・民生を保護しリスクを予防するためには、開発支援が必要だ。3.コロナ流行の徹底した予防管理と経済・社会開発を効率的に調整し、信頼を固め、困難に立ち向かい、安定的な成長を図らなければならない。4.国務院のすべての部門は、この安定的経済成長に対して責任があり、緊迫感を以て中央経済作業会議と政府活動報告で特定された政策措置を上半期までに基本的に完了させなければならない。5.中央と地方の2つの積極性を発揮しなければならない。困難な問題を継続的に解決することは、あらゆるレベルの政府の行政能力のテストを行っているに等しい。コロナ流行の予防と管理をうまく行いながら、経済・社会開発の任務を完成しなければならない。大規模な貧困への逆戻りが起きないように各レベルの政府は留意せよ。6.国務院は26日、12の省に監査チームを派遣し、政策の実施を貫徹しているか否かに関する特別監査を実施する。各地方各レベルの政府の 第2四半期における経済指標は、国家統計局が法律に基づいて真実の結果を公布し、国務院に報告すること。7.習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として、党中央委員会と国務院の配備に従い、経済・社会の円滑かつ健全な発展を促進すること。(李克強の演説概要はここまで)◆この会議のどこに「反習近平色」があるのか?日本の少なからぬメディアでは、5月25日に李克強が主催した国務院会議は、習近平のゼロコロナ政策を否定したものであり、したがって「反習近平」の狼煙(のろし)をあげたようなものだという解説が散見される。そもそも、国務院総理が国務院会議を開く時には、その前に必ず中共中央政治局常務委員会(今はチャイナ・セブン)会議で協議し、そこで合意した上で、チャイナ・セブンの一人である国務院総理・李克強に「指示」を出す。すなわち国務院会議の方向性も内容も規模も、すべて予め習近平をトップとしたチャイナ・セブンで協議決定しているのである。その決定に従って国務院総理である李克強が開催するのである。こうして開催された国務院会議で李克強が行った演説の要旨を、見やすいように「1」~「7」に分けて略記したわけだが、このどの項目から「習近平のゼロコロナ政策を否定する」要素を見い出すことができるのか、読者も実際に考察してみていただきたい。明らかに上記の「2」と「3」と「5」に、「コロナ感染の予防と管理」を厳しく守りながら、「同時に経済発展できる道」を模索しようという努力目標を確認し合っている。「5」では習近平のスローガンの一つである「共同富裕」を守るべきだということまでが書いてある。また冒頭の「1」に「習近平同志を核心とする」という、極めつけの言葉があり、演説の最後も「7」にあるように「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として」という言葉を盛り込んで締めくくっている。習近平礼賛で始まり、習近平礼賛で締めくくった演説で、「習近平のゼロコロナ政策を否定した反習近平集会」などという要素は微塵もない。そもそも武漢でコロナ患者が最初に発症した時、すぐさま武漢封鎖に踏み切らせたのは李克強だ。習近平がミャンマーに外遊しており、コロナが発生したという緊急連絡を李克強から受けても、なおのんびりと雲南で春節巡りをしていたことは執拗なほど追いかけてコラムを書いてきた(たとえば、2020年2月10日のコラム<新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?>(※3)などを参照)。このように、ゼロコロナ政策をスタートさせたのは李克強自身なのである。それを今になって、あたかも習近平が言い始めたゼロコロナ政策であるかのように勘違いしてしまっているとしたら、習近平の目論見(もくろみ)は大成功を収めているという皮肉な結果を招いていることになる。習近平の政策だという「勘違い」を生ませたのは、アメリカがコロナを制御できず、トランプ大統領が「チャイナ・ウィルス」と言い始めたため、その頃ほぼ完全にコロナから脱却していた中国に関して、習近平が「社会主義制度の優位性」を主張したことから始まっているだけだ。騙されてはいけない。◆出席した幹部:国防部長・魏鳳和は国務委員なので必ず出席5月25日に李克強が招集したのは「国務院会議」なので、当然のことながら「国務院副総理」や「国務委員」が出席していなければならない。さらに国務院管轄下の中国政府の中央行政省庁の長もまた、必ず出席を要求される。さて、国務院副総理には誰がいるだろうか。韓正、孫春蘭、故春華、劉鶴だ。この4人は全員出席していた。では国務委員には誰がいるのか。魏鳳和、王勇、肖捷、趙克志そして王毅だ。この日、王毅はソロモン諸島に出張していた(※4)ので、王毅だけは欠席しているが、その他の国務委員は全員出席している。その中に国防部長の魏鳳和がいた。国防部長は、外交部長や教育部長など、すべての中国人民政府の中央行政省庁の長(部長=大臣)なので、その意味でも必ず出席しなければならない。ところが、中国の政治構造のイロハを知らない一部の「中国研究者」は、なんと「経済に関係ない国防部長の魏鳳和が出席していたということは、軍までが反習近平に回った何よりの証拠だ」と結論付けている。だから、「習近平は軍を掌握していない」ので、「習近平の三期目続投はない」というのが、そういった「中国研究者」たちが導く結論だ。いやはや、これを見た時は、さすがに度肝を抜かれた。ここまで中国政治の基本を知らないで、習近平三期目の可能性を論議するのは、いくら何でも適切ではないだろう。日本の一般の読者の方々に間違った情報を叩き込み、まちがった憶測を呼ぶと、政治にも経済にも良い影響は与えない。三期目の可能性がどうなのかを論じるのは、もちろん大変結構なことだ。誰にでも、それを考察する権利はある。ただ、考察する際に、その根拠となる事実が間違っていたら、推論は成立しない。◆10万人規模の参加者など何十年も前からオンライン会議の参加者が10万人と大規模なので、これも反習近平派が習近平に圧力をかけるための李克強の計算だというようなことまでが、実(まこと)しやかに書かれているのを見ると、これも同様に「度肝を抜かれるほど」驚いてしまうのである。なぜなら、何十万人規模の会議というのは、中国建国以来続いているもので、昔はラジオ一台を壇上の机の上に乗せて、省・直轄市・自治区レベルから村レベルに至るまで、全関係者が講堂や大きな会議室にキチンと着席して聞いたものである。全中国人民に対して行う毛沢東のスピーチなどもあり、小学校の講堂に集められたり、街角に備えてある巨大なスピーカーから毛沢東の声が流れて、誰もが「ありがたく」、そして「尊崇の念」を以て聞いたものだ。中国共産党の思想統一のためのピラミッドは、尋常ではないことを知るべきだろう。今ではテレビもあればパソコンもあり、どんなことでもできる。しかし会議に参加して視聴していいのは限られている場合が多いから、やはり一ヵ所に集まって整列して視聴するのである。たとえば、このような県政府レベルの通達(※5)もあり、服装までが決められている。なぜならテレビが普及してからは、視聴している村レベルの委員たちの場面を撮影して全国放送する場合があり、また服装まで統一させれば紀律性と遠隔においても権威性を高める効果もあるからだ。習近平三期目がどうなるかは興味深いが、推測の基本となる情報は信頼性のあるものを根拠にしなければ意味がない。まちがった根拠の多くはアメリカに移り住んだ中国大陸の者が、アメリカで生きていく手段としてアクセス数を増やすため、「注目を浴びる」という目的だけで、ネットユーザーが喜びそうなデタラメな情報を流すことが原因であることが多い。日本の中国研究者は、そういった情報にすぐに飛びつく。その典型的な例に関しては、追ってまた、機会を見てご披露したい。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2022-05/25/content_5692298.htm(※3)https://grici.or.jp/885(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220526_10692929.shtml(※5)http://jxx.nc.gov.cn/jxxrmzf/dztzgg/202205/cac033a068a548e3b86dc00a36072ae0.shtml
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2022/08/01 16:27
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米中首脳電話会談——勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」次第(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆アメリカ側が発表した米中首脳電話会談の内容アメリカ時間7月28日、ホワイトハウスは米中首脳会談に関する内容を以下のように発表した(※2)。その概略を示す。・バイデン大統領は本日、中華人民共和国の習近平国家主席と会談した。この呼びかけは、米中間のコミュニケーションを維持し深め、責任を持って私たちの違いを管理し、私たちの利益が一致する点では協力するというバイデン政権の努力の一環である。・この呼びかけは、3月18日の2人の指導者の会談と、米中両国高官の間の一連の会話に続くものだ。両首脳は二国間関係やその他の地域的および世界的な問題にとって重要なさまざまな問題について話し合い、特に気候変動と健康の安全に取り組むために、今日の会話をフォローアップし続けるようチームに命じた。・台湾について、バイデン大統領は、「アメリカの政策は変更されておらず、アメリカは、現状を変更させる一方的な動きや、台湾海峡の平和と安定を損なうことに強く反対する」と強調した。◆ペロシの動きに関して7月29日に行われた中国外交部定例記者会見において、記者が「米中首脳会談中にペロシ下院議長訪台に関する話題は出ましたか?」と質問したのに対して、趙立堅報道官は「皆さんご存じのように、このたびの電話会談はペロシ下院議長が訪台を計画しているという背景の下で行われたのだ」と回答し、質問をはぐらかした。アメリカのペンシルバニア州にいる友人からメールが来て、ペロシはもう82を過ぎていて年齢的に次はないので、自分の後継者に関してバイデンに圧力をかけるため、嫌中行動を強行しようと、一種の交換条件を提示しているという要素があると知らせてきた。次期政権がバイデンになるとは限らないし、バイデンの支持率が低迷しているので民主党が勝つとは限らないのではないかと聞いたところ、「ペロシは自分の夫がNVidiaの株を購入することに関してインサイダー取引があったのではないかという批判を浴びている(すなわち、アメリカでのCHIPS法案が成立する直前に株を購入してぼろ儲けをしている(※3))ので、その批判をかわすためにバイデンや民主党に対して利益交換をしているとも言われている」と教えてくれた。加えて、ペロシが呼び掛けた訪台代表団に関しては、少なからぬ議員が「都合が悪いので」などと言い訳をして断っているという情報も飛び交っている。あるいは、バイデンとしては、習近平には「台湾独立を支持しない」と言いながら、ペロシ訪台に関しては下院議長としての意思決定なので、自分にはどうしようもないとして逃げる可能性もなくはない。そうは言っても現実問題として、ウクライナ戦争を仕掛けたバイデンとしては、ウクライナに何としても勝ってもらわないと困るが、アメリカのLNG(液化天然ガス)産業関係者と武器製造業者だけはぼろ儲けしていても、物価高騰などによりアメリカ経済は疲弊しているので、ここに台湾衝突が加われば対処しきれず、中間選挙も大統領選も失敗する可能性が高くなるので、ペロシの訪台はバイデン政権にメリットをもたらすとは思えないという側面は否めない。あと数日で趨勢は決まるだろう。この視点でゆくえを見守っていきたい。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/07/28/readout-of-president-bidens-call-with-president-xi-jinping-of-the-peoples-republic-of-china/(※3)https://www.reuters.com/markets/us/pelosis-husband-dumps-nvidia-stock-house-eyes-chip-bill-2022-07-27/
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2022/08/01 10:36
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米中首脳電話会談——勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」次第(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。7月28日夜、習近平・バイデンの電話会談があったが、米中の勝敗と今後の世界のゆくえはペロシ下院議長が訪台するか否かで決まる。中国があれだけ抗議した中で行われたからだ。◆ペロシ下院議長の訪台に対する中国側の尋常ではない抗議ペロシ米下院議長が台湾を訪問する予定があると最初に報じたのはイギリスのフィナンシャル・タイムズで、7月18日のことだった。すると翌19日の定例記者会見で中国外交部の趙立堅報道官は直ちに反応し、「断固として反対する」と激しい顔で叫んだだけでなく、その後も複数回にわたって抗議を表明し、しまいには「可能な限りの無慈悲な懲罰を与えると思え」という趣旨の言葉を使うようになり、抗議表明がエスカレートしていった。抗議をしたのは外交部だけではない。中国国防部の報道官までが<もしペロシが訪台すれば、中国の軍隊は絶対に座視しないと思え>(※2)と宣告し、「レッドラインを超えるな」という勢いだった。国防部までが抗議表明したのは、相当に危険領域に入っているという事態を表している。一方、7月20日、バイデン大統領は記者会見でペロシの訪台に関して聞かれ、「軍(国防総省)があまり賛成していない」(※3)という趣旨のことをムニャムニャと言葉を濁しながら言っている。電話会談が始まる前の7月27日のBloomberg(※4)は、ペロシのアジア訪問には、日本、インドネシア、シンガポールへの訪問が含まれる予定だが、台湾訪問の可能性は、公式の旅程から外れたままであると関係筋が述べていると書いている。ペロシ自身は「安全上の懸念を理由に」旅行スケジュールについて公表することを避けているという。多くのメディアは、ペロシが訪台すると、これは1997年に共和党のギングリッチ下院議長が訪台して以来のこことなると報道しているが、中国の元政府高官を取材したところ、ギングリッチの場合は、きちんと北京を訪問して、「挨拶」をした上で台湾を訪問しているので、「こんなことは初めてだ!1997年の情況とはわけが違う!」と立腹している。調べてみると、たしかにギングリッチの場合は1997年3月29日に江沢民国家主席に会い(※5)、同じ日に李鵬首相にも会っていて(※6)、その上で3月30日に東京に向かい(※7)、その後、4月2日に台北に行って李登輝総統に会っている(※8)。したがって、中国政府の元高官が言う通り「わけが違う」のかもしれない。今般は、このような中で行われた米中首脳電話会談なので、一つの可能性として考えられるのは、水面下で「ペロシ訪台をやめた」とアメリカ側が譲歩したからこそ習近平はバイデンと電話会談することを承諾したのかもしれないことが考えられる。しかし、もうひとつには、ペロシは下院議長としてバイデンの指令下にはない独自の決定権を持っているので、あるいは29日にワシントンを出発したと言われているペロシのアジア歴訪は、「台湾」を含んでいる可能性も、完全には否定できない。となると、米中首脳電話会談の勝敗は、「ペロシ下院議長の訪台」如何(いかん)にかかっているということになる。つまり、会談前に「ペロシの訪台を取り下げなければバイデンとは会談しない」と習近平が突っぱねたのであれば、この時点で条件闘争において習近平の勝ちだし、ここまで抗議したにも拘(かか)わらず、結局ペロシが訪台するとすれば、習近平のメンツは丸つぶれになるということだ。◆中国側が発表した米中首脳電話会談の内容7月29日の00:05に中国外交部が発表した電話会談の内容(※9)によれば、米中首脳は双方の懸念事項について率直なコミュニケーションと交流を行ったとのこと。習近平は、「世界の混乱に直面して、国際社会と国民は、中国とアメリカが世界の平和と安全を維持し、世界の発展と繁栄を促進する上で主導的な役割を果たすことを期待している」と述べた上で、以下のようなことを言っていると報道している。・戦略的競争という視点から米中関係を定義し、中国を最大のライバルとみなすことは誤算を生み、中国の発展を誤読することにつながる。双方は、あらゆるレベルのコミュニケーションを維持し、既存のコミュニケーションチャネルをうまく利用して、協力をこそ促進するべきである。・現在の世界経済情勢は困難を極めており、米中はグローバル産業のサプライチェーンの安定性を維持させ、世界のエネルギーと食糧安全保障の確保など、主要な問題についてコミュニケーションを維持すべきだ。ルールに反して意図的に連鎖を断ち切れば、アメリカ経済にも災いをもたらし、世界経済をより脆弱にさせるだろう。・特定の地域の熱くなった問題点を煽るのではなく、その温度を下げるために努力すべきで、コロナと経済衰退のリスクを下げるべく国連を中核とする国際システム及び国際法に基づく国際秩序を維持するよう支援すべきである。・台湾問題に関する中国の原則的立場を重視すべきだ。台湾海峡の両側が「一つの中国」に属するという事実と現状は明確であり、「一つの中国」原則は中米関係の政治的基盤だ。 我々は、「台湾独立」という分裂と、外部勢力の干渉に断固として反対し、いかなる形態の「台湾独立」勢力にもいかなる余地を与えない。台湾問題に関する中国政府と中国人民の立場は一貫しており、中国の主権と領土の一体性を断固として守ることは、14億人以上の中国人の確固たる意志である。もし中国の民意に逆らって火遊びをすれば、大やけどを負うことになるだろう。これに対してバイデンは、以下のように述べたという。・米中協力は、両国の国民だけでなく、すべての人々にも利益をもたらす。アメリカは中国との円滑な対話を維持し、相互理解を促進し、誤解を回避し、利益を共有する分野で協力し、相違を適切に管理したいと考えている。・私は、アメリカの「一つの中国」政策が変わっていないこと、また、アメリカが台湾の「独立」を支持していないことを改めて述べたいと思う。その上で両首脳はウクライナ危機などについても意見交換を行い、習近平は中国の原則的立場を改めて表明した。両首脳は、この電話は率直で深く、今後もコミュニケーションと協力を継続するために、連絡を取り合うことに同意したと、中国外交部は報道している。「米中首脳電話会談——勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://world.people.com.cn/n1/2022/0727/c1002-32486844.html(※3)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/07/20/remarks-by-president-biden-after-air-force-one-arrival-5/(※4)https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-07-27/pelosi-taiwan-trip-in-limbo-as-officials-plan-east-asia-stops#xj4y7vzkg(※5)https://cn.govopendata.com/renminribao/1997/3/29/1/#1072956(※6)https://cn.govopendata.com/renminribao/1997/3/29/2/#1072963(※7)https://rmrb.online/read-htm-tid-1127378.html(※8)https://www.president.gov.tw/NEWS/3979(※9)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202207/t20220729_10729582.shtml
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2022/08/01 10:32
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政教一致を謳う統一教会は台湾で政党結成【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。統一教会は「政治と宗教は一つにならなければならない」と主張しているようだが、日本では自民党に食い込むことはあっても政党結成にまでは至っていない。しかし台湾では既に政党を結成。取材したところ、「日本には公明党があるではないか」と反論された。◆統一教会の台湾における布教活動香港メディアの一つである「超越新聞網」は7月13日、<安倍刺殺は、恐るべき韓国の邪教を表面化させた!>(※2)というタイトルで、日本だけでなく、韓国や台湾などにおける統一教会の布教活動に関して詳細に論じている。台湾における統一教会の布教に関しては、統一教会自身による報道があるが、ここでは「超越新聞網」の報道を参考にして紹介したい。その報道には、おおむね以下のように書いてある。——1967年、(アメリカの)CIA(中央情報局)の要請により、文鮮明は日本人女性の福田修子(韓国系の鄭仁淑)を台湾に派遣し、1971年に合法的な宗教団体として登録した。それを知った蒋介石は激怒して、すぐにそれを禁止した。蒋介石の厳しい弾圧の下、統一教会は地下活動を行い、李登輝政権が登場するまで、「家庭教会」の形で持ちこたえようとした。1993年に李登輝の招待により、文鮮明夫妻は台北を訪問して「立法院」でスピーチをしたため、(邪教の)信者は一気に5万人に膨れ上がった。2011年に「統一教台湾総会」に改名し、「純愛運動」とか「理想の家庭創建運動」など21の支部が台湾で組織された(引用ここまで)。引用文の中にある「CIA」との関係に関して、同じく「超越新聞網」は「文鮮明が1950年代初期に韓国で世界基督教統一神霊協会(略称:統一教)を設立して活動していた時期、CIAは文鮮明を情報提供者として扱い、文鮮明はCIAの保護下に置かれていた」と説明している。1955年7月13日にソウルの警察側が文鮮明を「集団姦淫罪」で逮捕したのだが、同年10月4日、CIAの干渉により文鮮明は無罪放免となったという。韓国はアメリカの準植民地であるため、CIAは統一教会を反共主義の最前線として位置づけ、1957年にも韓国当局が文鮮明の農村における布教を(淫乱な)邪教が農村の生産性に影響を与えるとして拘禁すると、再びCIAが干渉してきて釈放した。その恩義に報いるために、文鮮明は1958年に(アメリカのもう一つの準植民地である)日本を訪問させ、布教に努めさせたのだと「超越新聞網」は書いている。さらにアメリカが力を及ぼしている台湾にも統一教会を派遣させたのが、冒頭の引用文に書いた「1967年」のことだと、「超越新聞網」は位置付けている。◆統一教会自身による台湾における活動の紹介2011年9月14日、統一教会は、世界平和家庭連合のニュースとして<台湾の統一教会が優秀宗教団体特別賞を受賞>(※3)というタイトルで台湾での活動を報道している。それによれば、台湾には1万5000もの宗教団体があり、その中から毎年、台湾政府の内政部(総務省に相当)が「優秀宗教団体」を表彰しているが、中華民国の建国100周年記念行事として、過去に優秀宗教団体賞を受賞した261の団体の中から、過去15年間で12回以上、または10回連続で優秀賞を受賞した宗教団体4団体に特別賞が与えられたとのこと。台湾統一教会は2001年より10年連続で表彰された実績を認められ、その4団体の一つに選ばれ、特別賞を受賞したという。最近の活動は、統一教会自身が披露した動画(※4)などに、華々しく載っている。たとえば2020年8月10日には<父の日に模範的父親が表彰されただけでなく、結婚生活60年目の夫婦も結婚式の服装をして祝福された>(※5)という動画があり、「集団結婚」だけでなく、すでに結婚している老夫婦にも布教を浸透させているためか、やはり「結婚」を媒介として布教する様がうかがえる。◆台湾で結成された統一教会の政党「天宙和平統一家庭黨」このような社会環境の中、統一教会は2014年7月20日に、「天宙和平統一家庭党」なる政党を設立している。創黨(※6)理念には、「社会は宗教、政治、経済という3つの力で構成されている」とあり、「宗教と政治が調和」してこそ、国家は正しい統治ができという趣旨のことが書いてある。興味深いのは、「今日の政治は、政治的に支配権を得るために宗教家を利用する」が、宗教の神聖な意志を無視しているので、宗教家自身が政治に直接関わらなければならないという趣旨のことが書いてあることだ。つまり、日本の政権与党・自民党との関係を深めている背景には、やがて政権を取るというか、政治に入り込んでいこうとする意図が見て取れる。おまけに「天宙和平統一家庭黨」の「綱領」(※7)を見ると、以下のようなことが書いてある。・統一教会が世界を神に導かれた一つの国家(One Family under God)に持っていくこと。・まずは段階的に台湾を統一教会が創った天一国(天宇和平統一国)にする。・世界各国に天一国を建設し、アメリカが独立時に13州をまとめてアメリカ合衆国としたように、統一教会が指導する連邦国家を世界に創り上げること。(以上)日本は今、その過渡的段階として利用されているということだろうか。◆台湾の知人を取材:日本には創価学会があり公明党が政治参加しているではないか!宗教に強い関心を持っている台湾の友人に電話して取材した。「台湾には統一教会の政党があるようですね?」と軽く聞いたつもりだが、彼女は強い剣幕で反駁してきた。「そうですよ!日本にだって公明党があって、しかも政権与党にさえなってるじゃないですか?日本の憲法では政教分離の原則があっても創価学会が公明党を作ることを認め、おまけに政権与党の自民党と組んで連立与党を作ることさえ認めていますよね!その日本から、統一教会に関して何か言われる覚えはないわけですよ。統一教会はそのうち、世界中の国で政党を作って天一国により全人類を統治するつもりですから」と、まるで「そのつもりでいてください」と言わんばかりの、思いもかけない回答が戻ってきた。彼女は統一教会の信者だったのかもしれないので、あわててお礼を言って電話を切った。その後、台湾における創価学会がどうなっているのかを調べてみたところ、「台湾創価学会」(※8)というホームページがあり、基本紹介(※9)には、創価学会は1962年に台湾に上陸し、1990年に正式に宗教法人として台湾で認められたとある。そして、やはり統一教会同様、台湾の「行政院賞」や、22回連続で内政部が発布している「全國性社会団体公益貢献賞」など、数多くの賞を受賞していることが書いてある。2017年と2021年には「芸術教育貢献賞」を受賞し、台湾政府の文化部からは「文馨賞」も受賞しているようだ。ただ、創価学会は「親中」なので、台湾で政党を作るなら、国民党寄りになるのかもしれない。日本国憲法にある「政教分離の原則」に対する解釈を、改めて思い知らされた次第だ。写真: つのだよしお/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://beyondnews852.com/20220713/110451/(※3)https://www.ucjp.org/archives/9742(※4)https://ffwpu.org.tw/report-media(※5)https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=Kyf2dKZnllI(※6)https://taiwanfamilyparty.wordpress.com/about/(※7)http://upufamilyparty.blogspot.com/(※8)https://www.twsgi.org.tw/(※9)https://www.twsgi.org.tw/intro.php?level1_id=2&level2_id=3
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2022/07/29 10:34
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中国大陸ミサイル砲撃想定避難訓練中の台湾は、国共内戦時の長春の惨劇「チャーズ」に屈折した思い【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国大陸ミサイル砲撃を想定した避難訓練をしている台湾の民進党政権下で、日本敗戦後の国共内戦で起きた長春の惨劇「チャーズ」を位置付けるのは難しい。正史を伝えられるのは日本だけかもしれない。◆中国軍の侵攻想定し、台湾で大規模軍事演習7月25日、台湾の中央通信社のウェブサイトの一つ「フォーカス台湾」は、<台湾、大規模実動演習始まる 中国軍の侵攻想定>(※2)というタイトルで台湾における軍事演習の模様を報道した。それによれば、中国軍の台湾侵攻を想定した定例演習「漢光38号」の実動演習が7月25日に始まったそうだ。漢光演習は(中華民国の)国軍が行う1年で最大規模の演習で、年々訓練の強度を高め、練度の向上を図っているとのこと。29日まで行われる。事実、24日にも中国の軍用機4機が台湾南西の防空識別圏に進入しており、また25日には中国軍の無人機が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に出た後、台湾方面へ飛び去ったと日本の防衛省が発表している。ただ領空侵犯はなく、無人機は哨戒機などを伴わず単独で飛行した。7月25日の報道<中国軍無人機、沖縄本島・宮古島間を通過 台湾方面へ>(※3)によれば、日本の航空自衛隊は25日午前から午後にかけて、中国製の偵察・攻撃型無人機「TB001」1機が東シナ海方面から飛来し、沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に抜けたのを確認しているという。その後、無人機は太平洋上で旋回した後、台湾とフィリピンの間のバシー海峡方面へ飛行したとのことだ。◆中国大陸からのミサイル攻撃を想定し、台湾で避難訓練7月25日に台湾では中国大陸からのミサイル攻撃を想定した避難訓練を一般市民に行わせていると、台湾の国防関係研究所で研究に従事している筑波大学時代の教え子から連絡があった。4月20日のコラム<台湾の世論調査「アメリカは台湾を中国大陸の武力攻撃から守ってくれるか」——ウクライナ戦争による影響>(※4)で述べたように、台湾ではウクライナ戦争が始まって以来、台湾も中国大陸からいつなんどき急襲を受けるか分からないという不安が高まり、急襲された時にアメリカは助けてくれないだろうという絶望的な気持ちに陥っているという。ウクライナに対するのと同じように、武器だけ売りつけて軍隊は出さないという形を取るだろうから台湾人は自ら戦うしかないが、どんなに軍事訓練をしたところで、台湾の国軍だけで勝てるはずはないので、果たして民進党でいいのか否かという声も出てきているとのこと。民進党は独立傾向が強いので大陸から攻撃される可能性が高いが、国民党は親中なので、国民党が政権を取れば中国は台湾を攻撃することはないだろうという考え方が、少しずつ広がっているというのである。一般庶民は平和で豊かに暮らせる方がいいので、ウクライナを見ていると、バイデン大統領が副大統領だった時に、「NATOに対して中立」という立場を保ってきたウクライナのヤヌーコヴィチ政権を打倒するクーデターを起こさせて、バイデンの言う通りに動くポロシェンコ政権を誕生させたのと同じことを、台湾で扇動してほしくないというのを、台湾の知識人は学ぼうとし始めていると教え子は言った。そのために日本語が分かる彼は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を購入して読み、p.150からp.155にある年表を中国語訳して知人友人に配っているという。筆者の「チャーズ」体験を知っている教え子は、国共内戦における長春の惨劇に関しては、もっと複雑な思いが台湾にはあると教えてくれた。◆国共内戦における長春の惨劇「チャーズ」日本敗戦後の中国においては、「中華民国」の国民党軍と、「中華民国」を倒そうとする共産党軍が天下分け目の戦いである「国共内戦」を展開していた。筆者がいた中国吉林省長春市では1947年晩秋から1948年10月にかけて、共産党軍による食糧封鎖があり、数十万の一般市民が餓死している。このときにくり広げられた、文字にもしにくいほどの惨劇に関しては、拙著『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※5)で詳述し、その概要は6月27日のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※6)でご紹介した。当時、長春市内にいたのは国民党軍で、長春市を丸ごと鉄条網で包囲して食糧封鎖をしたのは共産党軍だ。その国民党軍は国共内戦で敗退し、台湾に逃げたが、いまその台湾では、国民党は野党であって、政権を握っている与党ではない。政権与党は民進党だ。◆台湾の民進党から見ると国民党は「にっくき政敵」民進党から見ると、国民党は「政敵」なので、国民党が国共内戦に敗けたことも、長春の食糧封鎖で苦しんだことも、「政敵」を責める材料にはなっても、現在の中国共産党を批判する材料にはならない。かと言って国民党を批判すれば、共産党軍が正しかったことになり、それは先述のコラム<許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」>(※7)に書いた習近平政権の主張と同じになる。民進党は反中であり反共だ。「台湾独立」が党の信条である。ただ戦略上、いま独立を前面に出してはいないが、本当の敵は中国共産党だ。しかし台湾内での「政敵」は国民党なのだから、「国民党が正しくなかった」と、国民党を批判することには賛成なのである。◆現在は「親中」の国民党教え子は、5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※8)に書いた、台湾のネット番組【頭條開講】が報道した【台湾海峡は煉獄になったのか? ホワイトハウスはどうしても北京を怒らせたい(北京を怒らせるためには手段を択ばない)! 「台湾の独立を支持するか否か」がカードになってしまった! 】(※9)を見たという。その番組に出ていた元ニュージーランドの「中華民国」代表(大使級)の介文汲の「アメリカは中国大陸が台湾を攻撃するよう中国大陸を誘い込むためのシナリオを描いている」というコメントに賛成だとのこと。だから、「台湾人自身が自分たちの未来を決定する道を選ばなければならない」のだが、その結果選挙で国民党を選ぶのかと言えば、そこも微妙だと嘆く。中国共産党と戦った国民党が今は最も親中で、少なくとも「台湾独立」を唱えることはない。「一つの中国」を信条としていて、その「一つの中国」は「中華民国を頭に描いてもいい」という「九二コンセンサス」に賛同しているからだ。しかし「九二コンセンサス」は過渡的な妥協案で、いま習近平は台湾にも「一国二制度」を適用しようとしている。その標本となるはずだった香港統治が国安法で落ち着いたので、たしかに国民党政権になれば中国が台湾を武力攻撃することだけはしないが、二つ目の香港になるのは目に見えているので悩ましいと教え子は言う。◆長春の惨劇「チャーズ」を伝えていけるのは日本のみ教え子は筆者の本の愛読者の一人でもあるので、早速『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※10)を台湾からネットで購入して読んでくれたという。そして嘆いた。——残念ながら長春での餓死者に対して、国民党軍が長春市民を守るという正しいことをしたのかというと、そうではない。もちろん共産党軍が食糧封鎖をして一般市民を餓死させたのは確実ですが、国民党がそれに対して必死で戦ったかというと、そうではないので、国民党にとっても、あの「チャーズ」は名誉なことではないんです。特に蒋介石直系の新七軍が雲南から来た第六十軍を虐めるというような内部分裂をしていたので、六十軍が反旗を翻して共産党軍に寝返ってしまった。ですから、台湾では、民進党にとっても国民党にとっても「チャーズ」は避けたい話題になっています。それはある意味、習近平の思惑と一致している。まるで共謀しているようなものです。ですから、先生は唯一の生存者で一番信頼できる証言者なので、如何に凄惨なことが起きたかを人類に伝えていけるのは先生しかなく、むしろ日本しかないということになります。日本が、中国共産党が如何に非人道的なことをしたかを世界に知らしめていく唯一の国になるのかもしれません。日本の民主主義に感謝し、期待しています。中国大陸からのミサイル攻撃に対する避難訓練の話から、思いもかけない日本の役割に関する言葉をもらった。今年もまた「終戦の日」(日本敗戦の日)が、哀しくやってくる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/bc7648638e9d43c755f280a67ecb330ccaefffe4(※3)https://www.sankei.com/article/20220725-CQETQEYFZBPB7OZABZHT3ZQ26I/(※4)https://grici.or.jp/3063(※5)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※6)https://grici.or.jp/3285(※7)https://grici.or.jp/3285(※8)https://grici.or.jp/3125(※9)https://www.youtube.com/watch?v=aNLh1YNu0ko(※10)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/
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2022/07/26 16:00
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安倍元首相銃撃事件、中国で「SPは何してるのか?」【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。安倍元首相が撃たれて亡くなられた。怒りが込み上げ、無念でならない。全世界が悲しんでいるが、中国のネットは特に「SPは何してるのか?」というコメントに満ち満ちている。平和ボケ日本が安倍氏の命を奪った。◆あってはならない蛮行あってはならない蛮行だ。全世界が悲しんでいる。ワシントンやニューヨークあるいはモスクワや北京にいる友人からも哀悼の意を表するメールが数多く来ている。あの中国の国営放送や外交部でさえ、安倍元首相は日中友好に貢献したと讃え、最初のころは「回復を祈る」と発信していたが、訃報に変わってからも、哀悼の意を表し、礼節を重んじている。中国のネットは安倍元首相が銃撃された瞬間から速報が飛び交い、安倍一色に満ちていた。特に「SPは何をしているのか」ということに話題が集中している。なぜなら中国では「保安」に関しては非常に厳しく、カメラは銃になり得るという観点も強いからだ。犯人がカメラに似ているような銃を持っており、それをSPが何もしないで放置するのは何ごとか。筆者自身もそう思っていたので、中国のネットに溢れるSPに対する膨大なコメントに注意が行った。◆中国のネットに溢れるSPへの怒り数秒に一つくらいの割合で溢れ出てくるので、それらのコメントを全てご紹介するのはもちろんできないが、まず、中国の若者たちが怒っている動画の一つ(※2)をご覧いただきたい。これが拡散してさまざまなURLに変換されているが、どうやら源の情報はこれらしい。実はこの動画は犯行後の写真だと、のちに分かったが、中国ではこの動画に基づいて多くのコメントが寄せられている。これは中国の事情なので、そのままご紹介する。ほんのいくつかしか列挙できないが、ご参考までにネット民たちの書き込みを列挙してみよう。なお、中国語では習近平にも敬称を付けずに呼び捨てなので、「安倍」と書いてあっても、軽蔑して書いているわけではない。・安倍のSPって、何やってんの?わざと手を抜いているんじゃないよね?・やっぱり、金の力がものを言うんじゃない?トランプが無事なのは、彼自身の金で雇ったSPだからだよ。金払いが良くないとね。・政治的な立場は別として、日本人のSPはクソみたい。一発目は致命傷にならず、実際に安倍に重傷を与えたのは二発目だよ!あり得る?今日の動画は世界中のSPにとって、いい勉強になるんじゃない?・今日、金曜日、安倍のSPはサボってるけど、みんなも週末だと思ってサボったりしてないよね?・検索してたら、安倍が暗殺された別角度の動画を見つけた。この「勇士」は、安倍に近づき過ぎてるんじゃない?5メートルほどの距離まで近づいてるじゃない?しかも堂々と銃を持ってるというのに、SPは何もしてない。一発目を発砲したあとだって、SPは何も反応してないよ。二発目が命中してから、SPはやっと反応した。・だからSPなんてあってもしょうがないでしょ?まったく役に立たないんだから。・よくわかんないんだけど、日本の保安って、どうなってるの?・そもそも銃など、持ってはいけないんじゃないの?緩い日本!ただし、実際に被弾した時の動画はこちら(※3)のようだ。それにしても、犯人が第一発目を発砲した後にSPは瞬発的には動かず、安倍元首相が被弾し倒れた後になって初めてSPが動いたことが、見て取れる。おまけに安倍元首相の背後は警備ゼロで、SPは本来なら要人の周り360度方向を守備していなければならないはず。SPの抜かりであることに変わりはない。その意味で、珍しく中国のネット民たちと意見が合う。中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版の「環球時報」電子版も7月8日15:29の時点で、<(中国の)外交部は安倍が銃撃を受けたことにショックを受け、安倍元首相が少しでも早く危険から脱することを望んでいる>(※4)というタイトルの報道をしていた。◆平和ボケ日本が安倍元首相の命を奪った中国には激しい監視社会があり、目つきが何かおかしいというだけで、挙動不審として目を突けられ、街中に張り巡らされている監視カメラが注意信号を発する。アメリカは銃社会。ポケットからハンカチを取り出すだけで、銃を抜き取るのかと警戒し発砲することさえある。銃乱射事件は日常茶飯事化している。だからわずかな不審な動きに対して、間髪入れずに反応する。もし、これがアメリカなら、犯人が第一発目を発射した瞬間に、SPはパッと要人(このたびなら安倍元総理)を地面に倒して自分がその上を覆い、犯人から守るだろうし、一方では他のSPは犯人に飛び掛かって押さえつけ、その場で逮捕しているはずだ。だというのに、「犯人は背後から襲った」と報道しながら、安倍元総理の傷は「背中」にはなく、「首の喉元の方にしかない」と医者が何度も証言している。ということは、背後で第一発目が発砲された後、安倍元総理は振り返って、しばらくそのまま立っていたということになる。だからこそ、二発目が真正面の喉元にしか当たってないのだ。「背後」には一発も当たってない。そのことが、どれだけ「平和ボケ日本」を象徴しているか考えるべきだ。最初の発砲音があったというのに、SPは安倍元総理に突進して地面に伏せさせることもしていなければ、瞬発的に犯人に突進して犯人を押さえつけることもなかった。それは10分の1秒以下の勝負だったはずだ。警備の緩さが全体にある。安倍元総理の命を奪ったのは、この「平和ボケ日本」だ!安倍元総理は、そのことに警告を与え、憲法改正を訴え、防衛費の増額を主張してきた。その必要性を、自分の命を犠牲にして証明したのに等しい。◆心からご冥福を祈る誰もが銃撃を知ってからは、「どうか助かりますように!」と祈ったはずだ。筆者も必死でお祈りしていた。その分だけ、訃報に接したときには、受け止めきれないくらいの、言い知れぬ哀しみを覚えた。実は筆者は来月か、それ以降に月刊誌Hanadaで安倍元首相と対談することになっていた。今月は選挙があるので、来月以降で調整していたところだった。そのため7月6日のコラム<「サハリン2」、プーチン大統領令と習近平の狙い>(※5)の最後の部分でわざわざ安倍元首相のことに触れたのである。安倍元総理をモスクワに派遣してプーチン大統領を説得してもらうべきだと書いたのだ。こういったことを足場にして議論を展開しようと準備していた。事実、プーチンは安倍元総理の訃報を受け、<真の愛国者だった>(※6)と哀悼の意を表している。安倍元総理とプーチン大統領の仲の良さをプラスに持っていき、一刻も早い停戦を促すべきだという話を、月刊誌Hanadaで安倍元総理にしようと思っていた。だというのに、このようなことになり、いきなり梯子を外されてしまったほど、ショックを受けている。これまで外部に漏らしたことはないが、安倍元首相とは、個人的に何度かお会いしている。そういった場面における「安倍さん」の笑顔は、たとえようもないほど優しく温かかった。習近平の国賓招聘に関しては今でも意見を異にするが、しかし個人的にはこの上なく「安倍さん」を尊敬し、親しい気持ちを持っている。心からのご冥福を祈りたい。お詫び:最初にこのコラムを公開した時は、その時点における中国の情報に基づいて書いていたが、のちに日本の情報を精査することにより、中国で初期段階で拡散していた動画は犯行後のものであることがわかった。中国でも新しい情報に基づいて新たにコメントが出ているが、趣旨は同じなので、本コラムはそれに基づいて、リンク先の動画を新たに加えて修正した。そのことをお詫びしたい。写真: つのだよしお/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://twitter.com/yLwSWOYW7ajn3ci/status/1545312353369354240(※3)https://twitter.com/PxstnFZwKXSECDS/status/1545372333225177088(※4)https://world.huanqiu.com/article/48jzsLMv0Xi(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220706-00304360(※6)https://www.sankei.com/article/20220708-JHNPBENWQNIOXEJEWFDYBGMZ4I/
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2022/07/11 10:27
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許せない習近平の歴史改ざん_もう一つのジェノサイド「チャーズ」【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。1947‐48年、長春市は中国共産党軍に食糧包囲され数十万の一般市民が餓死した。二重の包囲網「チャーズ」の柵門を開けなかったのは中共軍だ。それを国民党のせいにした本が中国で出版された。生き証人として許せない。◆食糧封鎖は2回目の日本人帰国直後から開始された1946夏、終戦後に中国に遺された日本人約百万人の日本帰国があった。これを「百万人遣送」と称する。このとき中国吉林省長春市にいた私の一家は、父が技術者であったために帰国を許されなかった。終戦後長春市はソ連軍の軍政下で現地即製の国民党軍が管轄していたが、1946年4月に共産党軍が攻撃してきて市街戦で共産党軍が勝ち、長春市は一時期共産党の施政下にあった。しかし毛沢東の命令により共産党軍が5月に北に消えると、入れ替わりに国民党の正規軍が入場してきて、第一回の日本人遣送が始まったわけだ。1947年になると、国民党政府に最低限必要な日本人技術者を残して、他の日本人は強制的に日本に帰国させられた。最後の帰国日本人が長春からいなくなった1947年晩秋、長春の街から一斉に電気が消えガスが止まり、水道の水も出なくなった。共産党軍による食糧封鎖が始まったのだ。長春は都会化された街なので畑がない。食糧はみな近郊から仕入れていた。餓死者が出るのに時間はかからなかった。早い冬が訪れると凍死する人も増えた。当時は零下36度まで下がる長春で、暖房なしで生きていくことは不可能だった。行き倒れの餓死者や父母を失って街路に這い出した幼児を犬が食べ、その犬を人間が殺して食べる。しまいには、中国人だけが住んでいた(満州国新京市時代に)「シナ街」と呼ばれていた区域では「人肉市場」が立ったという噂がされるようになった。◆餓死体が敷き詰められた「チャーズ」私の家からも何人も餓死者が出て、このまま長春に残れば全員が餓死すると判断された1948年9月20日、私たち一家は長春を脱出することになった。その前日、一番下の弟が餓死した。20日朝早く包囲網にある唯一の出口があるというチャーズに向かった。全員栄養失調で、皮膚が老人のように皺だらけになり、立ち上がるだけでも苦しかったが、夕方にはチャーズの門に着いた。この門をくぐれば、その外には解放区(中国人民解放軍が管轄している区域)があり、解放区には食糧があると思ったところ、包囲網は二重になっており、国民党軍が管轄する長春市を鉄条網で包囲しているだけでなく、その外側にも鉄条網があり、外側の鉄条網が解放区と接しているのだった。「チャーズ」はこの二重の鉄条網の間にある真空地帯だ。国民党側のチャーズの門をくぐって国民党軍に指示され、しばらく歩くと、餓死体が地面に転がっていた。餓死体はお腹の部分だけが膨らんで緑色に腐乱し、中には腐乱した場所が割れて、中から腸が流れ出しているのもある。銀バエが。辺りが見えないほどにたかり、私たち難民が通るとパーッと舞い上がった。共産党軍側のチャーズの鉄条網の柵近くに辿り着いた時は、暗くなっていた。ここに座れと指図したのは、日本語ができる朝鮮人の共産党軍兵士だ。私たちは一般に共産党軍を「八路(はちろ)軍」と呼んでいたので、その言い方をすれば「朝鮮人八路」だ。脱出の時に持って出たわずかな布団を敷いて地面で寝た。生まれて初めての野宿だった。◆共産党軍側の門は閉ざされたまま翌朝目を覚まして驚いた。私たちは餓死体の上で野宿させられたのである。見れば解放区側(共産党軍側)にある鉄条網で囲まれた包囲網には大きな柵門があり、八路軍の歩哨が立っているが、その門は閉ざされたままだ。一縷(いちる)の望みを抱いて国民党側の門をくぐった難民はみな、この中間地帯に閉じ込められたてしまったのである。ナチスのガス室送りと同じことだ。水は一つの井戸があるだけで、その井戸には難民が群がり、井戸の中には死体が浮かんでいる。食べる物などあろうはずもなく、新しい難民がチャーズの中に入ってくると、横になって体力の消耗を防いでいた難民が一斉に「ウオー!」っと唸り声を上げながら立ち上がり、新入りの難民めがけて襲い掛かる。このとき日本人はもうほとんど長春にはいなかったので、チャーズの中にいるのは中国人の一般庶民だ。死んだばかりの餓死体をズルズルと引き寄せて輪を作り、背中で中が見えないようにして、いくつもの煙が輪の中心から立ち昇った。私もいつかは食べられてしまう。その恐怖におののきながら、地面に溜まってる水をすくい上げ、父が持参していたマッチで火を起こして「水」を飲んだ。用を足す場所もない。死体の少なそうな場所を見つけて用を足すと、小水で流された土の下から、餓死体の顔が浮かび上がった。見開いた目に土がぎっしり詰まっている。この罪悪感と衝撃から、私は正常な精神を失いかけていた。崩れかけた低い石垣に手をかけ体を支えながら立ち上がると、その下では、鉄砲に撃たれて流れている母親の血を母乳と勘違いしてペロペロなめている乳児がいた。恐怖に引きつりながら父にしがみついて餓死体の上に敷かれた布団で眠りに入ろうとすると、地を這うような呻き声で目が覚めた。父が救われる御霊(みたま)の声だと言って立ち上がった時、父のもとを離れたら死ぬという思いから父のあとをついていった。すると、そこには死体の山があったのである。父がお祈りの言葉を捧げると、死んでいるはずの死体の手先が動いた。その瞬間、私をこの世につないでいた最後の糸が切れ、私は廃人のようになっていた。◆遺族は技術者ではないとして出門を許さなかった八路軍4日目の朝、私たちはようやくチャーズの門を出ることが許された。父が麻薬中毒患者を治療する薬を発明した特許証を持っていたからだ。解放区は技術者を必要としていた。このとき父は父の工場で働いていた人や家族、あるいは終戦後父を頼りにして帰国せず、父が面倒を見ていてあげた家族も同行していたが、その中にご主人は餓死なさって、奥さんと子供だけが残っていた家族もいた。すると、いざ出門となって時に、八路軍の歩哨の上司がやってきて、「遺族は技術者ではない!」として、この親子だけを切り離して出門を許可してくれたなかったのだ。父は八路軍の前に土下座して、「この方たちは私の家族も同然です。どうか、一緒に出させてください・・・!」と懇願した。すると八路は土下座して地面につけている父の頭を蹴り上げ、「それなら、お前もチャーズに残れ!」と、あおむけに倒れた父を銃で小突いた。骸骨のように痩せ衰えた父を母が支え、「お父さんはこの子たちの父親でもあるのですから・・・」と懇願した。私は1946年の市街戦で八路軍の流れ弾が腕に当たり、その痕に、家で面倒を見てあげていた開拓団のお姉さんの結核菌がうつって、全身結核性の骨髄炎に罹り、栄養失調が重なって死ぬ寸前の状態だった。すぐ下の弟は栄養失調で脳炎を起こし、母の背中で首を後ろにカクっと倒したまま意識を失っている。死ぬのにそう時間はかからないだろうという状況にあった。父は断腸の思いでチャーズをあとにする決意をした。父の無念の思いを、私は日本帰国後何十年かした日の父の臨終の言葉で知った。仇を討ってやる!その思いで書いたのが『チャーズ 出口なき大地』(1984年)だが、何度復刻版を出しても絶版になり、このたび『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※2)を復刊することになった。◆許せない習近平の歴史改ざん『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3)の印刷が始まった後になって、私は偶然、2017年12月に中国共産党が管轄する中国人民出版社から『囲困長春』という本が出版されていたことを知った。急いで購入し読んでみたところ、「共産党軍がチャーズの門を閉ざして難民を出さなかったために、一般庶民が大量に餓死した」という事実は完全に隠され、あくまでも「国民党政府が悪いので多くの餓死者を招いた」としか書いてない。おまけに共産党軍は「9月11日から、チャーズ内の全ての難民を解放区に自由に出られるようにした」と書いてある。あれだけ閉め切って絶対に難民を出さなかった共産党軍側の門。父の一行の出門を許した後もなお、「遺族は技術者ではない」として、断腸の思いを父に迫った共産党軍。その共産党軍が、9月11日以降は自由に難民を放出したとは何ごとか!『囲困長春』には、9月11日前も解放軍は一般庶民に害を与えないよう最大の配慮をしたと書いてある。毛沢東があの時、「長春を死城たらしめよ」と言ったのを知らないのではあるまい。執筆者は、元長春市政府の官僚の一人だったので、当然、中国共産党に都合のいいことだけを書いただろう。餓死者は30万人から65万人とも言われているが、1990年代には中国政府側は12万と言っていたのを、今度は5万人と見積もっている。習近平は、この残虐な大量殺人を覆い隠すつもりか。これを「ジェノサイド」と言わずして、何と言おう。この史実を、ありのままに書いた私を中国は「犯罪者扱い」しただけでなく、別の物語を書くことによって、史実を塗り替えている。私はこの事実を残すために生きている。事実を書き残すことによって犠牲者の鎮魂をすることが、生き残った者の使命だと自分に言い聞かせて、80を過ぎてもなお、日夜全力を尽くしている。習近平よ、「事実求是」を守れ!事実を認めるのが、そんなに怖いのか?中国共産党は、そんなにもろいものなのか?事実を認めたら崩壊するような党ならば、崩壊すればいい。バイデン政権の戦争ビジネスは、戦争を経験してきた人間として許せないが、歴史を改ざんして犠牲者の魂まで侮辱する党は、なおさら許せない。数少ない生存者として、どこまでも追及する所存だ。写真: 1994年9月20日、筆者撮影。世界に一枚しかない、1948年の鉄条網の残骸。(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/
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2022/06/28 15:53
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世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を6月21日の「農民日報」は<世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を発揮しなければならない>(※2)として、以下のように書いている。——総量で見ると、わが国の穀物生産は近年「18回連続の豊作」を達成し、年間の穀物生産量は7年連続で0.65兆キロに達し、中国の穀物の基礎を成している。一人当たりの所有量の観点から見ると、中国の一人当たりの食糧所有量は480キログラムに達し、国際的な食糧安全基準である一人当たり400キログラムをはるかに上回っている。在庫の観点から見ると、わが国の穀物在庫は約40%であり、これも世界平均の17%をはるかに上回っている。穀物という観点から見ると、三大穀物(米・麦・とうもろこし)の自給率は 90%以上に達しており、食糧安全に関しては「絶対的な安全性」を満たしていると言えよう。◆ロシアからの穀物輸入5月31日の環球時報(※3)は、ロシアからの穀物輸入は非常に少なく1%にも満たないので、大きな変化はないものの、ここ数年、年平均19.1%の貿易増があるので、今後はさらなる増加が期待できると書いている。少なくとも、今年2月4日に中国商務部とロシア経済発展部が農業領域の貿易に関して新たに署名している(※4)ので、農産品領域における貿易の伸びが期待できるだろうとのことだ。◆「中国は大量に食糧を買い占めている」と批判する傾向が西側諸国にアメリカの農務省には中国に関する統計もあり(※5)、今年6月10日に公開されたデータでは、世界の在庫量に占める中国の割合は、トウモロコシ65.78%、米59.42%、小麦53.03%となっている。中国政府の主張がまんざら嘘ではないことが分かる凄まじい通知だ。これを西側諸国は「中国が買い占めたからだ」と非難する傾向にある。たとえば2021年12月19日の日経新聞<世界の穀物、中国が買いだめ 過半の在庫手中に>(※6)は、その代表のようなものと言っていいだろう。買い占めているか否かは別として、中国共産党が統治する国家「中国」は、どんなことがあっても、まず食糧問題を最優先事項に置く国であることを筆者は実体験を以て知っている。◆毛沢東「誰が食べさせるかを人民に知らしめよ!」7月3日に出版予定の『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※7)に書いたように、1947年晩秋から、私が生まれ育った長春(中国吉林省長春市。元「満州国」の「新京」)は中国共産党軍によって食糧封鎖された。1948年9月20日、餓死から逃れるために長春を脱出した私たちを待ち受けていたのは「チャーズ(qiazi)」という、国民党軍と共産党軍の中間地帯(真空地帯)だった。共産党軍は長春市を鉄条網で都市ごと包囲したのだ。鉄条網は国民党軍側と共産党軍側の両方に設けられ二重になっていた。その二重になった包囲網である鉄条網の中には餓死体が敷き詰められており、私たち難民はその餓死体の上で野宿することを強いられた。このころ長春に残っていたのはほぼ中国人で、中国人の中には餓死体を食する人もおり、共産党軍はそれを鉄条網越しに直接見ながら、水の一滴も米の一粒も与えなかった。チャーズの外には共産党軍が占拠する「解放区」が広がる。4日目にようやくチャーズの門を出ることができたのだが、解放区側の土を踏んだ瞬間、お粥がふるまわれた。こんなことをするのなら、なぜチャーズの中で餓死していく人々を助けてくれなかったのか。あのとき毛沢東はチャーズを囲む共産党軍に「誰がご飯を食べさせてくれるかを思い知らせよ。人民はご飯を食べさせてくれる側に付く」と言っていたことを、何十年もあとになって知った。習近平も同じように考えているだろう。人民はご飯を食べさせてくれる側に付く。いま世界が食糧危機にある中、なぜ中国だけは潤沢な食糧を備蓄しているのか。それは一党支配体制を維持するためなのである。80年間の実体験を通して確信する。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://szb.farmer.com.cn/2022/20220621/20220621_002/20220621_002_4.htm(※3)https://world.huanqiu.com/article/48ErezBftfA(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml(※5)https://www.fas.usda.gov/data/grain-world-markets-and-trade(※6)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM13CUD0T11C21A2000000/?unlock=1(※7)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/
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2022/06/23 16:00
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世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。世界が食糧危機にさらされている中、中国は世界の穀物を買い占めているのではないかという批判がある。しかし中国政府はマクロ政策により世界最大の穀物生産国になったのだと主張する。中国が食糧問題を最重要視する理由には、中国共産党の根源的問題が潜んでいる。◆「中国の多すぎる食糧備蓄に対する西側からの批難」に関する中国の見解5月27日、中国外交部は定例記者会見で(※2)、記者から「最近、中国は国際市場からあまりに多くの食糧を買い占めているという批判が西側諸国から出ているが、中国はそれをどう思っているか?」という質問が出た。それに対して汪文斌報道官は以下のように答えた(番号を付けたのは筆者で、あまりに回答が長いので少しでも見やすくしようと区切りをつけた)。1.中国政府は常に食糧安全問題を非常に重要視してきた。「穀物の自給自足と絶対安全」というのが中国政府の基本だ。2021年までに、中国の穀物生産量は7年連続で0.65兆キログラム以上で、世界最大の穀物生産国であり、世界第3位の穀物輸出国となっている。中国は自給自足に関して自信があり、国際市場に入り込んで「食糧を買い占める」という必要はない。2.中国は世界の土地の9%未満を使用しているだけで、世界の食糧の約4分の1の生産量を実現し、世界人口の5分の1を養っている。この事実を見るだけでも、中国が世界の食糧安全に大きく貢献していることがわかる。同時に、中国は大国の視座に立ち、世界の食糧安全の確保に積極的に貢献してきた。3.中国が提案するグローバル発展イニシアチブは、食糧安全を「八大重点協力分野の一つ」と見なしており、世界中のすべての関係者に力を動員し、利点の補完性を促進し、以て、食糧安全を含むすべての持続可能な発展目標の実現に向けて最大限に力を合わせていくことを目標としている。中国は常に国連食糧農業機関(FAO)の南南協力にとって重要な戦略的パートナーだ。近年、中国はFAO南々協力(※3)基金に1億3000万米ドルを寄付し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海、太平洋島嶼国に多数の専門家や技術者を派遣した。中国はFAOの中で、最も多くの専門家を派遣し、最も多くの資金援助をし、最も多くのプロジェクトを実行しいる。COVID-19の発生以来、中国はいくつかの国に緊急食糧援助を提供することにより、国連や他の国際機関のイニシアチブに積極的に対応してきた。世界の食糧生産と供給の安定化に対する中国の積極的な貢献は、国際社会から広く認められているところだ。4.中国は食品ロスと廃棄物削減を積極的に提唱している。世界の食糧の1%のロス削減は、2800万トンの損失の削減に相当し、7000万人以上の人々を養うことができる。習近平主席は、食品節約を強化する必要性をくり返し強調してきた。 2021年、中国は食品ロス削減に関する国際会議を主催し、G20のメンバーを含む国際社会から肯定的に受け止められた。多くの開発途上国が食糧不足に直面しており、一人分のご飯を二人で分け合う状況があることを残念に思う。先進国の一部では「物を粗末に扱う」ことに慣れてり、一人前のご飯を食べて一人前のご飯を捨てている」。先進国で毎年浪費される食品ロスの量は、サハラ以南のアフリカで生産されるすべての食品の総量に近い。アメリカ農務省のデータによると、アメリカの食品の30〜40%が毎年廃棄されており、2018年に廃棄された食品の総量は1億300万トンに達し、1,610億ドルに相当する。5.中国は、関係国に対し、不必要な食品廃棄物を出さないようにし、その正当な国際的義務を果たし、より多くの国際的責任を引き受けることを要請している。頭をひねって他の国(中国)に(お前の国は食糧備蓄が多すぎる)と騒ぎ立てるのではなく、自ら始めて、現実的な方法で食料を節約し、国際的な農業貿易の円滑な運営を維持し、発展途上国の食糧生産能力を向上させるのを助けるべきだ。こうしてこそ世界の食糧安全を効果的に維持できる。6.直面する困難が多ければ多いほど、われわれは互いに助け合うべきだ。国際的な食糧サプライチェーンが衝突している情勢下において、私たちはすべての国に共同責任を負うことを求めたい。食品ロスと廃棄物の観点から、食糧危機を補完し、食糧を節約するというプラスの方向で世界の食糧安全を効果的に維持しなければならない。◆「中国の食糧価格が安定している理由」に関する中国政府の説明6月20日、中国の経済を協議する国家発展改革委員会は<我が国の食糧価格はなぜ安定しているのか?>(※4)に関する説明を行った。主たる回答内容を以下に示す。・中国の穀物価格が全体的に安定している理由は、最終的には、我が国が強力な穀物供給と価格の安定を確保するための強力なメカニズムと政策措置を確立したからである。穀物の総在庫は十分であり、小麦と米の在庫は1年以上の消費需要を満たすことができる。・2021年の時点で、中国の穀物の播種面積は8年連続で17.4億ムーを超えており、穀物を植える農民の意欲は安定している。2022年に春に植えられる穀物の面積は約9億4000万ムで、昨年の同時期に比べてわずかに増加し、引き続き穀物価格の安定に寄与するだろうと予測される。・●生産コストが穀物価格を決定し、穀物の安定供給にも影響を与える。農民の意欲を十分に発揮させるために、わが国は米と小麦の最低購入価格を実施し、穀物生産補助金政策を継続的に改善し、三大主要穀物(米・麦・トウモロコシ)の「完全コスト保険」や「所得保険」を推進し、「農業社会サービスシステム」を発展させて、穀物農家の収入の安定化を図った。(筆者注:「完全コスト保険」とは「農作物が自然災害などに遭遇した時に被る損害を含めた、生産コスト全てに対する保険」のことで、「収入保険」とは「農作物の販売価格や生産量の変動に対する保険。生産量が増え過ぎたことによって販売価格が下がる時でも、一定の収入を保障できる保険」のことで、「農業社会サービスシステム」とは「供給、販売、加工および情報サービス」など、農産物を購入者の末端にまで提供するさまざまなサービスのことである。)農産物価格の高騰に対応して、化学肥料の供給を確保し、価格を安定させるために、たとえば仮肥料の備蓄を確保するなどの作業メカニズムの確立が価格安定に寄与している。◆『中国農業産業発展報告2022』は今年の食糧総生産量は去年を越えると予測6月21日、『中国農業産業発展報告2022』が発表された(※5)が、報告書は、「中国の農業生産は今年も改善を続け、総穀物生産量は昨年を上回り、0.69兆キログラムに達すると予想され、綿、油、砂糖、果物、野菜の生産は安定して好転しており、畜産物や水産物の供給も安定している」と指摘している。「世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/jzhsl_673025/202205/t20220527_10693630.shtml(※3)https://www.fao.org/japan/portal-sites/spfs/south-south-cooperation-and-japan/jp/(※4)http://news.cnr.cn/dj/20220620/t20220620_525874537.shtml(※5)https://szb.farmer.com.cn/2022/20220621/20220621_002/20220621_002_3.htm
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2022/06/23 15:56
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池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆「間違い」その2_「主席になると圧倒的に強い立場になる」?最も大きな間違いは「主席になると圧倒的に強い立場になります」という言葉だ。池上氏にお聞きしたいのは、なぜ「主席になると圧倒的に強い立場になります」と判断なさったのかということである。これは、本気で知りたい。どうすれば、そういう考え方に至ることができるのか、その「論理」を知りたいと本気で思うのである。では、なぜ「主席になると圧倒的に強い立場にならないのか」に関してご説明したい。詳細な経緯は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』(※2)に書いてあるが、史実を知らなくても、誰にでも分かる例で、まずご説明しよう。たとえば某大学にワンマンな(あるいは厄介な)「学長」がいたとする。その学長の力を削ぐには、「副学長」のポストを複数設けて、力を分散させるという方法がよく採用されている。表面上は「学長」の負担を減らすという理由を付けるのだが、実際は「学長一人の判断で大学運営が間違った方向に行かないようにする」というのが目的だ。企業における社長も副社長も類似の目的で存在するのもあるだろう。これと同じで、かつて「党主席」制度の時代には、毛沢東の独走を阻むため(あるいは他の野心に燃えた人の出世コースのため)に「副主席」というポストが設けられた。そうなると毛沢東主席の力はトップ一人ではなくなるので、「副主席」が多大なる力を持ったり、副主席同士で権力闘争をしたりする。党主席だけでなく、国家主席に関しても同じだ。国家副主席が複数いたし、今もいる。事実毛沢東は、トウ小平の策略により、劉少奇・党副主席を「国家主席」に持っていかれてしまい、結果、毛沢東は下野して、劉少奇を打倒するために文化大革命を起こしたほどだ。紆余曲折を経ながら最終的に1982年9月に「党主席制度」を撤廃したのは、毛沢東死後に「党主席と国家主席と国務院総理」すべての職を得ていた華国鋒を、トウ小平が打倒するために断行したためである。毛沢東が自ら後継者と定めた華国鋒をトウ小平は打倒し、子飼いの胡耀邦をトップに持っていくために「副主席」のポストがある「党主席制度」を撤廃して、「副」のポストがない「一人だけの総書記制度」に持っていったのである。なぜならトウ小平は華国鋒を下野させるために非常に狡賢く動いたが、華国鋒が最後に「党副主席」に残っていたので、「党主席制度」そのものを撤廃してしまわないと完全な華国鋒追い落としにつながらないので、トウ小平は最後の打撃を華国鋒に加えるために撤廃してしまったのである。決して毛沢東の個人崇拝がまずかったから「党主席制度」を撤廃したのではない。したがって「党主席制度」は「副主席がいるので力が弱く」、「中共中央総書記制度」は「副」がいないので、「一人」だけトップを占めることができるから、圧倒的に「総書記制度」の方が強く、権力が揺るがない。もう一度繰り返すが、池上氏の“それは彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」としたのに”という言葉も間違っている。「華国鋒を倒し、子飼いの胡耀邦をトップにさせるために」、トウ小平が権力闘争として断行したのである。毛沢東の個人崇拝がまずかったので「党主席制度」を撤廃したのではない。華国鋒は、最後は「党副主席」の職位に落とされたが、華国鋒を完全に追い出すには「党主席制度そのものを撤廃する」しかなかったのである。したがって、真逆だ。◆なぜ「党副主席」というポストが生まれたのか?これに関しては話が長くなるが、習近平の三期目を考察するには前掲の『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』(※3)を読んで頂くしかない。ひとことで言うなら、トウ小平が野心を持ち、毛沢東が後継者と決めていた高崗(ガオガーン、こうこう)を陰謀によって自殺に追い込み、陳雲と二人で権力の座を奪取しようと画策した結果が生んだものだ。このいきさつを書くと長くなって一冊の本になる。実際それを本にしたのが『習近平 父を破滅させてトウ小平への復讐』なので、真相を知りたい方は、そちらをお目通し頂きたい。1956年9月の第八回党大会の結果と推移が第二章に書いてある。このとき初めて「党副主席」というポストが新設され、トウ小平の陰謀を手助けして高崗を自殺に追いやった陳雲が党副主席(中国共産党中央委員会副主席)に就任し、トウ小平自身は、別途新設した中共中央書記処総書記の座を射止めた(『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』第二章 p.119 図表2-2 参照)。その10年前の1946年4月、筆者がまだ5歳だったときに、長春市に攻め込んできた中国共産党軍の一人であった若い「趙兄さん」(のちに毛沢東の日本語通訳の一人となる趙安博という共産党員)と筆者は生活を共にし、父は当時の長春市の書記をしていた林楓(りんぷう)と信頼関係にあった。中国共産党軍は同年5月には長春から消えたが、1947年晩秋になると長春市は中国共産党軍によって食糧封鎖され、多くの餓死者を出していった。そういった原体験が「中国共産党とは何か」を追い詰めていく、筆者の原点になっている(詳細は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)(※4)。だから老体に鞭打ちながら「中国共産党の正体」を追い続けている。上述したのは、そういった原体験により積み重ねてきた知識だ。さて、冒頭に話を戻そうか。池上さん、教えてください。あなたはなぜ「主席になると圧倒的に強い立場になります」とお考えになったのですか?私に見えていない要素があるかもしれませんので、本気で知りたく思っております。その昔、名刺を交換したことはありましたが、良かったらhttps://grici.or.jp/contactまでお知らせください。お待ちしています。「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.amazon.co.jp/dp/4828422641/(※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4828422641/(※4)https://www.amazon.co.jp/dp/4408650242/
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2022/06/22 10:10
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池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。まるで日本の教科書のようになっている池上彰氏が習近平に関して「(党)主席になると圧倒的に強い立場になります」と書いているのを発見した。「えっ?違うでしょ?」と驚いたので、党主席制度に関して説明したい。◆池上彰氏の文章たまたまメールに<「終身皇帝」を狙う習近平が、中国で「芸能人のファンクラブ」を潰しているワケ>(※2)という記事が飛び込んできた。見れば、あの池上彰氏の文章ではないか。この手のタイトルの文章はデタラメが多いのでいつもはスルーするのだが、まるで日本の教科書のようにもてはやされ尊敬されている池上先生のお書きになったことなら、たまには読んでみても悪くないと思って目を通した。すると、そこには、信じがたいほどの「間違い」が書いてあるのを発見し、非常に驚いた。昔、NHKのラジオ放送だったかでご一緒になり、準備してこられた台本以外のことに話が行くと、相当に間違ったことを仰ったので、「いや、それは違うと思うのですが・・・」と言ってしまって、気まずい雰囲気になったことがある。スタジオの帰りに、ご一緒した他のゲストの先生が「よくぞ、あの池上先生に反論なんてできますねぇ。あの人に反論できるなんて、日本中で遠藤先生くらいしかおられないんじゃないんでしょうか・・・」と言われたのを覚えている。相手が誰かによって態度を変えるのは好きではない。誰であろうと、正しいことは正しく、間違っていることは間違っていると言えなくてはならない。それが世の中のためでもある。今般の「間違い」は複数個所に及ぶが、本稿では一個所だけ取り上げて、お話ししたい。池上先生と言えば、小学生までが信じてしまい、それが「日本人の基礎知識」のようになってしまうのだから、こんな間違いを放っておくのは「世のため」にならないと思われるのだ。さて、<「終身皇帝」を狙う習近平が、中国で「芸能人のファンクラブ」を潰しているワケ>(※3)の1頁目の最後から2頁目(※4)にかけて以下のような文章がある。——かつて建国の父・毛沢東が務めた「党主席」のポスト(1982年以降、廃止されていた)を復活させるとの見方もあります。党主席のポストは、毛沢東の死後、しばらくして廃止されました。毛沢東は文化大革命で多くの混乱を引き起こしました。それは彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」としたのに、それをまた元に戻すかもしれません。総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけですが、主席になると圧倒的に強い立場になります。(引用ここまで)この中で、『彼を個人崇拝したのがまずかったのだという反省から、共産党の「党主席」というポストをなくし「総書記」とした』、『総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけですが、主席になると圧倒的に強い立場になります。』という部分が間違っている。最も間違っているのは「主席になると圧倒的に強い立場になります」という言葉だ。これは全く正反対なので、もしかしたら池上氏は中国共産党の基礎をご存じないし、また「総書記とは何か」そして「党主席(あるいは主席制度)とは何か」、その基本をご存じないので、このようなことをお書きになったのではないかと推測されるのである。◆「間違い」その1_「総書記」とは何か?まず、中国共産党のイロハの「イ」からお話ししよう。仮に筆者が中学生くらいの生徒に講義していたとする。筆者:みなさん、習近平は「総書記」という肩書を持っていますよね。この「総書記」のフルネームは何か分かりますか?生徒:え~~~ガヤガヤガヤ・・・筆者:「中共中央総書記」なんですよ。聞いたことがあるでしょ?生徒:あー、なんとなく聞いたことがある気がするけど、でも「中共中央」って・・・?筆者:良い質問ですね。「中共中央」というのは「中国共産党中央委員会」の略で、習近平は中国共産党の中の「中央委員会」の総書記なんですよ。だから「中共中央総書記」という肩書で呼ばれています。・・・・と概ね、こうなるだろう。これに関しては5月30日のコラム<「習近平失脚」というデマの正体と真相>(※5)に詳述した。結果的に中共中央総書記は、中央委員会政治局委員でなければならないし、中央委員会政治局常務委員会委員の一人でもなければならない。しかし、それはあくまでも結果であって、「総書記」とは「中共中央総書記」のことであり、決して「中共中央政治局常務委員会総書記」ではないのである。そのような肩書は中国共産党内に存在しない。したがって池上氏の「総書記というのは、中国共産党中央政治局常務委員の7人のうちのひとりという位置づけです」も微妙にまちがっている。一見正しそうに見えてしまうが微妙に事実と異なる表現をつなぎ合わせていくと、非常に違う概念を生んでいく危険性を孕んでいる。「池上彰さん、間違えていませんか? 中国共産党「党主席」制度に関して(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 新華社/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?imp=0(※3)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?imp=0(※4)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96326?page=2(※5)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220530-00298521
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2022/06/22 10:08
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台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆経済では勝てないので、中国に軍事行動をさせて中国を潰すアメリカの長期戦略今般のウクライナ戦争でも、だんだんと世界の多くの人が「ウクライナ戦争を起こさせたのはアメリカだ」と認識するようになったが、その認識をしっかり持たないと、次にやられるのは日本であることに対して、正しい警戒心を持ち得ない。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも書き、また5月31日のコラム<スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない>(※2)でも考察したように、ウクライナ戦争はバイデンが2009年から周到に練り上げてきた「利己的欲望」に基づいて起こしたもので、ウクライナをNATO加盟へと扇動した結果が招いたものである。この因果関係を見極めないと、次に餌食になるのが「日本国民」になる論理が見えてこない。中国は台湾の平和統一を狙っている。なぜなら中国は中国共産党による一党支配体制の維持を最優先課題としているので、もし武力攻撃によって台湾を統一したら、台湾国民は当然中国を忌み嫌い反中反共が激しくなっていく。そのような国民が中国の中に組み込まれたら、中国共産党の一党支配体制の維持は困難になり、崩壊する危険性が大きくなるからだ。台湾周辺での軍事演習による威嚇は、民進党になってから激しくなったもので、「独立を叫んだら、どういうことになるか分かってるな」という脅しである。アメリカ政府の高官が台湾を訪問した時なども、この威嚇演習が激しくなる。威嚇をしているだけで、中国は台湾商人を経済的にからめとって「平和統一」するのを最大の実現目標としている。しかし、平和統一されては困る国がある。それこそが、アメリカだ。なぜなら、平和統一などされてしまったら、中国は台湾の半導体産業TSMCをも自分のものとして、ますます経済発展を遂げて、軽くアメリカのGDPを抜いてしまうだろうからだ。ならば、中国経済の成長を阻害するにはどうすればいいのか?それは中国に台湾を武力攻撃させること以外にない。この「台湾武力攻撃」さえ中国がやってくれれば、アメリカは今ロシアを制裁しているのと同じように全世界に呼び掛けて中国を制裁し、中国を潰すことができると考えている。だから、何とか台湾に独立を叫ばせ、「中国を最も怒らせる方向」に「じわじわ」と動いている。◆戦争を仕掛けて自国を有利にするアメリカに意思表明できる勇気を!もっとも、中国を最大貿易国としている国の数は、世界190ヵ国中128ヵ国なので、経済制裁をすると、世界のほとんどの国の経済が成り立たなくなってしまうので、それは断行しにくい。その代わりに、ロシアのウクライナ侵略同様、NATOをはじめとした同盟国が軍事的に台湾に協力し、台湾に武器を提供したり軍事費の支援をしたりすることによって、中国を苦戦に追い込むという方法をとるだろう。そのためにバイデンは、日本にも韓国にもNATO加盟させる方向で動こうとしている。それでいて、米軍兵士自身は参戦しないという計算だ。ウクライナと同じように、相手が中国であるなら、攻撃してくる国が「核兵器」を持っているからという口実を設けることができる。実際に「人間の盾」となって戦うのは「台湾人」であり、尖閣問題をも抱えている「日本国民」だ。日本はアメリカに対して「戦争という手段によってアメリカに有利な状況へ持っていくようなことをするな」と堂々と言えなければならない。その勇気を持たなければならない。まさか日本の政治家が,それを見抜く力を持っていないとは思わない。分かっていても、アメリカに追随しているように振る舞う政治家が多いのかもしれない。その意味では実は「日本はアメリカに依存しない自立した軍事力を持つべきだ」という点で、筆者と安倍元首相との視点は、案外一致しているところがあるようにも思う(このことに関しては別途考察するつもりだ)。いずれにせよ、アメリカには「中華人民共和国を、中国を代表する唯一の国として国連に加盟させ、国連安保理常任理事国にした責任」を、戦争という手段ではなく、「外交的政治手段で果たせ」と、堂々と言える日本でなければならない。それがせめてもの、中国の経済繁栄に貢献した日本の罪を償う方法ではないだろうか。戦争以外の方法で解決させる責任が、日本にはある。筆者が「戦争を起こす者」に拘(こだわ)るのは、日中戦争と国共内戦と朝鮮戦争という3つの戦争を中国で体験したからだ。国共内戦では7歳の時に餓死体の上で野宿させられて恐怖のあまり記憶喪失になり、中国共産党軍の流れ弾を受けて身障者にもなった。中国では「侵略戦争を起こした日本人」としていじめ抜かれ、自殺を試みたこともある。だから戦争を憎む。ひたすら戦争の原因を追究しようと老体に鞭打っている。日中戦争が始まった時はまだ生まれてさえいなかったのだから何も出来なかったが、しかし「次の戦争が起きようとしている今」、私はまだ何とか生き残っている。生きているからには戦争を防ぐために微力でも警鐘を鳴らさなければならないと、自らに言い聞かせている。日本の一国民として日本を戦争から守りたいのだ。そのための考察であることを、どうかご理解いただきたい。なお、中国の長春で経験した国共内戦に関しては7月初旬に復刊される『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(※3)で詳述した。これまで出版してきた「チャーズ」関係の本が全て絶版になってしまったので、新たな視点で復刻版を出版する次第だ。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/3174(※3)https://www.amazon.co.jp/%E3%82%82%E3%81%86%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89-%E9%95%B7%E6%98%A5%E3%81%AE%E6%83%A8%E5%8A%87%E3%80%8C%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%80%8D-%E9%81%A0%E8%97%A4-%E8%AA%89/dp/4408650242/ref=sr_1_11?qid=1655194843&s=books&sr=1-11
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2022/06/15 16:30
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台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。シンガポールで開催されたアジア安全保障会議では台湾問題が大きなテーマの一つだった。台湾問題を生んだのはアメリカで、中国経済を強大化させたのは日本だ。その責任は戦争以外の手段で取らなければならない。◆中国国防部長の台湾問題に関する強気な発言6月10日~12日、シンガポールのシャングリラホテルでアジア安全保障会議(シャングリラ対話)が開催された。12日には台湾問題に関して集中砲火を浴びた中国の魏鳳和国防部長が強気な発言をした。中国政府の発表によれば(※2)魏鳳和は概ね以下のように述べている。——台湾は中国の台湾であり、台湾問題は中国の内政問題で、祖国統一は絶対に達成されるべきだ。「台独(台湾独立)」を行なおうとする分裂主義には悲惨な末路が待っており、外部勢力による干渉は必ず失敗する。和平統一こそは中国人民が最も願っていることで、そのためなら、われわれは最大の努力を尽くす。しかし、もし台湾を分裂させようという魂胆を持つ者が現れたら、戦いを交えることも惜しまなければ、いかなる犠牲をも惜しまない。何人(なんぴと)たりとも、中国軍隊の決意と意志と強大な能力を見損なってはならない。(引用ここまで)つまり、「中国は平和統一を最大の願望としているが、他国が干渉してきて台独を煽るなら、その時には容赦はしない」ということだ。◆台湾は「中国の台湾」であり「内政問題だ」の正当性を与えたのはアメリカ台湾は「中国の台湾」であり、「中国の内政問題だ」というのは、中国政府の常套句だが、この言葉の「正当性」を与えたのはアメリカだ。1960年代末から70年代初期にかけて、当時のニクソン大統領が「大統領の再選」を狙って、1971年4月16日に「米中国交正常化長期目標」を発表して訪中意向を表明し、当時のキッシンジャー国務長官に「忍者外交」(1971年7月9日)をさせた。これは世界に衝撃を与え、その勢いで国連は1971年10月25日、「中華人民共和国」を「中国を代表する唯一の国家」と認めて、国連加盟させたのである。第二次世界大戦中からアメリカに協力し、ルーズベルト大統領とカイロ密談などを行なってきた蒋介石率いる「中華民国」は、かくして国連から脱退するところに追い込まれたのだ。米ソ対立で不利になり、かつ「トンキン湾事件」という口実を捏造して開戦し泥沼化したベトナム戦争からも抜け出したかったアメリカは、「中国共産党が支配する中華人民共和国に近づく」ことによって活路を見い出し、大統領再選を狙ったのである。1972年2月21日、ニクソン大統領が訪中して(キッシンジャー同伴)、「一つの中国」を受け入れ、「中華民国」と断交し、米中国交正常化の共同声明を発表した。日本をはじめ、世界の多くの国が競うようにしてアメリカに続き「中華民国」と断交してつぎつぎと「中華人民共和国」との国交を正常化させていった。こうして形成されたのが、こんにちの、いわゆる「国際秩序」だ。たかだか一国の大統領再選のために、「中華民国」(台湾)を見捨て、「中華人民共和国」を承認した。戦勝国「中華民国」をメンバー国の一つとして設立された国連から、その「中華民国」を打倒して誕生した「中華人民共和国」が「戦勝国」として国連の安保理常任理事国の席に座っている。こんなデタラメなことを実現させたのがアメリカなのである。日本人は、まず、このことから目をそむけてはならない。◆中国を強大化させたのは日本そのころの中国は極貧国の中の一つに過ぎないほど貧乏だった。それを今日のような経済大国に成長させたのは、わが国「日本」だ!1989年6月4日の天安門事件で、トウ小平は中国人民解放軍に命令して、民主を叫ぶ丸腰の若者に発砲し、武力で民主化運動を鎮圧した。その結果、西側諸国が中国を経済封鎖したにもかかわらず、「中国を孤立させてはならない」として封鎖解除に最初に踏み切ったのが、われらが「日本」なのである。ベルリンの壁が崩壊し、民主の嵐が世界中に吹き荒れていたとき、アメリカはソ連を無血崩壊させることには細心の注意を払いながら成功しているが、同じ共産党が支配する国家である中国を崩壊させないどころか、日本とともに「中国を豊かにさせていくこと」に貢献している。日本とは同罪で、共犯者と言ってもいいだろう。ソ連崩壊は「ソ連が経済的に貧困だったから」という要素があるが、中国もあの頃は同じように「貧困だった」ので、言論弾圧をする共産主義国家「中国」をも、同様に崩壊させることが可能だったはずだ。あのときこそが唯一のチャンスだった。そのチャンスを逃したのは、日本が「中国を孤立させてはならない」という感情論で、「トウ小平が偉い」という「トウ小平神話」を信じていたからである。その「トウ小平神話」こそが「最大の元凶」であることは、拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』で描き尽くした。日本人は今もまだ、この事実の重大性に気が付いていない。最も罪深いのは、「トウ小平神話の災禍」を全くわかってない政治家が、日本の政治を今も動かしていることだ。日本の対中政策は、まずここから考え直さなければならない。アメリカがなぜ「ソ連は危険」で「中国は危険でない」と区別して、ソ連は崩壊させ、中国を崩壊させようとは思わなかったのかは明らかで、その当時の「中国の軍事力は弱い」と判断したからである。ソ連を崩壊させたのは「ソ連の軍事力は強い」と警戒したからだ。中国共産党とは何かを全く理解していない無知蒙昧さが招いた結果だ。日本とアメリカ両国のこの決定的な判断ミスにより、中国経済は強大化し、その結果、「軍事力も強大化した」。だからこそ、いまアメリカは、何としても中国を潰さなければならないと、必死なのである。「台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://www.gov.cn/guowuyuan/2022-06/12/content_5695345.htm
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2022/06/15 16:28
GRICI
北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国の北朝鮮に対する国際的な姿勢実は中国へ滅多に北朝鮮に対する中国の姿勢を話すこともない。ところがたまたま、5月25日の国連安保理における北朝鮮の核問題に関する追加制裁決議案で、中国が拒否権を使ったために、張軍国連大使が、「なぜ拒否権を使ったか」に関する説明をするためのスピーチを行った(※2)。そのスピーチは、中国の北朝鮮に対する姿勢をよく表しているので、いくつかをピックアップしてご紹介したい。以下「半島」というのは「朝鮮半島」のことである。1.半島の隣国として、中国は半島情勢を非常に懸念し、常に半島の平和と安定を維持し、半島の非核化を主張し、対話と協議を通じて問題を解決することを主張している。2.半島の問題は、何十年にもわたって浮き沈みしているが、「対話と交渉が問題を解決する唯一の実行可能な方法である」ことを繰り返し証明している。3.2018年、北朝鮮は一連の非核化と緩和策を講じ、シンガポールで米朝首脳が会談し、新たな米朝関係の構築、朝鮮半島の平和メカニズムの構築、朝鮮半島の非核化プロセスの推進について重要な合意に達した。しかし残念ながら、アメリカは「行動対行動」の原則を無視して北朝鮮の積極的な行動に反応せず、米朝対話は行き詰まり、非核化プロセスは停滞し、半島情勢の緊張は高まり続けている。半島情勢が現在のこの段階にまで至ってしまったのは、主としてアメリカ自身が従来の政策の繰り返しに戻ってしまい、せっかく創り上げた対話の成果を壊してしまったからだ。(筆者注:2019年3月4日のコラム<米朝「物別れ」を中国はどう見ているか? ——カギは「ボルトン」と「コーエン」>(※3)に書いたように、2019年2月27日から28日にかけてハノイで華々しく行なわれるはずだった2回目の米朝首脳会談は、28日の昼、突然、決裂に終わった。トランプ大統領は戦後続いてきた北朝鮮問題を自分の手で解決してノーベル平和賞を狙っていたが、朝鮮半島から戦争が無くなると軍事産業が困るアメリカは、ボルトンを中心とした一派がトランプを強引に金正恩から引き離し、半島に「平和」が来るのを阻害した)。4.関係国は、追加制裁の実施に重点を置くだけでなく、政治的解決を促進し制裁を適宜緩和する努力をすべきだ。特に現在の北朝鮮におけるコロナの激しい流行がある中、追加制裁をすれば国民に命の危機に関わる非人道的な結果をもたらすだけで、核問題抑止には如何なる影響ももたらさない。追加制裁は北朝鮮に対する制裁の強化を推し進める一方で北朝鮮に人道的支援を提供する意思を主張しているが、これは明らかに矛盾しており整合性がない。制裁は解決につながらない。5.アメリカは北朝鮮問題にかこつけてインド太平洋戦略を推進し、排他的な小さなグループ(筆者注:日米豪印クワッドや米英豪オーカスなど)を形成しては地域の安定と平和的秩序を乱す危険な行動を行っている。アメリカは核拡散に深刻なリスクをもたらす「原子力潜水艦、超音速兵器などの攻撃兵器、核弾頭を搭載できる巡航ミサイル」などを他国に販売し、核不拡散体制に逆行した動きを見せ、地域の脅威を煽ることによって「核共有」を周辺国に主張させている。北朝鮮をカードにしてアメリカの軍事力を強化するため、世界を冷戦構造へと戻そうとしている。中国はそのことに強く抗議し、対話による問題解決を強く望む。以上が中国の北朝鮮問題に対する主たる主張だ。要するに制裁では北朝鮮の暴走や非核化を止めることはできず、ますます追い込むだけで、(トランプ元大統領のように)対話以外に道はないということを主張している。◆拉致問題を抱える日本はどうあるべきか?日本は北朝鮮に関しては特別の関係にあり、何と言っても拉致問題を抱えている。北朝鮮の暴走は絶対に許せない。あってはならないことだ。しかし、日本政府は「拉致問題こそは政府の最大の課題だ」と呪文のように言い続けるばかりで、いったい何十年が経っているのだろう。歴代総理大臣はそう言うだけで、一歩たりとも自ら動こうとはしていない。敢然たる「政治的決断」により動いたのは小泉純一郎元総理だけではないか。トランプが金正恩に会いたがったあのとき、最高のチャンスであったというのに、政府はやはり自ら積極的に動き拉致問題解決に向けて突撃しようとはしなかった。人は一分一秒、年齢を重ね、間違いなく「命の終わり」に近づいていく。40年も経過すれば拉致された側も取り残されたそのご家族の方々の寿命にも限界が出てくる。それでも岸田首相もまた「拉致問題こそは我が政府最大の課題だ」と呪文のように言うだけ言って、何もしない。するのはトランプ元大統領やバイデン大統領に拉致被害者家族と会ってもらって労(ねぎら)いの言葉を掛けてもらい、記念写真を撮るだけである。バイデンがひざまずいて拉致被害者家族に言葉を掛けたなどというのはパフォーマンスに過ぎず、これによって拉致問題は1ミリたりとも動かない。これまでは習近平にまで拉致問題の解決に関して協力してくれと頼んできたのだから笑止千万だ。そんなことを習近平が金正恩に言って「駆け引きの道具」に使うかと言ったら、「絶対に使わない」。ましてや「善意から日本のために動く」などということも「100%ない!」と断言できる。他国の首脳に頼んだりせず、一国の首相として自ら決断し動く以外に道はない。たしかに「ならず者」国家に道理は通らないだろうが、トランプ元大統領はやってのけたし、小泉元総理も断行したではないか。拉致は相手が「ならず者」国家だからこそ起きている。その国にわが国の国民が拉致されたままになっている。国家の尊厳を考えるなら、自国の民の命を救い出すことが先決だろう。何もかもアメリカに足並みを揃えることだけが国家の道ではない。アメリカにはアメリカの計算(=軍事ビジネスの維持と世界覇権)があって動いていることを見抜くくらいの力量が国家になくてどうするのか?そこを見抜いてこその国家の尊厳だと思うが、いかがだろうか?だからこそ、日本は自国の軍事力も強化しなければならない。そのことに関する筆者の主張に変わりはない。写真: KRT/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zwbd_673032/wjzs/202205/t20220527_10693319.shtml(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190304-00116834
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2022/06/07 16:25
GRICI
北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。北朝鮮が連日ミサイルを発射し、それに対して米韓も報復発射をしている。北朝鮮と軍事同盟を持つ中国はどう反応しているか。中国の基本姿勢とともに拉致問題を抱える日本のあるべき姿を考察する。◆中国の反応まず北朝鮮が6月5日にミサイル8発を日本海に向けて発射したことに関して、中国ではほとんど報道されず、ただ環球時報が中央テレビ局CCTVアプリ版の報道を転載して「韓国と日本が報道した」(※2)という発信を3行しただけである。ところが6月6日に米韓が合同で同様に8発のミサイルを日本海に向けて発射すると、CCTVはかなり大きく扱った。米韓が8発のミサイルを報復発射したことに関して(※3)と、北朝鮮に抗議するために日米が合同軍事演習をしたことに関しての報道(※4)をご覧いただきたい。扱いが突然大きくなっている。ただ、特徴的なのは、北朝鮮のミサイル発射などの軍事行動に関して、中国は決して中国の情報として報道することはなく、たとえば今回も韓国の聯合ニュース報道の二次情報として報道している。米韓合同のミサイル発射も韓国の聯合ニュースを引用しているし、日米の合同軍事演習はロイター電として報道しているのである。◆なぜ中国は北朝鮮の軍事行動に関して他国報道の二次情報しか伝えないのか?中国が基本的に他国報道の二次情報しか使わないのは、中国と北朝鮮の間に軍事同盟(中朝友好協力相互援助条約)があるからだ。これは1961年5月16日に韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)が軍事クーデターを起こして軍事政権を樹立したため、北朝鮮は急遽、ソ連と中国に軍事同盟締結を求めたことに起因する。韓国とアメリカの間には米韓相互防衛条約という軍事同盟があるので、北朝鮮を軍事攻撃することを危惧したためだ。ソ連は1991年12月に崩壊したので、自然消滅したが、中国との間の軍事同盟は今も存在している。これがなかなかの曲者で、中国としては何度、この軍事条約を破棄しようとしたかしれないが、結局米中対立が激しくなってからは、日米韓から中国を守るための緩衝地帯として残すことにした。しかし、北朝鮮が危ない行動ばかりをするので、いつ、米韓と軍事衝突をするようなことがあるか分かったものではない。中国としては、一党支配体制の維持を最優先事項にしているので、その「巻き添え」になりたくないという気持ちから、北朝鮮にも「抑制」を求めているのだが、これがなかなか言う通りには動かない。金正恩政権が誕生してしばらくの間は、「北のミサイルの矛先は北京を向いている」とさえ言われた時期があったほどだ。しかし、トランプ政権が誕生し、「トランプ・金正恩」会談という、奇跡的なことが起き始めてからは、金正恩も習近平に低姿勢になり、トランプ大統領に会う前に「北京詣で」をするという、前代未聞の情況がしばらくあったわけだ。いずれの場合でも、中朝は複雑に絡みながらも、「軍事に関する機密は守る」という大原則があるため、北が起こした軍事行動に関して、中国は他国が報じてからでないと報道しないという「基本」を守っている。「北朝鮮ミサイル発射を中国はどう見ているのか?拉致問題を抱える日本はどうすべきなのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: KRT/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/48IMUaTDRBs(※3)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEEG0jq4MGFEDHKXbCzzhv220606.shtml(※4)https://tv.cctv.com/2022/06/06/VIDEXm2mgBBnAgwYwj0cC0eF220606.shtml
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2022/06/07 16:23
GRICI
IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。●韓国の場合5月23日の中国外交部における定例記者会見で、韓国の記者が「IPEFは開放性、包括性、透明性の原則に基づいており、特定の国を除外するものではありません。ですから韓国はIPEFに参加していますが、しかし一方で、最大の貿易国であり隣国である中国との経済・技術協力を強化しています。中国はこのことをどう思っていますか?」と質問している。外交部報道官は「対立と分裂を招くような行動は適切ではありません」と、やや嘲笑的な表情で回答している。●日本の場合5月29日の共同通信の<外務省中国課に「戦略班」 習主席の支配体制分析>(※2)にもあるように、岸田首相はバイデン大統領に追随して「安全保障面で米国との連携を強める」一方、結局は<中国とは経済面の結び付きを中心に「建設的な関係」(岸田文雄首相)の構築を目指している>ではないか、というのが中国の皮肉に満ちた指摘だ。◆岸田首相の「新資本主義」は失敗する興味深いのは、特に岸田首相の「新資本主義」に焦点を当てて分析していることだ(「余計なおせっかい」とも言えなくはないが、一応、中国が日本をどう見ているのかの参考になるとは思うので、ご紹介したい)。この分析に関しては、たとえば中国共産党機関紙「人民日報」に姉妹版「環球時報」などが<「日本はインド太平洋経済枠組み(IPEF)>に反ぜいされるだろう(=自分の首を絞めるだろう)>(※3)という論理を展開している。他の多くの分析も参照しながら趣旨を書くと以下のようになる。・IPEFは日中および地域の経済・貿易協力だけでなく、日米経済貿易協力や日本自身の景気回復にも深刻な悪影響を及ぼす。・岸田政権は、日本が国連安保理常任理事国に加盟するのをアメリカが推薦してくれるなど、より多くの「安全保障」と引き換えに、中国の発展に対抗するための枠組みに協力している。・岸田政権は「経済安全保障」強化を目的として経済安全保障大臣の新たなポストを創設したり、経済安全保障推進法を国会で可決させたりしているが、しかし、アメリカが提唱し支配するIPEFは、欧米のメディアからさえ、「市場開放も関税引き下げもしない」など、多くの側面から疑問が投げかけられている。・岸田政権の、ワシントンとの「小さなサークル」への追随は、アジア太平洋地域の経済発展で形成されている日本の成果をさえ台無しにするだけでなく、日本自身の経済回復に深刻な悪影響を及ぼす。・中国と日本は、世界第2位と第3位の経済大国として、APECやRCEPなどの地域経済協力メカニズムの重要なメンバーであり、アジアにおける2大経済大国(中国と日本)の政策と態度は、地域経済協力の有効性と見通しに大きな影響を与える。・だというのに岸田政権は事実上、中国をターゲットとしたIPEFに自ら好んで組み込まれ日中協力を妨げおきながら、「経済的に中国と建設的な関係を構築していきたい」と言うことは、あまりに矛盾に満ち、中国の協力を得られると思っているのは計算違いだ(そうはいかない)。・岸田政権は、経済「成長」と「分配」の良好な相互作用を実現する「新資本主義」開発コンセプトを提唱している。しかし、日本は少子高齢化などの経済・社会問題に直面しており、財政・金融政策の余地は極めて限られているため、岸田政権が「新資本主義」の進展を図るには、対外経済協力、特に中国と米国の2つの重要な経済・貿易パートナーとの関係を適切に処理することが急務である。それなしに「成長」と「分配」を目指す「新資本主義」の達成など絶対にありえない。日本は自ら好んで自分の首を絞める道を選んでいる。(引用はここまで)◆ASEANを含めた中小国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強制するな日米がいま必死になってやっているのは、中露を除いた世界各国に「米中どちらを選ぶか」という「踏み絵」を強要していることだと、中国側は批判している。たとえば日本の外務省がASEAN諸国に対して行った世論論調査(※4)で、以下のような2021年度の結果が出ている。「日米中」3ヵ国にだけ注目して示す。Q1:あなたの国にとって、現在重要なパートナーは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 56%2位:日本 50%3位:アメリカ 45%Q2:あなたの国にとって、今後需要なパートナーとなるのは次の国・機関のうちどの国・機関ですか?1位:中国 48%2位:日本 43%3位:アメリカ 41%一般に日本が調査した場合は、日本にやや好意的な選択をする傾向にあるが、日本の外務省が調査したというのに、中国がトップであることが、中国にとっては嬉しくてならないようだ。そこで中国では、ASEANを含めた中小国家に「日米どちらかを選べ」というような残酷な選択を迫るものではないと批判が噴出している。以上、今回は、あくまでも中国が、日米が一丸となって推し進めているIPEFに関する中国の反応のみにテーマを絞り、現状をご紹介した。私見を述べるなら、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第二章に書いたように、全世界で中国を最大貿易国としている国の数は、2018年統計で190ヵ国のうち「128ヵ国」で、アメリカは「62ヵ国」に過ぎない。その点から見ると、「中国を締め出すための経済協力機構」の構築の難度は高いのではないかと危惧する。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2https://news.yahoo.co.jp/articles/f39dc39bd9a7b27aa180112d17a4422a619a22a7(※3)https://opinion.huanqiu.com/article/4895Can4tt0(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100348514.pdf
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2022/06/02 10:37
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IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。バイデン大統領の提唱でスタートしたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に対し、中国は軽蔑にも似た酷評をし、それに追随する日本に対しても自らの首を絞めると嘲笑っている。中国の受け止めを考察する。◆バイデンが提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)に関する中国の酷評今年2022年2月11日にバイデン政権がインド太平洋戦略を発表し(※2)、18ページからなるリポート(※3)を出した時点から、中国の対米酷評は始まっていた。しかし5月23日にバイデン大統領が来日し、正式にインド太平洋経済枠組み(IPEF=Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)が立ち上がると、そのことに対する中国の批判は酷評を越えて嘲笑に近いものとなっていった。発足段階での参加国は「米国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、そしてオーストラリア」の13カ国で、台湾を入れる勇気はなかったことに、中国としては一種の「勝利感」を味わっているムードが伝わってくる。「一つの中国」原則を重んじたために、「台湾」を入れるなら「中国(北京政府)」を入れるしかなく、それでは「対中包囲網」になり得ないので、「さあ、何もできまい」という気持ちが文面から伝わってくるのである。IPEFの共同声明にも「中国を名指しするだけの勇気を持っていない」ことに、参加国の中国への配慮が滲み出ており、これもまた「中国の存在を無視できない参加国」という優越感にも似た安堵感が、酷評の中にそれとなく表れている。IPEFの合意は「公平で強靭性のある貿易、サプライチェーンの強靭性、インフラ・脱炭素化・クリーンエネルギー、税・反腐敗」の4つの柱から成っており、アメリカがどんなに中国排除を目的としていても、この内容なら困るのは参加国自身だと、鼻息は荒い。そのため中国におけIPEFに対する酷評の情報があまりに多いので、これまでのコラムのように、一つ一つリンク先を張ってご説明することは困難である。そこで膨大な情報の中からいくつかの共通項を拾ってみると、以下のようになる。・いま世界は自由貿易に向かって動こうとしているのに、アメリカは偽装した保護貿易主義へと進んでおり、しかも「中国を排除しよう」、「仲間外れにしてやれ」というのは冷戦構造への逆戻りで、それはソ連崩壊と同時に、1994年に終わったパリ調整委員会(ココム=対共産圏輸出統制委員会)を彷彿とさせる。・「中国を仲間外れにしてやれ」という理念が、貿易面で中国とは切っても切れないアジア諸国に共有できるはずがなく、アメリカの「小さなグループ」を作って誰かを虐めようとする分裂主義的行動は、冷戦構造以上にみっともなく、アジアの平和と豊かな繁栄に貢献するとは到底考えられない。分裂主義はアジアの繁栄を後退させ、参加国はバイデンへのメンツのために、やむなく名前貸し」をしているだけである。・もしバイデンがCPTPPに戻ってくるというのなら、一定の説得力があり、中国としても反対はしない。しかし、自分自身は自国の利益のためにTPPに戻ることはせず、アメリカにおける中間選挙や大統領選挙のために「やりました感」を出しているだけだとすれば、バイデン一人の自己満足であり、周辺国は大いに迷惑をしている。・アジアにはRCEPが既にあり、ASEAN諸国には地域協力プラットフォームもあり、これらにおいては自由貿易の理念を中心とした関税の引き下げや投資の自由など、魅力に満ちた互恵関係が動いている。しかしIPEFには関税の引き下げもなければ自由貿易的理念もなく、参加国にいかなるメリットももたらさない。中国を外してしまえば、そもそも「市場」がないので参加国には「儲け」が出てこない。ただ参加国を束縛して「中国を仲間外れにしましょう」という理念を共有する枠組みは必ず失敗し、「アメリカが笑いものになる」だけで終わるだろう。◆参加国のダブルスタンダード中国の酷評はそれにとどまらない。中国を追い出そうとしながら、参加国はそれぞれ個別には中国に譲歩し、中国との貿易を盛んにさせていこうと、こそこそと水面下でやっているではないか、というのが中国の指摘だ。●アメリカの場合バイデンは5月23日、トランプ政権時代に中国に課してあった制裁関税の引き下げに関して検討していると表明。もっとも5月31日、アデエモ米財務副長官はる対中制裁関税の引き下げについて物価抑制という短期的な効果だけで決断しないと言ったり、一方ではイエレン財務長官が実施に前向きな半面、対中貿易協議を担うタイ通商代表部(USTR)代表は慎重など、政権内に温度差があり、一枚岩ではない。このこと自体がバイデン政権のあやふやさを表していると、中国政府は見ている。そのような中、5月31日にアメリカのNBCニュースが<漂流するバイデン政権内部>(※4)というショッキングなタイトルで「バイデンは支持率の低下に動揺しており、選挙戦中の約束を果たそうと必死だが(無理ではないか・・・)」という趣旨の報道をした。すると中国のネットではすぐさま<米メディア:バイデンはホワイトハウスの適切でない発言に不満、支持率がトランプより低くなるのではないかと心配している>(※5)という、バイデンにとってはグサリとくるような見出しの報道が現れたほどだ。もう、バイデンを茶化して楽しんでいるという感さえある。「IPEF(インド太平洋経済枠組み)に対する中国の嘲笑的対米酷評と対日批判(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: AP/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/02/11/fact-sheet-indo-pacific-strategy-of-the-united-states/(※3)https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/02/U.S.-Indo-Pacific-Strategy.pdf(※4)https://www.nbcnews.com/politics/white-house/biden-white-house-adrift-rcna30121(※5)https://www.guancha.cn/internation/2022_06_01_642358.shtml
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2022/06/02 10:34
GRICI
「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、「「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中共中央総書記は如何にして選ばれるのか?中国では特殊な政治制度の下で中国共産党による一党支配制度が実施されており、西側諸国のような普通選挙が行われているのではない。したがって、日本でよく「ゼロコロナに失敗したら、習近平の三期目に影響するので習近平は党大会が終わるまでは変えることができない」といった種類のことを大手メディアまでが言っているが、これは西側諸国の感覚が生む「幻想」に近い勘違いだ。誰を中共中央総書記に選ぶのかに関しては、14億の中国人の内、「約200名」の中共中央委員会委員にしか投票資格がないのである。このことを知らないために、「中国人民」が「中共中央総書記の選挙結果」に影響を与えるような「大きな錯覚」を持ち、大手メディアまでが「習近平三期目に大きな影響を与えるので・・・」といった類の解説をするのは罪作りなことである。では、どのようにして、「中共中央総書記」が選ばれるのか、その基本的プロセスをご説明する。中国には14億の人民がいるが、そのうち約1億人(正確には2021年6月5日の統計で9514.8万人)の中国共産党員がいる。この内の「約3000人」が全国代表として全国津々浦々の行政区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に一回開催される党大会に参加する。この3000人の中から「中共中央委員会委員約200人」を選ぶのだが、その選び方は基本的に党大会の全国代表を選ぶ選出母体が、割り当てられた「候補者」をノミネートする。ノミネートされた者が適切であるか否かは、現任の総書記をトップとした「中央組織」が再審査監督をするので、結局は、現在で言うならば、「習近平・中共中央総書記」が最終判断をすることになる。かくして厳選された「中共中央委員会委員候補者リスト」が党大会で配布され、一人一人に対して「賛成」、「反対」、「棄権」の3つのボタンの内のどれか一つを押して「投票」をする。候補者リストは「差額選挙」と称して、もし委員200人を選ぶとすると、110%ほどの名前をノミネートするので、10%の人は落選することになっている。差額の数値は、その時々で違ってくるが、10%前後の超過人数分をノミネートするのが通例だ。これを以て「党内民主」と称し、「民主的な選挙」が行われていると中国共産党は胸を張っている。党大会が閉幕すると同時に一中全会(中共中央委員会第一次全体会議)を開催して、そこで中央委員会委員が投票して中共中央総書記を決める。翌年の3月に開催される全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選出され全過程が終わる。中共中央委員会委員の任期や選出方法に関して、たとえば「中国共産党中央委員会工作条例(2020年9月28日、中共中央政治局会議批准、2020年9月30日中共中央発布)(※2)のようなものがあり、党規約にも書いてあるが、筆者が本コラムで書いたような具体的な選出方法は明らかにしていない。ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入っているということはほぼ「あり得ない」ということである。◆習近平の「紅いDNA」には誰も及ばない中華人民共和国誕生に当たって、習近平の父親・習仲勲が果たした役割は、実際上、毛沢東を越えると言っても過言ではないほど大きい。習近平は革命第一世代のほぼ唯一の、現在も活躍している直系の生き残りだ。彼以上に「紅いDNA」を持った男は、いま中国にはいないと言っていいだろう。1934年から36年にかけて毛沢東が蒋介石率いる国民党軍に追われて北西方向に逃げていったとき(すなわち、長征のとき)、全中国に設立していた革命根拠地は延安がある陝甘革命根拠地(のちの西北革命根拠地)しか残っていなかった。それを建設したのは習仲勲たちである。あの西北革命根拠地がなかったら、共産党軍(紅軍)は完全に国民党軍に殲滅され、毛沢東は生き残っていなかっただろう。ということは、中華人民共和国が建国されることもなかったということになる。だから毛沢東はこの上なく習仲勲を大切にし、後継者の一人に考えていた。そのことに激しい嫉妬と不安を抱いて警戒したのがトウ小平だ。トウ小平は、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を1962年に冤罪で失脚させてしまう。16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を終えて、華国鋒と葉剣英の力を得て1978年に広東省に派遣され習仲勲が対外開放路線を実施したところ、その功績は全てトウ小平が自分の功労として持っていき、1990年に再び習仲勲を失脚させた。この事実を正視することなく、習近平がなぜ第三期目を狙っているかを理解することは不可能であると断言できる(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。なお、朱鎔基が習近平三期目就任に反対するという声明(朱九条)をネットで公開したという情報が流れたが、これは捏造である可能性が大きい。朱鎔基と江沢民の仲がどれだけ悪かったかを知っている人なら、ここに江沢民の大番頭である曽慶紅の名前が(高く評価すべき人物として)出てくること自体が荒唐無稽であり、習近平を江沢民に推薦したのは、ほかならぬ曽慶紅である。他の内容から見ても、史実を知らない最近の若者が捏造したものとしか思えない。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2020/1013/c1001-31889182.html
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2022/05/31 16:07
GRICI
「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。なにやら習近平が失墜し李克強が格上げされているというデマが横行している。そもそも中国の政治体制を知らない人たちの願望でしかないが、いかにして中共中央総書記が選出されるかを解説したい。◆習近平失脚への願望なにやらアメリカ発の習近平失脚願望がデマを流し、日本の一部の「中国研究者」がそれに飛びついた。「老灯(Lao-deng)」という中国人(※2)で、彼はツイッターで(※3)さまざまな反中反共情報を流している。特に5月5日に流した「習下李上(習近平が下馬し、李克強が上位に立つ」(※4)は、一部のネットユーザーを喜ばせて、「習下李上」という言葉がもてはやされている(中国語では下野を下馬と言うので、敢えて日本語訳に「下馬」を使った)。少し前まで、この役割を果たして人気を得ていたのがアメリカに逃亡した郭文貴という中国人で、彼は偽情報を創りあげては「これは中国の国家安全関係者から得た情報だ」と宣伝し、「金づる」を求めていた。そこに飛びついたのがトランプ政権時代初期に主席戦略官を務めたことがあるスティーヴン・バノンで(7ヶ月間で解任)、筆者はバノン氏から何度か取材を受けたりした関係から、バノン氏には「郭文貴とつながるのは危険だ」と伝えたが、二人とも別々の理由で逮捕されたりして、郭文貴は消えた。すると、次の郭文貴になりたいという海外(特にアメリカ)在住の華人華僑が現れる。自分は中国政府のインサイダー情報を持っているとして、大衆が喜びそうなデマを流して金を稼ぐのである。◆李克強は習近平以上にガチガチの中国共産党員そういった情報に飛びついて「尾ひれ」を付けたがるのが、日本の一部の「中国研究者」であり、日本メディアだ。これは「中国庶民の不満の表れだ」とか「背後には反習近平勢力」とか「権力闘争」だとか、言いたい放題だ。しかし、勘違いしてはいけない。李克強はれっきとした「中国共産党員」で、しかも「ガチガチ」である。「がり勉さん」なので、融通が利かない。習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはないのである。日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違いして「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜んでいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をしているだけで、そこには寸分たりとも「個人の意思」はない!「個人の言葉」は皆無なのである。「分工」と言って、チャイナ・セブンの中で決めたことを、誰がどのような形で発表し実行していくかという「職掌」に沿って動いているだけである。おまけに李克強はすでに今年の全人代閉幕後の記者会見で「これが最後となる」(※5)と、自ら「退官」の意思を表明した。これも、そのようなことを公表して良いか否かは、事前にチャイナ・セブンで決めてから意思表明しているのだ。加えて、李克強は軍事委員会(※6)において、現在はいかなる職位も持っていない。したがって、あらゆる側面から見て、習近平に代わって李克強が今年秋に開催される党大会で「中国共産党中央委員会(中共中央)総書記」に選ばれる可能性はゼロである。「「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.youtube.com/c/%E8%80%81%E7%81%AF(※3)https://twitter.com/laodeng89(※4)https://www.youtube.com/watch?v=yeqsxxw7aOc(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2022-03/11/content_5678592.htm(※6)http://www.mod.gov.cn/leaders/index.htm
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2022/05/31 16:05
GRICI
キッシンジャーがバイデン発言を批判「台湾を米中交渉のカードにするな」【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。「一つの中国」コンセンサスで国際秩序を形成したアメリカのキッシンジャー元国務長官は、バイデン大統領の台湾防衛発言を受けて、「二つの中国」をカードにすべきではないとダボス会議で演説した。◆ヘンリー・キッシンジャーが「台湾を米中交渉のカードにするな」世界の政財界のリーダーが集まるダボス会議が、5月22日から26日の日程でスイスのダボスで開催されているが、アメリカのキッシンジャー元国務長官が、23日、リモート講演を行った。講演では「台湾を米中交渉のカードにすべきでない」(※2)という趣旨のことを語っている。これは来日したバイデン大統領が台湾有事に関して記者会見で言った「台湾防衛にアメリカが関与する」という趣旨の言葉を受けて話したものである。バイデン発言の詳細に関しては5月24日のコラム<バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?>(※3)に書いた通りだが、それに対してキッシンジャーは概ね以下のようなことを言っている。・ワシントンと北京は、台湾を中心にすえたような緊張した外交関係を避ける道を求めなければならない(=米中は台湾をカードにして対立を深めることをやめなければならない)。・世界の二大経済大国が直接対決を避ければ、それは必ず世界平和に貢献することになるだろう。・アメリカは「ごまかし(ペテン)」や「(ひっそりと)徐々に進める方法」によって、何やら「二つの中国」まがいによる解決を展開すべきではない。中国はこれまでと同じように、忍耐し続けていくだろう。報道元のアメリカ大手メディアCNBCは、バイデンの発言は、台湾に対するワシントンの長年の「戦略的曖昧さ」を否定するように見えたが、しかしホワイトハウスはすぐに「台湾問題に対するアメリカの政策は変わっていない」と火消しに追われていると報道している。◆キッシンジャーが言う「二つの中国」とは何かキッシンジャーが言うところの「二つの中国」とは何かを、少し具体的に説明しなければならない。まず、その前提となる「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などが、何を指しているかを深堀してみよう。それは5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※4)で書いたように、アメリカ政府が台湾関連のウェブサイトから、「ひっそり」と・は中国の一部である。・アメリカは台湾の独立を支持しない。という二つのキーフレーズを削除したことを指している。なぜこれが、キッシンジャーが言うところの「ごまかし(ペテン)」とか「ひっそりと徐々に進める方法」に相当するかというと、台湾関連のウェブサイトから「ひっそりと」削除しただけであって、誰もそのことに気が付かなかったら、気が付かないままに月日が過ぎていったかもしれないからだ。じわーっと変化させておいて、「削除しましたよ」とは公表しない。誰かが気が付いたら仕方ないが、言い訳はまだできるようにしてある。それは「一つの中国(one China)」という言葉だけは残してあるからだ。1992年に共通認識として、中国大陸と台湾政府の間で確立された「九二コンセンサス」では、「一つの中国」を中国大陸側が「中華人民共和国を指している」と認識し、台湾政府側が「中華民国を指している」と心の中で位置付けるのは「自由だ」という、共通認識なのである。要は「中国は一つしかない」と認識するのであれば、それでいい、という、妥協的とも偽善的ともいえる「九二コンセンサス」なのである。この解釈に関しては、筆者は90年代半ばに国務院台湾弁公室の主任を取材し、長時間にわたって議論をしたので、まちがいないだろう。そこでアメリカ政府のウェブサイトには「一つの中国」という言葉だけは残しておけば、これは・中国大陸から見れば「中華人民共和国」・台湾政府から見れば「中華民国」という「九二コンセンサス」精神を考えると、台湾は中国の一部である。アメリカは台湾の独立を支持しない。を削除しさえすれば、「二つの中国」を暗に認めることにつながる。まるで「手品のような手段」なので、元国務長官だけあり、キッシンジャーは、この「インチキ性」と「まやかし」に敏感に気が付いたのだろう。些末なことで申し訳ないが、某元外交官だった評論家は、筆者のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※5)に書いてある論理を「非常に浅い読み」と批判しておられるようなので、その方は是非とも、今回のこのコラムに書いてあるキッシンジャーの「二つの中国」という言葉を「深く読み取り」、なぜキッシンジャーが、「ごまかし(ペテン)」とか「(ひっそりと)徐々に進める方法」などという言葉を使わなければならなかったのかを「深く読み取って」いただきたいものだと思う。アメリカ政府が「一つの中国」だけは残したのは、「九二コンセンサス」があるからだ。台湾政府が勝手に「中華民国である」と認識することが許される仕組みになっているのである。なお、バイデン政府が次にやる手段は「削除」ではなく、「明示する」という段階に入る。すなわち「アメリカは台湾の独立を支持する」と明確に書くという意味である。この段階に至るにはまだ少し長い時間がかかるだろう。それをキッシンジャーはgradual process(ゆっくりと漸進するプロセス)という言葉で表現している。私たちは、こういった微妙な変化に鋭敏に気が付いて米中台全体の動きを俯瞰的に観察していかなければならないのではないだろうか。それが日本国民を真に守ることにつながると、固く信じる。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.cnbc.com/2022/05/23/kissinger-says-taiwan-cannot-be-at-the-core-of-us-china-neogitations.html(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220524-00297585(※4)https://grici.or.jp/3125(※5)https://grici.or.jp/3125
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2022/05/26 10:21
GRICI
バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国が武力攻撃するのは「台湾政府が独立を宣言した時」のみでは、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとするのは、どういう時かというと、「台湾政府が独立を宣言した時」である。それをすれば、2005年に制定された「反国家分裂法」が作動する。それを知り尽くしているバイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、アメリカ政府ウェブサイトの台湾関連事項から「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、ひっそりと削除した(詳細は5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※2)。また、なぜ習近平は台湾政府が独立宣言でもしない限り台湾を武力攻撃しないかに関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述した)。こうして、中国を刺激して、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだとしか、言いようがない。◆中国の反応は?肝心の中国は、台湾に関するバイデン発言に、どう反応しているかを少しだけご紹介したい。冒頭に書いたように、中国外交部は激しいバイデン批判を発表し、また中国共産党および中国政府系メディアも強い批判を展開はしているものの、基本的に「中国はアメリカの、その手には乗らない」といった、割合に冷めた論評も多く、中国全土が激怒しているというような状況にはない。むしろ「台湾が政府として独立を宣言」したら、それこそが「最も大きな現状変更」で、中国にとっては「宣戦布告」に相当すると位置付けている。だから台湾関係法にあるように「平和的手段」ではなく「武力的手段」で中国が台湾統一を成し遂げる方向に中国を持っていくには、「台湾の独立を煽る」のが最も早い近道であるとバイデンが考えていると、中国はバイデンの言動を判断しているのである。つまり、「どうすれば中国を最も怒らせることができるか」、「どうすれば中国に武力行使を先にさせるか」と、バイデンは考えているということだ。だから中国の主張には、「バイデンの手には乗るな。中国はロシアではない」というのが数多く見られる。と同時に、バイデンの言動と、アメリカ政府のウェブサイトから「台湾の独立を支持しない」を削除するといった一連の行動を危険視し、「台湾を独立させようとしているのはアメリカだ」と激しく批難している。しかし、そもそも中国(=中華人民共和国)を国連に加盟させ、「中華人民共和国」を「唯一の中国」として認め、「中華民国」(台湾)を国連から追い出したのはアメリカではないか。ニクソンの大統領再選のために、キッシンジャーを遣って忍者外交をさせ、ソ連を追い落とそうとした。今度はバイデンの大統領再選のためにロシアを追い落とし、全世界に災禍を与えている。まんまとバイデンの罠に嵌ったプーチンは、「愚か」であり「敗北者でしかない」のだが、「バイデンの仕掛けた罠」を正視してはならない同調圧力が日本にはある。犠牲になるのはやがて日本だということに気が付いてほしいと切に望むばかりだ。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220512-00295668
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2022/05/25 10:29
GRICI
バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。23日、バイデン大統領はアメリカに台湾防衛義務があるような発言をしたがホワイトハウスは直ぐに「変化なし」と否定。失言取り消しはこれで3回目だ。ミリー統合参謀本部議長も米議会で否定している。しかし—。◆記者会見でのバイデン大統領の発言23日、バイデン大統領は岸田首相との首脳会談の後の記者会見で記者の質問に答えて「台湾防衛に関してアメリカが関与する」という趣旨の回答をした。できるだけ正確に読み解くために、二次情報ではなく、ホワイトハウスのウェブサイト(※2)を見てみると、当該部分は以下のようになっている。記者:簡単にお聞きします。明らかな理由により、あなたはウクライナの紛争に軍事的に関与したくなかった。もし台湾で同じような状況が起きたら、あなたは台湾を守るために軍事的に関与する用意がありますか?バイデン:はい。記者:本当ですか?バイデン:それが私たちのコミットメント(約束)ですから。えー、実はこういう状況があります。つまり、私たちは一つの中国原則に賛同しました。私たちはそれにサインし、すべての付随する合意は、そこから出発しています。しかし、それが力によって実現されるのは適切ではありません。それは地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたことと類似の、もう一つの行動になるでしょう。ですから、(アメリカには)さらに強い負担となるのです。これは今までアメリカが台湾に関して取ってきた「戦略的曖昧さ」と相反するものだとして、日本のメディアは大きく報道した。その日の夜7時のNHKにニュースでは、「失言でしょう」と小さく扱ったが、夜9時のニュースでは「大統領が言った言葉なので重い」という趣旨の解説に変えていたように思う(録画しているわけではないので、そういうイメージを受けたという意味だ)。ことほど左様に、日本のメディアだけでなく、欧米メディアも、また中国メディアでさえ、外交部の激しい批難を伝えながらも、「又しても失言なのか、それとも本気なのか」といったタイトルの報道が目立つ。というのも、バイデンは2021年8月と10月にも、米国には台湾防衛義務があるという趣旨の見解を述べたことがあるからだ。しかし、そのたびにホワイトハウスの広報担当者らは「火消し」に追われ、「アメリカの台湾政策に変更はない。台湾が自衛力を維持できるように支援するだけだ」と軌道修正した経緯があるからだ。◆ミリー参謀本部議長が米議会で「台湾人による代理戦争」を示唆全世界が今般のバイデン発言を重く受け止めると同時に、「あれは失言だ」という報道が、それ以上に多いのは、バイデンに2回も「前科」があり、今回は「3回目になる」からだけではない。実は今年4月7日、ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で長時間にわたる回答をしており(※3)、その中で以下のようなことを述べている(要点のみ列挙)。1.台湾の最善の防衛は、台湾人自身が行うことだ。2.アメリカは、今般ウクライナを助けるとの同じ方法で台湾を助けることができる。3.台湾は島国であり台湾海峡があるので、防御可能な島だ。4.アメリカは台湾人が防御できるように台湾を支援する必要がある。5.それが最善の抑止力で、中国に台湾攻略が極めて困難であることを認識させる。(要点はここまで)以上、「1」と「2」から、アメリカ軍部は台湾が中国大陸から武力攻撃された場合は、ウクライナと同じように「台湾人に戦ってもらう」という、ウクライナと同じ「代理戦争」を考えていることが読み取れる。バイデンが言っていたように「ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない」のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。またバイデンが「ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない」と言っていたが、これも「ロシア」を「中国大陸」に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。すなわち、中国には「核」があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである。しかし「3」に書いてあるように、武器の売却などを通して台湾が戦えるように「軍事支援」する。これも、ウクライナにおける「人間の盾」と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、「台湾国民に戦ってもらう」という構図ができている。◆台湾関係法には、どのように書いてあるのか?そこで、バイデン大統領の3度にわたる「アメリカには台湾を防衛する義務がある」という趣旨に近い「台湾防衛義務」発言が、単なる失言なのか、それとも何かしらのシグナルを発しているのかに関して考察するために、台湾関係法(※4)を詳細に見てみよう。台湾関係法のSec. 3301. Congressional findings and declaration of policy( 議会の調査結果と政策宣言)の(b) Policy(政策)の(3)~(5)には、以下のような文言がある。(3)中華人民共和国との外交関係を樹立するという米国の決定は、台湾の将来が平和的な手段によって決定されるという期待に基づいていることを明確にすること。(4)ボイコットや禁輸、西太平洋地域の平和と安全への脅威、米国への重大な懸念など、平和的手段以外の手段で台湾の将来を決定するためのあらゆる努力を検討すること。(5)台湾に防御的性格の武器を提供すること。(6)台湾の人々の安全、社会的または経済的システムを危険にさらすような強制またはその他の形態の強制に抵抗するためのアメリカの能力を維持すること。また台湾関係法のSec. 3302. Implementation of United States policy with regard to Taiwan(台湾に関する米国の政策の実施)の(c)United States response to threats to Taiwan or dangers to United States interests(台湾への脅威または米国の利益への危険に対する米国の対応)には、以下のような文言がある。——大統領は、台湾の人々の安全または社会的または経済的システムへの脅威と、それから生じる米国の利益への危険(があった場合は、それ)を直ちに議会に通知すること。 大統領と議会は、憲法の手続きに従って、そのような危険に対応するための米国による適切な行動を決定するものとする。(引用ここまで)これらから考えると、中国大陸が武力的手段で台湾統一を行なおうとすれば、アメリカはそれ相応の手段を取ると政策的に位置づけられていることが分かる。となれば、バイデンの発言は失言ではなく、意図的なものであることが読み取れる。「バイデン大統領の台湾防衛発言は失言か?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/05/23/remarks-by-president-biden-and-prime-minister-fumio-kishida-of-japan-in-joint-press-conference/(※3)https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/22-26_04-07-2022.pdf(※4)http://www.taiwandocuments.org/tra01.htm
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2022/05/25 10:27
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バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(1)
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆産経新聞が単独取材したバルマ駐日インド大使の発言とその解釈5月19日、産経新聞はバルマ駐日インド大使を単独取材し、<バルマ駐日インド大使 中国念頭に「覇権主義に反対」>(※2)という見出しで報道した。それによればバルマ大使は概ね以下のように述べたという。1. 海洋進出を強める中国を念頭に「覇権主義的な動きには反対だ」。2.日米豪印4ヵ国協力枠組みクアッドは「軍事同盟ではなく、さまざまな問題を協議する場だ」。3.台湾有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが重要だ。4.ロシア制裁に関して「インドは独立した立場を取っている。経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」と説明。外交と対話による停戦を求めていくべき。(引用ここまで)これらに関して筆者なりの解釈を以下に示したい。「1」に関して:「海洋進出を強める中国を念頭に」という言葉は、産経新聞の記者の方が位置付けた言葉だろうと考えられ、インドとしては「中国であれアメリカであれ、覇権主義的動きには反対」という立場なのではないかだろうか。「2」に関して:インドが軍事的に最も仲が良い国はロシアなので、クワッドが軍事同盟的性格を持っているなら、ロシアと仲が良い中国に対抗するようなグループには入りたくないという意味あいを持つことになろう。「3」に関して:5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※3)に書いたように、アメリカ政府は台湾関連のウェブサイトから、ひそやかに「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾独立を支持しない」という文言を削除している。中国の逆鱗に触れる行動をしているのだ。つまり「台湾有事を発生させるための仕掛け」を始めている。したがって、バルマ大使の「有事が起きないようにする」という言葉はアメリカに向けて言ったものと推測することができる。「4」に関して:インドはロシアに対して制裁するどころか、武器はソ連時代からすべてソ連から、そしてソ連崩壊後もロシアから購入してきたので、対ロシア制裁など、インドにとってはとんでもない話だ。アメリカはそれを崩そうと、何年も前から、アメリカの武器を購入し、アメリカ製軍事システムの中に入るようインドを説得してきたが、なかなか実現しなかった(たとえば2007年には民主党のリーバーマン上院議員や米太平洋軍司令官のキーティングがインドを訪問してインドを説得し、同年9月に、日米印豪およびシンガポールとのっ合同海軍演習にせいこうしているがアメリカ製兵器購入にまでは至っていない)。それでも2019年2月15日にトランプ政権で国家安全保障問題担当だったボルトン補佐官がインドのカウンターパートに電話して「インドがパキスタンに一方的に侵攻しても、国連安保理でインドの側に立って、アメリカが拒否権を使ってあげるので、アメリカ製の武器を購入しろ」と執拗に迫って、遂にインドはやむなく一回だけ、アメリカから武器を購入したことはある(詳細は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』p.188‐192「露印は軍事的緊密事」)。しかし、同書のp.191に書いたように、ロシアのウクライナ侵略が始まったあと、アメリカが天然ガスや石油などのエネルギー資源に関して徹底したロシア制裁を呼びかける中、インドはプーチンと仲良く話し合い、ロシアからの原油購入などを増やし、おまけにロシアのルーブルとインドのルピーでの取引を進めている。バルマ大使の「インドは独立した立場を取っている」は、まさにこういった「アメリカに同調しない、独立した立場」を指しているとしか解釈のしようがない。またバルマ大使の「経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」という言葉は「アメリカ批難」以外の何ものでもない。アメリカはロシアや中国だけでなく、自分の気に入らない国にはすぐに経済制裁を科す。なぜ国連を中心とした国際秩序を、アメリカだけは守らなくていいのか、なぜアメリカだけは自国の利益のために勝手に相手国に制裁を科して、世界経済のサプライチェーンを乱し、地球上のすべての人々に災禍をもたらしても許されるのか。それは誰もが素直に疑問に思うところだろう。それは「ドル基軸通貨体制」があるからで、なぜそれが可能かと言えば「ニューヨーク・ウォール街での業務を必須の条件とする大手銀行に、米国の意向に逆らえば銀行の免許没収という脅しを突き付けているからだ」と、杉田弘毅氏が『アメリカの制裁外交』で書いておられる。またバルマ大使は「外交と対話による停戦を求めていくべき」と言っているが、これは習近平も言い続けている言葉で、習近平の場合は2月25日にプーチンに直接電話で伝えている。つまり、インドの姿勢は中国と同じなのだ。逆に「ウクライナ戦争を停戦させたくない」と思っているのはアメリカであることを、世界は知っている。それは4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>(※4)に書いた通りで、事実その翌日の25日にアメリカのオースティン国防長官がウクライナを訪問した後、ポーランドにおける記者会見で「この戦争はロシアが二度と立ち上がれなくなるのを見届けるまで続ける」という趣旨のことを言っている。ということは、バルマ大使のこと言葉も、深く考察すれば、「アメリカを非難した言葉」と解釈することができるのではないだろうか。「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/19bbeada4948c61542ab7668556f6a69eb8caac1(※3)https://grici.or.jp/3125(※4)https://grici.or.jp/3082
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2022/05/23 16:41
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バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。◆王毅外相が主催したBRICS外相会談におけるインドの姿勢5月19日、議長国中国の王毅外相が主催して、「ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ」の外相がビデオ会議でBRICS外相会議を開催した。そのときに出された共同声明(※2)の中の関連項目だけを拾い上げると、以下のようになる。一、外相たちは、多国間主義を再確認し、国連憲章の目的と原則を基礎とした国際法を支持する。主権国家が平和を維持するために協力する国際システムにおける国連の中心的役割を支持する(三条関連)。二、外相たちは、国連安全保障理事会、国連総会などでウクライナ問題について表明された国別の立場を確認しあった。外相たちはロシアのウクライナとの(停戦)交渉を支持した(十一条関連)。三、外相たちは、人権と基本的自由を促進し保護するために、国内においてだけでなく、全世界レベルで各国が全ての人類に対して平等な待遇と相互尊重の原則に基づいて協力し、人類運命共同体を構築すべきであることを再確認した(二十一条関連)。四、外相たちはBRCSメンバーを増やしていくことを支持した(二十四条関連)。(以上、共同声明から関連項目の概略を引用)そもそもBRICS外相会議にはロシアのラブロフ外相が堂々と参加しているわけだから、ロシアの主張も取り入れていることは明白で、その上で共同声明を出せたというだけで、すでに中国だけでなくインドもまた基本的にロシアに共鳴していることになる。軍事攻撃に関しては中国もインドも賛同はしてないだろうが、かと言って、それを激しく非難するということはしていない。その事実を前提として少しだけ解釈を付け加えると以下のようなことが言える。「二」に関して:停戦交渉を続けるべきだという点で一致しており、アメリカのように「ロシアがくたばるまで、叩きのめしてやれ」という思惑とは反対側にいる。しかし、私見を述べるならば、軍事侵攻をしているのはロシアなのだから、ロシア自身が侵略行為をやめれば済む話で、ロシア以外のBRICSメンバー国がロシアに対して「侵略をやめろ!」と言うべきだと思うが、それを「言わない」あるいは「言えない」ところに問題があり、「だらしない」としか言いようがない。「一と三」に関して:これは「一国一票」の平等性を以て、国連で決めていくべきで、アメリカ一国が他国を制裁したり、「小さなグループ」を作って「第三国を排除する」という排他的論理で行動すべきではない、と主張していることを意味する。中国ではBRICS外相会議に際して、数えきれないほど多くのメッセージが出されているが、たとえば王毅が言った< 「小さなサークル」は世界が直面している「大きな挑戦」を解決できず、「小さなグループ」はこんにち世界が面している「大きな変動する情勢」に適応できない>(※3)などに現れている。しかも共同声明で、習近平の外交する—がんである「人類運命共同体」を入れたのは、BRICSメンバー国が、「中国を支持し、中国の外交姿勢に賛同している」ことを意味している。「四」に関して:これはBRICS外相会議における王毅の演説の中の一つ(※4)に表現されている通り、「新興市場や途上国との連帯と協力」を強化していこうという主張で、世界は先進国によってのみ動かされているのではなく、先進国以外の国の数の方が圧倒的に多いので「BRICS+」を増やしていこうという論理に基づいた表現である。◆インド外交部の発表インド外交部は今般のBRICS外相会議に関して以下のような発表をしている(※5)。——外相たちはウクライナの状況について話し合い、ロシアとウクライナの間の(停戦)交渉を支持した。 外所為たちは、紛争がエネルギー安全保障や食料安全保障に与える影響に懸念を表明した。外相たちは、国際機関および国連とその安全保障理事会を含む多国間フォーラムにおいて、発展途上国がグローバルガバナンスにおいて重要な役割を果たすことができるように、改革を推進し、開発途上国の代表を増やすことを求める声を支持した。(引用ここまで)すなわち、インドはアメリカの一極主義と制裁外交に反対しているということになる。◆アメリカの突然の対インド大型軍事支援ところが、アメリカはインドのこの姿勢を変えさせようと、なんとインドに対して5億ドル(640億円)の軍事援助プランを準備していることがわかった。5月18日のインドのHindustan Times(※6)が伝えた。どうやらアメリカは、インドのロシアに対する武器依存を減らすために、軍事援助パッケージを準備しているようで、関係者の話によれば、検討中のパッケージには5億ドル相当の軍事支援が含まれているとのこと。取引がいつ発表されるか、どのような武器が含まれるかは、今はまだ不明のようだ。この取り組みは、ウクライナ侵略でロシア批判を躊躇しているインドに対して、バイデン大統領がインドを長期的な安全保障パートナーとして培っていこうとする大きなイニシアチブの一環だと、匿名のアメリカ高官が言ったとのことだ。あのモディ首相が、「金」で心を動かすか、じっくり観察したいものである。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689666.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689626.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220519_10689631.shtml(※5)https://www.mea.gov.in/press-releases.htm?dtl/35330/Meeting+of+BRICS+Ministers+of+Foreign+AffairsInternational+Relations(※6)https://www.hindustantimes.com/world-news/us-to-offer-india-500-million-in-military-aid-to-reduce-dependence-on-russia-101652853517651.html
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2022/05/23 16:39
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日中外相テレビ会談内容の日中における発表の差異は何を物語るのか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月18日、日中外相会談が行われたが、とても同じ会談とは思えないほど、自国に都合のいいことだけを並べており、日中双方で発表内容が大きく異なる。その差異から何が読み取れるか考察してみよう。◆日本の外務省による発表5月18日、午前10時から約70分、林芳正外相と王毅外相がテレビ会談を行った。日本の外務省は、その会談内容に関して林外相が概ね以下のように言ったと発表している(※2)。リンク先に日本語があるので、要点のみ略記する。1.日中は「建設的かつ安定的な関係」という重要な共通認識を実現していくべき。2.日本国内の対中世論は極めて厳しい。互いに言うべきことは言いつつ対話を重ね、協力すべき分野では適切な形で協力を進め、国際社会への責任を共に果たしていくべき。その上で、尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性。在中国日本大使館員の一時拘束事案及び中国における邦人拘束事案について。日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃を強く求めた。3.新型コロナによる様々な影響がある中で、在留邦人の安全の確保や日本企業の正当な経済活動の保護等について中国側の適切な対応を要請。4.ウクライナ情勢について、ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章を始め国際法の明確な違反であり、中国が国際の平和と安全の維持に責任ある役割を果たすよう求る。北朝鮮については、非核化に向け国際社会が一致して対応する必要がある。拉致問題の即時解決に向けた理解と支持を含める。◆中国外交部による発表一方、中国の場合は二段階に分けて発表し、実に激しい。まず18日の14:56の情報として、外交部は「王毅が日米の対中干渉に関して立場を表明した」(※3)というタイトルで、以下のように書いている。——2022年5月18日、国務委員兼外相の王毅は、日本の林芳正外相とのビデオ会議で、日米の中国に対する否定的な動きについて立場を示した。日本は日米印豪「クワッド」首脳会談を主催しようとしている。警戒すべきは、アメリカの指導者(バイデン)がまだ来日する前から、日米が連携して中国に対抗していこうという論調がすでに悪意に満ちて騒々しく広がっていることだ。日米は同盟関係にあるが、日中は平和友好条約を締結している。日米二国間協力は、陣営の対立を扇動したりしてはならないし、中国の主権、安全保障、開発の利益を損ねたりすることなど、さらにあってはならない。日本側が歴史の教訓を学び、地域の平和と安定を目指し、慎重に行動し、他人の火中の栗を拾いに行くようなことをせず、隣国を自国の洪水のはけ口にする(自分の利益を図るために災いを人に押しつける)ような道を歩まないことを願っている。(引用ここまで)中国の外交部は、その15分後の15:11に、日中外相テレビ会談の全体に関して、以下のように発表している(※4)。——王毅は、今年は日中国交正常化50周年であり、二国間関係の発展の歴史において重要な一里塚だと述べた。 両首脳は昨年、新時代の要求に合致した日中関係の構築を促進する上で重要な合意に達した。王毅は、目下の急務は、以下の3つのことを成し遂げることだと指摘した。一、二国間関係の正しい方向をしっかりと把握すべきである。 中国と日本の4つの政治文書は、二国間関係の平和的、友好的な協力の方向性を定め、両国がパートナーであり、相互に脅威をもたらさないという一連の重要な原則的合意を築いた。 両国の関係が複雑かつ深刻であればあるほど、中国と日本の4つの政治文書の原則の精神を揺るがすことなく、初心を忘れてはならない。 我々は、正しい認識を確立し、積極的に相互作用を行い、国交正常化50周年を計画し、あらゆるレベルの様々な分野での交流と協力を強化し、前向きな世論と社会環境を醸成すべきである。二、二国間関係の前進の原動力を十分に満たすべきである。 経済・貿易協力は、二国間関係の「バラスト(船底に置く重り)」と「スクリュー」である。中国が相互循環の新しい開発パターンの構築を加速することは、日本と世界にとってより多くの機会を提供するだろう。双方は、デジタル経済、グリーン低炭素、気候変動管理などの分野で協調と協力を強化し、より高いレベルの相互利益とウィンウィンの状況を達成するために、協力の可能性を深く掘り起こすべきである。三、干渉要因を迅速に排除すべきである。 台湾など、中国の核心的利益や主要な懸念に関する最近の日本の否定的な動きは、一部の政治勢力が中国を誹謗し、相互の信頼を著しく損ない、二国間関係の根幹を揺るがしている。 歴史の教訓を忘れるな。日本側は、これまでの約束を守り、両国間の基本的な信義を守り、日中関係を弱体化させようとする勢力を許さず、中国との国交正常化の50年で達成された貴重な成果を維持すべきである。林芳正(氏)は、日本と中国は広範な共通の利益を共有しており、協力の大きな可能性と幅広い展望を持っていると述べた。今年は日中外交正常化50周年を迎えるが、両国首脳の重要な合意に基づき、建設的かつ安定的な二国間関係の構築に努めなければならない。日本側は、中国と志を共にして、国交正常化の初心を忘れず、率直な意思疎通を維持し、誤解や誤った判断を軽減し、デリケートな問題には適切に対応して、政治的相互信頼の強化を図りたいと思っている。(中国外交部からの引用はここまで)中国の外交部が二つに分けて情報発信したことから読み取れるのは、ともかく一刻も早く「クワッド」に関する王毅の発言を公表したかったことと、これこそが中国側が今現在、最も言いたいことなのだろうということだ。日本の外務省の発表とは、何という相違だろう。とても、これが同じ会談の内容だとは思えないくらい異なる。一致しているのは日本外務省の「1」の部分だけくらいだろうか。中国側の発表を見ない限り、いま日中が、どのような関係にあるのかということは見えてこない。◆中国は数回にわたり北朝鮮に警告しているもう一つ、注目すべきことがある。実は中国は北朝鮮に数回にわたり警告を出していたのだ。5月11日付の東京新聞(※5)は、以下のような報道をしている。——韓国の情報機関・国家情報院トップの朴智元氏が韓国紙のインタビューに明かしたところによると、中国は最近、数回にわたり北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した。北朝鮮メディアは4日と7日のミサイル発射に言及しておらず、中国に一定の配慮をした可能性もある。中国の王岐山国家副主席は10日午後、尹氏(新大統領)と会い「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和を推進する」との立場を伝えた。それでも、専門家の間では中国の北朝鮮への影響力にも限界があるとの見方が強い。朴氏は、バイデン米大統領が訪韓する20日までに北朝鮮が核実験に踏み切るとの見方を示している。(東京新聞からの引用はここまで)この情報に関して、中国大陸のネットで検索したが、ヒットする情報はなかった。つまり、中国では、「中国が再三にわたり、北朝鮮にICBMの発射や核実験を中断するよう促した」ことに関しては、公表しないようにしているということになる。林外相は、この事実を把握した上で発言しているのか否か分からないが、少なくとも王毅外相はこの事実に関して、会談でも何も言わなかったものと推測される。5月18日のコラム<中露は軍事同盟国ではなく、ウクライナ戦争以降に関係後退していない>(※6)に書いたように、中朝は軍事同盟を結んでおり、北朝鮮の無謀な軍事行動は、中国にとっては「迷惑な行動」で、中国は中朝友好協力相互援助条約を破棄したいと何度か望みながら、結局のところ破棄した場合のディメリットもあり、破棄できずに今日まで至っている。それでも北朝鮮が自暴自棄にならないよう、習近平は北への経済的支援を絶やしてない。習近平が、ロシアの軍事行動だけでなく、北朝鮮の軍事行動に関しても、何とか抑えたいと相当に窮地に追い込まれていることを、「日本では報道されない中国情報」(および東京新聞の情報)の中に垣間見ることができる。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000872.html(※3)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688155.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220518_10688173.shtml(※5)https://www.tokyo-np.co.jp/article/176528(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220518-00296586
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2022/05/20 10:39
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習近平はウクライナ攻撃に賛同していない——岸田内閣の誤認識【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。岸田首相が電話会談でプーチン大統領に「ウクライナ侵攻反対」を唱えたことに関して、同席者がそれを以て「中国とは逆のメッセージ」であると位置付けたようだが、習近平はウクライナ侵攻には賛同していない。中露蜜月以上に中国とウクライナの蜜月に注目すべきだ。◆「岸田‐プーチン」会談同席者の発言岸田首相は17日夜、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。岸田首相の「力による一方的な現状変更ではなく、外交交渉で受け入れられる解決方法を追求すべきだ」という言葉に対して、 プーチンは「ウクライナを侵略するつもりはない。対話での解決を望む」 と応じたそうだ。その後、会談の同席者が以下のようなことを言ったと産経新聞(※2)が伝えている。—— 同席者は「ウクライナ侵攻に反対する立場をプーチン氏に伝えたアジアの首脳は日本だけだ。中国が逆のメッセージを出している中で意義があった」と振り返る。文脈から行けば、「ウクライナ侵攻反対」の「逆のメッセージ」とは、「ウクライナ侵攻賛同」ということになろう。「岸田‐プーチン」電話会談に同席したのだから、おそらくロシア問題に詳しい側近であると考えられる。そのような官邸関係者が、本気でこのようなことを考えているのだろうか?もしそうだとすれば、国際情勢を分かっていないにもほどがあると言わざるを得ない。◆中国とウクライナは仲良しで、ウクライナの最大貿易相手国は中国中国とウクライナは、旧ソ連が崩壊した時点から仲良しだ。これまで何度も書いてきたように、中国は旧ソ連が崩壊するのを待っていたかのように、崩壊と同時に一週間ほどで中央アジア五ヵ国を駆け巡り、1992年1月初旬には国交正常化を成し遂げていた。ウクライナは中央アジア五ヵ国には入ってないが、その勢いで中国は国交正常化を結ぶ国を増やしていき、ウクライナとも1992年1月4日には国交を樹立させている。以来、中国とウクライナは親密度を増し、国交樹立30周年の節目に当たる2022年1月4日には、習近平はウクライナのゼレンスキー大統領と祝電を交換している。2021年8月18日に中国商務部が発表した「中国はウクライナ最大の貿易国を保ち続けている」(※3)や中国国家統計局あるいは駐中国ウクライナ大使館などが発表したデータなどに基づけば、2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36.8%増で、輸入額は25.2%増と、いずれも20%を超える伸びを示し、輸出、輸入ともに過去最高となった。また2020年の両国間の貿易額は国交正常化後30年間で60倍以上に増えている。◆軍事的にも中国とウクライナの緊密度は高い中国とウクライナの緊密度は経済においてのみではない。あの中国「ご自慢」の空母第一号「遼寧」が、ウクライナから譲り受けたものであることは周知の事実だ。中国大陸のネットには「中国とウクライナの軍事協力を暴く:大量のウクライナの専門家が、ありったけの知識を授けるために中国にやってきた」(※4)という、2014年3月12日付の情報が残っている。このようなインサイダー情報を暴いてしまっていいのかと思うほど、ソ連崩壊後のウクライナの科学者たちの動きが生き生きと描かれている。また非常に新しい情報として、当時の事情を知っているであろう者(ハンドルネーム:孤影瀟湘)のブログとして、「200名のウクライナ専門家が中国に移住して、家賃免除で就業し、わが国の科学技術研究開発を支えている」(※5)という情報が今年2022年2月8日に公開されているのを発見した。それらによれば、こうだ。・旧ソ連時代のウクライナの軍事産業は実に輝かしいものだった。ウクライナの軍事産業は旧ソ連の軍事力の30%を占めていた。ウクライナの多くの企業や研究機関は、主に機械製造、冶金、燃料動力産業、ハイテク部門に集中し、特にロケット装置、宇宙機器、軍艦、航空機、ミサイルなどの軍事製品を生産することに特化していた。・ウクライナは世界第6位の戦略的弾道ミサイル生産国であり、世界最大のミサイルメーカーの1つもウクライナにあった。 旧ソ連の地対空ミサイルの62%、戦略ミサイルの42%を生産していた。ミサイル製造工場は、主として10個の核弾頭を搭載できるSS-18型戦略ミサイルを生産し、同時にSS-24型ミサイルや、その改良型であるSS-25鉄道車両搭載(発射台移動式)弾道ミサイルをも生産していた。・しかしソ連崩壊と同時にこれらの世界トップクラスの技術者を養っていく力はウクライナには無くなり、多くの最高レベルの技術者が中国に非常に恵まれた好条件で呼ばれ、中国で活躍することになったのである。・ウクライナはまた軍艦を建造する能力が非常に高かった。 ソ連の6つの造船所のうち3つはウクライナの黒海沿岸にあった。特にニコラエフ港にある黒海造船所は、ソ連で空母を建造できる唯一の造船所だった。ソ連崩壊後、ウクライナの専門家の多数は、中国に厚遇されて迎え入れられただけでなく、航空母艦も低価格で中国に渡し、改修に関しても全面的に協力したのである(引用以上)。以上、いくつか拾い上げてみたが、要はソ連崩壊後のウクライナにおいて、かつて世界トップクラスのミサイルや空母の生産に携わっていたハイレベル技術者の多くは、中国に高給で雇用されて大事にされ、中国のミサイル開発や空母建設に貢献したことになる。習近平政権になってからは「軍民融合」国家戦略も推進し始めたので、中国の軍事力はアメリカのペンタゴンが「ミサイルと造船に関してはアメリカを抜いている」と報告書に書くほどまでに至っている。そのウクライナをロシアが侵攻するかもしれないという状況の中で、中国が侵攻賛成に回るはずがないだろう。岸田内閣の中に「侵攻反対」表明を「中国とは逆のメッセージ」を表明したと位置付ける「同席者」がいるとすれば、中国とウクライナの関係を何も知らない「国際政治の素人」が日本政治の中心にいるということになろう。2月4日に習近平とプーチンが対面で会談したあと、長い共同声明と多くの協定を発表し、少なくとも「NATOの東方への拡大には反対する」と表明したのは、中露両国のギリギリの妥協点である。プーチンにとっては、それを言ってくれさえすれば、最低条件は満たされたということになろう。◆各国首脳がプーチンと会談したがるのは「手柄」を自分のものにしたいからそもそもプーチンが「ウクライナ侵攻はしない」と最初から何度も言っているのに、アメリカが「いや、ロシアは必ずウクライナ侵攻をする」と繰り返し主張し、現にバイデン大統領などは「16日の朝3時に必ず侵攻する」と予言者めいたことを言ったので、世界は「2月16日の朝3時」をヒヤヒヤしながら待った。しかしその日、その時間、ウクライナでは何もこらず、至って平穏な日常が流れたので、バイデンはやはり「オオカミ少年」であると嘲笑された。するとバイデンは18日になると、今度は「いや、数日内に必ず侵攻する」と第二の時限付き予言を発して頑張っている。数日以内に起きないと、「いや、長期的に見ないとならない」として、結局今年秋のアメリカ大統領中間選挙まで引き延ばし、選挙を有利に持って行くつもりだろう。各国首脳がプーチンと会談したがるのは「自分がプーチンと話し合ったからこそ、プーチンはウクライナ攻撃を思いとどまったのだ」と自画自賛したいからとしか思えない。2月14日のコラム<モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音>(※6)に書いたように、プーチンはフランスとドイツしか相手にしておらず、特にマクロン首相には最大の信頼を置き、マクロンにプーチンの思いを伝えて、西側諸国を説得してもらおうと思っているようだ。バイデンには、「ロシアがウクライナ侵攻をしてくれないと困る」諸般の事情があるようで、これに関しては別途考察したい。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/57b285907da24b66dfcd452f297ee074980c8bab(※3)http://ua.mofcom.gov.cn/article/jmxw/202108/20210803189370.shtml(※4)http://mil.news.sina.com.cn/2014-03-12/0859768342.html(※5)https://www.163.com/dy/article/GVMA339R0543L370.html(※6)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220214-00282069
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2022/02/21 10:51
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モスクワ便り—ウクライナに関するプーチンの本音【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平との面談後のプーチンに関して、クレムリンに近い「モスクワの友人」から非常に信頼のできる便りがあった。ウクライナへの武力侵攻の有無とともに、マクロンやバイデンに対するクレムリンの考え方をご紹介したい。◆習近平とプーチンの蜜月関係ロシアのプーチン大統領は、2月4日、習近平国家主席と会談して北京冬季五輪開幕式に出席するために北京を訪問した。まず北京にある釣魚台迎賓館でプーチンと面談した習近平(※1)は、2014年にプーチンの招きでソチ冬季五輪開会式に出席するためにロシアに行ったと指摘した上で、8年ぶりに北京で再会したことを、「プーチンが冬季五輪の契りを守ってくれた証し」として感謝した。プーチンは、中露関係は未だかつてなく緊密だと讃えた上で、二人は互いに両国の結びつきの強さと蜜月ぶりを確認し合った。面談が終わると、習近平はプーチンのためだけに用意した宴会にプーチン一行を招待し、春節の宴を共にすると同時に、多くの二国間プロジェクトに関して意見を交換した。夜、北京冬季五輪開会式出席が終わると、長文の共同声明「中華人民共和国とロシア連邦による新時代国際関係とグローバル持続的発展に関する共同声明」(※2)と協定締結(※3)が発表された。共同声明では中露両国間の「民主観、発展観、安全観、秩序観」に関する共通の立場が述べられている。特に注目すべきは安全観(安全保障問題に関する見解)に関連した件(くだり)で、ここには以下のような項目がある。・中露双方は互いの核心的利益、国家主権および領土保全をしっかりと支持し、両国の内政に対する外部干渉に反対する。・中露双方は両国の共通の周辺地域の安全と安定を損なう外的圧力に反対し、いかなる口実で主権国の内政に干渉する外力に対しても反対し、「ビロード革命」に反対する。・中露双方は、NATOの継続的な拡大に反対し、冷戦思想を放棄し(中略)、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する。・中露双方は、アジア太平洋地域における閉鎖的聯盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する「インド太平洋戦略」が当地域の平和と安定に対してもたらすマイナスの影響を警戒する。すなわち中露両国は安全保障面においても完全に一致して臨むことを誓い合ったのである。米国を名指ししたことも注目に値する。なおプーチンは、2月6日には南オセチア共和国のビビロフ大統領との電話会談が控えているだけでなくトルコのエルドアン大統領へのメッセージ送付もあり、2月7日にはフランスのマクロン大統領との対面会談もあるので、習近平は気を利かせて4日の内に宴会を開き、開会式参加後すぐにプーチンが帰国できるよう便宜を図ったのだった。◆クレムリンのインサイダー情報その後のプーチンとモスクワの情況に関して、モスクワにいる、クレムリンに近い友人を取材したところ、わざわざクレムリン関係者に接触してくれて、豊富な情報を提供してくれた。その中には、公けにしてはならないという情報も含まれていたので、それを除いたインサイダー情報を、可能な限りご紹介したい。1.北京から帰国したプーチンは大変気分が高揚した様子で、かなり満足のいく北京訪問だったようです。2.フランスのマクロンとの面談は、ロシア側にとっては一定の意味があり、5時間にもわたって会談が成されました。大半の時間はプーチンによる情報分析、ロシアの立場のインプットであったようです。英米とは何を話しても、議論にすらならない低レベルの会談にしかならないので、知性エリートのマクロンとは会話が成立したとのことです。3.ロシアは、最早、米国との間では、いわゆる裏ルートとか秘密のホットラインが長年存在せず、本音で議論ができない相手と見做(みな)しており、この状況は誰が大統領になっても変わらないとの冷徹な見方の上に立って国際政治を考えているので、マクロンがここで登場してくれたのはありがたい話。もともと仏露は友好的な関係にありますし。マクロンに各種情報や分析をインプットすることによって、米国や欧州主要国へロシアの本音のようなものを伝えてくれる役割が期待できるのではないかと考えています。4.英米とはこういう会話ができないし、裏ルートもない。一方、ドイツとフランスは長年培ったルートは残っており、ドイツに関してはノルド・ストリーム2を産業界は簡単に諦めることはないだろうから、まだ議論や交渉の余地はあるとロシアは考えています。5.バイデン政権はロシアにとっては、(トランプ政権に比べると)よりましな政権であり、彼(バイデン)のメンツを潰すことはロシアとしても考えてはいません。彼(バイデン)は、とにもかくにも、トランプ時代の末期のように対話もなしに制裁をしたり、協定を破棄したりということはなく、交渉にはならないことが多いが、少なくとも対話が可能であり、米国が何を考えているかは、(トランプ時代と比べると)より分かり易い。6.米国の本質は大統領ではなく議会の力がより強いということだと、クレムリンは理解しています。トランプは、ロシアとはうまくやりたいと思っていたし、ロシアも交渉できる相手として期待したのですが、民主党を中心とする議会反露グループの圧力で何もできませんでした。曲がりなりにもバイデンは議会多数派を制していて、かつ、身内から足を引っ張られることもない。7.米英がここまでウクライナにこだわるのは、ウクライナの現政権が米国の操り人形だからです。この、「完全に米国の操り人形として使える現政権」が倒れると、同国への影響力が大幅に低下するからに他ならないとクレムリンは見ています。米英には、「米英の軍事基地をウクライナに置く長期的な目標」があり、ここでコテンパンにロシア軍にやられてしまうと、あらゆる意味で今までの活動が水泡に帰しかねないので、米英が積極的に介入しようとしているわけです。特に米国にとっては、どこかで紛争があることは良いことで、そうでなかったら、軍産複合体の利益が損なわれますので、第二次世界大戦後を見てもわかるように、米国は必ず世界のどこかで戦争を仕掛けています。戦争がないと、米国は困るのです。8.なお、米国がウクライナに供与した武器、例えばジャベリンなどは、一時代前のもので、ロシアは戦車戦など考えていないので、ほとんど無意味でしょう。古い武器をウクライナに売却できて、米国は何も損していない。軍事産業が儲かれば、米国全体の経済が潤いますから。◆「モスクワの友人」の私見「モスクワの友人」は、このたびわざわざクレムリン関係者と接触して下さった結果引き出した情報以外に、日ごろから培ってきた知見により、以下のような情報を「個人の見解」として提供してくれた。(1)ロシアはウクライナ側からの攻撃がない限り、武力侵攻することはないと思っています。で、そのウクライナ側からの攻撃もゼレンスキーがそこまでバカではないと思うので、英米にそそのかされても攻撃はしないだろうと思います。クレムリン筋も戦争の可能性はほぼ否定していましたが、もちろん、ウクライナの対応如何でもあると言っていました。(2)ウクライナ危機を煽っているのは明らかに米国ですが、本来の調停者であった独仏がミンスク合意(*注)の履行をウクライナ政府に迫っておらず、ウクライナ政府がこの履行に全く真剣に取り組まなかったことが原因です。だというのに、調停者でもない米国が中心になって武器供与を進めている、ということ自体がおかしいのです。(3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。(4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。(5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。取材の結果は概ね以上だ。「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638888.shtml(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638953.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202202/t20220204_10638957.shtml
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2022/02/14 10:37