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中国の第15次5カ年計画の建議に見る政治経済の転換(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/11/19 10:23
配信元:FISCO
*10:23JST 中国の第15次5カ年計画の建議に見る政治経済の転換(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
※この論考は11月6日の<The Political-Economic Turn in China’s 15th Five-Year Plan Proposal: From Growth Narratives to Security Governance>(※2)の翻訳です。
10月28日、新華社は「国民経済・社会発展第15次5カ年計画の策定に関する中共中央の建議」の全文を配信した。国際的な混乱が加速し、国内でも複雑な逆風が吹く中で公表されたこの建議で、中国政府は自国の発展状況に関する政治的見解を示している。産業の高度化や技術的自立から国家安全保障に至るまで、構造的課題に対する指導部の認識を示し、今後5年間の望ましい統治の道筋を概観している。
ただし、改革・成長・効率が中国発展のナラティブを支えていた過去40年間と比べると、この文書には顕著な軌道修正が表れている。経済拡大は依然として重要ではあるものの、政治的安全保障、制度的安定、技術的主権、言説支配よりも下位に置かれるようになった。言い換えると、中国の現代化はもはや成長実績だけで測られるのではなく、国家が安全保障を統制し、秩序を維持し、統治システムを動揺から守れるかどうかで評価される。これは戦術的調整ではなく、地政学的競争の激化、国内の構造的緊張、そして国家安全保障を広い視点で捉えようとする時代の中で築かれた統治哲学を制度化するものだ。
I. 成長よりガバナンス:安全保障のロジックの優位
建議の文言自体、示唆に富む。「安全保障」「自立」「質の高い発展」「統治」といった言葉が目を引く一方で、「改革」「市場」「開放」など、かつて主流だった表現は安全保障の文脈の中に組み込み直された。並行する政策(プラットフォーム経済の是正、データセキュリティ法、反スパイ法の施行、輸出管理体制の再構築)からは、経済、資本、テクノロジーを国家安全保障ガバナンスという柱と一致させる明確なロジックが見て取れる。これは単なる発展方針の転換ではなく、安全保障を中心とした現代化と制度的ナラティブの登場であり、長期にわたる体系的な競争に備えるものだ。
この転換は突発的でも偶発的でもない。国外からの戦略的圧力、国内経済の調整、そして中央集権体制の持続に対する指導部の信念が重なった結果だ。この枠組みの中では、経済成長は基盤ではなく手段である。体制のレジリエンス、政治的安全保障、戦略的持続性を実現する手段であって、それ自体が目的というわけではない。
第14次5カ年計画からの重要な転換点として、成長目標や所得水準、2035年の数値目標はあえて明記されなかった。国外のアナリストは「中進国」の一人当たり所得としてよく2万5000米ドルという数字を引用するが、中国政府はそのような目標を明文化しなかった。中国の政治言語において、省略は意図的なものだ。中国政府は不確実性を認識しており、政治的余地を制約しかねない実績指標を拒否した上で、数値的な説明責任よりもナラティブの主権を優先している。
内需、双循環、テクノロジーの進歩といった経済のテーマは残しつつも、政治的ロジックは市場の信認から国家の統制へとシフトした。不動産サイクルに起因する家計のバランスシート圧迫、地方財政の制約、社会福祉負担の偏り、若年層の雇用ミスマッチ、民間部門の不安定な景況感など、構造的摩擦は根強い。市場のダイナミズムに代わって導入されたのは、「国家戦略」「産業指針」「科学技術のブレークスルー」だ。しかし、こうした置き換えは政治化のリスクを高める。今では従来の効率指標より、政策へのアクセス、セキュリティ指定、サプライチェーンに組み込まれることが重視視されるようになった。
II. 発展技術戦略からリスクガバナンスへ
こうした環境下でテクノロジーは再定義され、生産性の原動力だったものが、国家安全保障とイデオロギー統一の手段になった。重視されるのは単にイノベーションを起こすだけではなく、技術的従属を回避することだ。自律性は競争力であると同時に生き残るための力になる。イノベーションは、安全保障が確保された政治的境界内で起こす必要がある。国家が求めるのは新たなテンセントやアリババではなく「ボトルネックの排除」であり、これはダイナミズムを犠牲にしてでも実現しなければならない。
したがって、「開放」という言葉は残されているが、その使い方は変化している。新たなモデルは選択的、保護的、主権中心であり、グローバルに参画しつつも防衛上の境界と体制の隔離は維持する。「世界から学ぶ」と同時に、「世界を選別する」ようになったのだ。
中国はかつて「成長+効率」を国力の基盤としていたが、今では「統制+安定」を重視している。正当性は発展の実績から安全保障の実績へとシフトしている。これは守りでもあり自己主張でもある。中国政府は自らが「100年に一度の重大な世界的変化」の決定的局面にあると見ている。この変化の中で、外部環境は以前ほど寛容ではなくなり、サプライチェーンの信頼性は低下し、技術協力は政治利用され、地政学的な不信感がはびこるようになった。
国家は今や、経済サイクルに従って政治を律するのではなく、政治的安全保障の基準を満たすために経済を律するようになった。グローバル化は条件付きとなり、武装化され、選別され、選択的なものとなった。
これは事後的な危機管理ではなく、中国が統治のロジックを体系的に再設計したことを示す。
中国政府はその場しのぎで動いているわけではない。レーニン主義的な組織統制、技術産業の主権獲得、安全保障優先の統治に根差した体制の維持という理論を運用しているのだ。実際、これによって中国の道筋は長期にわたる「要塞型の現代化」、つまり中央集権による政治の指揮、イノベーションチェーンの隔離、世界との選択的な関与というパラダイムに沿ったものになる。中国政府は自給自足に回帰するというより、安全保障回廊(資本チャネル、信頼できる技術パートナー、同盟関係によって選別された供給網、政治的に選別された情報フロー)を通じた開放を描こうとしている。これは、長期化する制度的対立を見据えた現代の権威主義的レジリエンスを示すものだ。
「中国の第15次5カ年計画の建議に見る政治経済の転換:成長のナラティブから安全保障を基軸とした統治へ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
2025年 中国共産党 第20期中央委員会第4回総会(4中総会)(写真:新華社/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6871
<CS>
※この論考は11月6日の<The Political-Economic Turn in China’s 15th Five-Year Plan Proposal: From Growth Narratives to Security Governance>(※2)の翻訳です。
10月28日、新華社は「国民経済・社会発展第15次5カ年計画の策定に関する中共中央の建議」の全文を配信した。国際的な混乱が加速し、国内でも複雑な逆風が吹く中で公表されたこの建議で、中国政府は自国の発展状況に関する政治的見解を示している。産業の高度化や技術的自立から国家安全保障に至るまで、構造的課題に対する指導部の認識を示し、今後5年間の望ましい統治の道筋を概観している。
ただし、改革・成長・効率が中国発展のナラティブを支えていた過去40年間と比べると、この文書には顕著な軌道修正が表れている。経済拡大は依然として重要ではあるものの、政治的安全保障、制度的安定、技術的主権、言説支配よりも下位に置かれるようになった。言い換えると、中国の現代化はもはや成長実績だけで測られるのではなく、国家が安全保障を統制し、秩序を維持し、統治システムを動揺から守れるかどうかで評価される。これは戦術的調整ではなく、地政学的競争の激化、国内の構造的緊張、そして国家安全保障を広い視点で捉えようとする時代の中で築かれた統治哲学を制度化するものだ。
I. 成長よりガバナンス:安全保障のロジックの優位
建議の文言自体、示唆に富む。「安全保障」「自立」「質の高い発展」「統治」といった言葉が目を引く一方で、「改革」「市場」「開放」など、かつて主流だった表現は安全保障の文脈の中に組み込み直された。並行する政策(プラットフォーム経済の是正、データセキュリティ法、反スパイ法の施行、輸出管理体制の再構築)からは、経済、資本、テクノロジーを国家安全保障ガバナンスという柱と一致させる明確なロジックが見て取れる。これは単なる発展方針の転換ではなく、安全保障を中心とした現代化と制度的ナラティブの登場であり、長期にわたる体系的な競争に備えるものだ。
この転換は突発的でも偶発的でもない。国外からの戦略的圧力、国内経済の調整、そして中央集権体制の持続に対する指導部の信念が重なった結果だ。この枠組みの中では、経済成長は基盤ではなく手段である。体制のレジリエンス、政治的安全保障、戦略的持続性を実現する手段であって、それ自体が目的というわけではない。
第14次5カ年計画からの重要な転換点として、成長目標や所得水準、2035年の数値目標はあえて明記されなかった。国外のアナリストは「中進国」の一人当たり所得としてよく2万5000米ドルという数字を引用するが、中国政府はそのような目標を明文化しなかった。中国の政治言語において、省略は意図的なものだ。中国政府は不確実性を認識しており、政治的余地を制約しかねない実績指標を拒否した上で、数値的な説明責任よりもナラティブの主権を優先している。
内需、双循環、テクノロジーの進歩といった経済のテーマは残しつつも、政治的ロジックは市場の信認から国家の統制へとシフトした。不動産サイクルに起因する家計のバランスシート圧迫、地方財政の制約、社会福祉負担の偏り、若年層の雇用ミスマッチ、民間部門の不安定な景況感など、構造的摩擦は根強い。市場のダイナミズムに代わって導入されたのは、「国家戦略」「産業指針」「科学技術のブレークスルー」だ。しかし、こうした置き換えは政治化のリスクを高める。今では従来の効率指標より、政策へのアクセス、セキュリティ指定、サプライチェーンに組み込まれることが重視視されるようになった。
II. 発展技術戦略からリスクガバナンスへ
こうした環境下でテクノロジーは再定義され、生産性の原動力だったものが、国家安全保障とイデオロギー統一の手段になった。重視されるのは単にイノベーションを起こすだけではなく、技術的従属を回避することだ。自律性は競争力であると同時に生き残るための力になる。イノベーションは、安全保障が確保された政治的境界内で起こす必要がある。国家が求めるのは新たなテンセントやアリババではなく「ボトルネックの排除」であり、これはダイナミズムを犠牲にしてでも実現しなければならない。
したがって、「開放」という言葉は残されているが、その使い方は変化している。新たなモデルは選択的、保護的、主権中心であり、グローバルに参画しつつも防衛上の境界と体制の隔離は維持する。「世界から学ぶ」と同時に、「世界を選別する」ようになったのだ。
中国はかつて「成長+効率」を国力の基盤としていたが、今では「統制+安定」を重視している。正当性は発展の実績から安全保障の実績へとシフトしている。これは守りでもあり自己主張でもある。中国政府は自らが「100年に一度の重大な世界的変化」の決定的局面にあると見ている。この変化の中で、外部環境は以前ほど寛容ではなくなり、サプライチェーンの信頼性は低下し、技術協力は政治利用され、地政学的な不信感がはびこるようになった。
国家は今や、経済サイクルに従って政治を律するのではなく、政治的安全保障の基準を満たすために経済を律するようになった。グローバル化は条件付きとなり、武装化され、選別され、選択的なものとなった。
これは事後的な危機管理ではなく、中国が統治のロジックを体系的に再設計したことを示す。
中国政府はその場しのぎで動いているわけではない。レーニン主義的な組織統制、技術産業の主権獲得、安全保障優先の統治に根差した体制の維持という理論を運用しているのだ。実際、これによって中国の道筋は長期にわたる「要塞型の現代化」、つまり中央集権による政治の指揮、イノベーションチェーンの隔離、世界との選択的な関与というパラダイムに沿ったものになる。中国政府は自給自足に回帰するというより、安全保障回廊(資本チャネル、信頼できる技術パートナー、同盟関係によって選別された供給網、政治的に選別された情報フロー)を通じた開放を描こうとしている。これは、長期化する制度的対立を見据えた現代の権威主義的レジリエンスを示すものだ。
「中国の第15次5カ年計画の建議に見る政治経済の転換:成長のナラティブから安全保障を基軸とした統治へ(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
2025年 中国共産党 第20期中央委員会第4回総会(4中総会)(写真:新華社/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6871
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