GRICI

中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(2)【中国問題グローバル研究所】

配信日時:2021/11/09 16:31 配信元:FISCO
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国「月収1000元が6億人」の誤解釈——NHKも勘違いか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

◆なぜ「共同富裕」なのか
ところで、冒頭に引用したNHKの記事のメインテーマは「共同富裕とは何か」なので、最後にそのことに関しても少し触れておきたい。

当該記事にあるように、たしかに毛沢東時代に「共同富裕」という言葉を使ってはいる(1953年における中共中央会議などにおいて)。しかし、10月12日のコラム<習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視>(※2)の後半で書いたように、むしろ、トウ小平が言った「先に富める者が先に富み、富んだ後に、まだ富んでいない者を牽引して共に富んでいく」の後半部分を実行しているだけだとみなすべきだろう。

事実、そのコラムにも書いたが、習近平自身が「かつて一部分の者が先に富むことを許したが、それは先に富んだ者がまだ富んでない者を必ず率いて助け、ともに富んでいかなければならない」と言っている(2021年8月17日に開催された中央財経委員会第十次会議)(※3)。

ここで無理矢理に毛沢東が主張したというところに持って行くのは、「習近平は毛沢東を超えようとしている」と言いたいからだろうが、習近平が「毛沢東時代の革命精神を忘れてはならない」として「無忘初心(初心忘るべからず)」を党のモットーの一つとしているのは、トウ小平の陰謀によって父・習仲勲が失脚し、16年間もの長きにわたって投獄・軟禁・監視生活を余儀なくされたからだ。

「革命の地」である「延安」は、習近平の父・習仲勲が築いた。しかしトウ小平は習仲勲の影響を薄めたいために、「延安」や「毛沢東の長征」を語らせなかった。

だから習近平は国家のトップに就任するとすぐに「革命の聖地」である「延安」を強調し、「革命の精神を忘れるな」と強調し始めた。それは自ずと「毛沢東」を蘇らせることにつながっていく。

しかし習近平が超えようとしているのはトウ小平だ(詳細は拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』)。この基本を理解しない限り、習近平を読み解くことは困難ではないかと懸念する。

なお、「習近平は政敵を倒すために反腐敗運動を行い、ようやく権力基盤を強固にした」という「幻想」が日本のメディアを支配し、中国の真相を見えなくしている。

何度も本やコラムで書いてきたが、習近平ほど政権誕生時に政敵がいなかった指導者は珍しく、前政権(胡錦涛政権)と友好的に政権移行をした政権はかつてなかったと言っても過言ではない。したがって反腐敗運動などをやればやるほど、習近平を恨む人物が激増するばかりで、敵を作るのに貢献するだけだ。

ではなぜ反腐敗運動を徹底したかと言えば、一つには胡錦涛と約束したからだ。胡錦涛政権には江沢民一派がいて、腐敗の総本山である江沢民一派に阻害され、反腐敗運動が進まなかった。だから胡錦涛は「腐敗を撲滅しなければ党が滅び国が亡ぶ」と言って習近平にその実行を約束させた。その代りに習近平の動きやすいように中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)を選んでいいと、全てを委ねた。

その約束を守らなければならないことと、軍が腐敗分子の巣窟になっていて、軍事改革ができず、ハイテク国家戦略を進めることができなかったからだ。この既得権益者を追い出すことによって、ようやく軍事力の近代化を進めることができ、今やアメリカも恐れる軍事力を持つに至っている。

どうせ「権力闘争だ」という「幻想」の上にあぐらをかき、日本人を喜ばせている間に中国は日本を抜き、アメリカをも抜こうとしている。

こういった視点の間違いが、中国の真相を見る目を曇らせ、日本国民の利益を損なう方向に動いていることにも気づいていただきたい。

一部の間違った視点を持つ研究者の言葉だけに頼り、日本全体をその方向に持って行ってしまったことに対するメディアの責任は重い。

写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211012-00262831
(※3)http://www.xinhuanet.com/politics/leaders/2021-08/17/c_1127770343.htm


<FA>

Copyright(c) FISCO Ltd. All rights reserved.

ニュースカテゴリ