焦点:バイデン氏とFRB議長、「持ちつ持たれつ」インフレ対策
[ワシントン 25日 ロイター] - 中間選挙を11月8日に控える米国で、有権者が最も懸念すべき問題とみているのがインフレだ。バイデン大統領はこの問題に対処する上で、1人の人物を非常に頼りにしている。それは、共和党穏健派のパウエル連邦準備理事会(FRB)議長にほかならない。
「反対政党に所属する前大統領が指名されたFRB議長に経済運営を依存する現職大統領」という構図は、これまでの米国の歴史を見てもそれほど珍しくはないだろう。だが現在の政治情勢は党派的な傾向が極めて強まっているだけに、バイデン氏とパウエル氏による超党派の「持ちつ持たれつ」的な協調関係は異彩を放っており、今後数カ月で改めてその真価が問われるだろう。
ホワイトハウスは中間選挙について、バイデン政権のインフレ対応に対する有権者の審判になると考えている。そして物価抑制策において手持ちのカードが多いのは、政権よりもパウエル氏の方だ。
一方でインフレを抑え込むためにFRBが行使する金融政策には痛みが伴い、消費者需要を冷え込ませたり、失業者を増やしたりする恐れがある。FRBは7月26─27日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を75ベーシスポイント(bp)引き上げる見込みで、新型コロナウイルスのパンデミック発生後に打ち出した超金融緩和姿勢からは一段と遠のくことになる。
ジョージ・ワシントン大学で大統領とFRBの関係性を研究しているサラ・バインダー教授(政治学)は「バイデン氏とパウエル氏は互いに必要な存在だと分かっている」と話す。バイデン氏のインフレ対策において、FRBの協力が欠かせないのは言うまでもない。だがバインダー氏によると「FRBも、経済を景気後退(リセッション)に突入させかねない自分たちの政策をホワイトハウスによって政治的に支えてもらう必要がある」という。
実際パウエル氏は今、物価上昇率を抑制するためにあとどれだけ利上げしなければならないかを見極め、果たしてリセッションや市場の動揺という犠牲を払ってまで積極利上げを続けるべきかどうか判断を下す、という非常に重大な課題に直面している。
そのパウエル氏の議長再任を決めたバイデン氏は、FRBが成果を挙げるのを待つしかない。
カリフォルニア大学アーバイン校のゲーリー・リチャードソン教授(経済学)は、この超党派的なやり方はFRBを政治圧力から守ることを意味すると説明。ただ、インフレが「現職政治家に多くの問題をもたらしてきた傾向は何世紀も変わっていない。今年11月も同様になるだろう」と述べた。
<非難の矛先>
バイデン氏は何カ月も吟味した末に、トランプ前大統領が任命し、その後批判を浴びせたパウエル氏にFRB議長の任務を再び委ねることを決めた。
決定に当たっては、パウエル氏がどんなインフレ対応をするのかという点が、はっきりと考慮されたわけではない。ただパウエル氏がそれまでに蓄積した経験と指導力に加え、パウエル氏の下でならFRBは党派性から離れた行動ができるというバイデン氏の見方が、再任の背景にあったとみられる。
アナリストの間では、上手くいかないことが起きた場合、バイデン氏はパウエル氏を「スケープゴート(身代わり)」にできるとの意見も出ている。
バイデン氏は5月のパウエル氏との非公式会談に先立ち「私の計画はインフレ対策だ」と発言。「実に単純な仕事から始めたい。つまり、FRBとその独立性を尊重するということだ。私はこれまでそうしてきたし、今後も変わらない」と断言した。
ジョージ・ワシントン大学のバインダー教授は「この発言を聞いて私が思ったのは責任逃れだ」と述べ、「FRBに責任を転嫁し、インフレ対策はFRBの仕事だと伝えている」と指摘した。
責任転嫁は昔からワシントンに伝わる政治的なテクニックであり、FRBも議長の党派にかかわらず、批判を浴びずにはいられないだろう。またたとえバイデン氏自身が批判せずとも、共和党との協調にさほど熱心でない民主党議員は、パウエル氏の失敗をあら探しするかもしれない。
政権の考えに詳しいある人物によると、それでもバイデン政権は、港湾の渋滞解消や海上輸送コストの引き下げ、戦略石油備蓄放出を駆使したガソリン高騰対策といったさまざまな措置を取ることによって、FRBがそれほど大幅な利上げなしで物価を落ち着かせ、経済成長を阻害せずにインフレ問題が解決できることを期待しているという。
(Trevor Hunnicutt記者)