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バランスが肝心:東南アジアにおける中国、日本、台湾のインフラ戦略(1)【中国問題グローバル研究所】
配信日時:2023/11/07 10:43
配信元:FISCO
*10:43JST バランスが肝心:東南アジアにおける中国、日本、台湾のインフラ戦略(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を4回に渡ってお届けする。
はじめに
一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)は、大規模なインフラプロジェクト中心のフェーズから、より小規模で質の高い取り組みを中心とする新たなフェーズに移行した。先ごろ開催された第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで、習近平主席はフェーズ移行に向けた8項目の行動指針を発表した。こうした方針転換の背景には、中国国内の財政難と国際的な監視の強化がある。本稿では、一帯一路2.0構想(BRI 2.0)における主な行動、関係各国への影響、日本、台湾、その他関わりの深いプレイヤーの反応など、一帯一路2.0構想が意味するものを探っていく。
習近平主席は、より質的かつ持続可能な一帯一路を目指すとした。この転換の柱となる8つの行動の概要は、以下の通りである。
1.一帯一路構想に沿った立体的相互連結ネットワークの構築:地域の連結を強化し、効果的な地域連携を促す。
2.開かれた世界経済の構築を支援:他国との経済関係を強化しながら、国際貿易と経済協力を促進する。
3.実務協力の推進:貿易・投資保護協定など実務協力を強化する。
4.グリーン開発の推進:グリーンエネルギー、環境保護、持続可能性を織り込む。
5.科学技術イノベーションの推進:人工知能やデジタル経済などの分野における技術進歩を積極的に推進する。
6.民間交流の支援:市民団体や個人の参加を促し、文化交流を促進する。
7.清廉な一帯一路の構築:一帯一路プロジェクトの透明性を確保するための腐敗防止対策を強化する。
8.一帯一路国際協力メカニズムの改善:協力体制を強化し、一帯一路構想のより円滑な進展を促進する。
以下の各項では、一帯一路2.0構想における重要な行動、ステークホルダーへの影響、日本や台湾その他関連プレイヤーの対応など、一帯一路2.0構想の意味するところを探る。債務、唯一の受益者、地政学的拡大が落とす影に分け入り、一帯一路構想が直面する重大な問題を分析する。また、インフラ建設から質の高いイニシアチブへの移行について批判的に検証し、東南アジアを優先するかのような中国による一帯一路構想の再調整に焦点を当てる。こうした方向転換に加えて、日本の「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific、FOIP)」戦略や台湾の「新南向政策(New Southbound Policy、NSP)」など、ASEANに関して競合する立場にある重要なプレイヤーについて議論する。最後に、東南アジアにおける複雑なインフラ情勢とその潜在的な影響について分析し、結論とする。各項には、このダイナミックな地域におけるインフラ戦略の進化について独自の考察を記載した。
債務、唯一の受益者、地政学的拡大が落とす影
かつては世界的な連結と協力の道標であった一帯一路構想(BRI)も、実施から10年が経過して重大な岐路に立たされている。本セクションでは、債務、中国の利益、地政学的野心といった一帯一路構想の枠組みにける中心的な問題を探る。
債務による苦境:一帯一路構想は様々なセクターのインフラ整備を大幅に加速させたが、プロジェクトの遅れやコスト超過による債務の増大という、予期せぬ課題をもたらした。当初は援助と受け止められていた中国の融資は、参加国にとっては負債として積み重なっていった。債務への懸念に対応するべく、中国はシルクロード基金(丝路基金、Silk Road Fund、SRF)やアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank、AIIB)のような金融機関に戦略をシフトし、一帯一路構想の資金面を効果的に管理している。このシフトの狙いは、中国の世界的影響力を守りつつ、政府債務の累積リスクを最小限に抑えることにある。
こうした課題に対処するため、一帯一路構想は「より小規模で洗練されたプロジェクト」へと進化しつつある。これらプロジェクトは融資ベースの資金調達に優先順位を付け、質と持続可能性を重視するものだ。中国は量を重視するアプローチから、よりバランスの取れたアプローチへの移行を進めており、世界経済における優越的地位を維持しながら債務方面の苦境を緩和することを目指している。
唯一の受益者、中国:一帯一路構想が中国に偏った利益をもたらしているという批判が浮上したのは、大部分のインフラプロジェクトの資金提供、実施、管理を中国の事業体が担っていたからだ。第3回「一帯一路」フォーラムで「共同構築」という概念を導入し、イニシアチブの再ブランディングを行ったことで、こうした認識に変化が生じた。これは、一帯一路構想が中国の利益にしかつながらないのでは、という疑念の払拭を目指すものであった。
さらに中国は、電気自動車や太陽エネルギーなどの分野における商業製造に軸足を移し、参加国間で経済成長を公平に分け合うことを目指している。一帯一路構想の焦点は東南アジアに移りつつあるようだが、そこには同構想が主に中国の利益に資するものである、という認識を改めさせようとする狙いがある。
中国の地政学的拡大:一帯一路構想は非イデオロギー的、非地政学的なものだと中国は主張するが、一帯一路フォーラムへの出席者の移り変わりを見れば、やはり地政学的な目的が透けて見える。ロシアやアフガニスタンのタリバン指導者の参加は、反米連合を構築し、地政学的影響力を拡大せんとする中国の努力を物語っている。
一帯一路構想、上海協力機構、BRICSのような国際的な取り組み・団体は、中国の影響力をあからさまに主張するものではないが、中国のソフトパワーを拡大し、自国の利益と一致させるためのプラットフォームとして機能している。これらの行動には、欧米の覇権に挑戦し、世界の政治状況を巧妙に再編成せんとする中国の野心が反映されており、国際舞台におけるイデオロギーの覇権争いに重大な影響を及ぼすことになるかもしれない。
「バランスが肝心:東南アジアにおける中国、日本、台湾のインフラ戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: 中国「一帯一路」メディア協力フォーラム
(※1)https://grici.or.jp/
<CS>
はじめに
一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)は、大規模なインフラプロジェクト中心のフェーズから、より小規模で質の高い取り組みを中心とする新たなフェーズに移行した。先ごろ開催された第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで、習近平主席はフェーズ移行に向けた8項目の行動指針を発表した。こうした方針転換の背景には、中国国内の財政難と国際的な監視の強化がある。本稿では、一帯一路2.0構想(BRI 2.0)における主な行動、関係各国への影響、日本、台湾、その他関わりの深いプレイヤーの反応など、一帯一路2.0構想が意味するものを探っていく。
習近平主席は、より質的かつ持続可能な一帯一路を目指すとした。この転換の柱となる8つの行動の概要は、以下の通りである。
1.一帯一路構想に沿った立体的相互連結ネットワークの構築:地域の連結を強化し、効果的な地域連携を促す。
2.開かれた世界経済の構築を支援:他国との経済関係を強化しながら、国際貿易と経済協力を促進する。
3.実務協力の推進:貿易・投資保護協定など実務協力を強化する。
4.グリーン開発の推進:グリーンエネルギー、環境保護、持続可能性を織り込む。
5.科学技術イノベーションの推進:人工知能やデジタル経済などの分野における技術進歩を積極的に推進する。
6.民間交流の支援:市民団体や個人の参加を促し、文化交流を促進する。
7.清廉な一帯一路の構築:一帯一路プロジェクトの透明性を確保するための腐敗防止対策を強化する。
8.一帯一路国際協力メカニズムの改善:協力体制を強化し、一帯一路構想のより円滑な進展を促進する。
以下の各項では、一帯一路2.0構想における重要な行動、ステークホルダーへの影響、日本や台湾その他関連プレイヤーの対応など、一帯一路2.0構想の意味するところを探る。債務、唯一の受益者、地政学的拡大が落とす影に分け入り、一帯一路構想が直面する重大な問題を分析する。また、インフラ建設から質の高いイニシアチブへの移行について批判的に検証し、東南アジアを優先するかのような中国による一帯一路構想の再調整に焦点を当てる。こうした方向転換に加えて、日本の「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific、FOIP)」戦略や台湾の「新南向政策(New Southbound Policy、NSP)」など、ASEANに関して競合する立場にある重要なプレイヤーについて議論する。最後に、東南アジアにおける複雑なインフラ情勢とその潜在的な影響について分析し、結論とする。各項には、このダイナミックな地域におけるインフラ戦略の進化について独自の考察を記載した。
債務、唯一の受益者、地政学的拡大が落とす影
かつては世界的な連結と協力の道標であった一帯一路構想(BRI)も、実施から10年が経過して重大な岐路に立たされている。本セクションでは、債務、中国の利益、地政学的野心といった一帯一路構想の枠組みにける中心的な問題を探る。
債務による苦境:一帯一路構想は様々なセクターのインフラ整備を大幅に加速させたが、プロジェクトの遅れやコスト超過による債務の増大という、予期せぬ課題をもたらした。当初は援助と受け止められていた中国の融資は、参加国にとっては負債として積み重なっていった。債務への懸念に対応するべく、中国はシルクロード基金(丝路基金、Silk Road Fund、SRF)やアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank、AIIB)のような金融機関に戦略をシフトし、一帯一路構想の資金面を効果的に管理している。このシフトの狙いは、中国の世界的影響力を守りつつ、政府債務の累積リスクを最小限に抑えることにある。
こうした課題に対処するため、一帯一路構想は「より小規模で洗練されたプロジェクト」へと進化しつつある。これらプロジェクトは融資ベースの資金調達に優先順位を付け、質と持続可能性を重視するものだ。中国は量を重視するアプローチから、よりバランスの取れたアプローチへの移行を進めており、世界経済における優越的地位を維持しながら債務方面の苦境を緩和することを目指している。
唯一の受益者、中国:一帯一路構想が中国に偏った利益をもたらしているという批判が浮上したのは、大部分のインフラプロジェクトの資金提供、実施、管理を中国の事業体が担っていたからだ。第3回「一帯一路」フォーラムで「共同構築」という概念を導入し、イニシアチブの再ブランディングを行ったことで、こうした認識に変化が生じた。これは、一帯一路構想が中国の利益にしかつながらないのでは、という疑念の払拭を目指すものであった。
さらに中国は、電気自動車や太陽エネルギーなどの分野における商業製造に軸足を移し、参加国間で経済成長を公平に分け合うことを目指している。一帯一路構想の焦点は東南アジアに移りつつあるようだが、そこには同構想が主に中国の利益に資するものである、という認識を改めさせようとする狙いがある。
中国の地政学的拡大:一帯一路構想は非イデオロギー的、非地政学的なものだと中国は主張するが、一帯一路フォーラムへの出席者の移り変わりを見れば、やはり地政学的な目的が透けて見える。ロシアやアフガニスタンのタリバン指導者の参加は、反米連合を構築し、地政学的影響力を拡大せんとする中国の努力を物語っている。
一帯一路構想、上海協力機構、BRICSのような国際的な取り組み・団体は、中国の影響力をあからさまに主張するものではないが、中国のソフトパワーを拡大し、自国の利益と一致させるためのプラットフォームとして機能している。これらの行動には、欧米の覇権に挑戦し、世界の政治状況を巧妙に再編成せんとする中国の野心が反映されており、国際舞台におけるイデオロギーの覇権争いに重大な影響を及ぼすことになるかもしれない。
「バランスが肝心:東南アジアにおける中国、日本、台湾のインフラ戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: 中国「一帯一路」メディア協力フォーラム
(※1)https://grici.or.jp/
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