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習近平の新年の挨拶「祖国統一は歴史的必然」は毛沢東時代から(2)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/01/09 16:36
配信元:FISCO
*16:36JST 習近平の新年の挨拶「祖国統一は歴史的必然」は毛沢東時代から(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「習近平の新年の挨拶「祖国統一は歴史的必然」は毛沢東時代から(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
◆毛沢東は何度も台湾の平和統一を提案している
では、毛沢東がなぜ台湾の平和統一を提唱し、「台湾同胞に告ぐ書」を発表するに至ったのかを考察してみよう。
毛沢東が1949年10月1日に新中国「中華人民共和国」の誕生を宣言したとき、台湾の解放はまだ成されていなかった。「解放」というのは中国共産党の軍隊である中国人民解放軍が国共内戦(=解放戦争=革命戦争)において、その地における国民党による支配を打倒し、勝利した解放軍側の共産党が統治することを言う。
国共内戦で大陸において敗北した国民党軍を率いる蒋介石は、1949年12月に中華民国の首都・南京を脱出し台湾に逃れ、台北に遷都した。
台湾は海路か空路でないと攻撃できないので、海軍も空軍も弱かった中国人民解放軍は、旧ソ連のスターリンに依頼し、新中国誕生を宣言した後にすぐ、ソ連から海軍や空軍の支援を得て台湾解放を実現させる約束を取り付けていた。
ところが北朝鮮の金日成(キム・イルソン)が南北朝鮮を統一するため朝鮮戦争をスターリンと結託して1950年6月に起こしたため、台湾解放のためのソ連の支援は実現されなかった。
新中国誕生を宣言したのは、中国大陸を次々に解放していったので、まだ残されている海南島や台湾は宣言後に一気に解放していこうと、毛沢東は計画していた。しかし朝鮮戦争で中国人民志願軍が全力投入してアメリカの北上を食い止めたため消耗していた上に、アメリカが第七艦隊を台湾海峡に付けていたため、海南島などは宣言後に解放しているが、国共内戦をそのまま継続させることが困難になってしまった。
そこで毛沢東は「平和統一」を模索し始めたのである。
詳細は2009年8月13日の中国新聞網に新華網からの転載として<毛沢東はかつて武力で台湾を解放しようとしていたが、なぜ実現できなかったのか?>(※2)という見出しで書いてある。
一方、2021年3月9日の「中国台湾網」は、その昔の新華網の情報として1956年における<毛主席の和平統一思想>(※3)を公開している。それによると、1956年1月、毛沢東は「国共(国民党と共産党)はすでに二回合作している。いま我々は第三回目の合作を準備している」とスピーチし、平和統一の条件などを述べている。
・台湾に行ったままの軍人や政治家には、本土(大陸)に残した親戚や友人が多いだろう。自由に行き来して互いに会うといい。如何なる制限も設けず、便宜と支援を提供する。
・台湾がアメリカとの関係を断絶しさえすれば、台湾は北京中央で開催している全国人民代表大会や中国人民政治協商会議全国委員会に参加するための代表(議員)を送り込むこともできる。但し、外国軍(米軍)は台湾から撤退しなければならない。(以上、中国台湾網よりの引用)
ほかにも多くの文献があるが、1957年以降のことは前掲の中国新聞網の情報がわかりやすい。ただ長文なので、要点だけを拾うと以下のようになろうか。
1.1956年7月、毛沢東は「台湾平和解放工作強化に関する中共中央の指示」を発布し、蒋介石の息子・蒋経国と仲が良かった曹聚仁という学者を(香港から)招き和平工作に関して話し合った。そこで第三回国共合作という毛沢東側の意図を、曹聚仁を通して蒋経国に伝えてもらった。しかし台湾側は肯定的な反応を示さなかった。
2. 1957年4月、「人民日報」は初めて、毛沢東には第三回国共合作をする用意があることを公表した。
3. 新中国誕生後、毛沢東は本来、台湾を解放するに当たり金門と馬祖を解放して、次に台湾解放につなげようとしていたのだが、1958年、金門・馬祖解放を当面は実行しないと表明した。
すると、「中華民国」の領土として「大陸奪還」のチャンスを狙っていた台湾の蒋介石は中国大陸の沿岸部を爆撃し始めた。しかも米軍に支援を求めたのだ。そこで同年7月、毛沢東は金門への砲撃準備を指示した。
ところが米軍は、最初は強硬姿勢を示していたが、実際は国民党の船団を金門から3海里のみ護衛するに留め、「国共内戦」に巻き込まれることを避けた。アメリカは「大陸と台湾」が一つになることを嫌い、「二つの中国」あるいは「一つの中国と一つの台湾」となること(=台湾が独立すること)を望み、蒋介石に「大陸奪還」を諦めさせようとした。しかし蒋介石は断固として拒否!(筆者注:拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』のp.255前後にも書いたが、実は台湾に逃れた蒋介石は、何としても大陸を奪還しようとして、日中戦争で戦った相手の旧日本軍の岡村寧次大将に依頼し、元日本陸軍参謀から成る「白団」という軍事顧問団を1950年2月、秘密裡に台湾に招聘した。ところがアメリカに気づかれ、アメリカに猛反対されて「白団」は消滅している。それくらいアメリカは蒋介石が「大陸奪還」のために戦うことを阻止した。)
4. しかし、毛沢東にとっても蒋介石にとっても「一つの中国」しかあり得ず、革命戦争前の「中華民国」を「毛沢東が取るか、蒋介石が取るか」の二者択一しかなかった。
つまり、毛沢東と蒋介石の考え方が一致していて、毛沢東は「蒋介石がアメリカの考え方を拒否している事実」に目を付けたのである。そこで毛沢東は金門攻撃を突如停止させた。金門と馬祖を蒋介石に渡しておく方が、「一つの中国」という、毛沢東(共産党)と蒋介石(国民党)の共通の利益に合致すると判断した。金門と馬祖を蒋介石が領有していれば、蒋介石はそれを足掛かりに「大陸奪還」の夢を捨てないだろうから「一つの中国」という概念が持続するからだ。そのため毛沢東はわざと時々小規模な攻撃を行って、今はまだ国共内戦中で、「一つの中国しかない」という認識を蒋介石と共有した(筆者注:これは現在の大陸による軍事演習に相当する)。
5. 1958年10月6日、毛沢東は「台湾同胞に告ぐ書」を発表。「台湾、澎湖島、金門、馬祖は中国の領土の一部であり、世界には“一つの中国”しか存在しない」、「われわれ(共産党と国民党)の共通の敵はアメリカ帝国主義である」とした上で、統一後の台湾の状況に関して「蒋介石は彼の軍隊を維持していい」および「蒋介石には軍隊と政治経済システムと権力構造の保持を認める」と表明した。(筆者注:そのため、現在も台湾平和統一後は、台湾は軍をそのまま維持していいことになっている。)
6. 1958年10月25日、毛沢東は「台湾同胞に再び告ぐ書」を発表。アメリカが台湾に内政干渉してくる目的を明らかにし、アメリカは台湾を利用して自らの覇権を維持しようとしているだけなので「アメリカの有毒な計画に注意せよ」と警告した。
以上が毛沢東の台湾平和統一構想の経緯と「台湾同胞に告ぐ書」の流れである。
なお長男・毛岸英を朝鮮戦争で失った毛沢東は、「台湾は百年かかっても解放する(統一する)」と誓っている。その言葉は、たとえば<毛沢東は晩年、中米関係をどのように処理しようとしていたか>(※4)や、『毛沢東年譜』に書いてある1973年11月17日における<毛沢東とキッシンジャーとの会話>(※5)などにも表れている。
◆祖国統一は歴史的必然
中国は、毛沢東が「いざとなったら武力的手段によって台湾を解放することを否定はしないが、基本的には何としても政治外交的に(=平和的に=話し合いによって)台湾問題を解決したい」と主張し、「第三次国共合作があってもいい」と言い続けていたことを基本として国家運営をしてきた。それはあくまでも「国共内戦をどういう形で終わらせるか」という中国国内の問題であり、そこにアメリカが内政干渉してくるのはおかしいと主張し続けてきているのだ。これは1950年に朝鮮戦争が起きたために中断された国共内戦の問題なので、「祖国統一は歴史的必然性」であるという位置づけを貫いている。
以上より、習近平だけが台湾統一を主張しているのではなく、毛沢東以来の国家的課題であることが明らかになったのではないかと期待する。
もちろん、あまりに長い時間が経ちすぎ、国共内戦を知らない世代が多くなり、台湾人としてのアイデンティティも芽生えてきたので、静かに1月13日の台湾総統選の結果を待ちたい。
この論考はYahoo(※6)から転載しました。
写真: CCTVより
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.chinanews.com.cn/cul/news/2009/08-13/1816313.shtml
(※3)http://www.taiwan.cn/xwzx/zxzt/2021zhuanti/__deleted_2021.05.11_11.10.34__jdybzn/ghlc/202103/t20210309_12337043.htm
(※4)http://www.charhar.org.cn/newsinfo.aspx?newsid=16440
(※5)http://www.zywxpress.com/c/2021-02-25/1350306.shtml
(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f61ef11aa9fec3d6e71bd3651629a1c0852d1d6f
<CS>
◆毛沢東は何度も台湾の平和統一を提案している
では、毛沢東がなぜ台湾の平和統一を提唱し、「台湾同胞に告ぐ書」を発表するに至ったのかを考察してみよう。
毛沢東が1949年10月1日に新中国「中華人民共和国」の誕生を宣言したとき、台湾の解放はまだ成されていなかった。「解放」というのは中国共産党の軍隊である中国人民解放軍が国共内戦(=解放戦争=革命戦争)において、その地における国民党による支配を打倒し、勝利した解放軍側の共産党が統治することを言う。
国共内戦で大陸において敗北した国民党軍を率いる蒋介石は、1949年12月に中華民国の首都・南京を脱出し台湾に逃れ、台北に遷都した。
台湾は海路か空路でないと攻撃できないので、海軍も空軍も弱かった中国人民解放軍は、旧ソ連のスターリンに依頼し、新中国誕生を宣言した後にすぐ、ソ連から海軍や空軍の支援を得て台湾解放を実現させる約束を取り付けていた。
ところが北朝鮮の金日成(キム・イルソン)が南北朝鮮を統一するため朝鮮戦争をスターリンと結託して1950年6月に起こしたため、台湾解放のためのソ連の支援は実現されなかった。
新中国誕生を宣言したのは、中国大陸を次々に解放していったので、まだ残されている海南島や台湾は宣言後に一気に解放していこうと、毛沢東は計画していた。しかし朝鮮戦争で中国人民志願軍が全力投入してアメリカの北上を食い止めたため消耗していた上に、アメリカが第七艦隊を台湾海峡に付けていたため、海南島などは宣言後に解放しているが、国共内戦をそのまま継続させることが困難になってしまった。
そこで毛沢東は「平和統一」を模索し始めたのである。
詳細は2009年8月13日の中国新聞網に新華網からの転載として<毛沢東はかつて武力で台湾を解放しようとしていたが、なぜ実現できなかったのか?>(※2)という見出しで書いてある。
一方、2021年3月9日の「中国台湾網」は、その昔の新華網の情報として1956年における<毛主席の和平統一思想>(※3)を公開している。それによると、1956年1月、毛沢東は「国共(国民党と共産党)はすでに二回合作している。いま我々は第三回目の合作を準備している」とスピーチし、平和統一の条件などを述べている。
・台湾に行ったままの軍人や政治家には、本土(大陸)に残した親戚や友人が多いだろう。自由に行き来して互いに会うといい。如何なる制限も設けず、便宜と支援を提供する。
・台湾がアメリカとの関係を断絶しさえすれば、台湾は北京中央で開催している全国人民代表大会や中国人民政治協商会議全国委員会に参加するための代表(議員)を送り込むこともできる。但し、外国軍(米軍)は台湾から撤退しなければならない。(以上、中国台湾網よりの引用)
ほかにも多くの文献があるが、1957年以降のことは前掲の中国新聞網の情報がわかりやすい。ただ長文なので、要点だけを拾うと以下のようになろうか。
1.1956年7月、毛沢東は「台湾平和解放工作強化に関する中共中央の指示」を発布し、蒋介石の息子・蒋経国と仲が良かった曹聚仁という学者を(香港から)招き和平工作に関して話し合った。そこで第三回国共合作という毛沢東側の意図を、曹聚仁を通して蒋経国に伝えてもらった。しかし台湾側は肯定的な反応を示さなかった。
2. 1957年4月、「人民日報」は初めて、毛沢東には第三回国共合作をする用意があることを公表した。
3. 新中国誕生後、毛沢東は本来、台湾を解放するに当たり金門と馬祖を解放して、次に台湾解放につなげようとしていたのだが、1958年、金門・馬祖解放を当面は実行しないと表明した。
すると、「中華民国」の領土として「大陸奪還」のチャンスを狙っていた台湾の蒋介石は中国大陸の沿岸部を爆撃し始めた。しかも米軍に支援を求めたのだ。そこで同年7月、毛沢東は金門への砲撃準備を指示した。
ところが米軍は、最初は強硬姿勢を示していたが、実際は国民党の船団を金門から3海里のみ護衛するに留め、「国共内戦」に巻き込まれることを避けた。アメリカは「大陸と台湾」が一つになることを嫌い、「二つの中国」あるいは「一つの中国と一つの台湾」となること(=台湾が独立すること)を望み、蒋介石に「大陸奪還」を諦めさせようとした。しかし蒋介石は断固として拒否!(筆者注:拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』のp.255前後にも書いたが、実は台湾に逃れた蒋介石は、何としても大陸を奪還しようとして、日中戦争で戦った相手の旧日本軍の岡村寧次大将に依頼し、元日本陸軍参謀から成る「白団」という軍事顧問団を1950年2月、秘密裡に台湾に招聘した。ところがアメリカに気づかれ、アメリカに猛反対されて「白団」は消滅している。それくらいアメリカは蒋介石が「大陸奪還」のために戦うことを阻止した。)
4. しかし、毛沢東にとっても蒋介石にとっても「一つの中国」しかあり得ず、革命戦争前の「中華民国」を「毛沢東が取るか、蒋介石が取るか」の二者択一しかなかった。
つまり、毛沢東と蒋介石の考え方が一致していて、毛沢東は「蒋介石がアメリカの考え方を拒否している事実」に目を付けたのである。そこで毛沢東は金門攻撃を突如停止させた。金門と馬祖を蒋介石に渡しておく方が、「一つの中国」という、毛沢東(共産党)と蒋介石(国民党)の共通の利益に合致すると判断した。金門と馬祖を蒋介石が領有していれば、蒋介石はそれを足掛かりに「大陸奪還」の夢を捨てないだろうから「一つの中国」という概念が持続するからだ。そのため毛沢東はわざと時々小規模な攻撃を行って、今はまだ国共内戦中で、「一つの中国しかない」という認識を蒋介石と共有した(筆者注:これは現在の大陸による軍事演習に相当する)。
5. 1958年10月6日、毛沢東は「台湾同胞に告ぐ書」を発表。「台湾、澎湖島、金門、馬祖は中国の領土の一部であり、世界には“一つの中国”しか存在しない」、「われわれ(共産党と国民党)の共通の敵はアメリカ帝国主義である」とした上で、統一後の台湾の状況に関して「蒋介石は彼の軍隊を維持していい」および「蒋介石には軍隊と政治経済システムと権力構造の保持を認める」と表明した。(筆者注:そのため、現在も台湾平和統一後は、台湾は軍をそのまま維持していいことになっている。)
6. 1958年10月25日、毛沢東は「台湾同胞に再び告ぐ書」を発表。アメリカが台湾に内政干渉してくる目的を明らかにし、アメリカは台湾を利用して自らの覇権を維持しようとしているだけなので「アメリカの有毒な計画に注意せよ」と警告した。
以上が毛沢東の台湾平和統一構想の経緯と「台湾同胞に告ぐ書」の流れである。
なお長男・毛岸英を朝鮮戦争で失った毛沢東は、「台湾は百年かかっても解放する(統一する)」と誓っている。その言葉は、たとえば<毛沢東は晩年、中米関係をどのように処理しようとしていたか>(※4)や、『毛沢東年譜』に書いてある1973年11月17日における<毛沢東とキッシンジャーとの会話>(※5)などにも表れている。
◆祖国統一は歴史的必然
中国は、毛沢東が「いざとなったら武力的手段によって台湾を解放することを否定はしないが、基本的には何としても政治外交的に(=平和的に=話し合いによって)台湾問題を解決したい」と主張し、「第三次国共合作があってもいい」と言い続けていたことを基本として国家運営をしてきた。それはあくまでも「国共内戦をどういう形で終わらせるか」という中国国内の問題であり、そこにアメリカが内政干渉してくるのはおかしいと主張し続けてきているのだ。これは1950年に朝鮮戦争が起きたために中断された国共内戦の問題なので、「祖国統一は歴史的必然性」であるという位置づけを貫いている。
以上より、習近平だけが台湾統一を主張しているのではなく、毛沢東以来の国家的課題であることが明らかになったのではないかと期待する。
もちろん、あまりに長い時間が経ちすぎ、国共内戦を知らない世代が多くなり、台湾人としてのアイデンティティも芽生えてきたので、静かに1月13日の台湾総統選の結果を待ちたい。
この論考はYahoo(※6)から転載しました。
写真: CCTVより
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.chinanews.com.cn/cul/news/2009/08-13/1816313.shtml
(※3)http://www.taiwan.cn/xwzx/zxzt/2021zhuanti/__deleted_2021.05.11_11.10.34__jdybzn/ghlc/202103/t20210309_12337043.htm
(※4)http://www.charhar.org.cn/newsinfo.aspx?newsid=16440
(※5)http://www.zywxpress.com/c/2021-02-25/1350306.shtml
(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f61ef11aa9fec3d6e71bd3651629a1c0852d1d6f
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米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】
*11:00JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆憤慨する中国中国のネットには、米・国防総省が予算獲得のために「中国の脅威」を手段として使うことに対する憤慨が数多く見られる。特に、上記の「1」や「4」にあるように、アメリカは、習近平が2027年までに台湾を武力攻撃するというデマを拡散させて国防予算を獲得しようとしたり、日本を煽って日本の国防費を増額させようと画策したりしてきた。このことは2023年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>(※2)にも書いた通りだ。すなわち、中国では2020年10月26日から29日まで北京で第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)が開催され、10月29日に<第19回党大会五中全会公報>(※3)が中国共産党網で発布された。公報の全文は約6800文字あるが、その中の「確保二〇二七年実現建軍百年奮闘目標」という、わずか「17文字」が、「建軍百年に向けた奮闘目標を確保しよう」と書いてあるだけだ。国のトップが、「建軍百周年記念に向かって頑張ろう!」と兵士に向かって激励するのは、どの国でも自然のことだろうが、アメリカは「しめた!」とばかりに、この「17文字」に飛びついた。すると、日本政府も日本の中国論者たちもまた、まるで「鬼の首でも取った」かのように、アメリカのこの「ご高説」に飛びつき、台湾武力攻撃説を喧伝しまくったのである。バカバカしいだけでなく、日本人の命を戦火の中に巻き込む危険な「フェイク」なので、筆者はいたる所で、その虚偽性と扇動性に関して書いてきたが、日本人は「好戦的な論説」の方を好むという、愚かな選択をしている。中国の嫌日感情の主たる源泉は、ここにあると言っても過言ではないだろう。中国のネットには、あまりに多くの「報告書」に対する批判と抗議と冷笑があるので、どれか一つを取り上げて解説するのは困難だが、それでも一応、まずは中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の論説を見てみよう。2月20日の環球時報は<米国は「中国軍事力報告書」を発表して中国人民解放軍を中傷 中国は「事実を無視し、偏見に満ち、“中国脅威論”を広めていると反駁>(※4)している。目新しい内容としては、環球時報が軍事専門家の意見として「今年の報告書には、認知戦闘能力や、西太平洋で軍事紛争が発生した場合に中国がエネルギー供給能力を確保する上で直面する課題など、いくつかの新しい内容が追加されている。これは、将来、西太平洋で軍事紛争が発生した場合、米国が軍事介入し、中国のエネルギー供給ラインに悪の手を伸ばし、中国のエネルギー供給を遮断することを示している。これは中国が非常に警戒すべきことだ」と報道していることだ。中国はむしろ「報告書」を分析して、アメリカが何を狙っているかという分析を深めていることが興味深い。12月19日には、比較的に知識人が集まる観察者網が<米・国防総省は中国の核拡大を誇大宣伝しており、2030年には1,000発の核爆弾を保有するとしている>(※5)という見出しで「報告書」を分析している。この分析で「報告書」に関して注目している興味深い話題を挙げると、以下のようなものがある。●「報告書」によると、軍艦、海上兵器、電子システムの生産において、中国の防衛産業は「ほぼすべての造船ニーズを満たすことができる」という。報告書は、中国海軍が世界最大の海軍であり、140隻以上の主要な水上艦を含む370隻以上の艦艇と潜水艦を保有し、米国海軍の290隻を上回っていると評価しており、中国はさまざまな建造段階にある新しい駆逐艦や強襲揚陸艦も多数保有していると評価している。●アメリカのメディアは、アメリカの国防予算が依然として世界最高であり、アメリカは実戦に投入できる核弾頭を約1550発も保有していると言及している。●昨年、米国が発表した年次報告書(『中国軍事力報告書』)について、中国外交部の毛寧報道官は、「米国こそが世界で最大かつ最先端の核兵器を保有している国であり、核兵器の先制使用を主張し、核戦力の増強に多額の投資を続け、同盟国に対する“拡大抑止”を強化している」と指摘した。◆ビリビリ動画:米・国防部は予算の20%しか武器装備費に使ってない一方、中国の人気動画であるビリビリ動画が12月9日に<米軍(の予算)9000億ドルは、いったい何に使っているんだい?なんで(9000億ドルもあるのに)足りないんだ? :米軍2025年装備購入分析>(※6)というタイトルの分析を賑々しく公開している。その分析は、今年3月11日に発表された米国の<2025年の国防総省予算要求>(※7)に基づいて行われており、要点は以下のようなものである。●米軍の2025年の軍事予算は9000億ドルと巨額であるものの、実際に装備品調達に使われる部分は比較的少なく、約1675億ドルで、全体のわずか20%にも満たない。●中国の軍事予算は約3000億ドルと言われているけれど(ストックホルム国際平和研究所が推測した中国の2023年の軍事費)、その30%~40%は装備品調達に使われているようなので、米軍の装備品調達費は中国やロシアよりも低いか、トントンくらいだ。●予算要求では、戦闘機や装甲車、軽火器など、米軍のさまざまな装備品の具体的な購入額が詳しく紹介されているが、国防産業部門の単価の高さには驚く。これは今後数年間で米軍の軍事力が徐々に縮小していくだろうことを示唆している。(動画の概要は以上)となると、まさにイーロン・マスクが指摘した通り、米国の国防総省の予算は「無駄が多く、非効率的だ」ということになる。国防総省はそれを知っているので、イーロン・マスクがどのように言うかを見届けてから発表しようとして、今年は「報告書」の発表を遅らせたのではないだろうか。ご参考までに書くと、この年次報告(『中国軍事力報告書』)はここのところ、「2020年9月1日/2021年11月3日/2022年11月29日/2023年10月19日/2024年12月18日」という日時で発表されている。例年に比べると、今年はいやに遅い。きっとイーロン・マスクが「政府効率化省」で何をするかを見届けたかったために遅れたのにちがいない。なお、「報告書」が指摘する「汚職摘発で中国の軍事力が向上している可能性」は薄く、中国の腐敗は「底なしか」と筆者は思っている。それに関しては、機会があれば別途考察を試みたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※8)より転載しました。写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4015(※3)https://www.12371.cn/2020/10/29/ARTI1603964233795881.shtml(※4)https://mil.huanqiu.com/article/4Kj5IuAVPuh(※5)https://www.guancha.cn/internation/2024_12_19_759324.shtml(※6)https://www.bilibili.com/video/BV15CqNYzErK/(※7)https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/Budget2025/(※8)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8
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2024/12/25 11:00
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米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】
*10:58JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米・国防総省が12月18日に『中国軍事力報告書』を発表し、「(中国の)汚職摘発が進んだためにロケット軍の作戦能力が向上する可能性がある」と指摘した。したがって「台湾武力攻撃で失敗したら、中国は核兵器の先制使用をするだろう」とも予測している。トランプ第二次政権(トランプ2.0)で「政府効率化省」を担当することになっているイーロン・マスク氏が「国防費の無駄と非効率化」を盛んに表明しているので、そのことに対する警戒感からか、米・国防総省は国防費獲得のために「中国の脅威」を誇張しているものと思われる。しかし、そのようなことに利用された中国はたまったものではないにちがいない。激しい抗議と批判と、中には冷笑も中国のネットに溢れている。◆米・国防総省が発表した『中国軍事力報告書』の内容12月18日、アメリカの国防総省は、毎年発表している『中国軍事力報告書』の2024年版を発表した。正確にはMilitary and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2024(※2)(中華人民共和国に関わる軍事・安全保障の動向 2024)というタイトルだ。ここでは中国で用いている通称『中国軍事力報告書』(以下、「報告書」)で話を進める。180ページにも及ぶ長編の「報告書」なので、ザックリとしたポイントだけを並べると、以下のようになる。1.2023年、中国人民解放軍は汚職関連の調査と上級幹部の解任の新たな波を経験し、2027年の近代化目標に向けた進捗を妨げた可能性がある。2.一方、汚職事件は中国のミサイル産業が急成長していた時期に起きた弾道ミサイル用地下サイロ建設に関する詐欺事件と関係があるようなので、その摘発は中国指導者に対する信頼を高め、核任務が特に重要であることを軍に認識させた。その結果、サイロを拠点とする部隊の全体的な作戦即応性が向上したと考えられる(筆者注:ここで言う「サイロ」とはミサイルサイロのことで、大陸間弾道ミサイルなどの大型ミサイルを格納する建築物のことである。今ではそれが地下に建設されていることが多い)。3.その結果、中国が保有する運用可能な核弾頭は去年より100発ほど増え、今年半ばで600発以上所有していると推定される。4年間で3倍になっている。2030年までには1000発を超えるだろう。新型大陸間弾道ミサイルが開発され運用可能になれば、中国は米国本土、ハワイ、アラスカの標的に対して通常攻撃を行うことができるようになる。4.中国が台湾に対する武力攻撃に失敗した場合は、中国は核兵器の先制使用をする可能性がある。(主要概略は以上)思うに、米・国防総省が毎年発表している「中国軍事力」に関する年次報告は、米議会へのアピールで、「これだけ中国軍の脅威が差し迫っているのだから、もっと軍事予算を増やせ」と、米議会予算委員会に対して主張することが主要な目的だと考えていいだろう。◆イーロン・マスクの米・国防費に対する批判テスラCEOのイーロン・マスク氏はトランプ2.0で「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」を率いることになると、トランプ次期大統領は今年11月12日に発表している。DOGE(ドージ)という名称はイーロン・マスクが支持する仮想通貨ドージ・コイン(Doge Coin)の「Doge」から取ったものだと言われている。イーロン・マスクは、年間5,000億ドルの無駄な政府予算の削減を計画していると何度も表明し、11月17日には<国防総省は費用対効果が非常に悪い>(※3)とXに投稿し、DOGEはそれを改善するという一連の発言をしている。たとえば、トランプ1.0で国家安全保障問題担当大統領補佐官(2018年4月~2019年9月)を務めたジョン・ボルトンがイーロン・マスクに対して「DOGEで節約した費用を軍事費に充てるべきだ」と言ったのに対して、イーロン・マスクは11月23日に<DOGEは国防費の効率性を改善させる>(※4)と応答している。11月24日にはイーロン・マスクは中国の壮大なドローン動画を引用(※5)しながら、「ところで、一部のバカどもは、未だにF-35のような有人戦闘機を製造している」と国防総省を揶揄した。11月25日には、民主党のロー・カンナ下院議員も、<民主党はイーロン・マスクの「政府効率省」(DOGE)と協力して国防予算を削減することができる>(※6)と賛同の意を表している。同じく民主党のバーニー・サンダース上院議員は、12月2日に<イーロン・マスクは正しい>(※7)とした上で「8,860億ドルの予算を抱える国防総省は、7回連続で監査に失敗した。何十億ドルもの金額を把握できていない。昨年、軍産複合体と無駄と詐欺に満ちた国防予算に反対票を投じた上院議員はわずか13人だった。これは変えなければならない」とXに投稿している。これに対してイーロン・マスクはアメリカ国旗のマークを2つ貼り付けて返信した(※8)。このように、国防総省にとっては、そうでなくとも増加しなかった国防予算を、トランプ2.0になったら、イーロン・マスクが徹底して削減することへの危機感がある。だから、「中国軍はこんなに強くなった」と米議会に対して訴えるために「報告書」を発表しているわけだが、中国としては、そんなことに利用されるのは我慢ならないといったところだろう。「米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF(※3)https://x.com/elonmusk/status/1857924169393975482(※4)https://x.com/elonmusk/status/1859996677316510131(※5)https://x.com/elonmusk/status/1860574377013838033(※6)https://thehill.com/homenews/house/5008598-elon-musk-department-efficiency-defense-budget/(※7)https://x.com/SenSanders/status/1863268770371772863(※8)https://x.com/elonmusk/status/1863297860651069586(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8
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2024/12/25 10:58
GRICI
中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】
*16:23JST 中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。半導体の微細化に関して「半導体の性能が18ヵ月で2倍になる」という経験則「ムーアの法則」は実際上かなり前から破綻しているが、人々は「3nm、2nm…」と競い合っている。ならば、「3nm、2nm…」の実態は何かと言えば、それは商品番号にすぎず、実際TSMCでも、たとえば「TSMC 3nm」チップとは言わずに、TSMC「3N」(※2)と、「こっそりと商品番号に置き換えている」ことに気が付かなければならない。その意味では製造者側は、実は良心的に「ムーアの法則」の破綻を認識していると言っていいだろう。多くの研究者は、物理学的には「3nm」辺りから事実上それ以上の微細化はできないとする「ムーアの法則」限界理論を10年以上前から展開はしている。しかしビジネス界はわかっていながらも、互いに「騙し騙され」、「3nm、2nm…」を唱えてきたのである。投資家に気付かれるのを避けるためだろう。いま現在は、既に「ムーアの論理」は破綻していると見る専門家は多く、中国もその中の一例だ。破綻すればどの関連企業も実際にはそれ以上先へは進めないので、「どん詰まり」のところで足踏みをすることになるだろう。アメリカが全方位的に中国の半導体技術を潰そうとしても、西側が限界領域で足踏みしている間に中国もその限界領域にまで達し、その頃にはAIを含めた新産業において中国は一気にアメリカを追い抜くという「心づもり」で動いていることを、今回は考察したい。◆「ムーアの法則」はなぜ破綻するのか?「ムーアの法則」に関してはご存じの方が多いとは思うが、念のために書くと以下のような経緯で生まれたものである。1965年、のちに(1968年に)アンディ・グローブ氏とともにインテル社を創業したゴードン・ムーア氏が大規模な集積回路(Integrated Circuit =IC、以後IC)の製造・生産に関して、IC当たりの部品数あるいは性能が毎年2倍になると予測し、その成長率があと10年は続くと予測したことから始まった。10年後の1975年になると次の10年を見据えて「2年ごとに2倍になる」に修正し、さらに「1.5年ごとに2倍」とも予測して、それが維持されたことから「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。しかし、ICの微細化が進むにつれ、半導体チップの性能も驚異的に高まってはいったが、それにつれて「ムーアの法則」の破綻に関して数多くの論考が発表されるようになった。身近なところで言うならば、たとえば、早くも2014年05月21日にはITmediaから<ムーアの法則の終焉──コンピュータに残された進化の道は?>(※3)という論考が発表され、2016年3月4日には、当時の東京工業大学の岩井洋教授が<半導体微細化ロードマップ終焉とその後の世界>(※4)という、実にすばらしいプレゼンテーションをPDFにして公開しておられる。東京工業大学(現在の東京科学大学)に連絡して岩井(元)教授に確認を願いしたところ、岩井(元)教授自身は、このようなPDFをネット公開した覚えはなく、公的な論文はH. Iwai, “End of the downsizing and world after that,” 2016 46th European Solid-State Device Research Conference (ESSDERC), Lausanne, Switzerland, 2016, pp.121-126, doi: 10.1109/ESSDERC.2016.7599603.にあるとのことだった。それにアクセスするのは困難だ。これ以外にも非常に多くの論考や分析がネットに公開されているので、それ等から総合的に判断すると、どうやら物理学的に見て約「3nm」が限界値であるらしい。それ以上線幅を小さくすると、量子力学におけるトンネル効果が出現してきて、トンネル電流が流れてしまい、発熱して不安定状態になり破壊するリスクが激増するという。量子力学はかつてこよなく愛したエリアなので、ここで量子力学の話が出てくると嬉しくてならない。中国人留学生を助けたいという気持ちが80年代初期に湧き出てこなければ物理を捨てることもなかったのにと、恨めしい気持ちも覚える。その量子力学に戻って少しだけ説明させていただくなら、電子を粒子と考えたときに、それを隔てる絶縁物であるはずの「壁」(エネルギー・ポテンシャル障壁)があまりに薄いと(相対的にエネルギーレベルが低いと)、「壁」は絶縁物ではなくなり、電子は量子効果としての「波動」になって壁を通り抜け「トンネル電流(電子流)」を惹起してしまう。これを量子力学的に計算すると「トンネル長」は約「3nm」が限界であるという結果が出てくるようだ。したがって「3nm」以下の微細化は、物理学的に「安定的状態では」作れないはずなのである。これを「ムーアの法則」の破綻と称する。現に、<半導体、3nm・2nmという数字のウソ>(※5)というYahoo!エキスパートの、非常に簡潔な情報もあるので、ご一読なさると納得感が深まるかもしれない。◆中国は「ムーアの法則」の破綻を認識し、その先を睨んでいる12月7日のコラム<中国半導体最前線PartI アメリカが対中制裁を強化する中、中国半導体輸出額は今年20.6兆円を突破>(※6)に書いたように、今年12月2日のバイデン大統領による対中制裁強化(エンティティ・リスト大量追加)が発表されると、12月5日に「人民日報」は<米国がチップ制裁を強化している間に、中国の半導体輸出は1兆元(20.6兆円)を突破>(※7)を発表した。そこには専門家の意見として、以下のような中国の思惑が書いてある。●2017年、特に2019年以降、アメリカは中国の先端チップに対する制裁をくり返し強化してきたが、2023年10月以降、その対象にある変化が見られるようになった。それはハイテク産業の中でもAIに集中し始めたということだ。●このシフトは、アメリカも実は「ムーアの法則」の破綻を意識し始めていることを示唆する。●最近の半導体チップ製造は2nmまたは1nm未満のプロセスに入ったとみなされているが、実はチップの素子サイズは既に物理的限界に達している。この微細化によるチップ業界のアップグレードが終点の近辺で立ち止まっている間に、中国は進歩を遂げ、終点に追いつくことになる。その間中国は成長する。●アメリカがどんなに中国を潰そうとしても、中国はアメリカからの激しい制裁によりサプライチェーンを自国内で形成することに成功しつつあるので、アメリカは中国の成長に手出しをすることができない状況に追い込まれつつある。●微細化の王国を築いた「ムーアの法則」はAI半導体の分野には適用できず、AIエリアには「アーキテクチャ、接続帯域幅、アルゴリズムの最適化…」などさまざまな新たなパラメータを取り入れた未来予測が必要となってくる。(概ね以上)つまり中国は「ムーアの法則」破綻を認識し、その先を睨んでいることになる。アメリカの半導体工業会(Semiconductor Industry Association) (※8)は、2024年版米国半導体産業白書を発表した。アメリカの半導体における圧倒的優位は変わらないものの、2023 年の自動車市場における半導体の需要は 15% 増加したのに対し、スマホなどの通信機器市場は 1.8%減少し、パソコン市場は 7.1% 減少している。すなわち現在、半導体市場の成長の勢いは、自動車および工業セクターに傾いることを意味している。自動車用チップや工業用チップは、携帯性に対する要件が遥かに小さく、高度なプロセスに関しては、現在5nmから7nmに焦点を当てているのに対し、スマホ、パソコンなどの業界は、それより遥かに難しい2nmから3nmのプロセスに焦点を当てている。後者が「ムーアの法則」破綻の危機にある中、前者における中国の発展は著しく、アメリカは中国に大きな後れを取っている。成熟したプロセスに関しては、それが中国の得意とするところだ。したがって「アメリカは、中国半導体の直線的な発展を体系的に抑制することはできない」と、人民日報は結論付け、「中国はラスト・マイルに向けて取り組み続けることができる」としている。◆Google元CEOが中国のAIエリアの成長を肯定アメリカの戦略コミュニティは、「中国のチップ企業が抑圧の中で成長し、米国企業は競争力を失っている」という現象に注目している。これに関しては非常に多くの情報があるので特定しにくいが、あえて言うならこのような情報(※9)を挙げることができる。中国はEVなど製造業が強いことから、AI効果に関する実体経済における膨大な実験を実行することが可能なので、AIの実用化という面で優れている。また生成AIには莫大な電気量を必要とすることから、12月11日のコラム<中国半導体最前線PartIII AI半導体GPUで急成長した「中国版NVIDIA」ムーア・スレッド>(※10)の図表に示したように、AI開発では電気量において将来的には中国に優位性があると言えるのかもしれない。その証拠に最近、Former Google CEO Eric Schmidt Says U.S. Trails China in AI Development | News | The Harvard Crimson(※11)にあるように、Googleのエリック・シュミット元CEOが、最近、中国の方がAIの開発が進んでいるという趣旨の観点を発信している。同氏は、ハーバード政治研究所のフォーラムで、「より強力なAI開発競争でアメリカは中国に遅れをとっている」と述べたとのこと。ハーバード・ケネディスクールの元学長、グラハム・T・アリソン氏(1962年卒)が司会を務めたこのイベントでのシュミット氏の発言は、昨年10月のIOPで「アメリカがAI開発で中国をリードしている」と述べた立場から逆転している。講演の中でシュミット氏は、「アメリカのような優秀なエンジニア、強力なチップ、大規模なデータソースへのアクセスに加えて、中国はAIモデルのトレーニングに必要な電力をより多く持つことでも恩恵を受けている」と述べている。これは筆者の「中国半導体PartIII」での独自分析が正しかったことを裏付けてくれて、ホッとしている。ただ、日本としてはホッとしているわけにはいかないだろう。少なからぬ日本人にとっては、見たくない不愉快な現実だろうとは思うが、この「中国半導体最前線シリーズ」で書いたことは、日本の真の発展あるいは政策の方向性にとっては、無視できない「現実」であることを認識していただきたいと切望する。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※12)より転載しました。米アマゾンのラボAIチップ開発など研究(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/platform_HPC_tech_advancedTech(※3)https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/21/news012.html(※4)https://semicon.jeita.or.jp/STRJ/STRJ/2015/2015_08_Tokubetsu_v2.pdf(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/20b6ff18f1af61aecf56b53c1327ff989cb45bf6(※6)https://grici.or.jp/5891(※7)http://politics.people.com.cn/n1/2024/1205/c1001-40376144.html(※8)https://www.semiconductors.org/(※9)https://www.investors.com/news/technology/semiconductor-stocks-gear-makers-getting-china-boost/(※10)https://grici.or.jp/5904(※11)https://www.thecrimson.com/article/2024/11/19/eric-schmidt-china-ai-iop-forum/(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3445ed89b794463c97c011a2b1db2b52cb5fbde4
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2024/12/13 16:23
GRICI
帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】
*16:21JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆日本の株式制度における「企業防衛」の危うさそれに比べて日本企業の外資投入あるいは株主提案権に関する規制は世界一緩く、東京証券取引所及び大阪取引所の売買代金の約60%以上は海外投資家によって占められており(※2)、上場企業の金額ベースでみた外国人の日本株保有率は31.8%になっている(※3)。株主提案権を取得するための株式保有要件も非常に緩く、提案内容の制限もほとんどないというのが現状のようだ。株式を5%以上保有すると「大量保有報告書」を提出する義務があり、その後1%以上の変動があるたびに追加で報告することが法律で定められているだけだ。これらの状況が「ウルフパック」のような手法を生み、企業を乗っ取るグレーゾーンを招いている。「企業防衛」、「国家防衛」は「武器を手段とした防衛力」などでは到底守り切れない経済安全保障上のリスクの落とし穴を露呈している。投資者の道徳心に期待するには限界があるだろう。仮に万一、中共中央統一戦線がグレーゾーンを突いてきたらどうなるだろうか。たとえば日本がアメリカに追随し、台湾独立を支援する路線を明確にしたときなどは、武器による報復ではなく、グレーゾーンを用いた、日本の国家インフラを含めた日本企業乗っ取りという金融手段を用いる可能性はゼロではない。そうでなくとも日本は米国の餌食になっている側面が否めないのに、ウォール街と中南海がその気になれば、日本国など「消えてなくなる」危険性が潜んでいる。中国の富裕層が習近平政権を嫌がって日本に避難してきているといった類の記事が目立つが、喜んでいる場合ではない。また、懲罰を重くすればいいだけの話ではなく、日本はもっと抜本的に、そして予防的に規制ラインを引き上げなければならない。それができないのはなぜか?上述した対中貿易重視という日本政府や経団連の基本姿勢があるだけでなく、遅まきの対米追随にばかり目が行っていて、日本の国家を守るのだという「独立国家としての国家観」を持っていないところに根源があるのではないだろうか。この「国家観の欠如」は拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』でも詳述した。本稿で論じたのは氷山の一角にすぎず、日本はあらゆるエリアで「隙だらけ」であることを露呈している。この「日本の脆弱性」に対して、国は早急に規制を強くする方向で法整備の見直しをする必要がある。警鐘を鳴らしたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※4)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.jpx-recruit.jp/company/business05/(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB022T70S4A700C2000000/(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b
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2024/11/27 16:21
GRICI
帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】
*16:16JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米中の新産業力を比較考察する本を執筆する過程で、日本を参考比較対象としてみた。すると、「なぜ日本の製造業はこんなにまで没落してしまったのか」、「なぜNatureの研究者ランキングなどで、日本はここまで低いのか」といった疑問にぶつかった。そこに共通しているのは「短期的成績が求められるようになったから」という事実で、日本企業の場合、その原因は「物言う株主」(アクティビスト)の存在であることが浮かび上がってきた。事実、製造業関係の社長を取材したところ、「最近は物言う株主の存在が大きくなりましてね、大型の設備投資など、とてもできません。短期的に目に見える利益を出さないと、物言う株主が許してくれないんですよ。日本の製造業が成長などするはずがありません」と嘆いておられた。その流れの中で<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※2)という事実を知り、非常な危機感を抱きながら近く出版する本の原稿を書いていたのだが、加えて金融界でも類似の動き(※3)があることを知った。そうでなくとも11月19日には、「ハゲタカ・ファンド」とも言われるほど激しい投資をすることで有名な米ヘッジファンド運営会社エリオット・インベスト・マネージメント(以下、エリオット)が、東京ガスの株式を5.03%獲得し(※4)、東京ガスが保有する新宿パークタワーなどの不動産について、非中核事業だとして売却を求めていると報道されたばかりだ。日本の国家インフラにまで「物言う株主」が口を出し、日本の国家の軸を揺さぶり始めている。注意しなければならないのは、かつての資本市場改革で株主の権利を強くしたために、「物言う株主」のみならず昔ながらの乗っ取りスタイルも息を吹き返しているということである。このまま放置すれば、日本はやがて中国人を含めた、何らかの形での外国人投資家に乗っ取られてしまう危険性がある。日本の「企業防衛」は、そして日本国の「インフラ防衛」は大丈夫なのだろうか。一方の中国。実は改革開放は、グローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者・フリードマンの論理を基礎にして進められてきた。したがって習近平は絶対にグローバリゼーションを崩さないし、その上で社会主義体制を軸にしているので国家インフラは国有企業で守りを固め、民営企業も証券法で外資投入を規制し企業崩壊を防いでいる。それに比べて日本の外資投入規制はあまりに緩く無防備だ。このままでいいのか、警鐘を鳴らしたい。◆帰化中国人集団が日本企業を乗っ取ろうとしていたケース冒頭に書いたように、2022年8月18日、<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※5)という見出しで、帰化中国人仕手(して)集団が日本企業を乗っ取ろうとしたケースが報告されている。「ウルフパック」というのは、実際はつながっている複数の共同投資家が、多数の異なる名義を利用し、水面下で分散的に大量の株式を購入し、ある日突然「狼の群れ」が姿を現して「株主提案権」を発揮し、当該企業を乗っ取るという手法のことである。本来、これらの株式が事実上共同で5%以上保有されている場合には、共同名義として「大量保有報告書」を提出する義務がある。しかし実際は、5%以上の株式を所有している某グループは、それぞれがあたかも関係のない人物であるかのようになりすまして異なる名義で5%以下の株式を所有する形を偽装するケースが頻発している。報道によれば、「相手企業に警戒心を抱かせないように各々が無関係を装い、株式を分散取得し、傘下株主の申し立てで臨時株主総会の開催に漕ぎつけると、共闘で乗っ取り劇を演じた」とのこと。典型的な「狼の群れ」だ。加えて「その中心人物と目されるのは、2003年10月に日本国籍を取得した帰化中国人」と、上記の記事には書いてある。それが真実だとすれば、いかにも「赤く染めそうな雰囲気」を醸し出しているではないか。この結末は2024年8月22日の<「狼」のような個人投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる…!究極の敵対的買収「ウルフパック戦術」の行方>(※6)に見られるように、ウルフ3者に「計98万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した」だけで終わっている。こんなことでは、「狼の群れ」はいくらでも姿を変えて暗躍し、日本の製造業だけではなく、金融界あるいは日本の国家インフラさえ乗っ取ることが可能になってしまう。2023年3月31日の<「中国系仕手集団」頭目に弄ばれ、ついに上場廃止になった「アジア開発キャピタル」>(※7)を見ると、なんと、日本の複数の衆議院議員が役職に就くなどして、すでに国家ぐるみの犯罪が横行していることがわかる。その危機感を2023年4月1日の<何人もの「側室」を抱えるのが、「中国系仕手集団」の頭目>(※8)が報道しており、検索すると果てしなくこの手の情報が湧き出てくる。それでも大手メディアが大きく取り扱おうとしないのはなぜなのだろうか?この報道にもあるように経団連や国会議員などに親中派が多く、実は政府として中国との貿易にすがっているからかもしれない。「ウルフパック」は基本的に非合法性が高いものの、その「狼の群れの共謀性の程度」によって合法の範疇に入れられる場合もあり、グレーゾーンということができる。それも取り扱いを困難にさせている側面の一つとして考えられる。さらにやっかいなのは、日本の国家インフラを狙ったエリオットなどは、「物言う株主」として、実は合法的手段で株式購入活動を行なっているのだ。だから現在の法体制の下では、日本国を守ることはできない。◆中国は早くから米国の「ハゲタカ・ファンド」に警戒では、中国はどうだろうか?中国自身は自国インフラや自国企業を守るために米国の「ハゲタカ・ファンド」に早くから激しい警戒心を見せてきた。たとえば「ハゲタカ・ファンド」エリオットなどを「経済テロ」と称して警鐘を鳴らしている。2022年9月29日、中国政府の「新華社」電子版「新華網」は<「経済テロリスト」 - 米国の「ハゲタカ・ファンド」を暴く>(※9)という見出しで、エリオットが南米のアルゼンチンやアフリカの32カ国を「ハゲタカ・ファンド」に巻き込んで「喰い物にしている」状況を解説している。記事では、米国の金融覇権を維持するための手段の一つが、悪名高い「ハゲタカ・ファンド」だと位置付けている。「ハゲタカ・ファンド」に目を付けられたが最後、骨の髄まで喰い尽くされるとしている。記事は米国のエリオットの子会社であるNMLキャピタルの血に飢えた金融攻撃の様子を「経済テロ」と位置づけ、米国の新自由主義が生んだ残虐性を説明しているが、いや、待てよと思う。◆改革開放はフリードマン理論の下で遂行 ウォール街とつながる中南海そもそも中国は改革開放を推進するにあたり、冒頭に書いたようにグローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者であるミルトン・フリードマンの論理を基礎にしてきた。フリードマンはシカゴ大学の教授であったため、新自由主義を唱える経済学者を「シカゴ派」とか「シカゴ・ボーイズ」と称する。彼らは政府による介入を否定し、自由な市場経済を主張した。その主張が資本市場改革の流れを生み、最終的にはこんにちの「物言う株主」制度へと発展していったと位置付けることもできる。このフリードマンを中国に招聘すべきだと提案したのは、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の世界経済研究所の研究員だ。この提案が中国政府に採用され、1980年にフリードマンは訪中して中南海のリーダーたちと会っている。その後も1988年、1993年と、計3回も訪中し、中国のトップリーダーたちに会い、中国における市場経済発展に関する論議をくり返している(※10)のだ。したがって中国はフリードマンの唱えるグローバリゼーションを基礎に置き、2001年にWTO(世界貿易機関)に正式加盟した。2000年には米中国交正常化を促したヘンリー・キッシンジャー元国務長官の勧めで清華大学経済管理学院に顧問委員会を設置した(※11)。ウォール街の金融大手などのトップを顧問委員会の委員にさせたのはキッシンジャーで、当時は中国入りのためにはコンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエイツ」を通さなければならなかった。現在の顧問委員会のトップに君臨しているのはもちろん習近平国家主席(清華大学卒)だが、顧問委員会委員(※12)には、今もウォール街関連の錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。スティーブン・シュワルツマンは習近平が国家主席になった2013年に蘇世民書院(シュワルツマン・カレッジ)(※13)の発足式を挙行した。蘇世民はシュワルツマンの中国語名だ。2016年9月から金融を中心としたグローバル・リーダーを養成し、世界に羽ばたかせている。その意味で、中南海はウォール街と緊密に直結しており、フリードマン理論が生きている。だから習近平は絶対にグローバリゼーションを変えないのだが、それでいながら社会主義体制を軸にしているので、国家インフラなどは国有企業で固めていて絶対に海外資本の浸食を許さない。民間企業でも証券法で外資投入をかなり厳しく規制している(※14)のは、外資によって中国企業が破壊されるのを防ぐためであって、決して閉鎖的であるためではない。中国は外資に対する「企業防衛」が非常に堅固だ。これは中国の強みだと言えよう。「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※15)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※3)https://www.kushim.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/ir_20241125-3.pdf(※4)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-20/SN7ZXST1UM0W00(※5)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※6)https://gendai.media/articles/-/135977?imp=0(※7)https://access-journal.jp/71386(※8)https://ameblo.jp/s2021751/entry-12796316351.html(※9)http://www.news.cn/world/2022-09/29/c_1129042829.htm(※10)https://finance.sina.cn/sa/2006-11-19/detail-ikftpnny2058670.d.html(※11)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/xygk/gwwyh/gwwyhjs.htm(※12)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/guwenweiyuanhuimingdan20241113.pdf(※13)https://www.sc.tsinghua.edu.cn/gywm.htm(※14)https://www.chinanews.com.cn/cj/2023/12-29/10137839.shtml(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b
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2024/11/27 16:16
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トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】
*16:56JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆イーロン・マスク:(バイデン政権における)対中関税反対を表明イーロン・マスクは今年5月23日にパリで開催された大手テクノロジー企業の経営者などが集まる毎年恒例のビバテック会議に登壇し、「現在、中国のEVに対する米国の関税に反対する」(※2)と表明した。バイデン政権が、トランプ前大統領が導入した多くの関税を維持しながら、中国のEVに対する関税を4倍の100%以上に引き上げることに関して、イーロン・マスクは「市場を歪めるような措置は好ましくない」と述べている。イーロン・マスクはもともと民主党を支持する傾向にあったが、2021年8月5日にバイデンが呼び掛けたEVサミットにイーロン・マスクだけが招待されなかったことがあった(※3)。バイデンはホワイトハウスにゼネラルモーターズ、フォード、(フィアット・クライスラーとフランスのPSAが合併して設立された)ステランティスのCEOたちを招待しながら、世界最大のEVメーカーであるテスラのCEOイーロン・マスクを招待しなかったのだ。イーロン・マスクは当日Xに「いやー、テスラが招待されなかったのは奇妙じゃないかな」と投稿し(※4)、不満を漏らした。以来、バイデンから心が離れていき、2024年7月14日に起きたトランプ銃撃事件により、一気に強烈なトランプ支持に変わっていったようだ。翌日の7月15日にコラム<中国ネット民 トランプの「突き上げた拳」を熱狂絶賛――「これぞ強いリーダー!」>(※5)を書いたが、なんだか筆者には、中国のネット民とイーロン・マスクには一脈通じるものがあるように感ぜられる。◆イーロン・マスク:戦争屋ネオコンに反対と投稿トランプが勝利宣言をすると、イーロン・マスクは11月6日にXで<ネオコンの戦争屋に力を与えるべきではないことに賛同する>(※6)と投稿した。ご存じのようにネオコン(Neoconservatism、新保守主義者)は自由主義や民主主義を重視して「民主」を輸出し、世界各地の親米的でない政権を転覆させて武力介入も辞さない政治思想集団だ。いうまでもなくNED(全米民主主義基金)は、このネオコンのもと世界各地で暗躍し、「民主」を輸出して戦争を仕掛ける組織である。トランプが米国の利益を最重要視するのに対して、ネオコンはグローバリゼーションを広げて世界における米一極支配を目指す。トランプがNEDを嫌うことは11月5日のコラム<トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い>(※7)で書いた。ネオコンはトランプ1.0政権ではジョン・ボルトン(大統領補佐官)などが一部入り込んでいたため、たとえばトランプが金正恩と会談して朝鮮半島における第二次世界大戦以降の紛争を解決しようとしたことを阻止してしまった。トランプはどれだけこの事を後悔しているかしれないと推測する。トランプは朝鮮半島問題を解決して、ノーベル平和賞をもらいたかったのだ。2016年5月に、ベトナム戦争終結に寄与したとしてノーベル平和賞を受賞したキッシンジャー元国務長官から外交に関する手ほどきを受けた時から、トランプはノーベル平和賞受賞を目指していた。そのトランプが嫌う「戦争屋ネオコン(→NEDの暗躍)」をイーロン・マスクも嫌っていることを知ったのは、筆者にとっても大きい。◆トランプ2.0は、習近平にとっては悪くない以上さまざまな側面から、イーロン・マスクはトランプ2.0の対中高関税に対する緩衝材になるだけでなく、何よりもNEDの暗躍を一定程度は抑え込むだろうということによって、習近平にとっては非常に悪くない政権になるのではないかと思うのである。中国は米国から高関税などの制裁を受けることに関しては、少しも恐れていない。むしろ、その制裁があったからこそ自力更生を加速強化させてくれたし、結果ハイテク国家戦略「中国製造2025」は、その目標年である来年2025年までにほぼ完遂する。最先端の半導体製造装置に関しては未達成だが、他の新産業のほとんどの分野において中国は今や世界一になっている。また、仮に高関税をかけられても、中国はBRICS+という非米側陣営を拡大することによって経済的な結びつきを強化し、米一極支配から抜け出そうとしている。そのことは10月30日のコラム<中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る>(※8)で書いたとおりだ。実際にどうなるか、未知数はあるものの、少なくともトランプ2.0は習近平にとって決して悪いものではないと考えていいだろう。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.reuters.com/business/autos-transportation/elon-musk-im-against-tax-incentives-evs-2024-05-23/(※3)https://edition.cnn.com/2021/08/05/business/tesla-snub-white-house-event/index.html(※4)https://x.com/elonmusk/status/1423156475799683075(※5)https://grici.or.jp/5451(※6)https://x.com/elonmusk/status/1853944431512314093(※7)https://grici.or.jp/5746(※8)https://grici.or.jp/5725(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b
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2024/11/11 16:56
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トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】
*16:45JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。大統領選に圧勝したドナルド・トランプ前大統領は、選挙運動中に「全ての国に10~20%、中国からの全輸入品に60%の関税を課す」と表明している。しかし最大のトランプ支援者となったテスラCEOのイーロン・マスクは、EVの上海工場で莫大なビジネス権益を有しているだけでなく、中国政府に特別な厚遇を受け、習近平国家主席がトップを務める清華大学経済管理学院顧問委員会(海外大手企業トップが集まり中国経済発展を助ける委員会)のメンバーの一人だ。李強国務院総理(首相)が上海市の書記だったころに上海工場を設立したため、李強首相とも特別に仲がいい。母親のメイ・マスクともども、大の「中国ファン」なのである。そのため昨年は「台湾は北京政府の統治下にあるべきだ」として台湾の平和統一を支持する発言をしたり、バイデン政権が対中高関税をかけることに対して反対の表明をしたりしている。そんなイーロン・マスクが来年1月から始まる第二次トランプ政権「トランプ2.0」で発令されるであろう対中高関税政策を黙って見ているだろうか。おそらくイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるのではないかと思われる。イーロン・マスクはまた「戦争屋ネオコンに反対!」とXに投稿しており、アメリカ・ファーストのトランプはそのネオコンの下で動く「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)が嫌いだ。習近平にとって、トランプ2.0は、心地悪くはないものとなる可能性がある。◆テスラEVの利益のほとんどは上海工場から世界一の大富豪として知られるイーロン・マスクは、EV(電動自動車)の製造工場をアメリカのカルフォルニアとテキサスに持っているが、2023年の生産台数)はそれぞれ55.5万台と14.6万台で、あまり多くはない。一方、上海工場での2023年の生産台数は95.8万台に上り、全生産能力の半分以上を占めるに至っている。また今年9月には、上海工場から100万台目の中国製EVを輸出したと発表した。それが可能になったのは、習近平が上海工場設立に対して、独資企業としてスタートしてもいいという特別の厚遇をしたからだ。外国企業に対する独資認可は、テスラ上海工場が初めてのケースである。2019年1月7日に上海工場が着工し、同年12月30日には最初の車が納車された。着工から納車まで1年もかからなかったというこの生産スピードは、サプライチェーンが中国内に全て揃っているお陰でもある。習近平は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、イーロン・マスクの登場は、その戦略にぴったりと当てはまった。拙著『嗤う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』で詳述したように、習近平は「中国製造2025」達成を可能ならしめるためにも、テスラ上海工場をそのバネにする必要があったのだ。事実、これをきっかけに中国のEV製造は一気に成長して世界一になった。習近平にとってイーロン・マスクは無くてはならない存在だし、イーロン・マスクにとっても中国は欠かすことのできないビジネス・パートナーだ。したがってイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材となるのではないかと推測されるのである。◆中国のネット:イーロン・マスクが対中高関税の潤滑油になるたとえば11月8日の新浪財形網には<トランプがホワイトハウスに戻ってくるが、マスが中米間の潤滑油になるのではないか?>(※2)という見出しで、筆者と同様の観測をしている。またシンガポールの聯合早報も11月7日、<トランプの高関税は中国にどの程度の打撃を与えるか? 学者はマスクの立ち位置留意すべきと>(※3)という見出しで北京特派員の見解を報道している。それによれば「中国で莫大なビジネス権益を持つ起業家であるイーロン・マスクは、米中貿易摩擦の緩衝材になる可能性がある」と学者が述べているとのこと。トランプ勝利が判明する前の11月4日、中国のネットの観察者網は<マスクは極端な親中派なので、米中間の重要な対話者として機能するのでは?>(※4)という趣旨の分析をしている。こういった視点からの分析は枚挙にいとまがないほど中国語のネット空間に溢れている。◆イーロン・マスク:北京が台湾を統治すべきと表明2023年9月13日、ロサンゼルス(のRoyce Hall on UCLA’s campus)で開催されたAll-In Summit 2023にリモートで参加したイーロン・マスクは、「台湾と中国の関係」を「ハワイと米国の関係」にたとえた(※5)。凄いスピードで話しているので、喋っている言葉を逐語訳すると何を言っているかわからなくなる。そこで彼の言わんとするところを要約してピックアップすると、以下のようになる。●台湾の再統一は中国の根本的な問題だ。半世紀以上にわたり、中国は台湾を返還する政策をとってきた。●彼らの視点から見ると、中国にとっての台湾は、アメリカのハワイのようなものかもしれない。●ただ、中国の再統一の試みを、米国の太平洋艦隊が武力で阻止したために中国の一部ではないようにしてしまっているだけだ。●台湾は中国の不可欠な部分であるが、台湾は「故意に中国の所有物であることを否定し」、米国が「いかなる形の再統一努力をも妨害している。(2023年9月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)すると、9月14日、台湾外交部がマスク発言に対して激しく抗議した(※6)。それでもなお、イーロン・マスクは2023年11月になると、また台湾に関して言及した。2023年11月10日、レックス・フリードマンが主催するポッドキャストにオンラインで取材に応じ、以下のように回答して(※7)いる。●中国は台湾に対して強い感情を抱いている。その点については、長い間、非常に明確にしてきました。この観点から言えば、ハワイのような国ではなく、ハワイよりも重要な国の一つということになる。●中国は台湾を、中国の基本的な一部、台湾ではなく「中国の台湾島」と見なしています。今は台湾は中国の一部になってないが、そうあるべきだ。それが実現していない唯一の理由は、米国の太平洋艦隊のためだ。●中国は平和的もしくは軍事的に台湾を併合すると明言していますが、中国の立場からすれば、台湾を統一する可能性は 100%だ。(2023年11月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)ここまでの踏み込んだ発言を断言的に表明したイーロン・マスクという人物が、習近平にとって、どれだけ重要か想像がつくだろう。そうでなくともトランプは大統領選挙中に何度も「もし中国が台湾を武力攻撃したら、あなたならどう反応するか?」という複数のメディアの問いに、毎回回答をはぐらかしてきた。それはバイデン大統領が何度も「米国は介入する」と明言した意思決定と歴然たる対比を成していた。ましてやイーロン・マスクがトランプ側に立った今、トランプ2.0における対台湾の認識は習近平にとって何よりも重要なものだ。トランプは11月6日の勝利宣言演説(※8)で、イーロン・マスクを「超天才」と呼び、「われわれの天才を守らなければならない」とまで述べている。きっとイーロン・マスクの意見を政権運営に取り入れていくことだろう。このこと一つをとっても、トランプ2.0における米中関係がイーロン・マスクの存在によりどれだけ悪化を防ぐか、その効果は計り知れない。「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://finance.sina.com.cn/jjxw/2024-11-08/doc-incvkiwc1758856.shtml(※3)https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20241107-5307017(※4)https://www.guancha.cn/internation/2024_11_04_754094.shtml(※5)https://www.youtube.com/watch?v=tKqJ5-kkUGk(※6)https://edition.cnn.com/2023/09/14/business/elon-musk-taiwan-china-comments-intl-hnk/index.html(※7)https://www.youtube.com/watch?v=JN3KPFbWCy8(※8)https://www.youtube.com/watch?v=WI9fbbQ-aTo(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b
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2024/11/11 16:45
GRICI
トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い【中国問題グローバル研究所】
*10:31JST トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。世界中に「民主」を輸出しては戦争を仕掛けるNED(全米民主主義基金)は現在、アメリカの民主党を中心に全世界で暗躍しているが、ドナルド・トランプ前大統領はNEDが嫌いで、実は習近平国家主席やプーチン大統領が好きなようだ。トランプ政権時代だった2018年、アメリカの雑誌The New PublicがCNNの録音を基に報道している。習近平やプーチンにしても、中国やロシアに潜り込んで反政府勢力を育てあげては政府転覆をさせようと暗躍しているNEDこそは最大の敵なので、当然ながら民主党政権よりはトランプに当選してほしいと思っているだろう。本稿ではThe New Public情報を、いくつかのパーツに分けてご紹介し、最後に中露が団結する原因の一つに関しても触れる。◆The New Public-1:トランプは習近平やプーチンを尊敬している1914年に創刊されたアメリカの権威ある雑誌The New Publicは2018年3月6日に<Trump’s Disdain for Democracy Promotion (トランプは民主主義推進を軽蔑している)>(※2)というタイトルで、トランプが習近平やプーチンを尊敬し、NEDを嫌っているという趣旨の内容の報道をしている。トランプの発言は、CNNの録音に基づいているらしい。作者はカナダ人の作家でありジャーナリストで、The New Publicのスタッフ・ライターでもあるJeet Heer(ジート・ヒヤー)だ。その内容をテーマ別にご紹介したい。まずは習近平とプーチンに関して。●ドナルド・トランプ大統領は、マー・ア・ラーゴで行われた非公開の募金活動で、中国の習近平国家主席に関して「彼は権力把握に関して実に賢明だ。何と言っても彼は今や終身大統領だ」と驚嘆してみせた上で、「私もいつか、それを試してみる必要があるだろう」と述べた。●トランプの周りに集まった寄付者たちは笑ったが、彼の独裁者称賛は不吉だ。2016年、彼はウラジーミル・プーチンを「非常にリーダー的だ…これまでの大統領がリーダーであった以上に」と述べたことがあり、プーチンをも称賛した。●トランプは、海外で民主主義と人権を促進することがアメリカの外交政策上の利益になるとは考えていない。それどころか、トランプ政権は、そうする任務を負った機関を弱体化させようとしている。◆The New Public-2:トランプはNEDを嫌い弱体化させようとしている●「国務省の2019会計年度予算要求に込められているのは、NEDの予算を削減するだけでなく、National Democratic Institute(全米民主党研究所)やInternational Republican Institute(国際共和研究所)を含む中核機関とNEDとの関係を解体する提案だ」とワシントン・ポストは報じた。●NEDとこれらの研究所にとって、この提案は彼らの組織だけでなく、彼らが献身している民主化の使命に対する攻撃でもある。●トランプ氏の民主主義推進に対する嫌悪感は、彼の権威主義的傾向と一致している。◆The New Public-3:トランプは「他国の内政干渉」より「自国の強化」を重視●20世紀のほとんどの間、民主党は「平和な世界を確保する最善の方法は、他の国々に民主主義の価値観と制度を採用するように奨励することである」と考えていた。共和党は「アメリカは自国の民主主義の守護者であり、他国の内政には責任がない」という、よりシニカルで孤立主義的な見方に傾いていた。●ところが共和党のレーガン大統領は、「民主主義のインフラを育成する」よう呼びかけ、1983年にNEDが超党派の支持を得て設立された。民主主義の推進を外交政策の要に据えるにあたり、レーガンは、少し前までリベラルな民主党員や社会主義者だったネオコンの幹部に助けられた。ネオコン知識人や政策オタクたちは、民主主義推進の中心性を主張した。●しかし、レーガンやジョージ・W・ブッシュのような共和党の大統領の許可にもかかわらず、民主主義の推進は右派から普遍的に支持されることは決してなかった。トランプはレーガンの伝統(NED)を放棄し、(レーガン以前の)硬派な現実政治に戻りつつある。●1980年代から、一連の民主主義革命が南アメリカ、アジア、アフリカ、東ヨーロッパの多くの国を襲った(筆者注:「アラブの春」など)。多くの場合、これらの革命は、超党派のアメリカの外交政策によって支援されたり、促進されたりした。近年、民主主義は後退し始めており、権威主義が台頭している。●この変化は、トランプの支援を受けて持続する可能性が高い。民主主義がますます危機に瀕しているという事実は、NEDのような機関をより重要にしている。トランプはそれを弱体化させ、むしろ、権威主義者や有力者になりそうな人々に、「アメリカは彼らの邪魔をしない」と言っている。●2020年にトランプが民主党に取って代わられたとしても、トランプが共和党の民主化に対する軽蔑を復活させた今、少なくともしばらくは、両党が団結して民主化を推進していた日々は戻らないかもしれない。(以上)◆The New PublicはNEDが戦争の武器になっていることに触れていないThe New Publicが、「トランプがNEDを嫌っていること」と「本当は習近平やプーチンが好きなこと」に関して報道しているのは実にすばらしく、また「アラブの春」に象徴される「他国の民主化への働き」を論じているのは高く評価する。それは拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で考察した内容と一致し、また「国務省の2019会計年度予算要求」によって、筆者の分析を補強していてくれているので非常にありがたい。しかし、肝心のことを忘れてはいないか。それは、NEDは「他国の民主化を支援すること」によって、「他国への内政干渉」を行い、「民主主義的でない国」=「アメリカに親密でない国」の政権を転覆させるという、国際法的には許されないことを設立後からこんにちまでやり続けていたという事実だ。その結果、絶えることのない紛争を巻き起こし続けてきた。世界から戦争が消えないのは、そのせいである。それ故にこそ、筆者はNEDが何をやってきたのかを徹底して分析し、「第二のCAI」として「戦争を先導する役割」に反対し続けてきた。ネオコンは戦争屋と結びついているので、この世から戦争が消えると商売が繁盛しないため、いつでも、どこかで戦争が起きている状態が最も望ましいと考えている。だから世界各地でNEDが暗躍し続けているのだ。この視点がThe New Public報道の作者であるJeet Heer氏には完全に欠落している。◆習近平がNEDを嫌うわけ:NEDが台湾独立を支援しているから何度も言い続けてきたので、くり返すのも申し訳ないが、習近平がNEDを嫌い、反スパイ法を制定したのは、NEDが台湾に支局を置いて、台湾独立をけしかけているからだ。中国大陸内での監視が激しく、NEDスタッフが上陸して暗躍するのが困難になったので、最近ではネットを用いて「白紙運動」などをけしかけている。それも拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』で詳述した。そのため、習近平はトランプが当選してくれることを願っているだろう。もちろんトランプは中国に高関税をかけたり、さまざまな制裁をしたりしてくるだろうが、そのようなことはいくらでも対処できる。むしろ、制裁により国産を目指すしかなくなったので、新産業における中国の目覚ましい発展を可能にさせてくれたほどで、制裁とか高関税などは、中国にとっては小さな問題でしかない。◆ウクライナの親ロシア政権を転覆させたのはNEDとバイデンこれに関しても何度も書いてきたが、たとえば2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※3)などに書いたように、NED自身が年次報告書でNEDの活動の実態を証言しているので、これを疑う余地はない。(陰謀論というレッテルを貼って事実から逃げている人は、NEDの年次報告書をご覧になることをお勧めする。)結果、プーチンももちろんNEDの暗躍には絶対に反対で、それ故に中露の結びつきは、ちょっとやそっとでは弱体化しない。最近では露朝が近づいたので、習近平とプーチンの仲に「亀裂が?」という「希望」を書きたがる評論家が多いが、それは事実とは異なる。今年10月30日に書いたコラム<中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る>(※4)に書いたように、習近平とプーチンは巨大な世界戦略のもとに行動しており、石破内閣が北朝鮮のウクライナ派兵を足掛かりに中国に接近しようとしても、まるで話にならない厳然たる事実があることを見逃してはならない。なお、いまこの時点でアメリカ大統領選の投票が行われているはずだが、結果は明日6日以降にならないと判明しないようなので、「当選」に関しては未来形で書いている。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※5)より転載しました。大統領選挙中のトランプ前大統領(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://newrepublic.com/article/147290/trumps-disdain-democracy-promotion(※3)https://grici.or.jp/4885(※4)https://grici.or.jp/5725(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f10f4eeb3e2ad1a0c7cecc7f2ae36103b1729b48
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2024/11/06 10:31
GRICI
中国「反日」のジレンマ なぜ「短期滞在ノンビザ」日本はダメで韓国はいいのか?【中国問題グローバル研究所】
*15:55JST 中国「反日」のジレンマ なぜ「短期滞在ノンビザ」日本はダメで韓国はいいのか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。中国は11月2日、韓国など9カ国を15日以内の短期滞在のビザ免除(ノンビザ)対象にすると発表した。日本は対象となっていない。韓国は良くて日本がダメな理由はどこにあるのか?考察を深めると、そこには中国「反日」のジレンマが垣間見える。◆中国政府ノンビザ対象国追加を発表中国政府は11月2日、<中国はスロバキアを含む9カ国に対してビザ免除政策を試験的に実施している>(※2)という見出しで9ヵ国のビザ免除を追加的に発表している。内容は以下の通り。――中国外交部領事司は、中国と諸外国との人材交流をさらに促進するため、中国はビザ免除国の範囲を拡大し、「スロバキア、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランド、アンドラ、モナコ、リヒテンシュタイン、韓国」の一般パスポート保有者に対するビザ免除政策を試行することを決定した。2024年11月8日から2025年12月31日まで、上記の国の通常のパスポートを保有する者は、ビジネス、観光、家族、親族や友人訪問、乗り継ぎなどのために15日を超えない範囲内でビザなしで中国に入国できる。ビザ免除の条件を満たさない者は、入国前に中国渡航へのビザを申請する必要がある。(以上)日本にとって気になるのは、なぜ韓国に対して免除するのに、日本がその対象から除外されたかだ。韓国メディアは、韓国が中国のビザ免除対象になるのは初めてだと、驚きを以て伝えている。中国は実は、2020年のコロナ禍以前は日本に対しても短期のビザなし渡航を認めていたが、コロナ禍を受けてすべての国に対してノンビザを停止した。コロナ終了に伴い中国は短期ノンビザ対象国を広げているが、日本はこれまでのところ対象となっていない。日本側は再開を要望しているが、中国政府は中国人の訪日でも同様に免除する「相互主義」を求めて応じていないと一般に言われている。果たしてそうだろうか?◆日中双方にない外交・公用ビザ「相互免除」2024年5月28日、中国領事服務網は<中国と外国の相互ビザ免除協定一覧表>(※3)を公開している。この中に「日本」はない。G7が全てないのかと言ったらそうではなく、「ドイツ、フランス、イギリス、イタリア」は入っている。しかし、日本以外に、「アメリカとカナダ」も入っていない。G7以外でクワッドなどの対中包囲網に参加している国を見てみると、インドやオーストラリアも免除されていない。しかし、たしかに「韓国」は入っている。中国と韓国の間では・2013年8月10日に外交旅券保持者に対して、・2014年12月25日に中国側公務旅券に対して、・2014年12月25日に韓国側官用旅券に対して、それぞれビザを免除することが取り決められた。それなら日本はどうなのかを確認してみよう。日本の外務省の令和6年(2024年)10月1日時点における<外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国>(※4)を見ると、たしかに中国が入っていない。しかし、日本はコロナ前も中国を外交・公用旅券免除国にしていないのに、中国は日本に対して短期ビザ免除を実施していた。したがって、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象国にしないことが理由ではないことが明白だろう。その証拠に、オーストラリアの場合、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象ではないのに、今年6月には短期ビザが免除されるた(※5)。◆では、なぜ日本は免除されないのか?今年7月30日、駐日本国の呉中国大使は記者会見で<ビザ免除再開しないのは「日中関係が原因」>(※6)と述べ、日本に対して改善を求めた。報道によれば、日本人が訪中する際のビザ免除が再開されない理由について、呉大使は「中日関係の全体の雰囲気や、直面している困難、立場の違いが関係している。条件面の調整ではなく、停滞する日中関係が影響している」という認識を示したとのこと。日中関係がコロナ前とコロナに入ってからでは、どのように違っただろうか?考えられるのはバイデン政権になったあと、日米豪印による「クワッド」や米英豪による「オーカス」などの小さなグループを最大限に活用して対中包囲網を形成し始めたことだ。それでもオーストラリア(豪)などがグループのメンバーであっても短期ビザ免除になったのは、「日本ではないから」である。韓国など、米韓軍事同盟により激しい軍事演習をやっていても、ノンビザの対象になる。それもやはり「日本ではないから」だ。なぜ「日本」だといけないのか。それは中国から言わせれば「中国を侵略したから」以外のなにものでもない。毛沢東はそもそも日中戦争時代に日本軍と共謀して国民党軍の蒋介石をやっつけようとしたくらいだから、プロパガンダでは「抗日戦争を戦っているのは共産党軍だ」と主張して民衆を惹きつけるために激しく「抗日」を叫んだが、実際は1956年に遠藤三郎(元大日本帝国陸軍中将)などを中南海に招聘して「皇軍に感謝する」と言ったくらいだ。しかし、その毛沢東でさえ、日本が朝鮮戦争の武器弾薬の倉庫となり日米安保条約を結ぼうとしたときには「反対武装日本」運動を全国的に大々的に展開した。街のいたる所に「中国侵略を終えたばかりの日本が、アメリカのポチになって再軍備をしようとしている」ことを表すポスターが掲げられていた。江沢民が反日教育を始めたあとは、拙著『中国「反日」の闇 浮かび上がる日本の闇』にも詳述したように、日本が国際社会で現在どのような動き方をしているかをつぶさに教える学習指導要領に沿って、若者は時々刻々の日本の動きを日々教えられる。だから日本の政治姿勢を実によく知っている。結果、「日本帝国主義」への怒りは、「現在の日本」へと投影されていく。それがネットで拡散して、「反日感情同調圧力」となっているのだ。岸田元首相はバイデンに諂(へつら)ってNATOの東京事務所を設置すべく動いていたし、自民党総裁選前の河野太郎氏は9月9日、NATOへの日本の加盟に関し「将来、そういう選択肢があってもいい」と述べ、首相に就任した場合、NATOの連絡事務所を東京に誘致する考えも示した(※7)。そして石破首相は今も「アジア版NATO」の考えを否定してはいない。「そのような日本を許してなるものか」という憤りが中国社会全体に流れている。かかる状況で、もし日本に甘い顔を見せたら、ネット民がどのような反応をするかは、中国政府は百も承知だ。韓国に短期ノンビザを認めただけで、中国のネットは荒れている(※8)。ましてや日本になどノンビザを認めたら、若者がどれだけ習近平を「売国奴」と罵るかわからない。だから、今はできないのだ。◆反日のジレンマ習近平としても日本企業には投資してほしいし、特に日本の半導体製造装置関連企業には中国に協力してほしくてならない。多くの観光客にも訪中してほしいからこそ、コロナ後に短期ノンビザ対象国を増やしているところだ。しかし、日本が台湾独立や軍事拡大の方向に動き、ましてや徒党を組んで対中包囲網などを試みようとしている限り、絶対に日本に甘い顔をするわけにはいかない。そこには「反日教育」を強化するしかないところに追い込まれた習近平のジレンマがあるはずだ。胡錦涛政権初期に胡錦涛は「過度の反日教育はナショナリズムを招き好ましくない」として馬立誠に「対日新思考」を書かせたところ、胡錦涛は売国奴として罵倒され、2008年の時には「現在の李鴻章」とまで言われて危機一髪の状況にまで追い込まれている。習近平が中共中央総書記に選ばれることになっていた2012年秋、建国以来最大規模と言ってもいいほどの激しい反日暴動が起きた。だから11月に総書記になった習近平は、江沢民が始めてしまった「反日教育」を強化する以外に選択肢はなかったのだとも言える。しかしもし、明日5日の米大統領選で「アメリカ・ファースト」のトランプが当選したら、事態は一気に変わっていく可能性もないではない。なぜなら、高関税はかけても、徒党を組んでじわじわと対中包囲網を形成したり、NED(全米民主主義基金)を暗躍させて台湾独立をそそのかすような動きを、トランプはしないからだ。日本が対米追随をしても、そこそことなる。明日の米大統領選の結果が待たれる。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。JAPAN PASSPORT(写真:吉原秀樹/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202411/content_6984511.htm(※3)http://cs.mfa.gov.cn/wgrlh/bgzl/202110/t20211029_10403855.shtml(※4)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page22_002019.html(※5)https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202406/content_6959255.htm(※6)https://www.asahi.com/articles/ASS7Z3J9SS7ZUHBI02MM.html(※7)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA082BW0Y4A900C2000000/(※8)https://www.voachinese.com/amp/china-expands-visa-free-policy-to-0-more-countries-including-south-korea-20241102/7848699.html(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/def4fadecd68e21816827d52ba4bace6922856e6
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2024/11/05 15:55
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