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元統合幕僚長の岩崎氏、経済安全保障だけでなく技術にも焦点を(1)【実業之日本フォーラム】
配信日時:2021/12/07 10:24
配信元:FISCO
最近、「経済安全保障」が脚光を浴びてきている。昨今の情勢からすれば当然の成り行きとは思うものの、この用語に違和感を覚えることがある。そもそも「安全保障」とは、総合的なものであり、国家やその組織の全ての力(総合力)を駆使し、国民のあるいはその組織に所属する人達の安全や利益・権限を守ることである。一昔前までは、「安全保障」と言えば、軍事的な分野に限られて使われていたが、国際交流が活発化する中で、軍事のみならず、外交力が必要とか、資源やエネルギーの確保等が議論されるようになり、「外交・安全保障」や「総合安全保障」などと言われるようになった。また時には、人権・貧困、感染症対策等も含め「人間安全保障」ということようにも使われている。そして、最近では、「経済」に着目した「経済安全保障」が議論されるようになってきた。
「安全保障」が「経済」に焦点をあてて議論されるに至った状況には、いろいろな事が考えられるが、最も大きな要因は、国際的な相互依存関係の深まりであろう。もともと資源的に恵まれない国は、資源が豊富な国に依存していた。ただ、最近では、自国で賄うことが出来ても国外で生産した方が安価な場合、又は自国よりも高い技術力を有する国での生産の方が結果的に効率的である場合についても、他国へ依存する体制へと移行してきている。一部の国ではこの状況に危機感を持ち、再度自国での生産に切り替えを模索している国もある。米国が石油の自国での採掘に再び方向転換したのは、その典型である。
また、もう一つの大きな要因が、中国の「経済力」を使った露骨な利権獲得行為が世界各地で横行するようになってきたためである。むしろ、こちらの方が問題であろう。中国による、インド洋の要衝であるスリランカのハンバントタ港の利権獲得はそのいい例である。中国は、スリランカに対して格安の融資を行い、いつの間にか債務過多にさせ、挙句の果てにスリランカ南部のハンバントタ港(インド洋の要衝)を向こう99年間貸与することを約束させた。99年はどこかで聞いたことがある期間である。また、我が国や欧米諸国が海賊対応等の為、自衛隊や各国の軍が駐留しているアフリカのジプチに莫大な投資を行い、スエズ運河から紅海を経てインド洋に出る場所に所在するジプチに中国が中国海軍専用の軍港を建設した。この軍港は空母の寄港も可能な大きな軍港であり、中国の「一帯一路(OBOR)」の拠点となる軍港である。中国が主導して2014年10月に設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加入は当初57ヶ国だったが、最近100ヶ国・地域に達している。中国の経済力の影響が世界各地に広がっており、この力で、世界各地で利権を得ているのである。OBOR構想は、2013年に習近平国家主席が提唱した「シルクロード経済圏構想」に基づく構想である。これはシルクロードを模した「陸地版シルクロード経済圏(一帯)」と、インド洋経由の「海上版シルクロード経済圏(一路)」の構想であり、陸には鉄道や道路等のインフラを構築し、インド洋沿岸の各地には港湾整備を行う構想となる。
この様な事例は、南太平洋諸国でも枚挙に暇がないほど頻発している。我が国も中国から経済制裁的な嫌がらせを受けた経験がある。2009年9月7日、尖閣諸島付近で任務中(警戒監視や違法操業の漁船都市締まり)であった我が国の海上保安庁(海保)の巡視船に中国漁船が故意に衝突をした事案が発生した。海保はその場で中国漁船の船長以下を逮捕したが、この直後、中国で日本製品のボイコットや不買運動が起こり、携帯電話等の製造に欠かせないレア・アース(希少土)を日本へ輸出しないことを中国が宣告してきた。我が国は、中国の脅しに屈することなく、その後すぐに希少土に代わる代替製品を調達できた(この後、中国は我が国に対するレア・アースを解禁)。ただ、多くの開発途上国は、中国の資金に頼ると債務地獄に陥る可能性がある事は重々承知していても、中国の潤沢な資金や投資を自国の経済発展に不可欠と考えがちであり、ついつい深みに嵌ってしまうのである。
この様な経緯から、「経済安保」が叫ばれ、我が国が諸外国に先駆け、「経済安全保障大臣」を新設した。当然の成り行きであり、素晴らしいことである。ただ、「経済安保相」の所掌する範囲や権限等の細部が明確でなく、既存の省庁(経産省や防衛省、外務省)等との関係も明らかにされておらず、この「経済安全保障相」を置くだけで十分であろうか。私は、特に「技術」に関する分野に十分な配慮がなされるか不安を持っている。
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。
「元統合幕僚長の岩崎氏、経済安全保障だけでなく技術にも焦点を(2)」に続く
写真:AAP/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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「安全保障」が「経済」に焦点をあてて議論されるに至った状況には、いろいろな事が考えられるが、最も大きな要因は、国際的な相互依存関係の深まりであろう。もともと資源的に恵まれない国は、資源が豊富な国に依存していた。ただ、最近では、自国で賄うことが出来ても国外で生産した方が安価な場合、又は自国よりも高い技術力を有する国での生産の方が結果的に効率的である場合についても、他国へ依存する体制へと移行してきている。一部の国ではこの状況に危機感を持ち、再度自国での生産に切り替えを模索している国もある。米国が石油の自国での採掘に再び方向転換したのは、その典型である。
また、もう一つの大きな要因が、中国の「経済力」を使った露骨な利権獲得行為が世界各地で横行するようになってきたためである。むしろ、こちらの方が問題であろう。中国による、インド洋の要衝であるスリランカのハンバントタ港の利権獲得はそのいい例である。中国は、スリランカに対して格安の融資を行い、いつの間にか債務過多にさせ、挙句の果てにスリランカ南部のハンバントタ港(インド洋の要衝)を向こう99年間貸与することを約束させた。99年はどこかで聞いたことがある期間である。また、我が国や欧米諸国が海賊対応等の為、自衛隊や各国の軍が駐留しているアフリカのジプチに莫大な投資を行い、スエズ運河から紅海を経てインド洋に出る場所に所在するジプチに中国が中国海軍専用の軍港を建設した。この軍港は空母の寄港も可能な大きな軍港であり、中国の「一帯一路(OBOR)」の拠点となる軍港である。中国が主導して2014年10月に設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加入は当初57ヶ国だったが、最近100ヶ国・地域に達している。中国の経済力の影響が世界各地に広がっており、この力で、世界各地で利権を得ているのである。OBOR構想は、2013年に習近平国家主席が提唱した「シルクロード経済圏構想」に基づく構想である。これはシルクロードを模した「陸地版シルクロード経済圏(一帯)」と、インド洋経由の「海上版シルクロード経済圏(一路)」の構想であり、陸には鉄道や道路等のインフラを構築し、インド洋沿岸の各地には港湾整備を行う構想となる。
この様な事例は、南太平洋諸国でも枚挙に暇がないほど頻発している。我が国も中国から経済制裁的な嫌がらせを受けた経験がある。2009年9月7日、尖閣諸島付近で任務中(警戒監視や違法操業の漁船都市締まり)であった我が国の海上保安庁(海保)の巡視船に中国漁船が故意に衝突をした事案が発生した。海保はその場で中国漁船の船長以下を逮捕したが、この直後、中国で日本製品のボイコットや不買運動が起こり、携帯電話等の製造に欠かせないレア・アース(希少土)を日本へ輸出しないことを中国が宣告してきた。我が国は、中国の脅しに屈することなく、その後すぐに希少土に代わる代替製品を調達できた(この後、中国は我が国に対するレア・アースを解禁)。ただ、多くの開発途上国は、中国の資金に頼ると債務地獄に陥る可能性がある事は重々承知していても、中国の潤沢な資金や投資を自国の経済発展に不可欠と考えがちであり、ついつい深みに嵌ってしまうのである。
この様な経緯から、「経済安保」が叫ばれ、我が国が諸外国に先駆け、「経済安全保障大臣」を新設した。当然の成り行きであり、素晴らしいことである。ただ、「経済安保相」の所掌する範囲や権限等の細部が明確でなく、既存の省庁(経産省や防衛省、外務省)等との関係も明らかにされておらず、この「経済安全保障相」を置くだけで十分であろうか。私は、特に「技術」に関する分野に十分な配慮がなされるか不安を持っている。
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。
「元統合幕僚長の岩崎氏、経済安全保障だけでなく技術にも焦点を(2)」に続く
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・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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