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米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/12/25 10:58
配信元:FISCO
*10:58JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
米・国防総省が12月18日に『中国軍事力報告書』を発表し、「(中国の)汚職摘発が進んだためにロケット軍の作戦能力が向上する可能性がある」と指摘した。したがって「台湾武力攻撃で失敗したら、中国は核兵器の先制使用をするだろう」とも予測している。
トランプ第二次政権(トランプ2.0)で「政府効率化省」を担当することになっているイーロン・マスク氏が「国防費の無駄と非効率化」を盛んに表明しているので、そのことに対する警戒感からか、米・国防総省は国防費獲得のために「中国の脅威」を誇張しているものと思われる。
しかし、そのようなことに利用された中国はたまったものではないにちがいない。激しい抗議と批判と、中には冷笑も中国のネットに溢れている。
◆米・国防総省が発表した『中国軍事力報告書』の内容
12月18日、アメリカの国防総省は、毎年発表している『中国軍事力報告書』の2024年版を発表した。正確にはMilitary and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2024(※2)(中華人民共和国に関わる軍事・安全保障の動向 2024)というタイトルだ。ここでは中国で用いている通称『中国軍事力報告書』(以下、「報告書」)で話を進める。180ページにも及ぶ長編の「報告書」なので、ザックリとしたポイントだけを並べると、以下のようになる。
1.2023年、中国人民解放軍は汚職関連の調査と上級幹部の解任の新たな波を経験し、2027年の近代化目標に向けた進捗を妨げた可能性がある。
2.一方、汚職事件は中国のミサイル産業が急成長していた時期に起きた弾道ミサイル用地下サイロ建設に関する詐欺事件と関係があるようなので、その摘発は中国指導者に対する信頼を高め、核任務が特に重要であることを軍に認識させた。その結果、サイロを拠点とする部隊の全体的な作戦即応性が向上したと考えられる(筆者注:ここで言う「サイロ」とはミサイルサイロのことで、大陸間弾道ミサイルなどの大型ミサイルを格納する建築物のことである。今ではそれが地下に建設されていることが多い)。
3.その結果、中国が保有する運用可能な核弾頭は去年より100発ほど増え、今年半ばで600発以上所有していると推定される。4年間で3倍になっている。2030年までには1000発を超えるだろう。新型大陸間弾道ミサイルが開発され運用可能になれば、中国は米国本土、ハワイ、アラスカの標的に対して通常攻撃を行うことができるようになる。
4.中国が台湾に対する武力攻撃に失敗した場合は、中国は核兵器の先制使用をする可能性がある。(主要概略は以上)
思うに、米・国防総省が毎年発表している「中国軍事力」に関する年次報告は、米議会へのアピールで、「これだけ中国軍の脅威が差し迫っているのだから、もっと軍事予算を増やせ」と、米議会予算委員会に対して主張することが主要な目的だと考えていいだろう。
◆イーロン・マスクの米・国防費に対する批判
テスラCEOのイーロン・マスク氏はトランプ2.0で「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」を率いることになると、トランプ次期大統領は今年11月12日に発表している。DOGE(ドージ)という名称はイーロン・マスクが支持する仮想通貨ドージ・コイン(Doge Coin)の「Doge」から取ったものだと言われている。
イーロン・マスクは、年間5,000億ドルの無駄な政府予算の削減を計画していると何度も表明し、11月17日には<国防総省は費用対効果が非常に悪い>(※3)とXに投稿し、DOGEはそれを改善するという一連の発言をしている。
たとえば、トランプ1.0で国家安全保障問題担当大統領補佐官(2018年4月~2019年9月)を務めたジョン・ボルトンがイーロン・マスクに対して「DOGEで節約した費用を軍事費に充てるべきだ」と言ったのに対して、イーロン・マスクは11月23日に<DOGEは国防費の効率性を改善させる>(※4)と応答している。
11月24日にはイーロン・マスクは中国の壮大なドローン動画を引用(※5)しながら、「ところで、一部のバカどもは、未だにF-35のような有人戦闘機を製造している」と国防総省を揶揄した。
11月25日には、民主党のロー・カンナ下院議員も、<民主党はイーロン・マスクの「政府効率省」(DOGE)と協力して国防予算を削減することができる>(※6)と賛同の意を表している。
同じく民主党のバーニー・サンダース上院議員は、12月2日に<イーロン・マスクは正しい>(※7)とした上で「8,860億ドルの予算を抱える国防総省は、7回連続で監査に失敗した。何十億ドルもの金額を把握できていない。昨年、軍産複合体と無駄と詐欺に満ちた国防予算に反対票を投じた上院議員はわずか13人だった。これは変えなければならない」とXに投稿している。
これに対してイーロン・マスクはアメリカ国旗のマークを2つ貼り付けて返信した(※8)。
このように、国防総省にとっては、そうでなくとも増加しなかった国防予算を、トランプ2.0になったら、イーロン・マスクが徹底して削減することへの危機感がある。だから、「中国軍はこんなに強くなった」と米議会に対して訴えるために「報告書」を発表しているわけだが、中国としては、そんなことに利用されるのは我慢ならないといったところだろう。
「米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。
写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF
(※3)https://x.com/elonmusk/status/1857924169393975482
(※4)https://x.com/elonmusk/status/1859996677316510131
(※5)https://x.com/elonmusk/status/1860574377013838033
(※6)https://thehill.com/homenews/house/5008598-elon-musk-department-efficiency-defense-budget/
(※7)https://x.com/SenSanders/status/1863268770371772863
(※8)https://x.com/elonmusk/status/1863297860651069586
(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8
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米・国防総省が12月18日に『中国軍事力報告書』を発表し、「(中国の)汚職摘発が進んだためにロケット軍の作戦能力が向上する可能性がある」と指摘した。したがって「台湾武力攻撃で失敗したら、中国は核兵器の先制使用をするだろう」とも予測している。
トランプ第二次政権(トランプ2.0)で「政府効率化省」を担当することになっているイーロン・マスク氏が「国防費の無駄と非効率化」を盛んに表明しているので、そのことに対する警戒感からか、米・国防総省は国防費獲得のために「中国の脅威」を誇張しているものと思われる。
しかし、そのようなことに利用された中国はたまったものではないにちがいない。激しい抗議と批判と、中には冷笑も中国のネットに溢れている。
◆米・国防総省が発表した『中国軍事力報告書』の内容
12月18日、アメリカの国防総省は、毎年発表している『中国軍事力報告書』の2024年版を発表した。正確にはMilitary and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2024(※2)(中華人民共和国に関わる軍事・安全保障の動向 2024)というタイトルだ。ここでは中国で用いている通称『中国軍事力報告書』(以下、「報告書」)で話を進める。180ページにも及ぶ長編の「報告書」なので、ザックリとしたポイントだけを並べると、以下のようになる。
1.2023年、中国人民解放軍は汚職関連の調査と上級幹部の解任の新たな波を経験し、2027年の近代化目標に向けた進捗を妨げた可能性がある。
2.一方、汚職事件は中国のミサイル産業が急成長していた時期に起きた弾道ミサイル用地下サイロ建設に関する詐欺事件と関係があるようなので、その摘発は中国指導者に対する信頼を高め、核任務が特に重要であることを軍に認識させた。その結果、サイロを拠点とする部隊の全体的な作戦即応性が向上したと考えられる(筆者注:ここで言う「サイロ」とはミサイルサイロのことで、大陸間弾道ミサイルなどの大型ミサイルを格納する建築物のことである。今ではそれが地下に建設されていることが多い)。
3.その結果、中国が保有する運用可能な核弾頭は去年より100発ほど増え、今年半ばで600発以上所有していると推定される。4年間で3倍になっている。2030年までには1000発を超えるだろう。新型大陸間弾道ミサイルが開発され運用可能になれば、中国は米国本土、ハワイ、アラスカの標的に対して通常攻撃を行うことができるようになる。
4.中国が台湾に対する武力攻撃に失敗した場合は、中国は核兵器の先制使用をする可能性がある。(主要概略は以上)
思うに、米・国防総省が毎年発表している「中国軍事力」に関する年次報告は、米議会へのアピールで、「これだけ中国軍の脅威が差し迫っているのだから、もっと軍事予算を増やせ」と、米議会予算委員会に対して主張することが主要な目的だと考えていいだろう。
◆イーロン・マスクの米・国防費に対する批判
テスラCEOのイーロン・マスク氏はトランプ2.0で「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」を率いることになると、トランプ次期大統領は今年11月12日に発表している。DOGE(ドージ)という名称はイーロン・マスクが支持する仮想通貨ドージ・コイン(Doge Coin)の「Doge」から取ったものだと言われている。
イーロン・マスクは、年間5,000億ドルの無駄な政府予算の削減を計画していると何度も表明し、11月17日には<国防総省は費用対効果が非常に悪い>(※3)とXに投稿し、DOGEはそれを改善するという一連の発言をしている。
たとえば、トランプ1.0で国家安全保障問題担当大統領補佐官(2018年4月~2019年9月)を務めたジョン・ボルトンがイーロン・マスクに対して「DOGEで節約した費用を軍事費に充てるべきだ」と言ったのに対して、イーロン・マスクは11月23日に<DOGEは国防費の効率性を改善させる>(※4)と応答している。
11月24日にはイーロン・マスクは中国の壮大なドローン動画を引用(※5)しながら、「ところで、一部のバカどもは、未だにF-35のような有人戦闘機を製造している」と国防総省を揶揄した。
11月25日には、民主党のロー・カンナ下院議員も、<民主党はイーロン・マスクの「政府効率省」(DOGE)と協力して国防予算を削減することができる>(※6)と賛同の意を表している。
同じく民主党のバーニー・サンダース上院議員は、12月2日に<イーロン・マスクは正しい>(※7)とした上で「8,860億ドルの予算を抱える国防総省は、7回連続で監査に失敗した。何十億ドルもの金額を把握できていない。昨年、軍産複合体と無駄と詐欺に満ちた国防予算に反対票を投じた上院議員はわずか13人だった。これは変えなければならない」とXに投稿している。
これに対してイーロン・マスクはアメリカ国旗のマークを2つ貼り付けて返信した(※8)。
このように、国防総省にとっては、そうでなくとも増加しなかった国防予算を、トランプ2.0になったら、イーロン・マスクが徹底して削減することへの危機感がある。だから、「中国軍はこんなに強くなった」と米議会に対して訴えるために「報告書」を発表しているわけだが、中国としては、そんなことに利用されるのは我慢ならないといったところだろう。
「米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。
写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://media.defense.gov/2024/Dec/18/2003615520/-1/-1/0/MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2024.PDF
(※3)https://x.com/elonmusk/status/1857924169393975482
(※4)https://x.com/elonmusk/status/1859996677316510131
(※5)https://x.com/elonmusk/status/1860574377013838033
(※6)https://thehill.com/homenews/house/5008598-elon-musk-department-efficiency-defense-budget/
(※7)https://x.com/SenSanders/status/1863268770371772863
(※8)https://x.com/elonmusk/status/1863297860651069586
(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8
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トランプ関税はEUを中国に近づけた アメリカなしの世界貿易新秩序形成か?【中国問題グローバル研究所】
*10:36JST トランプ関税はEUを中国に近づけた アメリカなしの世界貿易新秩序形成か?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。習近平国家主席にとってEUとの投資協定である「中欧投資協定」は長いこと悲願だった。しかしバイデン政権の介入や中国の安価なEVの「津波」によって挫折し、EUは2024年10月にEVに関する対中関税を決定。両者の関係は冷え込んでいた。ところが「トランプ関税」がEUにも圧し掛かってきたことによってEUの対中姿勢は一転。EVに対する対中関税を撤廃し、価格協定で折り合う方向に動き始めた。実は2021年にEUがウイグル問題で中国の官員を制裁し、中国がEU官員を報復制裁することで中欧投資協定が凍結されていたのだが、中国はその報復制裁を解除すると言い出したこともあり、習近平宿願の「中欧投資協定」が復活しつつある。トランプ関税は中国と東南アジアの緊密度を強化する役割をしただけでなく、EUに近づけたことになる。その結果、「アメリカなしでの世界貿易新秩序」が形成しつつあるのを見逃してはならない。◆トランプ相互関税直後、欧州委員会委員長が中国の李強首相に電話トランプ大統領が4月2日に発表した相互関税は同盟国を含んだ全ての対米貿易黒字国を相手にしたものなので、当然、EUもその対象になっていた。激怒したEUは一部に関して報復関税をかけると同時に、4月8日にフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が中国の李強首相に電話して会談を行った。中国側の発表は中国の外交部(※2)にあり、EU側の発表はEuropean Commission(※3)に載っている。中国外交部の報道は以下のようなものである。・今年は中国とEUの外交関係樹立50周年になり、二国間関係の発展は重要な機会に直面している。年初、習近平国家主席はアントニオ・コスタ欧州理事会議長と電話会談を行い、中国とEUの関係を深める方向性を示した。・中欧双方は、戦略、経済、貿易、グリーン、デジタルの分野で、新たなハイレベル対話の開催をできるだけ早く推進する必要がある。・李強は「米国が中国と欧州を含むすべての貿易相手国にさまざまな口実で無差別に関税を課すと発表したが、これは一国主義、保護主義、経済的いじめの典型的な行為である」と指摘した。さらに「中国がとった断固たる措置は、自国の主権、安全、発展の利益を守るためだけでなく、国際貿易ルールと国際的な公正と正義を守るためでもある。人類は同じ地球村に住んでいる。保護主義に出口はなく、開放性と協力が世界にとって正しい道だ」と述べた。・フォン・デア・ライエンは「EUは常に中国との関係を非常に重要視してきた。(トランプ関税がある)現在の状況では、中欧関係の継続性と安定性の維持が不可欠だ。EU側は未来に期待し、中欧外交関係樹立50周年を共同で祝うために、適切な時期に新たな中欧首脳会談を開催することを楽しみにしている」と述べた。さらに「EUは中国と協力して、さまざまな分野でのハイレベル対話を促進し、経済と貿易、グリーン経済、気候変動の分野で互恵的な協力を深める用意がある。米国が課した関税は、国際貿易に深刻な影響を及ぼし、欧州、中国、脆弱な国々にも深刻な影響を与えている。中欧は、WTOを中核とする公正で自由な多角的貿易体制を維持し、世界の経済貿易関係の健全で安定的な発展を維持することにコミットしている。これは、中欧双方と世界の共通の利益である」と強調した。(中国外交部報道は以上)一方、EU側の報道は以下のようになっている。・中欧両首脳は、二国間及びグローバルな課題について検討し、建設的な議論を行った。世界経済の安定性と予見可能性が極めて重要であることを強調した。・トランプ関税によって引き起こされた広範な混乱に対応して、フォン・デア・ライエン委員長は「世界最大の市場である欧州と中国が、自由で公正で、公平な競争条件に基づいた強力な改革された貿易システムを支援する責任」を強調した。・中欧間貿易のバランスを取り戻し、欧州の企業、製品、サービスの中国市場へのアクセスを改善するための構造的解決策の緊急性を示唆した。・フォン・デア・ライエン委員長は「ウクライナにおける公正で永続的な平和に対するEUの確固たる支持を再確認し、平和のためのいかなる条件もウクライナによって決定されなければならないこと」を強調した。彼女は中国に対し、和平プロセスに有意義な貢献をするための努力を強化するよう呼びかけた。・フォン・デア・ライエン委員長は、今年7月に開催される中欧首脳協議が外交関係樹立50周年を記念する適切な機会になると指摘した。(EU側報道は以上)中国側とEU側の報道で、一つ異なるのはウクライナ問題だ。どうやらEUでは、トランプが当初、ウクライナなしで停戦交渉に進もうとしていたのを、中国の介入によって阻止させたいという目論見もあったことがうかがわれる。しかし行間には、アメリカ無しの新たな貿易秩序を形成していこうという別の意図が流れているのが読み取れる。◆トランプ関税が中欧を軸に世界貿易新秩序形成を促進4月11日のベルリン発ロイター電は<EUと中国は中国製EVの最低価格設定を検討するとEUが言った>(※4)という見出しの報道をした。それによれば、「EUと中国は昨年10月にEUが中国製EVに関した45.3%の関税に関して撤廃し、その代わりに、中国製EVの最低価格を設定することを検討することに合意した」と、欧州委員会の報道官が述べたとのこと。ロイターは別途<中国とEU、アメリカの懲罰的関税に対抗して貿易を協議>(※5)という見出しでもこの件を扱っている。これに対して中国の商務部でも、<王文濤部長、欧州委員会のシェフチョビッチ欧州委員会貿易・経済安全保障担当委員とテレビ会談>(※6)という見出しで、中欧が関税ではなく価格設定で問題を解決しようという方向の交渉に入ったことが詳細に説明している。これはトランプが導入した「相互関税」に対抗するもので、中欧双方でアメリカなしの世界貿易新秩序を形成していこうというコンセンサスに基づいて行われたものだ。会談の中でシェフチョビッチは「米国が課した関税は国際貿易に深刻な影響を及ぼし、欧州、中国および脆弱な国々に深刻な影響を与えている。米国は世界の物品貿易の13%しか占めておらず、EUは中国を含む他のWTO加盟国と協力して、世界貿易の正常な運営を確保する用意がある。EUは、EUと中国の経済・貿易関係を非常に重視しており、双方向の市場アクセス、投資、産業協力の拡大を促進するために、中国との対話とコミュニケーションを強化する用意がある」と述べている。これら一連の動きに呼応して<中国、EU議員に対する制裁を解除し、貿易交渉を活性化へ>(※7)とアメリカメディアのPolitico(ポリティコ)は4月30日に書いている。そこには「トランプ大統領の貿易戦争は、中国とEUを、その違いにもかかわらず、より緊密に結びつけている」とある。まったくその通りだ。中国の報復制裁に関しては2021年7月15日の論考<習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結――欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議>(※8)で詳述した。◆中欧首脳会議開催場所に関するEU側の譲歩と配慮実は中欧(中国EU)首脳会議は、中国側代表として、北京で開催する時は国家主席(習近平)が出席し、ブリュッセルで開催する時は首相(李強)が出席する慣例になっている。昨年は北京で開催されたので習近平が出席し、今年(7月)はブリュッセルで開催するので、李強が出席することになっている。ところがEU側が、今年は中欧外交関係樹立50周年記念なので、ブリュッセルで開催する順番ではあるが、是非とも習近平に来てほしいと強く要望した。しかし習近平は滅多なことでは外訪しないので、李強に行かせることで通そうとしたらしい。するとEU側が、なんと、それならブリュッセルで開催せずに北京で開催しようと申し得てきたのだという。4月11日、ドイツ国営の国際放送ドイチェ・ヴェーレ(ドイツの波、 Deutsche Welle)は、<中欧首脳会議は7月に中国で開催>(※9)と伝えている。そこには、「トランプ関税が中欧の友好関係を強化する?」という小見出しのフレーズがある。どの角度から斬り込んでいっても、トランプ関税が中欧関係を緊密にさせたことは事実のようだ。習近平は5月2日の論考<東南アジアは日中どちらを向いているのか? 習近平vs.石破茂?>(※10)に書いたように、中国は完全に東南アジアを押さえにかかっているが、これで欧州も手中にし、さらにアフリカや中東あるいは南米などのグローバルサウスとの親密な関係も背景にあるので、EUが示唆するところの「アメリカ無しの世界貿易新秩序」を形成することに成功するのかもしれない。どれだけトランプに気に入ってもらおうかとする国々は淘汰される危険性もあり、注意が必要ではないだろうか。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※11)より転載しました。訪中した仏大統領と欧州委員長が習近平国家主席と会談(2023年)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202504/t20250408_11590251.shtml(※3)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/read_25_1004(※4)https://www.reuters.com/business/autos-transportation/eu-china-start-talks-lifting-eu-tariffs-chinese-electric-vehicles-handelsblatt-2025-04-10/(※5)https://www.reuters.com/markets/china-eu-discuss-trade-resume-ev-talks-2025-04-10/(※6)https://wangwentao.mofcom.gov.cn/zyhd/art/2025/art_8d73de08afad4dffa5e35f0b0a908db5.html(※7)https://www.politico.eu/article/china-sanctions-eu-lawmakers-human-rights-trade-talks/(※8)https://grici.or.jp/2389(※9)https://www.dw.com/zh/%E4%B8%AD%E6%AC%A7%E9%A2%86%E5%AF%BC%E4%BA%BA7%E6%9C%88%E5%9C%A8%E5%8D%8E%E4%B8%BE%E8%A1%8C%E5%B3%B0%E4%BC%9A/a-72215086(※10)https://grici.or.jp/6292(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b439a521fff50439132e977522f66e733cea9c85
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2025/05/07 10:36
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トランプ「報復関税を表明した中国に50%の追加関税」 習近平はどう出るのか?【中国問題グローバル研究所】
*15:59JST トランプ「報復関税を表明した中国に50%の追加関税」 習近平はどう出るのか?【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>(※2)で、トランプ大統領が4月2日に発表した対中相互関税34%に対して、中国が報復関税34%表明したと書いた。さらにホワイトハウスの大統領令には、別途、「報復関税をした国・地域には、さらに相互関税を増額させる」という趣旨の文言がある。中国はそれを承知で報復関税を宣言したのだろうが、トランプは4月7日、自身のSNS(※3)で「中国が8日までに34%の報復関税を撤回しなければ、9日から50%の追加関税を課す」と書いている。4月2日の「相互関税」発表までは、対米貿易をしている全ての国・地域が対象だったが、中国の報復関税により事態は一気に米中貿易戦に引き上げられた感を呈している。◆50%の追加関税は、すなわち対中関税合計104%を意味するのか?トランプが7日に自分のソーシャル・メディアTruth Social(※4)にある英文を読むと「もし中国が2025年4月8日までに34%の報復関税を撤回しなければ」、 the United States will impose ADDITIONAL Tariffs on China of 50%, effective April 9th.(米国は4月9日から中国に対して50%の追加関税を課すことになる)と書いている。この“ADDITIONAL”が、「新たに50%を追加」なのか、「34%を50%にする」なのか、この英文では判然としない。日本の、たとえば毎日新聞は<トランプ氏、中国に50%の追加関税を示唆 報復関税の撤回要求>(※5)と書いており、本文では「8日までに撤回しない場合、中国に対する50%の追加関税を9日に発動すると表明」と書いている。まさに、トランプの文言からは、こういう翻訳の仕方しかない。しかし、「追加関税」なので、「34%を50%にする」のではなく、「新たに50%を追加する」という意味でのADDITIONAL Tariffs(追加関税)であるならば、冒頭に書いた論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>(※6)の図表2に示した関税を合計すると20%+34%+50%=104%なので、中国には「104%」の関税を課すということになる。前代未聞だ。◆中国の反応これに対して中国側は直ちに抗議した。4月8日、中国共産党の機関紙「人民日報」は<圧力と脅威は、中国に対処するための正しい方法ではない>(※7)という見出しの報道をした。そこでは主として以下のような主張が書いてある。・アメリカの一方的なやり方に対して、中国は断固として自国の発展と利益を守り、国際的な公正と正義に準じて必要な措置をとってきたし、これからも続けるだろう。・同時に、中国は高水準の開放を揺るぎなく推進し、開発の機会を他国と共有し、相互利益とウィンウィンの結果を達成する。・アメリカの「相互関税」は、本質的には「アメリカの覇権」を追求する権力政治の現れだ。中国は決して、それを恐れない。歴史と現実は、圧力と脅威が中国に対処する正しい方法ではないことを証明している。・自国を発展させることは世界のすべての国の普遍的な権利であり、一部の国を保護するためではない。アメリカは関税を通して、現在の国際経済貿易秩序を転覆させようとしており、国際社会から強い反発を招いている。・アメリカの一方的ないじめ行為に対する中国の断固たる対抗は、真の多国間主義を擁護し、多角的貿易体制を維持するために必要だ。・中国の対外貿易は、これまでもアメリカによる圧力のもと、強い回復力を示している。・中国は完全な産業システムを備えた超大国であり、製造国から製造大国に移行しており、国連統計グループのほぼすべての国と地域の輸出入記録があり、150を超える国と地域の主要な貿易相手国だ。・それに比べてアメリカは貿易赤字を削減し、製造業の復活を促進するという目標を達成するどころか、自国の企業や消費者に損失をもたらした。現在、アメリカは再び大きな関税を振り回している。・中国の発展に対して短期的には一定の負の影響をもたらすだろうが、中国はショックに対処する自信を持っている。中国は(アメリカ以外の)すべての貿易相手国とウィンウィンの協力を揺るぎなく強化しており、これによりすべての貿易相手国の発展を強化するだけでなく、自国の発展の回復力を強化し、課題に対応する能力が十分にある。(人民日報からの抜粋は以上)中国はこのまま、断固戦う方向に動くものと考えられる。この中国の自信は4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>(※8)の図表3に現れているが、もう一つは『米中新産業WAR』に書いた製造業、特に新産業における中国のアメリカに対する圧倒的優位性から来ているものと考えられる。事実、その本の中でも書いたが、中国は「アメリカに制裁されたがゆえに成長した分野」が非常に多い。4月8日、新華網も中国商務部の報道官の発言を報道している(※9)。趣旨は「人民日報」とほぼ同じだが「さらに一歩進んで50%の関税を課す」と表現しているので、結局、中国に対する関税は合計「104%」とみなすべきなのだろう。◆習近平は「台湾統一」以外の外的要素は軽視か習近平にしてみれば、トランプがNED(全米民主主義基金)の活動に反対していてくれるのなら、他はすべて二の次三の次だ。関税に関しては恐れていないだろう。トランプはTruth Socialで「中国が34%の報復関税を撤回しなければ、今後は中国とのいかなる交渉にも応じない」とも書いているが、習近平が「どうか緩和してほしい」と交渉する姿勢には出ない可能性の方が高い。なぜなら、習近平にとって「台湾統一」こそは核心中の最重要核心的使命だからだ。それ以外の問題は、たとえ関税104%であっても、重視しない可能性がある。NEDは長年にわたって台湾独立を支援してきた。そのNEDの財政的支柱であるUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)をトランプは解体しようとしている。習近平にとっては、それだけで十分のはずだ。それさえ保証されていれば、習近平はむしろ報復関税によってアメリカに対抗し、4月6日の論考<トランプ関税は「中国を再び偉大に(Make China Great Again)」 英紙エコノミスト>(※10)の図表3の色を、より赤く染めていく方向に向かうにちがいない。これは、アメリカ無しでも世界貿易が成り立っていくという、「新たな貿易秩序」を形成する強烈なきっかけになると、習近平は逆に野心を燃やしているかもしれない。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※11)より転載しました。トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/6187(※3)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/114297331052690348(※4)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/114297331052690348(※5)https://news.yahoo.co.jp/articles/8788e1251607a5d1d17e34fdca91a400b1f5073a(※6)https://grici.or.jp/6187(※7)http://world.people.com.cn/n1/2025/0408/c1002-40455064.html(※8)https://grici.or.jp/6187(※9)http://www.news.cn/fortune/20250408/7cfd5234dee34dcba7d4e442ef130564/c.html(※10)https://grici.or.jp/6187(※11)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e3ec6ddd9de1870259cb1a93b0e1d8d3d0519094
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2025/04/08 15:59
GRICI
習近平・プーチン・トランプの相互関係(2)【中国問題グローバル研究所】
*10:44JST 習近平・プーチン・トランプの相互関係(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。●ハーバード大学教授:トランプは対中強硬派か?一方、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院ダグラス・ディロン行政学のグラハム・アリソン教授は、2月5日にワシントン・ポストに<トランプは対中強硬派か? トランプはニクソンのように中国とどのように協力関係を築くことができるのか>(※2)という見出しの論考を書いている。その要旨だけを拾い上げると、以下のようになる。●共和党の80%が嫌中の中、ドナルド・トランプは以下のように言っている。「私は中国を尊敬している」「私は習近平国家主席を非常に尊敬している」「習近平国家主席は素晴らしい。私が習近平国家主席を素晴らしいと言うとマスコミは嫌がるが、まあ、彼は素晴らしい人だ」「私は中国が素晴らしいことを成し遂げてほしい。そう願っている」「私は中国を愛している」●大統領選の勝利直後、トランプは習近平を就任式の特別ゲストとして招待しただけでなく、国際的なゲストの中で習近平が第一の地位を占めると保証した。●12月7日、ノートルダム大聖堂の再開に際し、ウクライナのゼレンスキー大統領とフランスのマクロン大統領と三者会談した後、トランプ大統領は会話を要約した投稿を(Truth Social)にしているが、そこには奇妙な一文が含まれていた。ウクライナ和平の見通しについて、トランプ大統領は「China can help(中国が助けてくれる)」と書いたのだ。これは興味深い。国連でも、NATOでも、ローマ法王でもなく、中国だ。トランプ大統領と習近平主席、そして習近平主席とプーチン大統領との最近の電話会談に関する公式報告書の行間を読むと、トランプ大統領はウクライナ戦争を終わらせるための停戦交渉または停戦の実施に習近平主席をパートナーとして関与させようとしているように私には思える。(以上)その通りである。さすがに、鋭い勘だ。トランプの投稿はTruth Social(※3)にあるが、そこにはI know Vladimir well. This is his time to act. China can help. The World is waiting! (私はウラジミールを良く知っている。今こそ彼が動くべき時だ。中国が助けてくれる。世界は待っている!)と書いてある。このウラジミールは言うまでもなくウラジミール・プーチンのことだ。二人はファーストネームで呼び合う。世界の誰も気にしていないChina can helpの3つの単語に、よくぞ注目したものだと、ハーバード大学のグラハム・アリソン教授に敬意を払わずにはいられない。もし彼が拙稿<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※4)を読んでくれたら、きっと、すべてのジグゾーパズルが綺麗に填め込まれるのを発見することができるのではないかと期待する。結論を言えば、トランプがウクライナ問題解決を急ぐのは、決して対中強硬策に集中したいからではない。トランプはむしろ、ウクライナ問題を習近平の水面下での協力を得ながら、プーチンに接近し解決しようとしていると言っていいのではないだろうか。ノーベル平和賞を貰いたがっているトランプの心理を、習近平とプーチンが思う存分「活用」していると表現してもいいのかもしれない。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※5)より転載しました。アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.washingtonpost.com/opinions/2025/02/05/trump-china-ukraine-xi-hawks-doves/(※3)https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113615912452824634(※4)https://grici.or.jp/6039(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/737efab8fb220c22273772e21c782616057928bb
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2025/02/27 10:44
GRICI
習近平・プーチン・トランプの相互関係(1)【中国問題グローバル研究所】
*10:38JST 習近平・プーチン・トランプの相互関係(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。2月24日、プーチン大統領が習近平国家主席に電話をし、中露の緊密さは永遠に変わらないことを誓い合った。トランプ大統領がどんなに対露接近をしても、トランプ政権が終われば、また民主党のNED(全米民主主義基金)を駆使した「民主を掲げながら親米的でない国家や政府を倒す方針」に戻ることが考えられるからだ。したがって中露の緊密度が変わることはない。一方のトランプは「習近平が大好きだ」と公言している。大統領就任式にも習近平を招待したほどだ。実現はしなかったが大統領選挙中に主張した「対中一律60%関税」は無期延期に近い措置を連邦政府に指示した。加えてトランプは「ウクライナ問題の解決には中国の協力が必要だ」とさえ言っている。このような中、「トランプがプーチンに急接近しているのは、ウクライナ問題を解決した後、対中攻撃に集中するためだ」という言説がまかり通っているが、それは正しいのだろうか?ハーバード大学教授の見解も引用しながら考察する。◆ウクライナ侵攻3周年の日にプーチンが習近平に電話プーチンによるウクライナ侵攻3周年に当たる2月24日午後、プーチンが習近平に電話をして会談を行った。中国外交部の報道(※2)によれば、主として以下のようなことを話し合ったとのこと。●習近平:中露両国は、中国人民抗日戦争勝利80周年と世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念する活動の実施を含め、各分野での協力を着実に進めている。歴史と現実は、中露は決して引き離すことのできない良き隣国であり、苦楽を共にし、支え合い、共通の発展を目指す真の友人であることを示している。●習近平:中露関係は独自の戦略的価値を有しており、いかなる第三者に向けられたものではなく、いかなる第三者からも影響を受けるものではない。●習近平:国際情勢がどのように変化しても、中露関係は冷静に前進し、互いの発展と活性化に貢献し、国際関係に安定とプラスのエネルギーを注入するだろう。●プーチン:「ロシアは中国との関係を非常に重視している」、「中国との関係発展は、ロシアが長期的視点から行った戦略的選択であり、決して一時的な措置ではなく、一時的な出来事によって左右されることも、外部要因によって妨げられることもない。現在の状況下で、ロシアと中国が緊密な意思疎通を維持することは、新時代の両国の包括的戦略的協調パートナーシップの精神に合致しており、ロシアと中国が国際情勢において安定的な役割を果たしていることを示す前向きなシグナルを送ることにもなる。●プーチン:米露接触に関する最新状況とウクライナ危機に関するロシアの原則的な立場について説明し、「ロシアはウクライナ紛争の根本原因を排除し、持続可能で長期的な和平計画に到達することに尽力している」と述べた。●習近平:昨年9月、中国、ブラジル、南半球のいくつかの国は、ウクライナ危機の政治的解決を促進するための雰囲気を醸成し、条件を蓄積するために、共同でウクライナ危機に関する「平和の友人」グループを設立した。中国は、危機解決に向けてロシアとその他の関係国が行った積極的な努力を歓迎する。●中露双方:今後もさまざまな手段を通じて意思疎通と調整を維持していくことで合意した。(以上)これらから読み取る限り、中露双方とも、「(米露接近など)いかなる国際情勢の変化があろうとも、中露関係は永遠に不滅である」ことを強調しているように見える。現実問題として中国は石油や天然ガスなどを大量にロシアから輸入し、ロシアは広範囲にわたる製品を中国から輸入している。この日常生活における相互依存は、ちょっとやそっとの外圧によって崩れるものではないだろう。中露首脳電話会談に関してロシア側の発表(※3)もあるが、そこには「習近平の5月9日の訪露」や「プーチンの9月3日の訪中」そして「上海協力機構サミット(今年は中国が主催国)のスケジュールを再確認」などの具体的な日程の記述があり、プーチンが習近平に、最近の米露接触に関する報告をしたとも書いてある。そして習近平が「米露間で対話が開始されたことを支持し、ウクライナ紛争の平和的解決に向けた道筋を見出すために中国には協力する用意がある」ことを表明したとある。最後に「中露両首脳は、中露の政治的つながりは世界情勢を安定させる上で不可欠な要素であると強調した。この関係は戦略的な性質を持ち、政治的偏見に左右されず、誰かを標的にするものでもない」と強調されている。ロシア側からの視点を見ても、米露接触による中露関係はさらなる高みへと進展していくことを強調している。「米露接近」という言葉を使わず、「米露接触」という言葉に徹しているのも見どころか。トランプ政権のときのみ、トランプがプーチンに接近しているのであって、その期間は非常に短く、すぐにロシアを最大の敵とみなしてきた民主党政権に変わるのは分かっているので、プーチンが安全弁として習近平を手放すはずはないだろう。◆トランプは対中攻撃を用意しているのだろうか?トランプ側からしても、トランプの「習近平愛」と「プーチン愛」は尋常ではない。何度も書いて申し訳ないが、トランプは就任直後の1月23日に開催されたダボス会議にオンライン参加し(※4)、●But I like President Xi very much.(しかし私は習主席が大好きだ)●I’ve always liked him.(私はずーっと彼が好きだった)●We always had a very good relationship.(私たちの関係はいつも素晴らしかった)と言っている。それはホワイトハウスのウェブサイトに書いてあるので、間違いがないだろう。彼の肉声を確認したい方は、こちらのリンク先(※5)を、ぜひともクリックしてご覧いただきたい。まぎれもない事実だ。なぜトランプがこのようなことを、就任3日後の1月23日に言ったのかに関しては、2月22日のコラム<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※6)が理由の一つとして考えられる。ウォールストリート・ジャーナルの報道から推測すると、トランプの大統領当選がわかった11月5日以降辺りから習近平は「深い深い水面下で」、「ウクライナを外したプーチンとトランプだけの和平交渉を進めてはいかがですか?」という「甘い言葉」をトランプ側に投げかけていたことになる。トランプとしては、もともとからバイデンによるNEDを使った他国干渉を非難し、「民主」を掲げて非親米政府を転覆させては紛争を巻き起こし戦争ビジネスで国家運営をしていく米政府のやり方に不満を抱いていた。だからNEDの資金支援をしているUSAIDを解体しようと動いているのである。2月12日のコラム<習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい>(※7)に書いたように、USAID解体はNEDの活動を抑え込むので、習近平としてはありがたくてならない。現にトランプが対中強硬でない証拠に、フェンタニルに関する「中国10%、カナダ・メキシコ25%」関税に関しては断行しているが、選挙中に叫んでいた「対中輸入品一律60%」に関しては、トランプ1.0の時の「第一段階合意」(2020年)の実績検証をするよう連邦政府機関に指示しただけだ。実績検証など「まだ検証中です」と言えば、いくらでも延期できる。60%は無期延期したに等しい。したがって、<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>(※8)に描いた相関図(図表2)には、それなりの信ぴょう性があると考えていいのではないだろうか。その他さまざまなトランプの「習近平愛」現象は、拙著『米中新産業WAR』の【終章 習近平とトランプとイーロン・マスクと】で詳述した。トランプの「プーチン愛」もまた尋常ではない。トランプは初めての大統領選を戦おうとしていた時に、2016年5月に、キッシンジャー(元国務長官)に師事して外交戦略を学んだ。キッシンジャーは2016年2月3日に、プーチンの招待でモスクワを訪問し、5月18日にトランプを自宅に招いたのである。このときトランプにとっては「キッシンジャーがベトナム戦争終結に貢献したとして、1973年に平和賞を授与された」ことが何より印象的だったのだと、トランプ1.0の時の元側近から聞いている。筆者はその元側近と、日々メールを交換したり国際電話をかけたりなどして、非常に仲良くしていた。2016年11月に大統領に当選したトランプは、プーチンと電話会談をし、盛んに「プーチンはいい奴だ」と言うようになった。中国では「トランプとプーチンが口づけしているイラスト」がネットに出回ったほどだ。しかしトランプのその「熱い思い」はロシアゲート疑惑によって裂かれてしまった。トランプ2.0では、トランプは「憎きバイデンが起こしたウクライナ戦争」と位置づけ、プーチンとトランプを再度近づけさせたという流れだ。「習近平・プーチン・トランプの相互関係 トランプはウクライナ問題解決後、対中攻撃を考えているのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202502/t20250224_11561364.shtml(※3)http://en.kremlin.ru/events/president/news/76325(※4)https://www.whitehouse.gov/remarks/2025/01/remarks-by-president-trump-at-the-world-economic-forum/?utm_source=substack&utm_medium=email(※5)https://www.youtube.com/watch?v=-R7ax7ZlSdk(※6)https://grici.or.jp/6039(※7)https://grici.or.jp/6005(※8)https://grici.or.jp/6039(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/737efab8fb220c22273772e21c782616057928bb
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2025/02/27 10:38
GRICI
米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】
*11:00JST 米『中国軍事力報告書』の「汚職摘発で中国軍事力向上」指摘は国防費獲得のため(2)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆憤慨する中国中国のネットには、米・国防総省が予算獲得のために「中国の脅威」を手段として使うことに対する憤慨が数多く見られる。特に、上記の「1」や「4」にあるように、アメリカは、習近平が2027年までに台湾を武力攻撃するというデマを拡散させて国防予算を獲得しようとしたり、日本を煽って日本の国防費を増額させようと画策したりしてきた。このことは2023年2月15日のコラム<「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?>(※2)にも書いた通りだ。すなわち、中国では2020年10月26日から29日まで北京で第19回党大会の五中全会(第五回中央委員会全体会議)が開催され、10月29日に<第19回党大会五中全会公報>(※3)が中国共産党網で発布された。公報の全文は約6800文字あるが、その中の「確保二〇二七年実現建軍百年奮闘目標」という、わずか「17文字」が、「建軍百年に向けた奮闘目標を確保しよう」と書いてあるだけだ。国のトップが、「建軍百周年記念に向かって頑張ろう!」と兵士に向かって激励するのは、どの国でも自然のことだろうが、アメリカは「しめた!」とばかりに、この「17文字」に飛びついた。すると、日本政府も日本の中国論者たちもまた、まるで「鬼の首でも取った」かのように、アメリカのこの「ご高説」に飛びつき、台湾武力攻撃説を喧伝しまくったのである。バカバカしいだけでなく、日本人の命を戦火の中に巻き込む危険な「フェイク」なので、筆者はいたる所で、その虚偽性と扇動性に関して書いてきたが、日本人は「好戦的な論説」の方を好むという、愚かな選択をしている。中国の嫌日感情の主たる源泉は、ここにあると言っても過言ではないだろう。中国のネットには、あまりに多くの「報告書」に対する批判と抗議と冷笑があるので、どれか一つを取り上げて解説するのは困難だが、それでも一応、まずは中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の論説を見てみよう。2月20日の環球時報は<米国は「中国軍事力報告書」を発表して中国人民解放軍を中傷 中国は「事実を無視し、偏見に満ち、“中国脅威論”を広めていると反駁>(※4)している。目新しい内容としては、環球時報が軍事専門家の意見として「今年の報告書には、認知戦闘能力や、西太平洋で軍事紛争が発生した場合に中国がエネルギー供給能力を確保する上で直面する課題など、いくつかの新しい内容が追加されている。これは、将来、西太平洋で軍事紛争が発生した場合、米国が軍事介入し、中国のエネルギー供給ラインに悪の手を伸ばし、中国のエネルギー供給を遮断することを示している。これは中国が非常に警戒すべきことだ」と報道していることだ。中国はむしろ「報告書」を分析して、アメリカが何を狙っているかという分析を深めていることが興味深い。12月19日には、比較的に知識人が集まる観察者網が<米・国防総省は中国の核拡大を誇大宣伝しており、2030年には1,000発の核爆弾を保有するとしている>(※5)という見出しで「報告書」を分析している。この分析で「報告書」に関して注目している興味深い話題を挙げると、以下のようなものがある。●「報告書」によると、軍艦、海上兵器、電子システムの生産において、中国の防衛産業は「ほぼすべての造船ニーズを満たすことができる」という。報告書は、中国海軍が世界最大の海軍であり、140隻以上の主要な水上艦を含む370隻以上の艦艇と潜水艦を保有し、米国海軍の290隻を上回っていると評価しており、中国はさまざまな建造段階にある新しい駆逐艦や強襲揚陸艦も多数保有していると評価している。●アメリカのメディアは、アメリカの国防予算が依然として世界最高であり、アメリカは実戦に投入できる核弾頭を約1550発も保有していると言及している。●昨年、米国が発表した年次報告書(『中国軍事力報告書』)について、中国外交部の毛寧報道官は、「米国こそが世界で最大かつ最先端の核兵器を保有している国であり、核兵器の先制使用を主張し、核戦力の増強に多額の投資を続け、同盟国に対する“拡大抑止”を強化している」と指摘した。◆ビリビリ動画:米・国防部は予算の20%しか武器装備費に使ってない一方、中国の人気動画であるビリビリ動画が12月9日に<米軍(の予算)9000億ドルは、いったい何に使っているんだい?なんで(9000億ドルもあるのに)足りないんだ? :米軍2025年装備購入分析>(※6)というタイトルの分析を賑々しく公開している。その分析は、今年3月11日に発表された米国の<2025年の国防総省予算要求>(※7)に基づいて行われており、要点は以下のようなものである。●米軍の2025年の軍事予算は9000億ドルと巨額であるものの、実際に装備品調達に使われる部分は比較的少なく、約1675億ドルで、全体のわずか20%にも満たない。●中国の軍事予算は約3000億ドルと言われているけれど(ストックホルム国際平和研究所が推測した中国の2023年の軍事費)、その30%~40%は装備品調達に使われているようなので、米軍の装備品調達費は中国やロシアよりも低いか、トントンくらいだ。●予算要求では、戦闘機や装甲車、軽火器など、米軍のさまざまな装備品の具体的な購入額が詳しく紹介されているが、国防産業部門の単価の高さには驚く。これは今後数年間で米軍の軍事力が徐々に縮小していくだろうことを示唆している。(動画の概要は以上)となると、まさにイーロン・マスクが指摘した通り、米国の国防総省の予算は「無駄が多く、非効率的だ」ということになる。国防総省はそれを知っているので、イーロン・マスクがどのように言うかを見届けてから発表しようとして、今年は「報告書」の発表を遅らせたのではないだろうか。ご参考までに書くと、この年次報告(『中国軍事力報告書』)はここのところ、「2020年9月1日/2021年11月3日/2022年11月29日/2023年10月19日/2024年12月18日」という日時で発表されている。例年に比べると、今年はいやに遅い。きっとイーロン・マスクが「政府効率化省」で何をするかを見届けたかったために遅れたのにちがいない。なお、「報告書」が指摘する「汚職摘発で中国の軍事力が向上している可能性」は薄く、中国の腐敗は「底なしか」と筆者は思っている。それに関しては、機会があれば別途考察を試みたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※8)より転載しました。写真: 米・国防総省が発表した年次報告2024『中国軍事力報告書』のカバー(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://grici.or.jp/4015(※3)https://www.12371.cn/2020/10/29/ARTI1603964233795881.shtml(※4)https://mil.huanqiu.com/article/4Kj5IuAVPuh(※5)https://www.guancha.cn/internation/2024_12_19_759324.shtml(※6)https://www.bilibili.com/video/BV15CqNYzErK/(※7)https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/Budget2025/(※8)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/937e0f78070679355f75b0cfea4625e69c145fc8
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2024/12/25 11:00
GRICI
中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】
*16:23JST 中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。半導体の微細化に関して「半導体の性能が18ヵ月で2倍になる」という経験則「ムーアの法則」は実際上かなり前から破綻しているが、人々は「3nm、2nm…」と競い合っている。ならば、「3nm、2nm…」の実態は何かと言えば、それは商品番号にすぎず、実際TSMCでも、たとえば「TSMC 3nm」チップとは言わずに、TSMC「3N」(※2)と、「こっそりと商品番号に置き換えている」ことに気が付かなければならない。その意味では製造者側は、実は良心的に「ムーアの法則」の破綻を認識していると言っていいだろう。多くの研究者は、物理学的には「3nm」辺りから事実上それ以上の微細化はできないとする「ムーアの法則」限界理論を10年以上前から展開はしている。しかしビジネス界はわかっていながらも、互いに「騙し騙され」、「3nm、2nm…」を唱えてきたのである。投資家に気付かれるのを避けるためだろう。いま現在は、既に「ムーアの論理」は破綻していると見る専門家は多く、中国もその中の一例だ。破綻すればどの関連企業も実際にはそれ以上先へは進めないので、「どん詰まり」のところで足踏みをすることになるだろう。アメリカが全方位的に中国の半導体技術を潰そうとしても、西側が限界領域で足踏みしている間に中国もその限界領域にまで達し、その頃にはAIを含めた新産業において中国は一気にアメリカを追い抜くという「心づもり」で動いていることを、今回は考察したい。◆「ムーアの法則」はなぜ破綻するのか?「ムーアの法則」に関してはご存じの方が多いとは思うが、念のために書くと以下のような経緯で生まれたものである。1965年、のちに(1968年に)アンディ・グローブ氏とともにインテル社を創業したゴードン・ムーア氏が大規模な集積回路(Integrated Circuit =IC、以後IC)の製造・生産に関して、IC当たりの部品数あるいは性能が毎年2倍になると予測し、その成長率があと10年は続くと予測したことから始まった。10年後の1975年になると次の10年を見据えて「2年ごとに2倍になる」に修正し、さらに「1.5年ごとに2倍」とも予測して、それが維持されたことから「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。しかし、ICの微細化が進むにつれ、半導体チップの性能も驚異的に高まってはいったが、それにつれて「ムーアの法則」の破綻に関して数多くの論考が発表されるようになった。身近なところで言うならば、たとえば、早くも2014年05月21日にはITmediaから<ムーアの法則の終焉──コンピュータに残された進化の道は?>(※3)という論考が発表され、2016年3月4日には、当時の東京工業大学の岩井洋教授が<半導体微細化ロードマップ終焉とその後の世界>(※4)という、実にすばらしいプレゼンテーションをPDFにして公開しておられる。東京工業大学(現在の東京科学大学)に連絡して岩井(元)教授に確認を願いしたところ、岩井(元)教授自身は、このようなPDFをネット公開した覚えはなく、公的な論文はH. Iwai, “End of the downsizing and world after that,” 2016 46th European Solid-State Device Research Conference (ESSDERC), Lausanne, Switzerland, 2016, pp.121-126, doi: 10.1109/ESSDERC.2016.7599603.にあるとのことだった。それにアクセスするのは困難だ。これ以外にも非常に多くの論考や分析がネットに公開されているので、それ等から総合的に判断すると、どうやら物理学的に見て約「3nm」が限界値であるらしい。それ以上線幅を小さくすると、量子力学におけるトンネル効果が出現してきて、トンネル電流が流れてしまい、発熱して不安定状態になり破壊するリスクが激増するという。量子力学はかつてこよなく愛したエリアなので、ここで量子力学の話が出てくると嬉しくてならない。中国人留学生を助けたいという気持ちが80年代初期に湧き出てこなければ物理を捨てることもなかったのにと、恨めしい気持ちも覚える。その量子力学に戻って少しだけ説明させていただくなら、電子を粒子と考えたときに、それを隔てる絶縁物であるはずの「壁」(エネルギー・ポテンシャル障壁)があまりに薄いと(相対的にエネルギーレベルが低いと)、「壁」は絶縁物ではなくなり、電子は量子効果としての「波動」になって壁を通り抜け「トンネル電流(電子流)」を惹起してしまう。これを量子力学的に計算すると「トンネル長」は約「3nm」が限界であるという結果が出てくるようだ。したがって「3nm」以下の微細化は、物理学的に「安定的状態では」作れないはずなのである。これを「ムーアの法則」の破綻と称する。現に、<半導体、3nm・2nmという数字のウソ>(※5)というYahoo!エキスパートの、非常に簡潔な情報もあるので、ご一読なさると納得感が深まるかもしれない。◆中国は「ムーアの法則」の破綻を認識し、その先を睨んでいる12月7日のコラム<中国半導体最前線PartI アメリカが対中制裁を強化する中、中国半導体輸出額は今年20.6兆円を突破>(※6)に書いたように、今年12月2日のバイデン大統領による対中制裁強化(エンティティ・リスト大量追加)が発表されると、12月5日に「人民日報」は<米国がチップ制裁を強化している間に、中国の半導体輸出は1兆元(20.6兆円)を突破>(※7)を発表した。そこには専門家の意見として、以下のような中国の思惑が書いてある。●2017年、特に2019年以降、アメリカは中国の先端チップに対する制裁をくり返し強化してきたが、2023年10月以降、その対象にある変化が見られるようになった。それはハイテク産業の中でもAIに集中し始めたということだ。●このシフトは、アメリカも実は「ムーアの法則」の破綻を意識し始めていることを示唆する。●最近の半導体チップ製造は2nmまたは1nm未満のプロセスに入ったとみなされているが、実はチップの素子サイズは既に物理的限界に達している。この微細化によるチップ業界のアップグレードが終点の近辺で立ち止まっている間に、中国は進歩を遂げ、終点に追いつくことになる。その間中国は成長する。●アメリカがどんなに中国を潰そうとしても、中国はアメリカからの激しい制裁によりサプライチェーンを自国内で形成することに成功しつつあるので、アメリカは中国の成長に手出しをすることができない状況に追い込まれつつある。●微細化の王国を築いた「ムーアの法則」はAI半導体の分野には適用できず、AIエリアには「アーキテクチャ、接続帯域幅、アルゴリズムの最適化…」などさまざまな新たなパラメータを取り入れた未来予測が必要となってくる。(概ね以上)つまり中国は「ムーアの法則」破綻を認識し、その先を睨んでいることになる。アメリカの半導体工業会(Semiconductor Industry Association) (※8)は、2024年版米国半導体産業白書を発表した。アメリカの半導体における圧倒的優位は変わらないものの、2023 年の自動車市場における半導体の需要は 15% 増加したのに対し、スマホなどの通信機器市場は 1.8%減少し、パソコン市場は 7.1% 減少している。すなわち現在、半導体市場の成長の勢いは、自動車および工業セクターに傾いることを意味している。自動車用チップや工業用チップは、携帯性に対する要件が遥かに小さく、高度なプロセスに関しては、現在5nmから7nmに焦点を当てているのに対し、スマホ、パソコンなどの業界は、それより遥かに難しい2nmから3nmのプロセスに焦点を当てている。後者が「ムーアの法則」破綻の危機にある中、前者における中国の発展は著しく、アメリカは中国に大きな後れを取っている。成熟したプロセスに関しては、それが中国の得意とするところだ。したがって「アメリカは、中国半導体の直線的な発展を体系的に抑制することはできない」と、人民日報は結論付け、「中国はラスト・マイルに向けて取り組み続けることができる」としている。◆Google元CEOが中国のAIエリアの成長を肯定アメリカの戦略コミュニティは、「中国のチップ企業が抑圧の中で成長し、米国企業は競争力を失っている」という現象に注目している。これに関しては非常に多くの情報があるので特定しにくいが、あえて言うならこのような情報(※9)を挙げることができる。中国はEVなど製造業が強いことから、AI効果に関する実体経済における膨大な実験を実行することが可能なので、AIの実用化という面で優れている。また生成AIには莫大な電気量を必要とすることから、12月11日のコラム<中国半導体最前線PartIII AI半導体GPUで急成長した「中国版NVIDIA」ムーア・スレッド>(※10)の図表に示したように、AI開発では電気量において将来的には中国に優位性があると言えるのかもしれない。その証拠に最近、Former Google CEO Eric Schmidt Says U.S. Trails China in AI Development | News | The Harvard Crimson(※11)にあるように、Googleのエリック・シュミット元CEOが、最近、中国の方がAIの開発が進んでいるという趣旨の観点を発信している。同氏は、ハーバード政治研究所のフォーラムで、「より強力なAI開発競争でアメリカは中国に遅れをとっている」と述べたとのこと。ハーバード・ケネディスクールの元学長、グラハム・T・アリソン氏(1962年卒)が司会を務めたこのイベントでのシュミット氏の発言は、昨年10月のIOPで「アメリカがAI開発で中国をリードしている」と述べた立場から逆転している。講演の中でシュミット氏は、「アメリカのような優秀なエンジニア、強力なチップ、大規模なデータソースへのアクセスに加えて、中国はAIモデルのトレーニングに必要な電力をより多く持つことでも恩恵を受けている」と述べている。これは筆者の「中国半導体PartIII」での独自分析が正しかったことを裏付けてくれて、ホッとしている。ただ、日本としてはホッとしているわけにはいかないだろう。少なからぬ日本人にとっては、見たくない不愉快な現実だろうとは思うが、この「中国半導体最前線シリーズ」で書いたことは、日本の真の発展あるいは政策の方向性にとっては、無視できない「現実」であることを認識していただきたいと切望する。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※12)より転載しました。米アマゾンのラボAIチップ開発など研究(写真:ロイター/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/platform_HPC_tech_advancedTech(※3)https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/21/news012.html(※4)https://semicon.jeita.or.jp/STRJ/STRJ/2015/2015_08_Tokubetsu_v2.pdf(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/20b6ff18f1af61aecf56b53c1327ff989cb45bf6(※6)https://grici.or.jp/5891(※7)http://politics.people.com.cn/n1/2024/1205/c1001-40376144.html(※8)https://www.semiconductors.org/(※9)https://www.investors.com/news/technology/semiconductor-stocks-gear-makers-getting-china-boost/(※10)https://grici.or.jp/5904(※11)https://www.thecrimson.com/article/2024/11/19/eric-schmidt-china-ai-iop-forum/(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3445ed89b794463c97c011a2b1db2b52cb5fbde4
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2024/12/13 16:23
GRICI
帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】
*16:21JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆日本の株式制度における「企業防衛」の危うさそれに比べて日本企業の外資投入あるいは株主提案権に関する規制は世界一緩く、東京証券取引所及び大阪取引所の売買代金の約60%以上は海外投資家によって占められており(※2)、上場企業の金額ベースでみた外国人の日本株保有率は31.8%になっている(※3)。株主提案権を取得するための株式保有要件も非常に緩く、提案内容の制限もほとんどないというのが現状のようだ。株式を5%以上保有すると「大量保有報告書」を提出する義務があり、その後1%以上の変動があるたびに追加で報告することが法律で定められているだけだ。これらの状況が「ウルフパック」のような手法を生み、企業を乗っ取るグレーゾーンを招いている。「企業防衛」、「国家防衛」は「武器を手段とした防衛力」などでは到底守り切れない経済安全保障上のリスクの落とし穴を露呈している。投資者の道徳心に期待するには限界があるだろう。仮に万一、中共中央統一戦線がグレーゾーンを突いてきたらどうなるだろうか。たとえば日本がアメリカに追随し、台湾独立を支援する路線を明確にしたときなどは、武器による報復ではなく、グレーゾーンを用いた、日本の国家インフラを含めた日本企業乗っ取りという金融手段を用いる可能性はゼロではない。そうでなくとも日本は米国の餌食になっている側面が否めないのに、ウォール街と中南海がその気になれば、日本国など「消えてなくなる」危険性が潜んでいる。中国の富裕層が習近平政権を嫌がって日本に避難してきているといった類の記事が目立つが、喜んでいる場合ではない。また、懲罰を重くすればいいだけの話ではなく、日本はもっと抜本的に、そして予防的に規制ラインを引き上げなければならない。それができないのはなぜか?上述した対中貿易重視という日本政府や経団連の基本姿勢があるだけでなく、遅まきの対米追随にばかり目が行っていて、日本の国家を守るのだという「独立国家としての国家観」を持っていないところに根源があるのではないだろうか。この「国家観の欠如」は拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』でも詳述した。本稿で論じたのは氷山の一角にすぎず、日本はあらゆるエリアで「隙だらけ」であることを露呈している。この「日本の脆弱性」に対して、国は早急に規制を強くする方向で法整備の見直しをする必要がある。警鐘を鳴らしたい。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※4)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.jpx-recruit.jp/company/business05/(※3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB022T70S4A700C2000000/(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b
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2024/11/27 16:21
GRICI
帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】
*16:16JST 帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(1)【【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。米中の新産業力を比較考察する本を執筆する過程で、日本を参考比較対象としてみた。すると、「なぜ日本の製造業はこんなにまで没落してしまったのか」、「なぜNatureの研究者ランキングなどで、日本はここまで低いのか」といった疑問にぶつかった。そこに共通しているのは「短期的成績が求められるようになったから」という事実で、日本企業の場合、その原因は「物言う株主」(アクティビスト)の存在であることが浮かび上がってきた。事実、製造業関係の社長を取材したところ、「最近は物言う株主の存在が大きくなりましてね、大型の設備投資など、とてもできません。短期的に目に見える利益を出さないと、物言う株主が許してくれないんですよ。日本の製造業が成長などするはずがありません」と嘆いておられた。その流れの中で<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※2)という事実を知り、非常な危機感を抱きながら近く出版する本の原稿を書いていたのだが、加えて金融界でも類似の動き(※3)があることを知った。そうでなくとも11月19日には、「ハゲタカ・ファンド」とも言われるほど激しい投資をすることで有名な米ヘッジファンド運営会社エリオット・インベスト・マネージメント(以下、エリオット)が、東京ガスの株式を5.03%獲得し(※4)、東京ガスが保有する新宿パークタワーなどの不動産について、非中核事業だとして売却を求めていると報道されたばかりだ。日本の国家インフラにまで「物言う株主」が口を出し、日本の国家の軸を揺さぶり始めている。注意しなければならないのは、かつての資本市場改革で株主の権利を強くしたために、「物言う株主」のみならず昔ながらの乗っ取りスタイルも息を吹き返しているということである。このまま放置すれば、日本はやがて中国人を含めた、何らかの形での外国人投資家に乗っ取られてしまう危険性がある。日本の「企業防衛」は、そして日本国の「インフラ防衛」は大丈夫なのだろうか。一方の中国。実は改革開放は、グローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者・フリードマンの論理を基礎にして進められてきた。したがって習近平は絶対にグローバリゼーションを崩さないし、その上で社会主義体制を軸にしているので国家インフラは国有企業で守りを固め、民営企業も証券法で外資投入を規制し企業崩壊を防いでいる。それに比べて日本の外資投入規制はあまりに緩く無防備だ。このままでいいのか、警鐘を鳴らしたい。◆帰化中国人集団が日本企業を乗っ取ろうとしていたケース冒頭に書いたように、2022年8月18日、<市場を赤く染める「中国系仕手集団」の“ウルフパック戦術” 電線メーカー「三ッ星」が白旗寸前>(※5)という見出しで、帰化中国人仕手(して)集団が日本企業を乗っ取ろうとしたケースが報告されている。「ウルフパック」というのは、実際はつながっている複数の共同投資家が、多数の異なる名義を利用し、水面下で分散的に大量の株式を購入し、ある日突然「狼の群れ」が姿を現して「株主提案権」を発揮し、当該企業を乗っ取るという手法のことである。本来、これらの株式が事実上共同で5%以上保有されている場合には、共同名義として「大量保有報告書」を提出する義務がある。しかし実際は、5%以上の株式を所有している某グループは、それぞれがあたかも関係のない人物であるかのようになりすまして異なる名義で5%以下の株式を所有する形を偽装するケースが頻発している。報道によれば、「相手企業に警戒心を抱かせないように各々が無関係を装い、株式を分散取得し、傘下株主の申し立てで臨時株主総会の開催に漕ぎつけると、共闘で乗っ取り劇を演じた」とのこと。典型的な「狼の群れ」だ。加えて「その中心人物と目されるのは、2003年10月に日本国籍を取得した帰化中国人」と、上記の記事には書いてある。それが真実だとすれば、いかにも「赤く染めそうな雰囲気」を醸し出しているではないか。この結末は2024年8月22日の<「狼」のような個人投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる…!究極の敵対的買収「ウルフパック戦術」の行方>(※6)に見られるように、ウルフ3者に「計98万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した」だけで終わっている。こんなことでは、「狼の群れ」はいくらでも姿を変えて暗躍し、日本の製造業だけではなく、金融界あるいは日本の国家インフラさえ乗っ取ることが可能になってしまう。2023年3月31日の<「中国系仕手集団」頭目に弄ばれ、ついに上場廃止になった「アジア開発キャピタル」>(※7)を見ると、なんと、日本の複数の衆議院議員が役職に就くなどして、すでに国家ぐるみの犯罪が横行していることがわかる。その危機感を2023年4月1日の<何人もの「側室」を抱えるのが、「中国系仕手集団」の頭目>(※8)が報道しており、検索すると果てしなくこの手の情報が湧き出てくる。それでも大手メディアが大きく取り扱おうとしないのはなぜなのだろうか?この報道にもあるように経団連や国会議員などに親中派が多く、実は政府として中国との貿易にすがっているからかもしれない。「ウルフパック」は基本的に非合法性が高いものの、その「狼の群れの共謀性の程度」によって合法の範疇に入れられる場合もあり、グレーゾーンということができる。それも取り扱いを困難にさせている側面の一つとして考えられる。さらにやっかいなのは、日本の国家インフラを狙ったエリオットなどは、「物言う株主」として、実は合法的手段で株式購入活動を行なっているのだ。だから現在の法体制の下では、日本国を守ることはできない。◆中国は早くから米国の「ハゲタカ・ファンド」に警戒では、中国はどうだろうか?中国自身は自国インフラや自国企業を守るために米国の「ハゲタカ・ファンド」に早くから激しい警戒心を見せてきた。たとえば「ハゲタカ・ファンド」エリオットなどを「経済テロ」と称して警鐘を鳴らしている。2022年9月29日、中国政府の「新華社」電子版「新華網」は<「経済テロリスト」 - 米国の「ハゲタカ・ファンド」を暴く>(※9)という見出しで、エリオットが南米のアルゼンチンやアフリカの32カ国を「ハゲタカ・ファンド」に巻き込んで「喰い物にしている」状況を解説している。記事では、米国の金融覇権を維持するための手段の一つが、悪名高い「ハゲタカ・ファンド」だと位置付けている。「ハゲタカ・ファンド」に目を付けられたが最後、骨の髄まで喰い尽くされるとしている。記事は米国のエリオットの子会社であるNMLキャピタルの血に飢えた金融攻撃の様子を「経済テロ」と位置づけ、米国の新自由主義が生んだ残虐性を説明しているが、いや、待てよと思う。◆改革開放はフリードマン理論の下で遂行 ウォール街とつながる中南海そもそも中国は改革開放を推進するにあたり、冒頭に書いたようにグローバリゼーションを唱え資本市場改革を促した新自由主義経済学者であるミルトン・フリードマンの論理を基礎にしてきた。フリードマンはシカゴ大学の教授であったため、新自由主義を唱える経済学者を「シカゴ派」とか「シカゴ・ボーイズ」と称する。彼らは政府による介入を否定し、自由な市場経済を主張した。その主張が資本市場改革の流れを生み、最終的にはこんにちの「物言う株主」制度へと発展していったと位置付けることもできる。このフリードマンを中国に招聘すべきだと提案したのは、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の世界経済研究所の研究員だ。この提案が中国政府に採用され、1980年にフリードマンは訪中して中南海のリーダーたちと会っている。その後も1988年、1993年と、計3回も訪中し、中国のトップリーダーたちに会い、中国における市場経済発展に関する論議をくり返している(※10)のだ。したがって中国はフリードマンの唱えるグローバリゼーションを基礎に置き、2001年にWTO(世界貿易機関)に正式加盟した。2000年には米中国交正常化を促したヘンリー・キッシンジャー元国務長官の勧めで清華大学経済管理学院に顧問委員会を設置した(※11)。ウォール街の金融大手などのトップを顧問委員会の委員にさせたのはキッシンジャーで、当時は中国入りのためにはコンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエイツ」を通さなければならなかった。現在の顧問委員会のトップに君臨しているのはもちろん習近平国家主席(清華大学卒)だが、顧問委員会委員(※12)には、今もウォール街関連の錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。スティーブン・シュワルツマンは習近平が国家主席になった2013年に蘇世民書院(シュワルツマン・カレッジ)(※13)の発足式を挙行した。蘇世民はシュワルツマンの中国語名だ。2016年9月から金融を中心としたグローバル・リーダーを養成し、世界に羽ばたかせている。その意味で、中南海はウォール街と緊密に直結しており、フリードマン理論が生きている。だから習近平は絶対にグローバリゼーションを変えないのだが、それでいながら社会主義体制を軸にしているので、国家インフラなどは国有企業で固めていて絶対に海外資本の浸食を許さない。民間企業でも証券法で外資投入をかなり厳しく規制している(※14)のは、外資によって中国企業が破壊されるのを防ぐためであって、決して閉鎖的であるためではない。中国は外資に対する「企業防衛」が非常に堅固だ。これは中国の強みだと言えよう。「帰化中国人投資家が日本を乗っ取る?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※15)より転載しました。東証 株価ボード(写真:イメージマート)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※3)https://www.kushim.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/ir_20241125-3.pdf(※4)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-20/SN7ZXST1UM0W00(※5)https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08181040/?all=1(※6)https://gendai.media/articles/-/135977?imp=0(※7)https://access-journal.jp/71386(※8)https://ameblo.jp/s2021751/entry-12796316351.html(※9)http://www.news.cn/world/2022-09/29/c_1129042829.htm(※10)https://finance.sina.cn/sa/2006-11-19/detail-ikftpnny2058670.d.html(※11)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/xygk/gwwyh/gwwyhjs.htm(※12)https://www.sem.tsinghua.edu.cn/guwenweiyuanhuimingdan20241113.pdf(※13)https://www.sc.tsinghua.edu.cn/gywm.htm(※14)https://www.chinanews.com.cn/cj/2023/12-29/10137839.shtml(※15)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c39e87aee47e00c6b10bef040ee0ca0c0cc4694b
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2024/11/27 16:16
GRICI
トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】
*16:56JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。◆イーロン・マスク:(バイデン政権における)対中関税反対を表明イーロン・マスクは今年5月23日にパリで開催された大手テクノロジー企業の経営者などが集まる毎年恒例のビバテック会議に登壇し、「現在、中国のEVに対する米国の関税に反対する」(※2)と表明した。バイデン政権が、トランプ前大統領が導入した多くの関税を維持しながら、中国のEVに対する関税を4倍の100%以上に引き上げることに関して、イーロン・マスクは「市場を歪めるような措置は好ましくない」と述べている。イーロン・マスクはもともと民主党を支持する傾向にあったが、2021年8月5日にバイデンが呼び掛けたEVサミットにイーロン・マスクだけが招待されなかったことがあった(※3)。バイデンはホワイトハウスにゼネラルモーターズ、フォード、(フィアット・クライスラーとフランスのPSAが合併して設立された)ステランティスのCEOたちを招待しながら、世界最大のEVメーカーであるテスラのCEOイーロン・マスクを招待しなかったのだ。イーロン・マスクは当日Xに「いやー、テスラが招待されなかったのは奇妙じゃないかな」と投稿し(※4)、不満を漏らした。以来、バイデンから心が離れていき、2024年7月14日に起きたトランプ銃撃事件により、一気に強烈なトランプ支持に変わっていったようだ。翌日の7月15日にコラム<中国ネット民 トランプの「突き上げた拳」を熱狂絶賛――「これぞ強いリーダー!」>(※5)を書いたが、なんだか筆者には、中国のネット民とイーロン・マスクには一脈通じるものがあるように感ぜられる。◆イーロン・マスク:戦争屋ネオコンに反対と投稿トランプが勝利宣言をすると、イーロン・マスクは11月6日にXで<ネオコンの戦争屋に力を与えるべきではないことに賛同する>(※6)と投稿した。ご存じのようにネオコン(Neoconservatism、新保守主義者)は自由主義や民主主義を重視して「民主」を輸出し、世界各地の親米的でない政権を転覆させて武力介入も辞さない政治思想集団だ。いうまでもなくNED(全米民主主義基金)は、このネオコンのもと世界各地で暗躍し、「民主」を輸出して戦争を仕掛ける組織である。トランプが米国の利益を最重要視するのに対して、ネオコンはグローバリゼーションを広げて世界における米一極支配を目指す。トランプがNEDを嫌うことは11月5日のコラム<トランプは実は習近平やプーチンが好きで、民主の輸出機関NEDが嫌い>(※7)で書いた。ネオコンはトランプ1.0政権ではジョン・ボルトン(大統領補佐官)などが一部入り込んでいたため、たとえばトランプが金正恩と会談して朝鮮半島における第二次世界大戦以降の紛争を解決しようとしたことを阻止してしまった。トランプはどれだけこの事を後悔しているかしれないと推測する。トランプは朝鮮半島問題を解決して、ノーベル平和賞をもらいたかったのだ。2016年5月に、ベトナム戦争終結に寄与したとしてノーベル平和賞を受賞したキッシンジャー元国務長官から外交に関する手ほどきを受けた時から、トランプはノーベル平和賞受賞を目指していた。そのトランプが嫌う「戦争屋ネオコン(→NEDの暗躍)」をイーロン・マスクも嫌っていることを知ったのは、筆者にとっても大きい。◆トランプ2.0は、習近平にとっては悪くない以上さまざまな側面から、イーロン・マスクはトランプ2.0の対中高関税に対する緩衝材になるだけでなく、何よりもNEDの暗躍を一定程度は抑え込むだろうということによって、習近平にとっては非常に悪くない政権になるのではないかと思うのである。中国は米国から高関税などの制裁を受けることに関しては、少しも恐れていない。むしろ、その制裁があったからこそ自力更生を加速強化させてくれたし、結果ハイテク国家戦略「中国製造2025」は、その目標年である来年2025年までにほぼ完遂する。最先端の半導体製造装置に関しては未達成だが、他の新産業のほとんどの分野において中国は今や世界一になっている。また、仮に高関税をかけられても、中国はBRICS+という非米側陣営を拡大することによって経済的な結びつきを強化し、米一極支配から抜け出そうとしている。そのことは10月30日のコラム<中露を軸とした「BRICS+」の狙い G7を超えて「米一極支配からの脱出」を図る>(※8)で書いたとおりだ。実際にどうなるか、未知数はあるものの、少なくともトランプ2.0は習近平にとって決して悪いものではないと考えていいだろう。この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)(※1)https://grici.or.jp/(※2)https://www.reuters.com/business/autos-transportation/elon-musk-im-against-tax-incentives-evs-2024-05-23/(※3)https://edition.cnn.com/2021/08/05/business/tesla-snub-white-house-event/index.html(※4)https://x.com/elonmusk/status/1423156475799683075(※5)https://grici.or.jp/5451(※6)https://x.com/elonmusk/status/1853944431512314093(※7)https://grici.or.jp/5746(※8)https://grici.or.jp/5725(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b
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2024/11/11 16:56
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