後場の投資戦略ニュース一覧

後場の投資戦略 米金利の先行きが一段と気がかり [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33204.82;-36.20TOPIX;2393.95;+1.42[後場の投資戦略] 前日に発表された8月の米ISM非製造業景況指数は予想を大幅に上回った。足元では、インフレが収束しつつ景気後退はマイルドなものにとどまり、かつ来年にはインフレ沈静化と景気減速を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが期待できるというゴルディロックス相場(適温相場)が続いていた。 こうした相場を維持していくためには、米ISM非製造業景況指数は景況感の拡大・縮小の境界値である50をわずかに上回る程度が市場としては心地よかった。しかし、結果は54.5と市場予想(52.5)を上回り、7月(52.7)から大きく上昇した。また気掛かりなのは、ISM製造業のときと同じように雇用と価格の項目が上昇している点だ。 前日に発表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)が、先週の雇用関連指標と同様に、米労働市場の逼迫緩和を示唆したことは好材料だったが、米ISMの製造業・非製造業がともに予想を上回り、雇用と価格が上昇した点はインフレ収束が一筋縄ではいかないことを示しており、ややネガティブに映る。 米10年債利回りは6日、4.29%と(5日は4.26%)さらに上昇し、8月22日に付けた高値4.36%を窺う動きとなっている。金利上昇を受けて債券との比較でみた株式の割高感が強まっており、米長期金利が高値を更新してくるようだと株式市場の調整は避けられないだろう。 足元の日本株は米金利上昇による為替の円安が大きな支援材料になっているが、為替介入も徐々に意識されるなか、円安余地は縮小してきていると考えられる。国内では実質賃金や実質消費の前年比マイナス傾向が続くなか、円安のマイナス効果も無視できず、日本株が円安を背景にいつまでも上昇を続けるのは難しいのではないだろうか。 5日に発表された8月の中国財新サービス業購買担当者景気指数(PMI)は51.8と7月(54.1)から大きく低下し、昨年12月以来の低水準を記録した。また、同日に発表されたドイツのサービス業と製造業を合わせた総合PMIは44.6と前月(48.5)から大幅に低下、新型コロナウイルスの流行で経済が低迷した2020年5月以来の低水準となった。 中国は米国と並ぶ世界経済の要を担う国であり、ドイツは輸出型経済という点で日本と似ている。両国の経済が極めて厳しい状況にあるなか、やはり「世界の景気敏感株」とも称される日本株だけが上昇を続けていくとは考えにくい。 もちろん、東京証券取引所の鶴の一声ではじまった企業改革への期待や、中国経済の低迷深刻化を背景にアジア地域の株式の持ち高を巡って中国株から日本株へ資金をシフトする海外投資家の動きなども踏まえれば、日本株の相対的な強さは続きそうではある。しかし、現値水準からの上値の余地は大きくないと思われる。 なかなか投資に対して積極的になりにくい状況ではあるが、物色動向としては、目先は引き続き高配当利回り銘柄や割安(バリュー)株が優位な地合いが続きそうだ。グロース株は長期的には仕込み時を検討し始めたいところだが、米長期金利の先高観がくすぶるなか、短期的にはまだ厳しい状況が続くと考えられる。(仲村幸浩) <AK> 2023/09/07 12:22 後場の投資戦略 日本株強し、独歩高の持続性はいかに [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33262.48;+225.72TOPIX;2393.34;+15.49[後場の投資戦略] 東京市場は引き続き強い展開となっている。前日は短期的な過熱感を警戒した利益確定売りで前場は軟調に推移していたが、後場はじわじわと水準を切り上げ、結局、日経平均と東証株価指数(TOPIX)はともに7日続伸。TOPIXは連日でバブル崩壊後の高値を更新し、日経平均は高値引けだった。 前日は週明けに強い動きを見せた景気敏感株・バリュー(割安株)も反動売りをこなして全般底堅い動きが見られていた。公募増資の観測報道で大きく下落したJFE<5411>が水を差すかと思われたが、鉄鋼セクターの下落は同社を除けば軽微だった。そして、本日は再び景気敏感・バリューが全面的に強い状況となっている。 前日の欧米株式市場で主要株価指数が揃って下落しているなかでの、足元の日本株のこうした強さには目を見張るものがある。むろん、為替の円安が一段と進行していることが大きく寄与している部分は否めないが、為替要因を差し引いても強い印象を抱く。海外投資家が再び日本株の買いを強めているという多方面で聞かれる指摘は妥当なようだ。 一方、その為替のほか世界経済の先行きを巡っては不透明感が強く、世界の景気敏感株と称される日本株がいつまで独歩高を続けることができるのかは心もとない。サウジアラビアが原油の自主減産をさらに3カ月延長することを発表し、ロシアも原油輸出の削減を年内は継続する方針を示した。 これを受けて、原油市況が大きく上昇しており、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート、期近物)は5日、一時1バレル=88.07ドルと昨年11月中旬以来の高値を記録した。また、米雇用統計の発表後に上昇していた米長期金利の上昇は祝日明けも続いており、米10年債利回りは5日、4.26%(先週末4.18%)まで上昇した。 足元の日本株は米金利上昇を背景とした為替の円安のプラス効果をより強く意識しているようだが、前日に総務省が発表した家計調査における実質家計支出の大幅な下振れをみても、国内の景気動向は安泰とはいえない。 また、株式市場はインフレ収束と米経済のソフトランディング(軟着陸)に対する期待を根強く維持しているようだが、これまでのディスインフレの主因は原油などのコモディティ価格の下落だ。そのコモディティ価格の筆頭格でもある原油市況が上昇に転じていることを踏まえれば、今後インフレは米連邦準備制度理事会(FRB)の目標値である2%を大きく上回る水準で下げ止まる、もしくは再び上昇していく可能性もあると考えられる。 そのようなシナリオが実現すれば、追加利上げ観測が再び台頭し、利上げサイクル終了期待やソフトランディング期待も後退しかねない。来週は米国で消費者物価指数(CPI)などの物価指標の発表があり、その後は日米の金融政策決定会合が開催される。CPIの結果次第では、相場は一気に警戒モードに転換する可能性がある。東京市場も、今週末の9月限先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)以降も、足元の強い基調が維持されるかについては注意深く見極める必要があろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/09/06 12:18 後場の投資戦略 先高観の表れか33000円タッチで達成感か? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32870.00;-69.18TOPIX;2365.14;-8.59[後場の投資戦略] 日経平均は一時8月2日以来となる33000円台に乗せる場面があったが、利益確定売りに押され、7日ぶりに小反落で前場を終えている。東証株価指数(TOPIX)も一時、連日でバブル崩壊後の高値を更新する場面があったが、連騰に伴う短期的な高値警戒感から利益確定売りが優勢となり、反落に転じている。 東証プライムの騰落レシオ(25日ベース)は4日時点で128.56%と、過熱気味とされる120%を上回っている。また、TOPIXのRSI(相対力指数、14日ベース)は足元で約75%と、こちらも一般に買われすぎを示す70%を上回ってきている。テクニカル的な過熱感が徐々に強まるなか、本日の東京市場はさすがに騰勢一服となっているようだ。 ただ、前日までの連騰記録やこの間の上昇幅を考えると、調整幅はかなり小幅でむしろ底堅さを印象付ける。また、一方でマザーズ指数が1%強の上昇率となっており、幕間つなぎの物色が向かう形で、本日は新興株が総じて堅調だ。前日のように東証プライムの主力株が広く買われて全体を底上げした後、全体が小休止する場面では新興株に買いが向かうといった形で上手く物色が循環しているともいえる。 しかし、マザーズ指数は200日移動平均線上に回復してきたものの、まだ75日線を超えられておらず、日経平均やTOPIXのように明確にトレンドが転換したわけではない。また、レーバーデー明け後の米長期金利の動きが気がかりであり、新興株を積極的に買える状況でもないだろう。 先週末に発表された米雇用統計は総じて労働市場の軟化を示し、米利上げサイクル終了期待を高めるものだった。しかし、米長期金利は発表後むしろ上昇した。レーバーデー明け後に企業の起債が増えてくることなどを意識したものとされている。レーバーデー明け後は海外投資家も本格的に夏季休暇から戻ってくるため、米雇用統計後の長期金利の上昇が祝日明け以降も続くのかを見極めたい。仮に米長期金利の上昇が続くようであれば、新興株の戻りは間もなく一服すると思われるし、米国市場が調整する形で日経平均やTOPIXも上昇が一服する可能性があろう。 ほか、本日の寄り付き前に総務省が発表した7月家計調査の結果は気がかりだ。2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比-5.0%となり、前年比の減少は5カ月連続となった。市場予想(-2.5%)を大幅に上回る減少率で、個人消費の動向に陰りが見られる。 日本株高の主な背景は東京証券取引所が主導する株価純資産倍率(PBR)の改善といった企業改革ではあるが、日本株買いの理由の一つとして、海外景気に比べて堅調な国内景気と、その背景としての個人消費も挙げられていた。しかし、実質家計消費の動向からは個人消費の減退が窺え、日本株買いの理由の一つは剥落しそうだ。個人消費の落ち込みは、持続的なインフレによるデフレ脱却という日本の構造変化への期待も後退させかねない要因であり、日本経済ひいては日本株の先行きは楽観視できる状況ではないだろう。 今週末は9月限先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)である。日経平均のオプション取引では、行使価格33000円にコール(買う権利)の建玉残が大きく積み上がっており、この水準では売り方と買い方の攻防が激しくなりそうだ。日経平均が33000円を明確に超えてくるようだと、コールの売り手であるディーラーのヘッジ目的の先物買いが強まる可能性はある。 ただ、日経225先物は5日の夜間取引に一時33090円まで上昇した後に失速して33000円割れ。現在行われている日中取引でも一時33000円を捉えたが、その後に失速して同水準乗せには二度失敗している。こうなると、日経平均は一時の33000円乗せによって目先の達成感が強まってしまったともいえそうだ。レーバーデー明け後の今晩の米国市場の動きがより一層重要になってきたと思われ、先行きを注視したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/09/05 12:13 後場の投資戦略 買い先行後はじりじりと上げ幅を広げる展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32899.99;+189.37TOPIX;2368.29;+18.54[後場の投資戦略] 9月4日の日経平均は前週末比86.70円高の32797.32円と6営業日続伸でスタートした。シカゴ日経225先物清算値は大阪比60円高の32760円。本日の日経平均はやや買いが先行して始まったものの、その後は上値の重い展開となっている。4日の米国市場はレイバーデーの祝日のため海外勢の商いは膨らまないとみられ、こう着感が強い1日とみる市場関係者も多いようだ。 新興市場も売り買いが交錯する展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、マイナス圏に転落。その後買い戻しが広がったものの、積極的に買い進む動きは乏しく売り買いが交錯する展開となっている。前週末に発表された米雇用関連指標が総じて労働市場の逼迫緩和を示唆する内容だったことは国内の投資家心理にポジティブに働いている。ただ、米長期金利が再度上昇しており、新興株にとっては重しとなっている可能性がある。前引け時点での東証グロース市場Core指数は0.23%安、東証マザーズ指数は0.05%高となった。 さて、前週末に発表された米雇用統計の結果を振り返る。非農業部門雇用者数は前月比18万7000人増(市場予想17万人)と増加した一方で、失業率は3.8%と予想(3.5%)を大きく上回り、平均時給の伸びは前月比で+0.2%と予想(+0.3%)を下回った。労働市場の底堅さと鈍化の両方を示す強弱まちまちの内容となったが、米雇用動態調査(JOLTS)やADP全体雇用リポートに続いて労働市場の逼迫緩和を示唆する結果となった。 雇用関連指標の結果をポジティブに捉える市場関係者も増加している。「9月のFOMC会合では金利が据え置かれるとの市場予想を補強する」や「利上げ一時停止を正当化するには十分な内容」などの声が散見されている。ただ、依然として消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)などの指標を注目している関係者も多い。夏の商品価格の上昇でインフレが再加速するリスクもあるため、やはり来週に発表される同指標の結果には引き続き注視したいところ。 重要経済指標の発表やFOMCといった経済の注目材料のほか、従来から中国の状況や地政学リスクなどにもアンテナを張っておきたいと示唆しているが、本日は9月の米国株アノマリーについて触れておく。歴史的に9月の米国株式市場はパフォーマンスが悪く、弱気相場になりやすいともいわれている。調査会社CFRAによると、S&P500指数は1945年以降、9月は平均0.7%下落と最もパフォーマンスが悪い月となっているようだ。それも9月の第1月曜日のレイバーデー(労働者の日)明けから相場の展開が一変することもあるという。仮に9月が通常より不安定な地合いとなるのであれば、景気敏感株よりディフェンシブ株が注目される可能性もある。あくまで一つのアノマリーにすぎないため頭の片隅に置いておく程度に済ませておきたい。 そのほか、8月31日に発表された最新週(8月21日~25日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を2週連続で売り越した。売り越し金額は2047億円と前週から売り越し額は縮小したものの。2週連続での売り越しは3月以来となる。個人投資家も現物株を1161億円と2週ぶりの売り越し、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は2週連続の買い越しとなった。海外投資家の売り越しが今後も続くかは注目材料となろう。さて、後場の日経平均はじりじりと上げ幅を広げる展開となるか。買い手優位の状況が続くか注目しておきたい。(山本 泰三) <AK> 2023/09/04 12:20 後場の投資戦略 TOPIXはバブル崩壊後高値、強気転換か? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32820.80;+201.46TOPIX;2352.58;+20.58[後場の投資戦略] 前日に発表された米7月個人消費支出(PCE)コアデフレーターは前月比および前年同月比ともに市場予想に一致した。前年同月比は+4.2%と米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ目標である2%を依然として大幅に上回っており、前月比も+0.2%と上昇が続いているが、前月比の伸びは6月から横ばいで小幅な伸びにとどまっている。FRBが特に重要視している指標なだけに、無難に消化できたこと、そして米長期金利の低下基調が続いたことは投資家心理の一段の改善につながっている。 今晩は米雇用統計が発表されるが、米雇用動態調査(JOLTS)、ADP全米雇用リポート、米PCEコアデフレーターと、今週発表された雇用・物価に関する指標は全て市場予想以下に収まっていることで、雇用統計に対する警戒感は大きく和らいでいる。余程大きく予想を上回らない限り、市場への影響は限られそうで、投資家の株式の買い安心感が強まっているように見受けられる。 東京市場は日経平均および東証株価指数(TOPIX)ともに今週は5日続伸と、負けなしの状態できている。TOPIXは遂に8月1日高値を上回り、ザラ場ベースでちょうど1カ月ぶりにバブル崩壊後の高値を更新している。日経平均もようやく25日線や75日線に続いて、50日線、13週線の上値抵抗線を上抜いてきており、これで日足・週足・月足ともに目立った上値抵抗線は見当たらない形となった。テクニカルな好転は鮮明になっている。 東証プライムの売買代金は8月29日まで8日連続で2兆円台にとどまっていたが、30日には3兆円台を回復。前日の31日はMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出する指数の銘柄入れ替えに伴うリバランス(再調整)というテクニカルな要因もあったが、売買代金は4兆円台を超えた。本日も3兆円は超えてきそうなペースと思われる。 夏季休暇入りの海外投資家が本格的に相場に戻ってくるのは4日のレーバーデー以降と言われている。ただ、ジャクソンホール会議を通過したことで、一部の海外投資家は早くも相場に戻って日本株に買いを入れているのではないかといった指摘もあり、足元の売買代金の増加はそうした指摘を表しているのかもしれない。 一方、前日に日本取引所グループ(JPX)が公表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物・先物合算で2103億円と2週連続の売り越しとなり、現物だけでも2095億円と2週連続の売り越しだった。海外投資家が現物で2週以上連続での売り越しを見せたのは3月下旬以来となる。全体の売り越しに占める現物の割合も大きく、海外投資家の投資スタンスの変化はやや気がかり。 しかし、本日が特にそうだが、東京時間に入ってからの動きが予想以上に強い展開が今週は印象強い。来週に発表される今週分の投資部門別売買動向では、海外投資家が再び買い越しに転じている可能性はありそうだ。 他方、来週は週末に9月限先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)を控える。9月限の日経平均のオプション取引の建玉残を確認すると、行使価格30000円のプットに1万6000枚と建玉残が大きく積み上がっている一方、行使価格33000円のコールにも1万枚と建玉残が積み上がっている。8月上旬は極端にプットの建玉残の多さが目立っていて、株価の下落ヘッジを意識した動きが優勢だった。しかし、8月下旬にかけてはプットの建玉残が漸減していく一方でコールの建玉残が徐々に増加し、足元では株価上昇に備えたヘッジの動きも増えてきているようだ。 こうしたなか、現物の売買代金も徐々に回復してきてはいるが、足元の相場の強さは、ジャクソンホール会議通過後のデリバティブ取引を主体としたメジャーSQ前の買い戻しに過ぎないという見方もできそうだ。本日から9月相場に入ったが、今月は日米ともに先物・オプション取引の清算や金融政策決定会合など重要イベントが多い。9月は例年、株価パフォーマンスが軟調であるという季節性もある。基調の強さが続くかについてはまだまだ予断を許さないだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/09/01 12:20 後場の投資戦略 テクニカル面では先高観強まる [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32517.23;+183.77TOPIX;2326.94;+13.56[後場の投資戦略] 株式市場について明るい材料がまた一つ増えた。30日に発表された米8月ADP全米雇用リポートの民間雇用者数は17万7000人増と、市場予想の19万5000人増を下回った。前月7分は37万1000人増と、従来値の32万4000人増から上方修正されたが、市場予想に対する下振れに加えて、前月からの大幅な鈍化が確認されたことはポジティブだ。また、同調査によると、同じ職にとどまった労働者の賃金は前年同月比で5.9%増と、2021年以来の低い伸びだったという。 29日に米労働省が発表した雇用動態調査(JOLTS)の求人件数も予想を下回り、自発的な離職件数は21年2月以来の低水準だった。逼迫していた米労働市場の緩和が連日にわたってデータで実際に確認できたことは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクル終了の期待を高めることにつながり、相場の支援材料になっている。 29日に25日線および50日線の移動平均線を上回ったナスダック指数とS&P500種株価指数が30日も同線上で推移したことで、上値抵抗線の突破がダマしに終わった可能性は低下した。東証株価指数(TOPIX)は主要な移動平均線を全て上回った位置で推移しており、8月1日に付けたバブル崩壊後の高値更新を窺う水準にまで上昇してきている。 一方、日経平均は引き続き75日線が上値抵抗線として作用しており、前日の後場の失速によって戻り待ちの売り圧力が確認された32500円水準での攻防が続いている。ただ、日経平均も前日の当欄で指摘した通り、米長期金利の低下を背景としたハイテク株高が続いていることで、トレンド転換が近づいている印象を受ける。 今晩の米個人消費支出(PCE)コアデフレーター、そして明日の米雇用統計で、米インフレ鈍化と米労働市場の逼迫緩和が改めて確認されれば、米長期金利の一段の低下によるハイテク株高を背景に、日経平均の75日線突破も見られそうだ。 他方、世界経済の景気動向については依然として先行き不透明感が強い。このため、上記のポジティブシナリオが実現された場合には、景気や為替との連動性が高い外需系のハイテク株などよりは、これらの要因との連動性が小さい内需系のグロース株の方が買い安心感が強まってくると考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/31 12:25 後場の投資戦略 株式市場に明るい兆し見え始めた? [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32529.72;+302.75TOPIX;2321.22;+17.81[後場の投資戦略] 株式市場の先行きについて明るい兆しが見え始めた。昨日発表された米労働省雇用動態調査(JOLTS)の7月求人件数は882万7000件と前月(916万5000件)から減少し、市場予想の950万件を大幅に下回った。また、前月分は速報値の958万2000件から916万5000件へと下方修正されている。自発的離職者の割合や失業者1人に対する求人件数も着実に減少しており、総じて逼迫していた労働市場の緩和を示唆する内容となった。 これを受けて、米10年債利回りは29日、4.12%へと大幅に低下。4.36%を付けた22日からのピークアウト感が強まるチャート形状となっている。米株式市場もこれを好感し、ナスダック指数やS&P500種株価指数は上値抵抗線だった25日および50日の移動平均線を上回ってきた。東証株価指数(TOPIX)も25日線や13週線を明確に上回り、回復基調がより鮮明になった。 一方で、日経平均は75日線や13週線が引き続き上値抵抗線として意識されているが、米長期金利の低下を背景としたハイテク株高により、トレンド好転への期待は高まっている。市場予想を大幅に上回る好決算を発表したにもかかわらず、発表直後は冴えない動きが続いていた米半導体大手エヌビディアも28日、29日と続伸し、復調傾向にある。東京市場でもディスコ<6146>が上場来高値を更新し、東京エレクトロン<8035>も年初来高値を窺う展開になっている。アドバンテスト<6857>はまだ上値の重さが残っているような動きだが、半導体を中心としたハイテク株の上昇が続けば、相場は8月の調整期間を経た9月以降、再び上昇基調を辿る可能性がありそうだ。 一方、今週末にかけては米個人消費支出(PCE)コアデフレーターや米雇用統計など重要指標の発表が控えており、結果次第では本日の明るいムードが暗転する可能性もある。また、日本株に対する懸念要素としては為替動向が挙げられる。米長期金利の低下を受けてドル円は前日の米国市場時間において、147円30銭台から一時145円60銭台まで急低下した。足元では146円台を回復してきているが、米労働市場の逼迫緩和を確認する指標結果が続き、米金融引き締めサイクルの終了が強く意識されてくるようだと、為替の円高への反転が予想される。 逼迫緩和といえ依然として堅調な労働市場と底堅い個人消費を背景に米経済のソフトランディング(軟着陸)期待が根強く残るため、米経済指標の減速が確認されるまでは米長期金利の低下やドル円の下落の余地は限られると思われる。ただ、既に企業の景況感の指標は大幅に悪化しており、今後遅れて個人消費関連の指標も悪化してくる可能性はある。米商品取引委員会(CFTC)によると、投機筋の円売りポジションは7月に一時縮小されていたが、8月以降は再び積み上がってきている。きっかけ次第では円高への揺り戻し余地が大きいことには留意しておきたい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/30 12:32 後場の投資戦略 買い戻し後の買い続かず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32225.72;+55.73TOPIX;2301.03;+1.22[後場の投資戦略] 前日の米国市場では先週末の流れが続いて長期金利が低下した一方、株価指数は続伸した。週明けも米長期金利の動きが落ち着き、米株価指数が続伸したことで、ジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演を無難に消化した後のあく抜け的な動きが一過性に終わっていないことは投資家心理の改善につながっているようだ。 一方、ダウ平均やS&P500種株価指数、ナスダック指数の米主要株価3指数は25日線および50日線に上値を抑えられる状況を依然として脱していない。本日の日経平均は75日線上に復帰しているが、前引けにかけては失速、すぐ上を走る下向きの25日線が上値抵抗線として強く意識される形となっている。 東証株価指数(TOPIX)は25日線および75日線上に復帰しているが、6月中旬以降のレンジ相場が長期化する形で本日は日経平均との対比でも上値の重さが目立っている。また、直近3~6カ月間の価格帯別の累積売買動向をみると、TOPIXは現在位置する2300ポイント近辺に商いが最も集中している。この水準を明確に上抜けてレンジ相場を脱するには大きなエネルギーが必要と考えられ、足元の相場動向を踏まえると相応の材料が出てくるとは期待しにくい。 前日の日経平均は大幅に反発し、あっさりと32000円台を回復したが、500円超も上昇した割には東証プライム市場の売買代金は7日連続での2兆円台にとどまった。東京証券取引所が公表する空売り比率(価格規制あり・なし合計)は先週末25日には45.7%だったが、28日は40.6%まで低下した。イベント通過後のあく抜けに伴う短期筋の買い戻しは前日で大方進んだとみられ、これが本日の株価の伸び悩みの背景と考えられる。 一方、日経平均とTOPIXが伸び悩んでいるのに対してマザーズ指数が大幅に続伸し、200日線近くまで水準訂正を果たしてきた。今週は米FRBの金融政策を左右する経済指標が多く発表されるが、個人消費支出(PCE)コアデフレーターや雇用統計などの重要度の高い指標は週後半に集中している。このため、明後日までは警戒感が高まりにくく、本日のようなマザーズ指数の相対優位な展開が続く可能性がありそうだ。目先はテクニカル重視で売られすぎ感の残る中小型グロース株の短期リバウンド継続に期待したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/29 12:24 後場の投資戦略 買い先行後もじりじりと上げ幅を広げる展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32154.03;+529.75TOPIX;2297.27;+30.87[後場の投資戦略] 8月28日の日経平均は前週末比291.40円高の31915.68円と大幅反発でスタートした。シカゴ日経225先物清算値は大阪比230円高の31860円。先週末にパウエルFRB議長の講演を警戒するなか、日経平均は662円と大幅に下落していたこともあり、日経平均はイベント通過で買い戻しの動きが先行する展開となっている。 新興市場も堅調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、プラス圏での推移が継続している。ジャクソンホール会議での講演におけるパウエルFRB議長の発言内容が無難に消化されたことを受けて目先の安心感から買い戻しが先行。また、米長期金利の動きも落ち着いており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株も買い戻す動きが優勢となっている。前引け時点での東証グロース市場Core指数は1.26%高、東証マザーズ指数は0.58%高となった。 さて、最大の注目イベントだった国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエルFRB議長の講演は無難に通過した。パウエル議長は講演で、インフレ抑制のために必要なら追加の金融引き締めの用意があると語っており、従来からの姿勢を維持している。やはり、今週末にかけて発表される米個人消費支出(PCE)コアデフレーターや米雇用統計などの重要指標を見極めるまでは、積極的な売買は引き続き手控えられそうである。 8月の米雇用統計は、市場予想で雇用者数は約17万人増加して失業率は低水準である3.5%にとどまる見通しとなっている。予想通りなら、過去3カ月の雇用者数の伸び平均は2021年初め以来最も小幅になるようで、インフレリスクの一段の緩和が示唆されてFRBによる追加利上げの懸念が低下する。この場合は投資家心理にポジティブに働き相場の追い風となるが、仮に市場予想通りとならなかった場合はその逆となる可能性がある。 また、9月19、20日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)の次回会合前には、8月消費者物価指数(CPI)の発表も控えている。CME Fedウォッチツールでは、9月の会合では80.5%の確率で利上げ休止の公算が大きいと見込まれているが、11月会合では0.25%利上げは51.1%、さらに0.5%の利上げは10.1%と、警戒感はくすぶっている。各種統計の結果次第では米長期金利がさらに上昇する可能性があるため、相場の本格的な復調はしばらく先になる可能性があろう。 そのほか、8月24日に発表された最新週(8月14日~18日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を8週ぶりに売り越した。現物株の売り越し額は7415億円となった。一方、個人投資家は現物株を3558億円と2週ぶりの買い越し、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行も買い越しに転じた。海外投資家が大きく売り越しに転じたことは注目材料となろう。さて、後場の日経平均は引き続きじりじりと上げ幅を広げる展開となるか。買い手優位の状況が続くか注目しておきたい。(山本 泰三) <AK> 2023/08/28 12:23 後場の投資戦略 日米主要株価指数のチャート悪化が気がかり [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31666.36;-620.85TOPIX;2266.44;-20.15[後場の投資戦略] 日経平均は大幅に反落し、前日に回復したばかりの75日移動平均線を早々に下回っている。東証株価指数(TOPIX)も前日に回復したばかりの25日線や50日線を再び下回った。為替は再び円安・ドル高に振れているが株式市場の支援材料にはなっていない。 前日の米株式市場で主要株価指数が揃って大幅に下落したことが投資家心理を悪化させていると思われる。特にナスダック総合指数の下落率は1.87%、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の下落率は3.35%と大きく、本日の東京株式市場でもハイテク・グロース(成長)株の下落につながっている。前日、好決算を材料に時間外取引で一時9%超も急伸していた米半導体大手エヌビディアは、24日の通常取引では買い先行も失速してほぼ横ばいで終えた。これが影響する形で、アドバンテスト<6857>を筆頭に東京エレクトロン<8035>、レーザーテック<6920>などの半導体製造装置関連は軒並み急落し、前日の上昇分以上に下げている。 米エヌビディアの動きについては、これまでの株価上昇で好決算は織り込み済みだったとの指摘も聞かれる。ただ、前日の失速は地合いによるところが大きいとも考えられる。日本時間で今晩午後11時5分頃からは、国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が予定されている。既に相当に警戒感は高まっているが、相場の一段の調整につながり得るものとして懸念がくすぶっている。 こうしたなか、イベント前にいったん持ち株を売却して利益を確保しておこうと考える投資家がいても不思議ではない。そうした動きが米エヌビディアだけでなく、前日の米株式市場の全体の下落につながったと考えられる。だとすれば、パウエル議長の講演を無難に通過できれば、改めて好決算に着目する形でエヌビディアには買いが向かう可能性は十分にあろう。 一方、日米ともに主要株価指数のトレンド悪化が続いている点は気がかりだ。前日のダウ平均は上ヒゲを残す形で50日線の回復に失敗。S&P500種株価指数も同線が上値抵抗線として作用、ナスダック総合指数については25日線と50日線によるデッドクロスの示現が目前に迫っている。イベント通過後もエヌビディアを筆頭に米主要ハイテク株に買い戻しが入らなければ、相場全体の調整は一段と深まりそうだ。 一方、本日は半導体を中心としたハイテク株が軒並み下落し、日経平均が大きく下落している一方、マザーズ指数は朝安後に切り返してプラスに転じている。また、東証プライム銘柄のなかでも、Sansan<4443>、ラクスル<4384>、Appier<4180>、SHIFT<3697>など内需系のITグロース株は底堅く推移している。今晩のパウエル議長の講演を確かめるまでは予断を許さないが、外部環境に左右されにくい内需系グロース株のリバウンド機運の高まりに期待したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/25 12:20 後場の投資戦略 米金利低下は好材料も背景は良くない [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32146.33;+136.07TOPIX;2282.72;+5.67[後場の投資戦略] 日経平均は前日に終値で32000円を回復し、本日も4日続伸と堅調に推移している。目先は32000円台を再び定着させることができるかどうかが注目される。ただ、日経平均は本稿執筆時点(24日午前11時頃)で75日移動平均線水準まで回復したが、同線での攻防が続いており、まだ明確には上抜いていない。また、その上には25日線が次なる上値抵抗線として待ち構えており、トレンドが転換したと判断するには時期尚早だろう。東証株価指数(TOPIX)は辛うじて25日線、50日線を上回りつつあるが、こちらも8月1日以降の上値切り下げ傾向をまだ明確に脱しきれていない。 本日の相場上昇をけん引しているのは半導体を中心としたハイテク株や生成AI(人工知能)サービス関連を中心としたグロース(成長)株であるが、この状況を生み出した主因はやはり半導体メーカーの米エヌビディアの決算だろう。 同社は23日の取引終了後に決算を発表。独占的に供給しているAI向け半導体の需要急増を追い風に、5-7月期の売上高は135億ドルと前年同期比2倍に拡大し、市場予想の約111億ドルを超過、調整後一株当たり利益も2.70ドルと市場予想の2.08ドルを上回った。8-10月期の売上高見通しも160億ドルと市場予想の約125億ドルを大幅に上回り、株価は時間外取引で一時9%超上昇した。 今晩の通常取引においてエヌビディアの株価がどのような動きを見せかまでを見極める必要があるが、決算前に先回り買いが入り株価が上場来高値圏にあるなかでも予想を大きく上回る決算を発表し、時間外取引で株価が大幅高で反応している点は評価できる。 一方、エヌビディアが高いハードルを越える決算を発表し、東京市場でもハイテク・グロース株が買われているにもかかわらず、日経平均やTOPIXの上昇率は小幅にとどまっている。為替が円高・ドル安に傾いていることが上値抑制要因になっていると思われるが、これを差し引いても物足りない印象を拭えない。また、マザーズ指数にいたっては朝高後に下落に転じている。同指数を成す銘柄の構成を踏まえれば、半導体株高の恩恵がないことは差し引いて考えるべきだが、生成AI関連の銘柄は含まれているし、前日の米長期金利が大幅に低下している点を考慮すると物足りないというより弱いと言わざるを得ない。 為替の円高・ドル安の背景は米長期金利の低下だが、これは前日に発表された米経済指標の悪化が背景にある。S&Pグローバルが発表した米8月の総合購買担当者景気指数(PMI)は50.4と、景況感の拡大・縮小の境界値である50を辛うじて上回ったが、7月(52.0)から悪化し、市場予想(51.5)も下回った。特に製造業PMIは47.0と予想(49.0)を大幅に下回り、50割れが続いた。堅調とされてきたサービス業のPMIも51.0と50は上回ったが、7月(52.3)および予想(52.2)を大きく下回っている。 また、ユーロ圏のPMIも悪化が目立っており、8月製造業PMIは43.7と7月および市場予想(42.7)は上回ったが、依然として大幅な50割れの状態が継続。一方、サービス業PMIは48.3と市場予想(50.5)を大幅に下回って50も大きく割り込み、景況感の悪化を強く示す結果となった。 株価バリュエーションへの下押し圧力を通じて相場の上値抑制要因となってきた米長期金利が大幅に低下したことは目先の安心感を誘う。ただ、低下の背景が欧米の景気減速を強く示す経済指標の悪化とあれば、中長期的に業績に収れんしていくとされる株価にとっても喜ばしい話ではない。企業業績は決算発表が終わったばかりの4-6月期をボトムに今後は改善に向かうとの期待があり、株式市場は企業業績の回復を先取りして上昇する局面もあった。しかし、果たして前四半期が本当に底だったのかは覚束ない。欧米の中央銀行による「higher for longer(より高く、より長く)」を意識した金融政策が続く可能性や、金融引き締めの累積効果が時間差を伴って発現することなども考えると、今後の実体経済、企業業績の行方を楽観視するのは危ういだろう。 一方、経済指標の悪化を受けて、米金利の先高観が和らいでいることは事実。25日の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演を通過するまでは予断を許さないが、世界経済の需要動向といった外部環境に左右されにくい内需系グロース株については投資機会が近づいてきていると考えられる。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/24 12:21 後場の投資戦略 底堅いが商い低調、米エヌビディア決算に注目 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31962.99;+106.28TOPIX;2271.20;+5.49[後場の投資戦略] 日経平均は寄り付きと同時に140円近く下げた後は切り返してプラス圏に浮上する底堅さを見せている。ただ、引き続き75日移動平均線が上値抵抗線として作用しており、上値の重さは意識される。東証株価指数(TOPIX)は13週線を超えてきてはいるが、横ばいの25日線や50日線が上値抵抗線として作用している。 また、今週に入ってから東京株式市場は底堅い動きとなっているが、東証プライム市場の売買代金は18日から前日までの3日間、連続で3兆円を割り込んでいる。本日も前引け時点での売買代金は1兆2000億円台にとどまっている。海外投資家の夏季休暇入りやジャクソンホール会議を前にした様子見ムードなども影響しているが、商いの低調さは拭えない。今週のこれまでの値動きだけをみて下値は堅いと判断するのは時期尚早だろう。 今晩の米国市場の引け後には生成AI(人工知能)ブームの火付け役となった半導体エヌビディアの決算が予定されている。関連株の筆頭格である同社は生成AIサービスの普及のカギを握るキープレイヤーである。同社製の先端半導体の大口購入の情報も多く聞かれており、好決算であることはほぼ間違いないだろう。 市場予想のハードルは高いが、これを上回る可能性も十分にある。一方、株価は上場来高値圏で推移しており、仮に市場予想を越える決算を発表しても素直に株高で反応するかは読みにくい。エヌビディアの決算は今後のハイテク株の動向を決めるうえで極めて注目度の高い材料である。同社の決算内容と時間外取引の株価反応を受けた明日の東京株式市場の動きは、足元もみ合いの様相を強めている株価指数の方向性を左右するとも思われ、注目したい。 他方、マザーズ指数の戻りは投資家心理をやや明るくしてくれている。マザーズ指数は先週末にかけて下落が続き、200日線を大きく下放れてしまっていたが、今週に入ってからは戻りを試す展開が続いている。依然として200日線下での推移にとどまり、自律反発の域は出ていない。しかし、米10年債利回りが2007年以来の水準で高止まりし、国内の10年物国債利回りも22日から0.665%と、日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の柔軟化を決定して以降の最高水準にまで上昇していることを踏まえると、堅調な値動きと評価できる。 明日以降については、米エヌビディアの決算を契機に東証プライムの半導体銘柄が再び脚光を浴びる展開も予想されるが、大型のハイテク株だけではなく中小型株までを含めたグロース(成長)が広く買われる形となれば、投資家心理も一段と明るくなりそうだ。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/23 12:21 後場の投資戦略 ハイテクに押し目買いも上値の重さ拭えず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31776.06;+210.42TOPIX;2257.85;+16.36[後場の投資戦略] 日経平均は続伸ながらも、75日移動平均線が上値抵抗線として作用しており、同線を手前にした上値の重さが意識される。一方、東証株価指数(TOPIX)は75日線が下値支持線として機能しているが、13週線がやはり上値抵抗線として作用しており、上値の重い印象は拭えない。 前日はエヌビディアを筆頭とした半導体関連株やハイテク・グロース(成長)株が相場をけん引し、ナスダック総合指数は1.56%、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は2.83%と大幅に上昇した。これに対し、為替が再び1ドル=146円台に乗せ、円安・ドル高も進んでいる状況も踏まえると、日本株の上昇率の鈍さはやや気になる。 また、本日はハイテク・グロース株が反発しているが、先週末にかけて上昇が一服していた米長期金利は早々に上昇を再開している。米10年債利回りは前日21日、一時4.35%を付け、2007年以来の水準にまで上昇した。海外投資家の夏季休暇入りに伴って商いが減少し、ボラティリティー(変動率)が高まりやすいとはいえ、ここ最近の米長期金利の上昇ペースの速さは懸念材料だ。 25日の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのテーマは「世界経済の構造変化」である。米国では、景気や物価への影響が中立的な金利水準とされる自然利子率がコロナ禍での相次ぐ財政政策などにより引き上がっているとの議論が活発化してきている。こうしたなか、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が講演で自然利子率の上昇について言及した場合には、米長期金利が一段と上昇する可能性がある。 多くの外資系大手証券のストラテジストらが足元の米10年債は買い場だと指摘している。ジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演を無難に消化し、海外投資家も夏季休暇から戻って商いが復活すれば、たしかに米長期金利が低下に転じる可能性は十分にある。しかし、一方で、米経済が本当にソフトランディング(軟着陸)に成功するのであれば、米長期金利の低下余地はさほど大きくないのかもしれない。また、米政府の財政赤字の補填を目的に中長期債の発行規模が拡大されている。需給悪化による金利上昇圧力は長期的なものと思われ、金利の先行きについては楽観視できないだろう。ハイテク・グロース株の上値追いには慎重になるべきと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/22 12:22 後場の投資戦略 プラス圏で堅調に推移 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31748.88;+298.12TOPIX;2252.87;+15.58[後場の投資戦略] 8月21日の日経平均は前週末比102.09円高の31552.85円と4日ぶりの反発でスタート。シカゴ日経225先物清算値は大阪比10円安の31460円。本日の日経平均は、自律反発的な動きで買いが先行した。ただ、今週はジャクソンホール会合を控えていることもあり、積極的な売買は手控えられやすく、戻りは限定的と見ている向きも多いようだ。そのほか、中国・香港指数は軟調に推移しており、日経平均は一時マイナス圏に転落する場面も見られた。 新興市場は堅調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、上げ幅を大きく広げた。米長期金利については週末にかけて上昇が一服しているため、前週大きく下落した新興株に自律反発狙いの買いが向かっている。時価総額上位銘柄中心に注目が集まっており前引け時点での東証グロース市場Core指数は5.08%高、東証マザーズ指数は2.89%高となった。 さて、米長期金利については週末にかけて上昇が一服したものの、4.28%台と高水準で推移している。やはり、国内外で決算発表が一巡して手がかり材料が少ない中、最大の注目イベントである国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演には最大の注目が集まっている。7月のFOMC以来、米国の主要経済指標は物価と賃金の上昇圧力が緩和していることを示しており、利上げ停止の根拠となっている。ただ、労働市場や個人消費の指標がなお力強く、今後のインフレ減速に関して不安を拭い切れない状態となっている。 2024年の利下げを金融当局がどう考えるのかについての手掛かりのほか、今年のジャクソンホール会議のテーマ「世界経済の構造変化」についても注目が集まっている。ジャクソンホール会議でのポイントなどは19日の「国内株式市場見通し」で解説されているため、そちらをご覧いただきたい。いずれにせよ、同シンポジウムの動向を見極めたい動きが広がっており、今週は週を通して積極的な売買は限られそうである。 そのほか、世界の株式市場では中国事業のシェアが高い機械や素材関連株の下落が目立っているようで、中国経済の先行きに対する市場の懸念が映し出されている。実際に、中国各地でマンションなどの建設が停滞し、鋼材の需要にブレーキがかかっているという。また、国家統計局がまとめた7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は4カ月連続で50を下回っている。前週の当欄で述べたように、今後は各国の経済状況のほか、米国と中国の動き、台湾情勢などの地政学リスクを念頭に置いて相場や企業の動向を見守っていく必要がある。SMC<6273>など中国売上高比率の高い国内企業が軟調に推移する中、再度中国売上高比率が高い企業や中国から撤退する動きを見せている企業はピックアップしておきたい。 8月17日に発表された最新週(8月7日~10日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を7週連続で買い越しており、買い越し額は1799億1013万円となった。現物・先物の合計では6457億円と3週ぶりの買い越しとなり、前週は3842億円の売り越しだった。一方、個人投資家は現物株を2395億円と2週ぶりの売り越し、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は2603億円と3週連続で売り越した。あまり大きな変化はないものの、海外投資家の買い越しが続いていることは注目材料となろう。さて、後場の日経平均は引き続きじりじりと上げ幅を広げる展開となるか。買い手優位の状況が続くか注目しておきたい。(山本 泰三) <AK> 2023/08/21 12:22 後場の投資戦略 日経2日連続で急速な下げ渋りも安心できず [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31565.21;-60.79TOPIX;2243.56;-9.50[後場の投資戦略] 本日の日経平均は前日同様、一時大きく下落したものの、その後は急速に下げ渋って心理的な節目の31500円を回復するなど、底堅い動きを見せている。 前日の米株式市場は軟調な展開が続き、ナスダック指数やS&P500種株価指数に続いて、ダウ平均も遂に50日移動平均線を終値ベースで割り込んだ。日経平均も75日線や13週線を割り込んでいるため、日米ともにトレンドの転換が鮮明になっており、マネーフロー(資金の流れ)など相場の基調自体は悪化していると思われる。 加えて、日本時間で本日の寄り付き前には、中国不動産大手の中国恒大集団が米国で破産申請したと嫌なニュースが伝わっていた。週末の休暇中における突発的なリスクを避けたいとする動機から、リスク回避的な動きが増幅されやすく、本日は買い戻しが入りにくいと考えられた。 しかし、中国恒大集団の問題については、同社の経営を巡る昨年からの一連の報道などを通じて、ここまでの事態悪化は概ね織り込み済みだったもよう。また、足元で香港ハンセン指数や上海総合指数は既に大きく売り込まれていたため、改めてここから一段と売るような材料とは捉えられなかったのかもしれない。また何より、中国人民銀行が人民元の基準値設定により人民元安をけん制していることが、中国・香港株の下げ渋りを通じて売り方の買い戻しを誘っているのかもしれない。 ただ、中国の不動産業界では恒大集団だけでなく、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)など大きな問題を抱える企業が数多く存在し、中国発のリスクが市場に与える影響については、まだ予断を許さないだろう。一方、米長期金利の上昇に一服感が見られている点はやや安心感の創出に寄与している。米10年債利回りは17日、一時4.33%まで上値を伸ばしたが、その後4.25%程度にまで水準を切り下げている。 また、日本の10年物国債利回りも今週は再び上昇が続いていたが、本日は低下している。本日寄り付き前に発表された7月の全国消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコア指数で前年同月比+4.3%と前回6月分(+4.2%)から拡大し、1981年以来の高水準を記録した5月分と並んだ。ただ、市場予想と一致し、上振れとはならなかったこともあり、国内長期金利への上昇圧力にはなっていない。 日米長期金利の上昇一服は目先の安心感として、本日、前場の東京株式市場の買い戻しなどに寄与しているのかもしれないが、来週は国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開催される。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言次第では日米の長期金利の上昇基調が再開する可能性もあり、株式市場がここで下げ止まったと判断するのは時期尚早だろう。 足元、中小型グロース(成長)株で必要以上に売られているような銘柄が多く見られるが、日米の長期金利の先高観がくすぶるなか、こうした関連銘柄への押し目買いについては、今はぐっと堪えたい。仮に買うにしても、今はまだ打診買いにとどめて余力は十分に残し、また、追証などのペナルティが発生しない現物投資に限った方がよいだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/18 12:26 後場の投資戦略 日銀は追加政策修正を迫られる恐れ [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31478.90;-287.92TOPIX;2239.61;-21.23[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大幅に続落し、6月8日以来のザラ場ベースでの31500円割れとなっている。米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月開催分)の内容が想定以上にタカ派色の濃いものだったこともあり、米10年債利回りが足元で4.29%と昨年10月24日の高値を更新してきたことが警戒感を誘っているもよう。一方、為替市場では1ドル=146円台へと突入し、円安・ドル高はさらに進展しているが、株式のサポート要因にはまったくなっていない。 一般に、株式市場では円安については、輸出企業の採算改善といったプラス効果の方が勝ると言われている。しかし、1ドル=145円台を目安に、この水準からの一段の円安についてはそうしたプラス効果よりも、インフレ進展による消費の減退などマイナス効果の方が大きいことが意識されている可能性が高い。 8日に発表された毎月勤労統計調査によると、6月の実質賃金は前年同月比1.6%減少した。減少率は5月(0.9%減)から拡大し、15カ月連続でマイナスとなった。また、8日発表の家計調査によると、6月の消費支出は物価変動を除く実質ベースで前年同月比4.2%減と、4カ月連続で前年を下回った。 昨年以降、日本国内でも食品業界などで値上げが相次いでいた。円安が一服したことで、こうした値上げも年末を迎えるまでには一巡してくるとも言われていたが、足元の急速な円安進行で輸入インフレが再燃し、食品業界を中心に値上げが想定以上に長期化する恐れもある。この場合、実質賃金や実質消費のマイナス傾向も続くことが予想され、個人消費の減退、経済の失速、ひいては日本のデフレ経済からの脱却期待の後退にもつながりかねない。 最後の「デフレ経済からの脱却期待の後退」の部分だけをみれば、日本銀行による金融緩和の長期化を意識させる。しかし、足元の円安については、日本の貿易赤字の継続や円買いを伴わない第一次所得収支を背景とした経常黒字など構造的な要因もあるが、主因は明らかに日米金利差の存在、日米の中央銀行の政策スタンスの違いによるものと考えられる。このため、上述したような過度な円安進行によるマイナス影響に焦点が移れば、日銀も年内にさらなる追加の政策修正を行うことは十分に考えられよう。 現在、円安はほとんど日本株高につながっていないが、今後、日銀の追加政策修正の観測が高まるようなことになった場合には、円高・ドル安への反転が想定され、その際には米国株以上に日本株のパフォーマンスはさらに厳しくなる恐れがあろう。 さて、海外投資家の夏休み入りに加え、来週の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演を前に、相場は引き続きボラティリティー(変動率)の高い神経質な展開が続きそうだ。こうしたなか、株式ポートフォリオのリスクを最小化するような戦略を用いた「iシェアーズMSCI日本株最小分散ETF(上場投資信託)」に組み入れられている銘柄への投資などが一考に値しよう。また、薄商いのなか、流動性リスクは気がかりではあるが、中長期目線として割り切れるのであれば、終わったばかりの4-6月期決算で良好な内容が確認されたにもかかわらず、足元の地合い悪化で必要以上に売られている中小型株などにも妙味があろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/17 12:22 後場の投資戦略 中国経済と米実質金利が重し [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;31906.25;-332.64TOPIX;2269.60;-20.71[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大幅に下落し、8月7日以来の32000円割れとなっている。前日の東京時間に発表済みではあるが、小売売上高を筆頭に、鉱工業生産、固定資産投資などの中国の主要経済指標が軒並み市場予想を大幅に下回ったことで、世界経済の減速懸念が強まっている。為替は1ドル=145円台後半と円安基調が続いているが、ここのところ、円安と東京株式市場の連動性が薄れており、相場の下支え要因にはほとんどなっていない。 石油輸出国機構(OPEC)のデータが、サウジアラビアの原油減産に伴う世界石油市場の供給不足を指摘したこともあり、ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI、期近物)は10日に1バレル=84.89ドルと今年の高値を更新していた。しかし、中国経済の低迷の深刻化を背景に、足元のWTIは80ドル台で推移する場面も見られている。 一方、米国経済は堅調さを保っている。前日に発表された米7月小売売上高は前月比+0.7%と市場予想(+0.4%)を大幅に上回り、前月6月分は+0.3%と速報値(+0.2%)から上方修正された。米経済のソフトランディング(軟着陸)期待は一段と高まっており、米中長期債の需給環境の緩みも引き続き意識されるなか、米10年債利回りは15日に4.22%と、昨年10月に付けた高値にほぼ並ぶ水準にまで上昇してきた。米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が「物価上昇率が依然として高過ぎる」とし、追加利上げを示唆したことも影響したようだ。 米10年債利回りから期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレークイーブン・インフレ率(BEI)を差し引いた米10年物実質金利は15日1.90%と、2009年3月以降で最高水準にまで上昇してきている。 中国経済の予想以上の低迷で製造業を中心とした企業業績への悪影響が懸念される一方、日本の製造業にはさほど恩恵のないサービス業を中心とした内需主導の米国経済の堅調さを背景に、米長期実質金利の高値更新が続いている。景気敏感株もハイテク・グロース株も買いにくい非常に厳しい地合いになってきたといえ、商いが細くなりがちな8月相場の後半は下方向に振れ幅が大きくなりやすい環境になってきた恐れがある。 投資戦略を立てるのが難しい局面になってきたが、米長期金利の先高観がくすぶるなか、ハイテク・グロースよりはバリュー(割安)株が相対的に優位と考えられる。また、バリュー株のなかでも、資源価格の下落が直接的に業績にマイナス影響を及ばさない銘柄などがより好ましいだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/16 12:29 後場の投資戦略 プラス圏でもみ合う展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32315.61;+255.70TOPIX;2294.12;+13.23[後場の投資戦略] 15日の日経平均は312.62円高の32372.53円と反発して取引を開始した。ナスダック総合指数が1.05%上昇、主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が2.87%上昇と、東京市場でハイテク株や半導体関連株の株価支援要因となった。また、円安・ドル高が進行したことが、東京市場で輸出株などの株価を支える要因となった。一方、25日移動平均線が上値抵抗線となり、中国の景気懸念が意識される中、ここからの上値は大きくないとの見方があった。買い一巡後は上値の重い展開となっている。 新興市場もはまちまち。マザーズ指数は上昇スタート後即座にマイナス圏に転落、前場中ごろに下げ渋ったものの戻りは鈍い。一方、グロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、プラス圏での推移が続いている。米ハイテク株に買い戻しの動きが広がったことは国内の投資家心理を改善する要因となった。ただ、米長期金利が4.2%台まで上昇しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい地合いが続いており、時価総額上位銘柄中心に注目が集まっている。前引け時点での東証マザーズ指数は1.39%安、東証グロース市場Core指数は1.22%高。 4-6月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率6.0%増と、3四半期連続のプラス成長となった。前期比で内需がマイナス0.3ポイント、外需がプラス1.8ポイントの寄与度だった。半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引したほか、インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与して輸出は前期比3.2%増で2四半期ぶりのプラスとなった。また、輸入は同4.3%減で3四半期連続のマイナスとなりGDPを押し上げた。一方、物価高が続く中で個人消費は同0.5%減と5期ぶりのマイナスとなっており、個人消費の減退が継続するかには注目しておきたい。 そのほか、イエレン米財務長官は14日、米経済に対する楽観的見方を著しく損なうものではないと語っており、成長は減速しつつあるが労働市場は極めて力強く、インフレ率も低下している米国についてポジティブに捉えているようだ。ただ、中国の経済的苦境について米国にとって「リスク要因」との認識を示し、米国にも一定の波及効果があるだろうと語っている。前日の当欄でも示唆したが、各国の経済状況を注視するだけでなく、今後は米国と中国の動き、台湾情勢やウクライナ情勢などの地政学リスクを念頭に置いて相場や企業の動向を見守っていく必要があるだろう。 さて、このような状況下、出遅れ感や割安感が残る中小型株のほか、中国人の旅行需要というカタリストが意識されはじめたインバウンド関連などには引き続き注目しておきたい。日本円は対人民元で今年4.8%下落と他のアジア諸国通貨に比べ最も下げており、中国からの観光客を呼び込みやすいという見方もある。また、今年の訪日中国人旅行者数はコロナ禍前に比べてわずか13%しか戻っていないようで、今後の増加余地は大きい。 日本政府観光局のデータによると、中国人訪日客は2019年には国・地域別で最多の959万人に上り、1兆7000億円以上消費していたという。2023年4月-6月の訪日中国人の観光・レジャー目的の支出において、最も大きな割合を占めたのは「買い物代」で、次いで「宿泊費」「飲食費」となっている。今後仮に中国人観光客が回復すると、訪日中国人に人気のある「化粧品・香水」や「菓子類」「医薬品」などの購入がつながるドラッグストア、コンビニエンスストア、空港の免税店などは恩恵を受けそうだ。また、宿泊や観光関連の企業のほか、百貨店各社も引き続き好影響を受ける可能性がある。 国内企業の4-6月期決算発表は昨日で一巡した。8月は海外の投資家の夏休み入り、国内投資家の休日も重なり売買が細りやすい傾向があるほか、株式市場が下落しやすい季節性も存在する。ひとまず、決算発表を受けて個別銘柄への注目が続きそうで、決算を受けて上下に大きく動いた銘柄、好決算でありながらも動意の乏しかった銘柄についてはピックアップしておきたいところか。また、上述のインバウンド関連も目が離せない。さて、後場の日経平均はプラス圏でのもみ合い展開継続なるか。決算発表を終えた銘柄の値動きに注目しておきたい。(山本 泰三) <AK> 2023/08/15 12:24 後場の投資戦略 買い続かずマイナス圏に転落 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32160.30;-313.35TOPIX;2286.15;-17.36[後場の投資戦略] 8月14日の日経平均は前週末比16.93円安の32456.72円と小反落でスタート。シカゴ日経225先物清算値は大阪比105円安の32455円で、本日の日経平均はシカゴ先物にサヤ寄せする格好からやや売りが先行した。ただ、為替が円安方向に振れていることが追い風となり、日経平均は一時プラス圏に浮上する場面も見られた。しかし、買いは続かず再度マイナス圏に転落、その後は軟じりじりと下げ幅を広げる展開となった。 新興市場も軟調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、上げ幅を縮小してマイナス圏に転落する展開となっている。前週末まで大きく下落していた分、押し目買いの動きが広がったが、米長期金利が再度上昇しておりバリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株の重しとなっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.65%安、東証グロース市場Core指数は0.53%安。 さて、前週注目された米7月CPIは概ね市場予想に一致した一方、前年同月比で市場予想を小幅に下回り、米8月ミシガン大消費者調査の1年先期待インフレ率も予想に反して前月から低下するなど追加利上げ懸念を緩和させる内容も見られた。ただ、食品とエネルギーを除いたコアCPI指数は前年同月比4.7%上昇したほか、米7月卸売物価指数(PPI)が予想を上回っており、結果的に米国債利回りの上昇につながった。 直近では、米国がリセッション(景気後退)を回避すると予測するエコノミストや投資家が増加している。また、米ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは、米金融当局が来年6月末までに利下げを開始するとの予想を示している。強弱入り混じる内容でどっちつかずの動きが続く中、やはり今後はFOMC議事要旨(7月開催分)や今月終盤に開かれるジャクソンホール会合にも注目が集まろう。同会合ではパウエルFRB議長含めて当局関連の発言に注視しておきたい。 そのほか、中国の景気回復は不動産不況の悪化に圧迫されているようだ。最新の経済指標では成長回復の兆しがほとんど見られない公算が大きい可能性があるという。中国の一部地域が豪雨や洪水に見舞われたことで先月の建設活動が妨げられたことも要因となるようだ。さらに、中国の信託会社及び中融国際信託の顧客2社が満期を迎えた同社の信託商品の支払いが滞っていることを明らかにしている。中融の主要株主1社が流動性の問題を抱えていると報じられる中、中国の金融セクターにも混乱の兆候が表れた。 また、中国外務省が、台湾の頼清徳副総統がパラグアイ訪問の経由地として米国に立ち寄る計画について「一つの中国の原則に対する重大な違反」だと非難している。同省の報道官談話は、「中国は、米国と台湾のいかなる形の公式接触にも断固反対する」とし、頼氏の立ち寄りをアレンジした米国の決定を批判したようだ。各国の経済状況を注視するだけでなく、今後は台湾情勢やウクライナ情勢などの地政学リスクを念頭に置いて相場や企業の動向を見守っていく必要があるだろう。 8月10日に発表された最新週(7/31~8/4)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を6週連続で買い越しているが、買い越し額は188億円と前週から縮小した。現物と先物を合算すると海外投資家は3842億円の売り越しとなっており、個人投資家は現物株を2662億円買い越した。さて、後場の日経平均は引き続きじりじりと下げ幅を広げる展開となるか。前週同様、決算発表を終えた銘柄中心に物色が続きそうだ。(山本泰三) <AK> 2023/08/14 12:27 後場の投資戦略 国内連休中の海外市場に注目 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32338.95;+134.62TOPIX;2296.12;+13.55[後場の投資戦略] 本日の日経平均は寄り付きと同時に一時32000円割れ目前の水準まで下落したが、その後は前引けまでほぼ一本調子で水準を切り上げ、前日比でプラス圏に浮上。本日の安値からの上げ幅は300円を超える。 日経平均はこれまで度々32000円を割り込む局面があったが、毎回、32000円台に早期に浮上し、押し目買い意欲を見せていたが、今週に入ってからは特に32000円手前からの下げ渋りが目立っており、底堅さを改めて確認できている。 日米長期金利の上昇や米国債の格付け引き下げなどを背景に先週から株式市場のムードが悪くなっていたが、日本株はかなり粘り強さを見せているといえる。日米長期金利の上昇も今週は一服しており、前日に行われた米10年物国債入札でも需要の堅調さが確認され、安心感につながっている。 一方、国内は明日から3連休で立ち会いは本日が最後となる。こうしたなか、今晩には米7月消費者物価指数(CPI)、明日11日には米7月卸売物価指数(PPI)が発表予定だ。米7月CPIは総合および食品・エネルギーを除いたコア指数ともに前月比+0.2%と前回6月分と同じ伸びが予想されている。一方、前年同月比では総合が+3.3%と6月(+3.0%)から加速する見込みで、コア指数は前年同月比+4.7%と6月分(+4.8%)から小幅な鈍化が予想されている。ある程度は織り込み済みとはいえ、CPIコア指数が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標値である2%を大幅に上回ったままであるなか、CPI総合の伸びが13カ月ぶりに加速に転じるとなると、インフレ高止まりが想起される恐れがある。 商品市況の動きなどを背景に、米CPIは次回以降の8月分、9月分の方が警戒されていて、今回の7月分については、事前の市場関係者の間ではさほど警戒する声は聞かれていない。しかし、前日は、労働者のストライキを背景とした供給リスクから欧州の天然ガス先物価格が急上昇したほか、直近、上昇基調を強めている原油市況は、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト、期近物)が一時1バレル=84ドル台後半と9カ月ぶりの水準にまで上昇した。コモディティ価格の動向が気がかりななか、警戒度が低い7月分から予想比で上振れとなると、次回8月分以降への警戒感は一段と上昇するだろう。その場合には、株式市場で再びリスク回避の動きが強まる恐れがある。 米物価指標の上振れは日米金利差の拡大による円安・ドル高を通じて日本株の相対的な底堅さに寄与する可能性もあるが、現値水準から一段と円安・ドル高が進むと、輸入インフレが再燃する恐れがあり、日本銀行の年内の追加政策修正への思惑なども高まりかねない。国内連休の間の海外市場の動向には注意したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/10 12:39 後場の投資戦略 日米長期金利は低下も株冴えない [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32241.63;-135.66TOPIX;2282.35;-9.38[後場の投資戦略] 本日の日経平均は前引けにかけてやや軟化したが、概ね前日終値近辺での一進一退となっている。前日の米株式市場で主要株価指数が揃って下落したことに加え、ドル円レートの水準は前日の東京時間とほとんど変わらないため、これらの状況を踏まえれば思ったよりも底堅い印象を受ける。 要因としてはいくつか考えられるが、まずは先週の日本株安の独自要因として働いていた国内長期金利の上昇一服が挙げられよう。国内の10年物国債利回りは本日11時時点では0.580%の水準にある。3日の0.655%から4日連続での低下となっており、低下幅もそれなりに大きい。昨日の国内30年物国債の入札で旺盛な需要が確認されたあたりから、10年物国債利回りも急低下しており、今回の入札結果が安心感を誘っているもよう。 米長期金利が低下していることも本日のハイテク・グロース(成長)株の買い戻しを通じて相場を下支えしていると考えられる。米10年債利回りは8日に4.03%と7日の4.09%から低下、安値では4%を割り込む場面もあった。昨日行われた米3年物国債入札でも強い需要が確認され、目先の安心感につながっているようだ。 一方、先週、株式市場の下落を引き起こした日米長期金利の上昇が一服しているものの、日米の株式市場は冴えない展開が続いている。米国債の四半期入札や米消費者物価指数(CPI)などの注目イベントが今晩以降も控えていることを踏まえれば自然なこととも思われる。 ただ、前日の米国市場では長期金利が低下しているなかでも株式は総じて軟調で、主要株価指数の下落率は一時1%を優に超えて推移する場面があった。また、ダウ平均を除けば、S&P500種株価指数、ナスダック指数、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)などの株価指数は揃って前日に25日移動平均線を割り込んできている。 7月下旬にかけて株価指数が水準を大きく切り上げてきたことで、投資家の買いの持ち高はそれなりの水準に膨れ上がってきていたと考えられる。こうしたなか、日米ともに入札で国債の需要は堅調さが確認されたものの、どちらにおいても国債を買いながら同時に株式にもさらに資金を振り向ける余力は既になくなってきていたのかもしれない。これが、金利が低下しつつも株価が上がらない一因という可能性はありそうだ。 8月は海外投資家の夏休み入りで売買が細りやすい傾向があるうえ、株式市場が下落しやすい季節性もかねてから指摘されている。5月以降、相場をけん引してきた時価総額の大きい大型株などはしばらく上値の重い展開が予想される。目先は出遅れ感や割安感が残る中小型株のほか、中国人の旅行需要というカタリストが意識されはじめたインバウンド関連などに妙味がありそうだ。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/09 12:24 後場の投資戦略 今週の懸念材料はこれから [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32358.10;+103.54TOPIX;2290.94;+7.01[後場の投資戦略] 本日の日経平均は寄り付きから買いが先行し、午前10時過ぎには一時32500円を超えた。週明け7日の米ダウ平均が1%超の上昇率で4日ぶりに反発し、下落が続いていた米ナスダック総合指数も5日ぶりに反発したことで、久々の米株高が投資家心理を改善させたようだ。しかし、心理的な節目を回復したところで戻り一服感が台頭し、その後は高値から300円ほども上げ幅を縮め、下落に転じる場面もあった。 前日の東京市場が朝安後に急速に切り返したのは、先週、株式市場の下落につながった日米長期金利の上昇が一服したことが大きい。先週末4日に発表された米7月雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を小幅に下回ったとはいえ、平均時給の伸びは前年同月比および前月比でともに市場予想を上回った。しかし、それまでの金利上昇ペースが速かったことに伴う目先の材料出尽くし感に加え、雇用者数や週平均労働時間の減少に着目した景気減速の兆候から、米10年債利回りは3日の4.18%から4日には4.04%へと大きく低下した。週明けの日本の10年物国債利回りもこうした流れを引き継ぎ、先週末は0.65%を超えていたが、週明け7日は0.62%まで低下した。 しかし、7日の米10年債利回りは4.09%と先週末4日の4.04%から再び上昇している。日本の10年物国債利回りも本日8日は0.635%と早くも反発している。先週、米長期金利を上昇させた主な要因は米財務省による中長期債の発行規模引き上げと考えられる。今週は米国債の四半期入札が行われる。8日に3年債、9日に10年債、10日には30年債が予定されている。 また、今週は10日に米7月消費者物価指数(CPI)、11日には米7月卸売物価指数(PPI)、米8月ミシガン大学消費者信頼感調査の期待インフレ率が発表される。米CPIは前年同月比+3.3%と6月(+3.0%)から加速する見込みで、13カ月ぶりに伸びが前の月から拡大する予想だ。サウジアラビアの減産期間の延長や米経済のソフトランディング(軟着陸)期待を背景に、原油市況が需給の両面から上昇基調にあるなか、米7月PPIは総合および食品・エネルギーを除いたコア指数ともに前月比+0.2%と前回6月分(+0.1%)から加速する見込み。米ガソリン価格も上昇基調にあるため、期待インフレ率の上昇も予想される。 前日、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が、インフレが減速すれば来年には利下げが正当化される可能性があるなどと指摘したことが足元の株式市場の支援材料になっているようだ。しかし、上述したように、米金利の先高観が残るなか、米四半期入札の結果や米CPI・PPIの結果は注視する必要がある。 一方、日本では本日午前に発表された毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年同月比-1.6%と、前月(-0.9%)から減少率が拡大し、市場予想(-0.9%)よりも大幅な減少率となった。また、現金給与総額は同+2.3%と18カ月連続で増加したものの、伸び率は市場予想(+3.0%)を下回った。これが日銀の金融緩和を長期化させる思惑を強めることになれば、国内長期金利の上昇圧力が和らぎ、日本独自の株安要因も弱まりそうだ。 ただ、ドル円は現在(本稿執筆時点、8日11時前後)1ドル=143円30銭台と先週末4日から2円近く円安・ドル高が進んでいる。植田日銀総裁は7月の金融政策決定会合におけるイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の柔軟化にあたって、為替市場の変動率などにも配慮していることを示していた。足元のドル円の変動率は大きい上に、また、輸入インフレ再燃につながり得る円安は、物価目標の上振れを警戒する日銀としては許容しがたい。日銀の追加政策修正への思惑はくすぶり、国内長期金利の上昇圧力も簡単には和らがないだろう。 日米長期金利の上昇圧力がくすぶるなか、ハイテク・グロース(成長)株の上値は重い展開が予想される。一方、市況関連などのバリュー(割安)株が相対的に優位な展開が当面続きそうだ。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/08 12:27 後場の投資戦略 売り一巡後は下げ幅を縮小する展開 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32190.31;-2.44TOPIX;2281.45;+6.82[後場の投資戦略] 8月7日の日経平均は前週末比271.47円安の31921.28円と大幅反落でスタート。加えて、決算発表がピークを迎えている他、週末が祝日となることもあって商いは膨らみづらく、短期的な物色に振らされる展開が予想されている。ただ、売り一巡後は押し目買いの動きが目立っており、前引けにかけてじりじりと下げ幅を縮小した。 新興市場も軟調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落スタート後、じりじりと下げ幅を縮小する展開となっている。米10年債利回りが依然として4%を超えており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい地合いが続いている。ただ、前週末まで大きく下落していた分、押し目買いの動きも広がっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.16%安、東証グロース市場Core指数は0.66%安。 さて、4日には米7月雇用統計が発表された。7月の非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比18万7000人増で市場予想(20万人)をやや下振れた。一方、失業率は3.5%で前月(3.6%)から低下、平均時給は前月比0.4%上昇と前月と同水準となったほか、前年比では4.4%上昇となった。雇用統計の結果は強弱入り混じる内容で米10年債利回りも4%水準で推移、投資家心理が上下どちらか一方に偏る結果ではなかった。ただ、今週は米国で10日に7月消費者物価指数(CPI)、11日に7月卸売物価指数(PPI)が発表される。仮にインフレ高止まりが意識されると、既に4%を超えている米10年債利回りの一段の上昇にもつながりかねないため、同指標の結果には大きな注目が集まっている。 パウエル議長をはじめ当局者らは、これまで政策はデータ次第との姿勢を一貫して繰り返してきた。今週は、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁とアトランタ連銀のボスティック総裁らの発言も予定されている。また、パウエル議長は今月下旬に、カンザスシティー連銀がワイオミング州ジャクソンホールで開く年次シンポジウムで登壇を予定している。5日に講演したボウマンFRB理事は、物価の完全な安定回復には追加利上げが必要になるかもしれないとの見解を示していた。やはり、9月に開かれる次回連邦公開市場委員会(FOMC)までに、当局関連の発言や今後の雇用統計、最新の物価統計の動向には注視しておきたい。 そのほか、今週は国内で1500社以上の企業決算が発表される。決算を材料とした東証プライム銘柄の個別株物色が主体となることが予想され、商いが膨らむことが想定される。好決算銘柄の買いが優勢となれば、株価指数の回復につながろう。米国と合わせて日本の長期金利の動向に注意を払いたいところだが、直近株価が大きく下落しながらも業績が堅調に推移している銘柄はしっかりとチェックしておきたい。 7月第4週(24~28日)投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を738億円買い越した。海外投資家の買い越しは5週連続で、個人投資家は1304億円の売り越しで4週ぶりに売り越した。海外投資家の買い越しが続く中、個人の売り越しが継続するか、今後もチェックを続けたい。さて、後場の日経平均はプラス圏に浮上して上げ幅を広げることができるか。前述のようにインフレ関連指標の発表が控えているが、今週から企業決算が本格化するためプライム市場の個別株物色に注目しておきたい。(山本泰三) <AK> 2023/08/07 12:28 後場の投資戦略 米雇用統計を受けた金利動向を注視 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32130.94;-28.34TOPIX;2267.36;-0.99[後場の投資戦略] 本日の日経平均は寄り付き直後に32000円割れを見た後はすぐに切り返すと、一時は安値から300円超上昇するなど、心理的な節目を意識した底堅さが見られた。一方、戻りの一服も早く、その後は次第に値を切り下げる展開となっている。 2日、3日と日米の長期金利の上昇が株式市場の下落につながっていただけに、金利への影響力の大きい米雇用統計の発表を今晩に控えるなか様子見ムードが強まっているようだ。前日3日の米10年債利回りは4.18%と、2日の4.09%からさらに上昇した。米名目金利から期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率を差し引いた米10年実質金利は3日に1.81%と、7月7日に付けた1.79%を上回り、2009年3月以降で最高水準にまで上昇した。 一方、前日まで上昇が続いていた日本の新発10年物国債利回りは、本日は上昇一服となっており、長期国債先物も下げ渋っている。前日は日本銀行が午後に臨時の国債買い入れを実施したにもかかわらず、長期金利が低下したのは一時的ですぐに低下分を埋める動きとなっていた。日銀を試すかのような海外投機筋と思われる向きからの国債売りが入っていたとみられるが、本日はいったん小休止しているもようだ。 しかし、今晩の米雇用統計で市場予想を上回る数値が出た場合には、足元で金利動向に神経質になっているタイミングでもあるため、米長期金利の一段の上昇を通じて日米ともに株式市場へのマイナス影響が懸念される。その場合には、本日いったん小休止している日本の長期国債への売りが再燃する可能性もあろう。 来週は米国で10日に消費者物価指数(CPI)も発表される。目先は金利動向に神経質な展開が想定され、ハイテク・グロース(成長)株の押し目買いは控えた方がよいだろう。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/04 12:22 後場の投資戦略 日米長期金利が引き続き攪乱要因 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32244.08;-463.61TOPIX;2274.99;-26.77[後場の投資戦略] 本日の日経平均は一時500円を超えるなど、大幅に続落。引き続き日米の長期金利の上昇が警戒されているようだ。前日2日の米10年債利回りは4.09%と1日の4.03%からさらに上昇。7月ADP民間雇用者数が前回6月分に続き市場予想を大幅に上振れたことで米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ懸念が再燃。また、米財務省による財政赤字の補填を目的とした中長期債の発行規模引き上げによる需給の緩みが警戒されている。さらに、1日には格付け会社フィッチ・レーティングスが米国債の格付けを引き下げた。格下げ自体が大きな影響力を持つことはないだろうが、米国債の発行規模が引き上げられるタイミングでの発表となり、時期が悪かった。今後の米国債の入札に向けてタームプレミアム(期間に伴う上乗せ金利)の上昇と利回り曲線のスティープ化を指摘する声が聞かれている。 また、引き続き日本国内の金利動向も気掛かりだ。10年利付国債(第371回)は本日午前の本稿執筆時点で0.65%まで上昇。前日の終値0.625%からさらに上昇している。長期国債先物の価格も続落しており、国内長期金利の上昇圧力がじわじわと高まっている様子が窺える。前日、日本銀行が臨時オペでの国債買い入れ額を前回から増額しなかったこともやや警戒感を高めさせているようだ。なお、本日、日銀は午前の金融調節で臨時買い入れオペの通知を見送った。 国内では来週が決算発表のピークであるため、決算を手掛かりとした個別株物色が相場を下支えしてくれることに期待したいが、米国は今週が決算発表のピークで、来週は発表数が前週比で半減する。決算を材料とした物色が後退するなか、4%を超えてきた米10年債利回りが一段と上昇するようであれば、株価指数が高値圏にあるなか利益確定売りを誘いやすいだろう。 米ダウ平均や米S&P500種株価指数は依然として上向きの25日移動平均線上を維持しているが、米ナスダック総合指数は前日に25日線を割り込んだ。日本も個別株物色に期待したいところだが、米国株がここから一段と大きく崩れてしまうようだと影響は免れないだろう。25日線を既に下回っている日経平均に対して、東証株価指数(TOPIX)は辛うじて同線を維持しようとする動きが見られているが、TOPIXも同線を大きく下放れてしまうと、調整色が強まりそうだ。長期金利の上昇が警戒され、為替相場の動向にも不透明感が漂うなか、これらの影響が相対的に小さい内需系セクターなどに注目したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/03 12:19 後場の投資戦略 国内外の金利動向が気掛かり [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32861.29;-615.29TOPIX;2314.03;-23.33[後場の投資戦略] 本日の日経平均は600円超下落し、33000円を大きく割り込んでいる。日経平均の下落率は1.8%超と、0.4%程度の下落率にとどまった米ナスダック総合指数に比べて大きめの下落率になっている。先週末の日本銀行の政策修正に伴う余波が続いているとみられ、日本固有の要因で国内株の変動率が高くなっているようだ。 東京証券取引所が公表している空売り比率は、先週末に47.8%まで上昇していたが、前日に37.9%まで低下。週明け以降の売り方の買い戻しが一巡したことも本日の相場の下落につながっていそうだ。 国内外の金利動向が気掛かりになってきている。米国では前日に発表された供給管理協会(ISM)の7月製造業景況指数をはじめ、労働省雇用動態調査(JOLTS)の求人件数などが市場予想を下回ったにもかかわらず、米10年債利回りは4%を超える水準にまで上昇し、ハイテク株の下落を誘発した。 米国債の大量発行が意識されていることが背景にあるようだ。米財務省は財政赤字の急速な悪化に対応するため、今週から期間が長めの債券の発行拡大に乗り出す方針。財務省が2日に発表する四半期定例入札予定では、発行総額を960億ドルから1020億ドルに引き上げると予想されている。新規発行額は来年にはほぼ倍増する見通しとも指摘されており、かつて米国債の最大の買い手だった米連邦準備制度理事会(FRB)がバランスシートの縮小に取り組むなか、国債需給の緩みが懸念される。また、直近は想定以上に強い米国の経済指標を受けて経済のソフトランディング(軟着陸)期待が高まっていた最中でもあった。今後、米長期金利がここからさらに上昇するようであれば株式市場も警戒感を抱かざるを得ないだろう。 また、日本国内でも長期金利の動向が気掛かりだ。日本の新発10年債利回りは足元0.6%前後でとどまっている。7月31日に、日銀が臨時の国債買い入れオペを実施し、市場の動きをけん制したことが効いている様子。一方、本日の長期国債先物は売りが優勢だ。金利の動きが限定的である一方、債券先物からは日銀の政策修正を意識した動きが窺える。 足元ではドル円が1ドル=143円台にまで上昇するなど、為替の円安が大きく進行している。円安による輸入インフレへの警戒感なども踏まえると、日銀も臨時オペの積極的な実施をいつまでも続けることは難しいと考えられる。こうした背景から、今後、0.6%で抑えられている10年債利回りが0.7%台を超えてくることなども想定されよう。この場合、依然として高水準にある投機筋の円売りポジションの巻き戻しにより、為替の円高が急速に進行する可能性がある。前日の米国時間から、為替の円安進行に対する日経225先物の上昇という従来の連動性が薄れているため、円高が進んだ場合の日本株の下落には注意したい。 ほか、国内金利がさらに上昇してくると、生命保険会社など国内機関投資家の米国債券から自国債券への回帰なども想定される。その場合、米長期金利の一段の上昇を通じて世界の株式市場の調整圧力として作用することも考えられる。 今回の日銀の政策修正は秀逸とも評価されているが、一方でやや難解なものになっており、投資家の間では捉え方が定まるのに時間がかかっている様子。政策修正の発表直後は円安・株高で反応し、市場は好意的に捉えたようだが、しばらくは日銀政策修正の余波が続きそうで注意したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/02 12:30 後場の投資戦略 カギを握るトヨタと米AMDの決算 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33418.53;+246.31TOPIX;2337.05;+14.49[後場の投資戦略] 本日の日経平均はやや膠着感の強い状況がとなっており、前日の米株式市場と似たような動きになっている。ただ、前日の大幅高の直後であることを考えると、引き続き堅調な地合いが続いていると評価できる。 前日の東証プライム市場の売買代金は引けにかけての大口クロス取引の影響があったとはいえ、先週末に続く5兆円超えとなった。商いも活況の上での大幅高となり、投資家の日本株への買い意欲を確認した。 一方、ドル円が1ドル=142円70銭台まで上昇し、前日の東京時間からさらに1円程も円安・ドル高が進んでいるにもかかわらず、日経平均は前日の高値をわずかに上回る程度の上昇にとどまっている。また、前日は午前に大幅に上昇した後、午後にかけては高値から一時400円近くも失速する場面が見られ、上値での戻り待ち売り圧力の強さも確認された。 日本銀行の金融政策決定会合でのサプライズ政策修正を経た後も、日本株への押し目買い意欲の強さが保たれている点は好印象ではあるが、日経平均も東証株価指数(TOPIX)に続いてバブル崩壊後の高値を更新するには追加の材料が必要と思われる。 こうした中、注目されるのはまず本日午後に予定されているトヨタ自動車<7203>の決算と、米国で本日予定されているアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の決算だ。トヨタ自動車の決算は半導体不足の解消による生産改善と為替の円安効果により好決算が期待されている。自動車産業の裾野は広く、日本株全体の業績動向を占う上でも重要な指標となる。一方、株価は前日に年初来高値を更新しており、好業績は既に大方織り込まれているとも思われる。出尽くし感から大きく下落するのか、すぐに下げ渋ってプラス圏を維持するのか株価反応に注目だ。 米AMDについては、生成AI(人工知能)ブームに火をつけた米エヌビディアのライバルで、AMDも生成AI関連製品の先行きに自信を見せている。これまでの日米の半導体企業やIT大手の決算はどちらかというと生成AIブームへの期待をいったん後退させる内容が多かった。しかし、AMDの決算でこうした期待が復活すれば、日米の株式市場のさらなる上昇に寄与しそうで、日経平均のバブル崩壊後の高値更新のカギを握ることになろう。 ほか、今晩は米国で供給管理協会(ISM)の7月製造業景況指数が発表される。市場予想は46.9と、6月(46.0)よりは改善する見通しも、引き続き景況感の拡大・縮小の境界値である50を割り込んだ状態が続く見込み。また、労働省雇用動態調査(JOLTS)の求人件数が発表予定で、こちらは前月から求人件数がさらに減少する見込みだ。ほぼ予想通りになった場合、足元で強含んでいるドル円の上昇が一服するか為替の反応などに注目したい。(仲村幸浩) <AK> 2023/08/01 12:25 後場の投資戦略 プラス圏で堅調に推移 [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;33262.74;+503.51TOPIX;2321.89;+31.28[後場の投資戦略] シカゴ日経225先物清算値は、大阪比325円高の33095円。本日の日経平均はシカゴ先物にサヤ寄せする格好から買いが先行しており、為替が円安方向にふれていることも追い風となっている。そのほか、国内企業決算の発表が本格化しており、決算発表を終えた個別株中心に物色が向かっている。 新興市場も堅調な展開となっている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇スタート後、じりじりと上げ幅を広げている。米ハイテク株が値幅を伴って上昇したことは個人投資家心理を改善させる要因となった。また、米国で週末に発表された物価指標で改めてインフレ鈍化傾向が確認され、米長期金利の上昇が一服していることは新興株にとって支援材料となっている。前引け時点での東証マザーズ指数は1.45%高、東証グロース市場Core指数は2.63%高で時価総額上位銘柄に注目が集まっている。 さて、前週開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、主要政策金利を0.25ポイント引き上げることを決定した。パウエル米連邦準備制度(FRB)議長の記者会見からもタカ派的なサプライズはなかった。また、欧州中央銀行(ECB)も0.25ポイントの追加利上げを決定。ただ、ラガルド総裁は決定発表後の会見で、今後の政策判断について入手するデータに左右されると強調していた。今後の政策会合でいったん利上げ休止を決めた場合でも、その後に再び利上げすることはあり得るとの見解を示した。 米国経済が景気後退を回避してソフトランディング(軟着陸)する確率が高まっているという認識が広がる中、7月以降の各国の金融政策方針に不透明感が残っているのは事実である。今週は、米国で供給管理協会(ISM)の景況指数、中国で国家版および民間版の購買担当者景気指数(PMI)が発表されるほか、週末には米雇用統計が発表予定。物価指標の鈍化傾向は続いているが、雇用関連の指標は依然として強い。結果次第では追加利上げ懸念が再燃する可能性があるため、これらの指標には注目しておきたいところである。 一方、S&P500は7月も月間で上昇の勢いとなっており、様子見していた弱気派が強気に転換するほか、乗り遅れることへの恐怖を感じている投資家も全て参加しており、トレーダーの株式へのエクスポージャーは歴史的に見ても高い水準にあるという。また、好調な米株式相場を受けてヘッジを考えているトレーダーはほとんどいないようで、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらはリポートで、オプション市場で株安に備えたプロテクションを買うのは「かつて目にしたことがないほど安い」と指摘しているようだ。 リセッション(景気後退)を招くことなくインフレを抑制することが過去に完全に成し遂げられた例はほとんどない。S&P500指数にとって1年で特にリターンの悪い9月・9月を控える中、上昇が継続するか注目が集まりそうだ。 話は変わって、今週から国内企業決算が本格化する。プライム市場の主力銘柄の決算が相次ぐため、本日同様個別株物色が活発化することで商いが膨らむことが想定される。好決算銘柄の買いが優勢となれば、株価指数の回復につながろう。 そのほか、7月第3週(18~21日)投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を197億円買い越した(前週は2793億円の買い越し)。買い越しは4週連続で、個人投資家は126億円の買い越しで3週連続の買い越しとなった。さて、後場の日経平均はプラス圏での推移を継続できるか。前述のように雇用関連指標の発表が控えているなか、今週から企業決算が本格化するため、プライム市場の個別株物色が中心となりそうだ。新興市場でも、決算を発表した銘柄への注目は集まろう。(山本泰三)  <AK> 2023/07/31 12:23 後場の投資戦略 日銀政策修正の影響を考える [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32453.97;-437.19TOPIX;2271.56;-23.58[後場の投資戦略] 本日の日経平均は大きく反落。昨晩の米国市場の取引時間中、日本経済新聞社が、今回の金融政策決定会合において日本銀行がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の修正案を議論すると報じたことが要因だ。 先週末に今会合では政策修正はないとする観測報道が出て、それまでくすぶっていた政策修正への思惑が一度大きく後退していただけに、今回の報道はサプライズだ。前日の米株式市場もハイテク株を中心に中盤までは大きく上昇していたが、日銀の観測報道が出たあたりから急速に上げ幅を縮め、結局、主要株価指数は揃って下落。米ダウ平均の連騰記録もついに終わった。 ただ、落ち着いて考えれば、日銀の政策修正は悪いことではない。もともとデフレ体質からの脱却という構造的な変化を、海外投資家は日本株買いの一つの理由として挙げていた。だとすれば、今回の動きはそうした構造的な変化が起こりつつあることを日銀が認めはじめたという証拠でもある。 そもそも、世界各国の中央銀行が急速なペースで利上げを続け、日本も数十年ぶりのインフレに直面して少なくともデフレでない状況に至っているのであるから、YCCという世界を見渡しても異例の政策は修正してしかるべきだろう。マイナス金利政策を続けているだけでも十分に金融緩和的であるため、これを引き締めへの転換と解釈するのも拙速な判断だと考える。 そのため、政策の修正ペースが緩慢であれば、本日のリスク資産の売りも次第に落ち着いてくると思われる。本日売っているのも短期筋が中心だろう。今回の一件を通じて、次第に構造的な変化を見越して長期目線の実需筋が本腰を入れて買いを入れてくることも考えられ、短期筋の売りが落ち着いた後には日本株の強い動きが復活してくる可能性などもあろう。 一方、これはやや長めの時間軸で見た場合の話で、短期的には注意が必要と考える。というのも、日本と並んでマイナス金利政策を採用していたスイスが金融引き締めに転じた時もサプライズをもって受け止められていた過去の経緯がある。先進国の中では最後の砦ともいえる金融緩和を継続していた日本がいよいよ政策転換に舵を切りはじめたとすれば、それなりのインパクトがあろう。円は低金利通貨としての立ち位置が固まっていたため、低金利で借りた円を売って高金利の通貨を買うキャリー取引などにも影響を与えそうだ。 また、以前から、日銀が政策修正した場合の生保などの日本国内における機関投資家の投資行動の変化について海外では議論されていた。すなわち、国内機関投資家は米国債など海外債券の大口投資家であるため、日銀が政策修正することによって国内長期債券の利回りが高まれば、国内債券への回帰によって自国(海外)債券が売られ金利が上昇することを懸念していた。 実際、こうした懸念を反映してか、前日は軒並み市場予想を上回った経済指標を背景に大きく上昇していた米10年債利回りが、日銀の観測報道が伝わったあたりからさらに急伸し、7月7日以来の4%乗せとなった。 このように、短期的には様々な所で世界的に資金フローの変化が起きる可能性がある。政策修正が小幅なものであれば波乱は小さいだろうが、変化幅が大きいか、あるいは将来の追加的な政策修正への思惑を高めるような結果となれば、こうした資金フローの変化は起こりやすいと考えられる。短期的には世界全体のマーケットの動向を注視する必要があろう。 ただ、今までの植田総裁の発言内容からして政策修正はかなり慎重に漸進的に進められるだろう。マイナス金利の修正などはさらに先のことと考えられ、依然として金融緩和的な姿勢を強調すると思われる。そのため、日経平均がここからさらに大きく崩れる可能性は低いのではないかと考えている。 仮に追加的な政策修正への思惑が高まり、市場の動揺が収まらない場合には、上述したような円キャリー取引の巻き戻しなど、資金フローの変化が起きることで一時的に為替の円高がさらに進むことが予想される。これは短期的には日本株への逆風となろう。一方、日米金利差は絶対的な水準でみれば依然として大きい。 また、国内機関投資家の自国債券への回帰が起こって米国金利が上昇するケースも実現すれば、日米金利差は今の水準を維持するか、もしくはむしろ拡大する可能性もあるため、為替の円高の進展余地はさほど大きくはないとも考えられる。このため、いずれにしても日本株の調整は短期かつ軽微にとどまるのではないかと予想する。  個別については、目先は相場のボラティリティー(変動率)が高くなりやすいと考えられ、流動性リスクが大きい中小型株や新興株はやや厳しい局面が予想される。米経済のソフトランディング(軟着陸)期待や米ダウ平均の連騰劇を追い風に買われていた景気敏感株も、為替の円高余地が残されているなか、目先は手掛けづらさが意識されやすい。 直近の半導体企業の決算はまちまちで、車載向けを除けば全体的に悪い内容が目立っているため、ハイテク株も買いづらいか。残るは消極的な観点から、景気や為替との連動性の低い内需系ディフェンシブセクターへの投資が一考に値しよう。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/28 12:19 後場の投資戦略 半導体株の相場けん引局面はいったん終了か [日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;32729.47;+61.13TOPIX;2283.02;-0.07[後場の投資戦略] 米ダウ平均は13日続伸と36年半ぶりの連騰劇を記録した。米連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)で予想通り0.25ポイントの利上げ再開を決定。一方、注目されたパウエル議長の会見では、今後の経済データ次第で政策を決めると従来通りの方針を再表明。ただ、追加利上げも利上げ停止もあり得るとしている。これまでよりは追加利上げに対するトーンが和らいだ一方、対照的に利上げ停止の可能性にはこれまでよりも積極的に触れていた印象を抱いた。米金利も小幅ながら低下しており、市場は利上げサイクル終了への期待を一段と高めたようだ。これに伴い、米経済のソフトランディング(軟着陸)への自信も深めつつあるようだ。 一方、米ハイテク株が冴えなかったことに加え、結果公表を明日に控える日本銀行の金融政策決定会合を前にした為替の円高が重しとなり、東京市場は引き続き方向感に乏しい展開。事前の観測報道もあり、今回の金融政策決定会合での政策修正観測は既に大きく後退しているが、2023年度の物価見通しが従来から大幅に上方修正される公算が大きいとの指摘もあり、やや懸念はくすぶっている様子。 たしかに、予想通りに現行の政策が維持されたとしても、物価見通しが大幅に引き上げられれば、近い将来における政策修正を意識せざるを得ない。市場関係者も9月、10月の会合での政策修正を予想している向きが依然として多く、結局、今回が現状維持となっても、政策修正観測はくすぶり続けるのかもしれない。一方で、米国では利上げ打ち止め期待が高まるなか、緩やかながら経済指標の軟化傾向が続いているため、今後は来年の利下げに対する期待をより強く織り込みはじめる展開が想定される。今後の経済データ次第ではあるが、現状の路線を大きく変えるデータが出てこない限りは、このような構図が徐々に支配的になってくると考えられる。その場合、日米金利差は依然として大きな水準ではあるが、モメンタムとしては今後の縮小傾向が予想されるため、さらなる円安進行というのは期待しにくくなりそうだ。 ほか、注目すべき点としてはやはりアドバンテスト<6857>の決算だろう。第1四半期の営業利益は前年同期比68%の減少となり、市場予想を46%程も下回った。通期計画は維持しているが、想定為替レートを円安に修正したことを踏まえると、実質的な下方修正だ。また、システムオンチップ(SoC) の市場見通しを再び下方修正した。SoC市場見通しの下方修正は前期第1四半期から数えてこれで5四半期連続だ。 多くの半導体株は昨年10月に底入れし、2023年に入ってからは年前半での在庫調整の一巡と年後半からの回復を期待して株価が大幅に上昇してきた。そこに、生成AI(人工知能)ブームが加わり、5月から株価は騰勢をさらに強めた。なかでもアドバンテストは生成AI関連の筆頭格として買われ、昨年末比で株価は一時2.6倍にまで上昇していた。 しかし、世界の半導体企業の決算を見続けているが、底入れするどころか、見通しを下方修正している企業がいまだに多い。一般的に株価は半年先を見据えて先取りで動くとされるが、見通しが外れ続けてきたことで、半導体企業の業績と株価のモメンタムはかつて見たことがない程にまで対照的なものとなっている。 むろん、米マイクロン・テクノロジーやアドバンテストと同様に前日決算を発表した韓国のSKハイニックスの決算を見れば、先んじて調整が始まっていたメモリ市場はたしかに最悪期を過ぎたということで見方が一致している。また、アドバンテストとSKハイニックスはともに生成AI向けの需要拡大に自信を見せており、こうした見方は先日決算を発表したディスコ<6146>の見解とも一致する。このように、一部で弱さが残りつつも最悪期を過ぎたうえに生成AI向け需要の拡大という構造的な変化も踏まえれば、ある程度の業績と株価のモメンタムギャップは許容できるのかもしれない。 ただ、ディスコもアドバンテストも生成AI向け需要の業績への寄与度がどの程度のものになるかについて具体的な言及がない。少なくとも、今決算シーズンにおけるこれまでの半導体企業の決算、すなわち蘭ASMLホールディングや台湾積体電路製造(TSMC)、アドバンテストなどの決算を見る限り、半導体企業に対する過剰な期待はいったん調整せざるを得ないように思われる。実際は、ディスコはその後も上場来高値を更新し、アドバンテストも本日は想定以上に底堅い動きを見せるなど、筆者の見方とは非整合的な結果になっているが、少なくとも半導体株が相場をけん引することは当面期待しにくいと考える。(仲村幸浩) <AK> 2023/07/27 12:17

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