後場の投資戦略ニュース一覧

後場の投資戦略 売り一巡後は下げ幅を縮小する展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32190.31;-2.44TOPIX;2281.45;+6.82[後場の投資戦略] 8月7日の日経平均は前週末比271.47円安の31921.28円と大幅反落でスタート。加えて、決算発表がピークを迎えている他、週末が祝日となることもあって商いは膨らみづらく、短期的な物色に振らされる展開が予想されている。ただ、売り一巡後は押し目買いの動きが目立っており、前引けにかけてじりじりと下げ幅を縮小した。 新興市場も軟調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落スタート後、じりじりと下げ幅を縮小する展開となっている。米10年債利回りが依然として4%を超えており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい地合いが続いている。ただ、前週末まで大きく下落していた分、押し目買いの動きも広がっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.16%安、東証グロース市場Core指数は0.66%安。 さて、4日には米7月雇用統計が発表された。7月の非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比18万7000人増で市場予想(20万人)をやや下振れた。一方、失業率は3.5%で前月(3.6%)から低下、平均時給は前月比0.4%上昇と前月と同水準となったほか、前年比では4.4%上昇となった。雇用統計の結果は強弱入り混じる内容で米10年債利回りも4%水準で推移、投資家心理が上下どちらか一方に偏る結果ではなかった。ただ、今週は米国で10日に7月消費者物価指数(CPI)、11日に7月卸売物価指数(PPI)が発表される。仮にインフレ高止まりが意識されると、既に4%を超えている米10年債利回りの一段の上昇にもつながりかねないため、同指標の結果には大きな注目が集まっている。 パウエル議長をはじめ当局者らは、これまで政策はデータ次第との姿勢を一貫して繰り返してきた。今週は、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁とアトランタ連銀のボスティック総裁らの発言も予定されている。また、パウエル議長は今月下旬に、カンザスシティー連銀がワイオミング州ジャクソンホールで開く年次シンポジウムで登壇を予定している。5日に講演したボウマンFRB理事は、物価の完全な安定回復には追加利上げが必要になるかもしれないとの見解を示していた。やはり、9月に開かれる次回連邦公開市場委員会(FOMC)までに、当局関連の発言や今後の雇用統計、最新の物価統計の動向には注視しておきたい。 そのほか、今週は国内で1500社以上の企業決算が発表される。決算を材料とした東証プライム銘柄の個別株物色が主体となることが予想され、商いが膨らむことが想定される。好決算銘柄の買いが優勢となれば、株価指数の回復につながろう。米国と合わせて日本の長期金利の動向に注意を払いたいところだが、直近株価が大きく下落しながらも業績が堅調に推移している銘柄はしっかりとチェックしておきたい。 7月第4週(24~28日)投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を738億円買い越した。海外投資家の買い越しは5週連続で、個人投資家は1304億円の売り越しで4週ぶりに売り越した。海外投資家の買い越しが続く中、個人の売り越しが継続するか、今後もチェックを続けたい。さて、後場の日経平均はプラス圏に浮上して上げ幅を広げることができるか。前述のようにインフレ関連指標の発表が控えているが、今週から企業決算が本格化するためプライム市場の個別株物色に注目しておきたい。(山本泰三) <AK> 2023/08/07 12:28 後場の投資戦略 米雇用統計を受けた金利動向を注視 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32130.94;-28.34TOPIX;2267.36;-0.99[後場の投資戦略] 本日の日経平均は寄り付き直後に32000円割れを見た後はすぐに切り返すと、一時は安値から300円超上昇するなど、心理的な節目を意識した底堅さが見られた。一方、戻りの一服も早く、その後は次第に値を切り下げる展開となっている。 2日、3日と日米の長期金利の上昇が株式市場の下落につながっていただけに、金利への影響力の大きい米雇用統計の発表を今晩に控えるなか様子見ムードが強まっているようだ。前日3日の米10年債利回りは4.18%と、2日の4.09%からさらに上昇した。米名目金利から期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率を差し引いた米10年実質金利は3日に1.81%と、7月7日に付けた1.79%を上回り、2009年3月以降で最高水準にまで上昇した。 一方、前日まで上昇が続いていた日本の新発10年物国債利回りは、本日は上昇一服となっており、長期国債先物も下げ渋っている。前日は日本銀行が午後に臨時の国債買い入れを実施したにもかかわらず、長期金利が低下したのは一時的ですぐに低下分を埋める動きとなっていた。日銀を試すかのような海外投機筋と思われる向きからの国債売りが入っていたとみられるが、本日はいったん小休止しているもようだ。 しかし、今晩の米雇用統計で市場予想を上回る数値が出た場合には、足元で金利動向に神経質になっているタイミングでもあるため、米長期金利の一段の上昇を通じて日米ともに株式市場へのマイナス影響が懸念される。その場合には、本日いったん小休止している日本の長期国債への売りが再燃する可能性もあろう。 来週は米国で10日に消費者物価指数(CPI)も発表される。目先は金利動向に神経質な展開が想定され、ハイテク・グロース(成長)株の押し目買いは控えた方がよいだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/04 12:22 後場の投資戦略 日米長期金利が引き続き攪乱要因 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32244.08;-463.61TOPIX;2274.99;-26.77[後場の投資戦略] 本日の日経平均は一時500円を超えるなど、大幅に続落。引き続き日米の長期金利の上昇が警戒されているようだ。前日2日の米10年債利回りは4.09%と1日の4.03%からさらに上昇。7月ADP民間雇用者数が前回6月分に続き市場予想を大幅に上振れたことで米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ懸念が再燃。また、米財務省による財政赤字の補填を目的とした中長期債の発行規模引き上げによる需給の緩みが警戒されている。さらに、1日には格付け会社フィッチ・レーティングスが米国債の格付けを引き下げた。格下げ自体が大きな影響力を持つことはないだろうが、米国債の発行規模が引き上げられるタイミングでの発表となり、時期が悪かった。今後の米国債の入札に向けてタームプレミアム(期間に伴う上乗せ金利)の上昇と利回り曲線のスティープ化を指摘する声が聞かれている。 また、引き続き日本国内の金利動向も気掛かりだ。10年利付国債(第371回)は本日午前の本稿執筆時点で0.65%まで上昇。前日の終値0.625%からさらに上昇している。長期国債先物の価格も続落しており、国内長期金利の上昇圧力がじわじわと高まっている様子が窺える。前日、日本銀行が臨時オペでの国債買い入れ額を前回から増額しなかったこともやや警戒感を高めさせているようだ。なお、本日、日銀は午前の金融調節で臨時買い入れオペの通知を見送った。 国内では来週が決算発表のピークであるため、決算を手掛かりとした個別株物色が相場を下支えしてくれることに期待したいが、米国は今週が決算発表のピークで、来週は発表数が前週比で半減する。決算を材料とした物色が後退するなか、4%を超えてきた米10年債利回りが一段と上昇するようであれば、株価指数が高値圏にあるなか利益確定売りを誘いやすいだろう。 米ダウ平均や米S&P500種株価指数は依然として上向きの25日移動平均線上を維持しているが、米ナスダック総合指数は前日に25日線を割り込んだ。日本も個別株物色に期待したいところだが、米国株がここから一段と大きく崩れてしまうようだと影響は免れないだろう。25日線を既に下回っている日経平均に対して、東証株価指数(TOPIX)は辛うじて同線を維持しようとする動きが見られているが、TOPIXも同線を大きく下放れてしまうと、調整色が強まりそうだ。長期金利の上昇が警戒され、為替相場の動向にも不透明感が漂うなか、これらの影響が相対的に小さい内需系セクターなどに注目したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/03 12:19 後場の投資戦略 国内外の金利動向が気掛かり [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32861.29;-615.29TOPIX;2314.03;-23.33[後場の投資戦略] 本日の日経平均は600円超下落し、33000円を大きく割り込んでいる。日経平均の下落率は1.8%超と、0.4%程度の下落率にとどまった米ナスダック総合指数に比べて大きめの下落率になっている。先週末の日本銀行の政策修正に伴う余波が続いているとみられ、日本固有の要因で国内株の変動率が高くなっているようだ。 東京証券取引所が公表している空売り比率は、先週末に47.8%まで上昇していたが、前日に37.9%まで低下。週明け以降の売り方の買い戻しが一巡したことも本日の相場の下落につながっていそうだ。 国内外の金利動向が気掛かりになってきている。米国では前日に発表された供給管理協会(ISM)の7月製造業景況指数をはじめ、労働省雇用動態調査(JOLTS)の求人件数などが市場予想を下回ったにもかかわらず、米10年債利回りは4%を超える水準にまで上昇し、ハイテク株の下落を誘発した。 米国債の大量発行が意識されていることが背景にあるようだ。米財務省は財政赤字の急速な悪化に対応するため、今週から期間が長めの債券の発行拡大に乗り出す方針。財務省が2日に発表する四半期定例入札予定では、発行総額を960億ドルから1020億ドルに引き上げると予想されている。新規発行額は来年にはほぼ倍増する見通しとも指摘されており、かつて米国債の最大の買い手だった米連邦準備制度理事会(FRB)がバランスシートの縮小に取り組むなか、国債需給の緩みが懸念される。また、直近は想定以上に強い米国の経済指標を受けて経済のソフトランディング(軟着陸)期待が高まっていた最中でもあった。今後、米長期金利がここからさらに上昇するようであれば株式市場も警戒感を抱かざるを得ないだろう。 また、日本国内でも長期金利の動向が気掛かりだ。日本の新発10年債利回りは足元0.6%前後でとどまっている。7月31日に、日銀が臨時の国債買い入れオペを実施し、市場の動きをけん制したことが効いている様子。一方、本日の長期国債先物は売りが優勢だ。金利の動きが限定的である一方、債券先物からは日銀の政策修正を意識した動きが窺える。 足元ではドル円が1ドル=143円台にまで上昇するなど、為替の円安が大きく進行している。円安による輸入インフレへの警戒感なども踏まえると、日銀も臨時オペの積極的な実施をいつまでも続けることは難しいと考えられる。こうした背景から、今後、0.6%で抑えられている10年債利回りが0.7%台を超えてくることなども想定されよう。この場合、依然として高水準にある投機筋の円売りポジションの巻き戻しにより、為替の円高が急速に進行する可能性がある。前日の米国時間から、為替の円安進行に対する日経225先物の上昇という従来の連動性が薄れているため、円高が進んだ場合の日本株の下落には注意したい。 ほか、国内金利がさらに上昇してくると、生命保険会社など国内機関投資家の米国債券から自国債券への回帰なども想定される。その場合、米長期金利の一段の上昇を通じて世界の株式市場の調整圧力として作用することも考えられる。 今回の日銀の政策修正は秀逸とも評価されているが、一方でやや難解なものになっており、投資家の間では捉え方が定まるのに時間がかかっている様子。政策修正の発表直後は円安・株高で反応し、市場は好意的に捉えたようだが、しばらくは日銀政策修正の余波が続きそうで注意したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/02 12:30 後場の投資戦略 カギを握るトヨタと米AMDの決算 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33418.53;+246.31TOPIX;2337.05;+14.49[後場の投資戦略] 本日の日経平均はやや膠着感の強い状況がとなっており、前日の米株式市場と似たような動きになっている。ただ、前日の大幅高の直後であることを考えると、引き続き堅調な地合いが続いていると評価できる。 前日の東証プライム市場の売買代金は引けにかけての大口クロス取引の影響があったとはいえ、先週末に続く5兆円超えとなった。商いも活況の上での大幅高となり、投資家の日本株への買い意欲を確認した。 一方、ドル円が1ドル=142円70銭台まで上昇し、前日の東京時間からさらに1円程も円安・ドル高が進んでいるにもかかわらず、日経平均は前日の高値をわずかに上回る程度の上昇にとどまっている。また、前日は午前に大幅に上昇した後、午後にかけては高値から一時400円近くも失速する場面が見られ、上値での戻り待ち売り圧力の強さも確認された。 日本銀行の金融政策決定会合でのサプライズ政策修正を経た後も、日本株への押し目買い意欲の強さが保たれている点は好印象ではあるが、日経平均も東証株価指数(TOPIX)に続いてバブル崩壊後の高値を更新するには追加の材料が必要と思われる。 こうした中、注目されるのはまず本日午後に予定されているトヨタ自動車<7203>の決算と、米国で本日予定されているアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の決算だ。トヨタ自動車の決算は半導体不足の解消による生産改善と為替の円安効果により好決算が期待されている。自動車産業の裾野は広く、日本株全体の業績動向を占う上でも重要な指標となる。一方、株価は前日に年初来高値を更新しており、好業績は既に大方織り込まれているとも思われる。出尽くし感から大きく下落するのか、すぐに下げ渋ってプラス圏を維持するのか株価反応に注目だ。 米AMDについては、生成AI(人工知能)ブームに火をつけた米エヌビディアのライバルで、AMDも生成AI関連製品の先行きに自信を見せている。これまでの日米の半導体企業やIT大手の決算はどちらかというと生成AIブームへの期待をいったん後退させる内容が多かった。しかし、AMDの決算でこうした期待が復活すれば、日米の株式市場のさらなる上昇に寄与しそうで、日経平均のバブル崩壊後の高値更新のカギを握ることになろう。 ほか、今晩は米国で供給管理協会(ISM)の7月製造業景況指数が発表される。市場予想は46.9と、6月(46.0)よりは改善する見通しも、引き続き景況感の拡大・縮小の境界値である50を割り込んだ状態が続く見込み。また、労働省雇用動態調査(JOLTS)の求人件数が発表予定で、こちらは前月から求人件数がさらに減少する見込みだ。ほぼ予想通りになった場合、足元で強含んでいるドル円の上昇が一服するか為替の反応などに注目したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/01 12:25 後場の投資戦略 プラス圏で堅調に推移 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33262.74;+503.51TOPIX;2321.89;+31.28[後場の投資戦略] シカゴ日経225先物清算値は、大阪比325円高の33095円。本日の日経平均はシカゴ先物にサヤ寄せする格好から買いが先行しており、為替が円安方向にふれていることも追い風となっている。そのほか、国内企業決算の発表が本格化しており、決算発表を終えた個別株中心に物色が向かっている。 新興市場も堅調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、じりじりと上げ幅を広げている。米ハイテク株が値幅を伴って上昇したことは個人投資家心理を改善させる要因となった。また、米国で週末に発表された物価指標で改めてインフレ鈍化傾向が確認され、米長期金利の上昇が一服していることは新興株にとって支援材料となっている。前引け時点での東証マザーズ指数は1.45%高、東証グロース市場Core指数は2.63%高で時価総額上位銘柄に注目が集まっている。 さて、前週開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、主要政策金利を0.25ポイント引き上げることを決定した。パウエル米連邦準備制度(FRB)議長の記者会見からもタカ派的なサプライズはなかった。また、欧州中央銀行(ECB)も0.25ポイントの追加利上げを決定。ただ、ラガルド総裁は決定発表後の会見で、今後の政策判断について入手するデータに左右されると強調していた。今後の政策会合でいったん利上げ休止を決めた場合でも、その後に再び利上げすることはあり得るとの見解を示した。 米国経済が景気後退を回避してソフトランディング(軟着陸)する確率が高まっているという認識が広がる中、7月以降の各国の金融政策方針に不透明感が残っているのは事実である。今週は、米国で供給管理協会(ISM)の景況指数、中国で国家版および民間版の購買担当者景気指数(PMI)が発表されるほか、週末には米雇用統計が発表予定。物価指標の鈍化傾向は続いているが、雇用関連の指標は依然として強い。結果次第では追加利上げ懸念が再燃する可能性があるため、これらの指標には注目しておきたいところである。 一方、S&P500は7月も月間で上昇の勢いとなっており、様子見していた弱気派が強気に転換するほか、乗り遅れることへの恐怖を感じている投資家も全て参加しており、トレーダーの株式へのエクスポージャーは歴史的に見ても高い水準にあるという。また、好調な米株式相場を受けてヘッジを考えているトレーダーはほとんどいないようで、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらはリポートで、オプション市場で株安に備えたプロテクションを買うのは「かつて目にしたことがないほど安い」と指摘しているようだ。 リセッション(景気後退)を招くことなくインフレを抑制することが過去に完全に成し遂げられた例はほとんどない。S&P500指数にとって1年で特にリターンの悪い9月・9月を控える中、上昇が継続するか注目が集まりそうだ。 話は変わって、今週から国内企業決算が本格化する。プライム市場の主力銘柄の決算が相次ぐため、本日同様個別株物色が活発化することで商いが膨らむことが想定される。好決算銘柄の買いが優勢となれば、株価指数の回復につながろう。 そのほか、7月第3週(18~21日)投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を197億円買い越した(前週は2793億円の買い越し)。買い越しは4週連続で、個人投資家は126億円の買い越しで3週連続の買い越しとなった。さて、後場の日経平均はプラス圏での推移を継続できるか。前述のように雇用関連指標の発表が控えているなか、今週から企業決算が本格化するため、プライム市場の個別株物色が中心となりそうだ。新興市場でも、決算を発表した銘柄への注目は集まろう。(山本泰三)  <AK> 2023/07/31 12:23 後場の投資戦略 日銀政策修正の影響を考える [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32453.97;-437.19TOPIX;2271.56;-23.58[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大きく反落。昨晩の米国市場の取引時間中、日本経済新聞社が、今回の金融政策決定会合において日本銀行がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正案を議論すると報じたことが要因だ。 先週末に今会合では政策修正はないとする観測報道が出て、それまでくすぶっていた政策修正への思惑が一度大きく後退していただけに、今回の報道はサプライズだ。前日の米株式市場もハイテク株を中心に中盤までは大きく上昇していたが、日銀の観測報道が出たあたりから急速に上げ幅を縮め、結局、主要株価指数は揃って下落。米ダウ平均の連騰記録もついに終わった。 ただ、落ち着いて考えれば、日銀の政策修正は悪いことではない。もともとデフレ体質からの脱却という構造的な変化を、海外投資家は日本株買いの一つの理由として挙げていた。だとすれば、今回の動きはそうした構造的な変化が起こりつつあることを日銀が認めはじめたという証拠でもある。 そもそも、世界各国の中央銀行が急速なペースで利上げを続け、日本も数十年ぶりのインフレに直面して少なくともデフレでない状況に至っているのであるから、YCCという世界を見渡しても異例の政策は修正してしかるべきだろう。マイナス金利政策を続けているだけでも十分に金融緩和的であるため、これを引き締めへの転換と解釈するのも拙速な判断だと考える。 そのため、政策の修正ペースが緩慢であれば、本日のリスク資産の売りも次第に落ち着いてくると思われる。本日売っているのも短期筋が中心だろう。今回の一件を通じて、次第に構造的な変化を見越して長期目線の実需筋が本腰を入れて買いを入れてくることも考えられ、短期筋の売りが落ち着いた後には日本株の強い動きが復活してくる可能性などもあろう。 一方、これはやや長めの時間軸で見た場合の話で、短期的には注意が必要と考える。というのも、日本と並んでマイナス金利政策を採用していたスイスが金融引き締めに転じた時もサプライズをもって受け止められていた過去の経緯がある。先進国の中では最後の砦ともいえる金融緩和を継続していた日本がいよいよ政策転換に舵を切りはじめたとすれば、それなりのインパクトがあろう。円は低金利通貨としての立ち位置が固まっていたため、低金利で借りた円を売って高金利の通貨を買うキャリー取引などにも影響を与えそうだ。 また、以前から、日銀が政策修正した場合の生保などの日本国内における機関投資家の投資行動の変化について海外では議論されていた。すなわち、国内機関投資家は米国債など海外債券の大口投資家であるため、日銀が政策修正することによって国内長期債券の利回りが高まれば、国内債券への回帰によって自国(海外)債券が売られ金利が上昇することを懸念していた。 実際、こうした懸念を反映してか、前日は軒並み市場予想を上回った経済指標を背景に大きく上昇していた米10年債利回りが、日銀の観測報道が伝わったあたりからさらに急伸し、7月7日以来の4%乗せとなった。 このように、短期的には様々な所で世界的に資金フローの変化が起きる可能性がある。政策修正が小幅なものであれば波乱は小さいだろうが、変化幅が大きいか、あるいは将来の追加的な政策修正への思惑を高めるような結果となれば、こうした資金フローの変化は起こりやすいと考えられる。短期的には世界全体のマーケットの動向を注視する必要があろう。 ただ、今までの植田総裁の発言内容からして政策修正はかなり慎重に漸進的に進められるだろう。マイナス金利の修正などはさらに先のことと考えられ、依然として金融緩和的な姿勢を強調すると思われる。そのため、日経平均がここからさらに大きく崩れる可能性は低いのではないかと考えている。 仮に追加的な政策修正への思惑が高まり、市場の動揺が収まらない場合には、上述したような円キャリー取引の巻き戻しなど、資金フローの変化が起きることで一時的に為替の円高がさらに進むことが予想される。これは短期的には日本株への逆風となろう。一方、日米金利差は絶対的な水準でみれば依然として大きい。 また、国内機関投資家の自国債券への回帰が起こって米国金利が上昇するケースも実現すれば、日米金利差は今の水準を維持するか、もしくはむしろ拡大する可能性もあるため、為替の円高の進展余地はさほど大きくはないとも考えられる。このため、いずれにしても日本株の調整は短期かつ軽微にとどまるのではないかと予想する。  個別については、目先は相場のボラティリティー(変動率)が高くなりやすいと考えられ、流動性リスクが大きい中小型株や新興株はやや厳しい局面が予想される。米経済のソフトランディング(軟着陸)期待や米ダウ平均の連騰劇を追い風に買われていた景気敏感株も、為替の円高余地が残されているなか、目先は手掛けづらさが意識されやすい。 直近の半導体企業の決算はまちまちで、車載向けを除けば全体的に悪い内容が目立っているため、ハイテク株も買いづらいか。残るは消極的な観点から、景気や為替との連動性の低い内需系ディフェンシブセクターへの投資が一考に値しよう。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/28 12:19 後場の投資戦略 半導体株の相場けん引局面はいったん終了か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32729.47;+61.13TOPIX;2283.02;-0.07[後場の投資戦略] 米ダウ平均は13日続伸と36年半ぶりの連騰劇を記録した。米連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)で予想通り0.25ポイントの利上げ再開を決定。一方、注目されたパウエル議長の会見では、今後の経済データ次第で政策を決めると従来通りの方針を再表明。ただ、追加利上げも利上げ停止もあり得るとしている。これまでよりは追加利上げに対するトーンが和らいだ一方、対照的に利上げ停止の可能性にはこれまでよりも積極的に触れていた印象を抱いた。米金利も小幅ながら低下しており、市場は利上げサイクル終了への期待を一段と高めたようだ。これに伴い、米経済のソフトランディング(軟着陸)への自信も深めつつあるようだ。 一方、米ハイテク株が冴えなかったことに加え、結果公表を明日に控える日本銀行の金融政策決定会合を前にした為替の円高が重しとなり、東京市場は引き続き方向感に乏しい展開。事前の観測報道もあり、今回の金融政策決定会合での政策修正観測は既に大きく後退しているが、2023年度の物価見通しが従来から大幅に上方修正される公算が大きいとの指摘もあり、やや懸念はくすぶっている様子。 たしかに、予想通りに現行の政策が維持されたとしても、物価見通しが大幅に引き上げられれば、近い将来における政策修正を意識せざるを得ない。市場関係者も9月、10月の会合での政策修正を予想している向きが依然として多く、結局、今回が現状維持となっても、政策修正観測はくすぶり続けるのかもしれない。一方で、米国では利上げ打ち止め期待が高まるなか、緩やかながら経済指標の軟化傾向が続いているため、今後は来年の利下げに対する期待をより強く織り込みはじめる展開が想定される。今後の経済データ次第ではあるが、現状の路線を大きく変えるデータが出てこない限りは、このような構図が徐々に支配的になってくると考えられる。その場合、日米金利差は依然として大きな水準ではあるが、モメンタムとしては今後の縮小傾向が予想されるため、さらなる円安進行というのは期待しにくくなりそうだ。 ほか、注目すべき点としてはやはりアドバンテスト<6857>の決算だろう。第1四半期の営業利益は前年同期比68%の減少となり、市場予想を46%程も下回った。通期計画は維持しているが、想定為替レートを円安に修正したことを踏まえると、実質的な下方修正だ。また、システムオンチップ(SoC) の市場見通しを再び下方修正した。SoC市場見通しの下方修正は前期第1四半期から数えてこれで5四半期連続だ。 多くの半導体株は昨年10月に底入れし、2023年に入ってからは年前半での在庫調整の一巡と年後半からの回復を期待して株価が大幅に上昇してきた。そこに、生成AI(人工知能)ブームが加わり、5月から株価は騰勢をさらに強めた。なかでもアドバンテストは生成AI関連の筆頭格として買われ、昨年末比で株価は一時2.6倍にまで上昇していた。 しかし、世界の半導体企業の決算を見続けているが、底入れするどころか、見通しを下方修正している企業がいまだに多い。一般的に株価は半年先を見据えて先取りで動くとされるが、見通しが外れ続けてきたことで、半導体企業の業績と株価のモメンタムはかつて見たことがない程にまで対照的なものとなっている。 むろん、米マイクロン・テクノロジーやアドバンテストと同様に前日決算を発表した韓国のSKハイニックスの決算を見れば、先んじて調整が始まっていたメモリ市場はたしかに最悪期を過ぎたということで見方が一致している。また、アドバンテストとSKハイニックスはともに生成AI向けの需要拡大に自信を見せており、こうした見方は先日決算を発表したディスコ<6146>の見解とも一致する。このように、一部で弱さが残りつつも最悪期を過ぎたうえに生成AI向け需要の拡大という構造的な変化も踏まえれば、ある程度の業績と株価のモメンタムギャップは許容できるのかもしれない。 ただ、ディスコもアドバンテストも生成AI向け需要の業績への寄与度がどの程度のものになるかについて具体的な言及がない。少なくとも、今決算シーズンにおけるこれまでの半導体企業の決算、すなわち蘭ASMLホールディングや台湾積体電路製造(TSMC)、アドバンテストなどの決算を見る限り、半導体企業に対する過剰な期待はいったん調整せざるを得ないように思われる。実際は、ディスコはその後も上場来高値を更新し、アドバンテストも本日は想定以上に底堅い動きを見せるなど、筆者の見方とは非整合的な結果になっているが、少なくとも半導体株が相場をけん引することは当面期待しにくいと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/27 12:17 後場の投資戦略 決算ハードルの高さを改めて確認 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32669.00;-13.51TOPIX;2282.59;-2.79[後場の投資戦略] 米ダウ平均が12日続伸と連騰記録をさらに伸ばした。ただ、日米ともに株価の動きは鈍くなってきている。日本時間27日の午前3時には米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が公表され、その後はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見が控えている。今会合での0.25ポイントの利上げはほぼ完全に織り込まれているため、結果自体にサプライズはないだろう。一方、注目されるのはパウエル議長の会見だ。次回9月会合では約8割の確率で利上げの停止が予想されており、今回の7月会合で利上げサイクルは終了するとの見方がコンセンサスになっている。 直近の米消費者物価指数(CPI)などの物価指標の鈍化傾向を見る限り、実際、こうした市場コンセンサスの見方は後から振り返ってみれば間違っていなかったとなる可能性は高い。パウエル議長も本心ではもう利上げを今回で最後にしてもいいと思っているかもしれない。しかし、今回の会見はまだタカ派色の濃い内容のままに終わりそうだ。 CPIの鈍化は続いているが、コアCPIの鈍化ペースは緩慢で、FRBの2%の目標も依然として大幅に上回っている。労働市場の逼迫の緩和ペースも遅く、雇用関連の指標の堅調さは特に際立っている。また、中国景気対策の期待や米経済のソフトランディング(軟着陸)期待からWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物(期近物)は4月以来となる1バレル=80ドル超えを窺う水準にまで上昇してきている。これまでCPIの大幅な鈍化に最も寄与してきたのはエネルギー価格であるため、足元の原油市況の上昇は今後のCPIの鈍化一服を示唆する。 こうした不確実性が残るなか、パウエル議長が利上げ停止をほのめかすことはまずないだろう。ましてや現在の米株式市場は主要株価指数が最高値奪回を目指す勢いで上昇している局面にある。このような状況下で利上げ停止を示唆すれば、株高が勢いづき、資産効果で消費が拡大し、インフレ再燃とうい最悪のシナリオの可能性が高まってしまう。 そのため、今会合でのパウエル議長の会見は引き続きタカ派な内容となろう。9月会合以降の追加利上げについては明言しないだろうが、従来通り、今後の経済データ次第というスタンスを維持するだろう。日米ともに株価指数が高値圏にあるなか、予想通りの会見内容になった場合に市場がどのような反応を見せるか見物だ。 前日は通称「GAFAM」と呼ばれる米IT大手の一角であるアルファベットとマイクロソフトが決算を取引終了後に発表した。アルファベットは予想を上回る決算が好感され、時間外取引で大きく上昇。一方、マイクロソフトは予想を上回る決算だったが、生成AI(人工知能)サービス強化に向けた設備投資の拡大によるコスト増加に対する懸念から売られている。アルファベットはマイクロソフトの生成AIサービスの台頭により、主力の検索エンジンでの広告収入への影響が懸念されていた一方、マイクロソフトは相次ぐ生成AI関連サービスの投入で事前の期待が高まっていた。株価もマイクロソフトが足元で上場来高値を更新していた一方、アルファベットは2022年2月に付けた高値をまだ上回れないでいた。 ここから改めて読み取れるのは、事前の期待値の高い銘柄の決算ハードルはかなり高いということだ。これまでに発表済みの決算を振り返っても、良好な内容でも期待値が高い銘柄の大半は売りが先行している。 こうした観点から考えると、本日の引け後に決算発表を予定しているアドバンテスト<6857>は非常に注目だ。四半期決算では冴えない内容が続いてきた一方、生成AI関連の筆頭格として株価は大幅な上昇を続けてきた。しかし、蘭ASMLホールディングや台湾積体電路製造(TSMC)の決算を背景に、半導体関連株への期待値は後退している。一方でアドバンテストの株価は依然として上場来高値圏にある。日経平均への寄与度も大きいため、同社が決算で高いハードルを越えられるかどうかを注視したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/26 12:19 後場の投資戦略 高まる景気楽観論、危うさはらむ [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32605.97;-94.97TOPIX;2282.98;+1.80[後場の投資戦略] 米ダウ平均が11日続伸と6年5カ月ぶりの連騰記録を見せた一方、前日に日本銀行の政策修正観測の後退を背景とした為替の円安を追い風に大幅上昇した日経平均は反動安が優勢の展開となっている。今晩から開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)や週末にかけて控える日銀金融政策決定会合、そして徐々に本格化していく企業決算を前に積極的な売買を手掛けにくい様子。前日も東証プライム市場の売買代金は3兆円割れと、値幅の割に商いは活発とはいえなかった。 本日は前日に続き景気敏感株が相場の主役となっている。前日は為替の円安を背景に自動車関連が大きく上昇したが、本日も三菱自動車工業<7211>の決算などを材料に自動車関連は全般強い動きとなっている。また、業績上方修正を受けて前日ストップ高となった東京製鐵<5423>は本日も小幅ながら続伸、JFEホールディングス<5411>、神戸製鋼所<5406>なども続伸するなど鉄鋼も堅調な展開が続いている。 鉄鋼以外にも原油市況の上昇を受けて鉱業、石油・石炭製品、非鉄金属などの景気敏感セクターが軒並み高い上昇率となっている。中国政府が不動産セクターの緩和策や地方政府の債務削減策を講じる方針と伝わったことが追い風になっているようだ。また、前日に発表された米7月製造業の購買担当者景気指数(PMI)が49.0と、6月(46.3)から低下すると想定していた市場予想(46.2)に反して大幅に改善したことや、米エネルギー会社のシェブロンの好決算などを背景に米ダウ平均が連騰劇を見せたことも景気敏感株の支援材料になっているもよう。 一方、対象的に半導体を中心としたハイテク株はこれまでの好調さから転じて一服感がより鮮明になっている。前期業績の上方修正を発表したレーザーテック<6920>も伸び悩むなど株価反応は冴えない。蘭ASMLホールディングや台湾積体電路製造(TSMC)の決算を見る限り、ハイテク株が再び相場のけん引役になっていくのはハードルが高まっている印象を抱く。 代わりに景気敏感株が相場のけん引役であり続けることができればよいだろうが、これに関してはあまり楽観視できないだろう。まず、上述した米製造業PMIは改善したとはいえ、依然として景況感の拡大・縮小の境界値である50を割り込んだままだ。また、一方で製造業の低調さを相殺してきた米サービス業の7月PMIは50を上回ったままではあったが、52.4と6月(54.4)から大きく低下し、市場予想(54.0)も下回った。 さらに、欧州に目を向けるとより悲惨だ。7月ユーロ圏総合PMIは48.9と6月(49.9)からさらに悪化し、昨年11月以降で最低を記録。特に製造業が深刻で、製造業PMIは42.7と6月(43.4)から低下し、改善するとの市場予想(43.6)に反して悪化した。サービス業PMIも51.7と50は上回ったが、市場予想(52.0)を下回った。 中国の景気対策についてもこれまでと同様、市場が期待するような大規模なものが打ち出されたわけではない。総じて世界景気に対する株式市場の見方はかなり楽観的と言わざるを得ない。 日本時間27日の午前3時にはFOMCの結果公表が予定されており、その後にはパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見が控えている。可能性としては高くないだろうが、さらなる追加利上げに積極的な姿勢が示された場合には、今会合での利上げサイクル終了を見込んでいる市場の期待に反することになる。この場合、世界景気のソフトランディング(軟着陸)を期待している株式市場の見方とは乖離があり、やはり現在の市場のシナリオは楽観的で危うさをはらんでいると言わざるを得ない。 自動車株をはじめ日本株の追い風になっている為替の円安についても楽観視は危険だ。たしかに、観測報道の通り、今週の日銀金融政策決定会合において現行の政策が維持された場合には、一時的にさらに円安が進む可能性はある。しかし、思惑は根強く、結局、政策修正観測は次会合以降に引き継がれるだけとも言える。また、欧米の景気指標に減速感がみられるなか、いつまでも日銀の緩和策の維持だけで円安基調を語れるわけでもないだろう。足元の景気敏感株を中心とした株式市場の上昇には冷静に対応したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/25 12:24 後場の投資戦略 後場もプラス圏での堅調推移続くか [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32700.71;+396.46TOPIX;2280.88;+18.68[後場の投資戦略] 本日の日経平均はシカゴ先物にサヤ寄せする格好から買いが先行、その後はプラス圏で堅調に推移している。ただ、ナスダック100先物のリバランス影響を見極めたいとの向きもあると見られ、積極的に買い進む動きにはなりにくいとの声もきかれている。 新興市場は堅調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、じりじりと上げ幅を広げている。前週末に大幅下落となった分の押し目買いが優勢に。ただ、為替の円安が再び進行するなか、決算発表が本格化するため東証プライム銘柄中心に注目が集まっており、新興株は相対的に冴えないパフォーマンスになっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.66%高、東証グロース市場Core指数は0.90%高。 さて、今週は注目イベントが多数ある。24日に米国のナスダック100指数のリバランス実施、25日に米FOMC(米連邦公開市場委員会)やIMF(国際通貨基金)の世界経済見通し、26日にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長会見、米国の6月新築住宅販売件数、27日に米4-6月期GDP(国内総生産)速報値、28日に米国の6月個人所得、などの発表が予定されている。国内では、27日-28日に日銀金融政策決定会合、28日には植田日銀総裁の会見が予定されており、明日以降のイベントに備えて様子見姿勢を強めている投資家が多いだろう。 ナスダック100指数のリバランスでは、アップルやテスラなど大型ハイテク株7銘柄の構成比を見直す。構成比は、現在の56%弱から約44%程度に下がるようだ。ナスダックのウェブサイトに掲載された文書によると、指数の最大構成銘柄群の割合があらかじめ設定された基準値を超えた場合、特定の状況下で特別なリバランスが実施されるという。JPモルガン・チェースのストラテジストによると、リバランスにより中小型の構成銘柄の存在感が高まる見込みで、双方向の取引は600億ドル(約8兆4000億円)に達する可能性があるようだ。今週は、大型ハイテク株よりも中小型の構成銘柄の値動きに注目が集まりそうだ。 話は変わって、米FOMCと欧州中央銀行(ECB)はいずれも政策金利を0.25ポイント引き上げると予想されている。CME FedWatch ツールでは、25日開催の7月FOMCでの0.25ポイントの利上げがほぼ100%織り込まれている。ただ、FRBは6月FOMCで公表した政策金利見通し(ドットチャート)で年内2回の追加利上げを示したほか、パウエル議長も度々年内残り2回の追加利上げを主張していた。実際、パウエル議長とECBのラガルド総裁はいずれも、インフレは依然として高過ぎるとこれまで警告していた。 今回の会合後は、追加利上げを実施する可能性が高いか、はたまた長期の利上げ休止を計画しているか、政策当局者からのシグナルに大きな注目が集まっている。現状、次回9月FOMCでは据え置きが8割以上の確率で織り込まれている。仮に、パウエル議長が従来からの姿勢を維持して年内最後の利上げ可能性を示唆した場合にはタカ派サプライズとなり、株価にネガティブな影響があることは頭の片隅に置いておきたい。 そのほか、日本取引所グループが前週20日に発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は7月第2週(10~14日)に現物株を2793億円買い越しており、3週連続で買い越したことが明らかになった。一方、個人投資家は1801億円の買い越しで2週連続の買い越し。年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は2603億円の売り越しだった。国内では主力企業の決算発表を控える中ではあるが、引き続き海外勢の動きに加えて個人投資家の動向にも注意しておきたい。 さて、後場の日経平均はプラス圏での推移を継続できるか。前述のように今週は注目イベントが多いほか、国内外の企業決算が本格化することから、積極的な買いを手控える向きもありそうだ。(山本泰三) <AK> 2023/07/24 12:20 後場の投資戦略 TSMC決算受けて半導体株の先行きに不透明感 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32417.92;-72.60TOPIX;2266.75;+5.85[後場の投資戦略] 前日の米株式市場ではナスダック総合指数が-2.05%、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が-3.62%と久々に大幅な下落率となった。ナスダックについては電気自動車のテスラと動画配信サービスのネットフリックスの決算が市場の期待値に届かなかったことが要因の一つとして挙げられる。両社ともに株価は年始からすでに大幅に上昇していたこともあり、利益確定売りが膨らみ、テスラは-9.7%、ネットフリックスは-8.4%とそれぞれ大きく下落した。 SOX指数については、半導体受託製造の世界最大手で米エヌビディアを大口顧客にもつ台湾積体電路製造(TSMC)の決算が大きな要因だ。TSMCは前日に第2四半期(4-6月)決算を発表。四半期ベースでは約4年ぶりの減収減益となったが、売上高や利益は市場予想を上回った。しかし、7-9月期のガイダンスは主要項目が軒並み市場予想を下回った。また、2023年12月期通期の売上高について1桁の前半から半ばの減少としていた計画を10%前後の減少に下方修正した。生成AI(人工知能)で盛り上がっていた半導体株ブームはいったん小休止となりそうだ。 一方、前日に第1四半期(4-6月)決算を発表したディスコ<6146>は下げ渋って上昇に転じている。営業利益は前年同期比21.4%減と市場予想を下振れたが、先んじて発表済みの単体速報で概ね織り込み済みだったようだ。一方で、7-9月期の出荷額ガイダンスが期待値を上振れたこと、生成AI関連需要が早ければ第3四半期(10-12月)には出荷に貢献してくる可能性が示されたことが好感されたようだ。 ただ、ディスコは生成AI関連需要の具体的な規模については非開示としており、依然として期待先行の印象が強い。パワー半導体という強力な支援材料がもう一つ備わっていることもあり、ディスコの決算反応を半導体株全体に当てはめない方がよいだろう。 他方、本日の日経平均は寄り付き直後に400円超安となったところから切り返し、ほぼ下げを帳消しにしてきている。為替の円安効果も大きいが、ダウ平均の連騰劇を受けて景気敏感セクターに買いが入っていることが半導体株安の影響を和らげているようだ。医薬品や電気・ガス、建設、食料品などディフェンシブなセクターも買われており、東証プライム市場の騰落状況をみても値上がり銘柄数が僅かながら値下がり銘柄数を上回っている。 ただ、改めて生成AIブームで盛り上がっていた半導体株については、今回のTSMCの決算を受けて、いったん上昇一服の局面に入っていく可能性が高そうだ。半導体株は相場のけん引役であったため、チャートが悪化している日経平均などの好転もしばらく見込みにくいと考えられる。この間、本日のように景気敏感セクターやディフェンシブなセクターが買われ全体を支えてくれれば指数の下値は支えられるだろうが、こうした構図が長く続くかはやや心もとない。 来週からは国内でも企業の決算発表が本格化してくる。前日に東証プライム市場の売買代金が5月11日以来の3兆円割れとなるなど、足元では商いの低調が気がかりだ。決算シーズンにより再び売買が活発化してくるか、その際に商いを伴って日経平均やTOPIX(東証株価指数)が25日移動平均線など上値抵抗線を超えられるかが今後の焦点となろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/21 12:26 後場の投資戦略 決算シーズンへの警戒感高まる、TSMC決算に注目 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32521.88;-374.15TOPIX;2263.34;-15.63[後場の投資戦略] 前日、日経平均は引けにかけて大きく上げ幅を拡大し、日経225先物は20日の夜間取引において一時33000円を回復した。しかし、本日の日経平均は朝方から売りが先行し、寄り付きから前日比マイナス圏での推移が続いている。下げ幅を徐々に広げる形で前日とは打って変わって弱い印象を受ける。 そもそも前日の引けにかけた強さも需給要因に過ぎないと思われる。前日の東証プライム市場の売買代金は3兆2000円弱と18日の3兆1000億円弱に続き、商いは5月以降でみると低調だった。前日の日経225先物およびTOPIX(東証株価指数)先物の日中売買高もそれぞれ3万枚台前半と値幅の割に商いは低調だった。今後、本格化していく企業決算や来週に控える日米の金融政策決定会合を前に全体的に様子見ムードが強まっており、薄商いのなか引け間際の買いが値幅を伴った上昇につながったと推察される。 前日の米国市場ではダウ平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合指数らが揃って2022年4月以来の高値を付けた。ただ、米国市場の引け後に発表された決算を受けて、電気自動車のテスラと動画配信サービスのネットフリックスは揃って時間外取引で大きく下落している。テスラは4%超、ネットフリックスは8%超の下落率となっている。 ネットフリックスは会員数が市場予想を大幅に上回ったものの、売上高実績と翌四半期の売上高見通しが市場予想を下回り、素直に売りが先行。一方、テスラは値下げによって粗利益率が市場予想を下回ったものの、売上高と一株利益は揃って予想を上回った。株価も時間外取引で買いが先行したが、すぐに下落に転じ、その後下げ幅を広げる形となった。 東京市場でも安川電機<6506>やファーストリテイリング<9983>の決算後の反応を見る限り、株価が高値圏にある銘柄については、決算後は出尽くし感が先行しやすいもよう。今後の企業決算シーズンに対する警戒感は高まったといえそうだ。 本日は半導体受託製造の世界最大手であり米エヌビディアを大口顧客にもつ台湾積体電路製造(TSMC)の決算が予定されている。生成AI(人工知能)ブームを背景に日米ともに半導体株の上昇が相場をけん引してきたが、足元では期待だけで買う局面は終わりを迎えつつあり、今後は決算で実績を確かめていく局面に入ってきたとみられる。 ただ、TSMCの会長は6月上旬に、2023年の設備投資計画について、レンジで示していた下限に近くなるとの見通しを示し、実質的な下方修正を発表した。生成AI需要が本格的に業績に寄与するのは2024年以降とも言われており、半導体株は期待が先行しすぎた印象が否めない。TSMCの決算で期待が剥落しないかに注意が必要だろう。 また、前日は最先端の半導体露光装置メーカーとして世界トップの蘭ASMLホールディングが4-6月期決算を発表した。売上高と一株当たり利益はともに市場予想を上回った。一方、受注高の伸びは1-3月期に続き前年同期比46%超の減少となったが、こちらも市場予想は上回ったもよう。ただ、決算を受けて同社株価は下落、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)指数も前日は1%を超える下落となった。 ASMLの受注動向からも生成AI需要の業績への本格的な寄与は当面先であることが示唆されており、また高値圏にある銘柄は出尽くし感が先行しやすいことが確認された。本日のTSMC、そして来週以降の日米の半導体企業の決算には注意すべきだろう。 景気や為替の先行きが依然として不透明ななか、引き続き景気敏感株や期待先行ですでに大きく上昇しているハイテク株は避けた方がよいと考える。景況感との連動性の小さい情報・通信セクターなどから、出遅れ感の強いグロース株を選好することが望ましいと考える。ほか、富裕層や訪日外国人観光客からの旺盛な需要が続く一方、コスト構造改革の進展などが確認されている大手百貨店銘柄などが注目できそうだ。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/20 12:21 後場の投資戦略 米株高と円安で上昇も懸念はくすぶる [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32810.30;+316.41TOPIX;2272.91;+20.63[後場の投資戦略] 前日、朝方の上昇後に急失速して冴えない展開だった日経平均は、本日は再び32500円を大きく超え、前日の高値を上回っている。一方、25日移動平均線手前で上昇一服となっており、同線が上値抵抗線として意識される格好となっている。本日の株高の要因は米国株高と為替の円高一服が挙げられる。 米6月小売売上高は前月比+0.2%と市場予想(+0.5%)を下回り、自動車・同部品を除いた売上高も+0.2%と市場予想(+0.3%)を下振れた。また、米6月鉱工業生産も前月比-0.5%と市場予想(横ばい)を下回った。 一方、米6月小売売上高については飲食店と自動車ディーラー、建材店、ガソリンスタンドを除いたコア売上高が前月比+0.6%と5月(+0.3%)から加速し、市場予想(0.3%)も大きく上回った。 さらに、先週末に発表されたJPモルガン・チェースやシティ・グループに続き、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカの金融大手の決算も良好だったことで、景気後退懸念が緩和、ソフトランディング(軟着陸)期待が高まり、景気敏感株を中心に買われた。また、米長期金利が低下したことやマイクロソフトの新サービスの発表を受けて、生成AI(人工知能)関連株の買いが復活し、ハイテク株も上昇した。 良いとこ取りの相場展開だった米株高の流れに加え、日本銀行の植田和男総裁が前日、「(物価目標達成には)まだ距離がある」などと発言し、粘り強く金融緩和を続ける姿勢を再表明した。これを受けて、先週末まで日本株の大きな重石になっていた為替の円高の一服が一段と鮮明になり、本日の日本株高に寄与している。 ただ、植田日銀総裁はかねてからイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正は「サプライズを伴わざるを得ない」としている。また、為替の円高への反転のきっかけになった内田日銀副総裁の発言も踏まえれば、依然として来週27-28日に開催される日銀金融政策決定会合での政策修正観測はくすぶる。今後は秋ごろから政府の物価抑制策の効果も切れていくため、政治的な観点からも為替の円安は許容しにくい背景もある。 米商品先物取引委員会(CFTC)によると、投機筋の円売りポジションは7月11日時点で11万7182枚だった。2018年以降で最大を記録した7月3日からほぼ横ばいで、巨大な円の買い戻し圧力はまだ大幅に残されているようだ。日経平均とTOPIX(東証株価指数)はともにまだ25日線を明確に上回ることができておらず、短期調整局面を抜け出せたとまでは言いにくい。景気・為替との連動性の大きい輸出系大型株への上値追いには依然慎重に臨むべきと思われ、引き続き米金利の低下が支援材料となりやすい内需系グロース(成長)株を選好すべきと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/19 12:26 後場の投資戦略 買い先行も上げ幅は限定的 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32418.25;+26.99TOPIX;2246.06;+6.96[後場の投資戦略] 今日の東京株式市場は買いが先行した。東京市場が3連休中、ダウ平均が0.55%、ナスダックが0.75%上昇したことが東京市場の株価の支えとなった。また、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が昨日は2.32%上昇となっており、東京市場で半導体関連株の株価支援要因となった。さらに、円安・ドル高水準となり輸出株などの追い風となった。 新興市場は強弱入り混じる展開となっている。マザーズ指数は上昇スタートとなり、その後はプラス圏で推移しているが、上げ幅は限定的となっている。グロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、即座にマイナス圏に転落した。朝方に下げ幅を広げると、その後はマイナス圏で軟調推移となった。決算発表を終えた個別株物色が中心となっている。売買代金上位銘柄や直近IPO銘柄の下落を横目に地合いが不安定になってきている中、個人投資家の資金の逃げ足の速さには注意したい。前引け時点での東証マザーズ指数は0.30%高、東証グロース市場Core指数は0.84%安。 さて、中国国家統計局が17日発表した2023年4-6月の国内総生産(GDP)が6.3%増と、予想の6.9%(QUICK集計の市場予想の平均)を下回った。前四半期と比べた伸び率としてはプラス0.8%にとどまり、景気回復の勢いは減速している。また、6月の小売売上高は大きく減速し、上期の不動産投資も縮小した。景気回復の勢いが減速した要因は、関連産業を含めるとGDPの4分の1ほどを占めるとされる不動産市場の低迷の長期化や輸出の減少が挙げられている。 また、今回の中国4-6月GDPの発表を受けて、ウォール街では中国の経済成長率見通しを軒並み引き下げている。JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレー、シティグループなどは今年の中国の経済成長率を5%に下方修正した。中国の景気回復にはかなりの脆弱さがあり、政府による刺激策は比較的抑制されているとの見方が背景となっているようだ。中国経済の減速感が意識されたことは、国内の投資家心理を悪化させる要因の一つとなっており、本日の日経平均の上昇は限定的となっている。 一方、イエレン米財務長官は、中国の成長減速は米国にある程度の悪影響を及ぼす可能性があるとしつつも、米国のリセッション(景気後退)は想定していないと語っている。労働市場は非常に力強く、働き盛りの人の労働市場参入を後押ししているが、「賃金の伸びは緩やかになりつつありインフレは落ち着きつつある」と指摘。また、ゴールドマンサックスでは、先週の米インフレ統計を受けて今後1年間の米リセッション確率を20%と従来の25%から引き下げている。さらに、米連邦公開市場委員会(FOMC)は来週の会合で政策金利を再度引き上げる見通しだが、最後の利上げになると想定しているようだ。今後、インフレ圧力緩和の継続や利上げの終了が現実味を帯びてくると、直近堅調に推移している株価にとってもさらなるポジティブ材料となろう。 そのほか、日本取引所グループが前週13日に発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は7月第1週(3~7日)に現物株を314億円買い越したことが明らかになった。前週(3042億円の買い越し)から買い越し額は縮小しており、海外勢の買いの勢いは足元でやや鈍りつつある。一方、個人投資家は現物株を2週ぶりに買い越しており、買い越し額は3687億円、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は再び売り越しに転じた。引き続き海外勢の動きに加えて個人投資家の動向にも注意しておきたい。 さて、後場の日経平均はプラス圏での推移を継続できるか。今週から米企業、来週からは国内企業の4-6月期決算発表が本格化することから、決算内容を見極めたいとして積極的ない買いを手控える向きもありそうだ。また、ハイテク株や景気敏感株といった東証プライム主力株への投資は様子見ムードが台頭する可能性もある。本日は、一足先に決算を発表している企業へ注目が集まっている。引き続き個別株物色が中心となるか注目しておきたい。(山本泰三) <AK> 2023/07/18 12:25 後場の投資戦略 ドル円75日線割れで円高・ドル安は当面継続か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32493.82;+74.49TOPIX;2240.86;-2.13[後場の投資戦略] 前日に急反発した日経平均だが、日経225先物は14日の夜間取引ではさらに上値を伸ばし、一時32800円まで上昇していた。しかし、本日の日経平均は高寄り後に32780円まで上昇しながら急失速し、早い段階で32500円を割り込んだ。下落に転じた後、32200円台前半まで下げ幅を広げるなど、前場だけで高値と安値の差は550円超にも及ぶ。 本日は7月限オプション取引の特別清算指数(SQ)算出日であり、前日からの値幅を伴った急激な変動はSQに絡んだ売買が影響していた可能性が高い。実際、前日は日経平均の上昇幅に比して、東証プライム市場の売買代金は3兆2829億円と5月以降の動向と比べると低水準にとどまった。オプションなどデリバティブ取引が主体の上げ相場だったと推察される。本日の高寄り後の失速ぶりも同様の背景と思われる。 また、為替の円高進行が止まらないことが日本株の上値抑制要因になっている。前日に発表された米6月卸売物価指数(PPI)は総合および食品・エネルギーを除いたコア指数ともに、前年同月比と前月比で揃って市場予想を下回った。米6月消費者物価指数(CPI)に続く下振れで、インフレ収束期待はさらに高まる格好となった。米金利は幅広い年限でさらに低下し、米10年債利回りは13日、3.77%(前日比-0.09ポイント)まで低下。一方、日本銀行の政策修正観測の高まりが続いていることで、ドル円は137円台半ば前後まで一段と下落。昨日の東京時間からさらに1円もドル安・円高が進んだ。 米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が大幅に5日続伸したことで、東京市場ではアドバンテスト<6857>など半導体株が強い動きを見せているが、半導体以外のハイテク株は米ナスダック指数が大幅続伸した割には冴えないものが目立つ。為替の円高が日本株の相対的な弱さに明確に結びついていると捉えられる。 米商品先物取引委員会(CFTC)によると、7月3日時点での投機筋の円売りポジションは2018年以降で最大水準にまで膨れ上がっている。米国でのディスインフレへの思惑と米金利の急低下、そして日銀の政策修正観測により、こうした巨大な円売りポジションの巻き戻しが足元で急速に進んでいると推察される。 ドル円は75日移動平均線が位置する138円をあっさりと割り込んできた。これにより、今月27-28日に開催される日銀金融政策決定会合で政策の現状維持が確認されるまでは、ドル安・円高のトレンドがじわじわと続く可能性が高まってきた。 7月下旬からは4-6月期決算の発表が始まる。多くの輸出企業が想定為替レートとして1ドル=125-135円を設定しているなか、現状の水準であればまだ為替の恩恵は期待できるが、円安による業績上振れ期待はドル円が145円まで上昇した6月下旬ころからは後退せざるを得ない。引き続き、米金利の上昇一服がプラス効果として働き、かつ景気・為替との連動性の低い内需系グロース(成長)セクターへの投資が魅力的と考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/14 12:26 後場の投資戦略 米インフレ収束期待が支援、円高トレンドは一服なるか [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32357.04;+413.11TOPIX;2242.96;+21.48[後場の投資戦略] 前日に発表された米6月消費者物価指数(CPI)は総合および食品・エネルギーを除いたコア指数ともに、前年同月比と前月比で揃って予想以上に鈍化し、インフレ収束期待が高まった。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げ観測は引き続き高いが、年内2回の追加利上げ観測は大きく後退し、9月FOMCでは据え置きの予想がコンセンサスになってきている。 米CPIの下振れを受けて米金利が幅広い年限で大きく低下した一方、日本銀行の政策修正観測の高まりが続いていることで、ドル円は138円台半ばまで一段と下落。急速な円高進行が重石となる形で、13日の夜間取引における日経225先物は一時32250円まで上昇しながら、終値では32030円まで大きく失速していた。 本日の日経平均も高く寄り付いた直後に失速し、早々に回復したばかりの32000円を一時割り込む場面があったため、嫌な流れになっている印象を受けた。ただ、その後に切り返して大きく上げ幅を広げ、前日の下落分を帳消しにしてきたことは目先の安心感につながっている。 一方、前日大きく下落した東エレク<8035>などのハイテク銘柄の一部には反発力の鈍さがやや感じられる。アドバンテスト<6857>、ディスコ<6146>など半導体株の一角はまだ25日移動平均線上を維持しているが、東エレクは25日線を依然として下回ったままである。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の追加投資による宣伝効果で5月以降の上昇相場の象徴銘柄でもあった三井物産<8031>、三菱商事<8058>、丸紅<8002>などの大手商社株も本日は上昇しているが、25日線割れの状態が続いており、トレンドの悪化は否めない。 また、本日の上昇率上位のセクターは概ね前日の下落率上位のセクターと一致しており、対照的に前日に下落率上位だったセクターが本日は上昇率上位に並ぶなど、全体的に日替わり物色の域を出ていない印象もある。 他方、米国ではナスダック総合指数とS&P500種株価指数が揃って年初来高値を更新した。米10年債利回りが再び大きく4%を割り込み、期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)を差し引いた米10年実質金利も、7日には1.79%と新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降で最高水準まで上昇していたが、12日には1.6%まで低下した。金利の上昇一服とともにハイテク株買いが復活し、米主要株価指数が高値を更新してきている点は今の相場の基調の強さが続いていることを示唆している。 日経平均も円高が重石とはいえ、ドル円は足元で75日移動平均線が位置する138円手前で下げ渋っており、テクニカル的には円高・ドル安にも一服感が出てきそうな頃合いだ。米国株の堅調な地合いが続き、円高の一服感も加われば、日経平均も大きく崩れることなく、32000円水準での値固めが進んでいきそうだ。 ただ、景気と為替の動向は依然として不透明感が強いため、これらの要素との連動性が強いセクターへの投資は妙味が薄いと考える。米金利の上昇一服がプラス効果として働き、かつ景気・為替との連動性の低い内需系グロース(成長)セクターへの投資が依然として望ましいと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/13 12:26 後場の投資戦略 円安・日本株高トレンドの反転が加速 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31957.86;-245.71TOPIX;2223.55;-12.85[後場の投資戦略] 日経平均は朝方から売りが膨らみ、6月9日以来の32000円割れとなっている。32000円近辺でいったん下げ渋ることもなく、あっさりと同水準を割り込み、その後一時31700円台まで下げ幅を広げるなど、売り圧力が強い印象を受ける。ドル円は1カ月ぶりに140円を割り込んでおり、これまでの円安・株高のトレンド反転に拍車がかかっている。日本銀行が7月の金融政策決定会合で政策修正に踏み切るとの思惑が高まっており、これまでの安い円を借りて高金利通貨を買う円キャリー取引の巻き戻しが進んでいるようだ。 今晩に発表される米6月消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.1%と5月(+4.0%)から大幅に鈍化し、2021年3月以降で最も低い伸びが予想されている。食品・エネルギーを除いたコア指数でも同+5.0%と5月(+5.3%)から鈍化が見込まれている。インフレ鈍化を想定して米10年債利回りは11日、4%を割れており、今晩の米CPIの結果発表後の反応を予想した先回りの円買い戻しも入っていそうだ。米CPIの結果発表後にドル円が即座に140円を回復できるかが目先の焦点となりそうだが、日銀金融政策決定会合を確認するまではドル円の本格的な回復は見込みにくいだろう。 値持ちのよかった東京エレクトロン<8035>やルネサスエレクトロニクス<6723>などの半導体株で、25日移動平均線を割り込んだ銘柄が確認されていることも、今後の相場の先行きを懸念させる材料だ。事前の市場コンセンサスでは、今晩の米CPIは予想を下回る確率の方が高く、株高の材料になり得るとみている向きが多いようだ。想定通りに結果が下振れた場合に、金利低下・株高となるのか、それを受けて明日の東京市場でも半導体株が持ち直してトレンドを維持するのかといったところが注目だろう。反面、今回のCPIが上振れた場合に備えたポジションが少ないように見受けられ、上振れた場合のネガティブなショックにも注意を払っておくべきだろう。 後場は、前引けにかけて下げ渋った日経平均が32000円を回復できるかに注目だ。ただ、今晩の米CPIを無難に消化したとしても、13日には米6月卸売物価指数(PPI)、週末には米銀行大手の決算が控える。また何より、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)および日銀金融政策決定会合の結果を確認しない限りは動きにくい。さらに、期待先行で株価が上昇してきた企業にとっては、その先に控える4-6月期決算のハードルも安川電機<6506>の反応から分かるように低くはない。景気と為替の先行き不透明感が強いなか、当面はこれらの要素と相関性の低い内需系の中小型グロース(成長)株などに妙味があると考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/12 12:26 後場の投資戦略 需給悪化イベント通過も上値の重さ変わらず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32279.88;+90.15TOPIX;2246.24;+2.91[後場の投資戦略] 上場投資信託(ETF)分配金捻出に伴う換金売りが前日で一巡したことで、あく抜け感が台頭する期待もあったが、本日の日経平均は伸び悩んでいる。何度か騰勢を強める場面もあったが、結局32500円が近づく度に売り戻され、前引けにかけては前日終値に近い水準まで失速した。 日経平均および東証株価指数(TOPIX)ともに25日移動平均線を下回った状態が3日以上継続、日足ローソク足は4本連続で陰線を形成しており、テクニカル的にはトレンドが明らかに悪化している。 先週後半から円高・ドル安に転じている為替のトレンドが一段と強まっていることも日本株の重石だ。ドル円は前日から25日線を割り込んできており、本日は1ドル=141円も割り込んできている。 日本の期待インフレ率および10年債利回りに代表される長期金利が先週末から大きく上昇してきている。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、実質賃金は依然としてマイナスではあるものの、名目賃金は着実に増加してきており、実質賃金のマイナス幅も縮小してきている。こうした背景から、日本でもインフレが定着する期待が高まっているようだ。 加えて、先週末の日本銀行の内田副総裁の発言もあり、7月の日銀金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)が修正もしくは撤廃されるとの思惑が強まっているようで、これが円高・ドル安の要因と推察される。 7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが再開され、米連邦準備制度理事会(FRB)がさらなる追加利上げを示唆し、さらに日銀金融政策決定会合で政策の現状維持が確認されれば、再び円安・ドル高に転じる可能性は残されていそうだ。 ただ、米ニューヨーク連銀が10日に発表した6月の消費者調査で、1年先のインフレ期待は3.8%と5月(4.1%)から低下し、2021年4月以来の低水準を記録したほか、米自動車オークション会社のマンハイムが集計した中古車価格指数によると、6月の中古車価格は前月比4.2%低下し、2020年4月以来の急激な落ち込みとなった。 今週発表される米国の物価指標の結果次第ではあるが、FRBの追加利上げは多く見積もっても2~3回と思われ、市場がすでに2回目まで織り込みはじめていることを考えれば、追加利上げ回数が市場想定比で大きく上振れる展開は考えにくくなっている。一方で、時間軸は長くても、日銀の政策修正が意識される状況は続くとみられ、再び円安・ドル高が大きく進むシナリオは想定しづらい。仮に7月の日銀金融政策決定会合で修正があれば尚更であり、この場合、ドル円は135円程度までの調整を強いられそうだ。 ほか、主力製造業決算の前哨戦として注目された安川電機<6506>の決算では、受注高が前四半期比で増加し、底入れ感が見られたものの、業績・受注ともに市場コンセンサスに沿った水準とみられ、前日の同社株価は大きく下落した。むしろ、受注高は会社計画比でやや弱含みのもよう。また半導体投資の回復が見えていないことで、第2四半期の受注は伸び悩むとの見通しも示されたという。 日本株は4月以降、大きく上昇してきただけに、決算では余程のポジティブサプライズでもない限り、株価が一段と上昇することは難しいだろう。これから迎える決算シーズンのハードルが高いことが今回の安川電機の決算から窺えた。上述した為替の不透明感も踏まえると、7月の日本株は少なくとも日柄調整を余儀なくされそうだ。この間、本日の指数別パフォーマンスにおいて相対的な強さを見せているマザーズ指数から窺えるように、中小型株や新興株に対する幕間繋ぎの物色に期待したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/11 12:25 後場の投資戦略 前週に続いて売り手優位の状況続く [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32173.88;-214.54TOPIX;2244.03;-10.87[後場の投資戦略] シカゴ日経225先物清算値は、大阪比35円高の32465円。本日の日経平均はわずかに上昇して始まったものの、その後は即座にマイナスに転じ、再びプラス圏に浮上するやや方向感に欠ける展開に。引けにかけてはパッシブ型ETFの決算に伴う分配金捻出のための売り需要が見込まれるなか、積極的な売買は手控えられやすいとの指摘も聞かれている。 新興市場も軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落スタート後、下げ幅を縮小する動きを見せるも軟調推移を継続。米雇用統計の結果を受けて国内の個人投資家心理はややネガティブに反応。また、米長期金利は引き続き4%台で推移しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい地合いが続いている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.24%安、東証グロース市場Core指数は1.03%安。 さて、前週末7日には6月米雇用統計が発表された。非農業部門雇用者数が20万9000人と市場予想(23万人)を下回った一方で、平均時給については前年同月比4.4%増(予想4.2%増)となり、3カ月連続で前月比0.4%増(予想0.3%増)となった。失業率は前月比0.1pt減の3.6%となり、ADP雇用リポートや新規失業保険申請件数などと合わせても、米労働市場は依然として逼迫している状況が確認された。前週の一連の雇用指標の結果を受けて金融引き締めが長期化する懸念が高まっている。 今週も注目材料が目白押しとなる。12日に米6月消費者物価指数(CPI)、13日には米6月卸売物価指数(PPI)が発表される。CPIは、ガソリン小売価格の下落が主に影響して前年同月比3.1%上昇と2021年3月以降で最も低い伸びが予想されている。ただ、食品・エネルギーを除いたコア指数では同5.0%上昇する予想で、予想を上振れる結果となった場合は25・26日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げ再開が濃厚となる。また、今週は米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁とFRBのウォラー理事、クリーブランド連銀のメスター総裁、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁が発言を予定している。12日には地区連銀経済報告(ベージュブック)も公表されるため、インフレ指標の結果を含めて注目する必要がある。 そのほか、日本取引所グループが前週6日に発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は6月第4週(26~30日)に現物株を3041億円買い越したことが明らかになった。一方、個人投資家は現物株を2週間ぶりに売り越し、6月第4週の売り越し額は1027億円だった。海外勢の買いの勢いは足元でやや鈍りつつあるが、7月に入ってからの日経平均株価は下落基調にある。7月以降の海外投資家の動向には引き続き注目が集まりそうで、投資部門別売買動向は欠かさずチェックしていきたい。 さて、後場の日経平均はマイナス圏での推移が続くか。今週に重要指標の発表やFRB高官の発言が控えているほか、その先には主要企業の4-6月期決算も控えている。前週に続いて、ハイテク株や景気敏感株といった東証プライム主力株への投資は様子見ムードが台頭しそうで、ディフェンシブセクターや出遅れ感がある中小型株などに注目が集まりそうだ。新興株にも幕間つなぎの物色が向かうか注目しておきたい。(山本泰三) <AK> 2023/07/10 12:26 後場の投資戦略 米10年実質金利の高値更新で警戒感 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32618.88;-154.14TOPIX;2268.10;-8.98[後場の投資戦略] 本日の日経平均は朝方に一時445円下落した後は即座に下げ渋り、底堅さを見せている。一方、前日の米株式市場では主要株価3指数が揃って続落、一時はナスダック指数も1%を大きく超える下落率で推移する場面があった。 要因は強すぎる米労働市場だ。前日は経済指標が多く発表された。驚きをもって捉えられたのが米6月ADP雇用リポートだ。6月の民間雇用者数は49万7000人の増加と、市場予想を2倍も上回る大幅な上振れとなった。また、米新規失業保険申請件数が前週比1万2000件増加の24万8000件となった一方、失業保険の継続受給者数は1万3000人減少の172万人となり、総じて労働市場の堅調ぶりが目立つ結果となった。さらに、再就職を斡旋する会社のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、6月に発表された人員削減数は5月からほぼ半減、8カ月ぶりの低水準になったという。 ほか、米供給管理協会(ISM)の6月非製造業(サービス業)景況指数は53.9と5月(50.3)から大幅に上昇し、市場予想(51.2)も大きく上振れた。項目別でみると、価格が54.1と5月(56.2)から低下したものの、依然として拡大・縮小の分岐点である50を上回った状態が続いた。一方、景況感は59.2と5月(51.5)から急拡大し、新規受注も55.5と5月(52.9)から拡大。そして、5月は49.2と50割れとなっていた雇用が53.1と再び50を大幅に超えてきた。総じてサービス業の景況感が想定以上に強いことが確認され、上述の雇用指標と相まって一気に米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ観測が高まった。 これらの結果を受けて、6日、米2年債利回りは5%を超えて2007年以来の高水準を記録したほか、米10年債利回りは遂に4%を超え、年初来の水準にまで上昇した。今回の経済指標の結果は製造業を除けば総じて米国経済が堅調であることを示唆しており、額面通りに解釈すればソフトランディング(軟着陸)への期待が高まるものであった。 しかし、結果は堅調を通り越して強すぎる内容といえ、FRBの追加利上げが1回ではとどまらない可能性が意識されはじめた。既に5%を超えている政策金利が今後さらに大きく引き上げられるとなると、再び累積した利上げ効果が時間差を伴って実体経済へ悪影響を及ぼすリスクが想起される。利上げが過剰になればソフトランディングで済むはずのものがハードランディング(金利や為替、株価などの激変を伴った経済の悪化)に陥る可能性もあり、市場はこうしたリスクも意識しはじめている可能性がある。前日の米株式市場でテクノロジーやソフトウェアのセクターが上昇した一方、エネルギーや耐久消費財、小売り、銀行など景気敏感系のセクターが大きく下落した物色動向からも、そうした投資家心理が窺える。 また、米長期金利の急伸はやはり気がかりだ。米10年債利回りが4%を超えた一方、期待インフレ率を低位にとどまっている。このため、米10年債利回りから期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)を差し引いた米10年実質金利は6日、1.77%まで上昇し、昨年10月中旬に付けた高値を更新、過去10年における最高水準にまで上昇した。これはすでに割高感のある米国株式を中心に株式市場にはネガティブであるはずだ。今のところ、株式市場は過度な反応は見せていないが、少なくとも債券市場は異変を察知しているようで、今後の株式市場の動きにも注意が必要だろう。 日本株については、米国で強い経済指標が相次いで発表された一方、為替が前日からむしろ円高気味に動いていることもマイナス要因だ。米債利回りが幅広い年限で急伸しているにもかかわらずだ。背景として国内要因が挙げられる。 朝方、厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、名目賃金から物価変動の影響を除いた5月の実質賃金は前年同月比1.2%減少、14カ月連続でのマイナスとなった。ただ、マイナス幅は4月の同3.2%減から縮小し、市場予想(同2.7%減)よりも小幅にとどまった。また、昨日に発表された2023年春闘の最終集計分では平均賃上げ率が3.58%と1993年以来の高い伸びとなっていた。 加えて、日本銀行の内田副総裁が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正について「バランスをとって判断していきたい」と言及したことが伝わった。内田副総裁は「企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しが出てきている」とも発言しており、今月27-28日に開催される日銀金融政策決定会合での政策修正が意識されていることが、為替の円高につながっているようだ。 今月の米中の金融政策決定会合を通過するまでは景気・為替の先行きを巡る市場関係者の見方も定まらないことが想定される。その先に控える主要企業の4-6月期決算も踏まえると、ハイテクや景気敏感といった東証プライム主力株への投資はいったん控えた方がよさそうだ。その間はディフェンシブセクターや出遅れ感が残る中小型株などへの投資が一考に値しよう。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/07 12:27 後場の投資戦略 相場の方向性を決める今日明日が重要 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32933.19;-405.51TOPIX;2287.07;-18.96[後場の投資戦略] 本日の日経平均は一時33000円を割り込み、25日移動平均線水準での攻防となっている。ただ、引き続き同線がサポートラインとして意識される底堅さが見られている。また、今週に入って欧米の長期金利が上昇するなか、ハイテク・グロース(成長)株からバリュー(割安)株への物色シフトが起きていることもあり、東証株価指数(TOPIX)は依然として25日線より上方でしっかりとした動きを保っている。本日、仮に日経平均が終値で多少25日線を下回ったとしても、TOPIXが同線上を維持できれば、本格的な調整には至らないかもしれない。 一方、欧米での長期金利の上昇圧力が気がかりだ。米10年債利回りは5日、3.94%と4カ月ぶりの水準にまで上昇し、再び4%を窺う動きとなっている。欧州は英国を筆頭に根強いインフレ圧力の抑制を目的に中央銀行が利上げ長期化を強いられるとの観測が高まっている。他方、米国では前日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が材料視された。議事要旨では、ほぼ全ての会合参加者が2023年の追加利上げを予想していたことが判明。利上げ支持派は「労働市場は非常に逼迫して経済の勢いは予想を上回っており、インフレが目標の2%に戻る軌道に乗っているという証拠はほとんどない」と指摘した。 FOMC議事要旨は総じてタカ派だったという印象を受けた。6月FOMC以降、パウエル議長が度々年内2回の追加利上げを示唆する発言をしていたが、これまで市場はポーズに過ぎないとして額面通りには捉えていなかった。しかし、徐々に本当に追加利上げ2回の可能性が高まってきていると見受けられ、米長期金利の一段の上昇には注意が必要だ。 こうした中、今晩は米供給管理協会(ISM)の6月サービス業景況指数、米5月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、米6月ADP雇用リポート、そして明日は米6月雇用統計と重要指標が相次いで発表される。引き続き堅調な労働市場が示唆されれば、米経済のソフトランディング(軟着陸)期待が維持される可能性があろう。 ただ、日米ともに株価指数を対象とした(日本はTOPIX、米国はS&P500指数)株式益利回りから米10年債利回りを差し引いたイールドスプレッドは過去10年における最も割高な水準に位置している。堅調な経済指標が一段の米長期金利の上昇につながれば、株価バリュエーションの割高感はさらに強まり、長期的には株高を正当化することがさらに難しくなりそうだ。 また、堅調な経済指標を受けて追加利上げ観測が高まれば、必要以上の追加利上げが経済をハードランディング(株価や為替、金利の急変を伴った経済の失速)へと陥れてしまうリスクが意識される可能性もある。一方、指標結果が予想より弱すぎれば、素直に景気後退入りが懸念される形で株式の下落につながる可能性もあろう。 今の株式市場は日米ともに基調が強く、個人投資家のセンチメントを表す指標も強気に大きく傾いている。上昇相場に乗り遅れまいとする投資家心理が維持され、強気相場が続く限り、経済指標の結果は都合よく解釈される可能性があるが、今回は強すぎず、弱すぎずといった絶妙な水準に落ち着く必要性があり、ハードルは低くないと考える。 また、上昇相場をけん引してきた半導体株の中でも象徴的だったソシオネクスト<6526>が大規模な売り出しの発表を契機に本日ストップ安売り気配のままになっていることは気がかりだ。同社株は6月22日にストップ安まで売られ基調の転換が示唆されていたが、その後はまだ底堅さを維持していた。しかし、今回の一件がダメ押しの一撃となる可能性が高い。また、半導体業界を巡っては、中国が半導体素材のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を課すなど、米中摩擦に伴うコスト増の影響も懸念される。上昇相場のけん引役だった半導体株が一服となることは全体相場の調整にもつながり得る可能性があり、注意したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/06 12:30 後場の投資戦略 マイナス圏での軟調推移継続 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33303.00;-119.52TOPIX;2304.59;-1.78[後場の投資戦略] 今日の東京株式市場は売りが先行した。昨日の米株式市場が休場で手掛かり材料に乏しい中、欧州の主要株価指数が小幅ながら下落したことが東京市場の株価の重しに。また、米国で今晩、6月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表され、7日には6月の米雇用統計が発表されることから、これらを見極めたいとして積極的な買いを見送る向きがあった。一方、昨日の日経平均が300円を超す下げとなったことから、押し目買いも優勢で、前場中ごろから下げ幅を縮小する展開となった。 一方、新興市場は軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落スタート後、下げ幅をじりじりと広げる展開となった。休場明けの米株市場の動向を見極めたい動きが優勢となりそうなほか、週末にかけて米国で経済指標などの発表を控えており、買い進む動きは限定的となっている。前引け時点での東証マザーズ指数は1.10%安、東証グロース市場Core指数は1.05%安で幅広い銘柄が軟調に推移。 さて、今週末にかけては、5日に6月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録、6日にISM非製造業景気指数や米6月ADP全米雇用統計、など注目材料が多い。FRB議事録に関しては、追加利上げの可能性を探るうえで注目が集まっている。また、7日には米雇用統計が発表される予定で、非農業部門雇用者数はエコノミスト予想で前月比22万5000人増と依然として堅調な伸びが見込まれている。想定より強い数字が出て金融引き締めが長期化する懸念が強まれば、7月の利上げ再開観測が強まるため、同指標の結果にも大きな注目が集まるだろう。 米主要株価指数や日経平均株価のチャートを振り返ってみると、2023年3月以降右肩上がりでの推移が続いている。背景としては、東証によるPBR改善要請や米著名投資家バフェット氏の追加投資表明、日本株を割安と捉える海外投資家の参入、新日銀体制下での追加緩和継続などが挙げられている。商社株の上昇や半導体の上昇、AI関連株への物色に注目が集まっているが、銀行株も上昇を続けている。 TOPIX銀行業指数は4日に相場全体に逆行する形で大幅高となり、2015年8月以来の高値を付けた。世界の主な銀行株指数の中で、世界的な銀行株安以前の水準を回復したのは日本だけとなっている。日本銀行の政策修正が期待される中、収益環境の改善を期待した買いが入ってきたほか、インフレによる貸し出しの増加が株価を押し上げる要因となった。ただ、株価上昇により銀行株の割安さは薄れており、日銀の政策修正観測は根強いものの、市場の関心は政策修正から業績に向かっているとの声も聞こえている。 そのほか、一部報道では国内個人投資家の株買い余力が増しているという。株高を受けた利益確定売りや新規の投資マネーの流入で、証券口座に預け入れた資金のうち投資に回っていない「待機資金」が15兆円超と過去最大となっているようだ。4日は高配当銘柄で構成する「日経平均高配当株50指数」は0.45%上昇し逆行高となるなど、全体相場が反落するなかでも個人投資家が積極的に押し目買いに動いていることが確認された。実際、月曜日の当欄でも述べたが、東証の投資部門別売買状況では、6月第3週(6月19日-6月23日)に個人投資家は3週ぶりに買い越しに転じており買越額は3446億円となった。 ただ、再度の記載となるが、海外投資家は13週ぶりに売り越しに転じている。海外投資家の売越額は3604億円で、株価上昇を受けたリバランスや持ち高調整に絡んだ売りが広がっている。ただ、今後このまま海外投資家の売り越しが継続して「海外投資家売り、個人投資家買い」の動きが続く場合は警戒感が広がっていきそうで、今後の投資家の動向には注意が必要だ。 さて、後場の日経平均はマイナス圏での推移が続くか。前場は下げ幅を縮小する動きがみられたが失速した。休場明けの米株市場の動きや米国の注目材料の発表を控えて、積極的に買い進む動きは限定的となっているか。そのほか、個別に材料が出た銘柄には物色が向かっている。(山本泰三) <AK> 2023/07/05 12:24 後場の投資戦略 34000円到達には材料不足か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33446.78;-306.55TOPIX;2307.21;-13.60[後場の投資戦略] 前日は米供給管理協会(ISM)の6月製造業景況指数が発表された。結果は46.0と景況感の拡大・縮小の分岐点である50を8カ月連続で割り込んだ。市場予想(47.1)は5月(46.9)からの改善を見込んでいたが、結果はむしろ悪化した。それにもかかわらず、前日の米株式市場は短縮取引ではあったが、底堅く推移し、主要株価指数は揃って続伸、景気敏感株の構成比が高いダウ平均も上昇して終えた。 市場関係者の間では製造業の悪さは想定内との声もあり、さほど材料視されなかったもよう。むしろ、米連邦準備制度理事会(FRB)の健全性審査(ストレステスト)を通過し増配を発表した大手銀行株が買われたほか、4-6月納車台数が過去最多を記録した電気自動車のテスラが大幅高になるなど、個別株物色が全体を支えた。 また、米ISM製造業景況指数も、たしかに予想を下回ったとはいえ、中身はそこまで悲観的ではなかった。項目別でみると、前回5月分の際に急低下し景気後退懸念を強めた新規受注(4月45.7→5月42.6)と受注残(43.1→37.5)がそれぞれ45.6と38.7へと揃って改善した。今回の景況指数の低下は主に在庫や雇用の項目の低下によるもので、この点が相場の影響が限られた背景と考えられる。 一方、新規受注と受注残は依然として50を大幅に割り込んでおり、「想定内」や「底入れ」と前向きばかりに評価していいとは考えにくい。株式益利回りから10年債利回りを差し引いて算出するイールドスプレッド、債券利回り対比でみた米国株式のバリュエーションは依然として歴史的な割高感を示しており、少なくとも今回のISMの結果はバリュエーションの割高感を正当化できる材料ではない。FRBの利上げもまだ年内2回実施される可能性が残されており、今後どのような形で足元のバリュエーションを正当化し続けるのか注意深く見守る必要があろう。 一方、本日の東京市場は米株高をよそに反落、前日の大幅高の反動が優勢となっている。前日の日経平均の大幅高、そして終値でのバブル崩壊後高値の更新については目を見張るものだったが、本日は早々に33500円を割り込んでおり、この水準では強弱感が対立しやすいようだ。 ただ、前日は値幅の割には東証プライム市場の売買代金が3兆4000億円台と、ここ数週間の水準と比較すると活況とはいえない水準だった。一方で先物の日中売買高をみると、日経225先物が5万811枚、東証株価指数(TOPIX)先物が4万5851枚と、前者の売買高が多めだった。前日の日本株の大幅高については、四半期末に伴う需給イベント通過などのあく抜け感が意識されやすいなか、短期筋の先物主導での買い戻しが中心だったと冷静に見た方がよさそうだ。 海外投資家が取引主体である東証プライム主力銘柄の好パフォーマンスが引き続き際立っているが、セクター騰落率を見ていると物色は日替わり感が否めない。また、半導体を中心としたハイテクや値がさ株頼みの構図が再び強まっている印象も受ける。しかし、ISM製造業景況指数の下降トレンドが続き、為替の円安も1ドル=145円を前に一服しているなか、景気・為替の動向に左右されやすい主力大型株に対してはなお慎重な投資スタンスが必要と考える。こうした関連銘柄よりは、独自要因で高成長を続けているにも関わらず足元の地合いに乗りきれていないような内需系グロース株を長期目線で仕込む方が、投資妙味が高いと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/04 12:18 後場の投資戦略 米株高受けて買い優勢の展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33704.73;+515.69TOPIX;2317.67;+29.07[後場の投資戦略] シカゴ日経225先物清算値は大阪比245円高の33435円。米株高の流れもあり、本日の日経平均は買いが先行。米国ではアップルの時価総額が3兆ドルに乗せるなど、ハイテク株の強い動きが目立ったことから、東京市場においても指数インパクトの大きい値がさハイテク株がけん引する展開になっている。 一方、新興市場は上値の重い展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、上げ幅をじりじりと縮小する展開となっている。金利先高観が気がかりになっていたが、米経済指標の結果を受けて目先の安心感が台頭しており個人投資家心理が改善した。ただ、本日は東証プライム市場の主力株中心に注目が集まっており、新興株はやや蚊帳の外状態となっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.18%高、東証グロース市場Core指数は0.86%高。 日本銀行が本日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業・製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が7四半期ぶりに改善した。大企業・非製造業も5期連続の改善となった。半導体不足の影響が緩和して生産が持ち直している自動車が大きく改善し、石油・石炭製品や食料品、造船・重機も改善した。宿泊・飲食サービスは0から36ポイント改善し36となり、改善幅、水準ともに2004年の調査開始以来最大となったようだ。 欧米の急速な利上げで海外経済への懸念は強く一部業種では悪化予想もみられるが、大企業・製造業の景況感悪化に歯止めがかかり、日本経済が「緩やかに回復していく」という日銀の見通しを支える結果となった。製造業および非製造業ともに前回からの改善が見込まれていたが、想定通りの結果となり市場もポジティブに反応している。ただ、7月の金融政策決定会合で物価見通しの上方修正に合わせて政策修正に踏み切るとの思惑は依然としてくすぶっていることは頭の片隅に置いておきたい。 さて、3日にはISM製造業景気指数、5日には6月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録、6日にはISM非製造業景気指数、など今週は注目材料が多い。また、7日には米雇用統計が発表される予定。非農業部門雇用者数はエコノミスト予想で前月比22万5000人増と依然として堅調な伸びが見込まれており、失業率の予想は3.6%、平均時給の伸びは前年同月比で鈍化する見通し。雇用統計で、想定より強い数字が出て金融引き締めが長期化する懸念が強まれば、ハイテク株の調整につながる可能性も高いため、同指標の結果には大きな注目が集まるだろう。 そのほか、東証の投資部門別売買状況では、海外投資家が6月第3週(6月19日-6月23日)に13週ぶりに売り越しに転じたことが明らかになった。海外投資家の売越額は3604億円で、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は13週連続で売り越した。株価上昇を受けたリバランスや持ち高調整に絡んだ売りが広がっている。一方で、個人は3週ぶりに買い越しに転じており、買越額は3446億円となった。このまま海外投資家の売り越しが継続する場合は警戒感が広がっていきそうで、買い越しに転じた個人の動きも注視する必要があろう。 さて、後場の日経平均はプラス圏で堅調推移が続くか。米株先物の動向を横目に、6月19日に付けたバブル後最高値33772.89円に迫る展開も期待される。(山本泰三) <AK> 2023/07/03 12:25 後場の投資戦略 一段の円安が支援も需給面の重荷が続きそう [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33058.99;-175.15TOPIX;2279.00;-17.25[後場の投資戦略] 日経平均は一時33000円を割るなど同水準での攻防が続いている。新規失業保険申請件数や1-3月国内総生産(GDP)確定値の米経済指標が予想を上回ったことで、ドル高・円安に一段と拍車がかかっており、為替は東京時間に入って一時1ドル=145円の節目を超える場面もあった。こうした円安が支援材料になる一方、週末および月末、四半期末が重なる本日は年金基金のリバランス(資産配分の調整)目的の売りなど持ち高調整による需給悪化が意識されているもよう。 また、前日は米半導体メモリチップ製造大手のマイクロン・テクノロジーの株価が決算を受けて時間外取引で上昇していたことがハイテク株高に寄与していたが、29日の米株式市場でマイクロンの株価は結局4%を超える下落となった。これが本日の東京市場ではハイテク株の反動安として表れている。マイクロンの経営陣からは収益の底入れを指摘する声があったが、市場では在庫調整のペースは緩慢といった指摘が聞かれた。何より、市況の底入れや年後半からの回復を先取りする形で株価はすでに大きく上昇していたため、サプライズのない決算を受けて材料出尽くし感が先行したといえる。 日本株でも、前日は大幅増益ながらもサプライズのない決算を受けてJフロント<3086>が出尽くし感から売られた。一方で、市場予想を大きく上回る実績とともに第1四半期から早々に業績予想を上方修正してきた高島屋<8233>は対照的に買われている。日米ともに株価指数や個別株でみても既にバリュエーションの割安感は乏しいため、市場予想を上回る成長率もしくは構造改革による収益改善期待といった固有の要因がない限りは、株価は出尽くし感が先行しやすい状況と考えられる。 需給面に話を変えると、東京市場は今後上値の重い展開が続きそうだ。7月は決算を迎える上場投資信託(ETF)運用会社による分配金捻出のための換金売り需要が7、10日に現物・先物の合計で1兆1000~3000億円超発生すると予想されている。年金基金のリバランス売りが終わり、新四半期に入っても目先はこれが需給面での重荷として意識される。 また、東京証券取引所が公表する裁定取引に係る現物ポジションによると、6月23日時点の裁定残高はネットベースで1兆4391.52億円の買い越しとなり、前週(1兆2810.89億円の買い越し)から大幅に増加、直近4年間における最高水準を記録した。裁定買い残の解消売り圧力が一段と高まっているといえ、今後の需給面での重荷となろう。 さらに、市場全体の信用取引残高(東京・名古屋2市場、制度・一般合計)では、買い残が前週比2212億円増の3兆4688億円と5週連続で増加し、21年12月以来の高水準となった。日米ともに株高基調が一服していることもあり、今後は個人投資家の利益確定売りも重荷として働いてきそうだ。 ほか、米長期金利の上昇も気掛かりだ。米経済指標の上振れやパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言を受けて米10年債利回りは29日、3.84%と3月上旬以来の高値を記録している。日米ともに、S&P500種株価指数や東証株価指数(TOPIX)の株式益利回りから米10年債利回りを差し引いたイールドスプレッドは一段と株式の割高感を示唆しており、今後は再び金利動向にも目配せが必要といえる。 7月は経済指標だけでなく日米の金融政策決定会合や主力企業の4-6月期決算などイベントが多い。当面、株式については積極的な買いは控えるべき局面と考え、日経平均でいえば33500円水準では戻り売りで対応し、押し目買いは75日移動平均線や13週移動平均線が近づくまで慎重に待った方がよいと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/06/30 12:17 後場の投資戦略 堅調だが上値追いは慎重に [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33348.49;+154.50TOPIX;2299.22;+0.62[後場の投資戦略] 日経平均は前日の後場から力強い展開となり早々に33000円を回復。本日も前日の米株高を受けて値幅を伴って続伸している。前日は権利付き最終売買日だったため、権利取りを狙った売買が活発したもよう。また、3月末に権利確定した配当金の支払いも概ね一巡してきたとみられ、配当金を受け取った投資家の再投資の動きなども支えになったと考えられる。また、日経平均をはじめ日米ともに主要株価指数が25日移動平均線まで下落したことで、テクニカル要因でも押し目買いが入りやすかったとみられる。こうした背景が、四半期末に伴う年金基金のリバランス(資産配分の調整)目的の売りが意識されるなかでの株式の意外高につながったと思われる。 一方、本日は四半期末にかけての需給悪化を狙って空売りしていた向きが買い戻しを迫られていると想定されるほか、イベントの無難消化による安心感なども株高に寄与していそうだ。前日は欧州中央銀行(ECB)主催のフォーラムにて各国中央銀行の総裁らが討論会に参加した。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長ら欧米中銀の総裁らの発言は、金融政策決定会合や先週の米議会証言を通過したばかりということもあり、新味に乏しかった。それでも目先のイベント通過があく抜け感を生んでいると思われる。 ただ、パウエル議長の「食品とエネルギーを除くコアインフレについて2025年まで当局目標の2%に戻ることはない」とした発言は金融引き締め長期化を示唆しており、来年からの利下げ転換を織り込む市場予想との乖離を感じさせた。また、引き続きインフレ抑制を最優先に年内2回の利上げを示唆するFRBに対して、市場は7月会合での追加利上げ1回が最後とみている。この乖離にも変化は見られておらず、今後このギャップがどう解消されるかについて先行きに不透明感を残す形となった。 ほか、ECBフォーラムで注目されたのは日本銀行の植田和男総裁の発言だ。植田総裁は「2024年に入ってもインフレ2%以上の伸びが実体化するとの確信が持てれば、政策を変更する良い理由になる」と述べた。一方で、「日本ではいまのところは基調的なインフレが2%を下回っている」とし、金融緩和継続の正当性を主張。これが改めて日本と世界との間の金融政策のスタンス、政策金利の差を意識させ、為替の円安基調を強めている。これも一つ足元の日本株高に寄与しているといえそうだ。 さらに、28日の米株式市場の取引終了後に発表した半導体メモリーチップ製造大手のマイクロン・テクノロジーの決算も足元の株高に一役買っている。同社の最高経営責任者(CEO)は「メモリー業界の売上高は底入れしたとみている」「業界の需給バランスが徐々に回復するにつれ利益率も改善すると予想している」などと説明。在庫調整が着実に進展していること、6-8月(第4四半期)についても堅調な見通しを示した。同社の株価は時間外取引で3%上昇し、本日の東京市場での半導体株高に寄与している、 ただ、まず為替の円安についてだが、最近は財務省など当局の要人から円安をけん制する発言が増えており、円安に対する警戒感は日を追うごとに高まっている。また、足元では政府のガソリン代や電気代の上昇を抑える物価抑制策の効果が発現していることに加え、日経平均に代表される歴史的な株高によって円安のマイナス影響が緩和されている。 しかし、今後、物価抑制策の効果が剥落してくれば、徐々に再び円安を否定的に捉える世論が強まってくる可能性がある。そうした事態は、新しい植田日銀総裁を選んだ岸田文雄首相からすれば容認しがたいことで、足元で内閣支持率が低下していることも踏まえれば尚更だろう。今後は岸田政権から日銀や財務省に対して暗黙のプレッシャーがかかることが想定され、この先は金融緩和策の修正が再び意識されてくる場面もあると思われる。 次にマイクロン・テクノロジーの決算についてだが、同社は米政府による対中国の安全保障政策上のリスクについて「見通しに影響を与え、回復を遅らせる大きな逆風だ」と指摘している。また、市況の在庫調整については進展しているものの、年後半から実需が急速に回復することは見込んでいない。最悪期は過ぎても本格的な回復がまだ先となれば、回復を先取りして上昇してきた足元の半導体企業の株価にはバリュエーションの調整リスクがあると考えられる。 6月が終わり、四半期末に伴うリバランスが終わったとしても、7月には日米の金融政策決定会合があり、その前には重要なインフレ・雇用関連の指標も控える。また、さらにその先には日米主力企業の4-6月期決算が控えている。製造業を中心に経済指標の減速が続くなかで欧米中銀の利上げは続いており、こうした影響が今後、時間差を伴って実体経済に表れてくる可能性もある。こうした中、上記イベントを確認・消化する前に、新しい四半期末に入ったからといって早々に再び積極的に株式の持ち高を積み上げてくるとは考えにくいだろう。投資戦略としては、引き続き景気敏感株やハイテク株は避け、景気・為替の影響を受けにくい内需系企業を選好すべきと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/06/29 12:22 後場の投資戦略 今晩のECBフォーラムや米マイクロン決算に注目 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32842.39;+304.06TOPIX;2279.01;+25.20[後場の投資戦略] 前日に発表された米経済指標は総じて強かった。5月耐久財受注、6月消費者信頼感指数、5月新築住宅販売は軒並み市場予想を大幅に上回り、消費者信頼感指数は2022年初めの以来の高水準、新築住宅販売は約1年ぶりの高水準を記録した。個人貯蓄がまだ残されていることや労働市場の健全さが続いていること、そして中古住宅を中心とした住宅市場での在庫不足を背景に、消費者信頼感指数と新築住宅販売の結果はある程度想定できたが、上振れ度合いは想定よりも大きかった。また、先週末に発表された米6月製造業の購買担当者景気指数(PMI)の悪化を踏まえると、耐久財受注の上振れ度合いもややサプライズを伴った。さらに、4月S&Pコアロジック・ケース・シラー全米住宅価格指数は前月比ベースで3カ月連続の上昇となった。 これらの結果を受けて、改めて米国経済のソフトランディング(軟着陸)期待が高まっており、前日は米債利回りが短期を中心に長期の年限まで幅広く上昇した。一方、強すぎる経済データは米連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営を難しくする。市場は依然として年内について残り一回の利上げしか織り込んでいないが、今回のような強い経済データが続くと、次回7月会合だけでなく、9月会合での利上げの可能性も高まってくるだろう。 米経済が思った以上に底堅く本当にソフトランディングとなるのであれば、先行きの景気後退懸念で抑えられていた米長期金利が再びじわりと上昇してくる可能性もある。一方でインフレ指標はまだFRBの目標値を大幅に上回っているとはいえ、伸び率は鈍化傾向にあるため、金利上昇と合わせてこれは実質金利の上昇につながってくる。すでに米株のバリュエーションは高く過熱感を指摘する声が聞かれているが、実質金利が上昇してくるとなれば一段と米株式の割高感が意識されてこよう。 こうした中、今晩は欧州中央銀行(ECB)主催のフォーラムで各国中央銀行の総裁らがパネル討論会に参加する予定だ。パウエルFRB議長などからは改めてタカ派な姿勢が示される可能性が高いと思われ、米ハイテク株がそれでも前日同様に強い動きを続けられるかに注目したい。 ほか、米ハイテク株を巡っては、バイデン米政権が中国への人工知能(AI)半導体輸出について新たな規制措置を検討していると一部報道で伝わっている。これを受けて米半導体エヌビディアの株価は時間外取引で3%下落している。本日の東京市場では、半導体株が大きく失速せずに上昇を維持しているため、相場への影響は限定的かもしれないが、生成AIブームの火付け役となったエヌビディア株が調整色を強めるようであれば、東京市場でも日経平均の上値抑制圧力として働くことになるだろう。 半導体については、今晩は米半導体メモリ大手のマイクロン・テクノロジーの決算も予定されている。在庫調整の進展度合いを確認するとともに、再び底入れ感が強まるのか株価の反応に要注目だ。(仲村幸浩) <AK> 2023/06/28 12:12 後場の投資戦略 足元の調整はまだ想定の範囲内 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32446.70;-252.11TOPIX;2247.31;-12.86[後場の投資戦略] 日経平均は4日続落。前日は下落スタートながらも急速に切り返して32500円の節目を即座に回復するなど下値の堅さも見られたが、本日は前場中ごろまでほぼ一本調子で下げ続ける展開で、32500円も割り込んだまま前場を終えた。月末および四半期末に伴う年金基金のリバランス(資産配分の調整)目的の売りに加えて、7月上旬に控える上場投資信託(ETF)運用会社の分配金捻出の売り需要など、需給悪化イベントを前に売りが優勢となっている。 6月19日に付けた高値まで、日経平均は連日のようにバブル崩壊後の最高値を更新するなど今四半期(4-6月)の日本株の上昇率は世界的にも大きかったため、分かりやすい需給イベントを控えるなか、さすがに利益確定売りには抗えない様子。先物・オプション取引の決済期日が重なるクアドラプル・ウィッチング通過後は、米株式市場でも記録的な上昇率を見せていたナスダック総合指数を中心に利益確定売りが続いている。 ただ、どちらもこれまでの株価上昇率を考えれば、四半期末に伴う利益確定売りはあくまで想定内の範囲内であり、足元の株価下落を悲観的に捉えている向きは少ない。日経平均やナスダック指数など主要株価指数については、25日移動平均線が依然として下値支持線として機能していることもあり、まだトレンドは上向きのままだろう。本日の日経平均については、前場中ごろに安値を付けた後は引けにかけて回復し、32500円を回復しようとする動きも見られていて、むしろ前日に続き底堅さも確認されている。 重要なのは今週を過ぎてからの来週以降の動きだろう。四半期末に伴う持ち高調整を経て月替わりのタイミングで早々に再び株価は上昇基調に戻るのか否か。ETFの分配金捻出という国内固有の需給イベントを控える日本株については来週もまだ調整が続くかもしれないが、米株が回復した場合にはETFイベントの通過を待たずしてこれに付いていくのか、こうした点が焦点になってこよう。 ただ、世界的に中央銀行による利上げ長期化の機運が高まっていることや、経済指標の悪化が続いているなか、先行きについては不透明感が強く、需給イベント通過後に早々に再びリスク資産を積極的に積み上げていくのは難しいだろう。頃合い的にも7月の日米の金融政策決定会合とその後の四半期決算シーズンを確認するまではいったん様子見が無難と思われる。 こうした中、当面はこれまでの相場けん引役だったハイテク株の早期出直りを期待した押し目買いには慎重になり、引き続きディフェンシブセクターや、4-6月期における株価パフォーマンスの冴えなかった出遅れセクターへの投資妙味が相対的に高いと考える。 出遅れ解消の動き継続が期待されていた新興株については、新規株式公開(IPO)ラッシュに伴う需給の重荷もあるだろうが、マザーズ指数が足元で再び800ptを割り込むなど残念な動きになっている。ただ、今は地合いの悪化に連れられている要因も大きいと思われる。マザーズ指数は25日移動平均線水準までの調整が完了し、短期的な過熱感が解消されていることもあり、今後は再び物色が向かう展開に期待したい。ただ、今週は週末の米個人消費支出(PCE)コアデフレーターの発表に加え、28日には欧州中央銀行(ECB)主催のフォーラムで各国中銀総裁らがパネル討論会に参加する予定のため、短期的にはまだ警戒イベントがあり、押し目買いは打診的にとどめるべきだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/06/27 12:23 後場の投資戦略 悪い流れ断ち切るも懸念くすぶる [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32846.24;+64.70TOPIX;2268.33;+3.60[後場の投資戦略] 週末の間にロシア情勢の不透明感が一時にわかに強まった。国防省との確執を深めていた民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が24日、プーチン政権に対して武装反乱を起こした。首都モスクワに向けて部隊を進め、一時情勢は緊迫化した。しかし、プリゴジン氏は流血の事態回避に向けて緊張緩和策を講じることでプーチン大統領と合意し、その後ワグネルの部隊を撤収。結果的にプーチン政権に対する反乱はわずか一日で収束した。 反乱を起こしたプリゴジン氏は隣国ベラルーシに亡命した。ロシア大統領府は事態収拾に向けた取引の一環としてこの出国を認め、同氏とワグネル戦闘員に対する反乱罪での刑事訴追に向けた手続きについても、これを取り下げることをプーチン大統領が自ら保証したという。 今回の一件でロシア軍およびプーチン政権の弱体化が明らかになった。これがウクライナ戦争の早期終結につながれば何よりだが、実際のところ話はそう簡単でないだろう。一段と追い込まれたプーチン大統領が理性を失った暴挙に出るリスクなどが逆に増したともいえる。地政学リスクに関する先行き不透明感の強まりは今後の相場の重荷になりそうだ。 一方、週明けの東京株式市場では日経平均が寄り付き直後に一時400円近く下落したが、すぐに切り返してプラス圏に浮上するなど底堅い動きを見せている。地政学リスクを口実とした短期筋の売りが早々に買い戻されたもようだ。先週末にかけて需給悪化を想定した先回りの売りで日経平均は33000円を一気に割り込んでいた。これに続こうとした悪い流れを早々に断ち切ろうとする前場の底堅い動きは日本株の先高観が依然として根強いことを示唆しており、ポジティブな印象を受ける。 一方、月末にかけては年金基金のリバランス(資産配分の調整)目的の売りがまだ実際に発生する余地が残されている。また、今四半期における日本株の上昇率は記録的な大きさになっていることから、そのリバランス売りの規模の大きさも懸念され、目先は上値追いや押し目買いには慎重になるべきだろう。 さらに、ロシアのクーデターの一件でかき消された感があるが、実体経済の悪化も気がかりである。先週末に発表された欧米の6月製造業の購買担当者景気指数(PMI)は揃って市場予想を下回った。米国6月製造業PMIは46.3へと5月(48.4)から大きく低下し、景況感の拡大・縮小の境界値である50を大きく割り込んだ。ほぼ横ばいを見込んでいた市場予想(48.5)も大幅に下回っている。また、欧州の6月製造業PMIも43.6へと5月(44.8)から低下、こちらも横ばいを見込んでいた予想(44.8)を下振れた。 また、サービス業についても、欧州は6月が52.4と5月(55.1)から大幅に低下し、予想(54.5)を大きく下振れている。米国は54.1と予想(54.0)にほぼ一致したが、こちらも5月(54.9)からは低下した。サービス業はどちらも50超えが続いているが、両国ともに製造業の悪化の印象を打ち消せるほどの内容とは言いにくい。 先週はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、市場予想が織り込んでいる回数よりも多い、年内2回の追加利上げを再表明したほか、英イングランド銀行(中央銀行)とノルウェー中銀が0.5ポイントの大幅利上げに踏み切るなど、改めて世界的な金融引き締め長期化に対する懸念が強まった。一方で、今回の欧米PMIの結果のように、グローバルな景況感の悪化も続いている。経済減速下での利上げ長期化は高い確率で景気後退を深刻化させると思われ、今後の株式市場の展開には注意しておくべきだろう。 先週は物色の裾野が中小型株・新興株に広がっていることを指摘し、ポジティブに評価していたが、週明けのマザーズ指数は大きく続落している。地合いが悪化するなか、流動性リスクが意識される新興株が敬遠されている可能性がある。また、今週は新規株式公開(IPO)が多いため、IPOに備えた資金確保の動きも重荷になっていそうだ。今後1、2週間については、需給イベントの影響が想定されるハイテク・景気敏感の主力株および投資家心理の悪化が重荷となりやすい新興株には慎重なスタンスで臨む一方、ディフェンシブ銘柄への投資妙味が相対的に高いと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/06/26 12:15

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