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富士製薬 Research Memo(6):CAGR12%成長で2029年9月期売上高800億円へ
配信日時:2025/12/24 13:46
配信元:FISCO
*13:46JST 富士製薬 Research Memo(6):CAGR12%成長で2029年9月期売上高800億円へ
■中長期の成長戦略
1. 中期経営計画の枠組み
富士製薬工業<4554>は、「長期ビジョン2035ー“女性医療で新たな価値を創出し続け、誰もがwell-beingを実感できる社会へ貢献する”ー」達成に向けた中期経営計画(2025年9月期〜2029年9月期)において、持続的な成長と企業価値の向上を目指している。同中期経営計画の枠組みは、中期の成長ドライバー、長期の成長ドライバー、経営基盤の強化により構成されている。成長戦略は時間軸に応じて検討されており、実行する組織にも目配りがされているバランスのとれた中期経営計画である。
2. 中期の成長ドライバー
中期の成長ドライバーは以下3つの軸から構成されている。
(1)女性医療の拡大による国内およびASEANでのプレゼンスの強化
(2)バイオシミラーの本格事業化
(3)グローバルCMOによる収益の安定化
まず、女性医療では、月経困難症治療薬や更年期治療薬、経口避妊薬などで確立したポジションをさらに拡大し、「女性のライフステージすべてを支えるトータル・ウィメンズヘルスケア企業」への進化を目指す。新薬アリッサ(R)配合錠の投入で100億円の増収、タイを中心とした海外展開で20億円の増収を見込み、未充足ニーズの高い領域で新製品を投入し、2029年に女性医療事業売上高380億円を目標とする。
次に、バイオシミラーでは、国産バイオシミラーの供給責任を担うリーディング企業として、製造・品質保証の一貫体制を生かしつつ、パイプラインを拡充中だ。ウステキヌマブBSを含む5製品の貢献などが130億円の増収効果をもたらし、2029年には同事業の売上を150億円規模に拡大させる計画である。同社としてはバイオシミラー事業を収益の新たな柱として育成を進めており、高収益が見込まれる女性医療とバイオシミラーで事業ポートフォリオの3分の2程度を占める構成を目指す。
さらに、グローバルCMO事業では、富山工場とOLIC (Thailand)を両輪とした国際製造ネットワークを拡充し、国内外の製薬企業からの受託拡大を図る。特にホルモン剤や注射剤など、高付加価値製剤での受託比率を高め、安定したキャッシュ・フローの確保を狙う。2029年には同事業の売上を90億円に成長させる予定である。
こうした取り組みにより、2029年9月期の売上高目標はCAGR12%を想定し800億円、営業利益100億円、ROE10.0%を目標としている。
3. 長期の成長ドライバー
(1) シーズ探索と研究開発強化
同社は、後発品中心の事業構造から脱却し、次の成長を支える新薬創出型企業への転換を図っている。その中核に据えられているのがシーズ探索力の強化と研究開発投資の拡充である。
2019年時点で年間30件程度だった新規シーズ創出件数は、2024年には100件超へと拡大した。これは、専任チームによる他社との提携強化、外部ニーズ調査、社内外のアイデア収集を組み合わせた成果である。探索体制は、創薬・事業開発・経営企画を横断する形で再編され、迅速な評価と意思決定を実現している。
また、研究開発投資も中期経営計画期間中に大幅拡充される予定であり、無形資産投資(研究開発費・販売権・ライセンス取得費等)は前中期経営計画期間比で約96億円増となる計画。この資金を用いて、社内研究体制の拡張とともに、アカデミアやベンチャーとの共同研究、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じた外部シーズ投資も推進する。これにより、同社は「自前+外部連携」による新薬創出力の持続的拡大を目指している。
(2) 新薬シーズ候補のポートフォリオ最適化
現在、同社は25の新薬シーズ候補を保有しており、これらを売上規模・治療インパクト、開発段階、治療領域のバランスから最適化している。従来のホルモン剤中心から、女性医療に関連する多様な領域にも視野を広げ、開発ステージごとにリスクとリターンの調整を図る。
また、開発ステージが前期段階の案件は売上規模・治療インパクトより探索テーマの多様化を図り、リスクを抑制する。一方、後期案件は売上規模・治療インパクトを優先し、上市に向けたプロセスを強化していく。
こうした一連の取り組みは、短期的な収益案件と中長期的な成長種を両立させる「探索×最適化」の研究開発戦略として位置付けられ、2030年以降に向けた同社の持続的成長を支える基盤となっている。
4. 経営基盤の強化
加えて、これら中長期の成長ドライバーを支える基盤として、「人財・組織」「デジタル」「グローバル」への投資を重点強化する。研究開発への積極投資を継続しつつ、生産効率の高度化、営業のデジタル化、海外展開体制の再構築を進め、2030年以降の長期成長に備える。
(1) 人財の強化
まず「人財・組織」面では、女性が働きやすく活躍できる会社にするための様々な制度設計を行っている。たとえば、不妊治療特別有給制度や低用量ピル・更年期障害治療薬の費用補助、婦人科検診などの費用補助制度である。また、女性のみのチームを組成するなどし、女性社員の活躍の場を広げている。
(2) 組織機能の高度化
次に組織機能の高度化を図る。シーズ探索や研究開発基盤の強化を行い、持続的な研究開発体制を構築する。これにより、長期の成長ドライバーに向けたインフラを整える。また、安定供給基盤を従来以上に強化するほか、LCM(Life Cycle Management)推進基盤も強化する。既存医薬品のライフサイクルを延長し、収益性と医療貢献を持続させるための仕組み・体制を整備する。
(3) デジタル
「デジタル」分野では、デジタル変革(DX)を担う部門・体制面の整備により業務効率化と価値創出を推進する。併せて、デジタル人財の育成や風土改革を行うことにより、デジタル基盤を全社的に強化していく方針である。
■株主還元策
配当性向30%以上を堅持し、持続的成長と還元のバランスを追求
同社は、税引後営業利益ベースで配当性向30%以上を堅持する方針の下、安定かつ継続的な利益還元を経営の重要方針の1つとして位置付けている。配当データによれば、年間配当金は2020年9月期の29.0円から一貫して増加しており、2025年9月期は45.5円、2026年9月期も47.0円を予想している。これにより、5期連続の増配を実現する見通しである。
配当性向(税引後営業利益ベース)は、2020年9月期41.5%、2021年9月期33.5%、2022年9月期32.4%、2023年9月期33.6%、2024年9月期38.4%と推移しており、いずれも30%を上回る水準を安定的に維持している。この水準は、業績変動の中でも株主還元を重視する同社の姿勢を反映しており、事業成長と財務健全性の両立を意識したバランスのとれた配当政策と言える。
中期的には、女性医療及びバイオシミラーの成長による収益拡大を背景に、さらなる増配余地も見込まれる。同社は今後も内部留保を成長投資へ振り向けつつ、安定的なキャッシュ・フローを原資とした持続的な株主還元を継続していく構えであり、安定成長型スペシャリティファーマとしての信頼性を高めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)
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1. 中期経営計画の枠組み
富士製薬工業<4554>は、「長期ビジョン2035ー“女性医療で新たな価値を創出し続け、誰もがwell-beingを実感できる社会へ貢献する”ー」達成に向けた中期経営計画(2025年9月期〜2029年9月期)において、持続的な成長と企業価値の向上を目指している。同中期経営計画の枠組みは、中期の成長ドライバー、長期の成長ドライバー、経営基盤の強化により構成されている。成長戦略は時間軸に応じて検討されており、実行する組織にも目配りがされているバランスのとれた中期経営計画である。
2. 中期の成長ドライバー
中期の成長ドライバーは以下3つの軸から構成されている。
(1)女性医療の拡大による国内およびASEANでのプレゼンスの強化
(2)バイオシミラーの本格事業化
(3)グローバルCMOによる収益の安定化
まず、女性医療では、月経困難症治療薬や更年期治療薬、経口避妊薬などで確立したポジションをさらに拡大し、「女性のライフステージすべてを支えるトータル・ウィメンズヘルスケア企業」への進化を目指す。新薬アリッサ(R)配合錠の投入で100億円の増収、タイを中心とした海外展開で20億円の増収を見込み、未充足ニーズの高い領域で新製品を投入し、2029年に女性医療事業売上高380億円を目標とする。
次に、バイオシミラーでは、国産バイオシミラーの供給責任を担うリーディング企業として、製造・品質保証の一貫体制を生かしつつ、パイプラインを拡充中だ。ウステキヌマブBSを含む5製品の貢献などが130億円の増収効果をもたらし、2029年には同事業の売上を150億円規模に拡大させる計画である。同社としてはバイオシミラー事業を収益の新たな柱として育成を進めており、高収益が見込まれる女性医療とバイオシミラーで事業ポートフォリオの3分の2程度を占める構成を目指す。
さらに、グローバルCMO事業では、富山工場とOLIC (Thailand)を両輪とした国際製造ネットワークを拡充し、国内外の製薬企業からの受託拡大を図る。特にホルモン剤や注射剤など、高付加価値製剤での受託比率を高め、安定したキャッシュ・フローの確保を狙う。2029年には同事業の売上を90億円に成長させる予定である。
こうした取り組みにより、2029年9月期の売上高目標はCAGR12%を想定し800億円、営業利益100億円、ROE10.0%を目標としている。
3. 長期の成長ドライバー
(1) シーズ探索と研究開発強化
同社は、後発品中心の事業構造から脱却し、次の成長を支える新薬創出型企業への転換を図っている。その中核に据えられているのがシーズ探索力の強化と研究開発投資の拡充である。
2019年時点で年間30件程度だった新規シーズ創出件数は、2024年には100件超へと拡大した。これは、専任チームによる他社との提携強化、外部ニーズ調査、社内外のアイデア収集を組み合わせた成果である。探索体制は、創薬・事業開発・経営企画を横断する形で再編され、迅速な評価と意思決定を実現している。
また、研究開発投資も中期経営計画期間中に大幅拡充される予定であり、無形資産投資(研究開発費・販売権・ライセンス取得費等)は前中期経営計画期間比で約96億円増となる計画。この資金を用いて、社内研究体制の拡張とともに、アカデミアやベンチャーとの共同研究、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じた外部シーズ投資も推進する。これにより、同社は「自前+外部連携」による新薬創出力の持続的拡大を目指している。
(2) 新薬シーズ候補のポートフォリオ最適化
現在、同社は25の新薬シーズ候補を保有しており、これらを売上規模・治療インパクト、開発段階、治療領域のバランスから最適化している。従来のホルモン剤中心から、女性医療に関連する多様な領域にも視野を広げ、開発ステージごとにリスクとリターンの調整を図る。
また、開発ステージが前期段階の案件は売上規模・治療インパクトより探索テーマの多様化を図り、リスクを抑制する。一方、後期案件は売上規模・治療インパクトを優先し、上市に向けたプロセスを強化していく。
こうした一連の取り組みは、短期的な収益案件と中長期的な成長種を両立させる「探索×最適化」の研究開発戦略として位置付けられ、2030年以降に向けた同社の持続的成長を支える基盤となっている。
4. 経営基盤の強化
加えて、これら中長期の成長ドライバーを支える基盤として、「人財・組織」「デジタル」「グローバル」への投資を重点強化する。研究開発への積極投資を継続しつつ、生産効率の高度化、営業のデジタル化、海外展開体制の再構築を進め、2030年以降の長期成長に備える。
(1) 人財の強化
まず「人財・組織」面では、女性が働きやすく活躍できる会社にするための様々な制度設計を行っている。たとえば、不妊治療特別有給制度や低用量ピル・更年期障害治療薬の費用補助、婦人科検診などの費用補助制度である。また、女性のみのチームを組成するなどし、女性社員の活躍の場を広げている。
(2) 組織機能の高度化
次に組織機能の高度化を図る。シーズ探索や研究開発基盤の強化を行い、持続的な研究開発体制を構築する。これにより、長期の成長ドライバーに向けたインフラを整える。また、安定供給基盤を従来以上に強化するほか、LCM(Life Cycle Management)推進基盤も強化する。既存医薬品のライフサイクルを延長し、収益性と医療貢献を持続させるための仕組み・体制を整備する。
(3) デジタル
「デジタル」分野では、デジタル変革(DX)を担う部門・体制面の整備により業務効率化と価値創出を推進する。併せて、デジタル人財の育成や風土改革を行うことにより、デジタル基盤を全社的に強化していく方針である。
■株主還元策
配当性向30%以上を堅持し、持続的成長と還元のバランスを追求
同社は、税引後営業利益ベースで配当性向30%以上を堅持する方針の下、安定かつ継続的な利益還元を経営の重要方針の1つとして位置付けている。配当データによれば、年間配当金は2020年9月期の29.0円から一貫して増加しており、2025年9月期は45.5円、2026年9月期も47.0円を予想している。これにより、5期連続の増配を実現する見通しである。
配当性向(税引後営業利益ベース)は、2020年9月期41.5%、2021年9月期33.5%、2022年9月期32.4%、2023年9月期33.6%、2024年9月期38.4%と推移しており、いずれも30%を上回る水準を安定的に維持している。この水準は、業績変動の中でも株主還元を重視する同社の姿勢を反映しており、事業成長と財務健全性の両立を意識したバランスのとれた配当政策と言える。
中期的には、女性医療及びバイオシミラーの成長による収益拡大を背景に、さらなる増配余地も見込まれる。同社は今後も内部留保を成長投資へ振り向けつつ、安定的なキャッシュ・フローを原資とした持続的な株主還元を継続していく構えであり、安定成長型スペシャリティファーマとしての信頼性を高めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)
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