アングル:米との経済格差埋まらない欧州、投資不足に対策空回り
Francesco Canepa
[ゲント(ベルギー) 26日 ロイター] - ベルギーで欧州の顧客向けに電池の製造とリサイクルを手がける小さな企業を経営するラフル・ゴパラクリシュナン氏は、欧州連合(EU)が早急に進めているグリーンエネルギー移行を通じた経済成長の先駆け的存在だ。
だが、ゴパラクリシュナン氏は自身のような企業の現場の状況は、EUの壮大な野心と全然釣り合っていないのではないか、と不安を感じている。
ゴパラクリシュナン氏は、ロイターに「欧州はいつも自分の足を引っ張ることに長けている」と皮肉を述べた。その上で、中国のライバルと勝負できるほどの公的補助が得られていない一方、リチウムイオン電池に使われている有害物質などの「永久に残る化学物質」を禁止するEUの規則などへの対応も迫られていると実情を明かした。
同氏の懸念は、過去20年で米国に対して失った経済的な失地を回復し、環境保護にも取り組みながら、より自給自足的な体制を構築しようとしつつ、結局はその努力が実を結んでいない欧州の現状を物語っている。
米経済は毎年2%強のペースで成長を続けている半面、ユーロ圏経済はほぼ停滞。生産性の伸びもこの30年間、欧州は米国より低い。
EUは米国に比べて慢性的な投資不足に悩み、少子高齢化のスピードは速く、単一市場になって31年が経過しているにもかかわらず、労働力や資本、モノの移動にはまだ制約がある。
こうした課題を克服する使命を託されたのは、欧州中央銀行(ECB) 前総裁のマリオ・ドラギ氏。同氏が2012年の債務危機に際して、ユーロを救うためにできることは何でもやる、と宣言したのは有名な話だ。
先週末、ベルギーのゲントで開催されたEU財務相会合に出席したドラギ氏は、欧州経済活性化の方策として低コストの資本利用や、イノベーションを生かせるルールを再び機能させること、必要な分野への公的補助などを挙げていた。
ドラギ氏は、比較的短期間に膨大な投資をして、サプライチェーン(供給網)を再構築し、経済の脱炭素化を進める必要があると訴えた。
<膨大な投資必要>
EUの諸機関の見積もりによると、欧州は大半を民間が占める形で2030年まで毎年6500億ユーロ、その後は40年まで8000億ユーロの投資が不可欠だ。
投資の目的は、米国との技術格差を埋め、グリーンエネルギー生産セクター育成やアジアから輸入している半導体の内製化などを通じた自給体制の確保だ。
ところが、今の欧州は投資を生み出すどころか、資本が流出しており、昨年の流出額は約3300億ユーロに上った。
公共投資を見ても、政府の支出がインターネットのような発明につながった米国に比べると、欧州は少ない。
こうした中、ゲントのEU財務相会合では相変わらずの解決策が打ち出された。つまり加盟国間に残っている障壁を取り除き、完全な単一市場に移行するというものだ。
ただ、いわゆる資本市場同盟は自主的な権限を手放したくない国の協力が得られず、交渉が何年も進展していない。直近ではフランスが少数の国だけ先行する案を提示したが、ドイツによって即座に却下されている。
<公的補助を切望>
さらに統合が深化したとしても、EUの競争力不足にとって万能薬にはならないだろう。
世界銀行のビジネス環境改善指数に基づく国別ランキングを見ると、米国より上位に位置するEU加盟国はデンマークだけで、イタリアに至ってはモロッコやケニア、コソボの下にとどまっている。
EUの電力コストは米国の3倍に達し、インフラを整備できる今後10年間のどこかの時期まで高止まりが続くとみられる。
このため欧州で事業を展開する企業は、エネルギー補助金と環境規制の緩和を要望している。
ドイツ鉄鋼メーカーのザルツギッターのグンナー・グロブラー最高経営責任者(CEO)は「再生可能エネルギーへの移行期において、われわれは国際的な競争ができなくなるような電力価格(の高さ)に直面している」と明かした。
米石油大手エクソンは、EUが方向転換しなければ欧州は「産業空洞化」の恐れがある、と警鐘を鳴らしている。
今のところ大手企業が欧州から撤退するという動きはほとんど見当たらないが、フランスの自動車部品メーカー、フォルビアは域内の雇用を削減。米国での事業を拡大している欧州企業も出てきた。
製造業の業界団体は先週EUに対して、米国と同じように投資だけでなく営業費用の負担軽減のためにも公的補助を要請している。
EU財務相会合は民間資金で必要な投資の大部分を賄う意向を明確に示したが、公的補助がなければ企業が消えてしまうリスクがあるとの専門家の声も聞かれた。