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わずか1カ月(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/03/03 10:30
配信元:FISCO
*10:30JST わずか1カ月(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
ど派手なショー
ドナルド・トランプ氏はその長い人生の中で数々の役を演じてきたが、本当に成功したのはリアリティ番組『アプレンティス』の中だけである。ここで演じた億万長者の不動産王役は、相次ぐ倒産で請負業者への未払いや巨大プロジェクトの失敗で悪名を馳せた彼の残念な現実より、はるかに上出来であった。そのため、彼の2度目の米国大統領就任がど派手なショーとなっているのも不思議ではない。毎日が政治物のコメディやドラマのエピソードのようだ。彼の発言が過激になればなるほど面白さが増す。だがこれはリアリティ番組ではなく現実であり、そこには実際の影響や被害が伴う。
トランプ氏がホワイトハウスへの返り咲きを楽しんでいるのは間違いない。2月13日までに66本もの大統領令に署名をしており、法案の議会通過を目指す大統領というより、お触れを出す君主と化している。メディアに長く取り上げてもらいたいというその姿勢は、人前に出ることを極力避けたバイデン氏と比べると特に新鮮に映る。トランプ氏がスポットライトを避けることなど決してない。彼にとって注目の的になること以上に刺激的なことはないのだ。
とはいえ、トランプ氏一人が君臨しているわけではない。米国では初めて大統領が2人同時に誕生したかのように見える。選挙で選ばれた大統領と、選挙を経ていない大統領だ。イーロン・マスク氏は南アフリカ生まれの億万長者で、ドナルド・トランプ氏の選挙運動の主たる資金源であった。連邦政府機関の抜本改革については彼のやりたい放題のように見受けられる。トランプ氏は友好国や同盟国を威圧し、アメリカの国際的な信用を損なうことで世界に混乱をもたらしているが、共同大統領であるマスク氏はそれを国内で行っている。トランプ氏の支配が終わるまでに、米国そして世界はどのような姿になっているのか。それはまったく見通せない。
米国の孤立主義
本コラムは中国、そして中国とどのように向き合い対処するかにフォーカスを当てている。そのため、デカップリング(分断)やディスエンゲージメント(関与の縮小)が進む今、米国がどう動くのかを焦点に考察を展開することは当然と言える。中国に対しては2月1日に比較的低い10%の追加関税が課せられたほか、中国からの輸入品に対するデミニミスルールの適用が停止されることになったものの、それ以外にトランプ氏がどのような腹積もりなのかはほとんど読めない。代わりにトランプ氏が選んだのは、長年の同盟国と友好国を怒りのはけ口にすることだ。
トランプ氏は、自らの手で締結したUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)についてはほとんど言及せず、代わりにカナダは51番目の州になるべきだと主張し、トルドー首相を「トルドー州知事」と呼んだ上、「米国の補助金なしには」存続できないとまで述べた。つまり、トランプ氏は米国の貿易赤字を完全に誤解しているのである。不法移民と違法薬物の米国への流入防止対策を強化しなければ両国に25%の関税を課すと脅せば、実際1日もたたないうちに両国はトランプ氏と協力して対策強化を図ることに「同意」した。トランプ氏は勝利宣言をし、関税発動を1カ月停止したが、カナダとメキシコは実のところ、薬物と移民の米国への流入を抑止するためすでに実施している対策を別の言葉で言い換えたにすぎない。しかし、関税というトランプ氏の脅しは、実際には新たな成果をほとんど生んでいない。それでも彼は力を誇示して勝利を宣言し、MAGAと呼ばれる支持基盤に向けの政治的演出に利用している。素早く解決してトランプ氏が頂点に立つ。まさにテレビドラマの展開だ。
それでは、トランプ氏の関税政策とはどのようなものなのか。彼が時々主張するように、国家債務返済のために歳入を増やすツールなのか。それとも外国から(若干の)政治的譲歩を引き出すための政治的圧力なのか。いまだに不透明なのは、おそらくトランプ氏自身にも分かっていないからだ。彼は関税という言葉を愛しており、ゲームはまだまだ続く。定義が定かではないが、彼が言うところの「相互関税」の対象には、米国からの輸出製品に直接課せられる国境関税だけでなく、VAT(付加価値税)や売上税などの国内消費税も含まれる。トランプ氏は4月1日までに相互関税の国別リストを公表するとしており、VATを重要な財源とする欧州諸国にとっては特に大きな影響を及ぼすだろう。
一方、トランプ氏が良好な関係を台無しにした友好国はメキシコとカナダだけではない。パナマ運河とグリーンランドに対しても、獲得できなければ軍を派遣すると脅している。グリーンランドが売り物ではなく、米国と同じNATO加盟国のデンマークの自治領であることなどお構いなしだ。こうしたコメントや計画がそれほど注目を集めなかったとしても、米国がガザを所有し、200万人のパレスチナ人を別の地に移住させるとする彼の主張は、ほぼすべての人に恐怖と疑念、驚きをもって受け止められた。右翼のベンヤミン・ネタニヤフ首相(イスラエル)ですら驚いたが、同時に、ガザの「一掃」への実質上のゴーサインが出たことに喜んだ。トランプ氏にとって、ガザは開発の機が熟した海辺の土地の一区画に過ぎず、そこに暮らす人たちの生活などどうでもいいことなのである。
そして、これが国際社会から見た米国第一主義(America First)とMAGA(Make America Great Again)の姿である。友好国や近隣諸国をいじめ、脅し、国際規範や国家主権を尊重しない国。とはいえトランプ氏の破壊はまだ始まったばかりだ。24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると宣言した(当初は就任前に停戦させるとさえ言っていた)ものの、それに失敗してから数日間過ぎた今、欧州と米国の北大西洋同盟がロシアの脅威にさらされている。
J.D.ヴァンス副大統領はAI、さらには米国企業を規制するなと欧州を実質的に脅して欧州「同盟国」を驚愕させたが、その1日後にはさらに、言論の自由と民主主義を守れていないとして欧州諸国を厳しく批判した。だがこれはまだ序章に過ぎず、ウクライナ戦争の終結に向け米国はロシアと直接協議を開始すると発表した。協議は2国間で行われ、ウクライナは招待されておらず、欧州も招待されていない。これはトランプ氏の「独りよがり」であり、彼の仲間であるプーチン氏との関係を修復する機会である。協議開始の前から米国はロシアの要求に大幅に譲歩しており、つい先日発表した声明の中で、トランプ氏は戦争を始めたとしてウクライナを非難している。ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを受け、トランプ氏は「偽情報のバブル」の中で暮らしていると、抑制の利きすぎた発言をした。「嘘つき」がふさわしい言葉であろうが、トランプ氏は噓の上に政治家としてのキャリアを築いてきた。嘘が理不尽なものであればあるほど、彼の支持基盤は面白がって受け入れる。
今のところトランプ氏の「荒療治」を免れているように思えるのは数カ国しかない。日本の石破首相やインドのモディ首相との直接会談は比較的前向きなものであったが、それは両国が対米投資やエネルギーの輸入に関する話に時間を多く割いたためである。石破氏とトランプ氏は中国の侵略に対抗するため協力することでも合意した。だが、トランプ氏が行うのは「友好」ではなく取引(ディール)だ。今日有効だったものが明日も有効とは限らない。
「わずか1カ月(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: U.S. President Donald Trump in the Oval Office of the White House(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
ど派手なショー
ドナルド・トランプ氏はその長い人生の中で数々の役を演じてきたが、本当に成功したのはリアリティ番組『アプレンティス』の中だけである。ここで演じた億万長者の不動産王役は、相次ぐ倒産で請負業者への未払いや巨大プロジェクトの失敗で悪名を馳せた彼の残念な現実より、はるかに上出来であった。そのため、彼の2度目の米国大統領就任がど派手なショーとなっているのも不思議ではない。毎日が政治物のコメディやドラマのエピソードのようだ。彼の発言が過激になればなるほど面白さが増す。だがこれはリアリティ番組ではなく現実であり、そこには実際の影響や被害が伴う。
トランプ氏がホワイトハウスへの返り咲きを楽しんでいるのは間違いない。2月13日までに66本もの大統領令に署名をしており、法案の議会通過を目指す大統領というより、お触れを出す君主と化している。メディアに長く取り上げてもらいたいというその姿勢は、人前に出ることを極力避けたバイデン氏と比べると特に新鮮に映る。トランプ氏がスポットライトを避けることなど決してない。彼にとって注目の的になること以上に刺激的なことはないのだ。
とはいえ、トランプ氏一人が君臨しているわけではない。米国では初めて大統領が2人同時に誕生したかのように見える。選挙で選ばれた大統領と、選挙を経ていない大統領だ。イーロン・マスク氏は南アフリカ生まれの億万長者で、ドナルド・トランプ氏の選挙運動の主たる資金源であった。連邦政府機関の抜本改革については彼のやりたい放題のように見受けられる。トランプ氏は友好国や同盟国を威圧し、アメリカの国際的な信用を損なうことで世界に混乱をもたらしているが、共同大統領であるマスク氏はそれを国内で行っている。トランプ氏の支配が終わるまでに、米国そして世界はどのような姿になっているのか。それはまったく見通せない。
米国の孤立主義
本コラムは中国、そして中国とどのように向き合い対処するかにフォーカスを当てている。そのため、デカップリング(分断)やディスエンゲージメント(関与の縮小)が進む今、米国がどう動くのかを焦点に考察を展開することは当然と言える。中国に対しては2月1日に比較的低い10%の追加関税が課せられたほか、中国からの輸入品に対するデミニミスルールの適用が停止されることになったものの、それ以外にトランプ氏がどのような腹積もりなのかはほとんど読めない。代わりにトランプ氏が選んだのは、長年の同盟国と友好国を怒りのはけ口にすることだ。
トランプ氏は、自らの手で締結したUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)についてはほとんど言及せず、代わりにカナダは51番目の州になるべきだと主張し、トルドー首相を「トルドー州知事」と呼んだ上、「米国の補助金なしには」存続できないとまで述べた。つまり、トランプ氏は米国の貿易赤字を完全に誤解しているのである。不法移民と違法薬物の米国への流入防止対策を強化しなければ両国に25%の関税を課すと脅せば、実際1日もたたないうちに両国はトランプ氏と協力して対策強化を図ることに「同意」した。トランプ氏は勝利宣言をし、関税発動を1カ月停止したが、カナダとメキシコは実のところ、薬物と移民の米国への流入を抑止するためすでに実施している対策を別の言葉で言い換えたにすぎない。しかし、関税というトランプ氏の脅しは、実際には新たな成果をほとんど生んでいない。それでも彼は力を誇示して勝利を宣言し、MAGAと呼ばれる支持基盤に向けの政治的演出に利用している。素早く解決してトランプ氏が頂点に立つ。まさにテレビドラマの展開だ。
それでは、トランプ氏の関税政策とはどのようなものなのか。彼が時々主張するように、国家債務返済のために歳入を増やすツールなのか。それとも外国から(若干の)政治的譲歩を引き出すための政治的圧力なのか。いまだに不透明なのは、おそらくトランプ氏自身にも分かっていないからだ。彼は関税という言葉を愛しており、ゲームはまだまだ続く。定義が定かではないが、彼が言うところの「相互関税」の対象には、米国からの輸出製品に直接課せられる国境関税だけでなく、VAT(付加価値税)や売上税などの国内消費税も含まれる。トランプ氏は4月1日までに相互関税の国別リストを公表するとしており、VATを重要な財源とする欧州諸国にとっては特に大きな影響を及ぼすだろう。
一方、トランプ氏が良好な関係を台無しにした友好国はメキシコとカナダだけではない。パナマ運河とグリーンランドに対しても、獲得できなければ軍を派遣すると脅している。グリーンランドが売り物ではなく、米国と同じNATO加盟国のデンマークの自治領であることなどお構いなしだ。こうしたコメントや計画がそれほど注目を集めなかったとしても、米国がガザを所有し、200万人のパレスチナ人を別の地に移住させるとする彼の主張は、ほぼすべての人に恐怖と疑念、驚きをもって受け止められた。右翼のベンヤミン・ネタニヤフ首相(イスラエル)ですら驚いたが、同時に、ガザの「一掃」への実質上のゴーサインが出たことに喜んだ。トランプ氏にとって、ガザは開発の機が熟した海辺の土地の一区画に過ぎず、そこに暮らす人たちの生活などどうでもいいことなのである。
そして、これが国際社会から見た米国第一主義(America First)とMAGA(Make America Great Again)の姿である。友好国や近隣諸国をいじめ、脅し、国際規範や国家主権を尊重しない国。とはいえトランプ氏の破壊はまだ始まったばかりだ。24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると宣言した(当初は就任前に停戦させるとさえ言っていた)ものの、それに失敗してから数日間過ぎた今、欧州と米国の北大西洋同盟がロシアの脅威にさらされている。
J.D.ヴァンス副大統領はAI、さらには米国企業を規制するなと欧州を実質的に脅して欧州「同盟国」を驚愕させたが、その1日後にはさらに、言論の自由と民主主義を守れていないとして欧州諸国を厳しく批判した。だがこれはまだ序章に過ぎず、ウクライナ戦争の終結に向け米国はロシアと直接協議を開始すると発表した。協議は2国間で行われ、ウクライナは招待されておらず、欧州も招待されていない。これはトランプ氏の「独りよがり」であり、彼の仲間であるプーチン氏との関係を修復する機会である。協議開始の前から米国はロシアの要求に大幅に譲歩しており、つい先日発表した声明の中で、トランプ氏は戦争を始めたとしてウクライナを非難している。ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを受け、トランプ氏は「偽情報のバブル」の中で暮らしていると、抑制の利きすぎた発言をした。「嘘つき」がふさわしい言葉であろうが、トランプ氏は噓の上に政治家としてのキャリアを築いてきた。嘘が理不尽なものであればあるほど、彼の支持基盤は面白がって受け入れる。
今のところトランプ氏の「荒療治」を免れているように思えるのは数カ国しかない。日本の石破首相やインドのモディ首相との直接会談は比較的前向きなものであったが、それは両国が対米投資やエネルギーの輸入に関する話に時間を多く割いたためである。石破氏とトランプ氏は中国の侵略に対抗するため協力することでも合意した。だが、トランプ氏が行うのは「友好」ではなく取引(ディール)だ。今日有効だったものが明日も有効とは限らない。
「わずか1カ月(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: U.S. President Donald Trump in the Oval Office of the White House(写真:ロイター/アフロ)
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