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中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2023/08/07 10:25
配信元:FISCO
*10:25JST 中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
1. ポストコロナの雇用市場における構造的変化
中国の国家統計局が7月17日に発表した最新の失業者数から、若者(16~24歳)の失業率が3カ月連続で過去最高の水準に達したことがわかった。失業率は4月の20.4%から5月に20.8%、6月にはさらに21.3%にまで上昇した。
雇用環境は5月以降、厳しさを増している。積極的に求職活動を行っている3300万人強のうち、就職できたのは2600万人前後で、残りの600万人ほどは依然求職中だ。近年の新卒者の多くがパンデミックの収束まで積極的な就職活動を控えざるを得なかった。ところが、ポストコロナ期に入ると中国の雇用市場では構造的変化が生じた。
6月に若者の失業者数が特に急増した背景には、大学を卒業した1158万人が新たに雇用市場に加わったことがある。過去のデータを見る限りでは、若者の失業率は8月まで高水準で推移することが予想されるが、その後、若干低下する可能性がある。
本稿では自分に適した仕事探しで新卒者が直面する課題に焦点を当て、若者の失業率が3カ月連続で上昇した背景を分析する。中国当局は、ハイテク職に適した人材を見つけることが難しいことを挙げ、現在の失業問題が主として本質的に構造上のものであると強調し、景気低迷・悪化に対する懸念を払拭しようとした。
一方、中国の失業者数の公式な集計方法は、国際的な基準と異なっている。中国では1週間に1時間を超えて働く人は、失業者とみなされない。さらに無給休暇中や工場が閉鎖中の人、自主退職し、求職活動を開始していない人も失業者には分類されない。
ポストコロナ期に入って以降、中国では新卒者が就職難に直面している。それを受けて、中国ではここ数年、飲食店のフードデリバリー事業向けのメニュー開発・価格設定・パッケージングアシスタントなど、74種もの新たな職業が生まれている。
2.政府の施策とその効果
失業率の上昇に対処するため、27省が公共サービスセクターの大幅な拡大を図った。拡大率は甘粛省で80%に上ったほか、同様の伸びを示す省が半数を超える。これに加え、主要な大学と研究機関では入学定員を増やした。全国の864研究機関に入学した学生は約76万名で、昨年から1万人強増えている。同時に、研究機関の入学志願者数は過去最高の474万人に上り、昨年より17万人多い。
新卒者はこれまで、正式な採用面接を受けるまでの間、学習塾の講師などのアルバイトを簡単に見つけることができた。だが、子供と保護者の学習・教育負担を軽減する目的で2021年7月に「双減」政策が導入されて以降、K9(小学校から中学校までの義務教育)の英語指導セクターを中心に、こうした機会がなくなった。
中国政府は若者に対して、現実を見据え、失業問題の影響を受け入れるよう求めている。これは、国家と人民が最も自分を必要としているところで働くことを奨励するもので、現代の「上山下郷」プログラムと言える。『人民日報』のコラムでは、自分の強みと社会的ニーズの合致点を探し、謙虚さを忘れず、自分の資質を客観的に評価し、現実的な観点で進路を選択することを新卒者に促している。
中国当局は、プライドを一旦捨てて、失業問題の影響に真正面から向き合うよう若者に呼びかけている。このコラムで紹介しているのは、西部地域への大卒ボランティアサービス計画(Western Region University Volunteer Service Plan)や「三支一扶」計画など、貧困軽減と農村開発に寄与するプロジェクトに充実感を見いだした若者の事例だ。
とはいえ、政府の「上山下郷」の取り組みだけでは失業問題に十分に対処することができない。中国経済のゆるやかな回復や消費者マインドの持ち直し、民間企業や国有企業の見通しの好転により、若者の失業危機はいずれ解消されるかもしれない。一方、ネット市民の間では自分に適した仕事探しで若い新卒者が直面する課題に政府は十分に対処していないと感じる向きが多く、こうした施策の評判は芳しくない。
3.新卒者のキャリア志向の変化
就職難に新卒者の急増が重なり、まともな雇用機会を見つけることがますます難しくなってきた。そうしたなか、新卒者はどのような職業に就くことを望んでいるのだろうか。
Weibo(微博)が7月14日に発表したインタビュー調査の結果によると、対象となった新卒者1万人弱のうち、60%余りが選択肢となりうる職業に「ネットインフルエンサー」と「ライブ配信者」を入れた。中国ではネットパフォーマンス業界が活況を呈しており、およそ1億人分の雇用機会を創出すると推計される。
だが、95%強のネットインフルエンサーの平均月収は5000人民元に満たず、北京や上海、広州などの主要都市で家賃や基礎生活費をまかなうことが難しい。露店営業を奨励、保護する李克強前首相の取り組みをよそに、「露店経済」は各地の都市部で密かに繁栄を続けてきた。
都会に暮らす新卒者の多くは、家庭内労働に目を向け、家事手伝いをしたり、「フルタイムの孝子」と自らを称したり、あるいは、都会で就職できる見込みがないため、故郷に帰って肉体労働に従事せざるをえない。大都会で自分に適した仕事を見つけることができず、自分の才能を十分に活用できていないと感じる農村部出身の大卒者もいる。
中国では深刻な人材ミスマッチが、高等教育投資に重大な歪みとアンバランスさをもたらすとともに、若い世代の自信と希望の喪失を招いている。
バタフライ効果(バタフライエフェクト)のように、16歳から24歳の年齢層の間で失業問題に火が付いたことをきっかけとして、25歳から35歳の年齢層の間でパニックが起きた。著名な大学(211大学または985大学)を卒業した優れた学歴の新卒者でも低賃金を受け入れる意向の者は多い。そのため、給与が高いにもかかわらず、一般的なスキルしかない労働者を雇用する必要性を企業が感じず、給与が高いのに優位性の低いスキルしか持たない中高年労働者の多くが突然解雇されるかもしれないとの見方が広まったのだ。
中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: HUAI'AN, CHINA - JULY 1, 2023 - College students choose jobs at a job fair for 2023 graduates in Huai 'an City, East China's Jiangsu Province, July 1, 2023.
(※1)https://grici.or.jp/
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1. ポストコロナの雇用市場における構造的変化
中国の国家統計局が7月17日に発表した最新の失業者数から、若者(16~24歳)の失業率が3カ月連続で過去最高の水準に達したことがわかった。失業率は4月の20.4%から5月に20.8%、6月にはさらに21.3%にまで上昇した。
雇用環境は5月以降、厳しさを増している。積極的に求職活動を行っている3300万人強のうち、就職できたのは2600万人前後で、残りの600万人ほどは依然求職中だ。近年の新卒者の多くがパンデミックの収束まで積極的な就職活動を控えざるを得なかった。ところが、ポストコロナ期に入ると中国の雇用市場では構造的変化が生じた。
6月に若者の失業者数が特に急増した背景には、大学を卒業した1158万人が新たに雇用市場に加わったことがある。過去のデータを見る限りでは、若者の失業率は8月まで高水準で推移することが予想されるが、その後、若干低下する可能性がある。
本稿では自分に適した仕事探しで新卒者が直面する課題に焦点を当て、若者の失業率が3カ月連続で上昇した背景を分析する。中国当局は、ハイテク職に適した人材を見つけることが難しいことを挙げ、現在の失業問題が主として本質的に構造上のものであると強調し、景気低迷・悪化に対する懸念を払拭しようとした。
一方、中国の失業者数の公式な集計方法は、国際的な基準と異なっている。中国では1週間に1時間を超えて働く人は、失業者とみなされない。さらに無給休暇中や工場が閉鎖中の人、自主退職し、求職活動を開始していない人も失業者には分類されない。
ポストコロナ期に入って以降、中国では新卒者が就職難に直面している。それを受けて、中国ではここ数年、飲食店のフードデリバリー事業向けのメニュー開発・価格設定・パッケージングアシスタントなど、74種もの新たな職業が生まれている。
2.政府の施策とその効果
失業率の上昇に対処するため、27省が公共サービスセクターの大幅な拡大を図った。拡大率は甘粛省で80%に上ったほか、同様の伸びを示す省が半数を超える。これに加え、主要な大学と研究機関では入学定員を増やした。全国の864研究機関に入学した学生は約76万名で、昨年から1万人強増えている。同時に、研究機関の入学志願者数は過去最高の474万人に上り、昨年より17万人多い。
新卒者はこれまで、正式な採用面接を受けるまでの間、学習塾の講師などのアルバイトを簡単に見つけることができた。だが、子供と保護者の学習・教育負担を軽減する目的で2021年7月に「双減」政策が導入されて以降、K9(小学校から中学校までの義務教育)の英語指導セクターを中心に、こうした機会がなくなった。
中国政府は若者に対して、現実を見据え、失業問題の影響を受け入れるよう求めている。これは、国家と人民が最も自分を必要としているところで働くことを奨励するもので、現代の「上山下郷」プログラムと言える。『人民日報』のコラムでは、自分の強みと社会的ニーズの合致点を探し、謙虚さを忘れず、自分の資質を客観的に評価し、現実的な観点で進路を選択することを新卒者に促している。
中国当局は、プライドを一旦捨てて、失業問題の影響に真正面から向き合うよう若者に呼びかけている。このコラムで紹介しているのは、西部地域への大卒ボランティアサービス計画(Western Region University Volunteer Service Plan)や「三支一扶」計画など、貧困軽減と農村開発に寄与するプロジェクトに充実感を見いだした若者の事例だ。
とはいえ、政府の「上山下郷」の取り組みだけでは失業問題に十分に対処することができない。中国経済のゆるやかな回復や消費者マインドの持ち直し、民間企業や国有企業の見通しの好転により、若者の失業危機はいずれ解消されるかもしれない。一方、ネット市民の間では自分に適した仕事探しで若い新卒者が直面する課題に政府は十分に対処していないと感じる向きが多く、こうした施策の評判は芳しくない。
3.新卒者のキャリア志向の変化
就職難に新卒者の急増が重なり、まともな雇用機会を見つけることがますます難しくなってきた。そうしたなか、新卒者はどのような職業に就くことを望んでいるのだろうか。
Weibo(微博)が7月14日に発表したインタビュー調査の結果によると、対象となった新卒者1万人弱のうち、60%余りが選択肢となりうる職業に「ネットインフルエンサー」と「ライブ配信者」を入れた。中国ではネットパフォーマンス業界が活況を呈しており、およそ1億人分の雇用機会を創出すると推計される。
だが、95%強のネットインフルエンサーの平均月収は5000人民元に満たず、北京や上海、広州などの主要都市で家賃や基礎生活費をまかなうことが難しい。露店営業を奨励、保護する李克強前首相の取り組みをよそに、「露店経済」は各地の都市部で密かに繁栄を続けてきた。
都会に暮らす新卒者の多くは、家庭内労働に目を向け、家事手伝いをしたり、「フルタイムの孝子」と自らを称したり、あるいは、都会で就職できる見込みがないため、故郷に帰って肉体労働に従事せざるをえない。大都会で自分に適した仕事を見つけることができず、自分の才能を十分に活用できていないと感じる農村部出身の大卒者もいる。
中国では深刻な人材ミスマッチが、高等教育投資に重大な歪みとアンバランスさをもたらすとともに、若い世代の自信と希望の喪失を招いている。
バタフライ効果(バタフライエフェクト)のように、16歳から24歳の年齢層の間で失業問題に火が付いたことをきっかけとして、25歳から35歳の年齢層の間でパニックが起きた。著名な大学(211大学または985大学)を卒業した優れた学歴の新卒者でも低賃金を受け入れる意向の者は多い。そのため、給与が高いにもかかわらず、一般的なスキルしかない労働者を雇用する必要性を企業が感じず、給与が高いのに優位性の低いスキルしか持たない中高年労働者の多くが突然解雇されるかもしれないとの見方が広まったのだ。
中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: HUAI'AN, CHINA - JULY 1, 2023 - College students choose jobs at a job fair for 2023 graduates in Huai 'an City, East China's Jiangsu Province, July 1, 2023.
(※1)https://grici.or.jp/
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