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アンジェス Research Memo(7):OMNIプラットフォームはゲノム編集技術のなかでも安全性の高さに強み
配信日時:2025/12/23 12:07
配信元:FISCO
*12:07JST アンジェス Research Memo(7):OMNIプラットフォームはゲノム編集技術のなかでも安全性の高さに強み
■アンジェス<4563>のEmendoBioの開発状況
1. ゲノム編集技術とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、ねらった遺伝子を改変する技術を指す。2012年に従来より短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化した。米国Vertex Pharmaceuticals Inc.とスイスのCRISPR Therapeuticsが同技術を用いて共同開発した鎌状赤血球貧血症※を適応症とした治療薬が、2023年11月に英国、同年12月に米国で初めて承認された。患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変し、それを注射投与で体内に戻すことで治療効果を得る治療法である。
※ 鎌状赤血球貧血症とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素の運搬に使われるタンパク質)が遺伝子異常によって変形することで赤血球が鎌状となって壊れやすくなり、貧血の症状を起こす疾患。症状が悪化すると壊れた鎌状赤血球によって毛細血管が遮断され激痛が生じるほか、長期にわたる場合、腎不全や心不全を引き起こすケースもある。今回承認されたのは、血管閉塞性危機が定期的に起きる12歳以上の患者を対象としている。
CRISPR/Cas9はその技術を用いた治療薬が初承認を得たことで一定の安全性が確認されたが、依然としてオフターゲット効果の懸念は残っている。これに対して、EmendoBioが独自開発したOMNIプラットフォームは、より高精度かつ安全性の高いヌクレアーゼを探索・最適化する仕組みで、オフターゲット効果を回避する新しいヌクレアーゼを作り出す技術である。自社開発したヌクレアーゼのうち250超については特許を申請している。ゲノム編集技術による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームは強みになると弊社では評価している。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能な点が挙げられる。これは、対をなすアレル(対立遺伝子)のうち、異常のある片方のみをターゲットにして編集を行い、正常な遺伝子を傷つけずに治療する技術である。ヒトは父方と母方の2つのアレルを一対で持っており、片方のアレルに異常があることで発症する遺伝性疾患は「顕性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)」、両方のアレルに異常があることで発症する疾患は「潜性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)」、または「伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる疾患)」と呼ばれる。アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは、顕性遺伝であり、遺伝性疾患の過半を占めるとされている。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療法の開発領域が非常に広いことを意味する。EmendoBioの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円、このうち約1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になり得ると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。ゲノム編集技術を用いた開発が活発化するなかで、OMNIプラットフォームへの注目も一段と高まることが期待される。
海外2社でOMNI技術の評価試験を実施中、ライセンス契約に発展する可能性
2. 事業戦略
EmendoBioは2024年に事業構造改革を実施し、イスラエルの紛争長期化もあって現在はゲノム編集技術に関する研究者とITエンジニアで20名程度の体制となっている。事業戦略としては財務状況を踏まえ、これまで開発してきた250を超えるOMNIヌクレアーゼやOMNIプラットフォームのライセンス活動に集中している。
ライセンス契約に関しては、2024年3月にがん免疫療法の一種であるTCR-T細胞療法※1の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて、難治性固形がんにおけるKRASタンパク質の変異を標的とした開発を進めている。また、2025年9月には同ライセンス契約の適用範囲を拡大することに合意したことを発表した。AnoccaではOMNI技術を高く評価しており、今後の開発パイプライン拡充のため、OMNIヌクレアーゼを積極的に活用していくものと見られる。EmendoBioはAnoccaから追加の契約一時金を2026年以降に受領するとともに、今後の進捗に併せて追加のマイルストーンを受領する可能性がある。当初の契約では、契約一時金も含めてマイルストーンの総額が最大100百万USドルであったが、さらに膨らむことが予想される。なお、TCR-T細胞療法では、Adaptimmune Therapeutics の開発したアファミトレスゲン オートルーセル(TECELRA)が転移性滑膜肉腫の一部を適応対象として、2024年8月に米国で初めて製造販売承認を取得している。
※1 TCR-T細胞療法とは、患者のリンパ球を採取し、がん抗原特異的なT細胞受容体(T-Cell Receptor)をT細胞に導入して再び患者に輸注する遺伝子改変T細胞療法のことで、難治性固形がんでの開発が進められている。
※2 2014年に設立されたバイオベンチャーで、科学者・エンジニア・ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T細胞療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。
そのほかの企業との契約交渉については、現在スイスと米国の製薬企業2社がOMNIプラットフォームの技術評価試験を進めているようで、高評価を得られれば2026年内にもライセンス契約に発展する可能性があり、今後の動向が注目される。また、2025年1月には米国スタンフォード大学と、ゲノム編集技術を用いた新規がん治療法の開発に関する共同研究契約を締結した。遺伝性の難治性乳がん治療についてOMNIヌクレアーゼを用いた遺伝子治療の研究開発を進める(研究期間約2年、研究費約130万USDを予定)。スタンフォード大学が持つ細胞への薬剤送達技術とEmendoBioのゲノム編集技術を組み合わせることで、がん放射線療法やがん免疫療法の効率を大幅に高める治療法の開発が期待される。2025年9月よりスタンフォード大学に人材を配置し、共同研究を開始している。また、開発した技術の知的財産をスタンフォード大学とシェアするために必要となる拠点(小規模ラボ)を大学近辺に設ける予定だ。OMNIヌクレアーゼの開発については、今後コンピュータサイエンスの技術力が必要となるが、スタンフォード大学には同領域で優秀なエンジニアが豊富に在籍しており、将来的には、これら人材をリクルートして米国に研究開発拠点を移すことを検討している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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1. ゲノム編集技術とOMNIプラットフォームの特徴
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、ねらった遺伝子を改変する技術を指す。2012年に従来より短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化した。米国Vertex Pharmaceuticals Inc.とスイスのCRISPR Therapeuticsが同技術を用いて共同開発した鎌状赤血球貧血症※を適応症とした治療薬が、2023年11月に英国、同年12月に米国で初めて承認された。患者から採取した造血幹細胞をゲノム編集技術で遺伝子改変し、それを注射投与で体内に戻すことで治療効果を得る治療法である。
※ 鎌状赤血球貧血症とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素の運搬に使われるタンパク質)が遺伝子異常によって変形することで赤血球が鎌状となって壊れやすくなり、貧血の症状を起こす疾患。症状が悪化すると壊れた鎌状赤血球によって毛細血管が遮断され激痛が生じるほか、長期にわたる場合、腎不全や心不全を引き起こすケースもある。今回承認されたのは、血管閉塞性危機が定期的に起きる12歳以上の患者を対象としている。
CRISPR/Cas9はその技術を用いた治療薬が初承認を得たことで一定の安全性が確認されたが、依然としてオフターゲット効果の懸念は残っている。これに対して、EmendoBioが独自開発したOMNIプラットフォームは、より高精度かつ安全性の高いヌクレアーゼを探索・最適化する仕組みで、オフターゲット効果を回避する新しいヌクレアーゼを作り出す技術である。自社開発したヌクレアーゼのうち250超については特許を申請している。ゲノム編集技術による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームは強みになると弊社では評価している。
また、もう1つの特徴としてアレル特異的遺伝子編集が可能な点が挙げられる。これは、対をなすアレル(対立遺伝子)のうち、異常のある片方のみをターゲットにして編集を行い、正常な遺伝子を傷つけずに治療する技術である。ヒトは父方と母方の2つのアレルを一対で持っており、片方のアレルに異常があることで発症する遺伝性疾患は「顕性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)」、両方のアレルに異常があることで発症する疾患は「潜性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)」、または「伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる疾患)」と呼ばれる。アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは、顕性遺伝であり、遺伝性疾患の過半を占めるとされている。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療法の開発領域が非常に広いことを意味する。EmendoBioの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円、このうち約1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になり得ると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。ゲノム編集技術を用いた開発が活発化するなかで、OMNIプラットフォームへの注目も一段と高まることが期待される。
海外2社でOMNI技術の評価試験を実施中、ライセンス契約に発展する可能性
2. 事業戦略
EmendoBioは2024年に事業構造改革を実施し、イスラエルの紛争長期化もあって現在はゲノム編集技術に関する研究者とITエンジニアで20名程度の体制となっている。事業戦略としては財務状況を踏まえ、これまで開発してきた250を超えるOMNIヌクレアーゼやOMNIプラットフォームのライセンス活動に集中している。
ライセンス契約に関しては、2024年3月にがん免疫療法の一種であるTCR-T細胞療法※1の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて、難治性固形がんにおけるKRASタンパク質の変異を標的とした開発を進めている。また、2025年9月には同ライセンス契約の適用範囲を拡大することに合意したことを発表した。AnoccaではOMNI技術を高く評価しており、今後の開発パイプライン拡充のため、OMNIヌクレアーゼを積極的に活用していくものと見られる。EmendoBioはAnoccaから追加の契約一時金を2026年以降に受領するとともに、今後の進捗に併せて追加のマイルストーンを受領する可能性がある。当初の契約では、契約一時金も含めてマイルストーンの総額が最大100百万USドルであったが、さらに膨らむことが予想される。なお、TCR-T細胞療法では、Adaptimmune Therapeutics の開発したアファミトレスゲン オートルーセル(TECELRA)が転移性滑膜肉腫の一部を適応対象として、2024年8月に米国で初めて製造販売承認を取得している。
※1 TCR-T細胞療法とは、患者のリンパ球を採取し、がん抗原特異的なT細胞受容体(T-Cell Receptor)をT細胞に導入して再び患者に輸注する遺伝子改変T細胞療法のことで、難治性固形がんでの開発が進められている。
※2 2014年に設立されたバイオベンチャーで、科学者・エンジニア・ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T細胞療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。
そのほかの企業との契約交渉については、現在スイスと米国の製薬企業2社がOMNIプラットフォームの技術評価試験を進めているようで、高評価を得られれば2026年内にもライセンス契約に発展する可能性があり、今後の動向が注目される。また、2025年1月には米国スタンフォード大学と、ゲノム編集技術を用いた新規がん治療法の開発に関する共同研究契約を締結した。遺伝性の難治性乳がん治療についてOMNIヌクレアーゼを用いた遺伝子治療の研究開発を進める(研究期間約2年、研究費約130万USDを予定)。スタンフォード大学が持つ細胞への薬剤送達技術とEmendoBioのゲノム編集技術を組み合わせることで、がん放射線療法やがん免疫療法の効率を大幅に高める治療法の開発が期待される。2025年9月よりスタンフォード大学に人材を配置し、共同研究を開始している。また、開発した技術の知的財産をスタンフォード大学とシェアするために必要となる拠点(小規模ラボ)を大学近辺に設ける予定だ。OMNIヌクレアーゼの開発については、今後コンピュータサイエンスの技術力が必要となるが、スタンフォード大学には同領域で優秀なエンジニアが豊富に在籍しており、将来的には、これら人材をリクルートして米国に研究開発拠点を移すことを検討している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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