インタビュー:内外でビール強化、M&Aも 株主と対話継続=サッポロHD社長
Ritsuko Shimizu Rocky Swift
[東京 19日 ロイター] - サッポロホールディングスの尾賀真城社長は19日、ロイターのインタビューで、国内でビール回帰の流れが強まる中、内外のビール事業で「チャレンジャブルにやる」と強調、海外のM&A(合併・買収)も含めて強化していく考えを示した。筆頭株主となった3Dインベストメント・パートナーズとは対話を継続しているとした。
同社は14日に発表した「中長期経営方針」で、ビールを含む酒類事業の成長投資を強化する方針を示した。尾賀社長は、2014年頃からビール強化を打ち出してきたなかで、ビール減税を含む酒税改正が行われ、ビールの立ち位置が変化してきたと指摘。「海外も含めてビール事業をもう少しチャレンジャブルにやることが考えられないかということを含めて議論し、われわれの立ち位置はよりビールに行くべきとの話をしてきた」と述べた。
人口問題などもあり、国内ビールの販売数量が大きく伸びることは考え難いなか、海外ビール事業は北米やアジアでのM&A(合併・買収)も積極的に考えていく。尾賀社長は「海外でも、基本はサッポロブランドを伸ばしていきたい」とし、ディストリビューション(流通)を含めて強化していきたいとした。
「中長期経営方針」では、酒類、食品飲料、不動産の集合体から酒類の成長による価値向上を実現する企業体へと変わることを打ち出した。
同社のビール事業と不動産事業については「われわれ独自の事業ポートフォリオと主張してきたが、10年、20年、30年という将来を見据えた時に、今までと同じような立ち位置でやっていくべきかどうか」という問題意識を示し、「不動産や食品・飲料も、重要な事業の一部であることには変わりはない。ただ、ビールが今後1番で取り組む事業」と強調した。
中期経営方針では、不動産事業に関して「戦略パートナーからの資本導入等不動産の保有形態を多様化する」としている。尾賀社長は「具体策はこれから」と繰り返し「なるべく早くまとめて発表したい」と述べた。
すべての不動産は保有形態見直しの検討対象としながらも「顧客接点については今後とも大事にしていきたい」と述べ、恵比寿ガーデンプレイスなどは、顧客接点の場として位置づけられる可能性を示唆した。
2023年12月期の事業利益156億円のうち、58億円は不動産事業が占めていた。
中長期経営方針では、同社の課題は「低い資本収益性」と「業績へのコミットメントの弱さ」にあると指摘した。尾賀社長は「結果が出てこなかったことは事実。そこは強く意識をせざるを得ない」と述べ、ビール市場の縮小や新ジャンルや発泡酒といった低価格化という環境の問題が大きかったものの「それを跳ね返すだけのものが弱かった」と振り返った。
同社は、昨年9月に立ち上げた「戦略検討委員会」で中長期的なグループ価値向上のための経営方針を検討してきた。検討の過程では、資本市場関係者や有識者、社外取締役など延べ数十人に意見を求めたという。酒類事業の成長を実現する態勢へと移行し、24年12月期見通しで5.5%にとどまっている自己資本利益率(ROE)は中長期的に10%以上を目指す。
同社の経営改革を要求しているシンガポール拠点の3Dインベストメント・パートナーズは昨年12月25日現在で16.19%を保有する筆頭株主となっている。尾賀社長は、保有株式が20%を超えてくるようなら理由の説明を求めたいとしながらも「3Dは経営そのものをやろうとはしておらず、われわれとしても冷静に受け止めている。株主として対話を続けている」と述べた。
3Dは、サッポロの酒類・食品飲料事業(コア事業)の低収益性は不動産賃貸収入による経営の甘えに起因すると指摘。企業価値向上を考える上で、真に不動産事業を保有すべきかは、徹底的な再検証が必要としていた。
これに対しサッポロは、22年11月に発表した2023年からの中期計画で不動産事業を「コア事業」と位置付け、収益力強化の対象としていた。サッポロは中計については、現状のまま進めるとする一方、中長期経営方針で、2030年頃をめどにしたあり方を示し、不動産は酒類事業に資する価値向上を進めるとした。