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滑走路逸脱のP-1哨戒機、原因究明と再発防止急げ【実業之日本フォーラム】
配信日時:2021/09/14 10:40
配信元:FISCO
2021年9月7日、岐阜県各務原市の航空自衛隊岐阜基地で、川崎重工業が製造して海上自衛隊に引き渡される予定の哨戒機P-1(5533号機)が、試験飛行終了後に着陸した際、滑走路を逸脱した。新聞報道によると搭乗員10人にけがはなかったが、9月8日、国土交通省は「重大インシデント」に認定し、「運輸安全委員会の航空事故調査官4人を岐阜基地に派遣して、現地確認や関係者からの聞き取り調査を行う」と発表した。
「重大インシデント」とは、航空法76条の2に規定されている「航空事故が発生する恐れがあると認められる事態」であり、航空法施行規則第166条の4に定められている(1)閉鎖中のまたは他の航空機が使用中の滑走路からの離陸、中止、試み、(2)飛行中のエンジン破損、(3)オーバーラン(着陸帯前方への逸脱)、アンダーシュート(着陸帯手前への着陸)、滑走路からの逸脱、(4)非常脱出スライドを使用した非常脱出を行った事態、(5)航空機内の異常な減圧、(6)航空機内にける火災又は煙の発生等の16の事態に適用される。以上のように「重大インシデント」とは、「航空事故に発展する恐れがある危険な事態であるが、航空事故には至らない事態である」と解釈できる。
海上自衛隊の固定翼哨戒機は、1984年2月27日、岩国基地所属のPS-1対潜哨戒飛行艇が愛媛県の伊予灘沖に墜落した事故以降、航空機が墜落するという事故を起こしていない。1966年7月21日に初飛行後、1994年5月26日の退役までの約26年間、対潜哨戒機の主力として活躍したP-2Jの83機は、墜落事故を1件も起こさなかったという、世界的にみて稀有な記録を達成している。
また、1958年8月に初飛行し、約650機製造した米国ロッキードマーチン社のP-3シリーズは、世界18カ国で使用される哨戒機である。日本では、1981年にFMS(Foreign Military Sales:対外有償軍事援助)で取得した3機を筆頭に、川崎重工で製造した98機は、40年間、墜落事故を起こしていない。約200機を運用していた米海軍のP-3Cは数件の墜落事故を起こしているが、日本の場合、世界的にみて極めて高い整備能力を保持しているので、墜落事故が起きていないと言えるだろう。(なお、1992年3月31日、P-3C(5032号機)は、海上自衛隊硫黄島基地飛行場における着陸時に、車輪を出し忘れたことにより、滑走路上で地上火災を起こし機体が焼失するという事故を起こしたが、犠牲者は発生しなかった。)
航空事故の原因は大きく3点あるといわれている。(1)操縦上の過誤、(2)機体の不具合、(3)気象の急変など、外的要因等が一般的に考えられる。今回、調査に当たった運輸安全委員会の吉田真治調査官は、報道陣の取材に対し「現時点で逸脱の原因は不明」と発表したが、外観上の損傷が軽微なこと、また他のP-1哨戒機に対する飛行停止等の制限がかけられていないことから、重大かつ深刻な原因があったようには見うけられない。今回のP-1哨戒機で起きた滑走路逸脱は、(1)ノーズステアリング(前輪方向管制舵輪)の不具合、(2)垂直尾翼方向舵の不具合、(3)エンジン出力の不均衡による直進性能不具合等の原因が考えられる。
2007年の初飛行以降、海上自衛隊の主力哨戒機として定着しつつあるP-1が海上防衛の一翼に穴をあけないために、また日本の防衛技術の信頼を失墜しないためにも、早期の原因究明と再発防止策を打ち出してもらいたい。さらに、将来の防衛装備移転もにらみ、今回の不具合への迅速かつ的確な対応を世界に示し、ピンチをチャンスに変えるような対応を期待したい。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:Keizo Mori/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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「重大インシデント」とは、航空法76条の2に規定されている「航空事故が発生する恐れがあると認められる事態」であり、航空法施行規則第166条の4に定められている(1)閉鎖中のまたは他の航空機が使用中の滑走路からの離陸、中止、試み、(2)飛行中のエンジン破損、(3)オーバーラン(着陸帯前方への逸脱)、アンダーシュート(着陸帯手前への着陸)、滑走路からの逸脱、(4)非常脱出スライドを使用した非常脱出を行った事態、(5)航空機内の異常な減圧、(6)航空機内にける火災又は煙の発生等の16の事態に適用される。以上のように「重大インシデント」とは、「航空事故に発展する恐れがある危険な事態であるが、航空事故には至らない事態である」と解釈できる。
海上自衛隊の固定翼哨戒機は、1984年2月27日、岩国基地所属のPS-1対潜哨戒飛行艇が愛媛県の伊予灘沖に墜落した事故以降、航空機が墜落するという事故を起こしていない。1966年7月21日に初飛行後、1994年5月26日の退役までの約26年間、対潜哨戒機の主力として活躍したP-2Jの83機は、墜落事故を1件も起こさなかったという、世界的にみて稀有な記録を達成している。
また、1958年8月に初飛行し、約650機製造した米国ロッキードマーチン社のP-3シリーズは、世界18カ国で使用される哨戒機である。日本では、1981年にFMS(Foreign Military Sales:対外有償軍事援助)で取得した3機を筆頭に、川崎重工で製造した98機は、40年間、墜落事故を起こしていない。約200機を運用していた米海軍のP-3Cは数件の墜落事故を起こしているが、日本の場合、世界的にみて極めて高い整備能力を保持しているので、墜落事故が起きていないと言えるだろう。(なお、1992年3月31日、P-3C(5032号機)は、海上自衛隊硫黄島基地飛行場における着陸時に、車輪を出し忘れたことにより、滑走路上で地上火災を起こし機体が焼失するという事故を起こしたが、犠牲者は発生しなかった。)
航空事故の原因は大きく3点あるといわれている。(1)操縦上の過誤、(2)機体の不具合、(3)気象の急変など、外的要因等が一般的に考えられる。今回、調査に当たった運輸安全委員会の吉田真治調査官は、報道陣の取材に対し「現時点で逸脱の原因は不明」と発表したが、外観上の損傷が軽微なこと、また他のP-1哨戒機に対する飛行停止等の制限がかけられていないことから、重大かつ深刻な原因があったようには見うけられない。今回のP-1哨戒機で起きた滑走路逸脱は、(1)ノーズステアリング(前輪方向管制舵輪)の不具合、(2)垂直尾翼方向舵の不具合、(3)エンジン出力の不均衡による直進性能不具合等の原因が考えられる。
2007年の初飛行以降、海上自衛隊の主力哨戒機として定着しつつあるP-1が海上防衛の一翼に穴をあけないために、また日本の防衛技術の信頼を失墜しないためにも、早期の原因究明と再発防止策を打ち出してもらいたい。さらに、将来の防衛装備移転もにらみ、今回の不具合への迅速かつ的確な対応を世界に示し、ピンチをチャンスに変えるような対応を期待したい。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
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