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習近平三期目を否定するための根拠のまちがい【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2022/08/01 16:27
配信元:FISCO
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。
習近平三期目を否定する根拠として頻出しているのが5月25日に李克強が主催した10万人参加の国務院オンライン会議で、これを反習近平会議とし、国防部長が参加したのは軍が習近平から離れているという論理だ。
あまりに奇想天外で中国政治のイロハを知らな過ぎ、このような論理が流布するのは日本人のために適切ではないと思われるので、そのまちがいを指摘し、正確な情報を提供したい。
◆5月25日の国務院会議における李克強・国務院総理の演説内容
5月25日、新華社電は<李克強はオンライン会議で全国の経済安定化に関する重要な演説を行った>(※2)ことを伝えた。国務院が招集した会議なので、国務院総理の李克強が演説し、司会は国務院副総理である韓正が務めた。
演説の主たる内容は以下のようなものである。
1.今年は、習近平同志を核心とする党中央委員会の強いリーダーシップの下、党中央委員会と国務院の配備をあらゆる面で実施し、困難な課題、特に予想を上回る要因の影響に力強く対処し、多くの実りある仕事をしてきた。
2.しかし、3月以降、特に4月以降、雇用、工業生産、電気貨物輸送などの指標は著しく低下しており、2020年のコロナ流行の時に受けた影響よりも、深刻な側面がある。コロナの大流行を予め防御コントロールするためには、財政的・物的保障が必要で、雇用・民生を保護しリスクを予防するためには、開発支援が必要だ。
3.コロナ流行の徹底した予防管理と経済・社会開発を効率的に調整し、信頼を固め、困難に立ち向かい、安定的な成長を図らなければならない。
4.国務院のすべての部門は、この安定的経済成長に対して責任があり、緊迫感を以て中央経済作業会議と政府活動報告で特定された政策措置を上半期までに基本的に完了させなければならない。
5.中央と地方の2つの積極性を発揮しなければならない。困難な問題を継続的に解決することは、あらゆるレベルの政府の行政能力のテストを行っているに等しい。コロナ流行の予防と管理をうまく行いながら、経済・社会開発の任務を完成しなければならない。大規模な貧困への逆戻りが起きないように各レベルの政府は留意せよ。
6.国務院は26日、12の省に監査チームを派遣し、政策の実施を貫徹しているか否かに関する特別監査を実施する。各地方各レベルの政府の 第2四半期における経済指標は、国家統計局が法律に基づいて真実の結果を公布し、国務院に報告すること。
7.習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として、党中央委員会と国務院の配備に従い、経済・社会の円滑かつ健全な発展を促進すること。
(李克強の演説概要はここまで)
◆この会議のどこに「反習近平色」があるのか?
日本の少なからぬメディアでは、5月25日に李克強が主催した国務院会議は、習近平のゼロコロナ政策を否定したものであり、したがって「反習近平」の狼煙(のろし)をあげたようなものだという解説が散見される。
そもそも、国務院総理が国務院会議を開く時には、その前に必ず中共中央政治局常務委員会(今はチャイナ・セブン)会議で協議し、そこで合意した上で、チャイナ・セブンの一人である国務院総理・李克強に「指示」を出す。
すなわち国務院会議の方向性も内容も規模も、すべて予め習近平をトップとしたチャイナ・セブンで協議決定しているのである。その決定に従って国務院総理である李克強が開催するのである。
こうして開催された国務院会議で李克強が行った演説の要旨を、見やすいように「1」~「7」に分けて略記したわけだが、このどの項目から「習近平のゼロコロナ政策を否定する」要素を見い出すことができるのか、読者も実際に考察してみていただきたい。
明らかに上記の「2」と「3」と「5」に、「コロナ感染の予防と管理」を厳しく守りながら、「同時に経済発展できる道」を模索しようという努力目標を確認し合っている。「5」では習近平のスローガンの一つである「共同富裕」を守るべきだということまでが書いてある。
また冒頭の「1」に「習近平同志を核心とする」という、極めつけの言葉があり、演説の最後も「7」にあるように「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として」という言葉を盛り込んで締めくくっている。
習近平礼賛で始まり、習近平礼賛で締めくくった演説で、「習近平のゼロコロナ政策を否定した反習近平集会」などという要素は微塵もない。
そもそも武漢でコロナ患者が最初に発症した時、すぐさま武漢封鎖に踏み切らせたのは李克強だ。習近平がミャンマーに外遊しており、コロナが発生したという緊急連絡を李克強から受けても、なおのんびりと雲南で春節巡りをしていたことは執拗なほど追いかけてコラムを書いてきた(たとえば、2020年2月10日のコラム<新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?>(※3)などを参照)。
このように、ゼロコロナ政策をスタートさせたのは李克強自身なのである。
それを今になって、あたかも習近平が言い始めたゼロコロナ政策であるかのように勘違いしてしまっているとしたら、習近平の目論見(もくろみ)は大成功を収めているという皮肉な結果を招いていることになる。
習近平の政策だという「勘違い」を生ませたのは、アメリカがコロナを制御できず、トランプ大統領が「チャイナ・ウィルス」と言い始めたため、その頃ほぼ完全にコロナから脱却していた中国に関して、習近平が「社会主義制度の優位性」を主張したことから始まっているだけだ。騙されてはいけない。
◆出席した幹部:国防部長・魏鳳和は国務委員なので必ず出席
5月25日に李克強が招集したのは「国務院会議」なので、当然のことながら「国務院副総理」や「国務委員」が出席していなければならない。さらに国務院管轄下の中国政府の中央行政省庁の長もまた、必ず出席を要求される。
さて、国務院副総理には誰がいるだろうか。
韓正、孫春蘭、故春華、劉鶴だ。この4人は全員出席していた。
では国務委員には誰がいるのか。
魏鳳和、王勇、肖捷、趙克志そして王毅だ。
この日、王毅はソロモン諸島に出張していた(※4)ので、王毅だけは欠席しているが、その他の国務委員は全員出席している。その中に国防部長の魏鳳和がいた。
国防部長は、外交部長や教育部長など、すべての中国人民政府の中央行政省庁の長(部長=大臣)なので、その意味でも必ず出席しなければならない。
ところが、中国の政治構造のイロハを知らない一部の「中国研究者」は、なんと「経済に関係ない国防部長の魏鳳和が出席していたということは、軍までが反習近平に回った何よりの証拠だ」と結論付けている。
だから、「習近平は軍を掌握していない」ので、「習近平の三期目続投はない」というのが、そういった「中国研究者」たちが導く結論だ。
いやはや、これを見た時は、さすがに度肝を抜かれた。
ここまで中国政治の基本を知らないで、習近平三期目の可能性を論議するのは、いくら何でも適切ではないだろう。日本の一般の読者の方々に間違った情報を叩き込み、まちがった憶測を呼ぶと、政治にも経済にも良い影響は与えない。
三期目の可能性がどうなのかを論じるのは、もちろん大変結構なことだ。
誰にでも、それを考察する権利はある。
ただ、考察する際に、その根拠となる事実が間違っていたら、推論は成立しない。
◆10万人規模の参加者など何十年も前から
オンライン会議の参加者が10万人と大規模なので、これも反習近平派が習近平に圧力をかけるための李克強の計算だというようなことまでが、実(まこと)しやかに書かれているのを見ると、これも同様に「度肝を抜かれるほど」驚いてしまうのである。
なぜなら、何十万人規模の会議というのは、中国建国以来続いているもので、昔はラジオ一台を壇上の机の上に乗せて、省・直轄市・自治区レベルから村レベルに至るまで、全関係者が講堂や大きな会議室にキチンと着席して聞いたものである。
全中国人民に対して行う毛沢東のスピーチなどもあり、小学校の講堂に集められたり、街角に備えてある巨大なスピーカーから毛沢東の声が流れて、誰もが「ありがたく」、そして「尊崇の念」を以て聞いたものだ。
中国共産党の思想統一のためのピラミッドは、尋常ではないことを知るべきだろう。今ではテレビもあればパソコンもあり、どんなことでもできる。
しかし会議に参加して視聴していいのは限られている場合が多いから、やはり一ヵ所に集まって整列して視聴するのである。
たとえば、このような県政府レベルの通達(※5)もあり、服装までが決められている。なぜならテレビが普及してからは、視聴している村レベルの委員たちの場面を撮影して全国放送する場合があり、また服装まで統一させれば紀律性と遠隔においても権威性を高める効果もあるからだ。
習近平三期目がどうなるかは興味深いが、推測の基本となる情報は信頼性のあるものを根拠にしなければ意味がない。
まちがった根拠の多くはアメリカに移り住んだ中国大陸の者が、アメリカで生きていく手段としてアクセス数を増やすため、「注目を浴びる」という目的だけで、ネットユーザーが喜びそうなデタラメな情報を流すことが原因であることが多い。
日本の中国研究者は、そういった情報にすぐに飛びつく。
その典型的な例に関しては、追ってまた、機会を見てご披露したい。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2022-05/25/content_5692298.htm
(※3)https://grici.or.jp/885
(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220526_10692929.shtml
(※5)http://jxx.nc.gov.cn/jxxrmzf/dztzgg/202205/cac033a068a548e3b86dc00a36072ae0.shtml
<FA>
習近平三期目を否定する根拠として頻出しているのが5月25日に李克強が主催した10万人参加の国務院オンライン会議で、これを反習近平会議とし、国防部長が参加したのは軍が習近平から離れているという論理だ。
あまりに奇想天外で中国政治のイロハを知らな過ぎ、このような論理が流布するのは日本人のために適切ではないと思われるので、そのまちがいを指摘し、正確な情報を提供したい。
◆5月25日の国務院会議における李克強・国務院総理の演説内容
5月25日、新華社電は<李克強はオンライン会議で全国の経済安定化に関する重要な演説を行った>(※2)ことを伝えた。国務院が招集した会議なので、国務院総理の李克強が演説し、司会は国務院副総理である韓正が務めた。
演説の主たる内容は以下のようなものである。
1.今年は、習近平同志を核心とする党中央委員会の強いリーダーシップの下、党中央委員会と国務院の配備をあらゆる面で実施し、困難な課題、特に予想を上回る要因の影響に力強く対処し、多くの実りある仕事をしてきた。
2.しかし、3月以降、特に4月以降、雇用、工業生産、電気貨物輸送などの指標は著しく低下しており、2020年のコロナ流行の時に受けた影響よりも、深刻な側面がある。コロナの大流行を予め防御コントロールするためには、財政的・物的保障が必要で、雇用・民生を保護しリスクを予防するためには、開発支援が必要だ。
3.コロナ流行の徹底した予防管理と経済・社会開発を効率的に調整し、信頼を固め、困難に立ち向かい、安定的な成長を図らなければならない。
4.国務院のすべての部門は、この安定的経済成長に対して責任があり、緊迫感を以て中央経済作業会議と政府活動報告で特定された政策措置を上半期までに基本的に完了させなければならない。
5.中央と地方の2つの積極性を発揮しなければならない。困難な問題を継続的に解決することは、あらゆるレベルの政府の行政能力のテストを行っているに等しい。コロナ流行の予防と管理をうまく行いながら、経済・社会開発の任務を完成しなければならない。大規模な貧困への逆戻りが起きないように各レベルの政府は留意せよ。
6.国務院は26日、12の省に監査チームを派遣し、政策の実施を貫徹しているか否かに関する特別監査を実施する。各地方各レベルの政府の 第2四半期における経済指標は、国家統計局が法律に基づいて真実の結果を公布し、国務院に報告すること。
7.習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として、党中央委員会と国務院の配備に従い、経済・社会の円滑かつ健全な発展を促進すること。
(李克強の演説概要はここまで)
◆この会議のどこに「反習近平色」があるのか?
日本の少なからぬメディアでは、5月25日に李克強が主催した国務院会議は、習近平のゼロコロナ政策を否定したものであり、したがって「反習近平」の狼煙(のろし)をあげたようなものだという解説が散見される。
そもそも、国務院総理が国務院会議を開く時には、その前に必ず中共中央政治局常務委員会(今はチャイナ・セブン)会議で協議し、そこで合意した上で、チャイナ・セブンの一人である国務院総理・李克強に「指示」を出す。
すなわち国務院会議の方向性も内容も規模も、すべて予め習近平をトップとしたチャイナ・セブンで協議決定しているのである。その決定に従って国務院総理である李克強が開催するのである。
こうして開催された国務院会議で李克強が行った演説の要旨を、見やすいように「1」~「7」に分けて略記したわけだが、このどの項目から「習近平のゼロコロナ政策を否定する」要素を見い出すことができるのか、読者も実際に考察してみていただきたい。
明らかに上記の「2」と「3」と「5」に、「コロナ感染の予防と管理」を厳しく守りながら、「同時に経済発展できる道」を模索しようという努力目標を確認し合っている。「5」では習近平のスローガンの一つである「共同富裕」を守るべきだということまでが書いてある。
また冒頭の「1」に「習近平同志を核心とする」という、極めつけの言葉があり、演説の最後も「7」にあるように「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導の軸として」という言葉を盛り込んで締めくくっている。
習近平礼賛で始まり、習近平礼賛で締めくくった演説で、「習近平のゼロコロナ政策を否定した反習近平集会」などという要素は微塵もない。
そもそも武漢でコロナ患者が最初に発症した時、すぐさま武漢封鎖に踏み切らせたのは李克強だ。習近平がミャンマーに外遊しており、コロナが発生したという緊急連絡を李克強から受けても、なおのんびりと雲南で春節巡りをしていたことは執拗なほど追いかけてコラムを書いてきた(たとえば、2020年2月10日のコラム<新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?>(※3)などを参照)。
このように、ゼロコロナ政策をスタートさせたのは李克強自身なのである。
それを今になって、あたかも習近平が言い始めたゼロコロナ政策であるかのように勘違いしてしまっているとしたら、習近平の目論見(もくろみ)は大成功を収めているという皮肉な結果を招いていることになる。
習近平の政策だという「勘違い」を生ませたのは、アメリカがコロナを制御できず、トランプ大統領が「チャイナ・ウィルス」と言い始めたため、その頃ほぼ完全にコロナから脱却していた中国に関して、習近平が「社会主義制度の優位性」を主張したことから始まっているだけだ。騙されてはいけない。
◆出席した幹部:国防部長・魏鳳和は国務委員なので必ず出席
5月25日に李克強が招集したのは「国務院会議」なので、当然のことながら「国務院副総理」や「国務委員」が出席していなければならない。さらに国務院管轄下の中国政府の中央行政省庁の長もまた、必ず出席を要求される。
さて、国務院副総理には誰がいるだろうか。
韓正、孫春蘭、故春華、劉鶴だ。この4人は全員出席していた。
では国務委員には誰がいるのか。
魏鳳和、王勇、肖捷、趙克志そして王毅だ。
この日、王毅はソロモン諸島に出張していた(※4)ので、王毅だけは欠席しているが、その他の国務委員は全員出席している。その中に国防部長の魏鳳和がいた。
国防部長は、外交部長や教育部長など、すべての中国人民政府の中央行政省庁の長(部長=大臣)なので、その意味でも必ず出席しなければならない。
ところが、中国の政治構造のイロハを知らない一部の「中国研究者」は、なんと「経済に関係ない国防部長の魏鳳和が出席していたということは、軍までが反習近平に回った何よりの証拠だ」と結論付けている。
だから、「習近平は軍を掌握していない」ので、「習近平の三期目続投はない」というのが、そういった「中国研究者」たちが導く結論だ。
いやはや、これを見た時は、さすがに度肝を抜かれた。
ここまで中国政治の基本を知らないで、習近平三期目の可能性を論議するのは、いくら何でも適切ではないだろう。日本の一般の読者の方々に間違った情報を叩き込み、まちがった憶測を呼ぶと、政治にも経済にも良い影響は与えない。
三期目の可能性がどうなのかを論じるのは、もちろん大変結構なことだ。
誰にでも、それを考察する権利はある。
ただ、考察する際に、その根拠となる事実が間違っていたら、推論は成立しない。
◆10万人規模の参加者など何十年も前から
オンライン会議の参加者が10万人と大規模なので、これも反習近平派が習近平に圧力をかけるための李克強の計算だというようなことまでが、実(まこと)しやかに書かれているのを見ると、これも同様に「度肝を抜かれるほど」驚いてしまうのである。
なぜなら、何十万人規模の会議というのは、中国建国以来続いているもので、昔はラジオ一台を壇上の机の上に乗せて、省・直轄市・自治区レベルから村レベルに至るまで、全関係者が講堂や大きな会議室にキチンと着席して聞いたものである。
全中国人民に対して行う毛沢東のスピーチなどもあり、小学校の講堂に集められたり、街角に備えてある巨大なスピーカーから毛沢東の声が流れて、誰もが「ありがたく」、そして「尊崇の念」を以て聞いたものだ。
中国共産党の思想統一のためのピラミッドは、尋常ではないことを知るべきだろう。今ではテレビもあればパソコンもあり、どんなことでもできる。
しかし会議に参加して視聴していいのは限られている場合が多いから、やはり一ヵ所に集まって整列して視聴するのである。
たとえば、このような県政府レベルの通達(※5)もあり、服装までが決められている。なぜならテレビが普及してからは、視聴している村レベルの委員たちの場面を撮影して全国放送する場合があり、また服装まで統一させれば紀律性と遠隔においても権威性を高める効果もあるからだ。
習近平三期目がどうなるかは興味深いが、推測の基本となる情報は信頼性のあるものを根拠にしなければ意味がない。
まちがった根拠の多くはアメリカに移り住んだ中国大陸の者が、アメリカで生きていく手段としてアクセス数を増やすため、「注目を浴びる」という目的だけで、ネットユーザーが喜びそうなデタラメな情報を流すことが原因であることが多い。
日本の中国研究者は、そういった情報にすぐに飛びつく。
その典型的な例に関しては、追ってまた、機会を見てご披露したい。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.gov.cn/xinwen/2022-05/25/content_5692298.htm
(※3)https://grici.or.jp/885
(※4)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202205/t20220526_10692929.shtml
(※5)http://jxx.nc.gov.cn/jxxrmzf/dztzgg/202205/cac033a068a548e3b86dc00a36072ae0.shtml
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全人代会期中の「経済・外交・民生」三大主題記者会見はボトムアップ【中国問題グローバル研究所】
*10:27JST 全人代会期中の「経済・外交・民生」三大主題記者会見はボトムアップ【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。11日に閉幕した全人代(全国人民代表大会)を、日本のメディアはこぞって「習近平への権力一極集中が強化された大会だった」と結論付け「より不透明になった」と批判しているが、中国の政治構造の真相を正確に知っていれば、そういう解釈は出てこないはずだ。たしかに全人代閉幕後の国務院総理記者会見は無くなったが、しかし会期中に開催された前代未聞の規模と数にのぼる国務院各中央行政省庁側の内外記者会見は、政府活動報告審議に反映されるという意味でボトムアップだったと言える。中央行政省庁は、「政府活動報告における2024年計画を、実際にいかにして実行するかを明確にして責任を負う側」と位置付けることができ、むしろ政府方針がよりオープンになったと見るべきだ。その証拠に国務院組織法の改正には、「政務の公開を堅持する」という言葉が新たに加わっている。その一方で、同じ改正国務院組織法で党の指導を明確にするなど、憲法に書かれていた党と政府の関係が表面化しているが、これは中国大陸内にもNED(全米民主主義基金)が入り込み、中国政府転覆を狙っているため、第二のゴルバチョフにならないための措置であるとみなすことができよう。◆政府活動報告の冒頭で「外部圧力」強調3月5日の全人代初日で李強国務院総理は政府活動報告を行った(※2)が、開口一番「異常なほどの複雑な国際環境」のもと、「全国の各民族人民は外部圧力に耐え」という言葉を発したのを聞いた時は、ハッとした。これまでの政府活動報告で「外部圧力」というストレートな言葉までが出てきたのは初めてだからだ。事実、2023年の活動報告の冒頭(※3)では「荒れ狂う国際環境」とあるだけで、2022年の政府活動報告の冒頭(※4)では、「複雑かつ厳しい国内外情勢」とあり、2021年の政府活動報告(※5)では、「コロナ」が強調されているだけだ。その意味で今般李強が「複雑な国際環境」に重ねた「外部圧力」という言葉は、中国が如何にアメリカを中心とした西側諸国からの圧力に苦しんでいるかが窺(うかが)われる。日本が半導体産業で世界一になった時、アメリカは「安全保障問題に係わる」として日本の半導体産業を叩き潰した。自動車産業も同じだ。どの国であれ、アメリカを凌駕しそうな国や産業分野が現れると、アメリカは叩き潰さずにはおられない。いま最も集中的に潰さなければならないのは中国なので、中国が少しでもアメリカを抜いて発展しそうな産業分野があると、アメリカは中国に制裁をかけ「安全保障上の問題がある」という理由で叩き潰している。それを李強は「外部圧力」という言葉で表現したのだ。逆に言えば、ある意味、2月27日のコラム<NHKがCIA秘密工作番組報道 「第二のCIA」NEDにも焦点を!>(※6)で書いたNHKの番組が示したように、CIA同様、まず特定の国の印象を極点に悪くすることにNEDは成功していることになる。いま現在、その「特定の国」は中国で、中国はNEDが潜伏しているので反スパイ法を強化し、それによって海外企業が離れていき、アメリアによる対中制裁と相まって、中国経済を苦しくしているという現実を浮き彫りにしているとも言える。◆前代未聞の「経済・外交・民生」三大主題記者会見【経済主題記者会見】まず3月6日に開催された「経済主題記者会見」(※7)を見てみよう。圧巻なのは会見に出席したのが「国家発展改革委員会の鄭柵潔主任、財政部の藍佛安部長、商務部の王文濤部長、中国人民銀行の潘功勝総裁、中国証券監督管理委員会の呉清主席」という面々だということだ。このような経済・商務・財務・金融・証券などに関する中央行政のトップが勢ぞろいした記者会見など、中華人民共和国建国以来、見たことも聞いたこともない。長時間にわたる質疑応答が繰り返され、主として以下のような回答があった。●国家発展改革委員会・今年の経済成長率5%程度という目標は、「第14次5カ年計画」の年間要件に沿っており、基本的に経済成長の潜在力と一致している。・今年は大規模な設備の更新と消費財の下取りを促進する政策を実行する。設備更新は年間5兆元以上の規模を持つ巨大市場になる。・超長期特別国債の発行は、現在と長期の双方にとって有益である。・民間企業が主要な国家工程プロジェクトと短期プロジェクトの建設に参加することを奨励し、最大限支援する。●中国人民銀行・2月までに、中国の国境を越えた決済の30%近くが人民元で決済された。・物価の安定を維持し、物価の緩やかな回復を促進することは、金融政策の重要な検討事項である。●財務部・今年は構造的な税制・手数料引き下げ政策を検討し導入する。・今年の教育・社会保障・雇用予算は4兆元を超える。●商務部今年は自動車や家電製品などの消費財の下取りを促進し、サービス消費を後押しする。●中国証券監督管理委員会・投資家、特に中小規模の投資家の正当な権利と利益を保護する。・制度の抜け穴を更にふさぎ、技術的離婚などの迂回や違法な持ち株の売却を厳しく取り締まる。【外交主題記者会見】3月7日には、「外交主題記者会見」(※8)が行われたが、ここに参加したのは中共中央政治局委員で外交部長でもある王毅一人だった。●中露関係中露は、旧冷戦時代とは全く異なる大国関係の新しい規範を生み出している。●中米関係・もし「中国」という二文字を聞いただけで緊張し焦るなら、アメリカの大国としての自信はどこにあるのか?・もしアメリカがいつまでも言行不一致を続けるなら、大国としての信用はどこにあるのか?・もしアメリカが自国の繁栄だけを維持して、他国の正当な発展を許さないというのなら、国際正義(公理)はどこにあるのか?・もしアメリカがバリューチェーンのハイエンドを独占し、中国を何としてもローエンドに留まらせていきたいと固執するなら、公正な競争はどこにあるのか?●パレスチナ・イスラエル紛争国際社会は、即時停戦と敵対行為の停止を最優先事項としなければならない。●中国・EUの関係中国とEUが互恵のために協力する限り、ブロック対立はあり得ない。●台湾問題「一つの中国」の原則が強ければ強いほど、台湾海峡の平和はより安全になる。台湾地区の選挙は中国の地方選挙に過ぎず、選挙結果は台湾が中国の一部であるという基本的な事実を変えることはできないし、台湾が祖国に戻るという歴史的必然性を変えることもできない。選挙後、180以上の国と国際機関が「一つの中国」原則の堅持を再確認した。「台湾独立」を容認し支持する人々がいまだにいるとすれば、それは中国の主権に対する挑戦である。●ウクライナ危機中国はウクライナ危機を終わらせるための和平交渉への道を開いた。【民生主題記者会見】3月9日、「民生主題記者会見」(※9)が開催された。出席したのは「教育部の懐進鵬部長、人的資源社会保障部の王暁萍部長、住宅城郷(都市農村)建設部の長倪虹部長、国家疾病予防制御局の王賀勝局長」だ。これも錚々たるメンバーで、若者の就職難や不動産バブル崩壊などが問題視されている中、その部局のトップが出てきて質疑応答に当たるということ自体、相当に覚悟がないと出来ないことだ。このテーマの質疑応答を詳細に書きたいが、あまりに問題が深いだけに、略記するのに困難を来たすので、非常に残念ながら省略し、いつかチャンスがあったら、この深い問題点における質疑応答を考察したいと思う。以上が三大主題記者会見の紹介だが、全人代閉幕式の11日に決議された政府活動報告書には、この三大主題記者会見だけでなく、3月6日のコラム<全人代総理記者会見をなくしたのは習近平独裁強化のためか?>(※10)に書いた「部長通道」なども含めた、全人代におけるあらゆる審議の結果が反映されている。全人代閉幕後の総理記者会見ではもう遅く、その前に政府活動報告書の審議修正が終わっているので、その意味で、国政に関して閉鎖的になったのではなく、逆にオープンになったとみなすことができる。◆国務院組織法改正案から見えるものその証拠は冒頭にも書いたように、改正される前の1982年の国務院組織法(※11)には「政務公開」という文言はないが、今般の全人代で改正された国務院組織法(※12)には、「堅持政務公開(政務を公開することを堅持する)」という文言が第十七条に加筆された。それが前述した三大主題記者会見であり部長通道だ。もっとも、中華人民共和国憲法(※13)の序文と第一条にある「全国の各民族人民は中国共産党の指導の下」という思想が、国務院組織法にも反映されるようになったという点では、もともと中華人民共和国建国以来の思想が徹底されたと言うべきなのかもしれない。1980年前後に、「党政分離」の話が出たことがあったが、なんと、その議論には習近平の父・習仲勲が介在していたという皮肉な現実がある。なお、習近平政権になったあとの2017年には新華網に<党政分離と党政分業は違う>(※14)という論考が載っており、習近平政権は早くから「党政分離」は考えていない。これは冒頭に書いたように、アメリカが旧ソ連を崩壊させたように中国を崩壊させようと企んでいることへの自己防衛だとみなしていいだろう。中国共産党の統治を強くして崩壊の余地を少なくさせようという目論見だろうが、それが吉と出るか凶と出るかは、アメリカの大統領選や非米側諸国の動きなどの影響もあり、静かに考察していくしかない。この論考はYahoo(※15)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://tv.cctv.com/2024/03/05/VIDEIh7n0CnlO3ysYhj8SY3w240305.shtml(※3)https://www.gov.cn/premier/2023-03/14/content_5746704.htm(※4)https://www.gov.cn/premier/2022-03/12/content_5678750.htm(※5)https://www.gov.cn/premier/2021-03/12/content_5592671.htm(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3de7c06ef21ccd8115f04681175360add9784205(※7)https://tv.cctv.com/2024/03/06/VIDEQhMQkqom53dVdCPmTnMn240306.shtml(※8)https://tv.cctv.com/2024/03/07/VIDE19aja2r9WthsBpO3MQBP240307.shtml(※9)https://tv.cctv.com/2024/03/09/VIDE8qufe0j1lBYkR9fboIJY240309.shtml(※10)https://grici.or.jp/5107(※11)https://www.gov.cn/gjjg/2005-06/10/content_5548.htm(※12)https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202403/content_6938923.htm(※13)https://www.gov.cn/guoqing/2018-03/22/content_5276318.htm(※14)http://www.xinhuanet.com/politics/2017-04/11/c_1120784896.htm(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1ca6c38d649aa3d9c8e23f92c6fe03f0e4fb19b6
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2024/03/13 10:27
GRICI
中国の失業率は5.2% ようやく正式な統計が【中国問題グローバル研究所】
*10:25JST 中国の失業率は5.2% ようやく正式な統計が【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。3月5日に開幕する全人代のためだろう。2月29日、中国の国家統計局は<中華人民共和国2023年国民経済と社会発展公報>(※2)(以下、公報)を発布した。それによれば、2023年の年間失業率平均は5.2%だったという。昨年7月に発表された若者失業率算出の時に国家統計局が現役の在学生まで対象に入れたために出てきた20%というデータが世界を驚かせ、その後、国家統計局が計算方法改善のためデータ発表を暫時やめてしまったという事実がある。加えて、中国大陸の一人の大学教員が、専業主婦など就職意欲を持っていない者まで対象に入れて計算した失業率46.5%をネットに上げたため、その情報に一部の日本人が飛びつき「中国失業率46.5%説」が飛び交った。そういった経緯があるので一部の日本人は今般の公報のデータに疑いを持つかもしれない。本稿では、失業率を計算するのが困難な社会主義国家・中国の特殊な経緯と現状を考察したい。◆公報が発表した雇用者数や失業率などに関するデータまず、公報が発表した雇用者数や失業率などに関する現在の詳細なデータを見てみよう。公報には以下のように書いてある。●2023年末時点における国内の雇用者数は7億4,041万人で、このうち都市部での雇用者数は4億7,032万人、全国雇用人口の63.5%を占める。2023年、年間を通して都市部での新規雇用者数は1,244万人で、前年より38万人増加した。●全国都市部調査による年間失業率平均値は5.2%で、2023年末時点での全国都市部調査による失業率は5.1%だった。●全国の農民工の総数は2億9,753万人で、前年比0.6%増だった。その内、外出農民工(沿海部大都市に行く農民工)は1億7,658万人で2.7%増加し、本地農民工(もといた農村付近の小都市で働く地元農民工)は1億2,095万人で2.2%減少した。これが公報に書いてある失業率の基本情報だ(図表を別として)。都市部で働いている農民工は「都市部雇用者数」の範疇に入れているが、もし沿海部の大都市から内陸にある生まれ故郷近くの「中小都市」に戻って再就職先を見つけた場合は、大小の違いはあれ「都市」なので、「都市部調査失業率」の中で「就職者扱い」になるので変化しない。もし沿海部の都市から農村に戻って農業に従事した場合は、「都市部での雇用の減少」に反映される。農村部では畑仕事(土地経営)が多いため、失業率は都市部に比べて非常に低いので、「農村部調査失業率」というカテゴリーが統計上ない。◆現在の「調査制」による失業率計算法は2018年4月17日から中国は社会主義国家だ。改革開放後も教育機関における「国家培養」と「分配制度」は続き、1992年にようやく制度上撤廃して、1994年辺りから社会主義制度における形式から実際上抜け出し始めた。「国家培養」というのは、教育機関での勉学は完全に無料で、国家が人材を育てるという制度を指す。衣食住も国家が保証する。大学・大学院などは基本的に全寮制。「国家培養」は幼稚園から大学院博士課程まで一貫して徹底されていた。その代わりに卒業後は国家が定めた職場で働くことが義務付けられ、個人が職場を選ぶという権利はなかった。これを「分配制度」と称する。国家が就職先を「分配する」という意味だ。したがって中国にはそのころまでは「失業」という概念がなく、市場経済が走り出し国営企業が立ち行かなくなって株式会社化して国有企業になり、無駄な従業員を「一時退職」させたころに、初めて「待業」という概念を生み出した。「待業」というのは「失業」ではなく、「家で待機して次の業務復帰への指示を待ちなさい」という意味で、「待業手当」も支給された。当時の貨幣価値で月200元ほど貰っていたので、悪くない生活は保たれたと思う。従業員にはもともと宿舎が無料であてがわれていたので、住居に関する問題に大きな変化が出て来るまでは、そこそこに待業生活を送ることができていた。実はそのころ筆者は1950年代の天津での幼馴染と再会しており、庶民の生活をリアルで体験しているので実感がある。また中国の中央行政の一つである国家教育部と提携して『中国大学総覧』の編集にも当たっていたので、日本で言う(中国でもその後定義された概念である)「公務員」の劇的な変化にうろたえる日常も、目の前で見てきた。社会は混乱し、国家統計局が全国調査をするのではなく、個人や職場などの申し出によって失業者数や本来の従業員数を把握する「登録制」によって国家は「失業率」を計算していた。しかし、それでは正確なデータが得られず、中国政府の通信社「新華社」や中国共産党機関紙「人民日報」などの数多くの情報で裏打ちされた実態から言うならば、国家統計局が統一的に全国調査するという「調査制」による失業率データが公表されるようになったのは「2018年4月17日」(※3)であるとのこと。この日までは「待業登録」を「失業登録」に改名したり、農民工のような流動人口の就業者をどう計算するかなど、紆余曲折の経緯を経てきた。◆若者失業率計算に大学などの在校生を調査対象にしていた国家統計局そのような経緯がある中、2023年7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>(※4)に書いたように若年層(16~24歳)の失業率が20%に至るという「怪奇」に近い現象が起きた。その原因は調査対象者に大学や専科学校あるいは大学院などの「在校生」を含めるという不適切なことをしていたからである。おまけに7月に出した統計は、まだ卒業してない5月時点での現役在学生を含んでおり、その人たちは「学生」で、「失業者」ではないのに、「(16歳以上の)労働可能な人口」の中に入れていたため、失業率が膨れ上がった。背景には当該コラムの図表1に示した、信じられないほどの大学進学者の急増がある。そこで、国際的に見て、失業者を計算する時には在校生を入れてないことを考慮して国家統計局は計算方法を見直すために暫時データ発表をやめた(※5)。これを以て日本では、「中国は中国経済の惨状を隠すために統計データを公開するのをやめた」との情報が飛び交い、「中国の統計を信じるな」と少なからぬ「中国問題専門家」やメディアがはしゃいだものだ。実際は2022年、中国における16-24歳の都市人口9600万人強のうち、在校生は6500万人強で、この在校生のうち「現在職場で働いていない者、調査時期の3ヵ月前以内に就職先を探そうとしたことがある者、もし就職先を紹介したら2週間以内に(大学を捨てて=退学して)就職する者」を「失業者」扱いするという計算が成されていたのである。そもそもまだ卒業していないのだから職場で働いているはずがないが、それを失業者扱いすること自体、ナンセンスだ。◆国際基準に合わせて改善した国家統計局の失業率計算法とデータそのようなことから、2024年1月17日に再開した国家統計局の失業率計算(※6)では、「在校生は含まない」ことになった。その結果、国家統計局が今年1月17日に発表した年間失業率(※7)では、●16-24歳:14.9%●25-29歳: 6.1%●30-59歳: 3.9%となっている。このようにして計算方法を国際水準に合わせた結果の2023年の年間失業率平均が冒頭にある「5.2%」というデータである。若年層に関しては在校生を除外しても14.9%なので、相変わらず高いと言わねばなるまい。◆専業主婦まで失業者に入れたデータに飛びつく一部の日本人冒頭に書いた「16~24歳の失業率が46.5%」という情報に関しては、昨年7月17日北京大学の張丹丹准教授が個人の見解として発表した文章(※8)によるもので、彼女の場合は「在校生」だけでなく、「躺平(寝そべり族)」や「啃老族(親が富裕なので働くつもりがない「脛(すね)かじり族」)」、さらには「外で働く意思を持っていない専業主婦」まで「失業者」の中に入れているので、論外だと言わねばなるまい。目立とうとして一種の「遊び」を試みたのか、動機は分からないが、戯言(ざれごと)に近い「私見」に飛びついて「これこそが中国の真相」とはしゃぐ「一部の日本人」の判断力の無さには唖然とするばかりだ。さて、3月5日に、本稿で述べた国家統計局が出した新しいデータも踏まえながら発表されるであろう李強国務院総理の政府活動報告がどのようなものになるのか、待ちたい。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: ロイター/アフロ
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2024/03/04 10:25
GRICI
ウクライナ戦争3年目突入 中国は現状をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
*10:34JST ウクライナ戦争3年目突入 中国は現状をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。本日2月24日でロシアによるウクライナ侵攻は3年目を迎える。中国では決して「ウクライナ戦争」とは呼ばず、あくまでも「ウクライナ危機」とか「露ウ衝突」といった言葉を使う。それだけでもプーチンへの配慮が窺(うかが)われるが、2年経った今、中国はウクライナ危機をどう見ているのか、中国側の第一次情報をご紹介したい。◆環球時報:西側諸国はウクライナ危機を「戦争ビジネス」だとみなしている中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」(の「環球資訊広播」)は2月22日、<露ウ衝突2周年:西側は結局「危機をチャンスに変えた」>(※2)というタイトルでウクライナ危機を総括している。長文なので概略を個条書き的にピックアップしてご紹介したい。●EU(欧州連合)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は最近、EUは近い将来、ロシアの凍結資産から得た収益をウクライナ支援に使用することを承認する計画であると述べた。 同氏は、凍結されたロシア資産収入が「ロシアのものではない」ことを保証するためにEUが関連法的手続きを開始したと説明した。●これは尋常な窃盗ではない。イタリア銀行のパネッタ総裁は、ユーロ圏は自国通貨を世界的な紛争の武器として使用すべきではないと警告した。なぜなら、それは最終的にユーロ自体を弱体化させることになるからだという。●西側諸国にとっては「利益」が最優先なのだ。実際、「ウクライナの戦後復興」は、西側諸国が長い間注目してきた魅力的な「ケーキ」だった。最新の例は、日本が開催したばかりの「日本・ウクライナ経済復興推進会議」だ。●米国の投資大手ブラックロックは昨年、ウクライナに手数料を支払うことなく、ウクライナのエネルギーインフラ、送電網、農業投資、およびすべての国営企業を正式に買収することでウクライナと合意に達した。潜入調査記者が公開したビデオで、ブラックロックの従業員が「ウクライナ紛争はビジネスにとって、すごく良いことだ」と真実を語っている。●戦争自体もビジネスなのだ。西側の政府と企業が共謀してウクライナ危機を引き起こし、「他人の危険」を「自分たちのチャンス」に変えていることは、多国籍の巨大企業が巨額の戦争利益を得ようとしていることからも明らかだ。 ロシアのエネルギーが西側諸国によって禁輸される中、エクソンモービル、シェブロン、シェル、トタルエナジーズなど西側のエネルギー大手はいずれも莫大な利益を上げている。●最も大きな利益を上げているのは間違いなく西側の軍産複合体だ。西側諸国が危機を煽り続ける中、危機はさらにエスカレートしており、世界の武器市場をリードする米国の軍需産業大手5社は言うに及ばず、欧州の中小軍需産業企業もこの「ゴールドラッシュ」を逃してはいない。●ただ、皮肉なことに、バイデン政権の新会計年度のウクライナへの資金提供は、共和党強硬派によって阻止されている。それも米大統領選挙のための政治的交渉の道具に過ぎない。軍産複合体の利益に合致する限り、米国議会がウクライナへの供給を完全に遮断するとは誰も信じていない。●しかし米コロンビア大学のサックス教授は、ロシアメディアとの最近のインタビューで、米国が巨額の戦争利益を得ていることを批判し、「米国は一方では一極支配という覇権を維持するためにNATO拡大を推進し、他方では戦争自体がビジネスになっている」と述べた。(「環球時報」からの引用はここまで)◆新華社フォーラム:2024年、露ウ衝突のゆくえを決める5大要素今年1月15日、中国政府の通信社である新華社は第14回新華網「世界の議論」国際問題シンポジウムを開き、その中で中国政府のシンクタンクである中国社会科学院ロシア・東欧・中央アジア研究所の孫荘志所長が<2024年、この5つの要素が露ウ衝突のゆくえに影響を与える>(※3)という演題で講演をした。冒頭で孫荘志は「米国と西側はウクライナ支援に疲れの兆しを見せているが、露ウ衝突は長引くだろう」、「西側諸国はメリット・ディメリットを天秤にかけ、紛争における自国の利益をどのように守るかを検討している」とした上で、2024年の露ウ紛争には注目すべき5つの要素があるとして、以下の5項目を挙げている。第一:ロシアとアメリカの選挙。露ウ紛争自体、大国間の地政学的な駆け引きと米露の対立の結果によって引き起こされた悲劇であるため、米露の国内政治動向が露ウの展開傾向を決定する。第二:西側諸国の支援。ウクライナは現在、財政支出のほぼ半分を西側が支払っているが、西側からの支援は今後どんどん少なくなるだろう。この場合、ウクライナは自国の造血機能を高める必要があるが、これは無力な選択である。第三:和平交渉を説得し推進すること。しかし、実際上、紛争は和平交渉に適した雰囲気と環境を持っていないことを示している。第四:黒海危機。2024年には黒海地域が露ウ間の争いの焦点となる。ゼレンスキーは、今年のウクライナの主要標的はクリミア半島と黒海だと述べた。第五:対ロシア制裁。対露経済制裁はロシアにどのような打撃を与えることができるのか? 2023年のロシア経済の全体的なパフォーマンスは良好で、2024年も昨年のような比較的良好な成長傾向を維持できれば、ロシアは耐久力を維持できる。西側諸国はロシアを弱体化させ最大限に打撃を与えたいと考えているが、制裁に関する手持ちのカードはますます少なくなっている。(新華網シンポジウムからの抜粋は以上)◆中国大陸のネットに溢れる民間の見解中国では、党と政府が言えることには限りがあるので、案外ネットで削除されずに残っている民間の見解は、「中国の本心」を表していることがあり、疎かにできない。むしろ党や政府が言えないことを一個人の名前で発表させたりする場合さえあるくらいだ。ネットに溢れる情報の中からいくつか拾うと以下のようなものがある。●この衝突はバイデンが仕掛けた。2008年に副大統領になってから息子ハンターに金儲けさせることとロシアをやっつけるという両方の目的に適っているウクライナに目を付け、マイダン革命を起こさせてウクライナを米国の傀儡政権に創り上げた。バイデンの私利私欲のために、なぜ世界がこんなに大きな犠牲を払わなきゃならないんだ?●ノルドストリーム破壊はバイデンの指示であることを疑う者はいない。●バイデンはウクライナ人の最後の一人が死ぬまで戦わせるつもりだ。その意味ではゼレンスキーも同じ。戦場の癒着状態を指摘した、国民に人気の高いザルジニー軍最高司令官を更迭してセルスキー(元陸軍総司令官)に置き換えたが、結局二人とも戦場はゼレンスキーが望む勝利に向けた突撃ができる状態でないと判断。そこでアウディーイウカ撤退をミュンヘン安全保障会議に合わせて決定したのは、これ以上の支援を躊躇する西側諸国に「支援しなかったら、こういうことになる」って脅しをかけたかったからさ。●自国の軍事力では戦えず、他国の支援だけで戦う戦争って、「あり」か?ウクライナは米国の傀儡政権であるだけでなくウクライナ衝突は「米国の傀儡戦争」で、ウクライナはバイデンのための道具に過ぎない。ウクライナが勝つわけ、ないだろ?最初から負けてる。だから「敗登(中国読み:バイデン)」なのさ。●西洋人には本気で、この現実が見えてないのか?●わが中国が中立を守り続けているのは賢明な判断だ。◆習近平の腹づもりウクライナ戦争が始まったと同時に、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を出版し、「軍冷経熱」(軍事的には冷ややかに距離を置くが、経済的には熱く支援する)というキーワードを軸に習近平の対露戦略を論じたが、その軸は今も変わっていない。変わったのは、ウクライナ戦争によって習近平とプーチンの仲が空前絶後に緊密になったことと、非米側諸国の中露側につく濃度が、予想以上に高まったことくらいだろう。その意味で「得をしているのは中国だ」と言っていいのではないだろうか。昨年の2月24日に習近平が提案したウクライナ戦争に関する停戦案であるところの「和平案」は「停戦ラインを明示していない」ところに特徴がある。一方、ゼレンスキーが提案している停戦案は「領土の完全奪還とロシア兵の完全撤退」という「絶対的な停戦ラインを強く要求したもの」なので、現状でゼレンスキー案が通ることはありそうにない。ここは数千年に及ぶ戦火の歴史が積み上げてきた「中国の知恵」がものを言う。おまけに習近平の「和平案」は2023年2月23日のコラム<プーチンと会った中国外交トップ王毅 こんなビビった顔は見たことがない>(※4)に書いたように、プーチンの納得を得ている。停戦は戦争をしている両国が納得しなければ成立しないし、戦局的にウクライナ劣勢となった今、ゼレンスキー案が受け入れられる可能性は限りなくゼロに近い。もちろんプーチンがウクライナに侵攻したことは肯定しない。しかし「民主の衣」を着て世界中に紛争を撒き散らしてきた(今やバイデンやヌーランドの根城と化している)NED(全米民主主義基金)の罪の重さから目を背けることはできない。その意味では「戦争屋・米国」の罪が「各国の国民」によって裁かれる時代に入ったのではないかと思う。「もしトラ」が「ほぼトラ」に変わりつつある現在、「軍冷経熱」により「中立」を守った習近平に有利に働きそうだ。トランプが、NEDを主導するネオコンでないために、トランプ政権時代に米国は戦争を起こしていないことにも注目すべきだろう。なお、CIAと「第二のCIA」と呼ばれるNEDがダ二次世界大戦後、世界中でどれだけ戦争を起こし続けてきたかは拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述した。この論考はYahoo(※5)から転載しました。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/4Gh9YAuWDS5(※3)http://www.news.cn/world/20240115/2adcae0ae5f4425eb77cfae789d04ca0/c.html(※4)https://grici.or.jp/4053(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/672498255418fabb1662ff6dab94f5d94f5884c5
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2024/02/26 10:34
GRICI
「ミュンヘン安全保障2024」の“Lose-Lose”とは? 習近平の論理との対比【中国問題グローバル研究所】
*10:28JST 「ミュンヘン安全保障2024」の“Lose-Lose”とは? 習近平の論理との対比【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。2月12日に公開された「ミュンヘン安全保障指数2024」の表紙には“Lose-Lose?”という文字が大きく書いてある。これは18日に閉幕したミュンヘン安全保障会議2024に秘められている哲学的軸で、「誰もが損をするゼロサム思考の悪循環から抜け出すには、どうすればいいか」というテーマを指す。習近平政権の外交戦略は“Win-Win”を軸とした「人類運命共同体」。時代はゆっくり、しかし大きく動き始めている。それを見極める哲学的視点を持たなければならない。◆“Lose-Lose”とは何か?2月17日のコラム<「ミュンヘン安全保障指数2024」 日本以外の国は「中露は大きな脅威ではない」と回答>(※2)に書いた「ミュンヘン安全保障指数(MSI)2024」(MSI2024)(※3)の表紙に書いてあるタイトルは“Lose-Lose?”である。今さら言うまでもないが、“lose”は「失う」、「利益がない(損をする)」あるいは「負ける」という意味だ。したがって“Lose-Lose”は「双方が損をする」意味で反対語は“Win-Win”(ウィン-ウィン)。MSI2024の表紙に大書してある“Lose-Lose?”は具体的に何を指しているのかを解明することは、今後の世界の趨勢を分析する上で非常に重要なポイントとなる。MSI2024の冒頭には「誰もが損をするゼロサム思考の世界につながる悪循環をどうすれば回避できるのか?」と書いてある。ゼロサムとは、「合計するとゼロになること」で、参加者の得点(利益)と失点(損失)の総計(サム)が0(ゼロ)になり、「一方の利益が他方の損失になること」を指す。MSI2024では、そのリスクを理解するために以下の4つのキーポイントが挙げられている(以下、概略を示す)。キーポイント1:冷戦後の地政学的・経済的な楽観主義は消え去った。その時代に得られた利益が、人類に均等に分配されることはなかった。それは人類の多くに不満を抱かせている。キーポイント2:地政学的な緊張の高まりと経済の不確実性が懸念される中、「西側諸国、強大な独裁国家、そしてグローバル・サウス」は相対的な損得をますます懸念するようになった。キーポイント3:現行の政策は世界全体としての利益を食いつぶす恐れがある。また、各国が相対的な損得を重視することで、ゼロサムの世界がもたらす悪循環を引き起こす危険性もある。キーポイント4:大西洋をまたぐパートナーは、「相対的な利益を求めて競争すること」と、「包括的で人類全体の利益を実現するために協力すること」の間のバランスをとる必要がある。志を同じくする民主主義国家間の信頼に基づく協力を守る必要があるのは確かだが、しかしその一方で、独裁的な挑戦者との競争にガードレールを導入し、競合相手とも互いに協力できる有益な分野を模索し、より包括的な利益を確保することができるような新しいグローバルなパートナーシップを構築することにも努めなければならない。(以上、MSI2024から引用)全体を通して読むと、「米一極を中心とした西側諸国は、西側諸国が独裁国家と定義しているグループやその独裁国家との連携が比較的に強いグローバル・サウスというグループとの互恵的協力関係を模索しないと、どの国も負けて勝者がいないという結果を招く危険性があり、それは人類に破壊をもたらすだけで、繁栄をもたらさない」というイメージになろうか。◆中国のネットでは“Lose-Lose”(双輸)の話題が満載中国語では「負ける」ことを「輸(shu、スー)と書く。したがって“Lose-Lose”は中国語では「双輸」(双方が負ける)と称する。2月12日にMSI2024が公表されるとすぐ、中国のネット空間には「双輸」という単語が溢れた。どの情報を読んでも「双輸」に満ちているので、中国がMSI2024をどう受け止めているかを理解するにはリポートの表紙にある“Lose-Lose?”とは何かを解明する以外にないと思ったほどだ。「双輸」に関する情報はあまりに多いので、どの記事を取り上げてご紹介すればいいか分からないが、とりあえず中国政府の通信社である新華社の論考を見てみたいと思う。2月13日、「新華社ベルリン電」は<ミュンヘン安全保障報告“双輸”論調は欧州の焦りを表している>(※4)という見出しで、MSI2024を考察している。ここではMSI2024を「報告書」という単語で表現しているが、統一を図るためMSI2024に置き換えて記事の内容をご紹介する。記事には概ね、以下のようなことが書いてある。●MSI2024の序文でミュンヘン安全保障会議のクリストフ・ホイスゲン議長は、「双輸」が今年の非公式なテーマとなっていると述べている。●清華大学戦略安全保障研究センターの副所長:MSI2024は、ゼロサム思考ではグローバルな課題に対処できないことを一部の西洋人が理解していることを反映している一方、グローバルな問題を解決するに当たり、選択的に協力することしかできない他の国々と「志を同じくする国」を区別しており、西側の矛盾を反映している。中国は、国際社会において、常に多国間主義を実践し、ウィン-ウィン協力を中心とする新しいタイプの国際関係の構築を推進してきた。●近年、中国が提案している人類運命共同体の構築こそは地球規模の課題に対処するための思考である。●パキスタン発展経済学研究所のイクラム・ハク氏:中国は西側諸国のゼロサムゲームとは全く異なる「和平建設」の哲学を堅持している。 (以上、新華社通信より)◆習近平の提唱する「人類運命共同体」と「ウィン-ウィン」論理2012年11月、習近平は第18回党大会において「人類運命共同体」という概念を発表し(※5)、その後「一帯一路」完遂のためにも外交スローガンとして用いるようになった。事実、2015年3月28日のボアオ会議において習近平は以下のように述べている(※6)。――「ウィン-ウィン」の協力を通してのみ私たちは発展することができる。「あなたが負けて私が勝つ」というゼロサムゲームの古い考え方を捨て、自分の利益を追求する際には相手の利益も考慮するという「ウィン-ウィン」概念に基づかなければ、自分自身の発展をも遂げることができない。(引用以上)この情報が「一帯一路」のウエブサイトに載っていることから、「人類運命共同体」というスローガンが「一帯一路」遂行のためにも使われていることが分かる。同じ2015年の5月7日にはモスクワで開催された反ファシスト勝利記念日に出席するために習近平はメッセージを発表し(※7)、「勝者総取りやゼロサムゲームは人類発展への道ではない。戦争ではなく平和を、対立ではなく協力を、そしてゼロサムではなくウィン-ウィンを求めることこそが、人類社会の平和・進歩・発展の永遠のテーマだ」と述べている。また2022年1月17日にオンライン参加した世界経済フォーラム(※8)で習近平は「国家間に対立や相違がるのは避けられないが、あなたが負けて私が勝つというゼロサムゲームをするのは無駄だ」と述べている。2023年4月6日午後、北京を訪問したフランスのマクロン大統領とともに中仏企業家委員会の閉幕式に出席した習近平は(※9)、「ゼロサムゲームには勝者はなく、ディカップリングによって中国の発展を阻止しようとすることはできない」と、アメリカを中心とする西側諸国への批判を露わにした。この「ゼロサムゲームに勝者はいない」という言葉は、このたびのMSI2024の表紙を飾った“Lose-Lose?”と同じで、ミュンヘン安全保障会議の「隠れテーマ」が習近平の哲理と同じだということは注視すべきだ。そうしないと危ないことになる。◆習近平の哲理「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したように、習近平の哲理は「兵不血刃」すなわち「刃(やいば)に血塗らずして勝つ」ことである。これは毛沢東と一致しており、毛沢東は独自に荀子の教えである「兵不血刃」をモットーとしていた。「戦わずして勝つ」のだから「平和を愛するのか」などと思ったら、とんでもない間違いだ。筆者は1947~48年にかけて、長春で毛沢東による食糧封鎖を受け、家族を餓死で亡くしただけでなく、餓死体の上で野宿し、恐怖のあまり記憶喪失になったという経験さえある。数十万の餓死体には流す血さえなかった。それでも、その真相は伝えられない。中国共産党を非難する言動は許されないからだ。特に習近平政権になってからの言論統制は激しく、筆者など北京空港の地に降り立った瞬間、捕まってしまうかもしれないので、習近平政権になってからは一度たりとも中国に行ったことがないくらいだ。NED(全米民主主義基金)が潜伏しているので、そのための対応策だということは分かっていても、捕まる可能性が低くなるわけではない。そのような中国による「人類運命共同体」を軸とする「ゼロサムゲームに勝者はない」という習近平の論理が、ミュンヘン安全保障会議の「隠れテーマ」と同じであるということは、中国の動き方に、少なからぬ国が賛同しているということにつながる。中国と聞いただけで猛批判する連中は日本にいくらでもいるが、「批判」によって中国が損害を被ることはなく、むしろ習近平の論理が「じわりと世界に浸透していること」の方がよっぽど怖いのである。それが見えないと、日本は生き残っていけない。筆者はそのことに警鐘を鳴らし続けている。日本人の心に、この願いが届くことを祈るばかりだ。この論考はYahoo(※10)から転載しました。画像:ミュンヘン安全保障指数2024から筆者作成(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/5014(※3)https://securityconference.org/en/munich-security-report-2024/munich-security-index-2024/(※4)http://www.news.cn/world/20240213/7c03cbc8bb4a4f8c9c37bdb2f958a207/c.html(※5)http://cpc.people.com.cn/18/n/2012/1111/c350825-19539441.html(※6)http://2017.beltandroadforum.org/n100/2017/0407/c27-11.html(※7)http://ru.china-embassy.gov.cn/chn/gdxw/201505/t20150507_3069784.htm(※8)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202201/t20220117_10601025.shtml(※9)http://politics.people.com.cn/n1/2023/0407/c1024-32659032.html(※10)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/82202fbe67e35e4287525ec3df29f3129cd35e72
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2024/02/20 10:28
GRICI
中国は米大統領選「トランプかバイデンか」をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
*10:27JST 中国は米大統領選「トランプかバイデンか」をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国のネットではトランプ(中国語表記:川普)を「川建国」(中国を再建国したトランプ)と呼び、バイデン(中国語表記:拝登)を「拝振華」(中華を振興させたバイデン)と呼んで茶化している。何れも「中国を虐めることによって中国人民の愛国心と団結心を強化してくれた人」という意味だ。中国政府自身は「内政干渉」として米大統領選に関して沈黙しているが、中国政府の思惑をそれとなく示唆するシンガポールの「聯合早報」や大陸の知識層が愛読するウェブサイトなどから、中国にとっての「川建国」と「拝振華」のメリット・デメリットが浮かび上がってくる。◆トランプが当選したら、それは中国にとって良いことか悪いことか?まず、2月1日のシンガポール「聯合早報」に掲載された<トランプが当選したら、それは中国にとって良いことか悪いことか?>(※2)という記事に書いてある分析を見てみよう。「聯合早報」は中国政府としては口にすることができないが「本当はこう思っている」という内容を第三者に書かせるときがある。中国大陸のネットで削除されずに載っている場合は、そういうケースであることが多い。今般ももちろん、中国大陸のネット空間で、むしろ目立っていた。だから、これは中国の本心(に近いもの)なのだろうと受け止めたので、ご紹介する。以下、個条書きのように番号を付けて概略を羅列する。1.1月25日に発表されたロイターの世論調査では、トランプ前大統領が40%の支持を得て、バイデン現大統領を6%リードしている。中国のネットで「川建国」と「拝振華」と呼ばれている2人の政治家が年末に再び対決する可能性がある。2. 感情的でビジネスマン的な性格のトランプが、前政権の時のように北朝鮮に舞い戻ってきたら中国に有利か不利か何とも言えないが、全体としてメリットとデメリットはある。3.前回の米大統領選では、中国のネットはトランプ再選に期待する声に満ちていた。トランプは次から次へと西側同盟から抜けて「アメリカ・ファースト」を重んじたので、どんなにトランプが中国に高関税をかけハイテク産業発展を阻止しても、国際社会におけるアメリカの孤立化が進み中国の活躍の場が増えたからだ。しかしトランプを破ったバイデンは、「アメリカ・ファースト」などトランプ時代の外交政策を一気に放棄し、トランプ政権の4年間で分断された同盟体制をいち早く立て直し、インド太平洋地域で中国をより包括的・組織的に包囲するために小規模な仲良しグループを動員し、東シナ海、台湾海峡、南シナ海における「三海連関」の現状を形成した。4.もしトランプが当選して自分のやり方に戻せば、バイデンが必死になって再構築した軍事同盟体制や仲間を集めた小さなグループも、指導者不在の砂と化し、中国を封じ込めるためのアメリカとその同盟国の結集力は大幅に低下するだろう。これは北京にとって大きなメリットとなる。5.台湾問題では、トランプはビジネスマンの利益追求に基づいて評価し、今年1月20日のFOXニュースのインタビューで、「北京が武力攻撃した場合、台湾を守るかどうか」という質問には答えなかった。トランプは「質問に答えることは交渉で非常に不利な立場に立たされる」と述べ、「台湾がアメリカの半導体事業のすべてを奪った」と付け加えた。トランプが同様の回答をしたのは昨年7月以来2回目で、バイデンが大統領在任中に、「アメリカは台湾防衛のために軍隊を派遣する」と4回も公式に発言したのとは強烈な対照を成している。6.中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は水曜日(1月31日)、トランプが「台湾防衛」を拒否したことに関し、アメリカは常に「アメリカ第一主義」を追求し、台湾はいつでも「(利用できる)駒」から「捨て駒」に変わり得ると述べた。7.ホワイトハウスが来年1月に政権交代した場合、台湾はトランプと取引し、安全保障上の約束と引き換えにアメリカへのハイエンドチップの移転を加速させるために、より高い代償を払わなければならないかもしれない。台湾海峡で何かが起こったときに米軍は高みの見物を決める可能性があり、第二次世界大戦後にアメリカがひたすら築いてきた軍事力は、トランプにとってはそれほど価値が高いものではないので、台湾はホワイトハウスとの取引を試みる必要が出てくるかもしれない。8.昨年から緊張が高まっている南シナ海でも同じことが起きる可能性がある。トランプがホワイトハウスに復帰すれば、フィリピンを堅固に防衛するというバイデン政権のコミットメントが見直され、マルコス・ジュニア政権は中国に対して強硬姿勢をとる自信を失う可能性がある。9.トランプは日韓駐留米軍の予算も削減し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との4回目の会談を再開するかもしれないし、「三海連関」戦略も自滅的だ。10.米主導の同盟体制が弱体化すれば、中国が国際情勢や地域情勢で影響力を行使する余地が広がる。11.しかし、トランプの2度目のホワイトハウス入りは、中国にとって良いことばかりではない。対中タカ派で米中貿易戦争の立案者であるライトハイザーや親台湾派のポンペオなど、国家安全保障と経済の分野でトランプから重要な任務を任される可能性が高い。そうなった場合、中国の最恵国待遇も撤廃され、アメリカに輸出される中国製品に40%以上の関税が課せられ、米中間のデカップリングが加速し、技術戦争と貿易戦争の激しさがさらにエスカレートする可能性がある。12.1月27日、ワシントン・ポストは3人の情報筋の話として、トランプが中国からの輸入品すべてに一律60%の関税を課す可能性について顧問と話し合ったと報じた。これは、米中貿易戦争でトランプが科した懲罰的関税より35%も高く、中国製品を米国市場から追い出すに等しい。13.予測不可能なことをするトランプは、台湾問題に関する中国本土のレッドラインを無視し、北京の忍耐力と決意を試し、両国が誤って軍事衝突を引き起こす可能性も逆にないわけではない。14.昨年11月にサンフランシスコで行われた中米首脳会談以降、米中両国はハイレベルな意思疎通を再開し、あらゆる面で対話を強化し、昨年8月のペロシー米下院議長の台湾訪問後の谷から抜け出すための努力を強めている。バイデンの再選後の米中関係は依然として波乱含みではあるものの、その傾向はより予測可能であるという点においてメリットがある。それに反してトランプは常識に従ってカードを使わず、予測不可能な道筋は北京に誤算をさせる可能性も否定できない。(以上、聯合早報の概要。)◆知識層向けウェブサイトの見方中国大陸内のウェブサイトで、比較的に知識層が集まる「観察者網」では2月5日、<トランプは「もし当選すれば対中貿易戦は行わず関税増強は継続する」と言っている>(※3)と題する論考を公開した。以下、要点だけをピックアップする。●ブルームバーグと香港の「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によると、現地時間2月4日、トランプはFOXニュースのインタビューを受け、「選挙に勝てばすべての中国製品に少なくとも60%の関税を課す」と脅した。「しかし、これは貿易戦争ではなく、中国とは平和に暮らしたい」とも述べた。トランプは続けて「私は中国を傷つけたくない。 私は中国と平和に暮らしたい。 米中友好は素晴らしいと思う」と付け加えたが、金融関係者はトランプ再選後に起こりうる市場の混乱に備えている。●注目すべきは、バイデンは大統領就任後、前政権(トランプ政権)時代の政策を否定するために「対中関税の引き下げを検討している」とくり返し主張しているものの実現しておらず、米経済界に不満を抱かせている。●2022年7月、米国国際貿易委員会は公聴会を開催し、輸入に依存する製品の米国の輸入業者と製造業者は、関税が既存の貿易の流れを混乱させると主張し、中国への関税の継続に強く反対した。アメリカの原告6000人以上が、対中関税で支払った数十億ドルの賠償金を米政府に要求し、同政策は適切な手続きを経ずに策定されたものであり、侵害にあたると主張している。●昨年3月、米国国際貿易委員会は報告書を発表し、調査の結果、トランプ政権が3000億ドル以上の中国製品に関税を課し、「中国に支払わせる」と脅したが、実際にはその代償を支払ったのはアメリカの輸入業者と消費者であり、それに応じて米企業の輸入価格と米国内における価格が上昇したと指摘した。ブルームバーグによると、これは米国企業が米国の対中関税のほぼ全額を負担することを意味する。(以上、観察者網の概略。)◆一般ネット民の見方中国大陸のネット市民は米大統領選に強い関心を持っており、さまざまな意見が見受けられる。いくつかの例を挙げると以下のようなものがある。●そこまで高い関税なら、デカップリングということだな。●川建国も拝振華も、ともかく中国を封じ込めたいことに変わりはない。選挙に有利なように対中強硬競争をしている。理由は簡単。中国が強くなり、アメリカを凌駕するのを阻止しないと、選挙民の支持が得られないから。●川建国も拝振華も中国を抑圧する方法が違うだけだ。トランプの有権者群はアメリカのブルーカラー労働者が大半を占める。このグループは一般的に教育レベルが高くない。だからトランプは誰にでもわかるような単純な言葉を使うし、誰の目にも見えるような短期間で結果を生む政策を好む。バイデンは熟練された政治家なので「戦略的」で「長期計画」的だ。例えば日本、韓国、インド、フィリピンなどに甘い言葉をかけ対中包囲網を創り上げる。●もし、川建国と拝振華のどちらかを選ばなければならないとしたら、私はむしろトランプを選ぶかな。というのも、拝振華が与える「長期的痛み」は狡猾で目に見えにくいが、川建国が与える「短期間的痛み」は正直で誰の目にも明らかだ。拝振華がエリート層を相手にし、川建国はブルーカラーを相手にしているというのも、何だか奇妙な好感が持てるのだ。●っていうか、民主主義っていいの?前の政権が言ってた政策を全て覆さないと大統領選に勝てないというのをくり返して、国益になるのかね?アメリカ、大統領選のために内戦起きそうじゃない?(ネットの意見はここまで。)最後の意見はおそらく「もっとも、中国のように言論弾圧が強いのもなんだが…」と書きたいところだろうが、書いたら削除されていただろうから、これは暗黙の認識、暗示として誰でも読むのではないかと、興味深く考察した。この論考はYahoo(※4)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.kzaobao.com/mon/keji/20240201/155666.html(※3)https://www.guancha.cn/internation/2024_02_05_724562.shtml(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4959cc3e7a74ef08bf36799bb5eb7849fb858e07
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2024/02/13 10:27
GRICI
台湾有事は遠のくのか? 立法院長に国民党が当選「民進党を訴える」と「柯文哲の乱」!【中国問題グローバル研究所】
*10:55JST 台湾有事は遠のくのか? 立法院長に国民党が当選「民進党を訴える」と「柯文哲の乱」!【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。2月1日、台湾立法院(国会)の院長(議長=台湾では首相に相当)選挙で、対中融和的な国民党の韓国瑜氏が当選した。5月20日に発足する親米的な民進党の頼清徳政権にとっては「ねじれ国会」の「ねじれ度」がさらに強くなり、国防予算案などを通しにくくなるだろう。一方、韓国瑜が当選したのは新立法院委員(国会議員)の中にいる2名の無党派が国民党側に付いたからだが、今後の立法院運営(国会運営)では柯文哲氏が率いる民衆党委員(議員)8人が民進党の案に賛成するか国民党の案に賛成するかによって予算案の可否が決まる。ところがなんと、その柯文哲が民進党を訴えると怒っていることが2月2日にわかった。となれば、予算案などは対中融和の方向で決まっていく可能性が高い。何が起きているのだろうか?「柯文哲の乱」を紐解こう。◆国民党の韓国瑜が当選した背景1月15日のコラム<どう出る、習近平? 台湾総統選、親米民進党勝利>(※2)に書いたように、総統選では民進党の頼清徳氏が勝ったが、立法院では全議席113のうち、「国民党:52議席、民進党:51議席、民衆党: 8議席、無党派2議席」となり、国民党が第一党となった。そのコラムでは、2月1日に行われる立法院院長・副院長選挙で、ひょっとしたら「緑(民進党)白(民衆党)合作」があり得るかも知れず(頼清徳が示唆)、もし頼清徳の要望に応じたら、民衆党の柯文哲氏は完全に選挙民の信頼を失ってしまうだろうと懸念した。柯文哲は、「藍(国民党)白合作」を破局させながら、民進党からのモーションに応じるというようなことは、さすがにしなかったようだ。結果的に柯文哲はどちらにも付かず「独自路線」を貫いた。結果、2月1日の投票(※3)では民衆党も独自の立候補者を立てて、1回目の投票では以下のようになった。●韓国瑜(国民党):54票(48.2%)●游錫堃(民進党):51票(45.5%)●黄珊珊(民衆党): 7票(6.3%)院長に当選するには過半数(50%以上)を獲得していなければならないので、上位2位の立候補者に関する決選投票に入ることになった。このとき民衆党は退場して参加せず、国民党にも民進党にも投票しないという姿勢を貫いたことになる。となると、民衆党議員を除いた議員による決選投票となり、無党派の2人を国民党が引き寄せるか民進党が取り込むかのどちらかによって結果が逆転するわけだが、無党派の2人は、共に国民党側に付いたので、結果として●韓国瑜(国民党):54票(51.4%)●游錫堃(民進党):51票(48.6%)となり、韓国瑜が勝利したわけだ。無党派の2人は陳超明氏(※4)と高金素梅氏(※5)で、やや国民党寄りの傾向があり、1月13日に行われた立法院選挙においても国民党の支援を得ている。こういう時のために選挙期間中に支援するというのは、相当に周到であったということになろうか。副院長も国民党の江啓臣氏(2020年3月9日~2021年10月5日の期間のみ国民党主席)が当選した。◆「柯文哲の乱」――民衆党の柯文哲氏が民進党を訴えると激怒!ここで問題になるのは、今後、行政院で民衆党がどう動くかだ。そう思って柯文哲の動きを追っていたところ、なんと、2月2日の「09:38」にシンガポールの「聯合報」が、<(柯文哲が)民進党に電話して緑白合作を呼びかけたと報道され、柯文哲は「嘘八百だ!」と怒り、「午後、民進党を訴える」と批判>(※6)と報道しているのを知った。このリンク先には柯文哲が激怒している動画があるので、ぜひリンク先をクリックして動画をご覧いただきたい。これ以上の証拠はなく、文字化されたものも動画の画面に出て来るので、漢字や表情から概ねの内容は想像いただけるものと思う。簡単に書くと、民進党(緑)の報道担当者(中国語では発言人)が、「柯文哲の方から民進党に電話してきて、緑白合作をしようと持ちかけてきた」と言ったとのこと。それを知った柯文哲は激怒し、「何を言ってるんだ!連絡してきたのは民進党の方じゃないか!民進党から連絡があり、民進党関係の医療業界の長老に電話するようにと頼んできたので、長老だから(失礼がないように)言われた通りに返電するという形で連絡したに過ぎない。それを私(柯文哲)の方から緑白合作しようと持ちかけたなどというのは本末転倒!民進党はもう全く信用できん!もう、これ以上は我慢ならない!訴えてやる!」と反論。頼清徳も元医者なら、柯文哲も元医者。そこで頼清徳陣営が医者仲間の老練の大家の名前を出して、柯文哲が返電をしないわけにはいかない所に追い込みながら、柯文哲が自ら積極的に「緑白合作をしよう」と頼清徳陣営に持ちかけてきたのだと民進党が言い始めたのだ。柯文哲は激怒し、「こんな信用のできない、大ウソつきの民進党(特にその報道官と記者)は、今日の午後にも訴えてやる!見てろよ!」と威勢よく激しい。それに対して民進党も「おお!結構!法廷で会おう!」と強気の構えだ。この「事件」に関しては、どうやら台湾の中時新聞網が先に報道しているようで(※7)、時間を見ると2月2日の「04:10」。ただ、中時新聞には動画がないので、聯合報をご覧になる方が、分かりやすいかもしれない。いずれにせよ、立法院で民衆党が民進党の提案に賛成するという可能性は、これで無くなったと言っていいだろう。◆台湾有事は遠のくのか?したがって立法院では、対中融和路線の中で国防予算等の議決がなされるようになるだろうから、たとえばアメリカから大量の兵器を購入するとか、米軍による軍事訓練を増やすといった種類の予算案は否決される傾向に動くだろう。そうでなくとも、1月30日のコラム<米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で>(※8)で書いたように、ガザ紛争以来イランと対峙しているアメリカは、アメリカ自身が中東戦争に直接参戦することは避けたいという事情もあり、中国にイランを説得するよう動いてほしいために、中国に対して低姿勢だ。当該コラムで書いたように、台湾総統選で民進党の頼清徳氏が勝った時に、バイデン大統領はすかさず「アメリカは台湾の独立を支持しない」(※9)と表明したし、ウクライナだけでなく中東と台湾での三面戦争に関与することができないことから、昨年12月の時点ですでに米国在台湾協会(AIT)は民進党に「アメリカは台湾独立に反対し、一方的に現状を(台湾が)変更することに反対する」と言い渡した。EUも「台湾は一方的に独立を宣言すべきではない」と表明している。そのため12月1日の台湾の中時新聞は<アメリカが釘を刺した 頼清徳は台湾独立を謳った民進党綱領(の是正)を回避できない>(※10)という見出しで、民進党が身動きできない状況を報道している。あらゆる面から見て、アメリカは今では「台湾有事を誘発させるな!」という趣旨のシグナルを民進党に対して発しているのである。となれば台湾の方から中国の武力侵攻を誘発する行動には出ないことになるので、習近平としても武力統一をする理由は皆無となる。そうでなくとも習近平は芳しくない国内の経済事情や恐るべき党内、特に軍部の大規模腐敗に直面し、何とか武力衝突が起きないように必死だ。あれだけ信用して抜擢した秦剛前外相などは、不倫を通して情報漏洩さえしているという恐ろしさ。どんなに厳重に身体検査をしても、怖くてなかなか任命できないという状況に習近平は苦しんでいるはずだ。あらゆる側面から見て、台湾の立法院正副院長の選挙結果からも、「台湾有事は遠のいている」という結論に行きつくのではないだろうか。日本は台湾有事を前提として、むしろ「勇ましくなり」、臨戦態勢に向かって「はしゃいでいる」ように見受けられる。自民党の裏金問題など、長きにわたる日本政治の根本が揺らいでいるのに、そこから目を逸らさせ「外敵創り」によって保身を試みる自民党政権と同調圧力に騙されないように、日本国民は俯瞰的視点を持たなければならない。そうでなければ、日本人は「自ら好んで」戦争に突入し、日本国民の命を奪う道を「自ら選択」する結果を招く。日本が軍事力を強化することには反対しないが、自ら戦争を招く世論形成は避けねばならない。この論考はYahoo(※11)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4943(※3)https://www.cna.com.tw/news/aipl/202402015004.aspx(※4)https://zh.wikipedia.org/zh-hans/%E9%99%B3%E8%B6%85%E6%98%8E(※5)https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E9%87%91%E7%B4%A0%E6%A2%85(※6)https://udn.com/news/story/6656/7750029(※7)https://www.chinatimes.com/cn/newspapers/20240202000481-260118?chdtv(※8)https://grici.or.jp/4973(※9)https://www.reuters.com/world/biden-us-does-not-support-taiwan-independence-2024-01-13/(※10)https://www.chinatimes.com/cn/realtimenews/20231201002359-260407?ctrack=pc_main_alert_p04&chdtv(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/42b9cdf729fc4a002532eced94cf42a20a424644
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2024/02/05 10:55
GRICI
米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で【中国問題グローバル研究所】
*10:32JST 米中の力関係が微妙に逆転? ガザ紛争が招いた紅海危機問題で【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。1月26~27日、アメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と王毅(中央政治局委員、中央外事工作委員会弁公室主任兼)外交部部長(外相)がタイのバンコクで会談した。イエメンの反政府勢力「フーシ派」の紅海における船舶への攻撃をアメリカは阻止しようとしたが効果なく、背後にいるイランがフーシ派への支援をやめるよう「イランを説得してくれ」と、アメリカが中国に頼んでいるからだ。しかし中国は台湾問題への内政干渉をアメリカがやめることが先決問題だとして強気の姿勢を崩していない。バイデン大統領は大統領選があるため台湾の民進党に「独立色を減色せよ」(中国を刺激するな)という趣旨の指示を出す傾向にある。そもそもタイで会談したのは、王毅がタイとの査証相互免除締結など多くの協力協定を結ぶためにタイに行ったからで、サリバンはその王毅に「会ってもらうため」にのみタイまで行った段階で、米中の立場が逆転している。アメリカは大統領選があるので国際的信用を回復するために、暫定的ではあっても、中国に譲歩し、台湾有事が起きない方向に舵取りをする可能性がある。日本は梯子を外されないように気を付けなければならない。◆王毅とサリバンの会談1月26日から27日にかけて、王毅とサリバンがタイのバンコクで会談したと中国の外交部が伝えている(※2)。それによれば米中は昨年サンフランシスコで両首脳が約束した事項に沿って話し合いを緊密に持つとのこと。王毅は「今年は米中国交正常化45周年。双方は対等な立場で話し合うべきで、相手国の核心的利益に決定的な損害を与えるような内政干渉をしてはならない」として台湾問題を最優先事項とする姿勢を崩さず、「他国の発展を阻止するような行動は取ってはならない」とも主張した。その上で、「外交、軍隊、経済、金融、商務、気候変動」あるいは麻薬取締などの領域で協力し合うとしている。二人は中東、ウクライナ、朝鮮半島および南シナ海などの国際問題に関しても話し合ったと、外交部はいたって包括的で無難な報道しかしていない。◆紅海危機でアメリカの矛盾を酷評した「環球時報」社評しかし、実際は12時間にも及ぶ話し合いの内容は熾烈なもので、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は1月26日の社評で<アメリカは紅海に関して中国に頼みごとがあり、まずはキチンと話し合いを>(※3)という見出しで、相当に辛辣なことを書いている。長いので概要を個条書きすると以下のようになろうか。●アメリカは紅海で1ヵ月以上にわたり同盟国の船舶の武装護衛を組織し、半月以上にわたってフーシ派武装勢力を武力攻撃してきたが、効果は見られなかった。紅海で挫折したアメリカは、あたかも背後に中国がいるかのような国際世論誘導を謀って「中国責任論」を展開しながら、一方では中国に「どうか、フーシ派の背後にいるイランを説得してほしい」と懇願してきた。動機が不純だ。●紅海は物品やエネルギーの重要な国際貿易ルートなので、紅海危機以来、中国はあらゆる関係者と緊密な意思疎通を維持し、緊張緩和に積極的に取り組んできた。中国は民間船舶への攻撃の停止を求めており、関係者に対し紅海の緊張を高めることを避け、紅海の水路の安全を共同で維持するよう求めている。●アメリカが紅海危機の平和的解決を共同で促進するために中国の協力を得たいと望むのであれば、下心を排除して虚心坦懐に話し合いをすればいいだけのことだ。中国とイランは経済協力をしているが、中国とイランのいかなる関係もアメリカにとっては好ましくないようだ。●今回のパレスチナ・イスラエル紛争勃発以来、アメリカ当局者らは中国に対し、中国にイランを説得してくれと頼んでいるが、アメリカの同盟国船舶護送が成功しないと、すぐさま「中国責任論」を掲げて中国を非難する。この自己矛盾は、国際舞台における米国の利己主義とダブルスタンダードを最もよく反映している。●多くの西側メディアさえ、軍事攻撃は逆効果でしかないとコメントし、アメリカの 国防総省当局も、フーシ派と戦う軍事計画は「機能しない」と認めた。アメリカが護衛作戦を開始した際に思い描いていた「繁栄の守護者」のリーダー像は消え、紅海での対応に疲れ、ますます受動的になったアメリカの姿だけが残った。●民間船を攻撃しているのは確かにフーシ派だが、危機の根本原因はガザ紛争の波及にあり、すべての当事者は一刻も早くパレスチナとイスラエルの間の停戦を実現し、戦争を終わらせるという基本に立ち返り、実行する必要がある。しかしアメリカはガザ攻撃をするための強烈な武器をイスラエルに提供し続けている。●ウクライナでも成功していないアメリカは、地域危機に対する責任を可能な限り中国に転嫁したいという考えにとりつかれている。これは地域危機に対応できないアメリカの常習犯的な行動でもある。●アメリカは中東に残したいわゆる「力の空白」を中国が埋めることを常に懸念しており、そのため中国と地域諸国との正常な協力を絶えず悪者扱いし、中東における中国の「影響力」を抹殺しようと、あらゆる手段を試みてきた。(引用以上)◆ガザ紛争、直近のキッカケは中国によるイラン・サウジ和解「環球時報」の最後の項目にある「力の空白」とは、アフガニスタン撤退の際にみっともない姿を見せてしまったアメリカが「中東に及ぼす力を無くしてしまった」ことを指しており、2023年3月10日に中国がイランとサウジアラビア(以下、サウジ)を和解させたことをアメリカが妬んでいるということを指す。そのため、2023年10月11日のコラム<ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置>(※4)で指摘したように、バイデンはサウジをイスラエルと仲良くさせことを試み、サウジを甘い言葉で誘惑してイスラエルと国交を樹立させるべく背後で動いていた。イスラエル建国の時には全ての中東諸国が一致団結してアラブ地域を守るべく中東戦争を起こした。しかしその後、アメリカの数多くの謀(はかりごと)により、いくつかのアラブ諸国がイスラエルと国交を樹立し、それによって踏みにじられてきたパレスチナの苦悩が忘れられていくことをパレスチナは怖れた。アラブの盟主であるようなサウジまでがイスラエルと国交を樹立すれば、パレスチナの凄惨な状況を世界が気にしなくなっていくだろうことを怖れて、ハマスの奇襲があったと位置付けることができる。だからハマスの奇襲があった後サウジは直ぐに「イスラエルとは国交を樹立しない」と表明し、中東諸国を団結させ一丸となって、イスラエルのガザ攻撃をやめさせようとしている。◆紅海でのアメリカの無力は、中国に有利に働く2023年10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartI>(※5)から、飛び飛びだが、2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?ParIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※6)に詳細に書いてきたので、ウクライナ戦争の原因はアメリカ、特にバイデンが創ってきたことは既に明らかだろう。そして最も得をしているのは中国で、実はガザ紛争に関しても、中国には有利に働いている。中国はウクライナ戦争に何らかの形で参画しているわけではないし、ガザ紛争においても「イランとサウジを和解させた」という事実があり、「イランとは経済的に他の国同様に結びついている」というだけで、中国が得をするのはなぜか?それは、中国は「アメリカから制裁を受けている国」としてロシアやイランと同じ立場にあるからだ。アメリカにとってロシアやイランは敵国以外の何ものでもないので話し合いなどできないが、中国となら話ができる。だからウクライナ戦争やガザ紛争でアメリカに不利な要素が出て来ると、中国を通してロシアやイランを説得してもらおうと、アメリカが中国に低姿勢にならざるを得ない状況に来ている。だからサリバンがわざわざ王毅のスケジュールに合わせてタイまで飛んでいくという力関係が米中間に生まれているのだ。ハマスの奇襲もバイデンが原因を創っているので、バイデンが招いた戦争で「習近平が笑う」という構図が生まれつつある。◆アメリカがハシゴを外すかもしれない台湾問題中国はここぞとばかりに、「フーシ派に関してイランに掛け合ってくれなどと頼む前に、台湾問題に関して内政干渉をするな!」と居丈高だ。「台湾問題が先だ!」と一歩も譲らない。だからバイデンは大統領選もあるので、アメリカの弱さを見せるわけにはいかないので、「習近平とは常に意思疎通をしている」という口実を設けて格好をつけ、実は習近平に「頼むから紅海問題でイランを説得してくれ」と腰を低くしているのである。そのため台湾の総統選で民進党の頼清徳氏が勝った時に、バイデンはすかさず「アメリカは台湾の独立を支持しない」(※7)と表明したし、民進党側にそれとなく「独立を叫ぶ方向に動くな」(※8)とクギを刺している。となれば、台湾有事は、よほどの突発的なことでもない限り起きにくいことになる。日本はハシゴを外されないように気を付けた方がいいだろう。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202401/t20240127_11234565.shtml(※3)https://opinion.huanqiu.com/article/4GK0vBaqlXw(※4)https://grici.or.jp/4703(※5)https://grici.or.jp/4683(※6)https://grici.or.jp/4885(※7)https://www.reuters.com/world/biden-us-does-not-support-taiwan-independence-2024-01-13/(※8)https://www.chinatimes.com/cn/realtimenews/20231201002359-260407?ctrack=pc_main_alert_p04&chdtv(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0370de8f701677cded896ce27f6c237fa90b6b20
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2024/01/31 10:32
GRICI
日本の裏金・派閥と中国の政治構造【中国問題グローバル研究所】
*10:54JST 日本の裏金・派閥と中国の政治構造【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。自民党の裏金・派閥問題が深刻化している。一党支配体制である中国ではどうなのだろうか?民主主義と専制主義における政治体制のメリット・ディメリットを比較考察してみよう。◆日本の自民党の裏金と党内派閥自民党の裏金と派閥問題に関しては日本で十分に情報提供されているので、今ここで改めて説明することはしない。しかし何かお役に立つかもしれないので、私が実際に経験した模様から少しだけ状況をご紹介してみたい。2012年3月に江沢民時代と胡錦涛時代における凄まじい権力闘争を描いた『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』を出版すると、たちまち増刷され日本記者クラブで講演したり、NHKの日曜討論に出演したりするようになった。自民党からも声が掛かり、いわゆる「パーティー」への招待状が来たり、安倍政権時代になると「桜を見る会」の招待状が来たりと賑々しくなったものだ。ここでは「パーティー」だけに話を絞ろう。パーティーには「御招待」と一般参加の別があるようで、私の場合は「御招待」と書いてあるが、それでも「一口二万円」という文字が載っている資料が同封してあったように思う(資料があまりに多いので捨てているか、捨てていなかったとしても探し出すのは困難なので、同封してあった資料の文言などに関しては、多少正確さを欠いている部分もあるかもしれない)。送られてきた書類には事務担当者の連絡先があったので、この「一口二万円」に関して「参加費なのか」を尋ねたところ、「いえいえ、先生は御招待客でいらっしゃいますから、ともかくご参加いただけるか否かのお返事のおハガキだけ返送して下されば、それで十分でございます」という回答があった。パーティーには必ず「招待状」を持参するようにと念を押されたので、パーティー会場受付で「招待状」を見せると、「よくぞいらっしゃってくださいました。さあさあ、どうぞ奥へお進みください」とパーティー会場に案内された。著名な大物自民党議員の派閥のパーティーなので、派閥の長が挨拶をし、満場の拍手で迎えられていた。その後何名かの代表者のスピーチがあって乾杯に入ると、会場はまるで戦場のような熱気に包まれた。大企業の社長は、その派閥が輩出している関係大臣筋などにご挨拶をするために争って前に出ようとする場面もあれば、あまりに人数が多い場合は長い列を作ったりと、あちこちに「熱い塊」ができ上っていた。議員自身も、デンと椅子に座っている派閥の長の前に列を作り、挨拶する際は跪(ひざまず)いて(膝を床に付けて!)神々しき相手に話をする姿勢だ。おお――!何という序列社会――!のちに関係者から聞いたところによれば、派閥の長の「覚え愛でたい」存在でなければ出世は絶対に無理なので、同じ派閥の議員でも派閥の長に直接話をする機会は少ない場合もあるので、この時ぞとばかりに好印象を与えようと必死なのだという。また外部からの民間企業の社長などは、仕事の発注の際に便宜を図ってもらうために少なくとも「十口」くらいは出す人が多く、それらがその派閥の活動資金に使われるのだそうだ。派閥の人数が多くないと、自民党総裁候補の時などに自派から出せないので、ともかく自身の派閥の人数を増やし、その議員が再当選できるように派閥は努力する。それが裏金として還流させる原因を作っているのだろう。派閥では確かにその派閥独自の学習会を開いていて、私はその学習会にも講師として呼ばれ何度も講演を行ったものだ。それらを通して感じたのは、たとえば対中問題などに関して派閥ごとに違いがあるなど、こんなに主義主張が異なるなら、同じ自民党にいないで、共通の理念だけを持つ派閥が離党して他の政党を作ったらどうなのだろうかということだった。しかし分党しないのは、同じ自民党にいるからこそ「政権与党」として大臣にもなれれば、時には総理大臣にもなれるわけだから、他党連合のような強固な派閥が党内にあったとしても、当選と立身出世のためにのみ議員になっている政治家が多いので、「自民党」という枠組みは崩さないようだ。ほとんどの議員は選挙の際の当選と、当選後の出世しか考えておらず、決して「日本国民を幸せにしよう」とか「日本国の国益のために頑張ろう」といった動機があるわけでないことも段々にわかってきた。派閥は新人の教育のためにもあるという言い訳は、タレント議員など、それまで政治と無関係の「人気がありさえすればそれでいい」あるいは「自身の派閥の議員数が増えればそれでいい」といった人数の多寡により党内の力にたよって党が運営されていることが理由の一つにもなっている。統一教会との連携なども、「票数」が増えればそれでいいという「当選」が目的化しているからに他ならない。◆中国の腐敗と派閥では、中国ではどうなのだろうか。1月10日のコラム<習近平に手痛い軍幹部大規模腐敗と中国全土の腐敗の実態>(※2)でも書いたように、中国の腐敗は一種の文化で、特に江沢民時代に軍部の腐敗がピークに達していた。なぜなら江沢民は1989年6月4日の天安門事件で、時の最高権力者であったトウ小平が個人的に指名して中共中央総書記&中央軍事委員会主席になったようなものだから、北京に政治や人脈的地盤がない。そこで「カネ」でつながった利害関係のネットワークを構築したものだから「腐敗文化」に火が付き、このまま放置したら中国は腐敗で滅亡する寸前まで来ていた。特に軍部における腐敗の蔓延は軍事力を弱体化させ、米中覇権競争に踏み込み始めた中国にとっては致命的な弱点となっていた。そのため、2013年に国家主席になった習近平は反腐敗運動を大々的に行って軍部の腐敗の巣窟を徹底して叩き、2015年にはハイテク国家戦略「中国製造2025」と軍事大改革を行ったのである。何度もくり返すが、反腐敗運動は権力闘争などではなく、腐敗の巣窟を叩いて軍事力のハイテク化と中国の製造業や宇宙開発のハイテク化などを推進させるためのものだった。胡錦涛政権時代までは、腐敗系列が形成した派閥が激しく、党内は一枚岩どころか江沢民を中心として「反腐敗運動をさせまいとする」強固な派閥が胡錦涛政権を抑え込んでいたが、習近平政権になってからは激しい反腐敗運動を展開したので、「カネ」でつながる派閥が形成される余地が少なくなっていった。その意味では「習近平独裁」という言葉を使うこともできるが、どちらかというと「中国共産党による専制政治の側面を強化した」という表現も出来る。国務院に与えられていた権限が、中共中央に集中化し、真相を見誤る要素を多分に孕んでいる。これに関して論じ始めるとまた長文になってしまうので、少なくとも「党内に党がある」という危険なまでの派閥というのは無くなったと言っていいだろう。また日本のように個人が政治家になるために「選挙のための不正」をしなければならないという要素も、中国には基本的にない。選挙がないわけではなく、党内選挙は村レベルから中央レベルまであるし、立法機関である全人代(全国人民代表大会)の代表(議員)や諮問機関である全国政治協商会議の代表を選ぶ選挙も全国津々浦々行われている。但し、立候補者を中国共産党が管理する選挙管理委員会がコントロールしているので、西側諸国のような「普通選挙」が行われているわけではない。人材育成に関しては、6歳から入隊できる少年先峰隊(1億1467万人)から始まり、14歳から入隊資格を得る中国共産主義青年団(7358万人)、28歳で入党資格を持つ中国共産党員(9804万人)という訓練と評価を経て中央に駆け上っていく。日本のようにタレント議員などという現象が入り込む余地はない。その意味では国家戦略を練るに当たり、日中では比較の対象にさえなり得ないと言っていいだろう。ただ、14億の人民の心を「中国共産党こそが最高である」という理念でつないでおくことなど出来ようはずもないので、中国には言論の自由がなく、中国共産党は平気で歴史を塗り替え「国家として嘘をつく」。◆「日本式一党支配」を招く自民党の裏金派閥問題そういう国にだけはなって欲しくないが、だからといって日本の政治がこのままでいいことにはつながらない。野党が育たない、いや正確には「野党が育たないようにしていく」という日本の政治構造は、自民党内の派閥や「当選と出世だけが目的」という自民党の実態を、今般の裏金・派閥問題が炙りだしてくれた。その結果、まるで「自民党独裁」の中で、派閥だけが時々交代する「日本式一党支配」を招いているという見方もできる。それは同時に、「日本国民の幸せを中心に考えているのではない政治」の真相を露呈させたということにもなろう。日本の国益を甚だしく損ねている現実を、国民一人一人が自分自身のこととして直視するのに、残念ながら、良い事例なのかもしれない。この論考はYahoo(※3)から転載しました。写真: アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4931(※3)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d40180f7cef863f353c2313e57297c65306dbee2
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2024/01/25 10:54
GRICI
どう出る、習近平? 台湾総統選、親米民進党勝利【中国問題グローバル研究所】
*10:28JST どう出る、習近平? 台湾総統選、親米民進党勝利【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。台湾総統選で親米の民進党・頼清徳氏が勝利した。立法院に関しては国民党が議席を増やしたものの過半数に達せず、1議席しか民進党に勝っていない。「ねじれ国会」は民衆党が国民党側に付くか民進党側に付くかによって方向性が決まる。中国は頼氏の得票率が40%でしかないことを以て、この選挙結果は台湾の主流世論ではないと主張。これまでの姿勢を変えない構えだ。国民党の意外な敗因と今後の中台の動向を考察する。◆総統選での民進党の勝利と立法院における議席1月13日、台湾総統の選挙結果と立法院議員の選挙結果が出た。先ず総統選の開票結果は民進党の頼清徳氏:558万6019票(40.05%)国民党の侯友宜氏:467万1021票(33.49%)民衆党の柯文哲氏:369万 466票(26.46%)で、頼清徳が当選した。蔡英文総統の方針を受け継ぐと宣言し、圧倒的な親米路線を継続することになる。一方、立法院の方は全議席113のうち、国民党:52議席(改選前より15議席増)民進党:51議席(改選前より11議席減)民衆党: 8議席(改選前より3議席増)となり、いわゆる「ねじれ国会」状況となった。国民党がここまで議席数を伸ばすことができたのは、内政に関する民進党に対する不満があるからで、それは2022年11月に行われた、内政が問われる統一地方選挙で国民党が圧勝し、民進党が惨敗したことからも窺(うかが)われる。しかし、対外政策が重視される総統選においては、親米寄りの民進党が勝利した。その背景には言うまでもなくアメリカの力があり、「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主基金)は台湾にその支部である「台湾民主基金会」を2003年に設立しているほどだ(詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【図表6‐8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】など)。その浸透力は大きい。その証拠に、2023年11月20日のコラム<米国在台湾協会は3回も台湾総統候補者を面接試験し、柯文哲は常に選挙状況を報告するよう要求されている>(※2)に書いたように、民衆党の柯文哲は野党一本化である「藍(国民党)白(民衆党)合作」に署名したことを発表した瞬間に、AIT(米国在台湾協会)から連絡が来て「おまえ、何するつもりだ?」と威嚇され、「藍白合作」は破局した。柯文哲自らが告白しているので間違いはないだろう。もし、「藍白合作」が潰されていなかったら、得票率(頼清徳40.05%、侯友宜33.49%、柯文哲26.46%)から言って、野党連合は59.95%前後の票を獲得していた可能性があり、野党連合が圧勝したはずだ。したがって、この選挙はアメリカと中国大陸との闘いでもあり、アメリカが戦略的に勝利したということもできる。事実、頼清徳は勝利宣言のスピーチ(※3)で、中国大陸の選挙活動介入を「外部勢力の介入」と批判しており、アメリカの介入は台湾に浸透しきっていて「内部勢力」と認識していることになる。◆国民党の敗因は国民党自身に「緑白合作」も?もう一つの国民党の敗因は、国民党自身にある。侯友宜は選挙期間中、「九二コンセンサス」とか「一つの中国」、ましてや「統一」などといった類の言葉を使わないように慎重に言葉を選んでいたのに、選挙直前(1月8日)になって、馬英九元総統が、DW(Deutsche Welle、ドイツの声)の取材に答えて<「九二コンセンサス」を讃えたり、習近平を信じるべきだと言ったり>(※4)などしたからだ。この情報が1月10日に公開された。選挙民は一気に国民党から離れていったのは否めないだろう。そのためもあってか、選挙後、頼清徳は<何なら民衆党と組む可能性もなくはない>(※5)と示唆しているので、「ねじれ国会」が解消される可能性もある。しかし、これで民衆党の柯文哲が今度は緑(民進党)と「緑白合作」という連立内閣を組むようなことをしたら、もう柯文哲の信用はガタ落ちになるのではないだろうか?柯文哲はそもそも「民進党のやり方は絶対に許さない!」と叫んで民衆党の産声を上げたようなものだし、台北市長時代は<「両岸は一つの家族」と中国を讃えていた>(※6)のに、節操がなさ過ぎるだろう。立法委員の任期は2月1日からなので、今年も2月1日に立法院の院長・副院長が選出される(※7)。今回、国民党と民進党はどちらも全議席の過半数に達してないので、民衆党がどちらに付くかによって、立法院の院長が国民党になるか、あるいは民進党になるかが決まる可能性が高い。したがって2月1日になれば、「緑白合作」という、あり得ないような状況の有無が明らかになるものと推測される。◆中国の反応では、今般の選挙結果に関して、中国はどのように反応しているのだろうか?習近平にしてみれば、あまりに衝撃的な結果だったのでしばらく報道が規制されていたくらいだったが、いつまでもそうもいくまい。夜中の22:46になって、最初に公的見解を発表したのは国務院台湾弁公室(※8)だった。その見解は概ね以下のようなものである。●民進党が台湾の主流世論を代表しているわけではない。●台湾は中国の台湾で、今回の選挙が両岸関係の基本的な発展の方向性を変えることは絶対にできない。祖国がいずれ、そして必然的に統一されるという大勢を阻止することはできない。●台湾問題を解決し、祖国統一を成し遂げるという(中国の)姿勢は一貫しており、その意志は磐(いわお)のように揺るぎない。「一つの中国」原則を体現する「九二コンセンサス」を堅持し、「台湾独立」の分離主義行動と外部勢力の干渉に断固として反対し、台湾の関連政党、組織、各界の人民と協力して、両岸関係の平和的発展を促進し、祖国統一の偉大な偉業を前進させる。(以上)頼清徳の得票率が40%であったため、残り60%の民意を合わせたものが「台湾の民意だ」という主張は、台湾内にもあるが、上記見解の冒頭部分は、そのことを指している。同様の内容は13日夜、外務省報道官の意思表明(※9)にもあり、14日の中央テレビ局CCTVのお昼のニュース(※10)でも、ほぼ同じ文面で報道した。いずれも悔しさが滲み出ている。◆習近平はどう出るのか? 腐敗で軍事力は弱ってないのか?バイデン大統領は台湾総統選における民進党の勝利に関し<台湾の独立は支持しない>(※11)と言ってはいる。おまけに「台湾は中国の一部だ」とまで一歩踏み込んで発言したのは珍しい。しかし一方では同報道(※12)で、バイデン政権の高官が「バイデンは民進党政府への支持を示すため、台湾に非公式の代表団を派遣する予定だ」と言っているという。相変わらずの言行不一致だ。非公式であるにせよ、米政界人が訪台したりなどすれば、中国は又もや軍事演習で威嚇するかもしれない。その威嚇は4年後の台湾総統選にプラスに働くとは思わないが、中国が軍事的威嚇をしないという保証はない。いや、するだろう。しかし、1月10日のコラム<習近平に手痛い軍幹部大規模腐敗と中国全土の腐敗の実態>(※13)にも書いたように、ロケット軍を中心にこのような大規模腐敗があるようでは、中国の軍事力も大幅に衰退するのではないかと思うのが普通だろう。そこで関連データに当たってみたところ、当該コラムの図表4および図表5に示したように、案外に衰退していない。タイムラグがあるからかもしれないとも考えたが、同じ疑問を持つ人はシンガポールにもいたようだ。1月9日の聯合早報は<解放軍 組織ぐるみの刑事事件>(※14)という見出しで、「激しい腐敗は解放軍の戦力に影響を与えるのか」というテーマに関して考察している。聯合早報の駐北京記者は「腐敗があるということは投資が普通ではなく多いということで、腐敗があっても、それによって軍が弱体化するところまではいかず、習近平は軍の秩序を掌握している」というニュアンスの分析をしている。筆者が前掲のコラムで示した図表4と図表5の関連データは、聯合早報の分析に近い状況を示しているので、当該コラムでも書いたように、江沢民時代のような腐敗全盛時代は、習近平政権になってからの反腐敗大運動で一定程度は鎮静化しており、それほどの大きな影響は受けないのかもしれない。であるならば、今まで通り、いや、それ以上に軍事演習で威嚇する可能性がある。それでも、台湾が政府として独立を宣言しない限り、武力攻撃するという確率はやはり小さいだろう。中国にとってメリットがないからだ。ちなみに、昨年11月に訪米してサンフランシスコでバイデンに会った時に、習近平は<2027年とか2035年に台湾を武力攻撃するなどという話は聞いたことがない」と言った>(※15)そうだ。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いたことは正しかったことになろうか。まずは2月1日の立法院の動きを待ちたい。この論考はYahoo(※16)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4822(※3)https://tw.news.yahoo.com/2024%E7%B8%BD%E7%B5%B1%E5%A4%A7%E9%81%B8-%E8%B3%B4%E6%B8%85%E5%BE%B7%E6%89%93%E7%A0%B4-8%E5%B9%B4%E9%AD%94%E5%92%92-%E5%AE%A3%E5%B8%83%E5%8B%9D%E9%81%B8-%E8%87%B4%E8%A9%9E%E5%85%A8%E6%96%87%E6%9B%9D%E5%85%89-132521553.html?guccounter=1(※4)https://www.dw.com/zh/%E9%A6%AC%E8%8B%B1%E4%B9%9D%E5%B0%B1%E5%85%A9%E5%B2%B8%E9%97%9C%E4%BF%82%E8%80%8C%E8%A8%80%E5%BF%85%E9%A0%88%E7%9B%B8%E4%BF%A1%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3/a-67934445(※5)https://www.cna.com.tw/news/aipl/202401140113.aspx(※6)http://hk.crntt.com/doc/1036/9/0/0/103690067_2.html?coluid=93&kindid=2910&docid=103690067&mdate=0331095309(※7)https://www.ly.gov.tw/Pages/List.aspx?nodeid=149(※8)http://www.news.cn/tw/20240113/de4b608e529742d6bb428d5993c66c41/c.html(※9)https://www.fmprc.gov.cn/fyrbt_673021/202401/t20240113_11223310.shtml(※10)https://tv.cctv.com/2024/01/14/VIDESC7EVTcywZAe3Nrvxgf1240114.shtml?spm=C45305.PqDAXWMng6mR.EIEv9BrzSCjy.35(※11)https://www.reuters.com/world/biden-us-does-not-support-taiwan-independence-2024-01-13/(※12)https://www.reuters.com/world/biden-us-does-not-support-taiwan-independence-2024-01-13/(※13)https://grici.or.jp/4931(※14)https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20240109-1460955(※15)https://www.voachinese.com/a/xis-denial-of-plan-to-invade-taiwan-caused-a-stir-in-taiwans-presidential-candidates-20231122/7366374.html(※16)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3bbb1e9015f975bfda921548182cdb516cfefb16
<CS>
2024/01/15 10:28
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