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緑白合作?台湾の2024年の選択が及ぼす影響を紐解く【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2024/01/23 10:22
配信元:FISCO
*10:22JST 緑白合作?台湾の2024年の選択が及ぼす影響を紐解く【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している陳建甫博士の考察をお届けする。
ついに2024年の台湾総統選挙の決着がつき、複雑な政治状況が露わとなった。頼清徳総統候補と蕭美琴副総統候補が率いる与党民進党(DPP)が558万票(40.05%)を獲得して勝利を確実なものにし、これまでの傾向を打ち破り、同じ政党が3期連続で政権に就くことになった。だが、836万人の有権者が頼・蕭コンビを支持しなかったことは注目に値する。総統選で勝利を収めたものの、民進党は立法院議員選挙では敗北を喫し、立法院の多数党の座を国民党(KMT)に明け渡した。勝利を収めたとはいえ、「薄氷の勝利」という言葉は、頼陣営の結果をうまく言い当てている。立法院での過半数割れに対処し、指名問題や権力移行でのつまずき、選挙キャンペーン戦略の不備に党内で向き合い、反省する必要がある。
一方、国民党の侯友宜氏と趙少康氏は、支持者を積極的に動員し、不満を掘り起こすことに重点を置いた戦略を採用した。汚職や不正があったとして絶えず与党を攻撃し、マスクの配布やグリーンエネルギー政策、ワクチンの調達などの問題を調べる「特別捜査部」を復活させることを提案した。選挙戦が進むにつれ、勝利を手にするため、「藍白合作」を通じた「棄保」というテーマに焦点をシフトした。国民党は立法院で多数党となったとはいえ、政権交代を果たすまでには至らなかった。
世論調査の不正確さ、つまり「棄保」感情の影響にさらされていると考えられていた民衆党(TPP)は、選挙キャンペーンの終盤でなんとか運命を逆転させた。同党はSNSインフルエンサーを戦略的に招いて、若い有権者にアピールし、オンライン上での支援を実際の投票につなげた。民衆党は今回の選挙で最大の勝者となったが、地方議会に議席がないため、総統選で26%の票を得たにもかかわらず、立法院での議席数は8議席にとどまり、重要勢力となることができなかった。
経済制裁や軍用機の哨戒、偽情報キャンペーンを通じて台湾の選挙に介入していた中国にとって、民進党の再選は受け入れがたい。だが、国務院台湾事務弁公室は、台湾の住民の過半数が頼清徳氏の率いる、台湾独立寄りの政権を支持していないと控えめに主張することしかできなかった。
蔡英文総統は、2024年の選挙で極めて重要な役割を果たした。今回の総統選で頼氏の陣営が得た票は2020年を260万票下回った。蔡氏の後継者と目されていた蕭美琴氏を副総統候補に擁立したことが、頼氏の成功に貢献した可能性が高い。一方、総統としての蔡氏の目覚ましい実績は、頼氏の選挙キャンペーンを難しくした。この陣営の戦略は事後対応的のように見受けられ、最終的には、国民党の挑戦に対抗するため、「正しい人を選び、正しい道を歩もう」という保守的なアプローチに落ち着いた。頼氏は包括的な政策の青写真や台湾の未来のビジョンを示すことなく、安定した統治への支援を求める訴えに終始した。民進党は、先見性のあるビジョンを明確に打ち出すことなく、経済成長と中台和平を強調するという国民党の伝統的な戦術を模倣したという印象を与え、2024年の選挙キャンペーンで大きく後退した。
台北新市長の侯友宜氏は有力な市長候補だったかもしれないが、国民党の総統候補としては役不足である。国民党内部での指名プロセスを経た上での承認の欠如や、国家安全保障や中台関係、外交防衛での経験不足といった問題を抱えた侯氏は、政党交代を成し遂げるため、「不満を煽るカード」を切るという低コストの戦略に打って出た。国民党を支持した有権者の割合が、総統候補の侯氏を支持したそれを越えたという事実は、国民党支持者の熱狂を鼓舞できなかったことを浮き彫りにしている。国民党が統一地方選挙で勝利した最大の要因は、総統候補や地方のリーダーの功績ではなく、地方選挙区の現職の民進党議員を破ることに的を絞った藍白合作が大きなうねりを生む効果をもたらしたことである。
柯文哲氏が率いる民衆党は2024年の総統選で大健闘した。国民党と民衆党はともに、打倒民進党のために「藍白合作」を訴えていたが、選挙後に頼清徳氏が「民主連盟」を提案したことで、「緑白合作」のうわさが広まった。このうわさが本当であれば、民衆党は民進党と連立を組み、「ねじれ国会」の解消に貢献するかもしれない。それにより民衆党は支持を拡大し、立法院で影響力を発揮できるようになるかもしれないが、同時に、党派分裂を招き、有権者の熱を冷ましてしまい、今後、党の動員の取り組みに影響を及ぼす恐れがある。
台湾の選挙史を振り返ると、多くの少数政党が与党と連立を組んだが、結局4年後には影響力を失っていた。柯文哲氏と民衆党は2月1日の立法院長選挙で選択を迫られることになる。与党と連立を組み、政権を安定させることを選ぶか、野党としての立場で与党を監視するのか。それは、柯氏の政治的洞察力と民衆党の決断にかかっている。
今回の選挙の最大の敗者が馬英九元総統であることはほぼ間違いない。蔡英文総統は最後となる2024年の新年の演説で、中国の「1992年コンセンサス」と「一つの中国原則」の支持および中国が提案する「一つの中国、二つの体制」という厳しい状況に陥ることに対して警鐘を鳴らした。馬英九氏による1992年コンセンサスの擁護は歴史的遺物となっただけでなく、侯友宜氏の選挙キャンペーンに悪影響を及ぼす最後の一撃にもなった。
2024年台湾選挙の結果は、台湾の民主主義の発展にとって、思いがけないお膳立てとなったと受け止めることができるかもしれない。2つの歴史ある政党と1つの若い政党が競い、選挙に新たな要素と機会をもたらした。選挙後、この3つの政党は、まったく異なる課題に直面し、それぞれ違う道を歩み始めている。地区ベースの選挙制度では地方における世襲の影響力が根強い現状を、2024年の選挙は浮き彫りにした。一方、この3つの政党には政党補助金が給付されるが、今回の選挙では少数政党が完全に消し去られたという厳しい現実がある。
写真: 台湾総統選 民進党の頼清徳氏が勝利
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
ついに2024年の台湾総統選挙の決着がつき、複雑な政治状況が露わとなった。頼清徳総統候補と蕭美琴副総統候補が率いる与党民進党(DPP)が558万票(40.05%)を獲得して勝利を確実なものにし、これまでの傾向を打ち破り、同じ政党が3期連続で政権に就くことになった。だが、836万人の有権者が頼・蕭コンビを支持しなかったことは注目に値する。総統選で勝利を収めたものの、民進党は立法院議員選挙では敗北を喫し、立法院の多数党の座を国民党(KMT)に明け渡した。勝利を収めたとはいえ、「薄氷の勝利」という言葉は、頼陣営の結果をうまく言い当てている。立法院での過半数割れに対処し、指名問題や権力移行でのつまずき、選挙キャンペーン戦略の不備に党内で向き合い、反省する必要がある。
一方、国民党の侯友宜氏と趙少康氏は、支持者を積極的に動員し、不満を掘り起こすことに重点を置いた戦略を採用した。汚職や不正があったとして絶えず与党を攻撃し、マスクの配布やグリーンエネルギー政策、ワクチンの調達などの問題を調べる「特別捜査部」を復活させることを提案した。選挙戦が進むにつれ、勝利を手にするため、「藍白合作」を通じた「棄保」というテーマに焦点をシフトした。国民党は立法院で多数党となったとはいえ、政権交代を果たすまでには至らなかった。
世論調査の不正確さ、つまり「棄保」感情の影響にさらされていると考えられていた民衆党(TPP)は、選挙キャンペーンの終盤でなんとか運命を逆転させた。同党はSNSインフルエンサーを戦略的に招いて、若い有権者にアピールし、オンライン上での支援を実際の投票につなげた。民衆党は今回の選挙で最大の勝者となったが、地方議会に議席がないため、総統選で26%の票を得たにもかかわらず、立法院での議席数は8議席にとどまり、重要勢力となることができなかった。
経済制裁や軍用機の哨戒、偽情報キャンペーンを通じて台湾の選挙に介入していた中国にとって、民進党の再選は受け入れがたい。だが、国務院台湾事務弁公室は、台湾の住民の過半数が頼清徳氏の率いる、台湾独立寄りの政権を支持していないと控えめに主張することしかできなかった。
蔡英文総統は、2024年の選挙で極めて重要な役割を果たした。今回の総統選で頼氏の陣営が得た票は2020年を260万票下回った。蔡氏の後継者と目されていた蕭美琴氏を副総統候補に擁立したことが、頼氏の成功に貢献した可能性が高い。一方、総統としての蔡氏の目覚ましい実績は、頼氏の選挙キャンペーンを難しくした。この陣営の戦略は事後対応的のように見受けられ、最終的には、国民党の挑戦に対抗するため、「正しい人を選び、正しい道を歩もう」という保守的なアプローチに落ち着いた。頼氏は包括的な政策の青写真や台湾の未来のビジョンを示すことなく、安定した統治への支援を求める訴えに終始した。民進党は、先見性のあるビジョンを明確に打ち出すことなく、経済成長と中台和平を強調するという国民党の伝統的な戦術を模倣したという印象を与え、2024年の選挙キャンペーンで大きく後退した。
台北新市長の侯友宜氏は有力な市長候補だったかもしれないが、国民党の総統候補としては役不足である。国民党内部での指名プロセスを経た上での承認の欠如や、国家安全保障や中台関係、外交防衛での経験不足といった問題を抱えた侯氏は、政党交代を成し遂げるため、「不満を煽るカード」を切るという低コストの戦略に打って出た。国民党を支持した有権者の割合が、総統候補の侯氏を支持したそれを越えたという事実は、国民党支持者の熱狂を鼓舞できなかったことを浮き彫りにしている。国民党が統一地方選挙で勝利した最大の要因は、総統候補や地方のリーダーの功績ではなく、地方選挙区の現職の民進党議員を破ることに的を絞った藍白合作が大きなうねりを生む効果をもたらしたことである。
柯文哲氏が率いる民衆党は2024年の総統選で大健闘した。国民党と民衆党はともに、打倒民進党のために「藍白合作」を訴えていたが、選挙後に頼清徳氏が「民主連盟」を提案したことで、「緑白合作」のうわさが広まった。このうわさが本当であれば、民衆党は民進党と連立を組み、「ねじれ国会」の解消に貢献するかもしれない。それにより民衆党は支持を拡大し、立法院で影響力を発揮できるようになるかもしれないが、同時に、党派分裂を招き、有権者の熱を冷ましてしまい、今後、党の動員の取り組みに影響を及ぼす恐れがある。
台湾の選挙史を振り返ると、多くの少数政党が与党と連立を組んだが、結局4年後には影響力を失っていた。柯文哲氏と民衆党は2月1日の立法院長選挙で選択を迫られることになる。与党と連立を組み、政権を安定させることを選ぶか、野党としての立場で与党を監視するのか。それは、柯氏の政治的洞察力と民衆党の決断にかかっている。
今回の選挙の最大の敗者が馬英九元総統であることはほぼ間違いない。蔡英文総統は最後となる2024年の新年の演説で、中国の「1992年コンセンサス」と「一つの中国原則」の支持および中国が提案する「一つの中国、二つの体制」という厳しい状況に陥ることに対して警鐘を鳴らした。馬英九氏による1992年コンセンサスの擁護は歴史的遺物となっただけでなく、侯友宜氏の選挙キャンペーンに悪影響を及ぼす最後の一撃にもなった。
2024年台湾選挙の結果は、台湾の民主主義の発展にとって、思いがけないお膳立てとなったと受け止めることができるかもしれない。2つの歴史ある政党と1つの若い政党が競い、選挙に新たな要素と機会をもたらした。選挙後、この3つの政党は、まったく異なる課題に直面し、それぞれ違う道を歩み始めている。地区ベースの選挙制度では地方における世襲の影響力が根強い現状を、2024年の選挙は浮き彫りにした。一方、この3つの政党には政党補助金が給付されるが、今回の選挙では少数政党が完全に消し去られたという厳しい現実がある。
写真: 台湾総統選 民進党の頼清徳氏が勝利
(※1)https://grici.or.jp/
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