後場の投資戦略
想定超の底堅さを過大評価しない
配信日時:2023/04/20 12:32
配信元:FISCO
[日経平均株価・TOPIX(表)]
日経平均;28631.53;+24.77TOPIX;2039.25;-1.13
[後場の投資戦略]
本日の東京市場は朝安後に切り返す底堅い展開。前日の米国市場が軟調だった中、日本株の強さが際立っている。英国3月消費者物価指数(CPI)が前年比+10.1%と市場予想(+9.8%)を上回り、インフレ高止まりが意識される中、欧米の金利が上昇しており、為替の円安進行なども株高の背景にあるようだ。一方、英CPIの上振れはグローバルな金利高止まりを想起させ、欧米中央銀行の利下げ観測を後退させることになり、株式にとっては弱材料でもあるはずで、手放しでは喜びにくい。
前日の米国市場では材料が多数あった。まずは企業決算。金融大手のモルガン・スタンレーの決算は全体的に強弱材料が混在する内容だった一方、預金流出が警戒されていた地銀のウエスタン・アライアンスの決算は利益が予想を上回ったほか、預金額も安定していることが判明し安心感を誘う内容となった。一方、モルガン・スタンレーの決算では、商業不動産やマクロ経済の悪化を見込んで貸倒引当金が前年同期比4倍にまで積み上げられるなど先行き警戒感を残す内容だった。
注目された電気自動車メーカー、テスラの決算はネガティブだった。売上高と1株利益がともに市場予想に届かず、今年に入ってからの相次ぐ値下げの影響で利益率は大きく低下した。年間の生産目標は維持したが、納車台数が生産台数を下回る状況が続いており、在庫の積み上がりも継続、フリーキャッシュフローも市場予想に大きく未達の水準にまで落ち込んだ。また、同社は主力4モデルの一斉値下げを1月に続いて4月に入ってから再び発表していたが、一昨日18日には一部モデルの再値下げを発表、米国では今年6回目の値下げとなる。これまでの相次ぐ値下げでも需要を喚起し切れていない証拠とみられ、こちらも警戒感が残る内容だ。
半導体決算はまちまち。ラム・リサーチの決算は売上高と1株利益ともにガイダンスで示したレンジ内に収まり、ネガティブサプライズを引き起こすことはなかった。また半導体前工程製造装置(WFE)の市場見通しについても前回の見通しを維持したことは安心感を誘った。一方、半導体露光装置で市場を独占する蘭ASMLホールディングは売上高と1株利益ともに市場予想を上回り、第2四半期(4-6月)の見通しも市場予想を上回った。しかし、1-3月の受注高は予想を下回る大幅減となり、株価は大きく下落した。年後半の市況底入れを先取りする形で1-3月に大きく株価上昇してきた関連株にとっては悪い結果だったといえる。
前日は米地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表された。労働市場の逼迫が緩和し、インフレが鈍化傾向にあることが確認されたことはポジティブだった一方、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受け、それ以前から厳しくなっていた銀行の融資基準が一段と厳格化された地区がいくつかあったことが指摘された。全体的にシリコンバレーショックの前よりも経済環境の悪化が進んでいることが示唆され、景気後退懸念を強める内容だったといえる。一方、上述した英3月CPIが市場予想を上回ったこともあり、欧米の中央銀行の利下げ観測はむしろ後退しており、全体的にはネガティブな印象が勝った印象。
こうした中でも本日の東京市場が想定以上の底堅さを見せている背景には需給要因が影響している可能性がある。日本取引所グループ(JPX)が公表している投資部門別売買状況によると、シリコンバレーショックが起きてから3月最終週までの間に、海外投資家は現物・先物合算で3兆円以上、日本株を売り越した。一方、4月第1週の時点では5000億円程しか買い戻していない。このため依然として買い戻し余地が残されていると考えられる。
また、日経平均の変動率に対して2倍の値動きの実現を目指す、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(ETF)の14日時点での信用残状況をみると、7日から売り残が大幅に増加する一方で、買い残が大きく減少しており、信用倍率は7日の1.60倍から0.77倍へと売り長に転じた。対照的に、日経平均の変動率に対してマイナス2倍の値動きの実現を目指す、日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信の信用残は買い残が売り残を大幅に上回る規模で増加し、信用倍率は7日の15.06倍から20.24倍へと急拡大した。
こうした中、思った以上には下げない日経平均の底堅い動きを受け、決算シーズンの本格化を前に売り方が買い戻しを入れている可能性がある。しかし、売り方の買い戻しだけで日経平均が上値を追っていくことは考えづらい。海外投資家の買い戻し余地についても、商業不動産ローンなど米経済の先行きを警戒する向きが増える中、海外投資家が売り越した日本株をすべて買い戻すことは想定しづらい。日経平均は短期的にオーバーシュート気味に29000円を捉える場面があるかもしれないが、決算で業績を確認した後は反落する余地が生まれてくると考えられる。本日の底堅さを過大評価しない方がよいだろう。
(仲村幸浩)
<AK>
日経平均;28631.53;+24.77TOPIX;2039.25;-1.13
[後場の投資戦略]
本日の東京市場は朝安後に切り返す底堅い展開。前日の米国市場が軟調だった中、日本株の強さが際立っている。英国3月消費者物価指数(CPI)が前年比+10.1%と市場予想(+9.8%)を上回り、インフレ高止まりが意識される中、欧米の金利が上昇しており、為替の円安進行なども株高の背景にあるようだ。一方、英CPIの上振れはグローバルな金利高止まりを想起させ、欧米中央銀行の利下げ観測を後退させることになり、株式にとっては弱材料でもあるはずで、手放しでは喜びにくい。
前日の米国市場では材料が多数あった。まずは企業決算。金融大手のモルガン・スタンレーの決算は全体的に強弱材料が混在する内容だった一方、預金流出が警戒されていた地銀のウエスタン・アライアンスの決算は利益が予想を上回ったほか、預金額も安定していることが判明し安心感を誘う内容となった。一方、モルガン・スタンレーの決算では、商業不動産やマクロ経済の悪化を見込んで貸倒引当金が前年同期比4倍にまで積み上げられるなど先行き警戒感を残す内容だった。
注目された電気自動車メーカー、テスラの決算はネガティブだった。売上高と1株利益がともに市場予想に届かず、今年に入ってからの相次ぐ値下げの影響で利益率は大きく低下した。年間の生産目標は維持したが、納車台数が生産台数を下回る状況が続いており、在庫の積み上がりも継続、フリーキャッシュフローも市場予想に大きく未達の水準にまで落ち込んだ。また、同社は主力4モデルの一斉値下げを1月に続いて4月に入ってから再び発表していたが、一昨日18日には一部モデルの再値下げを発表、米国では今年6回目の値下げとなる。これまでの相次ぐ値下げでも需要を喚起し切れていない証拠とみられ、こちらも警戒感が残る内容だ。
半導体決算はまちまち。ラム・リサーチの決算は売上高と1株利益ともにガイダンスで示したレンジ内に収まり、ネガティブサプライズを引き起こすことはなかった。また半導体前工程製造装置(WFE)の市場見通しについても前回の見通しを維持したことは安心感を誘った。一方、半導体露光装置で市場を独占する蘭ASMLホールディングは売上高と1株利益ともに市場予想を上回り、第2四半期(4-6月)の見通しも市場予想を上回った。しかし、1-3月の受注高は予想を下回る大幅減となり、株価は大きく下落した。年後半の市況底入れを先取りする形で1-3月に大きく株価上昇してきた関連株にとっては悪い結果だったといえる。
前日は米地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表された。労働市場の逼迫が緩和し、インフレが鈍化傾向にあることが確認されたことはポジティブだった一方、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受け、それ以前から厳しくなっていた銀行の融資基準が一段と厳格化された地区がいくつかあったことが指摘された。全体的にシリコンバレーショックの前よりも経済環境の悪化が進んでいることが示唆され、景気後退懸念を強める内容だったといえる。一方、上述した英3月CPIが市場予想を上回ったこともあり、欧米の中央銀行の利下げ観測はむしろ後退しており、全体的にはネガティブな印象が勝った印象。
こうした中でも本日の東京市場が想定以上の底堅さを見せている背景には需給要因が影響している可能性がある。日本取引所グループ(JPX)が公表している投資部門別売買状況によると、シリコンバレーショックが起きてから3月最終週までの間に、海外投資家は現物・先物合算で3兆円以上、日本株を売り越した。一方、4月第1週の時点では5000億円程しか買い戻していない。このため依然として買い戻し余地が残されていると考えられる。
また、日経平均の変動率に対して2倍の値動きの実現を目指す、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(ETF)の14日時点での信用残状況をみると、7日から売り残が大幅に増加する一方で、買い残が大きく減少しており、信用倍率は7日の1.60倍から0.77倍へと売り長に転じた。対照的に、日経平均の変動率に対してマイナス2倍の値動きの実現を目指す、日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信の信用残は買い残が売り残を大幅に上回る規模で増加し、信用倍率は7日の15.06倍から20.24倍へと急拡大した。
こうした中、思った以上には下げない日経平均の底堅い動きを受け、決算シーズンの本格化を前に売り方が買い戻しを入れている可能性がある。しかし、売り方の買い戻しだけで日経平均が上値を追っていくことは考えづらい。海外投資家の買い戻し余地についても、商業不動産ローンなど米経済の先行きを警戒する向きが増える中、海外投資家が売り越した日本株をすべて買い戻すことは想定しづらい。日経平均は短期的にオーバーシュート気味に29000円を捉える場面があるかもしれないが、決算で業績を確認した後は反落する余地が生まれてくると考えられる。本日の底堅さを過大評価しない方がよいだろう。
(仲村幸浩)
<AK>
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