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シンバイオ製薬 Research Memo(6):BCV開発リスク低減、2030年までに2適応症で承認取得目指す(3)
配信日時:2024/05/30 13:16
配信元:FISCO
*13:16JST シンバイオ製薬 Research Memo(6):BCV開発リスク低減、2030年までに2適応症で承認取得目指す(3)
■シンバイオ製薬<4582>のBCVの開発戦略
(6) EBV感染による多発性硬化症
難病の1つとして知られている多発性硬化症※1は、EBV※2が発症原因に関与していることが近年の研究結果より明らかとなったおり、同疾患も対象とした開発も進める計画だ。治療薬としては注射剤や経口剤など多くの品目が承認されており、全体の売上規模は2024年の296億米ドルから2029年には351億米ドルに達するとの予測がある。ただ、発症原因が不明で再発予防や進行を抑制するための対症療法でしかなく、根治療薬はまだ開発されていない。このため、今なお多くの企業が開発を進めている状況にある。
※1 多発性硬化症は神経疾患の1つで、中枢神経や視神経が何らかの原因で炎症することにより脳や脊髄、視神経などに機能障害を引き起こす疾患となる。再発と寛解を繰り返しながら、症状が進行すると視力や四肢機能、認知機能などが低下する。患者数は北米や欧州などで多く世界で約300万人、日本では約1.8万人となっている。
※2 EBVは、ヘルペス科に属するウイルスで5歳児の約50%、成人の約95%近くに感染歴がある。乳幼児期に感染した場合、多くは無症状で思春期以降に感染すると発熱や喉の痛み、リンパ節の腫れなどの症状が一時的に見られる。通常、Bリンパ球に感染し、細胞の中で活動せずに潜伏しているが、何らかの環境変化によって活性化する。多発性硬化症以外にも一部のリンパ腫や上喉頭がんなどの発生と関連のあることが明らかとなっている。
こうしたなか、同社は2022年8月に米国国立衛生研究所(NIH)所属の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)と、BCVに関する共同研究試料提供契約を締結し、2023年3月には共同研究開発契約(CARDA)を締結した。2023年10月に開催された国際学会でNINDSの担当医師から研究成果の一部が発表されており、要旨としては多発性硬化症患者及び健常者由来のEBVによる不死化リンパ芽球細胞(EBV陽性のB細胞株)において、BCV処理はEBVの複製を濃度依存的に抑制すること、またEBV陰性のB細胞株においては増殖抑制を含めたBCVの作用が認められず、この結果からBCVがEBV陽性の多発性硬化症患者にとって効果が期待できる治療法になる可能性があることが示唆された。
今後の予定としては現在実施している多発性硬化症モデルの動物実験の結果を2024年12月期第4四半期に発表し、2025年12月期第4四半期以降に臨床試験の開始を目指すことになる。多発性硬化症治療薬の市場規模は大きいだけに競争も激しいが、CMVをターゲットとした治療薬候補品はないだけに、パートナー契約も含めて今後の動向が注目される。
(7) その他の開発パイプライン
その他のパイプラインとして、米国のタフツ大学と2022年12月に受託研究契約を締結し、同大学が確立したヒト神経幹細胞を培養して作製した3次元脳モデルを用いて、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対するBCVの効果を検証する非臨床試験を実施している。近年、アルツハイマー型認知症の発症にはHSV-1が関与している可能性があるとの研究結果が出ているためで、BCVによってHSV-1を消失できれば、アルツハイマー型認知症の発症を抑制できる可能性が出てくる。2024年12月期第4四半期に発表予定の共同研究の結果が注目される。
また、2023年4月にNIH所属の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同研究開発契約(CARDA)を締結し、EBV関連リンパ増殖性疾患に対するBCVの治療効果を評価する非臨床試験を実施しているほか、ペンシルバニア州立大学医学部と試料提供契約を締結し、ポリオーマウイルス感染※マウスモデルにおけるBCVの効果を検証する非臨床試験を実施している。ポリオーマウイルスは感染によって重篤な疾患を引き起こすことが知られており、既存の抗ウイルス薬ではほとんど効果がなく、有効な治療薬が切望されており、同領域において開発の可能性を探っていくことになる。
※通常、BKVやJCVなどのポリオーマウイルスは感染したとしても無症状だが、生体の免疫機構が何らかの理由で著しく低下した際には、これらウイルスが活性化して感染した組織(主に泌尿生殖器系、中枢神経系、造血細胞)に重篤な感染症となって現れる。
(8) パートナリング戦略とBCVの潜在的事業価値
これら複数のパイプラインの開発を同社単独で行うのは困難であり、グローバルに展開している大手製薬企業とパートナー契約を締結して資金負担を軽減しながら開発を進めていく戦略となっている。パートナー交渉については2024年の後半から本格的に開始する予定で、パイプラインごとに最適なパートナーと契約交渉を進めていくことにしている。既述のとおりAdV感染症の臨床試験においてPOCを取得し、その内容も極めて明瞭であったことから(0.4mg/kg、週2回投与の10例中、すべての患者でAdVが消失)、契約交渉もスムーズに進むものと弊社では期待している。
1つの薬剤で複数の疾患を対象領域とする化合物は珍しく、これらパイプラインの開発にすべて成功すればBCVの事業価値も1,000億円を大きく超えるブロックバスターとなる可能性があると弊社では見ている。同社では2030年までに少なくとも2つの対象疾患で承認取得を目指している。脳神経変性疾患領域については開発期間が長くなるとが予想されるが、BCVプラットフォームの事業価値最大化に取り組むことで、グローバルファーマとして大きく飛躍していくことが期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<HH>
(6) EBV感染による多発性硬化症
難病の1つとして知られている多発性硬化症※1は、EBV※2が発症原因に関与していることが近年の研究結果より明らかとなったおり、同疾患も対象とした開発も進める計画だ。治療薬としては注射剤や経口剤など多くの品目が承認されており、全体の売上規模は2024年の296億米ドルから2029年には351億米ドルに達するとの予測がある。ただ、発症原因が不明で再発予防や進行を抑制するための対症療法でしかなく、根治療薬はまだ開発されていない。このため、今なお多くの企業が開発を進めている状況にある。
※1 多発性硬化症は神経疾患の1つで、中枢神経や視神経が何らかの原因で炎症することにより脳や脊髄、視神経などに機能障害を引き起こす疾患となる。再発と寛解を繰り返しながら、症状が進行すると視力や四肢機能、認知機能などが低下する。患者数は北米や欧州などで多く世界で約300万人、日本では約1.8万人となっている。
※2 EBVは、ヘルペス科に属するウイルスで5歳児の約50%、成人の約95%近くに感染歴がある。乳幼児期に感染した場合、多くは無症状で思春期以降に感染すると発熱や喉の痛み、リンパ節の腫れなどの症状が一時的に見られる。通常、Bリンパ球に感染し、細胞の中で活動せずに潜伏しているが、何らかの環境変化によって活性化する。多発性硬化症以外にも一部のリンパ腫や上喉頭がんなどの発生と関連のあることが明らかとなっている。
こうしたなか、同社は2022年8月に米国国立衛生研究所(NIH)所属の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)と、BCVに関する共同研究試料提供契約を締結し、2023年3月には共同研究開発契約(CARDA)を締結した。2023年10月に開催された国際学会でNINDSの担当医師から研究成果の一部が発表されており、要旨としては多発性硬化症患者及び健常者由来のEBVによる不死化リンパ芽球細胞(EBV陽性のB細胞株)において、BCV処理はEBVの複製を濃度依存的に抑制すること、またEBV陰性のB細胞株においては増殖抑制を含めたBCVの作用が認められず、この結果からBCVがEBV陽性の多発性硬化症患者にとって効果が期待できる治療法になる可能性があることが示唆された。
今後の予定としては現在実施している多発性硬化症モデルの動物実験の結果を2024年12月期第4四半期に発表し、2025年12月期第4四半期以降に臨床試験の開始を目指すことになる。多発性硬化症治療薬の市場規模は大きいだけに競争も激しいが、CMVをターゲットとした治療薬候補品はないだけに、パートナー契約も含めて今後の動向が注目される。
(7) その他の開発パイプライン
その他のパイプラインとして、米国のタフツ大学と2022年12月に受託研究契約を締結し、同大学が確立したヒト神経幹細胞を培養して作製した3次元脳モデルを用いて、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対するBCVの効果を検証する非臨床試験を実施している。近年、アルツハイマー型認知症の発症にはHSV-1が関与している可能性があるとの研究結果が出ているためで、BCVによってHSV-1を消失できれば、アルツハイマー型認知症の発症を抑制できる可能性が出てくる。2024年12月期第4四半期に発表予定の共同研究の結果が注目される。
また、2023年4月にNIH所属の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同研究開発契約(CARDA)を締結し、EBV関連リンパ増殖性疾患に対するBCVの治療効果を評価する非臨床試験を実施しているほか、ペンシルバニア州立大学医学部と試料提供契約を締結し、ポリオーマウイルス感染※マウスモデルにおけるBCVの効果を検証する非臨床試験を実施している。ポリオーマウイルスは感染によって重篤な疾患を引き起こすことが知られており、既存の抗ウイルス薬ではほとんど効果がなく、有効な治療薬が切望されており、同領域において開発の可能性を探っていくことになる。
※通常、BKVやJCVなどのポリオーマウイルスは感染したとしても無症状だが、生体の免疫機構が何らかの理由で著しく低下した際には、これらウイルスが活性化して感染した組織(主に泌尿生殖器系、中枢神経系、造血細胞)に重篤な感染症となって現れる。
(8) パートナリング戦略とBCVの潜在的事業価値
これら複数のパイプラインの開発を同社単独で行うのは困難であり、グローバルに展開している大手製薬企業とパートナー契約を締結して資金負担を軽減しながら開発を進めていく戦略となっている。パートナー交渉については2024年の後半から本格的に開始する予定で、パイプラインごとに最適なパートナーと契約交渉を進めていくことにしている。既述のとおりAdV感染症の臨床試験においてPOCを取得し、その内容も極めて明瞭であったことから(0.4mg/kg、週2回投与の10例中、すべての患者でAdVが消失)、契約交渉もスムーズに進むものと弊社では期待している。
1つの薬剤で複数の疾患を対象領域とする化合物は珍しく、これらパイプラインの開発にすべて成功すればBCVの事業価値も1,000億円を大きく超えるブロックバスターとなる可能性があると弊社では見ている。同社では2030年までに少なくとも2つの対象疾患で承認取得を目指している。脳神経変性疾患領域については開発期間が長くなるとが予想されるが、BCVプラットフォームの事業価値最大化に取り組むことで、グローバルファーマとして大きく飛躍していくことが期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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