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中国経済で今何が起きているのか?(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/09/26 10:29
配信元:FISCO
*10:29JST 中国経済で今何が起きているのか?(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
ヘッドライン
政治家やビジネスパーソンが世界経済を理解する上で、中国経済の健全性を正確に把握することは不可欠である。中国の経済活動が世界市場のあらゆる側面に影響を与えているという認識だけでは、到底十分とは言えない。中国の「奇跡の」経済発展が過去30年間にわたり大きな資産であったことは事実である。現在では徐々に高価格品も扱うようになっているが、中国は製品の販売市場や低価格品のサプライヤーとして魅力的であると同時に、その製造および物流のエコシステムは、モノを安く、早く作るという点ではどこにも負けない。そして政府の政策と補助金によって世界の工場として高い競争力を維持しており、警戒する国が増えている。中国は一帯一路構想(BRI)を通じた経済開発と投資の見返りに、自国の幅広い地政学的目標への暗黙または明白な支持を求め、途上国世界全体で(真の友好国ではないものの)パートナーを獲得してきた。
中国の経済統計・データの質と対象範囲は数十年にわたり向上・拡大し続けてきた。自由な議論が党により厳しく統制されている環境で、経済に関する議論が非常に率直かつ腹蔵なく繰り広げられる様は新鮮な驚きであった。政治的にセンシティブなトピックは検閲官や警察の注意を引いたが、経済に関する議論は、ありがたいことにこうした強引な干渉を受けずに済んだ。
現在でも、中国国内では多くのことが報じられている。最近の発表で小売りの売上低迷と産業投資の減少が明らかになったものの、これまでの困難な時期にも経済を支えてきた輸出セクターは好調である。一方、不動産市場は不況から抜け出せずにおり、このセクターの景気回復策も現在ほとんど検討されていない。このように多くのセクターが低調に陥っており、消費指標の低迷と失業率の上昇にそれが表れている。これらのデータを受けて、投資銀行は軒並み中国の成長予測を引き下げた。今年のGDP成長率目標の約5%も達成できないというのが大方の予想である。一方、若干ポジティブに解釈しうる動向もある。現在非常に低い水準からではあるものの、定年年齢の引き上げは高齢化社会の中国が間もなく直面する年金不足問題と社会給付コスト問題に対処しようとする第一歩とみなすこともできる。
中国のうわべだけしか見ていない人の目には、これが景気循環の通常の周期の一貫だと映るかもしれない。中国経済が成熟するにつれ、「好況に次ぐ好況」という絶頂期から、「好況と不況」という、より通常の周期に移行しつつあるというのだ。
水面下の動き
うわべにとらわれて、中国の景気減速を成熟経済の単なる「好況と不況」の波だと考えているとしたら、残念ながら大きな間違いである。水面下にはずっと厳しい状況が潜んでおり、以前の改革開放政策から中国がどれだけ逸脱しているかがたびたび垣間見える。
このコラムの読者は、習近平氏がトウ小平時代の実際的な改革開放路線の根本的な転換をいかに図ったかを十二分に知ることになる。習近平政権前にすべてが順調に進んでいたというわけではない。中国は多くの問題を抱えており、それはすべて文書で十分に裏付けられているが、少なくとも経済分野の議論はかなりオープンであった。政府が何をすべきかに関する議論でさえ、オープンかつ活発に行われた。学界であれ、実業界であれ、規制当局や政府機関であれ、国内外を問わず、さまざまなフォーラムで意見を交換し、議論し、共感し、交流して、経済改革を推進しようとしていた。今ではそうした時代は過去のものとなった。国境を越えた交流はますます難しくなり、海外の相手との接触を減らした国内機関が多く、シンクタンクが閉鎖される中、国内の自由な声をオンラインで、あるいは時に物理的な方法で発信する機会を奪われることが増えている。
一連の経済データの公表停止は長年にわたり続けられてきた。今年に入り注目を集めたのは、若者の失業データの公表停止である。今週も、香港コネクト・プログラムを通じた中国A株の海外における売買に関するリアルタイムデータの提供が停止された。これほど近視眼的でばかげた規制当局の対応があるだろうか。中国市場を世界に開いたコネクト・プログラムは大きな成功を収めているが、国内投資家がこうしたデータを注視しすぎていると中国本土の幹部が恐れをなし、開示から約10年でデータ提供が停止された。それに伴い海外ファンドが中国市場から撤退したことは別に驚く話ではない。実際のところ、多くのポートフォリオ投資家や金融投資家にとって、中国は投資に適さない国になったのである。
最高幹部が実際に何を知っており、どのようなニュースを読み、誰の助けを借りて自らの意見をまとめているのかは、推測の域を出ないことが多い。最高幹部は一般公開されているものより質の高いデータにアクセスできると信じられている。そうでなければ話にならない。また、選り抜きの専門家が招集され、国務院のメンバーに忌憚のない状況説明を行うことも慣例になっているが、中国国内から漏れ伝わるエピソードを聞くと、こうした状況説明は幹部の情報収集の一貫として続いているものの、形式的なものになり、習氏が聞きたいことをそのまま言うだけになっていることが伺える。そのため、経済支援策や不動産市場危機への対処、消費刺激策の拡充を政府がなぜ行わないのか疑問に思う人は、習氏が国内で起きていることをきちんと理解しているのか、強く疑問視することになるはずだ。
では、どうしてそうなったのか。そのシナリオは2つだが、いずれもまったく好ましいものではない。1つは、習氏と側近が国内で起きていることを単に知らされていないため、対応が必要だとは感じていない。もう1つは、状況がいかに厳しいかを知らされてはいるものの、どのように対応していいか分からない。あるいは強い経済の維持、つまり大学を卒業した何百万人もの若者を雇用したり、不動産市場で貯蓄を搾取された何千万人もの中産階級の労働者や定年退職者を支援したりするための施策を、もはや重視していないというものだ。
「中国経済で今何が起きているのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: China Belt and Road Forum
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
ヘッドライン
政治家やビジネスパーソンが世界経済を理解する上で、中国経済の健全性を正確に把握することは不可欠である。中国の経済活動が世界市場のあらゆる側面に影響を与えているという認識だけでは、到底十分とは言えない。中国の「奇跡の」経済発展が過去30年間にわたり大きな資産であったことは事実である。現在では徐々に高価格品も扱うようになっているが、中国は製品の販売市場や低価格品のサプライヤーとして魅力的であると同時に、その製造および物流のエコシステムは、モノを安く、早く作るという点ではどこにも負けない。そして政府の政策と補助金によって世界の工場として高い競争力を維持しており、警戒する国が増えている。中国は一帯一路構想(BRI)を通じた経済開発と投資の見返りに、自国の幅広い地政学的目標への暗黙または明白な支持を求め、途上国世界全体で(真の友好国ではないものの)パートナーを獲得してきた。
中国の経済統計・データの質と対象範囲は数十年にわたり向上・拡大し続けてきた。自由な議論が党により厳しく統制されている環境で、経済に関する議論が非常に率直かつ腹蔵なく繰り広げられる様は新鮮な驚きであった。政治的にセンシティブなトピックは検閲官や警察の注意を引いたが、経済に関する議論は、ありがたいことにこうした強引な干渉を受けずに済んだ。
現在でも、中国国内では多くのことが報じられている。最近の発表で小売りの売上低迷と産業投資の減少が明らかになったものの、これまでの困難な時期にも経済を支えてきた輸出セクターは好調である。一方、不動産市場は不況から抜け出せずにおり、このセクターの景気回復策も現在ほとんど検討されていない。このように多くのセクターが低調に陥っており、消費指標の低迷と失業率の上昇にそれが表れている。これらのデータを受けて、投資銀行は軒並み中国の成長予測を引き下げた。今年のGDP成長率目標の約5%も達成できないというのが大方の予想である。一方、若干ポジティブに解釈しうる動向もある。現在非常に低い水準からではあるものの、定年年齢の引き上げは高齢化社会の中国が間もなく直面する年金不足問題と社会給付コスト問題に対処しようとする第一歩とみなすこともできる。
中国のうわべだけしか見ていない人の目には、これが景気循環の通常の周期の一貫だと映るかもしれない。中国経済が成熟するにつれ、「好況に次ぐ好況」という絶頂期から、「好況と不況」という、より通常の周期に移行しつつあるというのだ。
水面下の動き
うわべにとらわれて、中国の景気減速を成熟経済の単なる「好況と不況」の波だと考えているとしたら、残念ながら大きな間違いである。水面下にはずっと厳しい状況が潜んでおり、以前の改革開放政策から中国がどれだけ逸脱しているかがたびたび垣間見える。
このコラムの読者は、習近平氏がトウ小平時代の実際的な改革開放路線の根本的な転換をいかに図ったかを十二分に知ることになる。習近平政権前にすべてが順調に進んでいたというわけではない。中国は多くの問題を抱えており、それはすべて文書で十分に裏付けられているが、少なくとも経済分野の議論はかなりオープンであった。政府が何をすべきかに関する議論でさえ、オープンかつ活発に行われた。学界であれ、実業界であれ、規制当局や政府機関であれ、国内外を問わず、さまざまなフォーラムで意見を交換し、議論し、共感し、交流して、経済改革を推進しようとしていた。今ではそうした時代は過去のものとなった。国境を越えた交流はますます難しくなり、海外の相手との接触を減らした国内機関が多く、シンクタンクが閉鎖される中、国内の自由な声をオンラインで、あるいは時に物理的な方法で発信する機会を奪われることが増えている。
一連の経済データの公表停止は長年にわたり続けられてきた。今年に入り注目を集めたのは、若者の失業データの公表停止である。今週も、香港コネクト・プログラムを通じた中国A株の海外における売買に関するリアルタイムデータの提供が停止された。これほど近視眼的でばかげた規制当局の対応があるだろうか。中国市場を世界に開いたコネクト・プログラムは大きな成功を収めているが、国内投資家がこうしたデータを注視しすぎていると中国本土の幹部が恐れをなし、開示から約10年でデータ提供が停止された。それに伴い海外ファンドが中国市場から撤退したことは別に驚く話ではない。実際のところ、多くのポートフォリオ投資家や金融投資家にとって、中国は投資に適さない国になったのである。
最高幹部が実際に何を知っており、どのようなニュースを読み、誰の助けを借りて自らの意見をまとめているのかは、推測の域を出ないことが多い。最高幹部は一般公開されているものより質の高いデータにアクセスできると信じられている。そうでなければ話にならない。また、選り抜きの専門家が招集され、国務院のメンバーに忌憚のない状況説明を行うことも慣例になっているが、中国国内から漏れ伝わるエピソードを聞くと、こうした状況説明は幹部の情報収集の一貫として続いているものの、形式的なものになり、習氏が聞きたいことをそのまま言うだけになっていることが伺える。そのため、経済支援策や不動産市場危機への対処、消費刺激策の拡充を政府がなぜ行わないのか疑問に思う人は、習氏が国内で起きていることをきちんと理解しているのか、強く疑問視することになるはずだ。
では、どうしてそうなったのか。そのシナリオは2つだが、いずれもまったく好ましいものではない。1つは、習氏と側近が国内で起きていることを単に知らされていないため、対応が必要だとは感じていない。もう1つは、状況がいかに厳しいかを知らされてはいるものの、どのように対応していいか分からない。あるいは強い経済の維持、つまり大学を卒業した何百万人もの若者を雇用したり、不動産市場で貯蓄を搾取された何千万人もの中産階級の労働者や定年退職者を支援したりするための施策を、もはや重視していないというものだ。
「中国経済で今何が起きているのか?(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: China Belt and Road Forum
(※1)https://grici.or.jp/
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