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台湾地方選の与党惨敗は習政権の好機、有事抑止の「日本版台湾関係法」を(元統合幕僚長の岩崎氏)(2)
配信日時:2022/12/13 13:44
配信元:FISCO
本稿は、「台湾地方選の与党惨敗は習政権の好機、有事抑止の「日本版台湾関係法」を(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)」の続きである。
●有事抑止のため、日米一体で台湾支援を
こうした中で日本は何をすべきだろうか。安倍晋三元総理は「台湾有事はわが国の有事」と言ってはばからなかった。2022年の夏、中国軍は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して、台湾周辺でこれまでにない大規模な演習を行った。その際、中国の砲弾がわが国のEEZ(排他的経済水域)に少なくとも5発が着弾した。由々しきことである。「台湾有事は、即、わが国有事」を示す顕著な例であろう。
いわゆる「有事」を起こさせないための防御策(「抑止」)が喫緊の課題である。ここでの「有事」とは、あらゆる手段・方法で台湾の権益を揺るがすような事態を指し、グレーゾーン事態やハイブリッド戦など、実弾を使わないような侵攻や攻撃も含めて台湾を守る体制構築が必要である。
現代戦は、よく「見えない戦争」と言われる。旧態依然とした具体的な実力行使は、目に見える戦争・戦闘であるが、サイバー攻撃や電磁波妨害、フェイクニュースによる相手方の混乱誘発などが最近の戦いの主流になりつつある。強大な中国相手では、台湾のみで「抑止」が有効に機能すると思えない。米国と日本が一体となって台湾支援を行うべきである。そして仮に、不幸にも中国が実力行使に移行した際でも、日米台が有機的に連結されることにより、中国を排除することが可能である。
この体制・態勢構築のため、わが国でも、米国の「台湾関係法」同様、台湾の安全保障に関して国を挙げた制度が必要である。米国のバイデン大統領や閣僚は、「一つの中国政策」を維持しつつ「台湾を中国から防衛する」ことを何度も表明している。日本も一刻も早くこうした体制を構築することが望まれる。
「日本版台湾関係法」を整備した後は、政府レベル、官僚レベル、自衛隊レベルでの国家間交流が必要である。特に自衛隊と台湾軍は、人事交流、情報・機関交流、緊急連絡手段(ホットライン)の確保などが早急に必要となってくる。「日台」のみならず、日米台の連携が重要であろう。普段からこのような交流を行うことが「抑止」になり、仮に「抑止」が破綻した際でも効果的・効率的な「台湾支援」ができることになる。
●防衛装備移転三原則の運用の見直しが急務
大陸国家であるウクライナへの武器支援は、海洋国家に比べれば容易である。一方、台湾は海洋国家である。海洋国家は、いったん海路・空路とも封鎖されてしまうと、外からの支援・補給が困難だ。私は、前述した中国の台湾周辺での大規模演習の設定区域を見て、台湾の「封鎖」を目的とした演習であると思った。一般的に、過去に経験がないほどの大規模演習は、事前に入念な計画が必要である。ペロシ米下院議長の訪台は、その「計画」を試す良い機会になったと思われる。
このような封鎖に対抗するためには、平時から台湾に対する武器や弾薬等の支援を事前に行っておくことが必要である。米国はすでに大幅な台湾支援を開始している。日本は、ウクライナ支援の際に「防衛装備移転三原則」の条件を大幅に緩和した。「台湾有事はわが国有事」との認識の下、今後、日本はこの「三原則」の運用について抜本的な議論が必要だと考える。
また、中国は、サイバー攻撃やハイブリッド戦が得意だ。フェイクニュースなどで相手方を混乱に陥れる能力に長けているとみられている。今回の台湾での統一地方選でもこの能力が発揮された可能性がある。2024年は台湾総統選である。再び民進党と国民党の争いになる。台湾は、民主主義国家であり、国内での選挙にとやかく言う権利はないが、中国からのさまざまな妨害を想定しながら台湾を支援しないといけない。中国からの妨害排除の仕組みを早急に構築する必要がある。
いずれにしても、これらの前提は、日本が防衛意識を高め、自らの防衛能力を抜本的に高めておくことである。そのことが他国からの信頼を得ることになり、結果的に「抑止力」になると考えている。
岩崎茂
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングス顧問(現職)。
写真:AP/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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●有事抑止のため、日米一体で台湾支援を
こうした中で日本は何をすべきだろうか。安倍晋三元総理は「台湾有事はわが国の有事」と言ってはばからなかった。2022年の夏、中国軍は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して、台湾周辺でこれまでにない大規模な演習を行った。その際、中国の砲弾がわが国のEEZ(排他的経済水域)に少なくとも5発が着弾した。由々しきことである。「台湾有事は、即、わが国有事」を示す顕著な例であろう。
いわゆる「有事」を起こさせないための防御策(「抑止」)が喫緊の課題である。ここでの「有事」とは、あらゆる手段・方法で台湾の権益を揺るがすような事態を指し、グレーゾーン事態やハイブリッド戦など、実弾を使わないような侵攻や攻撃も含めて台湾を守る体制構築が必要である。
現代戦は、よく「見えない戦争」と言われる。旧態依然とした具体的な実力行使は、目に見える戦争・戦闘であるが、サイバー攻撃や電磁波妨害、フェイクニュースによる相手方の混乱誘発などが最近の戦いの主流になりつつある。強大な中国相手では、台湾のみで「抑止」が有効に機能すると思えない。米国と日本が一体となって台湾支援を行うべきである。そして仮に、不幸にも中国が実力行使に移行した際でも、日米台が有機的に連結されることにより、中国を排除することが可能である。
この体制・態勢構築のため、わが国でも、米国の「台湾関係法」同様、台湾の安全保障に関して国を挙げた制度が必要である。米国のバイデン大統領や閣僚は、「一つの中国政策」を維持しつつ「台湾を中国から防衛する」ことを何度も表明している。日本も一刻も早くこうした体制を構築することが望まれる。
「日本版台湾関係法」を整備した後は、政府レベル、官僚レベル、自衛隊レベルでの国家間交流が必要である。特に自衛隊と台湾軍は、人事交流、情報・機関交流、緊急連絡手段(ホットライン)の確保などが早急に必要となってくる。「日台」のみならず、日米台の連携が重要であろう。普段からこのような交流を行うことが「抑止」になり、仮に「抑止」が破綻した際でも効果的・効率的な「台湾支援」ができることになる。
●防衛装備移転三原則の運用の見直しが急務
大陸国家であるウクライナへの武器支援は、海洋国家に比べれば容易である。一方、台湾は海洋国家である。海洋国家は、いったん海路・空路とも封鎖されてしまうと、外からの支援・補給が困難だ。私は、前述した中国の台湾周辺での大規模演習の設定区域を見て、台湾の「封鎖」を目的とした演習であると思った。一般的に、過去に経験がないほどの大規模演習は、事前に入念な計画が必要である。ペロシ米下院議長の訪台は、その「計画」を試す良い機会になったと思われる。
このような封鎖に対抗するためには、平時から台湾に対する武器や弾薬等の支援を事前に行っておくことが必要である。米国はすでに大幅な台湾支援を開始している。日本は、ウクライナ支援の際に「防衛装備移転三原則」の条件を大幅に緩和した。「台湾有事はわが国有事」との認識の下、今後、日本はこの「三原則」の運用について抜本的な議論が必要だと考える。
また、中国は、サイバー攻撃やハイブリッド戦が得意だ。フェイクニュースなどで相手方を混乱に陥れる能力に長けているとみられている。今回の台湾での統一地方選でもこの能力が発揮された可能性がある。2024年は台湾総統選である。再び民進党と国民党の争いになる。台湾は、民主主義国家であり、国内での選挙にとやかく言う権利はないが、中国からのさまざまな妨害を想定しながら台湾を支援しないといけない。中国からの妨害排除の仕組みを早急に構築する必要がある。
いずれにしても、これらの前提は、日本が防衛意識を高め、自らの防衛能力を抜本的に高めておくことである。そのことが他国からの信頼を得ることになり、結果的に「抑止力」になると考えている。
岩崎茂
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングス顧問(現職)。
写真:AP/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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