インタビュー:円安進行に伴う経済影響、プラスとマイナス両面ある=神田財務官
[東京 1日 ロイター] - 神田真人財務官はロイターとのインタビューで、為替が対ドルで円安に振れる場合の影響について、日本経済にはプラスとマイナスの両面があると語った。年初からの市場動向に関し、方向性が見極めにくくなっているとの見方も示した。インタビューは1月31日に実施した。
輸入が増えて日本の貿易収支の赤字基調が続く中、神田財務官は為替が円安に振れる場合の経済影響について、「端的に言えばプラスとマイナスの両面がある。経済主体によって円安、円高双方で損するか得するか分かれ、一概に評価することは難しい」と語った。
円安に伴うメリットでは「輸出金額や海外子会社での売り上げ、配当金収入は円ベースでみるため、グローバルに展開する企業の収益が増える」と指摘した。一方、デメリットとして「エネルギーや食品などの輸入価格が上昇し、消費者負担や企業の原材料費が増えることが挙げられる」と述べた。
輸入物価が上昇している要因については、国際商品市況の高騰が大きいと指摘。「昨年12月の輸入物価指数は前年比で42%程度上昇したが、為替の要因は8.6%。エネルギー価格の上昇要因が21.6%となっており、現時点では輸入品の価格上昇は主にエネルギー価格などの国際的なインフレーションによる面が大きい」と述べた。
為替市場に関しては「昨年末までは日米金利差などを背景にドル高/円安が進んだ」との認識を示した。「米国のインフレ期待も背景に米ドルは、ほぼすべての通貨に対して全面高だったのでドル高の1年とされる」とも振り返った。
一方、足もとでは「今年に入り、米金融政策の変更が資産市場などに与える影響や、新型コロナウイルスのオミクロン株感染拡大などを背景に、各国の経済回復ペースの度合いが異なる状況下でリスクオフの動きも見られ、(ドル/円は)今年に入って方向性が見極めにくくなっている」と指摘した。「年末にかけてはドル高が進んだものの、装いを異にしている」との受け止めも述べた。
<物価低迷と対中貿易増でREER低下>
総合的な円の実力を示す実質実効為替レート(REER)が歴史的水準に低下している背景に関しては「1990年代以降、海外と比較して国内の物価上昇率が著しく低いことが主因であり、95年のREERの最高値からは55%減価している」と語った。
日本にとって最大の貿易相手国が中国となったことで「中国人民元が実質レートで著しく増加すると、それだけ円の実効レート減価に響く」とし、「他国の物価上昇率が日本より著しく高く、さらに物価が大きく上昇していた中国との貿易比率が高くなったことがダブルで効いた」と説明した。
「技術革新や国際競争激化のもと、産業構造変容が必要だったのに、成長産業への労働者や資本移動を妨げ、モラルハザードで国際競争力を低下させ、賃上げに必要な生産性向上がなかったことが、この実質実効為替レート半減をもたらしたデフレの一因と考えられる」との認識も示した。
<安全損なう投資には「適切に対応」>
経済安全保障関連では「安全保障環境が厳しさを増す中で先端技術の流出の防止、強靭(じん)なサプライチェーンの構築などは岸田政権の重要政策」と指摘した。
改正外為法に基づき「日本経済の健全な発展に寄与する対内直接投資をいっそう促進させる一方で、国の安全を損なうような投資に適切に対応しなければいけない」とし、「昨年秋に金属鉱業など重要鉱物資源に関する業種を追加した。今後も随時見直していく」との選択肢も示した。
他省庁や主要各国の財務当局との連携強化に加えて「技術ある地方企業への投資動向も重要で、そこを目配りできるように地域経済の実態を把握する財務局も活用しながら、執行体制を強化する」と述べ、具体策として「(財務省の地方支分部局の)財務局に初めて経済安全保障のための人員を18名配置する。対内直接投資の審査を行う財務省本省の国際局も担当官を倍増させ、体制を抜本的に強化する」とした。
民主主義の理念を共有する日米豪3カ国の政府系金融機関が資金支援するかたちで信頼できる通信網の構築を後押しする必要性にも触れ、「世界銀行やアジア開発銀行(ADB)とも連携し、より質が高く、信頼性が高い安全な通信環境を整備していくことは日本だけでなく、地域の安全保障にも資する」と語った。
*インタビューは1月31日に実施しました。
(梶本哲史、山口貴也 編集:久保信博)