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混乱極める英国の対中政策(2)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/11/07 16:59
配信元:FISCO
*16:59JST 混乱極める英国の対中政策(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は10月29日の<The UK’s Shambolic China Policy>(※2)の翻訳です。
余波
起訴できなかったことで特に苛立ちを覚えるのは、検察庁と政府が嘘をついていなくとも、真実を隠しているように感じられることだろう。中国がこの裁判を望んでいなかったことは間違いない。中央統一戦線工作部の役割や中国の影響力が公の議論で取り上げられるたびに、中国政府の宣伝機関が動き出し、中国と13億人の中国人民がいかに被害を受けているかという主張を展開する。そして経済成長と対内投資を望む英国政府が、中国という潜在的に重要な巨大投資家を怒らせたくないと考えるのも理にかなっている。だからこそ、閣僚や政権スタッフが起訴を取り下げるよう検察庁に圧力をかけたのではないかという疑念が生じるのも不思議ではない。
何が起きたのか、誰が誰と話したのかが明確になっていないばかりか、明らかな不手際があったとしても、誰も処分されていない。誰も解雇されておらず、辞任もしていない。代わりに各当事者は、入念に組み立てた理屈を持ち出して他者に責任をなすりつけている。このような茶番は誰も喜ばない。
英国政府が直面する大きな問題はこれだけではない。2018年、中国政府はロンドン塔に隣接する旧王立造幣局の敷地を購入した。中国は同地を新たな大使館に改築する申請を行っている。計画によると現大使館の20倍の大きさで、大使館としては欧州最大級の規模になるという。当然ながら中国は、なぜこれほど巨大な建物が必要なのか一切説明しようとせず、計画申請書に広大な空白領域があることから、地下に秘密の尋問室や拘置所が設けられるのではないかとの懸念が生じている。より現実的な懸念は、この敷地がロンドンの金融街シティと新金融街カナリー・ワーフを結ぶ多くの通信ケーブルの上に位置しているとされる点だ。つまり、これらのケーブルの上に大使館を建設することで、中国が何らかの方法で情報をハッキングして監視できるようになる可能性があるということだ。中国は計画の詳細を一切明かそうとせず、計画が承認されなければ相応の措置を取ると警告している。英国政府は判断を繰り返し先送りする対応を取っている。
では、労働党のマニフェストに掲げられた対中政策のスローガン「協力できるところは協力し、競争すべきところは競争し、挑戦すべきところは挑戦する」とは、実際のところ何を意味するのだろうか?首相も閣僚たちもおそらく理解していない。まるで、中国人を含めすべての人を喜ばせる大衆受けしそうな対中外交キャッチコピーをChatGPTで生成したかのようだ。しかし残念ながら、現実の政策決定には通用しない。中国政府は英国企業から営業秘密を盗む活動に積極的に関与しており、政策立案者への影響工作を活発に行い、経済制裁を使って公然と他国の政治判断に影響を与えようとしている。こうした活動は英国にとって明らかに重大な脅威だ。「敵」とは呼ばない人もいるだろうが、ウクライナ戦争でロシアの最大の後ろ盾が中国である事実を忘れてはならない。官僚や政治家が外交上の丁寧な言葉で中国をどう表現しようと、迎合する姿勢や慢心は禁物だ。英国政府をはじめ他のいかなる民主主義国家も、中国を怒らせないことが政策となるようであってはならない。
英首相は国家安全保障が意思決定の最優先事項だと述べている。首相と財務相は、国内の経済成長拡大が目標だとも述べている。中国に関して言えば、これら2つの問題は切っても切り離せない。労働党政権は今も、中国が英国にまたとない成長の機会をもたらしてくれると考えているが、過去数十年を見ればそうならないことは明らかだ。中国国内で英国の成功事例はほとんどなく、中国による対英投資は小規模でありながら、リスクは概して大きい。前政権は英国の5Gネットワークからファーウェイ(華為)を締め出すほど断固とした姿勢を示したが、その一方で、今やどの主要都市にも中国系のEV(電気自動車)販売店が少なくとも1つはある。英国内における中国の浸透と支配というリスクへの対応は、よく言っても場当たり的だ。中国企業が投資を望む分野は一般に、風力タービン、太陽光、原子力などの発電関連で、いずれも国家安全保障上の問題が明白な重要インフラだ。
ベリー氏とキャッシュ氏の裁判が頓挫した真相がいずれ英国民に明らかにされることを願うしかないが、どうなるかは分からない。政府の方針として英国の国益を最優先し、中国を怒らせないか心配するのをやめる転換点になるならば、それは有益な遺産となるだろう。しかし最近の状況を見ると、中国が開かれた民主主義国家にもたらす極めて現実的な脅威について、多くの政府は理解するのがあまりに遅すぎる。皮肉なことに、中国自身が、外国の技術を獲得してテクノロジーなどの産業で自給率を高めたいという願望を隠していない。最新の中国の五カ年計画はまさにそれを示している。スターマー首相は、中国の政策決定の一側面、つまり自国を最優先する姿勢から学ぶべきだろう。時に中国からの怒りを買うかもしれないが、彼は英国の首相であって、中国の首相ではないのだから。
英国のアンドリュー王子(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6823
<CS>
※この論考は10月29日の<The UK’s Shambolic China Policy>(※2)の翻訳です。
余波
起訴できなかったことで特に苛立ちを覚えるのは、検察庁と政府が嘘をついていなくとも、真実を隠しているように感じられることだろう。中国がこの裁判を望んでいなかったことは間違いない。中央統一戦線工作部の役割や中国の影響力が公の議論で取り上げられるたびに、中国政府の宣伝機関が動き出し、中国と13億人の中国人民がいかに被害を受けているかという主張を展開する。そして経済成長と対内投資を望む英国政府が、中国という潜在的に重要な巨大投資家を怒らせたくないと考えるのも理にかなっている。だからこそ、閣僚や政権スタッフが起訴を取り下げるよう検察庁に圧力をかけたのではないかという疑念が生じるのも不思議ではない。
何が起きたのか、誰が誰と話したのかが明確になっていないばかりか、明らかな不手際があったとしても、誰も処分されていない。誰も解雇されておらず、辞任もしていない。代わりに各当事者は、入念に組み立てた理屈を持ち出して他者に責任をなすりつけている。このような茶番は誰も喜ばない。
英国政府が直面する大きな問題はこれだけではない。2018年、中国政府はロンドン塔に隣接する旧王立造幣局の敷地を購入した。中国は同地を新たな大使館に改築する申請を行っている。計画によると現大使館の20倍の大きさで、大使館としては欧州最大級の規模になるという。当然ながら中国は、なぜこれほど巨大な建物が必要なのか一切説明しようとせず、計画申請書に広大な空白領域があることから、地下に秘密の尋問室や拘置所が設けられるのではないかとの懸念が生じている。より現実的な懸念は、この敷地がロンドンの金融街シティと新金融街カナリー・ワーフを結ぶ多くの通信ケーブルの上に位置しているとされる点だ。つまり、これらのケーブルの上に大使館を建設することで、中国が何らかの方法で情報をハッキングして監視できるようになる可能性があるということだ。中国は計画の詳細を一切明かそうとせず、計画が承認されなければ相応の措置を取ると警告している。英国政府は判断を繰り返し先送りする対応を取っている。
では、労働党のマニフェストに掲げられた対中政策のスローガン「協力できるところは協力し、競争すべきところは競争し、挑戦すべきところは挑戦する」とは、実際のところ何を意味するのだろうか?首相も閣僚たちもおそらく理解していない。まるで、中国人を含めすべての人を喜ばせる大衆受けしそうな対中外交キャッチコピーをChatGPTで生成したかのようだ。しかし残念ながら、現実の政策決定には通用しない。中国政府は英国企業から営業秘密を盗む活動に積極的に関与しており、政策立案者への影響工作を活発に行い、経済制裁を使って公然と他国の政治判断に影響を与えようとしている。こうした活動は英国にとって明らかに重大な脅威だ。「敵」とは呼ばない人もいるだろうが、ウクライナ戦争でロシアの最大の後ろ盾が中国である事実を忘れてはならない。官僚や政治家が外交上の丁寧な言葉で中国をどう表現しようと、迎合する姿勢や慢心は禁物だ。英国政府をはじめ他のいかなる民主主義国家も、中国を怒らせないことが政策となるようであってはならない。
英首相は国家安全保障が意思決定の最優先事項だと述べている。首相と財務相は、国内の経済成長拡大が目標だとも述べている。中国に関して言えば、これら2つの問題は切っても切り離せない。労働党政権は今も、中国が英国にまたとない成長の機会をもたらしてくれると考えているが、過去数十年を見ればそうならないことは明らかだ。中国国内で英国の成功事例はほとんどなく、中国による対英投資は小規模でありながら、リスクは概して大きい。前政権は英国の5Gネットワークからファーウェイ(華為)を締め出すほど断固とした姿勢を示したが、その一方で、今やどの主要都市にも中国系のEV(電気自動車)販売店が少なくとも1つはある。英国内における中国の浸透と支配というリスクへの対応は、よく言っても場当たり的だ。中国企業が投資を望む分野は一般に、風力タービン、太陽光、原子力などの発電関連で、いずれも国家安全保障上の問題が明白な重要インフラだ。
ベリー氏とキャッシュ氏の裁判が頓挫した真相がいずれ英国民に明らかにされることを願うしかないが、どうなるかは分からない。政府の方針として英国の国益を最優先し、中国を怒らせないか心配するのをやめる転換点になるならば、それは有益な遺産となるだろう。しかし最近の状況を見ると、中国が開かれた民主主義国家にもたらす極めて現実的な脅威について、多くの政府は理解するのがあまりに遅すぎる。皮肉なことに、中国自身が、外国の技術を獲得してテクノロジーなどの産業で自給率を高めたいという願望を隠していない。最新の中国の五カ年計画はまさにそれを示している。スターマー首相は、中国の政策決定の一側面、つまり自国を最優先する姿勢から学ぶべきだろう。時に中国からの怒りを買うかもしれないが、彼は英国の首相であって、中国の首相ではないのだから。
英国のアンドリュー王子(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6823
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