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日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由—根底にあるのは「自信のなさ」?(3)

配信日時:2021/12/03 16:29 配信元:FISCO
本稿は、「日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由—根底にあるのは「自信のなさ」?(2)」の続きである。

●「クリエイターエコノミー」には2種類のマーケットがある

白井 クリエイターエコノミーが、さまざまな分野で生まれています。マーケットとして成立するのは、どれぐらいの規模と考えれば良いでしょうか。

喜田 ウェブやクリエイターエコノミーのビジネスタイプは2つです。少人数高単価の厚利少売ビジネスか、大人数低価格の薄利多売ビジネスかのどちらかです。スケブのように厚利少売ビジネスだと、ファンが300人いれば成立します。その中の1人が30万円を出せば成立するというマーケットです。

スケブの場合、「石油王」の存在も大きいです。実際の石油王ではありませんが、ポンといきなり現れて、ポンと30万円を支払って、ポンと消えていくという謎のお金持ち。少額しか支払わない人が1万人いるよりも、石油王がたった1人いてくれるだけで成立するのがクリエイターエコノミーです。また厚利少売ビジネスの方が、一般的に取引のトラブルの発生率が少ない傾向にあります。

一方、大人数低価格のビジネスであれば、潜在的な顧客、ファンが1万人いれば成立するでしょう。これはだいたい、サブスクリプションサービスに加入します。YouTubeの有料チャンネル、あるいは海外ではPatreon、国内だとPixiv FANBOXやFantiaと呼ばれるサービスです。ファンクラブのようなもので、月額500円程度のものが多いです。課金することで毎月限定コンテンツを使用できるというクリエイターエコノミーです。


白井 少人数で成立するクリエイターエコノミーは、ロングテールの世界ならではですね。英語圏、中華圏ではもっと大きいでしょうし、もっとマニアックなものでも成立しやすいのではないでしょうか。

喜田 世界的には日本は第3位ぐらいでしょう。第1位がアメリカ、第2位が中国です。日本のクリエイターが中国のビリビリ(bilibili(※1))動画で活動しているようなケースも散見されます。日本で流行りにくい理由は、人口が少ないこともありますが、資金移動に非常に強力な法規制がかけられているからでしょう。

ただ、日本のクリエイターエコノミーは、将来的には、ビッグ・テック(Alphabet、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)が構築するプラットフォームに吸収されたり、イーロン・マスクのNeuralinkが提唱する、脳に電極を直接埋め込むBMI(Brain Machine Interface)技術のようなものに取って代わられたりすることになると思います。国産プラットフォームが世界を席巻することはないと思います。

実際に、グーグルは、2021年8月、日本の送金アプリ「pring(プリン)」という個人間送金サービスを買収しました。巨大な資本力と高度な技術力を持ち、すでに海外で圧倒的なシェアを持っているグーグルのような企業のほうが、日本の企業よりも上手くいく可能性が高いでしょう。国内ベンチャーあるいは国内の動きの遅い大企業がクリエイターエコノミーに参入した頃には、すでに海外の企業が日本に上陸して、乗っ取ってしまっているのではないでしょうか。

一方、300人という議論はウェブサービスにも当てはまります。300人しかマーケットがない、ビッグ・テックが注目するには小さ過ぎる市場を、日本のベンチャー企業が細々と取っていくという未来は起こり得るでしょう。

白井 藤野英人さんとの対談での議論と似た未来予想ですね。

●「質」「量」ではなく、「速度」で評価される

喜田 私はポリゴンテーラーというVRのSNS上の服を販売するプラットフォームの開発を進めていますが、この事業にも、スケブの未来にも、私が圧倒的な自信を持っているのは、おそらくビッグ・テックが参入してこないからです。

白井 しかし、数十年後の世界では、「国民1人1アバター時代」が実現しているかもしれません。

喜田 そのときは私がビッグ・テックの傘下に入っている、バイアウトして資本的には外国企業の傘下になっているということですね(笑)。

白井 日本が、クリエイターエコノミーを戦略的に進めていくには、世界のマーケットを見据えて、どのようなコンテンツが求められているかというのも重要な論点です。また、クリエイターもその点を念頭に置いて活動する必要があるでしょう。

世界における日本のクリエイターの強みは、クオリティの高さとクリエイター人口の厚みにあると思います。

一方、韓国のデジタルコミックのウェブトゥーンは、日本の漫画のような精緻さはなく、非常に粗っぽい仕上がりで、ストーリーも単純ではありますが、スマートフォンで読めるため現代のライフスタイルにマッチしており、世界的に大流行しています。日本の漫画も、マーケットや技術の変化に敏感に対応していかなければ、技術力があっても駆逐されかねないと思います。

日本には高いクオリティのクリエイターが大勢いるけれど、それを活かせる戦略的思考を持った人が育っていないのかもしれません。どうしたら、日本は勝てるのでしょうか。

喜田 いままでの評価軸は「質」か「量」かでしたが、いまは「質」でも「量」でもなく、「速度」です。一つのコンテンツの消費活動にかける時間は年々減っています。「小説家になろう」というサイトが流行っているのは、毎日、通勤時間に、通学時間に、パッと見ることができるからです。3,000文字ぐらいのものが毎日、365日欠かさず更新され、YouTubeの短尺の動画が毎日流されています。毎日投稿されているチャンネルほど伸びるのです。

高品質なものが2年の歳月をかけて完成されるのではなく、雑でもいい、量も少なくていいから、とにかく速度が重要です。毎日コンスタントに更新されることが必要なのです。

むしろ量は少ないほうがよく、毎日1分で終わるもの、ツイッターの4ページ漫画や漫画サイトの単話販売が好まれます。少なくともティーン層のコンテンツの消費は速度の世界であり、ウェブトーンはそれにフィットしています。

白井 ピッコマを展開するカカオジャパンの金在龍社長は「ウェブトゥーンの作品は歴史には絶対残らない」と断言しています。しかし、そこで親しんで、普通の漫画に流入していくことで、漫画文化が生き残っていく力になるはずだというのが彼の話でした。

ただ、誰が儲けるかというと、日本の漫画ではなくて、大量消費を前提に組み立てられ、AIが描くような作品なのかもしれません。大量消費時代に入っているのであれば、精緻な漫画の芸術的な美しさよりも、サササッと読めるというものが求められている。この辺の競争優位の組み立てについても、日本自身が考えていかなければならないのでしょう。

※1:bilibili(ビリビリ)は、中華人民共和国の動画共有サイトおよびビデオ、生放送、ゲーム、写真、ブログ、漫画などのエンターテイメント・コンテンツ企業

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