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貿易戦争と武力による戦争(2)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2025/08/06 09:46
配信元:FISCO
*09:46JST 貿易戦争と武力による戦争(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「貿易戦争と武力による戦争(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
これからも続く脅威
トランプ氏は関税を、自らの意見を通し他国を脅す最も効果的な手段と位置づけている。そのため、最近発表された2国間貿易協定は、2国間の幅広い取り決め(エンゲージメント)のほんの一部にすぎない。タイ・カンボジア間の紛争で明らかになったように、トランプ氏の切り札は両国が紛争を継続する場合、関税引き上げである。このように単純で率直な手段で世界の紛争を解決できるとしたら素晴らしいが、残念ながらそんなことはあるまい。
貿易協定の関税率のほかに、トランプ氏は医薬品と鉄鋼製品を対象に分野別関税をかけることも計画している。したがって、貿易協定が相次いで締結されているからといって、これで貿易摩擦が解消され、貿易コストの上昇が抑えられると考えるべきではない。貿易戦争はこれから別のフェーズに入っていくにすぎない。トランプ氏は関税を脅しの材料にし、自らの偏見のままに他国に無理やり国内政策を変えさせようとするのではないか。果たしてそれはまったく考えられないことであろうか。スコットランド滞在中に、トランプ氏は風力タービンが自ら所有するゴルフ場の景観を損ねていると不満を漏らした。英国政府が風力発電所を増やし続けた場合、関税率引き上げで英国を脅すのではないだろうか。ばかげた考えのように聞こえるが、特に2期目のトランプ氏は、実質的に個人的なビジネス目標を実現するために大統領職に就いていると言える。その地位に敬意を払い、株式などの資産を売却して利益相反を避けた歴代の大統領とは異なり、トランプ氏はそうした対応を取らず、恥ずかしげもなく大統領権限を利用して、自らと家族のビジネス上の利益を増進している。それを考えると、トランプ氏とのディールで落ち着いていられる外国政府などないだろう。
しかし、今後は中国が米国に代わってより安定したパートナーとなるのだろうか? EUはよく考える必要がある。EUは長年、中国とのバランスの取れた関係の構築に苦慮してきた。経済的な投資と関与に注力したメルケル政権下のドイツでは、実質的に企業の幹部が外交政策のかじ取りを担っていた。このモデルは文字通り壁にぶつかり、ドイツの自動車メーカーは国内のEV競争で中国勢の後塵を拝してきた。メルケル氏はドイツの産業の動力源をロシアの炭化水素に頼る事態も招き、ウクライナ戦争で独裁国家に依存することの愚かさを嫌というほど思い知らされた。
欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は先週、外交関係樹立50周年を記念したEU・中国首脳会談の一環として、北京で習近平氏と会談した。フォンデアライエン氏は中国が欧州とEUにもたらす課題と直接的な脅威を非常によく理解しており、今回の首脳会談は当初の計画より規模が縮小された。だが、EUはどの程度まで中国と手を結ぶべきなのか。
習近平氏はEUと中国を「2つの大経済圏」と称した。トランプ氏をめぐるEUの不安感と欧州の根底に流れる反米感情を刺激して、中国との距離を近づけたいと考えている。フォンデアライエン氏やカヤ・カラス氏など多数派は中国の危険性を理解している。だが欧州には、米国が欧州の同盟国を事実上切り捨てたことに大きな衝撃を受け、米国との絶縁による影響を和らげようと中国に目を向ける動きもある。
今回の会談では、具体的な成果はほとんど得られなかった。レアアースや磁石の供給を確保する新たな仕組みで合意したものの、このコラムで以前に述べたように、中国から供給の確約を得たとしても、中国は経済制裁を利用し自国の政治的な意志を強要することも辞さないため、長期的な解決策とはならない。代替のサプライチェーンの構築と中国への依存の軽減以外に長期的な解決策はないのである。
一方、習氏はEUを懐柔しようとしたのかもしれないが、EUがトランプ氏との貿易協定に同意したことで、その試みは失敗に終わった。関税率の確定に加え、EUは米国産のエネルギーと兵器の購入を増やすことに同意しており、防衛面で米国に依存する状況は変わらない。トランプ氏は当然のように、NATO同盟国の防衛費増額に加え、欧州の防衛とウクライナ戦争に欧州が責任を負うことを求め、一方で米国との絆と米国への依存を維持するよう要求した。EUの取引(ディール)の詳細を見れば、将来的にEUが同意できることを米国が制限することによって、中国に制約が課されたことが分かるだろう。
約言すると、中国は、まったく安定感のないトランプ氏とは対照的に、信頼できる安定したパートナーであると自らを売り込みたいのかもしれないが、それに向けた行動をしていない。トランプ発の世界経済の大混乱は、今後長期間にわたるコスト上昇と予期せぬ事態をもたらすことになるだろうが、今のところ各国は、米国の思いどおりに関係を修正することを余儀なくされている。そしてこれは、中国にとって良い前兆ではない。
このようにあまりにも複雑かつ混沌とした地政学的環境において、勝ち組と負け組を語ることはあまりに短絡的である。だが、トランプ氏が成功を収めているとまでは言えないにしても、中国が成功していないことは誰の目にも明らかである。
<CS>
これからも続く脅威
トランプ氏は関税を、自らの意見を通し他国を脅す最も効果的な手段と位置づけている。そのため、最近発表された2国間貿易協定は、2国間の幅広い取り決め(エンゲージメント)のほんの一部にすぎない。タイ・カンボジア間の紛争で明らかになったように、トランプ氏の切り札は両国が紛争を継続する場合、関税引き上げである。このように単純で率直な手段で世界の紛争を解決できるとしたら素晴らしいが、残念ながらそんなことはあるまい。
貿易協定の関税率のほかに、トランプ氏は医薬品と鉄鋼製品を対象に分野別関税をかけることも計画している。したがって、貿易協定が相次いで締結されているからといって、これで貿易摩擦が解消され、貿易コストの上昇が抑えられると考えるべきではない。貿易戦争はこれから別のフェーズに入っていくにすぎない。トランプ氏は関税を脅しの材料にし、自らの偏見のままに他国に無理やり国内政策を変えさせようとするのではないか。果たしてそれはまったく考えられないことであろうか。スコットランド滞在中に、トランプ氏は風力タービンが自ら所有するゴルフ場の景観を損ねていると不満を漏らした。英国政府が風力発電所を増やし続けた場合、関税率引き上げで英国を脅すのではないだろうか。ばかげた考えのように聞こえるが、特に2期目のトランプ氏は、実質的に個人的なビジネス目標を実現するために大統領職に就いていると言える。その地位に敬意を払い、株式などの資産を売却して利益相反を避けた歴代の大統領とは異なり、トランプ氏はそうした対応を取らず、恥ずかしげもなく大統領権限を利用して、自らと家族のビジネス上の利益を増進している。それを考えると、トランプ氏とのディールで落ち着いていられる外国政府などないだろう。
しかし、今後は中国が米国に代わってより安定したパートナーとなるのだろうか? EUはよく考える必要がある。EUは長年、中国とのバランスの取れた関係の構築に苦慮してきた。経済的な投資と関与に注力したメルケル政権下のドイツでは、実質的に企業の幹部が外交政策のかじ取りを担っていた。このモデルは文字通り壁にぶつかり、ドイツの自動車メーカーは国内のEV競争で中国勢の後塵を拝してきた。メルケル氏はドイツの産業の動力源をロシアの炭化水素に頼る事態も招き、ウクライナ戦争で独裁国家に依存することの愚かさを嫌というほど思い知らされた。
欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は先週、外交関係樹立50周年を記念したEU・中国首脳会談の一環として、北京で習近平氏と会談した。フォンデアライエン氏は中国が欧州とEUにもたらす課題と直接的な脅威を非常によく理解しており、今回の首脳会談は当初の計画より規模が縮小された。だが、EUはどの程度まで中国と手を結ぶべきなのか。
習近平氏はEUと中国を「2つの大経済圏」と称した。トランプ氏をめぐるEUの不安感と欧州の根底に流れる反米感情を刺激して、中国との距離を近づけたいと考えている。フォンデアライエン氏やカヤ・カラス氏など多数派は中国の危険性を理解している。だが欧州には、米国が欧州の同盟国を事実上切り捨てたことに大きな衝撃を受け、米国との絶縁による影響を和らげようと中国に目を向ける動きもある。
今回の会談では、具体的な成果はほとんど得られなかった。レアアースや磁石の供給を確保する新たな仕組みで合意したものの、このコラムで以前に述べたように、中国から供給の確約を得たとしても、中国は経済制裁を利用し自国の政治的な意志を強要することも辞さないため、長期的な解決策とはならない。代替のサプライチェーンの構築と中国への依存の軽減以外に長期的な解決策はないのである。
一方、習氏はEUを懐柔しようとしたのかもしれないが、EUがトランプ氏との貿易協定に同意したことで、その試みは失敗に終わった。関税率の確定に加え、EUは米国産のエネルギーと兵器の購入を増やすことに同意しており、防衛面で米国に依存する状況は変わらない。トランプ氏は当然のように、NATO同盟国の防衛費増額に加え、欧州の防衛とウクライナ戦争に欧州が責任を負うことを求め、一方で米国との絆と米国への依存を維持するよう要求した。EUの取引(ディール)の詳細を見れば、将来的にEUが同意できることを米国が制限することによって、中国に制約が課されたことが分かるだろう。
約言すると、中国は、まったく安定感のないトランプ氏とは対照的に、信頼できる安定したパートナーであると自らを売り込みたいのかもしれないが、それに向けた行動をしていない。トランプ発の世界経済の大混乱は、今後長期間にわたるコスト上昇と予期せぬ事態をもたらすことになるだろうが、今のところ各国は、米国の思いどおりに関係を修正することを余儀なくされている。そしてこれは、中国にとって良い前兆ではない。
このようにあまりにも複雑かつ混沌とした地政学的環境において、勝ち組と負け組を語ることはあまりに短絡的である。だが、トランプ氏が成功を収めているとまでは言えないにしても、中国が成功していないことは誰の目にも明らかである。
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