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バタフライ効果を和らげる:中国による関税引き下げ措置停止を受けた台湾の戦略(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/06/25 10:21
配信元:FISCO
*10:21JST バタフライ効果を和らげる:中国による関税引き下げ措置停止を受けた台湾の戦略(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
中国によるECFA製品の関税引き下げ措置停止の決定は、台湾の経済全体に波及効果を及ぼし、主要産業に多大な影響を与えている。台湾には戦略的対応が求められる。
中国は2024年5月31日、紡績や機械など134品目について、6月15日から第二弾の関税引き下げ措置を停止すると発表した。これは、石油化学製品12品目を対象とした2023年12月の第一弾に続く措置となる。これで、「アーリーハーベスト(早期関税引き下げ措置)リスト」品目の27.08%が引き下げ措置停止の対象となり、機械製造やハイテク部品など台湾が比較優位性を持つセクターが影響を受けることになる。
台湾産業への経済的影響
台湾経済に不可欠な半導体産業は、地政学的緊張が高まるなかでもレジリエンスを発揮している。台湾積体電路製造(TSMC)は世界の半導体生産をリードし続け、目先の経済的影響から台湾を守っているが、半導体の対中輸出は大きな打撃を受け、そのもろさが浮き彫りとなった。
台湾経済部は、WTO議定書に従い中国の一方的な措置に対処すると強調し、緊張が高まるなか、経済的影響の緩和と輸出市場の維持のため、国際貿易規範の導入を提唱している。こうした外交アプローチは、貿易紛争の多国間解決を求める台湾の姿勢を示している。
中国による関税引き下げ措置停止は、台湾の経済セクター全体に多大な影響を及ぼし、戦略調整とレジリエンス構築策の実施を余儀なくしている。
財団法人中華経済研究院が実施した国内調査によると、中国市場への依存度が高い台湾の農業セクターは、関税引き下げ措置停止を受け深刻な課題を突きつけられている。台湾の農業労働者は輸出所得の減少と国際競争力の低下に直面し、341,423人以上の雇用がこの影響を受ける。農村を支え、経済の安定を維持するためには政府の介入は不可欠である。
同様に、144,872人の雇用を抱える繊維セクターと製造セクターも、中国市場へのアクセスが低下するなか、不確実性が高まっている。台湾の繊維輸出は、地域貿易協定や生産コストの低さの恩恵を受ける東南アジアの生産者との競争が激化し、多角化戦略が不可欠である。
こうした課題に対応するため、台湾は新南向政策を掲げ、ASEAN諸国やインドなど輸出市場を多角化する戦略へと転換を進めている。これら地域との経済的な結びつきの強化は、依存リスクを軽減すると同時に、世界経済の不確実性に対する台湾のレジリエンスを高める。
台湾の経済構造に不可欠な中小企業は、関税問題の行方が不透明ななか、課題が山積している。一般設備製造で142,553人の雇用が影響を受ける今、中小企業が必要としているのは、輸出の混乱を切り抜け、競争力の維持に的を絞った政府の支援である。中小企業のレジリエンスを高めるには、革新的な融資策と輸出促進策が欠かせない。
経済・貿易政策の影響
中国がこれら品目の関税引き下げ措置停止にこだわるのは、台湾の新政権に圧力をかける目的だけでなく、同国の厳しい経済指標にも関係している、とアナリストは指摘する。2024年5月に発表された中国の製造PMIは49.5%に低下し、景気後退入りした。PPIも19カ月連続で下落している。関税引き下げ措置停止の対象となった品目の輸出額は、合計で2013年の798億米ドルから2023年には2,240億米ドルへと2.8倍増加した。その一方で、輸入額は2021年の1,204億米ドルから2023年には924億米ドルへと23.2%も減少している。
ECFAのアーリーハーベストリスト品目の関税引き下げ措置停止は、台湾のさまざまな産業に多大な影響を及ぼす。国内調査の結果から、この影響が最も大きいのは農業セクターであり、推計で341,423人が影響を受けることが分かっている。これに半導体産業(308,847人)とプラスチック産業(144,872人)が続く。ほかに影響を受ける産業は一般機械(142,553人)、コンピュータ機器(111,613人)、金型(110,561人)などである。
アーリーハーベストリスト品目が輸出全体に占める比率(3.6%)と該当する産業の雇用(2,368,532人)を考えると、85,267人の労働者が影響を受ける可能性がある。依存度の高いICT産業を除くと、この数字は67,870人になる。
収益面では、コンピュータ機器産業の打撃が最も大きく、損失額は推計で6.44兆ニュー台湾ドルに上る。これに半導体産業(4.32兆ニュー台湾ドル)と通信機器産業(4.26兆ニュー台湾ドル)が続く。ほかに影響を受けるセクターは石油(1.55兆ニュー台湾ドル)、化学製品(1.39兆ニュー台湾ドル)、鉄鋼(1.36兆ニュー台湾ドル)などである。アーリーハーベストリスト品目が輸出全体に占める比率(3.6%)と、対象となる産業の収益(27.07兆ニュー台湾ドル)を考えると、影響を受けるであろう収益は9,746億ニュー台湾ドルになる。ICT産業を除くと、この数字は4,258億ニュー台湾ドルである。
台湾のGDPや地域、産業への影響の広がり
アーリーハーベストリスト品目の関税引き下げ措置停止により台湾の産業全体が被る収益の損失は、推計でGDPの1.8%にあたる4,258億ニュー台湾ドルに上る。地域別に見てこの影響が最も大きいのは新北市で、16,211社が影響を受け、これに台中市(15,334社)と台南市(7,838社)が続く。桃園市と彰化県もそれぞれ7,425社と7,350社が影響を受ける。
産業別では農業への影響が最も大きく、377,663戸の農家に影響が及ぶ。影響を受ける企業数は、金型産業が13,831社、プラスチック産業が11,659社に達する。ほかに影響が及ぶセクターは水産養殖(11,076漁業経営体)、一般機械(8,816社)などである。
台湾新政府の楽観主義の課題
中国が特定産業の拡大と景気回復の遅れにより生産能力過剰に陥るなか、台湾政府は、アーリーハーベストリスト品目の対中輸出額が2023年に約150億米ドルに減り、ECFA前のレベルに近づいたとの評価結果を示した。中国向けの輸出シェアは、繊維産業が2010年の35%から2023年には17%に、機械産業と自動車部品産業も、欧州や米国、インド、ベトナム、その他の新南向政策対象国への輸出市場のシフトに伴い、それぞれ24.5%と6.8%に低下した。
経済部は、経済的威圧に対抗措置を講じる用意があると示唆するとともに、政策ツールを通じて産業の刷新と市場多角化を支援し、経済リスクの管理と回避を図るとの意向を示した。関税引き下げ措置停止の対象となったアーリーハーベストリスト品目には、1%から12%、平均約8%の関税が課せられる可能性がある。これは、台湾の中小企業を大きく圧迫することになるが、最大の懸念は雇用への影響である。
台湾では、リスクの分散を目的とした事業のグローバルな展開に、政府より企業が積極的に取り組んできた。2023年には中国向けの輸出シェアが35%と、21年ぶりの低い水準に落ち込んだ。一方、米国向けの輸出額は2倍に増え、EUと新南向政策対象国向けの輸出額も大幅に増加し、3年連続で輸出額が4,300億米ドルを超えた。
アーリーハーベストリスト品目の中国向けの輸出シェアは、2016年の26.1%から2023年には16.4%に低下した。これら品目が輸出全体に占める比率は下がり続け、3.6%になった。2023年は、中国がアーリーハーベストリスト品目のうち370品目で輸出先トップ3に入り、これに米国(242品目)、ベトナム(170品目)、日本(110品目)、香港(68品目)が続く。注目すべきは、53品目の輸出がゼロだった点である。
「バタフライ効果を和らげる:中国によるECFA製品の関税引き下げ措置停止を受けた台湾の戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
中国 台湾からの輸入製品134品目に対する関税優遇措置を停止へ 写真: NHK
(※1)https://grici.or.jp/
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中国によるECFA製品の関税引き下げ措置停止の決定は、台湾の経済全体に波及効果を及ぼし、主要産業に多大な影響を与えている。台湾には戦略的対応が求められる。
中国は2024年5月31日、紡績や機械など134品目について、6月15日から第二弾の関税引き下げ措置を停止すると発表した。これは、石油化学製品12品目を対象とした2023年12月の第一弾に続く措置となる。これで、「アーリーハーベスト(早期関税引き下げ措置)リスト」品目の27.08%が引き下げ措置停止の対象となり、機械製造やハイテク部品など台湾が比較優位性を持つセクターが影響を受けることになる。
台湾産業への経済的影響
台湾経済に不可欠な半導体産業は、地政学的緊張が高まるなかでもレジリエンスを発揮している。台湾積体電路製造(TSMC)は世界の半導体生産をリードし続け、目先の経済的影響から台湾を守っているが、半導体の対中輸出は大きな打撃を受け、そのもろさが浮き彫りとなった。
台湾経済部は、WTO議定書に従い中国の一方的な措置に対処すると強調し、緊張が高まるなか、経済的影響の緩和と輸出市場の維持のため、国際貿易規範の導入を提唱している。こうした外交アプローチは、貿易紛争の多国間解決を求める台湾の姿勢を示している。
中国による関税引き下げ措置停止は、台湾の経済セクター全体に多大な影響を及ぼし、戦略調整とレジリエンス構築策の実施を余儀なくしている。
財団法人中華経済研究院が実施した国内調査によると、中国市場への依存度が高い台湾の農業セクターは、関税引き下げ措置停止を受け深刻な課題を突きつけられている。台湾の農業労働者は輸出所得の減少と国際競争力の低下に直面し、341,423人以上の雇用がこの影響を受ける。農村を支え、経済の安定を維持するためには政府の介入は不可欠である。
同様に、144,872人の雇用を抱える繊維セクターと製造セクターも、中国市場へのアクセスが低下するなか、不確実性が高まっている。台湾の繊維輸出は、地域貿易協定や生産コストの低さの恩恵を受ける東南アジアの生産者との競争が激化し、多角化戦略が不可欠である。
こうした課題に対応するため、台湾は新南向政策を掲げ、ASEAN諸国やインドなど輸出市場を多角化する戦略へと転換を進めている。これら地域との経済的な結びつきの強化は、依存リスクを軽減すると同時に、世界経済の不確実性に対する台湾のレジリエンスを高める。
台湾の経済構造に不可欠な中小企業は、関税問題の行方が不透明ななか、課題が山積している。一般設備製造で142,553人の雇用が影響を受ける今、中小企業が必要としているのは、輸出の混乱を切り抜け、競争力の維持に的を絞った政府の支援である。中小企業のレジリエンスを高めるには、革新的な融資策と輸出促進策が欠かせない。
経済・貿易政策の影響
中国がこれら品目の関税引き下げ措置停止にこだわるのは、台湾の新政権に圧力をかける目的だけでなく、同国の厳しい経済指標にも関係している、とアナリストは指摘する。2024年5月に発表された中国の製造PMIは49.5%に低下し、景気後退入りした。PPIも19カ月連続で下落している。関税引き下げ措置停止の対象となった品目の輸出額は、合計で2013年の798億米ドルから2023年には2,240億米ドルへと2.8倍増加した。その一方で、輸入額は2021年の1,204億米ドルから2023年には924億米ドルへと23.2%も減少している。
ECFAのアーリーハーベストリスト品目の関税引き下げ措置停止は、台湾のさまざまな産業に多大な影響を及ぼす。国内調査の結果から、この影響が最も大きいのは農業セクターであり、推計で341,423人が影響を受けることが分かっている。これに半導体産業(308,847人)とプラスチック産業(144,872人)が続く。ほかに影響を受ける産業は一般機械(142,553人)、コンピュータ機器(111,613人)、金型(110,561人)などである。
アーリーハーベストリスト品目が輸出全体に占める比率(3.6%)と該当する産業の雇用(2,368,532人)を考えると、85,267人の労働者が影響を受ける可能性がある。依存度の高いICT産業を除くと、この数字は67,870人になる。
収益面では、コンピュータ機器産業の打撃が最も大きく、損失額は推計で6.44兆ニュー台湾ドルに上る。これに半導体産業(4.32兆ニュー台湾ドル)と通信機器産業(4.26兆ニュー台湾ドル)が続く。ほかに影響を受けるセクターは石油(1.55兆ニュー台湾ドル)、化学製品(1.39兆ニュー台湾ドル)、鉄鋼(1.36兆ニュー台湾ドル)などである。アーリーハーベストリスト品目が輸出全体に占める比率(3.6%)と、対象となる産業の収益(27.07兆ニュー台湾ドル)を考えると、影響を受けるであろう収益は9,746億ニュー台湾ドルになる。ICT産業を除くと、この数字は4,258億ニュー台湾ドルである。
台湾のGDPや地域、産業への影響の広がり
アーリーハーベストリスト品目の関税引き下げ措置停止により台湾の産業全体が被る収益の損失は、推計でGDPの1.8%にあたる4,258億ニュー台湾ドルに上る。地域別に見てこの影響が最も大きいのは新北市で、16,211社が影響を受け、これに台中市(15,334社)と台南市(7,838社)が続く。桃園市と彰化県もそれぞれ7,425社と7,350社が影響を受ける。
産業別では農業への影響が最も大きく、377,663戸の農家に影響が及ぶ。影響を受ける企業数は、金型産業が13,831社、プラスチック産業が11,659社に達する。ほかに影響が及ぶセクターは水産養殖(11,076漁業経営体)、一般機械(8,816社)などである。
台湾新政府の楽観主義の課題
中国が特定産業の拡大と景気回復の遅れにより生産能力過剰に陥るなか、台湾政府は、アーリーハーベストリスト品目の対中輸出額が2023年に約150億米ドルに減り、ECFA前のレベルに近づいたとの評価結果を示した。中国向けの輸出シェアは、繊維産業が2010年の35%から2023年には17%に、機械産業と自動車部品産業も、欧州や米国、インド、ベトナム、その他の新南向政策対象国への輸出市場のシフトに伴い、それぞれ24.5%と6.8%に低下した。
経済部は、経済的威圧に対抗措置を講じる用意があると示唆するとともに、政策ツールを通じて産業の刷新と市場多角化を支援し、経済リスクの管理と回避を図るとの意向を示した。関税引き下げ措置停止の対象となったアーリーハーベストリスト品目には、1%から12%、平均約8%の関税が課せられる可能性がある。これは、台湾の中小企業を大きく圧迫することになるが、最大の懸念は雇用への影響である。
台湾では、リスクの分散を目的とした事業のグローバルな展開に、政府より企業が積極的に取り組んできた。2023年には中国向けの輸出シェアが35%と、21年ぶりの低い水準に落ち込んだ。一方、米国向けの輸出額は2倍に増え、EUと新南向政策対象国向けの輸出額も大幅に増加し、3年連続で輸出額が4,300億米ドルを超えた。
アーリーハーベストリスト品目の中国向けの輸出シェアは、2016年の26.1%から2023年には16.4%に低下した。これら品目が輸出全体に占める比率は下がり続け、3.6%になった。2023年は、中国がアーリーハーベストリスト品目のうち370品目で輸出先トップ3に入り、これに米国(242品目)、ベトナム(170品目)、日本(110品目)、香港(68品目)が続く。注目すべきは、53品目の輸出がゼロだった点である。
「バタフライ効果を和らげる:中国によるECFA製品の関税引き下げ措置停止を受けた台湾の戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
中国 台湾からの輸入製品134品目に対する関税優遇措置を停止へ 写真: NHK
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