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禁止令を出しながらTikTokで若者の大統領選人気を競うバイデンとトランプ【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/06/10 10:25
配信元:FISCO
*10:25JST 禁止令を出しながらTikTokで若者の大統領選人気を競うバイデンとトランプ【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。
中国企業バイトダンス(ByteDance)が運営する動画アプリTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決しておきながら、バイデン大統領もトランプ前大統領もTikTokのアカウントを持ち、大統領選で若者層を取り込もうと競っている。
禁止令に従わなければ米国に売却しろと言われたTikTok側は、禁止令は憲法に違反しているとして差し止めを求める訴えを起こした。大統領選のためなら、どんなに矛盾したことでもするアメリカだが、バイデンは自分自身が選挙活動のためにTikiTokを利用しながら禁止令を出し、トランプは禁止令に反対し最近になってTikTokの公式アカウントを設定し、バイデンのフォロワー数を遥かに超えている。
中国との関係において、この現象を考察してみたい。
◆バイデンがTikiTokの米国内での配信禁止令を出したわけ
2024年3月13日、アメリカ議会下院は安全保障上の懸念があるとして、中国の企業バイトダンス(中国語では「抖音=ドウイン」)が運営するTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決した。米国内での事業を180日以内にアメリカに売却しなければ米国内での配信を禁止するというものだ。
理由は「敵対国からの安全保障上の脅威」だとしているが、実は米大統領選におけるプロパガンダであるとする見解が、身内のバイデン政権側からも出ている。3月13日、国家情報長官のアヴリル・ヘインズ議員は下院情報委員会の公聴会で「中国はソーシャルメディア・アプリTikTokを使って2024年のアメリカ大統領選挙に影響を与える可能性がある」と語っていると、イギリスメディアのザ・ガーディアン紙が報道している(※2)。
4月23日には米議会上院でも賛成79票、反対18票で可決され、4月24日にバイデンが大統領として署名し禁止令は成立した。それによれば、ByteDanceは法案の可決から270日以内にTikTok事業を米国に売却しなければならず、株式保有率は20%未満でなければならない。この計算に基づくと、ByteDanceがTikTokの米国事業を売却する期限は2025年1月19日となる。
この期限が、バイデンが米大統領としての現在の任期の最終日であることは注目に値する。
最初の「180日以内」から「270日以内」に延期したのは、米国各地で禁止令に反対する抗議デモが若者を中心に展開されたため、大統領選においてバイデンに不利に働くことに気が付いたからだろうが、そもそも禁止令を出したのも、やはり大統領選でバイデンに不利に働くと判断したからと思われる。
というのは、前回の大統領選が行われた2020年における若者層(30歳未満の有権者)の支持率は、バイデンが61%だったのに対し、トランプはわずか36%でしかなかった。
ところが2024年2月25日から28日にかけてFOXニュースが行った調査では、若者層の51%が今年11月の大統領選ではトランプに投票する予定だと回答したのに対し、バイデンに入れると回答したのは45%に留まったとのこと。だからこそバイデンは、若者が多く使っているTikTokの使用禁止令を出したものと考えることができる。
◆禁止令に反対したトランプがTikiTokにアカウントを設け一気に人気上昇
その証拠に、最初にバイデンが禁止令を言い出したときに、トランプは間髪を入れずに「禁止令反対」を表明した。
トランプは3月11日に、アメリカのニュース専門放送局CNBCの取材を受け、TikTok禁止令に反対したと、CNBCは以下のような形で報道している。
――2017年から2021年まで米大統領を務めたドナルド・トランプは月曜日(11日)のCNBC番組「スクワークボックス」のインタビューで、「TikTokがなくなれば、フェイスブックを大きくすることになってしまう。フェイスブックは国民の敵だと私は考えている」と語った。(中略)さらに 「TikTokを気に入っている人はたくさんいる。TikTokがなければ気が狂ってしまうような若い子さえ大勢いる」とトランプ前大統領は語った。
事実、アメリカにおけるTikTok利用者の数は1億7000万人に上る。アメリカの総人口は2021年統計で約3億3000万人だ。そのうち赤ちゃんや超高齢者などスマホやiPadなどを使えない人口を考えると、大まかに言って50%以上がTikTokを利用していることになろうか。
その内の有権者の数を考えれば無視できない要素となる。
そこでトランプは、5月30日に有罪判決が出るとすぐ、6月1日にTikTokの公式アカウントを設定した。するとフォロワー数が1日で300万人を超え、その3日後には400万人を超えた。今年2月にTikTokを利用し始めたバイデン陣営のフォロワー数34万人の10倍越えだ。
トランプ自身、大統領在任中は、国家安全保障上の懸念を理由にTikTokの使用を禁じる大統領令に署名しているが、カリフォルニア州の連邦地裁が「言論の自由」への懸念を理由に、同命令を差し止める判断を下している。
◆TikTok 中国親会社が「表現の自由を侵害した」として米政府を提訴
一方、TikTokは中国の親会社とともに5月8日(米時間7日)、「この法律(禁止令)は憲法に違反している」として差し止めを求める訴えを起こした(※3)。
訴状の中でTikTok側は「憲法に違反し、憲法で保障された表現の自由を侵害するものだ」と指摘し、「配信を停止しなければTikTokを米国に売却するという条件は、商業的にも、技術的にも、法的にも不可能だ」と主張している。つまり、絶対に売却しないということだ。
TikTok側の「禁止令は表現の自由に反する」という主張が、米国内の若者を中心とした「禁止令抗議デモ」の主張と一致するというのも、なんとも奇妙な話だ。
TikTok側では、トランプ政権時代にも、「言論の自由」を理由にTikTok配信禁止令を連邦地裁が取り下げていることを強みとして、勝算は高いと見ているようだ。もし勝てば、米中言論闘争に関して「中国側が自由を勝ち取った」という、実にねじれた社会現象が生まれることになる。
◆トランプが「絶対にTikTokを禁止しない!」と強く表明
6月7日、トランプは「ターニング・ポイントUSA」の創設者チャーリー・カーク氏との対談で、若い有権者にリーチするためのより大きな戦略について語った際に<「私は絶対にTikTokを禁止しない!」と、非常に強いトーンで誓ったという>(※4)。そしてバイデンを「史上最悪の大統領」と呼んだそうだ。
アリゾナ州のタウンホールでトランプをもてなしたカーク氏は、トランプを「TikTok お気に入りの大統領」と呼んで、トランプとのやり取りのTikTok動画にキャプションを付けている。
トランプがTikTok支援側に立つようになったのは、自身の選挙運動への大口献金者で、バイトダンスの15%の株を保有するジェフリー・ヤス氏と会ったからだ(※5)と一部に報じられたが、トランプはそれを強く否定している。
◆中国はトランプを応援しているのか?
この流れから見ると、あたかも中国がトランプを応援していて、それがTikTokに反映され、バイデンに不利になっているように見える。
中国政府自身は「他国の選挙干渉」として何も表明しないが、しかし実際上、バイデンが「台湾有事の際には米軍が台湾を応援する」と何度も表明し台湾独立を煽っているのに対して、トランプは台湾有事に関してはノーコメントを貫いている。
その意味において、当然中国はトランプに当選してもらった方が「まだマシか」とは思っている可能性が高い。
この分析に関しては、別の機会に譲りたい。
なお詳細は拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第一章 TikTokと米大統領選と台湾有事】で考察した。
この論考はYahoo(※6)から転載しました。
写真:ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.theguardian.com/technology/2024/mar/13/china-tiktok-us-election-influence-avril-haines-us-house-of-representatives
(※3)http://www.news.cn/world/20240508/2a72b7b61e3340428a44d99fdf2c3527/c.html
(※4)https://nypost.com/2024/06/07/us-news/trump-vows-he-will-never-ban-tiktok-in-strongest-statement-yet-on-social-media-giant/
(※5)https://nypost.com/2024/03/07/us-news/billionaire-tiktok-investor-bullies-lawmakers-to-stop-sale/
(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/58858e2b9af412bdf5b4383254b09e51b1a0fe70
<CS>
中国企業バイトダンス(ByteDance)が運営する動画アプリTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決しておきながら、バイデン大統領もトランプ前大統領もTikTokのアカウントを持ち、大統領選で若者層を取り込もうと競っている。
禁止令に従わなければ米国に売却しろと言われたTikTok側は、禁止令は憲法に違反しているとして差し止めを求める訴えを起こした。大統領選のためなら、どんなに矛盾したことでもするアメリカだが、バイデンは自分自身が選挙活動のためにTikiTokを利用しながら禁止令を出し、トランプは禁止令に反対し最近になってTikTokの公式アカウントを設定し、バイデンのフォロワー数を遥かに超えている。
中国との関係において、この現象を考察してみたい。
◆バイデンがTikiTokの米国内での配信禁止令を出したわけ
2024年3月13日、アメリカ議会下院は安全保障上の懸念があるとして、中国の企業バイトダンス(中国語では「抖音=ドウイン」)が運営するTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決した。米国内での事業を180日以内にアメリカに売却しなければ米国内での配信を禁止するというものだ。
理由は「敵対国からの安全保障上の脅威」だとしているが、実は米大統領選におけるプロパガンダであるとする見解が、身内のバイデン政権側からも出ている。3月13日、国家情報長官のアヴリル・ヘインズ議員は下院情報委員会の公聴会で「中国はソーシャルメディア・アプリTikTokを使って2024年のアメリカ大統領選挙に影響を与える可能性がある」と語っていると、イギリスメディアのザ・ガーディアン紙が報道している(※2)。
4月23日には米議会上院でも賛成79票、反対18票で可決され、4月24日にバイデンが大統領として署名し禁止令は成立した。それによれば、ByteDanceは法案の可決から270日以内にTikTok事業を米国に売却しなければならず、株式保有率は20%未満でなければならない。この計算に基づくと、ByteDanceがTikTokの米国事業を売却する期限は2025年1月19日となる。
この期限が、バイデンが米大統領としての現在の任期の最終日であることは注目に値する。
最初の「180日以内」から「270日以内」に延期したのは、米国各地で禁止令に反対する抗議デモが若者を中心に展開されたため、大統領選においてバイデンに不利に働くことに気が付いたからだろうが、そもそも禁止令を出したのも、やはり大統領選でバイデンに不利に働くと判断したからと思われる。
というのは、前回の大統領選が行われた2020年における若者層(30歳未満の有権者)の支持率は、バイデンが61%だったのに対し、トランプはわずか36%でしかなかった。
ところが2024年2月25日から28日にかけてFOXニュースが行った調査では、若者層の51%が今年11月の大統領選ではトランプに投票する予定だと回答したのに対し、バイデンに入れると回答したのは45%に留まったとのこと。だからこそバイデンは、若者が多く使っているTikTokの使用禁止令を出したものと考えることができる。
◆禁止令に反対したトランプがTikiTokにアカウントを設け一気に人気上昇
その証拠に、最初にバイデンが禁止令を言い出したときに、トランプは間髪を入れずに「禁止令反対」を表明した。
トランプは3月11日に、アメリカのニュース専門放送局CNBCの取材を受け、TikTok禁止令に反対したと、CNBCは以下のような形で報道している。
――2017年から2021年まで米大統領を務めたドナルド・トランプは月曜日(11日)のCNBC番組「スクワークボックス」のインタビューで、「TikTokがなくなれば、フェイスブックを大きくすることになってしまう。フェイスブックは国民の敵だと私は考えている」と語った。(中略)さらに 「TikTokを気に入っている人はたくさんいる。TikTokがなければ気が狂ってしまうような若い子さえ大勢いる」とトランプ前大統領は語った。
事実、アメリカにおけるTikTok利用者の数は1億7000万人に上る。アメリカの総人口は2021年統計で約3億3000万人だ。そのうち赤ちゃんや超高齢者などスマホやiPadなどを使えない人口を考えると、大まかに言って50%以上がTikTokを利用していることになろうか。
その内の有権者の数を考えれば無視できない要素となる。
そこでトランプは、5月30日に有罪判決が出るとすぐ、6月1日にTikTokの公式アカウントを設定した。するとフォロワー数が1日で300万人を超え、その3日後には400万人を超えた。今年2月にTikTokを利用し始めたバイデン陣営のフォロワー数34万人の10倍越えだ。
トランプ自身、大統領在任中は、国家安全保障上の懸念を理由にTikTokの使用を禁じる大統領令に署名しているが、カリフォルニア州の連邦地裁が「言論の自由」への懸念を理由に、同命令を差し止める判断を下している。
◆TikTok 中国親会社が「表現の自由を侵害した」として米政府を提訴
一方、TikTokは中国の親会社とともに5月8日(米時間7日)、「この法律(禁止令)は憲法に違反している」として差し止めを求める訴えを起こした(※3)。
訴状の中でTikTok側は「憲法に違反し、憲法で保障された表現の自由を侵害するものだ」と指摘し、「配信を停止しなければTikTokを米国に売却するという条件は、商業的にも、技術的にも、法的にも不可能だ」と主張している。つまり、絶対に売却しないということだ。
TikTok側の「禁止令は表現の自由に反する」という主張が、米国内の若者を中心とした「禁止令抗議デモ」の主張と一致するというのも、なんとも奇妙な話だ。
TikTok側では、トランプ政権時代にも、「言論の自由」を理由にTikTok配信禁止令を連邦地裁が取り下げていることを強みとして、勝算は高いと見ているようだ。もし勝てば、米中言論闘争に関して「中国側が自由を勝ち取った」という、実にねじれた社会現象が生まれることになる。
◆トランプが「絶対にTikTokを禁止しない!」と強く表明
6月7日、トランプは「ターニング・ポイントUSA」の創設者チャーリー・カーク氏との対談で、若い有権者にリーチするためのより大きな戦略について語った際に<「私は絶対にTikTokを禁止しない!」と、非常に強いトーンで誓ったという>(※4)。そしてバイデンを「史上最悪の大統領」と呼んだそうだ。
アリゾナ州のタウンホールでトランプをもてなしたカーク氏は、トランプを「TikTok お気に入りの大統領」と呼んで、トランプとのやり取りのTikTok動画にキャプションを付けている。
トランプがTikTok支援側に立つようになったのは、自身の選挙運動への大口献金者で、バイトダンスの15%の株を保有するジェフリー・ヤス氏と会ったからだ(※5)と一部に報じられたが、トランプはそれを強く否定している。
◆中国はトランプを応援しているのか?
この流れから見ると、あたかも中国がトランプを応援していて、それがTikTokに反映され、バイデンに不利になっているように見える。
中国政府自身は「他国の選挙干渉」として何も表明しないが、しかし実際上、バイデンが「台湾有事の際には米軍が台湾を応援する」と何度も表明し台湾独立を煽っているのに対して、トランプは台湾有事に関してはノーコメントを貫いている。
その意味において、当然中国はトランプに当選してもらった方が「まだマシか」とは思っている可能性が高い。
この分析に関しては、別の機会に譲りたい。
なお詳細は拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第一章 TikTokと米大統領選と台湾有事】で考察した。
この論考はYahoo(※6)から転載しました。
写真:ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.theguardian.com/technology/2024/mar/13/china-tiktok-us-election-influence-avril-haines-us-house-of-representatives
(※3)http://www.news.cn/world/20240508/2a72b7b61e3340428a44d99fdf2c3527/c.html
(※4)https://nypost.com/2024/06/07/us-news/trump-vows-he-will-never-ban-tiktok-in-strongest-statement-yet-on-social-media-giant/
(※5)https://nypost.com/2024/03/07/us-news/billionaire-tiktok-investor-bullies-lawmakers-to-stop-sale/
(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/58858e2b9af412bdf5b4383254b09e51b1a0fe70
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プーチン訪朝で国境の豆満江開放 中国海警局の船も日本海に!【中国問題グローバル研究所】
*10:38JST プーチン訪朝で国境の豆満江開放 中国海警局の船も日本海に!【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。6月19日、北朝鮮を訪問していたプーチン大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長との間で「包括的戦略パートナーシップ」が締結された。軍事同盟に近い「互いの国が第三国から攻撃された場合には互いに支援する」という項目が盛り込まれたようだが、同時に合意文書には「豆満江(とまんこう)に架かる国境道路橋の建設に関するロシア連邦政府と朝鮮民主主義人民共和国政府間の合意」も謳われている。豆満江は「中露朝」三ヵ国の国境に接する河で、日本海に注ぐ国際河川だ。中国にとっては、旧ソ連以来塞(ふさ)がれていた豆満江の航行が自由化されることになる。それは立ち遅れていた「東北大振興政策」を大きく飛躍させ中国にとっては大きな収穫だが、日本にとっては厳しいダメージをもたらすだろう。なぜなら貨物を運ぶコンテナ船だけでなく、中国海警局の大型船舶も北の豆満江から日本海に直行できるようになるからだ。これらはアメリカによる「中露朝」に対する制裁や包囲網がもたらした結果でもあることを見逃してはならない。◆中露間に横たわっていた豆満江航行閉鎖問題中国の東北部吉林省の東端(地図で見て右端)は、「中国・ロシア・北朝鮮」三ヵ国の国境が接する地区につながっている。そこには豆満江(中国語では図們江)という河が流れており、朝鮮戦争のときに旧ソ連と北朝鮮をつなぐ「ソ朝友誼大橋」が架けられた。1952年のことで、最初は武器やその他の支援物資をソ連から北朝鮮に運ぶための簡易な木製の大橋だったが、1959年に金属製に強化された。問題は橋の高さだ。水面からわずか7メートルほどしかないので、中国領土の吉林省の琿春(こんしゅん)市防川村までしか中国の大型船は航行できず、中国東北部は本来なら豆満江を下れば日本海に出られたのに、それが出来なかった。中国はこれまで何度も何度もロシアに対して大橋を解体して中国の大型船舶が通れるように改善して欲しいと頼んできたのだが、ロシアは、プーチン時代に入ってからも首を縦に振らなかった。それが突如変わったのは、ウクライナ戦争で西側からの厳しい制裁を受ける中、習近平が経済面に関しては徹底してプーチンを支援してきたからだと断言していいだろう。それ以外に思い当たる理由はない。◆中国20年来の「東北大振興政策」がウクライナ戦争により実現中国建国当時、東北部は「旧満州国」が遺した重工業施設が豊富だったので、第一次五ヵ年計画は東北部の重工業を中心として経済建設が推進され、改革開放までは中国経済の花形として、その骨格を成していた。しかし1980年代から自由経済の波が中国全土を覆うにつれ、国営企業を中心とした重工業地帯・東北部は経済発展から取り残され、荒廃の一途をたどっていったので、胡錦涛政権時代に入った2003年に「東北大振興政策」が打ち出された。あれから20年。遅々として進まなかった東北大振興に新しい光をともしたのはロシアのプーチンだ。ウクライナ戦争により西側からの制裁が激しいため、活路を東側に見いだし、中国語で「看東方」と呼ばれる東方重視策に着手した。拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第五章 ウクライナ戦争と「嗤う習近平」】の【三 中国20年来の「東北大振興政策」が初めて実現できた】で書いたように、2023年9月7日に、習近平が黒竜江省ハルビン市で「新時代の東北全面振興を推進する」という座談会を開いた。すると、それに呼応するように数日後の9月11日から13日にかけてウラジオストクで開催した「東方経済フォーラム」で、プーチンは「ロシアは遠東重点戦略に着手する」と宣言。今年5月16日から17日にかけて、プーチンは国賓として訪中し習近平と会談して共同声明を発表した。その中で、「(中露)両国は図們江(豆満江)下流域を航行する中国船舶の問題について朝鮮民主主義人民共和国と建設的な対話を行う」と謳っている。今般のプーチンによる訪朝の目的の一つは、まさにこの「豆満江における中国船舶航行問題」を解決することにある。日本のメディアでは、「露朝の接近に中国ジレンマ」といった傾向の報道が多く、中国が露朝接近を警戒しているのではないかと思っているようだが、実際はまったくその逆だ。◆豆満江を航行できれば、中国海警局の大型船舶も直行で日本海に出航できるこれまで堰(せ)き止められていた豆満江流域の吉林省琿春市防川村から日本海までは、わずか15キロメートルしかない。目の前が日本海だ。ただ露朝間に架けられている友誼大橋の高さは7メートルなので、貿易用のコンテナ船であれ海警局の大型艦艇であれ、せめて水面から30メートルほどの高さがないと安心して通ることはできないだろう。したがって現在の友誼大橋を取り壊して、新しく水上最低30メートルほどはある鉄橋を建設するしかない。建設費用は中国が持つだろうが、ここが「大海」に開放されれば、中国東北部の経済繁栄に大きく寄与するのは確実だ。中国にとって露朝会談は大歓迎なのだが、問題は日本に対する安全保障上のリスクが急激に高まるということである。中国はこれまで北朝鮮を動かそうと思えばできたはずだが、今回習近平は先ずプーチンを説得してから、プーチンに北朝鮮の金正恩を説得させた。それは習近平がウクライナ戦争によりプーチンの足元を見ている証拠なのだが、金正恩は習近平の話よりもプーチンの話の方に、より耳を傾ける傾向にある。北朝鮮の建国の父である金日成(キム・イルソン)はソ連の支援を得て北朝鮮を建国したからだ。一方、中朝は軍事同盟を結んでいるが、露朝は(旧)ソ連崩壊によってそれまでソ朝間で締結されていた軍事同盟は消滅していた。プーチンによる24年ぶりの訪朝は、まさにその軍事同盟に近い同盟関係を露朝間にもたらしたことになる。それも、もとはと言えばバイデン大統領がアメリカによる一極支配を維持したいためにウクライナをそそのかし、NATOを焚きつけてプーチンがウクライナを侵略するしかないところにプーチンを追い込んだことが最も大きな要因と言える(ウクライナを侵略したプーチンは悪いが、戦争中であればウクライナはNATOに加盟できないので、ウクライナをNATO加盟させないために戦争を仕掛けたという側面もあるだろう。アメリカはソ連を崩壊させるときにNATOを1インチたりとも東方に拡大させないと旧ソ連に約束したが、その約束を限りなく破ってきたという経緯がある)。もしトランプ前大統領が第二期目も大統領を務めていたら、ウクライナ戦争は起きていなかったことを考えると、その因果関係は明白だろう。トランプはNATOやウクライナを動かしてプーチンを倒そうとするどころか、「NATOなど要らない」と繰り返し、プーチンとは仲良くしたくてならなかった大統領だった。北朝鮮の金正恩と電撃的な会談を行なって、朝鮮戦争以降の北朝鮮問題を解決しようとさえしたではないか(トランプはキッシンジャーのようにノーベル平和賞をもらいたいと思っていた。だから故安倍総理にノーベル平和賞への推薦状を依頼したほどである)。トランプは、アメリカを軍事産業によって運営していこうとするネオコンではないために、ネオコンによって北朝鮮との雪解けは封じられてしまった。朝鮮半島が平和になるとアメリカの軍事産業が要らなくなるので、ネオコンは困るのだ。こうして世界中に戦争をばらまいた、バイデンに代表されるアメリカの戦争屋たちが、「中露朝」という、非米陣営のブロックを形成させる結果を招いたことを見逃してはならない。日本に脅威をもたらすのは、アメリカであることが見えてくるプーチンの訪朝であったと思う次第だ。なお筆者は1947年から48年にかけて吉林省長春市で中国共産党による食糧封鎖に遭い、餓死体の上で野宿させられた経験を持つ。国共両軍の真空地帯である卡子(チャーズ)を脱出したあとは北朝鮮に接する吉林省延吉市に難民として流れ着いた。その延吉で豆満江を見ながら2年間の歳月を過ごし、1950年には朝鮮戦争を迎えた。したがって筆者にとって豆満江は、「二度と戦争を起こしてはならない」と筆者に決意させる象徴の一つでもある。そのため、誰が戦争を起こさせるのかを生涯かけて追究している。その視点から論考を書いていることを読者の方々にご理解いただきたいと、心から願う。この論考はYahoo(※2)から転載しました。写真: プーチン大統領と金正恩委員長(ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4dd0680ec41df27097d0de1173bac50ce79fd406
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2024/06/20 10:38
GRICI
ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】
*10:55JST ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆中国&ブラジル和平案の「6項目コンセンサス」とは?では、ウクライナ戦争に対する中国とブラジルが共同で提唱する和平案とはどういう内容なのだろうか?今年5月23日、王毅・中共中央政治局委員兼外交部長は、北京でブラジルのアモリン大統領首席補佐官と会談し、「ウクライナ危機の政治的解決のための、中国&ブラジル6項目コンセンサス」に合意した(※2)。以下に、その「6項目コンセンサス」を記す。1.すべての関係者に対し、緊張緩和の「3つの原則」、すなわち、「戦場の拡大禁止、戦闘激化の禁止、戦争を煽ることを禁止」を遵守するよう呼びかける。2.対話と交渉がウクライナ危機から抜け出す唯一の実行可能な方法であると信じる。 当事者は、直接対話を再開するための条件を整備し、全面的な停戦に達するまで緊張緩和を促進すべきである。中国とブラジルは、「ロシアとウクライナ双方が認め、各方面が平等に参加し、すべての和平案について公正な議論を行えるような」国際平和会議を適切な時期に開催することを支持する。3.より大規模な人道危機の発生を未然に防ぐため、関連分野における人道支援を強化すべきである。 民間人や民間施設への攻撃は避けるべきであり、女性、子供、戦争捕虜などの民間人は保護されるべきである。 紛争当事者間の捕虜交換を支援する。4.大量破壊兵器、特に核兵器、化学兵器、生物兵器の使用に反対する。 核拡散を防止し、核危機を回避するために可能な限りの努力をする。5.原子力発電所やその他の平和的な原子力施設への攻撃に反対する。 すべての当事者は、原子力安全条約などの国際法を遵守し、人為的な原子力事故を断固として回避すべきである。6.世界の分断と閉鎖的な政治的または経済的ブロックの形成に反対する。世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定を維持するために、エネルギー、通貨、金融、貿易、食料安全保障、石油・ガスパイプライン、光海底ケーブル、電力・エネルギー施設、光ファイバーネットワークなどの重要インフラの安全保障に関する国際協力を強化することを求める。中国とブラジル双方は、上記のコンセンサスに対する国際社会の支持と参加を歓迎し、事態の緊張緩和と和平交渉の促進に共同で建設的な役割を果たす。(以上が中国の外交部ウェブサイトに載っている説明だ。)ここで肝心なのは、「2」にある「ロシアとウクライナ双方が認める」という言葉で、中国&ブラジル案は、「排除の論理」に立っていないことが明らかである。当事者双方が参加し、他のいかなる国や国際組織も平等に自由に参加することを謳っている。また、「4」にあるように、「核兵器の使用を禁じる」という意味では、ロシアに一定の圧力を与えることになる。停戦交渉を行なう時に、戦争をしている当事国を招かないで、片方の国だけが相手国を排除した形で仲間を集めるのでは、停戦に結びつくはずがない。おまけにゼレンスキー和平案はロシア軍が2014年以前までの状態に戻るまで一人残らずウクライナから撤退するというのが絶対条件で、ウクライナの完全勝利以外の結果は絶対に受け付けない。しかし欧州外交問題評議会(ECFR)が今年1月に行った世論調査(※3)では、「わずか10%の欧州人しかウクライナの勝利を信じている人はいない」ことがわかった。この状況でゼレンスキー案が受け入れられる可能性は極めて低いだろう。もちろんロシアがウクライナに軍事侵攻したのが悪い。しかし、そこに追い込んだバイデン政権(副大統領時代からのバイデン個人の動き)を考えると、ロシアだけを一方的に非難することもできない。バイデンは2013年末にウクライナでNED(全米民主主義基金)をフル活用してマイダン革命を仕掛け、ウクライナの親露政権を転覆させ、親米傀儡政権をウクライナに樹立させた。もし仮に日本に激しい反中政権があり、中国共産党が日本で暗躍して日本の反中政権を転覆させ、日本に親中政権を樹立させるようなことがあったとしたら、日本は許すだろうか?あり得ない他国干渉であり、国際秩序を激しく乱すものとして全力で厳しく抗議するだろう。その同じことをアメリカがウクライナでやっているのに、なぜそこはスルーするのか。アメリカなら何をやっても許されるのか。アメリカの都合で(NEDの見えない糸の影響下で)動く日本のメディアは、真相から目をそらさせ、結局のところ日本を戦争へと導いている。そのことを、より多くの日本人が、上記の矛盾からも洞察してくださることを祈らずにはいられない。この論考はYahoo(※4)から転載しました。ウクライナのゼレンスキー大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.mfa.gov.cn/wjdt_674879/wjbxw_674885/202405/t20240523_11310686.shtml(※3)https://ecfr.eu/publication/wars-and-elections-how-european-leaders-can-maintain-public-support-for-ukraine/(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/579e120ba0f51cf3384ad9463fbddb948fa72557
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2024/06/17 10:55
GRICI
ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】
*10:54JST ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。6月15日から16日にかけてスイスでウクライナ戦争の停戦に関して「ロシアの参加を排除したゼレンスキー案」に基づいたウクライナ平和サミットが開かれている。会議にはロシアを参加させないという条件があるため、中国は参加しないと表明していた。それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は6月2日、シンガポールでの「アジア安全保障会議」で「中国がウクライナ平和サミットに参加しないように各国に呼び掛けている」、「中国は戦争支持者だ」と激しく中国を非難した。だというのに、6月13日になるとイタリアG7サミット後のバイデン大統領との共同記者会見で、突如、「習近平は電話会談でロシアに武器を送らないと約束している」と中国擁護に回り、バイデンが慌てて否定する場面があった。ロシアを含めたすべての国が平等に参加すべきとする「中国&ブラジルが提案している和平案」とともに、何が起きたのかを検証する。◆前言を翻(ひるがえ)したゼレンスキー6月2日、シンガポールのシャングリラホテルで開催されていた「アジア安全保障会議」に出席したゼレンスキーは、記者会見で「中国が他国にウクライナ和平サミットに出席しないよう圧力をかけている」(※2)と非難し、また「中国はロシアの手先であり、戦争の支持者だ」(※3)とまで言って中国を激しく罵倒した。そのゼレンスキーは6月13日になると突然、G7サミットでのバイデンとの共同記者会見で「習近平国家主席がゼレンスキーとの電話会談で、中国がロシアに武器を売却しない」(※4)と約束したと言い出した。この電話会談がいつ行われたものかに関しては触れていない。しかしゼレンスキーは「習近平が立派な人物であれば、私に約束した以上、売却しないだろう」と述べたという。すると、共同記者会見に臨んだバイデンは「武器を生産する能力とそれに必要な技術を提供している。つまり、中国は実際にロシアを支援している」と述べ、反論したほどだ。このことは、<中国に対する見方で温度差 対ロ支援巡って―米ウクライナ首脳>(※5)など、日本の少なからぬメディアも報道している。では、6月2日から13日迄の間に、いったい何が起きたのだろうか?◆ウクライナ高官が訪中し、ゼレンスキーはサウジアラビアに飛んでいた2日のゼレンスキーによる激しい対中批難が公表されると、中国外交部の報道官は定例記者会見で直ちに「中国がウクライナ平和サミットに出席しないように他国を説得した事実は皆無だ!」(※6)と反論し、王毅政治局委員兼外相は6月4日に、訪中していたトルコのフィダン外相と北京で共同記者会見をし「中国はスイスが(ウクライナ平和サミットのために)行った作業を非常に尊重し、スイス側に対して建設的な提案を繰り返し行い、スイス側は常にこれを称賛し、感謝してきた」と述べ(※7)、暗にゼレンスキーの発言を否定した。すると、ウクライナの外務省はそのウェブサイトで<王毅発言に対する(肯定的な)コメントを発表>(※8)し、その翌日の6月5日には、あわててウクライナのアンドリー・シビハ第一副外相(第一外務次官)を北京に派遣し(※9)、中国の孫偉東外交部副部長と会談。それは電光石火のような勢いで、アンドリー・シビハ氏は続けて中国政府の李輝・ユーラシア担当特別代表(※10)および中共中央聯絡部の陳州副部長とも会っている。さらに翌6日には上海に飛び、上海全人代常務委員会副主任(※11)と会談し、さらに中国の13社の企業代表(※12)と面談した。中国はウクライナの最大貿易国で、中国はこれまでウクライナとの友好を重んじ、ウクライナに対する人道支援金などもしてきた。その中国を敵に回すのは賢明でないと判断したためだろう。李輝はこれまで何度もウクライナを訪問して、中国の和平案に関して説明し、かつゼレンスキーから称賛を得ている。今般の中国&ブラジル案に関しても事前にウクライナを訪問し了承を取り付けてから公開している。そのことをゼレンスキーは思い出したのかもしれない。さらに決定打的なことがあった。中国がイランとサウジアラビアを和解させてからは、サウジアラビアの中国への接近が激しくなっている。そこでゼレンスキーは6月12日にサウジアラビアを訪問しムハンマド皇太子と会談している(※13)のだ。スイスで開催するウクライナ平和サミットへの参加を呼びかけたが、どうやらムハンマド皇太子は断ったようだ。平和サミットは首脳級が参加することになっているが、ムハンマド皇太子は結局参加せず、義理のように外相を参加させてお茶を濁した。それもそのはず、5月31日には北京で中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚級会議(※14)が開催され、父親の病気で出席できなかったムハンマド皇太子の代わりに外相が出席し、王毅と会談したばかりだ。さらに6月10-11日にロシアで開催されたBRICS外相会議にも二人は揃って出席している。もちろん中国&ブラジル案が提唱している和平案にサウジアラビアは賛同している。したがって、むしろ、ゼレンスキーに、あのような対中批判などすべきではないと説教した可能性さえある。あれだけウクライナをも支援してきた中国を敵に回せば、それこそゼレンスキー自身が世界を二分させる冷戦構造を形成するのに貢献することになる。このような経緯があり、ゼレンスキーは対中批判を引っ込めたものと考えられる。なお、電話会談は2023年4月に行われたもの(※15)を指しているとしか考えられず、「あの時の習近平との約束を忘れたのか」と諭されたのではないかと思うのである。だから今頃になって1年ほど前の習近平との電話会談を持ち出したのではないだろうか。「ゼレンスキー大統領はなぜ対中批難を引っ込めたのか? ウクライナ戦争和平案を巡り(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo(※16)から転載しました。ウクライナのゼレンスキー大統領 写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://apnews.com/article/ukraine-singapore-shangrila-russia-defense-94ebb72539182a0215c85895725cdd48(※3)https://edition.cnn.com/2024/06/02/europe/zelensky-ukraine-shangrila-address-intl-hnk/index.html(※4)https://jp.reuters.com/world/ukraine/BH666KDFL5IWHCTTLO32WRVUBA-2024-06-13/(※5)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024061400319&g=int(※6)https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202406/t20240603_11375826.shtml(※7)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202406/t20240604_11376586.shtml(※8)https://mfa.gov.ua/en/news/komentar-mzs-ukrayini-shchodo-ostannih-zayav-ministra-zakordonnih-sprav-knr(※9)https://mfa.gov.ua/en/news/ukrayina-ta-kitaj-proveli-politkonsultaciyi(※10)https://www.fmprc.gov.cn/web/wjdt_674879/sjxw_674887/202406/t20240606_11377617.shtml(※11)https://mfa.gov.ua/en/news/andrij-sibiga-proviv-zustrich-iz-zastupniceyu-golovi-postijnogo-komitetu-narodnih-zboriv-shanhayu(※12)https://mfa.gov.ua/en/news/andrij-sibiga-proviv-zustrich-z-predstavnikami-dilovih-kil-knr(※13)https://jp.reuters.com/world/ukraine/5WGJXPGG3RIT3BO2673BKD7HUU-2024-06-13/(※14)https://www.fmprc.gov.cn/wjbzhd/202405/t20240531_11366748.shtml(※15)https://www.president.gov.ua/en/news/vidbulasya-telefonna-rozmova-prezidenta-ukrayini-z-golovoyu-82489(※16)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/579e120ba0f51cf3384ad9463fbddb948fa72557
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2024/06/17 10:54
GRICI
中露蜜月はなぜ堅固なのか? プーチンは習近平にスパイ極秘情報を渡していた【中国問題グローバル研究所】
*10:41JST 中露蜜月はなぜ堅固なのか? プーチンは習近平にスパイ極秘情報を渡していた【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月16日に訪中したプーチン大統領は、習近平と12時間にわたって時間を共にしているが、どうやらその間にプーチンが習近平に極秘スパイ情報を渡していたことがのちにわかった。それは中露両国政府を転覆させようとする外国勢力による中露国内におけるスパイ活動のリストらしい。6月15日から16日にかけてスイスでウクライナ戦争の停戦案に関する会議が開催されるが、ロシアが呼ばれていない上に、中国&ブラジルによる共同の和平案を新たに公開していることなどから習近平も出席しない。その背後には「秘密スパイ情報」によってますます強固になっていく二人の蜜月がある。「外国勢力」とは誰のことを指すのか?世界はその「外国勢力」によって大きく二分されながら重要な転換点を迎えようとしている。◆中露首脳会談とスパイ極秘情報もう1ヵ月ほど前のことになるが、今年5月16日、プーチンは北京を訪問し習近平と会談した(※2)。中露国交樹立75周年記念であることと、習近平が三期目の国家主席に就任した後に最初に訪問したのがロシアであったためその返礼としてプーチンが5度目の大統領に就任したので、最初の訪問国を中国にしたと、双方が言っている。首脳会談では「中露国交樹立75周年に当たっての新時代の全面的パートナーシップに関する共同声明」(※3)を発表したり、16日の夜には中南海で二人だけの会談をしたり(※4)などしたことは、広く知られているところだ。その合計の接触時間は12時間以上であったと、ロシアのタス通信は伝えている(※5)。注目すべきは5月18日にロシアの衛星通信であるスプートニクが爆弾情報を公開したことである。5月18日、<ロシア議会下院:中国とロシアに対する政府転覆活動に関する資料がロシアから中国に渡された>(※6)というスプートニクの情報が中国語に翻訳されて報道された。そこには以下のようなことが書いてある。――ロシア議会下院のロシア内政干渉調査委員会のワシーリー・ピスカレフ委員長は、ロシアと中国の政府を転覆させようと活動している外国組織の情報を、最近ロシアが中国側に渡したと述べた。同委員会のテレグラム・チャンネルは、ピスカレフ氏の発言を引用して「われわれは最近、ロシアと中国に対する外国組織の政府転覆活動に関する資料を中国側に渡した」と報道した。ピスカレフはまた、「新たな挑戦や脅威に直面し、ロシアと中国に対する外圧が日々高まる中、当該委員会は近い将来、ロシアは中国というパートナーとの協力を継続し、外国の干渉に対する主権と立法を保護する最も優れた方法を実施する計画である」と表明した。報道は以上で、非常に短いものだ。◆中国とは事前に調整し合っていたのか?中国の民間ウェブサイト騰訊新聞 (qq.com)は5月20日、この情報に関して<ロシアは機密資料を送った、外国による政府転覆活動、国家安全部(国安部)は集中的に情報発信、西側スパイは大きな問題に直面している>(※7)という見出しで、かなり長文の報道をしている。報道の一部には以下のようなことが書いてある。――外国が中国に対して政府転覆活動を行なっているのは、決して驚くべきことではない。中国の国家安全部は国務院のすべての部局の中で最も「謎」が多く、公式ウェブサイトがない唯一の部局でもある。この部局に関する外部の情報は公安部部長の名前と履歴に限られており、その他は一切知らされていない。しかし、そんな謎の部門が昨年7月末、独自のWeChat公式アカウントを開設し、通報(密告)チャンネルを発布した。もし外国による中国政府転覆活動がますます横行していないのだったら、何のために国家安全部が舞台裏から表舞台に出る必要があるのか?最近、国家安全部はスパイ摘発事件のニュースに関してWeChatの公開アカウントを集中的に更新している。5月17日、国家安全部は、航空宇宙分野における複数のスパイ事件の摘発経過を紹介する文書を発表した。それによれば5月13日、国家安全部は、スパイが外国人教授になりすまして我が国の生態系データを盗んだ事件を明らかにした。また、利益誘導やポルノ誘惑などの手段も使用されているのを確認している。現在、国家安全部は基本的に週に 2 ~ 3 件の特別報告を報道しており、これは、スパイ事件が毎週偵察され看破されていることを意味する。(騰訊新聞からの引用は以上)◆「外国勢力」の正体は「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)いうまでもなく、極秘情報が言うところの「外国勢力」の正体は、基本的に「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)だ。ロシアでは2012年から「外国の代理人」法を設け、予算の20%以上を外国から提供されている団体に対し、いわゆる「外国の代理人」として登録することを義務づけている。2024年には、「団体」を「個人」にまで拡大させた。それは、2023年12月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※8)の4回シリーズを通して書いたように、ソ連時代からアメリカは何としてもソ連を倒したいとしてNEDに暗躍させてきた。そのことは2023年10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartI>(※9)で考察した。特に近年は、コラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartIV 2016-2022 台湾有事を招くNEDの正体を知るため>(※10)の図表2で示したアレクセイ・ナワリヌイのように、NEDの支援金の活動対象が特定の人物に象徴されるようになってきた。だからプーチンは「外国の代理人」を組織団体から個人にまで拡張したものと思われる。習近平の場合も、「反スパイ法」の強化や香港特別行政区の国家安全維持法制定などを断行して、NEDが中国に潜り込んで(あるいはネットを使って)中国政府の転覆を謀ろうとしているのを必死で抑え込もうとしている。◆アメリカは中露を離間させたいが、アメリカにより中露は蜜月化その結果、習近平もプーチンも、互いの国をNEDの政府転覆活動から守ろうと、絆を一層強くさせている。習近平にしてみれば、2014年にNEDが主導したマイダン革命によりウクライナの親露政権が転覆させられたように、万一にもロシアに潜り込んだNEDによってプーチン政権が転覆させられロシアが民主的政権にでもなろうものなら、中国包囲網が強靭化し、ほぼ四面楚歌に至ると懸念しているだろう。それだけは絶対に避けねばならないと習近平は思っているだろうから、何が何でもプーチンを応援する方向に動いている。ただウクライナへの軍事侵攻をしたプーチンの軍事行動を容認すると、中国にいるウイグル族やチベット族などが他国に助けを求めたときに他国が中国に侵攻していいことになってしまうので、それだけは絶対に認めていない。それでいながらプーチン政権には絶対に崩壊してほしくないので、何としてもプーチンとの絆を深めてプーチン政権(あるいは専制主義的政権)の持続を望んでいるだろう。NEDの暗躍による政府転覆のリスクという共通項があれば、なおさら絆は深くなる方向に動く。◆中露が民主化してしまうと、実は困るアメリカしかし、万一にもだが、ロシアに民主的な政権が生まれ、それに伴って中国も民主化してしまった場合、実はアメリカは困るのではないだろうか。NEDを主導するネオコンは、基本的に軍事産業を国家運営の骨格に置いているので、中露という大国が平らかに民主化してしまった時に、「戦争を仕掛けていく暗躍の場」がなくなり、「民主の衣」を着て非親米的政権を倒す場がなくなって、活躍の対象を失う。何と言ってもロシアに民主的政権が生まれて、ロシアが欧州と仲良くなってしまうと、NATOの存在意義がなくなるので、アメリカの軍事産業は行き場を失い、「君臨する相手国(NATO諸国)」が存在しなくなるので、逆にアメリカによる世界の一極支配は衰退する方向に傾いていくと言っても過言ではない。トランプ政権が復活しても、トランプは大統領任期中に何度も「NATO無用論」を唱えてきたし、「アメリカ・ファースト」であって「他国の民主化」などに余計な力を注いで軍事ビジネスで国家運営をしていこうというネオコン系列ではないので、類似の現象は起きるかもしれない。現在、ゼレンスキーが唱えるウクライナ戦争和平案に基づく会議に参加する国の数は約90ヵ国・国際組織で、中国&ブラジルが唱える和平案に賛成する国は101ヵ国・国際組織である。これらの国の一部は重複しているかもしれないが、少なくとも全人類の85%は対露制裁に加わっていないので、残り15%の人類をアメリカ側に引き寄せているに過ぎない現状は、すでにアメリカの劣化を物語っている。中露の絆の強化は、その趨勢の中での分岐点をわれわれに突きつけている。もっとも、それでもなお、習近平がプーチンの足元を見ていることは拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第五章 ウクライナ戦争と「嗤う習近平」】で詳述した。この論考はYahoo(※11)から転載しました。訪中したプーチン大統領と習近平国家主席 写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240516_11305617.shtml(※3)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240516_11305860.shtml(※4)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202405/t20240517_11305902.shtml(※5)https://tass.com/politics/1789297(※6)https://sputniknews.cn/20240518/1059159252.html(※7)https://new.qq.com/rain/a/20240520A044NL00(※8)https://grici.or.jp/4885(※9)https://grici.or.jp/4683(※10)https://grici.or.jp/4885(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7781d9020315b44953fb4abc6543363ffe7c08f0
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2024/06/14 10:41
GRICI
アメリカがやっと気づいた「中国は戦争をしなくても台湾統一ができる」という脅威【中国問題グローバル研究所】
*10:29JST アメリカがやっと気づいた「中国は戦争をしなくても台湾統一ができる」という脅威【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。5月13日、アメリカン・エンタープライズ研究所と戦争研究所の共同プロジェクトである台湾連合防衛プロジェクトは、「中国は軍事侵攻ではない形で台湾統一をするつもりで、われわれは長いこと、それを見逃してきた」という趣旨の共同報告書を発表した。同日、アメリカメディアのTHE HILLも「中国は台湾統一をするために(台湾を)侵略する必要はない」というタイトルでこの報告書を報道。これは正に筆者が長年にわたって主張し、警鐘を鳴らし続けてきた分析とほぼ完全に一致しており、アメリカがやっとその事に気が付いてくれたかと、感慨深い。5月23日のコラム<中国の威嚇的兵器ポスターと軍事演習 頼清徳総統就任演説を受け>(※2)で書いた今般の軍事演習も、実はその作戦に沿ったものなのである。軍事演習をしているのに「戦争をしない」などと言えるのかと思われる方もおられるかもしれないが、むしろ、それこそがアメリカを勘違いさせてきたキーポイントだ。拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙』の【第三章 習近平は台湾をどうするつもりなのか?】で詳細に分析した「港湾封鎖作戦」により、回答を示した。◆アメリカン・エンタープライズ研究所と戦争研究所の共同報告書5月13日、アメリカのシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所(American Enterprise Institute=AEI)と戦争研究所(Institute for the Study of War=ISW)の共同プロジェクトである「台湾連合防衛(Coalition Defense of Taiwan)」プロジェクトは、<From Coercion to Capitulation: How China Can Take Taiwan Without a War(威圧から降伏へ:中国はいかにして戦争をせずに台湾を奪取できるか)>(※3)というタイトルの共同報告書(以下、報告書)を発表した。この報告書に関して、アメリカの政治専門紙THE HILL(ザ・ヒル)は同日、<China doesn’t need to invade to achieve Taiwanese unification(中国は台湾統一のために侵略する必要はない)>(※4)という見出しの報道をしている。報告書と報道によれば、結局のところ「アメリカがこんにちまで行ってきたシミュレーションの盲点に気が付いた」と、率直に認めている。その盲点というのは、主として、1.アメリカは台湾の防衛に関し、中国の侵攻を抑止または打ち負かすことにほぼ専ら焦点を当てており、すでに進行中の可能性の高いシナリオである「侵略には程遠い形で台湾を北京の支配下に置く中国の威圧作戦」をほとんど無視してきた。2.中国は、いわゆる武力攻撃によって台湾を統一するのではなく、「台湾周辺における軍事演習を強化し、台湾行きの船舶の立ち入り捜査を通して、台湾を準封鎖状態に置く」などの手段によって統一を成し遂げるだろうことに気が付いた。3.中国はそれにより次の総統選挙である2028年を目標にして、中台和平協定の締結に持ち込むつもりだ。このことに警戒せよ。(報告書と報道のまとめは以上)◆習近平の「港湾封鎖作戦」 台湾のエネルギー資源は2週間しか持たない冒頭で書いた拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第三章 習近平は台湾をどうするつもりなのか?】で、徹底して分析したのが「台湾港湾封鎖作戦」で、これは報告書の「2」に合致する。第三章で特に焦点を絞ったのは「台湾のエネルギー資源」の問題である。習近平は台湾の平和統一を第一の目標に置いているが、もし台湾が独立を叫び、どうしても武力によって独立を阻止するしかないところに追い込まれた場合は、「台湾包囲作戦」を考えている。なぜなら「台湾の港湾を封鎖し、エネルギー資源を遮断すれば、台湾は2週間しか持たない」からだ。台湾はエネルギーを自給自足できず、2022年データで97.3%を輸入に頼っている。エネルギー資源は主として液化天然ガス(LNG)と石炭だが、その入り口は港湾だ。貯蓄量は2週間ほど(天然ガスの在庫は11日間、石炭の在庫は39日間)しか持たないため、港湾を封鎖してしまえば、台湾島に武力攻撃をしなくても、台湾を降参に追い込むことができる。台湾は島国なので、天然ガスのパイプラインを敷くことができないから、天然ガスは全て「液化天然ガス」で、港湾から入ってくる。台湾政府の「2022年(民国111年)發電概況」(※5)によると、2022年の発電源の割合は、・石炭:42.0%・液化天然ガス:38.%・原子力発電:8.2%・再生エネルギー:8.3%%・その他:2.6%となっている。つまり発電量の80.9%は石炭と天然ガスとなる。原発はたったの8.2%で、港湾を封鎖されたときに、半導体製造を動かすことは不可能だ。半導体製造には多くの電力を必要とし、2022年ではTSMC一社だけで、台湾の全エネルギー源の7.5%を使う(※6)。原発で市民の基本インフラを保ち、政府の基本機能のネット連絡を保ち、かつ半導体製造を機能させるということは不可能だということが言える。太陽光発電は2022年の再生エネルギーの44.8%を占めているが、8.3%の内の44.8%だから全体の3.7%くらいしか占めておらず、何もできない。民進党は原発絶対反対で、国民党や民衆党は原発推進派だが、現在の立法院でエネルギー資源に関して妥協し改善しなければ、台湾の安全は保障されない。習近平はここに焦点を当て、「港湾封鎖」のための軍事演習をくり返している。港湾を封鎖するだけで、台湾島自体への砲撃は行わないから、台湾の一般市民の命が砲撃により失われることはない。つまり地上戦は行わないということだ。その意味では「台湾武力攻撃」という「戦争」ではない。この手段を採用すれば、習近平が「喉から手が出るほどに欲しい」TSMCなどの最先端半導体産業を傷つけることもないし、統一後に「親族の命を奪われた」として中共を激しく恨む台湾人も出てこない(→統一後に増加しない)ので、中国共産党による一党支配体制が、「怨みによって起きる暴動(あるいはクーデター)」などによって崩壊に追い込まれる危険性も少なくなるだろうという計算だ。◆5月23-24日の軍事演習「聯合利剣―2024A」の位置づけ中国人民解放軍東部戦区が23日から24日にかけて行った軍事演習「聯合利剣―2024A」は東部戦区の「陸軍、海軍、空軍、ロケット軍」などの兵力を総合的に結び付けた軍事演習だが、この「2024A」の「A」に注意しなければならない。今後必ず「B、C、D…」と続き、かつ「2025A…」も2025年になったら始まるものと位置付けた方がいい。それは「2026A…」、「2027A…」と続き、報告書にある通り、「2028年の総統選」の時には、台湾人が「もう嫌気がさして、中台平和協定締結する政党を選ぶ」というところにまで至るだろうというのが、報告書の見立てと一致するところとなる。今般の「聯合利剣-2024A」の特徴は、「海空合同戦闘即応性パトロール」、「戦場総合支配権の合同奪取」などを重点的に訓練し、艦艇や航空機が台湾島周辺に接近した際の「即応性パトロール」や「列島線内外一体化連動」などを実施している点だ。これは報告書の「2」に書いた「船舶の立ち入り検査」の訓練に相当し、実際、中国の中央テレビ局CCTVはその訓練の様子を<海警2304艦隊が台湾島東方海域で総合的な法執行訓練を実施した>(※7)という見出しで報道している。準拠する法は、日本の海上保安庁法(※8)第十七条にもある「疑義がある場合」の「船舶の進行を停止させて立ち入り検査」をする権利と同じで、中華人民共和国海警法(※9)第十六条 や第十八条にある立ち入り検査をする権利に基づくものと思われる。これにより、たとえば台湾に武器やエネルギー資源を輸送する船舶などにターゲットを絞って運行を停止させ、事実上の海上封鎖を行うに等しい行動に出るものと推測される。◆習近平の哲理「兵不血刃(ひょうふ・けつじん)」筆者は昨年『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で習近平の哲理である「兵不血刃」に関して詳述した。これは「刃(やいば)に血塗らずして勝つ」という意味で、毛沢東もこの哲理に基づいて「長春食糧封鎖」を断行し、数十万に及ぶ長春市内の一般庶民を餓死に追いやって、国民党が支配する長春を陥落させた。この長春陥落によって、中国共産党軍は一気に南下して、全中国解放を成し遂げるに至ったのである。この国共内戦における蒋介石率いる国民党の逃れた先が台湾で、筆者にとって台湾は、あの『もう一つのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』の終着点でもある。だから中国共産党がいかにして「チャーズ」の終着駅である台湾問題を解決させるかは、筆者の生涯の強い関心事でもあるのだ。その執念に基づいて追いかけてきた台湾問題に関して、筆者が結論に至った「台湾港湾封鎖作戦」が、奇しくもアメリカのシンクタンクの分析と一致したことに、言葉には表せないほどの複雑で深い感慨を覚える。「台湾有事」とはしゃがずに、一人でも多くの日本人が、筆者とアメリカのシンクタンクが一致したこの視点を共有してくれることを望まずにはいられない。そうしてこそ、真の警鐘を鳴らすことができると信じるのである。なお、『嗤う習近平の白い牙』の「白い牙(きば)」は、「兵不血刃」の構えを表しており、「牙を血で紅く染めない(=野心はあるが、自ら積極的に戦争はしない)」の意味である。この論考はYahoo(※10)から転載しました。写真: 習近平国家主席(ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/5258(※3)https://www.aei.org/research-products/report/from-coercion-to-capitulation-how-china-can-take-taiwan-without-a-war/(※4)https://thehill.com/opinion/international/4657439-china-doesnt-need-to-invade-to-achieve-taiwanese-unification/(※5)https://www.moeaea.gov.tw/ECW/populace/content/Content.aspx?menu_id=14437(※6)https://ec.ltn.com.tw/article/paper/1592848(※7)https://news.cctv.com/2024/05/24/ARTINDoASE8etSa06Wf1WOJV240524.shtml(※8)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000028(※9)http://legal.people.com.cn/n1/2021/0202/c42510-32019526.html(※10)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/cb76207f7cf4ea0ef222967c9fb398d2b34f728e
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2024/05/27 10:29
GRICI
全人代会期中の「経済・外交・民生」三大主題記者会見はボトムアップ【中国問題グローバル研究所】
*10:27JST 全人代会期中の「経済・外交・民生」三大主題記者会見はボトムアップ【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。11日に閉幕した全人代(全国人民代表大会)を、日本のメディアはこぞって「習近平への権力一極集中が強化された大会だった」と結論付け「より不透明になった」と批判しているが、中国の政治構造の真相を正確に知っていれば、そういう解釈は出てこないはずだ。たしかに全人代閉幕後の国務院総理記者会見は無くなったが、しかし会期中に開催された前代未聞の規模と数にのぼる国務院各中央行政省庁側の内外記者会見は、政府活動報告審議に反映されるという意味でボトムアップだったと言える。中央行政省庁は、「政府活動報告における2024年計画を、実際にいかにして実行するかを明確にして責任を負う側」と位置付けることができ、むしろ政府方針がよりオープンになったと見るべきだ。その証拠に国務院組織法の改正には、「政務の公開を堅持する」という言葉が新たに加わっている。その一方で、同じ改正国務院組織法で党の指導を明確にするなど、憲法に書かれていた党と政府の関係が表面化しているが、これは中国大陸内にもNED(全米民主主義基金)が入り込み、中国政府転覆を狙っているため、第二のゴルバチョフにならないための措置であるとみなすことができよう。◆政府活動報告の冒頭で「外部圧力」強調3月5日の全人代初日で李強国務院総理は政府活動報告を行った(※2)が、開口一番「異常なほどの複雑な国際環境」のもと、「全国の各民族人民は外部圧力に耐え」という言葉を発したのを聞いた時は、ハッとした。これまでの政府活動報告で「外部圧力」というストレートな言葉までが出てきたのは初めてだからだ。事実、2023年の活動報告の冒頭(※3)では「荒れ狂う国際環境」とあるだけで、2022年の政府活動報告の冒頭(※4)では、「複雑かつ厳しい国内外情勢」とあり、2021年の政府活動報告(※5)では、「コロナ」が強調されているだけだ。その意味で今般李強が「複雑な国際環境」に重ねた「外部圧力」という言葉は、中国が如何にアメリカを中心とした西側諸国からの圧力に苦しんでいるかが窺(うかが)われる。日本が半導体産業で世界一になった時、アメリカは「安全保障問題に係わる」として日本の半導体産業を叩き潰した。自動車産業も同じだ。どの国であれ、アメリカを凌駕しそうな国や産業分野が現れると、アメリカは叩き潰さずにはおられない。いま最も集中的に潰さなければならないのは中国なので、中国が少しでもアメリカを抜いて発展しそうな産業分野があると、アメリカは中国に制裁をかけ「安全保障上の問題がある」という理由で叩き潰している。それを李強は「外部圧力」という言葉で表現したのだ。逆に言えば、ある意味、2月27日のコラム<NHKがCIA秘密工作番組報道 「第二のCIA」NEDにも焦点を!>(※6)で書いたNHKの番組が示したように、CIA同様、まず特定の国の印象を極点に悪くすることにNEDは成功していることになる。いま現在、その「特定の国」は中国で、中国はNEDが潜伏しているので反スパイ法を強化し、それによって海外企業が離れていき、アメリアによる対中制裁と相まって、中国経済を苦しくしているという現実を浮き彫りにしているとも言える。◆前代未聞の「経済・外交・民生」三大主題記者会見【経済主題記者会見】まず3月6日に開催された「経済主題記者会見」(※7)を見てみよう。圧巻なのは会見に出席したのが「国家発展改革委員会の鄭柵潔主任、財政部の藍佛安部長、商務部の王文濤部長、中国人民銀行の潘功勝総裁、中国証券監督管理委員会の呉清主席」という面々だということだ。このような経済・商務・財務・金融・証券などに関する中央行政のトップが勢ぞろいした記者会見など、中華人民共和国建国以来、見たことも聞いたこともない。長時間にわたる質疑応答が繰り返され、主として以下のような回答があった。●国家発展改革委員会・今年の経済成長率5%程度という目標は、「第14次5カ年計画」の年間要件に沿っており、基本的に経済成長の潜在力と一致している。・今年は大規模な設備の更新と消費財の下取りを促進する政策を実行する。設備更新は年間5兆元以上の規模を持つ巨大市場になる。・超長期特別国債の発行は、現在と長期の双方にとって有益である。・民間企業が主要な国家工程プロジェクトと短期プロジェクトの建設に参加することを奨励し、最大限支援する。●中国人民銀行・2月までに、中国の国境を越えた決済の30%近くが人民元で決済された。・物価の安定を維持し、物価の緩やかな回復を促進することは、金融政策の重要な検討事項である。●財務部・今年は構造的な税制・手数料引き下げ政策を検討し導入する。・今年の教育・社会保障・雇用予算は4兆元を超える。●商務部今年は自動車や家電製品などの消費財の下取りを促進し、サービス消費を後押しする。●中国証券監督管理委員会・投資家、特に中小規模の投資家の正当な権利と利益を保護する。・制度の抜け穴を更にふさぎ、技術的離婚などの迂回や違法な持ち株の売却を厳しく取り締まる。【外交主題記者会見】3月7日には、「外交主題記者会見」(※8)が行われたが、ここに参加したのは中共中央政治局委員で外交部長でもある王毅一人だった。●中露関係中露は、旧冷戦時代とは全く異なる大国関係の新しい規範を生み出している。●中米関係・もし「中国」という二文字を聞いただけで緊張し焦るなら、アメリカの大国としての自信はどこにあるのか?・もしアメリカがいつまでも言行不一致を続けるなら、大国としての信用はどこにあるのか?・もしアメリカが自国の繁栄だけを維持して、他国の正当な発展を許さないというのなら、国際正義(公理)はどこにあるのか?・もしアメリカがバリューチェーンのハイエンドを独占し、中国を何としてもローエンドに留まらせていきたいと固執するなら、公正な競争はどこにあるのか?●パレスチナ・イスラエル紛争国際社会は、即時停戦と敵対行為の停止を最優先事項としなければならない。●中国・EUの関係中国とEUが互恵のために協力する限り、ブロック対立はあり得ない。●台湾問題「一つの中国」の原則が強ければ強いほど、台湾海峡の平和はより安全になる。台湾地区の選挙は中国の地方選挙に過ぎず、選挙結果は台湾が中国の一部であるという基本的な事実を変えることはできないし、台湾が祖国に戻るという歴史的必然性を変えることもできない。選挙後、180以上の国と国際機関が「一つの中国」原則の堅持を再確認した。「台湾独立」を容認し支持する人々がいまだにいるとすれば、それは中国の主権に対する挑戦である。●ウクライナ危機中国はウクライナ危機を終わらせるための和平交渉への道を開いた。【民生主題記者会見】3月9日、「民生主題記者会見」(※9)が開催された。出席したのは「教育部の懐進鵬部長、人的資源社会保障部の王暁萍部長、住宅城郷(都市農村)建設部の長倪虹部長、国家疾病予防制御局の王賀勝局長」だ。これも錚々たるメンバーで、若者の就職難や不動産バブル崩壊などが問題視されている中、その部局のトップが出てきて質疑応答に当たるということ自体、相当に覚悟がないと出来ないことだ。このテーマの質疑応答を詳細に書きたいが、あまりに問題が深いだけに、略記するのに困難を来たすので、非常に残念ながら省略し、いつかチャンスがあったら、この深い問題点における質疑応答を考察したいと思う。以上が三大主題記者会見の紹介だが、全人代閉幕式の11日に決議された政府活動報告書には、この三大主題記者会見だけでなく、3月6日のコラム<全人代総理記者会見をなくしたのは習近平独裁強化のためか?>(※10)に書いた「部長通道」なども含めた、全人代におけるあらゆる審議の結果が反映されている。全人代閉幕後の総理記者会見ではもう遅く、その前に政府活動報告書の審議修正が終わっているので、その意味で、国政に関して閉鎖的になったのではなく、逆にオープンになったとみなすことができる。◆国務院組織法改正案から見えるものその証拠は冒頭にも書いたように、改正される前の1982年の国務院組織法(※11)には「政務公開」という文言はないが、今般の全人代で改正された国務院組織法(※12)には、「堅持政務公開(政務を公開することを堅持する)」という文言が第十七条に加筆された。それが前述した三大主題記者会見であり部長通道だ。もっとも、中華人民共和国憲法(※13)の序文と第一条にある「全国の各民族人民は中国共産党の指導の下」という思想が、国務院組織法にも反映されるようになったという点では、もともと中華人民共和国建国以来の思想が徹底されたと言うべきなのかもしれない。1980年前後に、「党政分離」の話が出たことがあったが、なんと、その議論には習近平の父・習仲勲が介在していたという皮肉な現実がある。なお、習近平政権になったあとの2017年には新華網に<党政分離と党政分業は違う>(※14)という論考が載っており、習近平政権は早くから「党政分離」は考えていない。これは冒頭に書いたように、アメリカが旧ソ連を崩壊させたように中国を崩壊させようと企んでいることへの自己防衛だとみなしていいだろう。中国共産党の統治を強くして崩壊の余地を少なくさせようという目論見だろうが、それが吉と出るか凶と出るかは、アメリカの大統領選や非米側諸国の動きなどの影響もあり、静かに考察していくしかない。この論考はYahoo(※15)から転載しました。写真: ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://tv.cctv.com/2024/03/05/VIDEIh7n0CnlO3ysYhj8SY3w240305.shtml(※3)https://www.gov.cn/premier/2023-03/14/content_5746704.htm(※4)https://www.gov.cn/premier/2022-03/12/content_5678750.htm(※5)https://www.gov.cn/premier/2021-03/12/content_5592671.htm(※6)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3de7c06ef21ccd8115f04681175360add9784205(※7)https://tv.cctv.com/2024/03/06/VIDEQhMQkqom53dVdCPmTnMn240306.shtml(※8)https://tv.cctv.com/2024/03/07/VIDE19aja2r9WthsBpO3MQBP240307.shtml(※9)https://tv.cctv.com/2024/03/09/VIDE8qufe0j1lBYkR9fboIJY240309.shtml(※10)https://grici.or.jp/5107(※11)https://www.gov.cn/gjjg/2005-06/10/content_5548.htm(※12)https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202403/content_6938923.htm(※13)https://www.gov.cn/guoqing/2018-03/22/content_5276318.htm(※14)http://www.xinhuanet.com/politics/2017-04/11/c_1120784896.htm(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1ca6c38d649aa3d9c8e23f92c6fe03f0e4fb19b6
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2024/03/13 10:27
GRICI
中国の失業率は5.2% ようやく正式な統計が【中国問題グローバル研究所】
*10:25JST 中国の失業率は5.2% ようやく正式な統計が【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。3月5日に開幕する全人代のためだろう。2月29日、中国の国家統計局は<中華人民共和国2023年国民経済と社会発展公報>(※2)(以下、公報)を発布した。それによれば、2023年の年間失業率平均は5.2%だったという。昨年7月に発表された若者失業率算出の時に国家統計局が現役の在学生まで対象に入れたために出てきた20%というデータが世界を驚かせ、その後、国家統計局が計算方法改善のためデータ発表を暫時やめてしまったという事実がある。加えて、中国大陸の一人の大学教員が、専業主婦など就職意欲を持っていない者まで対象に入れて計算した失業率46.5%をネットに上げたため、その情報に一部の日本人が飛びつき「中国失業率46.5%説」が飛び交った。そういった経緯があるので一部の日本人は今般の公報のデータに疑いを持つかもしれない。本稿では、失業率を計算するのが困難な社会主義国家・中国の特殊な経緯と現状を考察したい。◆公報が発表した雇用者数や失業率などに関するデータまず、公報が発表した雇用者数や失業率などに関する現在の詳細なデータを見てみよう。公報には以下のように書いてある。●2023年末時点における国内の雇用者数は7億4,041万人で、このうち都市部での雇用者数は4億7,032万人、全国雇用人口の63.5%を占める。2023年、年間を通して都市部での新規雇用者数は1,244万人で、前年より38万人増加した。●全国都市部調査による年間失業率平均値は5.2%で、2023年末時点での全国都市部調査による失業率は5.1%だった。●全国の農民工の総数は2億9,753万人で、前年比0.6%増だった。その内、外出農民工(沿海部大都市に行く農民工)は1億7,658万人で2.7%増加し、本地農民工(もといた農村付近の小都市で働く地元農民工)は1億2,095万人で2.2%減少した。これが公報に書いてある失業率の基本情報だ(図表を別として)。都市部で働いている農民工は「都市部雇用者数」の範疇に入れているが、もし沿海部の大都市から内陸にある生まれ故郷近くの「中小都市」に戻って再就職先を見つけた場合は、大小の違いはあれ「都市」なので、「都市部調査失業率」の中で「就職者扱い」になるので変化しない。もし沿海部の都市から農村に戻って農業に従事した場合は、「都市部での雇用の減少」に反映される。農村部では畑仕事(土地経営)が多いため、失業率は都市部に比べて非常に低いので、「農村部調査失業率」というカテゴリーが統計上ない。◆現在の「調査制」による失業率計算法は2018年4月17日から中国は社会主義国家だ。改革開放後も教育機関における「国家培養」と「分配制度」は続き、1992年にようやく制度上撤廃して、1994年辺りから社会主義制度における形式から実際上抜け出し始めた。「国家培養」というのは、教育機関での勉学は完全に無料で、国家が人材を育てるという制度を指す。衣食住も国家が保証する。大学・大学院などは基本的に全寮制。「国家培養」は幼稚園から大学院博士課程まで一貫して徹底されていた。その代わりに卒業後は国家が定めた職場で働くことが義務付けられ、個人が職場を選ぶという権利はなかった。これを「分配制度」と称する。国家が就職先を「分配する」という意味だ。したがって中国にはそのころまでは「失業」という概念がなく、市場経済が走り出し国営企業が立ち行かなくなって株式会社化して国有企業になり、無駄な従業員を「一時退職」させたころに、初めて「待業」という概念を生み出した。「待業」というのは「失業」ではなく、「家で待機して次の業務復帰への指示を待ちなさい」という意味で、「待業手当」も支給された。当時の貨幣価値で月200元ほど貰っていたので、悪くない生活は保たれたと思う。従業員にはもともと宿舎が無料であてがわれていたので、住居に関する問題に大きな変化が出て来るまでは、そこそこに待業生活を送ることができていた。実はそのころ筆者は1950年代の天津での幼馴染と再会しており、庶民の生活をリアルで体験しているので実感がある。また中国の中央行政の一つである国家教育部と提携して『中国大学総覧』の編集にも当たっていたので、日本で言う(中国でもその後定義された概念である)「公務員」の劇的な変化にうろたえる日常も、目の前で見てきた。社会は混乱し、国家統計局が全国調査をするのではなく、個人や職場などの申し出によって失業者数や本来の従業員数を把握する「登録制」によって国家は「失業率」を計算していた。しかし、それでは正確なデータが得られず、中国政府の通信社「新華社」や中国共産党機関紙「人民日報」などの数多くの情報で裏打ちされた実態から言うならば、国家統計局が統一的に全国調査するという「調査制」による失業率データが公表されるようになったのは「2018年4月17日」(※3)であるとのこと。この日までは「待業登録」を「失業登録」に改名したり、農民工のような流動人口の就業者をどう計算するかなど、紆余曲折の経緯を経てきた。◆若者失業率計算に大学などの在校生を調査対象にしていた国家統計局そのような経緯がある中、2023年7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>(※4)に書いたように若年層(16~24歳)の失業率が20%に至るという「怪奇」に近い現象が起きた。その原因は調査対象者に大学や専科学校あるいは大学院などの「在校生」を含めるという不適切なことをしていたからである。おまけに7月に出した統計は、まだ卒業してない5月時点での現役在学生を含んでおり、その人たちは「学生」で、「失業者」ではないのに、「(16歳以上の)労働可能な人口」の中に入れていたため、失業率が膨れ上がった。背景には当該コラムの図表1に示した、信じられないほどの大学進学者の急増がある。そこで、国際的に見て、失業者を計算する時には在校生を入れてないことを考慮して国家統計局は計算方法を見直すために暫時データ発表をやめた(※5)。これを以て日本では、「中国は中国経済の惨状を隠すために統計データを公開するのをやめた」との情報が飛び交い、「中国の統計を信じるな」と少なからぬ「中国問題専門家」やメディアがはしゃいだものだ。実際は2022年、中国における16-24歳の都市人口9600万人強のうち、在校生は6500万人強で、この在校生のうち「現在職場で働いていない者、調査時期の3ヵ月前以内に就職先を探そうとしたことがある者、もし就職先を紹介したら2週間以内に(大学を捨てて=退学して)就職する者」を「失業者」扱いするという計算が成されていたのである。そもそもまだ卒業していないのだから職場で働いているはずがないが、それを失業者扱いすること自体、ナンセンスだ。◆国際基準に合わせて改善した国家統計局の失業率計算法とデータそのようなことから、2024年1月17日に再開した国家統計局の失業率計算(※6)では、「在校生は含まない」ことになった。その結果、国家統計局が今年1月17日に発表した年間失業率(※7)では、●16-24歳:14.9%●25-29歳: 6.1%●30-59歳: 3.9%となっている。このようにして計算方法を国際水準に合わせた結果の2023年の年間失業率平均が冒頭にある「5.2%」というデータである。若年層に関しては在校生を除外しても14.9%なので、相変わらず高いと言わねばなるまい。◆専業主婦まで失業者に入れたデータに飛びつく一部の日本人冒頭に書いた「16~24歳の失業率が46.5%」という情報に関しては、昨年7月17日北京大学の張丹丹准教授が個人の見解として発表した文章(※8)によるもので、彼女の場合は「在校生」だけでなく、「躺平(寝そべり族)」や「啃老族(親が富裕なので働くつもりがない「脛(すね)かじり族」)」、さらには「外で働く意思を持っていない専業主婦」まで「失業者」の中に入れているので、論外だと言わねばなるまい。目立とうとして一種の「遊び」を試みたのか、動機は分からないが、戯言(ざれごと)に近い「私見」に飛びついて「これこそが中国の真相」とはしゃぐ「一部の日本人」の判断力の無さには唖然とするばかりだ。さて、3月5日に、本稿で述べた国家統計局が出した新しいデータも踏まえながら発表されるであろう李強国務院総理の政府活動報告がどのようなものになるのか、待ちたい。この論考はYahoo(※9)から転載しました。写真: ロイター/アフロ
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2024/03/04 10:25
GRICI
ウクライナ戦争3年目突入 中国は現状をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
*10:34JST ウクライナ戦争3年目突入 中国は現状をどう見ているか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。本日2月24日でロシアによるウクライナ侵攻は3年目を迎える。中国では決して「ウクライナ戦争」とは呼ばず、あくまでも「ウクライナ危機」とか「露ウ衝突」といった言葉を使う。それだけでもプーチンへの配慮が窺(うかが)われるが、2年経った今、中国はウクライナ危機をどう見ているのか、中国側の第一次情報をご紹介したい。◆環球時報:西側諸国はウクライナ危機を「戦争ビジネス」だとみなしている中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」(の「環球資訊広播」)は2月22日、<露ウ衝突2周年:西側は結局「危機をチャンスに変えた」>(※2)というタイトルでウクライナ危機を総括している。長文なので概略を個条書き的にピックアップしてご紹介したい。●EU(欧州連合)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は最近、EUは近い将来、ロシアの凍結資産から得た収益をウクライナ支援に使用することを承認する計画であると述べた。 同氏は、凍結されたロシア資産収入が「ロシアのものではない」ことを保証するためにEUが関連法的手続きを開始したと説明した。●これは尋常な窃盗ではない。イタリア銀行のパネッタ総裁は、ユーロ圏は自国通貨を世界的な紛争の武器として使用すべきではないと警告した。なぜなら、それは最終的にユーロ自体を弱体化させることになるからだという。●西側諸国にとっては「利益」が最優先なのだ。実際、「ウクライナの戦後復興」は、西側諸国が長い間注目してきた魅力的な「ケーキ」だった。最新の例は、日本が開催したばかりの「日本・ウクライナ経済復興推進会議」だ。●米国の投資大手ブラックロックは昨年、ウクライナに手数料を支払うことなく、ウクライナのエネルギーインフラ、送電網、農業投資、およびすべての国営企業を正式に買収することでウクライナと合意に達した。潜入調査記者が公開したビデオで、ブラックロックの従業員が「ウクライナ紛争はビジネスにとって、すごく良いことだ」と真実を語っている。●戦争自体もビジネスなのだ。西側の政府と企業が共謀してウクライナ危機を引き起こし、「他人の危険」を「自分たちのチャンス」に変えていることは、多国籍の巨大企業が巨額の戦争利益を得ようとしていることからも明らかだ。 ロシアのエネルギーが西側諸国によって禁輸される中、エクソンモービル、シェブロン、シェル、トタルエナジーズなど西側のエネルギー大手はいずれも莫大な利益を上げている。●最も大きな利益を上げているのは間違いなく西側の軍産複合体だ。西側諸国が危機を煽り続ける中、危機はさらにエスカレートしており、世界の武器市場をリードする米国の軍需産業大手5社は言うに及ばず、欧州の中小軍需産業企業もこの「ゴールドラッシュ」を逃してはいない。●ただ、皮肉なことに、バイデン政権の新会計年度のウクライナへの資金提供は、共和党強硬派によって阻止されている。それも米大統領選挙のための政治的交渉の道具に過ぎない。軍産複合体の利益に合致する限り、米国議会がウクライナへの供給を完全に遮断するとは誰も信じていない。●しかし米コロンビア大学のサックス教授は、ロシアメディアとの最近のインタビューで、米国が巨額の戦争利益を得ていることを批判し、「米国は一方では一極支配という覇権を維持するためにNATO拡大を推進し、他方では戦争自体がビジネスになっている」と述べた。(「環球時報」からの引用はここまで)◆新華社フォーラム:2024年、露ウ衝突のゆくえを決める5大要素今年1月15日、中国政府の通信社である新華社は第14回新華網「世界の議論」国際問題シンポジウムを開き、その中で中国政府のシンクタンクである中国社会科学院ロシア・東欧・中央アジア研究所の孫荘志所長が<2024年、この5つの要素が露ウ衝突のゆくえに影響を与える>(※3)という演題で講演をした。冒頭で孫荘志は「米国と西側はウクライナ支援に疲れの兆しを見せているが、露ウ衝突は長引くだろう」、「西側諸国はメリット・ディメリットを天秤にかけ、紛争における自国の利益をどのように守るかを検討している」とした上で、2024年の露ウ紛争には注目すべき5つの要素があるとして、以下の5項目を挙げている。第一:ロシアとアメリカの選挙。露ウ紛争自体、大国間の地政学的な駆け引きと米露の対立の結果によって引き起こされた悲劇であるため、米露の国内政治動向が露ウの展開傾向を決定する。第二:西側諸国の支援。ウクライナは現在、財政支出のほぼ半分を西側が支払っているが、西側からの支援は今後どんどん少なくなるだろう。この場合、ウクライナは自国の造血機能を高める必要があるが、これは無力な選択である。第三:和平交渉を説得し推進すること。しかし、実際上、紛争は和平交渉に適した雰囲気と環境を持っていないことを示している。第四:黒海危機。2024年には黒海地域が露ウ間の争いの焦点となる。ゼレンスキーは、今年のウクライナの主要標的はクリミア半島と黒海だと述べた。第五:対ロシア制裁。対露経済制裁はロシアにどのような打撃を与えることができるのか? 2023年のロシア経済の全体的なパフォーマンスは良好で、2024年も昨年のような比較的良好な成長傾向を維持できれば、ロシアは耐久力を維持できる。西側諸国はロシアを弱体化させ最大限に打撃を与えたいと考えているが、制裁に関する手持ちのカードはますます少なくなっている。(新華網シンポジウムからの抜粋は以上)◆中国大陸のネットに溢れる民間の見解中国では、党と政府が言えることには限りがあるので、案外ネットで削除されずに残っている民間の見解は、「中国の本心」を表していることがあり、疎かにできない。むしろ党や政府が言えないことを一個人の名前で発表させたりする場合さえあるくらいだ。ネットに溢れる情報の中からいくつか拾うと以下のようなものがある。●この衝突はバイデンが仕掛けた。2008年に副大統領になってから息子ハンターに金儲けさせることとロシアをやっつけるという両方の目的に適っているウクライナに目を付け、マイダン革命を起こさせてウクライナを米国の傀儡政権に創り上げた。バイデンの私利私欲のために、なぜ世界がこんなに大きな犠牲を払わなきゃならないんだ?●ノルドストリーム破壊はバイデンの指示であることを疑う者はいない。●バイデンはウクライナ人の最後の一人が死ぬまで戦わせるつもりだ。その意味ではゼレンスキーも同じ。戦場の癒着状態を指摘した、国民に人気の高いザルジニー軍最高司令官を更迭してセルスキー(元陸軍総司令官)に置き換えたが、結局二人とも戦場はゼレンスキーが望む勝利に向けた突撃ができる状態でないと判断。そこでアウディーイウカ撤退をミュンヘン安全保障会議に合わせて決定したのは、これ以上の支援を躊躇する西側諸国に「支援しなかったら、こういうことになる」って脅しをかけたかったからさ。●自国の軍事力では戦えず、他国の支援だけで戦う戦争って、「あり」か?ウクライナは米国の傀儡政権であるだけでなくウクライナ衝突は「米国の傀儡戦争」で、ウクライナはバイデンのための道具に過ぎない。ウクライナが勝つわけ、ないだろ?最初から負けてる。だから「敗登(中国読み:バイデン)」なのさ。●西洋人には本気で、この現実が見えてないのか?●わが中国が中立を守り続けているのは賢明な判断だ。◆習近平の腹づもりウクライナ戦争が始まったと同時に、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を出版し、「軍冷経熱」(軍事的には冷ややかに距離を置くが、経済的には熱く支援する)というキーワードを軸に習近平の対露戦略を論じたが、その軸は今も変わっていない。変わったのは、ウクライナ戦争によって習近平とプーチンの仲が空前絶後に緊密になったことと、非米側諸国の中露側につく濃度が、予想以上に高まったことくらいだろう。その意味で「得をしているのは中国だ」と言っていいのではないだろうか。昨年の2月24日に習近平が提案したウクライナ戦争に関する停戦案であるところの「和平案」は「停戦ラインを明示していない」ところに特徴がある。一方、ゼレンスキーが提案している停戦案は「領土の完全奪還とロシア兵の完全撤退」という「絶対的な停戦ラインを強く要求したもの」なので、現状でゼレンスキー案が通ることはありそうにない。ここは数千年に及ぶ戦火の歴史が積み上げてきた「中国の知恵」がものを言う。おまけに習近平の「和平案」は2023年2月23日のコラム<プーチンと会った中国外交トップ王毅 こんなビビった顔は見たことがない>(※4)に書いたように、プーチンの納得を得ている。停戦は戦争をしている両国が納得しなければ成立しないし、戦局的にウクライナ劣勢となった今、ゼレンスキー案が受け入れられる可能性は限りなくゼロに近い。もちろんプーチンがウクライナに侵攻したことは肯定しない。しかし「民主の衣」を着て世界中に紛争を撒き散らしてきた(今やバイデンやヌーランドの根城と化している)NED(全米民主主義基金)の罪の重さから目を背けることはできない。その意味では「戦争屋・米国」の罪が「各国の国民」によって裁かれる時代に入ったのではないかと思う。「もしトラ」が「ほぼトラ」に変わりつつある現在、「軍冷経熱」により「中立」を守った習近平に有利に働きそうだ。トランプが、NEDを主導するネオコンでないために、トランプ政権時代に米国は戦争を起こしていないことにも注目すべきだろう。なお、CIAと「第二のCIA」と呼ばれるNEDがダ二次世界大戦後、世界中でどれだけ戦争を起こし続けてきたかは拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述した。この論考はYahoo(※5)から転載しました。写真: 代表撮影/ロイター/アフロ(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://world.huanqiu.com/article/4Gh9YAuWDS5(※3)http://www.news.cn/world/20240115/2adcae0ae5f4425eb77cfae789d04ca0/c.html(※4)https://grici.or.jp/4053(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/672498255418fabb1662ff6dab94f5d94f5884c5
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2024/02/26 10:34
GRICI
「ミュンヘン安全保障2024」の“Lose-Lose”とは? 習近平の論理との対比【中国問題グローバル研究所】
*10:28JST 「ミュンヘン安全保障2024」の“Lose-Lose”とは? 習近平の論理との対比【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。2月12日に公開された「ミュンヘン安全保障指数2024」の表紙には“Lose-Lose?”という文字が大きく書いてある。これは18日に閉幕したミュンヘン安全保障会議2024に秘められている哲学的軸で、「誰もが損をするゼロサム思考の悪循環から抜け出すには、どうすればいいか」というテーマを指す。習近平政権の外交戦略は“Win-Win”を軸とした「人類運命共同体」。時代はゆっくり、しかし大きく動き始めている。それを見極める哲学的視点を持たなければならない。◆“Lose-Lose”とは何か?2月17日のコラム<「ミュンヘン安全保障指数2024」 日本以外の国は「中露は大きな脅威ではない」と回答>(※2)に書いた「ミュンヘン安全保障指数(MSI)2024」(MSI2024)(※3)の表紙に書いてあるタイトルは“Lose-Lose?”である。今さら言うまでもないが、“lose”は「失う」、「利益がない(損をする)」あるいは「負ける」という意味だ。したがって“Lose-Lose”は「双方が損をする」意味で反対語は“Win-Win”(ウィン-ウィン)。MSI2024の表紙に大書してある“Lose-Lose?”は具体的に何を指しているのかを解明することは、今後の世界の趨勢を分析する上で非常に重要なポイントとなる。MSI2024の冒頭には「誰もが損をするゼロサム思考の世界につながる悪循環をどうすれば回避できるのか?」と書いてある。ゼロサムとは、「合計するとゼロになること」で、参加者の得点(利益)と失点(損失)の総計(サム)が0(ゼロ)になり、「一方の利益が他方の損失になること」を指す。MSI2024では、そのリスクを理解するために以下の4つのキーポイントが挙げられている(以下、概略を示す)。キーポイント1:冷戦後の地政学的・経済的な楽観主義は消え去った。その時代に得られた利益が、人類に均等に分配されることはなかった。それは人類の多くに不満を抱かせている。キーポイント2:地政学的な緊張の高まりと経済の不確実性が懸念される中、「西側諸国、強大な独裁国家、そしてグローバル・サウス」は相対的な損得をますます懸念するようになった。キーポイント3:現行の政策は世界全体としての利益を食いつぶす恐れがある。また、各国が相対的な損得を重視することで、ゼロサムの世界がもたらす悪循環を引き起こす危険性もある。キーポイント4:大西洋をまたぐパートナーは、「相対的な利益を求めて競争すること」と、「包括的で人類全体の利益を実現するために協力すること」の間のバランスをとる必要がある。志を同じくする民主主義国家間の信頼に基づく協力を守る必要があるのは確かだが、しかしその一方で、独裁的な挑戦者との競争にガードレールを導入し、競合相手とも互いに協力できる有益な分野を模索し、より包括的な利益を確保することができるような新しいグローバルなパートナーシップを構築することにも努めなければならない。(以上、MSI2024から引用)全体を通して読むと、「米一極を中心とした西側諸国は、西側諸国が独裁国家と定義しているグループやその独裁国家との連携が比較的に強いグローバル・サウスというグループとの互恵的協力関係を模索しないと、どの国も負けて勝者がいないという結果を招く危険性があり、それは人類に破壊をもたらすだけで、繁栄をもたらさない」というイメージになろうか。◆中国のネットでは“Lose-Lose”(双輸)の話題が満載中国語では「負ける」ことを「輸(shu、スー)と書く。したがって“Lose-Lose”は中国語では「双輸」(双方が負ける)と称する。2月12日にMSI2024が公表されるとすぐ、中国のネット空間には「双輸」という単語が溢れた。どの情報を読んでも「双輸」に満ちているので、中国がMSI2024をどう受け止めているかを理解するにはリポートの表紙にある“Lose-Lose?”とは何かを解明する以外にないと思ったほどだ。「双輸」に関する情報はあまりに多いので、どの記事を取り上げてご紹介すればいいか分からないが、とりあえず中国政府の通信社である新華社の論考を見てみたいと思う。2月13日、「新華社ベルリン電」は<ミュンヘン安全保障報告“双輸”論調は欧州の焦りを表している>(※4)という見出しで、MSI2024を考察している。ここではMSI2024を「報告書」という単語で表現しているが、統一を図るためMSI2024に置き換えて記事の内容をご紹介する。記事には概ね、以下のようなことが書いてある。●MSI2024の序文でミュンヘン安全保障会議のクリストフ・ホイスゲン議長は、「双輸」が今年の非公式なテーマとなっていると述べている。●清華大学戦略安全保障研究センターの副所長:MSI2024は、ゼロサム思考ではグローバルな課題に対処できないことを一部の西洋人が理解していることを反映している一方、グローバルな問題を解決するに当たり、選択的に協力することしかできない他の国々と「志を同じくする国」を区別しており、西側の矛盾を反映している。中国は、国際社会において、常に多国間主義を実践し、ウィン-ウィン協力を中心とする新しいタイプの国際関係の構築を推進してきた。●近年、中国が提案している人類運命共同体の構築こそは地球規模の課題に対処するための思考である。●パキスタン発展経済学研究所のイクラム・ハク氏:中国は西側諸国のゼロサムゲームとは全く異なる「和平建設」の哲学を堅持している。 (以上、新華社通信より)◆習近平の提唱する「人類運命共同体」と「ウィン-ウィン」論理2012年11月、習近平は第18回党大会において「人類運命共同体」という概念を発表し(※5)、その後「一帯一路」完遂のためにも外交スローガンとして用いるようになった。事実、2015年3月28日のボアオ会議において習近平は以下のように述べている(※6)。――「ウィン-ウィン」の協力を通してのみ私たちは発展することができる。「あなたが負けて私が勝つ」というゼロサムゲームの古い考え方を捨て、自分の利益を追求する際には相手の利益も考慮するという「ウィン-ウィン」概念に基づかなければ、自分自身の発展をも遂げることができない。(引用以上)この情報が「一帯一路」のウエブサイトに載っていることから、「人類運命共同体」というスローガンが「一帯一路」遂行のためにも使われていることが分かる。同じ2015年の5月7日にはモスクワで開催された反ファシスト勝利記念日に出席するために習近平はメッセージを発表し(※7)、「勝者総取りやゼロサムゲームは人類発展への道ではない。戦争ではなく平和を、対立ではなく協力を、そしてゼロサムではなくウィン-ウィンを求めることこそが、人類社会の平和・進歩・発展の永遠のテーマだ」と述べている。また2022年1月17日にオンライン参加した世界経済フォーラム(※8)で習近平は「国家間に対立や相違がるのは避けられないが、あなたが負けて私が勝つというゼロサムゲームをするのは無駄だ」と述べている。2023年4月6日午後、北京を訪問したフランスのマクロン大統領とともに中仏企業家委員会の閉幕式に出席した習近平は(※9)、「ゼロサムゲームには勝者はなく、ディカップリングによって中国の発展を阻止しようとすることはできない」と、アメリカを中心とする西側諸国への批判を露わにした。この「ゼロサムゲームに勝者はいない」という言葉は、このたびのMSI2024の表紙を飾った“Lose-Lose?”と同じで、ミュンヘン安全保障会議の「隠れテーマ」が習近平の哲理と同じだということは注視すべきだ。そうしないと危ないことになる。◆習近平の哲理「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したように、習近平の哲理は「兵不血刃」すなわち「刃(やいば)に血塗らずして勝つ」ことである。これは毛沢東と一致しており、毛沢東は独自に荀子の教えである「兵不血刃」をモットーとしていた。「戦わずして勝つ」のだから「平和を愛するのか」などと思ったら、とんでもない間違いだ。筆者は1947~48年にかけて、長春で毛沢東による食糧封鎖を受け、家族を餓死で亡くしただけでなく、餓死体の上で野宿し、恐怖のあまり記憶喪失になったという経験さえある。数十万の餓死体には流す血さえなかった。それでも、その真相は伝えられない。中国共産党を非難する言動は許されないからだ。特に習近平政権になってからの言論統制は激しく、筆者など北京空港の地に降り立った瞬間、捕まってしまうかもしれないので、習近平政権になってからは一度たりとも中国に行ったことがないくらいだ。NED(全米民主主義基金)が潜伏しているので、そのための対応策だということは分かっていても、捕まる可能性が低くなるわけではない。そのような中国による「人類運命共同体」を軸とする「ゼロサムゲームに勝者はない」という習近平の論理が、ミュンヘン安全保障会議の「隠れテーマ」と同じであるということは、中国の動き方に、少なからぬ国が賛同しているということにつながる。中国と聞いただけで猛批判する連中は日本にいくらでもいるが、「批判」によって中国が損害を被ることはなく、むしろ習近平の論理が「じわりと世界に浸透していること」の方がよっぽど怖いのである。それが見えないと、日本は生き残っていけない。筆者はそのことに警鐘を鳴らし続けている。日本人の心に、この願いが届くことを祈るばかりだ。この論考はYahoo(※10)から転載しました。画像:ミュンヘン安全保障指数2024から筆者作成(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/5014(※3)https://securityconference.org/en/munich-security-report-2024/munich-security-index-2024/(※4)http://www.news.cn/world/20240213/7c03cbc8bb4a4f8c9c37bdb2f958a207/c.html(※5)http://cpc.people.com.cn/18/n/2012/1111/c350825-19539441.html(※6)http://2017.beltandroadforum.org/n100/2017/0407/c27-11.html(※7)http://ru.china-embassy.gov.cn/chn/gdxw/201505/t20150507_3069784.htm(※8)https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202201/t20220117_10601025.shtml(※9)http://politics.people.com.cn/n1/2023/0407/c1024-32659032.html(※10)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/82202fbe67e35e4287525ec3df29f3129cd35e72
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2024/02/20 10:28
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