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習近平は本気だと心得よ(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/06/10 10:22
配信元:FISCO
*10:22JST 習近平は本気だと心得よ(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
雑音にまみれたシグナル
「トランプ氏の発言は、言葉どおりかどうかは別として常に真剣だ。」「すでに発表されている政策をころころ変えるのは些細な雑音のようなもので、その裏に明確なシグナルが隠されているのだ。」トランプ氏の支持者や擁護者はそう口をそろえる。トランプ政権の中国への対応にも、こうしたもっともらしい説明が当てはまるのだろうか。トランプ氏のチームによると、中国に対する145%の追加関税は決して本気ではなく、(トランプ氏の考えでは)中国を交渉のテーブルに着かせる交渉手段にすぎなかった。現在トランプ氏は、今月初旬(注:5月)にジュネーブで結んだ限定的な合意に中国が違反していると主張しているが、何を指しての発言は定かではない。彼のどの言葉が雑音で、どの言葉がシグナルなのか。おそらく彼の言葉にまったく意味はなく、単なる嘘と無意味な言葉の羅列なのだろう。息を吐くように嘘をつく人物であり、その嘘が自分に利益をもたらし注目を浴びることができれば、それでいいのである。
外国政府に対するこうした支離滅裂な対応は、ウクライナのゼレンスキー大統領と口論になったときに彼が言ったように「テレビ映え」するかもしれないが、政策を明確化し、国が直面する極めて深刻な課題に米国とその同盟国が備えることにはつながらない。彼の名誉のために言っておくと、第1次トランプ政権時には、中国の不公平な貿易慣行と南シナ海での武力行使拡大を米国大統領として初めて非難したという実績がある。そして経済制裁と関税を通じて(失敗に終わったとはいえ)有名な「第1段階」貿易合意にこぎつけ、中国についてタブーを口にする覚悟を持ち、はるかに現実的かつ重大な議論を米国政治に持ち込んだ。政治システムが機能不全に陥り、両党の意見が一致する問題がほとんどない今、ひょっとすると中国により厳しい態度で臨むことが、党派を超えて幅広い支持を得られる唯一の事柄なのかもしれない。
習氏の言葉に耳を傾ける
習近平は、ドナルド・トランプとは大きく異なるタイプの指導者である。オープンな記者会見を開かず、とりとめのない受け答えや演説をすることもなく、ショーマンシップのかけらもない。中国の指導者にアドリブ要素はまったくなく、すべてが計画され、予行演習され、事前調整されている。当然のことながら、演説や公式発表は退屈でつまらないものになる。中国研究の第一人者シモン・レイスはかつて、中国共産党の文書を読むことを「サイのソーセージを食べるか、バケツ一杯のおがくずを飲み込む」ようなものと評している。使われる言葉が意図的にぼかされ、それが意味するものをあえて隠している。だからといって、その内容は読む価値がないわけでも、信頼できないわけでもない。
5月初旬、習氏はモスクワで開かれた第2次世界大戦終結80周年記念の式典に参加した。その訪露を受けて2本の文書が発表され、中国の指導者が今後の地政学的情勢をどのように見ているかが明らかとなった。その文書とは、「国際法の権限を守るための今後の協力強化に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同宣言」と、習氏が執筆し、ロシアの新聞「ロシアン・ガゼット」に掲載された「歴史から学び、より明るい未来をともに築く」と題する記事である。いずれもインターネットで簡単に閲覧でき、読むに値する内容である。なぜなら、「ウクライナ紛争については、中国はロシアと完全に歩調を合わせているわけではない」という欧州や米国、アジア諸国の希望的観測を明らかに一掃する内容だからである。またこの記事からは、習氏が台湾の統治権取得に意欲を燃やしていることもはっきりと読み取れる。
これらの文書をざっと読んだだけでも、書いてあることと現状の明白な矛盾に気づくだろう。ロシアと中国は共同声明の中でたびたび、「両国は威嚇または武力の行使を慎むという原則を再確認」している。また「内政不干渉」と「紛争の平和的解決の原則」を支持しながら、ロシアによるウクライナ侵攻には一切触れておらず、虚言がドナルド・トランプの専売特許でないことが裏付けられた。手の込んだしつこいサイバー犯罪・攻撃の拠点となっている両国が「オープンかつ安全で、安定しアクセスしやすく、平和で相互運用可能なICT環境」を望んでいるとは!しかしそうした偽善的な内容を除けば、両国がお互いに強くコミットし合っていることが明らかになってくる。中国が近い将来、ロシアとの関係を断つことはない。ロシアに対する支援の対象がマンパワーや致死兵器に及ぶことはないかもしれないが、中国はロシア産炭化水素を購入し、ロシアに多くの日用品や軍民両用技術を供給しており、ロシア経済を支える最大の支柱であることに変わりはない。
習氏の記事は第二次世界大戦の歴史の書き換えに多くの時間を割きつつ、「正しい歴史観」とやらを支持している。彼は、中露両国の国民が当時大きな犠牲を払ったと書いているが、実際には1945年8月初旬までソビエト連邦が日本に宣戦布告していないことや、戦闘の大部分を当時の国民政府が行ったため、中国共産党は日本人とほとんど闘っていないこと、毛沢東氏が実際に「日本が国民党を弱体化させてくれたおかげで共産党は内戦に勝つことができた」と述べていることを忘れてはならない。ただ、歴史の書き換えも気になるとはいえ、重要なのは近い将来の懸念、特に台湾問題である。
習氏は「台湾島の状況がどのように変化しようと、あるいは外部勢力のどのような介入があろうと、中国による再統一は不可避であり、そこに向かう歴史の流れを止めることはできない」と書き、さらに次のように続けている。「中国とロシアは互いの重要な関心事や懸念事項に関して常に支え合ってきた。ロシアは事あるごとに、台湾は中国の領土の不可分の一部だとする『一つの中国』という原則を支持し、いかなる形の『台湾の独立』にも反対し、中国政府と中国国民が国家の再統一を実現するために講じるあらゆる措置を強く支持すると繰り返し述べてきた。中国はロシアの一貫した姿勢を称賛する。」
虚言の数々と歴史のでっち上げから成るこれらの文章が発信するメッセージはシンプルだ。習氏は台湾内部の動向に関心がなく、台湾島に住む2,300万人の人たちの希望や願いは彼にとってはどうでもいいことだ。「再統一」は不可避であり、その立場に対するロシアの全面的な支持を、少なくとも書面の上では取り付けている。
こうした姿勢を今さら驚く世界の指導者やビジネスリーダーはいるまい。習氏は長年にわたりこうした発言をしており、彼が唱える「中国民族の復興」には台湾の再統一が欠かせない。台湾が事実上独立し、中国共産党の支配の及ばない存在であるかぎり、1世紀に及ぶ屈辱を忘れることは決してないと考えているのである。
「習近平は本気だと心得よ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
トランプと習近平(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
雑音にまみれたシグナル
「トランプ氏の発言は、言葉どおりかどうかは別として常に真剣だ。」「すでに発表されている政策をころころ変えるのは些細な雑音のようなもので、その裏に明確なシグナルが隠されているのだ。」トランプ氏の支持者や擁護者はそう口をそろえる。トランプ政権の中国への対応にも、こうしたもっともらしい説明が当てはまるのだろうか。トランプ氏のチームによると、中国に対する145%の追加関税は決して本気ではなく、(トランプ氏の考えでは)中国を交渉のテーブルに着かせる交渉手段にすぎなかった。現在トランプ氏は、今月初旬(注:5月)にジュネーブで結んだ限定的な合意に中国が違反していると主張しているが、何を指しての発言は定かではない。彼のどの言葉が雑音で、どの言葉がシグナルなのか。おそらく彼の言葉にまったく意味はなく、単なる嘘と無意味な言葉の羅列なのだろう。息を吐くように嘘をつく人物であり、その嘘が自分に利益をもたらし注目を浴びることができれば、それでいいのである。
外国政府に対するこうした支離滅裂な対応は、ウクライナのゼレンスキー大統領と口論になったときに彼が言ったように「テレビ映え」するかもしれないが、政策を明確化し、国が直面する極めて深刻な課題に米国とその同盟国が備えることにはつながらない。彼の名誉のために言っておくと、第1次トランプ政権時には、中国の不公平な貿易慣行と南シナ海での武力行使拡大を米国大統領として初めて非難したという実績がある。そして経済制裁と関税を通じて(失敗に終わったとはいえ)有名な「第1段階」貿易合意にこぎつけ、中国についてタブーを口にする覚悟を持ち、はるかに現実的かつ重大な議論を米国政治に持ち込んだ。政治システムが機能不全に陥り、両党の意見が一致する問題がほとんどない今、ひょっとすると中国により厳しい態度で臨むことが、党派を超えて幅広い支持を得られる唯一の事柄なのかもしれない。
習氏の言葉に耳を傾ける
習近平は、ドナルド・トランプとは大きく異なるタイプの指導者である。オープンな記者会見を開かず、とりとめのない受け答えや演説をすることもなく、ショーマンシップのかけらもない。中国の指導者にアドリブ要素はまったくなく、すべてが計画され、予行演習され、事前調整されている。当然のことながら、演説や公式発表は退屈でつまらないものになる。中国研究の第一人者シモン・レイスはかつて、中国共産党の文書を読むことを「サイのソーセージを食べるか、バケツ一杯のおがくずを飲み込む」ようなものと評している。使われる言葉が意図的にぼかされ、それが意味するものをあえて隠している。だからといって、その内容は読む価値がないわけでも、信頼できないわけでもない。
5月初旬、習氏はモスクワで開かれた第2次世界大戦終結80周年記念の式典に参加した。その訪露を受けて2本の文書が発表され、中国の指導者が今後の地政学的情勢をどのように見ているかが明らかとなった。その文書とは、「国際法の権限を守るための今後の協力強化に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同宣言」と、習氏が執筆し、ロシアの新聞「ロシアン・ガゼット」に掲載された「歴史から学び、より明るい未来をともに築く」と題する記事である。いずれもインターネットで簡単に閲覧でき、読むに値する内容である。なぜなら、「ウクライナ紛争については、中国はロシアと完全に歩調を合わせているわけではない」という欧州や米国、アジア諸国の希望的観測を明らかに一掃する内容だからである。またこの記事からは、習氏が台湾の統治権取得に意欲を燃やしていることもはっきりと読み取れる。
これらの文書をざっと読んだだけでも、書いてあることと現状の明白な矛盾に気づくだろう。ロシアと中国は共同声明の中でたびたび、「両国は威嚇または武力の行使を慎むという原則を再確認」している。また「内政不干渉」と「紛争の平和的解決の原則」を支持しながら、ロシアによるウクライナ侵攻には一切触れておらず、虚言がドナルド・トランプの専売特許でないことが裏付けられた。手の込んだしつこいサイバー犯罪・攻撃の拠点となっている両国が「オープンかつ安全で、安定しアクセスしやすく、平和で相互運用可能なICT環境」を望んでいるとは!しかしそうした偽善的な内容を除けば、両国がお互いに強くコミットし合っていることが明らかになってくる。中国が近い将来、ロシアとの関係を断つことはない。ロシアに対する支援の対象がマンパワーや致死兵器に及ぶことはないかもしれないが、中国はロシア産炭化水素を購入し、ロシアに多くの日用品や軍民両用技術を供給しており、ロシア経済を支える最大の支柱であることに変わりはない。
習氏の記事は第二次世界大戦の歴史の書き換えに多くの時間を割きつつ、「正しい歴史観」とやらを支持している。彼は、中露両国の国民が当時大きな犠牲を払ったと書いているが、実際には1945年8月初旬までソビエト連邦が日本に宣戦布告していないことや、戦闘の大部分を当時の国民政府が行ったため、中国共産党は日本人とほとんど闘っていないこと、毛沢東氏が実際に「日本が国民党を弱体化させてくれたおかげで共産党は内戦に勝つことができた」と述べていることを忘れてはならない。ただ、歴史の書き換えも気になるとはいえ、重要なのは近い将来の懸念、特に台湾問題である。
習氏は「台湾島の状況がどのように変化しようと、あるいは外部勢力のどのような介入があろうと、中国による再統一は不可避であり、そこに向かう歴史の流れを止めることはできない」と書き、さらに次のように続けている。「中国とロシアは互いの重要な関心事や懸念事項に関して常に支え合ってきた。ロシアは事あるごとに、台湾は中国の領土の不可分の一部だとする『一つの中国』という原則を支持し、いかなる形の『台湾の独立』にも反対し、中国政府と中国国民が国家の再統一を実現するために講じるあらゆる措置を強く支持すると繰り返し述べてきた。中国はロシアの一貫した姿勢を称賛する。」
虚言の数々と歴史のでっち上げから成るこれらの文章が発信するメッセージはシンプルだ。習氏は台湾内部の動向に関心がなく、台湾島に住む2,300万人の人たちの希望や願いは彼にとってはどうでもいいことだ。「再統一」は不可避であり、その立場に対するロシアの全面的な支持を、少なくとも書面の上では取り付けている。
こうした姿勢を今さら驚く世界の指導者やビジネスリーダーはいるまい。習氏は長年にわたりこうした発言をしており、彼が唱える「中国民族の復興」には台湾の再統一が欠かせない。台湾が事実上独立し、中国共産党の支配の及ばない存在であるかぎり、1世紀に及ぶ屈辱を忘れることは決してないと考えているのである。
「習近平は本気だと心得よ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
トランプと習近平(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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