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ウクライナ問題で発言力増す習近平、最終的には「中国が漁夫の利を得るかもしれない」と言えるワケ【実業之日本フォーラム】
配信日時:2022/03/07 15:46
配信元:FISCO
● 中国、得策ではない「ロシアへの肩入れ」
ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の対応に注目が集まっている。中国は2月25日に国連安保理に提案されたロシアのウクライナ侵攻を非難する議決案及び3月3日に国連総会に提出されたロシア軍の即時撤退を求める決議案のいずれにも棄権している。
さらには、アメリカを中心とする厳しい経済制裁に対し、3月2日中国外務省報道官は、「経済制裁は問題をエスカレートするだけだ。中国はロシアと引き続き正常な貿易協力進めたい」と述べている。
国際的批判が集まるロシアに肩入れすることは、中国にとって必ずしも得策ではない。しかも中国はロシアと「友好善隣条約」を、ウクライナと「友好協力条約」を締結している。中国にとってウクライナは「一帯一路」の陸上シルクロードの重要な中継地点でもある。中国にとってロシアのウクライナ侵攻は大きなジレンマを抱えていると言えよう。
● 中ロ関係は「歴史的最高レベル」…?
中国とロシアは1950年に「中ソ友好同盟相互援助条約」を締結、その第一条には第三国の攻撃を受けた場合、相互に援助することが規定されていた。条約の有効期限は30年であり、1960年代の中ソ対立により形骸化、1980年には期限を迎え、失効している。ソ連崩壊後、両国間の関係改善が進み、2001年には20年を期限とする「中ロ善隣友好協力条約」が締結され、2021年6月には延長に関する条約に調印している。
在日中国大使館ホームページには調印時の共同声明の全文が掲載されている。中ロ関係は歴史的最高レベルにあるとし、全面戦略協力パートナーシップを安定的に発展させるとし、政治、経済、軍事等のあらゆる分野で協力を進めることがうたわれている。
一方で、中ソ条約にあった共同防衛の規定は含まれておらず、いずれかの締約国の主権に脅威が及ぶ場合は、「脅威を取り除くために直ちに接触し、協議を行わなければならない」と規定するのみである。歴史的最高レベルと言ってもかつての同盟関係とは大きな違いがあることを認識しておく必要がある。
● 中国・ウクライナ、実は結びつきが強かった!
一方中国とウクライナの関係については、今年1月習近平主席とウクライナのゼレンスキー大統領は電話会談を行い、両国の外交樹立30周年を祝い、戦略的パートナーシップを発展させることを確認している。2013年に締結された「中国ウクライナ友好協力条約」には「ウクライナが核の脅威に直面した際、中国が相応の安全保障をウクライナに提供する」とされている。
防衛研究所の兵頭慎治氏は、ウクライナに対し核の脅威を与えるとすればロシアしか考えられないが、ブタペスト条約で核を放棄したウクライナに対し、核脅威への保証を与えることはロシアを含む核保有国のコンセンサスがあり、中国もこれを踏まえて条文として加えたと分析している。そのため、いかなる背景があるにせよ、条文に示されている規定を尊重することが求められる。
プーチン大統領は2月27日に戦略的抑止部隊に「特別警戒」を発令した。これは核攻撃も辞さないとする姿勢の表れと見られている。3月4日には、ウクライナ南部のザポロジェ原発がロシア軍から砲撃を受けその制圧下に置かれている。明らかにウクライナに対する核の脅威は高まっており、条約の規定上、中国は何らかの行動を迫られる可能性も否定できない。
中国とウクライナの関係でもう一つ指摘できるのは、ウクライナから中国への武器輸出である。中国空母遼寧は旧ソ連のワリヤーグであるが、スクラップ状態でウクライナから中国に売却されたものである。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)のデータべ—スによると、2000年以降中国は、ワリヤーグに加え、駆逐艦等のガスタービンをウクライナから購入している。
さらに、空母艦載機であるJ-15は、ロシアからSu-33の調達が不調に終わったため、ウクライナが保有していたSu-33の試作機を輸入し、これをベースに開発されたと伝えられている。
また、外務省ホームページによると、ウクライナ主要貿易相手国の輸出入ともに中国が1位となっている。在ウクライナ中国大使館は3月2日に現地中国人6,000人以上の集団出国を開始したことを伝えている。現地日本人は当初250名と伝えられており、日本と比較すると中国の結びつきの強さがうかがわれる。
● 中国「ロシア・ウクライナ、どちらも有効に使いたい…」
2月25日、中国王毅外相はウクライナ問題に関する中国の5つの立場を公表している。その内容は、(1)全ての国の主権と領土の一体性を尊重、(2)全ての国の正当な安全保障上の懸念の解決、(3)全ての当事者は自制し、人道的危機を防ぐ、(4)平和的解決を目指す交渉を支持、(5)国連安保理は建設的な役割を果たすべき、というものである。
(1)は、ウクライナの主権と領土とも解釈できるし、ロシアが主張するウクライナ東部のドネツク、ルガンスクを意味するとも解釈できる。また(2)についても、安全保障上の懸念を持っているのはロシアだともウクライナだともとれる。
中国がこのように曖昧ともとれる立場をとる背景には、ウクライナ問題を超えて、将来の中国の立場を考慮した戦略的立場と見ることができる。(1)の主権と領土の一体性という原則は台湾を中国の一部とする主張を補強する。正当な安全保障上の脅威には当然南シナ海、東シナ海が念頭にあることは間違いない。中国はロシアとウクライナ双方に対するコミットメントを使い分け、虎視眈々と漁夫の利を得ようと伺っている。
一方で、中国は事態が長期化し、ウクライナがアフガニスタン化することは望んでいないであろう。「一帯一路」は習近平の成果であり、今年秋の3期目を目指す習近平にとって失敗は許されない。ウクライナが「一帯一路」のハブとして、欧州諸国とつながることは極めて重要である。また、事態が長期化し、全面戦略協力パートナーシップを標榜するロシアの国際社会からの孤立も好ましくない。
3月1日、王毅外相と電話会談を行ったウクライナのクレバ外相は、「中国が停戦実現のため仲裁してくれることを期待している」と述べている。厳しい経済制裁を受けているロシアは、今後いよいよ中国への依存度を高めてくると考えられる。その場合、ロシアに対する中国の発言力が次第に増してくるであろう。
事態が長期化し、双方が疲弊してきた段階で、中国が調停に乗り出し、国際的な発言力を一段と向上させてくる可能性は十分に考えられる。中国の言動には引き続き目を光らせておく必要がある。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:新華社/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の対応に注目が集まっている。中国は2月25日に国連安保理に提案されたロシアのウクライナ侵攻を非難する議決案及び3月3日に国連総会に提出されたロシア軍の即時撤退を求める決議案のいずれにも棄権している。
さらには、アメリカを中心とする厳しい経済制裁に対し、3月2日中国外務省報道官は、「経済制裁は問題をエスカレートするだけだ。中国はロシアと引き続き正常な貿易協力進めたい」と述べている。
国際的批判が集まるロシアに肩入れすることは、中国にとって必ずしも得策ではない。しかも中国はロシアと「友好善隣条約」を、ウクライナと「友好協力条約」を締結している。中国にとってウクライナは「一帯一路」の陸上シルクロードの重要な中継地点でもある。中国にとってロシアのウクライナ侵攻は大きなジレンマを抱えていると言えよう。
● 中ロ関係は「歴史的最高レベル」…?
中国とロシアは1950年に「中ソ友好同盟相互援助条約」を締結、その第一条には第三国の攻撃を受けた場合、相互に援助することが規定されていた。条約の有効期限は30年であり、1960年代の中ソ対立により形骸化、1980年には期限を迎え、失効している。ソ連崩壊後、両国間の関係改善が進み、2001年には20年を期限とする「中ロ善隣友好協力条約」が締結され、2021年6月には延長に関する条約に調印している。
在日中国大使館ホームページには調印時の共同声明の全文が掲載されている。中ロ関係は歴史的最高レベルにあるとし、全面戦略協力パートナーシップを安定的に発展させるとし、政治、経済、軍事等のあらゆる分野で協力を進めることがうたわれている。
一方で、中ソ条約にあった共同防衛の規定は含まれておらず、いずれかの締約国の主権に脅威が及ぶ場合は、「脅威を取り除くために直ちに接触し、協議を行わなければならない」と規定するのみである。歴史的最高レベルと言ってもかつての同盟関係とは大きな違いがあることを認識しておく必要がある。
● 中国・ウクライナ、実は結びつきが強かった!
一方中国とウクライナの関係については、今年1月習近平主席とウクライナのゼレンスキー大統領は電話会談を行い、両国の外交樹立30周年を祝い、戦略的パートナーシップを発展させることを確認している。2013年に締結された「中国ウクライナ友好協力条約」には「ウクライナが核の脅威に直面した際、中国が相応の安全保障をウクライナに提供する」とされている。
防衛研究所の兵頭慎治氏は、ウクライナに対し核の脅威を与えるとすればロシアしか考えられないが、ブタペスト条約で核を放棄したウクライナに対し、核脅威への保証を与えることはロシアを含む核保有国のコンセンサスがあり、中国もこれを踏まえて条文として加えたと分析している。そのため、いかなる背景があるにせよ、条文に示されている規定を尊重することが求められる。
プーチン大統領は2月27日に戦略的抑止部隊に「特別警戒」を発令した。これは核攻撃も辞さないとする姿勢の表れと見られている。3月4日には、ウクライナ南部のザポロジェ原発がロシア軍から砲撃を受けその制圧下に置かれている。明らかにウクライナに対する核の脅威は高まっており、条約の規定上、中国は何らかの行動を迫られる可能性も否定できない。
中国とウクライナの関係でもう一つ指摘できるのは、ウクライナから中国への武器輸出である。中国空母遼寧は旧ソ連のワリヤーグであるが、スクラップ状態でウクライナから中国に売却されたものである。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)のデータべ—スによると、2000年以降中国は、ワリヤーグに加え、駆逐艦等のガスタービンをウクライナから購入している。
さらに、空母艦載機であるJ-15は、ロシアからSu-33の調達が不調に終わったため、ウクライナが保有していたSu-33の試作機を輸入し、これをベースに開発されたと伝えられている。
また、外務省ホームページによると、ウクライナ主要貿易相手国の輸出入ともに中国が1位となっている。在ウクライナ中国大使館は3月2日に現地中国人6,000人以上の集団出国を開始したことを伝えている。現地日本人は当初250名と伝えられており、日本と比較すると中国の結びつきの強さがうかがわれる。
● 中国「ロシア・ウクライナ、どちらも有効に使いたい…」
2月25日、中国王毅外相はウクライナ問題に関する中国の5つの立場を公表している。その内容は、(1)全ての国の主権と領土の一体性を尊重、(2)全ての国の正当な安全保障上の懸念の解決、(3)全ての当事者は自制し、人道的危機を防ぐ、(4)平和的解決を目指す交渉を支持、(5)国連安保理は建設的な役割を果たすべき、というものである。
(1)は、ウクライナの主権と領土とも解釈できるし、ロシアが主張するウクライナ東部のドネツク、ルガンスクを意味するとも解釈できる。また(2)についても、安全保障上の懸念を持っているのはロシアだともウクライナだともとれる。
中国がこのように曖昧ともとれる立場をとる背景には、ウクライナ問題を超えて、将来の中国の立場を考慮した戦略的立場と見ることができる。(1)の主権と領土の一体性という原則は台湾を中国の一部とする主張を補強する。正当な安全保障上の脅威には当然南シナ海、東シナ海が念頭にあることは間違いない。中国はロシアとウクライナ双方に対するコミットメントを使い分け、虎視眈々と漁夫の利を得ようと伺っている。
一方で、中国は事態が長期化し、ウクライナがアフガニスタン化することは望んでいないであろう。「一帯一路」は習近平の成果であり、今年秋の3期目を目指す習近平にとって失敗は許されない。ウクライナが「一帯一路」のハブとして、欧州諸国とつながることは極めて重要である。また、事態が長期化し、全面戦略協力パートナーシップを標榜するロシアの国際社会からの孤立も好ましくない。
3月1日、王毅外相と電話会談を行ったウクライナのクレバ外相は、「中国が停戦実現のため仲裁してくれることを期待している」と述べている。厳しい経済制裁を受けているロシアは、今後いよいよ中国への依存度を高めてくると考えられる。その場合、ロシアに対する中国の発言力が次第に増してくるであろう。
事態が長期化し、双方が疲弊してきた段階で、中国が調停に乗り出し、国際的な発言力を一段と向上させてくる可能性は十分に考えられる。中国の言動には引き続き目を光らせておく必要がある。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
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1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
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