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勝手に降伏するロシア兵も…「焦る」プーチンを追い詰める「ロシアの大きな準備不足」【実業之日本フォーラム】
配信日時:2022/03/07 10:11
配信元:FISCO
● 「クリミア侵攻時」とはここが違う!
2022年2月24日、100発を超える弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃に引き続き、ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した。外交の場で幾度となく繰り返されていた、「クリミア軍事侵攻の意図は無い」、というロシアの約束はあっさりと反故にされた。
ウクライナ情勢については、昨年来幾度となく本欄で取り上げた。昨年末の「疑心暗鬼の代償−ウクライナ情勢−」では、プーチン大統領の「強いロシアへのこだわり」という不確定要素はあるものの、ロシア軍がウクライナに全面軍事侵攻する可能性は低いと見積もっていた。不幸にして、プーチン大統領のこだわりが、想像よりもはるかに大きかったことが明らかとなった。
今回のウクライナ侵攻は、2014年のクリミア併合に引き続くものであるが、そのやり方には顕著な違いを見せている。今後のウクライナ情勢は、その違いが及ぼす影響を分析する必要がある。
2014年のクリミア併合は、ウクライナ東部における親露派勢力による反政府暴動に引き続き、クリミアにおける独立宣言、併合に関する住民投票、そしてロシアとの併合条約締結という順にすすんだ。
2014年3月11日の独立宣言から3月18日の条約調印まで1週間という速さであった。この間、ロシア軍の表立った活動や、クリミア市民の反ロシア活動もほとんど報道されていない。国際社会は、中国とインドを除き、ロシアを非難、アメリカを中心とした経済制裁が発動され、我が国もこれに追随している。
今回、2月21日に「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」が独立宣言、22日にロシアがこれを承認した段階までは、まさにクリミア併合をなぞったようなやり方であった。
しかしながら、2月24日以降の軍事侵攻は全く新たな展開であった。ハイブリット戦争の一環として見積もられていたサイバー攻撃や、ロシア軍による電磁波攻撃によるウクライナ国内の明らかな通信障害は現時点では認められていない。このため、欧米諸国はウクライナ国内の状況を刻一刻と伝え、ウクライナのゼレンスキー大統領も頻繁にSNSを更新している。
もちろん、ウクライナ国防省や銀行へのサイバー攻撃、ロシア国防省のサイトが一時閲覧不能になる等のサイバー攻撃が伝えられており、さらにはロシア及びウクライナを支持する匿名ハッカー集団の動きも確認されている。しかしながら、現時点では通信は阻害されておらず、ウクライナにおける民間施設への攻撃等がリアルタイムで伝えられている。このことは、「攻撃目標は軍事施設のみ」とするロシア軍報道官の発言と大きく異なり、国際的にロシアへの批判が高まっている。
● ロシア、たった4日で燃料不足に…
2014年のクリミア併合と比較すると、今回のロシアのやり方は極めて稚拙である。特に、侵攻からわずか4日で燃料不足に陥るということは、侵攻自体が周到な準備に基づいて行われていないことを示唆する。さらには、ロシア国内において戦争に反対するデモが行われ、報道によれば6,000人以上が拘束されたと伝えられている(3月2日現在)。計画的な侵攻であれば、国内治安維持についても充分な準備が為されるはずであるが、事前にデモ等を禁止するような動きは伝えられていない。泥縄的対応に終始しているように映る。
アメリカの動きにも顕著な違いがある。クリミア併合の際は、ロシアの打つ手があまりにも早く、対応が遅れていたが、今回アメリカは、秘密情報を含め、積極的な広報を行っている。バイデン大統領は、実際の侵攻が始まる5日前に、プーチンがウクライナ侵攻を決断したと述べている。一連の情報は、ロシアの行動を事前に抑止することを企図したものであろうが、積極的な情報公開はロシアのウクライナ侵攻後も継続している。
2月27日、米国防省は、ロシアの侵攻スピードが遅く、補給に問題が生じている可能性を指摘した。2月28日には、ウクライナ軍の戦いを「ダビデとゴリアテの戦い」と称している。旧約聖書にある巨人ゴリアテを石投げ器で倒したダビデをウクライナ人に例え、最終的には巨人であるロシアに対して勝利を収めると比喩しているのであろう。
また、ロシア軍は、依然として制空権を握れておらず、ウクライナ周辺に展開している約16万人の動員兵力の内、75%の約12万人をウクライナに侵攻させ、キエフ及びハリコフを包囲しようとしていると見積もっている。そして、燃料を含む補給品の問題は解決していないと見ている。
3月1日、米国防省高官は、「ロシア軍が自らの命を危険にさらすようなリスクを避けようとする行動が確認されるとし、ロシア軍の中には戦いを行わずに降伏する部隊や訓練不足の招集兵の存在、さらにはどこで戦うのかさえ知らされていない兵士もいる」と述べている。以上のような積極的な情報公開は、情報操作の可能性は否定できないものの、ウクライナの士気を高めるだけではなく、国際的なロシア包囲網構築に役に立っている。
● プーチンは「ロシアの力を過信していた」
ロシアのウクライナ侵攻から、間もなく1週間が経過する。ロシア軍が侵攻すればゼレンスキー政権はあっという間に崩壊するという、プーチン大統領の思惑は大きく外れた。
2月28日には初めての停戦交渉が行われ、3月3日には2回目の停戦交渉が行われたが大きな進展はない。ロシア軍は、首都キエフ及びウクライナ第二の都市ハリコフ付近に展開を完了し、市街地への攻撃も行っている。プーチン大統領は、人口の多い二都市を人質に、停戦交渉を有利に運ぼうとしていると考えられる。
これに対しウクライナは、SNSを中心とした情報発信を積極的に行い、国際的支援とロシア国内の厭戦気分を盛り上げ、ロシア軍の即時撤退を訴えていくやり方を継続すると考える。ウクライナの抵抗を低く見積もり、ロシア軍の力を過信していたプーチンにとって、1週間以上戦闘が続くことは誤算であったと考えられる。
中長期的に見れば、ロシアに対する経済制裁は、ロシアだけではなく国際社会に深刻な影響を与えるであろう。しかしながら、ロシアのウクライナ侵攻を成功裏に終わらせることは絶対に避けなければならない。プーチンの核の恫喝に妥協し、融和的解決を模索することは、将来の国際秩序に大きな禍根を残す。ウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められている。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:代表撮影/AP/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
<FA>
2022年2月24日、100発を超える弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃に引き続き、ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した。外交の場で幾度となく繰り返されていた、「クリミア軍事侵攻の意図は無い」、というロシアの約束はあっさりと反故にされた。
ウクライナ情勢については、昨年来幾度となく本欄で取り上げた。昨年末の「疑心暗鬼の代償−ウクライナ情勢−」では、プーチン大統領の「強いロシアへのこだわり」という不確定要素はあるものの、ロシア軍がウクライナに全面軍事侵攻する可能性は低いと見積もっていた。不幸にして、プーチン大統領のこだわりが、想像よりもはるかに大きかったことが明らかとなった。
今回のウクライナ侵攻は、2014年のクリミア併合に引き続くものであるが、そのやり方には顕著な違いを見せている。今後のウクライナ情勢は、その違いが及ぼす影響を分析する必要がある。
2014年のクリミア併合は、ウクライナ東部における親露派勢力による反政府暴動に引き続き、クリミアにおける独立宣言、併合に関する住民投票、そしてロシアとの併合条約締結という順にすすんだ。
2014年3月11日の独立宣言から3月18日の条約調印まで1週間という速さであった。この間、ロシア軍の表立った活動や、クリミア市民の反ロシア活動もほとんど報道されていない。国際社会は、中国とインドを除き、ロシアを非難、アメリカを中心とした経済制裁が発動され、我が国もこれに追随している。
今回、2月21日に「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」が独立宣言、22日にロシアがこれを承認した段階までは、まさにクリミア併合をなぞったようなやり方であった。
しかしながら、2月24日以降の軍事侵攻は全く新たな展開であった。ハイブリット戦争の一環として見積もられていたサイバー攻撃や、ロシア軍による電磁波攻撃によるウクライナ国内の明らかな通信障害は現時点では認められていない。このため、欧米諸国はウクライナ国内の状況を刻一刻と伝え、ウクライナのゼレンスキー大統領も頻繁にSNSを更新している。
もちろん、ウクライナ国防省や銀行へのサイバー攻撃、ロシア国防省のサイトが一時閲覧不能になる等のサイバー攻撃が伝えられており、さらにはロシア及びウクライナを支持する匿名ハッカー集団の動きも確認されている。しかしながら、現時点では通信は阻害されておらず、ウクライナにおける民間施設への攻撃等がリアルタイムで伝えられている。このことは、「攻撃目標は軍事施設のみ」とするロシア軍報道官の発言と大きく異なり、国際的にロシアへの批判が高まっている。
● ロシア、たった4日で燃料不足に…
2014年のクリミア併合と比較すると、今回のロシアのやり方は極めて稚拙である。特に、侵攻からわずか4日で燃料不足に陥るということは、侵攻自体が周到な準備に基づいて行われていないことを示唆する。さらには、ロシア国内において戦争に反対するデモが行われ、報道によれば6,000人以上が拘束されたと伝えられている(3月2日現在)。計画的な侵攻であれば、国内治安維持についても充分な準備が為されるはずであるが、事前にデモ等を禁止するような動きは伝えられていない。泥縄的対応に終始しているように映る。
アメリカの動きにも顕著な違いがある。クリミア併合の際は、ロシアの打つ手があまりにも早く、対応が遅れていたが、今回アメリカは、秘密情報を含め、積極的な広報を行っている。バイデン大統領は、実際の侵攻が始まる5日前に、プーチンがウクライナ侵攻を決断したと述べている。一連の情報は、ロシアの行動を事前に抑止することを企図したものであろうが、積極的な情報公開はロシアのウクライナ侵攻後も継続している。
2月27日、米国防省は、ロシアの侵攻スピードが遅く、補給に問題が生じている可能性を指摘した。2月28日には、ウクライナ軍の戦いを「ダビデとゴリアテの戦い」と称している。旧約聖書にある巨人ゴリアテを石投げ器で倒したダビデをウクライナ人に例え、最終的には巨人であるロシアに対して勝利を収めると比喩しているのであろう。
また、ロシア軍は、依然として制空権を握れておらず、ウクライナ周辺に展開している約16万人の動員兵力の内、75%の約12万人をウクライナに侵攻させ、キエフ及びハリコフを包囲しようとしていると見積もっている。そして、燃料を含む補給品の問題は解決していないと見ている。
3月1日、米国防省高官は、「ロシア軍が自らの命を危険にさらすようなリスクを避けようとする行動が確認されるとし、ロシア軍の中には戦いを行わずに降伏する部隊や訓練不足の招集兵の存在、さらにはどこで戦うのかさえ知らされていない兵士もいる」と述べている。以上のような積極的な情報公開は、情報操作の可能性は否定できないものの、ウクライナの士気を高めるだけではなく、国際的なロシア包囲網構築に役に立っている。
● プーチンは「ロシアの力を過信していた」
ロシアのウクライナ侵攻から、間もなく1週間が経過する。ロシア軍が侵攻すればゼレンスキー政権はあっという間に崩壊するという、プーチン大統領の思惑は大きく外れた。
2月28日には初めての停戦交渉が行われ、3月3日には2回目の停戦交渉が行われたが大きな進展はない。ロシア軍は、首都キエフ及びウクライナ第二の都市ハリコフ付近に展開を完了し、市街地への攻撃も行っている。プーチン大統領は、人口の多い二都市を人質に、停戦交渉を有利に運ぼうとしていると考えられる。
これに対しウクライナは、SNSを中心とした情報発信を積極的に行い、国際的支援とロシア国内の厭戦気分を盛り上げ、ロシア軍の即時撤退を訴えていくやり方を継続すると考える。ウクライナの抵抗を低く見積もり、ロシア軍の力を過信していたプーチンにとって、1週間以上戦闘が続くことは誤算であったと考えられる。
中長期的に見れば、ロシアに対する経済制裁は、ロシアだけではなく国際社会に深刻な影響を与えるであろう。しかしながら、ロシアのウクライナ侵攻を成功裏に終わらせることは絶対に避けなければならない。プーチンの核の恫喝に妥協し、融和的解決を模索することは、将来の国際秩序に大きな禍根を残す。ウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められている。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:代表撮影/AP/アフロ
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1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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