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武者陵司「ナショナリズムの覚醒が日経平均を6万5000円に押し上げる」(前編)<新春特別企画>
配信日時:2026/01/02 15:00
配信元:MINKABU
(1)中国の国力充実が西側を圧する
緊張感が高まる新年を迎えた。米中対立、AI(人工知能)革命の進展、日本株式5万円までの大上昇は、昨年新春に予想した通りであった。しかし、重大な誤謬も犯した。それは中国の強大化の軽視である。この対中過小評価で最も衝撃を受けているのは、世界秩序の盟主米国とトランプ大統領であろう。いま戦端が開かれたとして、米国に勝ち目はない。軍事力、工業力、人民を戦争に動員する統率力において、中国は米国を圧倒している。米国の勝ち筋は目先の暴発を回避し持久戦に持ち込むことにより、中国の弱体化を誘導する以外にはない。
2025年の驚くべき情勢展開は、中国の劇的台頭、強大化に起因するといっても過言ではない。ウクライナ戦争における侵略者ロシアの勝利(ウクライナからの領土略取)、専制国家中国・ロシア・北朝鮮の枢軸形成、米国の対ロ融和、米欧の軋轢、世界工業力(サプライチェーン)の中国支配、中国の対日威圧など、悪夢のような危険事態がいまの現実である。鄧小平氏の養光韜晦(爪を隠して力を蓄え時期を待つ)の時代を経て、習近平氏の中国は世界の覇権国としての野望をあからさまにしている。
中国の強大化は全く必然ではなく、米国、欧州など先進国の侮りと油断の産物であった。具体的には、(A)中国の経済成長が民主化をもたらすと期待した対中支援、(B)人権・環境・後発国に過度に配慮する理想主義、(C)西欧的価値観を人類の最高の到達目標とする優越意識など、現実離れしたイデオロギーが政策を誤らせた。過去50年間の政策は、冷戦が終わり、米国の世界唯一のスーパーパワー体制が永続するとの予見に基づくものであったが、結果は期待とは全く逆であった。
この新しい現実の下で、すべての戦略・政策が再構築されなければならない。トランプ米政権の強権的で、唐突に見える政策の多くはこの現実に対応したものである。
●世界は弱肉強食の時代、米国は世界戦略を根本転換
共産党一党独裁、全く言論の自由なく、高度のテクノロジーによって国民の一挙手一投足が監視されている中国が、米国とともに世界を統治する時代、「G2」が現実となった。ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いたデストピアがそこに存在している。いまのところ中国市民が大きな抑圧感を意識しておらず、物質的な豊かさがある「幸福な被監視」状態にあり、小説中の悲惨感はない、と言われている。しかし、香港の民主主義制圧に見られるように、経済悪化が進行すれば、より強権抑圧を強める可能性は高い。
米国は「2025NSS」(2025年国家安全保障戦略)を発表し、これまでの米国の世界戦略を完全に否定した。「米国の能力を過大評価し、グローバリズムと自由貿易に誤った破壊的賭けをした……その結果、米国の力、富、良識の礎となった国家の特質が損なわれた」と総括した。中国のロシア産原油購入、西側から禁輸されたロシアへの工業製品の一手供給などの支援がなければ、ロシアの戦争継続は不可能だっただろう。また、米国は3大核保有大国のうちの2カ国・中ロ同盟を敵に回して戦えるだけの余裕はなく、望ましくなくても、対ロ宥和以外の選択肢はない。トランプ政権が危機感と当事者意識が希薄な欧州に苛立つのも、現状認識の差に起因する。
「2025NSS」は「神から与えられた自然権と国民の福祉と利益を守り、世界大戦を回避するためには、(A)国家利益最優先、(B)強さによる平和=最強の経済・技術・軍隊をつくる、(C)リアリズムと勢力均衡(他国に介入しないが、敵対的勢力の台頭も許さない)、(D)不公平性(フリーライド、貿易不均衡、略奪的経済慣行)を許さない」などが謳われている。その具体策として、経済安全保障、貿易不均衡の是正、再工業化とサプライチェーンの取り戻し・防衛産業の再生、エネルギー優位性の確保・ネットゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ化)イデオロギーの拒否、金融優位の維持、が挙げられている。地域的には(a)米国の裏庭西半球におけるモンロー主義の再確認、(b)世界成長センターアジアへの関与と中国の台湾・太平洋地域での現状変更を容認しない、(c)欧州においては国民的アイデンティティーと自信の回復を促し、ロシアとの戦略的安定の再構築を図る――などがうたわれている。
このように叙述は多岐にわたるが、その大半を貫くものは、中国の台頭を全力で阻止するという決意と手立ての表明である。
●中国のレアアース禁輸に屈したトランプ政権
こうした中にあって、トランプ大統領の2025年10月30日の韓国慶州でのトランプ・習会談以降の対中友好姿勢への転換は奇妙であった。2026年の相互訪問、対中相互関税の大幅引き下げ、対中非難発言の抑制など融和姿勢のオンパレードである。11月7日の高市早苗首相の台湾有事発言以降の中国の対日威圧に対しても、トランプ氏は全く非難しない。中国が世界シェア90%を握るハイテク製品生産に必須の素材、レアアース(希土類)の供給停止の脅しに屈したのである。ハイテク生産が止まれば、2026年に米国はリセッションに陥り、中間選挙での勝利はおぼつかなくなる。中国の工業力の前に、トランプ氏の選択肢は、屈辱的方針転換以外になかったのである。トランプ氏は米中2国を「G2」と称し、中国が主張してきた世界を仕切る2大国というステータスを初めて認めた。
「2025NSS」で謳われた政策の実施が危ぶまれる事態である。第一次トランプ政権から続いてきた中国抑制政策は大きく変わったのだろうか。そうではないだろう。致命的と見なされる中国のサプライチェーン依存脱却を、一刻も早く遂行する決意を強めたはずである。
●先進国で戦略転換が進む、理想主義からリアリズムへ
トランプ政権の(A)国家利益最優先、(B)強さによる平和=最強の経済・技術・軍隊をつくる、(C)リアリズムと勢力均衡(他国に介入しないが、敵対的勢力の台頭も許さない)、(D)不公平性を許さない(フリーライド、貿易不均衡、略奪的経済慣行)は、欧州はじめ先進国で共有されていくだろう。
2025年2月14日のバンス副大統領によるミュンヘン安全保障会議での演説は、欧州同盟国に大きなショックを与えた。バンス副大統領は欧州連合(EU)の指導者たちを批判し、言論の自由と民主主義が後退していると指摘した。また、ウクライナにはロシアより大きな制約があるので現実的には交渉で戦争を終わらせるしかない、と対ロ宥和を説き、欧州を慌てさせた。更に衝撃的であったのは、2月28日のホワイトハウスでのトランプ大統領とゼレンスキーウクライナ大統領との会談である。ゼレンスキー氏に事実上のロシア占領を容認したうえでの停戦を強要したシーンは、全世界に報道された。米国のウクライナ支援政策の大転換により、世界は茫然自失状態に陥った。
しかし、その後の欧州の対応は米国に呼応するものとなった。リアリズムに依拠し、国防予算の大幅増額、ドイツでの憲法改正と財政均衡主義の放棄、対ロ・ウクライナを巡ってのEU内部での対立、ゼロカーボン政策の見直し、対中抑制策の強化などを余儀なくされている。トランプ政権が信条の共有を隠さない、反移民政策を掲げる右翼ポピュリスト政党の更なる台頭も考えられる。
日本の政策軸の変化も、その流れの中にある。史上初の女性首相である高市政権の誕生を機に、保守革命が進行しようとしている。これまでの自公連立はリベラル中道連合(憲法改正やスパイ防止法、防衛力増強などを後回しにしてLGBT法や選択的夫婦別姓などリベラル政策と財政健全化路線を推進)と言えるものであった。それに対して自民維新の新連合は保守連合(改憲、自主防衛、積極財政)と言え、これは保守革命とも言える基軸の大旋回である。中国の異常とも見える対日威圧も、日本の保守革命に端を発している。
(2) 地政学対決を棚上げ、米中経済パフォーマンス合戦が進む
米国は表面的には軍事・地政学対決を棚上げし、米中経済競争に精力を注ぐ。国力の維持可能性を担保するのは経済力であり、米国はその強化に賭ける。中国のアキレス腱が経済にあることは、以下に説明する通り明らかだからである。米中の経済モデルは対極にあり、短期的に東風が西風を圧するように見えても、米国の優位性は明白であろう。
●閉塞の中国の近隣窮乏化的経済モデル
世界人口の17%に過ぎない中国は、世界製造業生産の4割弱(米国の2倍強:PPPベース、武者リサーチ試算)を集積し、鉄鋼5割、造船7割、スマートフォン(スマホ)・ドローン8割、PC・TV9割の高世界シェアを獲得している。特にグリーンエネルギー関連ではソーラパネル、EV(電気自動車)、バッテリー、風力発電設備などで世界シェア6~8割と圧倒し、他国の産業基盤を破壊している。更に米国から輸出規制をかけられてきた半導体では過去数年間、世界の半導体設備投資の3~4割という高投資を続け、パワー半導体、アナログ半導体、DRAMなどのレーガシー半導体と言われる分野で著しく競争力を強め、各国への低価格供給を始めている。また、新質生産力におけるニュートリオと言われている太陽光パネル、EV、リチウムイオン電池の輸出の大幅増加が、国内需要の低迷をカバーしてきた。自動車までが、日本を抜いて世界最大の輸出国になった。この過剰な供給力が中国国内だけではなく、全世界にデフレ圧力を及ぼしている。2025年の中国の貿易黒字は1兆1500億ドル程度(1~11月で1兆758億ドル)と世界GDP(国内総生産)比1%の巨額に達した。
他方、不動産バブルの崩壊とデフレ化、失業率の高まりにより将来不安が募り、家計は一層貯蓄に励む。中国の貯蓄率は総貯蓄率で43%(2024年)、家計貯蓄率で36%(2023年)と他国に比べて突出して高い。「過少消費→過剰貯蓄→過剰投資」のサイクルがもたらす巨大な過剰工業力は、中国の歪んだ経済構造の賜物である。世銀の調査による主要国の家計消費のGDPに対する割合を見ると、中国は38~39%で推移している。一方、中国の固定資本形成はGDPに対して40%強であり、投資よりも消費の方が小さいという、他に例のない異常な経済構造が長期にわたって続いている。
世界にデフレを輸出している中国対する批判は高まるが、消費主導の経済モデルへの転換は絶望的である。第一に、バブル崩壊はまだ入り口、トンネルの先に出口は全く見えない。日本の地価下落はピークから8割減まで低下し、膨大な不良債権コストが企業や家計の購買力を奪ったが、中国の下落は未だ2~3割程度、不良債権の顕在化も、破綻処理コストの発生もあまり起きていない。弥縫策によりカオス化は抑え込まれているものの、先安観、雇用・景気先行き不安がかさみ、消費増加どころではない。第二に、不良債権処理と消費テコ入れのために財政への負担急増はとても吸収できない。現時点ですら、中国の財政赤字は急拡大し、対GDP比7%(2025年OECD:経済協力開発機構推計)と主要国中最悪になっている。第三に、企業収益と雇用の悪化、賃金の下落の下では可処分所得の増加が望めない。
となると、更なる対外投資増加しか解はない。大幅な貿易黒字で稼いだ外貨の投資先として、一度は萎みかけた一帯一路などの海外投資を再拡大させ、グローバルプレゼンスを高めている。この資金力を使っての軍事力増強は世界の緊張を高めている。中国の国内で循環しない経済モデルは、レーニンが批判した19世紀末から20世紀初頭型の帝国主義そのものであり、対外膨張を必須とする近隣窮乏化体制そのものである。
●信用拡大(含む株高)・消費主導の米国経済モデル
中国の巨大工業力、AI化による生産性の向上により、世界が供給力過剰に直面しているときに必要なのは「消費する力」、「需要を作る力」であり、それを持つのが米国である。米国の消費が世界の救世主として存在し、ますますそれが重要になっていく。米国の消費のGDPに対する比率は、1970年の時点で60%であったが、いまでは68%となっている。他国の消費の割合が下がる中、消費主導の需要圧力の強い仕組みを作ってきた。これが米国の本質的な強さであり、ドルが世界の基軸通貨であり続ける理由もそこにある。世界が米国の消費に向けて輸出し、それによってドルという成長通貨を手にし、その結果、繁栄できるという循環が続いてきた。トランプ政権の貿易赤字縮小のアジェンダもこの好循環を壊すものではない。
資本主義の母国は米国である。英国は資本主義を作ったが、完成させることはできず、途中で米国やドイツに敗れ、英国産業は衰退した。海外での金融と海運で所得を稼いだが、国内投資はおろそかにされ、内需が育たなかった。米国は英国のような道を歩まなかった。国内需要を創造し、それが新たな産業の受け皿になった。国内の需要を作ったのは、米国の資本主義の最も重要な推進力である信用創造である。(A)金本位制をやめ、(B)財政拡大を行い、(C)海外に対してドル供給を行い、それらの債務増加の全てを需要創造に振り向けてきた。米国政府のこうした需要創造(=成長至上主義)を正当化する根拠はただひとつ、国民の生活水準の向上である。この1点に米国の国益がかかっており、トランプ氏も常にそれを考えている。国民の生活水準が上がるかどうかで評価されるのが、米国の民主主義である。
●米国は持久戦(対中依存を下げ、中国の弱体化を待つ)に転換
中国と米国の対極の経済モデルは、国が追及する目的、基本的価値の相違に基づく。米国のゴールは、「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ(American Way of Life)」、飽くなき人民の生活水準の向上である。中国の場合「中国の夢」、民族復興であり、国際プレゼンスの引き上げである。
米中対決の最後の決め手は、両国国民の国家に対する忠誠心、求心力である。米国の資本主義は人々を幸せにできているのか、選挙はその判定を問うものであり求心力を高める必須のプロセスである。民主主義は選挙により対中政策の手足を縛るので一時的に米国に不利に働く、とのコンプレイン(不平)はあるがそれは小事である。選挙が無く抑圧的政府の下では、人民は無言だが、忠誠心が培われているか疑がわしい。
「米国株式資本主義」対「中国統制経済(no資本主義)」のパフォーマンスの戦いにおいて、長期の帰結はほぼ明らかである。人々を幸せにしない中国モデルに展望はない。だが、中国経済もここしばらくはレジリエンス(復元力)を示すだろう。巨額の対外余剰と財政出動余地があり、何年も弥縫策を撃ち続ける弾丸はある。低迷状態が長期化したとしても、数十年前の極貧状態に比べればいまは天国であり、それを実現した共産党政権に対するクレジットもまた大きい。
※<後編>へ続く
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