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暗号資産後進国、日本:重要なのは頭脳、インナーサークルと気概(橋本欣典氏との対談)(2)【実業之日本フォーラム】

配信日時:2021/11/25 14:46 配信元:FISCO
■「インナーサークル」の重要性
白井:日本の制度によって、暗号資産などの資本やブロックチェーン技術者が流出しているのですね。シンガポールなどの海外での横のつながりを、もう少し詳しくお聞かせください。

橋本:分散型の暗号資産交換所に自分がつくったトークンを上場させることは、すぐにできるのです。ただ、そのトークンに買い手がつかないと価格は上がらないし、そもそも売れない。イグジットができないのです。価格を上げること自体がイグジットではなく、買われて初めてイグジットなのです。

そこで大事なのはマーケティングです。海外の有名な取引所で上場の根回しができるというのもマーケティングの1つでしょうし、他の有名なプロジェクトと手を組んでビジネスをやっていくのも一案です。その有名なプロジェクトのファンも、こちらのファンになってくれるかもしれません。1つの頭脳集団が腕一本で勝てるという側面はありますが、投資家マーケティングなどをワークさせるためにも、業界の横のつながりはとても大事です。例えば、DeFi業界にも幾つかの系統があります。シリコンバレー系のグループもあれば、チャイニーズ系のグループもあります。横のつながりでどこに属しているのかということが大事になります。

だから、ビジネスとして成功するためには、「バグがなくコードを書ける」という手元の技術力だけではなく、技術力以外の面での人的なつながりも重要なのです。

白井:無味乾燥で経済原理だけで動いているデジタル領域で、横の人的なつながりが大事というのは意外です。ブロックチェーン以前の状況と比較すると、それは薄れてきているのでしょうか。それともインナーサークルのようなものは、今後もあり続けるのでしょうか。

橋本:人間は群れる生き物ですから、インナーサークルのようなものは今後も続くと思います。インナーサークルは、そこまで大きなサークルではありません。プロジェクトごとにせいぜい10人から20人程度です。必ずしも同じ会社に物理的に集まって働いているわけでもありません。自分たちの趣味、仕事をシェアできる人たちというのは、いろいろなところにいてくれたほうが楽しい。一緒に仲良くしていると、自然とインナーサークルのような感じになってくる。それが、結果的に、今のところはシリコンバレー系、チャイニーズ系、コリア系に分かれているのです。

幾つかのインナーサークルのどれに入っているかで取引所の上場のしやすさも変わるというのは、今もそうですし、今後も変わらないでしょう。

白井:日本系のインナ—サークルはないのでしょうか。

橋本:残念ながら日本系はありませんね。まず、日本の暗号資産交換所は、ほとんど新しいものは取り扱えませんので、土俵として不適切なのです。また、税制も問題が大きいです。日本人がブロックチェーンビジネスをする場合にも、基本的に日本は避けたほうがいいとなっています。身近なところだとシンガポールはベストな環境と言えます。シンガポールコミュニティはシリコンバレー系と概ね同一ですし、税制も優遇されています。日本で日本のコミュニティがあったとしても、そこにはアドバンテージはないと思います。だから海外に出て行かないといけない。塀の中にとどまる理由はありませんから。

白井:2016年当時は仮想通貨先進国と言われたこともありましたが、もはや既に後進国のような感じですね。

橋本:後進国ですね。新規のトークンがこれだけ扱えないのであれば、頭脳集団も国内で事業をする意味がなく、産業として伸びないでしょうね。

富の移転競争下における国家戦略
白井:いまの状況は、既存の金融システムから次世代の金融システムへ移行する大きなパラダイムシフトの渦中だと捉えています。日本の市場環境は極めて厳しいとしても、敢えて日本に未来を見出すのであれば、どこに勝機がありそうでしょうか。

橋本:トークンビジネスについては、今の体制を変えようという気概を持って動くことが大事です。JVCEA(一般社団法人 日本暗号資産取引業協会)や金融庁は、もう少しバランスの取れた体制、顧客保護とイノベーションのバランスを取ったような体制に変えていくことが、最初の出発点ではないでしょうか。

こういう作業は、地味で泥臭い。見返りもなく、苦労やリスクだけが伴う。なぜ自分がやらなきゃいけないのかと思うかもしれません。しかし、よりよい未来にしていこうという気概を持って取り組めれば、可能性は自ずと開けると思います。頭脳集団や資本は、素直に海外に出て行く方がシンプルに稼げますが。

白井:いままでは、企業の成長段階に従って、それぞれのステージに応じた投資家が存在し、それぞれが役割に応じたリターンを得ていました。創業時はエンジェル投資家、その後は何段階にも亘って複数のベンチャーキャピタル、上場後すぐは小型の資産運用会社、大企業になれば大型の資産運用会社によって、段階的に一株あたりの単価が切り上がっていき、投資が行われます。単価を切り上げることは、それ以前の低い単価で投資していた投資家の資産価値を引き上げることになります。このように株式投資の世界では、投資家同士がリスクとリターンを分け合って共存しているという食物連鎖のような生態系が存在しています。

しかし、ブロックチェーンによるデジタル金融市場では、創業からすぐに、大きな時価総額がつき、二次流通市場でトークンが流通します。このため成長段階に投資家が介在する余地が少なく、創業のメンバーに巨額のリターンが偏ることになります。技術に疎く優良なプロジェクトにコネクションがない投資家は、時価総額が大きくなった後でしか投資ができず、リターンよりリスクが高くなる傾向があるように思います。投資家の競争優位が資本サイズから頭脳レベルやネットワークにシフトしていると考えています。

橋本:高い単価での投資が、既存の低い単価の投資の資産価値を引き上げるという構造は普遍的なものでありますが、これらの仕組みは、普通の人たちには感覚的にわかりづらいところです。今後は、できるだけ早く安い単価で投資することが競争の本質になってきますが、併せて、より賢い人たちがより儲かるという形に、シフトしていきます。

日本の個人投資家でも、海外の暗号資産交換所にアクセスして、優れたプロジェクトのトークンを早い段階から投資を行うことで、大きく資産形成を行っている人もいれば、国内の交換所で高くなったあとの海外トークンを買っている人もいます。日本の上場審査は非常に遅いため、もともと非常に性質の良い海外銘柄でも、割高のタイミングで買わされてしまうことになり、これは、今までの海外のトークン保有者へ富を移転させている構造と言えます。

規制当局は、価格はランダムウォークであり、顧客保護の対象ではないと割り切っているのかもしれません。しかし、実際の金融市場は、経済学の教科書で書かれている合理的な市場ではありません。ましてやトークンの世界は、誰が作り、最初に誰が買い、最後に誰が買うのか、またルールが統一されていないという、非常に原始的な、証券が電子化される前の野蛮だった頃に近いのです。今の形の顧客保護は完全に逆効果だと思います。あまり形式的なところにこだわらず、もう少し視野を広げて、どうしたら国民のためになるかを考えないといけない時代だと痛感します。

白井:国内製トークンを日本人同士が売買しているのであれば、富が日本人の中を移動していることになりますが、海外トークンの場合は、うまく投資しないと海外の人に富が移転することになりますね。

日本人は、そもそも金融的、戦略的な思考が苦手なのですが、世界の国々や企業などは、あらゆる活動を通じて富の移転競争をしているという視点が必要です。トークンによるデジタル金融時代は、いままで以上の投資と技術のリテラシーが必要になってきます。

日本は、国を挙げて海外への資本流失と富の移転を防ぐ必要がありますが、同時に大きな国富を形成できるチャンスと捉え、戦略的に行動することも大事でしょう。

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