注目トピックス 経済総合ニュース一覧

注目トピックス 経済総合 ブロックチェーン国内企業(2) 本稿は、「ブロックチェーン国内企業(1)」の続編であり、今後飛躍が期待される日本国内のブロックチェーン企業のうち資金調達額の多い企業について紹介している。■フィナンシェ個人の夢やスキルを財産にして取引することが出来るソーシャルネットワーク「FiNANCiE」の運営を行う。「FiNANCiE」は、その人のスキルや夢を支援するソーシャルネットワーク。オーナーとして認定された個人が発行するトークンを購入して、その個人に必要な資金を提供することが可能である。また、購入したカードはサービス内で取引することができ、その保有記録は全てブロックチェーン上に記載される。そのため、保有する証明は常に公開され、不正に改ざんされないようになっている。日本では円のみの売買であるが、今後展開するグローバル版では同サービス上のトークンを外部仮想通貨取引所で取引をすることも出来るようになるという。売り出しの仕組みは、一部のユーザーによる買い占めを避けられるように設計されており、ユーザーが継続的な支援を行えるようになっている。2020年4月に、プロサッカー選手の長友佑都氏、メルカリ共同創業者の石塚亮氏、アル創業者の古川健介氏(けんすう氏)及びD4V、他既存投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額2億4,000万円の資金調達を実施した。2021年8月には、NFT企画において、西野亮廣氏の新作絵本「みにくいマルコ」のNFTが、オークションにて合計約14.2ETH(約400万円)で落札されるなど、注目度も高まっている。資金調達額: 632百万円設立年数 : 2019年1月23日HP    : https://www.corp.financie.jp/■Scalar独自の分散型台帳ソフトウェア「Scalar DLT」を提供する。「Scalar DLT」は、分散データベースソフトウェアである「Scalar DB」と分散型台帳ソフトウェアである「Scalar DL」から構成され、電子署名が付与されたスマートコントラクトを分散トランザクションの形式で実行し、その実行結果を複数の独立したコンポーネントで連鎖的に管理することにより、高い耐改ざん性を有しつつ、従来のブロックチェーンにでは実現が困難であった高いスケーラビリティ、強い一貫性、確定性を実現する。2018年10月に、高い改ざん耐性とスケーラビリティを有するデータベースソフトウェアであるScalar DLTを活用して、個人情報を管理する情報銀行向けソリューションの開発に着手した。また、AI・IoT・ブロックチェーンといったテクノロジを用いた革新的なプロダクト/ソリューションを持つスタートアップ企業を対象に、日本マイクロソフト社が主催するピッチコンテスト「Microsoft Innovation lab Award 2019」において、優秀賞を受賞した。資金調達額: 647百万円設立年数 : 2017年12月19日HP    :https://scalar-labs.com/■chaintopeブロックチェーン開発プラットフォーム「Tapyrus」やブロックチェーンを利用したトレーサビリティアプリケーション「Paradium」などを提供する。「Tapyrus」は、誰でもネットワークに参加できると同時に、より効率的かつ迅速に社会実装を進められるようなガバナンス設計がなされたパブリック・ブロックチェーンである。複数企業により利用される単一のブロックチェーンとして、商用化が期待されている。「Paradium」は、トレーサビリティーシステムを構築することでサプライチェーンを可視化するサービスである。製品の真贋性の担保や偽造商品の防止、在庫量の最適化などの課題を解決している。2021年1月には、行政データのデジタル化を実現するための基盤となる「トラストシステム(認証局)」の構築及び運用体制の構築を飯塚市(福岡県)にて社会実験を行った。また、8月には佐賀市がブロックチェーン技術を活用したリアルタイムでの環境価値の電子証書化に自治体で初めて成功した。資金調達額: 380百万円設立年数 : 2016年12月27日HP    : https://www.chaintope.com/team/#info■double jump.tokyoブロックチェーンゲーム専業開発を手掛け、ブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes」などの提供を行う。「My Crypto Heroes」はイーサリアムベースで作られたワーカープレイスメント型RPGである。歴史上のヒーローを集め、進めていくことによってチームを強化でき、サービス内には“GUM”と呼ばれる通貨でアイテム獲得や、ヒーローの強化ができる。これらはサービスのログインや、バトルでの勝利で得られるだけでなく、イーサリアムでの購入も可能である。2018年11月30日の正式サービス開始直後より、イーサリアムベースのブロックチェーンゲームとして、取引高・取引量・DAUで世界1位を記録した。他にも、NFTのプロデュースと発行販売サポート事業を手がけている。2021年4月には、NFTを核にエンターテイメントのDXを推進する、NFT事業支援サービス「NFTPLUS」の発表や、ゲーム大手セガサミーホールディングスとブロックチェーンの技術を活用したNFTデジタルコンテンツのグローバルでの展開について、資本業務提携を実施した。将来的には、ユーザーが所有するNFTコンテンツを有効活用できる方法なども模索していく方針だという。資金調達額: 296百万円設立年数 : 2018年4月3日HP    : https://www.doublejump.tokyo/■Nayutaビットコインの処理能力向上を目指す2ndレイヤーソリューション「Lightning Network」の研究開発を行う。「Lightning Network」はビットコインの決済処理能力向上の手段として期待されている。同社は早い時期から同技術の研究開発を開始し、世界的に競争力のある企業である。2019年4月に、Lightning Networkソフトウェア「Ptarmigan」のメインネット版 (Reckless version)をリリースした。2021年2月には、「Nayuta Core」のアルファ版をGoogle Playで正式にリリースした。Nayuta Coreとは、Lightning Network上でノンカストディアルなリアルタイムのストリーミング決済を可能にするモバイル型Lightning Networkノードサービスである。ユーザーにLightning決済のチップを与える人気ビットコインゲーム「SaruTobi」でのアルファテストでは、すでにNayuta Core経由で1日に8,500件以上のLightningトランザクションが処理されており、Lightning Networkの効率性と実用性が証明されている。まだオープンアルファの段階にあるが、近い将来、より多くのアップデートと改善を展開していく予定である。資金調達額: 280百万円設立年数 : 2015年3月13日HP    : http://nayuta.co/■Ginco仮想通貨領域における事業を展開し、仮想通貨ウォレットアプリ「Ginco」を運営する。不正出金の被害を抑える解決策として注目されているのが、ウォレットである。ハッカーは流通額が多い取引所を狙う事が多いとされているが、ウォレットを持ち、個人が管理する事でハッキングされるリスクをある程度下げる事ができる。その中でも同社はクライアント型ウォレットという形のものを採用しており、資産の認証コードである秘密鍵をサーバー内で集中的に管理を行わないために、ハッキングされるリスクをさらに下げる事ができる。会社設立からわずか1ヶ月、ティザーサイトが立ち上がってからまだ数日という状況で事前登録者が1000人を超えており、急拡大する仮想通貨市場においてニーズが高い事を示している。2019年2月には、日本マイクロソフトと連携し、ブロックチェーンサービス事業者向けにクラウド型ブロックチェーン環境「Ginco Nodes」を開発していくと発表した。2020年4月にはプレシリーズAラウンドでDBJキャピタルから資金調達を実施した。この出資により、同社の強みであるセキュリティ・暗号技術などのテクノロジーと業務適用性の高いプロダクトデザインを活かして、ブロックチェーンの社会実装を進展させることが期待される。資金調達額: 170百万円設立年数 : 2017年12月21日HP    : https://ginco.co.jp/company/■スマートアプリNFTマーケットプレイス「nanakusa」を運営する。「nanakusa」は、公認されたコンテンツホルダーやNFT販売事業者、個人活動するクリプトアーティストが制作したNFTの販売(一次販売)及び、利用者同士が保持しているNFTを売買(二次販売)できるNFT売買プラットフォームサービスである。また、同サービスで実績のあるNFT発行、出品、購入や管理機能など全ての機能を提供し、コンサルティングとして戦略立案からリリース後の運用まで一貫してサポートする「NFT Consulting」も提供している。その他、スマートフォン向けDAppsブラウジング機能を備えた仮想通貨ウォレットアプリ「GO!WALLET」や、ブロックチェーン事業者向けプラットフォームサービス「GO BASE」などを運営している。2021年5月には、i-nest capitalを引受先とした第三者割当増資の実施を発表した。i-nest capitalのネットワークや支援実績を活かし、事業者向けNFTマーケットプレイス事業も加速させる予定である。資金調達額: 124百万円設立年数 : 2015年5月1日HP    : https://smartapp.co.jp/#company <RS> 2021/09/03 16:07 注目トピックス 経済総合 ブロックチェーン国内企業(1) 暗号資産(仮想通貨)に対する企業、消費者からの需要が増加していることを受けて、ブロックチェーン企業への投資が拡大している。2021年1~6月期の暗号資産・ブロックチェーンへの投資額は過去最高を更新し、世界的に暗号資産取引への関心が高まっている。ブロックチェーン企業による資金調達額は年々増加しており、既存の金融機関もこの分野に資金を投じている。矢野経済研究所の調査によると、2022年度の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は1,235億円に達すると予測されている。そこで、今後飛躍が期待される日本国内のブロックチェーン企業のうち資金調達額の多い企業について紹介したい。■ビットキーブロックチェーン技術を基盤としたスマートロックサービス「bitlockシリーズ」を提供している。ブロックチェーン技術から着想を得て「bitkey platform」という独自の自律分散型システムを開発した。この技術を活用したスマートロック「bitlock」は、鍵をデジタル上で安全にシェアすることを可能にしており、配送業界をはじめとする多くの業界・企業と連携した「トビラエコノミー」の創出を目指している。2019年4月には月額500円から利用できるスマートロック「bitlock LITE」、2019年7月には集団玄関のオートロックドア向けスマートロック「bitlock GATE」の発売を開始した。2020年10月には働く空間において、人と仕事の間のあらゆるものをつなげ、働き方に即した体験を提供することができるコネクトプラットフォーム「workhub」の提供を開始している。2021年6月には、32億円超の第三者割当増資を実施し、累計資金調達は、約90億円を突破した。今回の資金調達の中には、プライムライフテクノロジーズ、パナソニックのハウジングシステム事業部、東京建物、日鉄興和不動産、オカムラとの資本業務提携も含まれている。今後、出資企業や資本業務提携先企業との事業共創により、「homehub」「workhub」の価値をより一層高め、より力強く事業を推進していく方針である。資金調達額: 9,753百万円設立年数 : 2018年5月16日HP    : https://bitkey.co.jp/about/■LayerXクラウド型経理DX支援システム「LayerX インボイス」の運営や、ブロックチェーン関連事業、金融機関向けコンサルティングを手掛ける。「LayerX インボイス」は請求書の受け取りから経理の会計処理・支払処理までを一気通貫で自動化することができるサービスである。クラウドで完結するので、テレワークでも請求書処理を進めることが可能である。2021年8月には、オービックビジネスコンサルタントが提供する、財務会計システム「勘定奉行クラウド」とのAPI連携を開始した。同社はその他AI、ブロックチェーン技術を用いた様々なサービス、プロジェクトを展開し、経済活動のDX化を推進している。「Layer X」は、ブロックチェーンのプロトコルレイヤーの研究開発や金融機関向けコンサルティング、システム開発・企画・運用などでいくつかの実績を残している。2020年5月に、ジャフコ、ANRI、YJキャピタルを引受先とする約30億円の資金調達を実施した。2020年12月には、日本ブロックチェーン協会主催のBlockchain Awardにて2020年のブロックチェーン関連で一番注目を浴びた企業として「Blockchain Company of the Year」を受賞した。資金調達額: 3,009百万円設立年数 : 2018年8月1日HP    : https://layerx.co.jp/#company■エクシア・デジタル・アセット(旧LastRoots)日本発の暗号資産「c0ban(コバン)」と「c0ban」を取引できる日本で唯一暗号資産取引所「c0ban取引所」などのサービスを展開する。「c0ban取引所」は、2019年11月に暗号資産交換業の登録事業者となり、利用者保護を第一に、内部統制・業務運営体制の強化を図ることで、ユーザーにとって快適かつ安心な取引環境の提供を行う。その他「c0ban」と動画広告を組み合わせたサービス「こばんちゃんねる」を提供している。同サービスは動画を完全視聴するだけでコバンがもらえる。ユーザーは広告主が設定した予算のコバンを獲得でき、一方で広告主側はユーザーが完全視聴した場合に限り、「c0ban」の配布という形で広告費が発生する仕組みである。2020年10月、これまで親会社だったオウケイウェイヴからエクシアに株式譲渡を行い、同時に5億円の第三者割当増資を実行した。金融領域で急成長を遂げているエクシアとのパートナーシップにより、更なる「c0ban」ホルダーの増大、取引量の拡大、流通価値の上昇を図りながら、暗号資産交換業者としての発展を目指していく方針である。資金調達額: 2,159百万円設立年数 : 2016年6月2日親会社  : エクシアHP    : https://www.exia-da.jp/■StartBahnオンライン上でアートを流通させるサービス「Startbahn」を運営する。「Startbahn」はアート作品の登録・売買機能を提供すると同時に、ブロックチェーンの技術を用いて改ざんや紛失することなく、作品証明書発行・来歴証明が可能なサービスである。作成した作品証明書・来歴の記録は同サービス以外の場でも権利移転ができる。従来の、自身の作品が今誰の手に渡っているのか分からないといった作者の問題を解決し、永遠に作品の価値が残り続ける世界を実現している。エンタープライズ向け領域では、「SBIアートオークション」やウェブメディア美術手帖の出版企業「BTCompany」などに対しサービス提供を行なった実績を持つ。2021年5月には、みやこキャピタル、東京大学エッジキャピタルパートナーズおよび複数の投資家を引受先とした第三者割当増資、および新株予約権付社債の発行によって、11億2,000万円を調達した。この調達により、アート作品の信頼性を守るためのブロックチェーン証明書「Cert.」の仕組み強化と国際的な普及を推進していく予定である。世界的に見ても、アート×ブロックチェーン領域に取り組むスタートアップは珍しく、またアートは真贋証明や流通の透明性の部分でブロックチェーンの応用が期待される分野でもあるため、今後の同社の成長に大きな期待が集まる。資金調達額: 1,350百万円設立年数 : 2014年3月26日HP    : https://startbahn.jp/■Stake Technologies日本初パブリックブロックチェーン「Plasm Network」などの開発を行う。「Plasm Network」はパブリックブロックチェーンの直面している大きな課題である相互運用性(インターオペラビリティ)とスケーラビリティ(処理性能)の解決を目指す日本初のパブリックブロックチェーンである。2021年6月に、Fenbushi Capital、Hypersphere Ventures、エンジェル投資家、Web3財団の助成金により総額約11億円の資⾦調達を実施した。調達した資⾦はプロダクト開発や国際的な人材採⽤、パブリックブロックチェーンエコシステムの拡⼤に充てる方針である。2021年7月には、異なるブロックチェーンを接続し相互運用性を提供する「Polkadot」の実験的ネットワークとして利用されるKusama Networkにて世界で3番目に接続に成功した。資金調達額: 1,596百万円設立年数 : 2019年1月HP    : https://stake.co.jp/company#company■テコテック自動でトレード記録・分析ができるアプリ「カビュウ」をはじめとして、ブロックチェーン事業や決済認証システム事業を手がける。「カビュウ」は、ユーザーが利用中の証券口座のログインIDを登録しておくだけで毎日自動で株式の売買履歴や資産推移を可視化できるアプリケーションである。取引結果の記録だけでなく、豊富な分析機能や複数の証券口座に対応できるという特徴を持っており、個人投資家にとって使いやすいUIUXを提供している。2021年7月には、同サービスに適時開示情報の提供を開始した。これによって、株価の変動に大きく影響を及ぼす可能性がある“決算短信”、“業績予想の修正”、“配当予想の修正”などの適時開示情報をアプリですぐに確認することが可能になった。また、2021年4月より、ブロックチェーンゲーム開発を支援するNFT特化型SaaS「Spize」を提供している。8月からは、バージョンアップによりゲームとの連携のみならずECサイトやオークションサイトとも連携可能となり、NFTをプライマリー販売できるだけでなくNFTのセカンダリーマーケットを展開できるようになった。資金調達額: 1,290百万円設立年数 : 2007年12月28日HP    : https://www.tecotec.co.jp/■Orb独自のブロックチェーン技術「Orb DLT(オーブディーエルティー)」を活用した決済ソリューション技術を手掛ける。「Orb DLT」は、独自の分散台帳技術をベースに、様々な性格の独自通貨を複数発行し、ユーザー間の送金や実店舗等での決済などに利用可能なプラットフォームである。通貨にはボーナスポイント付与や減価、タイムセール、他コインへの変換等の様々な動きを持たせることが出来るため、様々なコミュニティ・地域などでニーズに合わせた通貨設計が可能である。2018年には、UCカードと連携して、お台場で利用可能な地域通貨「 UC台場コイン」、SBIホールディングスと連携して、六本木で利用可能な「Sコイン」の実証実験を実施した。2021年より親会社トラストバンクのデジタル地域通貨プラットフォームサービス「chiica(チーカ)」の決済基盤にも、同社が提供する「Orb DLT」を活用してサービス提供が開始された。今後も多くのコミュニティ通貨・地域通貨・ポイント・社内通貨決済等にて利用されていくことを目指すという。資金調達額: 857百万円設立年数 : 2014年2月18日親会社  : トラストバンクHP    : https://imagine-orb.com/「ブロックチェーン国内企業(2)」へ続く <RS> 2021/09/03 16:06 注目トピックス 経済総合 連載コラム:日本のペイパル・マフィア第1回 絶望から希望に転じた「日本の未来」【実業之日本フォーラム】 今から20年ほど前、私は投資家として、日本に絶望的な気持ちを抱いていました。その頃の私は外資系運用会社で働いていたため海外出張が多く、ベンチャーブームに沸くアメリカの様子を目の当たりにしていました。2000年前後は、インターネットの普及とともにGoogleやNetflix、Facebookといった企業が誕生し、AppleやMicrosoftなどIT業界の老舗企業が再生していった時代です。当時のアメリカでは、ハーバード大学やスタンフォード大学、コロンビア大学などを卒業した優秀な学生たちのトップ層が自分で起業したりベンチャー企業に入ったりするようになっており、その次の層がコンサルティング会社や投資銀行に行き、次の層が中堅企業に行き、大企業を選ぶのはさらに下の層という状況になっていました。私が興味深く見ていたのは、成功した起業家たちが後に続く起業家を支援し、多様な新興企業が続々と誕生していく姿です。中でも、1998年にピーター・ティール、イーロン・マスク、マックス・レブチン、ルーク・ノセック、ケン・ハワリーらによって創設されたPayPalは、その後、ベンチャー業界を大きく盛り上げる存在となりました。2002年のeBayによる買収をきっかけにPayPalを離れた人材は、YouTubeやLinkedIn、Yelpなどの新たなビジネスを次々に生み出していっただけでなく、ベンチャーキャピタリストとなってPayPal出身者などの起業を支援していく役割も担ったのです。PayPal設立初期の社員たちは、その結束力もあってか、後に「ペイパル・マフィア」と呼ばれるようになりました。一方、20年前の日本では、最優秀層は官庁か大企業に就職するのが当たり前という状況でした。起業家は「うさんくさい人」で、まともな大人が選ぶ道ではないという考えが主流だったといえます。急激に変化を遂げるアメリカの状況と比較すると、変化の兆しが見えない日本では、明るい未来を思い描くことはできませんでした。実際、その後の20年間の日米の違いは時価総額上位銘柄の顔ぶれに現れています。2000年12月末時点と2020年12月末時点でTOPIX時価総額上位ランキングを見ると、いずれも通信会社、自動車メーカー、電機メーカー、メガバンクなど、いわゆる「一流大手企業」がずらりと並んでいます。一方アメリカでは、2000年の上位5社が2020年にはすべて入れ替わり、Apple、Microsoft、Amazon.com、Alphabet(Googleの持株会社)、Facebookが並んだのです。2000年当時に私が持っていた日本に対する非常に暗い見通しは、残念ながら的中してしまったといえます。しかし今、私は日本の未来について明るい見通しを持っています。それは、2000年ごろにアメリカで起きた変化と似たような動きが日本でも見られはじめているからです。近年は日本でも、ベンチャー企業が上場し、起業家が社会的にも経済的にも成功するケースを目にすることが増えています。また超優秀層の中で、大企業や官庁には目もくれず起業にチャレンジする人も目立ってきました。心強いのは、いまの若手起業家の少し上の世代に、IT業界で起業して成功した人がたくさんいることです。その中には、成功によって得た資金をベンチャーに投資して育てようとしている人がたくさんいます。このような「日本版ペイパル・マフィア」ともいえる人たちが存在感を増す中、今の若い世代は、起業に関心を持ち意欲を持ってアプローチすれば、彼らと関係を築いて情報やお金を引き出すことが可能になっているのです。この連載では、私が「日本版ペイパル・マフィア」と位置づける人々について紹介していきます。彼らがいま何を考え、どんな活動をしているのかを垣間見ることで、日本の明るい未来を一緒に感じ取っていければと思っていいます。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役 会長兼社長 最高投資責任者(CIO)藤野 英人(ふじの・ひでと)国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者(CIO)。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授を務める。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス)。 <RS> 2021/09/03 15:00 注目トピックス 経済総合 茹でガエルの平和−緊張を増す日本周辺の安全保障環境−【実業之日本フォーラム】 カエルを熱湯の中に入れると、その熱さに驚いて飛び出るが、冷水に入れ徐々に温度を上げていくと、全く気付かずに茹で上がると言われている。「茹でガエル理論」と言われ、環境変化に対応することの難しさを表す例えとして、ビジネスシーン等でよく使われている。生物学的に正しいかどうかは別にして、変化に伴うリスクを嫌い、安易に旧来のやり方を踏襲することを戒める言葉として説得力を持つ例えである。日本では、1998年桑田耕太郎・田尾雅夫氏共著の『組織論』(有斐閣)において紹介されている。この言葉は、安全保障における現在の日本の状況にも当てはまる。防衛白書や外交青書において「日本周辺の安全保障環境は厳しさを増している」という言葉が使われるようになって久しいが、これを実感としてとらえる日本人は少ない。今年の8月中旬以降、日本周辺において日本を含む各国との海上における共同訓練が実施され、これに対抗する中国人民解放軍の行動も活発化している。英海軍空母クイーン・エリザベスとの共同訓練や、日米印豪の4か国が参加するマラバール等の共同訓練は報道及び公表されており、中国人民解放軍の活動についても、防衛省統合幕僚監部が公表している。しかしながら、これら一連の動きを、日本の安全保障上の脅威が増加していると危機感を伝える報道はあまり目にしない。尖閣諸島周辺において中国の公船が常時行動し、尖閣諸島領海内で漁をする日本漁船の妨害を行っていることは知られているが、これについても、日本の危機であるとの声を上げる人間は多くない。日本人は、本来脅威と感じるべき安全保障上の状況を常態と感じ危機を感じなくなっているのではないであろうか。まさに「茹でガエルの平和」である。最近の中国人民解放軍の活動のうち、注目されるのは8月26日に東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過し、沖縄南方で活動した「TB−001偵察/攻撃型無人機」である。防衛省公表では「推定」とされているが、公表された写真を見る限り中国「Tengen Technology」社の双発機である「TB-001スコーピオン」に酷似しており、ほぼ間違いないと考えられる。軍事専門誌「JANES Defense News」によると、全長11m、翼長20m、3.2トンのペイロードを持ち、35時間の運用が可能な大型の無人機である。最高高度は9,500m、300km/h以上の速力で飛行する。防衛省が導入予定であるRQ-4グローバル・ホークが全長13.5m、翼長35.4mであるのと比較すると、形状は似ており、やや小型ではあるものの、3倍のペイロードを持つ。今回の写真では確認出来なかったが、爆弾やミサイルを搭載し、攻撃機としての任務を遂行することも可能である。今回防衛省が公表した航跡では、沖縄南方において「ボックス(四角)パターン」の飛行を行っており、これは情報収集を行うための典型的な行動様式である。当日沖縄南方において英空母クイーン・エリザベスを中心とした、日英米蘭共同訓練が実施されており、これらの情報収集を行ったものとみられる。今回の中国無人機の飛行は、従来から指摘されてきた日本の防空に大きな問題点を投げかけている。日本の安全保障を直接支える自衛隊であるが、いわゆる平時における権限は限定的である。自衛隊のあらゆる行動は、内閣総理大臣や防衛大臣の指示や、災害に関しては都道府県知事等の要請を待って初めて可能となる。しかしながら、唯一領空侵犯に関しては、自衛隊法第84条に固有任務として明確に位置づけられ、命令や要請は不要である。航空自衛隊は常時防空レーダーによる空域監視を行っており、領空に近接する可能性のある国籍不明機には、緊急発進により対応しているのは周知のとおりである。緊急発進した空自機は、対象の機種及び国籍を確認した上で、領空に近接するようであれば、無線で警告する。警告に従わずに、更に領空に近接するようであれば、警告射撃を実施、領空に侵入し、我が国に危害を及ぼす可能性が有ると判断されれば、これを撃墜することが国際法上容認されている。航空自衛隊は過去1回だけ警告射撃を行っている。1987年12月、沖縄南方を北東方向に飛行中であった旧ソ連爆撃機2機が北に進路を変え、領空に侵入、沖縄本島上空を通過した際に実施した。旧ソ連爆撃機はそのまま飛び去ったが、日本は外交ルートで強硬に抗議、旧ソ連は航法装置の故障とし、責任者の処罰を行ったと発表している。領空侵犯に対する一連の流れを無人機に当てはめた場合、どうなるであろうか。まず無線による警告であるが、これは無人機に対し行っても意味はない。無人機を運用している人間に警告するとしても、誰が運用しているか不明であり、その連絡先が分かるかという話になると非現実的である。次に領空に近接又は領空を侵犯した場合の警告射撃も意味をなさない。そして最も危惧されるのは、無人機の領空侵犯が意図的なものか、故障か、それともサイバー攻撃によって乗っ取られているのか区別がつかないということである。一方で、無人機であるため、撃墜に対する心理的抵抗感はないことも指摘できる。(2019年6月20日、イランは米軍の無人機をペルシャ湾上空において「領空侵犯」したとして撃墜している。)有人機による領空侵犯と全く異なった手順の策定が必要であろう。2013年に策定された日本の国家安全保障戦略において、日本周辺の安全保障環境を、「パワーバランスの変化に伴い、純然たる平時でも有事でもない事態、いわばグレーゾーンの事態が生じやすく、これが更に重大な事態に転じかねないリスクを有している」と評価している。現在の日本周辺の情勢は、米中対立の最前線となり、勢力拡大の著しい中国海軍に対し、アメリカ一国での対応が心もとなくなり、国際的な協調により、これを抑止している状態である。おりしも米軍のアフガニスタン撤退にみられるように、同盟の「見捨てられるリスク」が顕在化しつつある。防衛力を整備し、米国との共同を強化するのはもちろんのこと、我が国の安全保障環境が厳しい状況にあるという認識を、国民全体が共有する必要がある。現在の国際環境は、我々が「茹でガエルの平和」を享受できるほど安全ではない。サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。■実業之日本フォーラムの3大特色実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える3)「ほめる」メディア・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする <RS> 2021/09/03 14:51 注目トピックス 経済総合 (中国)上海総合指数は買い先行もマイナス圏転落、利益確定売りが優勢 3日の上海総合指数は買い先行。前日比0.16%高の3602.74ptで寄り付いた後は、日本時間午前10時38分現在、0.11%安の3593.24ptで推移している。上海総合指数がきのう2日まで5連騰しており、足元での高値警戒感から利益確定売りがやや優勢。また、きょう3日夜に米雇用統計の発表を控え、慎重ムードも強い。一方、景気対策への期待が高まっていることが指数をサポートしている。 <AN> 2021/09/03 10:44 注目トピックス 経済総合 日本製鉄に順張りのコール買いが目立つ(3日10:05時点のeワラント取引動向) 新規買いは原資産の株価上昇が目立つ日本製鉄<5401>コール251回 10月 2,450円を順張りで買う動きや、原資産の株価下落が目立つファーストリテイリング<9983>プット287回 10月 52,000円を順張りで買う動きなどが見られる。手仕舞い売りとしては日経平均 マイナス3倍トラッカー72回 9月 31,000円、日経平均 プラス5倍トラッカー76回 9月 26,000円、日経平均コール2129回 9月 22,500円、ビットコイン2021年10月 プラス5倍トラッカー3回 10月 39,500米ドルなどが見られる。上昇率上位はJFEホールディングス<5411>コール147回 9月 1,650円(+32.2%)、日本製鉄コール247回 9月 2,150円(+28.6%)、日立製作所<6501>コール256回 9月 6,600円(+28.6%)、日立建機<6305>コール80回 9月 3,400円(+23.3%)、信越化学工業<4063>コール188回 9月 19,000円(+21.3%)などとなっている。(eワラント証券) <FA> 2021/09/03 10:36 注目トピックス 経済総合 NYの視点:米国景気回復に弱気の見方が浮上、8月雇用統計次第で減速懸念強まる可能性も 新型コロナウイルスの変異株流行や長引くボトルネック問題で、米国経済の回復に弱気の見方が浮上し始めている。新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大や高インフレで、消費者マインドが悪化。現況の経済状況に短期的に楽観的な見通しが後退しつつある。最新の小売売上高や消費者信頼感指数も鈍化し、米国経済の7割を占める消費も減速傾向にあることが確認された。加えて、政府が実施しているパンデミック緊急策の一環である失業者臨時支援措置も9月6日に失効する。モルガンスタンレーは7−9月期の国内総生産(GDP)成長見通しを従来の6.5%から2.9%へ大幅に引き下げた。10−12月期は6.7%に据え置き。商務省と類似したモデルを使用しているため市場で注目されるアトランタ連銀の7−9月期GDP成長見通しも従来の5.3%から3.66%へ引き下げられた。他の金融機関も引き上げている。米国8月雇用統計が弱い結果となると、成長減速への懸念をさらに強める。ただ、成長が続く限り、連邦準備制度理事会(FRB)の年内の量的緩和(QE)縮小開始の軌道は変わらない可能性がある。 <FA> 2021/09/03 07:36 注目トピックス 経済総合 NY金は1850ドルブレイクを目指すか? サンワード貿易の陳氏(花田浩菜) 皆さん、こんにちは。フィスコリサーチレポーター花田浩菜の気になるレポートです。今回は、金についてのレポートを紹介します。陳さんはまず、『NY金は1850ドルブレイクを目指すか?』と述べています。27日に開催されたジャクソンホール会議について、『米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長の発言は「ハト派的」だった。パウエルFRB議長は講演で、新型コロナウイルス危機を受けて導入したテーパリングについて、景気回復が続けば「年内の開始が適切」との認識を改めて示したものの、具体的な時期には言及しなかった。早期の金融緩和縮小に対する過度の警戒感が後退し、NY金相場は上昇した。』と伝えています。続けて、『市場の次の関心は9月3日発表の8月米雇用統計。31日時点の予想では非農業部門就業者数が前月比80.0万人増(前回は94.3万人増)、失業率は5.2%(前回5.4%)。非農業部門就業者数が低下する見込み。失業率は改善が見込まれているものの、依然として5.0%を上回っていることから、テーパリン開始については慎重になるのではないか』と分析しています。陳さんは、『FRBがテーパリングに踏み出す意向はあるものの、まだ雇用データを必要としていることから、大規模な緩和縮小は今後数カ月間ないと見ていいだろう。そのため、金への見直し買いが入ると思われる』と考察しています。CFTC建玉では、ファンドの買い越しが増加しており、12週ぶりに21万枚を超えました。こうしたことから陳さんは、NY金について、『神経質な展開ながら戻り高値を目指す展開だろう。目先の上値抵抗線である1830ドルをブレイクすれば、1850~1900ドルのレンジに水準を切り上げる可能性が高まろう』と予想しています。参考にしてみてくださいね。上記の詳細コメントは、ブログ「テクニカルマイスター」の9月1日付「NY金は1850ドルブレイクを目指すか?」にまとめられていますので、ご興味があればご覧ください。フィスコリサーチレポーター 花田浩菜 <FA> 2021/09/02 17:40 注目トピックス 経済総合 (中国)上海総合指数は売り先行もプラス圏回復、景気対策への期待が高まる 2日の上海総合指数は売り先行。前日比0.20%安の3559.90ptで寄り付いた後は、日本時間午前10時47分現在、0.30%高の3577.63ptで推移している。景気対策への期待が高まっていることが支援材料。市場関係者の間では、中国人民銀行(中央銀行)は9月にも預金準備率の追加引き下げや利下げに踏み切るとの声が浮上している。一方、足元での景況感悪化などが指数の上値を抑えている。 <AN> 2021/09/02 10:53 注目トピックス 経済総合 NYの視点:パンデミックの影響長引き不透明、予想通りならFRB年内の緩和縮小へ 米国の労働省はワシントンで3日に最新8月雇用統計を発表する。エコノミストの平均予想によると、失業率は5.2%と7月の5.4%からさらなる低下する見込み。非農業部門雇用者数は72.5万人増と、7月の94.3万人増から伸びが縮小しペースは鈍化も順調な回復が続く見通し。先行指標の中で労働省が発表する雇用統計と最も相関関係が強いとされる民間の雇用者数を示すADP雇用統計の8月分は前月比+37.4万人と、7月+32.6万人から伸びが拡大も、予想のほぼ半分にとどまった。7月も同様に60万人超の増加が予想されていた中、32.6万人にとどまったが、雇用統計では、6月に続き90万人超の雇用の増加となった。パンデミックの影響で連邦・地方職員、教員などの季節的な調整が複雑になっていることが影響している可能性もある。このため、雇用は鈍化傾向にあるとはいえ8月の雇用統計でも、6月、7月同様100万人近くの雇用の増加というポジティブサプライズも不可能ではない。週次の失業保険申請件数も減少傾向にあり、40万を下回る水準を維持している。一方で、全米の製造業動向を示す、ISM製造業の雇用は49と、再び活動の拡大と縮小の境目となる50を割り込んだ。昨年11月来で最低。各地区製造業の雇用も軒並み鈍化している。製造業は半導体不足が長引き、生産ができずに工場の操業停止をやむなくされる企業も少なくない。ゴールドマンサックスは新型コロナウイルスデルタ株流行による労働市場への影響が予想以上で非農業部門雇用者数の予想を従来の60万増から50万増に引き下げた。平均予想を下回り50万人増程度となった場合でも、連邦準備制度理事会(FRB)は年内に量的緩和(QE)の縮小を開始する可能性は残る。資産購入の縮小を開始したとしても、金融政策は依然緩和的。金融引き締めの開始は当面先になる。■8月雇用統計の先行指標・米・8月ADP雇用統計:+37.4万人(予想:+62.5万人、7月:+32.6万人←+33.0万人)・ISM製造業景況指数雇用:49(7月52.9)・NY連銀製造業景況指数:雇用(現状):+12.8(7月+20.6、6カ月平均+13.8)週平均就業時間:+8.9(+14.0、6カ月平均+13.4)6か月先雇用:+38.5(43.9、6カ月平均38.8)週平均就業時間:+2.7(3.0、6カ月平均+10.8)・フィラデルフィア連銀製造業景況指数雇用(現状):32.6(29.2、6カ月平均28.3)週平均就業時間:24.5(18.4、27.5)6か月先雇用:42.7(56.6、6か月平均51.3)週平均就業時間:20.8(27.0、6か月平均21.0)・消費者信頼感指数(%)●雇用雇用現況十分:54.6(55.2、21.4)不十分:33.6(33.7、55.0)困難:11.8(11.1、23.6)6カ月後雇用増加:23.0(25.5、29.9)減少:18.6(17.8、21.2)不変:58.4(56.7、48.9)・失業保険申請件数件数 前週比 4週平均 継続受給者数08/21/21|   353,000|     4,000|  366,500|   n/a  |n/a08/14/21|   349,000|   -28,000|  378,000| 2,862,000| 2.1%08/07/21|   377,000|   -10,000|  396,750| 2,865,000| 2.1%07/31/21|   387,000|   -12,000|  394,500| 2,899,000| 2.1%07/24/21|   399,000|   -25,000|  394,250| 2,980,000| 2.2%07/17/21|   424,000|    56,000|  386,500| 3,296,000| 2.4%07/10/21|   368,000|   -18,000|  384,500| 3,262,000| 2.4%07/03/21|   386,000|    18,000|  397,000| 3,265,000| 2.4%■市場エコノミスト予想失業率:5.2%(7月5.4%)非農業部門雇用者数:前月比+72.5万人(+94.3万人)民間部門雇用者数:前月比+70.9万人(+66,2万人)平均時給:予想:前月比+0.3%、前年比+3.9%(+0.3%、+3.6%) <FA> 2021/09/02 07:43 注目トピックス 経済総合 トルコリラ円は、底堅く推移しているものの、注意が必要だろう サンワード貿易の陳氏(花田浩菜) 皆さん、こんにちは。フィスコリサーチレポーター花田浩菜の気になるレポートです。今回は、トルコリラ円についてのレポートを紹介します。陳さんはまず、今週のトルコリラ円について『底堅く推移しているものの、3日に発表されるインフレ指標次第では反落する可能性もあり、注意が必要だろう』と述べています。混乱するアフガニスタン情勢については、『北大西洋条約機構(NATO)の一員でイスラム国であるトルコのプレゼンスが高まっており、トルコリラが堅調に推移してきたが、この地合いが継続されるかどうかのポイントの週となろう。アフガニスタンの首都カブールの国際空港の運営をめぐり、権力を掌握したイスラム主義勢力タリバンが、トルコに協力を要請した。空港の稼働は外交関係者や外国人の退避だけでなく支援物資の搬入にも不可欠なため、協議の行方に注目が集まっている』と伝えています。トルコの7月消費者物価指数(CPI)については、『前年同月比18.95%の上昇となり、前月比では1.80%上昇した。トルコ中銀は、政策金利を19.0%に据え置いており、実質金利=名目金利−物価上昇率=19.0−18.95=0.05%とほぼゼロ金利となっている』と解説しています。次に、『3日発表の8月消費者物価指数は前年比+18.73%が予想されており、前回よりは若干低下する見込みだが、予想に反して19.0%を上回った場合、実質金利はマイナスに落ち込むため、リラ売りが再燃する可能性がある』と言及しています。また、『山火事の対処を巡ってエルドアン大統領の支持率が低下している点も気になるところ。高い経済成長率に支えられ、エルドアン政権は維持されてきたが、近年は経済の失速もあり支持率は最低水準に沈んでいる。極端な金融緩和で支えた高成長の陰で通貨安が進み、国民は20%近いインフレに苦しみ、ドルベースの1人当たりGDPはピークの3分の2まで減少した。経済の再生に失敗すれば、エルドアン大統領の再選は困難との見方は強い』と考察しています。こうしたことから陳さんは、トルコリラ円の今週のレンジについて、『12.80円~13.60円』と予想しています。参考にしてみてくださいね。上記の詳細コメントは、ブログ「テクニカルマイスター」の8月31日付「トルコリラ円今週の予想(8月30日)」にまとめられていますので、ご興味があればご覧ください。フィスコリサーチレポーター 花田浩菜 <FA> 2021/09/01 17:38 注目トピックス 経済総合 (中国)上海総合指数は横ばいでスタート、上値の重い展開 1日の上海総合指数は横ばいでスタート。前日比0.00%安の3543.87ptで寄り付いた後は、日本時間午前10時46分現在、0.08%安の3541.07ptで推移している。前日の欧米市場の下落や米消費者心理の悪化など不透明な外部環境が足かせとなっている。また、弱い経済指標も圧迫材料。8月の財新製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.2となり、前月の50.3と市場予想の50.1を下回った。一方、景気対策への期待などが指数をサポートしている。 <AN> 2021/09/01 10:58 注目トピックス 経済総合 アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(3)【実業之日本フォーラム】 本稿は『アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(2)【実業之日本フォーラム】』の続編となる。4.タリバンにどう向き合うべきか——今こそ外交復権のとき念願のカブール制圧を果たしたタリバンはこれから、シャリーア(イスラム法)統治に基づく「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を目指すだろう。今後、国際社会はタリバンに、どう向き合うべきか。オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズは自著『バックチャンネル』で、アフガニスタンをめぐって「外交の軍事化」が進んでいたとし、次のように述べている。軍事的手段に頼りすぎると、政策は泥沼に陥る。…外交の軍事化(the militarization of diplomacy)は罠である。それは過剰な、あるいは早すぎる武力行使につながり、非軍事的な手段を重視しないことになる。バラク・オバマが好んで言ったように「主な道具がハンマーであれば、すべての問題が釘のように見えてくる」のである。…(国防長官を務めた)ゲイツとマティスは、軍の任務と能力の重さが、外交の視野を狭めたり、その中心的な任務を歪めたりする可能性があることを理解していた。イラクやアフガニスタンでは、外交官は軍の対反乱(counterinsurgency)戦略の脇役に甘んじ、現地社会の構築や、アメリカ人の能力では達成できないような国づくり(nation-building activities)に夢中になっていた。(アメリカの)外交官の役割は、国務省ではなく、19世紀の大英帝国植民地省の役割を再現することかと思われることもあった。イラクやアフガニスタンの人々自身が築くしかないガバナンスや経済構造を構築するための長期的な取り組みに、限られた文民のリソースを投入するよう迫られた。米軍の重しが外れた今、求められるのは外交の復権である。バーンズはバイデン政権で再び政府に戻り、2021年3月から中央情報局(CIA)長官を務めている。バーンズCIA長官は8月23日にカブールを極秘訪問し、ハリルザード特別代表のカウンターパートだったタリバン幹部のバラーダルと会談していたと報じられている。早速、バーンズ自らバックチャンネルを使って「外交の非軍事化」を進めているようだ。「力の真空」を埋めようとしているのはタリバンだけではない。地政学的な要衝にあるアフガニスタンをめぐって、中国、ロシアも影響力を強めつつある。中国の王毅・国務委員兼外交部長は7月、タジキスタンで開催した上海協力機構(SCO)外相会合でガニ政権のアトマル外相と会談し、その二週間後に天津市でタリバンのバラーダルと会談していた。タリバンとしても、アメリカやNATOという「占領軍」をようやく追い出した今、ふたたび外国の介入を許すつもりはないだろう。しかしタリバンは「イスラム首長国」樹立について国際社会の承認を必要としている。1996年のタリバン政権は、サウジアラビア、パキスタン、UAEの3か国にしか承認されなかった。硬軟織り交ぜた外交を展開してくるだろう。米国が退場しつつある中、タリバンという難しい相手を前に、中国やロシアとて単独で支えるつもりはない。対アフガニスタン外交は多国間外交が主軸になっていくだろう。これからの多国間外交では二つのことが大切になる。第一に、G7と豪印を主軸とする民主主義勢力は結束し、自由で開かれた多国間主義に基づき対アフガニスタン外交を進めるべきである。8月24日のG7首脳テレビ会議は重要な節目となった。まだ国外退避が続く中での開催だったが、アフガニスタンが二度とテロの温床になってはならないこと、そして、女性、子ども、少数民族の人権が尊重されることをタリバンに求めた。良かったのは、G7のリーダーたちが「アフガニスタンの全ての関係者に対し、女性や少数派の参加を含む包摂的で国民を代表する政府を樹立するために、誠意をもって取り組む」ことを明確に求めたことだ。さらにタリバンなど「アフガニスタンの関係者を言葉ではなく行動によって評価していく」こと、そして、「いかなる将来の政府の正統性も、安定したアフガニスタンを確保するため国際的な義務やコミットメントを遵守するためタリバンがとるアプローチにかかっている」と明確にした。タリバンが再び国際テロの温床とならないか、また包摂的な国造りが進むか、心もとない。国際社会は、タリバン政権の正統性を認めることを最大のテコとして、タリバンの言葉ではなく行動によって見極めていく必要がある。そのためには国際社会の側が、自由で開かれた多国間主義に基づいてタリバンに向き合うことが不可欠だ。権威主義的で偏狭な多国間主義では、タリバンに約束を守るよう迫ることはできない。自由で開かれた多国間主義を推進していくうえでは、これから深刻になる難民流出と人道危機への対処も重要である。この分野で日本が果たしてきた役割は大きい。日本政府は、緒方貞子氏を中心にアフガニスタン復興支援国際会議を主催し、平和構築と人道支援を積極的に支援してきた。中村哲氏は草の根の人々ともに、紛争で荒れた農地に水を引き、緑と希望を取り戻した。国際社会が支援を続けた過去20年間で、アフガニスタンの人々の生活は大幅に改善した。平均寿命は55.8歳から64.8歳に、9歳も延びた。2001年当時に60万人だった就学児童は300万人にまで増えた。ほとんど就学できなかった女子も全体の4割を占めるまでになった。一人当たりの国民総所得は2倍以上になった。病院の数も格段に増えた。女性の地位と役割も格段に向上した。国会議員のうち女性が占める割合は27%であり、これは日本の14%を上回った。各省の大臣、副大臣クラスでも多くの女性が活躍した。それでも内戦が続く中、貧困の撲滅は難しかった。国民の半数はいまだに貧困状態に陥ったままである。外国人や海外経験者も多いカブールを一歩離れると、美しい山々、そして草原に住む人々がいる。保守的な地域では、なかなか女性の虐待がなくならなかった。タリバンが、この20年間の歩みを無にするようなことがないよう、国際社会は必要であれば圧力もかけていく必要がある。タリバンは美辞麗句の並ぶ対外発信を続けている。しかしそのタリバンは、心理戦と標的型テロによって政府軍を駆逐したことを忘れてはならない。対アフガン外交で大切な二つ目は、タリバンが国際社会との約束を守るかどうか見極め、守られない場合は経済制裁などエコノミック・ステイトクラフトを活用することである。米軍は撤退したが、非軍事の圧力はいまだに有効である。アメリカは金融制裁を実質的に強化しつつある。アメリカは、アフガニスタンの中央銀行が保有する約95億ドルの資産を凍結し、大部分が預けられているニューヨーク連邦準備銀行等からアフガニスタン本国への送金を停止した。タリバンという巨象がどこに向かおうとしているか、いまだ不透明である。国際社会は、まずはその姿をしっかり直視し、向き合っていくべきだ。1996年にタリバンがカブールを制圧し、女性への人権抑圧が続いても、国際社会はさして関心を払わなかった。そして5年後、9.11が起きた。90年代の教訓を踏まえ、「群盲象を評す」ことでアフガニスタンという巨象に振り回される失敗を繰り返してはならない。相良祥之一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)主任研究員写真:AP/アフロ【参考文献】川端清隆『アフガニスタン』みすず書房、2002年。川端清隆「タリバンの「勝利」がもたらすものは~米軍撤退に揺れるアフガニスタン2」『論座』、2021年8月21日付。登利谷正人「アフガニスタン 米タリバン和平も平和の展望見えず」『外交』Vol. 60(2020年3月)山本忠通「アフガニスタン紛争−和平と国連および日本」『中東研究』539号(2020年度 Vol. II)山本忠通「論理的、洗練された一面も タリバンを熟知する日本人が見るアフガニスタンのこれから」朝日新聞GLOBE+、2021年8月19日付。Benjamin Jensen, 『How the Taliban did it: Inside the ‘operational art’ of its military victory』, Atlantic Council, 15 August 2021.Sami Sadat, 『I Commanded Afghan Troops This Year. We Were Betrayed.』, New York Times, 25 August 2021.UNDP Statement on Afghanistan (20 Aug 2021)William J. Burns, The Back Channel, Random House, 2020. <RS> 2021/09/01 10:26 注目トピックス 経済総合 アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(2)【実業之日本フォーラム】 本稿は『アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(1)【実業之日本フォーラム】』の続編となる。3.タリバン、3つの勝因タリバンの勝因は大きく3つあった。ガニ政権の自壊、ドーハ合意と米軍撤退により生じた巨大な「力の真空」、そして、タリバンの軍事オペレーションが緻密な戦術に基づいていたことだ。第一に、ガニ政権が自壊した。カルザイ政権から続いてきた脆弱なガバナンス、深刻な汚職のまん延はガニ政権でも解消されなかった。さらに大統領選挙の混乱から、政権内での民族・個人間の対立による権力闘争が激化した。2019年9月に実施された大統領選挙の結果は2020年2月まで確定しなかった。選挙を争ったガニとアブドゥラの両氏が組閣人事を公表し、3月9日には両氏が大統領就任式典を挙行するなど、大いに混乱した。しかも大統領選挙の投票率は二割を切り、極めて低調だった。多くの国民が政府に強い不信感を抱いていたことの表れだったと言える。その背景に政府軍の誤爆による市民への被害があったことも忘れてはならない。政権幹部は、その多くが資質よりも部族など個人的なつながりで任命されていた。政府内にまん延する汚職は軍の上層部にも及んでいた。戦果の乏しい将校に、現場の兵士が信頼を寄せることはなかった。さらにアフガニスタンの情報機関、国家保安局は政府軍を構成する軍閥同士の争いを懸念し、部隊を率いる軍閥幹部に対し、兵士の動員や武器確保に細かく注文をつけたという。カブール陥落直前に陸軍トップが交代させられるなど、指揮統制も破綻していたと見られる。カブールがタリバンに包囲されると、ガニ大統領は国外に逃れてしまった。ガニ政権は、自ら崩壊した第二に、トランプ政権がタリバンと直接交渉し成立した「ドーハ合意」と米軍撤退により、巨大な「力の真空」が生じた。米国政府はタリバンをテロ組織に指定し、直接交渉は避けてきた。一方、タリバンの政治的立場は、アメリカに率いられた多国籍軍の撤退こそが和平プロセスを開始するため不可欠であり、最初に合意されねばならいというものだった。当初はアルカイダ掃討が目的だった米軍の「テロとの戦い」は、ビンラーディン殺害後も続いた。アフガニスタンの安定化(stabilization)という、捉えがたく、かつきわめて困難な目標のため、アフガン政府に対する国家建設(nation-building)支援が活動の中心になっていった。しかしパシュトゥーンから一定の支持を受けるタリバンを軍事的に抑え込めないことがわかると、アメリカは方針を転換していった。オバマ政権は断続的にタリバンとの直接交渉に臨んだ。トランプが大統領に就くと「永遠に続く戦争」を終わらせるべく大きく舵を切った。多くの米兵の命が失われ巨額の資金が投じられた米軍駐留の正当性を疑う者は多かった。しかし米軍の完全撤退という決断を、アメリカの大統領はためらってきた。皆が見て見ぬふりをする重要な課題、まさに「部屋の中の象(the elephant in the room)」だった。米軍撤退を迷いなく進めたトランプの大統領就任は、タリバンにとって幸運だった。2018年9月、トランプはハリルザード氏をアフガニスタン和平担当特別代表に任命した。ハリルザード特別代表はアフガニスタン生まれで、アフガニスタンとイラクで大使を歴任し、国連常駐代表も務めた。ハリルザード特別代表はタリバンが政治事務所を構えるドーハで直接交渉を行い、さらに周辺諸国にも根回しを行った。アメリカは米中ロ3か国協議も立ち上げ、タリバンとの直接交渉に支持を取り付けた。なお、アメリカと直接対話できないイランについては、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)代表を務める山本忠通・国連事務総長特別代表(SRSG)がテヘランを訪問し、交渉状況を説明した。2020年2月29日、アメリカのハリルザード特別代表はタリバンのバラーダル政治事務所長との間で「ドーハ合意」に署名した。タリバンがアフガニスタンを国際テロ組織の拠点にしないことを条件として、アメリカは駐留部隊を段階的に削減し、14か月以内、2021年5月までに全面撤退するという内容だった。同日、米国政府はアフガニスタン政府とも類似の内容で共同宣言を発表した。「ドーハ合意」には、いくつもの欠陥があった。まずは非国家の武装集団であるタリバンが自称する「アフガニスタン・イスラム首長国」が、米国政府は承認していないという但書付きとはいえ、合意の当事者になったこと。そして米国政府がタリバンとガニ政権と、別々の合意を交わすことになったこと。実効的な停戦は期待できなかった。さらにタリバンがアフガン政府と交渉を開始する条件として、ガニ政権に不平等な囚人釈放が定められていた。タリバンは最大1,000人の囚人釈放が求められたのに対し、ガニ政権には最大5,000人の囚人釈放が求められた。このため両者の直接対話が始まるまで6か月を要した。こうした欠陥はドーハ合意に至るまでの交渉が難航したことの表れでもある。しかし、このトランプ政権とタリバンとの「手打ち」でもっとも問題だったのは、様々な欠陥がありながらも、米軍の撤退プロセスだけは明確に決まってしまったことである。これでタリバンは外交交渉で時間を稼ぎ、米軍撤退を待ち、攻勢を仕掛けるまで兵力を温存することができた。そして、バイデン大統領が米軍駐留に終止符を打った。バイデンはオバマ政権時代から米軍派遣に消極的な立場をとってきた。2009年、オバマ政権で初めて開催された国家安全保障会議(NSC)で、マレン統合参謀本部議長はタリバンの夏季攻勢を前に3万人の増派を進言した。これに対しバイデン副大統領は大規模な増派に否定的な意見を述べた。バイデンは副大統領就任直前にカブールを訪問し、カルザイ大統領と会談していた。夕食の席でバイデンは統治体制の強化を求めたが折り合わず、逆にカルザイが、アメリカはアフガン市民の死に無関心だと述べたことから、バイデンはナプキンを放り捨て、夕食は突然打ち切られたという。「永遠に続く戦争」を終わらせるべきと考えていたのはトランプだけではなかった。バイデン政権は2021年4月の撤退表明後、米軍の安全確保のため、迅速に撤収を進めた。これにともない米軍による航空支援(空爆)は途絶えがちになり、しかも、多くの民間請負業者もアフガニスタンを離れた。アフガニスタン政府軍がかろうじてタリバンに軍事的優勢を維持できたのは、米軍のエアパワー、海兵隊や特殊作戦軍に依存してきたところが大きい。米軍撤退によりアフガニスタンには巨大な「力の真空」が生じた。ここでタリバンの第三の勝因が重要となる。タリバンは「力の真空」ができたタイミングを逃さず、緻密な戦術に基づいた軍事オペレーションを展開した。タリバンといえばゲリラ戦とIED(即席爆発装置)、自爆テロで多くの民間人を含むアフガン政府軍に被害を与える攻撃手法が知られていた。しかし今回、タリバンは周到に準備していたであろう勝利の理論(theory of victory)に基づき、軍事および非軍事の戦術を統合し政府軍を急襲、一気にカブールまで進撃した。タリバンは、まず政府軍を分断した。政府軍は全国の地理的要衝に散在するチェックポイントを確保していた。これは部隊を全国に分散させることを意味した。タリバンはこの脆弱性を突いた。地上の通信網を破壊し、チェックポイントをひとつずつ落とし、各部隊を孤立させた。食料、水、弾薬などロジスティクスが陸で分断されたため、アフガン軍は空輸で補おうとした。しかし、米軍と民間請負業者の撤収により、すでに疲弊していたアフガン空軍は、メンテナンスのため空軍力の稼働を落とさざるを得なかった。国土の大半が険しい山地であるアフガニスタンにおいて、これは致命的であった。次に心理戦を駆使した。ガニ政権幹部や軍の高官の腐敗、そして間近に迫った米軍撤退とロジスティクスの分断により、政府軍の士気は下がっていた。アフガニスタンの人口の70%以上は携帯電話を持っている。そこでタリバンはソーシャルメディアや部族長へのテキストメッセージで、降伏して生き残るか、部族や家族もろとも殺されるか、選択を迫った。部隊が降伏すると映像を撮影し、それを別の部隊に拡散させた。政府軍の兵士は次々と戦意を失い、降伏が相次いだ。そして、標的型テロを仕掛けた。タリバンは戦術的に重要な個人に標的をあてテロ攻撃をおこなった。市民社会のリーダーなど重要人物を暗殺し、犯行声明を出さなかった。こうしてガニ政権では治安が確保できないという人々の不安を増幅させた。さらにタリバンはパイロットの自宅を襲った。怯えたパイロットは自らの持ち場を放棄していった。米軍の空爆に苦しんできたタリバンは、貴重な地対空ミサイルを撃つことなく、政府の空軍力を削ぐことに成功した。『アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(3)【実業之日本フォーラム】』へ続く相良祥之一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)主任研究員写真:AP/アフロ【参考文献】川端清隆『アフガニスタン』みすず書房、2002年。川端清隆「タリバンの「勝利」がもたらすものは~米軍撤退に揺れるアフガニスタン2」『論座』、2021年8月21日付。登利谷正人「アフガニスタン 米タリバン和平も平和の展望見えず」『外交』Vol. 60(2020年3月)山本忠通「アフガニスタン紛争−和平と国連および日本」『中東研究』539号(2020年度 Vol. II)山本忠通「論理的、洗練された一面も タリバンを熟知する日本人が見るアフガニスタンのこれから」朝日新聞GLOBE+、2021年8月19日付。Benjamin Jensen, 『How the Taliban did it: Inside the ‘operational art’ of its military victory』, Atlantic Council, 15 August 2021.Sami Sadat, 『I Commanded Afghan Troops This Year. We Were Betrayed.』, New York Times, 25 August 2021.UNDP Statement on Afghanistan (20 Aug 2021)William J. Burns, The Back Channel, Random House, 2020. <RS> 2021/09/01 10:25 注目トピックス 経済総合 アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(1)【実業之日本フォーラム】 1.カブール陥落2018年、国連での仕事のため、しばらくカブールで働いた。カブール市内の道路には高さ制限のバーが並んでいた。その前年、大使館地区のど真ん中で2トンの爆薬を積んだ大型トラックによる自爆テロがあり150名以上が亡くなった。高さのある車は爆薬を搭載している可能性があり、道路に並ぶバーは、それを通さないためのものだった。治安は悪化の一途をたどっていたが、それでもアメリカを中心とした主要国政府と国連は、ガニ政権とタリバンとの間で和平交渉が進むよう努力を続けていた。それから3年。2021年8月15日、あっという間にカブールは陥落した。アフガニスタンのほぼ全土が約20年ぶりにタリバンの支配下に置かれることになった。近年、タリバンは南部および東部の農村部や山岳部を中心に、支配地域を着実に拡大してきた。アフガン政府は米軍とNATO軍の強力な支援を受けながら、全国34の州都をなんとか確保してきた。しかし今年4月にバイデン大統領が駐留米軍を完全撤退させると表明すると、それまで力を蓄えていたタリバンが政府軍への攻撃を本格化させた。7月初頭には米軍の主要部隊が撤収した。ここでタリバンは攻勢を強め、8月6日に南西部ニムルズ州の州都ザランジを制圧。タリバンは次々と州都を陥落させ、ザランジが落ちた9日後、ついに首都カブールを制圧した。国連時代の同僚をはじめ、多くのアフガニスタン人がカブール陥落前から国外退避をはじめていた。カブール陥落により、その動きは一気に加速した。空港には国外退避を求める人々が殺到した。一人でも多くの自国民と、長年、協力してくれたアフガニスタン人を退避させるため、米軍を中心に各国がオペレーションを開始した。8月26日にはイスラーム国ホラーサーン州(IS-K)が米軍と空港に集まった群衆を狙って自爆テロ攻撃を仕掛け、米軍の兵士13名を含む180名以上が亡くなった。2.アフガニスタンという「巨象」アフガニスタンはユーラシア大陸の中心にあり「文明の十字路」と呼ばれてきた。地政学上の要衝に位置することから大英帝国やロシア帝国など列強が進出を試みたが、アフガニスタンの人々は徹底して抗った。そのため「帝国の墓場」とも呼ばれた。ソ連も撃退した。いまアフガニスタンと国境を接するのはイラン、パキスタン、中国、タジキスタン、トルクメニスタンとウズベキスタンの6か国。さらにロシア、インド、カタール、サウジアラビア、トルコなどもアフガン紛争に何らか関与したか、直接の影響を受けてきた。今回のカブール陥落に、こうした関係国を含め、国際社会が衝撃を受けた。思い出されるのは二つの出来事だ。2001年9月11日に起きた同時多発テロ。そして2011年5月2日(米国時間1日)、9.11テロの首謀者であったアルカイダの元指導者、ウサマ・ビンラーディンの殺害。アフガニスタンと聞いて多くの人々が思い起こす二つの出来事には共通点がある。いずれもアフガニスタンの国外で起きた、ということだ。9.11が起きたのはアメリカ、ビンラーディンが殺害されたのはパキスタンだった。これは今のアフガニスタン情勢を理解する上で示唆的である。アフガニスタンは地政学やグレートゲームの文脈で語られることが多い。しかし我々は、アフガニスタンという国を、真正面から見てきただろうか。欧米、あるいはパキスタンなど南アジアや、地政学の視点からばかり、アフガニスタンを見てはいなかったか。9.11から20年間、いやその前から、国際社会はアフガニスタンという「巨象」の輪郭しか捉えてこなかったのではないか。アメリカのみならず国際社会はアフガニスタンという巨象に振り回され、「群盲象を評す」を続けてきたのではないか。9.11から20年間、ためらいながらも象使いを続けてきたアメリカは、ついにこの巨象から振り落とされた。いま振り返るべきは、1996年のタリバンによるカブール制圧だ。タリバンは1994年、アフガニスタン南部の主要都市カンダハールに、パシュトゥーン人主体のイスラム原理主義武装組織として出現した。パシュトゥーンは多民族国家アフガニスタンで最大の民族である。タリバンはカンダハールを制圧して次々に既存の軍事組織を糾合したが、カブール制圧には1年以上かかった。ついにカブールを占拠すると、ナジブラ元大統領を処刑し、その遺体を市内の交差点で吊るし、女性の就労禁止、女学校の閉鎖、ブルカ着用強制など苛烈な支配をおこなった。アフガニスタンの人々は、この25年前のタリバンの所業を覚えている。25年前と違って、なぜ今回タリバンは驚異的なスピードでアフガニスタン全土を制圧できたのか。そして今後、国際社会はタリバンと、どう向き合うべきなのだろうか。『アフガニスタンという巨象:タリバンのカブール制圧、求められる外交の復権(2)【実業之日本フォーラム】』へ続く相良祥之一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)主任研究員写真:AP/アフロ【参考文献】川端清隆『アフガニスタン』みすず書房、2002年。川端清隆「タリバンの「勝利」がもたらすものは~米軍撤退に揺れるアフガニスタン2」『論座』、2021年8月21日付。登利谷正人「アフガニスタン 米タリバン和平も平和の展望見えず」『外交』Vol. 60(2020年3月)山本忠通「アフガニスタン紛争−和平と国連および日本」『中東研究』539号(2020年度 Vol. II)山本忠通「論理的、洗練された一面も タリバンを熟知する日本人が見るアフガニスタンのこれから」朝日新聞GLOBE+、2021年8月19日付。Benjamin Jensen, 『How the Taliban did it: Inside the ‘operational art’ of its military victory』, Atlantic Council, 15 August 2021.Sami Sadat, 『I Commanded Afghan Troops This Year. We Were Betrayed.』, New York Times, 25 August 2021.UNDP Statement on Afghanistan (20 Aug 2021)William J. Burns, The Back Channel, Random House, 2020. <RS> 2021/09/01 10:24 注目トピックス 経済総合 村田製作所のコール型eワラントが前日比2倍の大幅上昇(1日10:05時点のeワラント取引動向) 手仕舞い売りとしてはイオン<8267>コール24回 9月 3,000円、富士フイルムホールディングス<4901>コール109回 9月 9,400円、日経平均コール2133回 9月 28,500円、日経平均 プラス5倍トラッカー76回 9月 26,000円などが見られる。上昇率上位はニアピン米ドルr2 1316回 9月 113円(前日比3.5倍)、村田製作所<6981>コール210回 9月 11,400円(前日比2倍)、オムロン<6645>コール46回 9月 11,800円(+79.0%)、コマツ<6301>コール215回 9月 3,200円(+75.0%)、コマツコール214回 9月 2,800円(+71.7%)などとなっている。(eワラント証券) <FA> 2021/09/01 10:23 注目トピックス 経済総合 コラム【アナリスト夜話】アフガニスタンがもたらす新たなエネルギー覇権(マネックス証券 大槻奈那) 先週夏休みをいただき、友人の勧めで観始めた「愛の不時着」(NETFLIX配信)にハマりました。背景にある南北朝鮮の対立が涙をそそります。そのような呑気な話ではなく、足元ではアフガニスタンと米国の対立が危険水域です。今後戦闘が激化しても、市場への影響は短期的には限定的となるでしょうが、中長期的には別の面で注目されます。タリバン政権の課題の一つが資金源です。タリバンの年間収入は、海外からの支援、麻薬や資源等の輸出に課税所得等、最大でも15億ドル(約1650億円)程度とされます(国連監視機関)。国際支援を受けているアフガニスタン軍の5000億円規模を大きく下回ります。しかも、外部資金の流入は厳しさを増しています。IMFの特別引出権(SDR)利用も凍結されましたし、殆どが米国に保管されている海外資産の還流は難しいでしょう。日米を含む西側諸国の大半の銀行で、タリバン宛の送金は原則受け付けてもらえません。かつては、こうした経済制裁対象国の資金源とされていた暗号資産も、近年では取引所の顧客管理が厳しくなったため、活用は難しくなっています。頼みの綱は国内資源の友好国向け輸出でしょう。アフガニスタンには推定1兆ドル(110兆円)を超えるレアアースの鉱床があり、特に電気自動車用などで需要急騰のリチウム埋蔵量は世界最大とされます。採掘にメドは立ちませんが、今回の政権交代を機に、距離的にも近い中国の協力が囁かれています。共産党機関紙の人民日報系メディアは、連日のように、米国批判とタリバン政権との協力の余地について発信しています。先週のカブール空港のテロや、これに続き発表された米国によるドローン攻撃に見られる通り、現地の戦闘は簡単には収束しそうにありません。これに伴い、タリバンの資金ニーズも増し、状況次第で中国が資源採掘等で協力を開始するかもしれません。経済規模からすればごく小規模なアフガニスタンですが、にわかに脚光を浴びつつある資源大国でもあります。 場合によっては、中国の新たなエネルギー覇権の一翼を担うことになる可能性もあるだけに、アフガン問題は金融面からも注目しておく必要があると思われます。マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那(出所:8/30配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋) <FA> 2021/09/01 09:23 注目トピックス 経済総合 NYの視点:米消費の急激な落ち込みで2番底懸念も、デルタ株への懸念強まる、FRBに警鐘 コンファレンスボードが発表した8月消費者信頼感指数は113.8となった。7月分は129.1から125.1へ下方修正され、予想以上に低下し、2月来で最低。現況は147.3と、2カ月連続の低下で4月来で最低となった。7月分は160.3から157.2へ下方修正された。期待は91.4と1月来で最低となった。7月分は108.4から103.8へ下方修正された。新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大やインフレが13年ぶりの高水準で、消費者マインドが悪化。現況の経済状況や短期的な楽観的な見通しが後退した。消費者の住宅、自動車、家電購入意欲も後退。一方、6カ月内に休暇取得を考えている消費者は依然高止まりとなった。1年物の期待インフレは6.8%と、6.6%から上昇し、2008年来で最高を記録している。雇用の現況や見通しでも若干鈍化の兆しが見られる。急激な消費の冷え込みで2番底懸念に陥る可能性を警戒する悲観的な予測もある。カナダ4-6月期国内総生産(GDP)は前期比年率−1.1%と、1-3月期+5.5%から予想外にパンデミックが発生直後の昨年4−6月期以降1年ぶりのマイナス成長に落ち込んだ。自動車のサプライチェーンの問題が輸出に影響した。パンデミックによるサプライチェーンの問題が回復した際には、再び力強い成長に回復する可能性は残る。しかし、現状の結果を受けてカナダ中銀が2022年に速やかに金融政策を正常化するとの思惑が後退。カナダ中銀は先進諸国の中銀の中でも最も早い段階で緩和縮小をすでに開始している。カナダの状況は米国経済にとっても警鐘をならす。経済にかなりの不透明性が残る中、FRBの金融政策の舵取りは非常に困難ものとなっている。■8月消費者信頼感指数:113.8(7月:125.1、前年86.3)現況:147.3(157.2、85.8)期待:91.4(103.8、85.6)雇用現況十分:54.6(55.2、21.4)不十分:33.6(33.7、55.0)困難:11.8(11.1、23.6)6カ月後雇用増加:23.0(25.5、29.9)減少:18.6(17.8、21.2)不変:58.4(56.7、48.9)購入予定自動車:10.8(12.1、10.1)住宅:6.2(6.4、6.2)家電:50.2(53.9、44.9)休暇取得:41.1(前年35.3)インフレ12カ月:6.8(6.6、5.8) <FA> 2021/09/01 07:32

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