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武者陵司「サナエノミクス、日経平均10万円が視野に」
配信日時:2025/10/12 15:36
配信元:MINKABU
―高市氏は長期政権となり安倍改革を成就させる―
●息長い長期上昇トレンドが見えた
Q.高市氏が自民党総裁に選出され、日本初の女性首相が生まれます。株式市場はそれを歓迎して棒上げ状態です。この相場をどう考えればよいでしょうか。(本稿は2025年10月10日出稿)
武者:まず日本株式の長期上昇トレンドに弾みがつく可能性が高いと考える。2012年12月の第二次安倍政権の成立により、日本株式は長期上昇トレンドに入った。直近までの日経平均株価は起点をどこにとるかによるが、年率10~13%成長である。この趨勢が続くと考えれば、10万円には2031年か遅くとも2033年に到達、2035年には12万から16万円に達すると計算される。
●アベノミクス成果大、唯一政策の誤りで消費停滞を解決できず
Q.なぜ、アベノミクス以降の上昇相場が続くと考えられるのでしょうか。確かに高市氏は安倍政権の後継者と自他ともに考えられていますが。
武者:アベノミクスが道半ばで目的成就できていないのは、ひとえに政策の誤りにある。目的未達とは企業の稼ぐ力が完全復活し、株価は4倍になり、税収も大幅増収が続いているのに、個人の生活水準は長期低迷を余儀なくされていることである。
実質家計消費は10年前のピーク比マイナス状態が続いている。原因は税の取りすぎにある。「税と社会保障の一体改革」の美名の下で、国民負担率は2012年の38.8%から2022年の48.4%まで乱暴なほどに押し上げられた。ようやく実現した賃金上昇もインフレに追いついていない状況の下で、税負担増が消費を直撃している。他方、インフレにより税収は恒常的に大幅に上振れを続け、日本の財政赤字(対GDP・国内総生産比)は2025年1.8%(OECD・経済協力開発機構推計)とG7で最良となっている。
税負担増による消費圧迫が最大の原因となり、日本のGDP成長率はG7で最低まで押し下げられている。IMF(国際通貨基金)経済見通しは2024年は米国の2.8%、ユーロ圏の0.9%に対して日本は0.2%、2025年は米国の1.9%、ユーロ圏の1.0%に対して日本は0.7%となっている。
●高市氏の使命、政策誤りの是正
武者:高市政権はこの残された課題に手をつける。つまり、政策の誤りが正されることが見えてきた。今後、日本経済は消費主導で成長率を高めるだろう。既に積極財政路線や減税の障害となってきた自民党税調会長宮沢洋一氏の退任が決まった。
Q.企業利益は順調、武者リサーチは株価は超割安と説明してきました。これだけの好条件がそろっている中で、唯一政策だけが正しくなかった、ということですね。政策を除けば長期株高の条件がそろっているとは、なんだか都合がよすぎるようにも聞こえます。
武者:話がうますぎるように聞こえるのは、安倍首相によるアベノミクスが最も困難な企業の稼ぐ力を取り戻し、外国人投資家から求められていた企業統治・コーポレートガバナンス改革を成し遂げていたからである。アベノミクスはこの困難なことを成し遂げたのに、政策の邪魔が入った。政権発足時の「税と社会保障の一体改革」の約束に縛られ、社会保険料引き上げと2度の消費税増税を余儀なくされ、消費の回復までは実現できなかった。
アベノミクスを批判してきた人々(財政健全化路線派、黒田日銀による異次元金融緩和に反対した経済論壇の主流派)が、実はアベノミクスの完成・成就を阻んできたのである。東大名誉教授の吉川洋氏は「大規模緩和『全てが間違い』」(2025年1月11日付朝日新聞)、政策研究大学院大学客員教授の井堀利宏氏は「参院選後の政権の課題、危機的な財政状況を直視せよ」(2025年8月8日付日本経済新聞経)と主張し、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いという石破発言を正当化した等、日本経済を貶めた。
●巨額貯蓄超過・経常黒字の日本にトラスショックは起きようがない
Q.財政健全化を主張する人々は、金利上昇が心配だと言います。2022年、イギリスでは積極財政がトリプル安を引き起こしました。日本の長期金利も2024年初0.6%、2025年初1.1%、2025年10月9日1.7%と急騰しています。
武者:イギリスのトラスショック(2022年9月トラス新政権の大規模な財政出動が金利上昇、通貨安、株安のトリプル安を引き起こし、政権が短命に終わったこと)の再現の心配は全くない。イギリスと日本とは事情がまるで逆である。トラスショックは、(1)長期にわたる大幅な経常収支赤字かつ対外純資産マイナス、(2)ロンドンの国際金融センターとしての地盤沈下・資本流出、(3)景気過熱と高インフレ、という土台の下で大規模な財政出動が打ち出され、市場が反乱を起こしたもの。日本は(1)~(3)はまるで逆、むしろ巨額の貯蓄余剰・経常黒字が続いている。日本の金利上昇は、デフレ脱却と日銀の政策金利引き上げによる、健全な金利上昇といえる。
比較するべきは、1950~1960年代の米国の金利上昇である。デフレから成長経済に移行し、長期金利が緩やかに上昇する過程でアニマルスピリットが高揚し、株価の長期上昇が続いた。大幅な負のイールドスプレッドは縮小した。日本でも金利上昇と株高による益回りの低下が続き、負のイールドスプレッドは大きく縮小していくだろう。
●高市氏に3つの切り札あり、国民の支持、市場の支持それと……
Q.高市政権は少数与党であり、多くの政策遂行上の障害があります。乗り越えていけますか。
武者:財政健全化路線を堅持したい自民党反高市グループや公明党、立憲民主党は高市氏の政策転換に抵抗するかもしれないが、高市氏の勝算は大きい。第一に、国民世論の支持がある。積極財政、成長優先政策は、先の参院選での国民の強い声であり、それに応えた国民民主党、参政党、日本保守党の改革派保守3党が勝利し、それに背を向けた既成政党、自民党、公明党、立憲民主党が敗北した。ただし、改革派保守の各党は政権担当能力に疑問があり、政策の実現が危ぶまれる状態にあった。高市政権の誕生により、政権党自民党のアジェンダは財政健全化路線から積極財政路線へと大転換する。改革派保守の3党の協力を得て、政策実現の可能性が高まる。
第二に、市場の支持がある。財政健全化路線は、一番重要な市場が支持しない。過去、政権誕生時の株価の反応は二つに分かれる。金融所得課税を打ち出した岸田氏、財政健全化路線を主張していた石破氏の政権発足時、株式市場は大幅下落で反応し、両氏は厳しい財政スタンスの緩和を余儀なくされた。それに対して、第二次安倍政権発足時には、日経平均株価は半年で73%という急騰を見せ、安倍氏の政策(アベノミクス)遂行を後押しした。株式市場の支援がなければ、アベノミクスは頓挫していただろう。今年の各国相場にも政策への評価が現れている。韓国相場の急騰は年初来47%、李在明政権成立(6月4日)以降28%上昇、ドイツも積極財政に転換したメルツ政権成立(5月8日)により好調である。
●巨額の隠れ資産の存在
武者:第三に、巨額の隠れ資産がある。税収の大幅上振れに加えて、(1)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の巨額運用収益累計166兆円(2025年6月末)、(2)外為会計保有の米国国債為替益推定46兆円(取得コストが1ドル=110円とすれば150円で)、(3)日銀ETF(上場投資信託)保有含み益48兆円(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏による9月19日時点での推計:9月19日付日本経済新聞)である。
これらは全てアベノミクスによる成果であり、高市氏の政策推進の原資に充当できる。このうち外為特会の為替益、日銀保有の含み益は、防衛・国土強靱化・研究技術開発など何にでも使える。GPIFの累積運用益も年金改革(大幅な給付の引き上げ)に利用可能であり、国民福利に還元できる。アベノミクスは円安・株高以外に何ももたらさなかったと批判派が投げつけてきた非難が、いかに的外れであったかがわかるだろう。
●株式市場は成長政策を支持する
Q,株高が高市政権を成功させ長期政権をもたらすということですと、まず株高ありき。株高にならなければ高市政権は失敗する、ということにもなりますが。
武者:そこがポイントだ。高市氏の政策が株価を押し上げ、経済と国民生活を成長させるのか否かが、一番大事な点である。高市氏を批判してきた人々が主張してきた緊縮政策は、経済成長を抑制し、株価の腰を折り続けてきた。アベノミクス批判、高市政策批判をする学識者、メディアの議論の誤りは、今後、株高と経済成長によって明らかにされていくだろう。
●「悲観論・増税路線」vs「楽観論・減税路線」の勝負はすでについている
武者:財政健全化路線を主張する財務省やそれに同調する学者、メディアは「少子化とデフレで日本の将来は厳しい、その中で年金や健康保険などのサービスを続けるためには、増税・高負担が必要である」と主張した。先行きが暗いのだから増税を受け入れよ、と言われて、消費者はますます委縮して消費を削ってきた。しかし、うれしい誤算が起きた。日本はデフレ脱却し企業も儲かり、税収は見積もりを大幅に上回り続けている。税金の取り過ぎが起きたのである。
日本経済の将来は明るく、増税しなくても税の増加が続き、年金や健康保険は安泰という楽観論への切り替えが必要である。減税すればさらに消費は増え、税収も経済成長の高まりによってむしろ増えていくことが見込まれる。そうした楽観論は株式市場が歓迎するもので、株価を押し上げていく。
●世界から歓迎される高市氏
Q.トランプ氏が高市氏にエールを送りました。10月末にも訪日するようです。日米関係の好転は好材料になりそうですね。
武者:トランプ氏は「深い知恵と強さを持つ尊敬される人物だ」と評した。その上で「日本の人々にとって素晴らしいニュースだ。おめでとう」と祝意を示した。高市氏はトランプ大統領、ベッセント財務長官が深く敬愛する安倍氏が推した次期リーダーであり、そのナショナル・コンサバティズム(国民保守主義)に立脚した心情とは相性が良い。
●少数与党の関門をどう乗りきるか
Q.政策転換、株高と良好な日米関係の3つがそろえば、高市政権が長期政権になる展望も開けてきますね。心配があるとすれば、それは何ですか。
武者:減税・株高・経済成長に至るには通らなければならない関門がある。少数与党である以上、野党との協力が不可欠だが、公明党が高市自民党との連立に難色を示している(編集部注:本稿執筆後に公明党は連立離脱の方針を表明)。野党と連携し政策を遂行するスキームを形成するためには障害を乗り越えなくてはならない。公明党や自民党反高市派の妨害で、暗礁に乗り上げれば、一時的には株価もショックを受けるかもしれない。周到な高市政権の船出が望まれる。
他方、それをクリアできれば、第二次安倍政権発足時のような、強烈な株式ブームが起きるかもしれない。
(2025年10月10日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン388号」を転載)
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