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「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2023/03/13 10:29 配信元:FISCO
*10:29JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

◆「国家公安部と国家安全部を合併して内務部を創設」というフェイクニュース
今年2月23日、香港メディアの一つである「明報」のカナダ網(※2)は、中国がこのたびの全人代で「公安部と国家安全部が国務院制度から分離され、中国共産党中央委員会直下に新設された「中央内務委員会」(仮称)に移管される」という趣旨の情報を発信した。そこには、その結果、公安、移民、戸籍、運輸、テロ対策、スパイ対策、さらには民政部の社会組織管理の機能を統合する可能性があると書いてある。

すると在米の華人華僑などの世界からは直ちに、「習近平の一強独裁は遂に警察国家を生む」とか、「習近平は旧ソ連のKGBを復活させ、中国をスターリン化させようとしている」といったコメントがネットで発信された。ゼロコロナ反対で「白紙運動」を促した在米華人華僑からは「白紙運動」への報復だというコメントも見られた。

しかし、習近平がいま最も力を入れているのは「アメリカに潰されないこと」だ。そのためには科学技術領域で挙国体制を取らなければならないし、アメリカから制裁を受けた場合の「通貨」に関して準備態勢を整えなければならない。それは具体的に国務院機構改革の内容に具現化されている。

事実、国務院機構改革方案には、公安部や国安部を国務院から離脱させて合併させるなどということは一文字も書いていない。公安部は庶民生活の警察を担うが、国安部は「国家安全保障」に関わる部局なので、公安などと一緒にしたら、かえって西側に対する「国家安全保障」を弱体化させるリスクがある。ましてや毛沢東時代の「内務部」(1969年に撤廃)などを復活させることは「台湾平和統一」を目指す習近平政権にとってマイナスのシグナル発信以外の何ものでもない。

真に中国の政治を分かっている人なら、瞬時に「あり得ない!」と判断できるのだが、日本ではこの「あり得ない」フェイクニュースに乗っかってしまい、習近平政権が恐るべき恐怖政治を始めるとして大々的に論を張ったジャーナリストたちがいる。

大勢いるのだが、その中の2人をご紹介しよう。

1人は日経新聞の中沢克二氏で、もう一人はフリーのジャーナリストの福島香織氏だ。習近平の反腐敗運動を「権力闘争」と位置付けた「権力闘争論者」たちの仲間の2人だ。

中沢氏は3月1日に、<習近平直轄の公安・警察誕生も 白紙・白髪運動で強化>(※3)という記事を書き、福島氏は3月2日に<大粛清を始める習近平、中国版KGBの発足で「スターリン化」の気配 中国の警察国家化を推し進める「中央内務委員会」創設>(※4)という記事を発表。

筆者はこれに関して某テレビ局から取材を受けたので、「絶対にあり得ませんね!こんなフェイクニュースに乗らない方がいいのではないですか?」と、きっぱり回答したため、取材を申し込んだ人から「ほんとですかぁ~?」という疑念を抱かれた。視聴者が喜びそうな情報を肯定しない筆者を、「おもしろくない」とでも思ったのだろうか。最後まで「フェイクだ」と主張する筆者を信じなかった。

本来なら、このような実名を出したくはないのだが、取材者が実例として挙げたのがこの2人のジャーナリストの名前だったので、ここで明確に断言したい。

これはフェイクだ!

2人とも、以前は素晴らしい記事を書いていて頼もしく思っていたが、権力闘争論者(習近平の反腐敗運動は政敵を倒すための権力闘争でしかないという主張をする人々)になってからは真実が見えなくなっているのではないかと残念でならない。習近平の反腐敗運動はハイテク国家戦略を断行してアメリカに潰されないようにするためで、その結果軍隊の近代化が達成され、ハイテク産業においては多くの分野で世界トップにのしあげっている。このことは3月7日のコラム<習近平がアメリカを名指し批判して示す、中国経済の新しい方向性>(※5)で数多くの図表を使って示したオーストラリアのシンクタンクの調査結果でも明らかである。

このようなフェイクニュースに平気で乗っかり、読者を惹きつける記事をもてはやすという日本のマスコミの在り方は、日本人に中国の真相を見えないようにするための役割を果たし、結果、気が付けば日本が中国に取り残されているという、最も見たくない現実を招くだけなのである。そのことを憂う。

なお、本方案は3月10日の全人代第三次全体会議で議決された。



写真: 新華社/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.mingpaocanada.com/van/htm/News/20230223/tcah1_r.htm
(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK246RE0U3A220C2000000/
(※4)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74174
(※5)https://grici.or.jp/4104



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