後場の投資戦略ニュース一覧
後場の投資戦略
銀行株の弱さが先行き警戒感を映す
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27193.70;+183.09TOPIX;1951.39;+14.29[後場の投資戦略] 前日の米株式市場は大きく反発。欧州株式市場も主要株価指数が揃って反発した。スイス国立銀行(中央銀行)がクレディ・スイスに対する流動性支援の意向を示し、同行はスイス国立銀行から実際に500億スイス・フラン(約7兆1500億円)の与信枠を確保した。また、約30億フラン相当の外貨建て社債を買い戻す計画も明らかにしたことで、同行の株価は昨日、一時40%も急反発した。加えて、経営難に直面していた米地銀ファースト・リパブリックについて、複数の大手銀行が合計で約300億ドル(約4兆円)を同行に預け入れることで合意したことで、米国での金融システム不安も緩和された。 一方、前日開催された欧州中央銀行(ECB)定例理事会では従来の計画通り0.5ポイントの大幅利上げが決定された。ただ、銀行業界の混乱を背景に、今後の政策金利の軌道を示唆する文言は声明文から取り除かれたもよう。さらに、ラガルド総裁は記者会見で、将来の利上げについて「現時点で決定することは不可能」と発言した。利上げが停止されるまでには至らなかったものの、足元の一連の事態に配慮した言動が所々に見られ、この点は今後の動向次第では早期の利上げ停止もあり得ることを示唆し、投資家心理の安心感を誘った。 しかし、疑心暗鬼は止まっていないようだ。クレディ・スイスの株価は一時40%急騰したものの、最終的には大きく失速して19%高で終えている。また、同行の社債の1年間の保証コストを反映するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)はむしろ上昇している。さらに、通常取引で10%高となった米ファースト・リパブリック・バンクの株価もその後、時間外取引では一転して17%も下落した。本日の東京市場でも銀行株の買い戻しは非常に鈍く、メガバンクの一角はむしろ下落している。また、前引け時点での東証プライム市場の出来高は6億株台と今週に入ってからでは物足りない水準にとどまっている。一昨日の小反発のときも同じだったが、上昇する日の出来高は少なく、下落時の出来高は多い傾向が今週は一貫して見られている。 来週21-22日に米連邦公開市場委員会(FOMC)の開催を控えているとはいえ、それだけでは足元の株式市場の戻りの鈍さを説明することはできないだろう。単なるイベント前の様子見ムードというよりは、金融システム不安が完全には収まっていないことが大きいのだろう。今後も経営難に直面して市場に動揺をもたらすような新たな銀行が表れる可能性は十分にある上、今後はセンチメントの悪化を通じた銀行の貸し渋り、企業の設備投資意欲の後退、個人消費者の支出意欲減退といった様々な形で実体経済に悪影響がもたらされることが考えられる。 こうした展望を踏まえると、1-3月期をボトムに緩やかなに回復に向かっていくと考えられていた企業業績の底入れも遠のいたと言わざるを得ない。今後さらにアナリストの業績予想が下方修正されることで株価が下落していく展開が想定される。今週末は米国版の株価指数先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)であるため、今晩を境にいったん売りが止む可能性はある。しかし、期先物でプット(売る権利)が積み上がっていることもあり、投資家の警戒感は続いている様子。このため、来週のFOMCを通過しても、あく抜けで株価がすぐに上昇するとは期待しない方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/17 12:21
後場の投資戦略
市場混沌とするなか今晩のECB定例理事会に注目
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;26974.39;-255.09TOPIX;1934.79;-25.33[後場の投資戦略] 米国発の金融システム不安が波及するような形で、前日は欧州市場でも銀行株が軒並み急落。事の発端はスイスの銀行、クレディ・スイスを巡る混乱だ。同行は不祥事や経営破綻したアルケゴス・キャピタルとの取引で巨額損失を被った経緯があり、最近まで顧客の資金流出が続くなど問題を抱えていた。同行は14日、過去2年の財務報告と管理手順に「重大な弱点」があったことを発表し、市場への警戒感を高めていた中、昨日、クレディ・スイス・グループの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクが追加の資金注入に応じない意向を示したことが引き金となった。 ただ、混乱に対応して、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)とスイス国立銀行(中央銀行)が同グループに対して必要に応じた流動性支援を行うと発表。また、FINMAと中銀は共同声明で「クレディ・スイスはシステム上重要な銀行に課される資本・流動性の要件を満たしている」と表明。さらに、同行がスイス国立銀行から500億フランを借り入れるとの報道もあり、目先の安心感にはつながっているようだ。 しかし、大幅下落で始まった日経平均は寄り付き直後から下げ幅を縮め、一時27000円を回復するも、その後再び同水準を割り込むなど戻りの弱さも見られている。先週末の米シリコンバレー銀行(SVB)の一件から連日で悪材料が相次いでいることもあり、市場の疑心暗鬼は簡単には止みそうにない。 米国で経営破綻したシリコンバレー銀行とシルバーゲート銀行については、顧客の性質や資金運用先に関して極端な偏りが見られ、リスク管理が甘かったという点でともに固有の問題が発端といえる。また、シグネチャー銀行も暗号資産(仮想通貨)関連の企業との取引が多く、業績の安定さに欠ける顧客先が多かったという特殊な事情がある。クレディ・スイスについても、金融システムの問題というよりは同行が以前から抱えていた経営に関する問題という様相が強い。また、米国では金融当局と政府が、債券などの担保を額面通りに評価して融資を行う、緊急対応策なども発表している。このため、システミックリスクにつながる可能性は低いと指摘されている。 しかし、依然として不安心理に駆られた預金者による取り付け騒ぎリスクがくすぶる。また、銀行間の取引システムにおいてドルの調達コストが上昇している兆候も見られており、影響の波及については慎重に見極める必要がありそうだ。さらに、仮に銀行の経営破綻などをこれ以上増やすことなく事態悪化に歯止めをかけることができても、市場関係者や企業経営者のセンチメントの悪化は大きい。今後は金融機関の貸し渋りや貸しはがしといった形で実体経済へ影響する可能性も想定しておく必要があろう。 金融政策を巡る市場の織り込みも急速に変化している。FF(フェデラルファンド)金利先物市場は、先週後半までは3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50ポイントへと利上げ幅が拡大されることを7割の確率で織り込んでいて、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)も5.65%にまで引き上げられると予想していた。しかし、現在は、0.50ポイントの利上げ確率はゼロ、一方で利上げを停止するとの確率が5割以上にまで上昇している。また、一度剥落した利下げ期待も再び高まっており、金利先物市場は今年の年末までに0.25ptの利下げが合計3~4回行われることまで織り込んでいる。 他方、世界的に不安心理が増幅され、これ自体がインフレ抑制効果を持つと考えられることに加え、昨日発表された米2月卸売物価指数(PPI)が前月比で予想外にマイナスとなり、食品・エネルギーを除いたコア指数でも前月比横ばいにとどまったことで、インフレ懸念が和らいでいる。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)がいったん利上げ停止を決める確率は高い。ただ、市場心理が落ち着けば、その後は再び経済データ次第で0.25ポイントの利上げを再開する可能性は十分にある。そのため、足元の利下げの織り込みはやや行き過ぎの印象が強い。来週のFOMCでは政策金利見通し(ドットチャート)も公表されるため、FRBのタカ派スタンスにどれだけ変化が見られるかを見極めたい。 その前に、今晩は欧州中央銀行(ECB)の定例理事会が開催される。これまでFRBと同じようにタカ派な姿勢を見せていたECBが、今回の一連の問題を受けて、どのように姿勢を変化させるかに注目したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/16 12:15
後場の投資戦略
戻りの弱さ目立つ、FRBの政策運営は困難極める
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27298.01;+75.97TOPIX;1965.60;+18.06[後場の投資戦略] 前日の米株式市場及び本日の東京市場はリスク回避の動きが一服し、買い戻しが優勢の展開。ただ、ともに先週からの下落率を踏まえれば自律反発の域を出ていないと言わざるを得ない。東京市場の上昇率は特に鈍く、日経平均にいたっては寄り付き直後から失速し、陰線を引いている。 前日に発表された米2月消費者物価指数(CPI)は概ね予想通りで無難に消化。一方、総合ベースでは前年比及び前月比ともに予想に一致したものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する食品・エネルギーを除いたコア指数は前年比で予想通りも、モメンタムを示す前月比では+0.5%と予想(+0.4%)を上回った。予想を大きく上回るような結果になってしまうと、足元の米国発の金融システム不安の最中でもFRBがタカ派姿勢を緩められない可能性があっただけに、今回の結果は一先ず市場の安心感につながったが、楽観になるには不十分な内容となった。 しかし、今回のCPIの結果を受けて大幅利上げはなくとも、FRBの利上げ路線が続く可能性が高いことを指摘する声は多い。確かに、米シリコンバレー銀行(SVB)などの経営破綻で雲行きは怪しくなっているが、米国での労働市場の需給逼迫は続いており、根強いインフレ圧力を考慮すると、ここで完全に利上げを止めてしまっては将来のインフレ再燃につながる恐れがある。また、前日のCPIの前月比でのプラスについても、民間データの家賃に対して1年以上の遅行性を伴う住居費の影響するところが大きいとはいえ、一方で、コア指数からさらに住居費を除いたベースでも前月比は+0.2%(1月:+0.2%)と加速が続いている。 今回のSVBの経営破綻も、顧客先や資金運用先が極端に偏っていたという、同社固有の背景が経営破綻の原因とされており、ミクロの問題をマクロの問題と捉えて利上げの完全停止にまで繋げてしまうのは政策運営として誤りになるとの考え方もある。 3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではいったん利上げ打ち止めの可能性もあるだろうが、その後は市場の落ち着きと追加の経済データを見極めたうえで、再度0.25ポイントの利上げが再開される可能性も考えられる。政策金利見通し(ドットチャート)が示される3月会合の結果を見極めるまでは神経質な地合いが続きそうだ。足元のリバウンドが一過性に終わる可能性は十分に考えられ、今は引き続き守りを固めた方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/15 12:12
後場の投資戦略
不安心理収まらず守りを固める局面か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27302.64;-530.32TOPIX;1954.10;-46.89[後場の投資戦略] 先週末の米SVBファイナンシャル・グループ株の急落を契機とした市場の混乱が未だに収まらない。その後、米シリコンバレー銀行(SVB)に続き、米シグネチャー銀行も経営破綻となった。こうした事態を受けて、米連邦準備制度と財務省、連邦預金保険公社(FDIC)は緊急融資プログラムを発表し、通常25万ドルまでの上限金額を超えた預金保護を実施するとしている。 こうした当局の迅速な対応もあり、システミックリスクといった連鎖的な金融システムの混乱に繋がる可能性は低いと思われるが、投資家の不安心理が収まっていない。また、イベントを契機に発生したボラティリティ(変動率)を利用してヘッジファンドなど短期筋が投機的な動きを強めていることが米地銀株の急落を招き、市場の不安心理を必要以上にかき立てているともいえそうだ。 米VIX指数は前日、危険水域とされる30を一時超え、日経平均VI(ボラティリティ・インデックス)も1月中旬以来となる20を超えてきた。日米ともに主要株価指数が次々と心理的な節目やサポートラインを割り込んできていることから、すでに商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロー型ファンドの売りが加速しているが、今後は、リスクパリティ戦略(ポートフォリオに占める各資産のリスク割合が均等になるように分散投資することで、リスクを低減させる運用手法)による売りなどもさらに膨らんでくる可能性がある。 一方、一連の事態を受けて、インフレ抑制のための各国中央銀行による金融引き締め懸念は急速に後退した。FEDウォッチによると、3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ停止を予想する確率は25%程度まで高まった。また、フェデラルファンド(FF)金利先物市場は再び利下げを織り込みはじめ、年末までに0.25ptの利下げが3回行われることを予想している。 こうした中、今晩は米国で米2月消費者物価指数(CPI)が発表される。米国発の信用不安により、もはや利上げペースの議論は時代遅れのような印象を持たれており、現在の焦点は3月会合で利上げを続けるのか停止するのかに移っている。一方、米SVBの一件の前とはいえ、先週の議会証言でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は利上げペース加速を示唆する発言までしていた。今の状況を踏まえれば、パウエル議長も姿勢を軟化させてくると思われるが、仮に今晩のCPIが強い結果となると、パウエル議長が本当に先週のタカ派な議会証言から態度を一変させてくれるかどうかという点にやや疑念が生じやすくなる。この場合は株式市場で売りがもう一段加速する可能性があり、注意したい。一方、米CPIが想定内のマイルドな結果となれば、市場は一旦落ち着きを取り戻す可能性があろう。 他方、東京市場では米地銀株の急落の影響を受けている銀行株だけでなく、鉄鋼や商社など、これまで強さを見せてきたバリュー(割安)株や高配当利回り株が一転して厳しいに売りに見舞われている。それだけ、これまでの急速な利上げを通じた今後の景気悪化に対する警戒感が高まっている証左だろう。こうした物色動向の変化から、投資家のセンチメントが急変していることが分かり、市場が落ち着くには時間がかかる可能性も高い。今は押し目買い余力を安易に使いきることなく、守りを固めた方がよさそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/14 12:18
後場の投資戦略
投資家心理悪化するなか14日の米CPIに注目
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27706.07;-437.90TOPIX;1990.60;-40.98[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、シリコンバレー銀行の破綻による金融システム不安や景気に対する先行き懸念等から売りが先行した。その後も、買い手が乏しいなか売り優勢の展開が続いている。心理的な節目である28000円も割り込んでおり、まずは落ち着きどころを探る展開になりそうだ。 新興市場も軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、朝方に下げ幅を縮小する動きを見せたが失速。再度売り優勢の展開となり下げ幅を広げる展開となった。米SVBが経営破綻したことは国内の投資家心理にもネガティブに働いている。また、米雇用統計の結果を受けて米長期金利が大幅に低下したものの、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利上げ幅の再拡大もあり得ることに言及しているなか、素直に新興株を買い進む動きにはなりにくい。前引け時点での東証マザーズ指数は1.71%安、東証グロース市場Core指数は0.43%安。 さて、10日に発表された2月米雇用統計の結果を振り返る。非農業部門雇用者数は31万1000人増加し、11カ月連続で市場予想を上回る伸びとなった。ただ、平均時給は前月比0.2%増、前年同月比では4.6%増で前月比ベースでは過去1年で最低の伸びにとどまった。また、失業率は3.6%で前月の3.4%から上昇。失業率は上昇し、賃金の前月比伸び率が鈍化するなど、労働市場が軟化しつつある兆候も示唆した。FRBが利上げペースを加速させるかどうかを判断する上で強弱入り交じる内容となった。 前週半ばには、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派な議会証言を受けて、21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)における0.5ptへの利上げ幅拡大が7割超の確率で織り込まれていた。しかし、米金融不安の台頭と米2月雇用統計の結果を受けて、足元では再び0.25ptの利上げが8割の確率で織り込まれている。つれて、米長期金利も3.7%台まで低下している。ただ、雇用統計の結果は0.25ptの利上げを確実視するような内容ではなく、14日に発表される2月消費者物価指数(CPI)次第では利上げ加速を再度織り込む展開も想定される。同指標の結果発表には最大の注目が集まろう。 他方で、前週末に米国市場では米SVBが経営破綻し、銀行の信用不安という新たなリスクが台頭した。詳細は、週末の「国内株式市場見通し」や「新興市場見通し」で解説されているため、そちらをご覧いただきたいが、いずれにしろ投資家心理は確実に悪化させる要因となった。米財務省の高官は、シリコンバレー銀行(SVB)と同様の問題を抱えている金融機関が複数あると述べており、こうした金融機関の預金者を巡る懸念があるだろうと語っている。 一方、米投資銀行ジェフリーズのリッチ・ハンドラー最高経営責任者(CEO)は、「この1週間の出来事をきっかけに2008年の世界的な金融危機のような状況が再び起きるとは予想していない」と語ったという。ただ、暗号資産業界でFTXが破綻した際は同社の影響は数カ月かけて広がっており、現在も不透明感が漂っている。詳しい状況などは全く異なるものの、SVB破綻というネガティブサプライズが今後どう影響してくるかは注意深く見守る必要がありそうだ。 月曜日の当欄を担当している筆者は、常々急なネガティブサプライズが飛び込んでくる可能性を想定して相場を見守ることを推奨してきた。SVBのニュースによって米雇用統計の結果がやや素通りされているような印象を受けるなか、14日の米CPIの発表が終わるまではやや軟調な動きが続きそうだ。引き続き、米国の経済指標やFRBの動向に加えて、SVB関連の追加材料など、外部環境の変化にもアンテナを張っておきたい。さて、後場の日経平均は、軟調な展開が続くか。地合いが悪化する中でも個別材料株には物色が向かっており、引き続き同様の動きが継続するか注目したい。(山本泰三)
<AK>
2023/03/13 12:22
後場の投資戦略
需給転換意識のなか米信用不安も重なる
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28271.58;-351.57TOPIX;2043.57;-27.52[後場の投資戦略] 先週末の急伸から強さを見せてきた東京市場は久々に大幅下落となっている。本日は相場の転換点となるかもしれない。今日は3月限の株価指数先物・オプション取引の特別清算指数算出(メジャーSQ)であった。一般的にメジャーSQを境に需給が転換することが多いが、今回もセオリー通りの展開になってきている。先週末から想定以上の強さを見せていた日経平均だが、本日は一転して寄り付き直後から下げ幅を広げる弱い動きとなっている。 奇しくも、この需給転換が意識されるメジャーSQ前日に、米国市場では銀行の信用不安という新たなリスクが台頭し、米国株式市場は大幅下落となった。米シリコンバレーの新興企業を中心に商業銀行サービスを展開する銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループの株価は9日、60.4%安と上場来最大の急落となった。証券ポートフォリオの損失とベンチャーキャピタル支援先企業の資金調達鈍化を受けて資本増強のための措置を講じたことが契機となった。 米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年から急速に金融引き締めを進める中、いずれは企業のデフォルト(債務不履行)などの事象が増加してくるだろうとは想定されていたが、今回それが表面化した。市場の一部では今回の一件がシステミックリスクに繋がり得る炭鉱のカナリアなのかとも警戒されており、今後、同様の動きがどれだけ増えてくるのか注目される。 米株式市場では9日、ダウ平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合指数の主要株価3指数が揃って200日移動平均線を終値で割り込んだ。今後は商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロー型ファンドの売りが加速する可能性もあり、米国株の動向には注意したい。 仮に当該案件が大きな問題に繋がらなかったとしても、メジャーSQの日にこうした投資家不安を煽るニュースが飛び込んできただけでも、相場の潮目の変化として意識されそうだ。また、こうした警戒感が高まる中でも、今後の経済データ次第ではFRBがまだ利上げを続けざるを得ない可能性も考えられ、ファンダメンタルズ(経済状況を示す基礎的な要因)の悪化が懸念される。 相場のセンチメントが悪化する中、経済活動の正常化など内需主導による恩恵が期待され、中国人観光客の回復という最大のカタリスト(株価変動を誘発する材料)もまだ温存されているリオープン・インバウンド関連などが相対的な安心感から買われやすい状況が予想される。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/10 12:20
後場の投資戦略
踏み上げの様相強める日本株
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28604.56;+160.37TOPIX;2070.43;+19.22[後場の投資戦略] 前日の米株式市場はまちまちで全体的には動意薄の展開。一方、前日の東京時間との比較で為替の円安は進行していないが、東京市場は本日も上昇、日経平均は心理的な節目の28500円を軽々と超え、一時28700円を超える場面もあった。 先週末からのこうした想定以上に強い東京市場の動きについて、前日までは明日に控える3月限先物・オプション取引に係る特別清算指数算出(メジャーSQ)に絡んだ海外短期筋の買い戻しが主因と考えていた。しかし、メジャーSQの前日時点でも強い基調が続いているあたり、どうも背景はそれだけではないようだ。 考えられる要因としては、個人投資家の踏み上げなどが挙げられる。一昨日に発表された3月3日時点の信用取引状況をみると、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(ETF)<1570>の売り残が前週から大きく増加している。また、日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信<1357>では買い残が急増しており、信用倍率は前週の9.5倍から13.7倍までに拡大した。逆張りで臨んでいた個人投資家を中心とした売り方が、足元の想定以上に強い日経平均の動きを受けて、損失覚悟の買い戻しを迫られていると考えられる。 一方、米国株は上値の重い展開が続いている。前日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の下院での2日目の証言は、一昨日の上院での証言とほとんど変化はなかったが、3月21-22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)については「何も決定していない」とした。明日の米2月雇用統計、来週の米2月消費者物価指数(CPI)次第で利上げ幅は0.25ポイント、0.50ポイントのどちらもあり得る状況といえる。 ただ、前日に発表された米労働省による1月求人件数(JOLTS)とADPによる民間雇用者数はともに市場予想を上回り、労働市場の需給逼迫が依然として続いていることを示唆。明日の米雇用統計に対する警戒感を高めている。 また、来週の米CPIについても、やや気掛かりなデータが出てきている。世界最大の中古車再販業者であるマンハイム・オークションズによると、2月の米中古車価格指数は前月比で4.3%上昇したという。さらに、米国のガソリン価格についても昨年12月半ば以降は上昇傾向が続いている。これまでCPIの鈍化に寄与してきた中古車価格とガソリン価格がともに上昇傾向にあることは今後の物価指標に対する警戒感を高めよう。 足元の日本株は需給主導で堅調な動きを見せている。今後も3月期末に向けた配当・優待権利取りの動きに加え、金融機関の決算対策目的の売り一巡、期末に向けた年金基金のリバランス売りの一巡、そしてパッシブファンドの配当金再投資などを背景に底堅さが続きそうだ。ただ、米国株が崩れた場合にはさすがに無風とまではいかないと考えられ、外部環境の動向については注視しておきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/09 12:12
後場の投資戦略
想定以上の堅調さも上昇余地見出しづらい
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28370.92;+61.76TOPIX;2047.56;+2.58[後場の投資戦略] 前日の米株式市場が大幅下落したにもかかわらず、本日の東京市場は総じて堅調な展開。為替の円安が一段と進行したことがある程度の支援要因になるとは想定されたが、下値の堅さは想定以上で、日経平均と東証株価指数(TOPIX)は早々にプラスに転じている。米金融引き締め懸念が重しとなりやすい新興株もしっかりで、東証グロース市場指数、マザーズ指数は前日終値水準での底堅さを見せている。 先週末から指数がテクニカル面で好転したことで投資家心理が強気に転じ、先高観からの押し目買い意欲が強まっているのかもしれないが、今週末の3月限先物・オプション取引に係る特別清算指数算出(メジャーSQ)に向けた買い戻しによるところも引き続き大きいと推察される。この点は正直、正確には分かりかねるところだが、現在の想定以上に強い地合いがメジャーSQ後の来週以降も続くかについては慎重になった方がよいだろう。 前日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の上院での議会証言は総じてタカ派な内容だった。ターミナルレート(政策金利の最終到達点)が従来よりも高くなることだけでなく、今後も足元の強い経済指標が続く場合には利上げ幅を再び拡大させることも厭わないと、かなり断固とした攻めの姿勢を見せた印象だ。 こうした背景から、米2年債利回りは前日5.0%を超え、2007年来の高水準にまで上昇。金利先物市場が織り込むターミナルレートも5.64%にまで上昇し、FEDウォッチによると、次回3月21-22日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅としては0.5ポイントへの拡大を織り込む予想が7割を超えるところまできた。 見方を変えれば、FOMC前にパウエル議長からタカ派な姿勢が示され、利上げ幅の拡大まで織り込みが大きく進んだことで、3月FOMCでのネガティブサプライズの可能性は低くなったとプラスに捉えることもできる。また、今週末の米雇用統計が予想並みの結果にとどまった場合には、短期的なあく抜け感が台頭する可能性が出てきたともいえよう。しかし、もはや今後の経済データ次第では、利上げ幅の拡大だけでなく、利上げ停止時期がさらに後ろ倒しになり、ターミナルレートが6%を超える可能性まで現実味を増してきた。 利上げの終着点さえ見えれば、利上げが続いている中でも市場は攻めの姿勢を保つことができるが、政策の先行きに関する不透明感が強まっている今現在、市場が強気を維持するのは容易なことではない。為替の円安で支えられている日本株も、米国株の軟調な展開が長期化すれば、独歩高を見せることはほぼ不可能で、せいぜい横ばいがいいところだろう。 2日に200日移動平均線をサポートに反発に転じたS&P500種株価指数は25日線に頭を抑えられる形で大きく失速。再び75日線、200日線割れが警戒される状況となっている。S&P500指数が200日線を割り込んだ場合には、商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロー型ファンドの売りが加速するとも指摘されており、今後の米株式市場の動向をよりいっそう注視したい。米金融政策の不透明感が強い中、個別では引き続きバリュー(割安)・高配当利回り銘柄やインバウンド関連に妙味がありそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/08 12:17
後場の投資戦略
強い基調続くも需給主導の印象拭えず
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28353.34;+115.56TOPIX;2044.82;+8.33[後場の投資戦略] 前日の米株式市場は買い先行で始まったものの、終盤にかけて失速するなど引け味は悪かった。一方、東京市場は本日も堅調に推移。日経平均は前日に28000円を一気に超えてきて短期的な過熱感が意識されているはずだが、朝方からじわじわと上げ幅を伸ばす強い動きを見せている。 一方、今晩から2日連続で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の議会証言が予定されているほか、今週末には日本銀行の黒田東彦総裁にとって最後の金融政策決定会合、そして米雇用統計と注目度の高いイベントが目白押しだ。こうした中、週末には3月限先物・オプション取引に係る特別清算指数算出(メジャーSQ)も控えている。先週末からの不可解な程に強い動きを見せ続けている東京市場の動きは、大型イベントが集中するメジャーSQを前にした買い戻しの様相が強い気がしてならない。 ただ、個別の物色動向をみると、大手商社株が揃って続伸し昨年来高値を更新する銘柄が続出するなど、単なる売り方の買い戻しに過ぎないといったわけでもないようだ。また、レーザーテック<6920>や川崎汽船<9107>をはじめとした大手海運株など個人投資家人気の高い銘柄の一角が軟調ではあるが、東証グロース市場では派手に賑わっている銘柄や青天井のようなチャートを描いている銘柄の数が少なくない。個人投資家を取り巻くセンチメントも悪いわけではなく、むしろ強気に傾いているような印象だ。 しかし、個別はともかく、指数でいうと、日経平均が28500円を明確に超えていくような材料をどうにも見出しにくい。足元の強さについては、メジャーSQに向けた需給的な押し上げの様相が強い気がしてならず、ここから一段と買い上がるにはどうにも材料不足と思われる。仮に上述した今週の一連の重要イベントをサプライズなく、マーケットにとって良い形で終えたとしても、足元の株価上昇が需給要因によるところが大きいのであれば、株価の上昇は一旦収まるとも考えられる。 3月期末に向けた権利取りを狙った高利回り銘柄のほか、中国人観光客の回復を見込んだインバウンド関連、値上げ報道を機に再人気化していて来年度の業績拡大も期待できるチタン関連など、個別で投資妙味のありそうな銘柄はあるものの、全体相場観については中立をイメージしており、銘柄選別がますます重要になってきたと考える。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/07 12:17
後場の投資戦略
今週から重要イベント続く
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;28259.97;+332.50TOPIX;2037.63;+18.11[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、シカゴ先物にサヤ寄せする格好から買いが先行した。なお、取引時間中に28000円を付けたのは昨年12月15日以来となる。ただ、急ピッチの上昇に対する過熱感が警戒されやすく、買い一巡後の値動きに注目する声も多く聞かれている。現状は高値圏でのもみ合い展開が継続している。 新興市場も堅調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は上昇してスタートした後、プラス圏でのもみ合い展開が続いている。米国で主力グロース株が大幅高となったことは国内の投資家心理を改善させる要因となった。また、一時4%まで上昇していた米10年債利回りは再び4%を割り込んで推移しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株にとっては追い風となっている。前引け時点での東証マザーズ指数は1.22%高、東証グロース市場Core指数は1.33%高。 さて、今週からは主要イベントが控えている。まず、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が7日に上院銀行委員会で半期に一度の議会証言を行い、翌8日にも議長は下院金融委員会で証言する。本日のブルームバーグでは、パウエル氏は2月7日のインタビューで、「並外れて強い労働市場」が続く場合は「さらなる措置を講じる必要が生じる可能性は十分にある」と述べていたと報じられている。 また、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は4日、「やるべきことがまだあるのは明らかだ」としたうえで、「高インフレを過去のものとするために、さらなる政策引き締めをより長めに維持することが必要になるだろう」と語っていたようだ。市場では、米1月個人消費支出(PCE)コアデフレーターや米2月ミシガン大学消費者信頼感指数確報値などの経済統計やインフレ指標を受けて、インフレ再燃に警戒感が強まっている。パウエル議長の発言機会は今回の議会証言を最後に、次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合まで設定されていないため、いずれにしても同氏の発言には注目しておきたいところだ。 パウエル議長の議会証言に続いて、9日からは黒田東彦日本銀行総裁にとって最後となる金融政策決定会合が開催される。今回の日銀金融政策決定会合では現状維持を予想する向きが大半だが、次期総裁の植田氏による政策運営に自由度を与えておく状況を創出することを目的に3月会合でのサプライズ修正を指摘する向きもいる。10日には2月の米雇用統計、14日には同月の米消費者物価指数(CPI)が発表される。非農業部門雇用者数の伸びとインフレの過熱が再び数字で示されれば、投資家心理を悪化させて株安に傾く可能性があろう。 そのほか、5日から中国で全国人民代表大会が開催。李克強首相は政府活動報告で、2023年の経済成長率の目標を5%前後とし、昨年の目標(5.5%前後)より低く設定した。他方、スイスの金融大手クレディ・スイスの長年の大株主だった米運用会社ハリス・アソシエイツが、全保有株を売却したと5日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じている。 やはり、米国の経済指標やFRBの動向に加えて、そのほかの外部環境の変化にも逐一注目が必要である。このような不透明感が拭えない環境が台頭している中、月曜日の当欄を担当している筆者は、引き続き更なる下落シナリオを想定して相場を見守っている。さて、後場の日経平均は、プラス圏でのもみ合い展開が続くか。足元で強まっているバリュー(割安)・高配当利回り株や個別材料株、出遅れている新興市場の中小型株に物色が向かうか注目したい。(山本泰三)
<AK>
2023/03/06 12:14
後場の投資戦略
テクニカル強気転換も裏付けに自信持てず
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27898.37;+399.50TOPIX;2019.67;+25.10[後場の投資戦略] 本日の日経平均は久々に大幅に上昇、根強い戻り待ちの売りから長らく明確に超えることができていなかった27500円水準を大きく上放れ、2月6日高値27821.22円を超えてきている。27500円を挟んだ長いもみ合いを経た後の上放れとあって強気トレンドへの転換が期待される展開だ。2月東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)が前年同月比+3.3%と1月(+4.3%)から大幅に鈍化したが、銀行株なども上昇するなど本日の東京市場ではセクターを問わずほぼ全面高となっている。銀行株については、生鮮食品を除く食料とエネルギーを除いたコアコアCPIは+3.2%と1月(+3.0%)から加速していることもあり、金融緩和の修正路線に変更なしと捉えられているようだ。 前日の米株式市場も引け味良く、重要な形で取引を終えた。週次失業保険申請件数が予想外に減少したほか、10-12月期単位労働コスト改定値が予想を上回ったことで長期金利が上昇する中、寄り付き後は売りが先行した。しかし、その後の米連銀総裁の発言を受けて投資家心理が改善すると、大きく切り返して主要株価指数は揃ってプラスで終えた。一昨日に200日移動平均線を割り込んで下落トレンド入りが懸念されたナスダック総合指数は25日線を下値支持線とした反発により終値で200日線上に復帰。ナスダックに続いて200日線割れが警戒されていたS&P500種株価指数も200日線がしっかりとサポートとなる形で大きな陽線を描いた。日米ともにテクニカル的には強気派を支援する展開だ。 背景としては、米アトランタ連銀のボスティック総裁と米ボストン連銀のコリンズ総裁の発言が挙げられる。ボスティック総裁は利上げ幅については今後のデータ次第と柔軟性を持たせたが、基本的には0.25ptの利上げを支持し、利上げ幅の再加速には現状は積極的でない様子。また、マーケットが好感したのは今夏にも利上げ停止の可能性があることを示唆したことだ。コリンズ総裁も同様の見解を示したこともあり、米金利が全面的に上昇する中でも株式市場は終盤にかけて持ち直した。 一方、ボスティック総裁についてはこれより前の日の1日には、政策金利を5.00-5.25%に引き上げた後は、2024年もしばらくその水準で維持する必要性について言及し、米10年債利回りの4%乗せの材料を与えた人物だ。政策金利の上限を5.25%にした後は据え置くべきと発言している時点で、単純に現状の政策金利水準から逆算すれば、昨日の発言の通り夏頃にはいったん利上げが打ち止めになることは自明のこと。一昨日はそれよりも来年も高水準の金利が続くことをネガティブに捉えていたはず。それが昨日はすでに自明のことをポジティブに捉え直すという何ともちぐはぐな様相を呈している。 前日の米株式市場の引け味が良かったとはいえ、為替の円安水準にも大きな変化がない中、今日の東京市場の上昇率がやけに大きいのも少し気掛かり。前引け時点での東証プライム市場の売買高は5億株台にとどまっており、値幅程には商いが膨らんでいない点も気になる。やや需給主導的な面が否めず、今後の展開には少し注意したい。 今晩は米供給管理協会(ISM)の2月非製造業(サービス業)景況指数が発表される。前回1月分は55.2と大幅に改善し、景況感の拡大を示す50を一気に回復した。今回は54.6と引き続き高い水準が予想されている。先週は米2月サービス業購買担当者景気指数(PMI)が予想以上に大きく改善しことをきっかけに米長期金利の大幅上昇につながった。このため、今晩の米ISMサービス業景況指数の結果を受けた金利動向に注意したい。金利の動き次第では相場が再びネガティブな反応に転換する可能性は残されており、予断を許さないだろう。足元でトレンド転換が期待される株式市場だが、日経平均の28000円超えはハードルが高いとみておきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/03 12:18
後場の投資戦略
米経済のノーランディング期待は後退か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27495.69;-20.84TOPIX;1995.61;-2.20[後場の投資戦略] 前日の米国市場では、米10年債利回りが昨年11月以来となる4%まで一時上昇したことを嫌気し、株式の売りが優勢となった。ナスダック総合指数は遂に200日移動平均線を終値で割り込んでおり、S&P500種株価指数も200日線割れ目前の水準で取引を終えている。S&P500指数も同線を割り込んでくるようだと、株式市場の調整色が強まりそうだ。 前日の米長期金利の上昇の背景としては、ドイツの消費者物価指数(CPI)の前年比の伸びが予想に反して前月から加速したことに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)高官からタカ派発言が相次いだことが挙げられる。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅について0.25ptか0.50ptかについて「オープンマインド」と発言し、利上げ幅の再加速に含みを持たせた。また、アトランタ連銀のボスティック総裁は政策金利を5.00-5.25%に引き上げた後は、2024年もしばらくその水準で維持する必要性について言及。 ボスティック総裁が提言した金利水準については、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)の5.45%よりは低いが、今年だけでなく来年以降も高水準の金利を据え置く可能性について言及した点は、年後半からの相場の回復を期待する市場関係者にとってはネガティブな影響を与えたと考えられる。 インフレの鈍化が進んでいた欧州でも、前日のドイツだけではなく、一昨日に発表されたフランス、スペインのCPIも予想を上振れており、ドイツやフランスの10年債利回りは年始からの下落を埋めて昨年末に付けた高値を更新している。欧州ではインフレ再加速よりも、スタグフレーション(物価高と景気後退の併存)の様相が濃かった昨年対比での景況感改善を好感する動きの方が足元では優勢で、欧州株価指数の堅調推移が続いている。しかし、労働者のストライキ勃発が散見されている欧州でも、次第にインフレ再加速を懸念する動きが反映されてくる可能性はあろう。 話は米国に戻るが、前日の米国市場での注目点は他にもいくつかあった。米供給管理協会(ISM)の2月製造業景況指数が公表されたが、景況感は47.7と1月(47.4)より小幅に改善も、引き続き景況感の縮小を意味する50割れとなり、市場予想(48.0)も下回った。また、項目別では新規受注が47.0と1月(42.5)から大きく改善したが、依然として50割れの状態で、経済活動の縮小が続いていることが示された。一方で支払い価格の項目は51.3と1月(44.5)から大幅に上昇。景気の後退と物価の高止まりというスタグフレーション的な組み合わせ結果となったことはネガティブだろう。 小売企業の決算も冴えない内容だった。ホームセンター大手のロウズと百貨店のコールズの今期ガイダンスは低調な見通しとなったほか、前期第4四半期実績も想定以上に弱い結果となり、両者の株価はそれぞれ下落した。米国では10-12月実質国内総生産(GDP)改定値での個人消費の大幅下方修正や、2月消費者信頼感指数の低下、ウォルマート、ホーム・デポ、ダラー・ゼネラル、TJX、ディラーズ、ターゲットの低調な小売決算など、マイナス材料が増えてきている印象だ。 物価の高止まりとそれに伴う高金利の長期化による景況感の悪化が消費者心理を冷やしていることが示唆されていると考えられ、米国経済の唯一の下支え役ともされてきた個人消費に陰りが見られてきている点は、今後の業績悪化と景気後退を深刻化させる可能性があり、注意すべき点と考える。今晩の米国市場でもベスト・バイ、コストコ・ホールセール、メーシーズの小売決算があり、内容を見極めたい。 今後も、今週末の米2月ISM非製造業(サービス業)景況指数、来週のパウエルFRB議長の上院議会での証言、来週末の米2月雇用統計と、金利動向に大きな影響を与えそうなイベントが多く控える。昨日一時4%を超えた米10年債利回りの一段高が警戒される中、3月の日米金融政策イベントを消化するまではグロース株の調整が続きそうだ。それまでは、3月末の配当・優待の権利取りを狙ったバリュー・高配当利回り銘柄を中心とした物色のほか、中国経済の回復期待を通じた中国関連株やインバウンド関連株の強含みが予想されよう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/02 12:25
後場の投資戦略
バリュー機運はまだ続く?スタグフレーション懸念が重し
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27446.91;+1.35TOPIX;1991.35;-1.93[後場の投資戦略] 前日の後場から急速に崩れた海運株や建設株の動きに加えて、本日から3月に切り替わることもあり、これまで続いてきたバリュー(割安)・高配当利回り銘柄の物色機運が一巡したのではとの懸念があった。実際、本日も海運株の下落が続いている。また、半導体関連株が全般堅調な中でレーザーテック<6920>だけが逆行安となっていること、そしてマザーズ指数も下落しているところをみる限り、個人投資家が一部で利益確定売りに動いているようだ。ただ、本日は前日に売られた鉄鋼、非鉄金属、鉱業、商社に代表される卸売がしっかり上昇しているため、バリュー・高配当利回り銘柄の物色機運はまだ終わっていないと言えそうだ。 前日の米国市場ではダウ平均が終日軟調に推移し、中盤まで堅調だったナスダック総合指数も引けにかけて大きく失速し、マイナスに転じた。一方、前日に発表された経済指標が低調だったこともあり、米10年債利回りの上昇一服は継続、4%の節目手前で伸び悩んでいる。ただ、米長期金利は弱い経済指標を受けた中でも3.92%と前日比横ばいで終えており、先高観はくすぶる。また、米国債の変動リスクを示すMOVE指数のじり高基調が続いていることも懸念される。 前日低調だった経済指標の中でも、米2月消費者信頼感指数の内容が特に気掛かりだ。2月の信頼感指数は102.9と市場予想(108.5)に反して前月から低下、前回1月分も速報値の107.1から106.0へと下方修正された。また、今後6カ月の見通しを反映する期待指数は昨年7月以来の低水準となった。物価の高止まりとそれに伴う高金利の長期化による景況感の悪化が投資家心理を冷やしていることが示唆される。 前日に決算を発表した米小売りのターゲットの業績は、22年11月-23年1月実績が市場予想を上振れ、在庫調整も進展した一方、24年1月期見通しについては市場予想を下回る慎重なものとなった。足元は堅調も先行きに警戒感を示している点は、先んじて決算を発表している米小売りウォルマートと同様だ。 こうした米個人消費に関する先行き鈍化リスクは景気後退懸念を強める一方、サービス分野でのインフレ圧力を緩和するとも考えられ、ネガティブ一辺倒でもないと捉えることもできそうか。しかし、上述の米2月消費者信頼感指数の雇用に関する調査では、職が「十分」にあると捉える回答者の割合が昨年4月以来の水準に増加。職が「十分」と「就職困難」の回答から算出する労働市場格差は約1年ぶりの高水準にまで上昇した。 米国ではITや金融などの業界で雇用削減の動きが多く観測されているが、全体的な就労者比率の高い飲食・サービスなどのサービス分野では雇用削減どころか人手不足が続いている。ITや金融業界で解雇された人員も業界内ですぐに再就職できているという指摘がある。こうした逼迫した労働市場を踏まえると、消費が鈍化したとしても即座にインフレが鎮静化するという話でもなさそうだ。インフレと消費鈍化による景気減速が進むとなれば、今後のスタグフレーションリスクは高まるといえ、先行きの企業業績については慎重に見通したい。 一方、前日に決算を発表した米コンピューター・IT企業のHP(ヒューレット・パッカード)は足元で落ち込んでいるパソコン(PC)需要が年内には持ち直す可能性があると強気な見通しを示した。先行きに楽観的になるには依然として材料不足とはいえ、大幅な落ち込みが続いてきたPC業界の在庫調整の進展が一巡してきたとすれば、メモリ向けを中心に厳しい需要減に見舞われてきた半導体関連企業には朗報だ。年後半からの市況回復を見越して年始から株価上昇が続いてきた半導体関連株にとっては裏付け材料となる。昨年来高値圏で推移するルネサス<6723>やアドバンテスト<6857>、上場来高値圏で推移するディスコ<6146>などには高値警戒感もあったが、正当化材料として好感されよう。出遅れ感のある東エレク<8035>などの一段の持ち直しに期待したいところだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/03/01 12:27
後場の投資戦略
米金利の上昇一服に対する安心はまだ早いか
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27541.40;+117.44TOPIX;1998.19;+5.41[後場の投資戦略] 前日の米国市場は金利の低下を支えに一先ず反発となった。航空機を除く非国防資本財(コア資本財)の受注が前月比+0.8%と5カ月ぶりの大幅増となり、市場予想(+0.0%)を大きく上回った。一方、全体の耐久財受注は前月比-4.5%と予想(-4.0%)以上に減速したことで、これが金利の低下につながったとの市況解説もある。 しかし、航空機を含めた全体の耐久財受注は振れが大きいため、本来であればコア資本財受注の上振れを材料視して金利が上昇していてもおかしくなかったと思われる。金利低下の背景としては、月末にかけてファンドがリバランス(投資配分の再調整)目的に債券を買っていることなどがありそうだ。この仮説が正しいのであれば、明日から3月に入ることで需給面での下支えはなくなり、再び金利が上昇する可能性が考えられる。 米10年債利回りも低下したとはいえ、27日は3.92%(前営業日比-0.03pt)と低下幅は小さい。ナスダック総合指数は辛うじて200日移動平均線を維持する踏ん張りを見せているが、今後、金利上昇が再開してドル高が進めば、企業収益圧迫への警戒感から200日線を割り込む可能性は十分にあるだろう。 今晩は米国市場で小売企業のターゲットの決算が予定されている。米国では今週ターゲットの他にもロウズやダラー・ツリー、ベスト・バイ、メーシーズなどの小売決算が予定されている。先週は米10-12月の実質国内総生産(GDP)改定値が下方修正され、特に米GDPの約7割を占める個人消費が大きく下方修正された。また、ウォルマート、ホーム・デポ、ディラーズ、TJX、ダラー・ゼネラルなど米小売企業の決算も総じて冴えなかった。インフレが収まっていない反面、インフレの原因ともされている個人消費にはやや陰りが見られてきているようだ。 企業の景況感が悪化する一方で米経済のソフトランディング(軟着陸)期待を支えていたのは底堅い個人消費だった。しかし、その個人消費も鈍化傾向にあるとすれば、米経済の支え役が不在となる。スタグフレーション(インフレと景気後退の併存)懸念が再び高まっているなか、今晩のターゲットを皮切りとして始まる米小売企業決算に注目したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/28 12:13
後場の投資戦略
前週末の米株安受けて売り優勢の展開続く
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27405.37;-48.11TOPIX;1990.16;+1.76[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米国で大型テック株が総じて軟調な展開だった流れを受けて、東エレク<8035>など指数インパクトの大きい値がさ株が重しとなる形で売りが優勢となっている。ただ、売り一巡後は下げ幅を縮小する動きが優勢、個別に材料が出た銘柄などには旺盛な物色が向かっている。 一方、新興市場は軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、下げ幅を広げた。インフレ長期化への警戒が高まり米国株が大幅に下落したことは国内の個人投資家心理にネガティブに働いている。また、米長期金利は3.94%まで再度上昇しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株を手掛けにくい。前引け時点での東証マザーズ指数は1.23%安、東証グロース市場Core指数は1.75%安。 さて、前週末に発表された米1月個人消費支出(PCE)コアデフレーターは前月比+0.6%と予想(+0.4%)を上振れ、12月修正値(+0.4%)からも拡大した。前年比でも+4.7%と予想(+4.3%)を大きく上回り、12月修正値(+4.6%)と比較しても伸びが加速した。遅行性のある住居費(家賃などから構成)の影響で高く出やすい消費者物価指数(CPI)と比べて、PCEは家賃の影響を受けにくいにもかかわらず、今回のPCEコアは予想を大きく上振れている。 また、米1月新築住宅販売件数は前月比+7.2%の67万戸と12月修正値(62.5万戸)から予想以上に増加し22年3月来で最高となり、米2月ミシガン大学消費者信頼感指数確報値は67.0と予想外に速報値(66.4)から上方修正されて昨年1月来で最高となった。常々月曜日の当欄で指摘していたインフレの再燃が改めて数字で示され始めており、警戒感が強まっている。米10年債利回りは再び4%に迫る水準にまで上昇しており、金利動向にはしっかりと注目しておきたいところだ。 ブルームバーグが今月実施した調査では、エコノミストらは3月と5月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合でいずれも0.25ポイントの利上げが決まり、ピーク金利が5.25%に達すると予想しているとわかったという。ただ、前週、3月会合で0.5ポイント利上げを支持する可能性を排除しないと米セントルイス連銀のブラード総裁は述べていた。ブラード氏は今年のFOMCで投票権を持たないものの、複数の金融当局者は次回会合での0.50%の利上げを支持している。 複数の米金融当局者は24日、インフレ率は高過ぎで落ち着くまでには時間がかかるとの見解を示していたという。同時に、米政策金利は6.5%に引き上げる必要があるかもしれないとする論文が発表されていたようだ。市場予想でも、インフレ指標の結果発表を受けて3月会合での0.50%利上げ確率は27.7%まで上昇している。いずれにしても、3月会合で0.5%の利上げが実施される可能性は高まっている。 1月の米中古車平均価格が上昇に転じており、米国のインフレ率の前倒し指標とされる銅価格も上昇傾向にあった。これらの影響が3月14日に発表される2月CPIで反映され、想定以上のCPI加速が確認される可能性があると前回から指摘していた。やはり、2月末以降は、引き続きFRB関係者などのコメントやインフレ指標の結果を横目に、更なる下落シナリオを想定して相場を見守っていきたい。さて、後場の日経平均は、マイナス圏での推移が続くか。外部環境の不透明感が強まる中、足元で強まっているバリュー(割安)・高配当利回り株や個別材料株に物色が向かうか注目したい。(山本泰三)
<AK>
2023/02/27 12:18
後場の投資戦略
米金利高一服や日銀イベント無難消化で買い戻し
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27398.78;+294.46TOPIX;1986.43;+11.18[後場の投資戦略] 国内が祝日で休場の間、米株式市場は踏ん張りを見せた。ナスダック総合指数は小幅ながら22、23日と連日で上昇し、200日移動平均線の上方を維持。S&P500種株価指数も75日線の上方を保った。 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(1月31日-2月1日開催)では0.5ポイント(pt)の利上げを好ましいと判断する参加者が数名いたようだが、ほとんど全ての参加者が0.25ptへの利上げ幅縮小に賛同していたことが判明。一方、景気減速のリスクよりも、インフレの上振れリスクを懸念視する声の方が多く、インフレ率が目標の2%に向かって明確に低下するまでは景気抑制的な政策スタンスを維持することが適切との見解が総じて示されたもよう。 また、米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁はサービス部門でのインフレ圧力の根強さを指摘し、物価は一部で予想されたほどには急速に下がらない可能性があるとの見解を示した。米セントルイス連銀のブラード総裁も政策金利を5.375%まで引き上げるべきとのタカ派な見解を示した。 総じて米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派姿勢の鮮明化が警戒されるものの、これまでの雇用や物価関連の指標の上振れや、FRB高官の一連のタカ派発言などを踏まえれば、概ね織り込み済みの内容で、サプライズには乏しかった。このため、警戒されていた米長期金利の上昇も一服し、21日に3.95%にまで上昇していた米10年債利回りは22、23日と小幅ながら連日で低下し、3.88%まで水準を切り下げた。 米長期金利の上昇一服が安心感を誘う中、半導体大手エヌビディアが好決算を発表し、株価が急伸したことで、投資家心理はさらに改善した。指数寄与度の大きいハイテク株が強い動きを見せており、これが足元の相場の踏ん張りにつながっているようだ。 加えて国内では、注目されていた次期日本銀行総裁候補の植田和男氏への所信聴取の内容も相場のサポート要因となっている。本日午前に衆議院で行われた所信聴取において、植田氏は現在行っている金融政策は適切であり、金融緩和を継続することで企業が賃上げできる環境を整えるべきとの見解を示した。また、政府・日銀が掲げる2%の物価目標については「持続的・安定的に達成するには時間がかかる」とも述べており、総じて安心感のある内容となった。 一方、気掛かりな材料もある。米10-12月の実質国内総生産(GDP)改定値は前期比年率+2.7%と、速報値の+2.9%から下方修正された。特に注目なのは、米GDPの約7割を占める個人消費が+1.4%と速報値の+2.1%から大きく下方修正された点だ。 これまで、米国経済は、マクロの景況感悪化を背景に企業のセンチメントが急速に悪化し、法人向けサービスが落ち込む一方、力強い個人消費を背景に個人向けサービスは需要の堅調さを保ってきた。これが米経済のソフトランディング(軟着陸)やノーランディング(景気減速を伴うことなくインフレも鎮静化)への期待につながっていた。しかし、今回の米GDP改定値の結果を受けて、やや雲行きが怪しくなってきたように見える。今週発表された米小売企業の決算が総じて冴えなかったことも思い出される。 他方、前日に発表された米新規失業保険申請件数は予想外に減少し、3週間ぶりの低水準となった。これにより、引き続きFRBの早期利上げ停止やその先にある利下げ転換は到底期待できる状況にないといえる。法人向け需要が落ち込み、頼みの個人向け需要にも不透明感が強まってきた中、一方で雇用は堅調さを保ち、金融政策による下支えには期待ができない。米経済の先行きは非常に難しくなってきたといえそうだ。 また、米長期金利の上昇が一服し、次期日銀総裁候補の植田氏の所信聴取も無難に通過した割には、本日の東京市場でのグロース株は、半導体を中心とした電子部品関連を除けば強くない。実際、東証グロース市場指数やマザーズ指数は軟調な展開となっている。祝日前に75日線や200日線を下放れた日経平均が再び同水準に戻ってきたことは、海外短期筋の売り転換を防ぐ意味でポジティブに捉えられるものの、足元の個人投資家の物色意欲の低下はやや気掛かりだ。今晩発表される米1月個人消費支出(PCE)コアデフレーターを前に様子見ムードが強まっているだけであればよいが、25日、75日、100日線など主要移動平均線を割り込んできているマザーズ指数の動きに注意したい。 こうした中、3月下旬までは季節性要因なども踏まえ、引き続きバリュー(割安)株や高配当利回り株などの押し目買いに投資を限定するのがよさそうだ。ほか、継続的な需要拡大が見込まれるインバウンド・リオープン関連などに安心感がありそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/24 12:17
後場の投資戦略
日米ともにテクニカル悪化が気掛かり
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27114.17;-358.93TOPIX;1974.68;-22.78[後場の投資戦略] 前日の米国市場では金利上昇を警戒し、リスク資産に売りが広がった。米10年債利回りは3.95%(前営業日比+0.13pt)と大きく上昇。昨年末12月28日に付けた3.89%を明確に上回り、上向きに転じた25日移動平均線は75日線を下から上抜けるタイミングを窺う展開となっている。米長期金利は再び上昇トレンド入りした可能性が高く、4%超えは時間の問題か。昨年10月下旬をピークに低下基調が続いていた米国債の先行き変動リスクを示す指数、MOVE指数も25日線に続き、75日線をも上回った。今後も金利動向を注視する必要があろう。 株式市場もさすがにリスク回避のムードが強まっている。ダウ平均は前日の大幅下落により、25日線に続いて75日線を大きく下回った。同線を下回ったのは昨年10月下旬以来だ。75日線も下向きへの転換が近づいており、25日線とのデッドクロス形成が視野に入っている。ナスダック総合指数も25日線を下回った。まだ75日線、200日線よりは上方を維持しているが、200日線割れが迫っており、同線を下回ると投資家心理は明確に弱気へと転換しそうだ。 27500円水準で膠着感を強めていた日経平均も本日は大きく下落し、一気に27000円を視野に入れる展開となっている。これまでサポートラインとして働いてきた75日線、200日線も下回ってきていて、需給悪化が警戒される。 日本取引所グループが公表する投資部門別売買動向によると、これまで、年金基金の動きを反映する信託銀行と個人投資家が売り越しを見せる一方、海外投資家の先物を中心とした買い越しが日本株の下値を支えてきた。しかし、日経平均の27500円割れ、75日線及び200日線割れにより、商品投資顧問(CTA)などのトレンドフォロー型ファンドが売りに転じてくる可能性が高く、今後の展開には注意が必要だろう。 前日の米国市場で長期金利の大幅上昇を引き起こした原因は、S&Pグローバルが発表した米2月サービス業購買担当者景気指数(PMI)が50.5と市場予想(47.3)を大幅に上回り、再び景況感の拡大を示唆する50を超えたことだ。米国では強い雇用統計や物価指標に続き、景気指標でも強い結果が目立ちはじめており、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが想定以上に長期化する可能性が懸念されている。フェデラルファンド(FF)金利先物市場の予想をみると、一時は早ければ3月で打ち止め、遅くとも5月が最後と思われていたFRBの利上げは、いまや6月、7月にも利上げが続く可能性を織り込みはじめている。 ただ、金融引き締めの効果は一般に1年以上のタイムラグをもって顕在化することを踏まえれば、足元の強い経済指標が突如悪化する可能性はある。また、強い指標が続いているとはいえ、すでに政策金利が4.50-4.75%にあることや一度縮小した利上げ幅を再び引き上げる程の材料が揃っているとは思えないため、さすがに今後も利上げ幅は0.25ptで据え置かれると考えている。 とはいえ、一時は大よその終着点が見えていたターミナルレート(政策金利の最終到達点)の議論に再び不透明感が台頭してきた今、株式に強気になるには難しいだろう。今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)を通じて利上げスケジュールが改めて明確化されるまでは相場の神経質な展開が続きそうだ。 こうした中、今晩はFOMC議事録(1月31日-2月1日開催分)が公表される。前回のFOMC後の会見では、パウエル議長が「ディスインフレ」発言を繰り返すなど、FRBの早期利上げ停止期待を高めた経緯があり、議事録の内容はタカ派である可能性は低いか。一方、その後の強い米経済指標を受けて、この議事録はすでに過去のものとしてほとんど重要視されないため、むしろ、想定よりもタカ派である場合のリスクに注意したい。 また、今晩は米半導体のエヌビディアの決算が予定されている。半導体銘柄の中でも特に成長性が高く影響力の大きいエヌビディアの決算であく抜け感が強まれば、指数寄与度の大きい関連銘柄の上昇につながりそうで、相場の下支え役として期待したい。ただ、東京エレクトロン<8035>の株価は52週線に頭を抑えられて失速した後、再び200日線も割り込んできている。エヌビディアの決算と株価反応が期待と反対にネガティブなものとなれば、足元でテクニカルが悪化してきている日米の株式市場が本格的な調整局面入りとなる恐れがあり、注意したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/22 12:19
後場の投資戦略
今晩の米小売り決算に注目、円安の下支え余地は小さいか
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27519.50;-12.44TOPIX;2001.13;+1.42[後場の投資戦略] 前日の米国市場はワシントン誕生記念日のため休場。手掛かり材料難の中、週末には次期日本銀行総裁候補である植田和男氏の所信聴取や米1月個人消費支出(PCE)コアデフレーターが予定されていることもあり、本日も相場は膠着感の強い展開となっている。 一方、今晩の米国市場では小売り企業のウォルマートやホーム・デポの決算が予定されており、こちらも注目される。根強いインフレの要因にもなっている米個人消費の堅調さを背景に、ウォルマートはしっかりとした決算が予想される。節約志向の高まりで購買対象が生活必需品へ集中するなか、粗利益率の停滞は続きそうだが、在庫調整の進展などが確認されれば好感されそうだ。 他方、格付け機関のムーディーズによる調査が注目されている。同社によると、クレジットスコアが低い債務者に提供された自動車ローンの30日以上延滞率が2010年以来の水準に上昇しているという。急速な金融引き締めにより、信用力が低い層への消費者信用に悪影響が及び始めたことを表していると、警告シグナルと捉える声も少なくない。 先日の市場予想を大幅に上回った米1月小売売上高の結果を、季節性など複数の要因が重なった結果として捉える向きも多い中、今晩の米小売り決算で消費動向の堅調さが本物かどうかを見極めたい。仮に悪い内容となれば、深刻な景気後退は避けられるとの年始からの楽観論は修正を迫られそうだ。また、反対に強い結果となると、インフレ懸念はさらに強まり、週末の米PCEコアデフレーターへの警戒感が上値抑制要因として働くことが予想される。 ほか、日経平均や東証株価指数(TOPIX)の下値を支えている為替の円安については、週末のイベントを控える中、1ドル=135円の節目を手前に一服となっている。米商品先物取引委員会(CFTC)が公表している投機筋の円ポジションをみても、直近のデータではネットでほぼ中立水準近くまで円の買い戻しが進んでおり、海外勢による金融緩和の修正および円高への思惑は根強いと思われる。米国のインフレ懸念の根強さ、利上げ長期化観測の高まりからドルの底堅さが見られているが、現水準からの一段の円安進行余地は大きくないと考える。 外部環境の不透明感がくすぶる中、当面は3月期末の配当権利取りを狙ったバリュー(割安)株、高配当利回り株の相対優位性が続きそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/21 12:15
後場の投資戦略
手掛かり材料難のなかこう着感の強い展開
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27507.33;-5.80TOPIX;1996.78;+4.85[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、米ハイテク株安の流れもあり若干売りが先行する形から始まると、その後はやや下げ幅を広げた。ただ、売り一巡後は下げ幅を縮小する動きが優勢でプラス圏に浮上、その後は前日終値付近でのもみ合い展開となった。なお、20日の米国市場が休場になるため、海外勢のフローも限られるとみられる。 新興市場もこう着感の強い展開となった。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、即座に切り返して下げ幅を縮小した。その後、プラス圏に浮上する場面もあったものの、日経平均と同様にこう着感の強い展開が続いている。 東証グロース市場の売買代金は前週末にかけて2000億円前後の推移が続いており、個人投資家の物色意欲は旺盛な様子。決算発表が一巡して手掛かり材料難のなか、一部の新興株には引き続き物色が向かっている。前引け時点での東証マザーズ指数は0.13%安、東証グロース市場Core指数は0.24%安。 今週22日には、1月31日-2月1日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表される。3月に控える次回会合で利上げ幅の再拡大に支持が広がるかどうか、議事要旨で手掛かりが得られる可能性がある。また、24日には、米金融当局がインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数などが発表される。 ブルームバーグがエコノミストを対象に実施した調査の中央値では、1月PCE価格指数は全体で前月比0.5%上昇と2022年半ば以来の高い伸びが見込まれ、変動の大きい食料品とエネルギーを除くコア指数は同0.4%上昇と予想されているようだ。 さて、市場予想を大幅に上回った米1月雇用統計に続き、米1月CPIとPPIも市場予想からの上振れが目立ち、インフレ鈍化の一服が強く意識されつつある。1月の米中古車平均価格が上昇に転じており、米国のインフレ率の前倒し指標とされる銅価格も上昇傾向にある。 これらの影響が3月14日に発表される2月CPIで反映され、想定以上のCPI加速が確認される可能性があるなか、今後も警戒感がくすぶり株価の上値を抑制しそうだ。また、連銀総裁などのタカ派発言を受けて米10年債利回りが再び4%台乗せに迫っており、期待インフレ率を差し引いた米10年物実質金利の上昇も続いている。 19日のブルームバーグの記事では、ゴールドマン・サックス・グループのポートフォリオ戦略向け資産配分責任者であるクリスチャン・ミュラーグリスマン氏が「市場は金融当局がより長期にわたって景気抑制的な政策を推進する一方で経済成長が持続するノーランディングのシナリオを想定しているが、当社は全くそう思わない。 少し楽観的過ぎる」と述べている。リスク資産について、プットオプション購入や現金をオーバーウエートにするなどのディフェンシブ姿勢を勧めているようで、直近の株式市場の底堅さに警戒するよう指摘している。 やはり、決算発表が一巡した2月末以降は、警戒感を忘れずに引き続き下落シナリオも想定しておきたいところ。さて、後場の日経平均は、もみ合い展開が続くか。本日の米国市場はプレジデントデーの祝日で休場。手がかり材料に欠ける中、個別材料株中心の物色が継続しそうだ。(山本泰三)
<AK>
2023/02/20 12:23
後場の投資戦略
インフレ・利上げ長期化への警戒感さらに高まる
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27537.36;-159.08TOPIX;1992.20;-8.89[後場の投資戦略] 前日の米株式市場はインフレ・利上げの長期化に対する懸念が強まり、金利が上昇する中、久々に主要株価3指数そろって大きく下落した。前日に2000ptを超えたばかりの東証株価指数(TOPIX)も再び2000pt割れに押し戻されており、株式市場の上値の重さが意識される。 前日に発表された米1月卸売物価指数(PPI)は、前年比+6.0%と12月(+6.5%)から鈍化したものの、市場予想(+5.4%)を大きく上回った。モメンタムを示す前月比も+0.7%と予想(+0.4%)を大幅に上振れ、12月(-0.2%)から加速に転じた。食品・エネルギーを除くコア指数でも前年比+5.4%と12月(+5.8%)から鈍化したが、予想(+4.9%)は大きく超過。前月比も+0.5%と予想(+0.3%)および12月(+0.3%)を上回った。 また、本年の米連邦公開市場委員会(FOMC)投票権を持たないが、米クリーブランド連銀のメスター総裁が前回会合で0.5ptの利上げを支持していたことを明らかにしたほか、米セントルイス連銀・ブラード総裁は3月会合でも0.5ptの利上げは選択肢にあると言及した。米1月雇用統計の発表以降、強まっていた利上げ長期化懸念は、今週の米1月消費者物価指数(CPI)と米1月PPI、そして連銀総裁のタカ派発言を受け、一段と強まる形となった。また、CPIより先行性の高いPPIの大幅な上振れは特に印象が良くない。決算発表も一巡し、市場エネルギーが後退する中、年始からの株高を創出してきたインフレ鈍化傾向の一服は今後、市場の重しとして長く働きそうだ。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/17 12:13
後場の投資戦略
相場の力強さ継続もPERと実質金利の乖離が気がかり
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27723.60;+221.74TOPIX;2002.22;+14.48[後場の投資戦略] 前日の米国市場では経済指標がいくつか発表されたが、最も注目されたのは米1月小売売上高だろう。前回12月分までは、2カ月連続で前月比マイナスと減速し、市場予想も下回っていたことで、昨年末にかけては景気後退懸念が強まる経緯があった。しかし、今回の1月分は前月比+3.0%と12月(-1.1%)から大きく回復し、市場予想(+2.0%)も大幅に上回った。暖冬により外出が増加したという要因も指摘されているが、項目別のデパート+17.5%、外食+7.2%、家具+4.4%などの数値をみる限り、一過性要因を除いても非常に強い結果だったと言えそうだ。しかし、経済のソフトランディング(軟着陸)期待が高まる一方、これがポジティブ一辺倒かというと、話はそう簡単なものではない。 今年は年明けから、中国の「ゼロコロナ」政策の緩和、欧州での天然ガス価格の下落などを背景に、すでに景気後退懸念は大きく緩和していた。一方で、2月に入ってから発表された米1月雇用統計が市場予想を大きく上振れたことを背景に、市場が警戒する対象は再び景気からインフレへと移っていた。こうした中、強い労働市場に加えて、需要の旺盛さが確認された今回の米小売売上高の結果は、足元のインフレ懸念を強める形で、むしろネガティブに捉えられる側面もある。前日の米株式市場は売り先行で始まった後にプラス圏に回復し、底堅さを見せたが、今後の展開には注意が必要と考える。 米10年債利回りは15日、3.80%まで上昇、1月18日に付けた3.37%から大きく水準訂正してきた。期待インフレ率を差し引いた米10年物実質金利も1月25日の1.16%から前日には1.46%まで上昇してきた。一方、S&P500種株価指数の予想株価収益率(PER)は昨年末にかけて一時17.3倍程度にまで低下していたが、年始からは大きく反転し、2月2日には約19.7倍にまで上昇した。しかし、足元で実質金利が上昇する中でも、予想PERの調整は限定的で、S&P500種株価指数の予想PERは現在18.8倍程度に位置する。 このように、米債券市場では一足先に楽観ムードの修正が進んでいる一方で、米株式市場ではまだ修正がほとんど進んでいない状態といえる。むろん、米10年債利回りは上昇しているとはいえ、昨年10月に付けた4.3%と比較すればまだ距離があり、過度に警戒する必要はないのかもしれない。しかし、今後発表される米国の雇用や物価に関する指標が改めて強い結果となれば、現在の米実質金利と米PERのギャップが埋められる形で、株価の調整が起きる可能性はある。米主要株価3指数は揃って上向きの25日移動平均線より上方に位置し、金利上昇が続く中でも底堅さを見せ、上昇トレンドを維持しているが、ファンダメンタルズの観点からは目先は調整余地があることを頭の片隅に置いておきたい。 こうした中、今晩は米1月卸売物価指数(PPI)が発表される。一昨日に発表された米1月消費者物価指数(CPI)の結果を受けてインフレ鈍化の一服が意識されつつある中、CPIに対して先行性の高いPPIの結果が強いものとなれば、楽観ムードの修正が起きる可能性は十分にあるだろう。本日の東京市場は為替の円安進行も追い風に強含みで推移しているが、今晩の米国市場の動向を見極めたいとの思惑から、日経平均は引き続き28000円手前での上値の重い展開が予想される。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/16 12:16
後場の投資戦略
概ね予想通りもあく抜け感高まらない米CPI
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27491.51;-111.26TOPIX;1988.30;-4.79[後場の投資戦略] 前日発表された米1月消費者物価指数(CPI)は総合で前年比+6.4%(12月:+6.5%)と小幅に鈍化も、予想(+6.2%)を上回った。食品・エネルギーを除いたコア指数も前年比+5.6%(前月:+5.7%)と僅かに鈍化も、予想(+5.5%)を上振れた。前月比では総合で+0.5%と予想(+0.5%)に一致も12月(+0.1%)からは加速。コア指数も前月比+0.4%と予想(+0.4%)一致にとどまったが、12月(+0.4%)と同様に加速が続き、モメンタムの鈍化は確認されなかった。 家賃などから構成され、CPIの約3分の1と最大の割合を占める住居費が前月比+0.7%(12月:+0.8%)となり、引き続きCPIの加速に寄与した。ただ、住居費より1年程先行する傾向のある米国の住宅価格指数は昨年4月頃にピークを打っているため、住居費の鈍化も時間の問題だろう。 一方、これまでCPI総合の鈍化に寄与してきたエネルギー価格が前月比+2.0%(12月:-3.1%)と3カ月ぶりに加速に転換。食料品も前月比+0.5%(12月:+0.4%)とモメンタムに鈍化の兆しが見られず、インフレ懸念がくすぶる内容となった。サービス分野のインフレも、遅行性のある住居費が鈍化すれば問題解決かというと、そう簡単な話でもなさそうだ。家賃を除いたサービス価格は前月比+0.6%(12月:+0.6%)、また、大幅な減速が続いている医療ケアサービスを除いた場合のサービス価格も前月比+0.8%(12月:+0.7%)と、それぞれ鈍化の兆しが見られていない。 また、警戒されていた中古車価格は今回の1月CPIではむしろ減速となったわけだが、それにもかかわらず指標が全体的に上振れ傾向となったことはネガティブに捉えられる。このため、2月分以降への警戒感はくすぶることになろう。 次回の3月21-22日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)までの間に、米雇用統計と米CPIをそれぞれもう一回分確認することができるため、それまでは神経質な地合いが続くと想定しておいた方がよさそうだ。 他方、今週もまだ重要な予定が控えている。今晩の米国市場では、米1月の小売売上高と鉱工業生産が発表される。ともに前回の12月分は前月比でマイナス、市場予想を下振れたことで昨年末にかけては景気後退懸念が強まる経緯があった。今回はどちらも前月比でプラスへの回帰が予想されているが、年始から過度な景気後退懸念は既に和らいできているため、今回の指標のプラス回帰が景気動向に関して投資家心理に与える影響は小さいだろう。むしろ、景気の底堅さが意識されれば、利上げ長期化の思惑を強める可能性があるため、注意しておきたい。 さらに、16日にはCPIより先行性の高い米卸売物価指数(PPI)の1月分が発表される。PPIの結果を受けて改めてインフレ鈍化一服が意識される展開も想定しておいた方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/15 12:20
後場の投資戦略
今晩CPI下振れでもラリー再開への過度な期待は禁物か
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27579.61;+152.29TOPIX;1989.33;+11.66[後場の投資戦略] 前日の米株式市場は大きく上昇。ニューヨーク連銀による1月消費者調査の結果によると、家計収入の伸び率予想は中央値で1.3ポイント低下して3.3%となった。月間ベースの下げ幅としては、約10年前の統計開始以降で最大という。これが米1月雇用統計以降に高まっていたインフレ懸念を緩和させ、米長期金利の上昇も一服、投資家のセンチメント回復に寄与したようだ。 一方、同調査における1年先の期待インフレ率は5%で、前月から変わらず高止まり。また、先週末に発表された米2月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)では、1年先の期待インフレ率は4.2%へと(前月:3.9%)むしろ上昇していた。今晩に発表される米1月消費者物価指数(CPI)も、ガソリン価格や中古車価格の反発傾向を背景に、前月比+0.5%と(前月:-0.1%、修正値:+0.1%)と加速する予想。また、1月分から米労働省労働統計局(BLS)はCPI内訳項目のウェイト変更を行うため、これがコア指数を0.03ポイント程押し上げる可能性があると指摘されている。米1月CPIはコア指数で前月比+0.4%(前月:+0.3%、修正値:+0.4%)と予想されている。 今晩の米CPI後の短期的な市場反応は正直読めない。米雇用統計以降、米連邦準備制度理事会(FRB)高官からタカ派発言が相次いだことで、かなり事前の警戒感は高まっているため、余程大きく上振れない限りはネガティブな反応はさほど大きくならない可能性も期待される。しかし、米雇用統計以降に警戒感を高めているのは主に債券市場の方で、株式市場の方はあまり事前に悪材料を織り込めていない印象も否めない。 フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)は米雇用統計以降、ようやくFRBのドットチャート(政策金利見通し)が示す中央値にまで引き上げられ、年内に見込んでいた利下げ期待も大分後退してきた。米10年債利回りも2日の3.39%から先週末10日には3.74%まで大きく上昇した。 一方、株式市場はあまり調整していない。日米ともに上昇は一服しているものの、米株式市場にいたっては、主要株価3指数そろって上向きの25日移動平均線に沿った上昇トレンドが継続する形となっている。S&P500種株価指数の予想株価収益率(PER)も19倍程度と、過去の推移と比較して高い水準にとどまっている。 10-12月期決算の発表が一巡したが、法人向けサービスを中心に米企業の景況感は急速に悪化している。FRBの年内の利下げ転換期待が大きく後退してきている中、今後も法人向けサービスの需要は低迷、もしくは一段の落ち込みが予想される。逼迫した労働市場などを背景に個人向けサービスは堅調でも、企業業績が10-12月期をボトムに底入れしたと判断するのは時期尚早だと思われる。 日本企業の決算も、サービス業を中心に内需系企業の業績は堅調も、製造業はハイテクや素材・化学などを中心にかなり厳しい内容のものが多かった。半導体など電子部品関連については、年後半からの市況回復を想定する経営者の声も聞かれ、今回の10-12月期決算をボトムと捉える投資家も多い様子だ。しかし、FRBの利上げ停止と利下げ転換のシナリオが1月時点から大きく後ろ倒しされている中、急速に冷え込んだ最終製品市場の需要が本当にあと半年で回復に転じるかにはやや疑問符が付く。仮に水準としては今がボトムとしても、当面いまのボトム水準が長期化して、回復に転じるのはもっと先ということも考えられる。 こうした中、株価は目先、弱含み、良くても、もみ合いレンジ相場にとどまるとみておきたい。今晩の米CPIが仮に予想並みにとどまったとしても、年始からの株価ラリーが再開するとまでは過度に期待しない方がよいだろう。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/14 12:21
後場の投資戦略
14日の米CPI発表控えて売り優勢の展開
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27354.81;-316.17TOPIX;1976.54;-10.42[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、シカゴ先物にサヤ寄せする格好からやや売りが先行。日銀の金融政策修正への観測もくすぶるなか、米国市場はまちまちの状況である他、決算発表が一巡するまではポジションを大きく傾けてくる流れにはなりづらい。短期筋の売買に振らされやすい需給状況になりそうとの指摘も一部市場関係者から聞かれている。 新興市場も軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタートした後、日経平均と同様に朝方から下げ幅を広げてマイナス圏で軟調に推移。米ハイテク株安を嫌気するなか、米長期金利が3.74%まで上昇しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株の重しとなっている。前引け時点での東証マザーズ指数は2.16%安、東証グロース市場Core指数は2.40%安。 さて、14日に発表される米消費者物価指数(CPI)の結果発表に注目が集まっている。1月の総合CPIは、前年同月比で伸びがさらに鈍化する見通しだが前月比ベースでは3カ月ぶりに加速する見込み。具体的に、前月比では+0.5%(12月:+0.1%)、食品・エネルギーを除くコアCPIでは同+0.4%(12月:+0.4%)と加速が予想されている。 市場関係者は前月比での総合CPI加速を予想しているが、実際の伸びが予想よりも大きくなった場合は雇用統計に次ぐサプライズとなり、株式市場へのネガティブ影響は避けられない。ブルームバーグでは、ロックフェラー・グローバル・ファミリー・オフィスのジミー・チャン最高投資責任者(CIO)が「市場の期待ほど急速にインフレが低下することはないという短期的なリスクがある」と話したと報じられている。 仮に、1月CPIが予想並みにとどまったとしても、株式市場全体が上昇する可能性も想定しにくい。週末の「国内株式市場見通し」に詳細が記載されているが、1月の米中古車平均価格が上昇に転じており、米国のインフレ率の前倒し指標とされる銅価格も上昇傾向にある。これらの影響が今回ではなく、3月14日に発表される2月CPIで反映され、想定以上のCPI加速が確認される可能性もあるため、2月以降の警戒感がくすぶり株価の上値を抑制しそうだ。 パウエル議長は先週7日に「力強い労働市場やインフレ加速といった情報が確認された場合は、市場に織り込まれている以上に金利を引き上げ、さらなる措置を講じる必要が生じる可能性は十分にある」と述べていた。FRB高官もタカ派姿勢を示しており、インフレを目標に戻すために長期的な闘いに備えているという。引き続き、今回の1月CPI以降も、雇用統計及び各種インフレ指標には注目し続けなければならない。 月曜日の当欄を担当する筆者は昨年から、今年に大きく下落するシナリオを念頭に相場を見守ってきた。1月後半から再度市場の想定していないインフレ指標が散見し、利上げ長期化が意識され始め、地政学リスクや米中問題など様々なリスクが影響してくると、下落シナリオも想定しておきたいところ。筆者は2020年のコロナショック前の水準であるナスダック100指数で9600pt付近を底値のターゲットとして相場を見守っている。さて、後場の日経平均は、軟調な展開が続くか。14日以降のインフレ指標の発表が警戒されるなか、個別材料株中心の物色が継続しそうだ。(山本泰三)
<AK>
2023/02/13 12:22
後場の投資戦略
一部好決算が支えも米CPIに向けた警戒感が徐々に台頭
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27722.92;+138.57TOPIX;1992.13;+7.13[後場の投資戦略] 強い米雇用統計が発表されて以降、FRB高官からのタカ派発言が連日で続いており、前日はリッチモンド連銀のバーキン総裁も継続的な利上げを主張。フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)は5.15%と前の日から0.02ptほど上昇した。依然として年末にかけての1回の利下げ予想は残っているものの、12月の政策金利水準予想も4.86%へと徐々に切り上がってきた。 前日はブルームバーグ通信が、オプション市場で政策金利が6%に到達することを見込んだ大口ポジションが構築されていることを報じていた。さらに、その後、ブルームバーグ通信は、調査会社のマクロ・ハイブのストラテジストがインフレを完全に制御するには政策金利を約8%に引き上げなくてはならないと主張していることを伝えた。同報道によると、ラッカー前リッチモンド連銀総裁とプロッサー前フィラデルフィア連銀総裁も最近、インフレが現状のままと仮定すると年末までに6.5から8%の金利水準が推奨されることを主張していたという。 先週までターミナルレートは5%未満、年後半には2回の利下げまでを頑なに織り込んでいた市場の予想は大分FRBの主張に寄り始め、両者の乖離は縮小してきた。しかし、来週は14日に米1月消費者物価指数(CPI)が発表される予定で、これが要注意なイベントとなる。米CPIは食品・エネルギーを除くコア指数で前月比+0.3%が予想されているが、米クリーブランド連銀が公表しているCPIナウキャストでは同+0.46%(9日時点)と予想されている。仮に上振れとなると、これまでのインフレ鈍化を好感した動きも一服し、再びインフレ高止まり・利上げ長期化への懸念が高まりかねない。 前日は米2年債利回りが昨年11月以来の4.5%超えを一時見せたが、14日の米CPIが上振れれば、足元で3.67%にまで戻している米10年債利回りが再び4%を意識した上昇基調を強める可能性もある。アナリストの業績予想の下方修正が進む中での年始からの力強い株価上昇の要因はほとんど株価収益率(PER)の上昇で説明がつく。米CPI後に米10年債利回りが上昇基調を強め、実質金利も上昇となれば、年始から上昇した株価バリュエーションは再び調整を余儀なくされるだろう。 力強い動きが続いていた米株式市場も、S&P500種株価指数は前日にかけて2日連続の陰線を形成し、調整局面入りを示唆している。一方、米個人投資家協会(AAII)の週次調査によると、ブルベア・スプレッドはプラス12.5と、前週のマイナス4.7から上昇し、2022年4月以降で初めて強気に転じたという。ただ、こうしたセンチメント指標は逆バリの好機を示唆しているようにも捉えられ、この点からも目先は注意が必要な局面になってきたといえる。短期的には調整相場入りに警戒したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/10 12:19
後場の投資戦略
FRBハト派化期待は徐々に剥落
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27479.86;-126.60TOPIX;1980.07;-3.90[後場の投資戦略] 一昨日の米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁に続き、前日もFRB高官からタカ派発言が相次いだ。FRBのウォラー理事は「インフレとの戦いは長引きそうで、政策金利は現在の一部の予想よりも一層高い水準に一段と長くとどまる可能性がある」との見解を示した。また、クックFRB理事も「利上げはまだ終わっていない。政策金利を十分に景気抑制的な水準に維持する必要がある」と発言。 特に印象的だったのは米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の発言で、同氏は「インフレを確実に2%に回帰させるためには、十分に景気抑制的な政策スタンスを数年間維持する必要があるだろう」とコメント。その上で、現在の政策金利の誘導目標レンジ4.50-4.75%については、「かろうじて景気抑制的な」領域に入っているに過ぎないとの考えを示した。これは、あと1-2回の利上げで打ち止めになると考えている市場に対して、暗にその予想を超える利上げ継続があり得ることを示唆していると捉えられる。 一方、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)は5.13%と、複数の高官のタカ派発言前の時点からほぼ変わっていない。また、今年末の政策金利水準の予想も4.80%とこちらにも変化はない。先週まで0.25ポイントの利下げが2回あると予想していた状況に比べれば、現在の利下げ期待は1回程度にとどまっており、過度な期待は後退してきているもよう。しかし、いまだに年内利下げ期待は残っている。 米株式市場も前日は反落となったものの、年始からの上昇基調を踏まえれば、小幅な調整に過ぎない。しかし、今後、年内の残りの利上げ回数が3回以上になることなどを本気で織り込みにいく展開になれば、株式市場には調整余地が残されているといえる。来週14日に発表される米1月消費者物価指数(CPI)でインフレ鈍化の一服などが示唆されると、そうした動きが強まる恐れがあろう。 S&P500種株価指数の予想株価収益率(PER)も19.4倍と、昨年4月以来の水準にまで上昇してきており、業績予想が切り下がってきている中、これ以上の株価バリュエーションの上昇を通じた株高には持続性に疑問符が付こう。目先は、調整局面入りになる可能性に留意しておきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/09 12:18
後場の投資戦略
パウエルリスク消化、市場のシナリオにはやや矛盾
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27543.39;-142.08TOPIX;1982.68;-0.72[後場の投資戦略] 前日の米株式市場はパウエル議長のインタビュー発言を無難に消化し、ハイテク株を中心に大幅高。一方、本日の東京市場では、指数寄与度の大きい任天堂やソフトバンクGの決算を嫌気した株価急落のほか、為替の円高進行が重しとなり、日経平均はマイナス圏で推移。東証株価指数(TOPIX)も小幅に下落している。ただ、米SOX指数の大幅反発や米スカイワークス・ソリューションズの好決算などを背景に、半導体関連株の上昇が指数を支えている。一方、米ハイテク株高を好感し、マザーズ先物は上昇しているものの、ナスダック指数の上昇率に比べるとやや物足りない印象がある。 前日のワシントン・エコノミッククラブでのインタビューで、パウエルFRB議長は連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見と同様にディスインフレに言及。大きくタカ派には傾かなかったことで目先の安心感を誘った。しかし、今後も強い雇用データが続けば、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)が、最新のドットチャート(政策金利見通し)が示す中央値5.125%を上回る可能性にも言及した。また、米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、大幅に上振れた米雇用統計を受けて、利上げの影響がまだ労働市場にほとんど影響を与えていないことに驚きを示すと同時に、ターミナルレートは引き続き5.4%まで引き上げるべきとの見解を示した。 こうした背景もあり、前日の米国市場ではパウエル議長のディスインフレ発言の継続を好感し、ハイテク株を中心に大きく上昇したものの、債券市場では金利の上昇が続き、米10年債利回りは3.67%(前日比+0.03pt)と3日続伸した。フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込むターミナルレートも、6月前後をピークに5.14%と、前日の5.11%から上昇した。一方、12月時点の政策金利予想は4.80%となっており、こちらも水準はかなり切り上がってきたが、引き続き年後半に利下げを予想する点は変わっていない。 しかし、6日、イエレン米財務長官も「月間50万人増の雇用があり、失業率が約50年ぶりの低水準となっているときに、景気後退は起こらない」と語っている。実際、これまでの米企業決算を振り返ってみても、企業のセンチメントの悪化により、法人向けビジネスの落ち込みは著しいが、底堅い個人消費を背景に個人向けビジネスでは好調の維持が目立っている。米小売売上高は直近2カ月連続で前月比マイナスと減速しており、今後も個人消費の好調が続くかは注視する必要があるが、仮に需給の引き締まった労働市場の長期化を背景に、個人消費の底堅さが続くのであれば、確かに景気後退は軽度ではあっても、深刻な形ではやってこないのかもしれない。 ただ、それは今の株式市場が恐れている深刻な企業業績の悪化を通じた株価下落が回避できるとの期待を高める一方、FRBの年内の利下げの可能性は大きく低下させることになる。今の市場は企業業績のここからの悪化はさほど酷くならないのではないかという希望を持ちつつ、年末にかけてのFRBの利下げも同時に期待している。しかし、景気後退が市場に混乱をもたらす程に深刻なものにならない限り、FRBの年内の利下げは今のところ考えにくい。現状の株式市場のシナリオにはやや矛盾が生じており、この点はどこかで修正が必要なのではないかと考える。 一方、米国の主要株価指数が揃って200日移動平均線を大きく上抜け、明確なトレンド転換を見せ、その後も堅調な推移を見せている状況をみれば、弱気一辺倒でもいられない。足元で米長期金利が反発傾向にあるとはいえ、昨年ほどの金利の急上昇がもはや想定しにくい中、いまの株式市場を揺さぶる景気や為替との連動性が低い、内需系グロース株などは相対的な投資妙味が高いと考える。マネーフォワード<3994>やSansan<4443>のほか、Appier Group<4180>などの高成長企業の株価は上値追い傾向にある。こうした市場の動向に振らされず高成長を続けている銘柄に注目していきたい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/08 12:20
後場の投資戦略
業績悪化と円高リスクが懸念材料
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27754.36;+60.71TOPIX;1988.04;+8.82[後場の投資戦略] 米国の雇用統計とISM非製造業景気指数の大幅な上振れによって、先週高まった米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利上げ停止期待は後退しており、2日に3.39%まで低下した米10年債利回りは6日、3.64%まで大きく上昇してきた。先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)直後まで4.9%程度にとどまっていた金利先物市場が織り込むターミナルレート(政策金利の最終到達点)も、6月頃のピークを目途に5.11%程度まで切り上がってきた。 こうした中、今晩はワシントン・エコノミッククラブにおいてパウエルFRB議長のインタビューが予定されている。大幅に上振れた雇用統計後の初めての発言とあって注目度は高い。先週の記者会見でパウエル議長は、(1)「ディスインフレ」に度々言及したことに加え、(2)年始からの金利低下・株高をけん制せず、また、(3)年内の利下げを否定しつつも、市場の利下げ期待を明確に一蹴しなかった、(4)利上げ休止後の利上げ再開を検討していないと発言、などと全体的にハト派に転換したことを示唆したような印象を市場に与えた。 しかし、雇用統計の上振れを受けて、アトランタ連銀のボスティック総裁はターミナルレートが、最新のドットチャート(政策金利見通し)が示す5.125%を超える可能性が高まったことや、場合によっては利上げ幅を0.25ポイントから0.5ポイントへ戻す可能性などに言及した。足元でFRBの再タカ派化を警戒する動きが強まる中、今晩のパウエル議長の発言に注目だ。仮に、先週の記者会見後の内容を大きくタカ派寄りに修正してこなければ、再び利上げ長期化懸念が後退する形で、株式市場の上昇が再開しそうだが、マイナスサイドの振れに警戒しておいた方がよいだろう。 ほか、国内の金融政策動向も気掛かりだ。前日は、政府が日本銀行の次期総裁として雨宮氏に打診する方向で調整と報じられた。雨宮氏は黒田総裁とともに金融政策運営を長期にわたって担ってきたため、他の総裁候補と比較して、金融政策運営の修正が劇的に変化する可能性は低いとみられている。これを受け、前日は国債長期金利の先高期待が一時低下し、米雇用統計後の為替のドル高・円安がもう一段進んだ。株式も前日の東京市場では買いが先行した。しかし、為替の円安は進展したとはいっても、足元のドル円は1ドル=132円台前半と、米雇用統計後と比べてさほど大きな変化はない。また、株価も結局、前日は午後に大きく伸び悩んだ。 本日午前に発表された昨年12月の毎月勤労統計調査(速報)によると、現金給与総額(名目賃金)は前年同月比+4.8%と、1997年1月(同+6.6%)以来、25年11カ月ぶりの高い伸びとなり、市場予想(+2.5%)を大幅に上回った。こうした材料も後押しする形で、結局、日銀の新総裁が誰になっても、国内金融緩和の修正路線は変わらないと考えられていることが、さほどドル高・円安が進まない要因として影響しているのかもしれない。 他方、米アップルが、スマートフォン「iPhone」の最新機種「iPhone14」の上位機種「Pro」を中国で800元(約1万5500円)値引いて販売している実態が伝わっている。今回、「iPhone Pro」で見られている値下げ率7−9%は通常、低価格モデルに適用されるもののようで、また、発売後わずか数カ月での大幅値引きは異例なことであるという。需要の弱さが上位機種にも及んでいることを示唆していると報じられている。 また、モルガン・スタンレー証券はファクトセットなどのデータを基に、S&P500種株価指数を対象とした予想一株当たり利益(EPS)の前年比伸び率が、2000年以降で5度目となるマイナス圏に陥ることを指摘。過去のパターンから、今後、株価の下落が訪れることを警告している。 今後、米企業の業績落ち込みや、日銀新体制後の緩和修正路線への思惑継続により、米株の下落と円高が進めば、日本株も厳しい展開になりそうだ。ただ、目先は今晩のパウエル議長発言とその後の為替動向を見極めたい。なお、今晩はバイデン米大統領の一般教書演説も予定されている。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/07 12:19
後場の投資戦略
円安進行で輸出関連企業に物色向かう
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27801.97;+292.51TOPIX;1982.28;+12.02[後場の投資戦略] 本日の日経平均は、シカゴ先物にサヤ寄せする格好から買い先行で取引を開始。朝方は上げ幅を縮小する動きを見せたが、その後は再度買いが広がっており、高値圏でのもみ合いが継続している。足元の為替市場で円安ドル高が進んでおり、安心感を誘っているようだ。 一方、新興市場では軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は朝方からマイナス圏で推移。売り一巡後は下げ幅をやや縮小している。労働市場の逼迫と景気後退には程遠いサービス分野での強い需要が確認されたことは国内の個人投資家心理にネガティブに働いている。また、米長期金利は一時3.52%まで急上昇しており、バリュエーション面での割高感が意識されやすい新興株に重しとなっているようだ。前引け時点で東証マザーズ指数が0.35%安、東証グロース市場Core指数が0.30%安となっている。 さて、3日に発表された米1月雇用統計を簡単に振り返る。非農業部門雇用者数が前月比51万7000人と前月(+26万人)から大幅に増加し、市場予想(+19万人)を大きく上振れた。また、失業率は3.4%と市場予想(3.6%)に反し、53年ぶりの水準に低下したようだ。ただ、平均時給は前年比+4.4%と前月(+4.8%)から鈍化、前月比でも+0.3%と前月(+0.4%)から鈍化した。 また、米ISM非製造業景気指数は1月に55.2と急回復、市場予想(50.5)を大幅に上回っていた。リセッション予想とは相いれない動きで、FRBに対して利上げ継続を求める圧力が強まった格好。雇用市場の力強さも維持されたため、労働力の需要は引き続き供給を上回り、賃金の強い伸び継続とさらなるインフレ高進につながる恐れも出てきているようだ。 前週2日には、「国際通貨基金(IMF)が、世界の中央銀行は金利をより高く長期にわたり維持しなければならない可能性が高いことを金融市場に明確に示す必要があるとの見解を発表した。」とロイターが報じている。「早すぎる緩和は、経済活動が回復した後にインフレが急上昇し、各国が一段のショックによる影響を受けやすくなり、インフレ期待を抑制できないリスクをもたらす」としている。 パウエル議長はFOMC後の会見で、経済動向が予想通りであれば年内の利下げはないと改めて主張していた。また、インフレ率2%の目標を達成するために、今後も継続的な利上げが必要とし、あと複数回の利上げを行うことが適切であるとの認識を示していた。今後も雇用統計及びインフレ指標の結果には従来通り警戒して相場を見守る必要があろう。再度物価が上昇していった場合のシナリオも想定しておきたいところだ。 このような状況下で、本日6日には「政府が日本銀行の黒田東彦総裁の後任人事について雨宮正佳副総裁に就任を打診した」と日本経済新聞で報じられた。雨宮氏は、黒田総裁の政策を踏襲するとみられており、現副総裁の雨宮正佳氏が選ばれれば円安につながるとの見方が優勢だった。実際、同報道を受けて外国為替市場で円安が進行、一時は132円41銭を付けた。また、金融政策の不透明感が払しょくされたことで、本日の東京市場では自動車や商社、電機といった輸出関連企業を中心に買いが広がっている。 そのほか、民間調査による2022年12月のホテル平均客室単価は新型コロナ流行前の19年同月比で約2割高だったようだ。全国旅行支援や訪日客の急増に加えて人手不足による客室の供給減少が影響した。閑散期にあたる1月に入っても需要が落ちておらず、稼働率も2019年平均(8割強)に近い水準を維持したという。引き続き、インバウンド増加に伴って旅行関連や人流増加に伴う消費が直結する関連企業には注目しておきたい。さて、後場の日経平均は、高値圏でのもみ合い展開が続くか。米株先物の動向を横目に、東証プライム市場の銘柄中心に物色が継続するか注目しておきたい。(山本泰三)
<AK>
2023/02/06 12:20
後場の投資戦略
ハイテク株高の持続性を確かめる米雇用統計に注目
[日経平均株価・TOPIX(表)]日経平均;27518.75;+116.70TOPIX;1969.27;+4.10[後場の投資戦略] 前日の米国市場では長期金利が一段と低下、株式もハイテク株を中心に大きく上昇した。前日に開催された欧州中央銀行(ECB)の定例理事会および、英イングランド銀行(中央銀行)の金融政策委員会においては、それぞれ0.5ポイントの大幅利上げが決定され、利上げ継続の見解も示された。ただ、利上げの停止に近づいていることが示唆されたことがポジティブに捉えられたようだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)後の株高が一日で終わらず、2日連続で続いたことは投資家心理を明るくさせよう。 一方、今晩の米1月雇用統計の発表を前に様子見ムードが強いのか、ナスダック総合指数が3%超も上昇したのに対し、日経平均などの上昇率はかなり小幅で、マザーズ指数に至ってはマイナスに転じている。ただ、取引終了後に発表されたアップル、アルファベット、アマゾン・ドットコムのGAFAM決算が総じて低調に終わり、時間外取引の株価もそれぞれ3−5%程度下落していることを考慮すると、むしろ底堅いとも評価できそうか。 一方、米国市場も株価上昇一辺倒というわけでもなく、ダウ平均はFOMC結果公表の2月1日も、前日2日も冴えない動きが続いている。金利低下がハイテク株をサポートする一方で、景気後退懸念は根強いようで、景気敏感株にはまとまった買いが入っていないようだ。今晩は米供給管理協会(ISM)による1月非製造業(サービス業)景気指数が発表される。12月は49.2(修正値)へと一気に景況感縮小を意味する50割れへと急低下したが、1月は50.5へと回復が予想されている。12月の急低下は大寒波による一時的な影響と指摘されているが、1月分でも50割れとなると、景気後退懸念が一段と強まり、ダウ平均の軟調さが鮮明になりそうだ。 その場合、米長期金利の低下を背景に、ハイテク株にとっては一段の追い風になりそうだが、米雇用統計の結果次第では、ハイテク株の上昇も一服する可能性がある。1月雇用統計では非農業部門雇用者数が18万9000人の増加と、12月(22万3000人増)より伸びがやや鈍化し、失業率は3.6%と12月(3.5%)よりやや悪化する見込み。一方、最大の注目要素である平均時給は前月比では+0.3%と12月(+0.3%)から横ばいも、前年比では+4.3%と12月(+4.6%)からさらに鈍化する予想となっている。予想通りとなれば、賃金インフレのピークアウト期待がさらに高まり、ハイテク株のリバウンドが強まる可能性がある。一方、予想よりも高い伸びとなれば、年明け以降の楽観ムードが小休止する公算が大きくなるため、注目したい。 また、時間外取引で3−5%程度の下落にとどまっているアップル、アルファベット、アマゾン・ドットコムが、今晩のメインマーケットにおいてより大きく売られれば、それも市場の楽観ムードを小休止させるには十分な材料となる可能性があるため、注意したい。(仲村幸浩)
<AK>
2023/02/03 12:15