NEC、上場子会社への買収案を複数受領 割安売却に説明責任も
Makiko Yamazaki
[東京 14日 ロイター] - NECの上場子会社でコネクター大手の日本航空電子工業(JAE)について、複数のプライベートエクイティ(PE)ファンドが市場株価を大幅に上回る価格での買収提案をNECとJAE両社に示していたことが分かった。事情を知る関係者5人が明らかにした。 NECは、保有するJAE株51%のおよそ半分を、JAEの自己株公開買い付け(TOB)を通じて売却する方針を示している。TOB価格は発表前の株価よりも割安に設定されており、JAEへの株売却を選択することで、NECの株主が享受すべき利益を最大化できるのか、説明責任を問われる可能性があるほか、JAEも自社の株主から、高値での売却機会を放棄していないか問われるリスクがあると企業ガバナンスの専門家は指摘している。 匿名を条件に語った関係者3人によると、少なくともPEファンド3社がJAEの買収をNEC、JAE両社に提案した。買収価格は最高で1株4000円前後だったといい、JAEによる自己株TOBの買い付け価格2605円を5割超上回る。 JAEによるTOBの期間は1月30日から2月28日までで、発行済株式総数の最大約28%を発表前の終値から14%割安な価格で買い付ける。親子上場に対する批判が高まる中、資本関係の見直しについてNECと協議を重ねて決定した。 プレミアムを付けて株式を買い付ける通常のTOBに対し、市場株価よりも割安に設定して買い取る手法は、特定の売り手以外の株主からの応募を抑制し、決まった量の株式を確実に買い取ることを目的に持ち合い株の解消などで使われる。 関係者によると、少なくとも1社は、価格だけでなく買収後の経営戦略の詳細など、具体的な内容を盛り込み、書面で提出した。こうした買収提案がNECやJAEの社内でどのように議論されたかは分かっていない。M&A(企業の買収・合併)市場の活性化を目的に経済産業省が昨年8月に策定した「企業買収における行動指針」では、具体性のある真摯な買収提案を受領した場合は、真摯に検討されるべきとしている。 クィディティ・アドバイザーズのトラヴィス・ルンディ氏は「PEファンドの提案が真摯な提案でなかったとは考えにくいが、経産省の買収指針はあくまでガイドラインにすぎない。国によっては、特に真摯な買収提案をめぐり、善管注意義務が十分果たされてない場合は罰則規定が存在する」と指摘する。 ロイターの問い合わせに対し、NECは「本件に関するコメントは控える」と回答した。JAEは回答を控えると述べた。 JAEはスマートフォンのコネクターなどの電子部品を手掛けており、主要顧客にはアップルも含まれる。 自己株TOB発表後、JAEの株価は2割下落。割安な買い付け価格が嫌気されたほか、NECが親子上場解消のためにいずれプレミアムを付けた価格で売却するという市場の期待感が剥落した。 JAEの発表文によると、TOB期間内に第三者が対抗TOBを開始した場合には、状況に応じてNECがJAEとの応募にかかわる契約を解除できるとしているが、関係者によると、2月末までにPEが対象会社の同意を得ずに対抗TOBを開始することは事実上不可能だという。 早稲田大学大学院経営管理研究科の鈴木一功教授は、高値でJAE株を売却する選択肢が存在したのであれば、NECの一般株主は得られたはずの利益を逸失するほか、JAEの株主にとっても自己株TOBの発表が株価が下落につながったと指摘、「今回の取引ではJAEの経営陣以外は誰も幸せにならない」と話す。 鈴木教授によると、日本では自己株公開買い付けに応じる際に他の選択肢を検討したかといった開示は義務付けられていないが、経営権の譲渡を伴う自己株買い付けの場合は、何らかの開示ルールが必要なのではないかという。その上で、「本件に不満な親会社の株主は、株主総会での取締役選任議案への反対や株主代表訴訟で責任を追及することになるだろう」との見方を示した。 (山崎牧子)