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キャスター Research Memo(9):ヒトとAIの融合による次世代型ワークフォースプロバイダを目指す
配信日時:2025/11/20 11:09
配信元:FISCO
*11:09JST キャスター Research Memo(9):ヒトとAIの融合による次世代型ワークフォースプロバイダを目指す
■新中期経営計画の公表
キャスター<9331>は2025年10月に3ヶ年の中期経営計画を公表した。その前提となる環境認識や成長ポテンシャル及び戦略の方向性は以下のとおりである。
1. 環境認識と成長ポテンシャル
(1) 環境認識
中小企業を中心に人手不足問題が深刻化する一方、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの浸透とそれに伴う働き方に対する考え方の変化などを背景に、同社サービスに対するニーズは求人側(顧客企業)及び求職側(ワーカー)の双方から高まることが予想される。特に中小企業の場合は、大きなロットが必要となるBPOの利用も進んでいない※。人材不足に伴うニーズの増大は同社サービス(BPaaS)にとっては追い風となる。
※ 同社アンケート調査(2022年8月実施、サンプル数2,810社、Fastaskを利用)によると、BPOの利用状況は、大企業(従業員数300名超)が61.0%、中小企業(従業員数300名未満)が39.9%となっている。(出所:中期経営計画)
一方、人手不足対策としても注目されるAIに目を向けると、AIは世界中の経営層にとって優先度の高い事項であり、日本企業の経営層の多くもAIエージェントの活用を検討しているとみられる。ただ、多くの日本企業にとって、1) AI活用の経験者不足、2) ワークフロー整理の難易度の高さ、3) 相談・依頼先の不足がネックとなっており、関心が高いわりにはまだ本格的な導入に至っていない状況にある。したがって、同社が長年培ってきたワークフローを整理し再構築してきたノウハウは、AIエージェントの導入においても差別化要因となる可能性が高い。
(2) 対象市場と成長ポテンシャル
同社はヒトとAIの融合によるサービスの提供により、とりわけ企業にとってノンコア業務と呼ばれる領域のアウトソーシングニーズを取り込む戦略である。同社試算によれば、同社サービスへのアウトソーシングニーズのTAM(日本企業全体のノンコア業務)は47.5兆円、SAM(中小企業のノンコア業務)は33.1兆円、SOM(既存業務領域の最大ポテンシャル)は13.1兆円、コアターゲット(既存業務領域のうちIT業と士業のノンコア業務)は8,269億円と巨大であり、日本の労働生産性の低さ(逆に言えば、生産性改善の余地)にも結びつく。もちろん一定の前提を置いたフェルミ推定の域を出ないが、同社の視野や方向性を知るうえで参考になるとともに、中小企業の多くが人手不足(IT人材はさらに深刻)に悩み、DXの流れにも十分に対応できていない状況を踏まえれば、1つの考え方として合理性はあると判断できる。
2. 中期経営計画の方向性
中小企業を中心とした人手不足問題を背景にBPaaSへの需要がますます高まる一方、注目されるAI活用(生成AI等)がなかなか業務の中に定着しない状況をチャンスと捉え、ヒトとAIを融合した次世代型ワークフォースプロバイダとして新境地を切り開き、日本の労働生産性向上に貢献することで大きく飛躍する方向性を打ち出しており、まずはこの3年間で軌道に乗せる考えである。主力のBPaaS事業については、引き続き経理・労務などの専門領域を中心に旧来のスモールロット(単価20〜30万円)の需要を取り込む一方、需要が拡大しているマイクロロット(単価3万円前後)についても、AIの浸透とともに新たな成長の軸へ育てる方針である。マイクロロットは個人利用が中心であるものの、エンタープライズ内の個人に紐づく多様な業務のアウトソースであることが想定され、潜在的なポテンシャルは大きい。まずは稼働社数を面でひろげ、アップセル、クロスセルでARPUを高める戦略はこれまでと変わらない。CAC改善と生産性向上に取り組むAI駆動開発により、事業の提供価値拡大と利益成長の両方を加速する。最終年度(2028年8月期)の目標として売上高7,488百万円、親会社株主に帰属する当期純利益222百万円を掲げている。
3. 報告セグメントの変更
マイクロロットサービス(My assistant)の需要拡大や新規事業(EC-Consulting)及び子会社が立ち上がってきたことを踏まえ、2026年8月期より報告セグメントを「BPaaS事業」と「HR事業」、「AI Tech事業」の3つに再編した。「AI Tech事業」についてはAI戦略子会社であるキャスターテックジャパンや開発機能を担うベトナム子会社はもちろん、グラムスによるECサービスへのAI実装も含め、AI活用が戦略の要となる。既存の「BPaaS事業」及び「HR事業」(在宅派遣、Reworker)で稼いだ利益を「AI Tech事業」へ投資し、そこで得られた成果(AI機能や知見等)を全体へ展開する構図を描いている。また、事業の進捗や広告投資のパフォーマンスなどを示すKPIについても、セグメント変更とともに見直す考えだ。
4. 弊社による中長期的な注目点
弊社では、人手不足問題が解消せず、AI活用もなかなか定着しない状況のなかで、ヒトとAIの融合によるサービス提供により新境地を切り開く戦略は、同社ならではの現実的で理になかった戦略であると評価している。特に、これまで培ってきたワークフローを整理・再構築するノウハウは大きなアドバンテージになると考えられる。また、AI活用のカギを握るAI人材の確保についても、同社の採用力が強みとなる可能性が高い。そもそもBPaaSとリモートワーク、AI活用は、生産性向上という目的はもちろん、ワークフローの面でも結びつきが強く、いよいよ同社がやろうとしている姿が形になってきたと言えるだろう。そういった手応えが今回の中期経営計画の公表につながったという見方もできる。AIの本格活用は社会的にもビジネス的にもまだこれからであるが、今後急速なスピードで進むことが予想されるため、一気にブレークする可能性を秘めている。したがって、他社に先駆けて、AIをどう生かすか、何が課題か、どういった収益モデルのうえに成り立つか、といった観点から実践を通じて学習を重ねてきた同社への期待は大きく、今後いかに市場を開拓していくのかが注目される。今後も様々な成長機会に出会うことが予想されるが、限られた資源をどこに集中し、利益と成長のバランスをとっていくのか、今後の経営手腕に注目したい。
■株主還元
成長投資を優先すべきステージにあるため、しばらくは配当見送りの可能性が高い
同社は、株主に対する利益還元を経営の最重要課題として位置付けているものの、財務体質の強化に加え、事業拡大のための内部留保の充実等を図り、収益基盤の多様化や収益力強化のための投資に充当することが株主に対する最大の利益還元につながると考えており、創業来配当の実績はない。
弊社でも、同社は成長投資を優先すべきステージにあることから、しばらくは配当という形での株主還元は見送られる可能性が高いと見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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キャスター<9331>は2025年10月に3ヶ年の中期経営計画を公表した。その前提となる環境認識や成長ポテンシャル及び戦略の方向性は以下のとおりである。
1. 環境認識と成長ポテンシャル
(1) 環境認識
中小企業を中心に人手不足問題が深刻化する一方、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの浸透とそれに伴う働き方に対する考え方の変化などを背景に、同社サービスに対するニーズは求人側(顧客企業)及び求職側(ワーカー)の双方から高まることが予想される。特に中小企業の場合は、大きなロットが必要となるBPOの利用も進んでいない※。人材不足に伴うニーズの増大は同社サービス(BPaaS)にとっては追い風となる。
※ 同社アンケート調査(2022年8月実施、サンプル数2,810社、Fastaskを利用)によると、BPOの利用状況は、大企業(従業員数300名超)が61.0%、中小企業(従業員数300名未満)が39.9%となっている。(出所:中期経営計画)
一方、人手不足対策としても注目されるAIに目を向けると、AIは世界中の経営層にとって優先度の高い事項であり、日本企業の経営層の多くもAIエージェントの活用を検討しているとみられる。ただ、多くの日本企業にとって、1) AI活用の経験者不足、2) ワークフロー整理の難易度の高さ、3) 相談・依頼先の不足がネックとなっており、関心が高いわりにはまだ本格的な導入に至っていない状況にある。したがって、同社が長年培ってきたワークフローを整理し再構築してきたノウハウは、AIエージェントの導入においても差別化要因となる可能性が高い。
(2) 対象市場と成長ポテンシャル
同社はヒトとAIの融合によるサービスの提供により、とりわけ企業にとってノンコア業務と呼ばれる領域のアウトソーシングニーズを取り込む戦略である。同社試算によれば、同社サービスへのアウトソーシングニーズのTAM(日本企業全体のノンコア業務)は47.5兆円、SAM(中小企業のノンコア業務)は33.1兆円、SOM(既存業務領域の最大ポテンシャル)は13.1兆円、コアターゲット(既存業務領域のうちIT業と士業のノンコア業務)は8,269億円と巨大であり、日本の労働生産性の低さ(逆に言えば、生産性改善の余地)にも結びつく。もちろん一定の前提を置いたフェルミ推定の域を出ないが、同社の視野や方向性を知るうえで参考になるとともに、中小企業の多くが人手不足(IT人材はさらに深刻)に悩み、DXの流れにも十分に対応できていない状況を踏まえれば、1つの考え方として合理性はあると判断できる。
2. 中期経営計画の方向性
中小企業を中心とした人手不足問題を背景にBPaaSへの需要がますます高まる一方、注目されるAI活用(生成AI等)がなかなか業務の中に定着しない状況をチャンスと捉え、ヒトとAIを融合した次世代型ワークフォースプロバイダとして新境地を切り開き、日本の労働生産性向上に貢献することで大きく飛躍する方向性を打ち出しており、まずはこの3年間で軌道に乗せる考えである。主力のBPaaS事業については、引き続き経理・労務などの専門領域を中心に旧来のスモールロット(単価20〜30万円)の需要を取り込む一方、需要が拡大しているマイクロロット(単価3万円前後)についても、AIの浸透とともに新たな成長の軸へ育てる方針である。マイクロロットは個人利用が中心であるものの、エンタープライズ内の個人に紐づく多様な業務のアウトソースであることが想定され、潜在的なポテンシャルは大きい。まずは稼働社数を面でひろげ、アップセル、クロスセルでARPUを高める戦略はこれまでと変わらない。CAC改善と生産性向上に取り組むAI駆動開発により、事業の提供価値拡大と利益成長の両方を加速する。最終年度(2028年8月期)の目標として売上高7,488百万円、親会社株主に帰属する当期純利益222百万円を掲げている。
3. 報告セグメントの変更
マイクロロットサービス(My assistant)の需要拡大や新規事業(EC-Consulting)及び子会社が立ち上がってきたことを踏まえ、2026年8月期より報告セグメントを「BPaaS事業」と「HR事業」、「AI Tech事業」の3つに再編した。「AI Tech事業」についてはAI戦略子会社であるキャスターテックジャパンや開発機能を担うベトナム子会社はもちろん、グラムスによるECサービスへのAI実装も含め、AI活用が戦略の要となる。既存の「BPaaS事業」及び「HR事業」(在宅派遣、Reworker)で稼いだ利益を「AI Tech事業」へ投資し、そこで得られた成果(AI機能や知見等)を全体へ展開する構図を描いている。また、事業の進捗や広告投資のパフォーマンスなどを示すKPIについても、セグメント変更とともに見直す考えだ。
4. 弊社による中長期的な注目点
弊社では、人手不足問題が解消せず、AI活用もなかなか定着しない状況のなかで、ヒトとAIの融合によるサービス提供により新境地を切り開く戦略は、同社ならではの現実的で理になかった戦略であると評価している。特に、これまで培ってきたワークフローを整理・再構築するノウハウは大きなアドバンテージになると考えられる。また、AI活用のカギを握るAI人材の確保についても、同社の採用力が強みとなる可能性が高い。そもそもBPaaSとリモートワーク、AI活用は、生産性向上という目的はもちろん、ワークフローの面でも結びつきが強く、いよいよ同社がやろうとしている姿が形になってきたと言えるだろう。そういった手応えが今回の中期経営計画の公表につながったという見方もできる。AIの本格活用は社会的にもビジネス的にもまだこれからであるが、今後急速なスピードで進むことが予想されるため、一気にブレークする可能性を秘めている。したがって、他社に先駆けて、AIをどう生かすか、何が課題か、どういった収益モデルのうえに成り立つか、といった観点から実践を通じて学習を重ねてきた同社への期待は大きく、今後いかに市場を開拓していくのかが注目される。今後も様々な成長機会に出会うことが予想されるが、限られた資源をどこに集中し、利益と成長のバランスをとっていくのか、今後の経営手腕に注目したい。
■株主還元
成長投資を優先すべきステージにあるため、しばらくは配当見送りの可能性が高い
同社は、株主に対する利益還元を経営の最重要課題として位置付けているものの、財務体質の強化に加え、事業拡大のための内部留保の充実等を図り、収益基盤の多様化や収益力強化のための投資に充当することが株主に対する最大の利益還元につながると考えており、創業来配当の実績はない。
弊社でも、同社は成長投資を優先すべきステージにあることから、しばらくは配当という形での株主還元は見送られる可能性が高いと見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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