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習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2021/11/15 15:44 配信元:FISCO
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

習近平の父・習仲勲はトウ小平の陰謀により失脚したのだから、「歴史決議」でトウ小平をどのように位置づけるかが焦点の一つだった。一見、平等に扱ったように見えるが、実は思いもかけぬ「からくり」が潜んでいた。

◆100年の歴史の中での各指導者の位置づけ
11月11日に公表された第19回党大会六中全会公報(※2)によれば、習近平は「歴史決議」の採択に向けた講話の中で、中国共産党建党100年の歴史を、まずは大きく以下のように位置付けている。()は筆者。

——中国共産党建党中央委員会(中共中央)政治局は、中国の特色ある社会主義の大旗を高く掲げ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、トウ小平理論、三つの代表の重要な思想(江沢民政権)、科学的発展観(胡錦涛政権)、習近平新時代の中国特色ある社会主義思想を指導とすることを堅持しながら、第19回党大会と第19回党大会一中全会、二中全会、三中全会、四中全会、五中全会の精神を全面的に貫徹し、国内外の大局やコロナ感染防疫や経済社会発展および発展と安全などのバランスをうまく統制しながら統治してきた。そして安定の中でも進歩を遂げ、経済は比較的良好な発展を遂げ、科学技術の自立と自強(自らの力で強くなる)を積極的に推進し、改革開放を絶えず深化させ、貧困との戦いを計画通りに勝ち抜き、民生保障を効果的に改善し、社会の大局的安定を維持し、国防と軍隊の現在化を着実に進めてきた。

さらに、中国の特色ある大国の外交を全面的に進め、党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い、多くの深刻な自然災害を克服するなど、さまざまな事業で重要な新しい成果を上げた。(引用ここまで)

その上で、公報は以下のような解説を続けている。()内は筆者。

——中国共産党創立100周年を記念する一連のイベントが成功裏に開催された。習近平中国共産党中央委員会総書記は(一連のイベントの中で)重要な講話を行い、小康社会の全面的な構築完成を正式に発表し、全党と各民族の人民が二つ目の100年の目標(=2049年の建国100周年記念)に向かって力強く雄々しく新征程(新たな遠征の道程)に踏み出すよう激励した。(引用ここまで)

これがまず冒頭部分で、ここでは「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」が唱えた思想が、平等に評価されているかのように見える。

しかし、この冒頭部分においてさえ、実は見落とせない言葉がちりばめられているのだ。引用文中の太字部分を見てみよう。

1.改革開放は実際上、習仲勲が当時の華国鋒(中共中央主席、中央軍事委員会出席、国務院総理)とともに広東省深セン市で「経済特区」を唱えて始まったものだが、それをトウ小平が思いついたように置き換えてしまったものだ。しかしトウ小平が改革開放を唱えたという概念は固定化されてしまっているので、それを覆すことなく、父・習仲勲が手を付けた改革開放を深化させ、トウ小平が先富論によって招いた貧富の格差(=トウ小平の負の遺産)を無くす方向に動いたことを暗示している。

2.国防と軍隊の現代化は、11月13日のコラム<習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?>(※3)で書いたように、軍部における腐敗撲滅を実行しなければ実現不可能だったので、暗に腐敗撲滅に動くどころか、腐敗を招いたトウ小平を批判している。

3.最も明確なのは「党史に関する学習教育を堅実で効果的に行い」という部分だ。トウ小平は、拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』で詳述したように、毛沢東が後継者にしようと位置付けていた(陝西省や甘粛省などを含む)西北革命根拠地における功労者・高崗(当時の国家計画委員会主席、人民政府副主席、人民革命軍事委員会副主席)を虚偽の事実を捏造して1954年に自殺に追い込み、1962年には同じく西北革命根拠地を築き上げ毛沢東の「長征」の終着点としての「延安」を用意していた習仲勲を同じく虚偽の事実を捏造して1962年に失脚させたために、「党史」を直視することを回避した。トウ小平時代、「長征」も「西北革命根拠地」もタブー視され、中華人民共和国が如何にして誕生したかということを含めて、語ってはならないことのように位置付けられてきた。

それを徹底的に覆そうとしている現象の一つが「党史に関する学習教育」なのである。

4.その意味で「長征」を正視することの意味合いは大きく、「習近平新時代の思想」を、「新たな長征」への試みであるとして「新征程」と位置付けている。これは即ち、「毛沢東の長征」と「習近平の新征程」を同等あるいはそれ以上に置いて、世界のトップを目指す決意を表している。

「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。


写真: 代表撮影/ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm
(※3)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805


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